(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】止血剤
(51)【国際特許分類】
A61L 26/00 20060101AFI20231122BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20231122BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20231122BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20231122BHJP
A61L 15/20 20060101ALI20231122BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20231122BHJP
A61L 15/22 20060101ALI20231122BHJP
A61L 15/32 20060101ALI20231122BHJP
A61L 15/28 20060101ALI20231122BHJP
A61L 15/58 20060101ALI20231122BHJP
A61L 24/00 20060101ALI20231122BHJP
A61L 24/04 20060101ALI20231122BHJP
A61L 24/08 20060101ALI20231122BHJP
A61L 24/10 20060101ALI20231122BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20231122BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20231122BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20231122BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20231122BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231122BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20231122BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231122BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20231122BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20231122BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20231122BHJP
【FI】
A61L26/00
A61P7/04
A61P19/08
A61P1/02
A61L15/20 100
A61L15/26 100
A61L15/22 310
A61L15/22 100
A61L15/32 100
A61L15/28 100
A61L15/58 100
A61L24/00 310
A61L24/00 311
A61L24/04 100
A61L24/04 200
A61L24/08
A61L24/10
A61L24/00 200
A61L24/04
A61L31/04
A61L31/04 100
A61L31/06
A61L31/04 120
A61L31/12 100
A61L31/12 110
A61L31/14
A61K9/08
A61K9/70 401
A61K47/10
A61K47/30
A61K47/38
A61K47/42
(21)【出願番号】P 2019026826
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2022-01-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591219566
【氏名又は名称】青葉化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【氏名又は名称】須田 篤
(72)【発明者】
【氏名】城戸 浩胤
(72)【発明者】
【氏名】千葉 克則
(72)【発明者】
【氏名】有馬 大紀
(72)【発明者】
【氏名】大畑 建治
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-085328(JP,A)
【文献】特開2001-172151(JP,A)
【文献】特開平10-085318(JP,A)
【文献】特表2016-536042(JP,A)
【文献】特表2018-506410(JP,A)
