(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極活物質、非水電解質二次電池用負極材、及び、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/48 20100101AFI20231121BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2020012476
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-01-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩一朗
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-188319(JP,A)
【文献】特開2017-199657(JP,A)
【文献】国際公開第2013/069197(WO,A1)
【文献】特開2016-091649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極活物質であって、
前記負極活物質粒子は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な珪素を含有する粉末であり、
前記負極活物質粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有するケイ素化合物粒子(ただし、前記ケイ素化合物粒子は、Li
2
SiO
3
及びLi
4
SiO
4
のうち少なくとも1種以上を含有するものを除く。)を含み、
前記負極活物質粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって得られる粒度分布に基づいて、ある粒径をD(μm)、その粒径よりも大きい粒子の全粒子に対する質量百分率をR(%)とした時、x軸にlogD、y軸にlog{log(100/R)}の目盛りをつけたロジン・ラムラー線図にプロットした直線の勾配nが2.5以上であり、かつ前記負極活物質粒子において、粒径1μm未満の粒子の割合が前記負極活物質粒子全体に対して5質量%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項2】
前記負極活物質粒子のモード径が0.1μm以上15μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記負極活物質粒子のD
99.9径が40μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項4】
前記ケイ素化合物を構成するケイ素と酸素の比は、SiO
x:0.5≦x≦1.6の範囲であることを特徴とする請求項
1から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項5】
前記負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が炭素材で被覆されていることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
【請求項7】
請求項
6に記載の非水電解質二次電池用負極材を含む負極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極活物質、非水電解質二次電池用負極材、及び、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極及び負極、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素系活物質が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上のために、負極活物質材としてケイ素を用いることが検討されている。なぜならば、ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。負極活物質材としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。また、活物質形状は、炭素系活物質では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質が膨張及び収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成についてさまざまな検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO2、MyO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。また、サイクル特性改善のため、SiOx(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm~50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1~1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。
【0010】
また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するRAMANスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm-1及び1580cm-1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I1330/I1580が1.5<I1330/I1580<3となっている。また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば特許文献11参照)。また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御したケイ素酸化物を用いている(例えば特許文献12参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2001-185127号公報
【文献】特開2002-042806号公報
【文献】特開2006-164954号公報
【文献】特開2006-114454号公報
【文献】特開2009-070825号公報
【文献】特開2008-282819号公報
【文献】特開2008-251369号公報
【文献】特開2008-177346号公報
【文献】特開2007-234255号公報
【文献】特開2009-212074号公報
【文献】特開2009-205950号公報
【文献】特開平6-325765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれているが、サイクル初期に表面層における電解液の分解が促進されるため、十分でなかった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、優れた充放電容量及びサイクル特性を有する、特にリチウムイオン二次電池用として有効な非水電解質二次電池用負極活物質及び負極材、ならびにこれを含む負極を有するリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を解決するために、本発明は、負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極活物質であって、前記負極活物質粒子は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な珪素を含有する粉末であり、前記負極活物質粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって得られる粒度分布に基づいて、ある粒径をD(μm)、その粒径よりも大きい粒子の全粒子に対する質量百分率をR(%)とした時、x軸にlogD、y軸にlog{log(100/R)}の目盛りをつけたロジン・ラムラー線図にプロットした直線の勾配nが2.5以上であり、かつ前記負極活物質粒子において、粒径1μm未満の粒子の割合が前記負極活物質粒子全体に対して5質量%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質を提供する。
