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特許7388462組成物、膜、光電変換デバイス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】組成物、膜、光電変換デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20231121BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20231121BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20231121BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20231121BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K85/50
H10K85/60
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022032501
(22)【出願日】2022-03-03
(65)【公開番号】P2023128266
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中島 周平
(72)【発明者】
【氏名】服部 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】武井 出
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109860393(CN,A)
【文献】中国実用新案第207068927(CN,U)
【文献】BIOKI, Hojjat Amrollahi et al.,Improved morphology, structure and optical properties of CH3NH3PbI3 film via HQ additive in PbI2 precursor solution for efficient and stable mesoporous perovskite solar cells,Synthetic Metals,2021年11月12日,Vol. 283,Article number: 116965
【文献】WAFEE, Seema et al.,Lewis bases: promising additives for enhanced performance of perovskite solar cells,Materials Today Energy,2021年08月25日,Vol. 22,Article number: 100847
【文献】YANG, Shuang et al.,Tailoring Passivation Molecular Structures for Extremely Small Open-Circuit Voltage Loss in Perovskite Solar Cells,Journal of the American Chemical Society,2019年,Vol. 141,pp. 5781-5787
【文献】ZHANG, Hao et al.,Efficient and Stable Chemical Passivation on Perovskite Surface via Bidentate Anchoring,Advanced Energy Materials,2019年,Vol. 9, Article number: 1803573,pp. 1-9
【文献】NIU, Tianqi et al.,Stable High-Performance Perovskite Solar Cells via Grain Boundary Passivation,Advanced Materials,2018年,Vol. 30, Article number: 1706576,pp. 1-11
【文献】JIANG, Haipeng et al.,A design strategy of additive molecule for PSCs: Anchoring intrinsic properties of functional groups by suppressing long-range conjugation effect,Chemical Engineering Journal,2021年08月11日,Vol. 427, Article number:131676,pp. 1-10
【文献】LIU, Xuping et al.,Pyridine solvent engineering for high quality anion-cation-mixed hybrid and high performance of perovskite solar cells,Journal of Power Sources,2018年,Vol. 399,p.144-150
【文献】WANG, Shurong et al.,Lewis acid/base approach for efficacious defect passivation in perovskite solar cells,Journal of Materials Chemistry A,2020年,Vol. 8,pp .12201-12225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
H10K 50/00-50/88
H10K 71/12-71/15
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と、ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物(ただし、カルボキシル基を有する化合物を除く。)とを含有し、
前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物が、3-ヒドロキシピリジン、4-ヒドロキシピリジン、3-キノリノール、4-キノリノール、5-キノリノール、及び6-キノリノールから選択される1種以上の化合物である組成物。
【請求項2】
前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物が、4-ヒドロキシピリジン、及び4-キノリノールから選択される1種以上の化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体1molに対して、前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物を0.001~0.25mol含有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
さらに、ジメチルホルムアミドを含有する、請求項1~3の何れか1項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~の何れか1項に記載の組成物からなる膜。
【請求項6】
ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と、ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物(ただし、カルボキシル基を有する化合物を除く。)とを含有し、
前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物が、3-ヒドロキシピリジン、4-ヒドロキシピリジン、3-キノリノール、4-キノリノール、5-キノリノール、及び6-キノリノールから選択される1種以上の化合物である膜。
【請求項7】
前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物が、4-ヒドロキシピリジン、及び4-キノリノールから選択される1種以上の化合物である、請求項6に記載の膜。
【請求項8】
前記ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物1molに対して、前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物を0.001~0.25mol含有する、請求項6又は7に記載の膜。
【請求項9】
2つの電極を有し、該2つの電極間に請求項の何れか1項に記載の膜を有する光電変換デバイス。
【請求項10】
上部電極、活性層及び下部電極をこの順で有する光電変換デバイスの製造方法であって、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と、ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物(ただし、カルボキシル基を有する化合物を除く。)とを含有し、
前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物が、3-ヒドロキシピリジン、4-ヒドロキシピリジン、3-キノリノール、4-キノリノール、5-キノリノール、及び6-キノリノールから選択される1種以上の化合物である溶液を塗布する工程を有する光電変換デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物が、4-ヒドロキシピリジン、及び4-キノリノールから選択される1種以上の化合物である、請求項10に記載の光電変換デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記溶液が、前記ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体1molに対して、前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物を0.001~0.25mol含有する、請求項10又は11に記載の光電変換デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と特定の添加物を含む組成物と、該組成物を用いて形成された活性層を有する光電変換デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換デバイスとして、一対の電極間に、活性層等が配置されたものが知られている。この活性層の材料として、有機無機ハイブリッド型半導体化合物の開発が進んでおり、なかでもハロゲン化金属ペロブスカイト化合物が注目されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-72327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、特にエネルギーハーベスティング等の観点から、蛍光灯やLED等の屋内光などの低照度環境下において光電変換効率の高い光電変換デバイスが求められている。しかしながら、ペロブスカイト化合物を含有する活性層を備えた光電変換デバイスについては、現状、低照度環境下における光電変換効率が高いものは提供されていない。
【0005】
本発明は、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物を含有する活性層を備えた光電変換デバイスにおいて、低照度環境下における光電変換効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物に、ルイス塩基性基とブレンステッド酸性基を有する化合物を併用し、これを光電変換デバイスの活性層に適用することによって、屋内等の低照度環境下においても、優れた光電変換効率を発現する光電変換デバイスが得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0007】
[1] ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と、ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物とを含有する組成物。
