(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】スパッタ装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20231122BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C23C14/50 K
C23C14/34 J
(21)【出願番号】P 2022550548
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2021033535
(87)【国際公開番号】W WO2022059644
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2020156448
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】阪上 弘敏
(72)【発明者】
【氏名】大野 哲宏
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6579726(JP,B2)
【文献】特開平06-264229(JP,A)
【文献】特開2013-171811(JP,A)
【文献】特開2009-287046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/50
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法で被処理基板上に膜を形成する装置であって、
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に設けられたカソードと、
前記カソードの表面に設けられたターゲットと、
前記ターゲットに対向するように前記真空チャンバ内に設けられ、かつ、被処理基板が設置される基板保持部と、
前記基板保持部を前記ターゲットに対して揺動可能とする揺動部と、
を備え、
前記揺動部は、揺動方向に延在する揺動軸と、前記揺動軸の軸線方向に前記基板保持部を揺動させる揺動駆動部と、前記揺動軸に設けられかつ前記揺動軸を回動させる回転駆動部と、
を有し、
前記回転駆動部は、略水平方向位置とされた前記被処理基板を載置・取り出しする水平載置位置と、前記被処理基板の被処理面を略鉛直方向に沿うように立ち上げた鉛直処理位置との間で、前記基板保持部を回転動作可能であり、
前記揺動部は、前記被処理基板の周囲に配置されるとともに前記基板保持部と同期して揺動する防着板を備え
、
前記揺動部は、
前記真空チャンバの外側に配置され、前記揺動軸および前記防着板を支持する支持台部を有する、
スパッタ装置。
【請求項2】
前記防着板は、前記被処理基板の前記鉛直処理位置に対応して略鉛直方向に沿って立ち上がった配置で維持される、
請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記揺動軸は、前記真空チャンバを貫通しており、
前記回転駆動部は、前記真空チャンバの外側位置に配置される、
請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項4】
前記揺動軸に設けられ、前記揺動軸と前記真空チャンバとの間で前記基板保持部の揺動時に真空を維持する可変密閉部を備える、
請求項3に記載のスパッタ装置。
【請求項5】
前記支持台部は、前記真空チャンバの外側に配置された前記揺動駆動部によって揺動可能とされる、
請求項
1に記載のスパッタ装置。
【請求項6】
前記支持台部には、前記回転駆動部が配置される、
請求項
5に記載のスパッタ装置。
【請求項7】
前記支持台部は、前記真空チャンバの底部の下側に配置された揺動規制部を備え、
前記揺動規制部は、前記真空チャンバの前記底部に対する前記支持台部の移動位置を規制することが可能である、
請求項
1に記載のスパッタ装置。
【請求項8】
前記揺動規制部は、前記支持台部と前記真空チャンバの底部との間に位置して前記揺動軸と平行に配置される揺動規制レールを有する、
請求項
7に記載のスパッタ装置。
【請求項9】
前記揺動部は、前記防着板を前記支持台部に支持する防着板支持部を有する、
請求項
1に記載のスパッタ装置。
【請求項10】
前記防着板支持部は、前記揺動軸と同軸で前記揺動軸の径方向外側に配置される同軸外筒部を有する、
請求項
9に記載のスパッタ装置。
【請求項11】
前記同軸外筒部の径方向外側に配置された可変密閉部を備える、
請求項
10に記載のスパッタ装置。
【請求項12】
前記支持台部と前記揺動軸との間において、前記可変密閉部よりも前記揺動軸の軸線方向で前記真空チャンバから離間する位置に配置された、軸内密閉部を有する、
請求項
11に記載のスパッタ装置。
【請求項13】
前記同軸外筒部は、前記真空チャンバを貫通しており、
前記同軸外筒部の外側端部は、前記支持台部に接続されている、
請求項
10に記載のスパッタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ装置に関し、特に、マグネトロンカソードを有する成膜に用いて好適な技術に関する。
本願は、2020年9月17日に日本に出願された特願2020-156448号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されるように、マグネトロンカソードを有する成膜装置においては、ターゲットの利用効率を向上するためなどを目的として、マグネットをターゲットに対して移動させる方式が知られている。
【0003】
また、特許文献1に開示された技術のように、成膜の均一性を向上させる等の目的のために、マグネットの移動に加え、カソード、ターゲットと成膜基板とを互い揺動させることも知られている。特許文献1では、カソードおよびターゲットを成膜基板に対して揺動させている。
【0004】
また、特許文献2に開示された技術のように、発生したパーティクルがスパッタ処理室内における成膜に悪影響を及ぼすことを防止する目的などで、マグネットおよび/またはカソードを揺動させる駆動部を収納して密閉するための内部チャンバをスパッタ処理室内に設けることが知られている。
【0005】
さらに、本出願人らは、特許文献3に記載されるように、カソード、ターゲットに対して成膜基板を揺動させる技術を公開している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2009-41115号公報
【文献】日本国特開2012-158835号公報
【文献】日本国特許第6579726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、処理チャンバ内では、不必要な付着物が発生することになるが、この付着物が、パーティクルを新たに発生させる原因となる可能性がある。特に、揺動するカソード等、可動する部分からパーティクルが顕著に発生するという問題がある。このため、処理チャンバ内において、同じ動作が可能な部品の構成をなるべくシンプルな構成にしたいという要求があった。
【0008】
また、スパッタ装置を、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのFPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)の製造に用いる場合には、被処理基板が極めて大きい。このため、基板を成膜位置に搬送して支持する支持部材が大型化するだけでなく、支持部材の重量も増大する。したがって、成膜基板やカソード、ターゲットを揺動させる駆動部も大型化する。このような大型化にともなって、装置を構成する部品の振動が発生することによる悪影響、さらなるパーティクルが発生するといった問題が懸念される。
このため、揺動部材の重量を軽減することや、駆動部の省スペース化が求められていた。同時に、上述したように処理チャンバである真空槽内に配置される部材の構成を簡略化することが要求される。また、処理チャンバである真空槽の近辺の領域においても、上述したように、駆動部等が配置される構成を簡略化することが要求される。
同様に、装置の大型化が進み、装置の重量が増加した場合に、装置のメンテナンス時の手間が増え、パーティクルの発生量が増加する恐れもあった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.スパッタ装置の小型化と、スパッタ装置を構成する部品の重量の軽減と、スパッタ装置の省スペース化とを実現可能とすること。
2.スパッタ装置の成膜性能の維持または向上を図ること。
3.パーティクルによる成膜処理への悪影響を抑制すること。
4.スパッタ装置を構成する部品の振動の抑制を図ること。
5.スパッタ装置のメンテナンスにおける作業効率の向上と、パーティクルの発生量の低減を図ること。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係るスパッタ装置は、スパッタリング法で被処理基板上に膜を形成する装置であって、真空チャンバと、前記真空チャンバ内に設けられたカソードと、前記カソードの表面に設けられたターゲットと、前記ターゲットに対向するように前記真空チャンバ内に設けられ、かつ、被処理基板が設置される基板保持部と、前記基板保持部を前記ターゲットに対して揺動可能とする揺動部と、を備える。前記揺動部は、揺動方向に延在する揺動軸と、前記揺動軸の軸線方向に前記基板保持部を揺動させる揺動駆動部と、前記揺動軸に設けられかつ前記揺動軸を回動させる回転駆動部と、を有する。前記回転駆動部は、略水平方向位置とされた前記被処理基板を載置・取り出しする水平載置位置と、前記被処理基板の被処理面を略鉛直方向に沿うように立ち上げた鉛直処理位置との間で、前記基板保持部を回転動作可能である。前記揺動部は、前記被処理基板の周囲に配置されるとともに前記基板保持部と同期して揺動する防着板を備える。前記揺動部は、前記真空チャンバの外側に配置され、前記揺動軸および前記防着板を支持する支持台部を有する。このような構成を有するスパッタ装置により、上記課題を解決した。
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記防着板は、前記被処理基板の前記鉛直処理位置に対応して略鉛直方向に沿って立ち上がった配置で維持されてもよい。
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記揺動軸は、前記真空チャンバを貫通しており、前記回転駆動部は、前記真空チャンバの外側位置に配置されてもよい。
本発明の一態様に係るスパッタ装置は、前記揺動軸に設けられ、前記揺動軸と前記真空チャンバとの間で前記基板保持部の揺動時に真空を維持する可変密閉部を備えてもよい。
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記支持台部は、前記真空チャンバの外側に配置された前記揺動駆動部によって揺動可能とされてもよい。
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記支持台部には、前記回転駆動部が配置されてもよい。