【0015】
本発明の負極活物質は、珪素を含有することで優れた充放電容量を有し、かつ、負極活物質粒子の粒度分布をロジン・ラムラー線図にプロットした直線の勾配nが2.5以上であり、かつ粒径1μm未満の粒子の割合が負極活物質粒子全体に対して5質量%以下とすることで、粒子の大きさが適度に揃っており負極活物質粒子からのLiの溶け出しを抑制でき、サイクル特性を向上させることが可能なものとなる。
【0016】
この場合、前記負極活物質粒子のモード径(最頻値)は0.1μm以上15.0μm以下であることが好ましい。
【0017】
このモード径が0.1μm以上の場合、電解液との反応が促進されないため、電池特性の低下を防止できる。このモード径が15.0μm以下の場合、充放電に伴う活物質の膨張を抑制することができるため、電子コンタクトの欠落を防止することができる。
【0018】
また、前記負極活物質粒子のD99.9径が40μm以下であることが好ましい。
【0019】
このD99.9径が40μm以下であれば、電極の中の負極活物質径の局所的なばらつきを小さくすることができ、サイクル特性を向上することができる。
【0020】
また、前記負極活物質粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有するケイ素化合物粒子を含むことが好ましい。
【0021】
酸素が含まれるケイ素化合物を含有することで、より初回充放電効率を高めることができる。
【0022】
また、前記ケイ素化合物を構成するケイ素と酸素の比は、SiOx:0.5≦x≦1.6の範囲であることが好ましい。
【0023】
このようにxが0.5以上であれば、ケイ素単体よりも酸素比が高められたものであるためサイクル特性が良好となる。xが1.6以下であれば、ケイ素酸化物の抵抗が高くなりすぎない。
【0024】
また、前記負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が炭素材で被覆されていることが好ましい。
【0025】
このように、負極活物質粒子が炭素材で被覆されていることで、導電性に優れた負極活物質とすることができる。
【0026】
また、上記目的を達成するために、本発明は、上記の非水電解質二次電池用負極活物質を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極材を提供する。
【0027】
このようなものであれば、優れた充放電容量及びサイクル特性を有する非水電解質二次電池用負極材となる。
【0028】
また、上記目的を達成するために、本発明は、上記の非水電解質二次電池用負極材を含む負極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
【0029】
このようなものであれば、優れた充放電容量及びサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の負極活物質は、二次電池の負極活物質として用いた際に、高容量で、高サイクル特性を得る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極の構成の一例を示す断面図である。
【
図2】実施例1におけるCVDによる炭素被覆を行う前のケイ素化合物粒子の粒度分布チャートである。
【
図3】実施例2におけるCVDによる炭素被覆を行う前のケイ素化合物粒子の粒度分布チャートである。
【
図4】実施例3におけるCVDによる炭素被覆を行う前のケイ素化合物粒子の粒度分布チャートである。
【
図5】比較例1におけるCVDによる炭素被覆を行う前のケイ素化合物粒子の粒度分布チャートである。
【
図6】比較例2におけるCVDによる炭素被覆を行う前のケイ素化合物粒子の粒度分布チャートである。
【
図7】実施例1~3、比較例1、2におけるCVDによる炭素被覆を行う前のケイ素化合物粒子の粒度分布をプロットしたロジン・ラムラー線図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
[非水電解質二次電池用負極活物質]
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。このケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれているが、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等のサイクル特性を有する負極活物質を提案するには至っていなかった。
【0034】
そこで、本発明者は、二次電池に用いた場合、サイクル特性が良好となる負極活物質を得るために鋭意検討を重ね、負極活物質粒子のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒度分布に基づいて、ある粒径をD(μm)、その粒径よりも大きい粒子の全粒子に対する質量百分率をR(%)とした時、x軸にlogD、y軸にlog{log(100/R)}の目盛りをつけたロジン・ラムラー線図にプロットした直線の勾配nが2.5以上であり、かつ前記負極活物質粒子において、粒径1μm未満の粒子の割合が前記負極活物質粒子全体に対して5質量%以下である時に、サイクル特性が向上することを知見し、本発明に至った。
【0035】
すなわち、本発明は、負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極活物質であって、前記負極活物質粒子は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な珪素を含有する粉末であり、前記負極活物質粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって得られる粒度分布に基づいて、ある粒径をD(μm)、その粒径よりも大きい粒子の全粒子に対する質量百分率をR(%)とした時、x軸にlogD、y軸にlog{log(100/R)}の目盛りをつけたロジン・ラムラー線図にプロットした直線の勾配nが2.5以上であり、かつ前記負極活物質粒子において、粒径1μm未満の粒子の割合が前記負極活物質粒子全体に対して5質量%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質を提供する。
【0036】
上記のように、本発明における粒子の粒度分布の規定は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法に基づく。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置としては、例えば、島津製作所製のSALD-3100Sを用いることができる。
【0037】
ロジン・ラムラー線図にプロットした直線の勾配nの求め方は、例えば、粒径1μm幅などで粒度分布を測定してプロットし、この分布に基づいて回帰直線を求めることができる。粒径の幅は一定でなくてもよく、20-30点程度をプロットすればよい。
【0038】
また勾配nは、例えば、粒径1μm未満の微粉含有量を変更することで調整可能である。
