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特許7389391分岐比算出方法、分岐比算出装置及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】分岐比算出方法、分岐比算出装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/272 20130101AFI20231122BHJP
【FI】
H04B10/272
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022539878
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2020029095
(87)【国際公開番号】W WO2022024269
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 稜
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正満
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-136745(JP,A)
【文献】特開2003-318839(JP,A)
【文献】国際公開第2020/045185(WO,A1)
【文献】特開2004-356807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/272
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1通信装置をルートノードとし、複数の光スプリッタを中間ノードとし、複数の第2通信装置をリーフノードとする木構造ネットワークを構成する光通信システムにおいて、
前記第1通信装置が送信する光を前記第2通信装置が目標強度で受信するように、前記複数の光スプリッタの分岐比を、前記木構造ネットワークの階層の順に、前記第1通信装置と前記光スプリッタとの間の伝送経路の長さに基づいて算出する計算ステップ
を有し、
前記計算ステップでは、前記複数の光スプリッタについて、前記木構造ネットワークの階層の浅い方から順番に、前記光スプリッタに直接接続される第2通信装置が前記光を前記目標強度で受信するように分岐比を算出し、
前記計算ステップでは、前記目標強度を変化させて計算を繰り返し、前記第2通信装置が受信する光の強度が実現可能な最大の前記目標強度となるように前記光スプリッタの分岐比を算出する
分岐比算出方法。
【請求項2】
前記目標強度は、前記第1通信装置を除く他の全ての通信装置の最小受信感度以上である、
請求項1に記載の分岐比算出方法。
【請求項3】
第1通信装置をルートノードとし、複数の光スプリッタを中間ノードとし、複数の第2通信装置をリーフノードとする木構造ネットワークを構成する光通信システムにおいて、
前記第1通信装置が送信する光を前記第2通信装置が目標強度で受信するように、前記複数の光スプリッタの分岐比を、前記木構造ネットワークの階層の順に、前記第1通信装置と前記光スプリッタとの伝送経路の長さに基づいて算出する計算部
を備え
前記計算部は、前記複数の光スプリッタについて、前記木構造ネットワークの階層の浅い方から順番に、前記光スプリッタに直接接続される第2通信装置が前記光を前記目標強度で受信するように分岐比を算出し、
前記計算部は、前記目標強度を変化させて計算を繰り返し、前記第2通信装置が受信する光の強度が実現可能な最大の前記目標強度となるように前記光スプリッタの分岐比を算出する
分岐比算出装置。
【請求項4】
コンピュータに、請求項1または請求項2に記載の分岐比算出方法を実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐比算出方法、分岐比算出装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の方式としてPON(Passive Optical Network)がある。PONを用いた光通信においては、通信会社の局側に設置されるOLT(Optical Line Terminal)と加入者宅側に設置されるONU(Optical Network Unit)とが光ファイバにより接続される。光ファイバの途中には光スプリッタが備えられ、光スプリッタがOLTとONUとが送受信する光信号の分離や合成を行う。
【0003】
図10は光通信システム100を示す図である。