【文献】特開2012-210479(JP,A)
【文献】特表2008-523149(JP,A)
【文献】特開2012-237083(JP,A)
【文献】特開2008-285461(JP,A)
【文献】特開2010-284373(JP,A)
【文献】国際公開第2012/036064(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0275361(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンおよび脂肪酸の鎖長の炭素数が12以下のデカグリセリン脂肪酸エステルと、分子量2,000以上100,000以下のゼラチンと、水とを4:1:5の重量比で含むことを特徴とする液状高分子化合物組成物
を含む止血剤。
【請求項2】
シート材の片面に前記液状高分子化合物組成物が付着されていることを特徴とする請求項1記載の止血剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止血剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の組織損傷による体液(血液、組織液など)漏出を防ぐ組織閉塞は、手術などの臨床上、重要な意味を持つ。損傷部からの体液漏出を効果的に抑えることは、患者の手術中の生命維持、術後の生活の質(QOL)の向上につながる。
【0003】
臨床においては、止血が重要視される。その理由として、以下が挙げられる。
1.失血は死亡の大きな要因の1つであり、失血要因には、重篤な外傷、動脈瘤、食道や胃における潰瘍、および食道静脈瘤の破裂などがある。特に、緊急に止血治療を受けることができない場合には、死亡の可能性が高くなる。
2.手術時における出血は、手術における大きな懸念の一つで、出血により、全身感染症や臓器の機能不全が生じる。また、出血は術野を妨げるだけでなく、出血した血液の除去は手術の遅延につながる。
3.出血は、最小侵襲手術(腹腔鏡下手術など)を行っている場合でも問題となり、出血を十分に抑制できない場合、切開手術に変更せざるをえない場合もある。
【0004】
既存の止血方法としては、以下が挙げられる。
1.出血部の血管に直に圧迫する方法(圧迫止血)。この止血法の欠点は、時間と手間がかかり圧力を維持しておく必要がある点、また患者に血腫ができる恐れがある点である。
2.その他の物理的手段による止血方法として、出血部近傍をクランプ、クリップする方法、出血部にプラグやスポンジのようなものを乗せる方法がある。これらの止血法の欠点は、多数の微小血管から出血している場合に扱いが困難である点である。
3.熱によって血液を凝固させ、出血している血管を焼灼する方法(電気メス)。この方法の欠点は、周囲組織を熱損傷させ患者への侵襲が大きい点、医療用器具が必要で専門性を要する点である(医療機関以外では使用できない)。
【0005】
既存の止血材としては、以下が挙げられる。
1.アルギン酸
2.ゼラチンスポンジ
3.コラーゲン線維
4.フィブリン糊。
5.自己組織合成ペプチド
上記のうちコラーゲン線維とフィブリン糊が効果的な止血材として、臨床でしばしば利用されている。これらの欠点として、(1)ゼラチンとコラーゲン線維は動物性コラーゲン、フィブリン糊は血液製剤とウシ由来トロンビンを使用した動物由来製品であるため、感染症の危険性がある、(2)透明でないため術野の妨げとなる、点が挙げられる。
【0006】
手術において患者の血液凝固能を人為的に低下させた、ヘパリン血状態にすることがある。人工心肺を使用する手術においては、血液凝固を抑えるためにヘパリンを使用する。人工心肺装置は生体にとって異物であり、血液をそのまま人工心肺装置へ流すと、すぐに血液が凝固し回路が詰まってしまうため、体外循環を行う前にヘパリンを血液に投与する。
【0007】
コラーゲン線維、フィブリン糊は、生体の血液凝固系を利用して止血するため、ヘパリン血状態では、止血効果が低下する。止血効果が低下すると出血量が多くなるため輸血が必要になりやすく、また体外循環終了後の完全止血にも長時間を要する。したがって、ヘパリン血状態でも性能が低下しない血液凝固作用を利用しない止血材が求められている。
【0008】
血管縫合は心臓・血管系手術だけでなく、一般的な腹腔内手術時にも必要になることがある。術後、血管縫合部からわずかな血液漏出があるため、それを持続的に抑える止血材が求められている。
【0009】
胆汁婁・膵液婁は、胆道系手術、膵炎や膵臓手術などによって胆汁、膵液が漏れ出し、他の臓器に悪影響を及ぼす症状のことである。現在、胆汁や膵液の漏出を効果的に抑え、かつ臨床使用可能な物質は知られておらず、安全かつ効果的に胆汁婁・膵液婁を防ぐ方法が求められている。
【0010】