【0039】
後述のように、本発明の負極活物質における負極活物質粒子には、炭素被膜を形成してもよい。本発明の負極活物質における負極活物質粒子の規定の基準であるレーザー回折散乱式粒度分布測定法によって得られる粒径及び粒度分布は、炭素被膜を形成しない状態で測定したものである。このことは負極活物質粒子のモード径やD99.9径でも同様である。
【0040】
また、本発明の負極活物質における負極活物質粒子のモード径(最頻値)は0.1μm以上15.0μm以下であることが好ましい。このモード径が0.1μm以上の場合、電解液との反応が促進されないため、電池特性の低下を防止できる。このモード径が15.0μm以下の場合、充放電に伴う活物質の膨張を抑制することができるため、電子コンタクトの欠落を防止することができる。また、このモード径は、3.0μm以上12.0μm以下であればより好ましい。
【0041】
また、本発明の負極活物質における負極活物質粒子のD99.9径が40μm以下であることが好ましい。このD99.9径が40μm以下であれば、電極の中の負極活物質径の局所的なばらつきを小さくすることができ、サイクル特性を向上することができる。
【0042】
<非水電解質二次電池用負極>
次に、本発明の負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極(以下、「負極」とも呼称する)について説明する。
図1は本発明の負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極の構成の一例を示す断面図である。
【0043】
[負極の構成]
図1に示したように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていてもよい。さらに、本発明の負極活物質から作製された負極であれば、負極集電体11はなくてもよい。
【0044】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)が挙げられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0045】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、それぞれ100質量ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。このような変形抑制効果によりサイクル特性をより向上できる。
【0046】
また、負極集電体11の表面は粗化されていてもよいし、粗化されていなくてもよい。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は、化学エッチング処理された金属箔などである。粗化されていない負極集電体は、例えば、圧延金属箔などである。
【0047】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な本発明の負極活物質を含んでおり、電池設計上の観点から、さらに、負極結着剤(バインダ)や導電助剤など他の材料を含んでいてもよい。負極活物質は負極活物質粒子を含む。さらに、負極活物質粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有するケイ素化合物粒子を含むことが好ましい。
【0048】
また、負極活物質層12は、本発明の負極活物質(ケイ素系負極活物質)と炭素系活物質とを含む混合負極活物質材料を含んでいても良い。これにより、負極活物質層の電気抵抗が低下するとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。炭素系活物質としては、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、カーボンブラック類などを使用できる。
【0049】
また、上記のように本発明の負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な珪素を含有する負極活物質粒子を含む。この負極活物質粒子は、ケイ素化合物粒子を含み、ケイ素化合物粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有する酸化ケイ素材であることが好ましい。このケイ素化合物を構成するケイ素と酸素の比は、SiOx:0.5≦x≦1.6の範囲であることが好ましい。xが0.5以上であれば、ケイ素単体よりも酸素比が高められたものであるためサイクル特性が良好となる。xが1.6以下であれば、ケイ素酸化物の抵抗が高くなりすぎないため好ましい。中でも、SiOxの組成はxが1に近い方が好ましい。なぜならば、高いサイクル特性が得られるからである。なお、本発明におけるケイ素化合物の組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいてもよい。
【0050】
また、負極活物質層に含まれる負極結着剤としては、例えば、高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種類以上を用いることができる。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースなどである。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、エチレンプロピレンジエンなどである。
【0051】
負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上を用いることができる。
【0052】
負極活物質層は、例えば、塗布法で形成される。塗布法とは、ケイ素系負極活物質と上記の結着剤など、また、必要に応じて導電助剤、炭素系活物質を混合した後に、有機溶剤や水などに分散させ、負極集電体などに塗布する方法である。
【0053】
[負極の製造方法]
まず、負極活物質粒子を作製する。以下では、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する例、特に、酸素が含まれるケイ素化合物として、SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素を使用した場合を説明する。
【0054】
まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下、減圧下で900℃~1600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させる。このとき、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末の混合物を用いることができる。金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。
【0055】
発生した酸化珪素ガスは吸着板上で固体化され堆積される。次に、反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で酸化珪素の堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕し、粉末化を行う。以上のようにして、ケイ素化合物粒子を作製することができる。なお、ケイ素化合物粒子中のSi結晶子は、酸化珪素ガスを発生する原料の気化温度の変更、又は、ケイ素化合物粒子生成後の熱処理で制御できる。
【0056】
ここで、負極活物質粒子(ケイ素化合物粒子)の表層に炭素材の層を生成しても良い。ただし、本発明の負極活物質における粒径の規定について、前述したように、負極活物質粒子の粒径及び粒度分布は、炭素材の層を生成しない状態で測定したものである。炭素材の層を生成する方法としては、熱分解CVD法が望ましい。熱分解CVD法で炭素材の層を生成する方法の一例について以下に説明する。
