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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】成形体及び該成形体からなる基板
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20231124BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20231124BHJP
   C08L 27/08 20060101ALI20231124BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20231124BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C08L79/08
C08L67/00
C08L27/08
C08G73/10
H05K1/03 610N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019186777
(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公開番号】P2021063149
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】大松 一喜
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 真義
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-519226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0169434(US,A1)
【文献】奥谷榮太郎,1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー,日本ゴム協会誌,日本,1984年,p717(101)-722(106)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08L 67/00
C08L 27/08
C08G 73/10
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有ポリイミド系樹脂(A)と、前記樹脂(A)とは異なる樹脂(B)を含む樹脂組成物から成形された成形体であって、
前記樹脂(A)がポリスチレン換算の重量平均分子量200,000~800,000を有し、
前記樹脂(B)が液晶ポリエステルであり、かつ
前記樹脂(A)及び前記樹脂(B)の誘電正接が以下の式(1)を満たす成形体。
樹脂(A)の誘電正接>樹脂(B)の誘電正接 (1)
【請求項2】
樹脂(B)の1GHzにおける誘電正接が0.01以下である請求項1記載の成形体。
【請求項3】
樹脂(A)におけるフッ素含有量が、樹脂(A)に対して10~50質量%である請求項1または2に記載の成形体。
【請求項4】
樹脂(A)の含有量が、樹脂組成物の質量に対して、10~90質量%であり、樹脂(B)の含有量が、樹脂組成物の質量に対して、90~10質量%である、請求項1~3のいずれかに記載の成形体。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の成形体からなる基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲性を有する基板形成に用いられるのに好適な成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の電気製品に用いられる樹脂製の絶縁層において、その誘電正接が低いことが好ましい。この用途には、エポキシ樹脂とグラスファイバーとの組合せが知られているが、誘電正接をより低くすることが望まれている。
【0003】
その目的の為に、ポリイミド樹脂を用いることや、液晶ポリエステルやフッ素樹脂の使用も提案されている。フッ素樹脂は、誘電正接が低く優れているが、これを用いる基板の製造が難しかったり、得られる基板の強度が不足したりすることがある。また、誘電正接と共に屈曲性が要求されることもある。
【0004】
特許文献1及び2には、液晶ポリエステルとポリイミド系樹脂(ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂)とを組合せた樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-47277号公報
【文献】特開2006-45517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、屈曲性を有する基板形成のために、液晶ポリエステルとポリイミド系樹脂の組合せを更に検討する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は以下の態様を含む。
[1]フッ素含有ポリイミド系樹脂(A)と、前記樹脂(A)とは異なる樹脂(B)を含む樹脂組成物から成形された成形体であって、樹脂(A)及び樹脂(B)の誘電正接が以下の式(1)を満たす成形体。
樹脂(A)の誘電正接>樹脂(B)の誘電正接 (1)
[2]樹脂(B)の1GHzにおける誘電正接が0.01以下である[1]記載の成形体。
[3]樹脂(B)が、液晶ポリエステル、テトラフルオロエチレン系樹脂及びビスマレイミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である[1]又は[2]に記載の成形体。
[4]樹脂(A)におけるフッ素含有量が、樹脂(A)に対して10~50質量%である[1]~[3]のいずれかに記載の成形体。
[5]樹脂(A)の含有量が、樹脂組成物の質量に対して、10~90質量%であり、樹脂(B)の含有量が、樹脂組成物の質量に対して、90~10質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の成形体。
[6]更に非プロトン性有機溶媒を含む[1]~[5]のいずれかに記載の成形体。
[7]前記非プロトン性有機溶媒が、アミド系溶媒及びラクトン系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種である[6]に記載の成形体。
[8]前記非プロトン性有機溶媒の含有量が、樹脂組成物に対して、0.001~10質量%である、[6]又は[7]に記載の成形体
[9]前記非プロトン性有機溶媒の含有量が、樹脂組成物に対して、50~95質量%である、[6]又は[7]に記載の成形体。
[10][1]~[9]のいずれかに記載の成形体からなる基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、フッ素含有ポリイミド系樹脂(A)と、前記樹脂(A)とは異なる樹脂(B)を含む樹脂組成物から成形された成形体であって、樹脂(A)及び樹脂(B)の誘電正接が以下の式(1)を満たす成形体が、屈曲性を有する絶縁性基板の形成に優れていることが解った。