肺において、肺胞の嚢包が破れる自然気胸や、肋骨骨折やカテーテル穿刺等の外傷性気胸などにより、空気が漏出する病状が知られている。症状によっては自然治癒を待つしかなく、患部に上層するだけで肺組織と接着し、嚢包の穴を塞ぐことが可能な方法は、気胸を治療する手段として、簡便かつ安全性が高い方法の一つと考えらえる。
【0011】
内視鏡技術の発達により、病変部を内視鏡的に切除する技術が開発されてきている。特に食道、胃又は腸を含む消化管のポリープや早期がん(リンパ節転移がないと考えられている表層癌)等の病変部を内視鏡的に切除する手術法が確立されてきている。内視鏡的粘膜切除術では、一般的に病変部を含む粘膜下層に高張食塩水などを注入して病変部を隆起させ、切除部分を把持しながら電気メスなどにより病変部を含む組織の切除を行う。
当該手技において、病変部と固有筋層を引き離すために粘膜下層へ高張食塩水等の溶液を注入するが、食塩水等の粘性の低い溶液では病変部の隆起を手術中維持できないという問題点があり、患部の隆起を手術中維持可能な注入液が望まれている。
また、病変部切除部からの出血をトロンビンなどの血管収縮剤をカテーテルを利用して投与することで出血を抑制する方法が用いられるが、完全に出血を止める効果的な処置法は確立されておらず、切除後の出血を速やかに止める方法も同時に求められている。
【0012】
カテーテル療法の発達により、腫瘍や筋腫等の血流支配をうける病変部へ流入する動脈を閉塞させることにより、腫瘍や筋腫等を死滅させる手術方法が確立されてきている。具体的には、肝臓脈閉塞術、子宮動脈閉塞術、脳動脈閉塞術等を挙げることができる。
当該手技において、動脈を閉塞させるために、異種動物から抽出されたコラーゲンやエチレンビニルアルコールなどの液体を注入するが、感染の危険性や生体毒性が懸念されている。そこで、感染の危険性がなく、かつ、生体毒性の低い注入液の開発が望まれている。
また、注入液は、抗癌剤や造影剤の添加が可能なものが求められている。
【0013】
そこで、近年、その物理的、化学的、生物学的性質から、新規マテリアルとして注目を浴びている高度に制御された自己組織化ペプチドがある。そのアミノ酸配列により、多数のペプチド分子が規則正しく並んだ自己会合体を形成する特性を有する。
自己組織化ペプチドは、電荷を帯びた親水性アミノ酸と電気的に中性な疎水性アミノ酸が交互に並び、正電荷と負電荷が交互に分布する構造をもち、生理的なpHと塩濃度においてβ構造をとる。
【0014】
自己組織化ペプチドの止血への応用では、肝臓切開部末端から持続的な血液漏出が認められ、完全止血ができていない。止血が不完全な理由は、自己組織化ペプチドゲルと組織の接着が不十分なためと推測される。したがって、自己組織化ペプチドの止血効果を臨床応用可能なレベルにまで引き出すためには、さらなる改良が必要である。
【0015】
また、伝統的な圧迫止血・縫合止血は、限界が指摘されている。現在市販されている止血剤や組織接着剤であるフィブリン糊は、ウイルス感染の危険性が高く、接着強度が弱いという問題点がある。
フィブリン糊と同様に臨床で用いられている、ゼラチンに架橋剤であるホルムアルデヒドやグルタルアルデヒドなどを加えてゲル化させたポリアミン-アルデヒド系は、血管閉塞等の後遺障害の可能性や低分子アルデヒド類の高い神経・組織障害性が指摘されており、決して満足のいくようなものではない。
【0016】
これらの問題点を克服すべく、多くの研究が実施されている。例えば、食品添加物を原料とするデキストランとε-ポリ-L-リジン(以下、単にε-PLLとも称する)を原料とする、架橋型シッフ塩基形成に基づく接着剤が研究されている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。
【0017】
また、強度的に強い接着剤としてはクエン酸を活性エステル化した誘導体とコラーゲン等のタンパクを接着成分とする組織接着剤も研究されている(例えば、特許文献2および非特許文献2参照)。
また、使用前にゼラチン溶液とトランスグルタミナーゼ溶液とを混合して使用する止血剤が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】国際公開第2009/057802号
【文献】特開2004-261222号公報
【文献】特表2010-521994号公報
【非特許文献】
【0019】
【文献】玄丞烋、中島直喜.須賀井一、堤定美、歯科材料・器械、25、401 (2006)
【文献】田口哲志、工業材料、55、41 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、特許文献1および非特許文献1に記載のε-PLL原料の接着剤では、ゲル強度が市販止血剤であるフィブリン糊よりも劣り、止血材としての強度不足が懸念されるという課題があった。
また、特許文献2および非特許文献2に記載の組織接着剤では、活性エステル化合物が化学的に不安定であり、水溶液での長期保存が不可能なため、使用直前に生体に悪影響を及ぼすリスクを有する溶媒に溶解させる必要性があり、さらに医師が外科手術などで緊急に使用するときにはすぐに使用できないために支障を来す可能性が高いという課題があった。
