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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】四重極型質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
H01J49/42 150
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020056746
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021157945
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】李 享昭
(72)【発明者】
【氏名】川久保 大輔
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-503679(JP,A)
【文献】特開2018-060528(JP,A)
【文献】特開平06-120737(JP,A)
【文献】特表2011-514533(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0015343(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 40/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線が四角形形状の頂点を通り、前記四角形形状が位置する平面に垂直な方向に伸びる四本の電極を有し、真空雰囲気中に配置される四重極部と、
四本の前記電極のうち、前記中心軸線が前記四角形形状の同一の対角線と交差する二本の電極を第一組と第二組とすると、同じ組の前記電極には同一電圧を印加し、前記第一組の二個の前記電極と前記第二組の二個の前記電極との間には直流電圧に交流電圧が重畳された分析電圧を印加する主電源装置と、
四本の前記電極によって取り囲まれる質量分析空間のうち、四本の前記電極の一端側に配置され、前記真空雰囲気中の気体をイオン化するイオン化部と、
前記質量分析空間の他端側に配置され、前記質量分析空間を通過したイオンを検出する検出部と、
を有し、前記質量分析空間を通過した前記イオンの到達量を求める四重極型質量分析装置であって、
前記第一組の前記電極に現れた交流電圧が印加される第一整流素子と、前記第二組の前記電極に現れた交流電圧が印加される第二整流素子とを有し、前記第一整流素子と前記第二整流素子とが交互に順方向導通して前記第一組の電極と前記第二組の電極との間に現れた交流電圧を検出して全波整流した信号電圧を出力する検波回路と、
電流源と、前記電流源から供給される電流で導通する第三整流素子と第四整流素子とを有し、前記第三整流素子の順方向導通電圧と前記第四整流素子の順方向導通電圧とを同じ大きさにして直流の補正電圧として出力する補正回路と、
前記信号電圧と前記補正電圧とを加算して出力する加算回路と、
を有し、
前記第一整流素子と前記第三整流素子とは熱結合され、
前記第二整流素子と前記第四整流素子とは熱結合された四重極型質量分析装置。
【請求項2】
前記第一整流素子と前記第二整流素子と前記第三整流素子と前記第四整流素子とは熱結合された請求項1記載の四重極型質量分析装置。
【請求項3】
中心軸線が四角形形状の頂点を通り、前記四角形形状が位置する平面に垂直な方向に伸びる四本の電極を有し、真空雰囲気中に配置される四重極部と、
四本の前記電極のうち、前記中心軸線が前記四角形形状の同一の対角線と交差する二本の電極を第一組と第二組とすると、同じ組の前記電極には同一電圧を印加し、前記第一組の二個の前記電極と前記第二組の二個の前記電極との間には直流電圧に交流電圧が重畳された分析電圧を印加する主電源装置と、
四本の前記電極によって取り囲まれる質量分析空間のうち、四本の前記電極の一端側に配置され、前記真空雰囲気中の気体をイオン化するイオン化部と、
前記質量分析空間の他端側に配置され、前記質量分析空間を通過したイオンを検出する検出部と、
を有し、前記質量分析空間を通過した前記イオンの到達量を求める四重極型質量分析装置であって、
前記第一組の前記電極に現れた交流電圧が印加される第一整流素子と、前記第二組の前記電極に現れた交流電圧が印加される第二整流素子とを有し、前記第一整流素子と前記第二整流素子とが交互に順方向導通して前記第一組の電極と前記第二組の電極との間に現れた交流電圧を検出して全波整流した信号電圧を出力する検波回路と、
