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特許7388775試料分析システム、学習済みモデル生成方法、及び試料分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】試料分析システム、学習済みモデル生成方法、及び試料分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/73 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
G01N21/73
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022501649
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2020045999
(87)【国際公開番号】W WO2021166388
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2020028438
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺本 慶之
(72)【発明者】
【氏名】鳥村 政基
(72)【発明者】
【氏名】佐野 泰三
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-005837(JP,A)
【文献】特開2015-194402(JP,A)
【文献】登録実用新案第3134776(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をプラズマに設定される測定領域に間欠的に導入するドロップレット装置と、
前記測定領域の発光を予め設定される所定周期の検出タイミングで検出する発光検出装置と、
検出された前記発光に基づいて前記試料を分析する分析装置と、を有し、
前記分析装置は、
検出された前記発光に基づいて、検出タイミング、前記測定領域における位置、及び前記発光の波長成分に応じた光強度の分布である時間/空間光強度分布を演算する分布演算部と、
前記時間/空間光強度分布から前記試料の性質を現わす試料特性に相関する特徴量を演算し、該特徴量に基づいて前記試料特性を特定する特性特定部と、を含む、
試料分析システム。
【請求項2】
請求項1に記載の試料分析システムであって、
前記試料特性は、前記試料を構成する粒子の元素と、粒子サイズ及び粒子構造の少なくとも何れか1つと、を含む、
試料分析システム。
【請求項3】
請求項2に記載の試料分析システムであって、
前記試料は、一種又は二種以上の粒子を所定の液体に混合させた液体試料であり、
前記ドロップレット装置は、前記液体試料を所望の径の液滴の形態でプラズマに導入するように放出口を開閉する開閉機構を備え、
前記分析装置は、前記液体試料に含まれる粒子の濃度に基づいて前記開閉機構における開閉周期を調節する、
試料分析システム。
【請求項4】
請求項2又は3の試料分析システムであって、
前記特性特定部は、前記時間/空間光強度分布を前記波長成分で積分した場合におけるピーク強度である第1ピーク強度、該第1ピーク強度をとるときの検出タイミング、及び該第1ピーク強度をとる前記測定領域上の位置を前記特徴量として演算し、
前記特徴量に基づいて前記粒子サイズを特定する、
試料分析システム。
【請求項5】
請求項4に記載の試料分析システムであって、
前記試料特性は、粒子を構成する一種又は二種以上の元素が結合する形態である粒子構造を含み、
前記特性特定部は、さらに、前記特徴量に基づいて粒子構造を特定する、
試料分析システム。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の試料分析システムであって、
前記試料特性は、前記試料に前記粒子サイズがそれぞれ異なる粒子が含まれる場合における各粒子の存在割合を含み、
前記特性特定部は、前記時間/空間光強度分布を前記波長成分及び前記測定領域上の位置で積分した場合におけるピーク強度である第2ピーク強度、及び該第2ピーク強度をとるときの検出タイミングを前記特徴量として演算し、
前記特徴量に基づいて前記存在割合を特定する、
試料分析システム。
【請求項7】
請求項1~3の何れか1項に記載の試料分析システムであって、
前記特性特定部は、前記時間/空間光強度分布を入力とし、前記試料特性を出力とする学習済みモデルにより構成され、
前記学習済みモデルは、
既知試料に関する前記時間/空間光強度分布を入力に設定し、前記既知試料の性質を現わす既知特性を出力に設定した機械学習を実行することで得られ、
未知試料に関して求めた前記時間/空間光強度分布を入力とし、前記未知試料の性質を現わす未知特性を出力とするように前記分析装置を動作させる、
試料分析システム。
【請求項8】
試料に関する時間/空間光強度分布又は時系列画像群を入力とし、前記試料の性質を現わす試料特性を出力とする学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成方法であって、
既知試料に関する前記時間/空間光強度分布又は前記時系列画像群を入力とし、前記既知試料の性質を現わす既知特性を出力として機械学習を実行する処理を含み、
前記時間/空間光強度分布は、
前記既知試料をプラズマに設定される測定領域に間欠的に導入し、
前記測定領域で生じる発光を予め設定される所定周期の検出タイミングで検出し、
検出された前記発光に基づき、検出タイミング、前記測定領域上における位置、及び波長成分に応じた光強度の分布として演算することで取得され、
前記時系列画像群は、
前記既知試料をプラズマに設定される測定領域に間欠的に導入し、
前記測定領域で生じる発光を予め設定される所定周期の撮影タイミングで撮影することで取得される、
学習済みモデル生成方法。
【請求項9】
請求項に記載の学習済みモデル生成方法により生成された前記学習済みモデルを用いて実行する試料分析方法であって、
未知試料に関して求めた前記時間/空間光強度分布又は前記時系列画像群を前記学習済みモデルの入力とし、
出力されたデータを前記未知試料の性質を現わす未知特性として特定する、
試料分析方法。
【請求項10】
試料をプラズマに設定される測定領域に導入する装置と、
前記測定領域の発光を予め設定される所定周期の検出タイミングで検出する発光検出装置と、
検出された前記発光に基づいて前記試料を分析する分析装置と、を有し、
前記分析装置は、
検出された前記発光に基づいて、検出タイミング、前記測定領域における位置、及び前記発光の波長成分に応じた光強度の分布である時間/空間光強度分布を演算する分布演算部と、
前記時間/空間光強度分布から前記試料の性質を現わす試料特性に相関する特徴量を演算し、該特徴量に基づいて前記試料特性を特定する特性特定部と、を含む、
試料分析システム。
【請求項11】
試料をプラズマに設定される測定領域に間欠的に導入し、
前記測定領域で生じる発光を予め設定される所定周期の検出タイミングで検出し、
検出された前記発光に基づいて、検出タイミング、前記測定領域における位置、及び前記発光の波長成分に応じた光強度の分布である時間/空間光強度分布を演算し、
前記時間/空間光強度分布から前記試料の性質を現わす試料特性に相関する特徴量を演算し、
前記特徴量に基づいて前記試料特性を特定する、
試料分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分析システム、学習済みモデル生成方法、及び試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマを原子化源またはイオン化源に用いた誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分析装置では、試料をプラズマ源に供給してプラズマ化(励起)させ、プラズマからの光を波長分解して得られる発光スペクトルに基づいて試料の組成の分析を行う。
【0003】
JP2002-5837Aには、プラズマからの光を分光器によって分光させ、複数のCCD(Charge Coupled Device)光検出器によってプラズマ上の位置に対応させて検出し、その検出結果に基づいてプラズマ上の位置ごとの発光強度の分布を検出する分光分析装置が提案されている。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、JP2002-5837Aを含む従来のICP発光分光分析において、発光スペクトルから特定可能な情報は試料の構成元素にとどまる。すなわち、従来のICP発光分光分析で得られる発光スペクトルからは、構成元素以外の試料の特性を分析することはできない。
【0005】
したがって、本発明の目的は、試料のプラズマによる励起光から構成元素以外のより広範な試料特性を特定し得る分析手法を提供することにある。
【0006】
本発明のある態様によれば、試料をプラズマに設定される測定領域に間欠的に導入するドロップレット装置と、測定領域の発光を予め設定される所定周期の検出タイミングで検出する発光検出装置と、検出された発光に基づいて試料を分析する分析装置と、を有する試料分析システムが提供される。そして、分析装置は、検出された発光に基づいて、検出タイミング、測定領域における位置、及び発光の波長成分に応じた光強度の分布である時間/空間光強度分布を演算する分布演算部と、時間/空間光強度分布から試料の性質を現わす試料特性に相関する特徴量を演算し、該特徴量に基づいて試料特性を特定する特性特定部と、を含む。