また、これらの接着剤は、非常に高価であるという課題があった。
特許文献3に記載の止血剤では、使用前にゼラチン溶液とトランスグルタミナーゼ溶液とを混合するため、すぐに使用できないという課題があった。
【0021】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、強度が大きく、安全性が高く、すぐに使用でき、安価に製造可能な止血剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ゼラチン、コラーゲンペプチド及び水溶性セルロースの1種または2種以上の組み合わせを多価アルコールまたはその誘導体の水溶液に溶解させたものが、従来ない、粘弾性がありながらも形状変化し、組織吸着性のあるものであることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0023】
即ち、本発明に関する液状高分子化合物組成物は、グリセリンおよび脂肪酸の鎖長の炭素数が12以下のデカグリセリン脂肪酸エステルと、分子量2,000以上100,000以下のゼラチンと、水とを4:1:5の重量比で含むことを特徴とする。
【0024】
前記ゼラチンは分子量2,000以上100,000以下である。
【0026】
本発明に関する液状高分子化合物組成物は、分子量2,000以上100,000以下の親水性高分子化合物を多価アルコールまたはその誘導体の水溶液に溶解させることにより製造することができる。
【0027】
本発明に係る止血剤は、前述の液状高分子化合物組成物を含む。
本発明に関する医療材料としては、例えば、生体用組織接着剤、止血剤、細胞保存液、臓器保存液、人工軟膏、歯槽骨再建剤、生体組織癒着防止剤、粘膜隆起剤または後出血防止剤が挙げられる。本発明に係る止血剤は、シート材の片面に本発明に関する液状高分子化合物組成物が付着されていてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、強度が大きく、安全性が高く、すぐに使用でき、安価に製造可能な止血剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態の液状高分子化合物組成物および医療材料について説明する。
本発明の実施の形態の液状高分子化合物組成物は、多価アルコールまたはその誘導体および親水性高分子化合物を含む。
【0030】
多価アルコールまたはその誘導体は、水酸基を有しながらも簡単に気化してしまわないよう、沸点が100℃以上のもの、より好ましくは150℃以上のもの、さらに好ましくは170℃以上のものが好ましい。多価アルコールまたはその誘導体としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ナノグリセリン、デカグリセリンおよびそれらの脂肪酸誘導体が挙げられる。
【0031】
但し、グリセリンの脂肪酸エステルの鎖長が長くなればなるほど、水溶性が下がることから、鎖長は短いほうが好ましい、グリセリンの脂肪酸エステルの鎖長は、炭素数が18以下、より好ましくは14以下、さらに好ましくは12以下が好ましい。多価アルコールまたはその誘導体は、重合度1~10のオリゴグリセリンまたはその誘導体から成ることが特に好ましい。
【0032】
親水性高分子化合物としては、コラーゲン、ゼラチン、コラーゲンペプチド、ヒアルロン酸、アルギン酸、キチン、キトサン、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、化工でんぷんなどを例示することができる。特に、親水性高分子化合物として、水に溶解させることができ、加工性に優れることから、ゼラチン、コラーゲンペプチド及び水溶性セルロースの1種または2種以上の組み合わせを用いることが好ましく、さらに、抗原性を低減した分子量2,000以上100,000以下のゼラチンもしくはコラーゲンペプチド、または、1000,000以下のヒドロキシプロピルセルロースから成ることがより好ましく、分子量30,000以上100,000以下が特に好ましい。
【0033】
本発明の実施の形態の液状高分子化合物組成物は、全重量に対し、多価アルコールまたはその誘導体48~68重量%、親水性高分子化合物25~48重量%を含むことが好ましい。この配合比率の場合、本発明の実施の形態の液状高分子化合物組成物は、粘弾性を有しながら、変形性を有し、臓器への高い組織接着性を有する。
【0034】