【0008】
[2] 前記ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体1molに対して、前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物を0.001~0.25mol含有する、[1]に記載の組成物。
【0009】
[3] さらに、ジメチルホルムアミドを含有する、[1]又は[2]に記載の組成物。
【0010】
[4] 前記ルイス塩基性基が下記式(I-1)~(I-4)の何れかで表される部分構造を有する、[1]~[3]の何れかに記載の組成物。
【0011】
【化1】
【0012】
(上記式中、Mは周期表第15族の元素を表し、Mは周期表第16族の元素を表し、Mは炭素原子又は硫黄原子を表す。R~Rは各々独立に置換基を有していてもよい炭化水素鎖を表す。)
【0013】
[5] 前記ルイス塩基性基がピリジン骨格を有する、[4]に記載の組成物。
【0014】
[6] 前記ブレンステッド酸性基が下記式(II-1)~(II-2)の何れかで表される部分構造を有する、[1]~[5]の何れかに記載の組成物。
【0015】
【化2】
【0016】
(上記式中、Mは周期表第15族の元素を表し、Mは周期表第16族の元素を表す。Rは置換基を有していてもよい炭化水素鎖を表す。Rは水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素鎖を表す。)
【0017】
[7] 前記ブレンステッド酸性基が前記式(II-2)で表される部分構造を有し、該(II-2)中のMが酸素原子である、[6]に記載の組成物。
【0018】
[8] 前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物が、ヒドロキシ基とピリジン骨格とを有する、[1]~[7]の何れかに記載の組成物。
【0019】
[9] [1]~[8]の何れかに記載の組成物からなる膜。
【0020】
[10] ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と、ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物とを含有する膜。
【0021】
[11] 前記ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物1molに対して、前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物を0.001~0.25mol含有する、[10]に記載の膜。
【0022】
[12] 前記ルイス塩基性基が下記式(I-1)~(I-4)の何れかで表される部分構造を有する、[10]又は[11]に記載の膜。
【0023】
【化3】
【0024】
(上記式中、Mは周期表第15族の元素を表し、Mは周期表第16族の元素を表し、Mは炭素原子又は硫黄原子を表す。R~Rは各々独立に置換基を有していてもよい炭化水素鎖を表す。)
【0025】
[13] 前記ルイス塩基性基がピリジン骨格を有する、[12]に記載の膜。
【0026】
[14] 前記ブレンステッド酸性基が下記式(II-1)~(II-2)の何れかで表される部分構造を有する、[10]~[13]の何れかに記載の膜。
【0027】
【化4】
【0028】
(上記式中、Mは周期表第15族の元素を表し、Mは周期表第16族の元素を表す。Rは置換基を有していてもよい炭化水素鎖を表す。Rは水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素鎖を表す。)
【0029】
[15] 前記ブレンステッド酸性基が前記式(II-2)で表される部分構造を有し、該(II-2)中のMが酸素原子である、[14]に記載の膜。
【0030】
[16] 前記ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物が、ヒドロキシ基とピリジン骨格とを有する、[10]~[15]の何れかに記載の膜。
【0031】
[17] 2つの電極を有し、該2つの電極間に[9]~[16]の何れかに記載の膜を有する光電変換デバイス。
【0032】
[18] 上部電極及び下部電極と、該上部電極と下部電極との間に配置された活性層とを有する光電変換デバイスであって、該活性層がハロゲン化金属ペロブスカイト化合物を含有し、該ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の平均粒径が1.0~2.0μmである光電変換デバイス。
【0033】
[19] 上部電極、活性層及び下部電極をこの順で有する光電変換デバイスの製造方法であって、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と、ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物とを含有する溶液を塗布する工程を有する光電変換デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物を活性層に用いた光電変換デバイスにおいて、屋内等の低照度環境下における光電変換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の光電変換デバイスの実施形態の一例を模式的に表す断面図である。
図2】本発明の光電変換デバイスを備えた太陽電池の実施形態の一例を模式的に表す断面図である。
図3】本発明の光電変換デバイスを備えた太陽電池モジュールの一例を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はその趣旨が損なわれない限り、これらの内容だけに限定はされない。
【0037】
[組成物]
本発明の組成物は、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と、ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物(以下、「本発明に係る特定化合物」または単に「特定化合物」と言う場合がある。)とを含有する。
本発明の組成物は、光電変換デバイスの活性層形成用組成物として好適である。
【0038】
<ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物>
ペロブスカイト化合物とは、ペロブスカイト構造を有する半導体化合物のことをいう。ペロブスカイト構造とは、通常、灰チタン石(CaTiO;ペロブスカイト)などのAMXの組成であらわされる結晶構造のことをいう。このAMX組成をとるペロブスカイト構造では、Mサイトイオンの周りを6個のXイオンが規則的に取り囲み、MX八面体を形成する構造をとる。
【0039】
ペロブスカイト化合物としては、特段の制限はないが、例えば、Galasso et al. Structure and Properties of Inorganic Solids, CHapter 7 - Perovskite type and related structuresで挙げられている化合物から選ぶことができる。また、例えば、ペロブスカイト化合物としては、一般式AMXで表されるAMX型の化合物、又は一般式AMXで表されるAMX型の化合物が挙げられる。ここで、Mは2価のカチオンを、Aは1価のカチオンを、Xは1価のアニオンを表す。
【0040】
1価のカチオンAに特段の制限はないが、上述のGalassoの著書に記載されているカチオンを用いることができる。より具体的な例としては、周期表第1族及び第13族~第16族元素を含むカチオンが挙げられる。これらの中でも、セシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン又は置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが好ましい。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの例としては、1級アンモニウムイオン又は2級アンモニウムイオンが挙げられる。置換基にも特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの具体例としては、アルキルアンモニウムイオン又はアリールアンモニウムイオンが挙げられる。特に、立体障害を避けるために、3次元の結晶構造となるモノアルキルアンモニウムイオンが好ましく、安定性向上の観点からは、一つ以上のフッ素原子を置換したアルキルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。また、カチオンAとして2種類以上のカチオンを組み合わせて用いてもよい。
【0041】
1価のカチオンAの具体例としては、メチルアンモニウムイオン、モノフッ化メチルアンモニウムイオン、ジフッ化メチルアンモニウムイオン、トリフッ化メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン、n-プロピルアンモニウムイオン、イソブチルアンモニウムイオン、n-ブチルアンモニウムイオン、t-ブチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、フェニルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、フェネチルアンモニウムイオン、グアニジウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、アセトアミジニウムイオン又はイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0042】
2価のカチオンMについても特段の制限はないが、本発明の組成物を光電変換デバイスの活性層に用いる場合、2価の金属カチオン又は半金属カチオンであることが好ましい。具体的な例としては、周期表第14族元素のカチオンが挙げられ、より具体的な例としては、鉛カチオン(Pb2+)、スズカチオン(Sn2+)、ゲルマニウムカチオン(Ge2+)が挙げられる。また、カチオンMとして2種類以上のカチオンを組み合わせて用いてもよい。なお、安定な光電変換デバイスを得る観点からは、鉛カチオン又は鉛カチオンを含む2種類以上のカチオンを用いることが特に好ましい。
【0043】
1価のアニオンXの例としては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、アセチルアセトナートイオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、硫黄イオン、テルルイオン、チオシアン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、2,4-ペンタンジオナトイオン又はケイフッ素イオン等が挙げられる。
本発明に係る一実施形態において、Xとしては、ハロゲン化物イオン、又はハロゲン化物イオンとその他のアニオンとの組み合わせであることが好ましい。Xは、1種類でも任意の組み合わせと比率で2種類以上を用いてもよい。ここで、Xの種類や組み合わせの選択により、活性層のバンドギャップを後述する好ましい範囲に調整することができる。活性層のバンドギャップが適度に狭くなりやすいことから、Xは塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンが好ましく、臭化物イオンおよびヨウ化物イオン等がより好ましい。
【0044】
ペロブスカイト化合物は、その光吸収特性や電荷移動度が光電変換に好適であることから、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物が好ましく、従って、本発明ではハロゲン化金属ペロブスカイト化合物を用いる。ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物とは、金属カチオンとハロゲン化物アニオンを構成要素として含有するペロブスカイト化合物のことをいう。
