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特許7388508イリジウム錯体化合物、該化合物および溶剤を含有する組成物、該化合物を含有する有機電界発光素子、表示装置および照明装置
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  • 特許-イリジウム錯体化合物、該化合物および溶剤を含有する組成物、該化合物を含有する有機電界発光素子、表示装置および照明装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】イリジウム錯体化合物、該化合物および溶剤を含有する組成物、該化合物を含有する有機電界発光素子、表示装置および照明装置
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20231121BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20231121BHJP
   H10K 59/00 20230101ALI20231121BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231121BHJP
【FI】
C07F15/00 E CSP
C09K11/06 660
H10K59/00
H05B33/14 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022149105
(22)【出願日】2022-09-20
(62)【分割の表示】P 2019557303の分割
【原出願日】2018-11-29
(65)【公開番号】P2022184975
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2017229167
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017229168
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】長山 和弘
(72)【発明者】
【氏名】家村 王己
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0181529(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0065232(KR,A)
【文献】国際公開第2016/194784(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09K
H10K
H05B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(10)で表されるイリジウム錯体化合物。
【化1】
[式(10)において、Irはイリジウム原子を表す。
は1又は2の整数、nは1又は2の整数を表し、m+n=3である。
a1は、それぞれ独立にアルキル基又はアラルキル基を表す。
b1 は、置換又は非置換の、芳香族基又は複素芳香族基である。
c1およびR21~R24は、それぞれ独立して、水素原子、F、-CN、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数5以上60以下の芳香族基又は炭素数5以上60以下の複素芳香族基である。
【請求項2】
上記式(10)のmが2である、請求項1に記載のイリジウム錯体化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のイリジウム錯体化合物および溶剤を含有する組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のイリジウム錯体化合物を含む有機電界発光素子。
【請求項5】
請求項に記載の有機電界発光素子を有する表示装置。
【請求項6】
請求項に記載の有機電界発光素子を有する照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」と称す場合がある。)の発光層の材料として有用なイリジウム錯体化合物に関する。本発明はまた、該化合物および溶剤を含有する組成物、該化合物を含有する有機電界発光素子、該有機電界発光素子を有する表示装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL照明や有機ELディスプレイなど、有機EL素子を利用する各種電子デバイスが実用化されている。有機EL素子は、印加電圧が低いため消費電力が小さく、三原色発光も可能であるため、大型のディスプレイモニターだけではなく、携帯電話やスマートフォンに代表される中小型ディスプレイにも実用化されている。
【0003】
有機電界発光素子は発光層や電荷注入層、電荷輸送層など複数の層を積層することにより製造される。
【0004】
有機電界発光素子の多くは、有機材料を真空下で蒸着することにより製造されている。真空蒸着法では、蒸着プロセスが煩雑となり、生産性に劣る。真空蒸着法で製造された有機電界発光素子では照明やディスプレイのパネルの大型化が極めて難しい。
【0005】
近年、大型のディスプレイや照明に用いることのできる有機電界発光素子を効率よく製造するプロセスとして、湿式成膜法(塗布法)が研究されている。湿式成膜法は、真空蒸着法に比べて安定した層を容易に形成できる利点があるため、ディスプレイや照明装置の量産化や大型デバイスへの適用が期待されている。
【0006】
有機EL素子を湿式成膜法で製造するには、使用される材料はすべて有機溶剤に溶解してインクとして使用できるものである必要がある。使用材料が溶剤溶解性に劣る場合、長時間加熱するなどの操作を要するため、使用前に材料が劣化してしまう可能性がある。溶液状態で長時間均一状態を保持することができないと、溶液から材料の析出が起こり、インクジェット装置などによる成膜が不可能となる。湿式成膜法に使用される材料には、有機溶剤に速やかに溶解することと、溶解した後析出せず均一状態を保持する、という2つの意味での溶解性が求められる。
【0007】
近年、このインクの濃度を高くする要求が高まってきている。高濃度のインクを用いて膜厚のより厚い発光層を形成することにより、素子の駆動寿命を延ばしたり、素子の光学的設計を最適化し、いわゆるマイクロキャビティ効果を効果的に発現させて色純度を高める、などの改良が加えられてきている。有機EL素子の湿式成膜用材料には、従来より高い溶剤溶解性を有することが要求されている。
【0008】
有機電界発光素子における緑色発光材料としては、Ir(ppy)のようなフェニル-ピリジン配位子を有するイリジウム錯体化合物が汎用されている。このもの自体の溶剤溶解性は非常に乏しいため、溶剤溶解性を付与する置換基を導入して溶剤溶解性を改善している(特許文献1~3および非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2004/026886号
【文献】特開2014-074000号公報
【文献】国際公開第2016/194784号
【非特許文献】
【0010】
【文献】K.-H.Lee et al,Journal of Nanos cience and Nanotechnology,9,7099-7103( 2009)
【0011】
特許文献1~3および非特許文献1には、Ir(ppy)のようなフェニル-ピリジン配位子を有するイリジウム錯体化合物の溶剤溶解性を改善する目的で、溶解性付与基としてm-フェニレン基のような屈曲した芳香族基やアルキル基を導入する方法が開示されている。また、フェニル-ピリジン配位子のオルト位にフェニル基を導入する方法が開示されている。しかし、このような溶解性付与基を導入すると、芳香族基による共役系の延長効果やアルキル基の電子供与性効果のために、発光波長はIr(ppy)本来の発光波長よりも長波長シフトしてしまう。このため、これらを有機ELディスプレイとして用いた場合、緑色の色純度の悪化を引き起こす懸念がある。
【0012】
発光波長を短波長化する方法として、例えば、フェニル-ピリジン型配位子のフェニル基側に、フッ素やトリフルオロメチル基あるいはシアノ基といった電子求引性置換基を導入する方法がある。逆にピリジン側に、アルキル基やアミノ基などの電子供与性置換基を導入する方法がある。しかし、これらの方法では、当該イリジウム錯体化合物の電気化学的性質、すなわちHOMOやLUMOの値が大きく変化するため、既存の有機電界発光素子には適合しにくい。
これらの置換基がその置換位置に導入された場合、有機電界発光素子の駆動中に配位子が分解し、駆動寿命の大幅な悪化が起こる可能性もある。
【0013】
このようなことから、配位子の基本的な骨格の設計のみで、溶剤溶解性を損なうことなく、かつ緑色の色純度の向上、すなわち、発光波長を短波長化する新しい分子設計の開発が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高い溶剤溶解性と色純度の向上とを両立させるイリジウム錯体化合物を提供することを課題とする。特に、高い溶剤溶解性とより短波長の発光極大波長を示す緑色イリジウム錯体化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、特定の化学構造を有するイリジウム錯体化合物が、緑色発光材料として従来材料に比べ高い溶剤溶解性とより短波長の発光極大波長を示すことを見出した。
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0016】
[1] 下記式(1)で表されるイリジウム錯体化合物。
【0017】
【化1】
【0018】
[式(1)において、Irはイリジウム原子を表す。
Lは二座配位子を表し、複数ある場合は同一であっても異なっていてもよい。
環Cyは炭素原子CおよびCを含む芳香環又は複素芳香環を表す。
環Cyは炭素原子Cおよび窒素原子Nを含む複素芳香環を表す。
およびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
aおよびbは、それぞれ環Cy又は環Cyに置換しうる最大数の整数を表す。
mは1~3の整数、nは0~2の整数を表し、m+n=3である。
および/又はRが複数個ある場合は、同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのRは、下記式(2)で表されるものである。]
【0019】
【化2】
【0020】
[式(2)において、*は環Cyとの結合位置を表す。
~R11は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
X1およびRX2は、それぞれ独立にアルキル基又はアラルキル基を表す。]
【0021】
[2] 前記式(1)の環Cyおよび(R)aが、下記式(3)で表されるものである、[1]に記載のイリジウム錯体化合物。
【0022】
【化3】
【0023】
[式(3)において、*は結合位置を表す。
、R~R11、RX1およびRX2は、式(1)および式(2)で定義したものとそれぞれ同様である。]
【0024】
[3] 配位子Lが下記式(4)で表されるものである、[1]又は[2]に記載のイリジウム錯体化合物。
【0025】
【化4】
【0026】
[式(4)において、*は結合位置を表す。
環Cyは、炭素原子CおよびCを含む芳香環又は複素芳香環を表し、Cでイリジウム原子と結合する。
環Cyは、炭素原子Cおよび窒素原子Nを含む複素芳香環を表し、Nでイリジウム原子と結合する。
およびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
cおよびdは、それぞれ環Cy又は環Cyに置換しうる最大数の整数である。]
【0027】
[4] 配位子Lが下記式(5)で表されるものである、[3]に記載のイリジウム錯体化合物。
【0028】
【化5】
【0029】
[式(5)において、*は結合位置を表す。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。]
【0030】
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のイリジウム錯体化合物および溶剤を含有する組成物。
【0031】
[6] [1]~[4]のいずれかに記載のイリジウム錯体化合物を含む有機電界発光素子。
【0032】
[7] [6]に記載の有機電界発光素子を有する表示装置。
【0033】
[8] [6]に記載の有機電界発光素子を有する照明装置。
【発明の効果】
【0034】
本発明のイリジウム錯体化合物は高い溶剤溶解性を有するため、湿式成膜法による有機電界発光素子の作製に好適に用いられる。
本発明のイリジウム錯体化合物は、短波長の発光極大波長を示す緑色イリジウム錯体化合物である。
本発明のイリジウム錯体化合物を用いた素子は、特に緑色発光素子においてその色純度が高いために、有機EL表示装置として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である 。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0037】
本明細書において、「芳香環」は「芳香族炭化水素環」をさし、環構成原子としてヘテロ原子を含む「複素芳香環」(ヘテロ芳香環)とは区別される。同様に、「芳香族基」は「芳香族炭化水素環基」をさす。「複素芳香族基」(ヘテロ芳香族基)は「複素芳香族環基」をさす。
【0038】
[イリジウム錯体化合物]
本発明のイリジウム錯体化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【0039】
【化6】
【0040】
[式(1)において、Irはイリジウム原子を表す。
Lは二座配位子を表し、複数ある場合は同一であっても異なっていてもよい。
環Cyは炭素原子CおよびCを含む芳香環又は複素芳香環を表す。
環Cyは炭素原子Cおよび窒素原子Nを含む複素芳香環を表す。
およびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
aおよびbは、それぞれ環Cy又は環Cyに置換しうる最大数の整数を表す。
mは1~3の整数、nは0~2の整数を表し、m+n=3である。
および/又はRが複数個ある場合は、同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのRは、下記式(2)で表されるものである。]
【0041】
【化7】
【0042】
[式(2)において、*は環Cyとの結合位置を表す。
~R11は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
X1およびRX2は、それぞれ独立にアルキル基又はアラルキル基を表す。]
【0043】
<構造上の特徴>
本発明のイリジウム錯体化合物は、イリジウム原子に直接共有結合している配位子の環状構造部分(環Cy部分)に式(2)で表される置換基が存在することに大きな特徴がある。
【0044】
後掲の化合物D-2のように、該環状構造部分に2,6-ジメチルフェニル基を置換した化合物が良く知られている。この化合物では、ジメチル基の立体障害が十分ではなくイリジウム原子と該環状構造部分に分布するHOMOがジメチルフェニル基へと漏れ出してくるため、十分な短波長化効果が得られない。さらには、メチル基がHOMOが存在する空間へ張り出す構造であるため、有機電界発光素子においてイリジウム錯体化合物に正孔が入ったとき、メチル基から水素原子がヒドリド陰イオンとして転移し、配位子の分解を誘発するため好ましくない。
【0045】
非特許文献1に記載されている通り、無置換のオルト-ビフェニル基を該環状構造部分に導入した場合には、発光波長は大きな長波長シフトを引き起こす。これも、立体障害が不十分のためビフェニル部分のねじれが全く不十分であり、HOMOが拡大するために長波長化すると考えられる。
【0046】