分子量2,000以上100,000以下の親水性高分子化合物のみの場合、透明性が低く、組織接着性は低い。それに対し、多価アルコールまたはその誘導体と分子量2,000以上300,000以下の親水性高分子化合物とを含む液状高分子化合物組成物は、多価アルコールまたはその誘導体を含ませることにより、透明性が上がり、変形性を維持しながら、ゲル強度が格段に向上する。特に、親水性高分子化合物がコラーゲン、ゼラチンまたはコラーゲンペプチドから成る場合、その効果は顕著である。多価アルコールまたはその誘導体と、ゼラチンまたはコラーゲンペプチドとの組成物は、医療材料として用いたとき、生体組織の水分を吸水し、ヒドロゲル状になり、高い密着、圧着効果を奏する。
【0035】
本発明の実施の形態の液状高分子化合物組成物は、分子量2,000以上300,000以下の親水性高分子化合物を多価アルコールまたはその誘導体の水溶液に溶解させることにより製造することができる。
【0036】
本発明の実施の形態の医療材料は、前述の液状高分子化合物組成物を含む。本発明の実施の形態の医療材料は、液状高分子化合物組成物により、粘弾性を有しながら、変形性を維持し、組織接着性を有する。本発明の実施の形態の医療材料には、腫瘍マーカーや医療用蛍光・発行剤、診断用金属、量子ドット、賦形剤、蛋白質、キレート剤、乳化剤、着色剤、その他の医薬部外品が混合されてもよい。医療材料として、生体用組織接着剤、止血剤、細胞保存液、臓器保存液、人工軟膏、歯槽骨再建剤、生体組織癒着防止剤、粘膜隆起剤および後出血防止剤などが挙げられる。
本発明の実施の形態の医療材料は、生体組織に付着させて用いることができる。生体組織への付着方法としては、シリンジによる投入が挙げられる。本発明の実施の形態の医療材料の上にシート材その他の被覆材が張り付けられてもよい。
【0037】
本発明の実施の形態の医療材料は、シート材の片面に前述の液状高分子化合物組成物が付着されて成っていてもよい。シート材は、多価アルコールまたはその誘導体と分子量2,000以上300,000以下の架橋した親水性高分子化合物とを含むシート状の天然高分子化合物組成物から成ることが好ましい。その天然高分子化合物組成物は、架橋剤としてトランスグルタミナーゼを含むことが好ましい。親水性高分子化合物は、分子量2,000以上100,000以下のゼラチンまたはコラーゲンペプチドから成ることが好ましい。また、その多価アルコールまたはその誘導体は、重合度1~10のオリゴグリセリンまたはその誘導体から成ることが好ましい。特に、天然高分子化合物組成物のシート材は、架橋剤を含む点を除き、付着される液状高分子化合物組成物と同一の成分、配合から成ることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
グリセリン:ゼラチン粉末(ニッピ社製):水の重量比が4:1:5の液状高分子化合物組成物を作製した。ゼラチン粉末は、分子量8,000のものを用いた。液状高分子化合物組成物は、それらの材料を混合、撹拌し、グリセリンおよびゼラチン粉末を水に溶解させて作製した。作製した液状高分子化合物組成物は、止血剤として用いられる。
【0040】
(実施例2)
グリセリン:ゼラチン粉末(ニッピ社製):水の重量比が4:1:5の液状高分子化合物組成物を作製した。ゼラチン粉末は、分子量100,000のものを用いた。液状高分子化合物組成物は、それらの材料を混合、撹拌し、グリセリンおよびゼラチン粉末を水に溶解させて作製した。作製した液状高分子化合物組成物は、止血剤として用いられる。
【0041】
(実施例3)
止血剤の液状高分子化合物組成物を作製した。グリセリン:分子量3,000のゼラチン粉末(ニッピ社製):水の重量比が6:2:4の水溶液を作製し、溶液をシャーレに流延し、-80℃の冷凍庫に6時間入れてゼラチン水溶液を凍結させた後、凍結乾燥機中で48時間、凍結乾燥処理し、水で50%希釈して液状高分子化合物組成物の止血剤を作製した。止血剤は、止血部位に投入した後、止血部位に広げて用いられる。
【0042】
(実施例4)
ゼラチン粉末(ニッピ社製)の代わりに、ゼラチン粉末(ニッピ社製)とヒドロキシプロピルセルロース(商品名「メトセル」、ダウケミカル社製)とを2:3の重量比で混合した点を除き、実施例1と同様の方法で液状高分子化合物組成物の止血剤を作製した。
【0043】
(実施例5)
グリセリンの代わりに、グリセリンとデカグリセリンモノラウリン酸エステル(三菱ケミカルフーズ社製)を9:1の重量比で混合した点を除き、実施例1と同様の方法で液状高分子化合物組成物の止血剤を作製した。
【0044】
(実施例6)
グリセリン:ゼラチン粉末(ニッピ社製):トランスグルタミナーゼ(味の素社製)を2:2:0.01の組成重量比で準備した。ゼラチン粉末は、分子量30,000以上300,000以下のものを用いた。トランスグルタミナーゼは、酵素活性86U/gのものを用いた。グリセリン:ゼラチン粉末:水の重量比が2:2:6の水溶液を作製し、この水溶液を25℃に保ち、トランスグルタミナーゼを添加した。この混合水溶液を冷蔵庫に入れ、5℃で一昼夜反応させた。その後、ホモミキサーを用いて、回転数18000rpmで10分間撹拌し、均質化した。撹拌後の溶液をシャーレに流延し、-80℃の冷凍庫に6時間入れてゼラチン水溶液を凍結させた後、凍結乾燥機中で48時間、凍結乾燥処理した。こうして、厚さ355μmのシート状に成形された架橋ゼラチン多孔質体から成る天然高分子化合物組成物の止血材を作製した。
