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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】防汚性膜を有する基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20231122BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20231122BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20231122BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20231122BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20231122BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D3/02 Z
B05D5/00 H
B05D7/24 301B
B05D7/24 303B
C09D1/00
C09D5/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020086751
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021181045
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】石津 賢一
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-202084(JP,A)
【文献】特開2010-167744(JP,A)
【文献】特開平11-92689(JP,A)
【文献】特開昭63-57781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiO・nSiO(但し、nは4.0~10.0の範囲)をSiOとして1~15質量%の範囲で含む液を基材上に塗布、乾燥させて塗膜を形成し、
次いで該塗膜上に第5族または第6族の金属元素を含むアルカリ性溶液を塗布し、
さらにこれを300℃以上の温度で熱処理することを特徴とする防汚性膜を有する基材の製造方法。
【請求項2】
第5族または第6族の金属元素を含むアルカリ性溶液が、金属酸塩の水溶液である請求項1記載の防汚性膜を有する基板の製造方法。
【請求項3】
金属酸塩が、バナジン酸、モリブデン酸及びタングステン酸からなる群から選ばれるいずれかの酸の、ナトリウム、カリウム、アンモニウム及び第4級アンモニウムからなる群から選ばれるいずれかの塩である請求項2記載の防汚性膜を有する基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防汚性膜を有する基板の製造方法に係わる。詳しくは、従来から防汚性膜として知られるケイ酸リチウム膜の防汚性を一層向上させ、良好な防汚性および耐熱性を併せ持つ膜を各種基板上に形成できる方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
台所や厨房の器具、食品工場は汚れが定着すると衛生面、作業性や外観に問題が生じる。汚れの種類は、水溶性汚れ、油溶性汚れ、粒子汚れに大別されるが、汚れを定着させる原因である油溶性汚れが最も問題になる。特に台所や厨房の器具、食品工場ではガラス製やステンレス製の器具が多く使用されている。なかでもステンレスは親油性が高く、指紋が付着するとなかなか除去できない。この指紋は塩を含む油分からなっており、外観を損なうとともに錆を発生させる起点となる。この油溶性汚れに対しては、界面活性剤やアルカリを含む洗剤で除去することが一般的に行われているが、多くの費用や労力を要する。そのために、事前に汚れが付きにくい表面状態にする防汚コーティングが検討されている。この防汚コーティングでは、基材の表面に塗料や界面活性剤で超親水性や超撥水性を示す塗膜を形成させることが多い。
【0003】
当該防汚コーティング技術の一つとして、フッ素系樹脂を用いる方法があるが、耐擦傷性に劣る傾向があり、さらに時には400℃以上の高温にさらされる可能性のある上記用途においては耐熱性も十分とは言えず、無機系の膜がこれら用途には適している。
【0004】