【0045】
ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の好ましい例としては、CHNHPbI、CHNHPbBR、CHNHPbCl、CHNHSNI、CHNHSNBR、CHNHSNCl、CHNHPbI(3-X)Cl、CHNHPbI(3-X)BR、CHNHPbBR(3-X)Cl、CHNHPb(1-Y)SN、CHNHPb(1-Y)SNBR、CHNHPb(1-Y)SNCl、CHNHPb(1-Y)Sn(3-X)Cl、CHNHPb(1-Y)SN(3-X)BR、及びCHNHPb(1-Y)SNBR(3-X)Cl、並びに、上述の化合物においてCHNHの代わりにCFHNH、CFHNH、CFNH、NHCH=NH、CS、又はRbを用いた化合物等が挙げられる。ここで、Xは0以上3以下、Yは0以上1以下の任意の値を示す。これらのうち、好ましくは、CHNHPbI、CHNHPbBR、CHNHPbI(3-X)Cl、CHNHPbI(3-X)BR、CHNHPbBR(3-X)Cl、並びに、上述の化合物においてCHNHの代わりにNHCH=NH、CS、又はRbを用いた化合物等が挙げられる。
【0046】
<ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体>
ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の前駆体(以下、「ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体」と言う場合がある。)とは、反応してハロゲン化金属ペロブスカイト化合物となる化合物のことを言う。具体例としては、後述する活性層形成用塗布液として塗布した後に加熱することにより、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物となる組成物が挙げられる。
例えば、一般式AXで表される化合物、一般式MXで表される化合物及び溶媒を混合して加熱攪拌することにより塗布液を作製し、この塗布液を塗布して加熱乾燥を行うことにより、一般式AMXで表されるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物を含有する活性層を作製することができる。
即ち、本発明に係るハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体としては、一般式AXで表される化合物及び一般式MXで表される化合物を含有する組成物などが挙げられる。ここで、A、X、Mについてはハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の説明において前述した通りである。
【0047】
本発明の組成物には、反応により1種類のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物となる前駆体が含まれていても、反応により2種類以上のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物となる前駆体が含まれていてもよい。
【0048】
本発明の組成物に含有されるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体の量は、本発明の組成物を光電変換デバイスの活性層に用いた場合により良好な半導体特性が得られやすいことから、本発明の組成物中の溶媒を除く全固形物中の含有率として、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の量の上限は、本発明に係る特定化合物との合計量が100質量%以下であればよく、特に制限はない。
【0049】
<特定化合物>
本発明の組成物に含有される特定化合物は、ルイス塩基性基とブレンステッド酸性基を有する有機化合物である。
【0050】
本明細書において、「ルイス塩基性基」とは、窒素や酸素など電気陰性度の高い原子を含む、電子対を供与することのできる官能基を指し、「ブレンステッド酸性基」とは、ヒドロキシ基やアミノ基といった水素イオン(プロトン)を供与することのできる官能基を指し、「有機化合物」とは、炭素原子が共有結合で結びついた骨格を有する化合物を指し、「官能基」とは、有機化合物中に存在する特定の構造と構成原子からなる原子の集団を指す。
【0051】
特定化合物が有するルイス塩基性基は、下記式(I-1)~(I-4)の何れかで表される部分構造を有するものであることが、特定化合物を含有する組成物を用いて形成した活性層を有する光電変換デバイスの光電変換効率の観点から好ましい。
【0052】
【化5】
【0053】
(上記式中、Mは周期表第15族の元素を表し、Mは周期表第16族の元素を表し、Mは炭素原子又は硫黄原子を表す。R~Rは各々独立に置換基を有していてもよい炭化水素鎖を表す。)
【0054】
式中のMは、電気陰性度が高い原子であるほどペロブスカイト構造中の鉛と強く相互作用することから窒素原子またはリン原子であることが好ましい。また、Mも同様の理由から酸素原子または硫黄原子であることが好ましい。
【0055】
また、R~Rの炭化水素鎖は、脂肪族炭化水素鎖でも芳香族炭化水素鎖でもよい。また、脂肪族炭化水素鎖は、飽和でも不飽和でもよく、鎖式でも環式でもよい。鎖式の脂肪族炭化水素鎖は、直鎖でも分岐でもよい。すなわち、R~Rの炭化水素鎖としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基などが挙げられる。アリーレン基は、単環基であってもよく、2つ以上の環が縮合した縮合環基であってもよい。また、R~Rの2つ以上の炭化水素鎖同士が結合して環構造を形成してもよい。炭化水素鎖は、脂肪族炭化水素鎖と芳香族炭化水素鎖などの異なる2種類以上の炭化水素鎖が結合していてもよい。
【0056】
該炭化水素鎖が有していてもよい置換基としては、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アルキルアミノ基、アミド基、アシルアミド基、ヒドロキシ基、オキソ基、ハロゲン元素、カルボキシ基、エステル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アルールオキシ基、ハロアルキル基、スルホン酸基、チオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、リン酸基、リン酸エステル基、ホスホン酸基及びホスホン酸エステル基等が挙げられる。該炭化水素鎖は、これらの置換基を2つ以上有していてもよい。
【0057】
ルイス塩基性基は、イミン(炭素-窒素二重結合を有する)構造を有するものが好ましく、環状イミンがより好ましい。具体的には、イミダゾリン、ピラゾリン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,3,5-トリアジン、ベンズイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、アクリジン及びフェナジンなどの構造を有するものが挙げられる。これらのうち、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジンなどのピリジン骨格を有するものが好ましい。
【0058】
特定化合物が有するブレンステッド酸性基は、下記式(II-1)~(II-2)の何れかで表される部分構造を有するものが特定化合物を含有する組成物を用いて形成した活性層を有する光電変換デバイスの光電変換効率の観点から好ましい。
【0059】
【化6】
【0060】
(上記式中、Mは周期表第15族の元素を表し、Mは周期表第16族の元素を表す。Rは置換基を有していてもよい炭化水素鎖を表す。Rは水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素鎖を表す。)
【0061】
式中のMは、電気陰性度が高い原子であるほど、付随するプロトンがペロブスカイト構造中のハロゲンと強く相互作用することから窒素原子またはリン原子であることが好ましい。また、Mも同様の理由から酸素原子または硫黄原子であることが好ましい。
【0062】
また、R~Rの炭化水素鎖は、脂肪族炭化水素鎖でも芳香族炭化水素鎖でもよい。また、脂肪族炭化水素鎖は、飽和でも不飽和でもよく、鎖式でも環式でもよい。鎖式の脂肪族炭化水素鎖は、直鎖でも分岐でもよい。すなわち、R~Rの炭化水素鎖としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基などが挙げられる。アリーレン基は、単環基であってもよく、2つ以上の環が縮合した縮合環基であってもよい。また、R~Rの2つ以上の炭化水素鎖同士が結合して環構造を形成してもよい。炭化水素鎖は、脂肪族炭化水素鎖と芳香族炭化水素鎖などの異なる2種類以上の炭化水素鎖が結合していてもよい。
【0063】
該炭化水素鎖が有していてもよい置換基は、R~Rの炭化水素鎖が有していてもよい置換基として前述したものと同様であり、該炭化水素鎖は、これらの置換基を2つ以上有していてもよい。
【0064】
ブレンステッド酸性基は、特定化合物を含有する組成物を用いて形成した活性層を有する光電変換デバイスの光電変換効率の観点から前述の式(II-2)で表される部分構造を有することが好ましく、該式(II-2)中のMが酸素原子であるものがより好ましく、具体的には、炭化水素鎖に結合したヒドロキシ基や芳香環に結合したヒドロキシ基などが挙げられる。
【0065】
このようなことから、特定化合物は、ヒドロキシ基とピリジン骨格をそれぞれ一つ以上有するものが好ましい。
すなわち、特定化合物としては、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジン、4-ヒドロキシピリジン等のヒドロキシピリジン;2-キノリノール、3-キノリノール、4-キノリノール、5-キノリノール、6-キノリノール、7-キノリノール、8-キノリノール等のキノリノールが好ましく、4-ヒドロキシピリジン、4-キノリノールがより好ましい。
【0066】
本発明の組成物は、上述の特定化合物の1種類のみを含むものであってもよく、2種類以上を含むものであってもよい。
【0067】
本発明の組成物に含有される特定化合物の量は、光電変換デバイス特性の点では多いことが好ましいが、耐久性の点では少ないことが好ましい。そこで、本発明の組成物に含有される特定化合物の量は、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体1molに対して、0.001mol以上であることが好ましく、0.005mol以上であることがより好ましく、0.01mol以上であることが更に好ましい。また、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体1molに対して、0.25mol以下であることが好ましく、0.1mol以下であることがより好ましい。
【0068】
<その他の成分>
本発明の組成物は、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と特定化合物以外の成分(以下、「その他の成分」と言う場合がある。)を含んでいてもよい。その他の成分としては、ハロゲン化物、酸化物、又は硫化物、硫酸塩、硝酸塩若しくはアンモニウム塩等の無機塩のような、無機化合物、又は有機化合物が挙げられる。また、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物やハロゲン化金属ペロブスカイト化合物以外のペロブスカイト化合物の前駆体を含んでいてもよい。
即ち、本発明に係る活性層は、1種類又は2種類以上のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と共に、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物以外の半導体化合物を含んでいてもよく、例えば、有機アルコキシド配位型金属酸化物、有機分子配位型遷移金属錯体などを含んでいてもよい。従って、本発明の組成物には、これらのハロゲン化金属ペロブスカイト化合物以外の半導体化合物前駆体を含んでいてもよい。