【0007】
本発明の他の態様によれば、試料に関する時間/空間光強度分布を入力とし、試料の性質を現わす試料特性を出力とする学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成方法が提供される。この学習済みモデル生成方法は、既知試料に関する時間/空間光強度分布を入力とし、既知試料の性質を現わす既知特性を出力として機械学習を実行する処理を含む。そして、時間/空間光強度分布を、既知試料をプラズマに設定される測定領域に間欠的に導入し、測定領域で生じる発光を予め設定される所定周期の検出タイミングで検出し、検出された発光に基づき、検出タイミング、測定領域上における位置、及び波長成分に応じた光強度の分布として演算することで取得する。
【0008】
本発明の別の態様によれば、試料に関する時系列画像を入力とし、試料の性質を現わす試料特性を出力とする学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成方法が提供される。この学習済みモデル生成方法は、既知試料に関する時系列画像群を入力とし、既知試料の性質を現わす既知特性を出力として機械学習を実行する処理を含む。そして、時系列画像群を、既知試料をプラズマに設定される測定領域に間欠的に導入し、測定領域で生じる発光を予め設定される所定周期の撮影タイミングで撮影することで取得する。
【0009】
本発明のさらに別の態様によれば、生成した学習済みモデルを用いて実行する試料分析方法が提供される。この試料分析方法では、未知試料に関して求めた時間/空間光強度分布又は時系列画像群を上記学習済みモデルの入力とし、出力されたデータを未知試料の性質を現わす未知特性として特定する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の各実施形態に共通する試料分析システムの構成を説明する図である。
図2】ドロップレット装置の構成を示す図である。
図3】プラズマに設定される測定領域を説明する図である。
図4】高速度カメラにより生成された時系列画像群の態様の一例を示す図である。
図5】アナライザーの構成を説明するブロック図である。
図6】粒子サイズに相関する特徴量を演算する方法を説明する図である。
図7】粒子構造に相関する特徴量を演算する方法を説明する図である。
図8】各ドロップレット回における時間光スペクトルの分布の一例を示す図である。
図9】特性特定部を実現する機械学習モデルの構成を説明する図である。
図10】実施例1の粒径3μm及び粒径10μmのマイクロプラスチックに係る各時系列画像を示す図である。
図11】実施例1の粒径3μm及び粒径10μmのマイクロプラスチックに係る時間光強度分布を示す図である。
図12】実施例2による液体試料に含まれるマイクロプラスチックの粒径部分を示す図である。
図13】実施例2に係る液体試料(分離したAg粒子及びAu粒子を含有)に対して取得した時系列画像群を示す図である。
図14】実施例2に係る液体試料(Ag及びAuからなるコアシェル粒子を含有)に対して取得した時系列画像群を示す図である。
図15】実施例2に係る2種の液体試料の時間/空間光強度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態について説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態による試料分析システム10の構成を説明する図である。図示のように、試料分析システム10は、ドロップレット装置12と、試料供給制御装置14と、測定装置としてのプラズマ測定ユニット16と、を有している。
【0013】
図2は、ドロップレット装置12の構成を示す図である。ドロップレット装置12は、測定対象となる液体試料Sを試料液滴Sdの形態で間欠的にプラズマPLに供給する。
【0014】
ここで、本実施形態の液体試料Sは、水などの液体に一又は複数種類の粒子pが所定割合で混合されてなる混合液が想定される。以下では、この液体試料Sを構成する混合液中に含まれる粒子pの割合を「粒子濃度Cop」と称する。なお、この粒子濃度Copの概念には、質量濃度、物質量濃度、及び体積濃度などの濃度に対する公知の任意の定義が含まれる。
【0015】
また、本明細書において粒子pとは、一種類の元素が任意の結合形態(結晶構造又は非晶質構造など)をとることにより構成される単一元素粒子、及び複数種類の元素が相互に任意の結合形態(固溶体、コアシェル、又は担持など)で結合してなる複数元素粒子の双方が含まれる。さらに、粒子pの組成とは、粒子pを構成する一又は複数の元素を意味する。例えば、粒子pがポリスチレンビーズの場合には粒子pの組成はC(炭素)及びH(水素)である。
【0016】
図2に戻り、ドロップレット装置12は、ドロップレットヘッド20と、プラズマトーチ24と、を含む。
【0017】
ドロップレットヘッド20は、鉛直方向の上方(Y軸負方向)から順に設けられた開閉機構20aと、試料ガイド20bと、を備えている。
【0018】
開閉機構20aは、ドロップレット装置12の上方に配置される試料貯留容器26に試料供給キャピラリ26aを介して接続される。そして、開閉機構20aは、試料供給キャピラリ26a内で負圧状態に維持されている液体試料Sの遮断状態と通過状態を切り替えるように開閉し、試料液滴Sdを試料ガイド20b内に間欠的に放出する。
【0019】
より詳細には、開閉機構20aは、試料液滴Sdを所定の開閉周期ΔTf(例えば数Hz~数十kHz)で試料ガイド20bに供給するように間欠的に拡大・収縮するピエゾ素子などによって構成される。この構成により、試料供給キャピラリ26a内で負圧状態に維持されている液体試料Sは、開閉機構20aにおける開閉周期ΔTfに応じた液滴径rdの試料液滴Sdとして試料ガイド20b内に一滴ずつ放出される。
【0020】
本実施形態において、開閉周期ΔTfは、上述した液体試料Sにおける粒子濃度Copに応じて液滴径rdが適切な値をとるように設定される。開閉周期ΔTfの具体的な設定については後述する。
【0021】
試料ガイド20bは、開閉機構20aにより放出される試料液滴Sdをプラズマトーチ24の方向へ誘導するための試料通路を構成する。より詳細には、試料ガイド20bは、その上部に開閉機構20aが取り付けられるとともに、当該開閉機構20aにおける試料液滴Sdの放出口と連通する空間が内部に形成された筒状に構成されている。また、試料ガイド20bの壁部にはキャリアガス導入路20cが設けられている。
【0022】
キャリアガス導入路20cは、試料液滴SdをプラズマPLに向かう方向に誘導するキャリアガスcagを導入するための通路である。キャリアガス導入路20cは、筒状の試料ガイド20bの壁部の伸長方向(鉛直方向)に対して斜めに交差する切欠き状に形成されている。すなわち、キャリアガス導入路20cは、キャリアガスcagが試料ガイド20b内において鉛直方向下向きの流れ方向成分を持つように、試料ガイド20bの壁部に対して斜交する形態をとる。
【0023】
したがって、このキャリアガス導入路20cを介してキャリアガスcagを流すことで、当該キャリアガスcagの流れで試料ガイド20b内の試料液滴SdをプラズマPLに向かう方向へ好適に誘導することができる。
【0024】
なお、キャリアガス導入路20cから導入するキャリアガスcagの量は、試料液滴Sdの液滴径rdなどの要素に応じて適宜調節することができる。例えば、キャリアガスcagの体積流量を、0~1リットル/minの範囲に設定することができる。また、キャリアガスcagとしては、試料液滴SdをプラズマPLへ誘導する機能を実現しつつ、プラズマPLの安定的な生成を阻害しないようにする観点から不活性ガスを用いることが好ましく、アルゴンガスを用いることが特に好ましい。
【0025】
また、本実施形態のドロップレット装置12の構成では、ドロップレットヘッド20に対して鉛直方向における下方位置にプラズマPLが生成される。そのため、開閉機構20aから試料ガイド20b内に放出される試料液滴Sdは、プラズマPLに向かって鉛直方向における下方(Y軸正方向)に移動することとなる。したがって、試料液滴Sdは重力の作用でプラズマPLに向かう方向へ誘導されるので、キャリアガスcagを用いずとも、試料液滴SdをプラズマPLに好適に到達させることができる。このため、本実施形態のドロップレット装置12の構成であれば、キャリアガスcagの体積流量を比較的低い範囲(例えば、0~0.1リットル/min)に設定することもできる。
【0026】
一方、プラズマトーチ24は接続体28を介して試料ガイド20bの下端に接続されている。また、プラズマトーチ24にはプラズマPLを生成するプラズマ生成手段としてのコイル22が設けられている。プラズマトーチ24は、プラズマPLの安定的生成及び冷却を行うための各種ガスの供給通路を備えるとともに、試料ガイド20bからの試料液滴SdをプラズマPLに誘導する誘導路として機能する。
【0027】
より詳細に、プラズマトーチ24は、トーチ本体24aと、試料通路としての試料キャピラリ24bと、冷却ガス供給路24cと、を備えている。
【0028】
トーチ本体24aは、その上端が接続体28を介してドロップレットヘッド20における試料ガイド20bの下端と接続されている。トーチ本体24aは、例えば、石英などの材料により内部に試料キャピラリ24bを構成するように略円筒形状に形成される。
【0029】