電流源と、前記電流源から供給される電流で導通する第五整流素子とを有し、前記第五整流素子の順方向導通電圧を直流の補正電圧として出力する補正回路と、
前記信号電圧と前記補正電圧とを加算して出力する加算回路と、
を有し、
前記第一整流素子と前記第二整流素子と前記第五整流素子とは熱結合された四重極型質量分析装置。
【請求項4】
オフセット電圧源と、前記オフセット電圧源が出力するオフセット電圧が印加されてそれぞれ順方向導通する第六、第七整流素子とを有し、
前記第六整流素子と前記第七整流素子とは熱結合され、
前記第六整流素子は、前記第一整流素子に印加される交流電圧に前記オフセット電圧が前記第六整流素子の順方向電圧降下した直流電圧を重畳し、
前記第七整流素子は、前記第二整流素子に印加される交流電圧に前記オフセット電圧が前記第七整流素子の順方向電圧降下した直流電圧を重畳するオフセット回路が設けられた請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の四重極型質量分析装置。
【請求項5】
中心軸線が四角形形状の頂点を通り、前記四角形形状が位置する平面に垂直な方向に伸びる四本の電極を有し、真空雰囲気中に配置される四重極部と、
四本の前記電極のうち、前記中心軸線が前記四角形形状の同一の対角線と交差する二本の電極を第一組と第二組とすると、同じ組の前記電極には同一電圧を印加し、前記第一組の二個の前記電極と前記第二組の二個の前記電極との間には直流電圧に交流電圧が重畳された分析電圧を印加する主電源装置と、
四本の前記電極によって取り囲まれる質量分析空間のうち、四本の前記電極の一端側に配置され、前記真空雰囲気中の気体をイオン化するイオン化部と、
前記質量分析空間の他端側に配置され、前記質量分析空間を通過したイオンを検出する検出部と、
を有し、前記質量分析空間を通過した前記イオンの到達量を求める四重極型質量分析装置であって、
前記第一組の前記電極に現れた交流電圧が印加される第一整流素子と、前記第二組の前記電極に現れた交流電圧が印加される第二整流素子とを有し、前記第一整流素子と前記第二整流素子とが順方向導通して前記第一組の電極と前記第二組の電極との間に現れた交流電圧を検出して全波整流した信号電圧を出力する検波回路と、
電流源と、前記電流源から供給される電流で導通する第三整流素子を有し、前記第三整流素子の順方向導通電圧を直流の補正電圧として出力する補正回路と、
前記信号電圧と前記補正電圧とを加算して出力する加算回路と、
を有し、
前記第一整流素子と前記第三整流素子とは熱結合された四重極型質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置の技術分野にかかり、特に、四重極型質量分析装置の検波回路の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極型質量分析装置に於いて、四重極に印加するRF電圧の精度は、質量分析装置の正確性及び信頼性に密接な関係がある。そのため、RF電圧の発生にはフィードバック制御技術が使用されている。具体的には、四重極のRF電圧を精密に測定してDC電圧に変換し、元の制御信号と比較して、その差分をRF電圧発生部に反映させることで精確なRF電圧になるように制御されている。そこではRF電圧の振幅をDC電圧レベルに変換するために、ダイオード検波回路が使用されている。
【0003】
従来技術の基本的なダイオード検波回路を図8に示す。一般的に、入力結合コンデンサーCinにより直流成分を除去したRF電圧をダイオードDに印加して整流する。ここで、ダイオードが導通するためには、ダイオードの両端に、閾値よりも大きな電圧が順方向に印加されることが必要である。そしてダイオードが導通したときにダイオードの両端に一定の順方向降下電圧が発生すると仮定すると、順方向降下電圧は閾値に等しい大きさになる。
【0004】
従って、RF電圧がダイオードDを順バイアスする期間のうち、RF電圧の振幅がダイオードDの順方向降下電圧より大きい期間はダイオードDが導通し、RF電圧は出力側のコンデンサーCoutを充電する。逆にRF電圧の振幅がダイオードDの順方向降下電圧より小さい期間はダイオードDは遮断し、充電されたコンデンサーCoutが負荷抵抗Rを経由して放電する。図8のダイオード検波回路の出力はこのように充電と放電を繰り返す。
【0005】
このダイオード検波回路の入力と出力の波形を図9に示す。図9の符号E11は入力されたRF電圧波形であり、符号E12はダイオード検波回路によって半波整流された電圧波形である。
【0006】
