(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】発光装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/50 20100101AFI20231122BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
H01L33/50
C09K11/64
(21)【出願番号】P 2022095032
(22)【出願日】2022-06-13
(62)【分割の表示】P 2019197966の分割
【原出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019118199
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂之
(72)【発明者】
【氏名】小島 淳資
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 浩之
(72)【発明者】
【氏名】細川 昌治
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-006471(JP,A)
【文献】特開2019-029386(JP,A)
【文献】特開2007-312374(JP,A)
【文献】特開2008-024791(JP,A)
【文献】特開2018-078285(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002584(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0292717(US,A1)
【文献】特開2004-253592(JP,A)
【文献】特表2018-511930(JP,A)
【文献】特開2016-092401(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
F21S 2/00-45/70
F21K 9/00-9/90
F21V 8/00
C09K 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、
前記発光素子からの光により励起され、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、下記式(I)で表される組成を有する蛍光体を含む蛍光部材と、を備えた発光装置であり、
JIS Z8701に規定された色度図から算出される刺激純度が99%以上の光を発し、
610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有する光を発し、
前記発光素子の発光ピーク波長における発光強度が、前記発光装置の最大発光強度に対して
0.02%以上0.2%未満で
あり、
前記蛍光部材が、前記発光素子の直上に前記蛍光体を含む堆積層を含み、前記発光素子の直上における前記蛍光部材の厚みに対する前記堆積層の厚みの比率が70%以上である、発光装置。
Ca
sSr
tEu
uSi
vAl
wN
x (I)
(式(I)中、s、t、u、v、wおよびxは、0.05≦s≦0.995、0≦t≦0.95、0.005≦u≦0.04、0.8≦s+t+u≦1.1、0.8≦v≦1.2、0.8≦w≦1.2、1.8≦v+w≦2.2、2.5≦x≦3.2を満たす数である。)
【請求項2】
前記蛍光体は、前記蛍光体から発せられる光のうち、前記蛍光体の発光ピーク波長よりも短波長領域の光を自己吸収する、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記式(I)において、s、tおよびuは、0.1≦s≦0.2、0.8≦t≦0.95、0.01≦u≦0.03を満たす数である、請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記蛍光体の反射率が、波長450nmにおいて、20%以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記発光装置の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、前記発光装置の発光ピーク波長よりも短波長側の発光強度10%の波長λe
Sとし、前記蛍光体の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、前記蛍光体の発光ピーク波長よりも短波長側の発光強度10%の波長λf
Sとし、前記波長λe
Sと前記波長λf
Sの波長差λe
S-λf
Sが8.5nm以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記発光装置の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、前記発光装置の発光ピーク波長よりも長波長側の発光強度10%の波長λe
Lとし、前記蛍光体の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、前記蛍光体の発光ピーク波長よりも長波長側の発光強度10%の波長λf
Lとし、前記波長λe
Lと前記波長λf
Lの波長差λe
L-λf
Lが1.2nm以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
顔料を含む部材を有することを除く、請求項1から6のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
請求項1か
ら7のいずれか1項に記載の発光装置を備える、車載用のストップランプ。
【請求項9】
請求項1か
ら7のいずれか1項に記載の発光装置を備える、照明用光源。
【請求項10】
365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子を支持体に配置することと、
前記発光素子からの光により励起されて、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、下記式(I)で表される組成を有する蛍光体と、樹脂とを混合し、蛍光部材用組成物を得て、前記蛍光部材用組成物を前記発光素子の上に配置して、
前記蛍光体を含む堆積層と、蛍光体の存在が確認できない樹脂層とを含む蛍光部材を形成すること、を含み、
発光装置の発光スペクトルにおける発光ピーク波長をλe
Pとし、前記蛍光体の発光スペクトルにおける発光ピーク波長をλf
Pとしたとき、前記λe
Pと前記λf
Pの波長差λe
P-λf
Pを8nm以上とし、610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有する光を発し、
前記発光素子の前記発光ピーク波長における発光強度が、発光装置の最大発光強度に対して
0.02%以上0.2%未満で
あり、
前記蛍光部材が、前記発光素子の直上における前記堆積層と前記樹脂層の厚みの和である前記蛍光部材の厚みに対する前記堆積層の厚みの比率が70%以上である、発光装置の製造方法。
Ca
sSr
tEu
uSi
vAl
wN
x (I)
(式(I)中、s、t、u、v、wおよびxは、0.05≦s≦0.995、0≦t≦0.95、0.005≦u≦0.04、0.8≦s+t+u≦1.1、0.8≦v≦1.2、0.8≦w≦1.2、1.8≦v+w≦2.2、2.5≦x≦3.2を満たす数である。)
【請求項11】
前記式(I)において、s、tおよびuは、0.1≦s≦0.2、0.8≦t≦0.95、0.01≦u≦0.03を満たす数である、請求
項10に記載の発光装置の製造方法。
【請求項12】
前記発光装置が、JIS Z8701に規定された色度図から算出される刺激純度が99%以上の光を発する、請求項
10または11に記載の発光装置の製造方法。
【請求項13】
顔料を含む部材を有することを除く、請求項
10から12のいずれか1項に記載の発光装置の製造方法。
【請求項14】
前記蛍光体の比重が3.3g/cm
3以上である、請求項
10から13のいずれか1項に記載の発光装置の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂100質量部に対して前記蛍光体の含有量が115質量部以上150質量部以下の範囲内になるように、混合して、前記蛍光部材用組成物を得る、請求項10から14のいずれか1項に記載の発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー性に優れた発光素子として、発光ダイオード(Light Emitting Diode、以下「LED」ともいう。)が広く利用されている。例えば、赤色の単色光を発光するLEDは車載分野においてストップランプ等に用いられている。一方で、単色光を発光するLEDに代えて、例えば特許文献1には、紫外線から青色光を発する発光素子と、この発光素子からの光を吸収して波長変換を行う蛍光体とを備え、赤色に発光する発光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発光素子と蛍光体とを組み合わせた赤色発光の発光装置においては、光束と、刺激純度の更なる向上が求められている。