樹脂(A)の誘電正接>樹脂(B)の誘電正接 (1)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、フッ素含有ポリイミド系樹脂(A)(以下、ポリイミド系樹脂(A)や樹脂(A)と略すことがある。)と、前記樹脂(A)とは異なる樹脂(B)を含む樹脂組成物から成形された成形体であって、樹脂(A)及び樹脂(B)の誘電正接が以下の式(1)を満たす樹脂組成物から成形された成形体を提供する。
樹脂(A)の誘電正接>樹脂(B)の誘電正接 (1)
【0010】
<フッ素含有ポリイミド系樹脂(A)>
本発明の成形体に用いられる樹脂組成物を構成するフッ素含有ポリイミド系樹脂は、具体的にはフッ素を含有するポリイミド及びフッ素を含有するポリアミドイミドが挙げられる。本発明のフッ素含有ポリイミド系樹脂におけるフッ素原子の含有率は、該フッ素含有ポリイミド系樹脂の質量を基準として、好ましくは10~50質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは15~35質量%、さらにより好ましくは15~30質量%である。フッ素原子の含有率が前記の範囲にあると、フッ素含有ポリイミド系樹脂の高分子量化が容易になる傾向があり、またフッ素含有ポリイミド系樹脂の吸水率や溶媒溶解性などが良好になる傾向がある。フッ素原子は、含フッ素置換基を有する原料を用いることにより導入され、その含有量は、原料中のフッ素原子の構成割合及び樹脂を構成する繰り返し単位を導く原料の使用割合により調整することができる。
【0011】
本明細書において、フッ素含有ポリイミド系樹脂は、イミド基を含む繰返し構造単位を含有する重合体を表し、ポリアミドイミドは、イミド基を含む繰り返し構造単位とアミド基を含む繰り返し構造単位との両方を含有する重合体を表す。
【0012】
本発明におけるフッ素含有ポリイミド系樹脂は、式(10)で表される繰り返し構造単位を有する。式中、Gは4価の有機基を表し、Aは2価の有機基を表す。G及び/又はAは、異なる2種類以上の式(10)で表される繰り返し構造単位を含んでいてもよい。また、本発明におけるポリイミド系樹脂は、各種物性を損なわない範囲で、式(11)、式(12)、及び式(13)のいずれかで表される繰り返し構造単位のいずれか1つ以上を含んでいてもよい。
【0013】
ポリイミド系樹脂の主な構造単位が式(10)で表される繰り返し構造単位であると、強度の観点で好ましい。本発明におけるポリイミド系樹脂において、式(10)で表される繰り返し構造単位の構成比率は、ポリイミド系樹脂の繰り返し構造単位の合計に対し、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、さらにより好ましくは90モル%以上、とりわけ好ましくは98モル%以上である。式(10)で表される繰り返し構造単位の構成比率は100モル%であってもよい。
【0014】
【化1】
【0015】
G及びGは、互いに独立に、4価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の4価の有機基を表す。前記有機基は、炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。G及びGとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。式中の*は結合手を表し、Zは、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-Ar-、-SO-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH-Ar-、-Ar-C(CH-Ar-又は-Ar-SO-Ar-を表す。Arはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、具体例としてはフェニレン基が挙げられる。得られる樹脂の黄色度を抑制しやすいことから、G及びGとしては、好ましくは式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)又は式(27)で表される基が挙げられる。
【0016】
【化2】
【0017】
は3価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の3価の有機基を表す。前記有機基は、炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。
としては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基の結合手のいずれか1つが水素原子に置き換わった基並びに3価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。式中のZの例は、Gに関する記述におけるZの例と同じである。
【0018】
は2価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基を表す。前記有機基は、炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。Gとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基及び炭素数6以下の2価の鎖式炭化水素基が例示される。式中のZの例は、Gに関する記述におけるZの例と同じである。
【0019】
A、A、A及びAはいずれも2価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基を表す。前記有機基は、炭化水素基又はフッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。A、A、A及びAとしては、それぞれ式(30)、式(31)、式(32)、式(33)、式(34)、式(35)、式(36)、式(37)又は式(38)で表される基;これらがメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基の1種類以上で置換された基;及び炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0020】
式中の*は結合手を表し、Z、Z及びZは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-S-、-SO-、-CO-又は-N(R)-を表す。ここで、Rはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の炭化水素基を表す。ここで、Rはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の炭化水素基を表す。ZとZ、及び、ZとZは、それぞれ、各環に対して好ましくはメタ位又はパラ位に位置する。
【0021】
【化3】
【0022】
フッ素含有ポリイミド系樹脂は、例えば、ジアミンとテトラカルボン酸化合物(テトラカルボン酸二無水物等)との重縮合によって得ることができ、例えば、特開2006-199945号公報又は特開2008-163107号公報に記載されている方法にしたがって合成することができる。なお、前記、ジアミンとテトラカルボン酸化合物との少なくともいずれかはフッ素原子を有する。ポリイミドの市販品としては、三菱瓦斯化学(株)製ネオプリム(登録商標)、河村産業(株)製KPI-MX300F等を挙げることができる。
【0023】
