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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】シリコン成膜方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/208 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
H01L21/208 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020006172
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021114533
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 有紀
(72)【発明者】
【氏名】新納 礼二
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 麻由子
【審査官】山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-191821(JP,A)
【文献】国際公開第2008/029834(WO,A1)
【文献】特開2020-009826(JP,A)
【文献】特開2005-340802(JP,A)
【文献】特開2013-247286(JP,A)
【文献】国際公開第2014/080841(WO,A1)
【文献】特開2005-235852(JP,A)
【文献】特開2001-338877(JP,A)
【文献】特開2015-088651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/208
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン含有溶液を用いたスピンコートによるシリコン成膜方法であって、
基板を載置したステージを第1の回転速度で回転させながら前記シリコン含有溶液を前記基板に滴下する第1工程と、
前記ステージを前記第1の回転速度よりも遅い第2の回転速度で回転させて滴下した前記シリコン含有溶液を前記基板上で拡散する第2工程と、
前記シリコン含有溶液の気化成分が気化するよう前記ステージを前記第1の回転速度および前記第2の回転速度よりも速い第3の回転速度で回転させた状態を前記第2工程の時間よりも長い所定時間維持する第3工程と、
を含む、シリコン成膜方法。
【請求項2】
前記第1の回転速度は、500~1000rpmであり、
前記第2の回転速度は、300~800rpmであり、
前記第3の回転速度は、2400~5100rpmである
請求項1に記載のシリコン成膜方法。
【請求項3】
前記所定時間は、20~60秒である
請求項1または2に記載のシリコン成膜方法。
【請求項4】
前記第2の回転速度に対する前記第3の回転速度の比は、3.0~17.0である
請求項1~の何れか1つに記載のシリコン成膜方法。
【請求項5】
前記シリコン含有溶液は、分子中に6~8員の単環式飽和炭素環を含み沸点が160℃未満である第1の溶媒と、分子中に飽和炭素環又は部分飽和炭素環を含み沸点が160℃以上である第2の溶媒とを含む混合溶媒に、シランポリマーを溶解させた溶液である
請求項1~の何れか1つに記載のシリコン成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、シリコン成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、シリコン化合物を含むシリコン含有溶液でスピンコート法などにより塗布膜を形成し、塗布膜を所定の温度で加熱することにより、シリコン膜を形成する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-259958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、均一性の良好なシリコン膜を形成する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によるシリコン成膜方法は、シリコン含有溶液を用いたスピンコートによるシリコン成膜方法である。シリコン成膜方法は、基板を載置したステージを第1の回転速度で回転させながらシリコン含有溶液を前記基板に滴下する第1工程と、ステージを第2の回転速度で回転させて滴下したシリコン含有溶液を前記基板上で拡散する第2工程と、シリコン含有溶液の気化成分が気化するよう前記ステージを第3の回転速度で回転させた状態を所定時間維持する第3工程と、を含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、均一性の良好なシリコン膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係るシリコン成膜方法の一例を示すフローチャートである。
図2A図2Aは、実施形態に係るシリコン成膜方法でシリコン膜を成膜する際の基板の状態を示す図である。
図2B図2Bは、実施形態に係るシリコン成膜方法でシリコン膜を成膜する際の基板の状態を示す図である。
図2C図2Cは、実施形態に係るシリコン成膜方法でシリコン膜を成膜する際の基板の状態を示す図である。
図3図3は、実施形態に係る塗布装置の概略構成を示す図である。
図4図4は、実施形態に係るシリコン成膜方法において、基板にシリコン含有溶液を塗布する際の処理の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、シリコン膜を成膜した実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本願の開示するシリコン成膜方法の実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により、開示するシリコン成膜方法が限定されるものではない。
