(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】人工多層組織培養デバイスと人工多層組織の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20231121BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20231121BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20231121BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M3/00 A
C12N5/07
(21)【出願番号】P 2020553913
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2019042253
(87)【国際公開番号】W WO2020090771
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-07-21
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】ニエ ミンハオ
(72)【発明者】
【氏名】池村 美咲
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02526978(EP,A1)
【文献】国際公開第2016/076795(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/050981(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/035119(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板の一面に開口して第1方向に延び、第1細胞が培養される第1流路と、
前記一面に開口して前記第1方向に延び、第2細胞が培養される第2流路と、
前記一面に開口して前記第1方向に延び、少なくとも培地が供給される第3流路と、
前記一面に接合され前記第1流路、前記第2流路および前記第3流路を封止する光透過性を有する第2基板と、
を有し、
前記第2流路は、前記第1流路に対して前記第1方向と交差する第2方向の一方側に第1隔壁を介して設けられ、
前記第3流路は、前記第1流路に対して前記第2方向の他方側に第2隔壁を介して設けられ、
前記第1隔壁は、前記第1流路と前記第2流路とを連通させる第1連通路を有し、
前記第2隔壁は、前記第1流路と前記第3流路とを連通させる第2連通路を有し、
前記第1連通路は、前記第1方向に対向し前記第2流路から前記第1流路に向けて先細る対向面を有
し、
前記一面と直交する方向に前記第1基板を貫通し、前記第1流路の上側に前記第2流路が位置したときに前記対向面の上側の位置において前記第2流路と連通するインレットが設けられることを特徴とする人工多層組織培養デバイス。
【請求項2】
前記第1連通路は、前記第2流路側に位置する前記対向面と、前記第1流路側に位置し前記対向面の先細った端部から前記第1流路側に向けて拡径する第2対向面とを有する、
請求項1に記載の人工多層組織培養デバイス。
【請求項3】
前記第2流路は、
前記第1流路と平行に配置され前記第1連通路が設けられた第1部分と、
前記第1部分の前記第1方向の両側に設けられ前記第1部分から前記第1方向に離れるのに従って、前記第1流路からの前記第2方向の距離が大きくなる第2部分とを有する、
請求項1または2に記載の人工多層組織培養デバイス。
【請求項4】
前記第1隔壁の前記第2流路に臨む壁面および前記第1連通路の前記第2流路に臨む壁面には、前記第2細胞の付着を抑制する表面処理が施されている、
請求項1から3のいずれか一項に記載の人工多層組織培養デバイス。
【請求項5】
前記第2隔壁の前記第3流路に臨む壁面および前記第2連通路の前記第3流路に臨む壁面は、前記表面処理が非処理である、
請求項4に記載の人工多層組織培養デバイス。
【請求項6】
前記第1隔壁は、前記第1流路、前記第2流路および前記第1連通路と離れた領域に第1空気収容部を有し、
前記第2隔壁は、前記第1流路、前記第3流路および前記第2連通路と離れた領域に第2空気収容部を有し、
前記第1基板は、ポリジメチルシロキサンで形成されている、
請求項1から5のいずれか一項に記載の人工多層組織培養デバイス。
【請求項7】
前記第2基板は、ポリジメチルシロキサンで形成されている、
請求項6に記載の人工多層組織培養デバイス。
【請求項8】
前記第1空気収容部と前記第2空気収容部には、前記一面の法線方向に延び先端が前記一面と面一の柱部が設けられている、
請求項6または7に記載の人工多層組織培養デバイス。
【請求項9】
前記第1細胞は真皮細胞であり、
前記第2細胞は表皮細胞であり、
請求項1から8のいずれか一項に記載の人工多層組織培養デバイス。
【請求項10】
第1基板の一面に開口して第1方向に延び、第1細胞が培養される第1流路と、
前記一面に開口して前記第1方向に延び、第2細胞が培養される第2流路と、
前記一面に開口して前記第1方向に延び、少なくとも培地が供給される第3流路と、
前記一面に接合され前記第1流路、前記第2流路および前記第3流路を封止する光透過性を有する第2基板と、
を有し、
前記第2流路は、前記第1流路に対して前記第1方向と交差する第2方向の一方側に第1隔壁を介して設けられ、
前記第3流路は、前記第1流路に対して前記第2方向の他方側に第2隔壁を介して設けられ、
前記第1隔壁は、前記第1流路と前記第2流路とを連通させる第1連通路を有し、
前記第2隔壁は、前記第1流路と前記第3流路とを連通させる第2連通路を有し、