さらに、トーチ本体24aの側壁には、試料ガイド20bの周辺(鉛直方向における比較的上部の領域)において、生成されるプラズマPLをトーチ本体24aから浮かせるための補助ガスag(中間ガス)を導入する補助ガス導入管24dが接続されている。
【0030】
より詳細には、補助ガス導入管24dは、トーチ本体24aと試料キャピラリ24bとの間の空間に連通するようにトーチ本体24aに接続されている。したがって、補助ガス導入管24dを介して導入される補助ガスagは、トーチ本体24aと試料キャピラリ24bとの間を介してプラズマPLに向かって流れることとなる。
【0031】
なお、補助ガス導入管24dから導入される補助ガスagの量は、トーチ本体24aの下端からプラズマPLの生成位置までの距離(プラズマPLを浮かせる距離)をどの程度とするかなどの観点から任意に設定することができる。例えば、補助ガスagの体積流量を1~1.5リットル/minの範囲で設定することができる。また、補助ガスagとしては、プラズマPLをトーチ本体24aから浮かせる機能を実現しつつ、プラズマPLの安定的な生成を阻害しないようにする観点から反応性が低い不活性ガスを用いることが好ましく、アルゴンガスを用いることが特に好ましい。
【0032】
そして、試料キャピラリ24bは、トーチ本体24aの内部において、試料ガイド20bの下端からコイル22の下端に亘って伸長するように設けられている。より詳細には、試料キャピラリ24bは、その上端が接続体28を介して試料ガイド20b内と連通するとともに、下端がコイル22上端近傍へ鉛直上下方向に伸長する。特に、試料キャピラリ24bの長さは、コイル22により生じる磁場によるドロップレットヘッド20へ影響を抑制する観点から定まる所定値以上に設定される。このため、試料ガイド20bの鉛直方向における伸長長さと試料キャピラリ24bの長さの和(すなわち、開閉機構20aの下端からコイル22の上端までの距離L)が例えば、数十cm程度となるように試料キャピラリ24bを構成することが好ましい。
【0033】
また、補助ガス導入管24dよりも下方におけるトーチ本体24aの外周には、冷却ガスcg(クーラントガス)を供給するための冷却ガス供給路24cが構成されている。なお、冷却ガスcgは、トーチ本体24aを冷却しつつ、プラズマPLを外気から遮断するシールドガスとして機能するガスである。
【0034】
特に、冷却ガス供給路24cは、石英などの材料で構成され、トーチ本体24aの外周面との間で冷却ガスcgが流れる間隙を確保しつつ、当該トーチ本体24aの周方向略全域を覆う筒状に形成される。これにより、冷却ガスcgがトーチ本体24a及びその内部の試料キャピラリ24bを外周から囲うように鉛直方向の下方向に向かって流れるため、トーチ本体24a及び試料キャピラリ24bに対する冷却機能が実現される。さらに、冷却ガス供給路24cの下端は、トーチ本体24aの下端を越えてより鉛直方向の下方へ伸長している。このため、冷却ガスcgがプラズマPLの周囲を囲むように流れるので、プラズマPLを外気から遮断する機能が好適に実現される。
【0035】
なお、冷却ガス供給路24cに導入される冷却ガスcgの量は、プラズマPLの状態に応じてキャリアガスcagの量とのバランスをとりつつ任意に設定することができる。例えば、冷却ガスcgの体積流量を12~15リットル/minの範囲に設定することができる。また、冷却ガスcgとしては、トーチ本体24aの冷却機能及びプラズマPLのシールド機能を実現しつつ、プラズマPLの安定的な生成を阻害しないようにする観点から反応性が低い不活性ガスを用いることが好ましく、アルゴンガスを用いることが特に好ましい。
【0036】
さらに、プラズマトーチ24の下端付近の位置において、冷却ガス供給路24cの外周に上述したコイル22が巻回されている。コイル22は、図示しない電力供給装置からの交流電力の供給を受けることでプラズマPLを生成するための磁場を発生させる。この磁場の作用によりプラズマPLが生成される。なお、コイル22に供給する交流電力の周波数及び振幅などを適宜調節することで、プラズマPLの状態を適宜調節することができる。
【0037】
次に、図1に戻り、試料供給制御装置14及びプラズマ測定ユニット16の構成について説明する。試料供給制御装置14は、ドロップレット装置12による試料液滴Sdの供給を制御する。本実施形態の試料供給制御装置14は、ドロップレットコントローラ30と、パルスジェネレータ32と、により構成される。
【0038】
ドロップレットコントローラ30は、ドロップレットヘッド20による試料液滴Sdの導入タイミング(開閉機構20aの開閉周期ΔTf)を制御する。より詳細には、ドロップレットコントローラ30は、開閉機構20aがパルスジェネレータ32で生成された同期信号により規定される開閉周期ΔTfで開閉するように印加電圧を調節する。
【0039】
パルスジェネレータ32は、後述する高速度カメラ38のフレームレートに応じた検出単位時間ΔTuに基づいて、ドロップレット装置12からの試料液滴Sdの供給タイミングとプラズマPLの発光の検出時刻tを同期させるための同期信号を生成して、ドロップレットコントローラ30に出力する。なお、簡易的な分析用途などの計測精度よりも構成の簡素化が求められる場合には、パルスジェネレータ32を適宜省略しても良い。
【0040】
プラズマ測定ユニット16は、石英レンズ33と、分光器34と、検出装置としてのイメージングインテンシファイア36と、高速度カメラ38と、アナライザー39と、を備えている。
【0041】
石英レンズ33は、プラズマPLの発光を分光器34へ集光する。特に、石英レンズ33は、測定基点PO0から測定終点PO2の間の領域(以下、単に「測定領域MA」とも称する)におけるプラズマPLの発光を分光器34に集光するように構成される。
【0042】
分光器34は、石英レンズ33で集光された光を波長成分λN(N=1,2,3・・・)ごとの光に分解する。より詳細には、分光器34は、石英レンズ33で集光された光を、その波長成分λ1、λ2、λ3・・・がY軸方向に沿って並ぶように結像する。分光器34は、例えば、要求される波長分解能に応じた回折格子により構成される。なお、分光器34の波長分解能は1/100nmオーダー、例えば0.04nm以下であることが好ましい。
【0043】
イメージングインテンシファイア36は、分光器34により分解された光を増幅しつつ該光の空間分布を生成する。より詳細には、イメージングインテンシファイア36は、分光器34で分光された光を測定領域MAの空間分布(鉛直方向位置及び水平方向位置)に対応させた2次元イメージとして検出する。
【0044】
高速度カメラ38は、イメージングインテンシファイア36によって検出された2次元イメージを予め設定されるフレームレート(例えば、数万~数百万fps)で連続撮影し、後述する時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を情報として含む時系列画像群Im(t)を生成する。高速度カメラ38は、この時系列画像群Im(t)をデジタル画像データとして所定の記憶領域に保存する。すなわち、本実施形態では、高速度カメラ38に設定されるフレームレートに応じて検出単位時間ΔTu(例えば数百ns~数百μs)が定まることとなる。
【0045】
特に、本実施形態では、検出単位時間ΔTuが開閉機構20aの開閉周期ΔTfよりも十分に小さくなるように、高速度カメラ38のフレームレートを設定することが好ましい。すなわち、高速度カメラ38のフレームレートは、ドロップレット装置12から供給される一滴の試料液滴Sdが測定領域MA中を移動しながら励起化されている過程において、当該過程を複数回撮影できるように設定される。より詳細には、この過程中に数コマ~数千コマの画像を撮影できるように、検出単位時間ΔTuが開閉周期ΔTfの1/100~1/100000倍程度となるフレームレートを設定することが好ましい。
【0046】
次に、イメージングインテンシファイア36及び高速度カメラ38による時系列画像群Im(t)の生成についてより詳細に説明する。
【0047】
図3は、本実施形態のプラズマPLに設定される測定領域MAを模式的に示した図である。図示のように、測定領域MAは、プラズマPLの測定基点PO0から測定終点PO2までの間において任意に設定される水平方向幅及び鉛直方向長さの領域として設定される。なお、図3中においては、参考のため、略鉛直方向の下方に向かって移動する試料液滴Sdが励起化(発光)を開始する鉛直方向位置である発光開始点PO1を示している。
【0048】
本実施形態では、イメージングインテンシファイア36により、測定領域MAにおいて、試料液滴Sdが移動する鉛直方向に沿った位置(鉛直方向位置Y)、及び分光器34の分解能に応じた各波長成分λNに割り当てられる位置(水平方向位置X)からなる空間分布に基づく光の状態を検出することができる。
【0049】
図4は、高速度カメラ38により生成された時系列画像群Im(t)の態様の一例を示す図である。
【0050】
本実施形態では、高速度カメラ38により検出単位時間ΔTuごとの複数の時系列画像im_t図4A及び図4Bでは、5つの時系列画像im_t0~im_t4)からなる時系列画像群Im(t)が生成される。
【0051】
すなわち、検出単位時間ΔTuごとの各時系列画像im_tには、生成された順番(時系列順)に応じた検出タイミング(検出時刻t)を割り当てることができる。また、時系列画像群Im(t)の縦方向の画像座標は測定領域MAにおける試料液滴Sdの移動経路(粒子pの移動経路)である上記鉛直方向位置Yに相当し、時系列画像群Im(t)の横方向の画像座標は波長成分λNに応じた上記水平方向位置Xに相当する。したがって、以下では、時系列画像群Im(t)の画像座標を、測定領域MAにおける鉛直方向(Y軸方向)及び水平方向(X軸方向)と同様の符号(X,Y)で表す。