本発明のイリジウム錯体化合物では、式(2)に示されるように、2位と6位に置換基RX1とRX2を導入することでビフェニル部分を大きく捻じるとともに、ねじれた状態を固定し、ビフェニル間の回転運動を起こさせなくすることで、捻じるために導入した2および6位の置換基RX1,RX2が、HOMOと接触しないように設計することにより、以上述べた問題を解決した。
【0047】
本発明のイリジウム錯体化合物の配位子においては、環Cyと式(2)中のR~Rを含むベンゼン環との結合は回転することが無い。従って、環Cyと当該結合を含む面(これを紙面とする)に対して、式(2)で表される置換基が紙面の上部または下部に配座するものの混合物、すなわち光学異性体となる。この関係はイリジウムに配位し錯体となったのちも保持される。このことは本発明のイリジウム錯体化合物が化学式としては単一であっても複数の構造異性体の集合であることを意味している。
【0048】
部分的に構造の異なる化合物が複数存在する溶液では、お互いの結晶化を阻害しあうため、同一濃度において全く単一の異性体構造のみを含む溶液に比べ結晶化は起こりにくい。さらに、前者の結晶は通常粒径が小さく複数の異性体の結晶が混ざった粉として得られ、それぞれの結晶内にわずかではあるが他の構造異性体をとりこむという欠陥を有するために、結晶構造がより不安定であり溶剤への溶解速度が速められると考えられる。
以上の理由から、本発明のイリジウム錯体化合物では、溶剤への溶解速度が高められ、かつ、一旦溶解しインクとなったあとの溶液状態を長時間保つ、という通常より高い溶剤溶解性が得られると推測される。
【0049】
<環Cy
環Cyはイリジウム原子に配位する炭素原子CおよびCを含む芳香環又は複素芳香環を表す。
【0050】
環Cyは、単環であってもよく、複数の環が結合している縮合環であってもよい。縮合環の場合、環の数は特に限定されないが、6以下が好ましく、5以下が錯体の溶剤溶解性を損なわない傾向にあるため好ましい。
【0051】
特に限定されないが、環Cyが複素芳香環の場合、環構成原子として炭素原子の他に含まれるヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子およびセレン原子から選ばれることが、錯体の化学的安定性の観点から好ましい。
【0052】
環Cyの具体例としては、芳香環では、単環のベンゼン環;2環のナフタレン環;3環以上のフルオレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環等が挙げられる。
複素芳香環では、含酸素原子のフラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環;含硫黄原子のチオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環;含窒素原子のピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、インドール環、インダゾール環、カルバゾール環、インドロカルバゾール環、インデノカルバゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、フタラジン環、キノキサリン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アクリジン環、フェナンスリジン環、カルボリン環、プリン環;複数種類のヘテロ原子を含むオキサゾール環、オキサジアゾール環、イソオキサゾール環、ベンゾイソオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、イソチアゾール環、ベンゾイソチアゾール環等が挙げられる。
【0053】
これらの中でも、発光波長を精密に制御したり、有機溶剤への溶解性を向上させたり、有機電界発光素子としての耐久性を向上させるためには、これらの環上に適切な置換基が導入されることが好ましい。従って、そのような置換基の導入方法が多く知られている環が好ましい。そのため上記具体例のうち、炭素原子CおよびCを含む一つの環がベンゼン環又はピリジン環であるものが好ましい。その例としては、上述した芳香環の他に、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、カルバゾール環、インドロカルバゾール環、インデノカルバゾール環、カルボリン環等が挙げられる。このうち、炭素原子CおよびCを含む一つの環がベンゼン環であるものがさらに好ましい。その例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環およびカルバゾール環が挙げられる。
【0054】
環Cyを構成する原子数には特に制限は無いが、イリジウム錯体化合物の溶剤溶解性を維持する観点から、該環の構成原子数は5以上が好ましく、より好ましくは6以上である。該環の構成原子数は30以下が好ましく、より好ましくは20以下である。
【0055】
<環Cy
環Cyは、炭素原子Cおよびイリジウム原子に配位する窒素原子Nを含む複素芳香環を表す。
【0056】
環Cyとしては、具体的には、単環のピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ピロール環、ピラゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、プリン環;2環縮環のキノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、キノキサリン環、ナフチリジン環、インドール環、インダゾール環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環;3環縮環のアクリジン環、フェナントロリン環、カルバゾール環、カルボリン環;4環以上縮環のベンゾフェナンスリジン環、ベンゾアクリジン環又はインドロカルボリン環などが挙げられる。これらの環を構成する炭素原子がさらに窒素原子に置き換わっていてもよい。
【0057】
これらの中でも、置換基を導入しやすく発光波長や溶剤溶解性の調整がしやすいこと、および、イリジウムと錯体化する際に収率よく合成できる手法が多く知られていることから、環Cyとしては単環又は4環以下の縮合環が好ましく、単環又は3環以下の縮合環がより好ましく、単環又は2環の縮合環が最も好ましい。具体的には、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、シンノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、キノキサリン環又はナフチリジン環が好ましく、さらに、イミダゾール環、オキサゾール環、キノリン環、イソキノリン環、ピリダジン環、ピリミジン環又はピラジン環が好ましく、特に、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ピリジン環、イソキノリン環、ピリダジン環、ピリミジン環又はピラジン環が好ましく、最も好ましくは、イリジウム錯体化合物の発光色を緑色にすることが容易なピリジン環である。
【0058】
<RおよびR
およびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。ただし、少なくとも一つのRは下記式(2)で表される。
【0059】
【化8】
【0060】
[式(2)において、*は環Cyとの結合位置を表す。
~R11は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
X1およびRX2は、それぞれ独立にアルキル基又はアラルキル基を表す。]
【0061】
、R、R~R11はそれぞれ独立であり、同一であっても異なっていてもよい。R、R、R~R11はさらに結合して脂肪族、芳香族又は複素芳香族の、単環又は縮合環を形成してもよい。
【0062】
、R、R~R11が置換基である場合、置換基は特に限定されず、目的とする発光波長の精密な制御や用いる溶剤との相性、有機電界発光素子にする場合のホスト化合物との相性などを考慮して最適な基が選択される。それら最適化の検討に際して、好ましい置換基は、それぞれ独立して以下に記述される置換基群Wから選ばれる置換基範囲である。
【0063】
(置換基群W)
、R、R~R11は、それぞれ独立に、水素原子、D、F、Cl、Br、I、-N(R’)、-CN、-NO、-OH、-COOR’、-C(=O)R’、-C(=O)NR’、-P(=O)(R’)、-S(=O)R’、-S(=O)R’、-OS(=O)R’、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシ基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキニル基、炭素数5以上60以下の芳香族基、炭素数5以上60以下の複素芳香族基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下のヘテロアラルキル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基又は炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基から選ばれる。
【0064】
該アルキル基、該アルコキシ基、該アルキルチオ基、該アルケニル基、該アルキニル基、該アラルキル基およびヘテロアラルキル基は、さらに1つ以上のR’で置換されていてもよい。これらの基における1つの-CH-基あるいは2以上の隣接していない-CH-基が、-C(-R’)=C(-R’)-、-C≡C-、-Si(-R’)、-C(=O)-、-NR’-、-O-、-S-、-CONR’-もしくは2価の芳香族基に置き換えられていてもよい。これらの基における一つ以上の水素原子が、D、F、Cl、Br、I又は-CNで置換されていてもよい。
該芳香族基、該複素芳香族基、該アリールオキシ基、該アリールチオ基、該ジアリールアミノ基、該アリールヘテロアリールアミノ基および該ジヘテロアリールアミノ基は、それぞれ独立に、さらに1つ以上のR’で置換されていてもよい。
【0065】
R’については後述する。
【0066】
炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は1以上が好ましく、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、12以下が最も好ましい。
【0067】
炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、n-ブトキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2-エトキシエトキシ基、2-エトキシエトキシエトキシ基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は1以上が好ましく、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、12以下が最も好ましい。
【0068】
炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、n-ヘキシルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロヘキシルチオ基、2-メチルブチルチオ基、n-ヘキシルチオ基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は1以上が好ましく、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、12以下が最も好ましい。
【0069】
炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロぺニル基、ヘプテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は2以上が好ましく、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、12以下が最も好ましい。
【0070】
炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキニル基の例としては、エチニル基、プロピオニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は2以上が好ましく、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、12以下が最も好ましい。
【0071】
炭素数5以上60以下の芳香族基および炭素数5以上60以下の複素芳香族基は、単一の環あるいは縮合環として存在していてもよいし、一つの環にさらに別の種類の芳香族基又は複素芳香族基が結合あるいは縮環してできる基であってもよい。
【0072】
これらの例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ベンゾアントラセニル基、フェナントレニル基、ベンゾフェナントレニル基、ピレニル基、クリセニル基、フルオランテニル基、ペリレニル基、ベンゾピレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ナフタセニル基、ペンタセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、ジヒドロフェナントレニル基、ジヒドロピレニル基、テトラヒドロピレニル基、インデノフルオレニル基、フリル基、ベンゾフリル基、イソベンゾフリル基、ジベンゾフラニル基、チオフェン基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、ピロリル基、インドリル基、イソインドリル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、インドロカルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、ピリジル基、シンノリル基、イソシンノリル基、アクリジル基、フェナンスリジル基、フェノチアジニル基、フェノキサジル基、ピラゾリル基、インダゾリル基、イミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ナフトイミダゾリル基、フェナンスロイミダゾリル基、ピリジンイミダゾリル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ナフトオキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ピリミジル基、ベンゾピリミジル基、ピリダジニル基、キノキサリニル基、ジアザアントラセニル基、ジアザピレニル基、ピラジニル基、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、ナフチリジニル基、アザカルバゾリル基、ベンゾカルボリニル基、フェナンスロリニル基、トリアゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、トリアジニル基、2,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-4-イル基、テトラゾリル基、プリニル基、ベンゾチアジアゾリル基などが挙げられる。
溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらの基の炭素数は5以上が好ましく、50以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下が最も好ましい。
【0073】
炭素数5以上40以下のアリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ナフトキシ基、メトキシフェノキシ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらの基の炭素数は5以上が好ましく、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下が最も好ましい。