【0057】
まず、負極活物質粒子(ケイ素化合物粒子)を炉内にセットする。次に、炉内に炭化水素ガスを導入し、炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが、1100℃以下が望ましく、より望ましいのは900℃以下である。分解温度を1100℃以下にすることで、活物質粒子の意図しない不均化を抑制することができる。所定の温度まで炉内温度を昇温させた後に、ケイ素化合物粒子の表面に炭素層を生成する。また、炭素材の原料となる炭化水素ガスは、特に限定しないが、CnHm組成においてn≦3であることが望ましい。n≦3であれば、製造コストを低くでき、また、分解生成物の物性を良好にすることができる。
【0058】
また、導電性を与えるために生成した炭素層と、その上に電解液との反応性を低減させる目的で作製した炭素層の2層構造を有する事でより良くなる。導電性を与える層よりも低い温度で生成する反応抑制層の影響で電池サイクル特性が向上する。
【0059】
炭素層の合計膜厚は、より薄く均一が求められるが、5nm以上の厚みがあれば、導電性と反応抑制層の両立が可能となる。
【0060】
また、ケイ素化合物は結晶性Siを極力含まない事が望ましい。電解液との反応性が高く、電池特性を悪化させるからである。Siの結晶子サイズは7.5nm以下が望ましく、実質的にアモルファスが望ましい。この結晶子サイズは、Cu-Kα線を用いたX線回折により測定したSi(111)面に由来するピークの半値幅からシェラーの式を用いて得ることができる。
【0061】
以上のようにして作製した負極活物質を、負極結着剤、導電助剤などの他の材料と混合して、負極合剤とした後に、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。次に、負極集電体の表面に、上記のスラリーを塗布し、乾燥させて、負極活物質層を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行ってもよい。以上のようにして、負極を作製できる。
【0062】
[正極]
正極は、例えば、
図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0063】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0064】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいてもよい。この場合、結着剤、導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0065】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又は、リチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これら記述される正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、LixM1O2あるいはLiyM2PO4で表される。式中、M1、M2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0066】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)などが挙げられる。リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-uMnuPO4(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量が得られるとともに、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0067】
[負極]
負極は、上記した
図1のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、負極集電体11の両面に負極活物質層12を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池として充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができるためである。
【0068】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0069】
非対向領域、すなわち、上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため負極活物質層の状態が形成直後のまま維持される。これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性良く組成などを正確に調べることができる。
【0070】
[セパレータ]
セパレータはリチウムメタル、負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0071】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0072】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2-ジメトキシエタン又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0073】
合金系負極を用いる場合、特に溶媒として、ハロゲン化鎖状炭酸エステル、又は、ハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において、負極活物質表面に安定な被膜が形成される。ここで、ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。また、ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(すなわち、少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0074】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素が好ましい。これは、他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。また、ハロゲン数は多いほど望ましい。これは、得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0075】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンなどが挙げられる。
【0076】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0077】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0078】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0079】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)などが挙げられる。
【0080】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
