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特許7389438納豆、納豆の製造方法、並びに、納豆の後味の改善方法
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  • 特許-納豆、納豆の製造方法、並びに、納豆の後味の改善方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】納豆、納豆の製造方法、並びに、納豆の後味の改善方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/50 20210101AFI20231122BHJP
【FI】
A23L11/50 209Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021574559
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2020049071
(87)【国際公開番号】W WO2021153141
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2020014279
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(73)【特許権者】
【識別番号】317006214
【氏名又は名称】株式会社Mizkan
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河 広倫
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 秀之
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】LIU, YE et al.,Comparative study of volatile aroma compounds in eight kinds of ratio,Science and Technology of Food Industry,2016年,Vol.37, No.5,p302-307
【文献】LEEJEERAJUMNEAN, ARUNSRI et.al,Volatile compounds in Bacillus-fermented soybeans,Journal of the Science of Food and Agriculture,2001年,Vol.81, No.5,p525-529
【文献】SUGAWARA ETSUKO et.al,Comparison of Compositions of Odor Components of Natto and Cooked Soybeans,Agric. Biol. Chem.,1985年,Vol.49, No.2,p311-317
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 11/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(e)の要件を満たす納豆。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
(c)イソ吉草酸の含有量(α)が納豆湿重量100gあたり1mg以上15mg以下であり、
(d)イソ酪酸の含有量(β)が納豆湿重量100gあたり5mg以上40mg以下であり、
(e)前記α、βが以下の関係式1を満たすこと。
2≧α/β≧0.025 (式1)
【請求項2】
以下の(a)~(b)及び(f)~(g)の要件を満たす納豆。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
(f)4-ビニルグアヤコールの含有量(z)が納豆湿重量1kgあたり0.1mg以上5mg以下であり、
(g)前記x、y、zが以下の関係式2を満たすこと。
50≧ z /(x+y)≧0.02 (式2)
【請求項3】
以下の(a)~(b)及び(h)の要件を満たす納豆。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
(h)レバンの含有量(δ)が納豆湿重量1gあたり1.5mg以上20mg以下であること。
【請求項4】
さらに、以下の(i)~(j)の要件を満たす請求項に記載の納豆。
(i)前記PGAの含有量(ε)が納豆湿重量1gあたり0.01mg以上1.0mg以下であり、
(j)δ、εが以下の関係式3を満たすこと。
200≧δ/ε≧2 (式3)
【請求項5】
以下の(a)~(b)及び(k)~(l)の要件を満たす納豆。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
(k)納豆40gを水80mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液を分光光度計にて波長660nmで測定した前記抽出液の濁度が、0.5以上4.5以下であり、
(l)納豆40gを水40mLに撹拌した後、豆部を除去して得た抽出液を透過方式で測定した場合の表色がL * a * b * 色空間において、以下の範囲であること。
80≧L * ≧40
5≧a * ≧-5
30≧b * ≧10
【請求項6】
以下の(a)~(b)及び(m)の要件を満たす納豆。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
(m)納豆40gを水40mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液の粘度がB型粘度計(60rpm、25℃、ローターNo.2)の条件において5mPa・s以上180mPa・s以下であること。
【請求項7】
さらに以下の(c)~(e)の要件を満たす請求項2~6のいずれか1項に記載の納豆。
(c)イソ吉草酸の含有量(α)が納豆湿重量100gあたり1mg以上15mg以下であり、
(d)イソ酪酸の含有量(β)が納豆湿重量100gあたり5mg以上40mg以下であり、
(e)前記α、βが以下の関係式1を満たすこと。
2≧α/β≧0.025 (式1)
【請求項8】
さらに以下の(f)~(g)の要件を満たす請求項1及び3~6のいずれか1項に記載の納豆。
(f)4-ビニルグアヤコールの含有量(z)が納豆湿重量1kgあたり0.1mg以上5mg以下であり、
(g)前記x、y、zが以下の関係式2を満たすこと。
50≧ z /(x+y)≧0.02 (式2)
【請求項9】
さらに、以下の(h)の要件を満たす請求項1~2及び4~6のいずれか1項に記載の納豆。
(h)レバンの含有量(δ)が納豆湿重量1gあたり1.5mg以上20mg以下であること。
【請求項10】
さらに、以下の(i)~(j)の要件を満たす請求項に記載の納豆。
(i)前記PGAの含有量(ε)が納豆湿重量1gあたり0.01mg以上1.0mg以下であり、
(j)δ、εが以下の関係式3を満たすこと。
200≧δ/ε≧2 (式3)
【請求項11】
さらに、以下の(k)~(l)の要件を満たす請求項1~4及び6のいずれか1項に記載の納豆。
(k)納豆40gを水80mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液を分光光度計にて波長660nmで測定した前記抽出液の濁度が、0.5以上4.5以下であり、
(l)納豆40gを水40mLに撹拌した後、豆部を除去して得た抽出液を透過方式で測定した場合の表色がL*a*b*色空間において、以下の範囲であること。
80≧L*≧40
5≧a*≧-5
30≧b*≧10
【請求項12】
さらに、以下の(m)の要件を満たす請求項1~5のいずれか1項に記載の納豆。
(m)納豆40gを水40mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液の粘度がB型粘度計(60rpm、25℃、ローターNo.2)の条件において5mPa・s以上180mPa・s以下であること。
【請求項13】
納豆の製造方法であって、蒸煮大豆又は煮大豆に納豆菌を植菌し、品温が45℃以上54℃以下に7時間以上15時間以下維持して高温発酵すること、並びに、熟成完了時に以下の(a)~(b)の要件を満たすように製造することを特徴とする納豆の製造方法。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
【請求項14】
納豆の製造方法であって、3回以上植え継ぎ操作を行った納豆菌株から選抜した糸引きの弱い納豆菌を用いること、並びに、熟成完了時に以下の(a)~(b)の要件を満たすように製造することを特徴とする納豆の製造方法。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
【請求項15】
納豆を製造するに際し、熟成完了時における納豆が以下の(a)~(e)の要件を満たすように製造することを特徴とする納豆の後味の改善方法。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
(c)イソ吉草酸の含有量(α)が納豆湿重量100gあたり1mg以上15mg以下であること。
(d)イソ酪酸の含有量(β)が納豆湿重量100gあたり5mg以上40mg以下であること。
(e)前記α、βが以下の関係式1を満たすこと。
2≧α/β≧0.025 (式1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、糸引き納豆(大豆を納豆菌で発酵させた納豆菌発酵物全般を指す。以下、単に“納豆”と呼称することもある。)に特定の香気成分を含有させることにより、従来の糸引き納豆で課題であった、特に納豆以外の食品との組み合わせにおける、後味の改善、さらに外観、利便性の向上をもたらす技術に関する。
【背景技術】
【0002】
糸引き納豆は、日本古来の発酵食品であり、大豆タンパク質を豊富に含み栄養価が高いため、日本人の日常食品の一つとなっている。
【0003】
その一方で、納豆菌で発酵させた糸引き納豆は、通常の方法で製造すると特有の風味により、消費者の嗜好性が分かれ、特に糸引き納豆を常食しない日本人以外の外国人には忌避される傾向が強いという問題点があった。
【0004】
特に納豆を納豆以外の食品素材と組み合わせた納豆含有食品においては、納豆特有の強烈な風味が納豆含有食品おいしさを損ない、嗜好性を低下させることがあった。
【0005】
また、納豆菌の代謝物に起因する白い膜のような外観や、γ-ポリグルタミン酸(以下PGAと略記する場合もある。)を主体とした糸引きも、組み合わせた食品素材の嗜好性を低下させる要因となっていた。
【0006】
そのため、納豆を他の食品素材と組み合わせた場合にも嗜好性を低下させることなく、自由に食品素材と組み合わせることが可能な納豆に関する技術の確立が求められていた。
