(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】セルロース分解能増強組成物及びセルロース分解能増強変異株
(51)【国際特許分類】
C12N 15/56 20060101AFI20231121BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231121BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20231121BHJP
C12P 19/14 20060101ALI20231121BHJP
A23K 30/18 20160101ALI20231121BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20231121BHJP
C12N 9/24 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
C12N15/56 ZNA
C12N1/21
C12N15/11 Z
C12P19/14 A
A23K30/18
A23K10/16
C12N9/24
(21)【出願番号】P 2019091981
(22)【出願日】2019-05-15
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】391009877
【氏名又は名称】雪印種苗株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504298291
【氏名又は名称】月島機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 大樹
(72)【発明者】
【氏名】北村 亨
(72)【発明者】
【氏名】本間 満
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】松鹿 昭則
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-238679(JP,A)
【文献】特開2017-163877(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0017916(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0024009(US,A1)
【文献】Masahiro Watanabe et al.,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2015年06月25日,Vol. 79, No. 11,pp. 1845-1851,DOI: 10.1080/09168451.2015.1058700
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
A23K 10/00-50/15
C12N 9/00- 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状菌細胞内で遺伝子発現誘導が可能なプロモーター、及び
前記プロモーターの下流に発現可能な状態で配置されたフェルロイルエステラーゼ遺伝子
を含む第1の遺伝子発現システム、並びに
糸状菌細胞内で遺伝子発現誘導が可能なプロモーター、及び
前記プロモーターの下流に発現可能な状態で配置されたGH10エンドキシラナーゼ遺伝子を含む第2の遺伝子発現システム
を含む、タラロマイセス(Talaromyces)属
に導入してそのセルロース分解能を増強させるための、セルロース分解能増強組成物。
【請求項2】
前記第1の遺伝子発現システムに含まれる前記プロモーターがGH3β-キシロシダーゼ遺伝子プロモーターである、請求項1に記載のセルロース分解能増強組成物。
【請求項3】
前記第2の遺伝子発現システムに含まれる前記プロモーターがGH10エンドキシラナーゼ遺伝子プロモーターである、請求項1又は2に記載のセルロース分解能増強組成物。
【請求項4】
前記第1及び第2の遺伝子発現システムに含まれる前記プロモーター及び前記遺伝子がタラロマイセス属に由来する、請求項1~3のいずれか一項に記載のセルロース分解能増強組成物。
【請求項5】
前記タラロマイセス属がタラロマイセス・セルロリティカス(T. cellulolyticus)である、請求項4に記載のセルロース分解能増強組成物。
【請求項6】
タラロマイセス・セルロリティカスのセルロース分解能増強変異株であって、
糸状菌細胞内で遺伝子発現誘導が可能なプロモーター、及び
前記プロモーターの下流に発現可能な状態で配置されたフェルロイルエステラーゼ遺伝子
を含む遺伝子発現システムが導入されており、
前記プロモーターが、キシラナーゼ遺伝子プロモーター、セルラーゼ遺伝子プロモーター、又はペクチナーゼ遺伝子プロモーターである、前記セルロース分解能増強変異株。
【請求項7】
前記プロモーターがGH3β-キシロシダーゼ遺伝子プロモーターである、請求項6に記載のセルロース分解能増強変異株。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のセルロース分解能増強組成物が導入された、タラロマイセス・セルロリティカスのセルロース分解能増強変異株。
【請求項9】
セルロース分解促進剤を製造する方法であって、
請求項6~8のいずれか一項に記載のセルロース分解能増強変異株を培地中で培養してその培養液を得る工程
を含む、前記方法。
【請求項10】
得られた培養液を菌体と培養上清に分離して培養上清を得る工程をさらに含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
得られた培養上清から固形物を除去する工程をさらに含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
得られた培養上清、又は固形物を除去して得られた溶液を乾燥させる工程をさらに含む、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
セルロース系バイオマスに対して、
請求項10~12のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたセルロース分解促進剤を接触させる工程を含む、植物体のセルロース分解促進方法。
【請求項14】
採取した家畜飼料用植物に対して、
請求項10~12のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたセルロース分解促進剤を接触させる工程を含む、サイレージ製造方法。
【請求項15】
乳酸菌を添加する工程をさらに含む、請求項
14に記載のサイレージ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース分解能増強組成物、セルロース分解能増強変異株、セルロース分解促進剤及びその製造方法、セルロース分解促進方法、並びにサイレージ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酪農において牛は主に牧草を飼料とするが、牧草が生育できない冬季期間では、牧草を貯蔵したサイレージを飼料とする必要がある。「サイレージ」とは、牧草等の飼料をサイロ等に詰めて貯蔵した家畜飼料であり、特に牧草をサイロ内で乳酸発酵させることによって長期保存を可能としたものである。サイレージは、本来は冬季期間に与える飼料であったが、現在では1年を通して牛に与える主たる飼料となっている。
【0003】
サイレージ調製用の牧草は、牧草適期、すなわち出穂始めと呼ばれる時期から出穂期までの概ね1週間~10日間に収穫しなければならない。この時期を過ぎれば、飼料の栄養価が減少し、繊維が粗剛になる。粗剛な繊維は消化性が悪く、結果として牛の採食量低下を引き起こす。採食量低下は泌乳量の低下に繋がるため消化性の良い繊維の給餌は畜産業界にとって重要事項である。
【0004】
ところが、近年では、台風の襲来、牧草収穫時期の長雨、日照不足による牧草の生育不良等によって適期に牧草の刈取りができない状況が頻発している。その結果、サイレージの栄養価低下及び繊維の粗剛化による採食量減少が、畜産業界における大きな問題となっている。
【0005】
サイレージにおける栄養価低下はサプリメント等の添加材や飼料設計により補うことが可能である。しかしながら、繊維が粗剛になり、消化性が不良となったサイレージに起因する採食量低下は、現在のところ有効な解決策がない。
【0006】
これまで、サイレージの消化性を改善し、牛の採食量低下を防止する方法として、牛に直接セルラーゼを含む酵素合剤を提供する方法が知られており、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ等を含む酵素合剤が既に市販されている。しかし、これらの酵素合剤が効果を奏するには一定量の添加が必要であり、コストが高い点が問題である。
【0007】
本発明は、牧草のサイロへの詰め込みの際に、セルラーゼを含む酵素を添加し、サイレージ貯蔵期間中にセルラーゼを含む酵素を牧草又は稲わらに作用させて繊維を部分的に分解し、そのサイレージを牛が採食した後のルーメン内消化性を向上させる技術である。サイレージ添加用のセルラーゼとしては、例えば、アクレモニウム(Acremonium)属の菌が生産するセルラーゼと、トリコデルマ(Trichoderma)属の菌が生産するセルラーゼとを、一定の割合で混合してなるサイレージ調製用セルラーゼ製剤(MA酵素)が過去に開発されている。しかし、これらはあくまでもサイレージの発酵品質改善効果を示したものであり、消化性改善効果は認められていない(特許文献1)。
【0008】
近年の異常気象によりサイレージは発酵品質だけではなく、消化性も大きな問題となってきたことから、発酵品質だけではなく、消化性をも改善し得る新たな技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、サイレージにおけるセルロースの分解を増強するための遺伝子及びそれを導入した糸状菌変異株を開発し、提供すると共に、消化性の高いサイレージを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、フェルロイルエステラーゼ遺伝子(feruloyl esterase)及びGlycoside Hydrolase family10エンドキシラナーゼ遺伝子(以下、GH10エンドキシラナーゼ遺伝子)等が導入されたタラロマイセス・セルロリティカス(Talaromyces cellulolyticus)変異株から得られる酵素が、採取した家畜飼料用植物においてセルロースの分解を増強し、サイレージの消化性を向上させる効果を示すことを見出した。本発明は上記新たな知見に基づくもので、以下を提供する。
(1)糸状菌細胞内で遺伝子発現誘導が可能なプロモーター、及び前記プロモーターの下流に発現可能な状態で配置されたフェルロイルエステラーゼ遺伝子を含む第1の遺伝子発現システム、並びに糸状菌細胞内で遺伝子発現誘導が可能なプロモーター、及び前記プロモーターの下流に発現可能な状態で配置されたGH10エンドキシラナーゼ遺伝子を含む第2の遺伝子発現システムを含む、タラロマイセス(Talaromyces)属におけるセルロース分解能増強組成物。
(2)前記第1の遺伝子発現システムに含まれる前記プロモーターがGH3β-キシロシダーゼ遺伝子プロモーターである、(1)に記載のセルロース分解能増強組成物。
(3)前記第2の遺伝子発現システムに含まれる前記プロモーターがGH10エンドキシラナーゼ遺伝子プロモーターである、(1)又は(2)に記載のセルロース分解能増強組成物。
(4)前記第1及び第2の遺伝子発現システムに含まれる前記プロモーター及び前記遺伝子がタラロマイセス属に由来する、(1)~(3)のいずれかに記載のセルロース分解能増強組成物。
(5)前記タラロマイセス属がタラロマイセス・セルロリティカス(T. cellulolyticus)である、(4)に記載のセルロース分解能増強組成物。
(6)糸状菌細胞内で遺伝子発現誘導が可能なプロモーター、及び前記プロモーターの下流に発現可能な状態で配置されたフェルロイルエステラーゼ遺伝子を含む遺伝子発現システムが導入された、タラロマイセス・セルロリティカスのセルロース分解能増強変異株。
(7)前記プロモーターがGH3β-キシロシダーゼ遺伝子プロモーターである、(6)に記載のセルロース分解能増強変異株。
(8)(1)~(5)のいずれかに記載のセルロース分解能増強組成物が導入された、タラロマイセス・セルロリティカスのセルロース分解能増強変異株。
(9)セルロース分解促進剤を製造する方法であって、(6)~(8)のいずれかに記載のセルロース分解能増強変異株を培地中で培養してその培養液を得る工程を含む、前記方法。
(10)得られた培養液を菌体と培養上清に分離して培養上清を得る工程をさらに含む、(9)に記載の製造方法。
(11)得られた培養上清から固形物を除去する工程をさらに含む、(10)に記載の製造方法。
(12)得られた培養上清、又は固形物を除去して得られた溶液を乾燥させる工程をさらに含む、(10)又は(11)に記載の製造方法。
(13)(6)~(8)のいずれかに記載のセルロース分解能増強変異株を培地中で培養してその培養液を得る工程、及び得られた培養液を菌体と培養上清に分離して培養上清を得る工程を含む方法により得られた、セルロース分解促進剤。
(14)セルロース系バイオマスに対して、(13)に記載のセルロース分解促進剤を接触させる工程を含む、植物体のセルロース分解促進方法。
(15)採取した家畜飼料用植物に対して、(13)に記載のセルロース分解促進剤を接触させる工程を含む、サイレージ製造方法。
(16)乳酸菌を添加する工程をさらに含む、(15)に記載のサイレージ製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセルロース分解能増強組成物、及びセルロース分解能増強変異株によれば、採取した家畜飼料用植物におけるセルロースの分解を増強することができる。
【0013】
本発明のサイレージ製造方法によれば、消化性の高いサイレージを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】各種酵素液(MA酵素、CBF酵素、CFX酵素)における各種酵素活性(アビセラーゼ活性、CMCase活性、エンドキシラナーゼ活性、フェルロイルエステラーゼ活性)の測定結果(各n=2の平均値)を示す図である。