【0052】
図4に示すように、時系列画像群Im(t)には、試料液滴Sdを構成する液体lq由来の励起光Elqと粒子p由来の励起光Epが含まれている。特に、図4に示す例では、検出対象である粒子pの励起光Epは、検出時刻t=t2における時系列画像im_t2から現れ始めている。そして、当該時系列画像im_t2の後の検出時刻t=t3,t4における時系列画像im_t3及び時系列画像im_t4において励起光Epの形態が変化している。
【0053】
本発明者らは、この点に着目して、各時系列画像im_tにおける粒子pの励起光Epの形態の変化が、液体試料Sに含まれる粒子pに関する組成以外の性質(粒子サイズ、粒子形状、及び粒子構造など)と相関することを見出した。すなわち、本発明者らは、上記時系列画像群Im(t)から、液体試料Sに含まれる粒子pに関する組成以外の性質(以下、単に「試料特性Ch」とも称する)に相関する特徴量FVを抽出することで、既存のICP発光分光分析では分析することのできなかった液体試料Sの特性を分析することが可能であるという思想に至った。
【0054】
さらに、本発明者らは、測定対象となる粒子pの励起光Epがより確実に時系列画像群Im(t)に含まれるように、液体試料Sの粒子濃度Copに応じて開閉機構20aの開閉周期ΔTfを調節することが好ましいという点を見出した。
【0055】
より詳細には、液体試料Sの粒子濃度Copが相対的に高い場合には、高速度カメラ38が測定領域MAを移動する試料液滴Sd中の粒子pをより高確率で捉えることが想定される。このため、時系列画像群Im(t)に粒子p由来の励起光Epがより含まれ易くなる。一方、液体試料Sの粒子濃度Copが相対的に低い場合には、逆の理由で時系列画像群Im(t)に粒子p由来の励起光Epがより含まれ難くなる。
【0056】
このため、本実施形態では、試料特性Chを特定するための特徴量FVの演算精度をより向上させる観点から、液体試料Sの粒子濃度Copに応じて開閉機構20aの開閉周期ΔTfを調節する。より具体的には、粒子濃度Copが低いほど、試料液滴Sdの液滴径rdを大きくして一つの試料液滴Sd中に粒子pがより高確率で含まれるように、開閉周期ΔTfを短く設定する。
【0057】
また、試料液滴Sdに、組成、粒子サイズ、粒子形状、及び粒子構造などの特性が相互に異なる複数の粒子pが含まれる場合であって粒子濃度Copが比較的高い場合には、各各時系列画像im_t中において、これら特性の異なる粒子pの励起光Epが重畳することが想定される。したがって、この場合、励起光Epの重畳を抑制する観点から、一つの試料液滴Sd中に含まれる粒子pの数を減少させるべく、開閉周期ΔTfを比較的短く設定する。なお、本実施形態における粒子サイズとは、粒子pの粒径を意味する。特に、粒子サイズは、粒子pが球状であることを仮定した場合に、当該球を構成する組成(原子の種類)に応じた径及び原子の個数に基づいて定まる粒径に相当する。また、これに代えて、粒子サイズは、所定の標準粒子を用いた計測との比較により定まる粒径であっても良い。
【0058】
次に、プラズマ測定ユニット16のアナライザー39の構成について説明する。本実施形態のアナライザー39は、CPU(Central processing Unit)等の演算/制御装置、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)、又はハードディスク(磁気記憶装置)等の各種記憶装置、及びキーボード、マウス、タッチパネル、ディスプレイ、プリンタ、及びI/Oポート等の各種入出力装置を備えたコンピュータで構成される。そして、以下の図5で説明する機能を、上記各ハードウェア及び記憶装置に記憶されたプログラム(ソフトウェア)により実現される。
【0059】
図5は、アナライザー39の構成(機能)を説明するブロック図である。図示のように、アナライザー39は、画像解析部40と、特性特定部41と、既知試料DB42と、を備える。
【0060】
画像解析部40は、上述の試料特性Chに相関する特徴量FVを求める観点から、高速度カメラ38により生成された時系列画像群Im(t)を解析する。
【0061】
特に、本実施形態の画像解析部40は、時系列画像群Im(t)から、当該時系列画像群Im(t)を構成する各時系列画像im_tに含まれる光の波長成分λNに対応した画像座標X、測定領域MAにおける試料液滴Sdの位置に対応する画像座標Y、及び各時系列画像im_tに対応する検出時刻tを変数とする時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を演算する。より詳細には、画像解析部40は、各時系列画像im_t中に含まれる試料液滴Sd由来の励起光Eの強度(励起光Eに対応する画像ピクセルの信号強度)を含む時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)として演算する。
【0062】
さらに、本実施形態の画像解析部40は、必要に応じて、時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を画像座標Yの任意の範囲で積分した時間/波長光スペクトルId1(t,X)、画像座標Xの任意の範囲で積分した時間/位置光スペクトルId2(t,Y)、並びに画像座標Y及び画像座標Xの双方の任意の範囲で積分した時間光スペクトルId3(t)を適宜演算する。
【0063】
ここで、時間/波長光スペクトルId1(t,X)を演算する際の画像座標Yの積分範囲は、当該時間/波長光スペクトルId1(t,X)中に励起光Eの強度の信号が好適に含まれるように適宜設定されることが好ましい。より具体的には、各時系列画像im_t中に含まれるノイズ光強度成分(バックグラウンドの逆光など)の影響を比較的低減し得る領域(S/N比の高い領域)を画像座標Yの積分範囲とすることが好ましい。
【0064】
また、時間/位置光スペクトルId2(t,Y)を演算する際の画像座標Xの積分範囲は、試料液滴Sdを構成する元素(特に、試料液滴Sdに含まれる粒子p)に対応する波長領域に応じた範囲として定められることが好ましい。なお、試料液滴Sdを構成する元素が不明である場合には、予め既存の分析方法を用いて当該元素を特定してこれに対応する波長領域を積分範囲とするか、或いは想定され得る候補のいくつかの元素に対応する各波長領域を足し合わせた領域を積分範囲としても良い。
【0065】
特性特定部41は、画像解析部40で演算された時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)に基づいて、上述の特徴量FVを演算する。
【0066】
ここで、本実施形態の特徴量FVとは、時系列画像群Im(t)又は時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を構成する一変量又は多変量のパラメータであって、液体試料Sの試料特性Ch(組成、粒子サイズ、粒子形状、及び粒子構造など)に一意に相関するパラメータである。
【0067】
特徴量FVの演算の一例を詳細に説明する。
【0068】
図6は、試料特性Chとして粒子サイズに相関する特徴量FVを演算する方法を説明するための図である。
【0069】
具体的に、図6には、同一組成(元素A)及び同一粒子構造(構造x)で構成されるものの、粒子サイズ(粒径)が異なる2種類の粒子p1及び粒子p2をそれぞれ含む液体試料S1及び液体試料S2に対して取得される時系列画像群Im(t)を示している。特に、図6は、粒子p1に係る粒子サイズが粒子p2に係る粒子サイズよりも大きい場合のそれぞれの時系列画像群Im(t)が想定される。
【0070】
また、図6では、時系列画像群Im(t)に、検出単位時間ΔTu間隔の検出時刻t0~t7でそれぞれ取得される7つの時系列画像im_t0~im_t6が含まれる例を示している。
【0071】
図示のように、相対的に大きい粒子サイズの粒子p1を含む液体試料S1の時系列画像群Im(t)では、検出時刻t0~t5のそれぞれの時系列画像im_t0~im_t5において、特定の画像座標X1(すなわち、波長成分λA)の付近に粒子p1の励起光Ep1が現れている。さらに、この励起光Ep1の強度は、検出時刻t0~t3の過程において増大し、検出時刻t3をピークとして検出時刻t3~t5の過程において減少し、検出時刻t6においてほぼ消失している。
【0072】
一方、相対的に小さい粒子サイズの粒子p2を含む液体試料S2の時系列画像群Im(t)では、検出時刻t0~t3のそれぞれの時系列画像im_t0~im_t5において、液体試料S1の場合と同一の波長成分λ1の付近に粒子p2の励起光Ep2が現れている。さらに、この励起光Ep2の強度のピークは、検出時刻t0~t1の過程において増大し、検出時刻t1をピークとして検出時刻t1~t2の過程において減少し、検出時刻t3においてほぼ消失している。
【0073】
したがって、相互に同一の元素及び同一構造で構成された粒子p1及び粒子p2の場合、それぞれの励起光Ep1及び励起光Ep2が現れる波長成分はほぼ共通するが、それぞれの強度がピークに到達するときの検出時刻t及び画像座標Yが異なることとなる。
【0074】