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記支持台部は、前記真空チャンバの底部の下側に配置された揺動規制部を備え、前記揺動規制部は、前記真空チャンバの前記底部に対する前記支持台部の移動位置を規制することが可能であってもよい。
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記揺動規制部は、前記支持台部と前記真空チャンバの底部との間に位置して前記揺動軸と平行に配置される揺動規制レールを有してもよい。
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記揺動部は、前記防着板を前記支持台部に支持する防着板支持部を有してもよい。
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記防着板支持部は、前記揺動軸と同軸で前記揺動軸の径方向外側に配置される同軸外筒部を有してもよい。
本発明の一態様に係るスパッタ装置は、前記同軸外筒部の径方向外側に配置された可変密閉部を備えてもよい。
本発明の一態様に係るスパッタ装置は、前記支持台部と前記揺動軸との間において、前記可変密閉部よりも前記揺動軸の軸線方向で前記真空チャンバから離間する位置に配置された、軸内密閉部を有してもよい。
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記同軸外筒部は、前記真空チャンバを貫通しており、前記同軸外筒部の外側端部は、前記支持台部に接続されてもよい。
【0011】
本発明の一態様に係るスパッタ装置は、スパッタリング法で被処理基板上に膜を形成する装置であって、真空チャンバと、前記真空チャンバ内に設けられたカソードと、前記カソードの表面に設けられたターゲットと、前記ターゲットに対向するように前記真空チャンバ内に設けられ、かつ、被処理基板が設置される基板保持部と、前記基板保持部を前記ターゲットに対して揺動可能とする揺動部と、を備える。前記揺動部は、揺動方向に延在する揺動軸と、前記揺動軸の軸線方向に前記基板保持部を揺動させる揺動駆動部と、前記揺動軸に設けられかつ前記揺動軸を回動させる回転駆動部と、を有する。前記回転駆動部は、略水平方向位置とされた前記被処理基板を載置・取り出しする水平載置位置と、前記被処理基板の被処理面を略鉛直方向に沿うように立ち上げた鉛直処理位置との間で、前記基板保持部を回転動作可能である。前記揺動部は、前記被処理基板の周囲に配置されるとともに前記基板保持部と同期して揺動する防着板を備える。
【0012】
これにより、成膜時には、被処理基板と防着板とを同期して揺動させることができる。また、被処理基板の全周囲と防着板との間に、不必要な隙間を作らず、成膜空間(前側空間)から裏側空間へと回り込むガスの量を低減することができる。これにより、裏側空間内に配置される部材に不必要な膜が形成することがない。すなわち、このような部材に付着した膜に起因するパーティクルの発生を抑制することが可能となる。
このとき、被処理基板を揺動する際に、ターゲットから叩き出された成膜粒子が到達する被処理基板以外の領域を防着板によって覆うことで、基板保持部に成膜材料が直接的に付着することを防止することができる。また、防着板によって、矩形輪郭を有する被処理基板の四辺を覆って被処理基板の全面で均一な成膜を行うことが可能となる。
【0013】
さらに、防着板で囲まれた被処理基板の表面に、ターゲットから叩き出された成膜粒子が到達する。この被処理基板において、成膜粒子が到達する表面は、成膜領域となる。成膜領域においては、均一な成膜が可能となる。被処理基板の非成膜領域となる被処理基板の全周に位置する外側領域を、防着板で覆うことができる。被処理基板の揺動をさせても、揺動方向と直交する方向における被処理基板の端部をおよび防着板で覆った状態を維持することができる。
【0014】
揺動駆動部は、揺動軸の軸線方向に前記基板保持部を揺動させる。揺動駆動部は、真空チャンバの外部に配置されている。この揺動駆動部によって揺動軸を往復動作させることにより、真空チャンバ内の基板保持部と防着板とを同期して揺動させることが可能となる。
【0015】
回転駆動部は、真空チャンバの外部に配置されている。この回転駆動部は、揺動軸を回転動作させる。従って、真空チャンバ内の基板保持部を回転させて、水平載置位置において基板保持部に被処理基板を載置・取り出しするとともに、鉛直処理位置において基板保持部に保持された被処理基板の被処理面を略直方向に沿うように立ち上げて被処理基板をターゲットと対向する状態にするとともに被処理基板を揺動させて成膜することが可能となる。
【0016】
さらに、防着板の取り付けおよび取り外しを簡略化して、装置のメンテナンスに要する時間を削減し、作業性の向上を図り、装置の稼働率の向上を図り、製造コストを削減することが可能となるという効果を奏する。
【0017】
また、ターゲットを揺動させることなく、被処理基板とターゲットとの相対位置を変化させつつ成膜を行うことが可能となる。このため、簡単な構成を実現し、ターゲットを揺動させる構成を設けることなく、被処理基板上における成膜の均一性を維持することができる。これにより、ターゲットを揺動させる構成を設けた場合に比べて簡単な構成を実現し、真空チャンバ内で、成膜に伴う付着物等から発生するパーティクルを極めて少なくすることが可能となるとともに、装置の省スペース化を図ることができる。
【0018】
さらに、パーティクルの発生量を低減し、パーティクルの影響による成膜不具合の発生を抑制することが可能となる。また、成膜量が増えた場合でも、スパッタ装置によって得られる製品の歩留まりの向上を図り、装置のメンテナンスに要する時間を減し、これによって作業性の向上を図り、装置の稼働率の向上を図り、製造コストを削減することが可能となるという効果を奏する。
【0019】
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記防着板は、前記被処理基板の前記鉛直処理位置に対応して略鉛直方向に沿って立ち上がった配置で維持される。
これにより、前記防着板は、前記基板保持部の回転動作と同期して回転しない。したがって、回転駆動部は、大きな重量を有する防着板を回転する必要がない。同時に、基板保持部には被処理基板を載せる動作のみが必要となる。これにより、基板保持部に被処理基板を載せる際に、防着板を基板保持部に近接させて、防着板と基板保持部とを位置決めする必要がない。
【0020】
したがって、回転駆動部によって回転される部材の重量を低減するとともに、同時に、基板保持部を構成する部品点数を削減することができる。これにより、真空チャンバ内に配置する部材の構成を簡略化し、その部品点数を削減するとともに、回転駆動部の駆動力を抑制して回転駆動部を小型化し、装置を構成する部品の振動の発生を抑制することが可能となり、パーティクルの発生の抑制を実現することが可能となる。
同時に、被処理基板の全周囲と防着板との間に不必要な隙間を作らず、成膜空間(前側空間)から裏側空間へと回り込むガスの量を低減することができる。これにより裏側空間内に配置される部材に形成される不必要な膜の量を低減して、上述したガスの回り込みに起因したパーティクルの発生を抑制することが可能となる。
これにより、スパッタ装置によって得られる製品の歩留まりの向上を図り、装置のメンテナンスに要する時間を削減し、これによって作業性の向上を図り、装置の稼働率の向上を図り、製造コストを削減することが可能となる。
【0021】
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記揺動軸は、前記真空チャンバを貫通しており、前記回転駆動部は、前記真空チャンバの外側位置に配置される。
これにより、真空チャンバ内に配置する駆動系を構成する部品点数を減らすとともに、回転駆動部で駆動する部材の重量を低減して回転駆動部を小型化し、装置を構成する部品の振動の発生を抑制し、パーティクルの発生の抑制を実現することが可能となる。
同時に、成膜空間(前側空間)から裏側空間へと回り込んだガスによって、裏側空間内に配置される部材に形成される不必要な膜の面積を低減して、パーティクルの発生を抑制することが可能となる。
これにより、スパッタ装置によって得られる製品の歩留まりの向上を図り、装置のメンテナンスに要する時間を削減し、これによって作業性の向上を図り、装置の稼働率の向上を図り、製造コストを削減することが可能となる。
【0022】
本発明の一態様に係るスパッタ装置は、前記揺動軸に設けられ、前記揺動軸と前記真空チャンバとの間で前記基板保持部の揺動時に真空を維持する可変密閉部を備える。
これにより、揺動軸の揺動に影響を与えることなく真空を維持することが可能となり、基板保持部の揺動時においても、また、基板保持部の回転時においても、揺動軸と真空チャンバとの間で真空を維持することが可能である。また、パーティクルの発生を抑制することが可能となる。
【0023】
本発明の一態様に係るスパッタ装置において、前記揺動部は、前記真空チャンバの外側に配置され、前記揺動軸および前記防着板を支持する支持台部を有する。
これにより、支持台部を揺動させることで、基板保持部および防着板を同期して揺動させることが可能となる。この際、回転動作可能な基板保持部においても、基板保持部に載置した被処理基板と防着板との位置あわせを容易にすることができる。また、真空チャンバ内に配置するパーティクル発生源となる駆動系を構成する部品点数を削減して、パーティクルの発生を抑制することが可能となる。さらに、簡単な構成によって上記の効果を実現することが可能とすることもできる。
【0024】
本発明の一態様に係るスパッタ装置は、前記支持台部は、前記真空チャンバの外側に配置された前記揺動駆動部によって揺動可能とされる。
これにより、真空チャンバ内に配置するパーティクル発生源となる駆動系を構成する部品点数を削減して、パーティクルの発生を抑制することが可能となる。さらに、簡単な構成によって上記の効果を実現することが可能とすることもできる。同時に、スパッタ装置を構成する部品の振動の発生を抑制することができる。したがって、成膜不具合が発生する量を低減することが可能となる。
【0025】
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記支持台部には、前記回転駆動部が配置される。
これにより、揺動駆動部によって支持台部を揺動させることで、基板保持部、防着板、および回転駆動部を同期して揺動させることが可能となる。基板保持部、防着板、および回転駆動部を揺動可能とするために、回転駆動部をスパッタ装置から切り離したり接続したりする必要がなく、スパッタ装置を構成する部品点数を削減することができる。同時に、スパッタ装置を構成する部品の振動の発生を抑制し、被処理基板上における成膜特性に対する悪影響を抑制することができる。
【0026】
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記支持台部は、前記真空チャンバの底部の下側に配置された揺動規制部を備え、前記揺動規制部は、前記真空チャンバの前記底部に対する前記支持台部の移動位置を規制することが可能である。
これにより、真空チャンバの外側である底部に配置された揺動規制部によって、前記基板保持部の揺動時における支持台部の揺動状態を規制することができる。なお、揺動規制部が真空チャンバの外側に位置することで、支持台部の位置を規制している時において摩擦等に起因してパーティクルは発生する。しかしながら、このように発生したパーティクルは、真空チャンバ内の成膜状態に対して全く影響を与えない。この状態で支持台部の揺動規制をおこなうことが可能となる。