フッ素含有ポリイミド系樹脂の合成に用いられるテトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸及びその無水物、好ましくはその二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物;並びに脂肪族テトラカルボン酸及びその無水物、好ましくはその二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物等が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、無水物の他、テトラカルボン酸クロリド化合物等のテトラカルボン酸化合物誘導体であってもよく、これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0024】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物及び縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDAと記載することがある)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。また、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物が、縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物及び4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられ、より好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物及び4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0026】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式又は非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、その具体例としては、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物及びこれらの位置異性体が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。また、環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物を組合せて用いてもよい。
【0027】
テトラカルボン酸化合物の中でも、弾性率、耐屈曲性、及び光学特性を向上しやすい観点から、好ましくは前記脂環式テトラカルボン酸二無水物又は非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。より好ましい具体例としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0028】
本発明におけるフッ素含有ポリイミド系樹脂は、得られる各種物性を損なわない範囲で、上記のポリイミド合成に用いられるテトラカルボン酸の無水物に加えて、テトラカルボン酸、トリカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物、それらの無水物及びそれらの誘導体をさらに反応させたものであってもよい。
【0029】
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。その具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0030】
ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。その具体例としては、テレフタル酸;イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸骨格が-CH-、-S-、-C(CH-、-C(CF-、-O-、-N(R)-、-C(=O)-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。ここで、Rはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の炭化水素基を表す。
【0031】
ジカルボン酸化合物としては、好ましくはテレフタル酸;イソフタル酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;及び2つの安息香酸骨格が-CH2-、-C(=O)-、-O-、-N(R)-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物であり、より好ましくは、テレフタル酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;及び2つの安息香酸骨格が-O-、-N(R)-、-C(=O)-又は-SO-で連結された化合物である。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0032】
テトラカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の合計に対する、テトラカルボン酸化合物の割合は、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、さらにより好ましくは90モル%以上、とりわけ好ましくは98モル%以上である。
【0033】
フッ素含有ポリイミド系樹脂の合成に用いられるジアミンとしては、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン又はそれらの混合物が挙げられる。なお、上記において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環が挙げられる。また「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香環やその他の置換基を含んでいてもよい。
【0034】
脂肪族ジアミンの具体例としては、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン及び1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0035】
芳香族ジアミンの具体例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の、芳香環を1つ有する芳香族ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMBと記載することがある)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等の、芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0036】