図9から分かるように、このダイオード検波回路は、ダイオードDの順方向電圧の影響を受けるため、入力電圧の振幅が小さいと誤差が大きくなる。また、検波用のダイオードDの温度特性の影響によって、検波出力の変動が大きくなってしまう。
【0007】
また、順方向降下電圧の大きさには温度依存性がある。
下記特許文献1に記載されたダイオード検波回路には、2つのダイオード検波ユニットが使用されている。第1のダイオード検波ユニットは入力電圧信号にバイアス電圧を加えて検波信号を出力する。第2のダイオード検波ユニットはバイアス電圧だけを加えて固定電圧信号を出力する。そして、検波信号と固定電圧信号の差分を取って出力するので、ダイオードの順方向降下電圧の温度依存性を相殺しながら、高感度な検波が可能となることが記載されている。
【0008】
しかしながら特許文献1で提案された回路構成では、順方向降下電圧の温度依存性をある程度で相殺して高感度で検波することができるとしても、入力RF信号にDC電圧を直接に加えるため、入力RF信号が周波数によってバイアス回路の影響を受けて変化する。つまり、差動増幅器の出力が入力RF信号の周波数の変化によって不安定となる問題がある。
【0009】
また、入力RF信号にDC電圧を加えるために、入力RF信号をカットできるインダクタやトランスなどを含めてバイアス回路が必要になる。バイアス電圧と順電圧の差が後段の差動アンプのコモン電圧になり、あまり大きくし過ぎると、検波できるRF信号の範囲が狭くなる問題がある。当然、バイアス回路の出力をダイオードの閾値と等しくすれば理想的であるが、ダイオードの閾値は温度による変化があり、実現することは困難である。
【0010】
更に、第1、第2のダイオード検波ユニットを同じものにしても、入力RF電圧を加えた第1のダイオード検波ユニットの温度とDCバイアスだけを加えた第2のダイオード検波ユニットとの温度が異なり、電圧の差分が生じてしまうという欠点がある。
【0011】
四重極型質量分析装置において、検波出力が制御信号にフィードバックされるので、四重極に印加するRF電圧を調整するために、検波出力を調整する必要がある。また、質量分析計において、微小RF信号を検波する高感度より、相対的に大RF信号を検波する温度安定性を重視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2006-33185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記問題点に考慮して、RF大信号領域において、温度変動に対する安定性が良く、出力のオフセットが調整できるダイオード検波回路を有する四重極型質量分析装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、中心軸線が四角形形状の頂点を通り、前記四角形形状が位置する平面に垂直な方向に伸びる四本の電極を有し、真空雰囲気中に配置される四重極部と、四本の前記電極のうち、前記中心軸線が前記四角形形状の同一の対角線と交差する二本の電極を第一組と第二組とすると、同じ組の前記電極には同一電圧を印加し、前記第一組の二個の前記電極と前記第二組の二個の前記電極との間には直流電圧に交流電圧が重畳された分析電圧を印加する主電源装置と、四本の前記電極によって取り囲まれる質量分析空間のうち、四本の前記電極の一端側に配置され、前記真空雰囲気中の気体をイオン化するイオン化部と、前記質量分析空間の他端側に配置され、前記質量分析空間を通過したイオンを検出する検出部と、を有し、前記質量分析空間を通過した前記イオンの到達量を求める四重極型質量分析装置であって、前記第一組の前記電極に現れた交流電圧が印加される第一整流素子と、前記第二組の前記電極に現れた交流電圧が印加される第二整流素子とを有し、前記第一整流素子と前記第二整流素子とが交互に順方向導通して前記第一組の電極と前記第二組の電極との間に現れた交流電圧を検出して全波整流した信号電圧を出力する検波回路と、電流源と、前記電流源から供給される電流で導通する第三整流素子と第四整流素子とを有し、前記第三整流素子の順方向導通電圧と前記第四整流素子の順方向導通電圧とを同じ大きさにして直流の補正電圧として出力する補正回路と、前記信号電圧と前記補正電圧とを加算して出力する加算回路と、を有し、前記第一整流素子と前記第三整流素子とは熱結合され、前記第二整流素子と前記第四整流素子とは熱結合された四重極型質量分析装置である。
本発明は、前記第一整流素子と前記第二整流素子と前記第三整流素子と前記第四整流素子とは熱結合された四重極型質量分析装置である。