【0027】
これにより、パーティクルの影響を考慮する必要が無く、基板保持部、防着板、および回転駆動部を同期して揺動させることが可能となる。
同時に、真空を維持するための他の密閉用の構成部材を設けることなく、基板保持部、防着板、および回転駆動部を同期して揺動させることが可能となる。
【0028】
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記揺動規制部は、前記支持台部と前記真空チャンバの底部との間に位置して前記揺動軸と平行に配置される揺動規制レールを有する。
これにより、揺動規制部が揺動規制レールを備えることによって、基板保持部の揺動時における支持台部の揺動方向を、揺動軸の軸線と平行方向に設定することができる。
【0029】
したがって、揺動軸が貫通する部分以外に真空チャンバの真空を破ることがなく、かつ、真空チャンバ内の成膜状態に対して全く影響を与えない状態で支持台部の揺動を規制することが可能となる。これにより、パーティクルの影響を考慮する必要が無く、基板保持部、防着板、および回転駆動部を同期して揺動させることが可能となる。
【0030】
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記揺動部は、前記防着板を前記支持台部に支持する防着板支持部を有する。
この防着板支持部により、防着板を支持台部と一体に揺動することができる。したがって、基板保持部、防着板、および回転駆動部を同期して揺動させることが可能となる。
【0031】
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記防着板支持部は、前記揺動軸と同軸で前記揺動軸の径方向外側に配置される同軸外筒部を有する。
これにより、同軸外筒部の径方向内側位置で揺動軸が回転した場合でも、同軸外筒部は、回転しない。したがって、基板保持部の回転動作時に、同軸外筒部及び防着板支持部に接続された防着板は、回転動作をしない。防着板が垂直方向に立ち上がった状態となるように防着板の姿勢を維持することができる。
【0032】
また、同軸外筒部によって揺動軸が覆われ、揺動軸と、真空チャンバの貫通孔とが直接対向しないようにすることができる。これにより、真空チャンバ内で発生するプラズマ等による熱が回転駆動部等に及ぼす影響を抑制することができる。
さらに揺動軸の回転時において揺動軸が接触している部分の付近の領域から発生するパーティクルが真空チャンバ内に移動するには、同軸外筒部の軸線方向の長さのうちほぼ全長となる揺動軸と同軸外筒部との間の隙間を移動することが必要である。このため、真空チャンバに到達するパーティクル量を抑制することが可能となる。
【0033】
本発明の一態様に係るスパッタ装置は、前記同軸外筒部の径方向外側に配置された可変密閉部を備える。
可変密閉部によって、真空チャンバの真空密閉状態を維持したまま、揺動軸を真空チャンバに対して軸線方向に揺動することが可能となる。
可変密閉部(ベローズ)の両端部は、真空チャンバにおける揺動軸の貫通孔回りとなる壁部表面と、揺動軸の軸線の方向において真空チャンバから離間する同軸外筒部の端部周囲と、に取り付けられる。これにより、揺動軸の軸線の方向における支持台部の往復動作を阻害することなく、真空チャンバの真空密閉状態を維持すること可能となる。
【0034】
本発明の一態様に係るスパッタ装置は、前記支持台部と前記揺動軸との間において、前記可変密閉部よりも前記揺動軸の軸線方向で前記真空チャンバから離間する位置に配置された、軸内密閉部を有する。
これにより、揺動軸と同軸外筒部との間で形成される空間に関し、空間の一方の端部は、真空チャンバの内部の空間に連通し、空間の他方の端部は、軸内密閉部により密閉される。したがって、揺動軸が回転可能な状態を維持したままで、真空チャンバの内部が軸内密閉部により密閉される。揺動軸と同軸外筒部との間で形成される空間を通じて真空チャンバの内部と外部とが連通することを防止できる。
【0035】
これにより、揺動軸の回転時あるいは回転停止時にも、真空チャンバの密閉状態を維持することができる。
同時に、揺動軸が回転時に接触している部分を軸内密閉部の付近の領域のみに限定することができる。これにより、軸内密閉部の付近の領域から発生するパーティクルが真空チャンバ内に移動するには、同軸外筒部の軸線方向の長さのうちほぼ全長となる揺動軸と同軸外筒部との間の隙間を移動することが必要である。このため、真空チャンバに到達するパーティクル量を抑制することが可能となる。
【0036】
本発明の一態様に係るスパッタ装置においては、前記同軸外筒部は、前記真空チャンバを貫通しており、前記同軸外筒部の外側端部は、前記支持台部に接続されている。
これにより、回転駆動する揺動軸は、真空チャンバの貫通孔には対向しない。支持台部に対して固定された同軸外筒部が、真空チャンバの貫通孔に対向することになる。
【0037】
これにより、基板保持部の回転駆動および基板保持部と防着板との揺動に関する駆動系のうち真空チャンバ内に位置する部品点数を削減して、簡単な構成で、スパッタ装置を構成することができる。同時に、真空チャンバに到達するパーティクル量を抑制し、かつ、基板保持部、防着板、および回転駆動部を同期して揺動させることが可能となる。真空密閉を維持するとともに、スパッタ装置を構成する部品の振動を抑制して、被処理基板上における成膜特性に対する悪影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の一態様に係るスパッタ装置によれば、装置構造の簡略化、省スペース化、駆動系を構成する部品の重量の軽減、装置を構成する部品の振動発生の抑制、真空密閉の維持、基板保持部と防着板との揺動の同期、被処理基板上における成膜特性の維持、を実現可能な成膜装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の実施形態に係るスパッタ装置を示す模式平面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における成膜室の一部を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における防着板の揺動状態を示す正面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における基板保持部と揺動部とを示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における防着板支持部を示す斜視図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における防着板支持部と可変密閉部(ベローズ)とを示す斜視図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における成膜室にて行われる工程を示す模式側面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における成膜室にて行われる工程を示す模式側面図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における成膜室にて行われる工程を示す模式側面図である。
【
図10】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における成膜室にて行われる工程を示す模式側面図である。
【
図11】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における成膜室にて行われる工程を示す模式側面図である。
【
図12】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における成膜室にて行われる工程として基板保持部と防着板との揺動状態を示す模式上面図である。
【
図13】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における成膜室にて行われる工程として基板保持部と防着板との揺動状態を示す模式上面図である。
【
図14】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における基板保持部と揺動部と可変密閉部(ベローズ)との揺動状態を示す模式図である。
【
図15】本発明の実施形態に係るスパッタ装置における基板保持部と揺動部と可変密閉部(ベローズ)との揺動状態を示す模式図である。
【
図16】本発明の実施形態に係るスパッタ装置におけるターゲットと、ターゲットに対して成膜時に基板が揺動する領域(揺動領域)との関係を示す模式正面図である。
【
図17】本発明の実施形態に係るスパッタ装置の成膜時におけるガラス基板と防着板との位置関係を示す模式正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の第1実施形態に係るスパッタ装置を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るスパッタ装置を示す模式平面図である。
図1において、符号1は、スパッタ装置である。
【0041】
本実施形態に係るスパッタ装置1は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのFPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)の製造工程においてガラス等からなる基板上にTFT(Thin Film Transistor)を形成する場合など、ガラスや樹脂からなる被処理基板に対して、真空環境下で加熱処理、成膜処理、エッチング処理等を行うインターバック式の真空処理装置とされる。
【0042】
スパッタ装置1は、
図1に示すように、略矩形のガラス基板11(被処理基板)を搬入/搬出するロード・アンロード室2と、ガラス基板11上に、例えば、ZnO系やIn
2O
3系の透明導電膜等の被膜をスパッタリング法により形成する耐圧の成膜室4(真空チャンバ)と、成膜室4とロード・アンロード室2(真空チャンバ)との間に位置する搬送室3と、を備えている。本実施形態に係るスパッタ装置1として、
図1においては、サイドスパッタ式の装置が示されている。スパッタ装置1として、スパッタダウン式の装置、あるいは、スパッタアップ式の装置が採用されてもよい。
【0043】
なお、スパッタ装置1には、成膜室4A(真空チャンバ)とロード・アンロード室2A(真空チャンバ)とが設けられている。これら複数のチャンバ2、2A、4、4Aは、搬送室3の周囲を取り囲むように形成されている。スパッタ装置1は、例えば、互いに隣接して形成された2つのロード・アンロード室(真空チャンバ)と、複数の処理室(真空チャンバ)とを有して構成されている。例えば、一方のロード・アンロード室2は、スパッタ装置1の外部からスパッタ装置1(真空処理装置)の内部に向けてガラス基板11を搬入するロード室である。他方のロード・アンロード室2Aは、スパッタ装置1の内部からスパッタ装置1の外部にガラス基板11を搬出するアンロード室である。また、成膜室4と成膜室4Aとの構成として、互いに異なる成膜工程を行う構成が採用されてもよい。