芳香族ジアミンとしては、好ましくは4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルであり、より好ましくは4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルである。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0037】
前記ジアミンは、フッ素系置換基を有することもできる。フッ素系置換基としては、トリフルオロメチル基などの炭素数1~5のパーフルオロアルキル基、及び、フルオロ基が挙げられる。
【0038】
上記ジアミンの中でも、高透明性及び低着色性の観点からは、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミンからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、具体例としては2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)及び4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。ビフェニル構造及びフッ素系置換基を有するジアミンであることがより好ましく、具体例としては2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)を用いることがより好ましい。
【0039】
本発明におけるフッ素含有ポリイミド系樹脂は、ジアミンと、テトラカルボン酸化合物(酸クロリド化合物、テトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸化合物誘導体を含む)との重縮合で形成される、式(10)で表される繰り返し構造単位を含む縮合型高分子である。出発原料としては、これらに加えて、さらにトリカルボン酸化合物(酸クロリド化合物、トリカルボン酸無水物等のトリカルボン酸化合物誘導体を含む)及びジカルボン酸化合物(酸クロリド化合物等の誘導体を含む)を用いることもある。
【0040】
式(10)及び式(11)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びテトラカルボン酸化合物から誘導される。式(12)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン及びトリカルボン酸化合物から誘導される。式(13)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン及びジカルボン酸化合物から誘導される。ジアミン、テトラカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の具体例は、上述のとおりである。
【0041】
テトラカルボン酸化合物等の使用量は、ジアミン1.00molに対して、好ましくは0.9mol以上1.1mol以下の範囲であり、この範囲において適宜調節できる。高い耐折性を発現するためには得られるフッ素含有ポリイミド系樹脂が高分子量であることが好ましいことから、テトラカルボン酸化合物等の使用量は、より好ましくは0.98mol以上1.02mol、さらに好ましくは0.99mol以上1.01mol以下である。
【0042】
本発明におけるフッ素含有ポリイミド系樹脂は、異なる種類の複数の上記の繰り返し構造単位を含む共重合体でもよい。フッ素含有ポリイミド系樹脂の標準ポリスチレン換算の重量平均分子量は、通常100,000~800,000である。フッ素含有ポリイミド系樹脂の重量平均分子量が大きいと、成膜した際の屈曲性が向上することから、好ましくは200,000以上、より好ましくは230,000以上、さらに好ましくは250,000以上である。また、適度な濃度及び粘度のワニスが得られ、成膜性が向上する傾向があることから、好ましくは750,000以下、より好ましくは600,000以下、さらに好ましくは500,000以下である。異なる重量平均分子量のフッ素含有ポリイミド系樹脂を2種類以上組合せて用いてもよい。さらに物性を損なわない範囲で、他の高分子材料を混合してもよい。
【0043】
<樹脂(B)>
本発明の成形体に用いられる樹脂組成物は、上記フッ素含有ポリイミド系樹脂(A)と、前記樹脂(A)とは異なる樹脂(B)を含み、樹脂(A)及び樹脂(B)の誘電正接が以下の式(1)を満たす。
樹脂(A)の誘電正接>樹脂(B)の誘電正接 (1)
樹脂(B)の1GHzにおける誘電正接は、好ましくは0.01以下である。
誘電正接は、種々の測定機で測定できるが、例えばHP4291A RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ(HP社製)を用いて、測定温度23℃、周波数1GHzで測定することができる。本発明において、樹脂(B)の誘電正接が前記の範囲にあると、樹脂組成物から得られた成形体にも低い誘電正接が得られる。
【0044】
上記範囲の誘電正接を有する樹脂(B)は、より具体的には液晶ポリエステル、テトラフルオロエチレン系樹脂、ビスマレイミド系樹脂等が挙げられる。
【0045】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0046】
(1)-O-Ar-CO-
(2)-CO-Ar-CO-
(3)-X-Ar-Y-
【0047】
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、互いに独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は式(4)で表される基を表す。X及びYは、互いに独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0048】
(4)-Ar-T-Ar
(Ar及びArは、互いに独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Tは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0049】
前記Ar等に置換されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記置換されるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基及びn-デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1~10である。前記置換されるアリール基の例としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基及び2-ナフチル基が挙げられ、その炭素数は通常6~20である。前記Ar等の水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0050】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n-ブチリデン基及び2-エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1~10である。