本発明は、中心軸線が四角形形状の頂点を通り、前記四角形形状が位置する平面に垂直な方向に伸びる四本の電極を有し、真空雰囲気中に配置される四重極部と、四本の前記電極のうち、前記中心軸線が前記四角形形状の同一の対角線と交差する二本の電極を第一組と第二組とすると、同じ組の前記電極には同一電圧を印加し、前記第一組の二個の前記電極と前記第二組の二個の前記電極との間には直流電圧に交流電圧が重畳された分析電圧を印加する主電源装置と、四本の前記電極によって取り囲まれる質量分析空間のうち、四本の前記電極の一端側に配置され、前記真空雰囲気中の気体をイオン化するイオン化部と、前記質量分析空間の他端側に配置され、前記質量分析空間を通過したイオンを検出する検出部と、を有し、前記質量分析空間を通過した前記イオンの到達量を求める四重極型質量分析装置であって、前記第一組の前記電極に現れた交流電圧が印加される第一整流素子と、前記第二組の前記電極に現れた交流電圧が印加される第二整流素子とを有し、前記第一整流素子と前記第二整流素子とが交互に順方向導通して前記第一組の電極と前記第二組の電極との間に現れた交流電圧を検出して全波整流した信号電圧を出力する検波回路と、電流源と、前記電流源から供給される電流で導通する第五整流素子とを有し、前記第五整流素子の順方向導通電圧を直流の補正電圧として出力する補正回路と、前記信号電圧と前記補正電圧とを加算して出力する加算回路と、を有し、前記第一整流素子と前記第二整流素子と前記第五整流素子とは熱結合された四重極型質量分析装置である。
本発明は、オフセット電圧源と、前記オフセット電圧源が出力するオフセット電圧が印加されてそれぞれ順方向導通する第六、第七整流素子とを有し、前記第六整流素子と前記第七整流素子とは熱結合され、前記第六整流素子は、前記第一整流素子に印加される交流電圧に前記オフセット電圧が前記第六整流素子の順方向電圧降下した直流電圧を重畳し、前記第七整流素子は、前記第一整流素子に印加される交流電圧に前記オフセット電圧が前記第七整流素子の順方向電圧降下した直流電圧を重畳するオフセット回路が設けられた四重極型質量分析装置である。
本発明は、中心軸線が四角形形状の頂点を通り、前記四角形形状が位置する平面に垂直な方向に伸びる四本の電極を有し、真空雰囲気中に配置される四重極部と、四本の前記電極のうち、前記中心軸線が前記四角形形状の同一の対角線と交差する二本の電極を第一組と第二組とすると、同じ組の前記電極には同一電圧を印加し、前記第一組の二個の前記電極と前記第二組の二個の前記電極との間には直流電圧に交流電圧が重畳された分析電圧を印加する主電源装置と、四本の前記電極によって取り囲まれる質量分析空間のうち、四本の前記電極の一端側に配置され、前記真空雰囲気中の気体をイオン化するイオン化部と、前記質量分析空間の他端側に配置され、前記質量分析空間を通過したイオンを検出する検出部と、を有し、前記質量分析空間を通過した前記イオンの到達量を求める四重極型質量分析装置であって、前記第一組の前記電極に現れた交流電圧が印加される第一整流素子を有し、前記第一整流素子が順方向導通して前記第一組の電極に現れた交流電圧を検出して半波整流した信号電圧を出力する検波回路と、電流源と、前記電流源から供給される電流で導通する第三整流素子を有し、前記第三整流素子の順方向導通電圧の順方向導通電圧を直流の補正電圧として出力する補正回路と、前記信号電圧と前記補正電圧とを加算して出力する加算回路と、を有し、前記第一整流素子と前記第三整流素子とは熱結合された四重極型質量分析装置である。
【発明の効果】
【0015】
四重極部の交流電圧を検波する二個の整流素子が熱結合されているので、半波整流された二個の電圧波形に温度差の誤差は生じない。
【0016】
補正回路の二個の整流素子が熱結合されているので、半波整流された二個の電圧波形に加算される順方向降下電圧に温度差による影響は無い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の四重極型質量分析装置の一例
図2】本発明に用いられる検波回路と補正回路とを説明するための図
図3】検波回路の出力と加算回路の出力と整流回路の出力との関係を説明するためのグラフ
図4】本発明に用いられる他の補正回路を説明するための図
図5】本発明に用いられる更に他の補正回路を説明するための図
図6】(a)~(c):半導体素子の配置を説明するための図
図7】(d)~(f):半導体素子の配置を説明するための図
図8】従来技術の検波回路を説明するための図