光通信システム100は、OLT90、ONU91-1…91-(N+1)、等分岐光スプリッタ92-1…92-N、分岐ファイバ93-1…91-N、幹線ファイバ94を備える。
【0004】
以下では、ONU91-1…91-(N+1)に共通する事項については、「ONU91-1…91-(N+1)」は、符号の一部が省略されて、「ONU91」と表記される。また、「等分岐光スプリッタ92-1~…92-N」及び「分岐ファイバ93-1~…93-N」も、それぞれ同様に、「等分岐光スプリッタ92」及び「分岐ファイバ93」と表記される。OLT90は、通信会社の局側に設置されるOLTである。ONU91は加入者宅側に設置されるONUである。等分岐光スプリッタ92は1つの入力ポートと2つの出力ポートを備え、1つの入力ポートに入力される光信号を分岐し2つの出力ポートから出力する。2つの出力ポートから出力される光信号の強度は等しい。等分岐光スプリッタ92は、幹線ファイバ94上に設けられる。
【0005】
OLT90とONU91-(N+1)は幹線ファイバ94により接続される。ONU91-1…91-Nはそれぞれ分岐ファイバ93-1…93-Nにより幹線ファイバ94上に設けられた等分岐光スプリッタ92と接続される。等分岐光スプリッタ92はOLT90側から送信される光信号(下り信号)を分岐して、接続される分岐ファイバ93と幹線ファイバ94に分岐した下り信号を出力する。また、等分岐光スプリッタ92が下り信号を分岐した結果生じた2つの下り信号の強度は等しい。そのため、等分岐光スプリッタ92が下り信号を分岐した結果生じた下り信号の強度は、分岐される下り信号の強度の半分である。同様に、等分岐光スプリッタ92はONU91から送信される光信号(上り信号)を分岐して、分岐した上り信号を幹線ファイバ94に出力する。等分岐光スプリッタ92が上り信号を分岐した結果生じた2つの上り信号の強度は等しい。そのため、上り信号の場合と同様に、等分岐光スプリッタ92が上り信号を分岐した結果生じた上り信号の強度は、分岐される上り信号の強度の半分である。
【0006】
図11は、ONU91-1…91-3が受信する光信号の強度を示した図である。
図11においてPtxはOLTが送信する光信号の強度、PminはONU91が光信号を誤りなく受信するために最低限必要となる最小受信感度、P、P、PはそれぞれONU91-1、ONU91-2、ONU91-3が受信する光信号の強度である。伝送距離はOLT90と幹線ファイバ94の各地点との距離である。
【0007】
図11に示すグラフは、Ptx=+4dBm、Pmin=-18dBm、幹線ファイバ14の伝送損失α=0.5dBm/km、直近の2つの等分岐光スプリッタ92間の距離D=10km、分岐ファイバ93の距離L=0kmとしたときの伝送距離と光強度の関係を示すグラフである。
【0008】
OLT90が送信する光信号は幹線ファイバ14により伝送損失を受け、等分岐光スプリッタ92により分岐されるため、OLT90からの伝送距離が長いあるいは光信号が通過する等分岐光スプリッタ92が多いほどONU91が受信する光信号の強度は弱くなる。図11においてはP=-4dBm、P=-12dBm、P=-21dBmであり、P及びPはPminより大きいため、ONU91-1及びONU91-2はOLT90から正しく光信号を受信することができるが、PはPminよりも小さいためONU91-3はOLT90から光信号を正しく受信することができない。
【0009】
より遠くまで光信号を伝送する手法として、分岐比が対称でない不等分岐光スプリッタを使用することが提案されている(例えば非特許文献1)。図12は不等分岐光スプリッタ95を使用する光通信システム100を示す図である。図12に示す光通信システム100は、図10に示す光通信システム100における等分岐光スプリッタ92を不等分岐光スプリッタ95に置き換えた構成である。不等分岐光スプリッタ95は1つの入力ポートと2つの出力ポートを備え、1つの入力ポートに入力される光信号を分岐し2つの出力ポートから出力する。不等分岐光スプリッタ95は等分岐光スプリッタ92と異なり、2つの出力ポートから出力される光信号の強度は必ずしも等しくない。
【0010】
例えば、図11に示す例では、不等分岐光スプリッタ95-1はOLT90から送信される光信号を分岐し、強度比2%の光信号をONU91-1に出力し、残りの強度比98%の光信号を不等分岐光スプリッタ95-2に出力する。不等分岐光スプリッタ95-2はOLT90側から送信される光信号を分岐し、強度比6%の光信号をONU91-2に出力し、残りの強度比94%の光信号を不等分岐光スプリッタ95-3に出力する。不等分岐光スプリッタ95-3はOLT90側から送信される光信号を分岐し、強度比20%の光信号をONU91-3に出力し、残りの強度比80%の光信号を不等分岐光スプリッタ95-4に出力する。