より詳細には、粒子サイズが相対的に小さい粒子p2に関して励起光Ep2の強度のピークに到達する検出時刻t1は、粒子サイズが相対的に大きい粒子p1に関して励起光Ep1のピーク強度に到達する検出時刻t3と比べて早くなっている。また、相対的に小さい粒子p2の励起光Ep2がピーク強度に到達するときの画像座標Y1は、相対的に大きい粒子p1の励起光Ep1がピーク強度に到達するときの画像座標Y2に比べて小さくなっている。これは、粒子サイズが小さいほどプラズマPLに到達した以降の励起化の進行が速くなるためと考えられる。したがって、励起光Eのピーク強度及び該ピーク強度に到達するときの検出時刻t及び画像座標Y(測定領域MA上の試料液滴Sdの位置)を調べれば、粒子サイズを推定することができる。すなわち、本実施形態では、励起光Eのピーク強度及び該ピーク強度に到達するときの検出時刻t及び画像座標Yが粒子サイズに相関する特徴量FVとなる。
【0075】
特に、この場合、粒子p1及び粒子p2の組成が相互に共通するため、波長成分λ(画像座標X)を変数としない時間/位置光スペクトルId2(t,Y)、又は時間光スペクトルId3(t)を用いることで特徴量FVの演算が簡素化される。
【0076】
次に、試料特性Chとして粒子構造に相関する特徴量FVを演算する方法について説明する。
【0077】
図7は、粒子構造に相関する特徴量FVを演算する方法を説明するための図である。
【0078】
具体的に、図7には、粒子p3を含む液体試料S3、粒子p4を含む液体試料S4に対してそれぞれ取得される時系列画像群Im(t)を示している。
【0079】
特に、液体試料S3に含まれる粒子p3は、二種の元素A,Bにより構成され、これらが固溶体として結合した構造をとるものである。より詳細には、粒子p3は元素Aと元素Bが相互に混和した状態で結合する構造をとる。また、液体試料S4に含まれる粒子p4は、粒子p3と同一の二種の元素A,Bにより構成され、これらがいわゆるコアシェル構造で結合したものである。より詳細には、粒子p4は、元素Bで構成される部分がコアとなり、元素Aで構成される部分が当該コアを覆う外殻として結合する構造をとる。なお、粒子p3、及び粒子p4それぞれの粒子サイズは相互にほぼ同一である。
【0080】
図示のように、粒子p3は二種の元素A,Bにより構成されるため、粒子p3由来の励起光Ep3に係るピーク強度は、元素Aに対応する波長成分λAの近傍と元素Bに対応する波長成分λBの近傍に現れる。また、同様に二種の元素A,Bにより構成される粒子p4由来の励起光Ep4に係るピーク強度についても、波長成分λAの付近及び波長成分λBの付近にそれぞれ現れている。
【0081】
一方で、固溶体の構造をとる粒子p3では、波長成分λA及び波長成分λBのそれぞれの励起光Ep3に係る検出時刻t及び画像座標Yあたりの変化過程が相互にほぼ一致している。
【0082】
これに対して、コアシェル構造をとる粒子p4では、先ず、外殻を構成する元素A由来の波長成分λAの強度が先に現れ始める(検出時刻t0及び画像座標Y4AS)。一方、コアを構成する元素B由来の波長成分λBの強度は、検出時刻t0よりも遅く、画像座標Y4Aよりも小さい画像座標Y4Bにおいて現れ始める(検出時刻t2及び画像座標Y4BS)。
【0083】
また、外殻を構成する元素A由来の強度は、検出時刻t3及び画像座標Y4APでピークを迎える。これに対して、コアを構成する元素B由来の強度は、それより後の検出時刻t5及び画像座標Y4BPでピークを迎える。
【0084】
さらに、外殻を構成する元素A由来の強度は、検出時刻t5及び画像座標Y4ALを最後に検出されなくなる。これに対して、コアを構成する元素B由来の強度は、それより後の検出時刻t6及び画像座標Y4BLにおいても検出されている。
【0085】
この現象に関して、本発明者らは、外殻を構成する元素Aはコアを構成する元素Bに比べてよりも早くプラズマPLに晒されることとなるため、励起化の進行が相対的に早くなるためと考えている。
【0086】
したがって、図7に示す時系列画像群Im(t)には、2種以上の元素で構成される粒子pにおいて、これら元素の結合の態様(すなわち構造)を特定し得る情報が含まれていることとなる。より詳細には、時系列画像群Im(t)又は時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)に含まれる励起光Eのピーク強度、該ピーク強度に到達するときの検出時刻t、及び画像座標Yが、粒子構造を特定し得る特徴量FVとなる。
【0087】
図5に戻り、既知試料DB42は、既知試料S_kに関する試料特性Ch(既知特性Ch_k)を、該既知試料S_kに対して演算された特徴量FV_kとしての時間/空間光スペクトルId_k(t,X,Y)と紐づけて記憶するデータベースである。なお、既知粒子p_kに関する特徴量FV_kも、上述した方法と同様の方法で演算することができる。
【0088】
次に、上述した特徴量FVの演算態様にしたがった特性特定部41における演算アルゴリズムの一例について説明する。特性特定部41は、例えば、以下の各工程(I)~(III)を実行することにより液体試料Sの試料特性Chを特定することができる。
【0089】
(I)画像解析部40で演算された時間/位置光スペクトルId2(t,Y)から、液体試料Sに含まれる粒子pの励起光Epのピーク強度(以下、「第1ピーク強度」とも称する)の領域(鉛直方向位置Y及び検出時刻tにより定まる領域)を特徴量FVとして演算する。具体的に、時間/位置光スペクトルId2(t,Y)中において、予め実験等で調査された液体由来の励起光Elq及びコンタミ等の影響が反映されている領域を除いた領域を、励起光Epに相当する第1ピーク強度の領域として抽出する。
【0090】
(II)既知試料DB42を参照して、励起光Epに相当する第1ピーク強度の領域が一致する既知粒子p_kのデータを抽出する。
【0091】
(III)抽出した既知粒子p_kのデータに含まれる既知特性Ch_kを、液体試料Sの試料特性Chとして特定する。これにより、液体試料Sの試料特性Ch(組成、粒子サイズ、粒子形状、及び粒子構造など)が特定されることとなる。
【0092】
なお、上記工程(I)~(III)は、液体試料Sの試料特性Chを特定するためのアルゴリズムの一例であり、当該アルゴリズムの具体的態様は上記の例に限られるものではない。
【0093】
また、適宜、特性特定部41により特定された液体試料Sの試料特性Chを、特徴量FVとして演算された第1ピーク強度の領域と紐づけて既知試料DB42に記憶するとともに、図示しない任意の出力装置(ディスプレイなど)に出力しても良い。
【0094】
以上、説明した本実施形態の試料分析システム10の構成及び作用効果を以下でまとめて説明する。
【0095】
本実施形態の試料分析システム10は、試料(液体試料S)をプラズマPLに設定される測定領域MAに間欠的に導入するドロップレット装置12と、測定領域MAで生じる発光を予め設定される所定周期(検出単位時間ΔTu)の検出タイミングである検出時刻(t=t0,t1,t2・・・)で検出する発光検出装置(イメージングインテンシファイア36及び高速度カメラ38)と、検出された発光に基づいて試料液滴Sdを分析する分析装置としてのアナライザー39と、を有する。
【0096】
そして、アナライザー39は、検出時刻t、測定領域MAにおける位置(画像座標Y)、及び発光の波長成分λN(画像座標X)を変数とする分布である時間/空間光強度分布(時系列画像群Im(t)又は時間/空間光スペクトルId(t,X,Y))を演算する分布演算部(画像解析部40)と、時間/空間光強度分布から試料液滴Sdの性質を現わす試料特性Chに相関する特徴量FVを演算し、該特徴量FVに基づいて試料特性Chを特定する特性特定部41と、を含む。
【0097】
これにより、上記時間/空間光強度分布から、既存のICP発光分光分析における発光スペクトル(波長成分に応じた発光強度分布)には含まれていなかった組成以外の試料特性Chを示す情報に相関する特徴量FVを求め、この特徴量FVから当該試料特性Chを特定することができる。すなわち、既存のICP発光分光分析による分析が困難であった液体試料Sの組成(元素)以外の性質を分析することが可能となる。
【0098】
特に、このような分析対象の試料特性Chとしては、液体試料Sを構成する粒子pの元素と、粒子サイズ及び粒子構造の少なくとも何れか1つと、を含む。
【0099】
これにより、試料分析システム10を、種々の分野において特定の製品に含有される粒子pの性質を分析する用途に適用することができる。特に、本実施形態の試料分析システム10であれば、液体試料Sにおいて粒子pを分離するなどの処理を実行することなく、液体試料Sの形態まま粒子pの分析を実行することができる。したがって、煩雑な処理をともなうことなく分析を実行することが可能となる。
【0100】
また、本実施形態の試料は、粒子pを所定の液体に混合させた液体試料Sである。そして、ドロップレット装置12は、液体試料Sを所望の径の液滴(試料液滴Sd)でプラズマPLに導入するように放出口を開閉する開閉機構20aを備える。そして、アナライザー39は、液体試料Sに含まれる粒子pの濃度(粒子濃度Cop)に基づいて開閉機構20aにおける開閉周期ΔTfを調節する。
【0101】
これにより、粒子濃度Copの高低に応じて、分析精度を高める観点から、一つの試料液滴Sd中に含まれる粒子pの数を好適にコントロールすることができる。
【0102】
また、特性特定部41は、時間/空間光強度分布としての時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を、波長成分λN(画像座標X)で積分した場合(時間/位置光スペクトルId2(t,Y))におけるピーク強度である第1ピーク強度、第1ピーク強度をとるときの検出タイミング(検出時刻t)、及び第1ピーク強度をとる測定領域上の位置(画像座標Y)を特徴量FVとして演算する。そして、特性特定部41は、この特徴量FVに基づいて粒子サイズを特定する。