図9】入力されたRF電圧とRF電圧を検波、整流した電圧とを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1の符号2は本発明の一例の四重極型質量分析装置であり、真空雰囲気中に置かれる四重極部4と、真空雰囲気の外部に置かれる測定装置5と主電源装置18と主制御装置8とを有している。四重極部4は、真空処理装置の真空槽の内部に形成される真空雰囲気や、真空槽に接続された筐体の内部に形成される真空雰囲気に置かれる。
【0019】
各四重極部4は、棒状形形状であり、中心軸線a1~a4が四角形形状Qが位置する平面と垂直であり、四角形形状Qの頂点を通る4本の電極e1~e4が配置されている。この例では四角形形状Qは正方形形状である。
【0020】
四角形形状Qの二本の対角線のうち、中心軸線a1~a4が、一方の対角線上に位置する電極e1、e2を第一組の電極e1、e2とし、他方の対角線上に位置する電極e3、e4を第二組の電極e3、e4とすると、第一組の電極e1、e2同士は電気的に短絡され、また、第二組の電極e3、e4同士も電気的に短絡されており、主電源装置18によって、第一組の電極e1、e2と第二組の電極e3、e4との間に交流電圧に直流電圧が重畳された分析電圧が印加されるようになっている。図1では、電極e1~e4と主電源装置18との間の電気的接続を示す線は省略されている。
【0021】
四本の電極e1~e4で取り囲まれた領域によって、イオンが走行する質量分析空間19が形成されており、各電極e1~e4の両端のうち、一端側を入口側とし他端側を出口側とすると、入口側と対面する位置にはイオン化部21が配置され、出口側には検出部22が配置されている。
【0022】
イオン化部21と検出部22とは四重極部4が位置する真空雰囲気中に位置している。イオン化部21の内部で真空雰囲気中のガスがイオン化され、質量分析空間19に向けて引き出される。
【0023】
イオン化部21と質量分析空間19との間にはレンズ電極31が配置されており、イオン化部21から引き出されたイオンはレンズ電極31で収束されて質量分析空間19に入射する。
【0024】
質量分析空間19に入射したイオンのうち、質量分析空間19を通過できるイオンの質量電荷比(質量/電荷)は、分析電圧の周波数と電圧の大きさとによって決まっており、周波数又は電圧の大きさを制御することで、所望の質量電荷比のイオンを通過させることができる。
【0025】
質量分析空間19を通過したイオンは検出部22に入射し、検出部22によって入射したイオンの量が検出される。検出されたイオン量を示す信号は主制御装置8に出力され、主制御装置8に接続された表示装置32に表示される。
【0026】
次に、測定装置5を説明する。図2を参照し、測定装置5は、検波回路11と、補正回路12と、加算回路14と、平滑回路20とを有している。
【0027】
検波回路11は、第一整流素子D1と第二整流素子D2とを有しており、補正回路12は、電流源15と、第三、第四整流素子D3、D4を有している。
【0028】
第一整流素子D1は、第一組の電極e1、e2に第一の入力コンデンサC1を介して電気的に接続されており、第一整流素子D1には、第一の入力コンデンサC1を介して第一組の電極e1、e2と接地電位との間に現れた交流電圧が入力され、第一整流素子D1は、入力された交流電圧を半波整流して加算回路14に出力する。
【0029】
また、第二整流素子D2は、第二組の電極e3、e4に第二の入力コンデンサC2を介して電気的に接続され、第二整流素子D2には、第二の入力コンデンサC2を介して第二組の電極e3、e4と接地電位との間に現れた交流電圧が入力されており、第二整流素子D2は入力された交流電圧を半波整流して加算回路14に出力する。
【0030】
第一整流素子D1による半波整流の波形と第二整流素子D2による半波整流の波形とは、同極性で位相が180°異なっており、合成すると全波整流の波形になる。
【0031】
ここでは第一~第四整流素子D1~D4及び後述する第五~第九整流素子D5~D9はダイオード素子であり、第一整流素子D1のアノード端子が第一の入力コンデンサC1を介して第一組の電極e1、e2に接続され、第二整流素子D2のアノード端子が第二の入力コンデンサC2を介して第二組の電極e3、e4に接続されており、第一、第二整流素子D1、D2のカソード電極には、交流電圧を半波整流した正電圧の波形が現れ、合成されて加算回路14に入力される。
【0032】
第三整流素子D3と第四整流素子D4とは、電流源15から供給された電流が流れて導通するようにされており、補正回路12は、第三整流素子D3に発生した順方向降下電圧、又は第四整流素子D4に発生した順方向降下電圧を加算回路14に出力する。
【0033】
