IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特許7389967リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置
<>
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図1
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図2
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図3
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図4
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図5
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図6
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図7
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図8
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図9
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図10
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図11
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図12
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図13
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図14
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図15
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図16
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図17
  • 特許-リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】リン含有活性エステル、硬化性樹脂組成物、硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/692 20060101AFI20231124BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20231124BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20231124BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20231124BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C08G63/692
B32B27/36
C08G59/40
C08J5/24 CFC
H01L21/56 R
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020106233
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022001612
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨンチャン
(72)【発明者】
【氏名】迫 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】林 弘司
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-272229(JP,A)
【文献】特開2012-111812(JP,A)
【文献】特開平05-001212(JP,A)
【文献】国際公開第2021/177233(WO,A1)
【文献】特開2015-054868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/692
B32B 27/36
C08G 59/40
C08J 5/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有多価アルコール化合物の残基(A)と、芳香族多価カルボン酸の残基(Q)とが、エステル結合を介して結合された構造を有し、かつ、末端が1価の芳香族性水酸基含有化合物の残基(C)で封止されていることを特徴とするリン含有活性エステル。
【請求項2】
下記一般式(1)で示されることを特徴とする請求項1に記載のリン含有活性エステル。
【化1】
[上記一般式(1)中、Aは、下記一般式(2)~(4)のいずれかで示される構造であり、Rは、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖のアルキレン基であり、Qは、芳香族環であり、xは、0.1以上の平均繰り返し数であり、yは、1以上の平均繰り返し数であり、zは、1以上の平均繰り返し数であり、Arは、下記一般式(5)又は(6)で示される構造であり、
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
上記一般式(2)~(4)中の♯は、上記一般式(1)中のAと結合する酸素原子との結合部位を表し、上記一般式(5)及び(6)中の*は、上記一般式(1)中のArと結合する酸素原子との結合部位を表し、RbおよびRcは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリル基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、又は、ナフチル基であってもよく、RbおよびRcが環状構造を形成してもよい。Raは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アリル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、又は、ナフチル基のいずれかであり、sは、0~7の整数であり、tは、0~5の整数である。]
【請求項3】
リン含有率が、1.8質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリン含有活性エステル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のリン含有活性エステル、及び、エポキシ樹脂を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化性樹脂組成物を硬化反応させたことを特徴とする硬化物。
【請求項6】
補強基材、及び、前記補強基材に含浸した請求項4に記載の硬化性樹脂組成物の半硬化物を有することを特徴とするプリプレグ。
【請求項7】
請求項6に記載のプリプレグ、及び、銅箔を積層し、加熱圧着成型して得られることを特徴とする回路基板。
【請求項8】
請求項4に記載の硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とするビルドアップフィルム。
【請求項9】
請求項4に記載の硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする半導体封止材。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体封止材を加熱硬化した硬化物を含むことを特徴とする半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有活性エステル、前記リン含有活性エステルを含む硬化性樹脂組成物、前記硬化性樹脂組成物より得られる硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂及びその硬化剤を必須成分とするエポキシ樹脂組成物は、その硬化物において優れた耐熱性と絶縁性を発現することから、半導体や多層プリント基板などの電子部品用途において広く用いられている。
【0003】
この電子部品用途のなかでも絶縁材料の技術分野では、近年、各種電子機器における信号の高速化、高周波数化が進んでいる。しかしながら、信号の高速化、高周波数化に伴って、十分に低い誘電率を維持しつつ、低い誘電正接を得ることが困難となりつつある。
【0004】
特許文献1には、低誘電率・低誘電正接(低誘電特性)を満足するために、硬化剤として多価フェノール類を用いたエポキシ樹脂組成物が開示されている。しかし、硬化剤として多価フェノール類を用いたエポキシ樹脂組成物から形成される硬化物をプリント基板(銅張積層板)などの用途に使用した際に、柔軟性に欠け、柔軟性に起因する銅箔への密着性が劣るなどの問題を有していたため、低誘電特性を維持しつつ、密着性をも兼備した硬化物が得られるエポキシ樹脂組成物の開発が望まれている。
【0005】
また、環境保護の観点から、ノンハロゲン難燃性のプリント基板(銅張積層板)の開発が求められており、エポキシ樹脂組成物に難燃剤として広く使用されるリン系難燃剤を添加したエポキシ樹脂組成物の開発が進められている。ただし、リン系難燃剤を添加したエポキシ樹脂組成物を用いた硬化物は、難燃効率が低く、多量に添加すると、硬化物表面に、難燃剤が移行するブリードアウト現象の発生や、銅箔への密着性が低下するなど、性能に影響を及ぼす問題を有しているため、硬化物中に化学結合で取り込まれる反応性リン系難燃剤が求められている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-169021号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】ネットワークポリマ― Vol.36 No.5(2015)第232-238頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、得られる硬化物において、優れた難燃性、低誘電特性、及び、密着性を発現させることができるリン含有活性エステル、前記リン含有活性エステルを含む硬化性樹脂組成物、及び、前記硬化性樹脂組成物を用いて得られる硬化物、更には、前記硬化性樹脂組成物を用いたプリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、硬化性樹脂組成物に特定のリン含有活性エステルを用いることで、得られる硬化物が、優れた難燃性、低誘電特性、及び、密着性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、リン含有多価アルコール化合物の残基(A)と、芳香族多価カルボン酸の残基(Q)とが、エステル結合を介して結合された構造を有し、かつ、末端が1価の芳香族性水酸基含有化合物の残基(C)で封止されていることを特徴とするリン含有活性エステルに関する。
【0011】
本発明のリン含有活性エステルは、下記一般式(1)で示されることが好ましい。
【化1】
[上記一般式(1)中、Aは、下記一般式(2)~(4)のいずれかで示される構造であり、Rは、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖のアルキレン基であり、Qは、芳香族環であり、xは、0.1以上の平均繰り返し数であり、yは、1以上の平均繰り返し数であり、zは、1以上の平均繰り返し数であり、Arは、下記一般式(5)又は(6)で示される構造であり、
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
上記一般式(2)~(4)中の♯は、上記一般式(1)中のAと結合する酸素原子との結合部位を表し、上記一般式(5)及び(6)中の*は、上記一般式(1)中のArと結合する酸素原子との結合部位を表し、RbおよびRcは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリル基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、又は、ナフチル基であってもよく、RbおよびRcが環状構造を形成してもよい。Raは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アリル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、又は、ナフチル基のいずれかであり、sは、0~7の整数であり、tは、0~5の整数である。]