【0007】
このような課題に対応する技術として、例えば糸引きの少ない納豆菌で製造した納豆に関する技術(特許文献1参照)やムレ臭を減感させた納豆に関する技術(特許文献2参照)などが挙げられる。
【0008】
しかしながら、これらの技術は、納豆の糸引きや不快臭の低減にのみ関与する技術であり、全般的なおいしさの向上に寄与するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-208319号公報
【文献】特開2000-354493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示は、上記従来の問題点を解消し、特に納豆と他の食品素材を組み合わせた場合の後味を改善した新規な納豆を提供する技術に関する。
また、本開示は、納豆表面に特有のつやを有する外観が良好な新規な納豆を提供する技術も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示者は、上記従来の問題点を解消すべく鋭意検討を重ね、2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジンを所定濃度に含有させること、さらにイソ酪酸、イソ吉草酸、4-ビニル-グアヤコールを必要に応じて所定濃度で含有させるという簡易な手段で、上記従来の問題を解消し得ることを見出し、この知見に基づいて本開示を完成したものである。
また、納豆の懸濁液の濁度、表色を所定の範囲に調整することにより、豆の表面につやが感じられる嗜好性の高い外観を有する新規の納豆の製造を可能となることも見出した。
【0012】
すなわち本開示は、以下の(1)から(13)まで(以下、これを順に、「本開示の第1の形態」から「本開示の第13の態様」までとする。)に関する。
なお、以下の(1)から(13)までの記載の存在によって、本開示の範囲は限定解釈されるものではない。
(1)以下の(a)~(b)の要件を満たす納豆。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であ
ること。
(2)さらに以下の(c)~(e)の要件を満たす前記(1)に記載の納豆。
(c)イソ吉草酸の含有量(α)が納豆湿重量100gあたり1mg以上15mg以下であり、
(d)イソ酪酸の含有量(β)が納豆湿重量100gあたり5mg以上40mg以下であり、
(e)前記α、βが以下の関係式1を満たすこと。
2≧α/β≧0.025 (式1)
(3)さらに以下の(f)~(g)の要件を満たす前記(1)又は前記(2)に記載の納豆。
(f)4-ビニルグアヤコールの含有量(z)が納豆湿重量1kgあたり0.1mg以上5mg以下であり、
(g)前記x、y、zが以下の関係式2を満たすこと。
50≧z /(x+y)≧0.02 (式2)
(4)さらに、以下の(h)の要件を満たす前記(1)から前記(3)のいずれか1項に記載の納豆。
(h)レバンの含有量(δ)が納豆湿重量1gあたり1.5mg以上20mg以下であること。
(5)さらに、以下の(i)~(j)の要件を満たす前記(4)に記載の納豆。
(i)PGAの含有量(ε)が納豆湿重量1gあたり0.01mg以上1.0mg以下であり、
(j)δ、εが以下の関係式3を満たすこと。
200≧δ/ε≧2 (式3)
(6)さらに、以下の(k)~(l)の要件を満たす前記(1)から前記(5)のいずれか1項に記載の納豆。
(k)納豆40gを水80mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液を分光光度計にて波長660nmで測定した前記抽出液の濁度が、0.5以上4.5以下であり、
(l)納豆40gを水40mLに撹拌した後、豆部を除去して得た抽出液を透過方式で測定した場合の表色がL*a*b*色空間において、以下の範囲であること。
80≧L*≧40
5≧a*≧-5
30≧b*≧10
(7)さらに、以下の(m)の要件を満たす前記(1)から前記(6)のいずれか1項に記載の納豆。
(m)納豆40gを水40mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液の粘度がB型粘度計(60rpm、25℃、ローターNo.2)の条件において5mPa・s以上180mPa・s以下であること。
(8)納豆の製造方法であって、熟成完了時に以下の(a)~(b)の要件を満たすように製造
することを特徴とする納豆の製造方法。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
(9)さらに熟成完了時に以下の(c)~(e)の要件を満たすように製造することを特徴とする、前記(8)に記載の納豆の製造方法
(c)イソ吉草酸の含有量(α)が納豆湿重量100gあたり1mg以上15mg以下であり、
(d)イソ酪酸の含有量(β)が納豆湿重量100gあたり5mg以上40mg以下であり、
(e)前記α、βが以下の関係式1を満たすこと。
2≧α/β≧0.025 (式1)
(10)蒸煮大豆又は煮大豆に納豆菌を植菌し、品温が45℃以上54℃以下に7時間以上15時間以下維持して高温発酵することを特徴とする前記(8)又は前記(9)に記載の納豆の製造方法。
(11)3回以上植え継ぎ操作を行った納豆菌株から選抜した糸引きの弱い納豆菌を用いることを特徴とする、前記(8)から前記(10)のいずれか1項に記載の納豆の製造方法。
(12)納豆を製造するに際し、熟成完了時における納豆が以下の(a)~(b)の要件を満たすように製造することを特徴とする納豆の後味の改善方法。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
(13)さらに熟成完了時に以下の(c)~(e)の要件を満たすように製造することを特徴とする、(12)に記載の納豆の後味の改善方法。
(c)イソ吉草酸の含有量(α)が納豆湿重量100gあたり1mg以上15mg以下であり、
(d)イソ酪酸の含有量(β)が納豆湿重量100gあたり5mg以上40mg以下であり、
(e)前記α、βが以下の関係式1を満たすこと。
2≧α/β≧0.025 (式1)
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、納豆と他の食品素材を組み合わせた場合の後味(以下、これを単に「後味」と称することがある。)を改善することができる。また、本開示によれば、納豆表面に特有のつやを有する外観が良好な新規な納豆を提供することができる。
従って、本開示により納豆の嗜好性を全般的に高めることが可能となり、他の食品素材と組み合わせた納豆含有食品の活用範囲を広めることができ、利便性が高い形態で提供することで、生活者と納豆の接点を拡大することができる。
従って、本開示は、納豆を提供する技術として、有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例における各発酵方法、加熱方法での発酵品温の推移の代表例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示について、以下詳細に説明する。
本開示の第1の態様は、納豆に関し、以下の(a)~(b)の要件を満たすものである。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
【0016】
本開示の第1の態様においては、上記(a)~(b)の要件を両方共に満たすことが必要であり、いずれか一方のみを満たしたとしても、本開示の第1の形態の目的を達成することはできず、特により優れた後味改善効果を達成することはできない。
【0017】
本開示の第1の態様において、(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量としては、納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であることが必要であり、好ましくは納豆湿重量1kgあたり0.1mg以上4mg以下であり、より好ましくは納豆湿重量1kgあたり0.2mg以上3mg以下である。
ここで2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が下限値を外れると、2,5-ジメチルピラジン(x)が十分な効果を発揮せず、後味の改善効果が得られなくなる。一方、2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が上限値を外れると、ロースト香がつき好ましくない。
【0018】
次に、(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量としては、納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であることが必要であり、好ましくは納豆湿重量1kgあたり0.2mg以上2mg以下であり、より好ましくは納豆湿重量1kgあたり0.4mg以上1.8mg以下である。
ここで2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が下限値を外れ下回ると(以下、単に「下限値を外れると」と称する。)後味の改善効果が得られなくなる。一方、2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が上限値を外れ上回ると(以下、単に「上限値を外れると」と称する。)、藁様のにおいがつき好ましくない。
【0019】
本開示の第1の態様の納豆においては、上記したように、2,5-ジメチルピラジン(x)を、納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下含有し、かつ、2,3,5-トリメチルピラジン(y)を、納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下含有するものであればよく、当該量の2,5-ジメチルピラジン(x)と2,3,5-トリメチルピラジン(y)を、納豆発酵(二次発酵を含む)により含有させたものであってもよいし、添加により含有させたものであってもよいし、さらには、納豆発酵と添加の両方により含有させたものであってもよい。2,5-ジメチルピラジン及び2,3,5-トリメチルピラジン以外の納豆の良好な風味もともに産生できるため、最も好ましくは、納豆発酵により、含有させたものである。
【0020】
なお、以下の本開示の第2~本開示の第13の態様においても、各成分については、本開示の第1の態様と同様に、納豆発酵と添加のいずれか、又は、納豆発酵と添加の両方により、含有させたものであってもよく、また、納豆発酵として、二次発酵を含むものであってもよいが、二次発酵ではアンモニアなどの納豆の不快な風味も含有するため二次発酵中に産生させるのは好ましくない。