そのシート状止血材の片面に実施例1の止血剤を塗布し、層状止血材を作製した。
【0045】
(比較例1)
グリセリンのみから成る止血剤を準備した。
(比較例2)
分子量300,000の10%ゼラチン水溶液のみから成る止血剤を準備した。
【0046】
[止血試験1]
ラット肝臓生検トレパンモデルを用いて、実施例1~3の止血剤による止血効果を確認した。
ラット肝臓生検トレパンモデルには、以下のラットを用いた。
ラット
Jcl/Wister♂
5W:110~130g
【0047】
ラット肝臓部位を3cm生検トレパンでくり抜き、出血することを確認し、これを出血モデルとした。
実施例1~5および比較例1,2の各止血剤をシリンジで各ラットの出血部位にそれぞれ等量投入し、止血状態を観察した。また、止血剤および止血材を用いない未処置の出血モデルについて、止血状態を観察した。
止血剤を投入から1分後、各止血剤をふき取り、止血状態を観察した。
その結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
比較例1では血液といっしょに止血剤が流れてしまった。比較例2では出血部位の一部が固まって、そのわきから出血が止まらなくなった。表1に示すように、比較例1,2では止血効果はなかった。これに対し、実施例1~3では止血効果が確認できた。
【0050】
[止血試験2]
ラット脊髄静脈を用いて、実施例1~5の止血剤による止血効果を確認した。
以下のラットを用いた。
ラット
Jcl/Wister♂
5W:110~130g
【0051】
ラット脊髄静脈を22Gのシリンジで突き刺し、出血することを確認し、これを出血モデルとした。
実施例1~5および比較例1,2の各止血剤をシリンジ22Gで各ラットの出血部位に投入し、止血状態を観察した。各止血剤の投入量は、止血試験1で用いた量を1とした場合の比率で示した。各止血剤の投入は、止血するか、または比率10に達するまで行った。また、止血剤および止血材を用いない未処置の出血モデルについて、止血状態を観察した。
その結果を表2に示す。
【0052】
【0053】
表2に示すように、比較例1では、比率10に達するまで投入しても全く止血できなかった。比較例2では、比率10に達するまで投入しても止血剤の横のいくつもの場所から血液が漏れて、止血できなかった。このように、比較例1,2では止血効果はなかった。これに対し、実施例1~5は止血効果が確認できた。特に、実施例5では、短時間でしっかり止血効果が確認できた。
【0054】
[止血試験3]
ラット肝臓部位を22Gのシリンジで突き刺し、出血することを確認し、これを出血モデルとした。
実施例1で使用した液体止血剤を用いて2種類の方法で止血し、止血状態を確認した。止血剤を投入から1分後、各止血剤をふき取り、止血状態を観察した。
(方法1)
出血部位に実施例1の止血剤を投入し、その上に実施例6のシート状止血材をかぶせて、止血状態を観察した。
(方法2)
実施例1の止血剤をシート状止血材に塗布して成る実施例6の層状止血材を、出血部位にかぶせ、止血状態を観察した。
(比較例3)
出血部位にシート状止血材(商品名「インテグラン」、日本臓器製薬製)をかぶせて、止血状態を観察した。
その結果を表3に示す。
【0055】
【0056】
比較例3は止血したが、シートから血液が染み出ていたのに対し、方法1,2では止血効果が確認できた。方法1,2は、止血試験1の実施例1~5以上に、止血効果が大きかった。
【0057】
[止血試験4]
マウス肝臓注射針穿孔モデルを用いて、実施例1~3の止血剤および実施例6のシート状止血材の組合せによる止血効果を確認した。
マウス肝臓注射針穿孔モデルには、以下のマウスを用いた。
マウス
BALB/CAJCl♂
5W:20~22g
【0058】
マウス肝臓部位を22Gのシリンジで突き刺し、出血することを確認し、これを出血モデルとした。
実施例1~3の各止血剤をシリンジで各マウスの出血部位に投入した。その後、止血部位に実施例6のシート状止血材を貼り、止血状態を観察した。比較のため、比較例3のように、止血部位にシート状止血材(商品名「インテグラン」、日本臓器製薬製)をかぶせて、止血状態を観察した。また、止血剤および止血材を用いない未処置の出血モデルについて、止血状態を観察した。
止血材を貼ってから1分後、各止血剤と止血材をふき取り、止血状態を観察した。
その結果を表4に示す。
【0059】
【0060】
比較例3では血液といっしょに止血剤が流れてしまい、表4に示すように止血効果はなかった。これに対し、実施例1~3では止血効果が確認できた。実施例1~3の止血剤とともにシート状止血材を用いた圧迫止血の場合には、特に止血効果が大きかった。