【0012】
本発明のリン含有活性エステルは、リン含有率が、1.8質量%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明は、前記リン含有活性エステル、及び、エポキシ樹脂を含有する硬化性樹脂組成物に関する。
【0014】
本発明は、前記硬化性樹脂組成物を硬化反応させた硬化物に関する。
【0015】
本発明は、補強基材、及び、前記補強基材に含浸した前記硬化性樹脂組成物の半硬化物を有するプリプレグに関する。
【0016】
本発明は、前記プリプレグ、及び、銅箔を積層し、加熱圧着成型して得られる回路基板に関する。
【0017】
本発明は、前記硬化性樹脂組成物を含有するビルドアップフィルムに関する。
【0018】
本発明は、前記硬化性樹脂組成物を含有する半導体封止材に関する。
【0019】
本発明は、前記半導体封止材を加熱硬化した硬化物を含む半導体装置に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、得られる硬化物において優れた難燃性、低誘電特性、及び、密着性を発現させることのできるリン含有活性エステル、前記リン含有活性エステルを含む硬化性樹脂組成物、及び、前記硬化性樹脂組成物を用いて得られる硬化物、更には、前記硬化性樹脂組成物を用いた半導体封止材、半導体装置、プレプリグ、回路基板、及び、ビルドアップフィルムなどを提供することができ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】合成例1で得られたイソフタル酸ジフェニル誘導体(A-1)のGPCチャートである。
図2】合成例1で得られたイソフタル酸ジフェニル誘導体(A-1)のH-NMRチャートである。
図3】合成例1で得られたイソフタル酸ジフェニル誘導体(A-1)のFD-MSスペクトルチャートである。
図4】合成例2で得られたリン含有ジオール(PC-HCA-HQ)のGPCチャートである。
図5】合成例2で得られたリン含有ジオール(PC-HCA-HQ)の13C-NMRチャートである。
図6】合成例2で得られたリン含有ジオール(PC-HCA-HQ)のFD-MSスペクトルチャートである。
図7】実施例1で得られたリン含有活性エステル(B-1)のGPCチャートである。
図8】実施例1で得られたリン含有活性エステル(B-1)の13C-NMRチャートである。
図9】実施例1で得られたリン含有活性エステル(B-1)のFD-MSスペクトルチャートである。
図10】合成例3で得られたリン含有ジオール(EC-HCA-HQ)のGPCチャートである。
図11】実施例2で得られたリン含有活性エステル(B-2)のGPCチャートである。
図12】合成例4で得られたリン含有ジオール(PC-HCA-NQ)のGPCチャートである。
図13】実施例3で得られたリン含有活性エステル(B-3)のGPCチャートである。
図14】合成例5で得られたリン含有ジオール(PC-PPQ)のGPCチャートである。
図15】実施例4で得られたリン含有活性エステル(B-4)のGPCチャートである。
図16】比較合成例1で得られた中間体(C-1)のGPCチャートである。
図17】比較合成例2で得られたリン含有中間体(C-2)のGPCチャートである。
図18】比較例1で得られたリン含有活性エステル(C-3)のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<活性エステル(I)>
本発明のリン含有活性エステルは、リン含有多価アルコール化合物の残基(A)と、芳香族多価カルボン酸の残基(Q)とが、エステル結合を介して結合された構造を有し、かつ、末端が1価の芳香族性水酸基含有化合物の残基(C)で封止されていることを特徴とする。
前記リン含有活性エステルは、エポキシ樹脂の硬化時に生じる水酸基を抑制するエステル結合を有し、柔軟セグメントになりうる前記リン含有多価アルコール化合物の残基(A)を含み、更に構造中に難燃性に寄与するリン原子を含むため、このリン含有活性エステルを用いた硬化物は、難燃性、柔軟性、低誘電特性、及び、密着性に優れ、有用である。
【0023】
本発明のリン含有活性エステルは、前記リン含有多価アルコール化合物の残基(A)を含むが、その価数としては、好ましくは、2~5価であり、より好ましくは、2価である。前記価数が2価以上であると、生成する活性エステルの官能基数が2個以上となり、硬化性の観点から優れる。また、前記リン含有多価アルコール化合物の残基(A)としては、構造中に難燃性に寄与するリン原子を含み、かつ、少なくとも2以上の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基又はアルキレンオキシ基と結合する芳香環を含むことが好ましい。
【0024】
本発明のリン含有活性エステルは、前記芳香族多価カルボン酸の残基(Q)を含むが、その価数としては、好ましくは、2~4価であり、より好ましくは、2価である。前記価数が2価以上であると、生成するリン含有活性エステルの官能基数が2個以上となり、硬化性の観点から優れる。また、前記芳香族とは、カルボキシル基を有する芳香族環を有する化合物であれば、特に制限されない。
【0025】
本発明のリン含有活性エステルは、前記末端が1価の芳香族性水酸基含有化合物の残基(C)で封止されているリン含有活性エステルであるが、前記末端が1価の芳香族性水酸基含有化合物とは、芳香族環を有し、芳香族環上に水酸基を1個(1価)有する化合物であれば、特に制限されない。
【0026】
本発明のリン含有活性エステルは、前記リン含有多価アルコール化合物のリン含有量が4~25質量%であることが好ましく、5~24質量%であることがより好ましく、6~23質量%であると更に好ましい。前記範囲であると硬化物の耐熱性と誘電特性の観点から優れるため好ましい。
【0027】
なお、本発明における前記「リン含有多価アルコール化合物の残基(A)」は、リン含有多価アルコール化合物から水酸基を除いた基を示すものであり、前記「芳香族多価カルボン酸の残基(Q)」は、芳香族多価カルボン酸からカルボキシル基を除いた基を示すものであり、「末端が1価の芳香族性水酸基含有化合物の残基(C)」は、芳香族性水酸基含有化合物から水酸基を除いた基を示すものである。また、前記リン含有多価アルコール化合物とは、脂肪族アルコールだけでなく、芳香族環を含んだリン含有多価アルコール化合物を含んでもよい。
【0028】
<活性エステル(II)>
本発明のリン含有活性エステルは、下記一般式(1)で示されることが好ましい。
【化7】
【0029】
上記一般式(1)中、Aは、下記一般式(2)~(4)のいずれかで示される構造であり、Rは、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖のアルキレン基であり、Qは、芳香族環であり、xは0.1以上の平均繰り返し数であり、yは1以上の平均繰り返し数であり、zは1以上の平均繰り返し数であり、Arは、下記一般式(5)又は(6)で示される構造である。
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0030】
上記一般式(2)~(4)中の♯は、上記一般式(1)中のAと結合する酸素原子との結合部位を表し、上記一般式(5)及び(6)中の*は、上記一般式(1)中のArと結合する酸素原子との結合部位を表し、RbおよびRcは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリル基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、又は、ナフチル基であってもよく、RbおよびRcが環状構造を形成してもよい。Raは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アリル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、又は、ナフチル基のいずれかであり、sは、0~7の整数であり、tは、0~5の整数であることが好ましい。
前記リン含有活性エステルは、複数のエステル結合を有し、直鎖又は分岐鎖のアルキレン基などを含むため、この鎖構造は極性が低く、柔軟セグメントを構成するため、柔軟性や低誘電特性に優れた硬化物を得ることができ、有用である。
【0031】
上記一般式(1)中のAは、上記一般式(2)~(4)のいずれかで示される構造であることが好ましく、上記一般式(2)~(4)中のRbおよびRcは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリル基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、又は、ナフチル基のいずれかであることが好ましく、また、RbおよびRcが環状構造を形成してもよい。中でも、上記一般式(1)中のAは、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド構造や、10-[2-(ジヒドロキシナフチル)] -9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド構造であることがより好ましい。前記構造は、リン原子を含有し、かつ、芳香環濃度の高い構造であることから、リン含有活性エステルに基づく難燃性を向上させる効果に寄与することができ、好ましい。従来知られている分子構造中に脂肪族環状炭化水素基を有する活性エステルは、得られる硬化物における誘電特性(低誘電特性)に優れる反面、燃焼し易く、耐熱性も十分ではないものであったところ、前記リン含有活性エステルは、分子構造中に芳香族環を複数導入することにより、誘電特性と難燃性とを兼備させることができ、有用となる。また、前記構造のように、嵩高い置換基構造を有する活性エステルは、嵩高い置換基構造を持たない活性エステルと比較して、硬化反応に関与する活性基濃度が低下することから、硬化物の耐熱性が劣る傾向にあるところ、前記リン含有活性エステルは誘電特性や難燃性のみならず、耐熱性にも優れる特徴を有しており、各種性能を兼備することができ、有用である。
【0032】
上記一般式(1)中のRは、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖のアルキレン基であることが好ましく、前記直鎖又は分岐鎖に含まれる炭素原子数としては、2~16であることがより好ましく、2~10であることが更に好ましい。炭素原子数が、前記範囲内であると、相溶性に優れたリン含有活性エステルとなり、好ましい態様となる。
【0033】
上記一般式(1)中のxは、0.1以上の平均繰り返し数であることが好ましく、中でも、作業性や得られる硬化物の柔軟性の観点から、平均繰り返し数xは、0.5~3であることがより好ましく、0.7~2.8であることが更に好ましい。
【0034】
上記一般式(1)中のyは、1以上の平均繰り返し数であることが好ましく、中でも、作業性や得られる硬化物の柔軟性の観点から、平均繰り返し数yは、1~5であることがより好ましい。
【0035】
上記一般式(1)中のzは、1以上の平均繰り返し数であることが好ましく、中でも、作業性や得られる硬化物の柔軟性の観点から、平均繰り返し数zは、1~5であることがより好ましい。
【0036】
上記一般式(1)中のQは、芳香族環であることが好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環、又はアントラセン環のいずれかの芳香族環であることがより好ましく、中でも工業的原料の入手の容易さ、溶解性の観点から、ベンゼン環であることがより好ましい。
【0037】
上記一般式(2)~(4)中のRbおよびRcは、それぞれ独立して、アルキル基、アルコキシ基、アリル基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、又は、ナフチル基のいずれかであることが好ましく、中でも、得られる硬化物の物性や工業的な入手の容易さの観点から、炭素原子数2~12の直鎖または環状アルキル基、アルコキシ基、アリル基、アリール基、または、ナフチル基であることがより好ましい。
