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特許7388333単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20231121BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C30B29/06 502C
C30B15/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020177034
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068397
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】尼ヶ▲崎▼ 晋
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-170297(JP,A)
【文献】特開平02-014899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶融液を貯留するための坩堝を内部に収容するチャンバと、前記多結晶融液から種結晶を介して単結晶を引き上げるワイヤーを有する引き上げ部と、を備えた単結晶引き上げ装置に設けられた単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構であって、
回転駆動源と、
前記回転駆動源の回転により回転される回転部材と、前記回転部材の回転により前記ワイヤーの軸線と交差する進退方向に進退移動する移動部材と、を有する進退機構と、
前記移動部材に接続され、前記進退方向に延在し、前記進退方向の先端に前記ワイヤーと接触するワイヤー接触機構が設けられた可動軸と、を備え
前記回転駆動源は、ハンドル本体と、前記ハンドル本体の回転により回転する伝達軸と、を有するハンドル機構である単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構。
【請求項2】
前記伝達軸は、フレキシブルシャフトである請求項に記載の単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構。
【請求項3】
多結晶融液を貯留するための坩堝を内部に収容するチャンバと、前記多結晶融液から種結晶を介して単結晶を引き上げるワイヤーを有する引き上げ部と、を備えた単結晶引き上げ装置に設けられた単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構であって、
回転駆動源と、
前記回転駆動源の回転により回転される回転部材と、前記回転部材の回転により前記ワイヤーの軸線と交差する進退方向に進退移動する移動部材と、を有する進退機構と、
前記移動部材に接続され、前記進退方向に延在し、前記進退方向の先端に前記ワイヤーと接触するワイヤー接触機構が設けられた可動軸と、を備え、
前記可動軸は、前記進退方向の後端側から先端側に穿孔されたネジ軸収容孔を有し、
前記進退機構は、前記回転部材として機能するネジ軸と、前記移動部材として機能するナット部材とを有するネジ送り機構であり、前記ネジ軸は前記ネジ軸収容孔に挿入されている単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構。
【請求項4】
多結晶融液を貯留するための坩堝を内部に収容するチャンバと、前記多結晶融液から種結晶を介して単結晶を引き上げるワイヤーを有する引き上げ部と、を備えた単結晶引き上げ装置に設けられた単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構であって、
回転駆動源と、
前記回転駆動源の回転により回転される回転部材と、前記回転部材の回転により前記ワイヤーの軸線と交差する進退方向に進退移動する移動部材と、を有する進退機構と、
前記移動部材に接続され、前記進退方向に延在し、前記進退方向の先端に前記ワイヤーと接触するワイヤー接触機構が設けられた可動軸と、を備え、
前記進退機構は、前記回転部材として機能するピニオンと、前記移動部材として機能するラックとを有するラック・アンド・ピニオン機構である単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構。
【請求項5】