【0074】
炭素数5以上40以下のアリールチオ基の例としては、フェニルチオ基、メチルフェニルチオ基、ナフチルチオ基、メトキシフェニルチオ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらの基の炭素数は5以上が好ましく、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下が最も好ましい。
【0075】
炭素数5以上60以下のアラルキル基の例としては、1,1-ジメチル-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-ブチル)-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-ヘキシル)-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-オクチル)-1-フェニルメチル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、3-フェニル-1-プロピル基、4-フェニル-1-n-ブチル基、1-メチル-1-フェニルエチル基、5-フェニル-1-n-プロピル基、6-フェニル-1-n-ヘキシル基、6-ナフチル-1-n-ヘキシル基、7-フェニル-1-n-ヘプチル基、8-フェニル-1-n-オクチル基、4-フェニルシクロヘキシル基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらの基の炭素数は5以上が好ましく、40以下がより好ましい。
【0076】
炭素数5以上60以下のヘテロアラルキル基の例としては、1,1-ジメチル-1-(2-ピリジル)メチル基、1,1-ジ(n-ヘキシル)-1-(2-ピリジル)メチル基、(2-ピリジル)メチル基、(2-ピリジル)エチル基、3-(2-ピリジル)-1-プロピル基、4-(2-ピリジル)-1-n-ブチル基、1-メチル-1-(2-ピリジル)エチル基、5-(2-ピリジル)-1-n-プロピル基、6-(2-ピリジル)-1-n-ヘキシル基、6-(2-ピリミジル)-1-n-ヘキシル基、6-(2,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-4-イル)-1-n-ヘキシル基、7-(2-ピリジル)-1-n-ヘプチル基、8-(2-ピリジル)-1-n-オクチル基、4-(2-ピリジル)シクロヘキシル基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのヘテロアラルキル基の炭素数は5以上が好ましく、50以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下が最も好ましい。
【0077】
炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、フェニル(ナフチル)アミノ基、ジ(ビフェニル)アミノ基、ジ(p-ターフェニル)アミノ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらの基の炭素数は10以上が好ましく、36以下が好ましく、30以下がより好ましく、25以下が最も好ましい。
【0078】
炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基の例としては、フェニル(2-ピリジル)アミノ基、フェニル(2,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-4-イル)アミノ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらの基の炭素数は10以上が好ましく、36以下が好ましく、30以下がより好ましく、25以下が最も好ましい。
【0079】
炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基としては、ジ(2-ピリジル)アミノ基、ジ(2,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-4-イル)アミノ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのジヘテロアリールアミノ基の炭素数は10以上が好ましく、36以下が好ましく、30以下がより好ましく、25以下が最も好ましい。
【0080】
、R、R~R11としては特に有機電界発光素子における発光材料としての耐久性を損なわないという観点から、それぞれ独立に、水素原子、F、-CN、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数5以上60以下の芳香族基また炭素数5以上60以下の複素芳香族基が好ましい。
【0081】
式(2)で表される基の環Cy上の好ましい置換位置は特に限定されない。例えば、環Cyがベンゼン環である場合、化合物の安定性および特に緑色発光を期待するには発光波長が長波長化しない構造が選ばれるべきである。そのため、式(2)で表される基は、環Cyにおいて、炭素原子Cに対してパラ位に結合することが好ましい。具体的には、式(1)の環Cyおよび(R)aが、下記式(3)で表される構造であること好ましい。
【0082】
【化9】
【0083】
[式(3)において、*は結合位置を表す。
、R~R11、RX1およびRX2は、式(1)および式(2)で定義したものとそれぞれ同様である。]
【0084】
<RX1およびRX2
X1およびRX2は、それぞれ独立にアルキル基又はアラルキル基を表し、好ましくは炭素数1~20のアルキル基又はアラルキル基である。これらはR、R、R~R11の置換基群Wに記した後述のR’によりさらに置換されていてもよい。RX1およびRX2は、立体的により混み合う箇所に位置する置換基であるため、合成を容易に行うという観点から、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基がさらに好ましい。
【0085】
<R’>
R’はそれぞれ独立に、H、D、F、Cl、Br、I、-N(R'')、-CN、-NO、-Si(R'')、-B(OR'')、-C(=O)R''、-P(=O)(R'')、-S(=O)R''、-OSOR''、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシ基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基、炭素数2以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキニル基、炭素数5以上60以下の芳香族基、炭素数5以上60以下の複素芳香族基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下のヘテロアラルキル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基又は炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基から選ばれる。
【0086】
該アルキル基、該アルコキシ基、該アルキルチオ基、該アルケニル基、該アルキニル基、該アラルキル基および該ヘテロアラルキル基は、さらに1つ以上のR''で置換されていてもよい。これらの基における1つの-CH-基あるいは2以上の隣接していない-CH-基が、-C(-R'')=C(-R'')-、-C≡C、-Si(-R'')-、-C(=O)-、-NR''-、-O-、-S-、-CONR''-もしくは2価の芳香族基に置き換えられていてもよい。これらの基における一つ以上の水素原子が、D、F、Cl、Br、I又は-CNで置換されていてもよい。
該芳香族基、該複素芳香族基、該アリールオキシ基、該アリールチオ基、該ジアリールアミノ基、該アリールヘテロアリールアミノ基および該ジヘテロアリールアミノ基は、さらに1つ以上のR''で置換されていてもよい。
2つ以上の隣接するR’が互いに結合して、脂肪族又は芳香族もしくは複素芳香族の、単環もしくは縮合環を形成してもよい。
【0087】
R''については後述する。
【0088】
<R''>
R''はそれぞれ独立に、H、D、F、-CN、炭素数1以上20以下の脂肪族炭化水素基、炭素数1以上20以下の芳香族基又は炭素数1以上20以下の複素芳香族基から選ばれる。
2つ以上の隣接するR''が互いに結合して、脂肪族又は芳香族もしくは複素芳香族の、単環もしくは縮合環を形成してもよい。
【0089】
<L>
Lは二座配位子を表し、本発明の特性を損なわない限り特に制限は無い。同一分子内にLが複数ある場合は同一であっても異なっていてもよい。有機電界発光素子の発光材料として用いる観点から、Lの好ましい構造を以下の式(7A)~(7F)に例示するが、この限りではない。下記式(7A)~(7F)において、*は結合位置を表す。
【0090】
二座配位子Lはその構造を保ち得る限りにおいて骨格の炭素原子が窒素原子など他の原子に置き換わっていてもよいし、さらに置換基を有していてもよい。二座配位子Lが置換基を有する場合、その置換基としては、R、R、R~R11として例示したものが挙げられ、好ましくは、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐又は環状のアルキル基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下のヘテロアラルキル基、炭素数5以上60以下の芳香族基、炭素数5以上60以下の複素芳香族基である。これらはさらに上述のR’により置換されていても良い。
【0091】
【化10】
【0092】
本発明のイリジウム錯体化合物のイリジウム原子と二座配位子Lとの結合様式には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、二座配位子Lの窒素原子および炭素原子で結合する様式、二座配位子Lの2つの窒素原子で結合する様式、二座配位子Lの2つの炭素原子で結合する様式、二座配位子Lの炭素原子および酸素原子で結合する様式、二座配位子Lの2つの酸素原子で結合する様式などが挙げられる。これらの中でも、二座配位子Lの窒素原子および炭素原子で結合する様式が熱安定性即ち耐久性に優れる点で好ましく、二座配位子Lの2つの酸素原子で結合する様式が発光効率を高めるという観点から好ましい。
【0093】
特に、配位子Lが下記式(4)で表される構造である場合、とりわけ下記式(5)で表される構造である場合、耐久性に極めて優れると考えられるため好ましい。
【0094】
【化11】
【0095】
[式(4)において、*は結合位置を表す。
環Cyは、炭素原子CおよびCを含む芳香環又は複素芳香環を表し、Cでイリジウム原子と結合する。
環Cyは、炭素原子Cおよび窒素原子Nを含む複素芳香環を表し、Nでイリジウム原子と結合する。
およびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
cおよびdは、それぞれ環Cy又は環Cyに置換しうる最大数の整数である。]
【0096】
好ましい環Cy又は環Cyの種類と範囲はそれぞれ環Cy又は環Cyと同義である。好ましいRおよびRの種類と範囲はRおよびRと同義である。
【0097】
【化12】
【0098】
[式(5)において、*は結合位置を表す。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。]
【0099】
<a,b,c,d,m,n>
a,b,c,dはそれぞれ環Cy,Cy,Cy,Cyに置換し得る最大の整数である。
mは1~3の整数、nは0~2の整数であり、m+nは3である。好ましくはm=2、n=1であるか、m=3である。
【0100】
<具体例>
以下に、後掲の実施例1の化合物1以外の本発明のイリジウム錯体化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において、「Ph」はフェニル基を表す。
【0101】
【化13】
【0102】
【化14】
【0103】
[新規イリジウム錯体化合物]
本発明は、前記式(1)で表されるイリジウム錯体化合物とは別に、異なる新規のイリジウム錯体化合物(以下、「イリジウム錯体化合物2」と表すことがある。)を提供する。
【0104】
イリジウム錯体化合物2は、高い溶剤溶解性と色純度の向上とを両立させるものであり、特に高い溶剤溶解性とより短波長の発光極大波長を示す緑色イリジウム錯体化合物である。イリジウム錯体化合物2の要旨は、以下の通りである。
【0105】
[10] 下記式(10)で表されるイリジウム錯体化合物。
【0106】
【化15】
【0107】
[式(10)において、Irはイリジウム原子を表す。
は1又は2の整数、nは1又は2の整数を表し、m+n=3である。
a1は、それぞれ独立にアルキル基又はアラルキル基を表す。
b1、Rc1およびR21~R24は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
a1~Rc1およびR21~R24同士がさらに結合して環を形成していてもよい。
ただし、Rb1およびRc1のうちの少なくとも一つは、置換又は非置換の、芳香族基又は複素芳香族基である。]
[11] 上記式(10)のmが2である、[10]に記載のイリジウム錯体化合物。
[12] Rb1が、置換又は非置換の、芳香族基又は複素芳香族基である、[10]又は[11]に記載のイリジウム錯体化合物。
[13] R21が、それぞれ独立に水素原子、又は炭素数1~20のアルキル基もしくはアラルキル基である、[10]~[12]のいずれかに記載のイリジウム錯体化合物。
[14] [10]~[13]のいずれかに記載のイリジウム錯体化合物および溶剤を含有する組成物。
[15] [10]~[13]のいずれかに記載のイリジウム錯体化合物を含む有機電界発光素子。
[16] [15]に記載の有機電界発光素子を有する表示装置。
[17] [15]に記載の有機電界発光素子を有する照明装置。
【0108】
本発明のイリジウム錯体化合物2は高い溶剤溶解性を有するため、湿式成膜法による有機電界発光素子の作製に好適に用いる。
本発明のイリジウム錯体化合物2は、短波長の発光極大波長を示す緑色イリジウム錯体化合物である。
本発明のイリジウム錯体化合物2を用いた素子は、特に緑色発光素子においてその色純度が高いために、有機EL表示装置として特に有用である。
【0109】
[イリジウム錯体化合物2]
本発明のイリジウム錯体化合物2は、下記式(10)で表される化合物である。
【0110】
【化16】
【0111】
[式(10)において、Irはイリジウム原子を表す。
は1又は2の整数、nは1又は2の整数を表し、m+n=3である。
a1は、それぞれ独立にアルキル基又はアラルキル基を表す。
b1、Rc1およびR21~R24は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
a1~Rc1およびR21~R24同士がさらに結合して環を形成していてもよい。
ただし、Rb1およびRc1のうちの少なくとも一つは、置換又は非置換の、芳香族基又は複素芳香族基である。]
【0112】
<構造上の特徴>
本発明のイリジウム錯体化合物2は、フェニル-ピリジン配位子のうちの一方のピリジン環の5位に、2,6-置換のベンゼン環を導入している。これにより溶解性付与のために要する置換基の導入が従来技術に比べて最小限に抑制される。
このため、発光波長の長波長化をひき起こすことなく、溶剤溶解性に優れたイリジウム錯体化合物とすることができる。
【0113】
フェニル-ピリジン骨格を配位子として有するイリジウム錯体において、3つのフェニル-ピリジン配位子のピリジン環が無置換である場合、溶剤溶解性は著しく低いものとなる。その理由としては、ピリジン環の高い極性と、これらが錯体のフェイシャル型構造により、分子内で偏った方向にプロペラ状に配置されるため、分子全体として極性がかなり高められ、かつ、部分的に構造が整った部位が生じるため、結晶性が高まってしまうためであると考えられる。