ここでは、第三、第四整流素子D3、D4は並列接続されて電流源15から電流が供給されて同じ大きさの順方向降下電圧が発生するようにされており、その順方向降下電圧が加算回路14に入力され、加算回路14は第一、第二半波整流電圧と補正回路12から出力された順方向降下電圧とを加算して加算電圧として出力する。
【0034】
図3のグラフには、第一整流素子D1から加算回路14に出力された第一半波整流電圧E1と第二整流素子D2から加算回路14に出力された第二半波整流電圧E2と、加算電圧E4との波形が示されている。
【0035】
第一整流素子D1が導通する期間において、第一整流素子D1から出力された第一半波整流電圧E1の絶対値は、第一の入力コンデンサC1を介して検波回路11に入力された第一組の電極e1、e2の交流電圧の絶対値よりも、第一整流素子D1の順方向降下電圧の絶対値だけ小さくなっている。
【0036】
また、第二整流素子D2が導通する期間において、第二整流素子D2から出力された第二半波整流電圧E2の絶対値は、第二の入力コンデンサC2を介して検波回路11に入力された第二組の電極e3、e4の交流電圧の絶対値よりも、第二整流素子D2の順方向降下電圧の絶対値だけ小さくなる。図中、VPはピーク電圧であり、VFは順方向降下電圧である。
【0037】
従って、第一整流素子D1が順バイアスされていても、第一整流素子D1に入力される交流電圧の絶対値が第一整流素子D1の順方向降下電圧の絶対値よりも小さい遮断期間T1の間は、第一半波整流電圧E1は第一整流素子D1から出力されない。
【0038】
また、第二整流素子D2が順バイアスされていても、第二整流素子D2に入力される交流電圧の絶対値が第二整流素子D2の順方向降下電圧の絶対値よりも小さい遮断期間T2の間は第二整流素子D2から第二半波整流電圧E2は出力されない。
【0039】
この例では検波回路11の出力端子は抵抗素子R3、R4の直列接続回路で接地されており、遮断期間T1、T2の間は接地電位が出力される。
【0040】
なお、加算回路はオペアンプOPと抵抗素子R2~R6によって構成されており、抵抗素子R2~R6の抵抗値は下記関係にある。
【0041】
2//R3//R4=R5//R6
2=R3=R6
【0042】
このような加算回路14によって、第一、第二整流素子D1、D2が出力した第一、第二半波整流電圧には、第三整流素子D3又は第四整流素子D4の順方向降下電圧が加算される。
【0043】
第一、第二整流素子D1、D2の順方向降下電圧の大きさは、補正回路12から出力される順方向降下電圧の大きさと等しくされており、加算回路14の加算によって、第一、第二半波整流電圧から第一、第二整流素子D1、D2の影響が消去される。遮断期間T1、T2の間は、補正回路12から出力される順方向降下電圧の大きさの定電圧になる。
【0044】
加算電圧E4は加算回路14から平滑回路20に出力され、加算電圧E4は平滑回路20によって平滑され、直流電圧に近い信号電圧E5にされて主制御装置8に入力される。
【0045】
なお、第三、第四整流素子D3、D4の順方向降下電圧が同じ大きさの場合は、第三整流素子D3と第四整流素子D4とのいずれか一方を除去することができる。図5の測定装置62の補正回路132では、第五整流素子D5が、第三整流素子D3と第四整流素子D4のうち、除去されなかった方の整流素子である。
【0046】
次に、主制御装置8では、入力された信号電圧E5と基準電圧とが比較され、主制御装置8は、比較結果によって、第一組の電極e1、e2と第二組の電極e3、e4との間に現れる交流電圧が、主制御装置8に設定された所定の大きさになるように、主電源装置18が第一組の電極e1、e2と第二組の電極e3、e4との間に出力する交流電圧の大きさを制御する。
その結果、精度が高いイオン量の検出を行うことができる。
【0047】
ダイオード素子には、pn接合ダイオードやショットキーダイオード等、複数の種類が知られているが、本発明では第一~第四整流素子D1~D4には同種類のダイオード素子が用いられており、同じ温度のときには、同じ大きさの順方向降下電圧が発生するようにされている。
【0048】
本発明では第一整流素子D1~第四整流素子D4は、樹脂モールド、金属ケース又はセラミックスケースにより、ダイオードの半導体チップが封止されている。
【0049】