【
図2】MA酵素又はCBF酵素を用いて調製された稲わらサイレージ(過剰量添加試験;第1試験区)における遊離フェルラ酸濃度(平均値、n=3)を示す図である。乳酸菌、MA酵素、CBF酵素のうちサイレージに添加されたものの組合せを下部に示す。*はP<0.05、**はP<0.01(Tukey検定)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図3】MA酵素又はCBF酵素を用いて調製された稲わらサイレージ(規定量添加試験;第2試験区)における遊離フェルラ酸濃度(平均値、n=3)を示す図である。乳酸菌、MA酵素、CBF酵素のうちサイレージに添加されたものの組合せを下部に示す。*はP<0.05(Tukey検定)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図4】MA酵素又はCBF酵素を用いて調製された牧草(チモシー)サイレージ(規定量添加試験;第3試験区)における遊離フェルラ酸濃度及び遊離クマル酸濃度(平均値、n=3)を示す図である。乳酸菌、MA酵素、CBF酵素のうちサイレージに添加されたものの組合せを下部に示す。**はP<0.01(Tukey検定)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図5】MA酵素又はCBF酵素を用いて調製された牧草(リードカナリーグラス)サイレージ(規定量添加試験;第3試験区)における遊離フェルラ酸濃度及び遊離クマル酸濃度(平均値、n=3)を示す図である。乳酸菌、MA酵素、CBF酵素のうちサイレージに添加されたものの組合せを下部に示す。*はP<0.05、**はP<0.01(Tukey検定)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図6】GH10酵素を用いて調製された稲わらサイレージ(過剰量添加試験;第4試験区)における遊離フェルラ酸濃度(平均値、n=3)を示す図である。乳酸菌、MA酵素、GH10酵素のうちサイレージに添加されたものの組合せを下部に示す。**はP<0.01(Tukey検定)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図7】GH10酵素又はGH11酵素を用いて調製された稲わらサイレージ(過剰量添加試験;第5試験区)における遊離フェルラ酸濃度(平均値、n=3)を示す図である。乳酸菌、MA酵素、GH10酵素、GH11酵素のうちサイレージに添加されたものの組合せを下部に示す。*はP<0.05(Tukey検定)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図8】MA酵素又はCFX酵素を用いて調製された稲わらサイレージ(規定量添加試験;第6試験区)における遊離フェルラ酸濃度及び遊離クマル酸濃度(平均値、n=3)を示す図である。0は、測定値が検出限界を下回ったことを示す。乳酸菌、MA酵素、CFX酵素のうちサイレージに添加されたものの組合せを下部に示す。*はP<0.05、**はP<0.01(Tukey検定)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図9】MA酵素又はCFX酵素を用いて調製された牧草(チモシー2番草)サイレージ(規定量添加試験;第7試験区)における遊離フェルラ酸濃度及び遊離クマル酸濃度(平均値、n=3)を示す図である。乳酸菌、MA酵素、CFX酵素のうちサイレージに添加されたものの組合せを下部に示す。*はP<0.05、**はP<0.01(Tukey検定)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図10】MA酵素又はCFX酵素を用いて調製された牧草(冷凍チモシー1番草)サイレージ(規定量添加試験;第8試験区)における遊離フェルラ酸濃度及び遊離クマル酸濃度(平均値、n=3)を示す図である。乳酸菌、MA酵素、CFX酵素のうちサイレージに添加されたものの組合せを下部に示す。**はP<0.01(Tukey検定)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.セルロース分解能増強組成物
1-1.概要
本発明の第1の態様は、セルロース分解能増強組成物である。
本態様のセルロース分解能増強組成物は、フェルロイルエステラーゼ遺伝子、及び/又はGH10エンドキシラナーゼ遺伝子を含む遺伝子発現システムを有効成分とする組成物である。本態様のセルロース分解能増強組成物は、稲わらのような粗剛化した繊維を含む牧草であってもサイレージ発酵品質を向上させ、採食後の消化率を改善することができる。
【0016】
1-2.用語の定義
本明細書で頻用する以下の用語について定義する。
「セルロース」とは、分子式(C6H10O5)nで表される多糖類で、グルコースがβ-1,4グルコシド結合により直鎖状に重合したグルコースポリマーである。セルロースは、全ての植物の細胞壁や植物繊維の構成成分として存在する。
【0017】
「ヘミセルロース」とは、陸上植物細胞の細胞壁を構成する多糖類のうち、セルロースとペクチン以外の不溶性多糖類の総称である。例えば、キシラン、マンナン、グルクロノキシラン、グルコマンナン等が該当する。
【0018】
「キシラン」とは、β-1,4結合したD-キシロースを主鎖として有する糖鎖であり、この主鎖に対して、アセチル基、L-アラビノース(O-2位及び/又はO-3位)、4-メチル-D-グルクロン酸(0-2位)が部分的に修飾される場合もある。キシランは細胞壁に存在するヘミセルロースの主成分である。
【0019】
「セルラーゼ」とは、セルロースを、グルコース、セロビオース及びセロオリゴ糖に加水分解する酵素反応系を触媒する酵素群の総称であり、その作用様式により、エキソセルラーゼ、エンドセルラーゼ及びセロビアーゼ等に分類される。セルラーゼに含まれるこれら酵素の作用により、セルロースが最終的にグルコースまで分解される。
【0020】
「フェルロイルエステラーゼ」とは、フェルラ酸エステルを加水分解する酵素である。「フェルラ酸エステル」は、キシラン鎖側鎖のアラビノース残基とフェルラ酸のエステル化合物として細胞壁中で形成される。フェルラ酸部分が光二量化すると、キシラン鎖同士が架橋され、結果として、細胞壁を構成しているキシラン鎖やセルロース鎖に加水分解酵素が接近しにくくなる。それ故、細胞壁を構成しているキシラン鎖やセルロース鎖が分解されにくくなる。逆に、フェルロイルエステラーゼによってフェルラ酸エステルが加水分解されれば、キシラン鎖やセルロース鎖が加水分解され易くなり、細胞壁の分解が促進される。本明細書においてフェルロイルエステラーゼは、例えば、配列番号1で示すアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
【0021】
「エンドキシラナーゼ」とは、キシロース主鎖のD-キシロースのβ-1,4結合を加水分解する酵素である。エンドキシラナーゼは、アミノ酸配列の相同性により、GH10とGH11に分類される(Coutinho,P.M.ら、Recent Advances in Carbohydrate Bioengineering, 246,3-12(1999))。GH10エンドキシラナーゼは、一般的に分子量が30kDa以上であるが、GH11のキシラナーゼは一般的に分子量が20kDa程度と比較的小さい(Beaugrandら、Carbohydr.Res.339,2529-2540(2004))。本明細書においてGH10エンドキシラナーゼは、例えば、配列番号2で示すアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
【0022】
「糸状菌」とは、菌類のうち、菌糸と呼ばれる管状の細胞から構成されているものの総称である。糸状菌は、限定されないが、例えばアクレモニウム属、アスペルギルス(Aspergillus)属、クリソスポリウム(Chrysosporium)属、フサリウム(Fusarium)属、フミコーラ(Humicola)属、ミセリオフトラ属(Myceliophthora)、ニューロスポラ(Neurospora)属、ペニシリウム(Penicillium)属、ピロマイセス(Piromyces)属、タラロマイセス属、サーモアスカス(Thermoascaceae)属、チエラビア(Thielavia)属、又はトリコデルマ(Trichoderma)属等を含む。
【0023】
本明細書における「トリコデルマ(Trichoderma)属」の具体例として、限定はしないが、トリコデルマ・リーセイ(T. reesei)、トリコデルマ・ビリデ(T. viride)、トリコデルマ・アトロビリデ(T. atroviride)、又はトリコデルマ・ロンジブラチアタム(T. longibrachiatum)が挙げられる。
【0024】
本明細書における「タラロマイセス(Talaromyces)属」の具体例として、限定はしないが、例えばタラロマイセス・セルロリティカス(T. cellulolyticus)、タラロマイセス・ベルサチリス(T. versatilis)、タラロマイセス・ベルキュロサス(T. verruculosus)、タラロマイセス・スティピタタス(T. stipitatus)、タラロマイセス・フニクロサス(T. funiculosus)、又はタラロマイセス・ピノフィラス(T. pinophilus)が挙げられる。
【0025】
本明細書における「ペニシリウム(Penicillium)属」の具体例として、限定はしないが、例えばペニシリウム・フニクロサム(P. funiculosum)が挙げられる。
【0026】
本明細書で使用する糸状菌は、野生株又は変異株のいずれも含むものとする。例えば、T.セルロリティカスであれば、野生株の他に寄託変異株であるアクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P-18508、特許第4998991号)、CF-2612株(FERM P-21290、特許第4986038号)、及びTN株(FERM BP-685、特許第1504657号)が含まれる。なお、アクレモニウム・セルロリティカスはT.セルロリティカスの旧名であり、同一の種を意味する(Fujiiら、FEMS Microbiol. Lett. 351,32-41 (2014))。本明細書では、以降、A.セルロリティカスをT.セルロリティカスと表記する。
【0027】
本明細書において「遺伝子発現システム」とは、生体内に導入された場合に遺伝子を発現し得る遺伝子発現系をいう。遺伝子発現システムは、必須の構成要素として、プロモーター、コード領域、ターミネーター(転写終結配列)を含み、任意選択的な要素として、エンハンサー、イントロン、ポリアデニル化シグナル、複製開始点、選択マーカー等を含む。遺伝子発現システムの具体例としては、限定はしないが、複製開始点を含む環状DNA、すなわちプラスミドや、直鎖状DNAが挙げられる。
【0028】
本明細書において「選択マーカー」とは、形質転換後の細胞集団から、実際に形質転換された細胞を選別する目的、或いは形質転換された細胞の子孫細胞から遺伝子発現システムを維持している細胞を選別する目的で使用される遺伝子である。具体的には、代謝遺伝子を欠損している栄養要求性変異株を形質転換宿主とする場合、その代謝遺伝子を選択マーカー遺伝子として用いることができる。
【0029】
本明細書において「セルフクローニング」とは、宿主生物に由来する配列のみからなる遺伝子発現システムをその宿主生物に導入する遺伝子改変技術をいう。例えば、T.セルロリティカスが宿主生物の場合、T.セルロリティカス由来の配列のみからなる遺伝子発現システムをT.セルロリティカスに導入する遺伝子改変技術が該当する。セルフクローニングによる遺伝子改変技術は、異種性の配列を含む遺伝子改変技術に比べて、一般的に安全性が高いと考えられている。
【0030】
本明細書において「糸状菌細胞内で安定的に維持される」とは、遺伝子発現システムに含まれる遺伝情報が実質的に同一の状態で、かつ糸状菌細胞内で世代を越えて維持されることをいう。具体的には、染色体DNAの複製時に同時に複製され、娘細胞の少なくとも一部に分配されることをいい、所定の培養条件下で増殖する細胞の実質的に全てがその遺伝子発現システムを有していることをいう。遺伝子発現システムがプラスミドである場合、糸状菌細胞内で安定的に維持されるためには、通常、プラスミドが選択マーカーを含んでいる必要がある。また、遺伝子発現システムが直鎖状DNAである場合、糸状菌細胞内で安定的に維持されるためには、その遺伝子発現システムが染色体DNAに組み込まれることが必要である。
【0031】
本明細書においてアミノ酸配列の「同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両アミノ酸配列のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、ペプチドの全アミノ酸残基数に対する比較するペプチドのアミノ酸配列中の同一アミノ酸残基数の割合(%)をいう。
【0032】
本明細書において「複数個のアミノ酸残基」とは、2~30個、2~14個、2~10個、2~8個、2~6個、2~5個、2~4個、又は2~3個のアミノ酸残基をいう。
【0033】
本明細書において塩基配列の「同一性」とは、二つの塩基配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両塩基配列の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、塩基配列の全塩基数に対する比較する塩基配列中の同一塩基数の割合(%)をいう。
【0034】
本明細書において「複数個の塩基」とは、2~30個、2~14個、2~10個、2~8個、2~6個、2~5個、2~4個、又は2~3個の塩基をいう。
【0035】
1-3.構成
1-3-1.構成成分
本発明のセルロース分解能増強組成物は、有効成分及びそれ以外の成分によって構成されている。以下、各構成成分について具体的に説明をする。
【0036】
(1)有効成分