【0005】
そこで、高光束かつ刺激純度の高い赤色発光が可能な発光装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を包含する。
本発明の第一態様は、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、前記発光素子からの光により励起され、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、下記式(I)で表される組成を有する蛍光体を含む蛍光部材と、を備え、前記蛍光部材は、前記蛍光体と樹脂と、を含み、前記樹脂100質量部に対する前記蛍光体の含有量が115質量部以上150質量部以下の範囲内であり、610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有する光を発する発光装置である。
CasSrtEuuSivAlwNx (I)
(式(I)中、s、t、u、v、wおよびxは、0.05≦s≦0.995、0≦t≦0.95、0.005≦u≦0.04、0.8≦s+t+u≦1.1、0.8≦v≦1.2、0.8≦w≦1.2、1.8≦v+w≦2.2、2.5≦x≦3.2を満たす数である。)
【0007】
本発明の第二態様は、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、前記発光素子からの光により励起され、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、前記式(I)で表される組成を有する蛍光体を含む蛍光部材と、を備えた発光装置であり、前記発光装置の発光スペクトルにおける発光ピーク波長をλePとし、前記蛍光体の発光スペクトルにおける発光ピーク波長をλfPとしたとき、前記λePと前記λfPの波長差λeP-λfPが8nm以上であり、610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有する光を発する発光装置である。
【0008】
本発明の第三態様は、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子を支持体に配置することと、前記発光素子からの光により励起されて、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、下記式(I)で表される組成を有する蛍光体と、樹脂と、を含み、前記樹脂100質量部に対する前記蛍光体の含有量が115質量部以上150質量部以下の範囲内となるように混合し蛍光部材用組成物を得て、その蛍光部材用組成物を前記発光素子の上に配置して蛍光部材を形成することと、を含む610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有する光を発する発光装置の製造方法である。
CasSrtEuuSivAlwNx (I)
(式(I)中、s、t、u、v、wおよびxは、0.05≦s≦0.995、0≦t≦0.95、0.005≦u≦0.04、0.8≦s+t+u≦1.1、0.8≦v≦1.2、0.8≦w≦1.2、1.8≦v+w≦2.2、2.5≦x≦3.2を満たす。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、高光束かつ刺激純度の高い赤色発光が可能な発光装置およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一態様に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、発光装置に用いる蛍光体1から3の反射スペクトルを示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1、比較例1および2の各発光装置の発光スペクトルと、蛍光体2および単粒子の蛍光体2の発光スペクトルを示す図である。
【
図4】
図4は、実施例2および比較例2の各発光装置の発光スペクトルと、蛍光体3および単粒子の蛍光体3の発光スペクトルを示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1に係る発光装置の断面の一部を示すSEM写真である。
【
図6】
図6は、比較例1に係る発光装置の断面の一部を示すSEM写真である。
【
図7】
図7は、比較例2に係る発光装置の断面の一部を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る発光装置およびその製造方法を、実施の形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための発光装置およびその製造方法を例示するものであって、本発明を以下のものに限定しない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。また組成物中に各成分が含有される割合は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0012】
発光装置
第一実施形態又は第二実施形態に係る発光装置は、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、その発光素子からの光により励起され、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、下記式(I)で表される組成を有する蛍光体を含む蛍光部材を備える。
CasSrtEuuSivAlwNx (I)
前記式(I)中、s、t、u、v、wおよびxは、0.05≦s≦0.995、0≦t≦0.95、0.005≦u≦0.04、0.8≦s+t+u≦1.1、0.8≦v≦1.2、0.8≦w≦1.2、1.8≦v+w≦2.2、2.5≦x≦3.2を満たす数である。
【0013】
蛍光部材は、前記蛍光体と樹脂とを含む。蛍光部材中の樹脂100質量部に対する前記蛍光体の含有量が、115質量部以上150質量部以下の範囲内である。さらに、発光装置は、610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有する光を発する。主波長は、JIS Z8701に準拠し、CIE(国際照明委員会:Commission intaernational de l’eclairage)1931色度図における白色光の色度座標(x=0.3333、y=0.3333)と、発光装置の発光色の色度座標(x、y)(以下、「色度点」ともいう。)を直線で結び、その延長線とスペクトル軌跡が交わる点(単光色刺激)の波長をいう。
【0014】
前記式(I)で表される組成を有する蛍光体は、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子からの光により励起され、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。発光装置は、前記式(I)で表される組成を有する蛍光体を、樹脂100質量部に対して115質量部以上150質量部以下の範囲内で含む蛍光部材を備えることによって、発光装置の発光色が610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有し、高光束の赤色光を発することができる。また、発光装置は、刺激純度の高い赤色光を発することができる。刺激純度Peは、白色光の色度点W(白色刺激)と、発光装置の発する光の色度点Fとを結んだ直線をスペクトル軌跡上の単色光刺激Sまで伸長し、直線上の色度点W(白色刺激)と色度点Fとの距離WFと、色度点W(白色刺激)と色度点S(単色光刺激)との距離WSとの比WF/WS(=Pe)である。刺激純度Peは、発光装置から発せられる光の色度が、単色光刺激にどれだけ近いかを表す。刺激純度が高いほど、単色光刺激に近い色度の光が発光装置から発せられる。
【0015】
発光装置は、JIS Z8701に規定された色度図から算出される刺激純度Peが99.0%以上の光を発することが好ましく、刺激純度Peが99.3%以上の光を発することがより好ましい。これにより、単色光刺激に近い刺激純度の高い赤色光が発光装置から発せられる。
【0016】