【0051】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp-フェニレン基であるもの(p-ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6-ナフチレン基であるもの(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0052】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp-フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm-フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6-ナフチレン基であるもの(2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ-テル-4,4’-ジイル基であるもの(ジフェニルエ-テル-4,4’-ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0053】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp-フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p-アミノフェノール又はp-フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル又は4,4’-ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0054】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、通常30モル%以上、好ましくは30~80モル%、より好ましくは30~60モル%、さらに好ましくは30~40モル%である。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10~35モル%、より好ましくは20~35モル%、さらに好ましくは30~35モル%である。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10~35モル%、より好ましくは20~35モル%、さらに好ましくは30~35モル%である。繰返し単位(1)の含有量が前記の範囲にあると、耐熱性や強度・剛性が向上しやすく、また、溶媒に対する溶解性が低くなりすぎにくい。
【0055】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1~1/0.9、好ましくは0.95/1~1/0.95、より好ましくは0.98/1~1/0.98である。
【0056】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)~(3)を、互いに独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)~(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0057】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYが-NH-であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及び/又はYが-NH-であるもののみを有することが、より好ましい。
【0058】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、1-メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、好ましくは含窒素複素環式化合物が挙げられる。
【0059】
液晶ポリエステルの流動開始温度は、好ましくは250~350℃、より好ましくは260~330℃である。流動開始温度が前記の範囲にあると、耐熱性や強度・剛性が向上しやすく、また、溶媒に対する溶解性が低くなりすぎなかったり、該液晶ポリエステルを含む液状の樹脂組成物の粘度が高くなりすぎなかったりする。
【0060】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4,800Pa・s(48,000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー -合成・成形・応用-」、(株)シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0061】
本発明における樹脂(B)は、1GHzにおける誘電正接が0.01以下である液晶ポリエステル以外の樹脂、例えばフッ素化ポリオレフィン樹脂又はビスマレイミド系樹脂であってもよく、具体的にはポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ビスマレイミド系樹脂などがある。好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン樹脂又はビスマレイミド系樹脂であり、さらに好ましくはポリテトラフルオロエチレン樹脂である。
【0062】
<樹脂組成物>
本発明の成形体に用いられる樹脂組成物は、上記フッ素含有ポリイミド系樹脂(A)と樹脂(B)とを含む。樹脂(A)と樹脂(B)の混合には、両樹脂を溶媒により溶液化して混合する溶液混合や、片方の樹脂を溶媒に溶解し、もう一方をその溶液に分散させる方法、両樹脂を溶融して混練する溶融混練する方法などが存在する。
【0063】
本発明において、樹脂組成物中のフッ素含有ポリイミド系樹脂(A)の含有量は、樹脂(A)と樹脂(B)の合計質量に対して、好ましくは15~85質量%、より好ましくは20~80質量%、さらに好ましくは25~75質量%である。フッ素含有ポリイミド系樹脂(A)の含有量が上記範囲内にあると、誘電正接が高くなりすぎず、また、屈曲性が低くなりすぎない。
【0064】
樹脂(A)と樹脂(B)との混合が、溶媒により溶液化する溶液混合である場合には、該溶媒は好ましくは非プロトン性有機溶媒であり、樹脂(A)及び樹脂(B)は共に該非プロトン性有機溶媒に可溶であることが好ましい。
【0065】
非プロトン性有機溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトン;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド;テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリ-n-ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられ、それらの2種以上を用いてもよい。中でも、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、アミド系溶媒及びラクトン系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0066】
溶媒の量は、樹脂組成物の取り扱いが可能な範囲になるように選択すればよく、特に制限はないが、例えば樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.001~1質量部、より好ましくは0.001~0.8質量部、さらに好ましくは0.001~0.5質量部である。
【0067】
<フィラー(C)>