【0021】
次に、本開示の第2の態様は、納豆に関し、本開示の第1の形態に示す要件の他に、さらに以下の(c)~(e)の要件を満たすものである。
(c)イソ吉草酸の含有量(α)が納豆湿重量100gあたり1mg以上15mg以下であり、
(d)イソ酪酸の含有量(β)が納豆湿重量100gあたり5mg以上40mg以下であり、
(e)前記α、βが以下の関係式1を満たすこと。
2≧α/β≧0.025 (式1)
【0022】
本開示の第2の態様においては、本開示の第1の態様に示す上記(a)~(b)の要件の他に、さらに上記(c)~(e)の要件のいずれをも満たすことが必要である。
【0023】
ここで(a)~(b)の要件については、本開示の第1の態様において説明したとおりである。
本開示の第2の態様において、(c)イソ吉草酸の含有量(α)としては、納豆湿重量100gあたり1mg以上15mg以下であることが必要であり、好ましくは納豆湿重量100gあたり1.2mg以上12.5mg以下であり、より好ましくは納豆湿重量100gあたり1.5mg以上10mg以下である。
ここで(c)イソ吉草酸の含有量(α)が下限値を外れると納豆の良好な風味が得られない。一方、(c)イソ吉草酸の含有量(α)が上限値を外れると、納豆の不快臭が鼻につく。
【0024】
次に、本開示の第2の態様において、(d)イソ酪酸の含有量(β)としては、納豆湿重量100gあたり5mg以上40mg以下であることが必要であり、好ましくは納豆湿重量100gあたり5.1mg以上40mg以下であり、より好ましくは納豆湿重量100gあたり5.2mg以上20mg以下である。
ここで(d)イソ酪酸の含有量(β)が下限値を外れると納豆の良好な風味が得られない。一方、(d)イソ酪酸の含有量(β)が上限値を外れると、刺激味が感じられる。
【0025】
本開示の第2の態様においては、さらに、(e)前記α、βが下記の関係式1を満たすことが必要である。
2≧α/β≧0.025 (式1)
【0026】
特に、(e)の要件としては、前記α、βが以下の関係式1Aを満たすことが好ましい。
1.8≧α/β≧0.05 (式1A)
さらに、(e)の要件としては、前記α、βが以下の関係式1Bを満たすことがより好ましい。
1.5≧α/β≧0.1 (式1B)
【0027】
ここで前記α/βの含有量比が下限値を外れると(即ち、イソ吉草酸の含有量(α)に対する、(d)イソ酪酸の含有量(β)の割合が多すぎると)、納豆の良好な風味が得られない。一方、前記α/βの含有量比が上限値を外れると(即ち、イソ吉草酸の含有量(α)に対する、(d)イソ酪酸の含有量(β)の割合が少なすぎると)、納豆味のバランスが崩れ、好ましくない。
【0028】
また、本開示の第3の態様は、納豆に関し、本開示の第1の態様及び/又は本開示の第2の態様に示す要件の他に、さらに以下の(f)~(g)の要件を満たすものである。
(f)4-ビニルグアヤコールの含有量(z)が納豆湿重量1kgあたり0.1mg以上5mg以下であり、(g)前記x、y、zが以下の関係式2を満たすこと。
50≧z /(x+y)≧0.02 (式2)
【0029】
本開示の第3の態様においては、本開示の第1の態様に示す上記(a)~(b)の要件及び/又は本開示の第2の態様に示す上記(c)~(e)の要件の他に、さらに上記(f)~(g)の要件のいずれをも満たすことが必要である。
ここで「本開示の第1の態様に示す上記(a)~(b)の要件及び/又は本開示の第2の態様に示す上記(c)~(e)の要件」とは、「本開示の第1の態様に示す上記(a)~(b)の要件と本開示の第2の態様に示す上記(c)~(e)の要件の両方」の場合以外に、「本開示の第1の態様に示す上記(a)~(b)の要件だけ」又は「本開示の第2の態様に示す上記(c)~(e)の要件だけ」を含む概念である。
【0030】
本開示の第3の態様において、(f)4-ビニルグアヤコールの含有量(z)としては、納豆湿重量1kgあたり0.1mg以上5mg以下であることが必要であり、好ましくは納豆湿重量1kgあたり0.2mg以上3mg以下であり、より好ましくは納豆湿重量1kgあたり0.3mg以上2.5mg以下である。
ここで4-ビニルグアヤコールの含有量(z)が下限値を外れると後味の改善効果が増強されない。一方、4-ビニルグアヤコールの含有量(z)が上限値を外れると、過度な発酵臭(薬品臭)が感じられる。
【0031】
次に、本開示の第3の態様においては、
(g)前記x、y、zが以下の関係式2を満たすことが必要である。
50≧z /(x+y)≧0.02 (式2)
【0032】
特に、本開示の第3の態様においては、(g)の要件として、前記x、y、zが以下の関係式2Aを満たすことが好ましい。
10≧z /(x+y)≧0.06 (式2A)
さらに、(g)の要件としては、前記x、y、zが以下の関係式2Bを満たすことがより好ましい。
8≧z /(x+y)≧0.08 (式2B)
【0033】
ここで(g)の要件として、前記x、yの合計量に対するzの比率(z/(x+y))が、小さすぎても、或いは、前記x、yの合計量に対するzの比率(z/(x+y))が大きすぎても、いずれも発酵臭のバランスが崩れ、好ましくない。
【0034】
さらに本開示の第4の態様は、納豆に関し、本開示の第1の態様、本開示の第2の態様、及び本開示の第3の態様のうちのいずれか1以上のものに示す要件の他に、さらに以下の(h)の要件を満たすものである。
(h)レバンの含有量(δ)が納豆湿重量1gあたり1.5mg以上20mg以下であること。
【0035】
本開示の第4の態様においては、本開示の第1の態様に示す上記(a)~(b)の要件、本開示の第2の態様に示す上記(c)~(e)の要件、本開示の第3の態様に示す上記(f)~(g)の要件のうちのいずれか1以上のものに示す要件の他に、さらに上記(h)の要件を満たすことが必要である。
【0036】
本開示の第4の態様において、(h)レバンの含有量(δ)としては、納豆湿重量1gあたり1.5mg以上20mg以下であることが必要であり、好ましくは納豆湿重量1gあたり1.7mg以上9mg以下であり、より好ましくは納豆湿重量1gあたり1.9mg以上8mg以下である。
ここでレバンの含有量(δ)が下限値を外れると単なる蒸煮大豆と区別がつかず納豆の見た目として好ましくない。一方、レバンの含有量(δ)が上限値を外れると、増粘物質が多すぎるため、後味に影響を与える。
【0037】
さらに本開示の第5の態様は、納豆に関し、本開示の第1の態様、本開示の第2の態様、本開示の第3の態様、及び本開示の第4の態様のうちのいずれか1以上のものに示す要件の他に、さらに以下の(i)~(j)の要件を満たすものである。
(i)PGAの含有量(ε)が納豆湿重量1gあたり0.01mg以上1.0mg以下であり、
(j)δ、εが以下の関係式3を満たすこと。
200≧δ/ε≧2 (式3)
【0038】
本開示の第5の態様においては、本開示の第1の態様に示す上記(a)~(b)の要件、本開示の第2の態様に示す上記(c)~(e)の要件、本開示の第3の態様に示す上記(f)~(g)の要件、及び本開示の第4の態様に示す上記(h)の要件のうちのいずれか1以上のものに示す要件の他に、さらに上記(i)~(j)の要件を満たすことが必要である。
【0039】
本開示の第5の態様において、(i)PGAの含有量(ε)としては、納豆湿重量1gあたり0.01mg以上1.0mg以下であることが必要であり、好ましくは納豆湿重量1gあたり0.05mg以上0.9mg以下、より好ましくは納豆湿重量1gあたり0.1mg以上0.7mg以下である。
本開示の第5の態様においては、PGAの含有量(ε)が下限値を外れると納豆らしい食感が得られない。一方、PGAの含有量(ε)が上限値を外れると、曳糸性(以下、「糸引き性」と称することもある。)が強すぎて後味に影響を与える。
【0040】
次に、本開示の第5の態様においては、
(j)δ、εが以下の関係式3を満たすことが必要である。
200≧δ/ε≧2 (式3)
【0041】
特に、本開示の第5の態様においては、PGAの含有量(ε)に対するレバンの含有量(δ)の比率(δ/ε)が以下の関係式3Aを満たすことが好ましい。
100≧δ/ε≧2.5 (式3A)
さらに、本開示の第5の態様においては、PGAの含有量(ε)に対するレバンの含有量(δ)の比率(δ/ε)が以下の関係式3Bを満たすことがより好ましい。
50≧δ/ε≧3 (式3B)
【0042】
本開示の第5の態様において、PGAの含有量(ε)に対するレバンの含有量(δ)の比率が下限値を外れると食感のバランスが崩れる。一方、PGAの含有量(ε)に対するレバンの含有量(δ)の比率が上限値を外れても食感のバランスが崩れる。
【0043】
さらに本開示の第6の態様は、納豆に関し、本開示の第1の態様、本開示の第2の態様、本開示の第3の態様、本開示の第4の態様、及び本開示の第5の態様のうちのいずれか1以上のものに示す要件の他に、さらに以下の(k)~(l)の要件を満たすものである。
(k)納豆40gを水80mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液を分光光度計にて波長660nmで測定した前記抽出液の濁度が、0.5以上4.5以下であり、
(l)納豆40gを水40mLに撹拌した後、豆部を除去して得た抽出液を透過方式で測定した場合の表色がL*a*b*色空間において、以下の範囲であること。
80≧L*≧40
5≧a*≧-5
30≧b*≧10
【0044】
即ち、本開示の第6の態様においては、本開示の第1の態様に示す上記(a)~(b)の要件、本開示の第2の態様に示す上記(c)~(e)の要件、本開示の第3の態様に示す上記(f)~(g)の要件、本開示の第4の態様に示す上記(h)の要件、及び本開示の第5の態様に示す上記(i)~(j)の要件のうちのいずれか1以上のものに示す要件の他に、さらに上記(k)~(l)の要件を満たすことが必要である。
【0045】
本開示の第6の態様においては、上記(k)~(l)の要件を満たすことにより、納豆表面に特有のつやを有する外観が良好な新規な納豆を提供することができる。
【0046】
即ち、(k)の要件は、納豆40gを水80mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液を分光光度計にて波長660nmで測定した前記抽出液の濁度が、0.5以上4.5以下というものであり、好ましくは当該濁度が1以上4以下、より好ましくは当該濁度が1.5以上3以下である。
本開示の第6の態様において、前記抽出液の濁度が下限値を外れると、良好なつや感・光沢が得られない。一方、前記抽出液の濁度が上限値を外れると、白濁により外観の嗜好性に悪影響がある。
【0047】
また、(l)の要件は、納豆40gを水40mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液を透過方式で測定した場合の表色がL*a*b*色空間において、以下の範囲であることである。