蛍光部材中の蛍光体の含有量は、樹脂100質量部に対して、115質量部以上150質量部以下の範囲内であり、好ましくは120質量部以上145質量部以下の範囲内であり、さらに好ましくは120質量部以上140質量部以下の範囲内である。蛍光部材中の蛍光体の含有量が、樹脂100質量部に対して、115質量部以上150質量部以下の範囲内であると、蛍光体から発せられる光のうち、蛍光体の発光ピーク波長よりも短波長領域の光が再び蛍光体に吸収される、自己吸収が生じやすくなる。この自己吸収が生じると、発光装置から発せられる光の発光スペクトルにおいて、発光装置の発光スペクトルの短波長側の一部の発光強度が、蛍光体が自己吸収を生じていない場合の発光装置の発光スペクトルの発光強度よりも低くなり、発光装置から365nm以上500nm以下の波長範囲内の光が抜け出ることを抑えて、高光束かつ刺激純度が高い赤色光を発することができる。蛍光部材中の蛍光体の含有量が、樹脂100質量部に対して、115質量部未満であると、蛍光体の含有量が少なすぎて、刺激純度が低くなる場合がある。蛍光部材中の蛍光体の含有量が、樹脂100質量部に対して、150質量部を超えると、光束が低くなる場合がある。前記式(I)で表される蛍光体を、樹脂100質量部に対して115質量部以上150質量部以下の範囲内で含有する蛍光部材を備えた発光装置は、高光束かつ刺激純度の高い赤色光を発することができる。
【0017】
発光装置の発光スペクトルにおける発光ピーク波長λePは、蛍光部材中に含まれる蛍光体の発光スペクトルにおける発光ピーク波長λfPよりも長波長側に位置し、発光装置の発光ピーク波長λePと蛍光体の発光ピーク波長λfPとの波長差λeP-λfP(=ΔλP)が8nm以上であることが好ましい。前記波長差ΔλPが8nm以上であると、発光装置から刺激純度が高い赤色光を発することができる。発光装置は、前記波長差Δλpが8nm以上であり、610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有する光を発することができる。刺激純度が高い場合であっても、前記波長差ΔλPが15nm以下であれば、視感度の低い長波長側の発光スペクトルの発光強度を低くすることができ、発光装置から高光束の光を発することができる。前記波長差ΔλPは、より好ましくは8.2nm以上15nm以下の範囲内であり、さらに好ましくは8.5nm以上12nm以下の範囲内である。前記波長差ΔλPは、9nm以上11nm以下の範囲内であってもよい。
【0018】
発光装置において、発光素子の発光ピーク波長における発光強度が、発光装置の発光スペクトルにおける最大発光強度に対して0.2%未満であることが好ましい。以下、発光装置において、発光スペクトルの最大発光強度に対する発光素子の発光ピーク波長における発光強度を、発光素子の発光強度比Irともいう。発光装置の最大発光強度に対する、発光素子の発光ピーク波長における発光強度の発光強度比Irが0.2%未満であると、発光素子から発せられる365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光が発光装置から抜け出ることを抑えて、発光装置から高光束かつ刺激純度の高い光が発せられる。発光装置において、最大発光強度に対する発光素子の発光強度比Irは、より好ましくは0.19%以下であり、さらに好ましくは0.18%以下である。発光装置において、最大発光強度に対する発光素子の発光強度比Irは、0.02%以上であってもよく、0.05%以上であってもよく、0.06%以上であってもよい。
【0019】
発光装置の一例を図面に基づいて説明する。
図1は、発光装置100の概略断面図である。発光装置100は、可視光の短波長側(例えば、360nm以上500nm以下の範囲)の光を発し、発光ピーク波長が365nm以上500nm以下の範囲内にある発光素子10と、発光素子10を配置する支持体として成形体40とを有する。
【0020】
発光装置の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、発光装置の発光ピーク波長よりも短波長側の発光強度10%の波長λeSとし、蛍光体の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、蛍光体の発光ピーク波長よりも短波長側の発光強度10%の波長λfSとした場合、波長λeSと波長λfSの波長差λeS-λfS(=ΔλS)は、好ましくは8.5nm以上であり、より好ましくは9nm以上であり、さらに好ましくは10nm以上であり、よりさらに好ましくは11nm以上である。蛍光体の発光ピーク波長がより短波長側に位置する蛍光体を用いて、比較的より多くの蛍光体を蛍光部材に含有させることで、波長差ΔλSを8.5nm以上とすると、発光装置の発光スペクトルにおける発光ピークを、より刺激純度の高い赤色光を発する発光スペクトルの発光ピークに近づけることができ、刺激純度の高い赤色光を発光装置から発することができる。刺激純度の高い赤色光を発光装置から発するために、波長差ΔλSは15nm以下であることが好ましい。
【0021】
発光装置の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、発光装置の発光ピーク波長よりも長波長側の発光強度10%の波長λeLとし、蛍光体の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、蛍光体の発光ピーク波長よりも長波長側の発光強度10%の波長λfLとした場合、波長λeLと波長λfLの波長差λeL-λfL(=ΔλL)は、好ましくは1.2nm以下であり、より好ましくは1.0nm以下であり、さらに好ましくは0.9nm以下である。蛍光体の発光ピーク波長がより短波長側に位置する蛍光体を用いて、波長差ΔλLを1.2nm以下とすると、発光スペクトルにおいて視感度の低い長波長側の発光スペクトルを低減することで高い光束を得ることができる。さらに、発光装置の発光スペクトルにおける発光ピークを、刺激純度の高い赤色光を発する発光スペクトルの発光ピークに近づけることができ、刺激純度の高い赤色光を発光装置から発することができる。光束および刺激純度が高い赤色光を発光装置から発するために、波長λeLと波長λfLの差波長差が無くてもよい。すなわち、波長差ΔλLは、0nmであってもよい。
【0022】
成形体40は、第一リード20および第二リード30と、樹脂部42とが一体的に成形された支持体である。成形体40は底面と側面を持つ凹部を形成しており、凹部の底面に発光素子10が配置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極はそれぞれ第一リード20および第二リード30とワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は、蛍光部材50により被覆されている。蛍光部材50は、例えば、発光素子10からの光を波長変換する蛍光体70と樹脂とを含有してなる。
【0023】
蛍光体70は蛍光部材50中において発光素子10側に偏在している。蛍光部材50は、発光素子10に近接する蛍光体70を含む第一層50a(以下、「堆積層」ともいう。)と、第一層50a上に形成され、蛍光体70を実質的に含まない第二層50b(以下、「樹脂層」ともいう。)と、を含んで構成されている。このように発光素子10に接近して蛍光体70が配置されることにより、発光素子10からの光を効率よく波長変換することができる。なお、蛍光部材50における蛍光体70と発光素子10との配置は、蛍光体70と発光素子10とを接近して配置させる形態に限定されることなく、蛍光体70への発光素子10からの熱の影響を考慮して、蛍光部材50中で発光素子10と蛍光体70との間隔を空けて配置することもできる。また、蛍光体70を蛍光部材50の全体にほぼ均一の割合で混合することによって、色ムラがより抑制された光を得るようにすることもできる。なお、発光素子の直上における堆積層および樹脂層の厚みは、発光装置の断面観察において、蛍光体の存在が確認できる部分の厚みを堆積層の厚みとし、蛍光体の存在が確認できない部分の厚みを樹脂層の厚みとし、堆積層と樹脂層の厚みの和を蛍光部材の厚みとする。
【0024】
発光装置100は、蛍光部材50中に、前記式(I)で表される組成を有する蛍光体を含むため、発光素子10の直上における蛍光体70を含む堆積層の厚みを厚く形成できる。蛍光体70を含む堆積層の厚みを厚くすることができるため、発光装置100の光束をより大きくすることができる。発光素子10の直上の蛍光部材50の厚みは好ましくは250μm以下、より好ましくは240μm以下、さらに好ましくは230μm以下であり、100μm以上であってもよく、150μm以上であってもよい。発光素子10の直上の堆積層(第一層50a)の厚みは、蛍光部材50の厚みが250μm以下である場合に、好ましくは200μm以下、より好ましくは190μm以下であり、30μm以上であってもよい。発光素子10の直上における蛍光部材50の厚みに対する堆積層の厚みの比率Tr(堆積層(第一層50a)の厚み/蛍光部材50の厚み)は、例えば95%以下であり、好ましくは90%以下であり、30%以上であってもよく、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、よりさらに好ましくは80%以上である。
【0025】