【0044】
こうしたチャンバ2、2A、4、4Aの各々と搬送室3との間には、仕切りバルブが形成されていればよい。
【0045】
ロード・アンロード室2には、スパッタ装置1の外部から搬入されたガラス基板11の載置位置を設定して、ガラス基板11をアライメントすることが可能な位置決め部材が配置されてもよい。
ロード・アンロード室2には、ロード・アンロード室2の内部を粗真空引きするロータリーポンプ等の粗引き排気装置(粗引き排気手段、低真空排気装置)が設けられる。
【0046】
搬送室3の内部には、
図1に示すように、搬送装置(搬送ロボット)3aが配置されている。
搬送装置3aは、回転軸と、この回転軸に取り付けられたロボットアームと、ロボットアームの一端に形成されたロボットハンドと、ロボットハンドを上下動させる上下動装置とを有している。ロボットアームは、互いに屈曲可能な第一の能動アーム、第二の能動アーム、第一の従動アーム、及び第二の従動アームから構成されている。搬送装置3aは、被搬送物であるガラス基板11を、チャンバ2、2A、4、4Aの各々と搬送室3との間で移動させることができる。
【0047】
図2は、本実施形態におけるスパッタ装置1を構成する成膜室の一部を示す斜視図である。
図3は、本実施形態におけるスパッタ装置1の成膜室の成膜口部分を示す正面図である。
図4は、本実施形態におけるスパッタ装置1の基板保持部10と揺動部20とを示す斜視図である。
成膜室4には、
図1,
図2に示すように、ターゲット7を保持するバッキングプレート6と、ガス導入装置(ガス導入手段)と、高真空排気装置(高真空排気手段)と、が設けられている。
【0048】
ターゲット7は、成膜室4の内部に立設されて、成膜材料を供給する供給装置(供給手段)として機能する。バッキングプレート6は、ターゲット7を保持するカソード、つまり、カソード電極である。バッキングプレート6には、負電位のスパッタ電圧をターゲット7に印加する電源が接続される。
ガス導入装置(ガス導入手段)は、成膜室4の内部にガスを導入する。高真空排気装置(高真空排気手段)は、成膜室4の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等である。成膜室4の内部において、バッキングプレート6は、搬送室3に接続される搬送口4aから最も遠い位置に立設される(
図1参照)。
【0049】
ガラス基板11と略平行に対面するバッキングプレート6の前面側にはターゲット7が固定される。バッキングプレート6は、ターゲット7に対して負電位のスパッタリング電圧を印加する電極の役割を果たす。バッキングプレート6は、負電位のスパッタリング電圧を印加する電源に接続されている。
バッキングプレート6の裏側(カソードの背面)には、ターゲット7上に所定の磁場を形成し、マグネトロンプラズマを発生させるためのマグネトロン磁気回路が設置されている。また、マグネトロン磁気回路は、揺動機構に装着され、磁気回路揺動用駆動装置により揺動できるように構成されている。なお、ターゲット7は、トラック形状を有する複数の長尺ターゲットで構成されている。複数の長尺ターゲットは、長尺ターゲットの短手方向が並んでいる。例えば、ターゲット7の構成として、8つの長尺ターゲットを並べることができるが、長尺ターゲットの個数は、8つに限定されない。
【0050】
なお、本実施形態に係るスパッタ装置1は、磁気回路揺動部を備えてもよい。この磁気回路揺動部は、マグネトロン磁気回路をバッキングプレート6の裏側に対して揺動させることが可能である。バッキングプレート6の揺動に応じてマグネトロンプラズマを発生させた際のプラズマがターゲット7の表面に沿って移動する。
【0051】
成膜室4の内部は、
図1に示すように、成膜時にガラス基板11の表面が露出する前側空間41と、ガラス基板11の裏面側に位置する裏側空間42とで構成されている。前側空間41には、ターゲット7が固定されたバッキングプレート6が配置される。
成膜室4の裏側空間42には、
図1,
図2に示すように、前側空間41に開口する成膜口4bが設けられている。
【0052】
本実施形態に係るスパッタ装置1は、
図1,
図2に示すように、ガラス基板11を保持する基板保持部10(基板保持手段)と、基板保持部10(基板保持手段)を横方向(符号AXに示す方向)に揺動可能とする揺動部20と、を備えている。
【0053】
基板保持部10(基板保持手段)は、
図2~
図4に示すように、裏側空間42内部に設けられている。基板保持部10(基板保持手段)は、成膜中にターゲット7と被処理面11aとが対向するように、ガラス基板11を保持する。
基板保持部10は、揺動軸12と、揺動軸12に取り付けられガラス基板11の裏面を保持する保持部13と、備える。揺動軸12は、裏側空間42の下側位置において、搬送口4a及び成膜口4bのうち少なくとも一方と略並行に延在している。
【0054】
揺動軸12は、
図2~
図4に示すように、成膜室4の側壁4cを貫通している。揺動軸12は、成膜室4において搬送口4a及び成膜口4bのうち少なくとも一方と略直交して延在する。側壁4cには、貫通孔4dが形成されている。貫通孔4dには、揺動軸12が軸線方向AXに揺動可能に貫通している。
側壁4cの外側、つまり、裏側空間42の外側には、揺動軸12の両端部が位置している。揺動軸12の両端部は、支持台部31に支持されている。
【0055】
支持台部31は、
図2~
図4に示すように、側壁4cと略平行な支持壁部32,32と、略水平な支持底部33とを有する。支持壁部32は、揺動軸12の軸線方向AXにおいて互いに離間して対向する側壁4c,4cの外側に位置する。支持底部33は、真空チャンバ4の底部4eよりも下側かつ成膜室4の外側に位置する。支持底部33は、軸線方向AXにおける揺動軸12の両側に位置する。
支持台部31においては、支持壁部32,32が、支持底部33の両端部から上方に向けて立設されている。
【0056】
支持壁部32,32の各々は、揺動軸12の軸線方向AXにおける側壁4cの外側に配置される。支持底部33は、成膜室4の底部4eよりも下側に配置される。つまり、支持台部31は、成膜室4の外側に配置される。
支持台部31は、成膜口4bと略直交する水平方向に見て、つまり、揺動軸12の軸線方向AXに直交する水平方向に見て、U字状やC字状の形状を有するように形成されている。
【0057】
揺動軸12は、端部を有する。
図2~
図4に示すように、揺動軸12の端部は、側壁4cの外側、つまり、裏側空間42の外側に位置する。揺動軸12の端部には、回転駆動部19が接続されている。回転駆動部19は、揺動軸12の軸線方向AXにおける側壁4cの外側に配置される。回転駆動部19は、揺動軸12の軸線方向AXにおける支持壁部32の外側に配置される。回転駆動部19は、揺動軸12を軸線周り(符号Rに示す回転方向)に回動可能とされている。
【0058】
揺動軸12には、
図2~
図4に示すように、取り付け部材12aを介して、略矩形平板状の保持部13が取り付けられている。保持部13の平面の位置は、揺動軸12の軸線の位置と一致していない。換言すると、保持部13の平面が略水平方向に沿って配置された状態では、保持部13の平面は、揺動軸12の軸線の位置と一致していない。さらに、保持部13の平面が略鉛直方向に沿って配置された状態でも、保持部13の平面は、揺動軸12の軸線の位置と一致していない。保持部13は、揺動軸12の軸線周りの回動(回転方向R)および軸線方向AXへの揺動に追従して、ガラス基板11を保持しつつ、ガラス基板11を移動させることが可能である。
【0059】
保持部13は、
図2~
図4に示すように、回転駆動部19による揺動軸12の軸線周りの回動により、回転動作が可能である。揺動軸12よりも上側の領域(空間)において、保持部13の回転動作が行われる。具体的に、保持部13の回転動作においては、保持部13が略水平方向に沿うように配置される水平載置位置と、保持部13が略鉛直方向に沿うように立ち上げるように配置された鉛直処理位置との間で、保持部13が回動する。
【0060】
水平載置位置に配置された保持部13の表面の延長線上には、搬送口4aが位置している。水平載置位置において、保持部13は、搬送室3から搬送されたガラス基板11を載置可能となる。
【0061】
鉛直処理位置に配置された保持部13の表面は、ほぼ成膜口4bを塞ぐように位置する。この場合、ガラス基板11の表面がバッキングプレート6と対向した状態で、ガラス基板11の表面に対する成膜が可能となる。保持部13が鉛直処理位置に配置された際に、揺動部20による揺動軸12の軸線方向への揺動によって、揺動軸12に接続されている保持部13は、成膜口4bの横方向(符号AXに示す方向)に揺動可能となっている。
【0062】
基板保持部10には、
図2に示すように、リフトピン(不図示)が保持部13に設けられている。また、リフトピン(不図示)は、基板保持部10の一部を構成するリフトピン移動部(不図示)によって、上下動可能とされる。
リフトピンは、リフトピン移動部の駆動によって、ガラス基板11の搬入又は搬出の際に、水平載置位置に配置された保持部13の上面より上方に突出する位置まで上昇する。このようにリフトピンが上昇した状態で、保持部13よりも上側において、リフトピンは、ガラス基板11を支持する。
このような構成を有する基板保持部10は、成膜口4bの横方向(符号AXに示す方向)に揺動可能となっている。
【0063】
リフトピン移動部の構成としては、成膜室(真空チャンバ)4の外側に配置された駆動モータ等の駆動装置により、リフトピンを上下方向に進退させる構成を採用することができる。リフトピン移動部は、真空チャンバ4の密閉を維持した状態で、リフトピンを駆動することが可能である。この構成により、成膜室4に対するガラス基板11の搬入又は搬出の際に、保持部13と搬送装置3aのロボットハンドとの間において、ガラス基板11の受け渡しが自在に可能となる。
リフトピン移動部は、保持部13が回転動作する際には同期して回転せず、成膜室4の底部4eに残留する。
【0064】
揺動軸12等の基板保持部10や支持台部31および防着板21は、揺動部(揺動手段)20を構成する。
【0065】
防着板21は、成膜中に保持部13に対向する。防着板21は、成膜中にガラス基板11の縁部11Yおよび基板保持部10における成膜材料が付着する領域10Rを覆う。
また、防着板21は、成膜口4bの上位置、下位置、左位置、及び右位置の各々に延在するように成膜室4に設けられる。
防着板21は、成膜室4の成膜口4bに対応するように位置しており、裏側空間42と前側空間41との境界位置に立設される。
【0066】
防着板21は、基板保持部10の揺動とは同期して揺動する。また、防着板21は、基板保持部10の回動とは同期して回動しない。
防着板21は、基板保持部10が鉛直処理位置に配置された際に、揺動部20による揺動軸12の軸線方向AXへの揺動と同期して、成膜口4bの横方向(符号AXに示す方向)に揺動可能となっている。
防着板21は、符号AXに示す揺動方向におけるガラス基板11の両端位置に配置され、かつ、揺動方向と交差する方向に延在する縦防着板21aと、成膜口4bの上位置及び下位置の各々に横防着板21bとを有する。
【0067】