本態様のセルロース分解能増強組成物は、必須の有効成分として、フェルロイルエステラーゼ遺伝子を含む第1遺伝子発現システム及び/又はGH10エンドキシラナーゼ遺伝子を含む第2遺伝子発現システムを含む。
【0037】
(i)第1遺伝子発現システム
「第1(の)遺伝子発現システム」は、糸状菌細胞内で遺伝子発現誘導が可能なプロモーター、及び当該プロモーターの下流に発現可能な状態で配置されたフェルロイルエステラーゼ遺伝子を含む。
【0038】
「糸状菌細胞内で遺伝子発現誘導が可能なプロモーター」(本明細書では、以下しばしば単に「プロモーター」と略記する)は、本発明の遺伝子発現システムを糸状菌細胞内に導入した時に遺伝子発現システムに包含される目的の遺伝子及び/又はマーカー遺伝子の発現を誘導し得る任意のプロモーターである。プロモーターの種類は、特に限定はしない。一般的には、例えば、発現対象である目的の遺伝子を、宿主内で過剰に発現可能な過剰発現型プロモーター、宿主内で恒常的に発現可能な構成的活性型プロモーター、宿主の発生段階に応じて発現制御できる時期特異的活性型プロモーター、宿主内で自由に発現制御できる発現誘導型プロモーター、そして宿主の特定組織や特定部位で選択的に発現することができる部位特異的プロモーター等が知られている。本発明のセルロース分解能増強組成物の使用用途を勘案して適宜定めればよい。
【0039】
本発明の遺伝子発現システムで使用可能なプロモーターとしては、例えば、限定しないが、セルラーゼ遺伝子プロモーター、キシラナーゼ遺伝子プロモーター、ペクチナーゼ遺伝子プロモーター、又は他の酵素遺伝子のプロモーターが挙げられる。
【0040】
セルラーゼ遺伝子プロモーターとしては、例えば、エンドセルラーゼ(EC 3.2.1.4)、エキソセルラーゼ(EC 3.2.1.91、EC 3.2.1.176)、又はセロビアーゼ(EC 3.2.1.21)等の遺伝子プロモーターを使用することができる。なお、各酵素名に付したEC番号は国際生化学分子生物学連合の酵素委員会によって付された酵素番号を示す(以下、同様とする)。
【0041】
キシラナーゼ遺伝子プロモーターとしては、例えば、エンドキシラナーゼ(EC 3.2.1.8)、キシラン 1,4-β-キシロシダーゼ(EC 3.2.1.37)、endo-1,3-β-キシラナーゼ(EC 3.2.1.32)、キシラン 1,3-β-キシロシダーゼ(EC 3.2.1.72)、又はα-キシロシダーゼ等の遺伝子プロモーターを使用することができる。
【0042】
ペクチナーゼ遺伝子プロモーターとしては、例えば、ポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.15)、ラムノガラクツロナンアセチルエステラーゼ(EC 3.1.1.86)、ペクチンエステラーゼ(EC 3.1.1.11)、α-L-ラムノシダーゼ(EC 3.2.1.40)、α-L-アラビノフラノシダーゼ(EC 3.2.1.55)、β-L-アラビノシダーゼ(EC 3.2.1.88)、アラビナン エンド-1,5-α-L-アラビノシダーゼ(EC 3.2.1.99)、マンナン 1,4-マンノビオシダーゼ(EC 3.2.1.100)、マンナン エンド-1,6-α-マンノシダーゼ(EC 3.2.1.101)、α-マンノシダーゼ(EC 3.2.1.24)、β-マンノシダーゼ(EC 3.2.1.25)、1,6-α-D-マンノシダーゼ(EC 3.2.1.163)、ラムノガラクツロナンヒドロラーゼ(EC 3.2.1.171)、ラムノガラクツロナン ガラクツロノヒドロラーゼ(EC 3.2.1.173)、ラムノガラクツロナン ラムノヒドロラーゼ(EC 3.2.1.174)等の遺伝子プロモーターを使用することができる。
【0043】
他の酵素遺伝子のプロモーターとしては、例えば、フェルロイルエステラーゼ(EC 3.1.1.73)、タンナーゼ(EC 3.1.1.20)、クチナーゼ(EC 3.1.1.74)、グルコノラクトナーゼ(EC 3.1.1.17)、イヌリナーゼ(EC 3.2.1.7)、デキストラーゼ(EC 3.2.1.11)、キチナーゼ(EC 3.2.1.14)、β‐ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.23)、β-フルクトフラノシダーゼ(EC 3.2.1.26)、トレハラーゼ(EC 3.2.1.28)、エンド-1,3(4)-β-グルカナーゼ(EC 3.2.1.6)、α-アミラーゼ(EC 3.2.1.1.)、β-アミラーゼ(EC 3.2.1.2)、エキソ-1,4-α-グルコシダーゼ(グルコアミラーゼ)(EC 3.2.1.3)、α-グルコシダーゼ(EC 3.2.1.20)、イソアミラーゼ(EC3.2.1.68)、イソプルラナーゼ(EC 3.2.1.57)、又はエンド-1,3(4)-β-グルカナーゼ(EC 3.2.1.6)等の遺伝子プロモーターを使用することができる。
【0044】
上記プロモーターの中でも、限定はしないが、エキソセルラーゼ(EC 3.2.1.91、EC 3.2.1.176)として、GH7エキソセルラーゼ若しくはGH6エキソセルラーゼ;エンドセルラーゼ(EC 3.2.1.4)として、GH7エンドセルラーゼ若しくはGH5エンドセルラーゼ;セロビアーゼ(EC 3.2.1.21)として、GH3セロビアーゼ若しくはGH1セロビアーゼ;キシラン 1,4-β-キシロシダーゼ(EC 3.2.1.37)として、GH3β-キシロシダーゼ若しくはGH43β-キシロシダーゼ;フェルロイルエステラーゼ(EC 3.1.1.73)として、フェルロイルエステラーゼ;又はエンドキシラナーゼ(EC 3.2.1.8)として、GH10エンドキシラナーゼ若しくはGH11エンドキシラナーゼの遺伝子プロモーターは好適である。
【0045】
プロモーターが由来する生物種は、糸状菌に含まれる種であれば限定しない。例えば、前述の定義に記載した糸状菌種が挙げられる。
【0046】
例えば、T.セルロリティカス由来のプロモーターの例は、限定はしないが、GH7エキソセルラーゼとして、Cel7A;GH7エンドセルラーゼとしてCel7B;GH3セロビアーゼとして、Bgl3A;GH6エキソセルラーゼとして、Cel6A;GH5エンドセルラーゼとして、Cel5A;GH3β-キシロシダーゼとして、Bxy3B;フェルロイルエステラーゼとして、FaeB;GH10エンドキシラナーゼとして、Xyl10A;GH11エンドキシラナーゼとして、Xyl11A、Xyl11B、Xyl11C、Xyl11E、Xyl11F、及びXyl11Gの遺伝子プロモーターが挙げられる。本態様の第1の遺伝子発現システムに使用されるプロモーターの具体例として、配列番号3で示す塩基配列からなるbxy3B遺伝子プロモーター、配列番号3で示す塩基配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有する配列からなりbxy3B遺伝子プロモーターと同等以上の発現誘導活性を有するプロモーター、又は配列番号3で示す塩基配列において1個又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなりbxy3B遺伝子プロモーターと同等以上の発現誘導活性を有するプロモーターが挙げられる。
【0047】
第1の遺伝子発現システムに使用される「フェルロイルエステラーゼ遺伝子」は、前記フェルロイルエステラーゼをコードする遺伝子、又はフェルロイルエステラーゼ活性を有するペプチドをコードする遺伝子をいう。本発明に使用されるフェルロイルエステラーゼ遺伝子の由来生物種は、限定はしない。例えば、糸状菌由来、例えばタラロマイセス属由来のフェルロイルエステラーゼ遺伝子が挙げられる。ここで言うフェルロイルエステラーゼは、限定はしないが、例えば、配列番号1で示すアミノ酸配列からなるT.セルロリティカス由来のフェルロイルエステラーゼB(FaeB)が挙げられる。その他にも、配列番号4で示すアミノ酸配列からなるAspergillus niger由来のフェルロイルエステラーゼ(VRIESら, APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,vol63,p4638-4644(1997))、配列番号5で示すアミノ酸配列からなるPenicillium funiculosum由来のフェルロイルエステラーゼ(Kroonら, Eur. J. Biochem. vol267, 6740-6752 (2000))、及び配列番号6で示すアミノ酸配列からなるAspergillus niger由来のフェルロイルエステラーゼ(Anthonyら, Protein Expression and Purification,vol37,p126-133(2004))の他、配列番号1、4、5又は6で示すアミノ酸配列に対して85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上のアミノ酸同一性を有する塩基配列からなり、かつT.セルロリティカス由来のFaeBと同等以上の酵素活性を有するポリペプチド、又は配列番号1、4、5又は6で示すアミノ酸配列において1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加され、かつT.セルロリティカス由来のFaeBと同等以上の酵素活性を有するポリペプチドが挙げられる。そのようなフェルロイルエステラーゼをコードするフェルロイルエステラーゼ遺伝子の具体例として、限定はしないが、例えば、配列番号7で示す塩基配列からなるfaeB遺伝子、配列番号8、9又は10で示す塩基配列からなるフェルロイルエステラーゼ遺伝子が挙げられる。その他にも、配列番号7、8、9又は10で示す塩基配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の塩基同一性を有する塩基配列からなり、それらがコードするポリペプチドがT.セルロリティカス由来のFaeBと同等以上の活性を有するポリヌクレオチド、配列番号7、8、9又は10で示す塩基配列において1個又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、それらがコードするポリペプチドがT.セルロリティカス由来のFaeBと同等以上の活性を有するポリヌクレオチド、配列番号1、4、5又は6で示すアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなり、それらがコードするポリペプチドがT.セルロリティカス由来のFaeBと同等以上の活性を有するポリヌクレオチドが挙げられる。「フェルロイルエステラーゼ遺伝子」は、プロモーター領域やターミネーター領域を除いたコード領域を意味するものとするが、当該コード領域はイントロンを含む遺伝子配列、例えば又は配列番号11で示すゲノム配列であってもよく、或いはイントロン配列を含まない遺伝子配列、例えば配列番号7で示すcDNA配列であってもよい。
【0048】
(ii)第2の遺伝子発現システム
「第2の遺伝子発現システム」は、糸状菌細胞内で遺伝子発現誘導が可能なプロモーター、及び当該プロモーターの下流に発現可能な状態で配置されたGH10エンドキシラナーゼ遺伝子を含む。
【0049】
本態様の第2の遺伝子発現システムに使用されるプロモーターは、前記第1の遺伝子発現システムに記載のプロモーターを使用することができる。本態様の第2の遺伝子発現システムに使用されるプロモーターの具体例として、配列番号12で示す塩基配列からなるGH10エンドキシラナーゼA(xyl10A)遺伝子プロモーター、配列番号12で示す塩基配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有する配列からなりGH10エンドキシラナーゼA(xyl10A)遺伝子プロモーターと同等以上の発現誘導活性を有するプロモーター、又は配列番号12で示す塩基配列において1個又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなりGH10エンドキシラナーゼA(xyl10A)遺伝子プロモーターと同等以上の発現誘導活性を有するプロモーターが挙げられる。
【0050】
第2の遺伝子発現システムに使用される「GH10エンドキシラナーゼ遺伝子」は、前記GH10エンドキシラナーゼをコードする遺伝子、又はGH10エンドキシラナーゼ活性を有するペプチドをコードする遺伝子をいう。本発明に使用されるGH10エンドキシラナーゼ遺伝子の由来生物種は、限定はしない。例えば、糸状菌由来、例えばタラロマイセス属由来のGH10エンドキシラナーゼ遺伝子が挙げられる。ここで言うGH10エンドキシラナーゼは、限定はしないが、配列番号2で示すアミノ酸配列からなるT.セルロリティカス由来のGH10エンドキシラナーゼA(Xyl10A)が挙げられる。その他にも、配列番号13で示すアミノ酸配列からなるPenicillium funiculosum由来のGH10エンドキシラナーゼ(Lafondら,Microbial Cell Factories 10;20(2011))、配列番号2、13で示すアミノ酸配列に対して85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつT.セルロリティカス由来のXyl10Aと同等以上の酵素活性を有するポリペプチド、又は配列番号2,13で示すアミノ酸配列において1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加され、かつT.セルロリティカス由来のXyl10Aと同等以上の酵素活性を有するポリペプチドが挙げられる。そのようなGH10エンドキシラナーゼをコードするGH10エンドキシラナーゼ遺伝子の具体例として、限定はしないが、例えば、配列番号14で示す塩基配列からなるT.セルロリティカス由来のxyl10A遺伝子、配列番号15で示す塩基配列からなるGH10エンドキシラナーゼ遺伝子が挙げられる。その他にも、配列番号14、又は15で示す塩基配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の塩基同一性を有する塩基配列からなり、それらがコードするポリペプチドがT.セルロリティカス由来のXyl10Aと同等以上の活性を有するポリヌクレオチド、配列番号14、又は15で示す塩基配列において1個又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、それらがコードするポリペプチドがT.セルロリティカス由来のXyl10Aと同等以上の活性を有するポリヌクレオチド、配列番号2,13で示すアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなり、それらがコードするポリペプチドがT.セルロリティカス由来のXyl10Aと同等以上の活性を有するポリヌクレオチドが挙げられる。「GH10エンドキシラナーゼ遺伝子」はプロモーター領域やターミネーター領域を除いたコード領域を意味するものとするが、当該コード領域はイントロンを含む遺伝子配列、例えば又は配列番号16で示すゲノム配列であってもよく、或いはイントロン配列を含まない遺伝子配列、例えば配列番号14で示すcDNA配列であってもよい。
