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特許7389112有機ケイ素化合物、その製造方法、およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】有機ケイ素化合物、その製造方法、およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/395 20060101AFI20231121BHJP
   C08G 77/30 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C08G77/395
C08G77/30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021512895
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 US2019053146
(87)【国際公開番号】W WO2020072269
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】62/739,473
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ウンシル
(72)【発明者】
【氏名】小川 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】大川 直
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/037016(WO,A1)
【文献】特開2000-169511(JP,A)
【文献】特開2011-195719(JP,A)
【文献】特開平04-316588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00 - 77/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子あたり200個以下のケイ素原子を有し、以下の平均組成式(I)で表される有機ケイ素化合物であって:
SiO(4-a-b)/2 (I)
式中、Rは、炭素原子1~12個のアルキル基、炭素原子2~12個のアルケニル基、炭素原子6~20個のアリール基、炭素原子1~6個のアルコキシ基、またはヒドロキシル基であり、Yは、以下の一般式(II)で表されるアシルホスフィナート残基であり、
【化1】
式中、Rは、炭素原子1~12個の非置換またはハロゲン置換アルキル基、炭素原子6~20個の非置換またはハロゲン置換アリール基、炭素原子7~20個のアラルキル基、または炭素原子1~6個のアルコキシ基であり、Rは、炭素原子1~12個の直鎖状または分枝状アルキレン基であり、Rは、炭素原子2~6個のアルキレン基であり、Arは、炭素原子6~20個の非置換、アルコキシ置換、またはハロゲン置換アリール基であり、「m」は、0~100の整数であり、
「a」および「b」は、以下の条件0<a≦2、0<b≦3、およびa≦bを満たす数値である、有機ケイ素化合物を製造するための方法であって、以下の工程:
i)以下の平均組成式(IV)で表される有機ケイ素化合物:
SiO (4-a-b)/2 (IV)
(式中、R 、「a」および「b」は、上記の通りであり、Zは、以下の一般式(V)で表される基であり、
【化2】
式中、R 、R および「m」は、上記の通りである)を、
以下の一般式(VI)で表される有機ホスフィン化合物と反応させ:
【化3】
(式中、R は上記の通りであり、Xは、同一または異なるハロゲン原子である)、反応生成物を得て、次いで、
ii)前記反応生成物を、以下の一般式(VII)で表されるカルボン酸ハロゲン化物と反応させる
【化4】
(式中、XおよびArは上記の通りである)
を含む、方法。
【請求項2】
が炭素原子6~20個のアリール基である、請求項1に記載の方法
【請求項3】
「m」が0である、請求項1または2に記載の方法
【請求項4】
「a」および「b」が、以下の条件a+b≦3を満たす数である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法
【請求項5】
「a」および「b」が、以下の条件1.5≦a+b≦2.3を満たす数である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法
【請求項6】
前記有機ケイ素化合物が、以下の一般式(III)で表される有機ケイ素であって、
SiO(R SiO)SiR (III)
式中、各Rは、上記のように同一または異なるRおよびYであるが、1分子あたり、少なくとも1つのRは、上記のようにYであり、「n」は、0~198の整数である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法
【請求項7】