溶剤溶解性付与の目的でピリジン環以外に置換基を導入する場合には、結晶性を打消すためにかなりサイズの大きい置換基を用いることが必要となる。
後述の最大発光波長測定例で示すように、本発明で溶解性付与基として導入する2,6-置換のベンゼン環の置換位置をピリジン環の5位ではなく4位とした場合には、長波長化が起こる傾向にあるため好ましくない。
【0114】
<m及びn
は1又は2、nは1又は2の整数を表し、m+n=3である。本発明のイリジウム錯体化合物の溶解性を向上させるという観点から、m=2でn=1であることが好ましい。
【0115】
<Ra1
a1は、アルキル基又はアラルキル基を表す。式(10)中に含まれる2つのRa1は、それぞれ独立であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0116】
該アルキル基および該アラルキル基は直鎖状、分岐状又は環状であってもよいし、後述する置換基群Wに挙げられた置換基によりさらに置換されていてもよい。
【0117】
アルキル基及びアラルキル基の炭素数は特に限定されないが、合成が容易であるという観点から、アルキル基の炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~6である。アラルキル基の炭素数は、好ましくは5~60、より好ましくは5~40、さらに好ましくは5~30である。
【0118】
<Rb1、Rc1およびR21~R24
b1、Rc1およびR21~R24は、水素原子又は置換基を表す。
【0119】
式(10)中に含まれる複数のRb1、Rc1およびR21~R24は、すべて互いに独立であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
b1、Rc1およびR21~R24は互いにさらに結合して脂肪族、芳香族又は複素芳香族の、単環又は縮合環を形成していてもよい。
【0120】
ただし、Rb1およびRc1のうちの少なくとも一つは、置換又は非置換の、芳香族基又は複素芳香族基である。その好ましい範囲は前述の置換基群W中に記載される芳香族基又は複素芳香族基、およびこれらが有していてもよい置換基と同様である。
【0121】
上記の芳香族基又は複素芳香族基以外の置換基Rb1又はRc1、およびR21~R24の置換基は特に限定されず、目的とする発光波長の精密な制御や用いる溶剤との相性、有機電界発光素子にする場合のホスト化合物との相性などを考慮して最適な基が選択することができる。それら最適化の検討に際して、好ましい置換基は、それぞれ独立して前述の置換基群Wから選ばれる置換基範囲である。
【0122】
b1およびRc1のうち、特に有機電界発光素子における発光材料としての耐久性を損なわないという観点から、少なくともRb1が、置換又は非置換の、芳香族基又は複素芳香族基であることが好ましい。
【0123】
残余のRb1又はRc1、およびR21~R24のさらに好ましい範囲は、有機電界発光素子の発光材料としての耐久性を損なわないという観点から、それぞれ独立して、水素原子、F、-CN、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数5以上60以下の芳香族基又は炭素数5以上60以下の複素芳香族基である。
【0124】
特に好ましいR21の範囲は、発光波長をより短波長とし、緑色の色度を向上させることが容易であるという観点から、それぞれ独立に水素原子、D、F、Cl、Br、I、-N(R’)、-CN、-NO、-OH、-COOR’、-C(=O)R’、-C(=O)NR’、-P(=O)(R’)、-S(=O)R’、-S(=O)R’、-OSOR’、炭素数1~30の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシ基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下のヘテロアラルキル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基又は炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基であり、最も好ましくは、水素原子、フッ素原子あるいは炭素数1~20のアルキル基又はアラルキル基である。
なお、上記R11で用いたR’は、前述のR’と同義である。
【0125】
<具体例>
以下に、本発明のイリジウム錯体化合物2の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0126】
【化17】
【0127】
【化18】
【0128】
<最大発光波長(発光極大波長)>
本発明のイリジウム錯体化合物及びイリジウム錯体化合物2は、発光波長をより短波長にすることができる。発光波長には特に制限は無いが、特に緑色発光領域のイリジウム錯体化合物に本発明は好適である。
【0129】
緑色発光において、発光波長の短かさを示す指標としては、以下に示す手順で測定した最大発光波長が540nm以下が好ましく、530nm以下がより好ましく、520nm以下がさらに好ましい。最大発光波長は490nm以上が好ましく、500nm以上がより好ましい。これらの範囲であることで、有機電界発光素子として好適な緑色発光材料の好ましい色を発現できる傾向にある。
【0130】
(最大発光波長の測定方法)
常温下で、2-メチルテトラヒドロフランに、当該イリジウム錯体化合物を濃度1×10-4mol/L以下で溶解した溶液について、分光光度計(浜松ホトニクス社製 有機EL量子収率測定装置C9920-02)で燐光スペクトルを測定する。得られた燐光スペクトル強度の最大値を示す波長を、本発明における最大発光波長とする。
【0131】
<イリジウム錯体化合物の合成方法>
<配位子の合成方法>
本発明のイリジウム錯体化合物及びイリジウム錯体化合物2の配位子は、既知の有機合成反応を組み合わせることにより合成できる。特に、鈴木-宮浦カップリング反応および/又はピリジン環合成反応を主とし、さらにそれらへの置換基導入反応を組み合わせることにより様々な配位子用の誘導体を合成できる。
【0132】
<イリジウム錯体化合物の合成方法>
本発明のイリジウム錯体化合物及びイリジウム錯体化合物2は、既知の方法の組み合わせなどにより合成され得る。以下に詳しく説明する。
【0133】
イリジウム錯体化合物及びイリジウム錯体化合物2の合成方法については、判りやすさのためにフェニルピリジン配位子を例として用いた下記式スキーム[A]に示すような塩素架橋イリジウム二核錯体を経由する方法(M.G.Colombo,T.C.Brunold,T.Riedener,H.U.Gudel,Inorg.Chem.,1994,33,545-550)、下記式スキーム[B]に示すような二核錯体からさらに塩素架橋をアセチルアセトナートと交換させ単核錯体へ変換したのち目的物を得る方法(S.Lamansky,P.Djurovich,D.Murphy,F.Abdel-Razzaq,R.Kwong,I.Tsyba,M.Borz,B.Mui,R.Bau,M.Thompson,Inorg.Chem.,2001,40,1704-1711)等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0134】
下記式スキーム[A]で表される典型的な反応の条件は以下のとおりである。
【0135】
第一段階として、第一の配位子2当量と塩化イリジウムn水和物1当量の反応により塩素架橋イリジウム二核錯体を合成する。溶媒は通常2-エトキシエタノールと水の混合溶媒が用いられるが、無溶媒あるいは他の溶媒を用いてもよい。配位子を過剰量用いたり、塩基等の添加剤を用いたりして反応を促進することもできる。塩素に代えて臭素など他の架橋性陰イオン配位子を使用することもできる。
【0136】
反応温度に特に制限はないが、通常は0℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、250℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。これらの範囲であることで副生物や分解反応を伴うことなく目的の反応のみが進行し、高い選択性が得られる傾向にある。
【0137】
【化19】
【0138】
二段階目は、トリフルオロメタンスルホン酸銀のようなハロゲンイオン捕捉剤を添加し第二の配位子と接触させることにより目的とする錯体を得る。溶媒は通常エトキシエタノール又はジグリムが用いられるが、配位子の種類により無溶媒あるいは他の溶媒を使用することができ、複数の溶媒を混合して使用することもできる。
【0139】
ハロゲンイオン捕捉剤を添加しなくても反応が進行する場合があるので必ずしも必要ではないが、反応収率を高め、より量子収率が高いフェイシャル異性体を選択的に合成するには該捕捉剤の添加が有利である。反応温度に特に制限はないが、通常0℃~250℃の範囲で行われる。
【0140】
下記式スキーム[B]で表される典型的な反応条件を説明する。
【0141】
第一段階の二核錯体は式スキーム[A]と同様に合成できる。第二段階は、該二核錯体にアセチルアセトンのような1,3-ジオン化合物を1当量以上、および、炭酸ナトリウムのような該1,3-ジオン化合物の活性水素を引き抜き得る塩基性化合物を1当量以上反応させることにより、1,3-ジオナト配位子が配位する単核錯体へと変換する。通常原料の二核錯体を溶解しうるエトキシエタノールやジクロロメタンなどの溶媒が使用される。配位子が液状である場合無溶媒で実施することも可能である。反応温度に特に制限はないが、通常は0℃~200℃の範囲内で行われる。
【0142】
【化20】
【0143】
第三段階は、第二の配位子を1当量以上反応させる。溶媒の種類と量は特に制限はなく、第二の配位子が反応温度で液状である場合には無溶媒でもよい。反応温度も特に制限はないが、反応性が若干乏しいため100℃~300℃の比較的高温下で反応させることが多い。そのため、グリセリンなど高沸点の溶媒が好ましく用いられる。
【0144】
最終反応後は未反応原料や反応副生物および溶媒を除くために精製を行う。通常の有機合成化学における精製操作を適用することができるが、上記の非特許文献記載のように主として順相のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製が行われる。展開液にはヘキサン、ヘプタン、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン、メタノールの単一又は混合液を使用できる。精製は条件を変え複数回行ってもよい。その他のクロマトグラフィー技術(逆相シリカゲルクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー)や、分液洗浄、再沈殿、再結晶、粉体の懸濁洗浄、減圧乾燥などの精製操作を必要に応じて施すことができる。
【0145】
<イリジウム錯体化合物の用途>
本発明のイリジウム錯体化合物及びイリジウム錯体化合物2は、有機電界発光素子に用いられる材料、すなわち有機電界発光素子の緑色発光材料として好適に使用可能であり、有機電界発光素子やその他の発光素子等の発光材料としても好適に使用可能である。
【0146】
[イリジウム錯体化合物含有組成物]
本発明のイリジウム錯体化合物及びイリジウム錯体化合物2は、溶剤溶解性に優れることから、溶剤とともに使用されることが好ましい。
以下、本発明のイリジウム錯体化合物及びイリジウム錯体化合物2と溶剤とを含有する本発明の組成物(以下、「イリジウム錯体化合物含有組成物」と称す場合がある。)について説明する。
【0147】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物は、上述の本発明のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2と溶剤を含有する。本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物は通常湿式成膜法で層や膜を形成するために用いられ、特に有機電界発光素子の有機層を形成するために用いられることが好ましい。該有機層は、特に発光層であることが好ましい
【0148】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物は、有機電界発光素子用組成物であることが好ましく、更に発光層形成用組成物として用いられることが特に好ましい。
【0149】
該イリジウム錯体化合物含有組成物における本発明のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2の含有量は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、通常99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下である。組成物中のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2の含有量をこの範囲とすることにより、隣接する層(例えば、正孔輸送層や正孔阻止層)から発光層へ効率よく、正孔や電子の注入が行われ、駆動電圧を低減することができる。なお、本発明のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2はイリジウム錯体化合物含有組成物中に、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0150】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物を例えば有機電界発光素子用に用いる場合には、上述のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2や溶剤の他、有機電界発光素子、特に発光層に用いられる電荷輸送性化合物を含有することができる。
【0151】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物を用いて、有機電界発光素子の発光層を形成する場合には、本発明のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2を発光材料とし、他の電荷輸送性化合物を電荷輸送ホスト材料として含むことが好ましい。
【0152】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物に含有される溶剤は、湿式成膜によりイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2を含む層を形成するために用いる、揮発性を有する液体成分である。
【0153】
該溶剤は、溶質である本発明のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2が高い溶剤溶解性を有することから、これらよりもむしろ後述の電荷輸送性化合物が良好に溶解する有機溶剤であれば特に限定されない。
【0154】
好ましい溶剤としては、例えば、n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メシチレン、フェニルシクロヘキサン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0155】
中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類であり、特に、フェニルシクロヘキサンは湿式成膜プロセスにおいて好ましい粘度と沸点を有している。
【0156】
これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0157】
用いる溶剤の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上で、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは沸点230℃以下である。この範囲を下回ると、湿式成膜時において、組成物からの溶剤蒸発により、成膜安定性が低下する可能性がある。