80≧L*≧40
5≧a*≧-5
30≧b*≧10
【0048】
本開示の第6の態様においては、上記(l)の要件を満たすことにより、納豆表面に特有のつやを有する外観が良好な新規な納豆を提供することができる。
本開示の第6の態様において、L*の値としては、75≧L*≧45の範囲であることが好ましく、特に70≧L*≧48の範囲であることがより好ましい。
また、本開示の第6の態様において、a*の値としては、4≧a*≧-3の範囲であることが好ましく、特に3≧a*≧-2.5の範囲であることがより好ましい。
さらに、本開示の第6の態様において、b*の値としては、28≧b*≧12の範囲であることが好ましく、特に25≧b*≧15の範囲であることがより好ましい。
本開示の第6の態様において、L*の値が下限値を外れると、外観が暗くて古びた印象を与える。一方、L*の値が上限値を外れると、外観が明るく、人工的な印象を与える。
次に、a*の値が下限値を外れると、青みが強すぎて暗い印象を与える。一方、a*の値が上限値を外れると、赤味が強すぎて褐変した印象を与える。
また、b*の値が下限値を外れると、黄色味が足りずに古びた印象を与える。一方、b*の値が上限値を外れると、黄色味が強すぎて褐変した印象を与える。
【0049】
ここで「L*a*b*色空間」は、色差を表すのに最も多く用いられている表色系であって、「CIE1976L*a*b*色空間」とも表される。
納豆の抽出液のL*a*b*色空間における表色は、上記したように、特定量(40g)の納豆を等量(40mL)の水に攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液について、分光測色計を用いて透過方式で測定を行うことにより得ることができる。
L*値は明度(明るさ)を表し、0から100までで数値が大きい程明るいことを示している。また、a*とb*は、共に色みを表しており、±60までの数値となっている。a*がプラスの方向になるほど赤みが強くなり、マイナスの方向になるほど緑みが強くなることを示しており、b*がプラスの方向になるほど黄みが強くなり、マイナスの方向になるほど青みが強くなることを示している。
従って、「80≧L*≧40」ということは、比較的明るい明度であることを示している。
また、「5≧a*≧-5」ということは、赤色気味とも緑色気味も言えない中間色であることを示している。
さらに、「30≧b*≧10」ということは、やや黄色気味であることを示している。
それ故、これを全体としてみると、本開示の第6の形態の納豆は、やや黄色気味で、比較的明るく、消費者にとっても良好な嗜好性を持つ色合いであることが理解される。
【0050】
さらに本開示の第7の態様は、納豆に関し、本開示の第1の態様、本開示の第2の態様、本開示の第3の態様、本開示の第4の態様、本開示の第5の態様、及び本開示の第6の態様のうちのいずれか1以上のものに示す要件の他に、さらに以下の(m)の要件を満たすものである。
(m)納豆40gを水40mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液の粘度がB型粘度計(60rpm、25℃、ローターNo.2)の条件において5mPa・s以上180mPa・s以下であること。
【0051】
即ち、(m)の要件は、納豆40gを水40mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液の粘度がB型粘度計(60rpm、25℃、ローターNo.2)の条件において5mPa・s以上180mPa・s以下であることであり、好ましくは上記条件において7mPa・s以上170mPa・s以下、より好ましくは8mPa・s以上160mPa・s以下である。
【0052】
ここで上記粘度が下限値を外れると、納豆らしい食感が得られない。一方、上記粘度が上限値を外れると、粘度が強すぎて食感に悪影響がある。
【0053】
上記した如き「本開示の第1から第7の態様の納豆」の製造は、特別な工程を必要とせず、発明特定要件を除き、常法に従い実施することができる。
【0054】
即ち、例えば本開示の第1の態様の納豆は、熟成完了時に上記(a)~(b)の要件を満たすようにして製造することができる。
このような本開示の第1の態様の納豆の製造方法を提供するのが、本開示の第8の態様である。
【0055】
即ち、本開示の第8の態様は、納豆の製造方法に関し、熟成完了時に以下の(a)~(b)の要件を満たすように製造することを特徴とする納豆の製造方法である。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
【0056】
本開示の第8の態様において、(a)~(b)の要件については、前記本開示の第1の態様において説明したとおりである。
【0057】
次に、本開示の第2の態様の納豆は、熟成完了時に上記(c)~(e)の要件を満たすようにして製造することができる。
このような本開示の第2の態様の納豆の製造方法を提供するのが、本開示の第9の態様である。
【0058】
即ち、本開示の第9の態様は、納豆の製造方法に関し、熟成完了時に以下の(c)~(e)の要件を満たすように製造することを特徴とする納豆の製造方法である。
(c)イソ吉草酸の含有量(α)が納豆湿重量100gあたり1mg以上15mg以下であり、
(d)イソ酪酸の含有量(β)が納豆湿重量100gあたり5mg以上40mg以下であり、
(e)前記α、βが以下の関係式1を満たすこと。
2≧α/β≧0.025 (式1)
【0059】
本開示の第9の態様において、(c)~(e)の要件については、前記本開示の第2の態様において説明したとおりである。
【0060】
上記したように、「本開示の第1から第7の態様の納豆」の製造は、特別な工程を必要とせず、本開示の第8の態様或いは本開示の第9の態様に示す発明特定要件を除いて、常法に従い実施することができるが、後述する本開示の第10の態様の製造方法や本開示の第11の態様の製造方法により、特に容易に製造することができる。
従って、以下、納豆の常法について説明し、その中で、この本開示の第10の態様の製造方法や本開示の第11の態様の製造方法についても合わせて説明することとする。
【0061】
なお、納豆を製造するに際し、熟成完了時における納豆が、上記(a)~(b)の要件を満たすようにして製造することにより、納豆の後味を改善することができるが、これを提供するのが本開示の第12の態様である。
即ち、本開示の第12の態様は、納豆を製造するに際し、熟成完了時における納豆が以下の(a)~(b)の要件を満たすように製造することを特徴とする納豆の後味の改善方法である。
(a)2,5-ジメチルピラジン(x)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上5mg以下であり、
(b)2,3,5-トリメチルピラジン(y)の含有量が納豆湿重量1kgあたり0.05mg以上3mg以下であること。
【0062】
本開示の第12の態様において、(a)~(b)の要件については、本開示の第1の形態において説明したとおりである。
【0063】
また、納豆を製造するに際し、熟成完了時における納豆が、上記(a)~(b)の要件に加えて、上記(c)~(e)の要件を満たすようにして製造することにより、納豆の後味を改善することができるが、これを提供するのが本開示の第13の態様である。
即ち、本開示の第13の態様は、本開示の第13の態様において、さらに熟成完了時に以下の(c)~(e)の要件を満たすように製造することを特徴とする、納豆の後味の改善方法である。
(c)イソ吉草酸の含有量(α)が納豆湿重量100gあたり1mg以上15mg以下であり、
(d)イソ酪酸の含有量(β)が納豆湿重量100gあたり5mg以上40mg以下であり、
(e)前記α、βが以下の関係式1を満たすこと。
2≧α/β≧0.025 (式1)
【0064】
本開示の第13の形態において、(c)~(e)の要件については、本開示の第2の態様において説明したとおりである。
【0065】
前記したように、「本開示の第1から第7の態様の納豆」の製造は、納豆の製造に通常用いられる製法であれば、どのような方法でも用いることができる。
以下に、通常の糸引き納豆の製造法を例示する。
【0066】
なお、以降の記載では、本開示に関与する香気成分である、2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン、イソ吉草酸、イソ酪酸、4-ビニルグアヤコールを総称して特定成分と記載することもある。
【0067】
1.糸引き納豆の製造法
1-1.原料大豆の浸漬及び液中加熱による、蒸煮大豆又は煮大豆の調製
まずは、蒸煮大豆又は煮大豆を得るため、原料大豆の浸漬及び液中加熱を行う。
本開示の納豆の製造方法では、通常の糸引き納豆の製造に用いることができるものであれば、如何なる原料大豆をも用いることができる。
原料大豆としては、例えば、丸大豆、半割大豆、割砕大豆(挽き割り納豆の原料)、脱脂大豆などを使用できる。これら原料大豆の中でも、特に高品質の糸引き納豆製造時に使用される中粒や大粒のものが好適である。
これらの原料大豆は、生のまま用いることもできるが、乾燥処理を行ったもの(乾燥品)を用いることが一般的である。
【0068】
本開示の納豆の製造方法においては、これらの原料大豆を常法により、浸漬及び液中加熱し、蒸煮大豆又は煮大豆にして用いる。
即ち、本開示では、原料大豆を常法により蒸煮大豆又は煮大豆とするため、液中加熱を行う。成分の流亡を防ぐ意味では、蒸煮大豆が好適である。
なお、蒸煮や煮る操作を行う前には、原料大豆を水に浸漬し、膨潤させて用いることが望ましい。
【0069】
ここで、蒸煮大豆の具体的な調製手順としては、例えば、原料大豆を常温の水中に6~24時間程度浸漬した後、水切りして、100~135℃の蒸気で5~30分間の蒸煮処理する方法を採用することができる。このとき、例えば、0.10~0.22MPaの高圧条件にて、加圧下に蒸煮する方法を採用することもできる。蒸煮工程は一度で実施せず、一度脱圧してから再度加圧して複数回の工程に分けることもできる。また、各蒸煮工程の後に加水を行うこともできる。
また、煮大豆の具体的な調製手順としては、例えば、原料大豆を常温の水中に6~24時間程度浸漬した後、90~100℃の湯で、20~50分間煮込む方法を採用することができる。
【0070】
1-2.植菌
このようにして得られた蒸煮大豆又は煮大豆に、納豆菌を植菌する。
即ち、本開示においては、納豆を製造するにあたり、上記のようにして得られた蒸煮大豆又は煮大豆に、納豆菌を植菌する植菌工程を行う。
【0071】
本開示の納豆の製造方法において、納豆菌スターターとして添加する納豆菌の状態としては、特に制限はないが、雑菌汚染を防ぐため蒸煮直後の高温の大豆に直接植菌可能な、胞子状態のものを用いることが好適である。