【0051】
(iii)各遺伝子発現システムの構成
本態様の第1及び/又は第2の遺伝子発現システムは、糸状菌細胞内で安定的に維持され得るものであれば、環状DNAでもよく、又は直鎖状DNAでもよい。本態様の第1及び/又は第2の遺伝子発現システムが環状DNAである場合、糸状菌細胞内で安定的に維持されるプラスミドであってもよい。ここでいう糸状菌細胞内で安定的に維持されるプラスミドは、限定しないが、例えば、アスペルギルス属用自律複製型ベクターのpAUR316 DNA又はpPTR II DNA(タカラバイオ株式会社)が挙げられる。
【0052】
本態様の第1及び/又は第2の遺伝子発現システムは、トランスポザーゼ認識配列を含んでもよい。
【0053】
第1及び/又は第2の遺伝子発現システムを構成するプロモーター、及び/又は遺伝子は、互いに同一生物種由来であってもよいし、異なる生物種由来であってもよい。また、それらの遺伝子発現システムを導入する宿主由来であってもよいし、宿主とは異なる生物種由来であってもよい。例えば、本態様のセルロース分解能増強組成物を用いて、セルフクローニングによってT.セルロリティカスを形質転換する場合、第1及び/又は第2の遺伝子発現システムは、全てT.セルロリティカスのみに由来する塩基配列とすることができる。
【0054】
本態様のセルロース分解能増強組成物は、必須の有効成分として、第1の遺伝子発現システムのみを含んでもよいし、第2の遺伝子発現システムのみを含んでもよい。或いは、本態様のセルロース分解能増強組成物は、必須の有効成分として第1及び第2の遺伝子発現システムの両方を含んでもよい。
【0055】
本態様のセルロース分解能増強組成物は、選択的な構成成分として選択マーカーを含むことができる。選択マーカーは、1遺伝子システム当たりに1以上含むことができる。通常、第1遺伝子発現システムと第2遺伝子発現システムでは、異なる選択マーカーが使用されるが、本発明では特段の制限はない。遺伝子発現システム間の選択マーカーは同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0056】
各選択マーカーは、同一の、又は異なるプロモーターの下流に連結され、その制御下に配置されている。このプロモーターは、前述の糸状菌細胞内で遺伝子発現誘導が可能なプロモーターであれば限定はしない。例えば、各遺伝子発現システムの必須の構成成分であるフェルロイルエステラーゼ遺伝子又はGH10エンドキシラナーゼ遺伝子を発現制御するプロモーターと同一のプロモーターであってもよいし、異なるプロモーターであってもよい。第1発現システムと第2発現システムのそれぞれに含まれる選択マーカーの発現を制御するプロモーターが、同一であってもよいし、異なっていてもよい。プロモーターの具体的な構成については、「(i)第1遺伝子発現システム」の項に記載のプロモーターに準ずる。
【0057】
(2)有効成分以外の成分
有効成分以外の成分は、特に限定はしない。例えば、マーカー遺伝子発現システム、担体、他の酵素等が挙げられる。以下、それぞれの成分について具体的に説明をする。
【0058】
(2-1)マーカー遺伝子発現システム
本態様のセルロース分解能増強組成物は、必要に応じて、マーカー遺伝子発現システムを含むことができる。
【0059】
本明細書において「マーカー遺伝子発現システム」とは、前記第1及び第2遺伝子発現システムとは独立した、選択マーカーを含む遺伝子発現システムをいう。したがって、マーカー遺伝子発現システムには、原則としてフェルロイルエステラーゼ遺伝子やGH10エンドキシラナーゼ遺伝子が含まれない。
【0060】
本態様のマーカー遺伝子発現システムに使用されるマーカー遺伝子は、形質転換体を選別する目的で使用できるものであれば特に限定しないが、例えば、薬剤耐性遺伝子や栄養要求性相補遺伝子を使用することができる。薬剤耐性遺伝子としては、例えばデストマイシン、ベノミル、オリゴマイシン、ハイグロマイシン、G418、ブレオマイシン、フレオマイシン、フォスフィノスリシン等を使用することができる。栄養要求性相補遺伝子としては、pyrF、pyrG、argB、trpC、niaD等を使用することができる。
【0061】
本態様のマーカー遺伝子発現システムに使用されるマーカー遺伝子は、本態様のセルロース分解能増強組成物が導入される生物に応じて選択することができる。例えば、本態様のセルロース分解能増強組成物でオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(pyrF)遺伝子欠損型ウラシル要求性株を形質転換する場合、マーカー遺伝子としてpyrF遺伝子を使用することができる。本態様のマーカー遺伝子発現システムに使用されるプロモーターは限定しない。例えば、上記「(1)有効成分(i)第1遺伝子発現システム」において「糸状菌細胞内で遺伝子発現誘導が可能なプロモーター」として挙げたプロモーターの中から選択してもよく、或いはpyrF遺伝子プロモーターを使用してもよい。
【0062】
マーカー遺伝子発現システムは、環状DNAであってもよいし、直鎖状DNAであってもよい。
【0063】
本態様のマーカー遺伝子発現システムは、第1及び/又は第2の遺伝子発現システムの配列が由来する種と同一の種に由来する配列以外の配列を含んでもよく、或いは第1及び/又は第2の遺伝子発現システムの配列が由来する種と同一の種に由来する配列以外の配列を実質的に含まないものとしてもよい。例えば、本態様のセルロース分解能増強組成物でセルフクローニングによってT.セルロリティカスを形質転換する場合、本態様のマーカー遺伝子発現システムは、T.セルロリティカスに由来する配列以外の配列を実質的に含まないものとすることができる。
【0064】
(2-2)担体
本態様のセルロース分解能増強組成物は、必要に応じて製薬上許容可能な担体を含むことができる。
製薬上許容可能な担体とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。本態様のセルロース分解能増強組成物は、有効成分が核酸であるため、核酸を保存や移動に際して、安定的に維持し得る担体が好適である。例えば、溶媒、賦形剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0065】
溶媒は、例えば、水若しくはそれ以外の水溶液、又は有機溶剤のいずれであってもよい。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、TE緩衝液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0066】
賦形剤には、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖、金属塩、クエン酸、酒石酸、グリシン、ポリエチレングリコール、プルロニック、カオリン、ケイ酸、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0067】
充填剤としては、ワセリン、前記糖及び/又はリン酸カルシウムが例として挙げられる。
【0068】
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
【0069】
流動添加調節剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
【0070】
このような担体は、主として剤形形成を容易にし、また剤形及び薬剤効果を維持する他、有効成分である第1及び第2の遺伝子発現システムの酵素等による分解を防止又は回避するために用いられるものであって、必要に応じて適宜使用すればよい。
【0071】
また、本態様のセルロース分解能増強組成物には、糸状菌細胞の形質転換用の成分を含めてもよい。糸状菌細胞の形質転換用の成分には、例えばD-ソルビトール、塩化カルシウム、トリス-塩酸緩衝液、ポリエチレングリコール400等が挙げられる。
【0072】
1-3-2.使用方法
本態様のセルロース分解能増強組成物の使用方法は、特に限定しない。例えば、本態様のセルロース分解能増強組成物を宿主糸状菌に導入して、セルロース分解能が増強された形質転換体を得てもよい。宿主糸状菌は、限定はしない。例えば、セルラーゼ生産菌が挙げられる。
【0073】
セルラーゼ生産菌が、例えばT.セルロリティカス変異株の場合、限定しないが、前術のC1株、CF‐2612株、TN株又はそれらの変異株に由来するさらなる変異株であってもよい。なお、セルラーゼ生産菌、及びセルロース分解能が増強された形質転換体については、次章「2.セルロース分解能増強変異株」で詳述するので、ここでの説明は省略する。
【0074】
1-4.効果
本態様のセルロース分解能増強組成物を糸状菌に導入することで、多量のフェルロイルエステラーゼ及び/又はGH10エンドキシラナーゼを生産する形質転換体を得ることができる。その形質転換体から得られる培養液、培養上清は、高いセルロース分解能を有し、サイレージに添加することで、植物体を構成するセルロース等の分解を促進し、消化性の向上したサイレージを得ることができる。
【0075】
2.セルロース分解能増強変異株
2-1.概要
本発明の第2の態様は、セルロース分解能増強変異株である。
本態様のセルロース分解能増強変異株は、第1態様のセルロース分解能増強組成物が導入されたセルラーゼ生産菌の変異株である。
【0076】
本態様のセルロース分解能増強変異株では、所定の培養条件下において培養することにより、第1態様の組成物導入前に比べて、フェルロイルエステラーゼ及び/又はGH10エンドキシラナーゼの発現レベルが有意に増加している。
【0077】
2-2.構成
本態様のセルロース分解能増強変異株は、第1態様のセルロース分解能増強組成物が導入されたセルラーゼ生産菌の変異株である。
【0078】
本態様で導入されるセルロース分解能増強組成物の構成は、第1態様のセルロース分解能増強組成物における「1-3.構成」に記載の内容と実質的に同一である。それ故、ここでは、その具体的な説明は省略する。
【0079】
本明細書において「セルラーゼ生産菌」とは、細胞内でセルラーゼを生産できる微生物を生産できる微生物をいう。ヘミセルロースを分解するヘミセルラーゼをさらに生産できる微生物であってもよい。例えば、T.セルロリティカス、T.リーセイ、T.ビリデの他、アスペルギルス属、ペニシリウム属等に属する微生物を含む。
【0080】
本態様のセルロース分解能増強変異株において、セルロース分解能増強組成物を構成する遺伝子発現システムの導入形態は、特に限定しない。例えば、プラスミドとして導入され、セルラーゼ生産菌の細胞内でもその状態で安定的に維持されていてもよい。一方、遺伝子発現システムが、セルラーゼ生産菌の染色体中に挿入され、糸状菌細胞内で安定的に維持されていてもよい。導入された遺伝子発現システムの各々について、セルラーゼ生産菌の染色体中に1コピー又は複数コピーが挿入されていればよい。遺伝子発現システムの挿入位置は、限定はしないが、作出された形質転換体の生育や酵素生産性を損なわないものであることが好ましい。
【0081】
2-3.作出方法
宿主へのセルロース分解能増強組成物の導入は、常法に従って行うことができる。例えばエレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、アグロバクテリウム法等を用いることができる。限定しないが、ポリエチレングリコール法(Fujiiら、Biosci. Biotechnol. Biochem. 76, 245-9(2012))が好適である。
【0082】
セルロース分解能増強組成物が導入された形質転換株は、まず、セルロース分解能増強組成物に含まれる選択マーカーに応じた方法により選別することができる。例えば、選択マーカーとして使用する薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を含む培地、或いは栄養要求性相補遺伝子に対応する栄養成分を含まない培地を用いて形質転換株を選別することができる。例えば、pyrF遺伝子をマーカー遺伝子とする場合は、ウリジンならびにウラシルを含まないMM寒天培地(1%グルコース、10 mM 塩化アンモニウム、10 mMリン酸2水素カリウム、7 mM KCl、2 mM硫酸マグネシウム、0.001% ZnSO4、0.001% MnSO4、0.001% CuSO4、1 Mスクロース、1.5% 寒天、pH6.5)にて生育する株を形質転換株として選択することができる。
【0083】
次に、得られた形質転換株に第1及び/又は第2の遺伝子発現システムが導入されていることを確認するために、当該形質転換株のゲノムを用いたサザンブロットハイブリダイゼーション解析(サザンブロット解析)を行うことができる。サザンブロット解析では、形質転換株から抽出されたゲノムDNAを制限酵素処理によって断片化し、得られたゲノムDNA断片をアガロース電気泳動により断片サイズに従って分離し、続いてニトロセルロース又はナイロンの膜に転写した後、第1及び/又は第2の遺伝子発現システムの配列をプローブとして使用し、第1及び/又は第2の遺伝子発現システムに由来するDNA断片を検出する。なお、サザンブロット解析では、ゲノム上の異なる位置に導入された配列は、制限酵素処理によってサイズの異なるDNA断片となるため、泳動度の異なるバンドとして検出される。したがって、導入された第1及び/又は第2の遺伝子発現システムのコピー数を確認する手段としても有効である。
【0084】