半導体チップが封止された樹脂モールド、金属ケース又はセラミックスケースなどの封止体をパッケージと呼ぶと、第一整流素子D1の半導体チップと第三整流素子D3の半導体チップとは、同じ搭載基板に接触して固定され、同じパッケージの内部に配置されている。その結果、第一整流素子D1の半導体チップと第三整流素子D3の半導体チップとの間の熱抵抗は、第一整流素子D1の半導体チップとパッケージ表面との間の熱抵抗や、第三整流素子D3の半導体チップとパッケージ表面との間の熱抵抗の1/6の大きさ以下になっており、半導体チップ同士は熱結合されている。
【0050】
その結果、半導体チップの温度は、パッケージの外部雰囲気の温度よりも、同一の搭載基板上で隣接する半導体チップの動作による発熱の方が大きく影響し、一方が導通して他方が遮断するときでも、同一の搭載基板上の半導体チップは同じ温度になるようにされている。
【0051】
また、第二整流素子D2と第四整流素子D4とも、第二整流素子D2の半導体チップと第四整流素子D4の半導体チップとが同じ搭載基板に接触して固定され、一緒に封止されて熱結合され、同一搭載基板上の半導体チップのジャンクションは同じ温度になり、同じ順方向降下電圧を持つようになっている。
【0052】
第二整流素子D2の半導体チップと第四整流素子D4の半導体チップとの間の熱抵抗も、第二整流素子D2の半導体チップとパッケージ表面との間の熱抵抗や、第四整流素子D4の半導体チップとパッケージ表面との間の熱抵抗の1/6の大きさ以下になっている。
【0053】
更に、第一整流素子D1~第四整流素子D4の各半導体チップを同一の搭載基板に接触して固定して一緒に樹脂封止して熱結合させ、第一整流素子D1~第四整流素子D4の各半導体チップのジャンクションが同じ温度になるようにしてもよい。
【0054】
複数個の半導体チップを同じ搭載基板に接触して固定すれば、樹脂封止ではなく、半導体チップが接触して固定された搭載基板を金属ケースやセラミックスケースの中に配置する封止であっても熱結合されて同じ温度になる。
【0055】
測定装置5、61、62には、オフセット回路16が設けられており、オフセット回路16には、オフセット電源17と、第六、第七整流素子D6、D7が設けられている。
【0056】
オフセット電源17は主制御装置8によって制御されており、出力電圧が変更可能にされている。
【0057】
第六整流素子D6の一端はオフセット電源17に接続され、他端は第一の入力コンデンサC1と第一整流素子D1とが接続された部分に接続されており、また、第七整流素子D7の一端はオフセット電源17に接続され、他端は第二の入力コンデンサC2と第二整流素子D2とが接続された部分に接続されている。
【0058】
第六、第七整流素子D6、D7が、オフセット電源17が出力する電圧によって順バイアスされて導通すると、第一整流素子D1にはオフセット電源17が出力する電圧の絶対値よりも第六整流素子D6の順方向降下電圧の絶対値だけ小さくなった直流の第一のオフセット電圧が供給され、第二整流素子D2にはオフセット電源17が出力する電圧の絶対値よりも第七整流素子D7の順方向降下電圧の絶対値だけ小さくなった直流の第二のオフセット電圧が供給される。
【0059】
つまり、第六整流素子D6が導通すると第一組の電極e1、e2から第一整流素子D1に入力される交流電圧に第一のオフセット電圧が重畳され、第七整流素子D7が導通すると第二組の電極e3、e4から第二整流素子D2に入力される交流電圧に第一のオフセット電圧が重畳される。
【0060】
第六整流素子D6と第七整流素子D7とは同じ種類のダイオード素子であり、同じ大きさの電流を流すときに同じ温度であれば順方向降下電圧の大きさが等しくなるようにされており、また、第六整流素子D6の半導体チップと第七整流素子D7の半導体チップとは同一の搭載基板に接触して固定され、一緒に封止されており、第六整流素子D6と第七整流素子D7とは熱結合されており、同じ温度になるようにされている。
【0061】
この場合、図4に示す測定装置61のように、第三整流素子D3に第八整流素子D8を直列に接続し、第四整流素子D4に第九整流素子D9を直列に接続して補正回路131とし、第六整流素子D6の順方向降下電圧の温度変化による第一のオフセット電圧の変化を第八整流素子D8の順方向降下電圧の温度変化によって消去させ、また、第七整流素子D7の順方向降下電圧の温度変化による第二のオフセット電圧の変化を第九整流素子D9の順方向降下電圧の温度変化によって消去させてもよい。
【0062】
なお、オフセット電源17は主制御装置8によって制御されており、オフセット電源17が出力する電圧の大きさは主制御装置8によって変更することができるので、Mass Spectrumの分解能によって算出した補正定数を第一、第二のオフセット電圧として、検波回路11に供給することができる。
【0063】