【0011】
図12に示す光通信システム100において、OLT90に近い不等分岐光スプリッタ95は幹線ファイバ94に出力する光信号の強度が大きくなるように分岐比を調整することで、OLT90が送信する光信号が分岐されることでONU91が受信する光信号の強度が低下するのを抑えている。
図13は、図12に示される光通信システム100における伝送距離と光強度の関係を示すグラフである。光スプリッタの条件は図11のグラフと同様であり、Ptx=+4dBm、Pmin=-18dBm、幹線ファイバ14の伝送損失α=0.5dBm/km、直近の2つの等分岐光スプリッタ92間の距離D=10km、分岐ファイバ93の距離L=0kmである。図13において、P=-18dBmであり、P及びPもおよそ-18dBmである。そのため、ONU91-3もOLT90から正しく光信号を受信することができる。また、分岐ファイバ94を伝搬する光信号の強度を小さくすることで幹線ファイバ93を伝搬する光の強度を相対的に大きくすることができ、OLT90はより遠くのONU91に光信号を送信することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】P. Lafata et al., “Perspective Application of Passive Optical Network with Optimized Bus Topology”, Journal of Applied Research and Technology”, vol. 10, no.3, pp. 340-345, June 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、光信号の伝送距離を最大にするための各不等分岐光スプリッタの最適な分岐比を算出する方法は確立されていない。
本発明の目的は、不等分岐光スプリッタを備える光通信システムにおいて、各不等分岐光スプリッタの最適な分岐比を算出する分岐比算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、第1通信装置をルートノードとし、複数の光スプリッタを中間ノードとし、複数の第2通信装置をリーフノードとする木構造ネットワークを構成する光通信システムにおいて、前記第1通信装置が送信する光を前記第2通信装置が目標強度で受信するように、前記複数の光スプリッタの分岐比を、前記木構造ネットワークの階層の順に、前記第1通信装置と前記光ファイバとの伝送経路の長さに基づいて算出する計算ステップを有する分岐比算出方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、不等分岐光スプリッタを備える光通信システムにおいて、各不等分岐光スプリッタの最適な分岐比を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態に係る光通信システムの構成を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る光通信システムの分岐ファイバ及び幹線ファイバの距離を示す図である。
図3】第1の実施形態に係る光スプリッタ分岐比算出装置の構成を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る光スプリッタ分岐比算出装置の動作を示すフローチャートである。
図5】第2の実施形態に係る光通信システムの簡易図である。
図6】光ファイバ測定部を備える光通信システムを示す図である。
図7】ツリー型のネットワークを採用する光通信システムの一例である。
図8】第2実施形態に係る算出方法を適用した光通信システムの一例である。
図9】第2実施形態に係る算出方法を適用した光通信システムの一例である。
図10】光通信システムを示す図である。
図11】ONUが受信する光信号の強度を示した図である。
図12】不等分岐光スプリッタを使用する光通信システムを示す図である。
図13】光通信システムにおける伝送距離と光強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〈第1の実施形態〉
図1は、第1の実施形態に係る光通信システム1の構成を示す図である。