前記有機ケイ素化合物が25℃で液体である、請求項6に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月1日に出願された米国仮特許出願第62/739,473号の優先権およびすべての利点を主張し、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、1分子あたり少なくとも1つのアシルホスフィナート残基を有する新規な有機ケイ素化合物、その製造方法、および光開始剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
光硬化性組成物の硬化性を改善するために、有機リン化合物がそのような組成物の光開始剤として使用されることが知られている。例えば、有機リン化合物として、特許文献1は、以下の式で表されるモノアシルアルキルホスフィンオキシドを記載しており、
【化1】
特許文献2は、以下の式で表されるモノアシルアリールホスフィンオキシドを記載しており、
【化2】
特許文献3は、以下の式で表されるジアシルアリールホスフィンオキシドを記載している
【化3】
(式中、「x」はMn=245,079となるような十分な数である)。
【0004】
しかし、特許文献1から3では、1分子あたり少なくとも1つのアシルホスフィナート残基を有する有機ケイ素化合物は示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国(「US」)特許出願公開第2002/0026049 A1号
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2001/0031898 A1号
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2012/0142805 A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、1分子あたり少なくとも1つのアシルホスフィナート残基を有し、有機ポリシロキサンとの優れた相溶性を示し、様々なタイプの光硬化性組成物の光開始剤として有用な新規な有機ケイ素化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機ケイ素化合物は、1分子あたり200個以下のケイ素原子を有し、以下の平均組成式(I)で表され、
SiO(4-a-b)/2 (I)
式中、Rは、炭素原子1~12個のアルキル基、炭素原子2~12個のアルケニル基、炭素原子6~20個のアリール基、炭素原子1~6個のアルコキシ基、またはヒドロキシル基であり、Yは、以下の一般式(II)で表されるアシルホスフィナート残基であり、
【化4】
式中、Rは、炭素原子1~12個の非置換またはハロゲン置換アルキル基、炭素原子6~20個の非置換またはハロゲン置換アリール基、炭素原子7~20個のアラルキル基、または炭素原子1~6個のアルコキシ基であり、Rは、炭素原子1~12個の直鎖状または分枝状アルキレン基であり、Rは、炭素原子2~6個のアルキレン基であり、Arは、炭素原子6~20個の非置換、アルコキシ置換、またはハロゲン置換アリール基であり、「m」は、0~100の整数であり、
「a」および「b」は、以下の条件0<a≦2、0<b≦3、およびa≦bを満たす数値である。
【0010】
様々な実施形態では、Rは、炭素原子6~20個のアリール基である。
【0011】
様々な実施形態では、「m」は0である。
【0012】
様々な実施形態では、「a」および「b」は、以下の条件a+b≦3を満たす数である。特定の実施形態では、「a」および「b」は、以下の条件1.5≦a+b≦2.3を満たす数である。
【0013】
様々な実施形態では、本発明の有機ケイ素化合物は、以下の一般式(III)で表されるオルガノシロキサンであり、
SiO(R SiO)SiR (III)
式中、各Rは、上記のように同一または異なるRおよびYであるが、1分子あたり、少なくとも1つのRは、上記のようにYであり、「n」は、0~198の整数である。
【0014】
様々な実施形態では、本発明の有機ケイ素化合物は、25℃で液体である。
【0015】
上記のように有機ケイ素化合物を製造するための本発明の方法は、以下の工程を含む:
i)以下の平均組成式(IV)で表される有機ケイ素化合物:
SiO(4-a-b)/2 (IV)
(式中、R、「a」および「b」は、上記の通りであり、Zは、以下の一般式(V)で表される基であり、
【化5】
式中、R、Rおよび「m」は、上記の通りである)を、
以下の一般式(VI)で表される有機ホスフィン化合物と反応させ:
【化6】
(式中、Rは上記の通りであり、Xは、同一または異なるハロゲン原子である)、反応生成物を得て、次いで、
ii)反応生成物を、以下の一般式(VII)で表されるカルボン酸ハロゲン化物と反応させる
【化7】
(式中、XおよびArは上記の通りである)。
【0016】