第1及び/又は第2の遺伝子発現システムが形質転換されたことを確認するには、形質転換株のゲノムを鋳型にPCR増幅を行うPCR検出法を使用してもよい。PCR検出法は、サザンブロット解析よりも簡便な選別方法として使用することができる。PCR検出法では、第1及び/又は第2の遺伝子発現システムに含まれるが、宿主ゲノムには含まれないDNA領域をPCR増幅の標的として選択し、プライマー配列を設計すればよい。例えば、第1及び/又は第2の遺伝子発現システムに含まれるプロモーター又はコード領域のいずれかが宿主と異なる種に由来する場合、当業者であれば容易に適切な検出用プライマーを設計することができる。或いは、第1及び/又は第2の遺伝子発現システムに含まれるプロモーター及びコード領域の両方が宿主に由来する配列であっても、その組合せが宿主ゲノムに存在しないものであれば、プロモーターとコード領域との間の領域を標的とすればよく、当業者であれば容易に適切な検出用プライマーを設計することができる。一方、上記以外の場合、すなわち、第1及び/又は第2の遺伝子発現システムに含まれるプロモーター及びコード領域の両方が宿主に由来し、その組合せが宿主ゲノムに存在するものである場合、PCRによる検出は困難である。この場合は、以下の第3の態様に従って形質転換体から酵素液を調製し、酵素活性が形質転換前の宿主に比べて有意に増強された株を形質転換体として選抜することができる。
【0085】
2-4.効果
本態様のセルロース分解能増強変異株によれば、所定の培養条件下で培養することで、第1態様のセルロース分解能増強組成物の導入前の株と比較して、フェルロイルエステラーゼ及び/又はGH10エンドキシラナーゼの発現レベルが有意に増加した変異株を得ることができる。
【0086】
3.セルロース分解促進剤の製造方法
3-1.概要
本発明の第3の態様は、セルロース分解促進剤の製造方法である。
本態様のセルロース分解促進剤の製造方法によれば、サイレージに含まれるセルロースの分解を促進し得るセルロース分解促進剤を容易かつ比較的安価で製造することができる。
【0087】
3-2.方法
本態様のセルロース分解促進剤の製造方法は、培養工程を必須の工程として含み、必要に応じて分離工程、除去工程、乾燥工程等を含む。以下、各工程を具体的に説明する。
【0088】
3-2-1.培養工程
「培養工程」とは、第2態様に記載のセルロース分解能増強変異株を培地中で培養してその培養液を得る工程である。
【0089】
本態様の培養工程において培養されるセルロース分解能増強変異株は、第2態様のセルロース分解能増強変異株における「2-2.構成」に記載の内容と実質的に同一である。それ故、ここでは、その具体的な説明は省略する。
【0090】
本培養工程に使用する培地は特に限定しない。培地は、炭素源として、粉末セルロース(アビセルを含む)、セロビオース、瀘紙、一般紙類、古紙類、木材、ふすま、麦わら、稲わら、もみがら、バガス、大豆粕、大豆おから、コーヒー粕、米ぬか、ラクトース、ラクトース水和物、乳清(ホエイ)、乳製品及びこれらの混合物、グルコース、シュークロース、水飴、デキストリン、澱粉、グリセロール、糖蜜、動・植物油等が使用できる。窒素源として、硫安、硝安等の無機アンモニウム塩、尿素、アミノ酸、肉エキス、酵母エキス、ポリペプトン、大豆粉、小麦胚芽、コーン・スティープ・リカー、綿実粕、及びタンパク質分解物等の有機窒素含有物、並びに無機塩類として、硫酸マグネシウム、リン酸2水素カリウム、酒石酸カリウム、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸銅、塩化カルシウム、塩化鉄、塩化マンガン等を含むことができる。必要ならば有機微量栄養物を含有する培地を使用してもよい。培地は、寒天やゼラチンを加えて固化した固体培地、低濃度の寒天を加えた半流動培地、培地成分のみを入れた液体培地(ブイヨン、又はブロスともいう)を用いることができるが、液体培地が好ましい。
【0091】
培地の具体例を挙げると、セルロース培地(5% Solka Floc 40、0.1% CSL、0.24% KH2PO4、0.05% (NH4)2SO4、0.047% Potassium tartrate、0.1% tween80、0.12% MgSO4、0.2% Urea、0.001% ZnSO4、0.001% MnSO4、0.001% CuSO4、pH4.0)、上記セルロース培地からUrea濃度のみ0.4%に変更した培地、GY培地(3%グルコース、2% Bacto Yeast Extract)、又はPD培地(2.4% Difco Potato Dextrose Broth)を使用してもよい。
【0092】
本培養工程の培養条件は特に限定しない。セルロース分解能増強変異株の至適増殖条件で培養すればよい。例えば、培養温度は、セルロース分解能増強変異株の至適温度範囲であればよい。例えば、20~40℃、25~35℃、25~30℃、26~30℃、28~30℃の温度範囲内、例えば、28℃、29℃、若しくは30℃で培養することができる。
【0093】
培養液のpHもセルロース分解能増強変異株の至適pHに調整すればよい。例えば、pH 2~8、pH 3~7、若しくはpH 4~6の範囲内のpH、例えばpH 4、若しくはpH 5で培養することができる。
【0094】
また、通気性に関しても、使用するセルロース分解能増強変異株が良好に増殖できる状態であればよい。本発明のセルロース分解能増強変異株は、通常、好気性であることから、培養に際してはエアレーション(曝気)により、培地中に酸素を溶解させることが好ましい。本培養方法は、セルロース分解能増強変異株を培養できる方法であれば限定はしない。例えば本培養方法は静置培養でもよいが、培地に流動性を付与する流動培養が好ましい。流動培養は、例えば、振盪培養、回転培養、又は撹拌培養を含む。
【0095】
本培養期間は限定しない。セルロース分解能増強変異株が十分な濃度に達し、培養液中の酵素濃度が十分な濃度に達するまで培養を行う。培養液中の酵素濃度が十分な濃度に達したことは、例えば、検量線に牛由来BSAを用いて、培養液中のタンパク質濃度をブラッドフォード試薬にて確認することができる。タンパク質濃度が、例えば、前培養では1500μg/mL-2500μg/mL、本培養では2000μg/mL-5000μg/mLに達していれば、酵素濃度が十分な濃度に達したと確認される。例えば、1~10日間、3~7日間、例えば5日間培養を行ってもよい。本培養工程で得られた培養液は、そのままセルロース分解促進剤として使用することができる。
【0096】
3-2-2.分離工程
「分離工程」とは、培養工程で得られた培養液を菌体と培養上清に分離して培養上清を得る工程で、本製造方法における選択工程である。
【0097】
本分離工程で使用することができる培養上清分離方法は、培養液から菌体を除去することができる方法であれば特に限定しないが、例えば遠心分離法、沈殿法、濾過法、及びこれらの組合せが挙げられる。遠心分離法を用いる場合、培養液中にセルロース分解能増強変異株より分泌された酵素(フェルロイルエステラーゼ、GH10エンドキシラナーゼ等)が失活しない条件、例えば4℃、3500rpm、15分の遠心分離により、培養液から菌体を分離して培養上清を得ればよい。遠心分離法や沈殿法により菌体から分離された培養上清は、さらにデカンテーション等によって単離することができる。また、濾過法を用いる場合、例えば濾紙又はメンブレンフィルターを通過させる方法が挙げられる。
【0098】
本分離工程で得られた培養上清をセルロース分解促進剤として使用することができる。
【0099】
3-2-3.除去工程
「除去工程」とは、得られた培養上清から固形物を除去する工程で、本製造方法における選択工程である。本工程は、前記分離工程後に行われる工程であって、培養上清に含まれる分離工程で分離できなかった菌体や他の夾雑物等からなる固形物が除去される。
【0100】
ここでいう「固形物」とは、培養液中に含まれる所定のサイズよりも大きな粒子であり、例えば、0.1μm、0.2μm、0.5μm、1μm、2μm又は10μmよりも大きな粒子であり、例えば0.2μmよりも大きな粒子である。例えば、分離工程後に夾雑物として残っているセルラーゼ生産菌の菌体、培養過程で混入した他の微生物種、培養液中に残っている繊維、又は培養液中に生じた培地成分の結晶である。
【0101】
本工程で用いる固形物除去方法は、特に限定しないが、前述の分離工程と同様に、濾過法、遠心分離法、沈殿法の他、溶菌法、及びこれらの組合せを含む。ただし、培養上清から固形物をより完全に除去する目的から、分離工程よりもストリンジェントな条件の方法を採用することが好ましい。例えば、濾過法であれば、分離工程で使用したフィルターよりもよりポアサイズの小さいフィルターを用いて濾過する方法、遠心分離法であれば分離工程で使用した回転数や回転時間よりもより高い回転数と回転時間で遠心する方法、そして沈殿法であれば、分離工程で使用した沈殿時間よりもより長い時間で沈殿させ、上清のみを吸引する方法等が挙げられる。より具体的には、セルラーゼ生産菌を通さないフィルターを通過させる方法、界面活性剤処理や酵素処理等によって菌体を溶菌する方法、又はこれらの組み合わせであってもよい。例えば、濾過を用いる場合、限定しないが、0.1μm、0.2μm、0.5μm、1μm、2μm又は10μmのポアサイズを有するメンブレンフィルターを通過させる方法を使用することができる。
【0102】
本固形物除去工程により得られた溶液は除菌されていてもよい。
本工程により得られた溶液は、セルロース分解促進剤として使用することができる。
【0103】
3-2-4.乾燥工程
「乾燥工程」とは、前記培養工程、分離工程、及び/又は除去工程後に得られる培養上清又は溶液を乾燥処理し、蒸発によって水分量を減少させる、又は水分を除去して固形物を得る工程で、本製造方法における選択工程である。
【0104】
本工程は、本製造方法における上記いずれかの工程後に得られる液体(培養上清又は溶液)に対して行われる工程であって、本明細書に記載する工程では最後に実施される。
【0105】
乾燥方法は、前記液体中に含まれる水分を減じることができ、かつセルロース分解能増強変異株より分泌された酵素が失活しない方法であれば特に限定はしない。例えば、外気に晒す自然乾燥法、除湿剤とともに密閉空間内で一定期間置く除湿乾燥法、日光と外気に当てて乾燥させる天日干し法、送風装置等を用いて温風や冷風を当てる風乾法、ヒーター等の熱源を用いて乾燥させる加熱乾燥法、容器内で真空ポンプ等を用いて脱気し、蒸発させる減圧乾燥法、液体を凍らせたままの状態で乾燥する凍結乾燥(フリーズドライ)法、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0106】
液体中の水分の除去は、部分除去であっても、完全除去であってもよい。部分除去の場合、液体中の前記酵素濃度を濃縮することができる。また完全除去の場合、本発明のセルロース分解促進剤を軽量化することができる。本工程で除去する水分量は、必要に応じて適宜定めればよい。固形化したセルロース分解促進剤は、ブロック状、薄片状、顆粒状、粉末状に加工することもできる。
【0107】
セルロース分解促進剤に含まれる水分量を減ずることで、運搬効率を高め、保管スペースを軽減することができる。
【0108】
4.セルロース分解促進剤
4-1.概要
本発明の第4の態様は、セルロース分解促進剤である。本態様のセルロース分解促進剤は、第3態様のセルロース分解促進剤の製造方法によって得られるセルロース分解促進剤である。本態様のセルロース分解促進剤によれば、植物体に接触させた際にセルロース分解能を有し、サイレージに添加するとその消化性を向上させることができる。
【0109】
4-2.構成
本態様のセルロース分解促進剤は、本発明のセルロース分解能増強組成物が導入されたセルラーゼ生産菌の培養液から得られる。セルラーゼ生産菌の培養液には、セルラーゼ分解に関わる優れたセルラーゼ活性を有する様々な酵素成分が含まれている。しかし、その培養液中に含まれる全ての成分とその含有量は、その製造方法により特定されるものであって、具体的に特定することはできない。
【0110】
5.セルロース系バイオマスのセルロース分解促進方法
5-1.概要
本発明の第5の態様は、セルロース系バイオマスのセルロース分解促進方法である。本態様のセルロース分解促進方法によれば、セルロース系バイオマスにおけるセルロースの分解を促進することができる。
【0111】
5-2.方法
本態様のセルロース分解促進方法は、必須の工程として接触工程を含む。
「接触工程」とは、セルロース系バイオマスに対してセルロース分解促進剤を接触させる工程である。
【0112】
本態様における「セルロース系バイオマス」とは、セルロースを主成分とする有機資源をいう。例えば、草本系バイオマスや木質系バイオマス等の植物体、草本系廃棄物、及び木質系廃棄物が該当する。草本系バイオマスの例としては、牧草、植物性農業廃棄物(例えば、茎、葉、穀粒皮等、具体的には、稲わら、麦わら、もみ殻、麦殻、綿実殻、フスマ、トウモロコシの茎、葉及び穂軸、並びにソルガム茎及び葉を含む)が挙げられる。木質系バイオマスの例としては、針葉樹又は広葉樹の林地残材、間伐材、未利用樹、短周期栽培木材、街路樹及び公園等の剪定材が挙げられる。草本系廃棄物の例としては、植物体の搾汁残渣(ビール粕、バガス、ビートパルプ、オカラ、綿実粕、及び油粕を含む)が挙げられる。木質系廃棄物の例としては、建築廃材、製材残材(バーク、オガクズ、プレナー屑、及び短材を含む)、紙資源(例えば、新聞紙、雑誌、廃棄OA紙、ダンボール)が挙げられる。本工程で使用する「セルロース分解促進剤」は、第3態様の製造方法で製造される、又は第4態様に記載のセルロース分解促進剤である。セルロース分解促進剤の状態は問わない。液体であってもよいし、固体(例えば、粉末固体や顆粒固体)であってもよい。
【0113】
本工程における「接触」とは、対象物が目的物と物理的に直接触れ合うことをいう。本発明の場合、本発明の対象物であるセルロース分解促進剤が、目的物であるセルロース系バイオマスに触れることをいう。接触方法は、特に限定しない。例えば、本発明のセルロース分解促進剤を含む液体、粉末又は顆粒状のセルロース分解促進剤をセルロース系バイオマスに噴霧、散布、浸漬、若しくは塗布する方法、又はこれらの方法の組合せが挙げられる。接触は、必要に応じて複数回繰り返してもよい。
【0114】
本態様のセルロース分解促進方法によれば、植物に由来するセルロース系バイオマスを部分分解することができる。それによってセルロース系バイオマスを活用しやすくすることが可能となる。