本発明において、成形体に用いられる樹脂組成物は、必要に応じて無機粒子等のフィラー(C)をさらに含有していてもよい。フィラーは本発明における樹脂組成物の誘電正接に悪影響を与えないように、金属を含まないものが好ましい。フィラーとしては、例えば、ミルドガラスファイバー、チョップドガラスファイバー等のガラス繊維、チタン酸カリウムウイスカー、アルミナウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、炭化ケイ素ウイスカ、窒化ケイ素ウイスカ等の金属又は非金属系ウイスカ類、ガラスビーズ、中空ガラス球、ガラス粉末、マイカ、タルク、クレー、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、炭酸カルシウム(重質、軽質、膠質等)、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸ソーダ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ砂、ケイ石、石英、アスベスト、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、石膏繊維、炭素繊維、ケイソウ土、ベントナイト、セリサイト、シラス等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。中でも、シリカ、アルミナ、酸化チタンが好ましく用いられる。樹脂組成物の安定性、無機材料の分散性の観点から、好ましくはシリカ粒子が挙げられる。
【0068】
フィラーの平均一次粒子径は、好ましくは1~50,000nm、より好ましくは3~40,000nm、さらに好ましくは5~35,000nmである。無機フィラーの平均一次粒子径が前記の範囲にあると、フィラーが凝集し難く、また、フィルムの表面平滑性が低下し難い。
【0069】
本発明において、フィラーは、好ましくはシリカ粒子である。シリカ粒子は、有機溶媒等にシリカ粒子を分散させたシリカゾルであっても、気相法で製造したシリカ微粒子粉末を用いてもよいが、ハンドリングが容易であることから、好ましくは液相法で製造したシリカゾルである。
【0070】
フィラーは、必要に応じて、表面処理されたものであってもよく、この表面処理剤としては、例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤等の反応性カップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の潤滑剤が挙げられる。
【0071】
フィラーの平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡又は、透過型電子顕微鏡による観察で求めることができる。
【0072】
本発明における樹脂組成物がフィラーを含む場合、その含有量は、樹脂組成物の固形分に対して、好ましくは0.01~40質量%、より好ましくは0.01~30質量%、さらに好ましくは0.01~20質量%である。樹脂組成物における無機材料の含有量が上記の範囲内であると、樹脂組成物の機械的強度が高くなる。なお、固形分とは、樹脂組成物から溶剤を除いた成分の合計量のことをいう。
【0073】
<他の成分>
本発明の成形体の形成に用いられる樹脂組成物は、以上説明した成分に加えて、他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、光安定剤、ブルーイング剤、難燃剤、滑剤及びレベリング剤が挙げられる。
【0074】
本発明において樹脂組成物がフッ素含有ポリイミド系樹脂(A)、誘電正接の低い樹脂(B)及びフィラー(C)以外の他の成分を含む場合、その他の成分の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.01~10質量%、さらに好ましくは0.01~8質量%である。
【0075】
<成形体の製造方法>
本発明の成形体は、上記の樹脂組成物を通常の成形方法、例えば、溶融押出成形法、溶液流延製膜法又は射出成形法などにより、製造してされ得る。成形体の製造方法のうち、溶融押出成形法、溶液流延製膜法により樹脂組成物を成形して成形体を製造することが好ましい。より好ましい実施態様は、溶液流延製膜法である。本発明において、成形体は種々の立体的形状を持った成形体または平板フィルム状の成形体等が挙げられるが、屈曲性の観点からフィルム状の成形体が好ましい。
【0076】
溶融押出成形は、各原料を押出製膜機内に各々所定量投入してもよいし、事前に1軸、2軸又はそれ以上のスクリューを有する溶融混錬機で溶融混錬したペレット状樹脂組成物を用いてフィードブロックダイやマルチマニホールドダイ等を介して、フィルム成膜を行う。ダイリップから押し出された溶融樹脂積層体は、例えば、ロールユニット(例えば冷却ロール)等により冷却、固化されることが好ましい。
【0077】
樹脂組成物からフィルム状の成形体を製造する場合は、樹脂組成物の成分を混合したワニスを用いて以下のように製造する:
(a)上記フッ素含有ポリイミド系樹脂(A)及び樹脂(B)、ならびに溶媒を少なくとも含有するワニスを支持体上に塗布し、乾燥させ、塗膜を形成させる工程、
(b)支持体から塗膜を剥離する工程、
(c)剥離した塗膜を加熱し、フィルム(成形体)を得る工程
【0078】
上記の工程(a)で使用するワニスは、上記フッ素含有ポリイミド系樹脂(A)及び樹脂(B)、ならびに溶媒を少なくとも含有する。
【0079】
まず、ワニスを支持体上に塗布し、乾燥させ、塗膜を形成させる工程(a)について説明する。ワニスに含有される樹脂としては、既に述べた樹脂(A)及び樹脂(B)である。また、ワニスには、フィラー及びその他の添加剤が含有されていてもよい。
【0080】
ワニスに含有される溶媒は、既に樹脂組成物の説明で述べたように非プロトン性有機溶媒であればよい。ワニスの固形分濃度は、好ましくは1~25質量%、より好ましくは5~20質量%である。
【0081】
ワニスは、上記の樹脂(A)、樹脂(B)、溶媒並びに必要に応じて用いられるフィラー及びその他の添加剤を混合し、撹拌することにより調製することができる。また、フィラーとしてシリカを用いる場合、シリカを含むシリカゾルの分散液を、前記樹脂が溶解可能な溶媒、例えば下記のワニスの調製に用いられる溶媒で置換したシリカゾルを用いてワニスを調製してもよい。
【0082】
ワニスの固形分濃度は、好ましくは5~25質量%、より好ましくは10~23質量%、さらに好ましくは14~20質量%である。ワニスの固形分濃度が上記の下限以上であることが、厚い膜を得る観点から好ましく、上記の上限以下であることが、ワニスのハンドリングしやすさの観点から好ましい。
【0083】
支持体としては、例えば樹脂基材、樹脂フィルム基材、ステンテレス鋼ベルト、ガラス基材等が挙げられ、好ましくは樹脂フィルム基材が挙げられる。樹脂フィルム基材としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、シクロオレフィン系(COP)フィルム、アクリル系フィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム等が挙げられ、中でも、平滑性、耐熱性に優れる観点から、より好ましくはPETフィルム、COPフィルム等が挙げられ、さらに好ましくは光学フィルムとの密着性及びコストの観点から、PETフィルムが挙げられる。
