(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20231121BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20231121BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20231121BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20231121BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20231121BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20231121BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20231121BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M50/414
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M10/0569
H01M50/446
H01M50/42
(21)【出願番号】P 2022143941
(22)【出願日】2022-09-09
(62)【分割の表示】P 2018516921の分割
【原出願日】2017-04-20
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2016094656
(32)【優先日】2016-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】秋池 純之介
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 智也
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/057324(WO,A1)
【文献】特表2010-539670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータ、および電解液を備える非水系二次電池であって、
前記正極、前記負極、および前記セパレータの少なくとも1つが多孔膜を有し、
前記多孔膜が、非導電性粒子と、ニトリル基を有し且つアルキレン構造単位を含む重合体とを含有し、
前記電解液が、非水系溶媒と、支持電解質とを含有し、そして、前記非水系溶媒がプロピオン酸化合物を65体積%以上100体積%以下含み、
前記重合体がニトリル基含有単量体単位を含み、前記重合体中の前記ニトリル基含有単量体単位の割合は、前記重合体中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、30質量%以上45質量%以下である、非水系二次電池。
【請求項2】
前記重合体の重量平均分子量が、50,000以上500,000以下である、請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項3】
前記重合体のヨウ素価が、0mg/100mg以上70mg/100mg以下である、請求項1または2に記載の非水系二次電池。
【請求項4】
前記プロピオン酸化合物がプロピオン酸エステルである、請求項1~3の何れかに記載の非水系二次電池。
【請求項5】
前記プロピオン酸エステルが、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、およびプロピオン酸イソプロピルからなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項4に記載の非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、「二次電池」と略記する場合がある。)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そして、二次電池は、一般に、正極、負極、および、正極と負極とを隔離して正極と負極との間の短絡を防ぐセパレータなどの電池部材を備えている。
【0003】
ここで、近年、二次電池においては、耐熱性や強度を向上させた電池部材として、非導電性粒子と結着材とを含む多孔膜を有する電池部材が使用されている。例えば、多孔膜を有する電極として、集電体上に電極合材層を設けてなる電極基材上に更に多孔膜を形成してなる電極が使用されている。また例えば、多孔膜を有するセパレータとして、セパレータ基材上に多孔膜を形成してなるセパレータや、多孔膜のみからなるセパレータが使用されている。
【0004】
そして、近年、二次電池の更なる高性能化を目的として、多孔膜の改良が盛んに行われている。例えば、特許文献1では、非導電性粒子を含み、そして、結着材として、ニトリル基、親水性基、および炭素数が4以上の直鎖アルキレン構造単位を同一の分子内に含んでなる重合体であって、ニトリル基の含有割合が1~25質量%であり、ヨウ素価が0mg/100mg以上30mg/100mg以下である重合体を含む多孔膜を用いることで、二次電池の高温サイクル特性を高める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の技術には、二次電池の高温サイクル特性を一層高めると共に、二次電池に優れた低温出力特性を発揮させるという点において、更なる改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した改善点を有利に解決する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、ニトリル基を有し且つアルキレン構造単位を含む重合体を含有する多孔膜と、プロピオン酸化合物が非水系溶媒中の所定の割合を占める電解液とを組み合わせて用いることで、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を向上させうることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池は、正極、負極、セパレータ、および電解液を備える非水系二次電池であって、前記正極、前記負極、および前記セパレータの少なくとも1つが多孔膜を有し、前記多孔膜が、非導電性粒子と、ニトリル基を有し且つアルキレン構造単位を含む重合体とを含有し、前記電解液が、非水系溶媒と、支持電解質とを含有し、そして、前記非水系溶媒がプロピオン酸化合物を50体積%以上100体積%以下含むことを特徴とする。このように、非導電性粒子、およびニトリル基を有し且つアルキレン構造単位を含む重合体を含有する多孔膜と、プロピオン酸化合物が非水系溶媒中の所定の割合を占める電解液とを備える二次電池は、高温サイクル特性および低温出力特性に優れる。
なお、本発明において、「プロピオン酸化合物」とは、プロピオン酸およびその誘導体を表す。
また、本発明において、「体積%」は、温度25℃における体積%を表す。
【0010】
ここで、本発明の非水系二次電池は、前記重合体におけるニトリル基の含有割合が、5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。多孔膜中の重合体が、ニトリル基を5質量%以上40質量%以下の割合で含めば、重合体が電解液へ溶出するのを抑制すると共に重合体の強度を高めて、多孔膜の電解液浸漬後の接着性を向上させることができる。したがって、二次電池のセルの膨れを抑制しつつ、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を一層向上させることができる。
なお、本発明において、重合体における「ニトリル基の含有割合」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0011】
そして、本発明の非水系二次電池は、前記重合体の重量平均分子量が、50,000以上500,000以下であることが好ましい。重合体の重量平均分子量が50,000以上500,000以下であれば、多孔膜中での非導電性粒子の偏在を抑制する共に、重合体の強度を高めて、多孔膜の電解液浸漬後の接着性を向上させることができる。したがって、二次電池のセルの膨れを抑制しつつ、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を一層向上させることができる。