【0069】
但し、本発明の組成物を光電変換デバイスの活性層の形成に用いる場合、組成物中における溶媒を除く固形分の合計に占めるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と特定化合物の合計量は、光電変換効率が高くなりやすい点では、多いことが好ましく、具体的には、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。また、一方で、その他の成分を用いる効果が発現しやすい点では少ないことが好ましく、具体的には、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましい。
【0070】
<溶媒>
本発明の組成物は、塗布液として用いることに好適であり、溶媒を含むことにより、塗布法によって光電変換デバイスの活性層を形成することに用いることが特に適している。
そこで、本発明の組成物を基材上に塗布することにより、本発明の組成物からなる膜を形成することができる。また、この本発明の組成物中に含まれるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体を反応させることにより、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と特定化合物を含有する膜(以下、「本発明の膜」と言う場合がある。)を得ることができる。
【0071】
本発明の組成物に含有される溶媒は、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と特定化合物を溶解できれば特に限定されない。具体的には、溶解性と沸点の高さから、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、N―メチルピロリドン等の有機溶媒が好ましく、ジメチルホルムアミド(DMF)がより好ましい。これらの溶媒は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0072】
溶媒を用いる場合における組成物中のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と特定化合物の合計量は、所望の膜厚の層を形成しやすい点では多いことが好ましく、具体的には、0.2mol/L以上であることが好ましく、0.3mol/L以上であることがより好ましい。また、一方で、塗布法により形成した膜の均一性が高くなりやすい点では、少ないことが好ましく、具体的には、2.0mol/L以下であることが好ましく、1.7mol/L以下であることがより好ましい。
【0073】
[膜]
本発明の膜は、前述のとおり、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と特定化合物を含有する膜である。本発明の膜は、通常、本発明の組成物を用いて塗布法により形成される。
【0074】
本発明の膜に含まれるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物、特定化合物及びその他の成分の種類や量、その好ましい範囲等については前述した通りである。
すなわち、本発明の膜は、前述のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の1種類のみを含んでもよく、2種類以上を含んでもよい。本発明の膜は、前述の特定化合物の1種類のみを含んでもよく、2種類以上を含んでもよい。また、本発明の膜は、前述のその他の成分を含んでいてもよい。
【0075】
本発明の膜におけるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と特定化合物の好適な含有割合についても、前述の本発明の組成物中のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と特定化合物の好適な含有割合と同様である。また、本発明の膜中のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と特定化合物の合計の好適な含有割合は、前述の本発明の組成物中の溶媒を除く固形分中のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と特定化合物の合計の好適な含有割合と同様である。
【0076】
本発明の膜は、光電変換デバイスの活性層に好適である。そこで、本発明の膜の好適な膜厚については、光電変換デバイスの活性層の好適な厚みとして後述する。
また、本発明の膜に含まれるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の粒径についても、光電変換デバイスの活性層における好適なハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の粒径として後述する。
【0077】
[光電変換デバイス]
本発明の光電変換デバイスは、本発明の組成物からなる本発明の膜を有する。本発明の光電変換デバイスは、通常、2つの電極と、この2つの電極間に本発明の膜を有する。より具体的には、上部電極、下部電極及びこの2つの電極間に配置される活性層を有する光電変換デバイスであって、該活性層として本発明の膜を有する。すなわち本発明の光電変換デバイスは、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と特定化合物とを含有する膜を有する。
【0078】
以下に本発明の光電変換デバイスの構造について、その模式的な断面図である図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る光電変換デバイスの実施形態の一例である光電変換デバイス100の模式的な断面図である。光電変換デバイス100においては、上部電極105、活性層103、及び下部電極101がこの順に配置されている。ここで、下部電極101と活性層103との間には、バッファ層102が配置されていてもよい。バッファ層102は、例えば、正孔輸送層とすることができる。また、上部電極105と活性層103との間にバッファ層104が配置されていてもよい。この場合のバッファ層104は、例えば、電子輸送層とすることができる。逆に、バッファ層102とバッファ層104が、それぞれ電子輸送層と正孔輸送層であっても構わない。光電変換デバイス100は、基材106を有していてもよく、絶縁体層、及び仕事関数チューニング層のような図示しないその他の層を有していてもよい。
【0079】
図1の実施形態において、活性層103は光電変換が行われる層である。光電変換デバイス100が光を受けると、光が活性層103に吸収されてキャリアが発生し、発生したキャリアは下部電極101及び上部電極105から取り出される。
【0080】
<活性層>
前述の通り、本発明の組成物を用いることにより、光電変換デバイスの活性層に好適な膜を得ることができる。すなわち、本実施形態において、活性層はハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と特定化合物を含有する。
【0081】
活性層の組成については、本発明の組成物又は膜の組成として前述のとおりである。 なお、活性層は、異なる材料又は異なる成分を含有する複数の層で形成される積層構造であってもよい。
【0082】
本発明の光電変換デバイスにおいて、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物を含有する活性層がさらに特定化合物も含有することにより、低照度環境下における光電変換効率が優れる理由は、以下のように推測される。
即ち、特定化合物の有するルイス塩基性基とブレンステッド酸性基は、それぞれハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の鉛などの金属カチオンとハロゲンなどのアニオンと相互作用して安定化させることにより、前駆体のエンタルピーを低減して安定化させる。これによりハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の結晶成長の速度が遅くなり、粒径が拡大することにより、電荷の再結合を誘因する結晶粒界が減少し、光電変換デバイスのフィルファクター(FF)が向上する。
【0083】
活性層に含まれるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の粒径は、粒界が少なくなり、活性層中における電荷の再結合を抑制しやすい点においては大きいことが好ましく、一方で、活性層表面が平滑になり、バッファ層と活性層の界面における電荷の再結合を抑制しやすい点では小さいことが好ましい。具体的には、活性層内のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の平均粒径は、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、また、一方で、3.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることがより好ましい。
【0084】
ここで、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の粒径は、走査型電子顕微鏡観察により測定することができる。具体的には、日立ハイテク(株)製の走査型電子顕微鏡「S-4800」等を用いて、活性層表面を観察し、得られた走査型電子顕微鏡画像からハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の粒境を設定し、無作為に抽出した10個の粒子の表面積円相当径の算術平均を算出すればよい。
ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の粒径は、特定化合物の種類や量、活性層の形成に用いる溶媒の種類や量などにより調整することができる。
【0085】
活性層のイオン化ポテンシャルは、白色光を与える可視光領域の光源に対し、長波長領域の吸収可能域が充分に満たされ、光電変換効率が高くなりやすい点では、高いことが好ましい。そこで、具体的には、-6.0eV以上であることが好ましく、-5.95eV以上であることがより好ましく、-5.9eV以上であることがさらに好ましい。
また、一方で、活性層のイオン化ポテンシャルは、可視光領域の光源に対し、得られる電圧のロスを低減でき、光電変換効率が高くなりやすい点では、低いことが好ましい。そこで、具体的には、-5.7eV以下であることが好ましく、-5.75eV以下であることがより好ましく、-5.8eV以下であることがさらに好ましく、-5.9eV以下であることが特に好ましい。
【0086】
活性層のバンドギャップは、屋内光等の低照度光によって半導体中に生成する励起子を正負電荷に分離する際に必要なエネルギーが充分に満たされ、光電変換効率が高くなりやすい点では、大きいことが好ましい。そこで、具体的には、1.6eV以上であることが好ましく、1.65eV以上であることがより好ましく、1.7eV以上であることがさらに好ましく、1.75eV以上であることが特に好ましい。
また、一方で、活性層のバンドギャップは、屋内光等によって生成する励起子に対し適度なエネルギーとなり(エネルギー過剰とならず)、光電変換効率が高くなりやすい点では、小さいことが好ましい。そこで、具体的には、2.3eV以下であることが好ましく、2.25eV以下であることがより好ましく、2.2eV以下であることがさらに好ましく、2.15eV以下であることが最も好ましい。
【0087】
また、屋内や屋内において広範に用いられる可視光光源である蛍光灯やLED灯等の低照度光源に対する、光電変換効率を特に向上させやすいことから、活性層のイオン化ポテンシャルとバンドギャップが共に上述の好ましい範囲であることが好ましい。すなわち、具体的には、活性層のイオン化ポテンシャルの範囲が-6.0eV以上-5.7eV以下であり、かつ、そのバンドギャップが1.6eV以上2.3eV以下であることが特に好ましい。