発光素子10の直上における蛍光部材50の厚みに対する樹脂層(第二層50b)の厚みの比率(樹脂層(第二層50b)の厚み/蛍光部材50の厚み)は、70%以下であってもよく、5%以上であってもよい。すなわち、蛍光部材50における樹脂層の厚みは、蛍光体70を含む堆積層に比べて厚みが薄くなるように構成されていてもよい。
【0026】
発光素子
発光素子10の発光ピーク波長は、365nm以上500nm以下の範囲内にあり、400nm以上460nm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0027】
発光素子10は、例えば、窒化物系半導体(組成がInXAlYGa1-X-YNであり、XおよびYは、0≦X、0≦Y、X+Y≦1を満たす。)を用いた半導体発光素子を用いることが好ましい。励起光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。発光素子10は、蛍光体を効率よく励起するため、発光スペクトルの半値幅が30nm以下であることが好ましい。半値幅は、発光スペクトルにおける発光ピークの半値全幅(Full Width at Half Maximum:FWHM)をいう。半値幅は、発光スペクトルにおける発光ピーク強度の最大値の50%の強度を示す発光スペクトルの波長幅をいう。
【0028】
蛍光部材
蛍光部材50は、蛍光体70と樹脂とを含む。蛍光部材50は、蛍光体70および樹脂以外に、光拡散材を含んでいてもよい。蛍光体70は、CaおよびSrを含むアルカリ土類金属元素と、Siと、Alと、Euとを組成に含む窒化物蛍光体を含むことが好ましい。蛍光体70は、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子からの光により励起され、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光を発し、下記式(I)で表される組成を有する蛍光体を含み、前記蛍光体が窒化物蛍光体であることが好ましい。蛍光部材50は、下記式(I)で表される組成を有する蛍光体以外の蛍光体を含んでいてもよい。
【0029】
蛍光体70は、少なくとも下記式(I)で表される組成を有する蛍光体を含むことが好ましい。
CasSrtEuuSivAlwNx (I)
式(I)中、s、t、u、v、wおよびxは、0.005≦s≦0.995、0≦t≦0.95、0.005≦u≦0.04、0.8≦s+t+u≦1.1、0.8≦v≦1.2、0.8≦w≦1.2、1.8≦v+w≦2.2、2.5≦x≦3.2を満たす数である。
【0030】
前記式(I)で表される組成において、組成1モルにおけるAlのモル比を表す変数wを1(w=1)とした場合、前記式(I)における変数s、変数t、変数u、変数vは、以下の数値範囲で表すことができる。
【0031】
前記式(I)で表される組成において、Caのモル比を表す変数sは、好ましくは0.1以上0.3以下(0.1≦s≦0.3)の範囲内であり、より好ましくは0.15以上0.25以下(0.15≦s≦0.25)の範囲内である。前記式(I)で表される組成において、Srのモル比を表す変数tは、好ましくは0.7以上0.95以下(0.7≦t≦0.95)の範囲内であり、より好ましくは0.75以上0.9以下(0.75≦t≦0.9)の範囲内である。前記式(I)で表される蛍光体において、組成1モルにおけるSrのモル比がCaのモル比よりも多いことが好ましい。前記式(I)で表される組成において、Srのモル比がCaのモル比よりも多い組成を有する蛍光体は、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子からの光をより良く吸収して、例えば610nm以上700nm以下の範囲内において、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光を発することができ、発光装置の蛍光部材中で樹脂に対する蛍光体の含有量が多い場合でも、蛍光体が発した蛍光を蛍光体自体が再度吸収する自己吸収が生じて、610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有する光が発光装置から発せられる。前記式(I)で表される組成において、蛍光体の賦活剤であるEuのモル比を表す変数uは、好ましくは0.01以上0.03以下(0.01≦u≦0.03)の範囲内であり、より好ましくは0.01以上0.025以下(0.01≦u≦0.025)の範囲内である。前記式(I)で表される組成において、蛍光体の賦活剤であるEuのモル比を表す変数uが0.01以上0.03以下の範囲内であると、蛍光体は、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子からの光をより良く吸収して、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光が蛍光体から発せられる。前記式(I)で表される組成において、変数s、変数tおよび変数uの合計のモル比(s+t+u)は、好ましくは0.85以上1.0以下(0.85≦s+t+u≦1.0)の範囲内であり、より好ましくは0.87以上0.95以下(0.87≦s+t+u≦0.95)の範囲内である。前記式(I)で表される組成において、Siのモル比を表す変数vは、好ましくは1.0以上1.1以下(1.0≦v≦1.1)の範囲内であり、より好ましくは1.01以上1.07以下(1.01≦v≦1.07)の範囲内である。
【0032】
前記式(I)で表される組成を有する蛍光体は、発光特性、特に発光強度と発光色相に影響を与えない程度の量で、例えば前記式(I)で表される組成に含まれる元素以外の元素としてBa、Mg、Ge、B、Ce、MnおよびTbからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよい。
【0033】
前記式(I)で表される組成を有する蛍光体は、フッ素元素を含んでいてもよい。フッ素元素は、例えば蛍光体の製造方法によって、組成に含まれる場合がある。蛍光体がフッ素元素を含む場合、例えば前記式(I)で表される組成を有する蛍光体の場合は、組成1モルに含まれるAlを100モル%とした場合に、フッ素元素が6モル%以下であってもよく、1×10-3モル%以上6モル%以下の範囲内であってもよく、3×10-3モル%以上4モル%以下の範囲内であってもよく、5×10-3モル%以上1.5モル%以下の範囲内であってもよい。蛍光体中にフッ素元素を前記範囲内で含むと、蛍光体の発光効率が向上する傾向がある。
【0034】
前記式(I)で表される組成を有する蛍光体は、酸素元素を含んでいてもよい。酸素元素は、蛍光体の組成に含まれていてもよく、蛍光体を構成する元素と共に酸化物となり、不純物として蛍光体に含まれている場合もある。不純物として蛍光体に含まれる酸化物といては、例えばアルカリ土類金属元素を含む酸化物、アルミニウムを含む酸化物、ケイ素を含む酸化物、酸窒化物が挙げられる。前記式(I)で表される組成を有する蛍光体が酸素元素を含む場合、その含有率は、前記式(I)で表される組成を有する蛍光体中のアルミニウム100モル%とした場合には、酸素元素が5モル%以上50モル%以下の範囲内であってもよく、6モル%以上40モル%以下の範囲内であってもよく、7モル%以上30モル%以下の範囲内であってもよく、7モル%以上15モル%以下の範囲内であってもよく、7モル%以上12モル%以下の範囲内であってもよい。前記式(I)で表される組成を有する蛍光体中に不純物として酸素元素が含まれる場合であっても、酸素元素の含有率が前記範囲内であると、蛍光体の発光効率が向上する傾向がある。
【0035】
蛍光体に含まれる各元素のモル比は、蛍光X線(X-ray Fluorescence、XRF)法、イオンクロマトグラフィー(Ion Chromatography、IC)、誘導結合プラズマ発光分光法(Inductively Coupled Prasma-Atomic Emission Spectroscopy、ICP-AES)等を適宜選択して用いて常法により測定することができる。
【0036】
前記式(I)で表される組成を有する蛍光体は、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子からの光を吸収して、610nm以上700nm以下の範囲内において、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、好ましくは625nm以上650nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光する。
【0037】
前記式(I)で表される組成を有する蛍光体は、波長450nmにおける反射率が、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。前記式(I)で表される組成を有する蛍光体の反射率が、波長450nmにおいて、20%以下であると、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子の光を効率よく吸収することができる。前記式(I)で表される組成を有する蛍光体は、波長450nmにおける反射率が、2%以上であってもよい。蛍光体の反射率は、蛍光体の固体試料について分光光度計を用いて測定することができる。反射率の基準としてはリン酸水素カルシウム(CaHPO4)を用いる。すなわち、蛍光体の反射率は、リン酸水素カルシウムを基準試料とした相対的な反射率として求められる。