基材上に形成される無機系膜の一つとしてはケイ酸リチウムからなる膜が知られている。ケイ酸リチウムは他の可溶性ケイ酸塩と異なり、乾燥して形成された膜が再溶解し難いため、水溶液などとして塗布し、簡単に耐水性の膜を形成できるという特徴があり、耐熱性や防汚性を持つ膜を簡便に得ることができ、例えば耐指紋性に優れた膜を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら当該ケイ酸リチウム単独膜では防汚性が十分ではないため、様々な第三成分を配合して防汚性を向上させる試みが行われている。例えば、ケイ酸リチウムを含む水溶液に酸化チタンを配合し、該酸化チタンの光触媒作用を利用する塗料が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
ところで、ケイ酸リチウム膜は、前記した耐擦傷性や、あるいは防錆性など様々な物性を与えるためにも用いられており、さらに各種物性を向上させるために、クロム、モリブデン、タングステンなどの金属化合物が配合されることもある(例えば、特許文献3~7参照)。しかしながら水溶性ケイ酸塩液に多量の金属酸塩水溶液を混ぜるとゲル化するため、均一な膜を形成する目的で上記金属を水溶性塩のかたちで添加しようとした場合には極めて保存安定性に劣るものか、あるいは極微量の添加量に抑えたものしかできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-167744号公報
【文献】特開平10-237354号公報
【文献】特開昭51-123231号公報
【文献】特開昭50-009634号公報
【文献】特開昭55-110165号公報
【文献】特開平3-223473号公報
【文献】特開2015-190046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記したようにケイ酸リチウムを用いた膜は、他の水溶性ケイ酸塩を利用した膜よりも耐水性に優れるが、流水に晒すと防汚性が低下する傾向があり、さらなる向上が求められていた。
【0009】
また前記したような光触媒作用を利用して防汚性を向上させる技術では、光のあたりにくい箇所での十分な防汚性は期待できない。さらにこれらの技術では酸化チタンを粒子として配合するが、粒子以外の部分はケイ酸リチウムそのものであるため、上記耐水性の向上は見込めない。
【0010】
そこで本発明では、成膜の容易なケイ酸リチウム膜を利用し、かつ繰り返し流水にあたるような用途や、光の当たりにくい場所で使用されても十分な防汚性を長期間維持できる防汚膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記課題に鑑み、種々検討を行い、前記したような防錆性等を与えるケイ酸リチウム系の膜形成において配合されるタングステンなどが、防汚性の向上にも寄与することに着目し、さらに、短時間でのゲル化を防ぎ使用しやすい方法を探索した結果、ケイ酸リチウム膜に対して、後からタングステンなどの溶液を塗布する方法を採用すれば良好な結果を得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
即ち本発明は、LiO・nSiO(但し、nは4.0~10.0の範囲)をSiOとして1~15質量%の範囲で含む液を基材上に塗布、乾燥させて塗膜を形成し、
次いで該塗膜上に第5族または第6族の金属元素を含むアルカリ性溶液を塗布し、
さらにこれを300℃以上の温度で熱処理することを特徴とする防汚性膜を有する基材の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塗膜形成が容易で、耐擦傷性、耐熱性にも優れたケイ酸リチウム系の防汚膜に対して、従来よりもいっそう耐久性に優れた防汚性能を付与できるとともに、膜形成のための原料溶液として、保存安定性などに優れた組成の物を使用することができ、台所や厨房の器具あるいは食品工場などで使用される物品に対して防汚性を付与できる優れた方法である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の製造方法で防汚性を付与する対象は、その必要性のある物品であれば特に限定されないが、前記した台所や厨房の器具あるいは食品工場などで使用される物品、具体的には、キッチンシンク、ガスレンジ、冷蔵庫、換気扇、電子レンジなどに適用することが好適である。
【0015】