【0103】
これにより、時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)から、試料特性Chの一つである粒子サイズを特定するためのより具体的な態様が実現されることとなる。
【0104】
さらに、試料特性Chは、粒子pを構成する一種又は二種以上の元素が結合する形態である粒子構造を含む。そして、特性特定部41は、時間/位置光スペクトルId2(t,Y)におけるピーク強度及び該ピーク強度をとるときの検出時刻tとしての特徴量FVに基づいて粒子構造を特定する。
【0105】
これにより、時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)から、試料特性Chの一つである粒子pに係る粒子構造を特定するためのより具体的な態様が実現されることとなる。
【0106】
また、本実施形態では、試料(試料液滴Sd)をプラズマPLに設定される測定領域MAに間欠的に導入し、測定領域MAで生じる発光を予め設定される所定周期(検出単位時間ΔTu)の検出タイミングである検出時刻(t=t0,t1,t2・・・)で検出し、検出時刻t、測定領域MAにおける位置(画像座標Y)、及び発光の波長成分λN(画像座標X)を変数とする分布である時間/空間光強度分布(時系列画像群Im(t)又は時間/空間光スペクトルId(t,X,Y))を演算し、時間/空間光強度分布から試料液滴Sdの性質を現わす試料特性Chに相関する特徴量FVを演算し、該特徴量FVに基づいて試料特性Chを特定する試料分析方法が提供される。
【0107】
これにより、上記時間/空間光強度分布から、既存のICP発光分光分析における発光スペクトル(波長成分に応じた発光強度分布)には含まれていなかった組成以外の試料特性Chを示す情報に相関する特徴量FVを求め、この特徴量FVから当該試料特性Chを特定することができる。すなわち、既存のICP発光分光分析による分析が困難であった液体試料Sの組成(元素)以外の性質を分析することが可能となる分析方法が実現される。
【0108】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。本実施形態では、液体試料Sの試料特性Chとして、当該液体試料Sに含まれる粒子pの粒度分布Pdを特定する例について説明する。特に、本実施形態では、液体試料Sに、組成は共通するものの粒径が相互に異なる複数の粒子p1,p2,p3・・・pmが含まれる場合において、これら複数の粒子が存在する存在割合を粒度分布Pdとして特定する例を説明する。特に、本実施形態の粒度分布Pdとは、液体試料S中に含まれる各粒径の粒子p1,p2,p3・・・pmの個数の分布又は各粒子p1,p2,p3・・・pmのそれぞれの粒子濃度Cop1,Cop2,Cop3・・・Copmの分布を意味する。
【0109】
具体的に、本実施形態の特性特定部41は、以下の各工程にしたがい粒度分布Pdを特定する。
【0110】
(I)粒子p1,p2,p3・・・pmを含有する液体試料Sに関して第1実施形態で説明した時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を画像座標Xで積分して時間/位置光スペクトルId2(t,Y)を演算する。特に、画像座標Xの積分範囲を、各粒子p1,p2,p3・・・pmのそれぞれの構成元素に対応する波長成分λp1,λp2・・・λpmの総和に相当する範囲に設定する。
【0111】
(II)次に、時間/位置光スペクトルId2(t,Y)を、任意の試料液滴Sdの供給開始タイミングを基点として予め設定される所定の測定時間内において、1ドロップレットごと(一つの試料液滴Sdが測定領域MA上の測定基点PO0から測定終点PO2に至る時間ごと)に積算(画像座標Yで積分)することで、各ドロップレット回Dp1~Dpnあたり時間光スペクトルId3(Dp)を求める。
【0112】
図8は、各ドロップレット回Dp1~Dpnにおける時間光スペクトルId3(Dp)の分布の一例を示す図である。特に、図8において、横軸は1~n番目のドロップレット回Dp1~Dpnを示し、縦軸は各ドロップレット回Dp1~Dpnにおける時間光スペクトルId3(Dp)を示している。
【0113】
図8に示すように、各ドロップレット回Dp1~Dpnにおける時間光スペクトルId3(Dp)の内、特定のドロップレット(図8では、Dp2,Dp5,Dpn)における値が他と比べて大きくなる。すなわち、ドロップレット回Dp2,Dp5,Dpnに各粒子p1~pm由来の励起光Ep1~Epmによる強度成分が含まれており、当該ドロップレット回Dp2,Dp5,Dpnに係る試料液滴Sdに各粒子p1,p2,p3・・・pmが含まれていることがわかる。
【0114】
(III)粒度分布Pdの特定行うために、各ドロップレット回Dp1~Dpnにおける時間光スペクトルId3(Dp)の中から、各粒子p1~pmが含まれていると推定される試料液滴Sdの時間光スペクトルId3(Dp)を抽出する。より具体的には、各粒子p1~pm由来の強度成分が含まれていると判断する観点から定まる閾値を超える時間光スペクトルId3(Dp)及びそのときのドロップレット回Dpを抽出する。特に、本実施形態では、ドロップレット回Dp2,Dp5,Dpnにおける各時間光スペクトルId3(Dp2),Id3(Dp5),Id3(Dpn)を第2ピーク強度として抽出する。なお、記載の簡略化のため、以下では、これらをそれぞれピーク値Id3(Dp2),Id3(Dp5),Id3(Dpn)とも記載する。
【0115】
(IV)抽出した各ドロップレット回Dp2,Dp5,Dpnにおけるピーク値Id3(Dp2),Id3(Dp5),Id3(Dpn)を、既知試料DB42に記憶される既知試料Skのデータ(粒度分布Pdに応じたドロップレット回Dp及びピーク値Id3に関するデータ)と対比することで、液体試料Sの粒度分布Pdを特定する。
【0116】
以上説明したように、本実施形態の特性特定部41は、時間/空間光強度分布としての時間光スペクトルId3(特に、ピーク値Id3(Dp2),Id3(Dp5),Id3(Dpn))及びその検出タイミング(特にドロップレット回Dp2,Dp5,Dpn)を特徴量FVとして演算し、液体試料Sの粒度分布Pdを特定する。
【0117】
以上、説明した本実施形態の試料分析システム10の構成及び作用効果を以下でまとめて説明する。
【0118】
本実施形態の試料分析システム10において、試料特性Chは、液体試料Sにサイズがそれぞれ異なる粒子p1,p2,p3・・・pnが含まれる場合における各粒子p1,p2,p3・・・pnの存在割合(粒度分布Pd)を含む。そして、特性特定部41は、時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を波長成分λN(画像座標X)及び測定領域MA上の位置(画像座標Y)で積分した場合(時間光スペクトルId3(t))におけるピーク強度である第2ピーク強度(ピーク値Id3(Dp2),Id3(Dp5),Id3(Dpn))、及び該第2ピーク強度をとるときの検出タイミング(ドロップレット回Dp2,Dp5,Dpn)を特徴量FVとして演算する。そして、特性特定部41はこの特徴量FVに基づいて、各粒子p1,p2,p3・・・pnの粒度分布Pdを特定する。
【0119】
これにより、時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)から、試料特性Chの一つである粒径分布Pdを特定するためのより具体的な態様が実現されることとなる。
【0120】
なお、本実施形態では、検出タイミングを規定する各ドロップレット回Dp2,Dp5,Dpn及びその時のピーク値Id3(Dp2),Id3(Dp5),Id3(Dpn)を特徴量FVとして粒度分布Pdを特定する例を説明した。しかしながら、これに限られず、検出タイミングを規定するドロップレット回Dp及びピーク値Id3(Dp)の一方のみを特徴量FVとして粒度分布Pdを演算する構成としても良い。すなわち、これらのパラメータの一方のみで一定程度の精度で粒度分布Pdを特定し得る情報が含まれているところ、計測精度よりも演算の簡素化が求められる分析用途に好適に適用することができる。
【0121】
また、同様に演算の簡素化を図る観点から、各粒子p1,p2,p3・・・pm由来の励起光Ep1~Epmの測定領域MAにおけるピーク位置(時間/位置光スペクトルId2がピークとなる画像座標Yの値)のみを特徴量FVとして粒度分布Pdを演算する構成を採用しても良い。
【0122】
また、本実施形態では、組成は共通するものの粒径が相互に異なる複数の粒子p1,p2,p3・・・pmに対する粒度分布Pdの特定について説明した。しかしながら、これに限られず、組成(及び/又は粒子構造)が相互に異なる粒子pを含む液体試料Sにおいて、第1実施形態で説明した方法と本実施形態の方法を適宜組み合わせることで、粒子pの組成(及び/又は粒子構造)と当該粒度分布Pdの分析を同時に実行することも可能である。
【0123】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態又は第2実施形態で説明した特性特定部41における処理を、いわゆる人口知能モデルにより実現する例について説明する。
【0124】
図9は、特性特定部41の機能を実現する学習済みモデルMの構成を説明する図である。
【0125】