【0088】
活性層のイオン化ポテンシャルを上述の所望の範囲に調整する方法としては、例えば、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の種類により調整する方法が挙げられる。具体的には、例えば、前述のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物のカチオンの種類や比率により調整することができる。より具体的には、前述したハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体である有機もしくは無機アンモニウム塩の組成を調整することなどによって調整する方法が挙げられる。
また、活性層のバンドギャップを上述の所望の範囲に調整する方法としては、例えば、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の種類により調整する方法が挙げられる。具体的には、例えば、前述のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物のアニオンの種類や比率により調整することができる。より具体的には、前述したハロゲン化金属ペロブスカイト化合物形成のために前駆体として用いる金属ハロゲン化合物のハロゲンの種類や比率、あるいは、前駆体として用いる有機もしくは無機アンモニウム塩の組成や比率などを調整する方法が挙げられる。
【0089】
活性層の厚みに特段の制限はない。より多くの光を吸収できる点で、活性層の厚みは、厚いことが好ましい。具体的には、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましく、150nm以上であることが特に好ましく、200nm以上であることが最も好ましい。また、一方で、直列抵抗が下がり、電荷の取出し効率が高くなりやすい点では薄いことが好ましい。具体的には、活性層の厚みは、1500nm以下であることが好ましく、1200nm以下であることがより好ましく、800nm以下であることがさらに好ましい。すなわち、活性層103の厚みは、200nm以上800nm以下であることが殊更好ましい。
【0090】
活性層の形成方法は、特に限定されず、任意の方法により形成することができる。具体的には、塗布法及び蒸着法(又は共蒸着法)などが挙げられる。簡便に活性層を形成しやすい点で、塗布法が好ましい。具体的には、本発明の組成物を塗布し、必要に応じて加熱乾燥することにより、本発明の膜となる活性層を形成する方法などが挙げられる。また、本発明の組成物を塗布後に、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物に対する貧溶媒を塗布することにより、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物を析出させることもできる。
【0091】
塗布法による活性層の形成に用いる塗布液については、本発明の組成物として前述した通りである。
【0092】
即ち、前述のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と本発明の特定化合物と必要に応じて用いられるその他の成分を溶媒に混合して加熱攪拌することにより溶解させることにより本発明の組成物である活性層形成用塗布液を調製し、この塗布液を塗布して乾燥させることにより、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と特定化合物を含有する活性層を形成することができる。
例えば、一般式AXで表される化合物、一般式MXで表される化合物、特定化合物及び溶媒を混合して加熱攪拌することにより塗布液を調製し、この塗布液を塗布して乾燥を行うことにより、一般式AMXで表されるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と特定化合物を含有する活性層を作製することができる。なお、ここで用いる溶媒については、前述の通りである。
【0093】
また、一般式MXで表される化合物と溶媒とを混合して加熱攪拌することにより得た第1の塗布液を塗布し、その後、一般式AXで表される化合物と溶媒とを混合して得た第2の塗布液を塗布することにより、一般式AMXで表されるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物を含有する活性層を形成してもよい。この場合、本発明に係る特定化合物は第1の塗布液に含有させてもよく、第2の塗布液に含有させてもよい。また、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体を含有する3種以上の塗布液を調製し、これらの塗布液のうちの少なくとも一つの塗布液に本発明に係る特定化合物を含有させておき、これらの塗布液を順次塗布して活性層を形成することもできる。
【0094】
塗布液の塗布方法としては任意の方法により行うことができる。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法及びカーテンコート法等が挙げられる。
【0095】
<電極>
図1において、電極は、活性層における光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。本発明の一実施形態に係る光電変換デバイス100は一対の電極を有し、一対の電極のうち一方を上部電極と呼び、他方を下部電極と呼ぶ。光電変換デバイス100が基材を有する又は基材上に設けられている場合、通常、基材により近い電極を下部電極と、基材からより遠い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶことができる。また、透明電極を下部電極と、下部電極よりも透明性が低い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶこともできる。図1に示す光電変換デバイス100は、下部電極101及び上部電極105を有している。
【0096】
一対の電極としては、正孔の捕集に適したアノードと、電子の捕集に適したカソードとを用いることができる。この場合、光電変換デバイス100は、下部電極101がアノードであり、上部電極105がカソードである順型構成を有していてもよいし、下部電極101がカソードであり、上部電極105がアノードである逆型構成を有していてもよい。
【0097】
一対の電極は、何れか一方が透光性であればよく、両方が透光性であってもよい。透光性であるとは、通常、可視光(波長350~700nm)の透過率が40%以上であることをいう。電極の可視光の透過率は、より多くの光が透明電極を透過して活性層に到達することから高いことが好ましく、70%以上であることが特に好ましい。可視光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U-4100)で測定することができる。
【0098】
下部電極101及び上部電極105、又はアノード及びカソードの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、公知の技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載された部材及びその製造方法を用いることができる。
【0099】
<バッファ層>
図1において、バッファ層は、活性層103と一対の電極101、105の少なくとも一方との間に位置する層である。バッファ層は、例えば、活性層103から下部電極101又は上部電極105へのキャリア移動効率を向上させるために用いることができ、正孔輸送層又は電子輸送層であることが好ましく、本発明の光電変換デバイスがバッファ層を有する場合、正孔輸送層を有することがより好ましい。
【0100】
(正孔輸送層)
正孔輸送層としてのバッファ層は、正孔輸送能を有すれば特段制限されないが、正孔輸送能を有する有機半導体化合物を含有することが好ましく、本発明の効果が得られる範囲で他の物質を含んでいてよい。N-i-P積層型光電変換素子の場合、正孔輸送層により輸送電荷量の制御が容易となる。以下、本項目において、バッファ層を正孔輸送層とも称する。
【0101】
(有機半導体化合物)
半導体化合物とは、半導体特性を示す半導体材料として使用可能な化合物のことを指す。なお、本明細書において「半導体」とは、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義される。キャリア移動度とは、周知であるように、電荷(電子又は正孔)がどれだけ速く(又は多く)移動されうるかを示す指標となるものである。具体的には、本明細書における「半導体」は、室温におけるキャリア移動度が好ましくは1.0×10-6cm/V・S以上であり、より好ましくは1.0×10-5cm/V・S以上であり、さらに好ましくは5.0×10-5cm/V・S以上であり、特に好ましくは1.0×10-4cm/V・S以上である。なお、キャリア移動度は、例えば電界効果トランジスタのIV特性の測定、又はタイムオブフライト法等により測定できる。
【0102】
本明細書においては半導体化合物として有機半導体化合物が用いられるが、その種類は特に限定されず、例えば従来知られているものを用いることができる。有機半導体化合物としては、低分子化合物及び高分子化合物が知られている。低分子の有機半導体化合物としては、多環芳香族化合物が挙げられ、具体例としてはテトラセン若しくはペンタセン等のアセン類化合物、オリゴチオフェン類化合物、フタロシアニン類化合物、ペリレン類化合物、ルブレン類化合物、又はトリアリールアミン化合物等のアリールアミン化合物、カルバゾール化合物等が挙げられる。また、高分子の有機半導体化合物としては、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリフェニレン系ポリマー、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ポリフルオレン系ポリマー、若しくはポリピロール系ポリマーのような共役ポリマー、又はトリアリールアミンポリマーのようなアリールアミンポリマーが挙げられる。
【0103】
有機半導体化合物として好ましくはアリールアミン系化合物であり、より好ましくはトリアリールアミン系化合物である。アリールアミン系化合物とは、アリールアミン構造(アリール基と窒素原子との結合)を有する化合物のことであり、アリールアミン系ポリマーを含む。アリールアミン系ポリマーとは、繰り返し単位がアリールアミン構造を含んでいるポリマーのことであり、ポリアリールアミン系化合物ともいう。また、トリアリールアミン系化合物とは、トリアリールアミン構造(3つのアリール基の同じ窒素原子への結合)を有する化合物のことであり、トリアリールアミン系ポリマーを含む。トリアリールアミンポリマーとは、繰り返し単位がトリアリールアミン構造を含んでいるポリマーのことであり、ポリトリアリールアミン系化合物ともいう。このようなアリールアミン系化合物又はトリアリールアミン系化合物は、ドーパントにより安定に酸化され、良好な半導体特性を示し得る点で好ましく、中でもトリアリールアミン系化合物がより好ましい。
【0104】
ここで、アリール基(又は芳香族基)は、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基のことを指し、単環のもの、縮合環のもの、及び単環又は縮合環が連結しているもの、を含む。芳香族基としては、特に限定されないが、炭素数30以下であることが好ましく、炭素数12以下であることがより好ましい。芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、又はビフェニル基等が挙げられる。芳香族複素環基の具体例としては、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基、又はイミダゾリル基等が挙げられる。
【0105】