多結晶融液を貯留するための坩堝を内部に収容するチャンバと、前記多結晶融液から種結晶を介して単結晶を引き上げるワイヤーを有する引き上げ部と、を備えた単結晶引き上げ装置に設けられた単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構であって、
回転駆動源と、
前記回転駆動源の回転により回転される回転部材と、前記回転部材の回転により前記ワイヤーの軸線と交差する進退方向に進退移動する移動部材と、を有する進退機構と、
前記移動部材に接続され、前記進退方向に延在し、前記進退方向の先端に前記ワイヤーと接触するワイヤー接触機構が設けられた可動軸と、
前記チャンバの外面に取り付けられたケーシングと、を備え、
記ケーシングは、前記ワイヤー接触機構が前記ワイヤーと接触する位置と前記ワイヤー接触機構が前記チャンバの内面より突出しない位置との間で前記進退方向に移動可能に前記可動軸を収容する大きさに形成されている単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構。
【請求項6】
前記可動軸は、前記チャンバの内部に挿入される円柱状の可動軸本体と、前記可動軸本体よりも径方向外側に拡径し、周方向の一部に径方向内側に凹となる直進ガイド係合溝が形成された拡径部と、を有し、
前記ケーシングは、前記進退方向に延在し、前記直進ガイド係合溝と係合する直進ガイドを有する請求項に記載の単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構。
【請求項7】
前記拡径部は、前記ケーシングの内面と接触することで前記可動軸の移動範囲を制限するように形成されている請求項に記載の単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構。
【請求項8】
多結晶融液を貯留するための坩堝を内部に収容するチャンバと、前記多結晶融液から種結晶を介して単結晶を引き上げるワイヤーを有する引き上げ部と、を備えた単結晶引き上げ装置に設けられた単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構であって、
回転駆動源と、
前記回転駆動源の回転により回転される回転部材と、前記回転部材の回転により前記ワイヤーの軸線と交差する進退方向に進退移動する移動部材と、を有する進退機構と、
前記移動部材に接続され、前記進退方向に延在し、前記進退方向の先端に前記ワイヤーと接触するワイヤー接触機構が設けられた可動軸と、を備え、
前記ワイヤー接触機構は、前記軸線と略平行な回転軸を中心に回転可能、かつ、前記軸線と略直交する水平方向で互いに隣接して配置された一対のローラーを有し、
前記一対のローラーは、前記ローラーの周縁同士の間隔が前記ワイヤーの直径よりも小さくなるように配置されている単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョクラルスキー法(Czochralski method、以下「CZ法」と略す。)を用いてシリコンなどの単結晶を育成する方法が知られている。CZ法を用いて単結晶を育成する装置としては、巻取ドラムを用いてワイヤーを引き上げることにより、坩堝内で溶融された多結晶(例えばシリコン多結晶)の融液から単結晶を引き上げながら成長させる単結晶引き上げ装置が知られている。
【0003】
このような単結晶の引き上げ時においては、可撓性を有するワイヤーを用いて単結晶を引き上げる関係から、ワイヤーが振れるという問題があった。具体的には、ワイヤーの回転数がワイヤー引き上げ部から融液面までのワイヤー繰り出し長さで決まる固有振動数に一致するとワイヤーが共振を起こすという問題がある。ワイヤーが共振を起こすと、ワイヤーの振れが増大し単結晶の育成が困難となる。
【0004】
特許文献1には、ワイヤーが挿通される駒部材と、駒部材を係脱自在に保持するテーパ状係合孔を有するワイヤー支持具と、ワイヤー支持具をワイヤーの軸線と直交する方向に移動させる駆動手段と、を有するワイヤー振れ止め機構が記載されている。駆動手段は、エアシリンダを駆動源としている。
【0005】
特許文献2には、ワイヤーを中心に水平方向に相対向して設けられ、先端にワイヤーを保持するV字状溝が形成された一対のワイヤー保持具が記載されている。各々のワイヤー保持具は、駆動手段(エアシリンダ)によってワイヤーの軸線と直交する方向に移動させることができ、一対のワイヤー保持具のV字状溝にてワイヤーを挟み込む状態とすることで、ワイヤーの振れ止めを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開平2-140981号公報