前記第1連通路は、前記第1方向に対向し前記第2流路から前記第1流路に向けて先細る対向面を有する人工多層組織培養デバイスを準備することと、
前記第1流路で第1細胞を培養して第1組織層を形成することと、
前記第2流路に前記第2細胞および培地を供給するとともに、前記第3流路に培地を供給することと、
前記人工多層組織培養デバイスの姿勢を調整して、前記第1流路の上側に前記第2流路を位置させ、前記第1連通路に露出する前記第1組織層上に前記第2細胞を配置することと、
前記第1組織層上に配置した前記第2細胞を前記第2流路の前記培地で培養することと、
を含むことを特徴とする人工多層組織の製造方法。
【請求項11】
前記第1組織層を形成することは、コラーゲン、アルギン酸塩および第1細胞の混合液を前記第1流路に供給することと、
前記混合液を培養して前記コラーゲンをゲル化させることと、
前記コラーゲンのゲル化後に前記第1流路にカルシウムイオンを添加して前記アルギン酸塩をゲル化させることと含む、
請求項
10に記載の人工多層組織の製造方法。
【請求項12】
前記第1流路における前記第1連通路と離れた位置から前記カルシウムイオンを添加する、
請求項
11に記載の人工多層組織の製造方法。
【請求項13】
前記第2流路に前記第2細胞および
前記培地を供給することは、
前記第1連通路より前記第2方向の一方側に前記第2流路と連通して設けられたインレットから前記第2細胞および
前記培地を供給する、
請求項
10から12のいずれか一項に記載の人工多層組織の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工多層組織培養デバイスと人工多層組織の製造方法に関する。
本願は、2018年10月29日に出願された米国特許仮出願62/751,743号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
皮膚モデル等の人工多層組織は、各層の面方向の厚さが大きい。そのため、人工多層組織の断面を観察するためには、人工多層組織を切断し組織切片を作製する必要がある。しかし、この作業は多くの時間とコストを要する。さらに、組織切片を作製する際にサンプルが壊れやすいという問題がある。また、人工多層組織を切断してしまうため、同じサンプルで時間経過を観察することができないという問題がある。
【0003】
非特許文献1および非特許文献2には、ゲル流路の両側に媒体流路を隣接して設け、媒体流路からゲル流路に細胞を追加して培養するデバイスが開示されている。
【0004】
非特許文献1および非特許文献2に開示されたデバイスでは、ゲル流路および媒体流路が同一平面上に形成されているため、平面の法線方向に観察することにより細胞を切断することなく観察することが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】MEDICAL SCIENCES, ENGINEERING “Human 3D vascularized organotypic microfluidic assays to study breast cancer cell extravasation,” by Jessie S. Jeon, Simone Bersini, Mara Gilardi, Gabriele Dubini,Joseph L. Charest, Matteo Moretti, and Roger D. Kamm, which appeared in issue 1, January 6, 2015, of Proc Natl Acad Sci USA(112:214-219; first published December 18, 2014; 10.1073/pnas.1417115112)
【文献】AIM BIOTECH社、”TECHNOLOGY”、[令和1年10月11日検索]、インターネット<URL: https://www.aimbiotech.com/technology.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したデバイスでは、ゲル流路において細胞組織(以下、ゲル流路組織と呼ぶ)を形成および観察することは可能であるが、媒体流路において多層細胞から構成される組織(以下、媒体流路組織)の形成が困難であり、ゲル流路組織と媒体流路組織から構成される人工多層組織の観察に適しているとはいえない。さらに、媒体流路組織が上皮細胞から構成される場合、上述したデバイスでは、気液界面での組織培養が困難であり、上皮組織の分化制御に適しているとはいえない。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、組織切片を作製することなく同じサンプルで時間経過の観察が可能な人工多層組織培養デバイスと人工多層組織の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に従えば、第1基板の一面に開口して第1方向に延び、第1細胞が培養される第1流路と、前記一面に開口して前記第1方向に延び、第2細胞が培養される第2流路と、前記一面に開口して前記第1方向に延び、少なくとも培地が供給される第3流路と、前記一面に接合され前記第1流路、前記第2流路および前記第3流路を封止する光透過性を有する第2基板と、を有し、前記第2流路は、前記第1流路に対して前記第1方向と交差する第2方向の一方側に第1隔壁を介して設けられ、前記第3流路は、前記第1流路に対して前記第2方向の他方側に第2隔壁を介して設けられ、前記第1隔壁は、前記第1流路と前記第2流路とを連通させる第1連通路を有し、前記第2隔壁は、前記第1流路と前記第3流路とを連通させる第2連通路を有し、前記第1連通路は、前記第1方向に対向し前記第2流路から前記第1流路に向けて先細る対向面を有することを特徴とする人工多層組織培養デバイスが提供される。