【0072】
納豆菌スターターに使用する納豆菌は、如何なる納豆菌も採用することができる。例えば、一般的な市販菌である宮城野菌(商品名:純粋培養の納豆菌(宮城野納豆菌))(有限会社宮城野製造所製)、高橋菌(商品名:納豆素)(有限会社高橋祐三研究所製)、成瀬菌(商品名:粉末納豆菌)(成瀬発酵化学研究所製)等を用いることができるが、特定の性質を有する突然変異株、遺伝子組み換え株などの各種菌株を利用することもできる。
なお、本開示の第11の態様に記載した納豆の製造に際しては、後述する実施例で例示したBacillus subtilis(バシルス・サチリス) MIZ-21800株、Bacillus subtilis (バシルス・サチリス) MIZ-21801株のように、発酵中にPGA、レバン量が所定範囲内となるように調製することが容易な菌株が好適である。
【0073】
上記菌株は、後述の実施例記載のように、連続3回以上植え継ぎ操作を行い、自然変異を生じた納豆菌株群から、グルタミン酸高含有培地上でのコロニーの粘性及び、納豆を製造した際の納豆の糸引き納豆菌株を選抜することで獲得することが可能である。効率よく所望の納豆菌株を獲得するためには、植え継ぎ回数は4回以上が好ましい。植え継ぎ操作は常法に従い親株とする納豆菌株を用いて製造した納豆に残存する納豆菌株を用いて、繰り返し納豆を製造する方法をとっても良いし、粉状に粉砕した大豆を含む固体培地上で培養する操作を繰り返しても良いが、より実製品に近い納豆製造を繰り返す方法の方が好ましい。
【0074】
Bacillus subtilis(バシルス・サチリス)MIZ-21800株、同MIZ-21801株は、いずれも自社保有の納豆菌株から、自社で育種選抜して得られた納豆菌株である。両菌株は、2019年11月27日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、それぞれ受託番号 NITE BP-03082(識別の表示:MIZ-21800)、NITE BP-03083(識別の表示:MIZ-21801)として、国際寄託されている。
ここで、Bacillus subtilis MIZ-21800株はBacillus subtilis No.7株(NITE BP-01805)を親株とし、Bacillus subtilis MIZ-21801株はBacillus subtilis K-2株(NITE BP-1577)を親株とするものであって、それぞれ前記親株について、4回、もしくは5回連続して植え継ぎ操作を行って得られた納豆菌株から、当該菌株を用いて製造した納豆の糸引きが特に弱い菌株(以降、"糸引きが弱い納豆菌"等と略記・BR>キることもある)を選抜して取得した、糸引き欠損株である。
【0075】
このBacillus subtilis(バシルス・サチリス)MIZ-21800株、同MIZ-21801株の菌学的性質に関しては、上記のように、自社保有の納豆菌株を育種選抜して得られた変異株である。細胞形態は、いずれも桿状であり、コロニーは、いずれも白色、円形、扁平、全縁、スムース、不透明、粘調性である。
【0076】
上記したように、本開示の納豆の製造方法における植菌工程において、スターターとして用いる納豆菌としては、特に制限はない。
育種改良を行った納豆菌を用いることも可能であって、育種の対象である元の納豆菌(親株)としては、特に制限はないが、通常、納豆工業で使用されている納豆菌や、自然界から分離取得された納豆菌、並びに、さらに改良を重ねて得られた納豆菌などを用いるのが望ましい。
上記したように、連続して3回以上、好ましくは4回乃至5回以上植え継ぎ操作を行うことにより、糸引きの弱い納豆菌を得ることができる。このように、納豆菌の継代培養により生じた自然変異株の選抜を3回以上、好ましくは4回乃至5回以上繰り返すことによって、育種改良された、糸引きの弱い納豆菌を得ることができる。
本開示の第11の態様は、3回以上植え継ぎ操作を行った納豆菌株から選抜した糸引きの弱い納豆菌を用いることを特徴とする、前記第8の態様から前記第10の態様のうちのいずれかに記載の納豆の製造方法である。
糸引きの弱い納豆菌として具体的には、例えば、前記したようなBacillus subtilis(バシルス・サチリス)MIZ-21800株、同MIZ-21801株を挙げることができる。
【0077】
なお、納豆菌は、枯草菌バチルス・サチリス(Bacillus subtilis)に分類されているが、一般にはこの枯草菌バチルス・サチリス(Bacillus subtilis)の変種として、Bacillus subtilis var. natto 、或いは、Bacillus subtilis (natto)として枯草菌と区別して分類されたり、または、枯草菌の近縁種バチルス・ナットウ(Bacillus natto)として、分類されている細菌である。
【0078】
蒸煮大豆又は煮大豆への上記納豆菌スターターの植菌は、発酵を均一に行うため、大豆等と納豆菌が均一になるように、接種又は散布などにより添加した後、混合等を行うことが望ましい。好ましくは、上記納豆菌の胞子懸濁液を調製し、液体状態にて添加して用いることが好適である。
【0079】
ここで胞子懸濁液としては、胞子形成に適当な成分を有する液体培地にて上記納豆菌を培養した培養液を用いることができる。
上記液体培地の成分としては、納豆菌の胞子形成と成育を可能にし、納豆菌の培養に通常使用される、炭素源、窒素源、無機塩類等の培地成分を含む液体培地であれば、特に限定はされず、合成培地であっても天然培地であってもよい。
培地成分のうち、炭素源としては、グルコース、シュクロース、ガラクトース、マンノース、デンプン、デンプン分解物などの糖類、クエン酸などの有機酸類、窒素源としては、ペプトン、肉エキス、カゼイン加水分解物、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられ、無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化第2鉄・6水和物、硫酸マグネシウム・7水和物、塩化マンガン・4水和物、硫酸第一鉄等が挙げられる。
また、当該培地には、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、ビタミン類(ビオチン等)などを含有させてもよい。遺伝子欠損等で特定の栄養成分を要求する納豆菌変異株を用いた場合は、適時培地組成を変更してもよい。
【0080】
植菌する納豆菌の数は、常法に準じた菌濃度で特に限定はないが、通常、蒸煮大豆又は煮大豆1gあたり103~106個である。植菌する際の大豆の品温は、特に限定はないが、植菌時の雑菌汚染を防ぐため、55~95℃程度の高温状態で植菌することが好ましい。
【0081】
上記納豆菌を植菌した大豆は、1~数食分用の個別容器に充填した後、個別容器内にて後述する発酵を行うことが好適である。また、伝統的な方法として、煮沸した藁苞に充填して行うことも可能である。
また、数リットル体積容の容器等にて発酵を行うことも可能であるが、表面積に対する体積の値が大きくなると、中央部の豆に温度変化が伝わりにくくなることを考慮すると、大きめの容器を用いることは望ましくない。
【0082】
ここで個別容器としては、大豆の充填が可能であれば、いかなる容器を用いることもできる。具体的には、納豆で一般に用いられるようなスチレン改質ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、スチレン-エチレン共重合体等のポリスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂等の各種の合成樹脂製の発泡シートで成形した容器や、カップ状の紙製の容器を用いることができる。
また、容器の形状として、当該容器を用いて直接、喫食のための掻き混ぜ(攪拌)ができるような形状のものが好適である。
また、発酵後は、蓋やシーリングによる封を行うことができる態様のものが好適である。
【0083】
1-3.納豆発酵
本開示においては、このようにして蒸煮大豆又は煮大豆に納豆菌を植菌する植菌工程を行った後に、発酵を行う。
・発酵条件
本開示の発酵においては、発酵開始から所定時間の間、豆の品温を実質的に通常の発酵温度帯に維持する。
ここで、通常の発酵温度帯とは品温が37~54℃の温度帯を指す。発酵温度が所定より低い場合、納豆の良好な風味が付与されず、特定成分を所定範囲に収めるのが難しくなる。発酵温度が所定より高い場合は、アンモニアや低級脂肪酸などが過剰に発生するので好ましくない。
【0084】
なお、「発酵開始から所定時間の間、豆の品温を実質的に通常の発酵温度帯に維持する」とは、完全に当該温度帯を外れないことを意味するものではなく、例えば、若干の温度範囲(例えば、3℃以内、好ましくは2℃以内)であって、かつ、若干の時間(例えば、20分以内、好ましくは10分以内)であれば、当該温度帯を外れた品温となった場合も、当該発酵条件を満たすことを意味する。
【0085】
本開示の発酵において、当該発酵温度帯を維持する所定時間(発酵時間)としては、8~16時間を挙げることができる。発酵時間の下限としては、8時間以上、好ましくは9時間以上、さらに好ましくは9.5時間以上、を挙げることができる。当該発酵においては、発酵時間が所定より短い場合、発酵が十分に進まず、特定成分が所定範囲から外れやすくなる。
発酵時間の上限としては、16時間以下、好ましくは15時間以下、さらに好ましくは14時間以下を挙げることができる。発酵時間が所定より長い場合、発酵が進み過ぎて特に低級脂肪酸の含有量が増加するため好ましくない。
【0086】
本開示の納豆は特定成分を所定範囲に調整するために、本開示の第10の形態に示すように通常の発酵温度帯の中で高めの温度帯(品温が45℃以上54℃以下)に7~15時間維持して高温発酵するのが特定成分を所定内に収めやすくなるため好ましい。
本開示の第10の形態は、蒸煮大豆又は煮大豆に納豆菌を植菌し、品温が45℃以上54℃以下に7時間以上15時間以下維持して高温発酵することを特徴とするものである。
ここで高温発酵する場合の発酵温度の下限としては、37℃以上、好ましくは43℃以上、さらに好ましくは45℃以上、好ましくは46℃以上、より好ましくは47℃以上、を挙げることができる。高温発酵する場合の発酵温度の上限としては、54℃以下、好ましくは53.75℃以下、より好ましくは53.5℃以下を挙げることができる。従って、高温発酵する場合の発酵温度は、45℃以上54℃以下、好ましくは46℃以上53.75℃以下、より好ましくは47℃以上53.5℃以下である。