【0038】
前記式(I)で表される組成を有する蛍光体は、450nmにおける反射率が20%以下と低いため、蛍光部材中の蛍光体の含有量が多くなると、蛍光体から発した蛍光を蛍光体自体が吸収する現象である自己吸収が生じる。この蛍光体の自己吸収により、発光装置を構成する際に蛍光部材中の蛍光体の含有量が多くなると、発光装置の発光ピーク波長の短波長側における発光スペクトルの一部が、より発光強度を小さくするように変化する。前記式(I)で表される組成を有する蛍光体は、発光素子からの光の励起によって、例えば610nm以上700nm以下の範囲内において、視感度曲線のピーク波長に近い、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。視感度曲線のピーク波長に近い、より短波長側に発光ピーク波長を有する蛍光体を前述した範囲内で含む蛍光部材を用いた発光装置は、視感度の低い発光ピーク波長の長波長側における発光強度が小さくなるとともに、発光ピーク波長の短波長側における発光強度も小さくなる。そのため、610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有する発光装置は、刺激純度の高い赤色光を発しながら、光束も高い光を発することができる。光束は、放射束を視感度で評価して得られる量であり、ヒトの視覚心理により物理量を評価した心理物理量である。ヒトの視感度曲線からずれた発光スペクトルを有する光は、光束が低くなる傾向がある。例えば、ヒトの標準視感度曲線は、明所視では555nmにピーク波長を有し、暗所視では507nmにピーク波長を有する。610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有する光を発する発光装置は、赤色光を発するため、刺激純度が高くなると、発光装置の発光スペクトルにおける発光ピークがヒトの視感度曲線からずれるため、光束が低くなる傾向がある。発光装置は、例えば610nm以上700nm以下の赤色光の波長領域のなかでも、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、蛍光部材中の蛍光体の含有量が115質量部以上150質量部以下と多く、450nmにおける反射率も20%以下と低い。そのため、視感度曲線からずれる発光スペクトルを有する610nm以上630nm以下の範囲内に主波長を有する場合においても、刺激純度の高い赤色光を発しながら、光束も高い光を発することができる。
【0039】
前記式(I)で表される組成を有する蛍光体は、その体積平均粒径が、好ましくは5μm以上50μm以下の範囲内であり、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上であり、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下であり、よりさらに好ましくは25μm以下である。前記式(I)で表される組成を有する蛍光体の体積平均粒径が5μmより大きいと、蛍光体から発せられる蛍光の発光強度が高くなり、体積平均粒径が50μm以下であると発光装置を製造する際の作業性が向上する。蛍光体の体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、MASTER SIZER 3000、MALVERN社製)を用いて測定することができる。蛍光体の体積平均粒径は、小径側からの体積累積頻度が50%に達する平均粒径(Dm:メジアン径)である。
【0040】
蛍光部材50に含まれる蛍光体70の比重は、3.3g/cm3以上であってもよく、3.6g/cm3以上であってもよく、3.7g/cm3以上であってもよい。蛍光部材に含まれる蛍光体の比重は、4.3g/cm3以下であってもよく、4.1g/cm3以下であってもよく、3.9g/cm3以下であってもよい。蛍光体の比重が3.3g/cm3以上であると、蛍光部材50中で蛍光体70を沈降させる場合の生産性が向上し、蛍光体70を含む堆積層をより緻密に構成することができる。これにより蛍光体70を含む堆積層における散乱損失を抑制することができる。
【0041】
蛍光部材50は、前記式(I)で表される組成を有する蛍光体以外のその他の蛍光体を必要に応じて含んでいてもよい。その他の蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca)LiAl3N4:Eu、(Ca,Sr,Ba)2Si5N8:Eu、(Ca,Sr,Ba)S:Eu、K2(Si,Ti,Ge)F6:Mn、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn等を挙げることができる。
【0042】
蛍光部材50は、蛍光体70に加えて、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂から選択された少なくとも1種の樹脂を含むことができる。
【0043】
蛍光部材50は、蛍光体70に加えてその他の成分を必要に応じて含んでいてもよい。その他の成分としては、酸化ケイ素、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等のフィラー、光安定化剤、着色剤等を挙げることができる。蛍光部材50が例えば、その他の成分として、フィラーを含む場合、その割合は樹脂に対して、0.01質量%以上20質量%以下の範囲内とすることができる。
【0044】
蛍光体の製造方法
前記式(I)で表される組成を有する蛍光体は、例えば、Eu源と、CaおよびSrを含むアルカリ土類金属源と、Al源と、Si源とを含む原料混合物を熱処理することを含む製造方法で製造される。原料混合物はアルカリ土類金属フッ化物をさらに含むことが好ましい。アルカリ土類金属フッ化物を含む原料混合物を用いることで、より高い発光効率を有する蛍光体を製造することができる。
【0045】
Eu源、アルカリ土類金属源、Al源、Si源としては、Eu、アルカリ土類金属元素、Al又はSiの各元素を含む化合物、前記各元素からなる金属単体、前記各元素を含む合金等が挙げられる。Eu、アルカリ土類金属元素、Al又はSiの各元素を含む化合物としては、前記各元素を含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。前記式(I)で表される組成を有する蛍光体を得るために、Eu、アルカリ土類金属元素、Al又はSiの各元素を含む化合物は、窒化物又は酸窒化物であることが好ましい。具体的には、EuN、Ca3N2、Sr2NとSrNの混合物、AlN、Si3N4等が挙げられる。Euを含む化合物、アルカリ土類金属元素を含む化合物、Alを含む化合物又はSiを含む化合物は、それぞれ1種を用いることもでき、それぞれの化合物中で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
原料混合物は、フラックスとして、アルカリ土類金属元素を含むフッ化物の少なくとも1種を含んでいてもよい。原料混合物がアルカリ土類金属元素を含むフッ化物を含む場合、フッ化物の含有率は例えば、原料混合物に含まれるAlを100モル%とした場合に、フッ素元素が2モル%以上25モル%以下の範囲内となる量であることが好ましく、3モル%以上18モル%以下の範囲内となる量であることがより好ましく、4モル%以上13モル%以下の範囲内となる量であることがさらに好ましい。フッ化物の含有率を2モル%以上であれば、フラックスとしての効果を十分に得ることができる。ある程度の量のフラックスを含むと、フラックスの効果が飽和してしまい、それ以上の量を含んでも効果が見込めないので、フッ化物の含有率は、25モル%以下であれば、フラックスを必要以上含有することなくフラックスの効果を得ることができる。
【0047】
原料混合物は、原料混合物を構成する各成分を所望の配合比になるように秤量した後、ボールミルなどを用いる混合方法、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダ―などの混合機を用いる混合方法、乳鉢と乳棒を用いる混合方法などにより各成分を混合することで得ることができる。混合は、乾式混合で行うこともできるし、溶媒等を加えて湿式混合で行うこともできる。
【0048】
得られた原料混合物を熱処理することで、前記式(I)で表される組成を有する蛍光体を得ることができる。原料混合物の熱処理温度は、1200℃以上であり、1500℃以上が好ましく、1900℃以上がより好ましい。また熱処理温度は、2200℃以下であり、2100℃以下が好ましく、2050℃以下がより好ましい。1200℃以上の温度で熱処理することで、Euが結晶中に入り込み易く、所望の組成を有する蛍光体が効率よく形成される。また熱処理温度が2200℃以下であると形成される蛍光体の分解が抑制される傾向がある。原料混合物の熱処理は、等しい熱処理温度で行ってもよく、複数の異なる熱処理温度を含む多段階の熱処理を行ってもよい。