また、上記一般式(2)~(4)中のRbおよびRcが環状構造を形成してもよく、工業的原料の入手の容易さの観点から、アルコキシ基、アリール基、または、ナフチル基を有する環状構造であることがより好ましい。なお、ここでの、RbおよびRcが環状構造を形成するとは、Rb及びRcが結合することで環状構造を形成している場合を意味し、芳香族環を含む構造や、脂環式構造を形成していてもよい。
【0038】
上記一般式(1)中のArは、上記一般式(5)又は(6)で示される構造であることが好ましく、上記一般式(5)又は(6)中のRaは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アリル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、又は、ナフチル基のいずれかであることが好ましく、中でも、誘電特性(低誘電特性)、作業性や得られる硬化物の柔軟性の観点から、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、アリール基、アラルキル基、又は、ナフチル基であることがより好ましい。
【0039】
上記一般式(5)又は(6)中のsは、0~7の整数であり、tは、0~5の整数であることが好ましく、s及びtは、それぞれ独立して、0~5の整数であることがより好ましく、反応性や、得られる硬化物の柔軟性の観点から、s及びtは、それぞれ独立して、0~4の整数であることが更に好ましい。
【0040】
本発明のリン含有活性エステル(例えば、上記(I)及び(II))は、エポキシ樹脂等の硬化剤としての機能を有するものであり、その構造中に柔軟セグメントを有し、前記リン含有活性エステルを使用し得られる硬化物に柔軟性を付与することができ、好ましい態様となる。また、前記リン含有活性エステルとエポキシ樹脂との反応時において、水酸基の発生を防止または抑制することができ、低誘電特性に優れ、有用である。更に、前記リン含有活性エステルは、その構造中にリン原子が組み込まれているため、難燃性に優れるだけでなく、難燃剤として使用される添加型のリン系難燃剤に対して、ブリードアウトが抑制され、ガラス基材や銅箔などへの密着性に優れ有用となる。
【0041】
本発明のリン含有活性エステルは、例えば、上記リン含有活性エステル(I)及び(II)のいずれかに示す構造を有するエステル化合物であれば、特に制限されないが、例えば、2個以上のカルボキシル基を有する芳香族化合物および/またはその酸ハロゲン化物もしくはエステル化物(a)と、芳香族モノヒドロキシ化合物(b)との反応生成物(c)に、リン含有ポリオール化合物(d)を反応して得られる反応生成物(上記リン含有活性エステルに相当する化合物)であることが好ましい。前記リン含有活性エステルを用いることにより、低誘電正接であり、かつ、より難燃性、耐熱性、耐湿熱性、及び、密着性に優れる硬化物が得られ好ましい態様となる。その理由は、必ずしも明らかではないが、得られるリン含有活性エステルは、アリールオキシカルボニル基(活性エステル基)を末端に含有するため、後述するエポキシ樹脂が有するエポキシ基と高い反応性を示し、この高い反応性により、エポキシ基の開環により生じる水酸基の発生を防止または抑制することができ、好ましい態様となる。また、前記リン含有活性エステルは、分子中に水酸基を有さない、または、ほとんど有さないため、前記リン含有活性エステルが反応して得られる硬化物中についても、リン含有活性エステル由来の水酸基を有さない、または、ほとんど有さない。このような活性エステルによれば、硬化時における水酸基の発生を防止または抑制することができる。一般に、極性が高い水酸基は、誘電正接を上昇させることが知られているが、前記リン含有活性エステルを用いることで、硬化物における低誘電正接を実現することができ、特に有用である。
【0042】
また、前記リン含有活性エステルは、後述するエポキシ樹脂のエポキシ基と反応活性を有するエステル結合を2個以上有するため、硬化物の架橋密度が高くなり、耐熱性が向上しうる。
【0043】
本発明のリン含有活性エステルは、アルキレン基やアルキレンオキシ基(アルキレンエーテル鎖)などの柔軟セグメントを有し、水酸基を有さない、または、ほとんど有さないため、極性の低い構造を有しており、得られる硬化物において優れた難燃性、柔軟性、耐吸湿性、柔軟性に起因する銅箔などへの密着性、及び、低誘電特性を発現させることのできる硬化性樹脂組成物(例えば、エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物)、さらには、上記硬化性樹脂組成物を用いた半導体封止材料、半導体装置、プレプリグ、回路基板、及び、ビルドアップフィルムなどを提供でき、好ましい態様となる。
【0044】
前記リン含有活性エステルとしては、後述する硬化性樹脂組成物として調製する際のハンドリング性や、その硬化物の耐熱性、誘電特性とのバランスがより優れる観点から、前記リン含有活性エステルの軟化点が200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましい。
【0045】
[2個以上のカルボキシル基を有する芳香族化合物および/またはその酸ハロゲン化物もしくはエステル化物(a)]
前記2個以上のカルボキシル基を有する芳香族化合物および/またはその酸ハロゲン化物もしくはエステル化物(a)(上記芳香族多価カルボン酸の残基(Q)に由来する化合物)は、2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸、またはその誘導体であり、具体的にはカルボン酸、酸ハロゲン化物、エステル化物(以下、「芳香族化合物等(a)」と称することがある。)である。前記芳香族化合物等(a)は、2個以上のカルボキシル基等を有することにより、後述の芳香族モノヒドロキシ化合物(b)や、更に、リン含有ポリオール化合物(d)(以下、単に「化合物(d)」と称する場合がある。)(上記リン含有多価アルコール化合物の残基(A)に由来する化合物)と反応することで、リン含有活性エステルの構造中において、前記化合物(d)由来の柔軟性を有する構造部位と、末端にエポキシ硬化性を有するアリールオキシカルボニル構造の両方を含有する構造を形成することができ、リン含有活性エステルの構造中において、高い反応活性を有するエステル構造(活性エステル基)を形成しうる。また、得られるリン含有活性エステルは、アリールオキシカルボニル末端を有することになり、誘電特性の観点から優れる。
【0046】
前記芳香族化合物等(a)中のカルボキシル基数としては、より好ましくは2~4個であり、さらに好ましくは、2個である。前記カルボキシル基数が少なくとも2個(2個以上)有することで、生成するリン含有活性エステルの官能基数が2個以上となり、硬化性の観点から優れる。
【0047】
前記芳香族化合物等(a)としては、特に制限されないが、置換または非置換の芳香族環に2個以上のカルボキシル基等を有する化合物が挙げられる。なお、「カルボキシル基等」とは、カルボキシル基;フッ化アシル基、塩化アシル基、臭化アシル基等のハロゲン化アシル基;メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基等のアルキルオキシカルボニル基;フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基等が挙げられる。なお、ハロゲン化アシル基を有する場合、前記芳香族化合物は酸ハロゲン化物であり、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基を有する場合、前記芳香族化合物はエステル化物となりうる。これらのうち、前記芳香族化合物はカルボキシル基、ハロゲン化アシル基、アリールオキシカルボニル基を有することが好ましく、カルボキシル基、ハロゲン化アシル基を有することがさらに好ましく、カルボキシル基、塩化アシル基、臭化アシル基を有することがさらに好ましい。
【0048】
前記芳香族環としては、特に制限されないが、単環芳香族環、縮環芳香族環、環集合芳香族環、アルキレン鎖により連結される芳香族環等が挙げられる。
【0049】
前記芳香族化合物等(a)としては、特に制限されないが、イソフタル酸、テレフタル酸、5-アリルイソフタル酸、2-アリルテレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸;トリメリット酸、5-アリルトリメリット酸等のベンゼントリカルボン酸;ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-1,5-ジカルボン酸、ナフタレン-2,3-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、3-アリルナフタレン-1,4-ジカルボン酸、3,7-ジアリルナフタレン-1,4-ジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸;2,4,5-ピリジントリカルボン酸等のピリジントリカルボン酸;1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリカルボン酸等のトリアジンカルボン酸;これらの酸ハロゲン化物、エステル化物等が挙げられる。これらのうち、ベンゼンジカルボン酸、ベンゼントリカルボン酸であることが好ましく、イソフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸クロリド、テレフタル酸クロリド、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリドであることがより好ましく、イソフタル酸クロリド、テレフタル酸クロリド、1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリドであることがさらに好ましい。
【0050】
上述のうち、得られる硬化物の柔軟性、原料の工業的な入手の容易さや作業性の観点から、芳香族環が単環芳香族環である芳香族化合物等、芳香族環が縮環芳香族環である芳香族化合物等であることが好ましく、ベンゼンジカルボン酸、ベンゼントリカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、これらの酸ハロゲン化物であることが好ましく、ベンゼンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、これらの酸ハロゲン化物であることがより好ましく、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレン-1,5-ジカルボン酸、ナフタレン-2,3-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、1,3,5-ベンゼンとリカルボン酸これらの酸ハロゲン化物であることがさらに好ましい。上述の芳香族化合物等(a)は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
[芳香族モノヒドロキシ化合物(b)]
本発明で用いる芳香族モノヒドロキシ化合物(b)(上記末端が1価の芳香族性水酸基含有化合物の残基(C)に由来する化合物)は、例えば、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,4-キシレノール、2,6-キシレノール、ターシャリーブチルフェノール、アミルフェノール等のアルキルフェノール;o-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、2-ベンジルフェノール、4-ベンジルフェノール、スチレン化フェノール、4-(α-クミル)フェノール等のアラルキルフェノール;1-ナフトール、2-ナフトール等のナフトール化合物が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。中でも、誘電特性(低誘電特性)に優れる硬化物が得られることから、o-クレゾールやナフトールであることが好ましい。
【0052】
前記芳香族化合物等(a)、及び、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(b)との反応としては、特に制限されないが、例えば、アルカリ触媒の存在下、60℃以下の温度条件下で、1~24時間の反応時間で行うことが出来る。ここで使用し得るアルカリ触媒は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、トリエチルアミン、ピリジン等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらのなかでも、反応効率が高いことから、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましい。また、これらの触媒は3~30%の水溶液として用いても良い。また、この際、反応効率を高めるため、層間移動触媒を使用しても良い。例えば、アルキルアンモニウム塩、クラウンエーテル等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0053】