【0084】
支持体の厚さは、特に制限されないが、好ましくは50~250μm、より好ましくは100~200μm、さらに好ましくは125~200μmである。支持体の厚さが上記の上限以下である場合、フィルムの製造コストを抑え易いため好ましい。また、支持体の厚さが上記の下限以上であることが、溶媒の少なくとも一部を除去する工程で生じ得るフィルムのカールを抑制しやすいため好ましい。ここで、支持体の厚さは、接触式の膜厚計などにより測定される。支持体の厚さ分布は、好ましくは±3μm以下、より好ましくは±2.5μm以下、さらに好ましくは±2μm以下である。支持体の厚さ分布は、上記厚さの測定方法に従い、フィルムの少なくとも20箇所において厚さを測定し、20箇所の平均厚さを算出し、各箇所における厚さと平均厚さとの差から算出する。
【0085】
ワニスを支持体上に塗布する際、公知の塗布方法により支持体への塗布を行ってよい。公知の塗布方法としては、例えばワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、流涎成形法等が挙げられる。
【0086】
次に、支持体上に塗布したワニスの塗膜を乾燥させることにより、塗膜を形成させることができる。乾燥は、ワニスの塗膜から少なくとも一部の溶媒を除去することにより行われ、乾燥方法は特に限定されない。例えば支持体上に塗布したワニスの塗膜を加熱することにより乾燥を行ってよい。以下において、工程(a)における乾燥を「第1乾燥」とも称し、乾燥後に支持体上に形成された塗膜を、「乾燥塗膜」とも称する。乾燥塗膜は、ワニスに含まれていた溶媒が全て乾燥された塗膜であってもよいし、一部の溶媒が乾燥された半乾燥状態の塗膜であってもよい。第1乾燥は、必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下において実施してもよい。第1乾燥は比較的低温で時間をかけて行うことが好ましい。
【0087】
加熱により乾燥を行う場合、第1乾燥の際の加熱温度は、好ましくは60~150℃、より好ましくは60~130℃、さらに好ましくは70~120℃である。第1乾燥の時間は好ましくは5~60分、より好ましくは10~40分である。第1乾燥は、1段階又は多段階の条件下で実施してもよい。
【0088】
次に、工程(b)において、支持体から乾燥させた塗膜を剥離する。剥離方法は特に限定されず、支持体を固定させた状態で塗膜を移動させて剥離を行ってもよいし、塗膜を固定させた状態で支持体を移動させて剥離を行ってもよいし、塗膜及び支持体の両方を移動させることにより剥離を行ってもよい。
【0089】
次に、工程(c)において、工程(b)で剥離した塗膜を加熱することにより、フィルムを得ることができる。工程(c)における加熱工程を、以下において、「第2乾燥」又は「ポストベーク」とも称し、工程(b)で剥離した塗膜を、以下において、「剥離塗膜」とも称する。工程(c)において、剥離塗膜を面内方向に伸張させた状態で、ポストベークを実施することが好ましい。第2乾燥の際の加熱温度は、好ましくは150~300℃、より好ましくは180~250℃、さらに好ましくは180~230℃である。第2乾燥における加熱時間は、好ましくは10~60分、より好ましくは30~50分である。
【0090】
工程(c)において塗膜を加熱する際、塗膜に張力をかけて、塗膜を面内方向に伸張させた状態で加熱を行うことが好ましい。張力をかけながら加熱することにより、乾燥による塗膜の収縮により生じるフィルムの光学的均質性の低下を抑制しやすい。
【0091】
熱処理後のフィルム中の溶媒量は、フィルムの質量を基準として、好ましくは0.001~3質量%、より好ましくは0.001~1質量%、さらに好ましくは0.001~0.5質量%、とりわけ好ましくは0.001~0.1質量%、さらにとりわけ好ましくは、0.001~0.05%質量%である。
【0092】
なお、本発明における製造方法においては、工程(b)において支持体から塗膜を剥離した後、工程(c)において剥離した塗膜を加熱することにより、フィルムを製造している。
【0093】
本発明において得られた成形体は、屈曲性に優れ、誘電正接の低いフィルムを形成することができ、例えば電子機器や電子部品の基板として用いるのに好適である。
【実施例
【0094】
本発明を実施例により更に詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものと解してはならない。記載中の「%」及び「部」は、特記しない限り、質量%及び質量部を意味する。
【0095】
まず、種々の測定方法を記載する。
<ポリイミド系樹脂の分子量(重量平均分子量)>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定は、(株)島津製作所製の液体クロマトグラフLC-10ATvpを用いて行った。
(1)前処理方法
試料をγ-ブチロラクトン(GBL)に溶解させて20質量%溶液とした後、ジメチルホルムアミド(DMF)溶離液にて100倍に希釈し、0.45μmメンブランフィルターろ過したものを測定溶液とした。
(2)測定条件
カラム:TSKgel SuperAWM-H×2+SuperAW2500×1(6.0mm I.D.×150mm×3本)
溶離液:DMF(10mmol/Lの臭化リチウム添加)
流量:0.6mL/分
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:20μL
分子量標準:標準ポリスチレン
【0096】
<イミド化率>
イミド化率は、H-NMR測定により以下のようにして求めた。
(1)前処理方法
ポリイミド系樹脂を含む光学フィルムを重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d)に溶解させて2質量%溶液としたものを測定試料とした。
(2)測定条件
測定装置:JEOL製 400MHz NMR装置 JNM-ECZ400S/L1
標準物質:DMSO-d(2.5ppm)
試料温度:室温
積算回数:256回
緩和時間:5秒
(3)イミド化率解析方法
(ポリイミド樹脂のイミド化率)
ポリイミド樹脂を含む測定試料で得られたH-NMRスペクトルにおいて、観測されたベンゼンプロトンのうちイミド化前後で変化しない構造に由来するベンゼンプロトンAの積分値をIntとした。また、観測されたポリイミド樹脂中に残存するアミック酸構造に由来するアミドプロトンの積分値をIntとした。これらの積分値から以下の式に基づいてポリイミド樹脂のイミド化率を求めた。
イミド化率(%)=100×(1-Int/Int
【0097】
(ポリアミドイミド樹脂のイミド化率)
ポリアミドイミド樹脂を含む測定試料で得られたH-NMRスペクトルにおいて、観測されたベンゼンプロトンのうちイミド化前後で変化しない構造に由来し、ポリアミドイミド樹脂中に残存するアミック酸構造に由来する構造に影響を受けないベンゼンプロトンCの積分値をIntとした。また、観測されたベンゼンプロトンのうちイミド化前後で変化しない構造に由来し、ポリアミドイミド樹脂中に残存するアミック酸構造に由来する構造に影響を受けるベンゼンプロトンDの積分値をIntとした。得られたInt及びIntから以下の式によりβ値を求めた。
β=Int/Int