【0049】
原料混合物の熱処理における雰囲気は、窒素ガスを含む雰囲気が好ましく、実質的に窒素ガス雰囲気であることがより好ましい。窒素ガスを含む雰囲気とすることにより、原料に含まれ得るケイ素を窒化させることもできる。また、窒化物である原料や蛍光体の分解を抑制することができる。
【0050】
原料混合物の熱処理においては所定温度での保持時間を設けてもよい。保持時間は、例えば0.5時間以上48時間以内であり、1時間以上30時間以内が好ましく、2時間以上20時間以内であることがより好ましい。保持時間を0.5時間以上にすることにより均一な粒子成長をより促進することができる。また、保持時間を48時間以内にすることにより蛍光体の分解をより抑制することができる。
【0051】
原料混合物の熱処理は、例えばガス加圧電気炉を用いて行うことができる。原料混合物の熱処理は、例えば原料混合物を、黒鉛等の炭素材質又は窒化ホウ素(BN)材質のルツボ、ボート等に充填して用いて行うことができる。
【0052】
原料混合物の熱処理後には、熱処理で得られる蛍光体に解砕、粉砕、分級操作等の処理を組合せて行う整粒工程を含んでいてもよい。整粒工程により所望の粒径の粉末を得ることができる。具体的には、蛍光体を粗粉砕した後に、ボールミル、ジェットミル、振動ミルなどの一般的な粉砕機を用いて所定の粒径に粉砕することができる。ただし、過剰な粉砕を行うと蛍光体の粒子表面に欠陥が生じて、発光強度の低下を引き起こすこともある。粉砕で生じた粒径の異なる蛍光体が存在する場合には、分級を行い、粒径の範囲を整えた蛍光体を得ることもできる。
【0053】
発光装置の製造方法
第三実施形態に係る発光装置の製造方法は、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子を支持体に配置することと、発光素子からの光により励起されて、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、前記式(I)で表される組成を有する蛍光体と、樹脂と、を含み、樹脂100質量部に対する蛍光体の含有量が115質量部以上150質量部以下となるように混合し、混合物を得て、その混合物を発光素子の上に配置して蛍光部材を形成すること、を含む。製造される発光装置は、第一実施形態に係る発光装置であり、発光装置に含まれる前記式(I)で表される組成を有する蛍光体と同様の蛍光体を用いることができる。
【0054】
発光装置の製造方法は、365nm以上500nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子を支持体に配置することと、発光素子からの光により励起されて、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、前記式(I)で表される組成を有する蛍光体と、樹脂と、を含む混合物を準備し、その混合物を発光素子の上に配置して蛍光部材を形成して、試験的に発光装置を製造し、予め前記式(I)で表される組成を有する蛍光体の発光スペクトルにおける発光ピーク波長λfPを測定し、試験的に製造した発光装置の発光スペクトルにおける発光ピーク波長λePを測定し、波長λePと波長λfPの波長差λeP-λfPが8nm以上となるように蛍光体の量を調製して、発光装置を製造してもよい。
【0055】
以下、発光装置の一例を示す
図1に基づき、発光装置の製造方法を説明する。
【0056】
発光素子は、第一リード20および第二リード30と、樹脂部42とが一体的に成形された支持体である成形体40に配置されることが好ましい。
【0057】
蛍光部材50を構成する蛍光部材用組成物は、前記樹脂と、前記式(I)で表される組成を有する蛍光体を混合した混合物であることが好ましい。混合物中、樹脂100質量部に対して前記式(I)で表される組成を有する蛍光体の含有量は115質量部以上150質量部以下の範囲内であり、好ましくは樹脂100質量部に対して120質量部以上145質量部以下の範囲内であり、さらに好ましくは120質量部以上140質量部以下の範囲内である。
【0058】
蛍光部材50は、例えば蛍光体70と樹脂とを含む混合物を、成形体40の凹部に配置して発光素子10を被覆することで形成することができる。混合物の成形体40の凹部の配置は、凹部内に配置する混合物の量が制御可能な方法であればよく、例えば、ポッティング法、ジェットディスペンサー法等が挙げられる。一般に蛍光体70と樹脂との間には比重差があるため、成形体40の底面方向に重力がかかる状態とすることで蛍光体70を発光素子10が配置された底面方向に沈降させて蛍光部材50中に蛍光体70を含有する堆積層(第一層50a)と樹脂層(第二層50b)を形成することができる。また遠心力等の加速度を底面方向に加えることで、蛍光体70を底面側に沈降させることもできる。この方法は、樹脂に対する蛍光体の割合が特に大きくなる場合に有効である。蛍光部材50を構成する樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、蛍光体70を沈降させた後に熱処理して硬化させることで、蛍光体70が偏在した状態の蛍光部材50を形成することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
蛍光体の製造
発光装置の製造に先立ち、蛍光体として下記の表1および2に示す赤色光を発する蛍光体1から3をそれぞれ製造し、以下に示す評価方法で評価した。結果を表1に示した。
【0061】
発光特性
後述する方法により得られた蛍光体1から3について、以下のように発光特性を測定した。量子効率測定装置(QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、波長450nmの励起光を各蛍光体に照射し、室温(25℃±5℃)における発光スペクトルを測定した。各蛍光体の発光スペクトルにおいて、発光強度が最大となる波長を発光ピーク波長λfP(nm)として求めた。また、各蛍光体の発光スペクトルにおいて、発光ピークの半値全幅(Full Width at Half Maximum:FWHM)を求めた。半値幅(半値全幅)は、発光スペクトルにおける発光ピーク強度の最大値の50%の強度を示す発光スペクトルの波長幅をいう。また、各蛍光体の発光スペクトルから発光ピークの発光強度を測定し、蛍光体1の発光強度を100%として、蛍光体2および蛍光体3の相対発光強度を求めた。
【0062】
反射率
蛍光体1から3について、反射率および反射スペクトルを分光蛍光光度計(F-4500、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。室温(18℃から28℃)で励起光源(キセノンランプ)からの光を、試料となる各蛍光体に照射し、380nm以上730nm以下の波長範囲の反射スペクトルを測定した。リン酸水素カルシウム(CaHPO
4)を基準試料とし、波長450nmにおけるリン酸水素カルシウムの反射率を基準として、蛍光体1から3の波長450nmにおける反射率を相対的な反射率(%)として求めた。また、各蛍光体1から3の380nm以上730nm以下の波長範囲における反射スペクトルを
図2に示した。
【0063】
体積平均粒径
蛍光体1から3について、レーザー回折式粒度分布測定装置(MASTER SIZER 3000、MALVERN社製)を用いて、小径側からの体積累積頻度が50%に達する体積平均粒径(Dm:メジアン径)を測定した。
【0064】
比重
蛍光体1から3について、各蛍光体の体積(cm3)および質量(g)から比重(g/cm3)を求めた。
【0065】
組成分析
蛍光体1から3について、ICP-AES装置(Perkin Elmer社製)、イオンクロマトグラフィーシステム(日本ダイオネクス株式会社製)、および酸素・窒素分析装置(株式会社堀場製作所製)を適宜選択して組成を分析し、Alのモル比を1として蛍光体の組成における各構成元素のモル比を表2に示した。
【0066】
蛍光体1
前記式(I)で表される組成CasSrtEuuSivAlwNxにおいて、s=0.19、t=0.81、u=0.02、v=1、w=1を設計値とした。Ca3N2、CaF2(Ca源の全体量sのうち、0.03モル%)、SrNn(n=2/3となる、Sr2NおよびSrNの混合物)、AlN、Si3N4およびEuNを原料として用いた。これらの原料を設計値となるように、不活性雰囲気のグローブボックス内で計量、混合して原料混合物を得た。この際、xはそれぞれの陽イオンの設計値をもとにするとx=3となるように設定し、原料に含まれる酸素の影響は考慮から除外した。原料混合物をルツボに充填し、N2ガス雰囲気下、ガス圧0.92MPa(ゲージ圧)、温度2040℃で30分、熱処理した。この蛍光体を蛍光体1とした。得られた蛍光体1は、各構成元素のモル比が表2に示される数値となることを確認した。