なお、本発明において、重合体の「重量平均分子量」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0012】
また、本発明の非水系二次電池は、重合体のヨウ素価が、0mg/100mg以上70mg/100mg以下であることが好ましい。重合体のヨウ素価が0mg/100mg以上70mg/100mg以下であれば、二次電池のセルの膨れを抑制すると共に、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を一層向上させることができる。
なお、本発明において、重合体の「ヨウ素価」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0013】
ここで、本発明の非水系二次電池は、前記プロピオン酸化合物がプロピオン酸エステルであることが好ましい。非水系溶媒としてプロピオン酸エステルを含む電解液を用いれば、多孔膜の電解液浸漬後の接着性を高めることができる。また、二次電池のセルの膨れを抑制すると共に、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を一層向上させることができる。
【0014】
そして、本発明の非水系二次電池は、前記プロピオン酸エステルが、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、およびプロピオン酸イソプロピルからなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。非水系溶媒としてプロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、およびプロピオン酸イソプロピルの少なくとも何れかを含む電解液を用いれば、二次電池の低温出力特性をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温サイクル特性および低温出力特性に優れる非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
(非水系二次電池)
本発明の非水系二次電池は、正極、負極、セパレータ、および電解液を備える。ここで、本発明の非水系二次電池において、正極、負極、およびセパレータのうち、少なくとも1つの電池部材が多孔膜を有し、この多孔膜には、非導電性粒子と、ニトリル基を有し且つアルキレン構造単位を含む重合体とが含まれる。また、本発明の非水系二次電池において、電解液は、非水系溶媒と、支持電解質とを含有し、非水系溶媒中のプロピオン酸化合物の割合が50体積%以上100体積%以下である。
本発明の非水系二次電池は、上述した多孔膜を有する電池部材と、上述した電解液とを併用しているので、高温サイクル特性および低温出力特性に優れる。
【0018】
ここで、本発明の非水系二次電池が高温サイクル特性および低温出力特性に優れる理由は、明らかではないが、以下の通りであると推察されている。
即ち、電解液中に非水系溶媒として含まれるプロピオン酸化合物は、低温環境下における粘度が低い。そのため、プロピオン酸化合物を含む電解液を用いれば、低温環境下であっても、電解液中におけるリチウムイオン等の電荷担体の伝導性を十分に確保することができる。また、ニトリル基を有し且つアルキレン構造単位を含む重合体は、強度に優れると共に、プロピオン酸化合物を含む電解液とある程度の親和性を有しつつも、当該電解液に溶出し難い。そのため、ニトリル基を有し且つアルキレン構造単位を含む重合体を含有する多孔膜は、プロピオン酸化合物を含む電解液中で電池部材同士を強固に接着することができる。従って、上述した多孔膜を有する電池部材と上述した電解液とを併用すれば、電荷担体の伝導性を十分に確保すると共に電解液中で電池部材同士を強固に接着させて、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を向上させることができる。
【0019】
<多孔膜>
本発明の二次電池に用いられる多孔膜は、少なくとも、非導電性粒子と、ニトリル基を有し且つアルキレン構造単位を含む重合体とを含有し、任意に、その他の成分を含有する。
【0020】
[非導電性粒子]
非導電性粒子は、多孔膜の耐熱性や強度を高めうる粒子である。そして、非導電性粒子は、電気化学的に安定であるため、二次電池の使用環境下で多孔膜中に安定に存在する。
【0021】
―非導電性粒子の種類―
そして、非導電性粒子としては、例えば各種の無機微粒子や有機微粒子を使用することができる。
無機微粒子としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アルミニウムの水和物(ベーマイト(AlOOH)、ギブサイト(Al(OH)3)、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、BaTiO2、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物粒子;シリコーン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子等が用いられる。これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等されていてもよい。
有機微粒子としては、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子粒子や、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子粒子などが用いられる。また、有機微粒子としては、これらの変性体および誘導体を用いることもできる。
また、非導電性粒子としては、カーボンブラック、グラファイト、SnO2、ITO、金属粉末などの導電性金属および導電性を有する化合物や酸化物の微粉末の表面を、非導電性の物質で表面処理することによって電気絶縁性が付与された粒子を使用することもできる。
これらの非導電性粒子は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、アルミナ粒子、ベーマイト粒子、硫酸バリウム粒子が好ましく、アルミナ粒子がより好ましい。
【0022】
―非導電性粒子の体積平均粒子径―
ここで、非導電性粒子の体積平均粒子径は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることが更に好ましく、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることが更に好ましい。非導電性粒子の体積平均粒子径が上記範囲内であれば、後述する多孔膜用組成物の分散状態の制御が容易となり、薄く且つ均質な多孔膜を作製することができる。また、多孔膜の強度を確保すると共に、多孔膜中の粒子充填率が過度に高まるのを抑制することができる。そのため、リチウムイオン等の電荷担体の伝導性を十分に確保して、二次電池の低温出力特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「体積平均粒子径」とは、レーザー回折法で測定された粒子径分布(体積基準)において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(D50)を表す。
【0023】
―非導電性粒子のCV値―
また、非導電性粒子のCV値(Coefficient of Variation)は、0.5%以上であることが好ましく、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることが更に好ましい。非導電性粒子のCV値が上記範囲内であれば、非導電性粒子間に十分な空隙が確保される。そのため、リチウムイオン等の電荷担体の伝導性を十分に確保して、二次電池の低温出力特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「CV値」は、レーザー回折法で測定された粒子径分布(体積基準)を元に算出することができる。具体的には、レーザー回折法で測定された粒子径分布(体積基準)から上述した体積平均粒子径と粒子径標準偏差を求め、式:CV値=粒子径標準偏差/体積平均粒子径×100により算出することができる。
【0024】
[重合体]
本発明の多孔膜が含有する重合体は、一つの分子内に、ニトリル基を有し、且つ繰り返し単位としてアルキレン構造単位を含む。そして、重合体は、結着材として機能し、非導電性粒子などが多孔膜から脱落するのを防ぐと共に、電池部材同士を接着させる。
【0025】
―ニトリル基―