上記反応は、反応制御が容易となることから、有機溶媒中で行うことが好ましい。ここで用いる有機溶媒は、例えば、ペンタン、ヘキサン等の炭化水素溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル溶媒、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上の混合溶媒としても良い。
【0054】
前記芳香族化合物等(a)、及び、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(b)の反応割合は、所望の分子設計に応じて適宜変更することが出来るが、中でも、未反応の末端を削減しつつ、余剰の反応原料を削減する観点から、前記芳香族化合物等(a)1モルに対し、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(b)が1.1~5.0モルの範囲が好ましく、1.5~4.0モルがより好ましく、2.0~3.0モルが更に好ましい。
【0055】
反応終了後は、アルカリ触媒の存在下で水溶液を用いる場合には、反応液を静置分液して水層を取り除き、残った有機層を水で洗浄し、水層がほぼ中性(pH7程度)になるまで水洗を繰り返すことにより、絶縁性に悪影響のある無機塩含有量が低減された前記芳香族化合物等(a)、及び、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(b)との反応生成物である反応生成物(c)を得ることができる。
【0056】
[リン含有ポリオール化合物(d)]
本発明のリン含有活性エステルは、前記反応生成物(c)と前記リン含有ポリオール化合物(d)を反応することにより製造することができる。前記化合物(d)を使用することで、得られるリン含有活性エステルの構造中に、柔軟セグメントとなる前記化合物(d)に由来するアルキレン基やアルキレンオキシ基(アルキレンエーテル鎖)などを導入することができ、前記リン含有活性エステルを使用し得られる硬化物に柔軟性を付与することができ、更に、極性の低い構造を導入することになるため、低誘電特性に優れ、好ましい態様となる。また、前記リン含有活性エステルは合成時に、水酸基の発生を防止または抑制することができ、低誘電特性に優れ、有用である。
【0057】
前記リン含有ポリオール化合物(d)中の水酸基数(価数)としては、好ましくは2~5個であり、より好ましくは、2個である。前記カルボキシル基数が少なくとも2個(2個以上)有することで、生成するリン含有活性エステルの官能基数が2個以上となり、硬化性の観点から優れる。
【0058】
なお、前記化合物(d)としては、特に制限されないが、例えば、難燃性、耐熱性、及び、低誘電特性などの観点から、上記一般式(2)~(4)のいずれかで示される構造を含むジオール化合物(d-1)(以下、単に「化合物(d-1)」と称する場合がある。)、縮合リン酸エステル系ポリオール(d-2)(以下、単に「化合物(d-2)」と称する場合がある。)、および、リン含有ポリエステルポリオール(d-3)(以下、単に「化合物(d-3)」と称する場合がある。)などが好ましく用いられ、たとえば、下記一般式(7)のような構造の化合物を例示することができる。なお、下記一般式(7)中のA、R、y、及び、zは、上記一般式(1)中のそれぞれと同様である。
【化13】
【0059】
前記化合物(d-1)としては、例えば、下記一般式(8)~(12)に示される化合物などが挙げられる。
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【0060】
なお、下記一般式(8)~(12)中のRw、Rx、Ry、および、Rzは、それぞれ独立して水素、または、アルキル基であることが好ましく、工業的な入手の容易さの観点から、水素、または、炭素原子数が1~4のアルキル基がより好ましい。これらの化合物(d-1)は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
前記化合物(d-1)の製造方法としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のエポキシ基を有する化合物や炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン等のカーボネート類存在下、フェノール水酸基を2つ以上有するリン含有化合物(e)(以下、単に「化合物(e)」と称する場合がある。)と塩基触媒を加熱撹拌することで得られる。用いる塩基触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、トリエチルアミン、ピリジン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても、2種類以上を併用しても良い。これらのなかでも、反応効率が高いことから、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、トリフェニルホスフィンが好ましい。上記反応は、特に制限はないが、有機溶剤が無くても良く、有機溶媒中で行っても良い。ここで用いる有機溶媒は、例えば、ペンタン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル系溶媒、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶剤が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上の混合溶媒としても良い。前記反応条件としては、特に限定されないが、例えば、50~250℃の温度条件下で、1~24時間の撹拌・反応させることにより、前記化合物(d-1)を得ることができる。
【0062】
前記化合物(e)は、市販されているものを用いてもよい。市販品は、例えば、三光株式会社製のHCA-HQ(10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド)や、HCA=NQ(10-[2-(ジヒドロキシナフチル)]-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド)、日本化学工業株式会社製のCPHO-HQ(1,4-シクロオクチレンホスホニル-1,4-ハイドロキノン及び1,5-シクロオクチレンホスホニル-1,4-ハイドロキノンの混合物)等が挙げられる。
【0063】
前記化合物(d-2)としては、リン酸・亜リン酸・リン酸エステル等とアルキレンポリオールとの縮合で得られる、ポリリン酸エステルポリオール等が挙げられる。
【0064】
前記化合物(d-3)としては、HCA-マレイン酸付加物・HCA-シトラコン酸付加物・HCA-イタコン酸付加物(商品名M-ACID、三光(株)製)などのリン含有ジカルボン酸モノマーと、アルキレンポリオール化合物を縮合して得られる、水酸基末端を有するリン含有ポリエステルポリオール縮合物(商品名M-ESTER、ME-P8、三光(株)製)などが挙げられる。
【0065】
前記反応生成物(c)と前記化合物(d)とを反応させることにより、エステル交換反応が生じ、本発明のリン含有活性エステルを得ることができる。前記反応条件としては、例えば、50~250℃の温度条件下で、1~24時間の撹拌・反応させることにより、リン含有活性エステルを得ることができる。また、アルカリ触媒、中でもアミン系触媒(トリエチルアミン等のアルキルアミン、トリフェニルアミン等とアリールアミン、DBU、DBN等の縮環型アミン、イミダゾール、ピリジン等の複素管環アミン)を添加することで反応を促進することができる。なお、反応終了後は、余剰の前記芳香族モノヒドロキシ化合物(b)を除去するため、常圧蒸留、減圧(例えば、0.9~0.01気圧)蒸留することにより、高純度のリン含有活性エステルを得ることができる。
【0066】
上記反応においては、前記芳香族化合物等(a)、及び、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(b)の反応の際に使用される溶媒と同様の溶媒を使用することができる。
【0067】
前記反応生成物(c)、及び、前記化合物(d)の反応割合は、所望の分子設計に応じて適宜変更することが出来るが、中でも、より作業性や柔軟性に優れたリン含有活性エステルとなることから、前記反応生成物(c)の活性エステル当量1当量に対する前記化合物(d)の水酸基当量が0.1~0.9モルの範囲が好ましく、0.2~0.8モルがより好ましく、0.3~0.8モルが更に好ましい。
【0068】
前記リン含有活性エステルにおけるリン含有率(リン含有量)は、得られる硬化物等の難燃性と低誘電正接の観点から1.8質量%以上であることが好ましく、1.8~25質量%であることがより好ましく、1.9~24質量%であることが更に好ましい。
【0069】
本発明のリン含有活性エステルの官能基当量は、リン含有活性エステル構造中に有する芳香族エステル基の合計をリン含有活性エステルの官能基数とした場合、硬化性に優れ、低い誘電率及び誘電正接(低誘電特性)の硬化物が得られることから、160~1500g/eqの範囲であることが好ましく、180~1200g/eqの範囲であることがより好ましく、200~1000g/eqの範囲であることが更により好ましい。
【0070】
本発明のリン含有活性エステルの数平均分子量(Mn)は、320~3000であることが好ましく、360~2400であることがより好ましい。数平均分子量(Mn)が320以上であると、誘電正接に優れることから好ましい。一方、数平均分子量(Mn)が3000以下であると、成形性に優れることから好ましい。
【0071】
<硬化性樹脂組成物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記リン含有活性エステル、及び、エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0072】
[エポキシ樹脂]
前記エポキシ樹脂としては、特に制限されないが、例えば、分子中に2個以上のエポキシ基を含み、前記エポキシ基で架橋ネットワークを形成することで硬化させることができる硬化性樹脂であることが好ましい。
【0073】
前記エポキシ樹脂としては、特に制限されないが、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、α-ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、β-ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;
フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂;
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAP型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビスフェノールB型エポキシ樹脂、ビスフェノールBP型エポキシ樹脂、ビスフェノールC型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;
ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格およびジグリシジルオキシベンゼン骨格を有するエポキシ樹脂等のビフェニル型エポキシ樹脂;
ナフタレン型エポキシ樹脂;
ビナフトール型エポキシ樹脂;ビナフチル型エポキシ樹脂;
ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂等のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリグリシジル-p-アミノフェノール型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルスルホンのグリシジルアミン型エポキシ樹脂等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂;