【0009】
本発明の第2の態様に従えば、本発明の第1の態様の人工多層組織培養デバイスを準備することと、前記第1流路で第1細胞を培養して第1組織層を形成することと、前記第2流路に前記第2細胞および培地を供給するとともに、前記第3流路に培地を供給することと、前記人工多層組織培養デバイスの姿勢を調整して、前記第1流路の上側に前記第2流路を位置させ、前記第1連通路に露出する前記第1組織層上に前記第2細胞を配置することと、前記第1組織層上に配置した前記第2細胞を前記第2流路の前記培地で培養することと、を含むことを特徴とする人工多層組織の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、組織切片を作製することなく同じサンプルで時間経過の観察が可能な人工多層組織培養デバイスと人工多層組織の製造方法を提供することができる。本発明によれば、例えば、上皮組織と内皮組織を同時に有する多層組織の構築および観察が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の人工多層組織培養デバイスを有する人工多層組織観察システムSYSの概略的な斜視図である。
【
図4】第1部分13B、13C近傍を-Z側から視た部分平面図である。
【
図5】人工多層組織培養デバイス1を用いて培養されて形成された人工多層組織を-Z側から視た部分平面図である。
【
図6】人工多層組織50の製造過程を示す部分平面図である。
【
図7】人工多層組織50の製造過程を示す部分平面図である。
【
図8】人工多層組織50の製造過程を示す部分平面図である。
【
図9】真皮組織層60上に、10-50cellsの表皮細胞71を配置(播種)した状態を撮像した画像である。
【
図10】10-50cellsの表皮細胞71で一日培養後の第1連通路16における真皮組織層60および表皮層70を撮像した画像である。
【
図11】同真皮組織層60および表皮層70を撮像した蛍光画像である。
【
図12】表皮層70をY方向に撮像した蛍光画像である。
【
図13】本発明の第2実施形態の人工多層組織培養デバイス1を有する人工多層組織観察システムSYSの概略的な斜視図である。
【
図14】第2実施形態の第1基板10を上側から視た平面図である。
【
図15】人工多層組織50の製造過程を示す部分平面図である。
【
図16】人工多層組織培養デバイス1を用いて培養されて形成された人工多層組織50を-Z側から視た部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の人工多層組織培養デバイスと人工多層組織の製造方法を適用した実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の歯ブラシの寸法関係とは異なる場合がある。
【0013】
[人工多層組織観察システム]
図1は、本発明の第1実施形態の人工多層組織培養デバイス1を有する人工多層組織観察システムSYSの概略的な斜視図である。
図1に示すように、人工多層組織観察システムSYSは、人工多層組織培養デバイス1と観察装置2とを備えている。
【0014】
[人工多層組織培養デバイスの第1実施形態]
人工多層組織培養デバイス1は、いずれも平面視で矩形板形状の第1基板10および第2基板30を備えている。第1基板10と第2基板30とは、例えば、接着材等により上下方向に接合された直方体形状である。第1基板10は、下面(一面)10aにおいて第2基板30と接合されている。
【0015】
第1基板10と第2基板30とは、例えば、一辺の長さが数mm~数十mmである。また、第1基板10の厚さとしては、例えば、数mmである。第2基板30の厚さとしては、例えば、数百μmである。
【0016】
第1基板10の素材としては特に限定されないが、例えば、エラストマーであり、シリコーンゴム、PDMS(ポリジメチルシロキサン)などが挙げられる。本実施形態の第1基板10は、空気透過性の観点からPDMSで形成されている。
【0017】
第2基板30の素材としては特に限定されないが、例えば、エラストマーであり、シリコーンゴム、PDMS(ポリジメチルシロキサン)などやガラスなどが挙げられる。本実施形態の第2基板30は、光透過性および空気透過性の観点からPDMSで形成されている。
【0018】
図2は、第1基板10を上側から視た平面図である。
図2に示すように、第1基板10は、幅方向(
図2中、左右方向)の略中央に設けられ第1細胞が培養される第1流路FAと、第1流路FAの上記幅方向の一方側(
図2中、左側)に配置され第2細胞が培養される第2流路FBと、上記幅方向の他方側(
図2中、右側)に配置され第3細胞が培養される第3流路FCとを有している。
【0019】
なお、以下では、第1基板10と第2基板30との接合方向(下面10aの法線方向)をZ方向とし、第1流路FA、第2流路FBおよび第3流路FCが並ぶ上記幅方向をY方向(第2方向)とし、Z方向およびY方向と直交する方向をX方向(第1方向)として説明する。
【0020】
第1流路FAは、X方向に延びて形成されている。第1流路FAの-X側端部には、インレット11Aが設けられている。第1流路FAの+X側端部には、アウトレット12Aが設けられている。インレット11Aおよびアウトレット12Aは、それぞれ断面円形でZ方向に延び第1基板10を貫通している。
【0021】