重合体におけるニトリル基の含有割合は、重合体全体を100質量%とした場合に、5質量%以上であることが好ましく、9質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、13質量%以上であることが特に好ましく、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。重合体におけるニトリル基の含有割合が上記下限値以上であれば、重合体の強度を高めて、多孔膜の電解液浸漬後の接着性を向上させることができる。したがって、二次電池のセルの膨れを抑制すると共に、二次電池の高温サイクル特性を更に向上させることができる。一方、重合体におけるニトリル基の含有割合が上記上限値以下であれば、重合体が電解液へ溶出するのを抑制して、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を更に向上させることができる。
【0026】
そして、重合体へのニトリル基の導入方法は、特に限定されない。例えば、重合体の調製時に、単量体としてニトリル基含有単量体を用いることが好ましい。単量体としてニトリル基含有単量体を用いることで、繰り返し単位として、ニトリル基含有単量体単位を含む重合体を調製することができる。
なお、本発明において、重合体が「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
【0027】
ニトリル基含有単量体単位を形成しうるニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。そして、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
そして、重合体中のニトリル基含有単量体単位の割合は、重合体中の全繰り返し単位(構造単位と単量体単位との合計)を100質量%とした場合に、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、30質量%以上であることが特に好ましく、65質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることが更に好ましい。重合体中のニトリル基含有単量体単位の割合が上記下限値以上であれば、重合体の強度を高めて、多孔膜の電解液浸漬後の接着性を向上させることができる。したがって、二次電池のセルの膨れを抑制すると共に、二次電池の高温サイクル特性を更に向上させることができる。一方、重合体中のニトリル基含有単量体単位の割合が上記上限値以下であれば、重合体が電解液へ溶出するのを抑制して、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を更に向上させることができる。
【0029】
―アルキレン構造単位―
アルキレン構造単位は、一般式:-CnH2n-[但し、nは2以上の整数]で表わされるアルキレン構造のみで構成される繰り返し単位である。
ここで、アルキレン構造単位は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を更に向上させる観点から、直鎖状であることが好ましい。即ち、アルキレン構造単位は、直鎖アルキレン構造単位であることが好ましい。また、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を更に向上させる観点から、アルキレン構造単位の炭素数は4以上である(即ち、上記一般式のnが4以上の整数である)ことが好ましい。
【0030】
そして、重合体へのアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1)または(2)の方法:
(1)共役ジエン単量体を含む単量体組成物から共役ジエン単量体単位を含む重合体を調製し、当該重合体に水素添加することで、共役ジエン単量体単位をアルキレン構造単位に変換する方法
(2)1-オレフィン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製する方法
が挙げられる。これらの中でも、(1)の方法が重合体の調製が容易であり好ましい。
【0031】
ここで、共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどが挙げられる。中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。すなわち、アルキレン構造単位は、共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(共役ジエン水素化物単位)であることが好ましく、1,3-ブタジエン単位を水素化して得られる構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)であることがより好ましい。
また、1-オレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセンなどが挙げられる。
これらの共役ジエン単量体や1-オレフィン単量体は、一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
そして、重合体中のアルキレン構造単位の割合は、重合体中の全繰り返し単位(構造単位と単量体単位との合計)を100質量%とした場合に、40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、85質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。重合体中のアルキレン構造単位の割合が上記下限値以上であれば、重合体が電解液へ溶出するのを抑制して、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を更に向上させることができる。一方、重合体中のニトリル基含有単量体単位の割合が上記上限値以下であれば、重合体の強度を高めて、多孔膜の電解液浸漬後の接着性を向上させることができる。したがって、二次電池のセルの膨れを抑制すると共に、二次電池の高温サイクル特性を更に向上させることができる。
【0033】
―その他の繰り返し単位―
重合体は、上述したニトリル基含有単量体単位およびアルキレン構造単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。ニトリル基含有単量体単位およびアルキレン構造単位以外の繰り返し単位としては、特に限定されることなく、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、親水性基含有単量体単位、および上述した水素添加により水素化されず残留した共役ジエン単量体単位などが挙げられる。これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成しうる(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。
【0035】
親水性基含有単量体単位を形成しうる親水性基含有単量体としては、親水性基を有する重合可能な単量体が挙げられる。具体的には、親水性基含有単量体としては、例えば、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、リン酸基を有する単量体、水酸基を有する単量体が挙げられる。
【0036】
そして、カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸、β-ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸エステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボン酸基を有する単量体としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
その他、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸ジシクロヘキシル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジブチルなどのα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸のモノエステルおよびジエステルも挙げられる。
【0037】
スルホン酸基を有する単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。