まず、負極活物質粒子(ケイ素化合物粒子)を以下のようにして作製した。金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを析出板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しジョークラッシャーで粗砕後、栗本鐡工所製ジェットミルKJ-200で粉砕した。この時の粉砕条件は粉砕圧0.6MPa、セパレーターの回転数7700rpmとした。
【0083】
図2にサイクロンで回収した粉体を島津製作所製SALD-3100Sで粒度分布測定を行った結果を示す。この粉体(負極活物質粒子)は、体積分布でモード径7μm、1μm未満の粒径の微粉含有量は0質量%であった。この粒度分布に基づいて、ある粒径をD(μm)、その粒径よりも大きい粒子の全粒子に対する質量百分率をR(%)とした時、x軸にlogD、y軸にlog{log(100/R)}の目盛りをつけたロジン・ラムラー線図にプロットした直線の勾配nは4.4であった。
図7中にその結果を示す。
【0084】
その後、熱分解CVDを1000℃で行うことで、負極活物質粒子(ケイ素化合物粒子)の表面に炭素材を被覆した。炭素材の被覆量は3.4質量%であった。
【0085】
(実施例2)
実施例1と同様に粗砕した負極活物質粒子(ケイ素化合物粒子)を、粉砕圧0.5MPa、セパレーターの回転数7500rpmで粉砕した。
【0086】
実施例1と同様に、粒度分布測定を行った。
図3にその結果を示す。サイクロンで回収した粉体はモード径7μm、1μm未満の粒径の微粉含有量は0.7質量%であった。また、この粒度分布のロジン・ラムラー線図にプロットした直線の勾配nは4.1であった。
図7中にその結果を示す。
【0087】
(実施例3)
実施例1で得られた負極活物質粒子(ケイ素化合物粒子)に、ジェットミルのバグフィルターで回収した微粉を混合した。これにより混合後の負極活物質粒子(ケイ素化合物粒子)における1μm未満の粒径の微粉含有量が約3質量%になるように混合した。
【0088】
この粉末について、実施例1と同様に粒度分布測定を行った。
図4にその結果を示す。この粉末はモード径7μm、1μm未満の粒径の微粉含有量は3.2質量%であった。また、この粒度分布のロジン・ラムラー線図にプロットした直線の勾配nは2.6であった。
図7中にその結果を示す。
【0089】
(比較例1)
実施例3と同様に、実施例1で得られた負極活物質粒子(ケイ素化合物粒子)に、ジェットミルのバグフィルターで回収した微粉を混合したが、その際混合後の負極活物質粒子(ケイ素化合物粒子)における1μm未満の粒径の微粉含有量が約6質量%になるように混合した。
【0090】
この粉末について、実施例1と同様に粒度分布測定を行った。
図5にその結果を示す。この粉末はモード径7μm、1μm未満の粒径の微粉含有量は6.5質量%であった。また、この粒度分布のロジン・ラムラー線図にプロットした直線の勾配nは2.0であった。
図7中にその結果を示す。
【0091】
(比較例2)
実施例3と同様に、実施例1で得られた負極活物質粒子(ケイ素化合物粒子)に、ジェットミルのバグフィルターで回収した微粉を混合したが、その際混合後の1μm未満の粒径の微粉含有量が約12質量%になるように混合した。
【0092】
この粉末について、実施例1と同様に粒度分布測定を行った。
図6にその結果を示す。この粉末はモード径7μm、1μm未満の粒径の微粉含有量は12.2質量%であった。また、この粒度分布のロジン・ラムラー線図にプロットした直線の勾配nは0.9であった。
図7中にその結果を示す。
【0093】
実施例2、3、比較例1、2の粉末も実施例1と同様に熱分解CVDを施し、炭素被覆量を3から4質量%に調整した。
【0094】
次に、作製した負極活物質粒子(酸化ケイ素化合物粒子)、黒鉛粒子、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2(メジアン径が約50nmの炭素微粒子)、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する)を9.3:83.7:1:1:4:1の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。
【0095】
また、負極集電体としては、厚さ15μmの電解銅箔を用いた。この電解銅箔には、炭素及び硫黄がそれぞれ70質量ppmの濃度で含まれていた。最後に、負極合剤スラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は7.0mg/cm2であった。
【0096】
次に、溶媒エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合した後、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でEC:DMC=30:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。添加剤として、ビニレンカーボネート(VC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)をそれぞれ、1.0質量%、2.0質量%添加した。
【0097】
次に、以下のようにしてコイン電池を組み立てた。最初に対極として厚さ1mmのLi箔を直径16mmに打ち抜き、アルミクラッドに張り付けた。続けて、セパレータとして厚さ20μmのポリエチレンをLi箔に重ね、電解液を注液した。続けて、直径15mmに打ち抜いた負極、スペーサ(厚さ1.0mm)をセパレータに重ね電解液を注液後、スプリング、コイン電池の上ブタの順にくみ上げ、自動コインセルカシメ機でかしめることで、2032コイン電池を作製した。
【0098】
初回効率は以下の条件で測定した。まず充電レートを0.03C相当、CCCVモードで充電を行った。CVは0Vで終止電流は0.04mAとした。放電レートは同様に0.03C、放電電圧は1.2Vとし、CC放電を行った。
【0099】
初期充放電特性を調べる場合には、初回効率(以下では初期効率と呼ぶ場合もある)を算出した。初回効率は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。得られた初期データから、対正極を設計し、電池評価を行った。
【0100】
以上のようにして作製した二次電池のサイクル特性を評価した。サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に、電池安定化のため25℃の雰囲気下、0.2Cで2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて総サイクル数が300サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に200サイクル目及び300サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、容量維持率を算出した。通常サイクル、すなわち3サイクル目から299サイクル目までは、充電0.7C、放電0.5Cで充放電を行った。
【0101】
充電電圧は4.3V、放電終止電圧は2.5V、充電終止レートは0.07Cとした。
【0102】
実施例1~3、比較例1、2の充放電試験結果を表1に示す。
【0103】
【0104】
表1に示すように、負極活物質粒子の粒度分布において、n値が2.5以上であり、かつ1μm未満の粒径の微粉含有量が5質量%以下の実施例1~3では、300サイクル後の容量維持率が80%以上となっていることから、高いサイクル特性を有すると言える。
【0105】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0106】
10…負極、 11…負極集電体、 12…負極活物質層。