第2流路FBの-X側端部には、インレット11Bが設けられている。第2流路FBの+X側端部には、アウトレット12Bが設けられている。インレット11Bおよびアウトレット12Bは、それぞれ断面円形でZ方向に延び第1基板10を貫通している。第2流路FBは、X方向の中央で第1流路FAと平行にX方向に沿って配置された第1部分13Bと、第1部分13BのX方向両側に配置された第2部分14Bとを有している。各第2部分14Bは、第1部分13BからX方向に離れるのに従って、第1流路FAからのY方向の距離が大きくなる方向に延びている。
【0022】
第3流路FCの-X側端部には、インレット11Cが設けられている。第3流路FCの+X側端部には、アウトレット12Cが設けられている。インレット11Cおよびアウトレット12Cは、それぞれ断面円形でZ方向に延び第1基板10を貫通している。第3流路FCは、X方向の中央で第1流路FAと平行にX方向に沿って配置された第1部分13Cと、第1部分13CのX方向両側に配置された第2部分14Cとを有している。各第2部分14Cは、第1部分13CからX方向に離れるのに従って、第1流路FAからのY方向の距離が大きくなる方向に延びている。
【0023】
図3は、
図2におけるA-A線視断面図である。
図4は、第1部分13B、13C近傍を-Z側から視た部分平面図である。
図3に示すように、第1流路FA、第2流路FBおよび第3流路FCは、第1基板10の下面10aに開口する溝で形成されている。すなわち、第1流路FA、第2流路FBおよび第3流路FCは、XY平面と平行な同一平面内に配置されている。
【0024】
第2流路FBの第1部分13Bは、第1流路FAに対して第1隔壁15を介して設けられている。
図4に示すように、第1隔壁15は、第1流路FAと第2流路FBの第1部分13Bとを連通させる第1連通路16を有している。第1連通路16は、第1隔壁15をY方向に貫いて形成されている。第1連通路16の深さは、第1流路FAおよび第2流路FBの深さと同一である。
【0025】
第1連通路16は、第2流路FB側に位置しX方向に対向する対向面17Bと、第1流路FA側に位置しX方向に対向する第2対向面18Bとを有する。対向面17Bは、第2流路FBから第1流路FAに向けて先細る。第2対向面18Bは、対向面17Bの先細った端部から第1流路側FAに向けて拡径する。
【0026】
対向面17B同士の交差角度は特に限定されないが、例えば、90度程度とすることができる。第2対向面18B同士の交差角度は特に限定されないが、例えば、第1流路FAに供給された細胞外マトリックス成分の溶液が表面張力によって第2流路FBに漏れない角度が好ましく、例えば60度である。
【0027】
第1隔壁15における第2流路FBに臨む壁面および対向面17Bには、第2細胞の付着を抑制する表面処理が施されている。当該表面処理としては、一例として、まず無血清培地にPluronic F-127を0.2 wt%溶かした溶液を第2流路に流し込み、1時間以上反応させる。その後、乾燥しないままで細胞懸濁液を第2流路に流し込む処理が挙げられる。
【0028】
第1隔壁15は、第1流路FA、第2流路FBおよび第1連通路16と離れた領域に第1空気収容部19Bを有している。
図2に示されるように、第1空気収容部19Bは、空気導入路24Bを介して、第1基板10を貫通する空気インレット25Bに接続され空気が導入される。第1基板10を形成するPDMSは、空気透過性を有しているため、第1空気収容部19Bに収容された空気は、第1隔壁15を介して第1流路FA、第2流路FBおよび第1連通路16に供給可能である。第1空気収容部19Bには、矩形断面でZ方向に延びる柱部20Bが複数設けられている。複数の柱部20Bは、X方向に間隔をあけて配置されている。柱部20Bの先端面は、第1基板10の下面10aと面一である。
【0029】
第3流路FCの第1部分13Cは、第1流路FAに対して第2隔壁21を介して設けられている。第2隔壁21は、第1流路FAと第3流路FCの第1部分13Cとを連通させる第2連通路22を有している。第2連通路22は、第2隔壁21をY方向に貫いて形成されている。第2連通路22の深さは、第1流路FAおよび第3流路FCの深さと同一である。
【0030】
第2連通路22は、X方向に対向する対向面18Cを有する。対向面18Cは、第1流路FAから第3流路FCに向けて先細る。対向面18C同士の交差角度は特に限定されないが、例えば、第1流路FAに供給された細胞外マトリックス成分の溶液が表面張力によって第3流路FCに漏れない角度が好ましく、例えば60度である。
【0031】
第1隔壁15における第2流路FBに臨む壁面および対向面17Bには、第2細胞の付着を抑制する表面処理が施されていたが、第2隔壁21における第3流路FCに臨む壁面には、第3細胞の付着を抑制する表面処理が非処理である。
【0032】
第2隔壁21は、第1流路FA、第3流路FCおよび第2連通路22と離れた領域に第2空気収容部19Cを有している。
図2に示されるように、第2空気収容部19Cは、空気導入路24Cを介して、第1基板10を貫通する空気インレット25Cに接続され空気が導入される。第2空気収容部19Cに収容された空気は、第2隔壁21を介して第1流路FA、第3流路FCおよび第2連通路22に供給可能である。第2空気収容部19Cには、矩形断面でZ方向に延びる柱部20Cが複数設けられている。複数の柱部20Cは、X方向に間隔をあけて配置されている。柱部20Cの先端面は、第1基板10の下面10aと面一である。
【0033】
第2基板30は、第1基板10の下面10aに接合されることにより、第1隔壁15、第2隔壁21、柱部20B、20Cの先端面にも接合され、下面10aに開口する第1流路FA、第2流路FBおよび第3流路FCを封止する。第1隔壁15は第1空気収容部19Bを有し、第2隔壁21は第2空気収容部19Cを有しているため強度が小さくなるが、柱部20B、20Cの先端面が第2基板30に接合されることにより、人工多層組織培養デバイス1としての強度を補強することができる。