2,6-ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロ無水フタル酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂等のジグリシジルエステル型エポキシ樹脂;
ジベンゾピラン、ヘキサメチルジベンゾピラン、7-フェニルヘキサメチルジベンゾピラン等のベンゾピラン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらのエポキシ樹脂のうち、フェノール化合物をエポキシ化して得られる、いわゆるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、その中でもノボラック型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂であることが、誘電特性の観点からより好ましい。
【0074】
なお、上述のエポキシ樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、120~400g/eqであることが好ましく、150~300g/eqであることがより好ましい。前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が120g/eq以上であると、得られる硬化物の誘電特性により優れることから好ましく、一方、エポキシ樹脂のエポキシ当量が400g/eq以下であると、得られる硬化物の耐熱性と誘電正接のバランスに優れることから好ましい。
【0076】
前記エポキシ樹脂の軟化点は、20~200℃であることが好ましく、40~150℃であることがより好ましい。前記エポキシ樹脂の軟化点が20℃以上であると、速硬化性を兼備できることから好ましい。一方、エポキシ樹脂の軟化点が200℃以下であると、成形性に優れることから好ましい。
【0077】
前記エポキシ樹脂の使用量に対する前記リン含有活性エステルの使用量の官能基当量比(リン含有活性エステル/エポキシ樹脂)は、0.2~2であることが好ましく、0.4~1.5であることがより好ましい。前記官能基当量比が0.2以上であると、得られる硬化物が、より低誘電正接、高い柔軟性となりうることから好ましい。前記官能基当量比が2を超えると、耐熱性、硬化性が低下するため、前記範囲内で使用することが好ましい。
【0078】
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記リン含有活性エステル、及び、エポキシ樹脂以外にも、本発明の効果を損なわない範囲において、他の硬化剤、他の樹脂、溶媒、添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0079】
[他の硬化剤]
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記リン含有活性エステルと共に、他の硬化剤を併用してもよい。
【0080】
前記他の硬化剤としては、特に制限されないが、アミン硬化剤、酸無水物硬化剤、フェノール樹脂硬化剤等が挙げられる。
【0081】
前記アミン硬化剤としては、特に制限されないが、ジエチレントリアミン(DTA)、トリエチレンテトラミン(TTA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ジプロプレンジアミン(DPDA)、ジエチルアミノプロピルアミン(DEAPA)、N-アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン(MDA)、イソフオロンジアミン(IPDA)、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(1,3-BAC)、ピペリジン、N,N,-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン等の脂肪族アミン;m-キシレンジアミン(XDA)、メタンフェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、ベンジルメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の芳香族アミン等が挙げられる。
【0082】
前記酸無水物硬化剤としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0083】
前記フェノール樹脂硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、ビフェニルノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン型樹脂、テトラフェノールエタン型樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0084】
上述の他の硬化剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
[他の樹脂]
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂に加えて、他の樹脂を含んでいてもよい。なお、本明細書において、「他の樹脂」とは、エポキシ樹脂以外の樹脂を意味する。
【0086】
前記他の樹脂の具体例としては、特に制限されないが、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリマレイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、トリアジン含有クレゾールノボラック樹脂、シアン酸エステル樹脂、スチレン-無水マレイン酸樹脂、ジアリルビスフェノールやトリアリルイソシアヌレート等のアリル基含有樹脂、ポリリン酸エステル、リン酸エステル-カーボネート共重合体等が挙げられる。これらの他の樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
[溶媒]
本発明の硬化性樹脂組成物は、無溶剤で調製しても構わないし、溶媒を含んでいてもよい。前記溶媒は、硬化性樹脂組成物の粘度を調整する機能等を有する。
【0088】
前記溶媒の具体例としては、特に制限されないが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等のエステル系溶剤;セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶剤等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
前記溶媒の使用量としては、硬化性樹脂組成物の全質量に対して、10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましい。溶媒の使用量が10質量%以上であると、ハンドリング性に優れることから好ましい。一方、溶媒の使用量が90質量%以下であると、経済性の観点から好ましい。
【0090】
[添加剤]
本発明の硬化性樹脂組成物は、添加剤を含んでいてもよい。前記添加剤としては、硬化促進剤、難燃剤、充填剤等が挙げられる。
【0091】
(硬化促進剤)
硬化促進剤(硬化触媒)としては、特に制限されないが、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、グアニジン系硬化促進剤、尿素系硬化促進剤等が挙げられる。
【0092】
前記リン系硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリパラトリルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等の有機ホスフィン化合物;トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等の有機ホスファイト化合物;エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、テトラフェニルホスホニウムジシアナミド、ブチルフェニルホスホニウムジシアナミド、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩等のホスホニウム塩等が挙げられる。
【0093】
前記アミン系硬化促進剤としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]-ノネン-5(DBN)等が挙げられる。
【0094】
前記イミダゾール系硬化促進剤としては、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾリン等が挙げられる。
【0095】
前記グアニジン系硬化促進剤としては、ジシアンジアミド、1-メチルグアニジン、1-エチルグアニジン、1-シクロヘキシルグアニジン、1-フェニルグアニジン、ジメチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トリメチルグアニジン、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1-メチルビグアニド、1-エチルビグアニド、1-ブチルビグアニド、1-シクロヘキシルビグアニド、1-アリルビグアニド、1-フェニルビグアニド等が挙げられる。
【0096】
前記尿素系硬化促進剤としては、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、クロロフェニル尿素、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロルフェニル)-1,1-ジメチル尿素等が挙げられる。
【0097】
上述の硬化促進剤のうち、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)を用いることが好ましい。
【0098】
なお、上述の硬化促進剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
前記硬化促進剤の使用量は、所望の硬化性を得るために適宜調製できるが、前記エポキシ樹脂と前記リン含有活性エステルの混合物の合計量100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがさらに好ましい。硬化促進剤の使用量が0.01質量部以上であると、硬化性に優れることから好ましい。一方、硬化促進剤の使用量が5質量部以下であると、絶縁信頼性に優れることから好ましい。
【0100】
(難燃剤)
本発明の硬化性樹脂組成物は、難燃性に寄与するリン含有活性エステルを使用するが、本発明の性能を損なわない範囲であれば、難燃剤を別途使用することができる。前記難燃剤としては、特に制限されないが、無機リン系難燃剤、有機リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤等が挙げられる。
【0101】
前記無機リン系難燃剤としては、特に制限されないが、赤リン;リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム;リン酸アミド等が挙げられる。
【0102】
前記有機リン系難燃剤としては、特に制限されないが、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、モノイソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ブチルピロホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、エチレングリコールアシッドホスフェート、(2-ヒドロキシエチル)メタクリレートアシッドホスフェート等のリン酸エステル;9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、ジフェニルホスフィンオキシド等ジフェニルホスフィン;10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(1,4-ジオキシナフタレン)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン、ジフェニルホスフェニル-1,4-ジオキシナフタリン、1,4-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール、1,5-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール等のリン含有フェノール;9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5-ジヒドロオキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,7-ジヒドロオキシナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等の環状リン化合物;前記リン酸エステル、前記ジフェニルホスフィン、前記リン含有フェノールと、エポキシ樹脂やアルデヒド化合物、フェノール化合物と反応させて得られる化合物等が挙げられる。