光通信システム1は、OLT10、ONU11-1…11-(N+1)、光スプリッタ12-1…12-N、分岐ファイバ13-1…13-N、幹線ファイバ14を備える。
以下では、ONU11-1…11-(N+1)に共通する事項については、「ONU11-1…11-(N+1)」は、符号の一部が省略されて、「ONU11」と表記される。また、「光スプリッタ12-1…12-N」及び「分岐ファイバ13-1…13-N」についてもそれぞれ同様に「光スプリッタ12」及び「分岐ファイバ13」と表記される。
光通信システム1のOLT10、ONU11、光スプリッタ12、分岐ファイバ13、幹線ファイバ14はそれぞれ、図9に示す光通信システム100のOLT90、ONU91、不等分岐光スプリッタ95、分岐ファイバ93、幹線ファイバ94に相当する。
【0018】
OLT10とONU11-(N+1)は幹線ファイバ14により接続される。幹線ファイバ14上には、光スプリッタ12-1…12-Nが設けられる。ONU11-1…11-Nはそれぞれ分岐ファイバ13-1…13-Nにより幹線ファイバ14上に設けられた光スプリッタ12と接続される。光スプリッタ12はOLT10側から送信される光信号を分岐して、接続される分岐ファイバ13と幹線ファイバ14に分岐した光信号を出力する。つまり、光通信システム1は、OLT10をルートノードとし、光スプリッタ12-1…12-Nを中間ノードとし、ONU11-(N+1)をリーフノードとする木構造ネットワークを構成する。
【0019】
《光通信システムのプロパティの定義》
図2は、第1の実施形態に係る光通信システム1の分岐ファイバ13及び幹線ファイバ14の距離を示す図である。
分岐ファイバ13-1…13-Nの距離をそれぞれL…Lと定義する。1≦n≦N-1において、光スプリッタ12-nと光スプリッタ12-(n+1)の距離をDと定義する。また、DをOLT10と光スプリッタ12-1の距離、Dを光スプリッタ12-NとONU11-(N+1)の距離と定義する。
【0020】
1≦n≦Nにおいて、光スプリッタ12-nの幹線ファイバ方向への透過率をSと定義し、光スプリッタ12-nの分岐ファイバ13-n方向への透過率をTと定義する。1≦n≦Nにおいて、透過率Sと透過率Tの和は1であり、S及びTは、いずれも0以上1以下である。光スプリッタ12-nの分岐比はS:Tと定義される。S及びTが採ることができる値の範囲である0以上1以下を規定範囲と呼ぶ。規定範囲に当てはまらないS及びTを特性値として持つ光スプリッタは設計することができない。
【0021】
図3は、第1の実施形態に係る光スプリッタ分岐比算出装置2の構成を示す図である。
光スプリッタ分岐比算出装置2は、計算部21、判定部22、記憶部23を備える。
計算部21は、光スプリッタ12の分岐比を計算する。判定部22は、計算部21が計算した結果を基にして、再度計算を行うか否かを判定する。記憶部23は、計算部21が計算した結果を記憶する。出力部24は、記憶部23から判定部22により指示された計算結果を外部に出力する。
【0022】
《計算部21の計算方法》
図4は第1の実施形態に係る光スプリッタ分岐比算出装置2の動作を示すフローチャートである。
初めに計算部21はONU11が受信する光信号の目標強度を設定する(ステップS1)。計算部21は、目標強度の初期値として、例えば最小受信感度を設定する。計算部21は、光スプリッタ12の分岐比及びONU11-(N+1)の受信強度である最終受信強度を算出する(ステップS2)。計算部21による分岐比及び受信強度の具体的な算出方法は、後述する。
【0023】
判定部22は、最終受信強度と目標強度を比較する(ステップS3)。最終受信強度が目標強度以上である場合(ステップS3:NO)、ステップS2で計算部21が計算した光スプリッタ12の分岐比を記憶部23に記録する(ステップS4)。その後、計算部21は目標強度の値を大きくし(ステップS5)、処理をステップS2に戻す。計算部21は、例えば目標強度の値に所定の単位強度値を加算する。最終受信強度が目標強度未満である場合(ステップS3:YES)、出力部24は記憶部23に記録された最新の計算結果を外部に出力する(ステップS6)。すなわち、出力部24は、今回計算した最終受信強度が目標強度未満となる計算結果を破棄し、前回計算された最終受信強度が目標強度以上となる計算結果を採用する。
【0024】
次に、計算部21が光スプリッタ12の分岐比を計算する方法について説明する。
OLT10が出力する光信号の送信強度をPtx、分岐ファイバ13及び幹線ファイバ14の単位長さあたりの伝送損失をαdB/mとする2≦n≦Nの場合、ONU11-nの受信する光信号の受信強度PRx(n)は式(1)で表される。