【文献】特開平2-279586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の機構は、エアシリンダを駆動源としているため微調整が難しく、特に単結晶引き上げ中の振れ止めが難しいという課題がある。
また、特許文献1に記載の機構では駒部材によって、特許文献2に記載の機構では一対のワイヤー保持具によってワイヤーの位置が強制されるため、そこから新たなワイヤーの振れが生じたり、振れが大きくなったりするなどの不具合が考えられる。
【0008】
本発明は、ワイヤーに対してソフトな接触が可能となる可動軸を有し、かつ、ワイヤーの振れを抑制することができる単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構は、チャンバと、前記チャンバ内に配置され、多結晶融液が貯留された坩堝と、前記多結晶融液から種結晶を介して単結晶を引き上げるワイヤーを有する引き上げ部と、を備えた単結晶引き上げ装置に設けられた単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構であって、回転駆動源と、前記回転駆動源の回転により回転される回転部材と、前記回転部材の回転により前記ワイヤーの軸線と交差する進退方向に進退移動する移動部材と、を有する進退機構と、前記移動部材に接続され、前記進退方向に延在し、前記進退方向の先端に前記ワイヤーと接触するワイヤー接触機構が設けられた可動軸と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構において、前記回転駆動源は、ハンドル本体と、前記ハンドル本体の回転により回転する伝達軸と、を有するハンドル機構であってよい。
【0011】
上記単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構において、前記伝達軸は、フレキシブルシャフトであってよい。
【0012】
上記単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構において、前記回転駆動源は、回転制御可能なステッピングモーターであってよい。
【0013】
上記単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構において、前記可動軸は、前記進退方向の後端側から先端側に穿孔されたネジ軸収容孔を有し、前記進退機構は、前記回転部材として機能するネジ軸と、前記移動部材として機能するナット部材とを有するネジ送り機構であり、前記ネジ軸は前記ネジ軸収容孔に挿入されてよい。
【0014】
上記単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構において、前記進退機構は、前記回転部材として機能するピニオンと、前記移動部材として機能するラックとを有するラック・アンド・ピニオン機構であってよい。
【0015】
上記単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構において、前記チャンバの外面に取り付けられたケーシングを有し、前記ケーシングは、前記ワイヤー接触機構が前記ワイヤーと接触する位置と前記ワイヤー接触機構が前記チャンバの内面より突出しない位置との間で前記進退方向に移動可能に前記可動軸を収容する大きさに形成されてよい。
【0016】
上記単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構において、前記可動軸は、前記チャンバの内部に挿入される円柱状の可動軸本体と、前記可動軸本体よりも径方向外側に拡径し、周方向の一部に径方向内側に凹となる直進ガイド係合溝が形成された拡径部と、を有し、前記ケーシングは、前記進退方向に延在し、前記直進ガイド係合溝と係合する直進ガイドを有してよい。
【0017】
上記単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構において、前記拡径部は、前記ケーシングの内面と接触することで前記可動軸の移動範囲を制限するように形成されてよい。
【0018】
上記単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構において、前記ワイヤー接触機構は、前記軸線と略平行な回転軸を中心に回転可能、かつ、前記軸線と略直交する水平方向で互いに隣接して配置された一対のローラーを有し、前記一対のローラーは、前記ローラーの周縁同士の間隔が前記ワイヤーの直径よりも小さくなるように配置されてよい。