該アリール基は、さらなる置換基を有していてもよい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、特に制限されないが、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。アリール基が有している置換基として好ましくは、アミノ基又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。ここで、アミノ基として好ましくは、炭素数2~12のジアルキルアミノ基、炭素数7~20のアルキルアリールアミノ基、又は炭素数12~30のジアリールアミノ基である。
【0106】
正孔輸送層は、複数の半導体化合物を含有しても構わない。半導体化合物としては、例えば、従来公知の半導体化合物を用いてもよく、前述の低分子化合物及び高分子化合物を用いてもよい。低分子の有機半導体化合物としては、多環芳香族化合物が挙げられ、具体例としてはテトラセン若しくはペンタセン等のアセン類化合物、オリゴチオフェン類化合物、フタロシアニン類化合物、ペリレン類化合物、ルブレン類化合物、トリアリールアミン化合物等のアリールアミン化合物、又はカルバゾール化合物等が挙げられる。また、高分子の有機半導体化合物としては、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリフェニレン系ポリマー、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ポリフルオレン系ポリマー、若しくはポリピロール系ポリマーのような共役ポリマー、又は前述のトリアリールアミンポリマー以外のアリールアミンポリマーが挙げられる。
【0107】
(ドーパント)
正孔輸送層としてのバッファ層は、上述の有機半導体化合物(ポリトリアリールアミン)に対するドーパントを含有するが、その態様は特段制限されない。ドーパントは、正孔輸送層の導電性や正孔輸送能力を前述の活性層に対して最適化するための物質である。
【0108】
ドーパントとして使用できる物質としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートなどのホウ素化合物、トリス[1-(メトキシカルボニル)-2-(トリフルオロメチル)-エタン-1,2-ジチオレン]モリブデンなどのモリブデン化合物、2,3,4,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンといったテトラシアノキノジメタン骨格を有する有機化合物などが挙げられる。ドーパントは、正孔輸送層の成膜前または成膜後で、少なくとも一つの有機半導体化合物との間で電荷移動反応を起こすことが好ましい。ドーパントとしては、溶解性に優れ、加熱等により酸化剤として機能する電子受容活性部位を産生する点で、超原子価ヨウ素化合物が好ましい。
【0109】
この超原子価ヨウ素化合物は、有機半導体化合物に対するドーパントとして働き、電子受容性(すなわち酸化剤としての働き)を示すことが知られている。また、電子受容性のドーパントは、半導体化合物から電子を奪うことにより、半導体化合物の導電性又は正孔輸送能力を向上させることができる。このように、超原子価ヨウ素化合物は、半導体化合物の電荷輸送特性を向上させることができる。
【0110】
超原子価ヨウ素化合物とは、超原子価ヨウ素を含む化合物であり、酸化数が+3以上となっているヨウ素を含む化合物と定義される。例えば、ドーパントは、ヨウ素(III)化合物又はヨウ素(V)化合物でありうる。5価のヨウ素を含むヨウ素(V)化合物は、例えば、デス・マーチン・ペルヨージナンのようなペルヨージナン化合物でありうる。また、3価のヨウ素を含むヨウ素(III)化合物としては、(ジアセトキシヨード)ベンゼンのようなヨードベンゼンが酸化された構造を有する化合物、又はジアリールヨードニウム塩が挙げられる。良好な電子受容性を示し、また酸化過程において分子が破壊されると逆反応が起こりにくい点で、ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物が好ましく、中でもジアリールヨードニウム塩を用いるのがより好ましい。
【0111】
ジアリールヨードニウム塩とは、[Ar-I-Ar]Y構造を有する塩のことである。ここで、2つのArはそれぞれアリール基を表す。アリール基(芳香族基)は特に限定されず、例えば有機半導体化合物に関して既に挙げたものでありうる。Yは、任意のアニオンを表す。Yとしては、例えば、ハロゲン化物イオン、トリフルオロ酢酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、又はテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン等でありうる。溶解性が高く、塗布液の生成反応が円滑に進行しうる点で、Yはフッ素原子を有するアニオンであることが好ましい。
【0112】
ドーパントの好ましい例としては、一般式(III)に表されるものが挙げられる。式(III)において、Yは、任意のアニオンを表し、具体例としては上述の通りである。
[R11-I-R12]Y (III)
【0113】
式(III)において、R11及びR12は、各々独立に1価の有機基である。1価の有機基の例としては、脂肪族基又は芳香族基が挙げられる。脂肪族基の例としては、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基又は炭素数4~20の脂肪族複素環基が挙げられる。例えば、脂肪族基としては、シクロアルキル基を含むアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基等が挙げられ、具体例としてはメチル基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、脂肪族複素環基としてはテトラヒドロフリル基等が挙げられる。
【0114】
芳香族基の例としては、炭素数6~20の芳香族炭化水素基又は炭素数2~20の芳香族複素環基が挙げられる。例えば、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。また、芳香族複素環基としては、チエニル基、ピリジル基等が挙げられる。
【0115】
なお、上述の脂肪族基及び芳香族基は、置換基を有していてもよい。有していてもよい置換基としては、特段の制限はないが、ハロゲニル基、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。
【0116】
11及びR12は、各々独立に好ましくは炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基である。ここで、芳香族炭化水素基は置換基を有さない又は炭素数1~6のアルキル基を有することが好ましい。R11及びR12は、特に、パラ位にアルキル基を有するフェニル基であることが好ましい。
【0117】
正孔輸送層中のドーパントの含有量は、特段制限されないが、化学的に正孔輸送層中の電荷輸送を補助し、一定以上の正孔移動度を付与する一方で、電荷輸送を担う有機半導体化合物における電荷輸送経路(パス)を担保する観点から、通常0.01質量%以上であり、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、また、通常30質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0118】
また、正孔輸送層において、有機半導体化合物に対するドーパントの含有比率(ドーパント/有機半導体化合物)は、特段制限されないが、化学的に正孔輸送層中の電荷輸送を補助し、一定以上の正孔移動度を付与する一方で、電荷輸送を担う有機半導体化合物における電荷輸送経路(パス)を担保する観点から、通常0.01質量%以上であり、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、また、通常30質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0119】
なお、光電変換素子が複数のバッファ層を有する場合、それらの中の正孔輸送層に相当する何れか1つの層が上述の含有量の範囲を満たしていればよい。
【0120】
(その他の物質)
正孔輸送層としてのバッファ層は、上述の有機半導体化合物及びドーパント以外の物質を含んでいてよく、例えば、光電変換(活性層)材料、接着性機能材料、フィラー、又は強度補助材等を含んでいてよい。
【0121】
(電子輸送層)
本発明に係る光電変換デバイスは、電子輸送層を有していてもよい。電子輸送層の材料としては、活性層からカソードへの電子の取り出し効率を向上させることが可能な任意の材料を用いることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又はペロブスカイト半導体化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化インジウム等の金属酸化物が挙げられる。有機化合物としては、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(BPHeN)、(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、フラーレン化合物、又はホスフィンオキシド化合物若しくはホスフィンスルフィド化合物等の周期表第16族元素と二重結合を有するホスフィン化合物が挙げられる。
【0122】
本発明に係る光電変換デバイスが電子輸送層を備える場合、その厚みは、上下の電極間に位置する活性層が高い電荷輸送能を有する場合に、上下の電極と活性層とを介した導通パスの形成による電流のリークが起こり難く、下部電極の凹凸の影響をカバーでき、かつ、活性層の塗れ性を制御しやすいことから、厚いことが好ましい。そこで、具体的には、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、一方で、電子輸送層による電荷輸送における抵抗が起こり難く、電子輸送層に含有される化合物の量の節約による低コスト化の点では、薄いことが好ましい。具体的には、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0123】
<基材>
本発明に係る光電変換デバイスは、基材を有していてもよい。図1において、光電変換デバイス100は支持体となる基材106を有しているが、本発明に係る光電変換デバイスは基材106を有さなくてもよい。基材を有する場合における基材106の材質は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の材質を使用することができる。
【0124】
[光電変換デバイスの製造方法]
本発明の光電変換デバイスの製造方法としては、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物と共に、前述の本発明に係る特定化合物を活性層に含有させることができる方法であれば特に制限されず、公知のペロブスカイト化合物を用いた光電変換デバイスの製造方法を適用することができる。例えば、前述のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体、特定化合物、及び溶媒を含有する塗布液を調製し、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法を用いることにより、活性層を形成することができる。同様の塗布方法により正孔輸送層や電子輸送層を形成することもできる。また、真空蒸着法等の乾式成膜法により、これらのバッファ層を形成することもできる。但し、活性層は、塗布法により形成することが好ましく、本発明の組成物に該当する、前述のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体、本発明に係る特定化合物を含有する液を塗布することにより形成することがより好ましい。すなわち、本発明の光電変換デバイスの製造方法としては、活性層を塗布法により形成する工程を有し、この塗布法において、前述のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と特定化合物を含有する液を塗布することがより好ましい。具体的には、上部電極、活性層及び下部電極をこの順で有する光電変換デバイスの製造方法としては、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物前駆体と、ルイス塩基性基及びブレンステッド酸性基を有する化合物とを含有する溶液を塗布する工程を有することが好ましい。