また、本発明の製造方法で得られる膜は耐熱性が高いという利点を十分に発揮できる点で、基材の材質はガラス、セラミックスやあるいは金属(例えばステンレス)であることが好ましい。このなかでも熱膨張による剥離を防ぐために、基材の線熱膨張係数が6×10-6/k~14×10-6/kの範囲の材質のもの、あるいは、その範囲の線熱膨張係数を持つ下地膜を設けたものが特に好ましい(この場合、下地膜も含めて基材とする)。前記用途においては、当該基材は、一般的には板状であることが多い(板状の基材については、特に基板と記す場合がある)。
【0016】
更に、本発明の防汚性能を高めるために、基材の表面は平滑であることが望ましい。具体的には、算術平均粗さ(Ra)が0.8μm未満である。Raが0.8μm以上の場合、塗膜の均一性が得られにくく、期待する防汚性能が得られなくなる虞がある。更に好ましくは、Raが0.5μm以下である。なお、Raは蝕針式表面粗さ測定機やレーザー顕微鏡等で測定できる。
【0017】
本発明の製造方法においては、防汚性膜を形成したい上記のような基材上に、LiO・nSiO(但し、nは4.0~10.0の範囲)をSiOとして1~15質量%の範囲で含む液(以下、「ケイ酸リチウム含有液」という)を塗布する。
【0018】
当該LiO・nSiOは、nの範囲が4.0~10.0の間になければならない。nが10.0を超えると、形成される膜に含まれるリチウムの含有量が少なくなりすぎ、十分な防汚性を得ることができない。一方、nが4.0未満、即ちリチウムの多すぎると形成される膜の溶解性が高く、十分な耐水性を得ることができない。好ましいnの範囲は4.5~7.0である。
【0019】
ケイ酸リチウム含有液における上記LiO・nSiOの含有量はSiOとして1~15質量%である。濃度が低すぎると十分な塗膜を形成できない。濃度が高すぎると、形成された塗膜の表面が荒れてしまう。好ましい濃度範囲はSiOとして5~10質量%である。
【0020】
当該ケイ酸リチウム含有液におけるLiO・nSiOの存在形態は、溶解していてもよいし、微粒子となった分散液でも、その中間的な状態でもよい。濃度やnの値が低ければ全量が溶解して均一な溶液となりやすく、濃度が濃くなると溶解せずに分散した粒子が存在するようになる傾向がある。
【0021】
当該ケイ酸リチウム含有液における溶媒/分散媒は、ケイ酸リチウムの溶解性、除去の容易性、毒性などの点で水であることが特に好ましいが、一部、揮発性の有機溶媒が含まれていてもよい。
【0022】
また当該ケイ酸リチウム含有液には、本発明効果を損なわない範囲で、ケイ酸リチウム系の膜を得る際に使用される液の成分として公知の成分が配合されていてもよい。
【0023】
当該ケイ酸リチウム含有液の製造方法は特に限定されず、所望の濃度及びnの値になるように、公知の方法を採用して製造すれば良い。
【0024】
上記ケイ酸リチウム含有液を基材上に塗布して塗膜を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜採用すれば良い。例えば、バーコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、刷毛塗等が採用できる。
【0025】
また本発明の製造方法においては、上記ケイ酸リチウム含有液の塗布に先立ち、基材表面をアルカリによって脱脂処理することもできる。当該脱脂処理は公知の方法で行えるが、アニオン系界面活性剤や溶解助剤を添加した水酸化ナトリウムやケイ酸ナトリウムの水溶液を室温から80℃の温度で浸漬させて行う方法が一般である。これにより、基板表面が清浄になるとともに、表面に水酸基が発生して塗膜の密着性を向上させることができる。
【0026】
ケイ酸リチウム含有液塗布により形成する塗膜厚さは、好ましくは0.01~2μmの範囲である。一定以上の厚みがあった方が効果は出やすいが、あまりに厚すぎると剥離し易くなる。なお当該塗膜厚さは、後述する乾燥を実施して溶媒を除去した後の乾燥膜の厚さである。厚さの調整は公知の方法で適宜行えばよい。
【0027】
ケイ酸リチウム含有液の塗布を行った後には、乾燥させてケイ酸リチウムの乾燥膜を得る。乾燥は、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥等のケイ酸リチウム膜を得る際の乾燥方法を適宜採用でき、その際の温度は室温から120℃の範囲が一般的である。
【0028】
基板によっては熱膨張によりケイ酸リチウム膜に亀裂を生じさせ易いものもある。その場合は、ケイ酸リチウムの乾燥膜の上に再びケイ酸リチウム含有液を塗布して亀裂に浸みこませることにより、より防汚性の高い膜を形成することができる。
【0029】