【0019】
上記単結晶引き上げ装置のワイヤー振れ止め機構において、前記回転駆動源と前記回転部材との間に介在し、前記回転駆動源側の回転を前記回転部材側に増速して伝達する増速機を有してよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、単結晶引き上げ中に、装置の上部機構が熱変形、強度低下によって多少の振れが生じたとしても、回転部材による移動部材の移動量を調整することにより微妙な調整が可能となる。また、ワイヤーに対してソフトな接触が可能となるため、新たなワイヤーの振れが発生することなく、ワイヤーの振れを効率的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る単結晶引き上げ装置の構成を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係るワイヤー振れ止め機構の一部を破断して示す斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るワイヤー振れ止め機構の断面図である。
図4図3のIV-IV断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るワイヤー接触機構の斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係るワイヤー接触機構の上面図であり、ワイヤーとの接触状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明のワイヤー振れ止め機構は、ワイヤーの下端に取り付けられた種結晶を多結晶融液に接触させた後に引き上げることで単結晶を育成する単結晶引き上げ装置に設けられるものである。
【0023】
〔単結晶引き上げ装置〕
図1は、本発明の一実施形態に係る単結晶引き上げ装置1の構成を示す概略図である。
図1に示されるように、本実施形態の単結晶引き上げ装置1は、装置本体50と、ワイヤー振れ止め機構2と、を備えている。装置本体50は、チャンバ51と、ワイヤー引き上げ部55と、坩堝駆動部56と、を備えている。
チャンバ51の内部には、多結晶融液Mを貯留するための坩堝54を収容することができる。
図示しないが、単結晶引き上げ装置1は、坩堝54および坩堝54に収容された多結晶融液M(例えばシリコン融液)を加熱するヒーターや、ヒーターの周囲に配置される断熱材などを備えている。また、単結晶引き上げ装置1は、チャンバ51内をアルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガスで満たすガス導入口およびガス排出口を備えている。
【0024】
チャンバ51は、メインチャンバ52と、このメインチャンバ52の上部に接続されたプルチャンバ53とを備えている。
坩堝54は、メインチャンバ52内に配置され、多結晶融液Mを貯留する。
【0025】
ワイヤー引き上げ部55は、種保持具61を介して取り付けられた種結晶Sを介して多結晶融液Mから単結晶Cを引き上げるワイヤーWと、このワイヤーWを昇降及び回転させる巻き上げ駆動部57とを備えている。
巻き上げ駆動部57は、プルチャンバ53に対して回転可能に取り付けられたボックス58と、ボックス58内に配置された巻取ドラム59と、巻取ドラム59を回転駆動するモーター60と、を有している。ボックス58は、図示しない駆動装置により、ワイヤーWの軸線を中心に回転駆動される。ボックス58が、ワイヤーWの軸線回りに回転することにより、ワイヤーWもその軸線回りに回転する。
坩堝駆動部56は、坩堝54を下方から支持する支持軸62を備え、坩堝54を所定の速度で回転及び昇降させる。
【0026】
上記単結晶引き上げ装置1によれば、CZ法を用いて、種結晶Sを多結晶融液Mに接触させた後に引き上げることにより、例えばシリコン単結晶などの単結晶Cが育成される。
【0027】
〔ワイヤー振れ止め機構〕
次に、単結晶引き上げ装置1のワイヤーWの振れ止めに使用されるワイヤー振れ止め機構2について説明する。
図1に示されるように、ワイヤー振れ止め機構2は、ハンドル機構3と、ハンドル機構3の手動操作により進退する可動軸5を備える振れ止めユニット4と、を備える。
図2は、本発明の一実施形態に係るワイヤー振れ止め機構2の斜視図であり、主に振れ止めユニット4の構造を説明する図である。図3は、本発明の一実施形態に係るワイヤー振れ止め機構2の断面図である。
【0028】