【0067】
蛍光体2
前記式(I)で表される組成CasSrtEuuSivAlwNxにおいて、s=0.13、t=0.87、u=0.02、v=1、w=1を設計値とした。すなわち、Srのモル比を蛍光体1よりも大きくして、本蛍光体の発光ピーク波長が蛍光体1の発光ピーク波長よりも短波長側に位置するよう設定した。それ以外は、蛍光体1と同様にして原料混合物を得た。原料混合物を蛍光体1の場合と同様に熱処理して蛍光体2を製造した。得られた蛍光体2は、各構成元素のモル比が表2に示される数値となることを確認した。
【0068】
蛍光体3
前記式(I)で表される組成CasSrtEuuSivAlwNxにおいて、s=0.06、t=0.90、u=0.02、v=1、w=1を設計値とした。すなわち、Srのモル比を蛍光体2よりも大きくして、本蛍光体の発光ピーク波長が蛍光体1又は2の発光ピーク波長よりも短波長側に位置するように設定した。それ以外は、蛍光体1と同様にして原料混合物を得た。原料混合物を蛍光体1の場合と同様に熱処理して蛍光体3を製造した。得られた蛍光体3は、各構成元素のモル比が表2に示される数値となることを確認した。
【0069】
【0070】
蛍光体1から3は、各蛍光体の発光スペクトルにおける発光ピーク波長が、短波長側から蛍光体3、蛍光体2、蛍光体1の順に位置していた。蛍光体1から3は、いずれも波長450nmにおける反射率が20%以下であった。蛍光体2は、蛍光体1と比較して、体積平均粒径Dmがほぼ同等であるが、波長450nmにおける反射率が小さくなり、半値幅が小さくなり、より短波長側の発光成分が多い発光スペクトルを有する蛍光を発した。蛍光体3は、蛍光体1と比較して、波長450nmにおける反射率が小さくなり、半値幅が蛍光体1および2よりも小さくなり、体積平均粒径Dmが蛍光体1および2よりも大きくなり、より短波長側の発光成分が多い発光スペクトルを有する蛍光を発した。
【0071】
【0072】
蛍光体1から3は、設計値にほぼ対応する組成を有しており、蛍光体1から3は、前記式(I)で表される組成を有し、酸素およびフッ素を含んでいた。
【0073】
実施例1および比較例1
発光装置の製造
454nmに発光ピーク波長を有する窒化物系半導体を用いた半導体発光素子(以下、「青色発光LED」ともいう。)を用いて、各実施例および比較例の発光装置を、以下のようにして作製した。
具体的には、
図1に示すように、青色発光LEDからなる発光素子10を、第一リード20および第二リード30と、樹脂部42とが一体的に成形された支持体である成形体40の凹部の底面に配置した。
次に、発光装置100が発する光の主波長が615nm付近となるように、シリコーン樹脂100質量部に対して、蛍光体1又は2を、表3に示す蛍光体の含有量となるように添加し、混合分散した後、更に脱泡することにより蛍光部材用組成物を得た。
次に蛍光部材用組成物を、成形体40の凹部に配置した発光素子10に、ポッティング法により配置した。
次いで加熱することで蛍光部材用組成物を硬化させて、蛍光部材50を形成し、発光装置100を製造した。
【0074】
実施例2および比較例2
発光装置100が発する光の主波長が612nm付近となるように、シリコーン樹脂100質量部に対して、蛍光体2又は3を、表3に示す蛍光体の含有量となるように添加し、混合分散した後、更に脱泡することにより蛍光部材用組成物を得た。この蛍光部材用組成物を用いて蛍光部材50を形成したこと以外は、実施例1と同様にして発光装置100を製造した。
【0075】
発光装置の評価1
実施例および比較例の各発光装置について、以下に示す評価方法で評価した。結果を表3に示した。
【0076】
発光特性
実施例および比較例の各発光装置について、以下のように発光特性を測定した。積分球を使用した分光測光装置(PMA-11、浜松ホトニクス株式会社製)を用いて、各発光装置について発光スペクトルを測定した。
図3および
図4に、各発光装置のスペクトルと、蛍光体をセルに充填して測定した各蛍光体の発光スペクトルと、各蛍光体の粉体から一粒の粒子(以下、「単粒子」ともいう。)を採取し、その発光スペクトルを示した。蛍光体の発光スペクトルは、前述した蛍光体の発光特性の測定方法によって、蛍光体をセルに充填し、セルに充填した蛍光体に波長450nmの励起光を照射し、量子効率測定装置(QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、室温(25℃±5℃)において測定した。また、蛍光体(単粒子)の発光スペクトルは、単粒子の蛍光体に波長450nmの励起光を照射し、量子効率測定装置(QE-2100、大塚電子株式会社製)を用いて、室温(25℃±5℃)において測定した。
図3において、各発光装置の発光スペクトルは、発光スペクトルにおける最大の発光強度を100%とした相対発光スペクトルとして表した。また、
図3において、蛍光体2および蛍光体2(単粒子)の発光スペクトルは、各発光スペクトルにおける最大の発光強度を100%とした相対発光スペクトルとして表した。
図4に、実施例2および比較例2の発光装置のスペクトルと、蛍光体3の発光スペクトルと、蛍光体3(単粒子)の発光スペクトルを示す。
図4において、実施例2および比較例2の発光装置の各発光スペクトルは、各発光スペクトルにおける最大の発光強度を100%とした相対的な発光スペクトルとして表した。また、
図4において、蛍光体3および蛍光体3(単粒子)の発光スペクトルは、各発光スペクトルにおいて最大の発光強度を100%とした相対的な発光スペクトルとして表した。
【0077】
色度座標(x、y)
実施例および比較例の各発光装置について、マルチチャンネル分光器と積分球を組み合わせた光計測システムを用いて、CIE1931色度図の色度座標系における色度座標(x、y)を求めた。また、各実施例および比較例において、具体的にはそれぞれ10個の発光装置の色度座標(x、y)を求め、その算術平均値を各実施例および比較例の発光装置の色度座標とした。
【0078】
主波長
JIS Z8701の色度図において、白色の色度点W(xw=0.33333、yw=0.33333)と、各発光装置の色度座標(x、y)とを結ぶ直線を伸長し、色度図上でスペクトル軌跡と交わる点の波長を主波長として測定した。各実施例および比較例において、具体的にはそれぞれ10個の発光装置の主波長を求め、その算術平均値を各実施例および比較例の発光装置の主波長とした。
【0079】
刺激純度Pe(%)
主波長を615nmに設定した実施例1および比較例1の発光装置の刺激純度Pe(%)は、JIS Z8701の色度図において、白色の色度点W(xw=0.33333、yw=0.33333)と、単色光刺激S1(xs1=0.68008、ys1=0.31975)を結ぶ直線上で、色度点Wと各発光装置の色度点F(各発光装置の色度座標(x、y))の距離と、色度点Wと単色光刺激S1の距離を測定し、これらの距離の比WF/WS1を刺激純度Pe(%)として求めた。実施例1および比較例1について、具体的にはそれぞれ10個の発光装置の刺激純度Pe(%)を求め、その算術平均値を実施例1又は比較例1の発光装置の刺激純度Pe(%)とした。
主波長を612nmに設定した実施例2および比較例2の発光装置の刺激純度Pe(%)は、JIS Z8701の色度図において、白色の色度点W(xw=0.33333、yw=0.33333)と、単色光刺激S2(xs2=0.67186、ys2=0.32795)を結ぶ直線上で、色度点Wと各発光装置の色度点F(各発光装置の色度座標(x、y))の距離と、色度点Wと単色光刺激S2の距離を測定し、これらの距離の比WF/WS2を刺激純度Pe(%)として求めた。実施例2および比較例2について、具体的にはそれぞれ10個の発光装置の刺激純度Pe(%)を求め、その算術平均値を実施例2又は比較例2の発光装置の刺激純度Pe(%)とした。
【0080】
発光強度比Ir
実施例および比較例の各発光装装置の発光スペクトルにおいて、発光装置の最大の発光強度に対して、365nm以上500nm以下の範囲内にある発光素子の発光ピーク波長における発光強度の発光強度比Irを求めた。各実施例および比較例において、具体的にはそれぞれ10個の発光装置の発光強度比Irを求め、その算術平均値を各実施例および比較例の発光装置の発光強度比Irとした。
【0081】
相対光束(%)
各実施例および比較例より、刺激純度が99.0%以上となる発光装置について、積分球を使用した全光束測定装置を用いて全光束を測定した。実施例1の発光装置の全光束は、比較例1の発光装置に用いた蛍光体を使用して刺激純度が99.0%となる発光装置の全光束を100%とした相対値で表した。実施例2の発光装置の全光束は、比較例2の発光装置に用いた蛍光体を使用して刺激純度が99.0%となる発光装置の全光束を100%とした相対値で表した。発光装置から、99.0%以上の単色光刺激に近い刺激純度の高い赤色光が発せられる。
【0082】