【0103】
前記ハロゲン系難燃剤としては、特に制限されないが、臭素化ポリスチレン、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、テトラブロモビスフェノールA、ビス(ジブロモプロピルエーテル)、1,2-ビス(テトラブロモフタルイミド)エタン、2,4,6-トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン、テトラブロモフタル酸等が挙げられる。なお、ノンハロゲン難燃性のプリント基板(銅張積層板)等に使用する際には、前記ハロゲン系難燃剤を使用しないことが好ましい。
【0104】
上述の難燃剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
前記難燃剤の使用量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、0~50質量部であることが好ましく、0~30質量部であることがより好ましい。難燃剤の使用量が50質量部以下であると、誘電特性や密着性などを維持しながら、難燃性を付与できることから好ましい。
【0106】
(充填剤)
充填剤としては、有機充填剤、無機充填剤が挙げられる。有機充填剤は、伸びを向上させる機能、機械的強度を向上させる機能等を有する。無機充填剤は、熱膨張率の低減や難燃性の付与といった機能を有する。
【0107】
前記有機充填剤としては、特に制限されないが、ポリアミド粒子等が挙げられる。
【0108】
前記無機充填剤としては、特に制限されないが、シリカ、アルミナ、ガラス、コーディエライト、シリコン酸化物、硫酸バリウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化マンガン、ホウ酸アルミニウム、炭酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タルク、クレー、雲母粉、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、ベーマイト、カーボンブラック等が挙げられる。これらのうち、シリカを用いることが好ましい。この際、シリカとしては、無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ、中空シリカ等が用いられうる。
【0109】
また、前記充填剤は、必要に応じて表面処理されていてもよい。この際、使用されうる表面処理剤としては、特に制限されないが、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、オルガノシラザン化合物、チタネート系カップリング剤等が使用されうる。表面処理剤の具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0110】
なお、上述の充填剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0111】
前記充填剤の使用量は、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、0.5~95質量部であることが好ましく、5~80質量部であることがより好ましい。充填剤の使用量が0.5質量部以上であると、充填剤の効果を十分に付与できることから好ましい。一方、配合物の粘度が高くなり成形性を損なわないように、充填剤の使用量が95質量部以下であることが好ましい。
【0112】
<硬化物>
本発明は、前記硬化性樹脂組成物を硬化反応させた硬化物に関する。前記リン含有活性エステル自体が、誘電正接が低いことから、前記リン含有活性エステルを含有する前記硬化性樹脂組成物から得られる硬化物もまた誘電正接が低くなり、また、得られる硬化物は、難燃性、柔軟性、柔軟性に起因する銅箔等の金属への密着性、及び、低誘電特性を発現させることのでき、好ましい態様となる。
【0113】
前記硬化性樹脂組成物を硬化反応させた硬化物を得る方法としては、例えば、加熱硬化する際の加熱温度は、特に制限されないが、100~300℃であり、加熱時間としては、1~24時間であることが好ましい。
【0114】
<硬化性樹脂組成物の用途>
上記硬化性樹脂組成物が用いられる用途としては、プリント配線板材料、フレキシルブル配線基板用樹脂組成物、ビルドアップ基板用層間絶縁材料、ビルドアップ用接着フィルム等の回路基板用絶縁材料、樹脂注型材料、接着剤、半導体封止材料、半導体装置、プリプレグ、導電ペースト、ビルドアップフィルム、ビルドアップ基板、繊維強化複合材料、上記複合材料を硬化させてなる成形品等が挙げられる。これら各種用途のうち、プリント配線板材料、回路基板用絶縁材料、ビルドアップ用接着フィルム用途では、コンデンサ等の受動部品やICチップ等の能動部品を基板内に埋め込んだ所謂電子部品内蔵用基板用の絶縁材料として用いることができる。さらに、上記の中でも、硬化物が優れた難燃性、柔軟性、密着性、低誘電特性、及び、耐熱性等を有するといった特性を生かし、本発明の硬化性樹脂組成物は、半導体封止材料、半導体装置、プリプレグ、フレキシルブル配線基板、回路基板、及び、ビルドアップフィルム、ビルドアップ基板、多層プリント配線板、繊維強化複合材料、前記複合材料を硬化させてなる成形品に用いることが好ましい。以下に、硬化性樹脂組成物から、前記半導体封止材料などを製造する方法について説明する。
【0115】
1.半導体封止材料
本発明は、前記硬化性樹脂組成物を含有する半導体封止材に関する。上記硬化性樹脂組成物から半導体封止材料を得る方法としては、上記硬化性樹脂組成物、及び硬化促進剤、及び無機充填剤等の配合剤とを必要に応じて押出機、ニ-ダ、ロ-ル等を用いて均一になるまで充分に溶融混合する方法が挙げられる。その際、無機充填剤としては、通常、溶融シリカが用いられるが、パワートランジスタ、パワーIC用高熱伝導半導体封止材として用いる場合は、溶融シリカよりも熱伝導率の高い結晶シリカ、アルミナ、窒化ケイ素などの高充填化、又は溶融シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素などを用いるとよい。その充填率は硬化性樹脂組成物100質量部当たり、無機充填剤を30~95質量部の範囲で用いることが好ましく、中でも、難燃性や耐湿性や耐ハンダクラック性の向上、線膨張係数の低下を図るためには、70質量部以上がより好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましい。
【0116】
2.半導体装置
本発明は、前記半導体封止材を加熱硬化した硬化物を含む半導体装置に関する。上記硬化性樹脂組成物から半導体装置を得る方法としては、上記半導体封止材料を注型、或いはトランスファー成形機、射出成形機などを用いて成形し、さらに50~200℃で2~10時間の間、加熱する方法が挙げられる。
【0117】
3.プリプレグ
本発明は、補強基材、及び、前記補強基材に含浸した前記硬化性樹脂組成物の半硬化物を有するプリプレグに関する。上記硬化性樹脂組成物からプリプレグを得る方法としては、下記有機溶媒を配合してワニス化した硬化性樹脂組成物を、補強基材(紙、ガラス布、ガラス不織布、アラミド紙、アラミド布、ガラスマット、ガラスロービング布など)に含浸したのち、用いた溶媒種に応じた加熱温度、好ましくは50~170℃で加熱することによって、得る方法が挙げられる。この時用いる樹脂組成物と補強基材の質量割合としては、特に限定されないが、通常、プリプレグ中の樹脂分が20~60質量%となるように調製することが好ましい。
【0118】
ここで用いる有機溶媒としては、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられ、その選択や適正な使用量は用途によって適宜選択し得るが、例えば、下記のようにプリプレグからプリント回路基板をさらに製造する場合には、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド等の沸点が160℃以下の極性溶媒を用いることが好ましく、また、不揮発分が40~80質量%となる割合で用いることが好ましい。
【0119】
4.回路基板
本発明は、前記プリプレグ、及び、銅箔を積層し、加熱圧着成型して得られる回路基板に関する。上記硬化性樹脂組成物からプリント回路基板を得る方法としては、上記プリプレグを、常法により積層し、適宜銅箔を重ねて、1~10MPaの加圧下に170~300℃で10分~3時間、加熱圧着させる方法が挙げられる。
【0120】
5.フレキシルブル配線基板
上記硬化性樹脂組成物からフレキシルブル配線基板を製造する方法としては、以下に示す3つの工程からなる方法で製造されるものが挙げられる。第1の工程は、活性エステル、エポキシ樹脂、及び有機溶媒を配合した硬化性樹脂組成物を、リバースロールコータ、コンマコータ等の塗布機を用いて、電気絶縁性フィルムに塗布する工程であり、第2の工程は、加熱機を用いて60~170℃で1~15分間の間、硬化性樹脂組成物が塗布された電気絶縁性フィルム加熱し、電気絶縁性フィルムから溶媒を揮発させて、硬化性樹脂組成物をB-ステージ化する工程であり、第3の工程は、硬化性樹脂組成物がB-ステージ化された電気絶縁性フィルムに、加熱ロール等を用いて、接着剤に金属箔を熱圧着(圧着圧力は2~200N/cm、圧着温度は40~200℃が好ましい)する工程である。なお、上記3つの工程を経ることで、十分な接着性能が得られれば、ここで終えても構わないが、完全接着性能が必要な場合は、さらに100~200℃で1~24時間の条件で後硬化させることが好ましい。最終的に硬化させた後の硬化性樹脂組成物膜の厚みは、5~100μmの範囲が好ましい。
【0121】
6.ビルドアップ基板
上記硬化性樹脂組成物からビルドアップ基板を製造する方法としては、以下に示す3つの工程からなる方法で製造されるものが挙げられる。第1の工程は、ゴム、フィラーなどを適宜配合した上記硬化性樹脂組成物を、回路を形成した回路基板にスプレーコーティング法、カーテンコーティング法等を用いて塗布した後、硬化させる工程であり、第2の工程は、その後、必要に応じて所定のスルーホール部等の穴あけを行った後、粗化剤により処理し、その表面を湯洗することによって、凹凸を形成させ、銅などの金属をめっき処理する工程であり、第3の工程は、このような操作を所望に応じて順次繰り返し、樹脂絶縁層及び所定の回路パターンの導体層を交互にビルドアップして形成する工程である。なお、スルーホール部の穴あけは、最外層の樹脂絶縁層の形成後に行うことが好ましい。第一の工程は、上述の溶液塗布によるもの以外にも、あらかじめ所望の厚みに塗工して乾燥したビルドアップフィルムのラミネートによる方法でも行うことができる。また、本発明のビルドアップ基板は、銅箔上で当該樹脂組成物を半硬化させた樹脂付き銅箔を、回路を形成した配線基板上に、170~250℃で加熱圧着することで、粗化面を形成、メッキ処理の工程を省き、ビルドアップ基板を製造することも可能である。
【0122】
7.ビルドアップフィルム
本発明は、前記硬化性樹脂組成物を含有するビルドアップフィルムに関する。本発明のビルドアップフィルムを製造する方法としては、上記硬化性樹脂組成物を、支持フィルム上に塗布し、硬化性樹脂組成物層を形成させて多層プリント配線板用の接着フィルムとすることにより製造する方法が挙げられる。
【0123】
硬化性樹脂組成物からビルドアップフィルムを製造する場合、該フィルムは、真空ラミネート法におけるラミネートの温度条件(通常70~140℃)で軟化し、回路基板のラミネートと同時に、回路基板に存在するビアホール、あるいは、スルーホール内の樹脂充填が可能な流動性(樹脂流れ)を示すことが肝要であり、このような特性を発現するよう上記各成分を配合することが好ましい。
【0124】