【0115】
6.サイレージ製造方法
6-1.概要
本発明の第6の態様は、サイレージ製造方法である。本態様のサイレージ製造方法によれば、消化性が向上したサイレージを製造することができる。
【0116】
6-2.方法
本態様のサイレージ製造方法は、接触工程を必須の工程として含み、任意選択で乳酸菌添加工程を含む。なお、本態様における「接触工程」は、第5態様における「5-2-1.接触工程」に記載の内容と実質的に同一である。それ故、ここでは、その具体的な説明は省略し、本工程に特徴的な工程である乳酸菌添加工程を以下で具体的に説明する。
【0117】
「乳酸菌添加工程」は、採取した家畜飼料用植物に対して、乳酸菌を添加する工程である。この場合、本工程は、セルロース分解促進剤の接触工程よりも前に行ってもよいし、後に行ってもよく、又は同時に行ってもよい。或いは、予め乳酸菌をセルロース分解促進剤と混合し、一緒に家畜飼料用植物に接触させてもよい。
【0118】
本明細書において「家畜飼料用植物」とは、家畜に飼料として供することができる任意の植物体をいう。例えば、サイレージに用いられる飼料用植物が挙げられる。具体的には、例えば、牧草、飼料作物等が該当する。牧草には、例えば、イネ科牧草のチモシー、リードカナリーグラス、オーチャードグラス、イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、フェストロリウム、ハイブリッドライグラス、ケンタッキーブルーグラス、レッドトップ、メドウフェスク、ギニアグラス、トールフェスク、スムーズロームグラス、ダリグラス、及びバヒァグラス、マメ科牧草のアルファルファ、アカクローバ、シロクローバ等が挙げられる。飼料作物には、例えば、トウモロコシ、ソルガム、スーダングラス、大麦、ライムギ、ライコムギ等が挙げられる。好ましくは、牧草、イネ(稲わら)であり、牧草は、チモシー、オーチャードグラスが好適である。
【0119】
本明細書において「家畜」とは、乳製品、肉、卵、皮革等の畜産物を得るために繁殖又は飼育される動物である。例えば、限定しないが、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ、スイギュウ、ヤク、ロバ、ラバ、ラクダ、ラマ、アルパカ、イノシシ、モルモット、ウサギ、アヒル、シチメンチョウ、ウズラが挙げられる。
【0120】
本明細書において「採取した(家畜飼料用植物)」とは、天然物又は栽培物を問わず、自然界で繁殖していた植物体を人為的に採取したものをいう。採取によって成育環境から分離されるため、再度成育環境に置かれない限り、原則として長期にわたる成長、増殖は行なわない植物体をいう。したがって、圃場等で成育中の植物体は除かれる。
【0121】
「乳酸菌」とは、糖類を代謝して乳酸を産生する細菌類の総称である。本態様における乳酸菌は、家畜飼料用植物から生じたグルコース、セロビオース、セロオリゴ糖、キシロース、キシロビオース、キシロオリゴ糖等を代謝して乳酸、酢酸等を産生する細菌であれば、限定しない。例えば、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属(本明細書では、以下ビフィドバクテリウム属を総称して「ビフィズス菌」と呼ぶ)に属する種、ラクトバチルス(Lactobacillales)目に属する種が挙げられる。ラクトバチルス(Lactobacillales)目に属する種としては、例えば、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ロイコノストク(Leuconostoc)属、ウェイセラ(Weissella)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属が挙げられる。ラクトバチルス属は、例えばラクトバチルス・プランタラム(L. plantarum)を使用してもよく、より具体的には、例えば乳酸菌畜草1号(雪印種苗株式会社)を使用してもよい。ビフィズス菌は、いずれの種であってもよい。例えば、B.ビフィドゥム(B. bifidum)、B.ロンガム(B. longum)、B.ブレイブ(B. brave)、B.インファンティス(B. infantis)及びB.アドレセンティス(B.adolescentis)が挙げられる。ラクトバチルス目に属する種はいずれの種であってもよい。例えば、L.パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、L.ラクチス(Lactococcus lactis)、E. フェシウム(Enterococcus faecium)が挙げられる。本工程における「添加」とは、乳酸菌が家畜飼料用植物に接触することを含む方法であれば、特に限定しない。例えば、上記のセルロース分解促進剤の接触工程とは別に家畜飼料用植物に噴霧、散布、浸漬、若しくは塗布する方法、又はこれらの方法の組合せが挙げられる。
【0122】
本工程によって添加された乳酸菌は、セルロース分解によって生じたグルコースを消費し乳酸を産生することで、サイレージpHを低下させて有害な微生物の増殖を抑制し、密封貯蔵中の酪酸菌が原因となる酪酸発酵を抑える効果や、サイレージ開封後に酵母等が増えることで発熱、変敗する二次発酵を抑える効果を有する。
【実施例】
【0123】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0124】
<実施例1:CBF株及びCFX株の作製、並びに各種酵素液の調製と活性測定>
(目的)
T.セルロリティカス変異株を作製し、その培養液から各種酵素液を調製する。さらに、酵素活性を測定する。
【0125】
(方法)
(1)CBF株の作製方法
T.セルロリティカスのゲノムDNAを鋳型として使用し、GH3β-キシロシダーゼB(bxy3B)遺伝子プロモーター領域(配列番号3)を標的として配列番号17、配列番号18で示すプライマーセットを用いてPCR増幅を行い、増幅したbxy3B遺伝子プロモーター断片をプラスミドpbs-pyrF (Fujiiら、Biosci. Biotechnol. Biochem. 76, 245-9(2012))に挿入することにより、pANC701プラスミドを構築した。他方、T.セルロリティカスのゲノムDNAを鋳型として使用し、フェルロイルエステラーゼB(faeB)遺伝子におけるコード領域(イントロンを含む)からターミネーター領域までを標的として配列番号19及び配列番号20で示すプライマーを用いてPCR増幅を行い、増幅されたDNA断片をSalI制限酵素処理した。これをEcoRV/SalI制限酵素処理したpANC701プラスミドにライゲーションにより挿入することで、Pbxy3B-faeB発現プラスミド(pANC749)を構築した。
【0126】
12μg分のプラスミドが溶解したDNA溶液に1/2倍量の酢酸アンモニウム、2倍量の100%氷冷エタノールを添加し、-20℃にて2時間以上放置してDNAを沈殿させた。14,000rpm、4℃にて10分間遠心した後に上清を除き、初期DNA溶液の1.1倍量の70%氷冷エタノールを加え、DNAを洗浄した。洗浄後、再び14,000rpm、4℃にて10分間遠心し、上清を捨て、吸引乾燥した後、DNAをEBバッファー10μLに溶かした。1~2μLを使用し、ナノドロップを使用して濃度を測定した後、EBバッファーを用いてDNA濃度を800~850 ng/μLに調整した。このDNA溶液を次の形質転換に使用した。
【0127】
形質転換の方法はプロトプラスト-PEG法を用いた(Fujiiら、Biosci. Biotechnol. Biochem. 76, 245-9(2012))。宿主は、CF-2612株にUV変異を加えてウラシル要求性にしたCFP3株を使用した。滅菌済みエッペンドルフチューブにプロトプラスト化し、専用バッファー(1.2 M sorbitol、10 mM トリス塩酸緩衝液 pH 7.5、10 mM CaCl2)に懸濁したCFP3株を50μl(1x107 cells)ずつ分注した。そこへプラスミドを4μl、PEG溶液(40%ポリエチレングリコール、10mM トリス塩酸緩衝液 pH7.5、10 mM塩化カルシウム)を25μlずつ加えて氷中に30分間静置した。30分後クリーンベンチにてPEG溶液 500μlをゆっくりと加え、優しくピペッティングして懸濁した後、これをディスポチューブに全量入れ、30℃で15分間静置した。静置後、ディスポチューブに予め45℃に温めておいたMM-スクロース軟寒天培地(MM寒天培地に1Mスクロースを添加、0.7%寒天含む)30mlを加え、すぐにMM-スクロース寒天培地(MM寒天培地に1Mスクロースを添加)に撒いて慣らした。そのまま静置して固めた後に30℃で5日間培養して、生育してきたコロニーを植え継いだ。植え継いで生育の見られた形質転換体に対して、コロニーPCR及びフェルロイルエステラーゼ活性の測定等に用い、株の選抜を行った。得られた株はCF-Pbxy3B-faeB発現株の頭文字をとり、「CBF株」とし、CBF株から得られる酵素液を「CBF酵素」と称する。
【0128】
(2)CFX株の作製方法
T.セルロリティカスゲノム配列に由来する3種類の直鎖状DNAカセット:(i) bxy3B遺伝子プロモーター並びにfaeB遺伝子のコード領域(イントロンを含む)及びターミネーター領域からなる第1遺伝子カセット(配列番号21で示すPbxy3B-faeB-TfaeB)、(ii) pyrF遺伝子のプロモーター、コード領域(イントロンを含む)及びターミネーター領域からなるマーカー遺伝子カセット(配列番号22で示すPpyrF-pyrF-TpyrF)、(iii) GH10エンドキシラナーゼA(xyl10A)遺伝子プロモーター、xyl10A遺伝子のコード領域(イントロンを含む)及びターミネーター領域からなる第2遺伝子カセット(配列番号23で示すPxyl10A-xyl10A-Txyl10A)で、CF-2612株にUV変異を加えてウラシル要求性にしたCFP3株を形質転換した。形質転換はプロトプラスト-PEG法により行った。
【0129】
1次スクリーニングでは、マーカー遺伝子カセットの導入によるウラシル要求性からの復帰を指標として、形質転換の成功の有無を判定した。2次スクリーニングでは、bxy3B遺伝子プロモーターとfaeB遺伝子コード領域の間の配列を増幅するコロニーPCRによって、第1遺伝子カセットの導入が確認された。3次スクリーニングでは、形質転換候補株のエンドキシラナーゼ活性を測定し、活性の増加により第2遺伝子カセットの導入が確認された。第2遺伝子カセットはPCRによって内在性xyl10A遺伝子から区別できないためである。4次スクリーニングでは、フェルロイルエステラーゼ活性を測定することで、faeB遺伝子がタンパク質として発現しているかを確認した。
【0130】
得られた株では、ベクター等を使用せず、セルフクローニングによって遺伝子が導入されている。導入された各遺伝子は、それぞれ概ね1~2コピーが染色体上の非相同部位に入っていることがサザン解析によって確認された。これらの遺伝子は、ゲノム中に安定に維持されている。
【0131】
得られた株はCF-faeB-xyl10A株の頭文字をとり、「CFX株」とし、CFX株から得られる酵素液を「CFX酵素」と称する。
【0132】
(3)CBF酵素、CFX酵素の調製方法
ポテトデキストロースアガー(PDA)培地に充分生育させたCBF株、CFX株を1cm四方ほど切り取り、10 mlのセルロース培地(5% Solka Floc 40、0.1% CSL、0.24% KH2PO4、0.05% (NH4)2SO4、0.047% Potassium tartrate、0.1% tween80、0.12% MgSO4、0.2% Urea、0.001% ZnSO4、0.001% MnSO4、0.001% CuSO4、pH4.0)に植菌し、5日間、230rpmにて28℃で前培養した。培養後の培養液を新しいセルロース培地(Urea濃度のみ0.4%に変えたもの)に0.5 mL植菌し、5日間、230 rpmにて28℃で振盪培養した。続いて培養液を4℃、3500rpmにて15分遠心し、その上清を0.2μmのフィルターを用いてろ過し、その濾液を酵素液として各種活性測定及び各種サイレージの調製に使用した。CBF株、CFX株由来の酵素液をそれぞれCBF酵素、CFX酵素と称する。
【0133】
(4)アビセラーゼ活性測定方法
結晶セルロースに対する分解能力の指標として、結晶セルロース(アビセル)を基質として調製した各酵素液のアビセラーゼ活性を測定した。
【0134】
2% アビセル懸濁液(2% アビセル、0.04% グルコースを脱イオン水に懸濁)2.5 mL、0.05 M 酢酸緩衝液2.0 mLをL型試験管に取り、卓上型振とう恒温槽 (PERSONAL-11,株式会社タイテック)で50℃にて10分間、回転数60rpmで振盪させながら予熱した。10分後、適切に希釈した酵素液を0.5 mL加え、50℃にて30分間振盪させながら反応させた。30分後、0.5N NaOH 0.5 mLを加え、反応を停止させた。サンプル全量を遠沈管に移し、遠心分離(3000 rpm、10分)後、上清0.5 mLを取り、そこに1.5 mLのDNS試薬を加え、撹拌した。撹拌後、沸騰水浴中で5分間加熱反応させた後、直ちに氷水で反応を停止させた。反応後の反応液に4.0 mLの脱イオン水を加え、540 nmの吸光度を測定した。ブランクは酵素液0.5 mLを先に試験管に加え、0.5 N NaOH 0.5 mL、2% アビセル懸濁液2.5 mL、0.05 M 酢酸緩衝液2.0 mLの順番に加えたものを用いた。遠心分離以後の操作はサンプルと同様に行った。検量線はグルコース溶液(0.2、0.4、0.6、0.8 mg/mLの4種類)0.5 mLにDNS 1.5 mLを加えたものを用いた。サンプル、ブランクとDNS反応条件を一致させるためサンプル、ブランク、検量線用サンプルは同じタイミングで加熱反応させた。反応後、同様に4.0 mLの脱イオン水を加え、540 nm吸光度を測定し、検量線の作成を行った。アビセラーゼ活性は1分間に1μmolのグルコースを遊離する酵素量を1Uとして計算した。算出式は、以下の式1で示す。
【0135】
【0136】
(5)CMCase活性測定方法
可溶性のあるセルロース基質として、カルボキシルメチルセルロース(CMC)を用いてCMCase活性を測定した。カルボキシルメチルセルロースは、セルロースに含まれる水酸基の一部がカルボキシルメチル化されている。