本発明の光開始剤は、上記のような有機ケイ素化合物を含む。
【0017】
本発明の光硬化性組成物は、上記のような光開始剤を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有機ケイ素化合物は、1分子あたり少なくとも1つのアシルホスフィナート残基を有する新規化合物であり、有機ポリシロキサンとの優れた相溶性を示し、光硬化性シリコーン組成物の光開始剤として有用である。さらに、本発明の製造方法は、そのような新規な有機ポリシロキサンを効率的に製造することができる。さらに、本発明の光開始剤は、有機ポリシロキサンとの優れた相溶性を示し、様々なタイプの光硬化性組成物を効率的に硬化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書では、「含む(comprising)」または「含む(comprise)」という用語は、「含む(including)」、「含む(include)」、「本質的に~からなる(consist(ing)essentially of)」、および「~からなる(consist(ing)of)」の概念を意味し包含するために最も広い意味で使用される。例示的な例を列挙するための「例えば(for example)」、「例えば(e.g.)」、「など(such as)」、および「含む(including)」の使用は、列挙される例のみに限定されない。したがって、「例えば(for example)」または「など(such as)」は、「例えば、しかし限定されない(for example,but not limited to)」または「など、しかし限定されない(such as,but not limited to)」を意味し、他の類似または同等の例を包含する。本明細書で使用される「約」という用語は、機器分析によって、またはサンプル取り扱いの結果として測定される数値のわずかな変動を合理的に包含または説明するのに役立つ。このようなわずかな変動は、数値の±0~25、±0~10、±0~5、または±0~2.5%程度であってもよい。さらに、「約」という用語は、値の範囲を伴う場合に、両方の数値に適用される。さらに、「約」という用語は、明確に述べられていない場合であっても、数値に適用される場合がある。
【0020】
一般に、本明細書で使用される場合、値の範囲でのハイフン「-」またはダッシュ「-」は、「から(to)」または「から(through)」であり、「>」は、「上回る」または「より大きい」であり、「≧」は、「少なくとも」または「以上」であり、「<」は、「下回る」または「未満」であり、「≦」は、「最大で」または「以下」である。個別には、前述した特許の出願、特許、および/または特許出願公開の各々は、参照によりその全体が1つまたは複数の非限定的な実施形態に明示的に組み込まれる。
【0021】
添付の特許請求の範囲は、「発明を実施するための形態」に記載される表現および特定の化合物、組成物、または方法に限定されず、添付の特許請求の範囲の範疇に該当する特定の実施形態間で異なり得ることが理解されるべきである。様々な実施形態の特定の特徴または態様を説明するための本明細書に依拠する任意のマーカッシュグループに関して、他のすべてのマーカッシュメンバーから独立したそれぞれのマーカッシュグループの各メンバーから、異なる、特別な、および/または予期しない結果が得られる場合があることを認識されたい。マーカッシュグループの各メンバーは、個別に、およびまたは組み合わせて添付の特許請求の範囲の範疇の特定の実施形態に対して依拠することができ、十分な支持を提供する。
【0022】
さらに、本発明の様々な実施形態の説明に依拠する任意の範囲および部分範囲は、添付の特許請求の範囲の範疇に独立および集合的に該当し、そのような値が本明細書に明示的に書かれていない場合であっても、それらの全値および/または小数値を含むすべての範囲を説明および企図すると理解されたい。当業者は、列挙された範囲および部分範囲が、本発明の様々な実施形態を十分に説明および可能にすることを容易に認識し、このような範囲および部分範囲は、関連する半分、3分の1、4分の1、5分の1などにさらに詳細に説明することができる。単なる一例として、「0.1~0.9の」範囲は、下3分の1、すなわち0.1~0.3、中3分の1、すなわち0.4~0.6、および上3分の1、すなわち0.7~0.9にさらに詳しく説明され、これは、個別および集合的に添付の特許請求の範囲の範疇にあり、個別および/または集合的に添付の特許請求の範囲の範疇の特定の実施形態に対して依拠することができ、十分な支持を提供する。さらに、「少なくとも」、「より大きい」、「未満」、「以下」などの範囲を定義または修飾する文言に関して、そのような文言は、部分範囲および/または上限または下限を含むことを理解されたい。別の例として、「少なくとも10」という範囲には、少なくとも10~35の部分範囲、少なくとも10~25の部分範囲、25~35の部分範囲などが本質的に含まれ、各部分範囲は、個別および/または集合的に添付の特許請求の範囲の範疇の特定の実施形態に対して依拠することができ、十分な支持を提供する。最後に、開示された範囲内の個別の数字は、添付の特許請求の範囲の範疇の特定の実施形態に対して依拠することができ、十分な支持を提供する。例えば、「1~9の」範囲には、3などの様々な個別の整数、ならびに4.1などの小数点(または小数)を含む個別の数値が含まれ、これは、添付の特許請求の範囲の範疇の特定の実施形態に対して依拠することができ、十分な支持を提供する。