【0125】
図1において、光電変換デバイス100を構成する各層を積層することにより、光電変換デバイス100を製造することができる。例えば、シートツゥーシート(枚葉)方式、又はロールツゥーロール方式等の公知方法を適用することができる。
なお、ロールツゥーロール方式とは、ロール状に巻かれたフレキシブルな基材を繰り出して、間欠的或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間に加工を行う方式である。ロールツゥーロール方式によれば、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、ロールツゥーロール方式はシートツゥーシート方式に比べて量産化に適している。
【0126】
ロールツゥーロール方式に用いることのできるロールの大きさは、ロールツゥーロール方式の製造装置で扱える限り特に限定されないが、外径は、好ましくは5m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは1m以下である。一方、好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上、さらに好ましくは30cm以上である。ロール芯の外径は、好ましくは4m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは0.5m以下である。一方、好ましくは1cm以上、より好ましくは3cm以上、さらに好ましくは5cm以上、特に好ましくは10cm以上、最も好ましくは20cm以上である。
これらの径であることにより、ロールが取り扱いやすく、各工程で成膜される層が曲げ応力により破壊され難くなる。
【0127】
ロール幅は、好ましくは5cm以上、より好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上である。一方、好ましくは5m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは2m以下である。幅が大きいことにより、ロールが取り扱いやすく、光電変換デバイスの大きさの自由度が高くなる。
【0128】
光電変換デバイス100を製造する際、上部電極105を積層した後に、光電変換デバイス100を加熱してもよい(この加熱工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。
【0129】
アニーリング処理工程は、光電変換デバイス100の各層間の密着性、例えば、バッファ層102と下部電極101、バッファ層102と活性層103等の層間の密着性が高くなり、光電変換デバイスの熱安定性や耐久性等が向上し得る点では高温で行うことが好ましい。具体的には、50℃以上で行うことが好ましく、80℃以上で行うことがより好ましい。また、一方で、光電変換デバイス100に含まれる有機化合物が熱分解し難い点では低温で行うことが好ましい。具体的には、300℃以下で行うことが好ましく、280℃以下で行うことがより好ましく、250℃以下で行うことがさらに好ましい。アニーリング処理工程においては、上述の温度範囲内において異なる温度を用いた段階的な加熱を行ってもよい。
【0130】
上述の好適な温度範囲における加熱時間としては、熱分解を抑えながら密着性を向上させるために、1分以上が好ましく、3分以上がより好ましい。また、180分以下が好ましく、60分以下がより好ましい。
アニーリング処理工程は、光電変換デバイス性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることが好ましい。また、アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に光電変換デバイスを載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に光電変換デバイスを入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0131】
[光電変換特性]
本発明の光電変換デバイスは、低照度環境下における光電変換効率に特に優れる。
なお、本明細書において、低照度環境とは、通常10~5000ルクスの環境を意味し、100~300ルクスの環境が好適であり、200ルクスの環境がより好適である。例えば、色温度5000Kの白色LED光等の白色光源を用いて、光電変換効率を20%以上とすることが可能である。さらに、色温度5000Kの白色LED光が照射され、受光面の照度が200ルクスであるときの光電変換効率を25%以上とすることが可能である。
【0132】
光電変換デバイスの光電変換特性は、次のようにして求めることができる。光電変換デバイスに適当なスペクトルの光をある照射強度で照射して、電流-電圧特性を測定する。得られた電流-電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(JSc)、開放電圧(VOc)、フィルファクター(FF)、直列抵抗、シャント抵抗といった光電変換特性を求めることができる。
一例として、光電変換デバイスに色温度5000Kの白色LED光を適当な照射強度(照度)で照射することで、各照度における電流-電圧特性を測定することができる。
【0133】
ここで、短絡電流密度(JSc)とは電圧値=0(V)の際の電流密度であり、開放電圧(VOc)とは電流値=0(mA/cm)の際の電圧値である。フィルファクター(FF)とは内部抵抗を表すファクターである。
フィルファクター(FF)は、最大出力をPmaXとすると次式で表される。
FF=PmaX/(VOc×JSc)
また、光電変換効率(PCE)は、入射エネルギーをPiNとすると次式で与えられる。
PCE=(PmaX/PiN)×100=(VOc×JSc×FF/PiN)×100
なお、この光電変換効率(PCE)は、所定の照射光により測定される、光電変換デバイスの電流-電圧曲線の最適動作点における出力(最大出力)をこの照射光が有する総エネルギー量で除した値(%)である。
上述の総エネルギー量として、例えば、強度AM15Gの太陽光であれば100mW/cmであり、色温度5000Kの白色LED光が照射され、受光面の照度が200ルクスであれば100μW/cmである。なお、本明細書における色温度5000Kとは、JIS Z8725:2015の規格で定められたものである。
【0134】
[イオン化ポテンシャル]
イオン化ポテンシャルは、照射エネルギーが光電子をはじき出すのに必要な光の最低エネルギー(eV)である。本明細書におけるイオン化ポテンシャルは、評価対象となる活性層又は正孔輸送層の表面に光をあてた際に、生成する光電子の数を酸素が必要なオープンカウンターで計測して得られる値である。
【0135】
オープンカウンターでは、大気下で光電子を酸素分子に捕捉させることで、イオン化された酸素分子が計測される。すなわち、放出された光電子をイオン化された酸素分子として観測できる。
照射する光のエネルギーを上げていき、光電子の放出が始まる閾値が、イオン化ポテンシャル(eV)に相当する値となる。
【0136】
評価対象の表面に対して、あるエネルギーの光をあてた際に生成する光電子の数は、基本的には、光を当てた最表面近傍の特性にのみ依存し、評価対象の膜厚や、評価対象の膜の下に形成された層の有無や評価対象の膜の下に形成された層の種類には影響されない。
そのため、測定に供する活性層又は正孔輸送層の厚みは厳密に揃える必要はなく、活性層については、例えば400~600nmの厚みで成膜して、測定に供すればよい。正孔輸送層については、例えば5~100nmの厚みで成膜して、測定に供すればよい。
【0137】
評価対象の膜の下に形成された層の有無や評価対象の膜の下に形成された層の種類は、実質的に測定結果に影響しないが、薄膜ITO(酸化インジウムスズ)を備えた導電性ガラスに評価対象のみを成膜して測定することは、少しでもノイズを減らし、結果の信頼性を高めるために有効である。
この場合に使用する薄膜ITOを備えた導電性ガラスは市販品を使用することができる。薄膜ITOの抵抗値(表面抵抗率)は特に制限されず、例えば2Ω/Sq.~1000Ω/Sq.とすることができる。
【0138】
[バンドギャップ]
バンドギャップはバンド構造における電子に占有された最も高いエネルギーバンド(価電子帯)の頂上から、最も低い空のバンド(伝導帯)の底までの間のエネルギー準位(及びそのエネルギーの差)である。
本明細書における活性層のバンドギャップは、活性層を構成する半導体化合物のバンドギャップと同値であるとみなし、その半導体化合物の吸収端波長と吸光度とから算出した値である。
【0139】
[太陽電池]
本発明に係る光電変換デバイスは、低照度環境下における光電変換効率に優れるので、屋内用の太陽電池として好適である。図2は本発明の光電変換デバイスを備えた太陽電池の一例であって、薄膜太陽電池14は、前述の光電変換デバイス100を太陽電池素子6として備えている。すなわち、薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、光電変換デバイス100(不図示)を有する太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10と、をこの順に備える。薄膜太陽電池14の保護フィルム1が形成された側(図2中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するように構成されている。なお、薄膜太陽電池14は、これらの構成部材を全て有する必要はなく、必要な構成部材を任意に選択することができる。
【0140】
薄膜太陽電池14は単独で使用されてもよいし、複数の薄膜太陽電池14が連結されて使用されてもよく、更に他の構成部材と組み合わせた太陽電池モジュールの構成要素として用いられてもよい。例えば、図3に示すように、薄膜太陽電池14を基材12上に備える太陽電池モジュール13を製造し、この太陽電池モジュール13を使用場所に設置して用いることができる。
【0141】
上述の各構成部材の選定及びその製造方法は周知技術を適用すればよく、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の技術が挙げられる。
【0142】
本発明の光電変換デバイス及びこれを備えた太陽電池若しくは太陽電池モジュールの用途に制限はなく、例えば、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池又は玩具用太陽電池等の用途が挙げられる。
本発明の光電変換デバイス及びこれを備えた太陽電池若しくは太陽電池モジュールは、低照度環境下で優れた光電変換効率を示すことから、特にエネルギーハーベスティング用途に好適である。
【実施例
【0143】
以下、実施例により本発明の実施形態の一例を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0144】
[イオン化ポテンシャルの測定]
以下のように形成させた各層のイオン化ポテンシャルを測定した。
活性層のイオン化ポテンシャルは、薄膜ITOが形成されたガラス基板上に直接形成した、厚み650nmのペロブスカイト半導体化合物の活性層について、理研計器(株)の「AC-3」を用いて測定した。活性層の形成は、具体的には、薄膜ITO(酸化インジウムスズ、表面抵抗率:7~10Ω/Sq.)が形成されたガラス基板上に、後述する光電変換デバイスの製造方法における活性層の形成方法と同様にして、後述する活性層用塗布液1の150μLと活性層用塗布液2の120μLを順次塗布することにより行った。