ハンドル機構3は、可動軸5の進退動作の動力源となる回転駆動源である。
図3に示されるように、ハンドル機構3は、作業者の操作によって回転するハンドル本体35と、ハンドル本体35と振れ止めユニット4とを接続するフレキシブルシャフト30と、ハンドル本体35の回転をフレキシブルシャフト30に伝達するかさ歯車36と、を有する。ワイヤー振れ止め機構2は、手動操作による回転動作を動力源とし、可動軸5を進退させる。
【0029】
フレキシブルシャフト30は、インナーシャフト31と、インナーシャフト31を覆うアウターチューブ32とを有する。インナーシャフト31およびアウターチューブ32は柔軟性を有する。フレキシブルシャフト30は、ハンドル本体35の回転動作を、ハンドル本体35の上方に離隔して配置された振れ止めユニット4に伝達する伝達軸としての機能を有する。
【0030】
ハンドル本体35は、ハンドル軸35Aを有し、ハンドル軸35Aは、かさ歯車36の入力側歯車36Aと接続されている。フレキシブルシャフト30のインナーシャフト31は、出力軸37を介してかさ歯車36の出力側歯車36Bと接続されている。この構造によれば、ハンドル本体35を回転させることにより、かさ歯車36を介してフレキシブルシャフト30のインナーシャフト31が回転する。
フレキシブルシャフト30とかさ歯車36によって動力を伝達する構成とすることにより、ハンドル本体35をより低い位置に配置することができ、また、ハンドル本体35の向きを作業者にとって操作し易い適切な向きとすることができる。
【0031】
次に、ハンドル本体35の回転動作により進退する可動軸5を有する振れ止めユニット4について説明する。振れ止めユニット4は、プルチャンバ53の上下方向の略中央部に配置されている。
振れ止めユニット4は、プルチャンバ53に固定されたケーシング20と、プルチャンバ53内とケーシング20内との間を進退可能な可動軸5と、可動軸5を進退させる進退機構6と、可動軸5の直進動作をガイドする直進ガイド7と、増速機8と、増速機8を支持するブラケット46と、を有する。
以下の説明では、可動軸5の軸線Aに沿う方向を進退方向Dと呼び、プルチャンバ53に近い側を一方側D1、プルチャンバ53から離れる側を他方側D2と呼ぶ。進退方向DはワイヤーWの軸線(鉛直線)と略直交する水平方向である。
進退方向Dは、必ずしもワイヤーWの軸線と略直交する水平方向である必要はなく、ワイヤーWの軸線と交差する方向であれば、多少上下に傾いていても良い。しかし、ワイヤーWの振れ止めを阻害するほどの傾きであってはならない。
【0032】
ケーシング20は、進退方向Dに延びる筒状をなす収容部材であり、進退方向Dの他方側D2を封止する蓋部材13を有している。ケーシング20は、その内部に可動軸5、進退機構6、直進ガイド7を収容する。
ケーシング20に収容された可動軸5は、ワイヤー接触機構17(後述する)がワイヤーWと接触する位置と、ワイヤー接触機構17がプルチャンバ53の内面より突出しない位置との間で進退方向Dに移動可能である。換言すれば、ケーシング20は、可動軸5が進退方向Dの他方側D2に完全に後退した際、ワイヤー接触機構17がプルチャンバ53の内面より突出しない大きさである。
【0033】
ケーシング20は、進退方向Dの一端(進退方向Dの一方側D1の端部)がケーシング固定プレート47を介してプルチャンバ53の外面に取り付けられている。
ケーシング固定プレート47は、振れ止めユニット4を支持するために形成されている。また、ケーシング固定プレート47およびプルチャンバ53には、可動軸5が挿通する孔47Aが形成されている。孔47Aは、ケーシング固定プレート47およびプルチャンバ53で大きさを必ずしも同じにする必要は無く、例えばプルチャンバ53側を大きくしても良い。また、本実施形態のケーシング20は、ケーシング固定プレート47を介してプルチャンバ53に固定されているが、プルチャンバ53の強度が高ければ、ケーシング20をプルチャンバ53に直接的に固定してもよい。
【0034】
図3に示されるように、ケーシング20の進退方向Dの一端には、可動軸5が挿通する可動軸挿通孔10が形成されている。可動軸挿通孔10の内面には、真空シール部11が設けられている。真空シール部11は、可動軸挿通孔10の内周面と可動軸5の外周面との間をシールする。真空シール部11は、例えばOリングのようなシール部材によって形成されている。
【0035】