【0038】
リン酸基を有する単量体としては、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0039】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ-2-ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ-4-ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ-2-ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式:CH2=CR1-COO-(CqH2qO)p-H(式中、pは2~9の整数、qは2~4の整数、R1は水素またはメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-4-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-6-ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル-2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシ-3-クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲンおよびヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテルおよびそのハロゲン置換体;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
【0040】
そして、重合体中のニトリル基含有単量体単位およびアルキレン構造単位以外の繰り返し単位の割合は、特に限定されないが、重合体中の全繰り返し単位(構造単位と単量体単位との合計)を100質量%とした場合に、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、2質量%以下であることが特に好ましい。
【0041】
―重合体の調製方法―
重合体の調製方法は特に限定されないが、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を重合し、任意に、水素添加を行うことで重合体を調製することができる。
ここで、本発明において単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体における各繰り返し単位(単量体単位および構造単位)の含有割合に準じて定めることができる。
重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。各重合法において、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
水素添加の方法は、特に制限なく、触媒を用いる一般的な方法(例えば、国際公開第2012/165120号、国際公開第2013/080989号および特開2013-8485号公報参照)を使用することができる。
【0042】
―重合体の性状―
重合体の重量平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、55,000以上であることがより好ましく、60,000以上であることが更に好ましく、70,000以上であることが特に好ましく、500,000以下であることが好ましく、400,000以下であることがより好ましく、300,000以下であることが更に好ましい。重合体の重量平均分子量が上記下限値以上であれば、重合体の強度を高めて、多孔膜の電解液浸漬後の接着性を向上させることができる。したがって、二次電池のセルの膨れを抑制すると共に、二次電池の高温サイクル特性を更に向上させることができる。一方、重合体の重量平均分子量が上記上限値以下であれば、非導電性粒子が良好に分散した多孔膜が得られる。そして非導電性粒子が良好に分散した多孔膜を用いれば、二次電池の低温出力特性を更に向上させることができる。
【0043】
重合体のヨウ素価は、0mg/100mg以上であり、2mg/100mg以上であることが好ましく、5mg/100mg以上であることがより好ましく、70mg/100mg以下であることが好ましく、20mg/100mg以下であることがより好ましく、10mg/100mg以下であることが更に好ましい。重合体のヨウ素価が上記範囲内であれば、二次電池のセルの膨れを抑制すると共に、二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性を更に向上させることができる。
【0044】
―重合体の含有量―
多孔膜中の重合体の含有量は、非導電性粒子100質量部当たり、15質量部以上であることが好ましく、17質量部以上であることがより好ましく、30質量部以下であることが好ましく、26質量部以下であることがより好ましい。重合体の含有量が上記下限値以上であれば、多孔膜の電解液浸漬後の接着性を向上させることができる。したがって、二次電池のセルの膨れを抑制すると共に、二次電池の高温サイクル特性を更に向上させることができる。一方、重合体の含有量が上記上限値以下であれば、二次電池の低温出力特性を更に向上させることができる。
【0045】
[その他の成分]
多孔膜は、上述した成分以外にも、任意のその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分は、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。例えば、多孔膜には、上述した重合体以外の結着材が含まれていてもよい。また例えば、多孔膜には、多孔膜の形成に用いる多孔膜用組成物に添加される添加剤(分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、湿潤剤、pH調整剤など)が残留していてもよい。
【0046】
[多孔膜の形成方法]
多孔膜は、例えば、多孔膜用組成物を適切な基材の表面に塗布して塗膜を形成した後、形成した塗膜を乾燥することにより、形成することができる。
【0047】
―多孔膜用組成物―
多孔膜の形成に用いる多孔膜用組成物は、上述した非導電性粒子、上述した重合体、および任意に使用することができる上述したその他の成分を、分散媒中に分散または溶解させてなる組成物である。
ここで、多孔膜用組成物の分散媒としては、特に限定されないが、有機溶媒が好ましい。そして、有機溶媒の中でも、多孔膜用組成物の塗布性を確保すると共に乾燥の効率を高める観点から、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランがより好ましい。なお、分散媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、多孔膜用組成物中の非導電性粒子、重合体、およびその他の成分の配合比は、所望の多孔膜中のそれらの配合比に準じて設定することができる。
【0048】
そして、多孔膜用組成物は、非導電性粒子と、重合体と、任意に、その他の成分とを、分散媒中で混合して得ることができる。
ここで、上述した成分の混合方法および混合順序は特に制限されないが、各成分を効率よく分散させるべく、混合装置として分散機を用いて混合を行うことが好ましい。そして、分散機は、上記成分を均一に分散および混合できる装置であることが好ましい。分散機としては、メディアレス分散機、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどが挙げられる。
【0049】
―基材―
多孔膜用組成物を塗布する基材に制限は無く、例えばセパレータの一部を構成する部材として多孔膜を使用する場合には、基材としてはセパレータ基材を用いることができ、また、電極の一部を構成する部材として多孔膜を使用する場合には、基材としては集電体上に電極合材層を形成してなる電極基材を用いることができる。そして、これらの場合には、セパレータ基材または電極基材(通常、電極合材層側)の表面に多孔膜用組成物を塗布し、形成した塗膜を乾燥することにより、多孔膜を有する電池部材(セパレータまたは電極)を容易に製造することができる。
なお、多孔膜は、基材から剥離し、自立膜の状態でそのままセパレータとして使用することもできる。そして、この場合には、基材としては、離型基材を用いることができる。基材として離型基材を使用する場合には、離型基材の表面に多孔膜用組成物を塗布し、形成した塗膜を乾燥し、多孔膜から離型基材を剥がすことにより、セパレータとして使用し得る多孔膜が自立膜として得られる。