また、高温発酵時間の下限としては、7時間以上、好ましくは8時間以上、より好ましくは8.5時間以上維持するのが好ましい。高温発酵時間の上限としては15時間以下、好ましくは14時間以下、より好ましくは13時間以下になるよう維持するのが好ましい。従って、高温発酵する場合の発酵時間は、7時間以上、15時間以下、好ましくは8時間以上14時間以下、より好ましくは8.5時間以上13時間以下である。
【0087】
本開示においては必要に応じて発酵後に加熱工程を行ってもよい。加熱工程とは発酵工程の後、熟成工程の前に所定時間(0時間を超え、3時間以下)の間、豆の品温を実質的に通常の発酵温度帯より高い加熱温度帯(55℃~80℃)に維持することを指す。
加熱工程における加熱温度の下限としては、55℃以上、好ましくは56℃以上、より好ましくは56.5℃以上、さらに好ましくは57℃以上、を挙げることができる。一方、加熱温度の上限としては、80℃以下、好ましくは72℃以下、より好ましくは65℃以下、さらに好ましくは62℃以下を挙げることができる。従って、加熱工程における加熱温度は、55℃以上80℃以下、好ましくは56℃以上72℃以下、より好ましくは56.5℃以上65℃以下、さらに好ましくは57℃以上62℃以下である。
また、加熱工程における加熱時間の下限としては、0時間を超え、好ましくは0.25時間以上、より好ましくは0.5時間以上、さらに好ましくは0.75時間以上を挙げることができる。一方、加熱時間の上限としては、3時間以下、好ましくは2.5時間以下、より好ましくは2時間以下、さらに好ましくは1.5時間以下を挙げることができる。
従って、加熱工程における加熱時間は、0時間を超え3時間以下、好ましくは0.25時間以上2.5時間以下、より好ましくは0.5時間以上2時間以下、さらに好ましくは0.75時間以上1.5時間以下である。
加熱時間は、発酵後の納豆を加熱し、豆の品温が所定の温度帯に到達してから所定温度帯を外れるまでを指す。
【0088】
本開示による納豆の製法においては、後述する熟成工程や納豆製品の保管流通において二次発酵が十分抑制された状況下では、特徴となる特定成分は前記発酵工程で産生される。そのため、発酵工程中に適宜、後述の測定方法によって、納豆中に含有する特定成分の含有量をモニタリングして、所定の含有量に到達した時点で発酵工程を停止させることもできる。また、発酵終了までの間に特定成分量が不足する場合は、不足する特定成分を所定範囲内に収まるように添加して調製してもよい。
【0089】
この発酵工程における温度条件を正確に調節するため、昇温及び冷却機能を有する発酵室等を用いることが好適である。
【0090】
1-4.熟成
発酵工程終了後、二次発酵による糸引き劣化、アンモニアの産生等の品質劣化を抑制するために、通常、3℃以上10℃未満、好ましくは3℃以上8℃未満、より好ましくは3℃以上6℃未満の低温になるようにして6時間~3日間、好ましくは8時間~2日間、より好ましくは24時間程度、熟成を行い納豆の製造が完了する。
【0091】
2.測定
2-1.2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン、4-ビニルグアヤコールの測定
2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン、4-ビニルグアヤコールの測定は、ダイレクトヘッドスペース法でGC-MSに注入する方法で測定する。使用する機器の例としては、ゲステル社1次元2次元切替GC-MS(GC部:HP7890 Series GC SystemにLTM series IIを連結(ともにAgilent社製)、注入口:TDU2/CIS4(ゲステル社)、オートサンプラー:MPS(ゲステル社))を挙げることができる。
【0092】
2-2. イソ吉草酸、イソ酪酸の測定
イソ吉草酸、イソ酪酸の測定は、特に限定はないが、例えば、高速液体クロマトグラフィー(陽イオン交換樹脂カラムで分離を行い、電気伝導度検出器で検出)を用いることができる。使用する機器の例としては、LC-10ADVP(島津製作所製)を挙げることができる。
【0093】
2-3.納豆中のPGA分析、レバン分析の前処理
納豆中のPGA分析、レバン分析を実施する検体については、以下に記載する除タンパク質処理を行った後に、エタノールを用いた精製処理を行って取得した納豆の増粘物質の抽出液を検体として用いる。

1.納豆10gを、50mLの2.5%トリクロロ酢酸(以下TCAとも記載する)を加えて、10分間50℃に加温し攪拌する。
2.上記の混合液より豆の部分を取り除いたのちに、遠心分離(12000rpm,10min)を行い、上澄みを取得する。
3.取得した上澄みを水酸化ナトリウムでpH7.0に調整し、イオン交換水にて2倍に希釈した後に、中和した液と等量の-30℃に予め冷却したおいたエタノールを加え攪拌する。
4.氷上にて10分間静置した後に、遠心分離(12000rpm,10min)を実施した後に上澄みを廃棄し、乾燥させる。
5.乾燥させて取得した沈殿を増粘物質とし、20mMリン酸バッファー(pH7.0)で溶解させたものを粘物質抽出液として使用する。
【0094】
2-4.PGAの測定
納豆中のPGAの測定は、上述の前処理を行った粘物質抽出液について、以下の方法で処理した溶液について吸光度測定を行い、標準物質と吸光度を比較して定量分析を行う。吸光度の測定には、例えば紫外可視分光光度計 UV-1800(島津製作所製)が使用できる。

1.標準検量線の作成のため、PGA標準液として「ポリ-γ-グルタミン酸」 (平均分子量1,500,000~2,500,000)(富士フイルム和光純薬株式会社)の20mMリン酸バッファー(pH7.0)希釈液 0、25、50、100 μg/mLの標準液を準備する。
2.上述の手法で取得した粘物質抽出液を、検量線の濃度範囲に入るように20mMリン酸バッファー(pH7.0)で希釈する。
3.PGA標準液および分析サンプル0.5mLに対して20mM リン酸バッファー(pH7.0) 2.0mL添加し、0.1Mセチルメチルトリメチルアンモニウムブロミド(セタブロン)/1M NaCl溶液 0.5mL加え攪拌する。
4.室温で20分間静置したのちに波長400nmのAbs(吸光度)を測定し、標準液より作成した検量線を用いて、サンプルのPGA濃度を算出する。
【0095】
2-5.レバンの測定
納豆中のレバンの測定は、上述の前処理を行った粘物質抽出液について、以下の方法で処理した溶液について吸光度測定を行い、フルクトースを指標とした標準物質と吸光度を比較して定量分析を行う。吸光度の測定には、例えば紫外可視分光光度計 UV-1800(島津製作所製)が使用できる。

1.標準検量線の作成のため、フルクトース標準液として 0、10、25、50、100 μg/mLの20mMリン酸バッファー(pH7.0)希釈液を準備する。
2.前記で取得した増粘物質抽出液を、上記検量線の範囲に入るように濃度に応じて20mMリン酸バッファー(pH7.0)で希釈する。
3.フルクトース標準液および分析サンプル0.6mLに対してレゾルシン・チオ尿素試薬 0.3mL試験管に入れ30%HCl 2.1mLを穏やかに混合する。
混合した液をビー玉などで蓋をして突沸しないようにして、80℃で10分インキュベートする。
4.波長500nmのAbs(吸光度)を測定し、標準液より作成した検量線を用いてレバンの濃度を算出した。なお、レバン濃度は結合部の水を差し引いて、フルクトース検量線に0.9を乗じて算出する。
【0096】
2-6.納豆抽出液の濁度の測定
納豆の抽出液の濁度は、納豆40gを水80mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液について、分光光度計にて波長660nmの吸光度を測定することで算出できる。液部と豆部の分離方法には豆部が分離時に加圧により潰れるなど測定に影響を与える方法でなければ特に制限はないが、例えば金ざるによる分離や目の粗い合成樹脂製フィルターによる分離などが例示できる。測定する機器に制限はないが、例えば、UV-1800(島津製作所製)を挙げることができる。
【0097】
2-7.納豆抽出液の表色の測定
納豆の抽出液のL*a*b*色空間における表色は、納豆40gを水40mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液について、透過光のL*a*b*値を測定することで算出できる。液部と豆部の分離方法には豆部が分離時に加圧により潰れるなど測定に影響を与える方法でなければ特に制限はないが、例えば金ざるによる分離や目の粗い合成樹脂製フィルターによる分離などが例示できる。測定する機器に制限はないが、例えば、SD-3000(日本電色工業株式会社)を挙げることができる。
【0098】
2-8.納豆抽出液の粘度の測定
納豆の抽出液の粘度は、納豆40gを水40mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液について、B型粘度計(60rpm、25℃、ローターNo.2)で測定する。液部と豆部の分離方法には豆部が分離時に加圧により潰れるなど測定に影響を与える方法でなければ特に制限はないが、例えば金ざるによる分離や目の粗い合成樹脂製フィルターによる分離などが例示できる。測定する機器に制限はないが、例えば、BII形粘度計(東機産業株式会社製)を挙げることができる。
【0099】
2-9.納豆の曳糸性の測定
納豆の曳糸性の測定は、検体の納豆の豆二粒を密着して押さえつけた状態から、一粒のみを100mm/minの速度で上方に引き上げた際に、二粒の豆の間に生じたポリグルタミン酸を主体とする糸が切れるまでの距離を測定することで測定する。測定には、一定速度で検体を引き上げることが可能な装置が使用できるが、一例として、デジタルフォースゲージ(型番FGP-0.5(日本電産シンポ株式会社製))とフォースゲージスタンド(型番FGS-50E(日本電産シンポ株式会社製))を組み合わせた装置を用いることができる。
【実施例
【0100】
以下、実施例を挙げて本開示を説明するが、本開示の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0101】
実施例a1~a12、aa1~aa4、比較例b1~b5は以下の方法で調製した。
【0102】
I.蒸煮大豆の調製
市販品をそのまま用いた比較例b4(市販納豆1:豆乃香(金砂郷食品製))、比較例b5(市販納豆2:極小粒ミニ3 (タカノフーズ製))を除き、実施例、比較例に使用する蒸煮大豆は以下の方法で調製した。ただし、比較例b1は蒸煮大豆を蒸煮後冷蔵保管したものをそのまま用いた。また、その他の実施例、比較例は蒸煮直後の蒸煮大豆に後述の方法で納豆菌を植菌して納豆を製造した。
【0103】
まず、原料の乾燥丸大豆を、軽く水洗し、常温(約25℃)の水に一昼夜浸漬を行うことで大豆に水を十分に吸水させた後、金ざるで水を切った。