【0158】
溶剤の含有量は、イリジウム錯体化合物含有組成物において好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは50質量%以上で、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下、特に好ましくは99質量%以下である。
【0159】
通常発光層の厚みは3~200nm程度であるが、溶剤の含有量がこの下限以上であることで、組成物の粘性が高くなり過ぎず、成膜作業性が向上する傾向にある。溶剤の含有量がこの上限以下であることで、成膜後、溶剤を除去して得られる膜の厚みが得られ、成膜が容易となる傾向にある。
【0160】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物が含有し得る他の電荷輸送性化合物としては、従来有機電界発光素子用材料として用いられているものを使用することができる。例えば、ピリジン、カルバゾール、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、ナフタセン、フェナントレン、コロネン、フルオランテン、ベンゾフェナントレン、フルオレン、アセトナフトフルオランテン、クマリン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体、キナクリドン誘導体、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン、アリールアミノ基が置換された縮合芳香族環化合物、アリールアミノ基が置換されたスチリル誘導体等が挙げられる。
【0161】
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0162】
イリジウム錯体化合物含有組成物中の他の電荷輸送性化合物の含有量は、イリジウム錯体化合物含有組成物中の本発明のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2の1質量部に対して、通常1000質量部以下、好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下で、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上である。
【0163】
本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物には、必要に応じて、上記の化合物等の他に、更に他の化合物を含有していてもよい。例えば、上記の溶剤の他に、別の溶剤を含有していてもよい。そのような溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0164】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、本発明のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2を含むものである。
【0165】
本発明の有機電界発光素子は、好ましくは、基板上に少なくとも陽極、陰極および陽極と陰極の間に少なくとも1層の有機層を有するものであって、有機層のうち少なくとも1層が本発明のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2を含む。前記有機層は発光層を含む。
【0166】
本発明のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2を含む有機層は、本発明の組成物を用いて形成された層であることがより好ましく、湿式成膜法により形成された層であることがさらに好ましい。湿式成膜法により形成された層は、発光層であることが好ましい。
【0167】
本発明において湿式成膜法とは、塗布方法として、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等の湿式で成膜される方法を採用し、これらの方法で成膜された膜を乾燥して膜形成を行う方法をいう。
【0168】
図1は本発明の有機電界発光素子10に好適な構造例を示す断面の模式図である。図1において、符号1は基板、符号2は陽極、符号3は正孔注入層、符号4は正孔輸送層、符号5は発光層、符号6は正孔阻止層、符号7は電子輸送層、符号8は電子注入層、符号9は陰極を各々表す。
【0169】
これらの構造に適用する材料は、公知の材料を適用することができ、特に制限はないが、各層に関しての代表的な材料や製法を一例として以下に記載する。公報や論文等を引用している場合、該当内容を当業者の常識の範囲で適宜、適用、応用することができるものとする。
【0170】
<基板1>
基板1は、有機電界発光素子の支持体となるものであり、通常、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。これらのうち、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。
【0171】
基板1は、外気による有機電界発光素子の劣化が起こり難いことからガスバリア性の高い材質とするのが好ましい。合成樹脂製の基板等のようにガスバリア性の低い材質を用いる場合は、基板1の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を上げるのが好ましい。
【0172】
<陽極2>
陽極2は、発光層側の層に正孔を注入する機能を担う。陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウムおよび/又はスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック或いはポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0173】
陽極2の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式法により行われることが多い。銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより形成することもできる。導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0174】
陽極2は、通常、単層構造であるが、積層構造としてもよい。陽極2が積層構造である場合、1層目の陽極上に異なる導電材料を積層してもよい。
【0175】
陽極2の厚みは、必要とされる透明性と材質等に応じて、決めればよい。特に高い透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率が60%以上となる厚みが好ましく、80%以上となる厚みが更に好ましい。
【0176】
陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上で、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下が好ましい。一方、透明性が不要な場合は、陽極2の厚みは必要な強度等に応じて任意に厚みとすればよく、この場合、陽極2は基板1と同一の厚みでもよい。
【0177】
陽極2の表面に成膜を行う場合は、成膜前に、紫外線及びオゾン、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ等の処理を施すことにより、陽極上の不純物を除去すると共に、そのイオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させておくのが好ましい。
【0178】
<正孔注入層3>
陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層は、通常、正孔注入輸送層又は正孔輸送層と呼ばれる。陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層が2層以上ある場合に、より陽極2側に近い方の層を正孔注入層3と呼ぶことがある。正孔注入層3は、陽極2から発光層5側に正孔を輸送する機能を強化するために、用いることが好ましい。正孔注入層3を用いる場合、通常、正孔注入層3は、陽極2上に形成される。
【0179】
正孔注入層3の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。
【0180】
正孔注入層3の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0181】
正孔注入層3は、正孔輸送性化合物を含むことが好ましく、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含むことがより好ましい。更には、正孔注入層3中にカチオンラジカル化合物を含むことが好ましく、カチオンラジカル化合物と正孔輸送性化合物とを含むことが特に好ましい。
【0182】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は、通常、正孔注入層3となる正孔輸送性化合物を含有する。湿式成膜法の場合は、通常、更に溶剤も含有する。正孔注入層形成用組成物は、正孔輸送性が高く、注入された正孔を効率よく輸送できるものが好ましい。このため、正孔移動度が大きく、トラップとなる不純物が製造時や使用時等に発生し難いものが好ましい。また、安定性に優れ、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光に対する透明性が高いことが好ましい。特に、正孔注入層3が発光層5と接する場合は、発光層5からの発光を消光しないものや発光層5とエキサイプレックスを形成して、発光効率を低下させないものが好ましい。
【0183】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から、4.5eV~6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、キナクリドン系化合物等が挙げられる。
【0184】
上述の例示化合物のうち、非晶質性および可視光透過性の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、芳香族三級アミン化合物が特に好ましい。芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0185】
芳香族三級アミン化合物の種類は、特に制限されないが、表面平滑化効果により均一な発光を得やすい点から、重量平均分子量が1000以上1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)が好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例としては、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物等が挙げられる。
【0186】
【化21】
【0187】
(式(I)中、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族基又は置換基を有していてもよい複素芳香族基を表す。Ar~Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族基又は置換基を有していてもよい複素芳香族基を表す。Qは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。Ar~Arのうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0188】
下記に連結基を示す。
【0189】
【化22】
【0190】
(上記各式中、Ar~Ar16は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族基又は置換基を有していてもよい複素芳香族基を表す。R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基を表す。)
【0191】
Ar~Ar16の芳香族基および複素芳香族基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。
【0192】
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のもの等が挙げられる。
【0193】
(電子受容性化合物)
正孔注入層3には、正孔輸送性化合物の酸化により、正孔注入層3の導電率を向上させることができるため、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
【0194】
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上の化合物が好ましく、電子親和力が5eV以上の化合物が更に好ましい。
【0195】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。具体的には、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号);塩化鉄(III)(特開平11-251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物;トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(特開2003-31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体およびヨウ素等が挙げられる。
【0196】
(カチオンラジカル化合物)
カチオンラジカル化合物としては、正孔輸送性化合物から一電子取り除いた化学種であるカチオンラジカルと、対アニオンとからなるイオン化合物が好ましい。但し、カチオンラジカルが正孔輸送性の高分子化合物由来である場合、カチオンラジカルは高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除いた構造となる。
【0197】
カチオンラジカルとしては、正孔輸送性化合物として前述した化合物から一電子取り除いた化学種であることが好ましい。正孔輸送性化合物として好ましい化合物から一電子取り除いた化学種であることが、非晶質性、可視光の透過率、耐熱性、および溶解性などの点から好適である。
【0198】
カチオンラジカル化合物は、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物を混合することにより生成させることができる。前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを混合することにより、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物へと電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンとからなるカチオンイオン化合物が生成する。
【0199】
PEDOT/PSS(Adv.Mater.,2000年,12巻,481頁)やエメラルジン塩酸塩(J.Phys.Chem.,1990年,94巻,7716頁)等の高分子化合物由来のカチオンラジカル化合物は、酸化重合(脱水素重合)することによっても生成する。
酸化重合は、モノマーを酸性溶液中で、ペルオキソ二硫酸塩等を用いて化学的に、又は、電気化学的に酸化するものである。この酸化重合(脱水素重合)の場合、モノマーが酸化されることにより高分子化されるとともに、酸性溶液由来のアニオンを対アニオンとする、高分子の繰り返し単位から一電子取り除かれたカチオンラジカルが生成する。
【0200】
(湿式成膜法による正孔注入層3の形成)