【0025】
【数1】
【0026】
n=1の場合、PRx(n)は式(2)で表される。
【0027】
【数2】
【0028】
ここで受信強度PRx(n)が1≦n≦Nで目標強度Pに等しくなることを考える。目標強度Pは任意に定められる値であり、例えば、最小受信感度Pminに近い小さい値に設定する。ただし、Pは、少なくとも最小受信感度Pmin以上の値である。受信強度PRx(n)が目標強度Pと等しいという条件と、式(1)と式(2)より2≦n≦Nの場合のTを表す式(3)及びn=1の場合のT(すなわちT)を表す式(4)が導出される。
【0029】
【数3】
【数4】
【0030】
計算部21は、式(3)及び式(4)を使用してTの値をnが小さい方から算出する。すなわち、計算部21は、木構造の階層の浅い方から順番に、光スプリッタ12の分岐比を決定する。具体的には、最初に計算部21は式(4)によりTの値を算出する。SとTの和が1であるため、計算部21はTの値を使用してSの値を算出する。次に計算部21はSの値を使用して式(3)によりTの値を算出する。計算部21はこの計算を繰り返すことにより1≦n≦Nの場合のS及びTの値を算出する。
【0031】
計算部21は1≦n≦Nの場合のS及びTの値を算出した後に、ONU11-(N+1)が受信する光信号の受信強度PRx(N+1)、すなわち最終受信強度を計算する。最終受信強度PRx(N+1)は式(5)で表される。
【0032】
【数5】
【0033】
最終受信強度PRx(N+1)は、受信強度PRx(1)…PRx(N)と異なり、必ずしも目標強度Pと一致しない。これは、式(1)及び式(2)により表されるPRx(n)が1≦n≦Nの範囲であるためである。最終受信強度PRx(N+1)が目標強度Pより大きい場合、目標強度Pはまだ大きくする余地がある。一般的に光信号の受信強度はマージンを確保する意味で大きい方が良い。そのため、計算部21は目標強度Pの値に所定の単位強度値を加算し、再度式(3)及び式(4)を使用して光スプリッタ12の分岐比を算出する。
【0034】
最終受信強度PRx(N+1)が目標強度P以下である場合、目標強度Pを大きくする余地はない。また、最終受信強度PRx(N+1)が目標強度P以下である場合、最終受信強度PRx(N+1)が最小受信感度Pmin以下となる可能性がある。この場合、ONU11-(N+1)がOLT10から送信される光信号を受信できなくなる。そのため、計算部21は今回計算した最終受信強度が目標強度未満となる計算結果を破棄し、出力部24が前回計算された最終受信強度が目標強度以上となる計算結果を出力する。これにより、光スプリッタ分岐比算出装置2は、ONU11が実現可能な最大の目標強度で受信するような光スプリッタ12の分岐比を算出する。
【0035】
光通信システム1の設計者は、光スプリッタ分岐比算出装置2から出力された計算結果に基づいて、各光スプリッタ12の分岐比を設定する。そして、設計者は、設定した光スプリッタ12を光通信システム1に組み込むことで、光通信システム1を構築する。また、光スプリッタ分岐比算出装置2は、計算結果を図示しない光スプリッタ12の製造装置に出力してもよい。この場合、製造装置は、光スプリッタ分岐比算出装置2から入力された計算結果に基づいて所望の分岐比の光スプリッタ12を製造する。
【0036】
《作用・効果》
このように、第1の実施形態によれば光スプリッタ分岐比算出装置2はONU11が受信する光信号の目標強度Pを設定し、目標強度Pの値を大きくすることと光スプリッタ分岐比を算出する動作を繰り返す。これにより、光スプリッタ分岐比算出装置2はONU11が受信する光信号の強度が最大であり、かつONU11すべてが光信号を受信することができる光スプリッタの分岐比を算出することができる。
【0037】
〈第2の実施形態〉
第1の実施形態に係る光スプリッタ分岐比算出装置2は、光スプリッタ12の分岐比をOLT10に近い光スプリッタ12の分岐比から算出する。つまり、光スプリッタ分岐比算出装置2はSとTを最初に算出し、その後SとTを算出し、最終的にSとTを算出する。第2の実施形態に係る光スプリッタ分岐比算出装置2は、OLT10から最も遠い光スプリッタ12の分岐比から算出する。つまり、光スプリッタ分岐比算出装置2はSとTを最初に算出する。
【0038】
《第2の実施形態に係る算出方法》