ケーシング20の進退方向Dの他端(進退方向Dの他方側D2の端部)には、軸線Aを中心とする径方向の外側に突出するフランジ部12が形成されている。フランジ部12は、蓋部材13によって封止されている。蓋部材13は、ケーシング20のフランジ部12に例えば、ボルトのような締結部材によって固定されている。蓋部材13には、後述する進退機構6のネジ軸26が挿通するネジ軸挿通孔14が形成されている。
【0036】
可動軸5は、進退機構6により進退方向Dに移動し、その先端に設けられたワイヤー接触機構17をワイヤーWに接触させることで、ワイヤーWの振れ止めを行う軸状部材である。
可動軸5は、プルチャンバ53の内部に挿入される可動軸本体16と、可動軸本体16の一端に設けられたワイヤー接触機構17と、可動軸本体16の他端に形成された拡径部18と、を有する。
【0037】
可動軸5には、進退方向Dの他端から可動軸5の先端に向かって穿孔されたネジ軸収容孔25が形成されている。ネジ軸収容孔25は、後述する進退機構6のネジ軸26が収容される有底孔である。ネジ軸収容孔25は、拡径部18から可動軸本体16にわたって形成されているが、可動軸本体16を貫通はしていない。
【0038】
拡径部18は、可動軸本体16よりも径方向外側に拡径した円柱状をなしている。図2および図4に示すように、拡径部18の外周面には、進退方向にDに延び、径方向内側に凹となる直進ガイド係合溝29が形成されている。直進ガイド係合溝29は、後述する円柱形状の直進ガイド7が係合する形状をなしている。直進ガイド係合溝29は、拡径部18の外周面の周方向の2ヶ所に形成されている。具体的には、2つの直進ガイド係合溝29は、軸線Aを含む鉛直面に対して対称となるように形成されている。
【0039】
また、拡径部18は、拡径部18の進退方向Dの一方側D1を向く面18Aと、ケーシング20の進退方向Dの他方側D2を向く面20Aとが接触することにより、可動軸5の移動範囲を制限するように形成されている。具体的には、拡径部18は、面18Aと面20Aとが当接するときに、可動軸5の先端がプルチャンバ53の中心付近に位置するように形成されている。
【0040】
進退機構6は、進退方向Dに延びるネジ軸26と、ナット部材27と、ネジ軸26とナット部材27との間に介在するボール(図示せず)と、を有する所謂ネジ送り機構である。進退機構6(ネジ送り機構)を構成するネジとして、台形ネジやボールネジを採用することができる。ネジ軸26は、伝達軸であるフレキシブルシャフト30の回転により回転する回転部材として機能する。ナット部材27は、ネジ軸26の回転により進退方向Dに進退移動する移動部材として機能する。
【0041】
ネジ軸26は、進退方向Dの一方側D1がケーシング20のネジ軸挿通孔14を介してケーシング20内に挿入されている。
ネジ軸26は、進退方向Dの他方側D2に、縮径された延長部26Aを有している。ネジ軸26は、延長部26Aにて支持されている。すなわち、ネジ軸26は、進退方向Dの他方側D2のみで支持され、進退方向Dの一方側D1は、可動軸5のネジ軸収容孔25に挿入される。ネジ軸26の延長部26Aは、ネジ軸挿通孔14の内側に配置された軸受14Aによって支持されている。
【0042】
ナット部材27は、可動軸5の拡径部18に例えばボルトのような締結部材によって固定されている。ナット部材27が可動軸5に固定されていることによって、ナット部材27の直進運動に伴い可動軸5が移動する。
【0043】
ケーシング20を構成する蓋部材13には、上記した直進ガイド係合溝29と協働して可動軸5の回転を抑制し、かつ、可動軸5の進退方向Dの移動をガイドする、直進ガイド7が設けられている。直進ガイド7は、円柱状をなし、可動軸5の直進ガイド係合溝29に対応する位置に配置されている。
【0044】
ワイヤー接触機構17は、可動軸5が進退方向Dの一方側D1に移動することによって、ワイヤーWに接触する機構である。図5および図6に示されるように、ワイヤー接触機構17は、可動軸本体16の先端に設けられたローラー保持部19と、回転軸24によってローラー保持部19に回転自在に取り付けられた一対のローラー21と、を有している。
回転軸24の先端にはネジが形成されており、回転軸24は、先端のネジをローラー保持部19に設けられたネジ穴にねじ込むことで、ローラー保持部19に固定される。また、ローラー保持部19には、ワイヤーWとの干渉を避けるための切り欠き22が形成されている。
【0045】
各々のローラー21は、回転軸24の軸線がワイヤーWの軸線と略平行をなし、回転軸24を中心に回転可能なように取り付けられている。
一対のローラー21は、ローラー21の周縁同士の間隔がワイヤーWの直径よりも小さくなるように隣接して配置されている。また、一対のローラー21は、上方から見て、軸線Aに対して対称となるように配置されている。