【0023】
<有機ケイ素化合物>
最初に、本発明の有機ケイ素化合物について詳細に説明する。
【0024】
本発明の有機ケイ素化合物は、以下の平均組成式(I)で表される。
SiO(4-a-b)/2 (I)
【0025】
式(I)において、Rは、炭素原子1~12個のアルキル基、炭素原子2~12個のアルケニル基、炭素原子6~20個のアリール基、炭素原子1~6個のアルコキシ基、またはヒドロキシル基である。
【0026】
のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、およびドデシル基が挙げられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのRは、メチル基である。
【0027】
のアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセン基、およびオクテニル基が挙げられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのRは、ビニル基であり、および/または少なくとも1つのRは、アリル基である。
【0028】
のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、およびナフチル基が挙げられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのRは、フェニル基である。
【0029】
のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、およびブトキシ基が挙げられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのRは、メトキシ基である。
【0030】
式(I)では、Yは、以下の一般式(II)で表されるアシルホスフィナート残基である。
【化8】
【0031】
式(II)では、Rは、炭素原子1~12個の非置換またはハロゲン置換アルキル基、炭素原子6~20個の非置換またはハロゲン置換アリール基、炭素原子7~20個のアラルキル基、または炭素原子1~6個のアルコキシ基である。
【0032】
の非置換またはハロゲン置換アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、3-クロロプロピル基、および3,3,3-トリフルオロプロピル基が挙げられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのRは、メチル基である。
【0033】
の非置換またはハロゲン置換アリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、およびトリクロロフェニル基が挙げられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのRは、フェニル基である。
【0034】
のアラルキル基の例としては、ベンジル基、フェネチル基、およびフェニルプロピル基が挙げられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのRは、フェネチル基である。
【0035】
のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、およびブトキシ基が挙げられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのRは、メトキシ基である。
【0036】
式(II)では、Rは炭素原子1~12個の直鎖状または分枝状アルキレン基である。Rのアルキレン基の例としては、メチレン基、1,1-エチレン基、1,2-エチレン基、1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、および1,4-ブチレン基が挙げられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのRは、1,3-プロピレン基である。
【0037】