第2の実施形態に係る光スプリッタ分岐比算出装置2による光スプリッタ12の分岐比の算出方法について説明する。第2の実施形態において、光スプリッタ分岐比算出装置2はONU11すべてとOLT10の間で光信号が受ける損失が等しくなるような光スプリッタ12の分岐比を算出する。初めに光スプリッタ分岐比算出装置2は、光スプリッタ12-NとONU11-Nの間で光信号が受ける損失と光スプリッタ12-NとONU11-(N+1)の間で光信号が受ける損失が等しくなるように光スプリッタ12-Nの分岐比を算出する。光スプリッタ12-NとONU11-Nの間で光信号が受ける損失は式(6)で表される。
【0039】
【数6】
【0040】
式(6)で表される透過率と経路損失の積を「合計損失」と定義する。光スプリッタ12-NとONU11-(N+1)の間で光信号が受ける合計損失は式(7)で表される。
【0041】
【数7】
式(6)及び式(7)で表される合計損失が等しいとき、ONU11-(N+1)とONU11-Nが受信する光信号の強度は等しい。SとTの和が1であるため、Sは式(8)により表される。
【0042】
【数8】
【0043】
次に光スプリッタ12-(N-1)とONU11-(N-1)の間で光信号が受ける合計損失と光スプリッタ12-(N-1)とONU11-(N+1)の間で光信号が受ける合計損失が等しくなることを考える。光スプリッタ12-(N-1)とONU11-(N-1)の間で光信号が受ける合計損失は、式(9)で表される。
【0044】
【数9】
【0045】
光スプリッタ12-(N-1)とONU11-(N+1)の間で光信号が受ける合計損失は、式(10)で表される。
【0046】
【数10】
【0047】
式(9)及び式(10)で表される合計損失は等しい。さらにSN-1とTN-1の和が1であるため、SN-1は式(11)により表される。
【0048】
【数11】
【0049】
光スプリッタ分岐比算出装置2はこの計算をSが算出されるまで繰り返すことで、光スプリッタ12の分岐比が算出される。すなわち、光スプリッタ分岐比算出装置2は、木構造の階層の深い方から順番に、光スプリッタ12の分岐比を決定する。
【0050】
図5は、第2の実施形態に係る光通信システム1の簡易図である。
第2の実施形態に係る光スプリッタ12の分岐比の算出方法は、図5に示すように光通信システム1が等価損失18を備えると考えると理解が容易になる。図5において等価損失18-Nが光信号に与える損失Aは、光スプリッタ12-NとONU11-(N+1)の間で光信号が受ける合計損失と等しい。損失Aは、式(12)で表される。
【数12】
【0051】
《作用・効果》
このように、第2の実施形態によれば光スプリッタ分岐比算出装置2はONU11とOLT10の間の損失がすべてのONU11において等しくなるように、光スプリッタ12―Nの分岐比から光スプリッタ12-1の分岐比まで順番に算出する。これにより、光スプリッタ分岐比算出装置2は1度の計算により最適な光スプリッタ12の分岐比を算出することができる。
【0052】
〈他の実施形態〉
《変形例1》
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えばファイバの距離LやDが事前に分かっていない場合、光通信システム1は光ファイバ測定部15を備えてもよい。
【0053】
図6は、光ファイバ測定部15を備える光通信システム1を示す図である。
光ファイバ測定部15は幹線ファイバ14の距離を測定する。光ファイバ測定部15の例としてはOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)が挙げられる。
図6に示す光通信システム1は、第1の実施形態に係る光通信システム1に加えて波長合分波器19、光ファイバ測定部15、波長合分波器16、終端器17を備える。
【0054】
波長合分波器19は、OLT10から入力される光信号と光ファイバ測定部15から入力される光を合波し光スプリッタ12-1に出力する。また、波長合分波器19は光スプリッタ12-1から入力される光を分波し、OLT10と光ファイバ測定部15に出力する。光ファイバ測定部15は光を波長合分波器19に出力する。また、光ファイバ測定部15は入力される光を測定し、ファイバの状態を調べる。波長合分波器16は、光スプリッタ12から入力される光を分波し、OLT10が出力した光信号をONU11に出力し、光ファイバ測定部15が出力した光を終端器17に出力する。終端器17は入力される光を終端する。
【0055】