本発明の製造方法では、上記のようにして基材上に形成されたケイ酸リチウムの塗膜に、さらに第5族または第6族の金属元素を含むアルカリ性溶液を塗布する。当該第5族元素は、具体的にはバナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)といった第5族元素、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)といった第6族元素が挙げられるが、好ましくはバナジウム、クロム、モリブデンまたはタングステンである。
【0030】
上記第5族または第6族の金属元素は、通常は溶液中にイオンとして存在するが、本発明においては単独イオンとして存在していても、オキソアニオン等の多原子イオンとして存在していてもよいが、アルカリ性溶液中での安定性の観点からオキソアニオンとして存在することが好ましい。本発明の製造方法で用いる上記アルカリ性溶液中には、当該金属元素は1種だけでもよいし、複数種含んでいてもよい。また第5族または第6族の金属元素イオンの価数は、5価または6価が好ましい。
【0031】
対イオンも特に限定されず、第5族または第6族の金属元素を含むアルカリ性溶液における公知の対イオンでよく、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン及びR(R,R,R,Rは水素またはアルキル基)等が例示されるが、ナトリウムイオン及び/又はカリウムイオンが好ましい。
【0032】
また当該アルカリ性溶液の溶媒は水が好ましい。当該アルカリ性溶液の液性は、アルカリ性であるが、特に弱アルカリ性であることが好ましい。pHとしては8.0~11.0の範囲が一般的である。pHが11.0を超える強アルカリ性では、ケイ酸リチウム膜と反応して塗膜の耐久性を損なう虞がある。当該アルカリ性溶液における第5族または第6族の金属元素の濃度は特に限定されないが、薄すぎると十分な効果を得るために多数回の重ね塗りが必要となり、一方、濃すぎると塗布後の表面が荒れがちになるため、固形分濃度として0.1~10質量%の溶液であることが好ましい。
【0033】
上記のようなアルカリ性溶液を調製する方法は特に限定されず、例えば、バナジン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、ポリバナジン酸塩、ポリモリブデン酸塩、ポリタングステン酸塩等のオキソ酸塩(これらの塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる)を水に溶解すればよい。
【0034】
上記のような第5族または第6族の金属元素を含むアルカリ性溶液を、前記ケイ酸アルカリの乾燥塗膜上に塗布する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜採用すれば良い。例えば、バーコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、刷毛塗等が採用できる。
【0035】
本発明の製造方法においては、上記アルカリ性溶液を塗布した後、300℃以上の温度で熱処理する。熱処理温度が300℃未満では性能が不安定となり、防汚性を再現性良く発揮することができない。好ましくは350℃以上である。一方、上限温度は基材の耐熱性で決定されるが、高温ほど加熱のためのコストが高くなるため、一般には450℃以下で行うことが好ましい。また時間は1分から1時間が一般的である。
【0036】
このようにして加熱処理を行ったあと、室温まで冷却すれば、防汚性に優れた塗膜により保護された基材を得ることができる。
【実施例
【0037】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
<サンプルの作成>
1.基材
基材としては、76×26×1.0~1.2mmの大きさのクラウンガラス製の板あるいはSUS430製やSUS304製の板を使用した(板状であるから、以下では「基板」と記す)。
【0039】
2.塗工液の調製
(1)ケイ酸リチウム溶液
日本化学工業株式会社製ケイ酸リチウム水溶液(製品名:n=3.6;珪酸リチウム35、n=4.4;珪酸リチウム45、n=7.5;珪酸リチウム75)を混合することによりnを調整し、SiOとして10重量%になるように水で希釈して使用。
【0040】
(2)金属元素を含むアルカリ性溶液
・5%-WO:タングステン酸カリウムを、WO換算量で5質量%となるように水に溶解して調製。
・1%-WO:タングステン酸カリウムを、WO換算量で1質量%となるように水に溶解して調製。