【0034】
観察装置2は、人工多層組織培養デバイス1におけるの-Z側に配置されている。観察装置2は、第1連通路16および第2連通路22を-Z側から観察可能な位置に配置されている。
【0035】
[人工多層組織]
次に、上記の人工多層組織培養デバイス1を用いて形成される人工多層組織について説明する。
図5は、人工多層組織培養デバイス1を用いて培養されて形成された人工多層組織50を-Z側から視た部分平面図である。
【0036】
人工多層組織50は、真皮組織層(第1組織層)60と表皮層(第2組織層)70とを含む。真皮組織層60は、第1流路FAと、第1連通路16における第2対向面18Bの間と、第2連通路22における対向面18Cの間とに形成されている。第2対向面18Bの間および対向面18Cの間に形成された真皮組織層60は、第2対向面18Bとの相互作用、および対向面18Cとの相互作用によって第2流路FB側および第3流路FC側に膨らむ曲面のメニスカスを形成している。
【0037】
真皮組織層60は、細胞外マトリックス成分61中の真皮細胞(第1細胞)62を培養することにより形成されたものである。細胞外マトリックス成分61としては、特に限定されないが、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型など)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどを含む)より再構成された基底膜成分、ゼラチン、寒天、アガロース、フィブリン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、スロンビン、アプロチニン、アルギン酸などを例示することができる。
【0038】
真皮細胞62としては、例えば、線維芽細胞を用いることができる。線維芽細胞としては、ヒト、マウス、ラット等、哺乳動物由来の細胞が挙げられ、ヒト由来線維芽細胞が好ましい。ヒト由来線維芽細胞としては、ヒト皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)、ヒト肺線維芽細胞:Human Pulmonary Fibroblasts (HPF)、ヒト心臓線維芽細胞:Human Cardiac Fibroblasts (HCF)、ヒト大動脈外膜線維芽細胞:Human Aortic Adventitial Fibroblasts (HAoAF)、ヒト子宮線維芽細胞:Human Uterine Fibroblasts (HUF)、ヒト絨毛間葉系線維芽細胞:Human Villous Mesenchymal Fibroblasts (HVMF)等が挙げられ、ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)が好ましい。
【0039】
表皮層70は、第1連通路16に露出する真皮組織層60上に、第2流路FBを介して培地とともに表皮細胞(第2細胞)71を播種して培養することにより形成されたものである。表皮細胞71としては、例えば、表皮角化細胞が使用できる。表皮細胞としては、ヒト、マウス、ラット等、哺乳動物由来の細胞が挙げられ、ヒト由来表皮細胞が好ましい。ヒト由来表皮細胞としては、表皮角化細胞、表皮メラノサイトが挙げられ、表皮角化細胞が好ましい。表皮角化細胞としては、正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocytes:NHEK) が挙げられる。表皮メラノサイトとしては、正常ヒト表皮メラノサイト(Normal Human Epidermal Melanocytes:NHEM)が挙げられる。
【0040】
なお、第3流路FCは、培地のみが供給される流路であっても、培地および第3細胞として管腔系細胞が供給されて管腔系組織が形成される流路であってもよい。管腔系細胞としては、血管系細胞が挙げられる。第3流路FCにおいて管腔系細胞を培養することにより、第3流路FCの壁面に管腔層を形成することができる。
【0041】
血管系細胞としては、血管上皮細胞、血管内皮細胞等が挙げられ、血管内皮細胞が好ましい。血管内皮細胞としては、ヒト、マウス、ラット等、哺乳動物由来の細胞が挙げられ、ヒト由来血管内皮細胞が好ましい。ヒト由来血管内皮細胞としては、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells:HUVEC)、 ヒト臍帯動脈内皮細胞(Human Umbilical Artery Endothelial Cells:HUAEC) 、ヒト冠状動脈内皮細胞(Human Coronary Artery Endothelial Cells:HCAEC)、 ヒト伏在静脈内皮細胞(Human Saphenous Vein Endothelial Cells:HSaVEC)、 ヒト肺動脈内皮細胞(Human Pulmonary Artery Endothelial Cells:HPAEC)、 ヒト大動脈内皮細胞(Human Aortic Endothelial Cells:HAoEC)、ヒト皮膚微小血管内皮細胞(Human Dermal Microvascular Endothelial Cells:HDMEC)、 ヒト皮膚血管内皮細胞(Human Dermal Blood Endothelial Cells:HDBEC)、 ヒト皮膚リンパ管内皮細胞(Human Dermal Lymphatic Endothelial Cells:HDLEC)、 ヒト肺微小血管内皮細胞(Human Pulmonary Microvascular Endothelial Cells:HPMEC)、 ヒト心臓微小血管内皮細胞(Human Cardiac Microvascular Endothelial Cells:HCMEC)、 ヒト膀胱微小血管内皮細胞(Human Bladder Microvascular Endothelial Cells:HBdMEC)、 ヒト子宮微小血管内皮細胞(Human Uterine Microvascular Endothelial Cells:HUtMEC)等が挙げられ、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)が好ましい。