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常、正孔注入層3となる材料を可溶な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に湿式成膜法により成膜し、乾燥させることにより形成させる。成膜した膜の乾燥は、湿式成膜法による発光層5の形成における乾燥方法と同様に行うことができる。
【0201】
正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点では、低い方が好ましく、正孔注入層3に欠陥が生じ難い点では、高い方が好ましい。具体的には、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、0.5質量%以上が特に好ましく、70質量%以下が好ましく、60質量%以下が更に好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
【0202】
溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
【0203】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテルおよび1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。
【0204】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。
【0205】
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3-イソプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0206】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0207】
これらの他、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。
【0208】
正孔注入層3の湿式成膜法による形成は、通常、正孔注入層形成用組成物を調製後に、これを、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより行われる。正孔注入層3は、通常、成膜後に、加熱や減圧乾燥等により塗布膜を乾燥させる。
【0209】
(真空蒸着法による正孔注入層3の形成)
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、通常、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々独立に蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた基板上の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0210】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。
蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。
蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下である。
【0211】
<正孔輸送層4>
正孔輸送層4は、陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層である。正孔輸送層4は、本発明の有機電界発光素子では、必須の層では無いが、陽極2から発光層5に正孔を輸送する機能を強化するために、この層を設けることが好ましい。正孔輸送層4を設ける場合、通常、正孔輸送層4は、陽極2と発光層5の間に形成される。上述の正孔注入層3がある場合、正孔輸送層4は正孔注入層3と発光層5の間に形成される。
【0212】
正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上で、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0213】
正孔輸送層4の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0214】
正孔輸送層4は、通常、正孔輸送層4となる正孔輸送性化合物を含有する。正孔輸送層4に含まれる正孔輸送性化合物としては、特に、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5-234681号公報)、4,4’,4''-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7-53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等も好ましく使用できる。
【0215】
(湿式成膜法による正孔輸送層4の形成)
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層3を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに正孔輸送層形成用組成物を用いて形成させる。
【0216】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、通常、正孔輸送層形成用組成物は、更に溶剤を含有する。正孔輸送層形成用組成物に用いる溶剤は、上述の正孔注入層形成用組成物で用いる溶剤と同様の溶剤を使用することができる。
【0217】
正孔輸送層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度と同様の範囲とすることができる。
【0218】
正孔輸送層4の湿式成膜法による形成は、前述の正孔注入層3の成膜法と同様に行うことができる。
【0219】
(真空蒸着法による正孔輸送層4の形成)
真空蒸着法で正孔輸送層4を形成する場合、通常、上述の正孔注入層3を真空蒸着法で形成する場合と同様にして、正孔注入層3の構成材料の代わりに正孔輸送層4の構成材料を用いて形成させる。蒸着時の真空度、蒸着速度および温度などの成膜条件などは、前記正孔注入層3の真空蒸着時と同様の条件とすることができる。
【0220】
<発光層5>
発光層5は、一対の電極間に電界が与えられた時に、陽極2から注入される正孔と陰極9から注入される電子が再結合することにより励起され、発光する機能を担う層である。
【0221】
発光層5は、陽極2と陰極9の間に形成される層であり、発光層5は、陽極2の上に正孔注入層3がある場合は、正孔注入層3と陰極9の間に形成され、陽極2の上に正孔輸送層4がある場合は、正孔輸送層4と陰極9との間に形成される。
【0222】
発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜に欠陥が生じ難い点では厚い方が好ましく、低駆動電圧としやすい点で薄い方が好ましい。発光層5の膜厚は、3nm以上が好ましく、5nm以上が更に好ましく、通常200nm以下が好ましく、100nm以下が更に好ましい。
【0223】
発光層5は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、電荷輸送性を有する材料(電荷輸送性材料)を含有する。発光材料としては、いずれかの発光層に、本発明のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2が含まれていればよく、適宜他の発光材料を用いてもよい。
【0224】
以下、本発明のイリジウム錯体化合物又はイリジウム錯体化合物2以外の他の発光材料について詳述する。
【0225】
(発光材料)
発光材料は、所望の発光波長で発光し、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、公知の発光材料を適用可能である。発光材料は、蛍光発光材料でも、燐光発光材料でもよいが、発光効率が良好である材料が好ましく、内部量子効率の観点から燐光発光材料が好ましい。
【0226】
蛍光発光材料としては、例えば、以下の材料が挙げられる。
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光発光材料)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、クリセン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光発光材料)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(CNO)などのアルミニウム錯体等が挙げられる。
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光発光材料)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光発光材料)としては、例えば、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0227】
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表第7~11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体等が挙げられる。長周期型周期表の第7~11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
【0228】
有機金属錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。(ヘテロ)アリールとは、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0229】
好ましい燐光発光材料として、例えば、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2-フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2-フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2-フェニルピリジン)白金、トリス(2-フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2-フェニルピリジン)レニウム等のフェニルピリジン錯体およびオクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等のポルフィリン錯体等が挙げられる。
【0230】
高分子系の発光材料としては、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(4-sec-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(1,4-ベンゾ-2{2,1’-3}-トリアゾール)]などのポリフルオレン系材料、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]などのポリフェニレンビニレン系材料が挙げられる。
【0231】
(電荷輸送性材料)
電荷輸送性材料は、正電荷(正孔)又は負電荷(電子)輸送性を有する材料であり、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の材料を適用可能である。
【0232】
電荷輸送性材料は、従来、有機電界発光素子の発光層5に用いられている化合物等を用いることができ、特に、発光層5のホスト材料として使用されている化合物が好ましい。
【0233】
電荷輸送性材料としては、具体的には、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物等の正孔注入層3の正孔輸送性化合物として例示した化合物等、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、フェナントロリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等の電子輸送性化合物等が挙げられる。
【0234】
電荷輸送性材料としては、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5-234681号公報)、4,4’,4''-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール系化合物等の正孔輸送層4の正孔輸送性化合物として例示した化合物等も好ましく用いることができる。電荷輸送性材料としては、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-ターシャルブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール(BND)などのオキサジアゾール系化合物、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール系化合物、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)などのフェナントロリン系化合物等も挙げられる。
【0235】
(湿式成膜法による発光層5の形成)
発光層5の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよいが、成膜性に優れることから、湿式成膜法が好ましい。
【0236】
湿式成膜法により発光層5を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層3を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに、発光層5となる材料を可溶な溶剤(発光層用溶剤)と混合して調製した発光層形成用組成物を用いて形成させる。この発光層形成用組成物として、本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物を用いることが好ましい。
【0237】
溶剤としては、例えば、正孔注入層3の形成について挙げたエーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤の他、アルカン系溶剤、ハロゲン化芳香族炭化水系溶剤、脂肪族アルコール系溶剤、脂環族アルコール系溶剤、脂肪族ケトン系溶剤および脂環族ケトン系溶剤などが挙げられる。用いる溶剤は、本発明のイリジウム錯体化合物含有組成物の溶剤としても例示した通りであり、以下に溶剤の具体例を挙げるが、本発明の効果を損なわない限り、これらに限定されるものではない。
【0238】
溶剤としては例えば、
エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル系溶剤;
1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤;
酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル系溶剤;
トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、3-イソプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒;
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;
n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン系溶剤;
クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤;
ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール系溶剤;
シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール系溶剤;
メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン系溶剤;
シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン系溶剤
等が挙げられる。これらのうち、アルカン系溶剤および芳香族炭化水素系溶剤が特に好ましい。
【0239】
より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、用いる溶剤の沸点は、前述の通り、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上で、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは沸点230℃以下である。
【0240】
溶剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、発光層形成用組成物であるイリジウム錯体化合物含有組成物中の合計含有量は、低粘性なために成膜作業が行いやすい点で多い方が好ましく、厚膜で成膜しやすい点で低い方が好ましい。前述の通り、溶剤の含有量は、イリジウム錯体化合物含有組成物において好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは50質量%以上で、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下、特に好ましくは99質量%以下である。
【0241】
湿式成膜後の溶剤除去方法としては、加熱又は減圧を用いることができる。加熱方法において使用する加熱手段としては、膜全体に均等に熱を与えることから、クリーンオーブン、ホットプレートが好ましい。
【0242】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、乾燥時間を短くする点では温度が高いほうが好ましく、材料へのダメージが少ない点では低い方が好ましい。加温温度の上限は通常250℃以下、好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。加温温度の下限は通常30℃以上、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。加温温度が上記上限値以下であると、通常用いられる電荷輸送材料又は燐光発光材料の耐熱性より低くなり、分解や結晶化を抑制できる傾向にある。加温温度が上記下限以上であると、溶剤の除去時間が短縮できる傾向にある。加熱工程における加熱時間は、発光層形成用組成物中の溶剤の沸点や蒸気圧、材料の耐熱性、および加熱条件によって適切に決定される。
【0243】
(真空蒸着法による発光層5の形成)
真空蒸着法により発光層5を形成する場合には、通常、発光層5の構成材料(前述の発光材料、電荷輸送性化合物等)の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々独立に蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた正孔注入層3又は正孔輸送層4の上に発光層5を形成させる。2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて発光層5を形成することもできる。
【0244】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。
蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。
蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下である。
【0245】
<正孔阻止層6>
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0246】
正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0247】
このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2-メチル-8-キノラト)アルミニウム-μ-オキソ-ビス-(2-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11-242996号公報)、3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7-41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10-79297号公報)などが挙げられる。国際公開第2005/022962号に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0248】
正孔阻止層6の形成方法に制限はなく、前述の発光層5の形成方法と同様にして形成することができる。
【0249】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上で、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0250】
<電子輸送層7>
電子輸送層7は素子の電流効率をさらに向上させることを目的として、発光層5又は正孔素子層6と電子注入層8との間に設けられる。
【0251】
電子輸送層7は、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0252】
このような条件を満たす電子輸送性化合物としては、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59-194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-ヒドロキシフラボン金属錯体、5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6-207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5-331459号公報)、2-t-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0253】
電子輸送層7の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上で、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0254】
電子輸送層7は、発光層5と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により発光層5又は正孔阻止層6上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0255】
<電子注入層8>
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく、電子輸送層7又は発光層5へ注入する役割を果たす。
【0256】
電子注入を効率よく行うには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。
【0257】
電子注入層8の膜厚は、0.1~5nmが好ましい。
【0258】
陰極9と電子輸送層7との界面に電子注入層8として、LiF、MgF、LiO、CsCO等の極薄絶縁膜(膜厚0.1~5nm程度)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl.Phys.Lett.,70巻,152頁,1997年;特開平10-74586号公報;IEEETrans.Electron.Devices,44巻,1245頁,1997年;SID 04 Digest,154頁)。
さらに、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10-270171号公報、特開2002-100478号公報、特開2002-100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は通常5nm以上、好ましくは10nm以上で、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0259】
電子注入層8は、発光層5と同様にして湿式成膜法或いは真空蒸着法により、発光層5或いはその上の正孔阻止層6又は電子輸送層7上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合の詳細は、前述の発光層5の場合と同様である。
【0260】
<陰極9>
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8又は発光層5など)に電子を注入する役割を果たす。陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能である。効率よく電子注入を行なう上で、陰極9の材料としては、仕事関数の低い金属を用いることが好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金などが用いられる。例えば、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、アルミニウム-リチウム合金等の低仕事関数の合金電極などが挙げられる。
【0261】
素子の安定性の点では、陰極9の上に、仕事関数が高く、大気に対して安定な金属層を積層して、低仕事関数の金属からなる陰極9を保護するのが好ましい。積層する金属としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が挙げられる。
【0262】
陰極の膜厚は通常、陽極2と同様である。
【0263】
<その他の構成層>
以上、図1に示す層構成の素子を中心に説明してきたが、本発明の有機電界発光素子における陽極2および陰極9と発光層5との間には、その性能を損なわない限り、上記説明にある層の他にも、任意の層を有していてもよい。また発光層5以外の任意の層を省略してもよい。
【0264】
例えば、正孔阻止層8と同様の目的で、正孔輸送層4と発光層5の間に電子阻止層を設けることも効果的である。電子阻止層は、発光層5から移動してくる電子が正孔輸送層4に到達することを阻止することで、発光層5内で正孔との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔輸送層4から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割がある。
【0265】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
発光層5を湿式成膜法で形成する場合、電子阻止層も湿式成膜法で形成することが、素子製造が容易となるため、好ましい。
このため、電子阻止層も湿式成膜適合性を有することが好ましく、このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8-TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号)等が挙げられる。
【0266】
図1とは逆の構造、即ち、基板1上に陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に積層することも可能である。少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。
【0267】
図1に示す層構成を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その際には段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合はその2層)の代わりに、例えばV等を電荷発生層として用いると段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0268】
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
【0269】
[表示装置および照明装置]
本発明の表示装置および照明装置は、本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の表示装置および照明装置の形式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【0270】
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発刊、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の表示装置および照明装置を形成することができる。
【実施例
【0271】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変更して実施できる。
以下において、反応はすべて窒素気流下にて行った。
「S-Phos」は「2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシ-1,1’-ビフェニル」の略である。
【0272】
[本発明のイリジウム錯体化合物(化合物1)の合成]
<反応1>
【化23】
【0273】
500mLナスフラスコに、m-ブロモヨードベンゼン 32.1g、国際公開第2016/194784号記載の方法により合成した3-(6-フェニルヘキシル)フェニルボロン酸 8.9g、テトラキストリフェニルホスフィン(0)パラジウム 2.4g、2M-リン酸三カリウム水溶液 140mL、エタノール 60mLおよびトルエン 190mLを加え、105℃のオイルバスで3時間撹拌した。水相を除去し溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル500mL、ジクロロメタン/ヘキサン=5/95)で精製することにより、中間体1を無色油状として43.2g得た。
【0274】
<反応2>
【化24】
【0275】
1Lナスフラスコに、中間体1 43.2g、ビスピナコラートジボロン 33.2g、ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンジクロロパラジウム・ジクロロメタン付加物 2.7g、酢酸カリウム 55.2gおよびジメチルスルホキシド 410mLを加え、0℃のオイルバスで4時間撹拌した。室温まで冷却後、水 0.8Lおよびジクロロ
メタン 0.5Lを加え分液洗浄した。油相を硫酸マグネシウム(かさで50mL)で乾燥後、ろ過し溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル400mL、ジクロロメタン/ヘキサン=3/7)で精製することにより、中間体2を黄色油状として44.0g得た。
【0276】
<反応3>
【化25】
【0277】
1Lナスフラスコに、4-ブロモ-2-クロロフェノール 7.1g、中間体2 17.8g、テトラキストリフェニルホスフィン(0)パラジウム 1.1g、2M-リン酸三カリウム水溶液 50mLおよび1,2-ジメトキシエタン 150mLを加え、100℃のオイルバスで3時間撹拌した。室温まで冷却した後、水 105mL、35%塩酸 35mLおよびジクロロメタン 150mLを加えて分液洗浄した。油相を硫酸マグネシウム(かさで20mL)で乾燥し、ろ過し、減圧下溶媒を除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル500mL、ジクロロメタン/ヘキサン=4/6)で精製することにより、中間体3を無色油状として9.9g得た。
【0278】
<反応4>
【化26】
【0279】