図示のように、本実施形態の特性特定部41は、時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を入力とし、試料特性Chを出力とする学習済みモデルMにより構成される。本実施形態の学習済みモデルMは人口知能モデルにより構成され、特に入力層、中間層、及び出力層からなるニューラルネットワークとして構成されている。より詳細には、本実施形態の学習済みモデルMは、2層以上の中間層を有する深層学習(ディープラーニング)モデルにより構成される。
【0126】
そして、学習済みモデルMは、学習前のモデルにおいて、既知試料Skに対して測定した時間/空間光スペクトルId_k(t,X,Y)を入力層に設定し、この既知試料Skに関する既知特性Ch_kを出力層に設定した機械学習を実行することで構成される。
【0127】
ここで、第1実施形態又は第2実施形態において説明したように、時間/空間光スペクトルIdには、液体試料Sに含まれる粒子pの性質(組成、粒子サイズ、及び粒子構造など)に相関する情報(特徴量FV)が含まれている。
【0128】
したがって、上記機械学習により得られた学習済みモデルMがアナライザー39に実装されると、未知試料Sunに係る時間/空間光スペクトルId_un(t,X,Y)を入力とした場合に、当該未知試料Sunに係る実際の特性と好適に一致する未知特性Ch_uを出力データとして得ることができる。
【0129】
以上、説明した本実施形態の構成及び作用効果を以下でまとめて説明する。
【0130】
本実施形態に係る試料分析システム10では、特性特定部41は、時間/空間光スペクトルId_kを入力(入力層)とし、試料特性Chを出力(出力層)とする学習済みモデルMにより構成される。
【0131】
そして、学習済みモデルMは、既知試料Skに関する時間/空間光スペクトルId_k(t,X,Y)を入力とし、既知試料Skの性質を現わす既知特性Ch_kを出力に設定した機械学習を実行することで得られる。また、学習済みモデルMは、未知試料Sunに関して求めた時間/空間光スペクトルId_un(t,X,Y)を入力とし、未知試料Sunに含まれる未知粒子p_unの性質を現わす未知特性Ch_uを出力とするようにアナライザー39を動作させる。
【0132】
これにより、特性特定部41の機能、すなわち時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)から試料特性Chに相関する特徴量FVを演算し、これに基づいて液体試料Sに係る試料特性Chを特定する機能を機械学習により比較的簡素に実現することができる。
【0133】
特に、第1実施形態で説明したように、時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)は、高速度カメラ38によって、数万~数百万fpsなどのフレームレートで撮影されることで得られる多量の時系列画像imからなる時系列画像群Im(t)から得られるものである。このため、特徴量FV及び試料特性Chの特定に係る演算量が膨大となることが想定される。また、特定すべき試料特性Chにも、粒子pの組成、粒子サイズ、及び粒子構造などの複数の要素が含まれる上に、当該要素の違いに応じて強度ピークの現れ方が検出時刻t、画像座標Y(試料液滴Sdの位置)、及び画像座標X(波長成分λ)の3つの変数に応じて変化することとなる。このため、具体的な特徴量FVの演算アルゴリズムが複雑となり、演算負担が大きくなることが想定される。
【0134】
これに対して、本実施形態のように特性特定部41における演算ロジックを、学習済みモデルMを実行することで、上述した演算負担の増大を抑制しつつ、分析の精度も確保される。
【0135】
また、本実施形態では、試料液滴Sdに関する時間/空間光スペクトルId_un(t,X,Y)を入力とし、試料特性Chを出力とする学習済みモデルMを生成する学習済みモデル生成方法が提供される。この学習済みモデル生成方法は、既知試料Skに関する時間/空間光スペクトルId_un(t,X,Y)を入力とし、既知試料Skの性質を現わす既知特性Ch_kを出力として機械学習を実行する処理を含む。そして、時間/空間光スペクトルId_un(t,X,Y)を、既知試料SkをプラズマPLに設定される測定領域MAに間欠的に導入し、測定領域MAで生じる発光を予め設定される検出単位時間ΔTuの検出タイミング(検出時刻t=t0,t1,t2・・・)で検出し、検出された発光に基づき、検出タイミング、測定領域MA上における位置(画像座標Y)、及び波長成分λN(画像座標X)に応じた光強度の分布として演算することで取得する。
【0136】
これにより、アナライザー39に未知試料Sunに係る未知特性Ch_uを高精度に分析させることのできる学習済みモデルMを得ることができる。
【0137】
特に、学習済みモデルMとして深層学習モデルを採用することで、特徴量FVの演算及び試料特性Chの特定に係る精度をより向上させることができる。
【0138】
なお、本明細書の開示範囲には、図1等で説明した試料分析システム10の構成とは独立した学習済みモデルMも含まれる。すなわち、本明細書の開示範囲には、既知試料Skに関する時間/空間光スペクトルId_k(t,X,Y)を入力(入力層)に設定し、既知試料Skの性質を現わす既知特性Ch_kを出力(出力層)に設定して機械学習を実行することで得られた学習済みモデルMが含まれる。
【0139】
さらに、本明細書の開示範囲には、学習済みモデルMを用いた試料分析方法であって、未知試料Sunに関して求めた時間/空間光スペクトルId_un(t,X,Y)を学習済みモデルMの入力(入力層)に適用し、出力されたデータ(試料特性Ch)を、未知試料Sunに含まれる未知粒子p_unの性質を特定する試料分析方法が含まれる。
【0140】
なお、本実施形態では、液体試料Sに関する時間/空間光スペクトルId_k(t,X,Y)を入力とし、試料特性Chを出力とする学習済みモデルM及びその生成方法に関する例を説明した。しかしながら、これに代えて、デジタル画像データである時系列画像群Im(t)を入力とし、試料特性Chを出力とする学習済みモデルM及びその生成方法を実現することもできる。すなわち、時系列画像群Im(t)を構成する各時系列画像im_tを定義する変数(ピクセルなど)と各画像に対応する検出時刻tを組み合わせてなる所定次元の入力ベクトルは、時間/空間光スペクトルId_k(t,X,Y)と同様に特徴量FVを抽出し得る情報が含まれている。このため、時系列画像群Im(t)を直接入力として学習済みモデルMを構成することで、時系列画像群Im(t)に基づく時間/空間光スペクトルId_k(t,X,Y)の演算に係る処理を省略することができる。
【0141】
より詳細に、本明細書の開示範囲には、試料液滴Sdに関する時系列画像群Imを入力とし、試料特性Chを出力とする学習済みモデルMを生成する学習済みモデル生成方法が含まれる。特に、この学習済みモデル生成方法では、時系列画像群Im(t)は、既知試料SkをプラズマPLに設定される測定領域MAに間欠的に導入し、測定領域MAで生じる発光を予め設定される所定周期(検出単位時間ΔTu)の撮影タイミングで撮影することにより得られる。
【0142】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0143】
例えば、試料特性Chとしては、上記各実施形態で説明した液体試料Sに含まれる粒子pに係る組成、粒子サイズ、粒子構造、及び粒度分布に限られず、上記時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)から特定できるものであるならば、これら以外の当該粒子pの任意の特性、又は液体試料Sそのものの特性を適用することができる。例えば、時間分解能を高めて(検出単位時間ΔTuを短くして)測定した時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)から、液体試料Sの液体成分の沸点、又は固体成分の融点を分析することで当該液体試料Sを構成する元素の化学結合構造(例えば、炭素構造など)を試料特性Chとして特定しても良い。
【0144】
なお、図1では、試料分析システム10において高速度カメラ38と別にアナライザー39を設ける例を示しているが、高速度カメラ38にアナライザー39の機能を組み込むように構成しても良い。さらに、アナライザー39を、本実施形態の試料分析システム10と通信が可能な外部システムに構成しても良い。
【0145】
例えば、上記実施形態では、検出装置(イメージングインテンシファイア36)により検出される2次元イメージから画像生成手段(高速度カメラ38)により時系列画像群Im(t)を生成し、アナライザー39により時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を求める例を説明した。しかしながら、上記試料分析システム10において高速度カメラ38を省略し、時系列画像群Imを生成することなく2次元イメージから直接、時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を計測する装置を採用しても良い。
【0146】
さらに、上記実施形態では、検出装置として、分光器34からの光の空間分布を2次元イメージとして検出するイメージングインテンシファイア36を用いて検出する例を説明した。しかしながら、イメージングインテンシファイア36以外の検出装置を用いても良い。例えば、分光器34からの光の空間分布を3次元イメージとして検出可能な装置を用いて、当該3次元イメージを測定装置により測定する構成をとっても良い。