式(II)では、Rは、炭素原子2~6個のアルキレン基である。Rのアルキレン基の例としては、1,2-エチレン基、1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、および1,4-ブチレン基、および1,2-エチレン基が挙げられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのRは、1,2-プロピレン基である。
【0038】
式(II)では、Arは、炭素原子6~20個の非置換、アルコキシ置換、またはハロゲン置換アリール基である。Arの非置換、アルコキシ置換、またはハロゲン置換アリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、およびトリクロロフェニル基が挙げられる。
【0039】
式(II)では、「m」は、0~100の整数、任意選択的に0~50の整数、任意選択的に0~10の整数、または任意選択的に0~5の整数である。これは、「m」が上記範囲の下限以上の場合、有機ケイ素化合物の分子量を増加させ、有機ケイ素化合物の揮発性を低下させることができるためである。一方、「m」が上記範囲の上限以下の場合、光開始剤として有機ケイ素化合物を含む光硬化性シリコーン組成物の硬化性を高めることができる。
【0040】
式(II)では、「a」および「b」は、以下の条件0<a≦2、0<b≦3、およびa≦bを満たす数であり、任意選択的に「a」および「b」は、以下の条件a+b≦3を満たす数であり、または任意選択的に「a」および「b」は、以下の条件1.5≦a+b≦2.3を満たす数である。これは、「a」が上記範囲の下限以上である場合、光開始剤として有機ケイ素化合物を含む光硬化性シリコーン組成物の硬化性を高めることができるためである。一方、「a」が上記範囲の上限以下の場合、有機ケイ素化合物と有機ポリシロキサンとの相溶性を高めることができる。一方、「b」が上記範囲の下限以上である場合、有機ケイ素化合物と有機ポリシロキサンとの相溶性を高めることができる。一方、「b」が上記範囲の上限以下の場合、光開始剤として有機ケイ素化合物を含む光硬化性シリコーン組成物の硬化性を高めることができる。
【0041】
有機ケイ素化合物は、1分子あたりのケイ素原子が200個以下である。様々な実施形態では、1分子あたりのケイ素原子の数は、1~100の範囲、任意選択的に5~50の範囲、任意選択的に5~30の範囲、または任意選択的に5~20の範囲である。ケイ素原子の数が上記範囲の下限以上である場合、有機ケイ素化合物と有機ポリシロキサンとの相溶性を高めることができると考えられる。一方、上記範囲の上限以下の場合、光開始剤として有機ケイ素化合物を含む光硬化性シリコーン組成物の硬化性を高めることができる。
【0042】
様々な実施形態では、そのような有機ケイ素化合物は、以下の一般式(III)で表されるオルガノシロキサンである。
SiO(R SiO)SiR (III)
【0043】
式(III)では、Rは、上記のように同一または異なるRおよび/またはYである。しかし、1分子あたり、少なくとも1つのRは、上記のようにYである。
【0044】
式(III)では、「n」は、0~198の整数、任意選択的に0~98の整数、任意選択的に0~48の整数、任意選択的に0~28の整数、または任意選択的に0~18の整数である。これは、「n」が上記範囲の下限以上の場合、有機ケイ素化合物の分子量を増加させ、有機ケイ素化合物の揮発性を低下させることができるためである。一方、「n」が上記範囲の上限以下の場合、光開始剤として有機ケイ素化合物を含む光硬化性シリコーン組成物の硬化性を高めることができる。
【0045】
25℃での有機ケイ素化合物の状態は限定されないが、様々な実施形態では液体である。
【0046】
<有機ケイ素化合物の製造方法>
次に、本発明の有機ケイ素化合物を製造する方法について詳細に説明する。
【0047】
工程i)では、以下の組成式(IV)で表される有機ケイ素化合物:
SiO(4-a-b)/2 (IV)
を、以下の一般式(VI)で表される有機ホスフィンと反応させる。
【化9】
【0048】
式(IV)では、R、「a」および「b」は、上記の通りである。
【0049】
式(IV)では、Zは、以下の一般式(V)で表される基である。
【化10】
【0050】
式(V)では、R、Rおよび「m」は、上記の通りである。
【0051】
式(VI)では、Rは、上記の通りである。
【0052】
式(VI)では、Xは、同一または異なるハロゲン原子である。Xのハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子、ならびに塩素原子が挙げられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのXは、臭素原子である。
【0053】
工程i)では、上記の有機ケイ素化合物(IV)中の等量のヒドロキシル基を、有機ホスフィン化合物(VI)中のハロゲン原子と反応させる。様々な実施形態では、反応は、有機ケイ素化合物(IV)中の0.5モル~2モル、または任意選択的に0.75モル~1.5モルのヒドロキシル基が有機ホスフィン化合物(VI)中の1モルのハロゲン化物基と反応する量で行われる。