次に、複数のポリアミドイミド樹脂について上記式のβ値及び上記式のポリイミド樹脂のイミド化率を求め、これらの結果から以下の相関式を得た。
イミド化率(%)=k×β+100
上記相関式中、kは定数である。
βを相関式に代入してポリアミドイミド樹脂のイミド化率(%)を得た。
【0098】
<フィルムの厚さ>
(株)ミツトヨ製ID-C112XBSを用いて、10点以上のフィルムの厚さを測定し、その平均値を算出した。
【0099】
<残存溶媒量>
TG-DTA(SII(株)製 EXSTAR6000 TG/DTA6300)を用いて、実施例及び比較例で得られたフィルムを30℃から120℃まで昇温し、120℃で5分間保持し、その後5℃/分の昇温速度で400℃まで昇温した。120℃におけるフィルムの質量に対する120℃から250℃でのフィルムの質量減少の比を、溶媒の含有量(残存溶媒量と称する)として算出した。
【0100】
<誘電率、誘電正接測定>
測定装置としてvector network analyzer N5227A(キーサイト・テクノロジー(株)製)を用いて、1GHz及び10GHzの誘電率及び誘電正接を測定した。測定の詳細は以下の通りである。
試験片寸法:
1GHz;100mm×120mm
10GHz;100mm×60mm
共振器の形状:
1GHz;内径 229mm、高さ40mmの円筒
10GHz;内径 42mm、高さ30mmの円筒
使用モード:
1GHz;TM010モード
10GHz;TE011モード
前処理:C 90h22±1℃/60±5%RH
試験環境:室温(22℃/55%RH)
【0101】
<屈曲性>
屈曲性については、R=1mmのマンドレル棒を用いて、100mm×200mmにカットしたフィルムを棒に10回巻き付けた後、目視にてクラックや破断の有無を確認した。ただし、巻き付け10回以前に破断したフィルムは途中で測定を終了し、破断とした。
【0102】
[製造例1]
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(HNA) 414g(2.2モル)、4-ヒドロキシアセトアニリド(APAP) 666g(4.4モル)、イソフタル酸(IPA) 731g(4.4モル)及び無水酢酸 955g(9.35モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。次いでこれを室温まで冷却して粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で10時間保持した後、室温まで冷却して再び粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下240℃で3時間保持し、固相で重合反応を進めて芳香族ポリエステル(1)粉末を得た。その得られた芳香族ポリエステル(1)粉末 20gをN-メチルピロリドン 80gに加え、160℃に加熱した結果、完全に溶解し、透明な溶液が得られることを確認した。この溶液を攪拌及び脱泡し、芳香族ポリエステル溶液(1)を得た。
【0103】
[製造例2]
窒素ガス雰囲気下、容量1Lセパラブルフラスコに撹拌翼を備えた反応容器と、オイルバスとを準備した。オイルバスに設置した反応容器内に2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB) 45g(140.52mmol)とN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc) 768.55gとを投入した。反応容器内の内容物を室温で撹拌してTFMBをDMAcに溶解させた。次に、反応容器内に4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA) 18.92g(42.58mmol)を更に投入し、反応容器内の内容物を室温で3時間撹拌した。その後、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)(OBBC) 4.19g(14.19mmol)、次いでテレフタロイルクロリド(TPC) 17.29g(85.16mmol)を反応容器に投入し、反応容器内の内容物を室温で1時間撹拌した。次いで、反応容器内に4-メチルピリジン 4.63g(49.68mmol)と無水酢酸 13.04g(127.75mmol)とを更に投入し、反応容器内の内容物を室温で30分間撹拌した。攪拌した後、オイルバスを用いて容器内温度を70℃に昇温し、70℃に維持して更に反応容器内の内容物を3時間撹拌し、反応液を得た。得られた反応液を室温まで冷却し、大量のメタノール中に糸状に投入し、沈殿物を析出させた。析出した沈殿物を取り出し、メタノールで6時間浸漬後、メタノールで洗浄した。次に、100℃にて沈殿物の減圧乾燥を行い、ポリアミドイミド樹脂(1)を得た。ポリアミドイミド樹脂(1)の重量平均分子量は、400,000であり、イミド化率は98.8%であった。また、ポリアミドイミド樹脂中のフッ素含有量は、質量%であった。そのポリアミドイミド樹脂(1) 10gをN-メチルピロリドン 90gに室温で完全に溶解し、透明な溶液が得られることを確認した。この溶液を攪拌及び脱泡し、ポリアミドイミド溶液(1)を得た。
【0104】
[実施例1]
前記芳香族ポリエステル樹脂(1)溶液とポリアミドイミド樹脂(1)溶液とを、芳香族ポリエステル(1)とポリアミドイミド樹脂(1)とが質量比で25:75になるように、室温で攪拌し、完全に混合し、混合溶液(1)を得た。得られた混合溶液(1)をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡(株)製「コスモシャイン(登録商標)A4100」)上において流涎成形し、塗膜を成形した。流涎成形におけるPETの搬送速度は0.2m/分であった。その後、80℃で20分、120℃で20分加熱することによって塗膜を乾燥し、PETフィルムから塗膜を剥離した。次いで、120℃で40分加熱処理を行い、更に窒素雰囲気下、300℃で1時間熱処理し、複合フィルム(1)を得た。
【0105】
[実施例2]
芳香族ポリエステル(1)とポリアミドイミド樹脂(1)とが質量比で50:50になるように変更した以外、実施例1と同様にして、複合フィルム(2)を得た。
【0106】
[実施例3]
芳香族ポリエステル(1)とポリアミドイミド樹脂(1)とが質量比で75:25になるように変更した以外、実施例1と同様にして、複合フィルム(3)を得た。
【0107】
[比較例1]
ポリアミドイミド樹脂(1)のみを用いたこと以外、実施例1と同様にして、ポリアミドイミドフィルム(1)を得た。
【0108】
[比較例2]
芳香族ポリエステル(1)のみを用いたこと以外、実施例1と同様にして、芳香族ポリエステルフィルム(1)を得た。
【0109】
【表1】
【0110】
上記結果から観ると、実施例の3つの複合フィルム(1)~(3)では、誘電正接が比較例のものよりも低く、屈曲性も優れている。一方、比較例1のポリアミドイミドフィルム(1)では、屈曲性は優れているものの誘電正接の値が高く、比較例2の芳香族ポリエステルフィルム(1)では誘電正接は低いが屈曲性が悪くクラックが生じている。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の成形体は、屈曲性に優れるフィルムとなることができ、例えば電子機器や電子部品の基板として好適である。