【0147】
また、ドロップレットヘッド20の開閉機構20aを所望の開閉周期ΔTfで開閉する構成によって試料液滴Sdを間欠的に導入する例を説明した。しかしながら、これに限られず、固体又はゲル状の試料などを供給する構成を採用しても良い。この場合には、開閉機構20aを用いずとも試料を粒子状の形態で導入することができるので、開閉機構20aに代えて当該試料粒子を一つずつ導入するための任意の機構を備えたドロップレットヘッド20を採用しても良い。また、第1実施形態における画像解析部40及び特性特定部41の機能を実現するためのプログラムを記憶した記憶媒体、及び第2実施形態における学習済みモデルMを記憶した記憶媒体、本出願における出願時の明細書等に記載された事項の範囲内に含まれる。
【実施例
【0148】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0149】
(実施例1)
図1に示した試料分析システム10を用いて、下記の装置及び測定条件によりプラズマPLの時系列画像群Im(t)を作成し、時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を分析した。
【0150】
[装置]
・ドロップレットコントローラ30:MD-K-130 70μm(Microdrop Technologies社製)
・分光器34:Shamrock SR-750(Andor technology社製)
・イメージングインテンシファイア36:イメージインテンシファイアユニットC10880-13F(浜松ホトニクス社製)
・高速度カメラ38:FASTCAM Mini AX100 540K-M-16GB(Photron社製)
【0151】
[測定条件]
・試料:粒径3μm及び粒径10μmの擬似マイクロプラスチック(ポリスチレンビーズ)をそれぞれ含む分散液2種
・コイル22への供給電力(ICP電力):400w
・高速度カメラ38のフレームレート:10000fps(検出単位時間ΔTu:100μs)
・開閉機構20aの開閉周期(ドロップレット周波数):100Hz
・ドロップレット径(開閉機構20aの開口の径):50μm
・測定領域MA:10mm
【0152】
粒径3μm及び10μmのマイクロプラスチック由来の励起光の影響を含む時系列画像群Im(t)の内、試料液滴Sdが発光開始点PO1に到達した以降の4つの時系列画像im_t0~im_t3を抽出した。粒径3μm及び10μmのマイクロプラスチックについて抽出した時系列画像im_t0~im_t3をそれぞれ図10(a)及び図10(b)に示す。
【0153】
また、抽出した粒径3μm及び10μmのマイクロプラスチックに係るそれぞれの時系列画像im_t0~im_t3をアナライザー39により解析して、画像座標(X,Y)及び検出時刻tに応じたそれぞれの時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を求めた。さらに、それぞれの時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を計測対象元素の波長域に相当する画像座標Xの範囲で積分してそれぞれの時間/位置光スペクトルId2(t,Y)を求めた。粒径3μm及び10μmのマイクロプラスチックに係る時間/位置光スペクトルId2(t,Y)をそれぞれ図11(a)及び図11(b)に示す。なお、図11(a)又は図11(b)に示す複数の曲線は、画像座標Yの値に応じた時間/位置光スペクトルId2(t,Y)を現わす。
【0154】
[結果及び考察]
粒径3μm及び粒径10μmのマイクロプラスチックにおいて、時系列画像im_t0~im_t3及び時間/位置光スペクトルId2(t,Y)において違いが生じた。特に、時系列画像群Im(t)において、粒径3μmのマイクロプラスチックの励起化の進行は、粒径10μmのマイクロプラスチックと比べて早いことがわかる。また、粒径3μmの時間/位置光スペクトルId2(t,Y)では強度ピーク(炭素由来のピーク)の出現が粒径10μmと比較し早く、またピーク強度が粒径10μmと比較し小さい。これにより、同一組成の粒子であっても、粒径が異なれば時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)が変化することがわかる。すなわち、同一組成の粒子における粒径の違いを時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)から分析することができると言える。
【0155】
(実施例2)
図1に示した試料分析システム10を用いて、下記の装置及び測定条件により液体試料Sに含まれるマイクロプラスチックの粒度分布を分析した。
【0156】
[装置]
・実施例1と同じ
【0157】
[測定条件]
・試料:粒径3μmと10μmの2種粒径マイクロプラスチック(ポリスチレンビーズ)を混合し含有させた分散液。1ドロップレットにおけるビーズ存在確率は3μmが25%、10μmが5%に濃度調整されている。
・測定時間:2s
・他の条件については実施例1と同様とした。
【0158】
実施例1と同様の方法で時間/位置光スペクトルId2(t,Y)を、各ドロップレットごとに積算して時間光スペクトルId3(t)を求めた。図12(a)は、1ドロップレットごと(1ショットごと)の時間光スペクトルId3(t)を示したものである。
【0159】
すなわち、図12(a)における横軸の各目盛りは、測定時間2s中の全ドロップ数(200回)において、各回のドロップレット回Dp(約1ms間隔)を表している。一方、縦軸は、各ドロップレット回Dにおける時間光スペクトルId3(t)の積算値を表している。さらに、図12(b)には、図12(a)に示す結果をもとに求めた粒度分布を表している。
【0160】
[結果及び考察]
3μmと10μmの2種粒径が混在している試料において、それぞれのピークが粒度分布として確認できる。すなわち、粒度分布を時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)から取得することができると言える。
【0161】
(実施例3)
図1に示した試料分析システム10を用いて、下記の装置及び測定条件によりプラズマPLの時系列画像群Im(t)を作成し、時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を分析した。
【0162】
[装置]
・実施例1と同じ
【0163】
[測定条件]
・試料1:100ppmのAgナノ粒子(平均粒径:90nm)と10ppmのAuナノ粒子(平均粒径:20nm)を混合させた混合液
・試料2:外殻をAg、コアをAuとするコアシェル粒子(平均粒径:90nm、コア径20nm)を100ppmで混合させて混合液
・コイル22への供給電力(ICP電力):400w
・高速度カメラ38のフレームレート:50000fps(検出単位時間ΔTu:20μs)
・開閉機構20aの開閉周期(ドロップレット周波数):100Hz
・ドロップレット径(開閉機構20aの開口の径):50μm
・測定領域MA:5mm
【0164】
試料1及び2に係る混合液についてそれぞれ取得した時系列画像群Im(t)の内、試料液滴Sdが発光開始点PO1に到達する一検出単位時間ΔTu前から検出単位時間ΔTuごとの11個の時系列画像im_t0~im_t10を抽出した。試料1に係る時系列画像im_t0~im_t10図13に示す。また、試料2に係る時系列画像im_t0~im_t10図14に示す。
【0165】
さらに、試料1及び2についてそれぞれ抽出した時系列画像im_t0~im_t10をアナライザー39により解析して、画像座標(X,Y)及び検出時刻tに応じたそれぞれの時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を求めた。さらに、それぞれの時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)を計測対象元素の波長域(Ag、Auのそれぞれの波長域の和)、画像座標X、及び画像座標Yの双方で積分してそれぞれの時間光スペクトルId3(t)を求めた。試料1に係る時間光スペクトルId3(t)を図15(a)に示す。また、試料2に係る時間光スペクトルId3(t)を図15(b)に示す。
【0166】
[結果及び考察]
実施例3では、Agナノ粒子とAuナノ粒子を別々に混合させた混合液である試料1とAg/Auのコアシェル粒子を混合させた混合液である試料2との間において、時系列画像im_t0~im_t10及び時間光スペクトルId3(t)の双方に相違が生じた。特に、これらの測定結果から、Agナノ粒子とAuナノ粒子を分離された状態で含有する試料1に対し、Agナノ粒子とAuナノ粒子が結合してコアシェルをとっている試料2ではコアを構成するAuナノ粒子由来のピークは、励起化の進行が遅れる方向にシフトしていることがわかる。これにより、試料に含まれる粒子の元素の組み合わせが同一であっても、各元素の結合形態(構造)が異なれば時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)が変化することがわかる。すなわち、同一組成の粒子における粒子構造の違いを時間/空間光スペクトルId(t,X,Y)から分析することができると言える。
【0167】
本願は、2020年2月21日に日本国特許庁に出願された特願2020-028438号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15