【0050】
セパレータ基材としては、特に限定されないが、有機セパレータ基材などの既知のセパレータ基材が挙げられる。ここで有機セパレータ基材は、有機材料からなる多孔性部材であり、有機セパレータ基材の例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微多孔膜または不織布などが挙げられ、強度に優れることからポリエチレン製の微多孔膜や不織布が好ましい。なお、セパレータ基材の厚みは、任意の厚みとすることができ、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましく40μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
【0051】
電極基材(正極基材および負極基材)としては、特に限定されないが、集電体上に電極合材層が形成された電極基材が挙げられる。
ここで、集電体、電極合材層中の電極活物質(正極活物質、負極活物質)および電極合材層用結着材(正極合材層用結着材、負極合材層用結着材)、並びに集電体上への電極合材層の形成方法は、既知のものを用いることができ、例えば特開2013-145763号公報に記載のものを挙げられる。
【0052】
離型基材としては、特に限定されず、既知の離型基材を用いることができる。
【0053】
―塗布―
ここで、多孔膜用組成物を基材上に塗布する方法は、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0054】
―乾燥―
そして、基材上の多孔膜用組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥条件は特に限定されないが、乾燥温度は好ましくは30~150℃で、乾燥時間は好ましくは2~30分である。
【0055】
[多孔膜の厚み]
なお、基材上に形成された多孔膜の厚みは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは1μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下である。多孔膜の厚みが上記下限値以上であることで、多孔膜の強度を十分に確保することができ、上記上限値以下であることで、電解液の拡散性を確保し二次電池の低温出力特性を更に向上させることができる。
【0056】
<正極、負極およびセパレータ>
そして、本発明の二次電池に用いる正極、負極およびセパレータは、少なくとも一つが上述した多孔膜を有している。具体的には、多孔膜を有する正極および負極としては、電極基材の上に多孔膜を設けてなる電極を用いることができる。また、多孔膜を有するセパレータとしては、セパレータ基材の上に多孔膜を設けてなるセパレータや、多孔膜よりなるセパレータを用いることができる。
また、本発明の二次電池に用いる多孔膜を有さない正極、負極およびセパレータとしては、特に限定されることなく、上述した電極基材よりなる電極および上述したセパレータ基材よりなるセパレータを用いることができる。
なお、正極、負極、およびセパレータは、本発明の効果を著しく損なわない限り、電極基材(正極基材および負極基材)、セパレータ基材、多孔膜以外の構成要素(例えば、接着層など)を備えていてもよい。
【0057】
<電解液>
本発明の電解液としては、非水系溶媒に支持電解質が溶解した非水系電解液が用いられる。
【0058】
―非水系溶媒―
ここで、電解液中には、非水系溶媒として、少なくともプロピオン酸化合物が含まれる。そして、プロピオン酸化合物としては、プロピオン酸エステルが好ましく、プロピオン酸アルキルエステルがより好ましい。そしてプロピオン酸アルキルエステルの中でも、二次電池の低温出力特性を更に向上させる観点から、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸n-ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸t-ブチルが更に好ましく、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、プロピオン酸イソプロピルが特に好ましい。なお、プロピオン酸化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
また、電解液中には、プロピオン酸化合物以外の非水系溶媒が含まれていてもよい。プロピオン酸化合物以外の非水系溶媒としては、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;が挙げられる。そしてこれらの中でも、カーボネート類が好ましく、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、メチルエチルカーボネートがより好ましい。なお、プロピオン酸化合物以外の非水系溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
そして、電解液中の非水系溶媒に占めるプロピオン酸化合物の割合(25℃)は、50体積%以上100体積%以下であることが必要であり、55体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましく、65体積%以上であることが更に好ましく、70体積%以上であることが特に好ましく、90体積%以下であることが好ましく、80体積%以下であることがより好ましい。非水系溶媒中のプロピオン酸化合物の割合が上記下限値未満であると、二次電池の低温出力特性が低下する。一方、非水系溶媒中のプロピオン酸化合物の割合が90体積%以下であれば、多孔膜の電解液浸漬後の接着性を高めて、二次電池の高温サイクル特性を更に向上させることができる。なお、電解液中の非水系溶媒に占めるプロピオン酸化合物の割合(25℃)は、例えば、ガスクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0061】
ここで、電解液中の非水系溶媒としては、例えば、プロピオン酸化合物、並びに、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、スルホラン、およびジメチルスルホキシドからなる群から選択される1種のみからなる非水系溶媒を用いることができる。
そして、多孔膜の電解液浸漬後の接着性を高めると共に、二次電池の低温出力特性および高温サイクル特性を更に向上させる観点から、電解液中の非水系溶媒は、プロピオン酸化合物およびカーボネート類のみからなることが好ましく、プロピオン酸化合物、並びに、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、およびビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種のみからなることがより好ましく、プロピオン酸化合物、並びに、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、およびメチルエチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種のみからなることが更に好ましい。
【0062】
―支持電解質―
支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。そしてこれらの中でも、プロピオン酸化合物を含む非水系溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiBF4が好ましい。なお、支持電解質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0063】
そして、電解液中の支持電解質の濃度(25℃)は、0.4mol/L以上であることが好ましく、0.5mol/L以上であることがより好ましく、2.0mol/L以下であることが好ましく、1.5mol/L以下であることがより好ましい。電解液中の支持電解質の濃度が上記下限値以上であれば、二次電池の低温出力特性を更に向上させることができる。一方、電解液中の支持電解質の濃度が上記上限値以下であれば、二次電池の高温サイクル特性を更に向上させることができる。
【0064】
なお、電解液には、非水系溶媒および支持電解質の何れにも該当しない既知の添加剤が含まれていてもよい。
【0065】
<非水系二次電池の製造方法>