正孔輸送層のイオン化ポテンシャルは、薄膜ITOが形成されたガラス基板上に直接形成した、厚み100nmの正孔輸送層について、オプテル社製光量子収量測定装置「PCR-101」を用いて測定した。正孔輸送層の形成は、具体的には、薄膜ITO(酸化インジウムスズ、表面抵抗率:7~10Ω/Sq.)が形成されたガラス基板上に、後述する光電変換デバイスの製造方法における正孔輸送層の形成方法と同様にして、後述する正孔輸送層塗布液の120μLを塗布することにより行った。
【0145】
[バンドギャップの算出]
活性層のバンドギャップについては、以下の手順で行った。
透明ガラス基板上に、後述する光電変換デバイスの製造方法における活性層の形成方法と同様に、後述する活性層用塗布液1の150μLと活性層用塗布液2の120μLを順次塗布して、厚み650nmのペロブスカイト半導体化合物の活性層をガラス基板上に直接形成した。
形成した活性層の透過スペクトルを、分光光度計(日立ハイテク製U-4100)を使用して測定した。横軸波長をeVに、縦軸透過率を√(aHν)に変換した(ここで、αは吸光係数を意味し、Hはプランク定数を意味し、νは振動数を意味する)。この吸収の立ち上がりを直線としてフィッティングし、ベースラインと交わるeV値をバンドギャップとして算出した。
ここで、フィッティング及びバンドギャップの算出は、文献(山下大輔、石崎温史:分析化学 66,333(2017))に記載の方法に準じて行った。
【0146】
[光電変換デバイスの光電変換効率の測定]
色温度5000Kの白色LED光を光電変換デバイスに照射した。この際、照度計を用いて光電変換デバイスの受光面が200ルクスの照度となるように照射強度を調整した。この環境下で、ソースメータを用いて電流-電圧曲線(I-V曲線)を測定し、その最大出力値を求めた。この値を上述の照射光が有する総エネルギー量で除して、光電変換デバイスの光電変換効率(%)を得た。ここで、上述の色温度は、JIS Z8725:2015 に準拠して測定されたものである。
具体的には、以下の手順で測定を行った。各例で得られた光電変換デバイスに、1mm角のメタルマスクを付け、ITO透明導電膜と上部電極との間における電流-電圧特性を、ソースメーター(ケイスレー社製、2400型)を用いて測定した。照射光源としては分光計器社製屋内光評価用LED光源BLD-100を用いて、色温度5000Kの白色LED光を光電変換デバイスに照射した。この際、照度計を用いて光電変換デバイスの受光面が200ルクスの照度となるように照射強度を調整した。この測定結果から、短絡電流密度JSc(mA/cm)、開放電圧VOc(V)、フィルファクターFF、及び光電変換効率PCE(%)を算出した。光電変換デバイスを製造した直後の測定結果に基づいて算出したこれらの値を表1に示す。
【0147】
[活性層中のペロブスカイト化合物の粒径の測定]
活性層の表面を日立ハイテク(株)製の走査型電子顕微鏡「S-4800」を用いて観察した。得られた走査型電子顕微鏡画像の粒境を設定し、任意の10個の粒子の円相当表面積径の算術平均を算出した。
【0148】
[実施例1]
<電子輸送層用塗布液の調製>
酸化スズ(IV)15質量%水分散液(Alfa AeSaR社製)に超純水を加えることにより、7.5質量%の酸化スズ水分散液である電子輸送層用塗布液を調製した。
【0149】
<活性層用塗布液の調製>
ヨウ化鉛(II)をバイアル瓶に量りとり、これをグローブボックス内に導入した。ヨウ化鉛(II)の濃度が1.3mol/Lとなるように溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを加え、その後、100℃で1時間加熱攪拌することにより、活性層用塗布液1を調製した。
【0150】
次に、別のバイアル瓶にホルムアミジン臭化水素酸塩(FABr)、メチルアミン臭化水素酸塩(MABr)、及びメチルアミン塩化水素酸塩(MACl)を7.25:1:15の質量比となるよう量りとり、グローブボックス内に導入した。これに溶媒としてイソプロピルアルコールを加えることにより、FABr、MABr及びMAClの合計濃度が0.49mol/Lである活性層用塗布液2を調製した。
【0151】
4-ヒドロキシピリジンを別のバイアル瓶に量りとり、4-ヒドロキシピリジン濃度が0.025mol/Lとなるように活性層用塗布液2を加えることにより、活性層用塗布液3を調製した。
【0152】
同様に4-tertブチルピリジンを別のバイアル瓶に量りとり、4-tertブチルピリジンの濃度が0.025mol/Lとなるように活性層用塗布液2を加え、活性層用塗布液4を調整した。
同様に4-キノリノールを別のバイアル瓶に量りとり、4-キノリノールの濃度が0.025mol/Lとなるように活性層用塗布液2を加え、活性層用塗布液5を調整した。
【0153】
<正孔輸送層用塗布液の調製>
(高分子化合物の合成)
以下の化合物1(349.4mg、1mmol)と以下の化合物2(783.7mg、0.98mmol)を用いて、反応条件として、特開2019-175970号公報に記載の方法を参考にして、以下の高分子化合物Aを570mg得た。得られた高分子化合物Aの重量平均分子量は37,500であり、PDI(重量平均分子量/数平均分子量)は1.4であった。
【0154】
【化7】
【0155】
(カルバゾール化合物の合成)
YaNg,J.W.et.al.,PHYS.CHem.CHem.PHYS.2015,17,24468.に記載の方法にて、以下の式(B)で示すカルバゾール化合物Bを合成した。
【0156】
【化8】
【0157】
(正孔輸送層用塗布液の調製)
40mgの高分子化合物Aと20mgのカルバゾール化合物Bを、電子受容性ドーパントである4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TPFB;TCI社製)を4.8mg含有するo-ジクロロベンゼン溶液165mLに溶解させた。次に、この溶液を150℃で1時間加熱攪拌することにより、正孔輸送層用塗布液を調製した。
【0158】
<光電変換デバイスの製造>
パターニングされた酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜を備えたガラス基板(ジオマテック社製)に対して、超純水を用いた超音波洗浄、窒素ブローによる乾燥、及びUV-オゾン処理を行った。
【0159】
この上に、上述の電子輸送層用塗布液を、室温(25℃)で上述のガラス基板上に2000rpmの速度で厚み35nmとなるようにスピンコートした後に、ホットプレート上150℃で10分間加熱することにより、電子輸送層を形成した。
【0160】
この電子輸送層が形成されたガラス基板をグローブボックス内に導入し、100℃に加熱した活性層用塗布液1(150μL)を電子輸送層上に滴下し、2000rpmの速度でスピンコートし、ホットプレート上100℃で10分間加熱アニールすることにより、ヨウ化鉛層を形成した。さらに、ヨウ化鉛層が形成されたガラス基板を室温(25℃)に戻した後、ヨウ化鉛層上に活性層塗布液3(120μL)を2000rpmの速度でスピンコートし、ホットプレート上150℃で20分間加熱し、その後室温(25℃)まで冷却することにより、ハロゲン化金属有機無機ペロブスカイト半導体化合物と4-ヒドロキシピリジンを含有する活性層(厚み650nm)を形成した。
この活性層について、上述の方法によりイオン化ポテンシャル及びバンドギャップを測定した。
【0161】
この活性層上に、正孔輸送層塗布液(120μL)を1000rpmの速度でスピンコートし、さらにホットプレート上90℃で5分間加熱し、その後室温(25℃)まで冷却することにより、正孔輸送層(厚み100nm)を形成した。
この正孔輸送層について、上述の方法によりイオン化ポテンシャルを測定した。
【0162】
この正孔輸送層上に、抵抗加熱型真空蒸着法により厚み10nmのMoOを蒸着し、次いで真空スパッタ法により厚み200nmのIZOを形成し、更に抵抗加熱型真空蒸着法により厚み50nmのアルミニウムを蒸着し、上部電極を形成した。
【0163】
以上のようにして、光電変換デバイスを製造した。
この光電変換デバイスにおける、活性層のイオン化ポテンシャルとバンドギャップ、正孔輸送材料のイオン化ポテンシャル、及び色温度5000Kの白色LED光を照射し、受光面の照度が200ルクスであるときの光電変換効率の測定結果を表1に示す。
【0164】
[比較例1]
実施例1において、活性層塗布液3を活性層塗布液2に変えた以外は実施例1と同様にして光電変換デバイスを製造し、各測定を行った。その結果を表1に示す。
【0165】
[比較例2]
実施例1において、活性層塗布液3を活性層塗布液4に変えた以外は実施例1と同様にして光電変換デバイスを製造し、各測定を行った。その結果を表1に示す。
【0166】
[実施例2]
活性層塗布液3を活性層塗布液5に変えた以外は実施例1と同様にして光電変換デバイスを製造し、各測定を行った。その結果を表1に示す。
【0167】
【表1】
【0168】
表1の結果より、本発明の組成物を用いて形成した活性層を有する光電変換デバイス(実施例1及び2)は、本発明に係る特定化合物を含まない組成物を用いて形成した活性層を有する光電変換デバイス(比較例1及び2)よりも、低照度白色LEDを光源とする変換効率におけるFF(フィルファクター)が大きく、光電変換効率が優れていることが裏付けられた。
【0169】
[実施例3]
透明ガラス基板上に、実施例1で調整した活性層用塗布液1(150μL)と活性層用塗布液3(120μL)を各々2000rpmの速度で順次スピンコートした後に、ホットプレート上150℃で20分間加熱し、その後室温(25℃)まで冷却することにより、有機無機ペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層(厚み650nm)をガラス基板上に直接形成した。
形成した活性層中のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の粒径を測定した。その結果を表2に示す。
【0170】
[比較例3]
実施例3において、活性層塗布液3を活性層塗布液2に変えた以外は実施例3と同様にして透明ガラス基板上に活性層を形成し、活性層中のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の粒径を測定した。その結果を表2に示す。
【0171】
[比較例4]
実施例3において、活性層塗布液3を活性層塗布液4に変えた以外は実施例3と同様にして透明ガラス基板上に活性層を形成し、活性層中のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の粒径を測定した。その結果を表2に示す。
【0172】
【表2】
【0173】
表2の結果より、本発明の組成物を用いて形成した活性層(実施例3)に含まれるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物は、本発明に係る特定化合物を含まない組成物を用いて形成した活性層(比較例3及び4)に含まれるハロゲン化金属ペロブスカイト化合物よりも、粒径が大きくなっていることが裏付けられた。そして、表1と表2の結果を考えあわせると、本発明の組成物を用いて形成した活性層を有する光電変換デバイスは、活性層中のハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の粒径が大きくなることにより、ハロゲン化金属ペロブスカイト化合物の粒界が少なくなり、活性層中における電荷の再結合を抑制しやすくなり、本発明に係る特定化合物を含まない組成物を用いて形成した活性層を有する光電変換デバイスよりも、低照度白色LEDを光源とする変換効率におけるFF(フィルファクター)が大きくなっていたと推定された。
【符号の説明】
【0174】
1 耐候性保護フィルム
2 紫外線カットフィルム
3,9 ガスバリアフィルム
4,8 ゲッター材フィルム
5,7 封止材
6 太陽電池素子(光電変換デバイス)
10 バックシート
12 基材
13 太陽電池モジュール
14 薄膜太陽電池
100 光電変換デバイス
101 下部電極
102 バッファ層
103 活性層
104 バッファ層
105 上部電極
106 基材
図1
図2
図3