ここで、多層プリント配線板のスルーホールの直径は、通常0.1~0.5mm、深さは通常0.1~1.2mmであり、通常この範囲で樹脂充填を可能とするのが好ましい。なお回路基板の両面をラミネートする場合はスルーホールの1/2程度充填されることが望ましい。
【0125】
上記した接着フィルムを製造する方法は、具体的には、ワニス状の上記硬化性樹脂組成物を調製した後、支持フィルム(Y)の表面に、このワニス状の組成物を塗布し、更に加熱、あるいは熱風吹きつけ等により有機溶媒を乾燥させて硬化性樹脂組成物からなる組成物層(X)を形成させることにより製造することができる。
【0126】
形成される組成物層(X)の厚さは、通常、導体層の厚さ以上とすることが好ましい。回路基板が有する導体層の厚さは通常5~70μmの範囲であるので、樹脂組成物層の厚さは10~100μmの厚みを有するのが好ましい。
【0127】
なお、本発明における組成物層(X)は、後述する保護フィルムで保護されていてもよい。保護フィルムで保護することにより、樹脂組成物層表面へのゴミ等の付着やキズを防止することができる。
【0128】
上記した支持フィルム及び保護フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、更には離型紙や銅箔、アルミニウム箔等の金属箔などを挙げることができる。なお、支持フィルム及び保護フィルムはマッド処理、コロナ処理の他、離型処理を施してあってもよい。
【0129】
支持フィルムの厚さは特に限定されないが、通常10~150μmであり、好ましくは25~50μmの範囲で用いられる。また保護フィルムの厚さは1~40μmとするのが好ましい。
【0130】
上記した支持フィルム(Y)は、回路基板にラミネートした後に、或いは加熱硬化することにより絶縁層を形成した後に、剥離される。接着フィルムを加熱硬化した後に支持フィルム(Y)を剥離すれば、硬化工程でのゴミ等の付着を防ぐことができる。硬化後に剥離する場合、通常、支持フィルムには予め離型処理が施される。
【0131】
8.多層プリント配線板
なお、上記のようして得られたフィルムを用いて多層プリント配線板を製造することもできる。そのような多層プリント配線板の製造方法は、例えば、組成物層(X)が保護フィルムで保護されている場合はこれらを剥離した後、組成物層(X)を回路基板に直接、回路基板の片面又は両面に、例えば真空ラミネート法によりラミネートする。ラミネートの方法はバッチ式であってもロールでの連続式であってもよい。またラミネートを行う前に接着フィルム及び回路基板を必要により加熱(プレヒート)しておいてもよい。
【0132】
ラミネートの条件は、圧着温度(ラミネート温度)を好ましくは70~140℃、圧着圧力を好ましくは1~11kgf/cm(9.8×10~107.9×10N/m)とし、空気圧20mmHg(26.7hPa)以下の減圧下でラミネートすることが好ましい。
【0133】
9.繊維強化複合材料
上記硬化性樹脂組成物から繊維強化複合材料を製造する方法としては、硬化性樹脂組成物を構成する各成分を均一に混合してワニスを調製し、次いでこれを強化繊維からなる強化基材に含浸した後、重合反応させることにより製造することができる。
【0134】
かかる重合反応を行う際の硬化温度は、具体的には、50~250℃の温度範囲であることが好ましく、特に、50~100℃で硬化させ、タックフリー状の硬化物にした後、更に、120~200℃の温度条件で処理することが好ましい。
【0135】
ここで、強化繊維は、有撚糸、解撚糸、又は無撚糸などいずれでも良いが、解撚糸や無撚糸が、繊維強化プラスチック製部材の成形性と機械強度を両立することから、好ましい。さらに、強化繊維の形態は、繊維方向が一方向に引き揃えたものや、織物が使用できる。織物では、平織り、朱子織りなどから、使用する部位や用途に応じて自由に選択することができる。具体的には、機械強度や耐久性に優れることから、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などが挙げられ、これらの2種以上を併用することもできる。これらの中でもとりわけ成形品の強度が良好なものとなる点から炭素繊維が好ましく、かかる、炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、レーヨン系などの各種のものが使用できる。中でも、容易に高強度の炭素繊維が得られるポリアクリロニトリル系のものが好ましい。ここで、ワニスを強化繊維からなる強化基材に含浸して繊維強化複合材料とする際の強化繊維の使用量は、該繊維強化複合材料中の強化繊維の体積含有率が40~85%の範囲となる量であることが好ましい。
【0136】
10.繊維強化樹脂成形品
上記硬化性樹脂組成物から繊維強化樹脂成形品を製造する方法としては、型に繊維骨材を敷き、上記ワニスを多重積層してゆくハンドレイアップ法やスプレーアップ法、オス型・メス型のいずれかを使用し、強化繊維からなる基材にワニスを含浸させながら積み重ねて成形、圧力を成形物に作用させることのできるフレキシブルな型をかぶせ、気密シールしたものを真空(減圧)成型する真空バッグ法、あらかじめ強化繊維を含有するワニスをシート状にしたものを金型で圧縮成型するSMCプレス法、繊維を敷き詰めた合わせ型に上記ワニスを注入するRTM法などにより、強化繊維に上記ワニスを含浸させたプリプレグを製造し、これを大型のオートクレーブで焼き固める方法などが挙げられる。なお、上記で得られた繊維強化樹脂成形品は、強化繊維と硬化性樹脂組成物の硬化物とを有する成形品であり、具体的には、繊維強化樹脂成形品中の強化繊維の量は、40~70質量%の範囲であることが好ましく、強度の点から50~70質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0137】
11.その他
上記で半導体封止材料等を製造する方法について説明したが、硬化性樹脂組成物からその他の硬化物を製造することもできる。その他の硬化物の製造方法としては、一般的な硬化性樹脂組成物の硬化方法に準拠することにより製造することができる。例えば加熱温度条件は、組み合わせる硬化剤の種類や用途等によって、適宜選択すればよい。
【実施例
【0138】
次に本発明を実施例、及び、比較例により具体的に説明するが、以下において「部」及び「%」は特に断わりのない限り質量基準である。なお、GPC測定、H-NMR測定、13C-NMR測定、FD-MSスペクトル測定、軟化点、及び、リン含有率に関しては、以下に示す条件等や、以下に示す計算式に基づき、算出した。
【0139】
<GPC測定>
以下の測定装置、測定条件を用いて測定し、以下に示す合成例・実施例等で得られたイソフタル酸ジフェニル誘導体、リン含有ジオール、リン含有活性エステル、及び、リン含有活性エステル合成時に使用する中間体、及び目的とする化合物のGPCチャートを得た。前記GPCチャートの結果より、原料ピークの減少及び消失から、目的生成物が生成していることを確認した。
測定装置:東ソー株式会社製「HLC-8320 GPC」
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HXL-L」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G3000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G4000HXL」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPCワークステーション EcoSEC-WorkStation」
測定条件:カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準:前記「GPCワークステーション EcoSEC-WorkStation」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
試料:以下に示す合成例・実施例等で得られたイソフタル酸ジフェニル誘導体、リン含有ジオール、リン含有活性エステル、及び、リン含有活性エステル合成時に使用する中間体の固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)を使用した。
【0140】
H-NMR測定>
H-NMR:JEOL RESONANCE製「JNM-ECA600」
磁場強度:600MHz
積算回数:32回
溶媒:DMSO-d6
試料濃度:30質量%
前記H―NMRチャートの結果より、目的生成物由来のピークが確認でき、各反応における目的生成物が得られたことを確認した。
【0141】
13C-NMR測定>
13C-NMR:JEOL RESONANCE製「JNM-ECA600」
磁場強度:150MHz
積算回数:320回
溶媒:DMSO-d6
試料濃度:30質量%
前記13C―NMRチャートの結果より、目的生成物由来のピークが確認でき、各反応における目的生成物が得られたことを確認した。
【0142】
<FD-MSスペクトル測定>
FD-MSスペクトルは、以下の測定装置、測定条件を用いて測定した。
測定装置:JMS-T100GC AccuTOF
測定条件
測定範囲:m/z=4.00~2000.00
変化率:51.2mA/min
最終電流値:45mA
カソード電圧:-10kV
記録間隔:0.07sec
前記FD-MSスペクトルの結果より、目的生成物由来のピークが確認でき、各反応における目的生成物が得られたことを確認した。
【0143】
<軟化点>
JIS K7234に準拠して、測定した。
【0144】
<理論リン含有率>
理論リン含有率(%)=100×[リン含有原料の仕込み量(質量部)×(リン含有原料のリン含有率(質量%)/100)]/(リン含有原料を用いて合成されるリン含有化合物の理論収量)
なお、前記リン含有原料のリン含有率は、商品を使用する場合は、商品カタログ値を使用した。
前記リン含有化合物とは、実施例及び比較例で使用するリン含有ジオール、リン含有活性エステル、及び、リン含有中間体を指す。
【0145】
合成例1:イソフタル酸ジフェニル誘導体(A-1)の合成
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、攪拌器を取り付けたフラスコに、o-クレゾール864.0g(8.0モル)とトルエン4140.0gを仕込み、系内を減圧窒素置換し、溶解させた。次いで、イソフタル酸クロリド808g(酸クロリド基のモル数:4.0モル)を仕込み、系内を減圧窒素置換し溶解させた。その後、テトラブチルアンモニウムブロマイド(以下、「TBAB」)2.07gを溶解させ、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液1648.0gを3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間攪拌を続けた。反応終了後、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン層に水を投入して約15分間攪拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、デカンタ脱水、脱溶剤で水分とトルエンを除去し、結晶性化合物であるイソフタル酸ジフェニル誘導体(A-1)を得た。得られたイソフタル酸ジフェニル誘導体(A-1)の活性エステル当量は、仕込み比から173g/eqであった。図1に得られたイソフタル酸ジフェニル誘導体(A-1)のGPCチャートを、図2H-NMRチャートを、図3にFD-MSスペクトルチャートを示す。
【0146】
合成例2:リン含有ジオールの合成:PC-HCA-HQ
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、攪拌器を取り付けたフラスコに、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド(三光株式会社製、商品名:HCA-HQ)200.0g、炭酸プロピレン156.4gとトリフェニルホスフィン(以下TPP)1.07gを仕込み、190℃まで昇温し、反応が終了するまで反応させて、リン含有ジオール(PC-HCA-HQ)を得た。得られたリン含有ジオール(PC-HCA-HQ)の理論リン含有率(含有量)は7.06質量%であり、水酸基当量は253g/eqであった。図4に得られたPC-HCA-HQのGPCチャートを、図513C-NMRチャートを、図6にFD-MSスペクトルチャートを示す。
【0147】
実施例1:リン含有活性エステル(B-1)の合成