非水系二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造し得る。なお、正極、負極、セパレータのうち、少なくとも一つの電池部材が多孔膜を有する。ここで、電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される繰り返し単位の前記重合体における割合は、特に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
実施例および比較例において、重合体中におけるニトリル基の含有割合、重合体の重量平均分子量およびヨウ素価、非導電性粒子の体積平均粒子径およびCV値、電解液浸漬後における多孔膜の接着性、並びに、二次電池の高温サイクル特性、低温出力特性および耐膨らみ性は、下記の方法で測定および評価した。
【0067】
<重合体中におけるニトリル基の含有割合>
凝固および乾燥後に得られた重合体を、約1mgを秤量して、パイロホイル(日本分析工業株式会社製、F590)に包み、590℃で7秒間加熱してガス化させ、これをガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC-14A)を用いて測定した。このとき、カラムはジーエルサイエンス社製、TC-1701(長さ:30m、内径:0.25mm、膜厚:1.0μm)を使用し、昇温速度10℃/分で、50℃~200℃の温度範囲で測定を行った。データ収集および解析はデータ処理装置(島津製作所製、クロマトパック「C-R4A」)にて行った。熱分解ガスクロマトグラフィーから、ニトリル基由来のピーク面積を求め、重合体中に含有されるニトリル基由来のピーク面積と他の単位(ニトリル基以外の構造全て)由来のピーク面積の合計値に対するニトリル基由来のピーク面積の割合を算出し、重合体中におけるニトリル基の含有割合(質量%)を算出した。
なお、重合体調製時の各単量体の仕込み部数の決定の際には、各単量体中に占めるニトリル基の分子量割合から、得られる重合体中におけるニトリル基の含有割合を推定することが可能である。そしてこの推定に基づいて、かかるニトリル基の含有割合が所望の値となるように、各単量体の仕込み部数を決定することができる。
<重合体の重量平均分子量>
(測定用試料調製)
約5mLの溶離液に、凝固および乾燥後に得られた重合体を、その固形分濃度が約0.5g/Lとなるように加えて、室温で緩やかに溶解させた。目視で溶解を確認後、フィルター(目開き:0.45μm)にて穏やかに濾過を行い、測定用試料を調製した。
(測定条件)
測定装置は、以下の通りとした。
・カラム:東ソー(株)社製、TSKgel α-M (7.8mmI.D.×30cm)2本
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:0.5mL/分
・試料濃度:約0.5g/L(固形分濃度)
・注入量:200μL
・カラム温度:40℃
・検出器:東ソー(株)社製、高速GPC装置HLC-8320 GPCに搭載のRI検出器
・検出器条件:RI:Pol(+),Res(1.0s)
・分子量マーカー:東ソー(株)社製、標準ポリスチレンキットPStQuick Kit-H
<重合体のヨウ素価>
凝固および乾燥後に得られた重合体のヨウ素価を、JIS K6235(2006)に準拠して測定した。
<非導電性粒子の体積平均粒子径およびCV値>
得られた非導電性粒子の分散液中における非導電性粒子の粒子径分布(体積基準)を、レーザー回折式粒子径分布測定装置(島津製作所社製「SALD-3100」)を用いて測定した。そして、測定された粒子径分布において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を、非導電性粒子の体積平均粒子径とした。
さらに、測定された粒子径分布における粒子径標準偏差を求めて、CV値(=粒子径標準偏差/体積平均粒子径×100)を算出した。
<電解液浸漬後における多孔膜の接着性>
得られたリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置し、100℃、1MPa、2分間の条件でプレスした。その後、リチウムイオン二次電池を解体し、多孔膜を介して接着している正極とセパレータの積層体を1cm×10cmの長片に切り出し、試験片とした。この試験片を、正極の表面を下にして、正極の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープとしてはJIS Z1522に規定されるものを用いた。また、セロハンテープは水平な試験台に固定しておいた。その後、セパレータの一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力(正極とセパレータの接着強度)を3回測定した。
上記正極とセパレータの接着強度の測定とは別に、得られたリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置し、100℃、1MPa、2分間の条件でプレスした。その後、リチウムイオン二次電池を解体し、多孔膜を介して接着している負極とセパレータの積層体を1cm×10cmの長片に切り出し、試験片とした。この試験片を、負極の表面を下にして、負極の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープとしてはJIS Z1522に規定されるものを用いた。また、セロハンテープは水平な試験台に固定しておいた。その後、セパレータの一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力(負極とセパレータの接着強度)を3回測定した。
上述のようにして得られた合計6回分の応力の平均値を、ピール強度とした。このピール強度が高いほど、電解液浸漬後において電極とセパレータが多孔膜を介して強固に接着していることを意味する。
A:ピール強度が5.0N/m以上
B:ピール強度が3.0N/m以上5.0N/m未満
C:ピール強度が1.0N/m以上3.0N/m未満
D:ピール強度が1.0N/m未満
<二次電池の高温サイクル特性>
得られたリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置した。その後、25℃の環境下で、0.1Cで4.35Vまで充電し、0.1Cで2.75Vまで放電する充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、60℃環境下で、前記と同様の条件で充放電を1000サイクル繰り返し、1000サイクル後の容量C1を測定した。
容量維持率ΔCを、ΔC=C1/C0×100(%)に従って計算した。この容量維持率ΔCの値が高いほど、二次電池の高温サイクル特性が高く、二次電池が長寿命であることを示す。
A:ΔCが84%以上
B:ΔCが80%以上84%未満
C:ΔCが80%未満
<二次電池の低温出力特性>
得られたリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置した。その後、25℃の環境下で、0.1Cの充電レートで5時間の充電の操作を行い、その時の電圧V0を測定した。その後、-10℃環境下で、1Cの放電レートにて放電の操作を行い、放電開始15秒後の電圧V1を測定した。電圧変化ΔVを、ΔV=V0-V1に従って計算した。この電圧変化ΔVの値が小さいほど、二次電池が低温出力特性に優れることを示す。
A:ΔVが350mV未満
B:ΔVが350mV以上500mV未満
C:ΔVが500mV以上
<二次電池の耐膨らみ性>
得られたリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置した。その後、25℃の環境下で、0.1Cで4.35Vまで充電し、0.1Cで2.75Vまで放電する充放電の操作を行い、比重計を用いてセル体積E0を測定した。さらに、60℃環境下で、前記と同様の条件で充放電を1000サイクル繰り返し、1000サイクル後のセル体積E1を、比重計を用いて測定した。
セル膨れ率ΔEを、ΔE=E1/E0×100(%)に従って計算した。このセル膨れ率ΔEの値が低いほど、二次電池のセル膨れが小さく、二次電池の形状が安定であることを示す。
A:ΔEが15%未満
B:ΔEが15%以上20%未満
C:ΔEが20%以上25%未満
D:ΔEが25%以上
【0068】
(実施例1)