ローラー21は、例えば、ポリイミド樹脂などのエンジニアリングプラスチックで形成することができる。ローラー21を構成する材料は、上記したものに限らず、引き上げられるワイヤーWに接触に対する強度、耐熱性および絶縁性を有していれば、例えば、フッ素ゴム系やアルミナなどのセラミックス系の材料の採用も可能である。
【0046】
増速機8は、ハンドル機構3とネジ軸26との間に介在し、ハンドル機構3側の回転をネジ軸26側に増速して伝達する伝達装置である。
増速機8は、ブラケット46に支持されているケーシング39と、ケーシング39内に収容された歯車群40と、を有する。ブラケット46は、例えば金属板によって形成された支持部材であり、進退方向Dの一端がケーシング固定プレート47に固定され、進退方向Dの他方側D2で増速機8を支持している。なお、図3では、歯車群40を支持する軸受などの部材は省略している。
【0047】
歯車群40は、フレキシブルシャフト30の回転動作を進退機構6のネジ軸26に伝達する。歯車群40は、フレキシブルシャフト30に接続され、入力側歯車41Aと出力側歯車41Bとからなるかさ歯車41と、かさ歯車41の後段に設けられ、互いに噛み合う第1の歯車43および第2の歯車44と、を有している。
かさ歯車41の入力側歯車41Aは、入力軸42を介してフレキシブルシャフト30のインナーシャフト31に接続されている。かさ歯車41の出力側歯車41Bは、第1の歯車43と接続され、第1の歯車43と噛み合う第2の歯車44は、カップリング33を介してネジ軸26の延長部26Aと接続されている。
【0048】
第1の歯車43と第2の歯車44は平歯車であり、第2の歯車44の歯数は第1の歯車43の歯数より少ない。例えば、第2の歯車44の歯数は第1の歯車43の歯数の1/2とすることができる。これにより、ネジ軸26の回転数は、出力側歯車41Bの回転数の2倍となる。
【0049】
次に、上記したワイヤー振れ止め機構2の作用について説明する。
作業者が、ハンドル機構3のハンドル本体35を回転させることにより、フレキシブルシャフト30のインナーシャフト31が回転する。フレキシブルシャフト30によって伝達された回転動作は、増速機8によって増速された後、進退機構6のネジ軸26を回転させる。進退機構6は送りネジ機構であるため、ネジ軸26の回転運動は直進運動に変換され、ナット部材27が進退方向Dに移動し、ナット部材27に固定された可動軸5が進退方向Dに移動する。
この際、直進ガイド7と直進ガイド係合溝29とが協働することによって、可動軸5の軸線A回りの回転が規制され、ワイヤー接触機構17が回転することなく前進する。
【0050】
ここでハンドル本体35の回転数について説明する。可動軸5(ワイヤー接触機構17)がワイヤーWに接触するまでのストロークをXとし、進退機構6のネジ軸26のピッチをPとすると、可動軸5をX移動させるためには、ネジ軸26をX/P回転させる必要がある。本実施形態のワイヤー振れ止め機構2では、増速機8によってハンドル機構3の回転数が2倍に増速されるため、可動軸5をストロークXにわたって移動させるハンドル本体35の回転数は、X/P回転の1/2でよい。
【0051】
可動軸5が直進動作することにより、図6に示されるように、ワイヤー接触機構17がワイヤーWに対して一方向より当接する。具体的には、ワイヤー接触機構17の一対のローラー21がワイヤーWに接触する。
ワイヤーWが振れている場合、ワイヤー接触機構17のローラー21により、振れが抑制される。また、ワイヤーWがワイヤーWの軸線回りに回転しつつ、上下方向に移動している場合は、ワイヤー接触機構17のローラー21が回転しながらワイヤーWに接触するため、ワイヤーWの移動を妨げることがない。
【0052】
上記実施形態によれば、可動軸5を一方向に直進移動させて、ワイヤー接触機構17をワイヤーWに接触させることにより、ワイヤーWが共振を起こして振れた場合においても、ワイヤーWの振れの増大を抑制することができる。
引上げられた単結晶断面内の電気抵抗率および酸素濃度分布などの特性は、ワイヤーWの回転数に依存するため、要求される特性によっては、共振点以上の回転数まで高めたい場合が生じる。しかし、ワイヤーWの回転数を共振点以上の回転数まで高めることは、通常は、ワイヤーWの振れが増大し単結晶の育成が困難となるが、本実施形態によれば、育成中に振れ止めを行うことによって、これを可能にすることができる。従って、要求される特性を満足させることができる。
【0053】