・5%-MoO:モリブデン酸カリウムを、MoO換算量で5質量%となるように水に溶解して調製。
・5%-VO2.5:メタバナジン酸ナトリウムを、VO2.5換算量で5質量%となるように水に溶解して調製。
・5%-SnO:スズ酸カリウムを、SnO換算量で5質量%となるように水に溶解して調製。
・5%-ZrO:炭酸ジルコニウムアンモニウムを、ZrO換算量で5質量%となるように水に溶解して調製。
・5%-MnO:過マンガン酸カリウムを、MnO換算量で5質量%となるように水に溶解して調製。
【0041】
3.脱脂処理
JIS K1408に規定されたケイ酸ナトリウム1号とClariant社製界面活性剤HOSTAPUR SAS 93をそれぞれ固形換算で20質量%になるように水に溶かした。この水溶液を60℃に加温した後、各基板を25分間浸漬した。その後、基板を取り出し、泡が生じなくなるまで流水に晒した後に室温で乾燥させた。
【0042】
4.塗工処理
脱脂処理を行った基板上に所定のケイ酸リチウム水溶液をスポイトで1、2滴垂らし、ウエット膜厚3μmのバーコーターで塗布した後、100℃で5分間乾燥させた。放冷後、金属元素を含むアルカリ性溶液をスポイトで1、2滴垂らし、ウエット膜厚3μmのバーコーターで塗布した。これを60℃で5分間乾燥させた後、所定の温度で20分間の熱処理を行った。
【0043】
5.防汚性評価(マジックテスト)
基板の塗工処理面に油性マーキングペンで長さ2cm程度の線を1本引き、この基板を流水に5分間晒した後に室温で乾燥させ、次いで、先の線と重ならないように新たに1本の線を引き、流水に晒した後に乾燥することを35回繰り返した。完了後、引かれた35本の線の状況を観察し、線の残留長さが5mm以下になっていた本数を計測した。この時、防汚性が無ければ35本が5mmを超えて残留するため値は小さくなり、逆に、防汚性が高ければ残留した本数が少なくなるため値は高くなる。この操作をn数3で行い、その平均値をもって評価結果とした。
【0044】
6.リチウムイオン溶出量
ソーダガラス製のテストピース(100mm×20mm×1mmt)2枚の各片面に膜を形成させ、塗工面が外側になるようにしてPFA製バイアル瓶(容量60mL)に入れた。イオン交換水で満たして室温で24時間静置した。その後、テストピースを取り出し、ICP-OES法でリチウムイオン濃度を測定した。
【0045】
実施例1
基板としてクラウンガラス(線熱膨張係数:9.5×10-6/k、Ra:0.1μm以下)、nが6.5であり、SiOとして10質量%のケイ酸リチウム溶液を用いてケイ酸リチウム膜を形成させ、金属元素を含むアルカリ性溶液として5%-WOを用い、熱処理の温度は400℃として塗工処理を行った。得られた膜のマジックテストの結果を表1に示す。
【0046】
実施例2~7、比較例1~8
ケイ酸リチウム溶液、金属元素を含むアルカリ性溶液及び熱処理温度を表1に示すように変化させて塗膜を形成させた。マジックテストの結果を表1に合わせて示す。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例8
基板としてSUS430(線熱膨張係数:11×10-6/k、Ra:0.1μm)を用いた以外は実施例1と同様にして塗膜を得た。マジックテストの結果は25.0であった。
【0049】
実施例9
基板としてSUS430(線熱膨張係数:11×10-6/k、Ra:0.2μm)を用いた以外は実施例1と同様にして塗膜を得た。マジックテストの結果は23.0であった。
【0050】
実施例10
基板としてSUS304(線熱膨張係数:18×10-6/k、Ra:0.4μm)を用いた以外は実施例1と同様にして塗膜を得た。マジックテストの結果は19.3であった。
【0051】
比較例9
基板としてSUS304(線熱膨張係数:18×10-6/k、Ra:0.8μm)を用いた以外は実施例1と同様にして塗膜を得た。マジックテストの結果は9.0であった。
【0052】
比較例10
ケイ酸リチウム水溶液に変えて、日本化学工業株式会社製ケイ酸カリウム(製品名:2K珪酸カリ)をSiOとして10質量%に希釈した液を用いた以外は、実施例1と同様にして塗膜を得た。マジックテストの結果は3.0であった。
【0053】
実施例11
実施例1の手順で膜を形成し、この膜からのリチウムイオン溶出量を測定したところ0.1μg/cmであった。
【0054】
比較例11
比較例2の手順で膜を形成し、この膜からのリチウムイオン溶出量を測定したところ0.5μg/cmであった。