【0054】
工程i)では、反応は、水素ハロゲン化物アクセプターの存在下で実施される。水素ハロゲン化物アクセプターの例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリ-i-ブチルアミン、トリ-n-ヘキシルアミン、トリ-n-オクチルアミン、トリフェニルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミン、1-メチルピペリジン、およびピリジンなどの第三級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、およびピペラジンなどの第二級アミン、ブチルアミンおよびアニリンなどの第一級アミン、ならびに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、およびアンモニアなどの無機塩が挙げられる。様々な実施形態では、反応は、少なくとも1つの第三級アミンの存在下で行われる。
【0055】
工程i)では、有機溶媒を上記の調製方法で使用することができる。利用される有機溶媒は、エーテル、芳香族または脂肪族炭化水素、およびそのような溶媒の2つ以上のタイプの混合物によって例示される。様々な実施形態では、有機溶媒が利用され、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、およびキシレンの群から選択される。
【0056】
工程i)では、反応温度は限定されないが、様々な実施形態では、ほぼ室温~約150℃の範囲である。工程i)では、水素ハロゲン化物アクセプターの存在によって反応が促進される。有機溶媒を使用する場合、反応は一般に室温以下であるが、有機溶媒の凝固点以上で行われる。
【0057】
次に、工程ii)で、アルブゾフ-ミカエリス反応に続いて、工程i)で得られた反応生成物を、以下の一般式(VII)で表されるカルボン酸ハロゲン化物と反応させる。
【化11】
【0058】
式(VII)では、XおよびArは、上記の通りである。
【0059】
工程ii)では、上記の工程i)で得られた等量の反応生成物を、カルボン酸ハロゲン化物(VII)中のハロゲン原子と反応させる。様々な実施形態では、反応は、0.5モル~2モル、または任意選択的に0.75モル~1.5モルの工程i)で得られた反応生成物が1モルのカルボン酸ハロゲン化物(VII)と反応する量で行われる。
【0060】
工程ii)では、有機溶媒を上記の調製方法で使用することができる。利用される有機溶媒は、エーテル、芳香族または脂肪族炭化水素、およびそのような溶媒の2つ以上のタイプの混合物によって例示される。様々な実施形態では、有機溶媒が利用され、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、およびキシレンの群から選択される。
【0061】
工程ii)では、反応温度は限定されないが、様々な実施形態では、ほぼ室温~約150℃の範囲である。工程ii)では、加熱により反応が促進される。有機溶媒を使用する場合、反応は一般に有機溶媒の還流温度で行われる。
【0062】
本発明の有機ケイ素化合物は、光開始剤として有用である。したがって、本発明の光開始剤は、上記の有機ケイ素化合物を含む。
【0063】
<光硬化性組成物>
様々な実施形態では、本開示による光硬化性組成物は、光開始剤として上記の有機ケイ素化合物を使用することによって得られる。光硬化性組成物は、特に限定されないが、アクリル型光硬化性有機ポリマー組成物、チオール-エン型光硬化性シリコーン組成物、アクリル型光硬化性シリコーン組成物等に例示される。そのような光硬化性シリコーン組成物は、光開始剤としての有機ケイ素化合物の良好から優れた相溶性、および/または良好から優れた貯蔵安定性のために、良好から優れた硬化性を有すると考えられる。
【0064】
様々な実施形態では、光開始剤の含有量は限定されないが、様々な実施形態では、光硬化性シリコーン組成物に基づいて、約0.01~約5質量%の範囲、任意選択的に約0.05~約5質量%の範囲、または任意選択的に約0.05~約2質量%の範囲である。光開始剤の含有量が上記範囲の下限以上である場合、得られる光硬化性シリコーン組成物の硬化性が向上し、含有量が上記範囲の上限以下である場合、得られる光硬化性シリコーン組成物の貯蔵安定性が改善される。
【0065】
光硬化性シリコーン組成物は、上記の有機ケイ素化合物以外の光開始剤をさらに含む。このような任意の光開始剤の例としては、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(商品名:Omnirad TPO、IGM Resins B.V.製)、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスホナート(商品名:Omnirad TPO-L、IGM Resins B.V.製)、およびフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(商品名:Omnirad 819、IGM Resins B.V.製)が挙げられる。