【0042】
[人工多層組織50の製造方法]
次に、人工多層組織50の製造方法について説明する。
本発明に係る人工多層組織50の製造方法は、人工多層組織培養デバイス1を準備することと、第1流路FAで真皮細胞62を培養して真皮組織層60を形成することと、第2流路FBおよびに第3流路FCにそれぞれ培地を供給することと、人工多層組織培養デバイス1の姿勢を調整して、第1流路FAの上側に位置させた第2流路FBに表皮細胞71を注入し、第1連通路16に露出する真皮組織層60上に表皮細胞71を配置することと、真皮組織層60上に配置した表皮細胞71を第2流路FBの培地で培養することとを含む。
【0043】
以下、人工多層組織50の製造方法について、
図6乃至
図10を参照して詳細に説明する。
【0044】
(人工多層組織培養デバイス1の準備)
人工多層組織培養デバイス1の準備として、上記第1基板10の下面10aに第2基板30を接着剤等を用いて接合する。これにより、人工多層組織培養デバイス1の準備が完了する。
第1基板10の下面10aに第2基板30が接合されたときに、第1連通路16は、Y軸と直交する断面が矩形となる。
【0045】
(真皮組織層60の形成)
人工多層組織培養デバイス1の準備が完了すると、真皮組織層60を形成する。真皮組織層60を形成することにおいては、まず、細胞外マトリックス成分61と真皮細胞62との混合物(混合液)を、冷却化下で
図2に示したインレット11Aから第1流路FAに注入する。上記混合物をインレット11Aから第1流路FAに円滑に注入するためには、人工多層組織培養デバイス1のXY平面が水平面と平行となる姿勢で行うことが好ましい。
【0046】
本実施形態における細胞外マトリックス成分61は、複数種のゲルが混在する。具体的には、細胞外マトリックス成分61は、コラーゲン(Atelocollagen;1.0mg/mL)およびアルギン酸塩(RGD-alginate;5.0mg/mL)を含んでいる。また、真皮細胞62としては、ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF;5e5cells/ml)を用いた。
【0047】
細胞外マトリックス成分61と真皮細胞62との混合物が第1流路FAに注ぎ込まれると、真皮細胞62を含む細胞外マトリックス成分61は、
図6に示されるように、第1連通路16における第2対向面18Bに接触し、第2流路FB側に膨らむメニスカスを形成する。同様に、真皮細胞62を含む細胞外マトリックス成分61は、第1連通路16における対向面18Cに接触し、第3流路FC側に膨らむメニスカスを形成する。
【0048】
この後、湿潤に保ちながら混合物を所定条件で培養(インキュベーション)する。培養条件は、一例として、37℃の温度下で60分間行った。
【0049】
コラーゲンとアルギン酸塩ではゲル化条件が異なり、上記のインキュベーションにより、まずコラーゲンがゲル化する。コラーゲンがゲル化した後に、インレット11Aから第1流路FAに塩化カルシウム(CaCl2)を添加する。塩化カルシウムの添加で第1流路FAに生じたカルシウムイオンにより、アルギン酸塩がゲル化する。これにより、第1流路FAには、コラーゲンとアルギン酸塩がゲル化した細胞外マトリックス成分61が形成される。
【0050】
アルギン酸塩は、カルシウムイオンに向かって移動するため、カルシウムイオン(塩化カルシウム)が第2流路FBまたは第3流路FCから添加された場合、アルギン酸塩が第2流路FBまたは第3流路FCに移動する可能性がある。そのため、塩化カルシウムは、第1流路FAにおける第1連通路16および第2連通路22から離れた位置(例えば、3mm程度)から添加されることが好ましい。
【0051】
ここで、ゲル化したコラーゲンは柔らかいため、第1連通路16に露出した真皮組織層60上に表皮細胞71が播種された際に第1流路FA内に落ち込む可能性がある。一方、落ち込むことなく表皮細胞71を支持するために、フィブリン等の比較的硬いゲルを用いることも考えられるが、フィブリンは溶けやすいため表皮細胞71を培養しても表皮層70が形成される前にフィブリンが消滅する可能性がある。
【0052】
一方、アルギン酸塩は、フィブリンのようには溶けず、また、コラーゲンと比較して硬いが、収縮が大きいという特性を有している。そのため、本実施形態では、コラーゲン溶液とアルギン酸塩溶液とを第1流路FAに供給後に、先にコラーゲンをゲル化して細胞外マトリックスの基体を形成する。そして、コラーゲンゲルの基体が存在する状態でアルギン酸塩をゲル化している。アルギン酸塩のゲル化により大きな収縮が発生してもコラーゲンゲルの基体により、収縮を緩和することができる。
【0053】
従って、本実施形態では、コラーゲンがゲル化した後にカルシウムイオンを添加してアルギン酸塩をゲル化することにより、播種された表皮細胞71を支持するための強度確保と、細胞外マトリックス成分61の溶解抑制とを両立している。
【0054】
第1流路FAにおいて、細胞外マトリックス成分61がゲル化すると、
図7に示すように、第3流路FCに培地MCを注入するとともに、第2流路FBに表皮細胞71を含む培地MBを注入する。培地MB、MCとしては、例えば、ケラチノサイト培地が挙げられる。
【0055】