縦防着板21aは、基板保持部10が鉛直処理位置に配置された際に、符号AXに示す揺動方向におけるガラス基板11の両端位置に対応して配置される。
横防着板21bは、基板保持部10が鉛直処理位置に配置された際に、符号AXに示す揺動方向と交差する方向における縦防着板21aの端部に配置され、ガラス基板11の両端位置に配置される。
縦防着板21aの長さは、符号AXに示す揺動方向と交差する略鉛直方向において互いに対向する横防着板21bの間の寸法と等しく設定される。
縦防着板21aと横防着板21bとは、一体として矩形の四辺に配置された板状に形成とされる。
【0068】
縦防着板21aは、基板保持部10における成膜材料が付着してほしくない領域10Rと、保持部13に支持されたガラス基板11の周縁のうちの縁部11Yとなる非成膜領域とを覆うように、ガラス基板11の左右方向の両端となる縁部11Yに沿った形状に形成される。
横防着板21bは、基板保持部10における成膜材料が付着してほしくない領域10Rと、保持部13に支持されたガラス基板11の周縁のうちの縁部11Yとなる非成膜領域とを覆うように、ガラス基板11の上下方向の両端となる縁部11Yに沿った形状に形成される。
【0069】
防着板21は、保持部13が鉛直処理位置に配置された際に、ほぼ成膜口4bを塞ぐように位置するとともに、保持部13の横方向の揺動動作に同期して揺動するように構成されている。保持部13が鉛直処理位置において揺動された際に防着板21が成膜口4bの左右端に接触しないように、横方向における防着板21の輪郭形状が設定される。
【0070】
さらに、基板保持部10には、ガラス基板11の縦方向における端部の位置を規制しつつガラス基板11を支持する支持部として、保持部13と一体とされた基板ガイドなどを設けることもできる。特に、基板ガイドとしては、ガラス基板11の外周端面部に当接してガラス基板11を支持可能な構造や、保持部13にガラス基板11糊面を保持する静電チャックを有する構成などが採用されることが好ましい。
【0071】
横防着板21bは、横方向に延在するとともに成膜口4bの上端位置及び下端位置に配置され、かつ、互いに対向する2枚の板体とされる。成膜口4bの中心の近くに位置する横防着板21bの端部は、縦防着板21aの上端(端部)及び下端(端部)および、ガラス基板11の上端及び下端となる縁部を覆うように配置される。
【0072】
横防着板21bは、基板保持部10の外周における上端部分からガラス基板11の外周部分の上端部分までの領域と、基板保持部10の外周における下端部分からガラス基板11の外周部分の下端部分までの領域とを覆うように設けられている。横防着板21bは、ガラス基板11以外の部分において、バッキングプレート6のターゲット7から叩き出された粒子が付着する領域を覆うように設けられている。
横防着板21bの横方向の寸法は、成膜口4bの横方向の寸法よりも小さく設定されており、横防着板21bは、縦防着板21aの横方向における離間距離の全長に亘って延在している。
【0073】
縦防着板21aと横防着板21bとは、保持部13が鉛直処理位置に配置された際に近接した位置として枠状に配置される。この状態で、縦防着板21aと横防着板21bとで囲まれた中央部には、成膜材料がガラス基板11の被処理面11a(表面)に到達するように、防着板21の厚さ方向に貫通する開口部分が形成される。防着板21の開口部分の縁部を形成する縦防着板21aと横防着板21bのうち、バッキングプレート6に対向する防着板21の表面側の部分には、傾斜部21cが形成されている(
図3参照)。
【0074】
傾斜部21cは、ガラス基板11の外側から中心に向かう方向において、傾斜部21cの厚さが減少するような傾斜面を有する。つまり、防着板21の開口部分には、その全周に傾斜部21cが形成されて、防着板21の表面側から裏面側に向かう方向において開口部分の開口面積が縮小するように形成される。
【0075】
図5は、本実施形態におけるスパッタ装置1の防着板21、防着板支持部22を示す斜視図である。
防着板21は、防着板支持部22により支持台部31に固定される。防着板21は、防着板支持部22に対して着脱可能とされる。
防着板支持部22は、揺動軸12の径方向に延在して揺動軸12と防着板21とを接続している。防着板支持部22,22は、縦防着板21a,21aに対応して、揺動軸12の軸線方向AXに間隔を有して二箇所設けられる。
防着板支持部22は、揺動軸12の軸線方向AXにおいて、取り付け部材12aの外側位置に設けられる。
【0076】
防着板支持部22は、揺動軸12と同軸で揺動軸12の径方向外側に配置される同軸外筒部23を有する。
同軸外筒部23は、円筒状とされ、その筒内空間23aを揺動軸12が貫通している。同軸外筒部23は、揺動軸12の両端位置に配置される。
同軸外筒部23は、真空チャンバ4の側壁4cに設けられた貫通孔4dを貫通する。同軸外筒部23は、真空チャンバ4の側壁4cに設けられた貫通孔4dとは接触していない。同軸外筒部23は、貫通孔4dに対して、揺動軸12の軸線方向AXに、揺動可能である。
【0077】
ここで、揺動軸12と同軸外筒部23と貫通孔4dまたは後述する貫通孔4gとの径方向の寸法の関係は、次の通りである。
揺動軸12の外径は、例えば、φ180mmである。同軸外筒部23の内径φは、例えば、190.9mmである。同軸外筒部23の外径は、例えば、φ216.3mmである。貫通孔4dの内径は、例えば、φ326mmである。貫通孔4gの内径φは、例えば、260mmである。
また、同軸外筒部23と貫通孔4dとの軸線方向AXの位置関係としては、同軸外筒部23が軸線方向AX方向に揺動した場合でも、同軸外筒部23が貫通孔4dから抜けない状態となっている。
【0078】
同軸外筒部23は、揺動軸12の軸線方向AXで真空チャンバ4から離間する端部にフランジ23bを有する。
フランジ23bは、真空チャンバ4の側壁4cよりも外側に位置する。フランジ23bは、支持台部31に固定される。フランジ23bは、支持壁部32に固定される。つまり、防着板21は、鉛直処理位置とされた保持部13に対応した配置として支持台部31に立設される。フランジ23bと支持壁部32との間には、密閉部材(密閉手段)としてOリング32b1が設けられる。フランジ23bと支持壁部32とは、Oリング32b1によって、密閉される。Oリング32b1は、揺動軸12の周囲に配置される。
【0079】
フランジ23bは、一体として真空チャンバ4に対して揺動軸12の軸線方向AXに揺動可能である。つまり、フランジ23bは、防着板支持部22、同軸外筒部23と一体として真空チャンバ4の側壁4cに対して近接および離間するように揺動可能である。
これにより、防着板21は、支持台部31と一体として真空チャンバ4に対して揺動軸12の軸線方向AXに揺動可能となる。
【0080】
図6は、本実施形態におけるスパッタ装置1の防着板21、防着板支持部22、可変密閉部35(ベローズ)を示す斜視図である。
同軸外筒部23の径方向外側には、
図2,
図4,
図6に示すように、可変密閉部35が配置される。
【0081】
可変密閉部35は、揺動軸12の軸線方向AXに変形可能な可変筒部35cと、外側端部35aと、内側端部35bとを有する。
外側端部35aは、フランジ23bに密閉固定される。
外側端部35aとフランジ23bとは密閉部材(密閉手段)としてのOリング35a1によって密閉固定される。(
図14,
図15参照)
【0082】
内側端部35bは、真空チャンバ4の側壁4cに密閉固定される。
内側端部35bは、貫通孔4dを囲むように配置される。
内側端部35bは、相フランジ4fを介して真空チャンバ4の側壁4cに密閉固定される。相フランジ4fは、貫通孔4gを有する。また、相フランジ4fは、真空チャンバ4の側壁4cとは密閉部材(密閉手段)としてのOリング4f1によって密閉固定される。
【0083】
相フランジ4fの貫通孔4gの径は、側壁4cの貫通孔4dよりも小さい。
内側端部35bと相フランジ4fとは密閉部材(密閉手段)としてのOリング35b1によって密閉固定される。(
図14,
図15参照)
なお、相フランジ4fを設けずに、内側端部35bが、真空チャンバ4の側壁4cと、直接、密閉部材(密閉手段)としてのOリング35b1によって密閉固定されることも可能である。
【0084】
可変筒部35cが揺動軸12の軸線方向AXに変形することで、可変密閉部35は、真空チャンバ4の側壁4cよりも外側位置となる同軸外筒部23の径方向外側とフランジ23bと側壁4cとで囲まれた領域(空間)を密閉する。
【0085】
支持台部31と揺動軸12との間には、
図2,
図4に示すように、可変密閉部35よりも揺動軸12の軸線方向AXで真空チャンバ4から離間する位置に、軸内密閉部36が設けられている。
軸内密閉部36は、揺動軸12を回転可能に密閉支持する軸受部36aを有する。(
図14,
図15参照)
軸内密閉部36は、揺動軸12の軸線方向AX外側に支持壁部32に密閉固定される。軸内密閉部36は、揺動軸12を囲むように配置される。軸内密閉部36と支持壁部32とは、密閉部材(密閉手段)としてのOリング36bによって密閉固定される。(
図14,
図15参照)
可変密閉部35と軸内密閉部36とによって、同軸外筒部23の径方向内側となる揺動軸12の周囲は、真空チャンバ4とともに密閉される。
これにより、揺動軸12が回転した場合にも、真空チャンバ4の密閉状態を維持することができる。
【0086】
支持台部31は、真空チャンバ4の底部4e下側に配置された揺動規制部37を備える。揺動規制部37は、真空チャンバ4の底部4eに対する支持台部31の移動位置を規制することが可能である。
揺動規制部37は、
図4に示すように、支持台部31と真空チャンバ4の底部4eとの間に位置して揺動軸12と平行に配置される揺動規制レール37aと、揺動規制レール37aに沿って移動する規制移動部37bと、を有する。
揺動規制レール37aと規制移動部37bとは、それぞれ支持台部31と真空チャンバ4の底部4eとに固定され、互いに揺動軸12の軸線方向AXに移動可能とされている。
【0087】
揺動規制部37によって、支持台部31の移動が規制されている。すなわち、真空チャンバ4の底部4eに対して揺動軸12の軸線方向AXに往復動作が可能なように、支持台部31の移動が規制されている。
支持台部31は、揺動駆動部30によって、揺動軸12の軸線方向AXに揺動可能とされる。揺動駆動部30は、成膜室4の外側に配置されている。
なお、揺動規制部37の構成としては、支持台部31の揺動方向を揺動軸12の軸線方向AXに規制可能であれば、上述した構成に限定されない。
【0088】
揺動駆動部30は、駆動モータ30Aと、駆動モータ30Aによって回転されるボールネジ30aと、ボールネジ30aに螺合されて支持台部31に固定されたボールスクリュー30bと、から構成されていることができる(
図14,
図15参照)。この場合、揺動駆動部30においては、駆動モータ30Aによってボールネジ30aが回転されると、ボールネジ30aに螺合されたボールスクリュー30bがボールネジ30aの軸線方向へと移動する。
【0089】
これにより、ボールスクリュー30bに固定された支持台部31が、駆動モータ30Aに対してボールネジ30aの軸線方向へと移動する。ここで、駆動モータ30Aは、真空チャンバ4に対して固定されている。これにより、支持台部31が、真空チャンバ4に対して移動する。