図6(a)~(c)と図7(d)~(f)は、整流素子の配置例を説明するための図面であり、符号Sは、半導体チップが搭載された搭載基板を示している。
【0064】
図6(a)~(c)はダブルアノード・ダブルカソードの2個並列ダイオード素子を含めるパケージ(封止)であり、図7(d)~(f)はダブルアノード・コモンカソード(2チャンネル)で構成される4個の整流素子を含めるパッケージである。
【0065】
オフセット電圧を調整する第六、第七整流素子D6、D7の半導体チップは独立パッケージでもよく、また1パッケージでもよいと考えられる。
【0066】
1パッケージタイプはコモンアノードとダブル並列2種類をして設計されている。上記の検波用の第一、第二整流素子D1、D2の半導体チップと補正用の第三、第四整流素子D3、D4の半導体チップと、オフセット電圧調整用の第六、第七整流素子D6、D7の半導体チップとは、部品構成タイプによって、6種類の部品配置の組合せがある。
これらの部品配置によって、検波回路11の温度に対する安定性に大きく影響する。
【0067】
図6(a)、(b)に示すように、オフセット電圧調整用の第六、第七整流素子D6、D7の半導体チップを、検波用の第一、第二整流素子D1、D2の半導体チップと補正用の第三、第四整流素子D3、D4の半導体チップとの間の中心軸線P1、P2を中心にして線対称に配置し、搭載基板Sの材料を介した熱伝達により、第六、第七整流素子D6、D7の半導体チップとを熱結合させる。
【0068】
また、第一~第四整流素子D1~D4の半導体チップを互いに近接して配置し、第一~第四整流素子D1~D4の半導体チップに、第六、第七整流素子D6、D7の半導体チップからの熱と周辺からの熱とが均一に影響されるようにした。
【0069】
図6(c)は、オフセット電圧調整用の第六、第七整流素子D6、D7の半導体チップが別個のパッケージに配置された場合であり、第一、第三整流素子D1、D3の半導体チップの中心軸線P3と、第二、第四整流素子D2、D4の半導体チップの中心軸線P4とを一致させ、その中心軸線P3、P4を中心としてオフセット電圧調整用の第六整流素子D6のパッケージと第七整流素子D7のパッケージとを上下線対称に配置することによって、同じ温度環境にすることができる。図7(d)も同様の配置である。
【0070】
図7(e)、(f)は検波用の第一、第二整流素子D1、D2の半導体チップと補正用の第三、第四整流素子D3、D4の半導体チップとが同一の搭載基板に接触して固定され、一個のパッケージ内に配置されており、オフセット電圧調整用の第六、第七整流素子D6、D7の半導体チップは別のパッケージに配置されている。これらの二個のパッケージ間の距離は大きい方が望ましいが、四重極型質量分析装置において、交流電圧の周波数を高くし、また、外乱影響を低下させるためには配線を短くする必要がある。パッケージ間の距離と配線の長さとの間のバランスを考慮すると、各整流素子D1~D4、D6、D7の半導体チップを、同一の中心軸線P7、P8上に配置して熱結合させ、各整流素子D1~D4、D6、D7の半導体チップが同じ温度になるようにすることができる。
【0071】
上記の6種類の配置様式図に示すように、第一、第二整流素子D1、D2の半導体チップと補正用の第三、第四整流素子D3、D4に対して、補正用の第三、第四整流素子D3、D4に電流を供給する抵抗R1も対称的に配置するとよい。
【0072】
半導体チップがショットキーバリアダイオードの場合は、同一種類の半導体チップ間の特性ばらつきは、同一種類であるが別々の半導体チップを同じ温度にして同じ大きさの電流を流したときに、大きい順方向降下電圧は、標準の順方向降下電圧の1.12倍未満の値になるようにされている。
【0073】
したがって、標準の順方向降下電圧に対して、±10%以内であれば、その範囲内のばらつきは、半導体チップの特性ばらつきに起因するばらつきであるから、標準の順方向降下電圧に対して±10%以内の大きさの順方向降下電圧は等しい大きさであると言える。
【符号の説明】
【0074】
2……四重極型質量分析装置
4……四重極部
5、61、62……測定装置
8……主制御装置
11……検波回路
12、131、132……補正回路
14……加算回路
15……電流源
16……オフセット回路
17……オフセット電源
18……主電源装置
19……質量分析空間
21……イオン化部
22……検出部
1~a4……中心軸線
1~D7……第一~第七整流素子
1~e4……電極
Q……四角形形状
S……搭載基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9