【0137】
基質溶液(1% カルボキシルメチルセルロース(CMC)、0.04% グルコースを0.1 M 酢酸緩衝溶液(pH4.5)に溶解させた溶液)0.25 mLを試験管に加え、50℃、10分予熱した。予熱後、適切に希釈した酵素液を0.25 mL加え、50℃にて30分静置して酵素反応を行った。30分の酵素反応後、DNS溶液1.5 mLを加えることで酵素反応を停止させた。酵素反応停止後、沸騰水浴中にて5分間糖とDNS試薬を化学反応させ、5分後直ちに氷水に入れることで化学反応を停止させた。化学反応停止後4.0 mLの蒸留水を加え、撹拌後540 nmの吸光度を測定した。ブランクは酵素液0.25mL、DNS試薬1.5mL、基質溶液0.25 mLの順番に添加したものを用いた。検量線はアビセラーゼ活性測定と同様にグルコース溶液(0.2、0.4、0.6、0.8 mg/mLの4種類)0.5mLにDNS 1.5 mLを加えたものを用いた。DNSと糖の化学反応条件を一致させるためにサンプル、ブランク、検量線サンプルは同時に沸騰水浴中で反応させた。反応終了後、540nm吸光度波長を測定した。CMCase活性もアビセラーゼ活性と同様に1分間に1μmolのグルコースを遊離する酵素量を1Uとして計算した。算出式は、以下の式2で示す。
【0138】
【0139】
(6)エンドキシラナーゼ活性測定方法
基質溶液(2%キシラン、0.04%キシロースを0.1 M 酢酸緩衝溶液(pH4.5)に溶解させた溶液)0.25 mLを試験管に加え、50℃にて10分予熱した。予熱後、適切に希釈した酵素液を0.25 mL加え、50℃にて30分静置して酵素反応を行った。30分の酵素反応後、DNS溶液1.5 mLを加えることで酵素反応を停止させた。酵素反応停止後、沸騰水浴中にて5分間糖とDNS試薬を化学反応させ、5分後直ちに氷水に入れることで化学反応を停止させた。化学反応停止後4.0 mLの蒸留水を加え、3000rpmにて10分遠心を行い、その上清を用いて540 nmの吸光度を測定した。ブランクは酵素液0.25mL、DNS試薬1.5mL、基質溶液0.25 mLの順番に添加したものを用いた。検量線はキシロース溶液(0.2、0.4、0.6、0.8 mg/mLの4種類)0.5mLにDNS 1.5 mLを加えたものを用いた。DNSと糖の化学反応条件を一致させるためにサンプル、ブランク、検量線サンプルは同時に沸騰水浴中で反応させた。反応終了後、サンプルは540nm吸光度波長測定に用いられた。活性は1分間に1μmolのキシロースを遊離する酵素量を1Uとして計算した。算出式は、以下の式3で示す。
【0140】
【0141】
(7)フェルロイルエステラーゼ活性測定方法
基質溶液(0.01%フェルラ酸メチルを0.1M酢酸緩衝液(pH4.5)に溶解した溶液)0.25 mLをエッペンチューブに加え、50℃に設定したドライバスで10分間予熱した。予熱後、適切に希釈した酵素液を0.25 mL添加し、50℃にて30分間酵素反応を行った。酵素反応後、メタノール酢酸溶液(メタノール98%、酢酸2%)0.5 mLを加え、反応を停止させた。反応停止後、13,000rpmにて10分間遠心し、上清を0.2μmのフィルターでろ過した。ろ過後、HPLCでフェルラ酸遊離量を測定した。HPLCは島津社製のLC-30AD、SIL-30AC、CTO-20A、SPD-M20Aを用いた。カラムはYMC-Triart C18を用い、移動相には40%メタノール、1%酢酸を用いた。HPLCの条件は、流速0.6 mL/分、カラム温度40℃、吸収波長320nm、アイソラクティック条件とした。検量線には0.0003125%、0.000625%、0.00125%、0.0025%、0.005%、0.01%のフェルラ酸溶液を用いた。活性は1分間に1μmolのフェルラ酸を遊離する酵素量を1Uとして計算した。算出式は、以下の式4で示す。
【0142】
【0143】
(8)全タンパク質濃度の定量方法
各酵素液における活性測定値を、各酵素液の全タンパク質濃度で標準化するために、各酵素液について全タンパク質濃度を測定した。
【0144】
酵素液の全タンパク質濃度測定にはWAKO社製のProtein Assay Bradford Reagentを用いた。酵素試料を適正な濃度に希釈した後、酵素希釈液100μL、ブラッドフォード試薬100μLの順番にマイクロプレートリーダーのウェルに添加し、10分間、室温で反応を行った。反応は96穴マイクロプレートリーダーで行い、反応後はサーモサイエンティフィック社製マイクロプレートリーダー Varioskan Flashを用いて595nmの吸光度を測定した。検量線はWAKO社製牛血清アルブミンBSA 25、12.5、6.25、3.125、1.5625、0.78125 (μg/mL)の6種類を用いて作成した。反応はサンプル同様に各濃度のBSA溶液100μL、ブラッドフォード試薬100μLの順番にマイクロプレートリーダーに加え、10分、室温で行った。反応後は595nmの吸光度を測定し、検量線作成に用いた。
【0145】
(結果)
(1)各種酵素液の酵素活性
各種酵素液の活性測定の結果を
図1に示す。
各酵素液における活性測定値は、各酵素液の全タンパク質濃度で標準化し、かつMA酵素の活性を1とした相対値で示されている。CBF酵素及びCFX酵素は、雪印種苗株式会社で従来用いてきたMA酵素に比べて、エンドキシラナーゼ活性及びフェルロイルエステラーゼ活性が上昇していた(
図1)。
【0146】
<実施例2:CBF酵素を用いて調製されたサイレージにおける発酵品質評価>
(目的)
CBF酵素を用いて調製されたサイレージの発酵品質を評価する。
【0147】
(方法)
(1)稲わらサイレージ調製方法
サイレージ調製に用いた稲わらは、北海道の農家から食用米収穫後のものを入手した。初めに、稲わらを60℃で2日間以上乾燥させた。この乾燥処理はサイレージ調製前の水分量を調整するために行った。
【0148】
次に、粉砕機にて1 mmメッシュに通し、乾燥稲わら粉末を得た。
【0149】
続いて、乾燥稲わら粉末に、設定量の蒸留水を添加した。この設定量は、2水準量(70%及び80%の水分量)とし、乾燥後の水分量を0%として計算した。第1、第4、第5試験区では水分量を80%に設定し、第2、第6試験区では水分量を70%に設定した。水分設定値を2水準量としたのは、一般的に刈取り後の水分は70%(すなわち常識的にサイレージを調製する水分条件は70%)であるが、水分が高いほど酵素の反応(すなわちサイレージ貯蔵後の乾物消失率)が良好になる傾向を示すためである。
【0150】
その後、基準量(1×105 cfu / 生草牧草g)の乳酸菌畜草1号(雪印種苗販売)、並びに2水準量(過剰量及び規定量)の試験酵素を霧吹きで添加した。
【0151】
第1、第4、第5試験区は過剰添加量試験、第2、第6試験区は規定量添加試験とした。「規定量」とは、雪印種苗株式会社で使用しているサイレージ用セルラーゼMA酵素の製品推奨量(牧草10トンあたりMA酵素製品150g)に対して、アビセラーゼ活性で相当する試験酵素添加量のことである。MA酵素製品150gに含まれるアビセラーゼ活性(約13.85 U / 生草牧草kg)は製造ロットによって若干変動し得るため、対照として用いるMA酵素製品の製造ロットの違いにより、試験酵素添加量も試験ごとに相違し得る。また、「過剰添加量」又は「過剰量」とは、55.4 U / 生草牧草kgのアビセラーゼ活性が含まれる試験酵素添加量のことである。これに相当するMA酵素の添加量もまた、製造ロットによって若干変動し得る。
【0152】
第4試験区では、エンドキシラナーゼ活性の比でMA酵素の2倍に相当するGH10エンドキシラナーゼを添加した。
【0153】
乳酸菌及び試験酵素を噴霧添加した稲わらサイレージ100g又は200gをパウチ袋(旭化成パックス株式会社、規格袋 飛竜 N-9)に詰め、業務用卓上密封包装機(SQ-303W)を用いて脱気密閉した。脱気密閉後、37℃又は25℃の温度で、2週間から1ヶ月貯蔵し、開封後、有機酸含量、pH、水分含量、及びフェルラ酸・クマル酸遊離量の測定、繊維分析、乾物消失率の測定を行った。クマル酸はフェルラ酸と同様にヒドロキシケイ皮酸の一種であり、リグニンと細胞壁多糖とのエーテル結合を媒介している。本試験においてはフェルラ酸を主として測定していたが、測定過程でフェルラ酸だけではなく、クマル酸も有意に遊離していることが確認されたことから定量を行うこととした。結果は原物重量(Fresh matter;FM)に対する繊維含量の重量パーセントとして示した。例えば、水分70%を含んだ稲わら100 g中に0.0001 gのフェルラ酸が遊離している場合、原物中に遊離しているフェルラ酸濃度は0.0001%FMと表記する。
【0154】
(2)牧草(チモシー1番草、リードカナリーグラス、チモシー2番草)サイレージ調製方法
チモシー、リードカナリーグラス、チモシー2番草は、サイレージ調製当日に、牧草地にて、鎌を用いて手刈りで採取したものを用いた。生育ステージは適期刈りであった。適期とは出穂始のことを示しており、具体的には3本程度/m2の穂が見られた時期である。本試験ではチモシー、リードカナリーグラス、シバムギを6月初旬から中旬までの間に刈り取り、チモシー2番草は8月中旬に刈取りを行ったものを用いた。
【0155】
刈取られた牧草は裁断機を用いて切断長1cmになるように細断し、手で良く撹拌した後にサイレージ調製に用いた。
【0156】
サイレージ調製には、乳酸菌として、サイマスターAC(雪印種苗販売)に使われている、それぞれ基準量(1×105 cfu / 生草牧草g)のSBS0001s株(Lactococcus lactis)及びSBS0003株(Lactobacillus paracasei)、並びに規定量(上記(1)に準ずる)の試験酵素を霧吹きで噴霧添加した。
上記の点以外の調製方法は(1)に準じた。
【0157】
(3)有機酸分析方法とpH測定方法
開封後のサイレージ30gをストマフィルター(セントラル科学貿易社製)に量り取り、オートクレーブ(121℃、15分)済みのメスシリンダーを用いて滅菌済みの蒸留水を90 mL加えた後、マスティケーターS型(セントラル科学貿易社製)にて1分間揉みこんだ。その後、4℃にて一晩サンプルを静置することで可溶性成分を水画分に移行させた。一晩静置後、ADVANTEC、No.5Aのろ紙を用いてろ過したサンプルを、pHの測定及び有機酸分析に用いた。有機酸分析には、ろ液を純水で10倍希釈した後0.22μmのフィルター(メルクミリポア社製、Millex GP)でろ過したものを用いた。有機酸分析には島津社製LC-20AD、LC-30AD、SIL-30AC、CTO-20A、SPD-M20Aを用いた。移動相(A液)には0.75mMの硫酸を用い、反応液(C液)にはBTB溶液(0.1mM BTB、7.5mM Na2HPO4)を用いた。分析はポストカラム法で行った。カラムにはTOSOHのTSKgel OApak-Aを用い、カラム温度は40℃、流速はA液、C液ともに0.8mL/分とした。検量線には乳酸、酢酸、酪酸を用いており、それぞれ0.1%、0.05%、0.01%を×1溶液として×2、×10溶液を準備し、3点で検量線を作成した。
【0158】
(4)フェルラ酸・クマル酸分析方法
上記(3)と同様に調製したサイレージ抽出液500μLとメタノール酢酸溶液(メタノール98%、酢酸2%)500μLを混合し、14,000rpmにて10分遠心した後、0.22μmのフィルターでろ過したサンプルをHPLC分析に用いた。HPLCは島津社製のLC-30AD、SIL-30AC、CTO-20A、SPD-M20Aを用い、カラムにはphenomenex社のsynegi Hydro-RPを用いた。移動相には40%メタノール・1%酢酸溶液を用いた。HPLCの条件は、流速1mL/分、カラム温度40℃、吸光波長320nm、アイソラクティック条件とした。検量線には0.0003125%、0.000625%、0.00125%、0.0025%、0.005%、0.01%のフェルラ酸、クマル酸溶液を用いた。
【0159】
(5)水分測定方法
始めに、開封後のサイレージを紙袋に全量入れ、重量を測定した。次に、紙袋の口を閉じて60℃で2日間乾燥させ、再度重量を測定した。紙袋の重量を「袋重量」、乾燥前のサイレージの重量(紙袋の重量を除く)を「サイレージ重量」、乾燥後におけるサイレージの紙袋を含めた重量を「乾物重量」として、以下の式5で示す算出式を用いて水分量を計算した。
【0160】
【0161】
残ったサイレージの乾物は繊維分析及び乾物消失率試験に用いた。
【0162】
(6)繊維分析方法
分析項目は酵素分画法を用いた総繊維含量(OCW)、高消化性繊維含量(Oa)、低消化性繊維含量(Ob)の3項目とした。分析方法の詳細は社団法人日本草地協会発行の「粗飼料の品質評価ガイドブック」に記載されている。高消化性繊維含量(Oa)とはルーメン内で直ちに分解される繊維画分、低消化性繊維含量(Ob)とはルーメン内にて消化に時間のかかる繊維画分として評価されている(牧草と園芸(1985、12月号))。特にObが粗飼料の消化率に与える影響は大きく、Oaがルーメン内にて97%消化されるのに対してObは37%と言われている。結果は乾物(dry matter;DM)に対する繊維含量の重量パーセントとして示した。例えば、水分70%を含んだ稲わら100 g中に24 gの繊維(OCW)がある場合、水分70%を除いた乾物30 g中の24 gが繊維画分であり、80%DMとなる。
【0163】
(結果)
(1)CBF酵素を用いて調製された稲わらサイレージの発酵品質評価(過剰量添加試験;第1試験区)
稲わら乾燥粉末に対して1.214 [mgタンパク質/稲わら100g]の酵素を添加した。サイレージの貯蔵は37℃で2週間行った。
その結果、CBF酵素を添加して調製された稲わらサイレージでは、無添加、乳酸菌のみの添加、及びMA酵素に比べて、サイレージ抽出液中の遊離フェルラ酸量が増加していた(
図2)。CBF酵素では、フェルロイルエステラーゼの発現量が増加した結果、単位タンパク質重量に含まれる、MA酵素に対する相対的なアビセラーゼ活性やCMCase活性が低下する傾向を示したが(
図1)、発酵品質は既存MA酵素と比較しても遜色ないものであった(表1、
図2)。
【0164】
【0165】