<重合体の調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、乳化剤としてのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル36.2部、連鎖移動剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.45部をこの順で入れ、内部を窒素置換した。その後、アルキレン構造単位を重合体中に導入するための共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン63.8部を圧入し、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.25部を添加して、反応温度40℃で重合反応させた。そして、アクリロニトリルと1,3-ブタジエンとの共重合体を得た。なお、重合転化率は85%であった。この水素化前の共重合体における1,3-ブタジエンの1,2-付加結合量を、NMR測定により求めた。
得られた共重合体に対してイオン交換水を添加し、全固形分濃度を12質量%に調整した溶液を得た。得られた溶液400mL(全固形分48g)を、容積1Lの撹拌機付きオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して溶液中の溶存酸素を除去した後、水素添加反応用触媒としての酢酸パラジウム75mgを、パラジウム(Pd)に対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応(第一段階の水素化反応)を行った。
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に、水素添加反応用触媒としての酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水60mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応(第二段階の水素化反応)を行った。
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて固形分濃度が40%となるまで濃縮して、重合体の水分散液を得た。
得られた重合体の水分散液をメタノール中に滴下して凝固させた後、凝固物を温度60℃で12時間真空乾燥し、ニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)およびアルキレン構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)を含む重合体を得た。
得られた重合体について、ニトリル基の含有割合、重量平均分子量およびヨウ素価を測定した。また、重合体のヨウ素価および水素化前の共重合体における1,3-ブタジエンの1,2-付加結合量から、重合体中のアルキレン構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)および共役ジエン単量体単位(1,3-ブタジエン単位)の割合を算出した。結果を表1に示す。
<多孔膜用組成物の調製>
上述のようにして得られた重合体とアセトンを混合し、バインダー組成物を得た。
また、非導電性粒子の分散前混合液を以下のようにして準備した。非導電性粒子として、バイヤー法で製造されたαアルミナ粒子(日本軽金属社製、「LS-256」、一次粒子径:0.85μm、一次粒子径分布:10%)100部と、分散剤としてシアノエチル化プルラン(シアノエチル化置換率80%)0.5質量部と、アセトンとを混合し、非導電性粒子の分散前混合液を得た。なお、アセトンの量は固形分濃度が25%になるように調整した。
上述のようにして得られた非導電性粒子の分散前混合液を、メディアレス分散装置(IKA社製、インライン型粉砕機MKO)を用いて周速10m/秒、流量200L/時の条件で1パス分散させた。その後、分級機(アコー社製、スラリースクリーナー)を用いて分級を行い、非導電性粒子の分散液を得た。得られた非導電性粒子の分散液中における非導電性粒子の体積平均粒子径は0.9μm、CV値は13%であった。
上記バインダー組成物と、上記非導電性粒子の分散液とを、非導電性粒子100部当たりの重合体の量が20部となるように、撹拌容器内で混合した。得られた混合液をさらにアセトンで希釈し、固形分濃度20%の多孔膜用組成物を得た。
<多孔膜を有するセパレータの作製>
上述のようにして得られた多孔膜用組成物を、ポリプロピレン製の有機セパレータ基材(セルガード社製、「セルガード2500」、厚み:25μm)上に塗布し、50℃で3分間乾燥させた。この操作をセパレータ両面に施し、厚みが3μmの多孔膜を、両面に備えるセパレータを得た。
<負極の作製>
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3-ブタジエン33部、イタコン酸3.5部、スチレン63.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、負極合材層用結着材(SBR)を含む混合物を得た。上記負極合材層用結着材を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った後、30℃以下まで冷却し、負極合材層用結着材を含む水分散液を得た。
人造黒鉛(平均粒子径:15.6μm)100部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製、「MAC350HC」)の2%水溶液を固形分相当で1部、およびイオン交換水を混合して固形分濃度68%に調整した後、さらに25℃60分間混合した。次いでイオン交換水で固形分濃度62%に調整した後、25℃15分間混合した。得られた混合液に、上記の負極合材層用結着材を固形分相当量で1.5部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度が52%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い負極用スラリー組成物を得た。
得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚み20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理してプレス前の負極原反を得た。このプレス前の負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmのプレス後の負極を得た(片面負極)。
<正極の作製>
正極活物質として体積平均粒子径12μmのLiCoO2を100部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製「HS-100」)を2部、正極合材層用結着材としてポリフッ化ビニリデン(クレハ社製、「#7208」)を固形分相当で2部と、N-メチルピロリドンとを混合し全固形分濃度が70%となる量とした。さらにこれらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
得られた正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚み20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、プレス前の正極原反を得た。このプレス前の正極原反をロールプレスで圧延して、正極合材層の厚みが80μmのプレス後正極を得た(片面正極)。
<リチウムイオン二次電池の製造>
得られたプレス後の正極を49cm×5cmの長方形に切り出して、正極合材層が上側になるように置き、その正極合材層上に120cm×5.5cmに切り出した多孔膜を有するセパレータを、正極がセパレータの長手方向左側に位置するように配置した。さらに、得られたプレス後の負極を50cm×5.2cmの長方形に切り出し、セパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うように、かつ、負極がセパレータの長手方向右側に位置するように配置した。そして、得られた積層体を捲回機により捲回し、捲回体を得た。この捲回体を120℃、0.35MPa、8秒間の条件でプレスし、扁平体とした。この扁平体を、電池の外装としてのアルミ包材外装で包み、電解液(非水系溶媒:プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸n-プロピル(PP)、エチレンカーボネート(EC)、およびプロピレンカーボネート(PC)を、EP:PP:EC:PC=35/35/15/15の体積比(25℃)で混合してなる混合溶媒、支持電解質:濃度1.0mol/LのLiPF6)を空気が残らないように注入した。次いで、アルミ包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミ包材外装を閉口した。閉口後、アルミ包材外装に包まれた扁平体を100℃、1.0MPa、2分間でプレスし、800mAhの捲回型リチウムイオン二次電池を製造した。