第3流路FCに培地MCを注入し、第2流路FBに表皮細胞71を含む培地MBを注入すると、人工多層組織培養デバイス1の姿勢を調整して、第2流路FBが第1流路FAの上側に位置させる。すなわち、+Y側が上側となるように、人工多層組織培養デバイス1を立てる。
【0056】
+Y側が上側となった人工多層組織培養デバイス1において、第2流路FBの第1部分13Bは水平となり、第2部分14Bは第1部分13Bから離れるのに従って上側(+Y側)に向かう方向に傾く。従って、第2部分14Bの上側に位置する表皮細胞71は、自重により培地MBに対して沈降した後に、傾斜している第2部分14Bに導かれて第1部分13Bに集積されることになる。また、第1隔壁15における第2流路FBに臨む壁面および対向面17Bには、表皮細胞71の付着を抑制する表面処理が施されているため、第1部分13Bに集積された表皮細胞71を、
図8に示すように、第1連通路16に露出する真皮組織層60(細胞外マトリックス成分61)上に効果的に集積・配置することができる。
【0057】
真皮組織層60上に表皮細胞71が配置されると、例えば、1時間インキュベーションする。培地MBにより表皮細胞71が培養されるとともに、培地MCにより真皮細胞62が培養されることにより、
図5に示したように、第1連通路16に露出する真皮組織層60上に表皮層70が形成される。
【0058】
真皮細胞62および表皮細胞71の培養時には酸素が消費されるが、第1隔壁15に第1空気収容部19Bが設けられ、第2隔壁21に第2空気収容部19Cが設けられ、第1隔壁15、第2隔壁21を形成するPDMSが空気透過性を有しているため、第1流路FA、第2流路FBおよび第3流路FCに空気を介して酸素を供給することができる。そのため、酸素不足を生じさせることなく、円滑に真皮組織層60および表皮層70を形成することができる。
【0059】
同様に、第2基板30がPDMSで形成されているため、第2基板30を介して第1流路FA、第2流路FBおよび第3流路FCに酸素を供給することができる。
【0060】
これら、真皮組織層60および表皮層70は、XY平面と平行な同一平面内に形成されており、薄板状の第2基板30を介して-Z側から観察装置2を用いて観察することができる。
【0061】
図9は、+Y側が上側となるように、人工多層組織培養デバイス1を立て、第1連通路16に露出する真皮組織層60上に、10-50cellsの表皮細胞71を配置(播種)した状態を撮像した画像である。
【0062】
図10は、上記の表皮細胞71を一日培養した後の第1連通路16における真皮組織層60および表皮層70を撮像した画像である。
図9および
図10に示されるように、表皮細胞71を真皮組織層60上に配置した直後から、第1流路FA側に落ち込むことなく、また、細胞外マトリックス成分61が消滅することなく真皮組織層60上に表皮層70を形成される様子を同一サンプルで観察することができた。
【0063】
図11は、
図9および
図10に示した真皮組織層60および表皮層70を撮像した蛍光画像である。
図12は、表皮層70をY方向に撮像した蛍光画像である。
図11に示されるように、真皮組織層60上の表皮層70において、明瞭に撮像された核を有する組織の表面に、薄く撮像された核を有する組織の分化が生じたことを観察できた。また、Y軸と直交する断面が矩形の第1連通路16に形成された表皮層70は、
図12に示すように、Y方向視がほぼ矩形であり、第1連通路16における対向面17B間の空間を埋めるように形成されていることを観察できた。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の人工多層組織培養デバイス1においては、下面10aに開口する溝で同一平面内に配置された第1流路FA、第2流路FBおよび第3流路FCが第1基板10に形成され、光透過性を有する第2基板30が下面10aに接合されることにより、組織切片を作製することなく第2基板30を介して生体の人工多層組織50を観察することが可能になる。
【0065】
また、本実施形態の人工多層組織培養デバイス1においては、培地を交換して培養を継続することにより、同じ人工多層組織のサンプルで時間経過の観察が可能になる。
【0066】
また、本実施形態の人工多層組織の製造方法においては、真皮組織層60を形成するための細胞外マトリックス成分61としてコラーゲンとアルギン酸塩とを用い、先にコラーゲンをゲル化した後にアルギン酸塩をゲル化することにより、細胞外マトリックス成分61が第1流路FAに側に落ち込んだり、消滅することを防止でき、正常な状態および位置に表皮層70を形成して観察することが可能になる。
【0067】
[人工多層組織培養デバイスの第2実施形態]
続いて、人工多層組織培養デバイスの第2実施形態について、
図13乃至
図16を参照して説明する。
これらの図において、
図1乃至
図12に示す第1実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
第2実施形態と上記の第1実施形態とが異なる点は、表皮細胞を播種するためのインレットを設けた点である。
【0068】
図13は、本発明の第2実施形態の人工多層組織培養デバイス1を有する人工多層組織観察システムSYSの概略的な斜視図である。
図14は、第2実施形態の第1基板10を上側から視た平面図である。
図15は、人工多層組織50の製造過程を示す部分平面図である。
図16は、人工多層組織培養デバイス1を用いて培養されて形成された人工多層組織50を-Z側から視た部分平面図である。
【0069】
図13~