続いて、浸漬大豆を蒸煮工程に供した。具体的には、浸漬大豆を金属製容器に入れ、蒸煮釜(原田産業製テスト用蒸煮釜)に入れ、98℃達温まで加熱後、0.08MPaで10分維持、その後6分間で0.20MPaに達するように加圧し、0.20MPaで30秒維持し、さらに0.14MPaまで14分かけて脱圧した後、大気圧まで脱圧する条件で蒸煮を行った。
【0104】
なお、比較例b1(蒸煮大豆)の品質評価は、上記方法で製造直後に4℃で3日間、冷蔵保管した検体を用いて実施した。
【0105】
II.納豆醗酵
上記の手順で蒸煮完了後の蒸煮大豆それぞれについて、以下の手順で納豆醗酵を行った。納豆菌としては、Bacillus subtilis No.7株(NITE BP-01805) 、Bacillus subtilis K-2株(NITE BP-1577)、純粋培養の納豆菌(宮城野菌)(宮城野納豆製造所製)、前記No.7株を親株とする糸引き欠損株であるBacillus subtilis MIZ-21800株(NITE BP-03082)、前記K-2株を親株とする糸引き欠損株であるBacillus subtilis MIZ-21801株(NITE BP-03083)を用いた。
これらの納豆菌株を下記表1の胞子形成培地(YE)10ml/試験管に植菌し、37℃、150rpm、24時間振盪培養することで胞子懸濁液を調製した。
【0106】
【表1】
【0107】
III.MIZ-21800株、MIZ-21801株の育種選抜
今回の納豆製造に使用した、MIZ-21800株、MIZ-21801株の育種選抜は以下の方法で実施した。
【0108】
Bacillus subtilis MIZ-21800株はBacillus subtilis No.7株を親株とし、Bacillus subtilis MIZ-21801株はBacillus subtilis K-2株を親株とし、後述の方法で育種選抜して取得した。
なお、後記表4(表4-1と表4-2とを指す。以下、同じ。)においては、Bacillus subtilis MIZ-21800株は、「糸引き欠損株(MIZ-21800株)」と、Bacillus subtilis MIZ-21801株は、「糸引き欠損株(MIZ-21801株)」と、それぞれ表記している。
【0109】
1.上述の方法に従って蒸煮した蒸煮大豆40gを三角型のフラスコに入れ、シリコセン(信越ポリマー製)で通気性を担保しつつ蓋をした後、オートクレーブ(121℃,20min)を実施して滅菌処理を行った。その後、上述の方法で調製したBacillus subtilis No.7株(NITE BP-01805) 、Bacillus subtilis K-2株(NITE BP-1577)の胞子懸濁液を、蒸煮大豆1gあたりそれぞれ約5000個の納豆菌となるように水で希釈した後、蒸煮大豆に植菌した。
2.植菌した各検体について、インキュベーターで40℃とし、20時間維持して納豆発酵を行わせた後、4℃に冷却した。
3.冷却後の納豆に40mlの滅菌水を添加した後、よく混合した納豆菌懸濁液をスターターとして蒸煮大豆1gあたりそれぞれ約5000個の納豆菌となるように水で希釈した後、蒸煮大豆に植菌し、上述の方法と同様の手段で納豆を製造した。
4.Bacillus subtilis No.7株については1~3の操作を連続4回、Bacillus subtilis K-2は連続5回実施して取得した納豆菌懸濁液に等量の30%グリセロールを添加して、約1mlずつ分注してグリセロールストックとし、-80℃で凍結保管した。
5.凍結保管したグリセロールストックを1本、常温で解凍し0.01Mリン酸緩衝生理食塩水 (富士フイルム和光純薬製)で10000倍、100000倍に希釈した希釈液を、表2の組成で調製した標寒+bcfa寒天培地プレートに塗布して37℃で一夜培養した。
6.標寒+bcfa寒天培地プレート上のコロニーから釣菌した納豆菌のグルタミン酸生産能の推定のため、表3の組成で調製したGSP寒天培地プレートにレプリカ植菌して37℃で一夜培養した。
7.GSP寒天培地プレート上で、ポリグルタミン酸生成量が弱く粘性が少ないために扁平となったコロニーを中心にBacillus subtilis No.7株由来の株は40株、Bacillus subtilis K-2株由来の株は18株について、上述の方法で納豆菌スターターを作成した。
8.上述の方法に従って蒸煮した蒸煮大豆に、上述の育種株の納豆菌スターターを蒸煮大豆1gあたりそれぞれ約5000個の納豆菌となるように植菌し、ポリスチレン製納豆容器に入れて蓋をして納豆醗酵室(原田産業製テスト用醗酵室)内で発酵を行った。発酵時の室の温度は39℃とし、18時間後に4℃に冷却した。
9.試作した納豆について、糸引きが特に弱く、異臭がなく、納豆の苦みが弱かった菌株各1株について、Bacillus subtilis No.7株(NITE BP-01805)を親株としたものはBacillus subtilis MIZ-21800株として、Bacillus subtilis K-2株(NITE BP-1577)を親株としたものはBacillus subtilis MIZ-21801株として、それぞれ選抜した。選抜した菌株については作成したスターターに等量の30%グリセロールを添加後混合して、グリセロールストックとして-80℃で保管した。
なお、上述の条件を満たした菌株は試作したBacillus subtilis No.7株(NITE BP-01805)を親株としたものは2株、Bacillus subtilis K-2株(NITE BP-1577)を親株としたものは7株であった。
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
実施例、比較例に用いた納豆菌株は、上記の納豆菌株を用い、液体培地で培養した胞子懸濁液を蒸煮大豆1gあたりそれぞれ約5000個の納豆菌となるように水で希釈して蒸煮大豆に植菌した。
その後、45gずつをポリスチレン製納豆容器に入れて蓋をして納豆醗酵室(原田産業製テスト用醗酵室)内で発酵を行った。
実施例、比較例のうち、表4の発酵方法の欄で「高温発酵」と記載した検体は、発酵開始から11時間の間、室の温度を右記(51℃7時間に続き50℃4時間)で制御した。その結果、納豆の品温が通常の発酵温度帯である37℃~54℃に維持された時間は11時間、そのうち通常の発酵温度の中で高めの温度帯である45℃~54℃に維持された時間は10.9時間であった。
実施例、比較例のうち、表4の発酵方法の欄で「通常発酵」と記載した検体は発酵開始から18時間の間、室の温度を右記(39℃ 18時間)で制御した。その結果、納豆の品温が通常の発酵温度帯である37℃~54℃に維持された時間は17.5時間、そのうち通常の発酵温度の中で高めの温度帯である45℃~54℃に維持された時間は0時間であった。
検体のうち、加熱工程を実施した検体は発酵終了直後に室の温度を右記(60℃1.5時間
)に制御した。その結果、納豆の品温が加熱温度帯である55℃~80℃に維持された時間は1.2時間であった。加熱工程を実施した検体は、表4の加熱の欄で、「あり」と表記した。
各発酵方法、加熱方法での発酵品温の推移の代表例を図1に示す。
【0113】
醗酵工程終了後の納豆は、4℃の冷蔵庫で冷却することで熟成を行った。品質評価は、熟成後の検体について、それぞれ評価を行った。
【0114】
IV. 納豆製造後の調製
実施例a7~a12、aa1~aa4については、上述の方法で蒸煮大豆又は納豆の製造後に特定成分である2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン、イソ吉草酸、イソ酪酸、4-ビニルグアヤコールを表4(より正確には表4-1)の試薬添加量に記載した濃度になるように添加した。これら特定成分の試薬を添加したものは、表4(より正確には表4-1)において、用いた納豆菌の実施例番号と共に試薬添加品であることを併せて表記した(例えば、表4-1において「実施例a1+試薬添加品」などと表記した。)。特定成分はそれぞれ高濃度に超純水で希釈してから添加した。特定成分は下記の標準物質を用いた。

2,5-ジメチルピラジン (CAS No.123-32-0) (東京化成工業株式会社製)
2,3,5-トリメチルピラジン(CAS No. 14667-55-1)(東京化成工業株式会社製)
イソ吉草酸(CAS No.503-74-2) (富士フイルム和光純薬製)
イソ酪酸(CAS NO.79-31-2)(富士フイルム和光純薬製)
4-ビニルグアヤコール(CAS No. 7786-61-0)(高砂香料工業株式会社製)
【0115】
V.測定・評価
V-1.2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン、4-ビニルグアヤコールの測定
2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン、4-ビニルグアヤコールの測定は、ダイレクトヘッドスペース法でGC-MSに注入する方法で測定した。測定機器は、ゲステル社1次元2次元切替GC-MS(GC部:HP7890 Series GC SystemにLTM series IIを連結(ともにAgilent社製)、注入口:TDU2/CIS4(ゲステル社)、オートサンプラー:MPS(ゲステル社))を用いた。
【0116】
サンプルの機器への注入は、ダイレクトヘッドスペース法で実施した。
具体的には、検体の納豆0.5gを10mL平底のバイアルに計り取った後に密閉し60mlの窒素ガスパージによって揮発させた試料を分析成分の性質に応じた吸着樹脂(Tenaxカラム)で吸着した後、加熱脱着システムを用いて注入処理を行った。
【0117】
V-2.GC-MS条件(dynamic headspace(DHS)注入法)
・装置:Agilent製 7890B(GC)、5977B(MS)、Gester製 MultiPurpose Sampler(auto-sampler)
・吸着樹脂:TENAX
・インキュベーション温度:80℃
・窒素ガスパージ量:60ml
・窒素ガスパージ流量:10mL/min
【0118】
なお、キャピラリーカラムとしては、一次元カラムとしてDB-WAX(長さ30m、内径250μm、膜厚0.25μm、LTM用)(Agilent社)を使用した。キャリアガスとしてはヘリウムを用いた。
【0119】
2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン、4-ビニルグアヤコールの測定は以下の方法で行った。
サンプルの注入条件は、次のとおりとした。
・CIS4:
10℃で0.5分保持、その後720℃/分で240℃まで昇温。
・TDU2:
30℃で0.2分保持、その後240℃/分で240℃まで昇温。
【0120】
2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン、4-ビニルグアヤコールの測定は、上記注入条件で注入を行った後、一次元カラムで分離を行い、選択イオン検出(SIM)モードに供した。なお、DB-WAX(一次元カラム)のカラムオーブン条件は以下のとおりとした。