光通信システム1は波長合分波器16及び終端器17を備えており、光ファイバ測定部15が出力する光は分岐ファイバ13を通過しない。光ファイバ測定部15は光スプリッタ12の位置を測定し、幹線ファイバ14の距離Dを測定する。なお、分岐ファイバ13の距離Lを測定することはできないため、計算部21はLに想定される最長の分岐ファイバの長さを代入することで光スプリッタ12の分岐比を算出する。
【0056】
なお、波長合分波器16は光ファイバ測定部15が光ファイバの長さを測定する際に分岐ファイバ13においてレイリー散乱が発生し、測定に影響を与えるのを防ぐために備えられる。また、終端器17は光ファイバ測定部15が光ファイバの長さを測定する際に終端器17の位置で光が反射し、測定に影響を与えるのを防ぐために備えられる。そのため、測定に影響を与えないと考えられる場合は光通信システム1が波長合分波器16及び終端器17を備えなくてもよい。
【0057】
《変形例2》
与えられた条件において、送信強度Ptxが小さいなどの理由から光スプリッタが実現不可能である場合がある。例えば、第一の実施形態において目標強度Pを最小受信感度Pminに設定した場合にいずれかの光スプリッタ12にて0≦S≦1を満たさないとき、すべてのONU11が光信号を受信することは不可能である。この場合、光通信システム1は、送信強度Ptxを大きくして又はONU11を選別しONUの数を少なくして再計算を行う。
【0058】
《変形例3》
第2実施形態に係る光スプリッタ12の分岐比の算出方法において、光スプリッタ12のうち分岐比が変更できない光スプリッタ12が存在する場合、設定可能な光スプリッタ分岐比に制限が生じる。これらの場合、光スプリッタ分岐比算出装置2は、分岐比が変更できない光スプリッタ12の分岐先である2つの経路で算出される合計損失のうち、大きい方の合計損失を等価損失18に設定する。
【0059】
《変形例4》
第2実施形態に係る光スプリッタ12の分岐比の算出方法が適用できるのは、図1に示すバス型のネットワークを採用する光通信システム1に限られない。図7はツリー型のネットワークを採用する光通信システム3の一例である。光通信システム3にも第2実施形態に係る光スプリッタ12の分岐比の算出方法を適用することができる。光スプリッタ分岐比算出装置2は、光通信システム3のネットワーク構造の入力を受け入れ、ONU11及び光スプリッタ12それぞれの段数を特定する。ONU11及び光スプリッタ12の段数は、OLT10と当該ONU11もしくは当該光スプリッタ12との間に存在する光スプリッタ12の数によって表される。例えば、OLT10に直接接続された光スプリッタ12の段数は1段目である。また、1段目の光スプリッタ12に直接接続される光スプリッタ12もしくはONU11の段数は、2段目である。
【0060】
次に、光スプリッタ分岐比算出装置2は、光通信システム3において段数が最も大きいONU11に対して、第2実施形態に係る光スプリッタ12の分岐比の算出方法を適用する。図8は、第2実施形態に係る算出方法を適用した光通信システム3の一例である。図7において4段目の光スプリッタ12から5段目へのONU11への分岐を等価損失18と4段目のONU11に置き換えることで光通信システム3の段数を減らしている。図9図8に示す光通信システム3に第2実施形態に係る算出方法を適用した場合であり、段数が3段にまで減少している。このようにして、光スプリッタ分岐比算出装置2は光通信システム3の段数を減少させていくことで光スプリッタ12の分岐比を算出することができる。
【0061】
光スプリッタ分岐比算出装置2は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備える。光スプリッタ分岐比算出装置2はプログラムを実行することによって計算部21、判定部22、記憶部23、出力部24を備える装置として機能する。なお、光スプリッタ分岐比算出装置2の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1、3、100…光通信システム、10、90…OLT、11、91…ONU、12…光スプリッタ、13、93…分岐ファイバ、14、94…幹線ファイバ、15…光ファイバ測定部、16、19…波長合分波器、17…終端器、18…等価損失、2…光スプリッタ分岐比算出装置、21…計算部、22…判定部、23…記憶部、24…出力部、92…等分岐光スプリッタ、95…不等分岐光スプリッタ
図1
図2
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図4
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