【0083】
実施例1および2の発光装置は、99.0%以上の高い刺激純度を有する赤色光を発した。また、実施例1および2の発光装置は、発光装置の最大発光強度に対する、365nm以上500nm以下の範囲内の発光素子の発光ピーク波長における発光強度比Irが、0.2%未満であり、発光素子が発する光が発光装置から抜け出ることを抑えて、刺激純度の高い光が発光装置から発せられた。また、実施例1の発光装置は、99.0%以上の高い刺激純度を有し、同じ主波長である、主波長を615nmに設定した比較例1の発光装置よりも高い光束の光が発せられた。実施例2の発光装置は、99.0%以上の高い刺激純度を有し、同じ主波長である、主波長を612nmに設定した比較例2の発光装置よりも高い光束の光が発せられた。
【0084】
比較例1の発光装置は、蛍光部材に含まれる蛍光体1の発光ピーク波長が、蛍光体2および蛍光体3と比べて長波長側に位置し、目的とする615nmの主波長の光を発する発光装置を得るために、蛍光部材中に含まれる蛍光体1が樹脂100質量部に対して115質量部未満となり、蛍光体1の量が少ないために、刺激純度が99.0%未満と低くなった。また、比較例1の発光装置は、発光強度比Irが0.2%を超えて高くなっており、実施例よりも発光装置から発光素子の青色光が抜け出たことが分かる。
【0085】
比較例2の発光装置は、実施例1と同様の蛍光体2を蛍光部材中に含むものの、目的とする612nmの主波長の光を発する発光装置を得るために、蛍光部材中に含まれる蛍光体2が樹脂100質量部に対して115質量部未満となり、蛍光体2の量が少ないために、刺激純度が99.0%未満と低くなった。また、比較例2の発光装置は、発光強度比Irが0.2%を超えて高くなっており、実施例よりも発光装置から発光素子の青色光が抜け出たことが分かる。
【0086】
発光装置の評価2
実施例および比較例の各発光装置について、さらに以下に示す評価方法で評価した。結果を表4に示した。
【0087】
波長差λeP-λfP(=ΔλP)
各発光装置の発光スペクトルと、各発光装置に含まれる各蛍光体の発光スペクトルから発光装置の発光ピーク波長λePと蛍光体の発光ピーク波長λfPとの波長差λeP-λfP(=ΔλP)を求めた。具体的には、発光装置の発光ピーク波長λePは、発光装置の最大発光強度を100%とした発光スペクトルから求めた。また、蛍光体の発光ピーク波長λfPは、蛍光体(単粒子)の最大発光強度100%とした発光スペクトルから求めた。
【0088】
短波長側の発光強度10%の波長差λeS-λfS(=ΔλS)
発光装置の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、発光装置の発光ピーク波長よりも短波長側の発光強度10%の波長λeSとし、蛍光体の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、蛍光体の発光ピーク波長よりも短波長側の発光強度10%の波長λfSとした場合に、波長λeSと波長λfSの波長差λeS-λfS(=ΔλS)を求めた。
【0089】
長波長側の発光強度10%の波長差λeL-λfL(=ΔλL)
発光装置の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、発光装置の発光ピーク波長よりも長波長側の発光強度10%の波長λeLとし、蛍光体の発光スペクトルにおいて、最大発光強度を100%としたときに、蛍光体の発光ピーク波長よりも長波長側の発光強度10%の波長λfLとした場合に、波長λeLと波長λfLの波長差λeL-λfL(=ΔλL)を求めた。
【0090】
堆積層厚み、蛍光部材厚み、厚みの比率
各実施例および比較例の発光装置を1つ選択し、発光装置の平面視における中心点を通るように発光装置を切断して、発光装置の断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて撮影し、発光装置の断面SEM写真を得た。
図5に実施例1の発光装置の断面のSEM写真を示し、
図6に比較例1の発光装置の断面のSEM写真を示し、
図7に比較例2の発光装置の断面のSEM写真を示す。各発光装置の断面のSEM写真から、発光素子10の直上における堆積層(第一層50a)の厚みおよび樹脂層(第二層50b)の厚みを測定した。発光装置の断面のSEM写真において、蛍光体の存在が確認できる部分の厚みを堆積層の厚みとし、蛍光体の存在が確認できない部分の厚みを樹脂層の厚みとし、堆積層と樹脂層の厚みの和を蛍光部材の厚みとした。なお、堆積層(第一層50a)の厚みは、成形体40の底面と直交する直線における発光素子10の上面との交点から、蛍光部材50中の蛍光体70の堆積層(第一層50a)および樹脂層(第二層50b)の界面との交点までの距離として計測し、樹脂層50の厚みは上記の直線における堆積層(第一層50a)および樹脂層(第二層50b)の界面との交点から、蛍光部材50の表面との交点までの距離として計測した。また厚みの計測は、発光装置の断面のSEM写真において、任意に選択した成形体40の底面と直交する1つの直線上において行った。測定した厚みから発光素子10の直上における蛍光部材50の厚みに対する堆積層(第一層50a)の厚みの比率Tr(堆積層(第一層50a)の厚み/蛍光部材50の厚み)を算出した。
【0091】
【0092】
実施例1および2の発光装置は、波長差ΔλPが8nmよりも大きく、比較例よりも波長差ΔλPおよびΔλSが大きいので、刺激純度が高い赤色光を発することができる。また、このように刺激純度が高い場合であっても、実施例1および2の発光装置は、比較例よりも波長差ΔλLが小さいので、ヒトの視感度が低い長波長側の発光スペクトルの発光強度を低くすることができ、発光装置から高光束の光を発することができる。
【0093】
実施例1の発光装置は、同じ蛍光体2を用いた比較例2の発光装置よりも、短波長側の波長差Δλ
Sが大きい。そのため、
図3で示されるように、実施例1の発光装置の発光ピーク波長よりも短波長側の発光スペクトルは、比較例1の発光装置の発光スペクトルと一部において重なり、ほぼ同等の形状となる。この結果から、実施例1の発光装置は、比較例1の発光装置に用いた蛍光体1の発光ピーク波長よりも発光ピーク波長が短波長側に位置する蛍光体2を用いて、蛍光部材中の蛍光体2の量を多くすることで、比較例1と同じく、主波長を615nmに設定した場合、刺激純度が高い赤色発光を得られる。
【0094】
実施例2の発光装置は、比較例2の発光装置よりも、短波長側の波長差Δλ
Sが大きい。そのため、
図4で示されるように、実施例2の発光装置の発光ピーク波長よりも短波長側の発光スペクトルは、比較例2の発光装置の発光スペクトルと一部において重なり、ほぼ同等の形状となる。この結果から、実施例2の発光装置は、比較例2の発光装置に用いた蛍光体2の発光ピーク波長よりも発光ピーク波長が短波長側に位置する蛍光体3を用いて、蛍光部材中の蛍光体3の量を多くすることで、比較例2と同じく、主波長を612nmに設定した場合、刺激純度が高い赤色発光を得られる。
【0095】
図2に示される蛍光体1から3の反射スペクトルは、各蛍光体を用いた発光装置の発光ピーク波長よりも短波長側で反射率が低くなる(すなわち、吸収率が高くなる)ため、蛍光部材中の蛍光体の含有量が増えるほど、蛍光体粒子の間で自己吸収が生じ、発光スペクトルの短波長側の発光強度が減少すると考えられる。
【0096】
図5に示されるように、実施例1に係る発光装置の断面SEM写真において、蛍光部材50の厚みに対する蛍光体1を含む堆積層(第一層50a)の厚みに比率Trは87%であり、堆積層が厚くなっていることが確認できる。一方、
図6および
図7に示されるように、比較例1又は2に係る発光装置の断面SEM写真において、蛍光部材50の厚みに対する蛍光体1を含む堆積層(第一層50a)の厚みに比率Trは、それぞれ53%又は50%と低くなった。
【0097】
一般的には、蛍光部材中の蛍光体の含有量を少なくし、蛍光体を含む堆積層(第一層50a)を薄くした方が光の散乱損失を抑制できるため、発光装置の発光効率を高くすることができると考えられている。その一方で、蛍光部材に含まれる蛍光体の量が少なくなるため、発光装置の刺激純度は低くなる。本発明の一態様に係る発光装置は、より短波長側に発光ピーク波長を有する蛍光体の含有量を多くして、発光装置から発せられる光の発光スペクトルを所望の形状となるように制御することによって、光束および刺激純度が高い赤色発光が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の一態様に係る発光装置は、車載用のストップランプ、照明用光源、ディスプレイ、バックライト光源、警告灯、植物育成用光源等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0099】
10:発光素子、20:第一リード、30:第二リード、40:成形体、50:蛍光部材、50a:第一層(堆積層)、50b:第二層(樹脂層)70:蛍光体、100:発光装置。