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、攪拌器を取り付けたフラスコに、合成例1で得られたイロフタル酸ジフェニル誘導体A-1を137.0g、合成例2で得られたリン含有ジオールPC-HCA-HQを100.0gと触媒としてジアザビシクロウンデセン(以下、「DBU」と略記する。)0.24gを仕込み、190℃まで昇温し、3時間反応させた。その後、減圧蒸留にてo-クレゾールを除去しながら更に反応させることで、リン含有活性エステル(B-1)を得た。得られたリン含有活性エステル(B-1)の理論リン含有率(含有量)は3.63質量%であり、仕込み比より計算した官能基当量は486g/eqであり、軟化点は110℃であった。図7に得られた活性エステル(B-1)のGPCチャートを、図813C-NMRチャートを、図9にFD-MSスペクトルチャートを示す。
【0148】
合成例3:リン含有ジオールの合成:EC-HCA-HQ
撹拌器を取り付けたナスフラスコにHCA-HQ200g、炭酸エチレン199.5gとTPP0.96gを仕込み、温度計をつけたオイルバスで180℃にて反応終了まで撹拌させて、リン含有ジオール(EC-HCA-HQ)を得た。得られたリン含有ジオール(EC-HCA-HQ)の理論リン含有率(含有量)は7.34質量%であり、水酸基当量が227g/eqであった。図10に得られたリン含有ジオールのGPCチャートを示す。
【0149】
実施例2:リン含有活性エステル(B-2)の合成
実施例1に対して、PC-HCA-HQに代えて、EC-HCA-HQ60.0g、イソフタル酸ジフェニル誘導体(A-1)を91.7g、DBUを0.15gに変更した以外、実施例1と同様な操作を行い、リン含有活性エステル(B-2)を得た。得られたリン含有活性エステル(B-2)の理論リン含有率(含有量)は3.58質量%であり、仕込み比より計算した官能基当量は465g/eqであり、軟化点は99℃であった。図11に得られたリン含有活性エステル(B-2)のGPCチャートを示す。
【0150】
合成例4:リン含有ジオールの合成:PC-HCA-NQ
合成例3に対して、HCA-HQに代えて、10-[2-(ジヒドロキシナフチル)] -9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド(三光株式会社製、商品名:HCA=NQ)と炭酸エチレン68.2g、DBUを0.50gに変更した以外、合成例3と同様な操作を行い、リン含有ジオール(PC-HCA-NQ)を得た。得られたリン含有ジオール(PC-HCA-NQ)の理論リン含有率(含有量)は5.95質量%であり、水酸基当量は245g/eqであり、軟化点は116℃であった。図12に得られたリン含有ジオールのGPCチャートを示す。
【0151】
実施例3:リン含有活性エステル(B-3)の合成
実施例1に対して、PC-HCA-HQに代えて、PC-HCA-NQ71.5g、イソフタル酸ジフェニル誘導体(A-1)を100.9g、DBUを0.34gに変更し、4-ジメチルアミノピリジン(以下DMAP)0.17gを加えた以外、実施例1と同様な操作を行い、リン含有活性エステル(B-3)を得た。得られたリン含有活性エステル(B-3)の理論リン含有率(含有量)は3.03質量%であり、仕込み比より計算した官能基当量は484g/eqであった。図13に得られたリン含有活性エステル(B-3)のGPCチャートを示す。
【0152】
合成例5:リン含有ジオール:PC-PPQ
合成例2に対して、HCA-HQに代えて、ジフェニルホスフィニルハイドロキノン(北興産業株式会社製、商品名:PPQ(商標登録)100.0g、炭酸プロピレン72.4g、TPP0.52gに変更した以外、合成例2と同様な操作を行い、リン含有ジオール(PC-PPQ)を得た。得られたリン含有ジオール(PC-PPQ)の理論リン含有率(含有量)は7.05質量%であり、水酸基当量は208g/eqであり、軟化点は99℃であった。図14に得られたリン含有ジオールのGPCチャートを示す。
【0153】
実施例4:リン含有活性エステル(B-4)の合成
実施例1に対して、PC-HCA-HQに代えて、PC-PPQ70.0g、イソフタル酸ジフェニル誘導体A-1を116.5g、DBUを1.86gに変更した以外、実施例1と同様な操作を行い、リン含有活性エステル(B-4)を得た。得られたリン含有活性エステル(B-4)の理論リン含有率(含有量)は3.28質量%であり、仕込み比より計算した官能基当量は447g/eqであった。図15に得られたリン含有活性エステル(B-4)のGPCチャートを示す。
【0154】
比較合成例1:中間体(C-1)の合成
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、ジシクロペンタジエンとフェノールの重付加反応樹脂(水酸基当量:165g/eq、軟化点85℃)330gとトルエン1184gを仕込み、系内を減圧窒素置換し溶解させた。次いで、イソフタル酸クロライド101gを仕込みその後、TBABを0.59g仕込み、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液206質量部を3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン層に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、デカンタ脱水で水分を除去し、続いて減圧脱水でトルエンを除去し、中間体(C―1)を得た。図16に得られた中間体(C―1)のGPCチャートを示す。
【0155】
比較合成例2:リン含有中間体(C-2)の合成
温度計、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドを77.0g、p-アニスアルデヒド48.5g、中間体(C-1)197.5gを仕込み、90℃に昇温して窒素を吹き込みながら撹拌した。その後、180℃にまで昇温し5時間攪拌した後、更に190℃まで昇温して9時間撹拌した。反応混合物から水を加熱減圧下で除去し、リン含有中間体(C-2)を得た。得られたリン含有中間体の理論リン含有率(含有量)は3.49質量%であった。図17に得られたリン含有中間体(C-2)のGPCチャートを示す。
【0156】
比較例1:リン含有活性エステル(C-3)の合成
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、リン含有中間体(C-2)193.8gとメチルイソブチルケトン678.0gを仕込み、系内を減圧窒素置換し溶解させた。次いで、安息香酸クロライド42.2gを仕込んだ後、TBAB 0.56gを仕込み、窒素ガスパージを施しながら系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液78gを3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、静置分液して水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているメチルイソブチルケトン層に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、デカンタ脱水で水分を除去し、続いて減圧脱水でメチルイソブチルケトンを除去し、リン含有活性エステル(C-3)を得た。得られたリン含有活性エステル(C-3)の理論リン含有率(含有量)は3.01質量%であった。得られたリン含有活性エステル(C-3)のGPCチャートを図18に示す。
【0157】
実施例5~8、及び、比較例2
<硬化性樹脂組成物の調製>
エポキシ樹脂として、DIC株式会社製「EPICLON HP-7200H-75M」(ジシクロペンタジエンとフェノールの重付加反応物のエポキシ樹脂、エポキシ当量276g/eq)、硬化剤として、合成して得られた前記リン含有活性エステルを、下記表1に示す割合でそれぞれは配合し、硬化触媒(硬化促進剤)としてN,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、もしくは硬化触媒なしで、最終的な不揮発分(N.V.)が58質量%になるようにメチルエチルケトンを配合して硬化性樹脂組成物を調製した。
【0158】
比較例3
<硬化性樹脂組成物の調製>
エポキシ樹脂として、DIC株式会社製「HP-7200H-75M」(ジシクロペンタジエンとフェノールの重付加反応物のエポキシ樹脂、エポキシ当量276g/eq)、硬化剤としてDIC社製「EPICLON HPC-8000-65T」、下記表1に示す割合でそれぞれは配合し、硬化触媒としてDMAPを加え、最終的な不揮発分(N.V.)が58質量%になるようにメチルエチルケトンを配合して硬化性樹脂組成物を調製した。
【0159】
比較例4
<硬化性樹脂組成物の調製>
エポキシ樹脂として、DIC株式会社製「EPICLON EXA-9726」(リン含有エポキシ樹脂、エポキシ当量494g/eq)、硬化剤としてDIC株式会社製「EPICLON HPC-8000-65T」、下記の表1に示す割合でそれぞれは配合し、硬化触媒としてDMAPを加え、最終的な不揮発分(N.V.)が58質量%になるようにメチルエチルケトンを配合して硬化性樹脂組成物を調製した。
【0160】
<積層板作製条件>
上記得られた硬化性樹脂組成物を用いて、下記の条件で、積層板を作製し、後述する方法で各種評価試験を行った。
基材:日東紡績株式会社製、ガラスクロス「#2116」(210×280mm)
銅箔:JX金属株式会社製「JTCSLC箔」(18μm)
プライ数:6
硬化条件:200℃、29kg/cmで1.5時間
成型後板厚:0.8mm
【0161】
<誘電特性(誘電率及び誘電正接)の測定>
JIS-C-6481に準拠し、アジレント・テクノロジー株式会社製インピーダンス・マテリアル・アナライザ「HP4291B」により、絶乾後23℃、湿度50%の室内に24時間保管した後の試験片の1GHz、及び、10GHzでの誘電率(Dk)、及び、誘電正接(Df)を測定した。その結果を表2に示した。
【0162】
なお、前記誘電率(Dk)としては、1GHz、及び、10GHzいずれにおいても、好ましくは、4.80以下が好ましく、より好ましくは、4.50以下である。また、前記誘電正接(Df)としては、1GHz、及び、10GHzいずれにおいても、好ましくは、0.0100以下が好ましく、より好ましくは、0.0095以下である。前記誘電率及び誘電正接が低いことで、信号の高速化、高周波数化に対応することができ、好ましい。
【0163】
<銅箔密着性(ピール強度)>
JIS-6911に準拠し、先で得た積層板を幅10mm、長さ200mmのサイズに切り出し、これを試験片として銅箔のピール強度を測定し、密着性の評価をおこなった。その結果を表2に示した。
【0164】
なお、前記ピール強度としては、好ましくは、0.8kN/m以上であり、より好ましくは、0.90kN/mである。前記範囲内であると、基材と銅箔の密着性が十分担保でき、好ましい。
【0165】
<層間密着性(層間剥離強度)>
JIS-6911に準拠し、上記得られた銅箔付き積層板を幅10mm、長さ200mmのサイズに切り出し、これを試験片として層間の密着性を測定した。その結果を表2に示した。
【0166】
なお、前記層間剥離強度としては、好ましくは、1.00kN/m以上であり、より好ましくは、1.20kN/m以上である。
【0167】
<難燃性評価>
UL-94試験法に準拠し、試験片5本を用いて燃焼試験を行った。その結果を表2に示した。
【0168】
【表1】
【0169】
【表2】
注)硬化性樹脂組成物(溶剤を含まない有効成分中)中のリン含有率(質量%)は、原料の仕込み量、及び、前記理論リン含有率に基づき、計算した。また、「測定不可」とは、強度が大きく、測定できなかったことを示し、実用上問題はなく、銅箔への密着性や、積層体間の密着性が高いことを意味する。
【0170】
上記表2の評価結果より、全ての実施例において、所望のリン含有活性エステルを使用したことで、難燃性、低誘電特性(特に、低誘電正接)、及び、密着性に優れることが確認できた。一方、比較例においては、所望のリン含有活性エステルを使用しなかったため、全ての特性を同時に満足することはできないことが確認された。
【0171】
本発明のリン含有活性エステルを含有する硬化性樹脂組成物は、その硬化物が優れた難燃性、低誘電特性、及び、密着性に優れることから、電子部材等に好適に使用可能であり、特に、半導体封止材、半導体装置、プレプリグ、フレキシルブル配線基板、回路基板、ビルドアップフィルム、ビルドアップ基板、繊維強化複合材料、及び、成形品などに好適に使用可能である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18