なお、揺動駆動部30の構成としては、支持台部31を揺動軸12の軸線方向AXに移動可能であれば、上述した構成に限定されない。
【0090】
揺動駆動部30は、支持台部31を軸線方向AXに揺動可能とされている。また、回転駆動部19は、支持台部31の揺動とは同期せずに、別動作として揺動軸12を回転動作可能とされている。
【0091】
揺動駆動部30が支持台部31を軸線方向AXに揺動した際には、支持台部31とともに、フランジ23bが揺動する。すると、フランジ23bは、揺動軸12の軸線方向AXにおいて、側壁4cに対して近接、および離間可能である。この際、可変密閉部35の外側端部35aは、フランジ23bに対して密閉を維持する。同様に、可変密閉部35の内側端部35bは、側壁4cに対して密閉を維持する。また、可変密閉部35の可変筒部35cは、揺動軸12の軸線方向AXにおける全長が変化するように変形可能である。
【0092】
次に、本実施形態に係るスパッタ装置1において、基板保持部10によってガラス基板11が保持された状態でのガラス基板11に対する成膜について説明する。
【0093】
まず、スパッタ装置1の外部から内部に搬入されたガラス基板11は、まず、ロード・アンロード室2内の位置決め部材に載置され、ガラス基板11が、位置決め部材上で所定位置に配置するようにアライメントされる(
図1参照)。
【0094】
次に、ロード・アンロード室2の位置決め部材に載置されたガラス基板11が搬送装置3a(搬送ロボット)のロボットハンドで支持され、ロード・アンロード室2から取り出される。そして、ガラス基板11は、搬送室3を経由して成膜室4へ搬送される(
図1参照)。
【0095】
図7~
図11は、本実施形態におけるスパッタ装置1の成膜室4にて行われる工程を示す模式側面図である。なお、
図4~
図9において、傾斜部21c等の部位については、説明を省略している。
このとき、成膜室4では、
図7に示すように、基板保持部10において、回転駆動部19によって揺動軸12が回転され、保持部13が水平載置位置に配置される。さらに、図示しないリフトピン移動部によって、リフトピンは、保持部13から上方に突出した準備位置に配置されている。
【0096】
この状態で、成膜室4へ到達したガラス基板11が、搬送装置3a(搬送ロボット)によって基板保持部10の保持部13上に載置される。
【0097】
具体的に説明すると、まず、ガラス基板11は、搬送装置3a(搬送ロボット)によって保持部13に対して略並行状態に支持される。搬送装置3aによって、ガラス基板11は、
図8に矢印Aで示すように、互いに離間した保持部13の上側で離間した位置に、保持部13の面に平行な方向における外側から内側に向けて挿入される。このとき、リフトピン移動部は、リフトピンを保持部13の表面よりも上方に移動させ、リフトピンは、ガラス基板11を受け取るために、保持部13の表面よりも上方に突出した状態となっている。
【0098】
次いで、
図9に矢印Bで示すように、搬送装置3a(搬送ロボット)のロボットハンドが保持部13に近接することで、搬送装置3aからリフトピンに対してガラス基板11が受け渡される。ここで、保持部13の所定の面内の位置にガラス基板11がアライメントされた状態となっており、保持部13よりも上側に離間したリフトピン上にガラス基板11が載置される。ここで、ガラス基板11の受け渡しが行われた後、搬送ロボット3aのアームが、搬送室3へ後退する。
そして、基板保持部10に設けられたリフトピン移動部により、
図9に矢印Bで示すように、リフトピンが下降し、保持部13の下側にリフトピンが格納される。
【0099】
これによって、
図9に矢印Bで示すように、ガラス基板11が下降して、ガラス基板11は保持部13上に支持される。この状態で、ガラス基板11が成膜処理位置としてアライメントされた状態で基板保持部10に保持される。この際、ガラス基板11は、保持部13に設けられた基板ガイドなどによって位置決めされた状態で、保持部13に支持されることも可能である。
【0100】
次いで、回転駆動部19により揺動軸12が回動する。これにより、
図10に矢印Cで示すように、取り付け部材12aを介して揺動軸12に取り付けられた保持部13によってガラス基板11が保持された状態で、保持部13およびガラス基板11は、揺動軸12の軸線周りに回動し、鉛直処理位置に到達するように立ち上がる。
【0101】
このとき、揺動軸12は、同軸外筒部23の内部で回転し、同軸外筒部23には接触しない。したがって、防着板21と、保持部13とは、互いに干渉しない状態が維持される。同時に、揺動軸12が回転しているかどうかに関係なく、同軸外筒部23は、貫通孔4dと離間した状態で、この貫通孔4dを貫通している状態を維持している。
【0102】
このように、
図10に示した矢印Cに示す方向における保持部13の回転動作が行われている間、防着板21は、鉛直方向に立ち上がった立設状態を維持している。
まず、成膜処理を開始する前工程で、支持台部31は、揺動駆動部30の駆動により、揺動軸12の軸線方向AXにおける所定の位置に移動している。このとき、支持台部31は、搬送室3に接続される搬送口4aからガラス基板11を搬出可能な位置とされている。なお、成膜処理の前工程である基板搬入を開始する時点で、搬送室3に接続される搬送口4aからガラス基板11を搬出可能な位置にある場合には、揺動駆動部30を駆動しなくてもよい。
【0103】
ここで、回転駆動部19によって揺動軸12が
図10に示した矢印Cに示す方向に回動される間、同軸外筒部23は、
図14,
図15に示すように、貫通孔4dと接触しない状態を維持する。また、回転駆動部19によって揺動軸12が回動される間、揺動駆動部30が駆動しない状態を維持する。同様に、揺動軸12の回転動作が行われている間に、同軸外筒部23は、揺動軸12と接触していない状態を維持している。さらに、揺動軸12の回転動作が行われている間、同軸外筒部23は、可変筒部35cと接触していない状態を維持する。
【0104】
また、揺動軸12の回転動作が行われている間は、揺動駆動部30が駆動しないため、支持台部31は、揺動軸12の軸線方向AXに移動しない。したがって、回転駆動部19が固定された支持壁部32と、支持壁部32から離間しかつ支持壁部32に対向する側壁4cとの間の距離は変化しない。したがって、可変密閉部35における伸長状態は、維持される。
同様に、回転駆動部19が固定されていない支持壁部32と、支持壁部32から離間しかつ支持壁部32に対向する側壁4cとの間の距離は変化しない。したがって、可変密閉部35における伸長状態は維持される。
【0105】
また、揺動軸12の回転動作が行われている間、フランジ23bは、支持壁部32と一体に固定されて回転しない。つまり、フランジ23bは、支持台部31と一体に固定されている。このため、防着板21は、支持台部31と一体に固定されている。
また、揺動軸12の回転動作が行われている間、外側端部35aとフランジ23bとは密閉部材(密閉手段)としてのOリング35a1によって密閉された状態を維持する。
【0106】
同様に、揺動軸12の回転動作が行われている間、内側端部35bと真空チャンバ4の側壁4cとは密閉部材(密閉手段)としてのOリング35b1によって密閉された状態を維持する。
また、揺動軸12の回転動作が行われている間、可変筒部35cは変形しない。これにより、真空チャンバ4の側壁4cよりも外側位置となる同軸外筒部23の径方向外側とフランジ23bと側壁4cとで囲まれた領域(空間)は、可変密閉部35によって密閉された状態を維持する。
【0107】
揺動軸12の回転動作が行われている間、同軸外筒部23の径方向内側となる揺動軸12の周囲は、可変密閉部35と軸内密閉部36とによって、真空チャンバ4とともに密閉された状態を維持する。
これらにより、本実施形態におけるスパッタ装置1では、揺動軸12の回転動作が行われている間、真空チャンバ4の密閉状態を維持することができる。
【0108】
ここで、揺動軸12の回転動作が行われている際に、揺動軸12が接触して摺動する部分は、軸内密閉部36の軸受部36aのみである。
したがって、揺動軸12の回転動作が行われている際にパーティクルが発生した場合に、パーティクルが、発生場所である軸受部36aから真空チャンバ4内の成膜位置となるガラス基板11に到達するためには、揺動軸12の径方向外側である同軸外筒部23の筒内空間23aの全長に亘って移動しなければならない。
【0109】
ここで、筒内空間23aの内部にはガスの吹き出しもなく、また、積極的なガス流も存在しない。このため、揺動軸12の回転動作が行われている際にパーティクルが発生した場合に、パーティクルが発生場所である軸受部36aから筒内空間23aを経て真空チャンバ4の内部空間へと拡散する恐れは殆どない。
したがって、揺動軸12の回転動作が行われている際に発生したパーティクルによる成膜状態への影響が殆どない状態まで抑制することができる。
【0110】
揺動軸12の回転動作により、ガラス基板11と防着板21と保持部13とによって成膜口4bがほぼ閉塞された状態となるとともに、ガラス基板11が防着板21に向かって近接する。
【0111】
保持部13と防着板21とが互いに近接して、
図3に示すように、枠状の防着板21によって、ガラス基板11の被処理面11aにおける周縁部の全周(縁部11Y)と、基板保持部10における成膜材料が付着してほしくない領域10Rと、が覆われた状態となる。防着板21が縁部11Yと領域10Rとを覆う場合には、縁部11Yと領域10Rとに成膜材料が到達しないようにバッキングプレート6のターゲット7に対して覆う状態とされる。このとき、枠状の防着板21によって形成された開口部分に露出したガラス基板11がバッキングプレート6のターゲット7に対して対向した状態となる。
【0112】
図10に示すように、鉛直処理位置に配置され、基板保持部10に保持されたガラス基板11は、ガラス基板11の表面11a(被処理面)とバッキングプレート6の表面とが略平行な状態で保持され、この状態で成膜室4内において成膜工程が行われる。
【0113】
成膜工程においては、ガス導入装置は、成膜室4にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源はバッキングプレート6にスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲット7上に所定の磁場を形成する。成膜室4の前側空間41内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、バッキングプレート6のターゲット7に衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、粒子がガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の膜が形成される。
【0114】
本実施形態に係るインターバック式反応性スパッタ装置(スパッタ装置1)では、成膜工程において、揺動駆動部30により支持台部31が軸線方向AXに沿って揺動される。すると、揺動軸12が軸線方向AXに沿って揺動される。これにより、
図11に矢印Dで示すように、保持部13が左右方向に揺動する。保持部13を揺動駆動することで、保持されたガラス基板11がバッキングプレート6に対して横方向に相対移動する。
【0115】