【0066】
実施例
有機ケイ素化合物、その製造方法、および本発明の使用について、実施例を用いて詳細に説明する。なお、25℃での粘度は、芝浦システム株式会社製回転粘度計VG-DAを用いて測定したものである。また、式中、「Me」はメチル基を表し、「Ph」はフェニル基を表す。
【0067】
<実施例1>
グローブボックス内のN雰囲気下の反応容器に、1.56gのジクロロフェニルホスフィンおよび150mlのヘキサンを入れ、次いで、以下の式:
【化12】
で表される8.25gの3-ヒドロキシプロピル基含有ジメチルポリシロキサンおよび2.38gのトリエチルアミンおよび20mlのヘキサンを撹拌しながら添加した。白色の沈殿物が生成された。反応混合物を室温で30分間撹拌した。H-NMR分析の結果、3-ヒドロキシプロピル基含有ジメチルポリシロキサンが完全に反応していることが見出された。白色の沈殿物を濾別した後、ヘキサンを減圧蒸留し、無色の液体を得た。
【0068】
無色の液体を、70mlの無水トルエンを入れた250mlのシュレンクフラスコに入れた。混合物を撹拌しながら1.55gの2,4,6-トリメチルベンゾイルクロリドを添加し、80℃でN流下で12時間反応させた。31P-NMR分析により反応の完了を確認した後、反応混合物を飽和炭化水素ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、次いで濾過した。低沸点成分を減圧下で除去して、3.26gの淡黄色の液体を得た。H-NMR分析の結果、液体には、
以下の式で表される有機ケイ素化合物:
【化13】
以下の式で表される有機ケイ素化合物:
【化14】
以下の式で表される約25モル%のジメチルポリシロキサン:
【化15】
が含まれることが見出された。
【0069】
<参考例1および2>
表1に示すシリコーン組成物は、以下に記載される成分を使用して調製した。
【0070】
以下の成分を、成分(A)として使用した。
両方の分子末端にジメチルビニルシロキシ基でエンドキャップされ、粘度が10,000mPa・sのジメチルポリシロキサン。
【0071】
下記の成分を、成分(B)として使用した。
成分(b-1):実施例1で調製した有機ケイ素化合物
成分(b-2):以下の式で表されるホスフィン化合物:
【化16】
【0072】
<シリコーン組成物の透過率>
光通過長1cmのアクリルセル中のシリコーン組成物の透過率を、透過率測定法(島津製作所製UV-1650 PC)で測定した。
【0073】
【表1】
【0074】
<実施例2~5および比較例1>
表2に示す光硬化性組成物は、以下に記載される成分を使用して調製した。
【0075】
以下の成分を、成分(A)として使用した。
成分(a-1):以下の式で表されるアクリル化合物:
CH=CHC(O)O-(CO)-CHCH(C)C
成分(a-2):以下の式で表されるアクリル化合物:
CH=CHC(O)O-(CO)-C
成分(a-3):トリメチロールプロパントリアクリラート
成分(a-4):両方の分子末端にジメチルビニルシロキシ基でエンドキャップされ、粘度が2,000mPa sのジメチルポリシロキサン。
成分(a-5):両方の分子末端にトリメチルシロキシ基でエンドキャップされ、粘度が100mPa sのジメチルシロキサンメチル(3-メルカプトプロピル)シロキサンコポリマー。
【0076】
下記の成分を、成分(B)として使用した。
成分(b-1):実施例1で調製した有機ケイ素化合物
成分(b-2):以下の式で表されるホスフィン化合物:
【化17】
【0077】
<光硬化性組成物の硬化>
深さ15mm、内径30mmのガラス容器に、光硬化性組成物を充填した。次いで、LEDランプを用いて405nm、50mW/cmの紫外線を20秒間照射して、硬化物を形成した。
【0078】
<硬化物の硬さ>
得られた硬化物のショアA硬度は、ASTM D2240に準拠して測定されたタイプA硬度計を使用して測定された。得られた硬化物の針貫通度は、JIS K 2220に準拠した1/4コーンを備えた針貫通試験機を用いて測定した。
【0079】
<光硬化性組成物および硬化物の外観>
光硬化性組成物および硬化物を目視検査により観察した。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
産業上の利用可能性
本発明の有機ケイ素化合物は、有機ポリシロキサンとの優れた相溶性を示すため、様々なタイプの光硬化性組成物の光開始剤として使用することができる。このようにして得られた光硬化性組成物は、様々なタイプの基材の接着剤、ポッティング剤、保護コーティング剤、またはアンダーフィル剤として使用することができる。