1Lナスフラスコに、中間体3 9.9g、乾燥ジクロロメタン 100mL、トリエチルアミン 7mLを入れ、氷水で冷却しながらトリフルオロメタンスルホン酸無水物 8.0mLとジクロロメタン 10mLの混合液を5分間かけて滴下した。その後室温に戻し30分間撹拌した。 7.0gの炭酸ナトリウムを水 100mLに溶かした溶液を加え中和した後、水 100mLおよびジクロロメタン 150mLを加え分液洗浄した。油相を硫酸マグネシウム(かさで30mL)で乾燥した後、ろ過、溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル400mL、ジクロロメタン/ヘキサン=5/95、次いで1/9)で精製したところ、中間体4を無色油状として10.1g得た。
【0280】
<反応5>
【化27】
【0281】
1Lナスフラスコに、中間体4 10.1g、2-(3-ピナコールボリルフェニル)ピリジン 5.8g、テトラキストリフェニルホスフィン(0)パラジウム 0.75g、2M-リン酸三カリウム水溶液 28mL、エタノール 25mLおよびトルエン 62mLを加え、100℃のオイルバスで3時間40分間撹拌した。水 100mLを加え分液洗浄した後、硫酸マグネシウム(かさで20mL)で乾燥後、ろ過し溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル500mL、ジクロロメタン/ヘキサン=1/1、次いで8/2、9/1、1/0)で精製することにより、中間体5を白色固体として8.7g得た。
【0282】
<反応6>
【化28】
【0283】
1Lナスフラスコに、中間体5 8.7g、2,6-ジメチルフェニルボロン酸 4.8g、酢酸パラジウム 0.26g、S-Phos 0.95g、水酸化バリウム8水和物 9.7gおよびテトラヒドロフラン 200mLを加え、95℃のオイルバスで3時間撹拌した。冷却後ろ過し、溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル500mL、ジクロロメタン)で精製することにより、中間体6を無色油状として9.0g得た。
【0284】
<反応7>
【化29】
【0285】
1Lナスフラスコに、4-ブロモ-2-クロロフェノール 24.9、3-ビフェニルボロン酸 28.4g、テトラキストリフェニルホスフィン(0)パラジウム 1.5g、2M-リン酸三カリウム水溶液 180mLおよび1,2-ジメトキシエタン 300mLを加え、100℃のオイルバスで2.5時間撹拌した。室温まで冷却した後、水 200mL、1N塩酸 180mLおよび35%塩酸 5mLを加えて分液洗浄した。油相を硫酸マグネシウム(かさで50mL)で乾燥し、ろ過し、減圧下溶媒を除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル550mL、ジクロロメタン/ヘキサン=4/6)で精製することにより、中間体7を無色油状として24.8g得た。
【0286】
<反応8>
【化30】
【0287】
1Lナスフラスコに、中間体7 24.8g、乾燥ジクロロメタン 300mL、トリエチルアミン 25mLを入れ、氷水で冷却しながらトリフルオロメタンスルホン酸無水物 30mLとジクロロメタン 25mLの混合液を25分間かけて滴下した。その後室温に戻し1時間撹拌した。 10gの炭酸ナトリウムを水 200mLに溶かした溶液を加え中和した後、分液した。油相を硫酸マグネシウム(かさで20mL)乾燥した後、ろ過し、溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル400mL、ジクロロメタン/ヘキサン=3/7)で精製したところ、中間体8を黄色油状として34.4g得た。
【0288】
<反応9>
【化31】
【0289】
1Lナスフラスコに、中間体8 27.3g、2-(3-ピナコールボリルフェニル)ピリジン 18.6g、テトラキストリフェニルホスフィン(0)パラジウム 2.5g、2M-リン酸三カリウム水溶液 85mL、エタノール 80mLおよびトルエン 160mLを加え、100℃のオイルバスで3.5時間撹拌した。水 200mLを加え分液洗浄した後、硫酸マグネシウム(かさで30mL)で乾燥後、ろ過し溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル500mL、ジクロロメタン/ヘキサン=1/1、次いで4/1)で精製することにより、中間体9を黄色油状として18.3g得た。
【0290】
<反応10>
【化32】
【0291】
1Lナスフラスコに、中間体9 16.8g、2,6-ジメチルフェニルボロン酸 12.1g、酢酸パラジウム 0.67g、S-Phos 2.5g、水酸化バリウム8水和物 25.8gおよびテトラヒドロフラン 400mLを加え、95℃のオイルバスで4時間40分間撹拌した。冷却後ろ過し、溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル500mL、ジクロロメタン)で精製することにより、中間体10を薄い黄色固体として18.6g得た。
【0292】
<反応11>
【化33】
【0293】
側管付きジムロートを備えた300mLナスフラスコに、中間体10 15.6g、塩化イリジウムn水和物(フルヤ金属社製、Ir含量52質量%)5.4g、水 24mLおよび2-エトキシエタノール 80mLを加え、135℃のオイルバスで2時間撹拌し、次いで145℃で8時間撹拌した。反応の間、気化してくる溶媒をジムロートで凝縮させ側管から除去した。途中反応開始4時間後、ジグリム 40mLを追加した。途中反応開始後7時間の時点でエトキシエタノール 20mL、トルエン 40mLおよび塩化イリジウムn水和物 0.5gを加えた。除去した溶媒の量は全部で80mLであった。室温まで冷却した後、水 100mLを加え、セライトろ過し、ろ物をジクロロメタン 600mLに溶解させ、得られた溶液を減圧下溶媒除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル300mL、ジクロロメタン)で精製したところ、橙色固体の中間体11を16.8g得た。
【0294】
<反応12>
【化34】
【0295】
100mLナスフラスコに、中間体11 1.0g、3,5-ヘプタンジオン 0.52g、炭酸ナトリウム 0.9gおよびジクロロメタン 30mLを入れ、オイルバス温度を60℃として還流した。反応開始後25分後、2-エトキシエタノール 25mLを入れ、オイルバス温度を150℃まで昇温した。その間蒸発する溶媒は側管付きジムロートで除去した。反応開始40分後、室温まで冷却後、ろ過し、ろ液に水 100mLを加えると黄色粉が析出した。これをろ取し、水およびメタノールで洗浄したところ、中間体12を黄色固体として0.86g得た。
【0296】
<反応13>
【化35】
【0297】
500mLナスフラスコに、中間体12 8.8g、中間体6 5.7gおよびグリセリン 91gを入れ、オイルバスを235℃まで昇温し3時間撹拌した。その後、100℃まで冷却した後水 200ccを入れ、ろ過し、ろ取した固体をジクロロメタン 400mLに溶解し、水 400mLで分液洗浄した。その後、硫酸マグネシウム(かさで50mL)で乾燥後、ろ過し、減圧下溶媒を除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル700mL、ジクロロメタン/ヘキサン=4/6)で精製したところ、化合物1を1.5g得た。
【0298】
[溶剤溶解性の確認]
化合物1、下記に示す化合物D-1および化合物D-2を、それぞれシクロヘキシルベンゼンに3質量%となるように混合した。室温にて、手による振盪のみで溶解性を観察したところ、いずれも2分以内に溶解した。いずれの化合物も十分な溶剤溶解性を有していると言える。化合物D-1および化合物D-2は、化合物1の合成例および特開2014-111613の記載をもとに合成した。
【0299】
【化36】
【0300】
[実施例1]
本発明のイリジウム錯体化合物である化合物1について、以下の方法で、発光量子収率、および最大発光波長の測定を行なった。結果を表1に示す。
【0301】
化合物1を、室温下、2-メチルテトラヒドロフラン(アルドリッチ社製、脱水、安定剤非添加)に溶解し、1×10-5mol/lの溶液を調製した。この溶液をテフロン(登録商標)コック付きの石英セルに入れ、窒素バブリングを20分以上行い、室温で絶対量子収率を測定した。同時に得られた燐光スペクトルからCIE色度座標を求めた。この燐光スペクトルの強度の最大値を示す波長を、最大発光波長とした。発光量子収率は、化合物1の示す値を1とした相対値で示した。
【0302】
発光量子収率の測定には、以下の機器を用いた。
装置:浜松ホトニクス社製 有機EL量子収率測定装置C9920-02
光源:モノクロ光源L9799-01
検出器:マルチチャンネル検出器PMA-11
励起光:380nm
【0303】
[比較例1および比較例2]
化合物1に代えて、化合物D-1又は化合物D-2を用いた以外は実施例1と同様の操作で最大発光波長及びCIE色度座標と発光量子収率を測定した。結果を表1に示す。
【0304】
【表1】
【0305】
表1より明らかなように、本発明のイリジウム錯体化合物は、最大発光波長が短く、緑色発光材料として色純度の高いものである。
化合物D-1は、化合物1に比べて最大発光波長が明らかに長い。
化合物D-2の最大発光波長は、化合物D-1の最大発光波長と比べて大差はないが、発光量子収率が小さいため、発光効率が悪い。
発光スペクトルのCIE色度座標を比較すると、化合物1はy座標の値を低下させる(すなわち色純度を悪化させる)ことなくx座標がより小さい値となっており、緑色として純度が高くなっていることが判る。
【0306】
[参考例]
以下に、本発明のイリジウム錯体化合物2に係る参考例を示す。
【0307】
[本発明のイリジウム錯体化合物2(化合物10)の合成]
<反応14>
【化37】
【0308】
300mLのナスフラスコに、2-クロロ-5-ヨードピリジン 14.8g、2,4,6-トリメチルフェニルボロン酸 10.1g、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0) 2.5g、水酸化バリウム8水和物 39.9gおよび1,4-ジオキサン 150mLを入れ、オイルバス中90℃で2時間、さらに100℃で3時間撹拌した。その後、減圧下に溶媒を除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル500mL、ジクロロメタン/ヘキサン=7/3、次いで1/0)で精製することにより、2-クロロ-5-(2,4,6-トリメチルフェニル)ピリジンを黄色固体として13.8g得た。
【0309】
<反応15>
【化38】
【0310】
1Lナスフラスコに、2-クロロ-5-(2,4,6-トリメチルフェニル)ピリジン 13.8g、フェニルボロン酸 8.9g、テトラキストリフェニルホスフィン(0)パラジウム 1.2g、2M-リン酸三カリウム水溶液 90mL、エタノール 40mLおよびトルエン 80mLを加え、100℃のオイルバスで5時間撹拌した。水相を除去し、溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル500mL、ジクロロメタン/ヘキサン=7/3、次いで9/1)で精製することにより、2-フェニル-5-(2,4,6-トリメチルフェニル)ピリジンを黄色油状として15.7g得た。
【0311】
<反応16>
【化39】
【0312】
側管付きジムロートを備えた300mLナスフラスコに、2-フェニル-5-(2,4,6-トリメチルフェニル)ピリジン 15.7g、塩化イリジウムn水和物(フルヤ金属社製、Ir含量52質量%)9.4g、水 30mLおよび2-エトキシエタノール 100mLを加え、145℃のオイルバスで9.5時間撹拌した。反応の間、気化してくる溶媒をジムロートで凝縮させ側管から除去した。除去した溶媒の量は全部で30mLであった。室温まで冷却した後、水 2mLを加え、ろ過し、メタノール 50mLで洗浄し、次いで乾燥したところ、橙色固体の中間体13を15.7g得た。
【0313】
<反応17>
【化40】
【0314】
300mLナスフラスコに、中間体13 7.5g、国際公開第2013/105615号記載の方法により合成した中間体14 8.3g、トリフルオロメタンスルホン酸銀(I) 3.2g、ジグリム 25 mLを入れ、オイルバスで130℃に昇温した。昇温後ただちにジイソプロピルエチルアミン 1.8mLを加えた。1.5時間撹拌し、さらに140℃で40分間撹拌した。減圧下溶媒を除去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性ゲル500mL、ジクロロメタン/ヘキサン=4/6)で精製したところ、化合物10を黄色固体として2.1g得た。
【0315】
[溶剤溶解性の確認]
<実施例I-1>
化合物10をシクロヘキシルベンゼンに3重量%となるように混合した。室温にて、手による振盪のみで溶解性を観察したところ、速やかに溶解した。その後、室温で50時間静置して析出の有無を観察したところ、均一状態を維持していた。化合物10は溶剤溶解性に優れることが確認された。
【0316】
<比較例I-1>
下記式に示す化合物D-5をシクロヘキシルベンゼンに3重量%となるように混合した。室温にて、手による振盪のみで溶解性を観察したところ、速やかに溶解した。その後、室温で50時間静置して析出の有無を観察したところ、均一状態を維持していた。化合物D-5は溶剤溶解性に優れることが確認された。化合物D-5は化合物10の合成例および特表2008-504371号公報の記載をもとに合成した。
【0317】
【化41】
【0318】
<比較例I-2>
下記式に示す化合物D-6をシクロヘキシルベンゼンに3重量%となるように混合した。室温にて、手による振盪のみで溶解性を観察したところ、固体の残留を確認した。さらに、100℃のホットプレート上で3分間加熱したが溶解し切らなかったため、さらに150℃に昇温して3分間加熱したところ溶解して均一状態となった。その後、室温で静置したところ、わずか2時間後に粉状固体の析出が観察された。化合物D-6は溶剤溶解性が悪いことが確認された。化合物D-6は化合物1の合成例および特開2014-111613号公報の記載をもとに合成した。
【0319】
【化42】
【0320】
[発光量子収率と最大発光波長の評価]
<実施例II-1>
本発明のイリジウム錯体化合物2である化合物10について、前述の実施例1におけると同様の方法で、発光量子収率、および最大発光波長の測定を行なった。発光量子収率は、化合物10の示す値を1とした相対値で示した。結果を表2に示す。
【0321】
<比較例II-1>
化合物10に代えて化合物D-5を用いた以外は実施例II-1と同様の操作で最大発光波長と発光量子収率を測定した。結果を表2に示す。
【0322】
【表2】
【0323】
表2より、本発明のイリジウム錯体化合物2である化合物10は、化合物D-5に比べて発光量子収率が明らかに大きい上に、最大発光波長が短く、緑色発光材料として色純度の高いものであることが分かる。
【0324】
<最大発光波長測定例>
下記式に示す化合物D-3および化合物D-4について、実施例II-1と同様の方法で最大発光波長を測定したところ、化合物D-3は517nm、化合物D-4は522nmであった。このことから、フェニル-ピリジン配位子のピリジン環の4位に2,6-置換のベンゼン環を導入すると、これを導入しない場合に比べて発光波長の長波長化を招き、緑色発光の色純度の悪化を招くことが分かる。化合物D-3及びD-4は特開2014-111613号公報の記載をもとに合成した。
【0325】
【化43】
【0326】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2017年11月29日付で出願された日本特許出願2017-229167、及び日本特許出願2017-229168に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0327】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 有機電界発光素子
図1