得られたリチウムイオン二次電池を用いて、電解液浸漬後における多孔膜の接着性、並びに、二次電池の高温サイクル特性、低温出力特性および耐膨らみ性を評価した。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例2,3,7)
リチウムイオン二次電池の製造時に、電解液中の非水系溶媒の組成を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、重合体、多孔膜用組成物、多孔膜を有するセパレータ、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例4)
重合体の調製時に、アクリロニトリルの量を16.8部、1,3-ブタジエンの量を80.5部にそれぞれ変更し、且つアクリロニトリルと同時に親水性基含有単量体としてのメタクリル酸2.7部を撹拌機付きのオートクレーブに投入した以外は、実施例1と同様にして、重合体、多孔膜用組成物、多孔膜を有するセパレータ、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例5)
重合体の調製時に、アクリロニトリルの量を16.8部、1,3-ブタジエンの量を71.5部にそれぞれ変更し、且つアクリロニトリルと同時に親水性基含有単量体としてのメタクリル酸2.7部および(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート9.0部を撹拌機付きのオートクレーブに投入した以外は、実施例1と同様にして、重合体、多孔膜用組成物、多孔膜を有するセパレータ、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例6)
重合体の調製時に、アクリロニトリルの量を50.0部、1,3-ブタジエンの量を50.0部にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、重合体、多孔膜用組成物、多孔膜を有するセパレータ、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例8,9)
重合体の調製時に、連鎖移動剤としてのt-ドデシルメルカプタンの量をそれぞれ0.65部、0.1部に変更した以外は、実施例1と同様にして、重合体、多孔膜用組成物、多孔膜を有するセパレータ、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例10)
実施例1と同様にして、重合体、多孔膜用組成物、多孔膜を有するセパレータ、正極を製造した。また、以下のようにして多孔膜を有する負極、およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
<多孔膜を有する負極の作製>
実施例1と同様にしてプレス前の負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmの負極基材を得た。また、多孔膜を有するセパレータの作製に使用した多孔膜用組成物と同様にして、別途多孔膜用組成物を調製した。得られた多孔膜用組成物を、上述の負極基材の負極合材層上に塗布し、50℃で3分間乾燥させた。これにより、厚みが3μmの多孔膜を負極合材層上に備える負極を得た。
<リチウムイオン二次電池の製造>
得られたプレス後の正極を49cm×5cmの長方形に切り出して正極合材層が上側になるように置き、その正極合材層上に120cm×5.5cmに切り出した多孔膜を有するセパレータを、正極がセパレータの長手方向左側に位置するように配置した。さらに、上述のようにして得られた多孔膜を有する負極を50cm×5.2cmの長方形に切り出し、セパレータ上に、負極の多孔膜側の表面がセパレータに向かい合うように、かつ、負極がセパレータの長手方向右側に位置するように配置した。そして、得られた積層体を捲回機により捲回し、捲回体を得た。
上述のようにして得られた捲回体を使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造した。
【0075】
(比較例1)
リチウムイオン二次電池の製造時に、電解液中の非水系溶媒の組成を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、重合体、多孔膜用組成物、多孔膜を有するセパレータ、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(比較例2)
以下のようにして調製した重合体を使用した以外は、実施例1と同様にして、多孔膜用組成物、多孔膜を有するセパレータ、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
<重合体の調製>
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部および重合開始剤として過硫酸カリウム0.3部をそれぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。一方、別の容器でイオン交換水50部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリム0.5部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル15.0部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート40.0部およびエチルアクリレート40.0部、架橋性単量体としてのグリシジルメタクリレート2.0部、親水性基含有単量体としてのメタクリル酸3.0部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。単量体混合物の添加中は、60℃で反応を行った。単量体混合物の添加終了後、さらに70℃で3時間攪拌して反応を終了した。重合転化率は99.5%以上であった。得られた重合反応液を25℃に冷却し、アンモニア水を添加してpHを7に調整し、その後スチームを導入して未反応の単量体を除去して、重合体の水分散液を得た。
次いで、重合体の水分散液をメタノール中に滴下して凝固させた後、凝固物を温度60℃で12時間真空乾燥し、重合体を得た。
得られた重合体について、重量平均分子量およびヨウ素価を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
(比較例3)
リチウムイオン二次電池の製造時に、電解液の非水系溶媒の組成を表1のように変更した以外は、比較例2と同様にして、重合体、多孔膜用組成物、多孔膜を有するセパレータ、正極、負極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1より、非導電性粒子と、ニトリル基を有し且つアルキレン構造単位を含む重合体とを含有する多孔膜を有する電池部材を使用すると共に、非水系溶媒中に占めるプロピオン酸化合物の割合が50体積%以上100体積%以下である電解液を使用する実施例1~10では、多孔膜が電解液浸漬後の接着性に優れ、そして、二次電池が高温サイクル特性、低温出力特性、および耐膨らみ性に優れていることが分かる。また、表1より、非水系溶媒中に占めるプロピオン酸化合物の割合が50体積%未満である電解液を使用する比較例1では、多孔膜の電解液浸漬後の接着性が低下し、そして、二次電池の高温サイクル特性および耐膨らみ性が低下することがわかる。更に、表1より、アルキレン構造単位を含まない重合体を含有する多孔膜を有する電池部材(セパレータ)を使用する比較例2では、二次電池の高温サイクル特性、低温出力特性、および耐膨らみ性が低下することがわかる。加えて、表1より、アルキレン構造単位を含まない重合体を含有する多孔膜を有する電池部材(セパレータ)を使用すると共に、非水系溶媒中に占めるプロピオン酸化合物の割合が50体積%未満である電解液を使用する比較例3では、多孔膜の電解液浸漬後の接着性が低下し、そして、二次電池の高温サイクル特性、低温出力特性、および耐膨らみ性が低下することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、高温サイクル特性および低温出力特性に優れる非水系二次電池を提供することができる。