繊維分析の結果、CBF酵素区の総繊維含量(OCW)は、乳酸菌のみの添加、及びMA酵素区と比較して有意に低下する傾向を示した(表2)。フェルロイルエステラーゼ活性の増加が、アビセラーゼ活性やCMCase活性の低下に関わらず、総繊維含量(OCW)を低下させたことから、サイレージ調製においては、酵素液に含まれる各種酵素活性の比率が重要であると考えられた。
【0166】
【0167】
(2)CBF酵素を用いて調製された稲わらサイレージの発酵品質評価(規定量添加試験;第2試験区)
稲わらサイレージの調製において使用する試験酵素の添加量を規定量(上記(1)における過剰添加量の約4分の1)とした。稲わら乾燥粉末に対して0.239 [mgタンパク質/稲わら100g]の酵素を添加した。サイレージの貯蔵は37℃で1ヶ月行った。
【0168】
結果は、過剰量添加試験と同様の傾向を示した(
図3、表3)。CBF酵素を添加して調製したサイレージ抽出液では、無添加、及び乳酸菌のみの添加に比べて、遊離フェルラ酸量が有意に増加した(
図3)。
【0169】
【0170】
(3)CBF酵素を用いて調製された牧草サイレージの発酵品質評価(規定量添加試験;第3試験区)
牧草に対する規定量のCBF酵素の効果を検討した。牧草は、稲わらに比べ、線維源として粗剛性が低い飼料である。サイレージ調製に用いる牧草の草種には、チモシー及びリードカナリーグラスを用いた。
【0171】
牧草(チモシー又はリードカナリーグラス)に対して0.264 [mgタンパク質/生牧草 100g]の酵素を添加し、サイレージの貯蔵は25℃で1ヶ月行った。
【0172】
その結果、チモシーサイレージ及びリードカナリーグラスサイレージのいずれにおいても、CBF酵素はMA酵素と比較して総有機酸含量が増加し、pHが低い傾向にあった(表4、表5)。したがって、CBF酵素は牧草において、MA酵素よりも発酵品質向上効果が高い。また、CBF酵素では、MA酵素と比較して、フェルラ酸遊離量及びクマル酸遊離量が有意に向上していた(
図4、
図5)。
【0173】
【0174】
【0175】
<実施例3:GH10酵素を用いて調製されたサイレージの発酵品質評価>
(目的)
エンドキシラナーゼは、糖質加水分解酵素ファミリー(glycoside hydrolase family; GHファミリー)GH10及びGH11に分類される。GH10エンドキシラナーゼとGH11エンドキシラナーゼでは、側鎖の少ないキシランを基質として用いた場合、GH11エンドキシラナーゼの方がGH10よりもエンドキシラナーゼ活性が高いことが知られている。GH11エンドキシラナーゼに対して、GH10エンドキシラナーゼは酵素の分子量が大きく巨大な基質ポケットを持つため、植物バイオマスのような雑多な基質に対する酵素活性能力が高いとされる。GH11は低分子量で小さな基質ポケットを有し、側鎖を多く持つようなキシランの分解は不得意とするのに対して、巨大基質ポケットをもつGH10は多少の側鎖を問題視せず、キシラン鎖を切断できる能力を有する。本発明では、牧草や稲わらのような雑多なバイオマスに対して有効に働き得るエンドキシラナーゼとして、GH10エンドキシラナーゼに着目した。
【0176】
サイレージ発酵品質に対するGH10エンドキシラナーゼ添加の効果を検討するために、MA酵素にGH10酵素を添加した混合酵素液を添加してサイレージを調製し、サイレージ発酵品質を評価する。
【0177】
(方法)
(1)GH10酵素、GH11酵素の調製方法
T. セルロリティカス由来のGH10エンドキシラナーゼA(xyl10A)遺伝子をグルコアミラーゼプロモーターの制御下に組み込んだ発現プラスミドをT. セルロリティカス YP-4宿主株(pyrF遺伝子欠損株)に導入し、デンプンを炭素源として特異的にXyl10Aを誘導生産させることが出来る組換えT. セルロリティカス Y208株(Kishishitaら、Protein.Expr.Purif. 94,40-45(2014))、並びに同様の手法を用いてT. セルロリティカス由来のGH11エンドキシラナーゼC(Xyl11C)を誘導生産させることが出来る組換えT. セルロリティカス Y223株(Watanabeら、AMB Express 4,27(2014))をデンプン液体培地(2% Starch、0.1% CSL、0.24% KH2PO4、0.05% (NH4)2SO4、0.047% Potassium tartrate、0.1% tween80、0.12% MgSO4、0.2% Urea、0.001% ZnSO4、0.001% MnSO4、0.001% CuSO4、pH4.0)に植菌し、5日間、230rpmにて28℃で振盪培養した。5日間振盪培養した培養液を4℃、3500rpmにて15分遠心し、菌体を除去した後、その上清を0.2μmのフィルターでろ過した濾液を酵素液とした。GH10生産株、GH11生産株から得られた酵素をそれぞれGH10酵素、GH11酵素と称し、各種活性測定及び各種サイレージの作成に使用した。
【0178】
(2)稲わらサイレージ調製方法
稲わらサイレージの調製は、実施例2に記載の方法に準じた。
【0179】
(結果)
(1)GH10酵素を用いて調製された稲わらサイレージの発酵品質評価(過剰量添加試験;第4試験区)
乳酸菌及びMA酵素の添加(乳酸菌/MA酵素)では、稲わら乾燥粉末に対して1.214 [mgタンパク質/稲わら100g]の酵素を添加した。乳酸菌、MA酵素及びGH10酵素の添加(乳酸菌/MA酵素/GH10酵素)では、さらにエンドキシラナーゼ活性でMA酵素の2倍量に相当する(タンパク質重量比でMA酵素の約15%に相当する)GH10酵素を添加した。稲わらサイレージの貯蔵は37℃で2週間行った。
【0180】
その結果、MA酵素にGH10酵素を添加した場合(乳酸菌/MA酵素/GH10酵素)では、MA酵素(乳酸菌/MA酵素)と比較してフェルラ酸遊離量が増加した(
図6)。GH10エンドキシラナーゼによるキシランの分解によって、フェルロイルエステラーゼによるフェルラ酸遊離が促進される可能性が示唆された。
【0181】
【0182】
また、MA酵素にGH10酵素を添加した場合(乳酸菌/MA酵素/GH10酵素)には、総繊維含量(OCW)は無添加及び乳酸菌のみの添加と比較して有意に低下しており、低消化性繊維(Ob)は他の試験区と比較して有意に低下していた(表7)。一般に低消化性繊維(Ob)が低下すると繊維消化性が向上することから、GH10酵素の添加により繊維消化性が向上する可能性が示唆された。
【0183】
【0184】
(2)GH10酵素又はGH11酵素を用いて調製された稲わらサイレージの発酵品質評価(過剰量添加試験;第5試験区)
本試験では、GH10酵素及びGH11酵素を用いて(1)と同様の試験を行った。
MA酵素にGH10酵素又はGH11酵素を追加して添加しても有機酸含量やpHに特段大きな差は認められなかったが(表8)、MA酵素にGH10酵素又はGH11酵素を追加して添加したいずれの場合も、MA酵素のみの添加に比べてフェルラ酸遊離量が有意に増加していた(
図7)。
【0185】
【0186】
またMA酵素にGH10酵素又はGH11酵素を追加して添加したサイレージでは、総繊維含量(OCW)が低下する傾向を示した(表9)。さらに、GH10酵素の場合には、低消化性繊維含量(Ob)が低下する傾向を示した(表9)。このことから、やはりGH10酵素には低消化性繊維含量(Ob)低下能力がある可能性が高いことが明らかとなった。
【0187】
【0188】
<実施例4:CFX酵素を用いて調製されたサイレージの発酵品質評価>
(目的)
CFX酵素を用いて調製されたサイレージの発酵品質を評価する。
【0189】
(方法)
(1)冷凍チモシー1番草サイレージの調製方法
適期刈りのチモシー1番草を切断長1cmで細断し、-20℃で保管していたものを解凍し、サイレージ調製に使用した。
サイレージ調製には、乳酸菌として、サイマスターAC(雪印種苗販売)に使われている、それぞれ基準量(1×105 cfu / 生草牧草g)のSBS0001s株(Lactococcus lactis)及びSBS0003株(Lactobacillus paracasei)、並びにMA酵素規定量に相当する試験酵素量(生草10トンあたり150gのMA酵素にアビセラーゼ活性で相当する試験酵素の量)を霧吹きで噴霧添加した。開封後のサイレージに対して、有機酸含量、pH、水分含量、フェルラ酸・クマル酸遊離量、繊維分析、乾物消失率の測定を行った。
【0190】
(2)稲わらサイレージ及び牧草(チモシー2番草)サイレージの調製方法
稲わらサイレージ及び牧草(チモシー2番草)サイレージの調製は、実施例2に記載の方法に準じた。
【0191】
(結果)
(1)CFX酵素に含まれる各種酵素活性の測定
CFX酵素はMA酵素と比較するとエンドキシラナーゼ活性及びフェルロイルエステラーゼ活性が圧倒的に向上していた(
図1)。
【0192】
(2)CFX酵素を用いて調製された稲わらサイレージの発酵品質評価(規定量添加試験;第6試験区)
規定量のCFX酵素を用いて調製された稲わらサイレージについて、サイレージ発酵品質の評価を行った。酵素の添加量は0.167 [mgタンパク質/牧草100g]とし、25℃で1ヶ月貯蔵することによりサイレージを調製した。
【0193】
その結果、pH及び遊離有機酸含量では、酵素区間で有意差は検出されなかった(表10)。一方、遊離クマル酸量、遊離フェルラ酸量は、MA酵素に比べてCFX酵素を用いた場合に有意に高かった(
図8)。
【0194】
【0195】
(3)CFX酵素を用いて調製された牧草(チモシー2番草)サイレージの発酵品質評価(規定量添加試験;第7試験区)
規定量のCFX酵素を用いて牧草(チモシー2番草)サイレージの調製を行った。酵素の添加量は0.167 [mgタンパク質/牧草100g]とし、25℃で1ヶ月貯蔵することにより、サイレージを調製した。
【0196】
CFX酵素を用いて調製された牧草(チモシー2番草)サイレージでは、乳酸菌のみの添加に比べて乳酸含量が有意に高まる傾向を示したが、酵素区間では有意な差は認められなかった(表11)。遊離フェルラ酸量については、CFX酵素は乳酸菌のみの添加、及びMA酵素よりも有意に高い傾向を示した(
図9)。
【0197】
【0198】
(4)CFX酵素を用いて調製された牧草(冷凍チモシー1番草)サイレージの発酵品質評価(規定量添加試験;第8試験区)
規定量のCFX酵素を用いて牧草(冷凍チモシー1番草)サイレージを調製した。酵素の添加量は0.215 [mgタンパク質/牧草100g]とし、25℃で1ヶ月貯蔵することによってサイレージを調製した。
【0199】
CFX酵素を用いて調製された牧草(冷凍チモシー1番草)サイレージは、MA酵素と比較して同等の乳酸含量を示した(表12)。また、遊離クマル酸量及び遊離フェルラ酸量については、CFX酵素はMA酵素と比較して有意に高かった(
図10)。
【0200】
【0201】
総繊維含量(OCW)については、CFX酵素はMA酵素よりも低い傾向を示したが、低消化性繊維含量(Ob)については差が認められなかった(表13)。
【0202】
【0203】
<実施例5:CBF酵素、CFX酵素を用いて調製されたサイレージの牛体内における消化性の評価>
(目的)
CBF酵素、CFX酵素を用いて調製されたサイレージの牛体内における消化性を評価する。
【0204】
(方法)
(1)乾物消失率試験
飼料の第一胃内分解性を測定する方法として利用されるin situ法を用いた。「in situ法」とは、牛の体外からルーメン内に物を直接出し入れできる穴、すなわちフィステルを形成し、フィステルを通して試験試料を外部からルーメン内部に入れ、一定時間インキュベートした後に取り出し、試験試料の消化性を調べる方法である。
【0205】
サイレージ乾物を粉砕機で粉砕した後、粉砕物をあらかじめ重量の測定してあるサンプルバッグ(ポリエステル製、小、5cm X 10cm、280メッシュ/目開き 53ミクロン(±10))に2g入れ、口を輪ゴムでしっかり結んだ。サイレージ乾物の入ったサンプルバックをフィステルの蓋とひもで結ばれている洗濯ネットに入れ、フィステル牛のルーメン内に直接洗濯ネットごと投入し、蓋を締めた。インキュベーション時間は5~6時間、24時間とした。インキュベーション後、フィステル牛からサンプルを取り出し、流水で良く洗ってから、60℃で2日間乾燥させた。乾燥後重量を測定し、乾物消失率を以下の式6で示す算出式で計算した。
【0206】
【0207】
(結果)
(1)CBF酵素を用いて調製された稲わらサイレージの牛体内における消化性の評価(第1試験区)
実施例2の結果(1)で調製された稲わらサイレージ(過剰量添加試験;第1試験区)を用いて乾物消失率試験を行った。
CBF酵素を用いて調製された稲わらサイレージでは、乳酸菌のみの添加、及びMA酵素と比較して有意に乾物消失率が向上していた(表14)。サイレージ貯蔵中に繊維が分解され、可溶性画分が増えていたことにより、消化性が向上したと考えられる。
【0208】
【0209】
(2)CFX酵素を用いて調製された稲わらサイレージの牛体内における消化性の評価(第6試験区)
実施例4の結果(2)で調製された稲わらサイレージ(規定量添加試験;第6試験区)を用いて乾物消失率試験を行った。
【0210】
CFX酵素を用いて調製された稲わらサイレージでは、MA酵素と比較して全体的に消化性が高い傾向を示した(表15)。特に、CFX酵素は初期消化率(6時間)において無添加や乳酸菌のみの添加、MA酵素と比較して高い傾向を示した。
【0211】
【0212】
(3)CFX酵素を用いて調製された牧草(チモシー2番草)サイレージの牛体内における消化性の評価(第7試験区)
実施例4の結果(3)で調製された牧草(チモシー2番草)サイレージ(規定量添加試験;第7試験区)を用いて乾物消失率試験を行った。
その結果、いずれの時点においてもCFX酵素を用いて調製されたサイレージの消化性が最も高く、特に24時間後では、CFX酵素はMA酵素と比較して消化率が4%増加していた(表16)。
【0213】
【0214】
(4)CFX酵素を用いて調製された牧草(冷凍チモシー1番草)サイレージの発酵品質評価(規定量添加試験;第8試験区)
実施例4の結果(4)で調製された牧草(冷凍チモシー1番草)サイレージ(規定量添加試験;第8試験区)を用いて乾物消失率試験を行った。
その結果、CFX酵素を用いて調製されたサイレージの消化性が最も高く、MA酵素と比較しても消化率が約6%向上していた(表17)。
【0215】
【配列表】