成膜工程における基板揺動について説明する。
【0116】
図12~
図13は、本実施形態におけるスパッタ装置1における成膜室4にて行われる工程として基板保持部10と防着板21との揺動状態を示す模式上面図である。
図12~
図13に示した成膜工程においては、保持部13は、符号D1、D2に示すように往復動作を行う。具体的に、
図12のバッキングプレート6から見て、保持部13は、成膜口4bの左側端部の位置PLから右側端部の位置PRに向けた方向、即ち、方向D1に沿って移動する。
【0117】
さらに、
図13のバッキングプレート6から見て、保持部13は、成膜口4bの右側端部の位置PRから左側端部の位置PLに向けた方向、即ち、方向D2に沿って移動する。即ち、位置PR及び位置PLの間の領域において、方向D1、D2に沿って、保持部13は、往復動作する。これにより、保持部13によって保持されたガラス基板11とバッキングプレート6とが相対的に移動し、ガラス基板11上に形成されるスパッタ膜における膜特性の面内均一性を維持する。
【0118】
このとき、成膜口4bの上端および下端は、防着板21によって閉塞されているため、成膜粒子は、防着板21に遮られて裏側空間42に到達しない。また、成膜粒子は、保持部13に付着しない。
また、
図3に示すようにガラス基板11の右辺側と左辺側は、縦防着板21aによって覆われているため、成膜粒子は、縦防着板21aに遮られてガラス基板11の縁部11Yに到達しない。また、また、成膜粒子は、保持部13に付着しない。
これにより、保持部13における成膜粒子の付着が防止される。従って、成膜粒子の付着物に起因するパーティクルの発生を低減することができる。
【0119】
図14は、本実施形態におけるスパッタ装置1における成膜室4にて行われる成膜工程として可変密閉部35が伸長した状態を前側空間41側から見て示す模式図である。
図15は、本実施形態におけるスパッタ装置1における成膜室4にて行われる成膜工程として可変密閉部35が短縮した状態を前側空間41側から見て示す模式図である。
なお、
図14~
図15においては、防着板支持部22に取り付けられた防着板21、および、取り付け部材12aに取り付けられた保持部13の図示を省略する。したがって、
図14~
図15においては、防着板21の揺動位置を、防着板支持部22によって示す。また、同様に保持部13の揺動位置を、取り付け部材12aによって示す。
【0120】
成膜工程においては、
図14~
図15に示すように、揺動駆動部30の駆動モータ30Aによってボールネジ30aが正逆回転されると、ボールネジ30aに螺合されたボールスクリュー30bが、ボールネジ30aの軸線方向へと往復動作する。これにともなって、ボールスクリュー30bが固定された支持底部33が往復動作する。
【0121】
このとき、揺動規制部37において、揺動規制レール37aに沿って規制移動部37bが移動する。これにより、揺動規制レール37aと規制移動部37bとがそれぞれ固定された支持底部33と真空チャンバ4の底部4eとは、互いの移動方向が、揺動規制レール37aに沿った方向、つまり、揺動軸12の軸線方向AXと平行に規制される。
このように、真空チャンバ4の底部4eに対する支持台部31の移動が揺動規制部37によって規制される。
【0122】
ここで、支持底部33は、真空チャンバ4の底部4e下側に配置されているため、支持底部33は、真空チャンバ4の外側で移動する。
これにより、支持台部31の移動は、真空チャンバ4の密閉に関して影響を与えることがない。
【0123】
支持台部31が揺動軸12の軸線方向AXと平行に移動すると、揺動軸12の軸線方向AXにおける支持壁部32と側壁4cとの間の距離が変化する。
例えば、回転駆動部19が固定された支持壁部32が対向する側壁4cに近接した状態と、回転駆動部19が固定された支持壁部32が対向する側壁4cから離間した状態と、の間で揺動する。
【0124】
回転駆動部19が固定された支持壁部32が対向する側壁4cに近接した状態においては、回転駆動部19が固定された支持壁部32と、支持壁部32と対向する側壁4cとの間に設けられた可変密閉部35が短縮した状態となる。
また、回転駆動部19が固定された支持壁部32が対向する側壁4cから離間した状態においては、回転駆動部19が固定された支持壁部32と、支持壁部32と対向する側壁4cとの間に設けられた可変密閉部35が伸長した状態となる。
【0125】
これにより、支持台部31が符号Dに示す揺動方向に揺動した場合、
図14に示すように、可変密閉部35が伸長した状態と、
図15に示すように、可変密閉部35が短縮した状態と、の間で揺動する。
このような揺動動作が行われている間、同軸外筒部23は、貫通孔4dと接触していない状態を維持する。同様に、揺動動作が行われている間、同軸外筒部23は、揺動軸12と接触していない状態を維持する。同軸外筒部23は、可変筒部35cと接触していない状態を維持する。
【0126】
また、揺動動作が行われている間、フランジ23bは、支持壁部32と一体に揺動する。つまり、フランジ23bは、支持台部31と一体に揺動する。このため、防着板21は、支持台部31と一体に揺動する。
また、揺動動作が行われている間、外側端部35aとフランジ23bとは密閉部材(密閉手段)としてのOリング35a1によって密閉された状態を維持する。
【0127】
同様に、揺動動作が行われている間、内側端部35bと真空チャンバ4の側壁4cとは、相フランジ4f、Oリング4f1を介して密閉部材(密閉手段)としてのOリング35b1によって密閉された状態を維持する。
また、揺動動作が行われている間、可変筒部35cが揺動軸12の軸線方向AXに変形することで、真空チャンバ4の側壁4cよりも外側位置となる同軸外筒部23の径方向外側とフランジ23bと側壁4cとで囲まれた領域(空間)は、可変密閉部35によって密閉された状態を維持する。
【0128】
揺動動作が行われている間、同軸外筒部23の径方向内側となる揺動軸12の周囲は、可変密閉部35と軸内密閉部36とによって、真空チャンバ4とともに密閉された状態を維持する。
これらにより、本実施形態におけるスパッタ装置1では、揺動動作が行われている間、真空チャンバ4の密閉状態を維持することができる。
【0129】
図16は、本実施形態におけるターゲット7と、ターゲット7に対して成膜時に基板が揺動する領域(揺動領域)との関係を示す模式正面図である。
図17は、本実施形態の成膜時におけるガラス基板11と防着板21との位置関係を示す模式正面図である。
図16においては、保持部13の往復移動に伴って移動するガラス基板11の位置と、ターゲット7の位置とが重ね合わされている。
図17においては、防着板21とガラス基板11とが重なる部分が示されている。
【0130】
図16に示すように、ターゲット7は、トラック形状を有する8つの長尺ターゲットが配列した構成を有する。長尺ターゲットの各々において、長尺ターゲットの外形よりも内側にて破線で示された部分は、スパッタリングによってターゲット7の露出面に形成されたエロージョンを示している。エロージョンの形状も、トラック形状を有する。
ターゲット7を構成する8つの長尺ターゲットのうち、成膜口4bの位置PR(
図12,
図13参照)の近くに位置する長尺ターゲットは右端ターゲット7Rであり、成膜口4bの位置PL(
図12,
図13参照)の近くに位置する長尺ターゲットは左端ターゲット7Lである。
【0131】
ターゲット7の右縁部から左縁部までの領域、及び、ターゲット7の上縁部から下縁部までの領域は、エロージョン領域7Eである。エロージョン領域7Eのうち、ターゲット7の右縁部から左縁部までの領域はエロージョン領域7Eの横寸法7EXであり、ターゲット7の上縁部から下縁部までの領域はエロージョン領域7Eの縦寸法7EZである。エロージョン領域7Eの横寸法7EXは、右端ターゲット7Rの右縁部に生じたエロージョン7REと、左端ターゲット7Lの左縁部に生じたエロージョン7LEとの間の距離に相当する。
【0132】
図17に示すように、ガラス基板11は、縦防着板21a及び横防着板21bによって囲まれており、
図10に示すように防着板21の開口部分を通じて前側空間41に露出し、ターゲット7に対向している。
符号11WXは、右側の縦防着板21aRの左端21aR1(内側端部、開口部分)と左側の縦防着板21aLの右端21aL1(内側端部、開口部分)との間の距離であり、即ち、前側空間41に露出するガラス基板11の横幅(横方向の寸法)である。
【0133】
符号11WZは、上側の横防着板21bUの下端21bU1(内側端部、開口部分)と下側の横防着板21bDの上端21bD1(内側端部、開口部分)との間の距離であり、即ち、前側空間41に露出するガラス基板11の縦幅(縦方向の寸法)である。
なお、
図17においても、下端21bD2、上端21bU2、及びガラス基板11の縦幅WZが破線で示されている。
【0134】
図16において、符号11MRは、
図12に示すように保持部13が方向D1に沿って移動して、保持部13が成膜口4bの右側端部の位置PRに最も近づいたときのガラス基板11の位置を示している。
また、符号11MLは、
図13に示すように保持部13が方向D2に沿って移動して、保持部13が成膜口4bの左側端部の位置PLに最も近づいたときのガラス基板11の位置を示している。
【0135】
ガラス基板11の位置11MR、11MLの各々において、横幅11WXを有するガラス基板11は、ターゲット7に対向している。即ち、保持部13の往復動作に伴ってガラス基板11が揺動するとともに位置11MR、11MLに繰り返して到達しながら、スパッタリングによってターゲット7から飛び出した成膜粒子がガラス基板11上に堆積する。
【0136】
図16において、ガラス基板11が位置11MRに到達した時のガラス基板11の右端11ERと、ガラス基板11が位置11MLに到達した時のガラス基板11の左端11ELとの間の領域は、揺動領域50である。揺動領域50は、揺動駆動部30によって軸線方向AXに沿って保持部13が往復移動している間にガラス基板11が前側空間41に曝される領域を意味する。
【0137】
揺動領域50は、
図16に破線で示すように、ターゲット7におけるエロージョン領域7Eの横寸法7EXより小さく設定されている。ここで、ターゲット7のエロージョン領域7Eとは、ターゲット7から成膜粒子が飛び出してほぼ均一にスパッタ成膜ができる領域を意味し、実際のターゲット7の輪郭には拘らない。
【0138】
次に、揺動領域50におけるガラス基板11の揺動に伴って縦防着板21aが前側空間41に曝される領域について説明する。
図12及び
図16に示すように、方向D1に沿ってガラス基板11が移動すると、前側空間41に曝される左側の縦防着板21aLの領域が徐々に大きくなる。
【0139】
また、ガラス基板11が位置11MRに到達した時、前側空間41に曝される左側の縦防着板21aLの領域が最も大きくなる。このとき、
図17に示す左側の縦防着板21aLの左端21aL2は、前側空間41に露出しないため、ターゲット7から叩き出された粒子が左端21aL2の側面を通じて、前側空間41に到達しない。
【0140】
同様に、
図13及び
図16に示すように、方向D2に沿ってガラス基板11が移動すると、前側空間41に曝される右側の縦防着板21aRの領域が徐々に大きくなる。また、ガラス基板11が位置11MLに到達した時、前側空間41に曝される右側の縦防着板21aRの領域が最も大きくなる。このとき、