図16に示すように、第2実施形態に係る第1基板10は、第1連通路16の+Y側に表皮細胞を播種するためのインレット26を有している。インレット26は、第2流路FBと一部が交差する位置に配置されて第1基板10をZ方向に貫通している。すなわち、インレット26は、第2流路FBと連通している。インレット26と第2流路FBとが交差するY方向の長さは、例えば、0.2mm程度である。
他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0070】
人工多層組織培養デバイス1において、人工多層組織50を製造する際には、第1流路FAで細胞外マトリックス成分61がゲル化した後に、
図15に示すように、人工多層組織培養デバイス1を水平にした状態で第3流路FCに培地MCを注入するとともに、インレット26から第2流路FBに表皮細胞71を含む培地MBを注入する。このとき、インレット26は、第2流路FBと連通しているため、表皮細胞71を一定的な数で注入することができる。
【0071】
その後、+Y側が上側となるように、人工多層組織培養デバイス1を立てる。これにより、インレット26から第2流路FBに注入された表皮細胞71は、自重により培地MBに対して沈降し、第1部分13Bに集積される。このとき、第1隔壁15における第2流路FBに臨む壁面および対向面17Bには、表皮細胞71の付着を抑制する表面処理が施されているため、第1部分13Bに集積された表皮細胞71は、第1連通路16に露出する真皮組織層60(細胞外マトリックス成分61)上に効果的に集積・配置することができる。
【0072】
このように、本実施形態の人工多層組織培養デバイス1においては、上記第1実施形態の人工多層組織培養デバイス1と同様の作用・効果が得られることに加えて、インレット26から第2流路FBに表皮細胞71を注入した後に、さらに、インレット26空にして空気で満たすことにより、
図16に示すように、インレット26と培地MBとの交差部に気液界面(Air-liquid interface)27を形成することができる。そのため、播種した表皮細胞71を気液界面の直近の位置で培養し表皮層70の分化を促進することが可能になる。さらに、脂溶性の試薬もこのインレット26から添加しやすい効果も得られる。
【0073】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0074】
例えば、上記実施形態では、人工多層組織として人工皮膚組織を例示したが、層状の組織であれば、これに限定されるものではない。人工多層組織としては、例えば、上述した線維芽細胞の代わりに、骨格筋細胞または心筋細胞を用いた筋組織や肺系細胞を用いた肺組織であってもよい。さらに、肝細胞を用いた肝臓組織や腸系細胞を用いた腸組織、膵臓系細胞を用いた膵臓組織等の消化器系組織、腎臓系細胞を用いた腎臓組織等の泌尿器系組織、神経系細胞を用いた神経組織であってもよい。このような組織に本発明を適用する場合には、上記実施形態で用いた細胞外マトリクスは必ずしも存在していなくてもよく、各種細胞のみを集積したものであってもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、人工多層組織培養デバイス1に第1連通路16および第2連通路22がそれぞれ一つずつ設けられる構成を例示したが、この構成に限定されず、複数の第1連通路16および第2連通路22が設けられる構成であってもよい。例えば、第1実施形態で説明した人工多層組織培養デバイス1の第1部分13B、13Cに複数の第1連通路16および第2連通路22を設け、各第1連通路16で表皮細胞71をほぼ同一の培養条件で培養することができる。この場合、複数の第1連通路16において形成された表皮層70を観察することにより、一つの人工多層組織培養デバイス1を用いて、形成された表皮層70の再現性を確認することが可能になる。第1実施形態で説明した人工多層組織培養デバイス1において、第1部分13B、13Cに第1連通路16および第2連通路22を複数設ける構成の他に、第1連通路16および第2連通路22が一つずつ設けられた第1部分13B、13Cと、当該第1部分13B、13Cの両側に第2部分14B、14Cとで構成される組を流路方向に複数組設ける構成であってもよい。
【0076】
また、第2実施形態で説明した人工多層組織培養デバイス1の第1連通路16および第2連通路22が一つずつ設けられた第1部分13B、13Cと、当該第1部分13B、13Cの両側に第2部分14B、14Cと、第1連通路16近傍に設けられたインレット26とで構成される組を流路方向に複数組設ける構成であってもよい。この構成では、上記と同様に、同一の表皮細胞71を用いて形成された表皮層70の再現性を確認することや、例えば、少なくとも二種の臓器の表皮細胞を用い、インレット26を介して臓器毎の表皮細胞71を播種することができる。複数種の臓器の表皮細胞を播種した場合、ほぼ同一条件の真皮組織層60上に異なる臓器の表皮層70を独立して形成して観察することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、人工多層組織培養デバイスと人工多層組織の製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0078】
1…人工多層組織培養デバイス、 10…第1基板、 10a…下面(一面)、 13B、13C…第1部分、 14B、14C…第2部分、 15…第1隔壁、 16…第1連通路、 17B…対向面、 18B…第2対向面、 19B…第1空気収容部、 19C…第2空気収容部、 20B、20C…柱部、 21…第2隔壁、 22…第2連通路、 26…インレット、 30…第2基板、 50…人工多層組織、 60…真皮組織層(第1組織層)、 62真皮細胞(第1細胞)、 70…表皮層(第2組織層)、 71…表皮細胞(第2細胞)、 FA…第1流路、 FB…第2流路、 FC…第3流路