・DB-WAX(一次元カラム):
40℃で3分保持、その後5℃/分で240℃まで昇温、7分保持。
【0121】
各測定検体は、選択イオン検出(SIM)モードにより、下記表5に示す成分の標準物質を水で希釈した溶液2mlを検体と同様に測定した際の定量イオンの面積から測定検体の濃度を絶対検量線法で算出した。
【0122】
【表5】
【0123】
V-3.イソ吉草酸、イソ酪酸の測定
V-3-1.イソ吉草酸、イソ酪酸の測定は以下の方法で実施した。
検体の前処理は以下の方法で実施した。
供試納豆10gに50%エタノールを少しずつ加え、ガラス棒で混ぜながらペースト状になった納豆を薄めた。とろみのある液体になったところで100mlのメスフラスコに移した。トレイやガラス棒にサンプルが残らなくなるまでこの作業を繰り返した。
サンプルがすべてメスフラスコに入ったら50%エタノールで100mlにフィルアップした。さらに、ろ紙ろ過を行った後、0.45μmフィルターでろ過を行ったものを測定検体とした。
【0124】
測定検体を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に注入して測定を行った。
HPLCの測定条件は以下で実施した。測定機器は(島津製作所社製、機種LC-10ADVP)を用いた。測定時間は50分とし、イソ吉草酸、イソ酪酸の標準液(ともに富士フイルム和光純薬製製)(約10mg/100ml)とピーク面積を比較することによりイソ吉草酸、イソ酪酸の濃度を算出した。
【0125】
V-3-2.測定条件
・測定方法 イオン排除モード
・検出方法 電気伝導度検出法
・移動相 p-トルエンスルホン酸一水和物 0.761g
1Lに超純水でフィルアップ。

・反応相 p-トルエンスルホン酸一水和物 0.761g
EDTA 0.029g
Bis-Tris 3.348g
1Lに超純水でフィルアップ

・ポンプ流量 移動相:0.9ml/min、反応相:0.9ml/min
・オーブン温度 52℃
・検出器セル温度 55℃
・注入量 50μL
・カラム Shodex RS pak KC-811 × 2本 (昭和電工製)
・ガードカラム Shodex RS pak KC-G (昭和電工製)
・ガードフィルター SUMIPAX Filter (住化分析センター製)
【0126】
V-4.納豆中のPGA分析、レバン分析の前処理
納豆中のPGA分析、レバン分析を実施する検体については、以下に記載した除タンパク質処理を行った後に、エタノールを用いた精製処理を行って取得した納豆の増粘物質の抽出液を用いた。

1.納豆10gを、50mLの2.5%トリクロロ酢酸を加えて、10分間50℃に加温し攪拌した。
2.上記の混合液より豆の部分を取り除いたのちに、遠心分離(12000rpm, 10min)を行い、上澄みを取得した。
3.取得した上澄みを水酸化ナトリウムでpH7.0に調整し、イオン交換水にて2倍に希釈した後に、中和した液と等量の-30℃に予め冷却したおいたエタノールを加え攪拌した。
4.氷上にて10分間静置した後に、遠心分離(12000rpm, 10min)を実施した後に上澄みを廃棄し、乾燥させた。
5.乾燥させて取得した沈殿を増粘物質とし、20mMリン酸バッファー(pH7.0)で溶解させたものを粘物質抽出液として使用した。
【0127】
V-5.PGAの測定
納豆中のPGAの測定は、上述の前処理を行った粘物質抽出液について、以下の方法で処理した溶液について吸光度測定を行い、標準物質と吸光度を比較して定量分析を行った。吸光度の測定には、紫外可視分光光度計 UV-1800(島津製作所製)を用いた。

1.標準検量線の作成のため、PGA標準液として「ポリ-γ-グルタミン酸」 (平均分子量1,500,000~2,500,000)(富士フイルム和光純薬製) の水希釈液 0、25、50、100 μg/mLの20mMリン酸バッファー(pH7.0)希釈標準液を準備した。
2.上述の手法で取得した粘物質抽出液を、検量線の濃度範囲に入るように20mMリン酸バッファー(pH7.0)で希釈した。
3.PGA標準液および分析サンプル0.5mLに対して20mM リン酸バッファー(pH7.0) 2.0mL添加し、0.1Mセチルメチルトリメチルアンモニウムブロミド(セタブロン)/1M NaCl溶液 0.5mL加え攪拌した。
4.室温で20分間静置したのちに波長400nmのAbs(吸光度)を測定し、標準液より作成した検量線を用いて、サンプルのPGA濃度を算出した。
【0128】
V-6.レバンの測定
納豆中のレバンの測定は、上述の前処理を行った粘物質抽出液について、以下の方法で処理した溶液について吸光度測定を行い、フルクトースを指標とした標準物質と吸光度を比較して定量分析を行った。吸光度の測定には、紫外可視分光光度計 UV-1800(島津製作所製)が使用した。

1.標準検量線の作成のため、フルクトース標準液として 0、10、25、50、100 μg/mLの20mMリン酸バッファー(pH7.0)希釈標準液を準備した。
2.前記で取得した増粘物質抽出液を、上記検量線の範囲に入るように濃度に応じて20mMリン酸バッファー(pH7.0)で希釈した。
3.フルクトース標準液および分析サンプル0.6mLに対してレゾルシン・チオ尿素試薬 0.3mL試験管に入れ30%HCl 2.1mLを穏やかに混合する。
混合した液をビー玉で蓋をして突沸しないようにして、80℃で10分インキュベートした。
4.波長500nmのAbs(吸光度)を測定し、標準液より作成した検量線を用いてレバンの濃度を算出した。なお、レバン濃度は結合部の水を差し引いて、フルクトース検量線に0.9を乗じて算出した。
【0129】
V-7.納豆抽出液の濁度の測定
納豆の抽出液の濁度は、検体の納豆40gを水80mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液について、分光光度計により、波長660nmの吸光度を測定することで算出した。豆部と液部の分離にはポリエステル製のフィルター(キッチン 水切りストッキング C WF-1740 (セシール))を用いた。測定には分光光度計として、UV-1800(島津製作所製)を用い、10mm角のプラスチックセルで測定を行った。
【0130】
V-8.納豆抽出液の表色の測定
納豆の抽出液のL*a*b*色空間における表色は、納豆40gを水40mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液について、SD-3000(日本電色工業株式会社)を用いて測定を行った。豆部と液部の分離にはポリエステル製のフィルター(キッチン 水切りストッキング C WF-1740 (セシール))を用いた。表色の測定は、透過方式により、L*値、a*値、b*値を測定することで算出した。
【0131】
V-9.納豆抽出液の粘度の測定
納豆の抽出液の粘度は、納豆40gを水40mLに攪拌した後、豆部を除去して得た抽出液について、B型粘度計、より具体的にはBII形粘度計(東機産業株式会社製)を用いて測定した。
豆部と液部の分離にはポリエステル製のフィルター(キッチン 水切りストッキング C WF-1740 (セシール))を用いた。分離後の液部を50ml容のプラスチック製容器(φ30×115mm)(HARMONY遠沈管 CFT5000(LMS社))に移して粘度測定を行った。粘度測定の条件は、60rpm、25℃とし、ローターNo.2で測定した。
【0132】
V-10.納豆の曳糸性の測定
納豆の曳糸性の測定は、検体の納豆の豆二粒を密着して押さえつけた状態から、一粒のみを100mm/minの速度で上方に引き上げた際に、二粒の豆の間に生じたポリグルタミン酸を主体とする糸が切れるまでの距離を測定することで測定した。測定には、デジタルフォースゲージ(型番FGP-0.5(日本電産シンポ株式会社製))とフォースゲージスタンド(型番FGS-
50E(日本電産シンポ株式会社製))を組み合わせた装置を使用した。
なお、納豆の曳糸性の測定は、実施例a1~a3、並びに、比較例b2、b5についてのみ行った。結果は、0.5mm刻みで記録し、合計5回測定し記録した結果の平均値で表した。
以上の結果を表4(表4-1と表4-2)に示す。
表4(特に表4-2)の結果から明らかなように、納豆の曳糸性の測定結果は、比較例b2、b5では、200mm以上であったのに対して、実施例a1~a3では、それぞれ2.4mm、1.3mm、1.7mmと極めて曳糸性が低いことが分かる。
【0133】
V-11.官能評価
官能評価は以下の方法で実施した。
各サンプルの評価は以下の条件で行った。各評価は以下の訓練を行った官能検査員4名で実施し、その平均点を評点として小数第一位を四捨五入した値を表4(特に表4-2)に記載した。
【0134】
官能検査員は、下記A)及びB)の識別試験を実施し、特に成績が優秀な者を選定した。
A)五味(甘味:砂糖の味、酸味:酒石酸の味、旨み:グルタミン酸ナトリウムの味、塩味:塩化ナトリウムの味、苦味:カフェインの味)について、各成分の閾値に近い濃度の水溶液を各1つずつ作製し、これに蒸留水2つを加えた計7つのサンプルから、それぞれの味のサンプルを正確に識別する味質識別試験。
B)濃度がわずかに異なる5種類の食塩水溶液、酢酸水溶液の濃度差を正確に識別する濃度差識別試験。
【0135】
官能検査の項目は以下の「納豆の後味」とし、以下の5段階で評価した。
評価は、他の食品と組み合わせた場合に残る納豆の後味を想定して、納豆単独で実施した。特に、納豆の後味における良好な風味の持続性と不快な風味の持続性のバランスに主眼をおいて評価を行った。
【0136】
・納豆の後味:
5 後味の良好な風味が非常に強く非常に好ましい。
4 後味に良好な風味が強く感じられ好ましい。
3 後味に不快な風味もやや感じられるが良好な風味が勝っている。
2 後味の不快な風味が良好な風味に勝っており好ましくない。
1 後味の不快な風味が非常に強く感じられ非常に好ましくない。
【0137】
官能検査の結果を下記表4(特に表4-5)に示す。
表4(特に表4-5)の結果から明らかなように、実施例は全般に渡って、3点以上と基準値を満たしたが、比較例は全般に渡って2点以下となり基準値を満たさなかった。
なお、表4-5には記載しないが、実施例の検体は、液状調味料、シリアル、麺類など、他の食品素材を組み合わせた際の後味が改善されていた。
【0138】
【表4-1】
【0139】
【表4-2】
【0140】
【表4-3】
【0141】
【表4-4】
【0142】
【表4-5】
【関連出願の相互参照】
【0143】
本出願は、2020年1月31日に日本国特許庁に出願された特願2020-14279に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。
図1