図17に示す右側の縦防着板21aRの右端21aR2は、前側空間41に露出しないため、ターゲット7から叩き出された粒子が右端21aR2の側面を通じて、前側空間41に到達しない。
【0141】
また、上述した左端21aL2と右端21aR2との間の領域は、揺動範囲21SRであり、揺動範囲の外側境界寸法21Dは、左端21aL2と右端21aR2との間の距離に相当する。横防着板21bにおける揺動方向の寸法21SR(外側端部の間の距離)は、外側境界寸法21Dよりも大きい。
【0142】
このため、横防着板21bと縦防着板21aとが一体に連続していることによって、防着板21の揺動範囲21SRを全て覆うことが可能となる。したがって、成膜処理中にガラス基板11を揺動させても、揺動方向と直交する方向におけるガラス基板11および防着板21の端部を覆った状態を維持することができる。
【0143】
また、揺動方向における横防着板21bの寸法21SRは、揺動方向におけるターゲット7の寸法よりも小さく設定されている。これにより、揺動方向において横防着板21bの延在する全ての領域において均一成膜が可能となる。これにより、揺動するガラス基板11の全面に対して均一に成膜することが可能となる。
【0144】
また、上側の横防着板21bUの下端21bU1と下側の横防着板21bDの上端21bD1との間の距離、即ち、前側空間41に露出するガラス基板11の縦幅WZは、
図16に破線で示すように、ターゲット7におけるエロージョン領域7Eの縦寸法7EZより小さく設定されている。
これにより、ガラス基板11の揺動領域50がターゲット7のエロージョン領域7Eより小さく設定されているため、成膜の均一性を得ることができる。
【0145】
成膜処理が終了したガラス基板11は、回転駆動部19により揺動軸12が回動されることで、保持部13によって保持された状態で、揺動軸12の軸線周りで、
図10に示す矢印Cとは逆方向に回動する。
図9に示すように、ガラス基板11が水平載置位置に到達するまで、回転動作が行われる。
【0146】
このように、
図10に示した矢印Cとは逆方向となる保持部13の回転動作が行われている間、防着板21は、鉛直方向に立ち上がった立設状態を維持している。
まず、成膜処理が終了した段階で、支持台部31は、揺動駆動部30の駆動により、揺動軸12の軸線方向AXにおける所定の位置に移動する。支持台部31は、搬送室3に接続される搬送口4aからガラス基板11を搬出可能な位置とされる。なお、成膜処理が終了した時点で、搬送室3に接続される搬送口4aからガラス基板11を搬出可能な位置にある場合には、揺動駆動部30を駆動しなくてもよい。
【0147】
ここで、回転駆動部19によって揺動軸12が回動される間、同軸外筒部23は、
図14,
図15に示すように、貫通孔4dと接触しない状態を維持する。また、回転駆動部19によって揺動軸12が回動される間、揺動駆動部30が駆動しない状態を維持する。同様に、揺動軸12の回転動作が行われている間に、同軸外筒部23は、揺動軸12と接触していない状態を維持する。さらに、揺動軸12の回転動作が行われている間、同軸外筒部23は、可変筒部35cと接触していない状態を維持する。
【0148】
また、揺動軸12の回転動作が行われている間、揺動駆動部30が駆動しないため、支持台部31は、揺動軸12の軸線方向AXに移動しない。したがって、回転駆動部19が固定された支持壁部32と、支持壁部32から離間しかつ支持壁部32に対向する側壁4cの間の距離は変化しない。したがって、可変密閉部35における伸長状態は維持される。
【0149】
同様に、回転駆動部19が固定されていない支持壁部32と、支持壁部32から離間しかつ支持壁部32に対向する側壁4cとの間の距離は変化しない。したがって、可変密閉部35における伸長状態は維持される。
【0150】
また、揺動軸12の回転動作が行われている間、フランジ23bは、支持壁部32と一体に固定されて回転しない。つまり、フランジ23bは、支持台部31と一体に固定されている。このため、防着板21は、支持台部31と一体に固定されている。
また、揺動軸12の回転動作が行われている間、外側端部35aとフランジ23bとは密閉部材(密閉手段)としてのOリング35a1によって密閉された状態を維持する。
【0151】
同様に、揺動軸12の回転動作が行われている間、内側端部35bと真空チャンバ4の側壁4cとは密閉部材(密閉手段)としてのOリング35b1によって密閉された状態を維持する。
また、揺動軸12の回転動作が行われている間、可変筒部35cは変形しない。これにより、真空チャンバ4の側壁4cよりも外側位置となる同軸外筒部23の径方向外側とフランジ23bと側壁4cとで囲まれた領域(空間)は、可変密閉部35によって密閉された状態を維持する。
【0152】
揺動軸12の回転動作が行われている間、同軸外筒部23の径方向内側となる揺動軸12の周囲は、可変密閉部35と軸内密閉部36とによって、真空チャンバ4とともに密閉された状態を維持する。
これらにより、本実施形態におけるスパッタ装置1では、揺動軸12の回転動作が行われている間、真空チャンバ4の密閉状態を維持することができる。
【0153】
ここで、揺動軸12の回転動作が行われている際に、揺動軸12が接触して摺動する部分は、軸内密閉部36の軸受部36aのみである。
したがって、揺動軸12の回転動作が行われている際にパーティクルが発生した場合に、パーティクルが、発生場所である軸受部36aから真空チャンバ4内の成膜位置となるガラス基板11に到達するためには、揺動軸12の径方向外側である同軸外筒部23の筒内空間23aの全長に亘って移動しなければならない。
【0154】
ここで、筒内空間23aの内部にはガスの吹き出しもなく、また、積極的なガス流も存在しない。このため、揺動軸12の回転動作が行われている際にパーティクルが発生した場合に、パーティクルが発生場所である軸受部36aから筒内空間23aを経て真空チャンバ4の内部空間へと拡散する恐れは殆どない。
したがって、揺動軸12の回転動作が行われている際に発生したパーティクルによる成膜状態への影響が殆どない状態まで抑制することができる。
【0155】
次いで、リフトピン移動部によって、ガラス基板11は、
図9に示す矢印Bとは逆方向に上昇した後、搬送装置3a(搬送ロボット)によって、ガラス基板11は、保持部13の上から
図8の矢印Aと逆方向に取り出される。さらに、ガラス基板11は、搬送室3を介して最終的にロード・アンロード室2から外部に搬出される。
なお、他のチャンバにおいて、その他の処理を行うことも可能である。
【0156】
本実施形態に係るスパッタ装置1によれば、簡単な構成により少ない部品点数で基板保持部10を揺動させることができる。同時に、成膜の均一性を向上することができる。
さらに、保持部13と同期して揺動するとともに、成膜室4の成膜口4bに立ち上がった状態を維持する防着板21を備えている。これによって、回転駆動部19によって防着板21を回転駆動させる必要がない。このため、回転駆動部19によって回転駆動させる構造物(部材)の重量を低減することができる。
【0157】
同時に、保持部13と同期して揺動するとともに、成膜室4の成膜口4bに立ち上がった状態を維持する防着板21を備えたことによって、リフトピン移動部によって、防着板21を回転駆動させる必要がない。このため、リフトピン移動部によって回転駆動させる構造物(部材)の重量を低減することができる。
【0158】
同時に、回転駆動部19の小型化を図ることができる。さらに、支持台部31と底部4eとの間に揺動規制部37を設けたことにより、スパッタ装置1における省スペース化を図ることができる。揺動駆動部30を真空チャンバ4の底部4e下側に設けたことによりスパッタ装置1における省スペース化を図ることができる。
また、真空チャンバ4の真空密閉状態を容易に維持することができる。これとともに、回転動作成膜中における裏側空間42に付着するパーティクルの発生を削減し、成膜特性の悪化を抑制することが可能となる。
【0159】
さらに、本実施形態においては、ターゲットの形態(Planar・Rotary)によらず省スペースで低パーティクルである揺動機構を提供することが可能となるという効果を奏する。
【0160】
(揺動式ターゲットと上述した実施形態に係るターゲットとの比較)
上述した実施形態とは異なる構造として、例えば、ターゲットが揺動する揺動式ターゲットを備えたスパッタ装置が知られている。揺動式ターゲットが採用されている装置においては、ターゲットだけでなく、ターゲットに接続される配線や磁気回路を囲う筐体(内部チャンバ)が成膜室内に設けられている。筐体は、
図16に示すようにターゲットの表面を前側空間41に露出させる。
【0161】
この筐体は、揺動部分であり、ターゲットを揺動する際に、筐体も成膜室内で揺動する。
このような揺動式ターゲットを備えた構成の場合、成膜に伴う付着物が、
図16の斜線で示された領域の表面に堆積されるだけでなく、ガラス基板に対向しない筐体の側面や裏面にも付着物が堆積されてしまう。換言すると、揺動式ターゲットを備えた構造では、付着物が堆積する表面積が増加する。
【0162】
これに対し、本実施形態に係るスパッタ装置1によれば、
図16の斜線で示された領域の表面のみに、成膜に伴う付着物が堆積する。換言すると、揺動式ターゲットとは異なり、筐体を備えていないため、筐体の側面や裏面に付着物が堆積することがない。即ち、付着物が堆積する表面積を削減することができる。
一例として、本実施形態は、揺動式ターゲットの場合と比べて、揺動部分に付着物が付着する面積を2/3~1/2程度に削減することが可能となる。
【0163】
この例においては、揺動式ターゲットを構成する揺動部分の面積に対して、付着物が付着する面積を1.5~2倍程度、削減可能である。
同時に、本実施形態によれば、揺動式ターゲットの場合に比べて、成膜室4の容積を削減し、省スペース化を図ることができる。また、揺動駆動部30および回転駆動部19が、成膜室4の外側に配置されていることにより、パーティクル発生量を削減することが可能となる。
【0164】
本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではない。
【符号の説明】
【0165】
1…スパッタ装置(成膜装置)
2,2A…ロード・アンロード室(真空チャンバ)
3…搬送室(真空チャンバ)
4,4A…成膜室(真空チャンバ)
4a…搬送口
4b…成膜口
4c…側壁
4d…貫通孔
4e…底部
4f…相フランジ
4g…貫通孔
6…バッキングプレート(カソード、カソード電極)
7…ターゲット
10…基板保持部(保持手段)
11…ガラス基板(被処理基板)
12…揺動軸
12a…取り付け部材
13…保持部
19…回転駆動部
20…揺動部
21…防着板
21a…縦防着板
21b…横防着板
22…防着板支持部
23…同軸外筒部
23b…フランジ
30…揺動駆動部
30A…駆動モータ
30a…ボールネジ
30b…ボールスクリュー
31…支持台部
32…支持壁部
33…支持底部
35…可変密閉部(ベローズ)
35a…外側端部
35b…内側端部
35c…可変筒部
36…軸内密閉部
36a…軸受部
37…揺動規制部
37a…揺動規制レール
37b…規制移動部
41…前側空間
42…裏側空間
AX…軸線方向