また、ハンドル本体35を手動で回転させて、伝達軸として機能するフレキシブルシャフト30を介して進退機構6を駆動させる構成とした。これにより、単結晶C引き上げ中に、装置の上部機構が熱変形、強度低下によって多少の振れが生じたとしても、ネジ軸26を構成するナット部材27の移動量を調整することにより、可動軸5の送り量の微調整が可能となる。また、ワイヤーWに対してソフトな接触が可能となるため、新たなワイヤーWの振れが発生することもなく、ワイヤーWの振れを効率的に抑制することができる。
【0054】
また、ワイヤー接触機構17が一方向からワイヤーWに接触することのみによりワイヤーWの振れを抑える機構であり、ワイヤーWの位置を強制することがないため、新たなワイヤーWの振れを抑制することができる。
【0055】
また、ワイヤー接触機構17が一対のローラー21を有し、一対のローラー21がワイヤーWの回転を妨げないように回転することによって、ワイヤーWと接触する部材がワイヤーWにより磨耗することを防止することができ、ワイヤーWの回転及び昇降の動作により、ワイヤーWに接触する部材の削れによる不純物の落下を防止することができる。
【0056】
また、ケーシング20の大きさを、ケーシング20に可動軸5が収容された際、可動軸5がプルチャンバ53の内面より突出しない大きさとすることによって、原料追加装填用の石英管や、プルチャンバ53に収容された単結晶が揺れて可動軸5に衝突・接触するのを防止することができる。
【0057】
送りネジ機構である進退機構6のネジ軸26を、動作対象である可動軸5のネジ軸収容孔25に挿入する構造とし、また、簡素な構造の直進ガイド7で可動軸5の直進動作をガイドする構造としたことによって、振れ止めユニット4をコンパクトにすることができる。これにより、プルチャンバ53の外部に大きなスペースを必要とせず、また、振れ止めユニット4のプルチャンバ53への固定を容易とすることができる。
【0058】
また、増速機8により、ハンドル機構3における回転数が増速されるため、可動軸5をワイヤーW接触まで直進させるためのハンドル回転数を少なくすることができ、作業者の負担を軽減することができる。
【0059】
また、可動軸5の拡径部18がケーシング20の内壁に接触することで、可動軸5の進退方向Dの移動を制限できるので、可動軸5がプルチャンバ53の内壁に接触することによる可動軸5の破損を防止することができる。
【0060】
なお、上記実施形態では、進退機構6をネジ送り機構としたが、フレキシブルシャフト30の回転により回転する回転部材と、回転部材の回転により進退方向Dに移動する移動部材とを有する機構であればこれに限ることはなく、例えば、ラック(回転部材)とピニオン(移動部材)とからなるラック・アンド・ピニオン機構を採用してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、可動軸5の進退動作の動力源となる回転駆動源として、ハンドル機構3を用いたが、これに限ることはなく、例えば回転制御可能なステッピングモーターの採用も可能である。ステッピングモーターは、ドライバを介して直流のパルス電圧を印加して駆動するモーターであり、進退機構6のネジ軸26を精度良く回転させることができ、ひいては、可動軸5を精度良く進退動作させることができる。
回転駆動源としてステッピングモーターを採用する場合、ステッピングモーターの出力軸は、進退機構6のネジ軸26と直接的に接続されてもよいし、ステッピングモーターの仕様に応じて増速機8を介して接続してもよい。また、ステッピングモーターの制御は、有線のみならず、無線により行うことができる。
【符号の説明】
【0062】
1…単結晶引き上げ装置、2…ワイヤー振れ止め機構、3…ハンドル機構(回転駆動源)、4…振れ止めユニット、5…可動軸、6…進退機構、7…直進ガイド、8…増速機、16…可動軸本体、17…ワイヤー接触機構、18…拡径部、20…ケーシング、21…ローラー、25…ネジ軸収容孔、26…ネジ軸(回転部材)、27…ナット部材(移動部材)、29…直進ガイド係合溝、3…ハンドル機構、30…フレキシブルシャフト、31…インナーシャフト、35…ハンドル本体、35A…ハンドル軸、36…かさ歯車、40…歯車群、41…かさ歯車、43…第1の歯車、44…第2の歯車、51…チャンバ、52…メインチャンバ、53…プルチャンバ、54…坩堝、55…引き上げ部、A…軸線、C…単結晶、D…進退方向、M…多結晶融液、S…種結晶、W…ワイヤー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6