【0009】
ところで、スピンコート法により塗布膜を形成した場合、塗布膜には、表面にクレーター状の穴などのDefectが形成される場合がある。塗布膜にDefectが形成された場合、塗布膜を所定の温度で加熱することにより形成されるシリコン膜にも、Defectが形成されてしまう。そこで、均一性の良好なシリコン膜を形成することが期待されている。
【0010】
(実施形態)
(シリコン成膜方法)
実施形態に係るシリコン成膜方法について説明する。図1は、実施形態に係るシリコン成膜方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態では、図1のフローチャートに示された手順により、基板Wにシリコン膜が成膜される。以下では、図2A図2Cを参照しながら、図1のフローチャートに示された手順でシリコン膜を形成する際の基板Wの状態を説明する。図2A図2Cは、実施形態に係るシリコン成膜方法でシリコン膜を成膜する際の基板Wの状態を示す図である。
【0011】
処理対象の基板Wにシリコン含有溶液を塗布する(ステップS10)。基板Wは、例えば図2Aに示されるような構造である。図2Aには、基板Wの断面図が示されている。基板Wは、例えば、半導体ウエハなどのシリコン基板とする。例えば、分子中に6~8員の単環式飽和炭素環を含み沸点が160℃未満である第1の溶媒と、分子中に飽和炭素環又は部分飽和炭素環を含み沸点が160℃以上である第2の溶媒とを含む混合溶媒に、シランポリマーを溶解させたシリコン含有溶液(以下「シランポリマー溶液」ともいう。)を、基板Wに塗布して、図2Bに示すように、塗布膜11を形成する。
【0012】
次に、基板Wを焼成して、シリコン含有溶液を固化してシリコン膜を形成する(ステップS11)。加熱の条件は特に限定されず、シランポリマーからシリコン膜を形成するにあたって従来使用される条件を採用してよい。例えば、アモルファス状のシリコン膜を形成する場合、300~600℃(好ましくは350~500℃)にて30秒間~300分間の条件にて塗布膜を加熱してよい。例えば、基板Wを400℃にて15分間加熱する。これにより、基板Wでは、シリコン含有溶液の塗布膜11の固化が進行する。図2Cに示すように、基板Wでは、焼成されることで塗布膜11が固化してアモルファスシリコン膜12に変換する。
【0013】
次に、実施形態に係るシリコン成膜方法で使用する第1の溶媒、第2の溶媒、シランポリマー、混合溶媒およびシランポリマー溶液について説明する。
【0014】
(第1の溶媒)
第1の溶媒は、分子中に6~8員の単環式飽和炭素環を含み沸点が160℃未満である。第1の溶媒を用いることにより、広範な分子サイズのシランポリマーを用いてシランポリマー溶液を調製することが可能となる。なお、本明細書において、「沸点」は、大気圧下での沸点を意味する。
【0015】
シランポリマーの溶解性、特に分子サイズの大きなシランポリマーを溶解させ得る観点から、第1の溶媒は、分子中に6~8員の単環式飽和炭素環を1個含むことが好ましく、分子中に7員又は8員の単環式飽和炭素環を1個含むことがより好ましい。
【0016】
6~8員の単環式飽和炭素環は、シランポリマーの溶解性を阻害しない限りにおいて、置換基を有していてもよい。置換基は特に限定されず、例えば、炭素原子数1~4のアルキル基(好ましくは炭素原子数1~3、より好ましくは炭素原子数1又は2)が挙げられる。置換基の数は限定されず、複数の置換基を有する場合、それらは互いに同一でも異なってもよい。
【0017】
第1の溶媒としては、例えば、シクロヘキサン(81℃)、シクロヘプタン(112℃)、シクロオクタン(151℃)、メチルシクロヘキサン(101℃)、エチルシクロヘキサン(132℃)、ジメチルシクロヘキサン(120~130℃)、n-プロピルシクロヘキサン(157℃)、イソプロピルシクロヘキサン(155℃)、トリメチルシクロヘキサン(136~145℃)、メチルエチルシクロヘキサン(148℃)が挙げられる(括弧内は沸点)。
【0018】
中でも、広範な分子サイズのシランポリマーを溶解させ得る観点から、第1の溶媒は、好ましくは炭素原子数6~8のシクロアルカン、より好ましくは炭素原子数7又は8のシクロアルカン、特に好ましくは炭素原子数8のシクロアルカンである。したがって特に好適な一実施形態において、第1の溶媒はシクロオクタンである。
【0019】
第1の溶媒の沸点の下限は、後述する第2の溶媒との組み合わせにおいてシリコン膜の成膜性に優れることから、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、120℃以上、又は130℃以上である。
【0020】
第1の溶媒としては、単環式飽和炭素環含む溶媒以外の溶媒を用いてよい。単環式飽和炭素環含む溶媒以外の溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼンを挙げることができる。トルエン、ベンゼンとしては、n-ヘプタン、n-オクタン、デカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロへキシルベンゼンなどの炭化水素系溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、p-ジオキサンなどのエーテル系溶媒;さらにプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノンなどの非プロトン性極性溶媒を挙げることができる。
【0021】
(第2の溶媒)
第2の溶媒は、分子中に飽和炭素環又は部分飽和炭素環を含み沸点が160℃以上である。第1の溶媒と組み合わせて第2の溶媒を用いることにより、広範な分子サイズのシランポリマーからシリコン膜を成膜性よく形成することが可能となる。本明細書において、「部分飽和炭素環」とは、不飽和炭素環の二重結合のうち少なくとも1個の二重結合を除く任意の個数の二重結合を水素化により単結合に変換した炭素環をいう。
【0022】
ここで、分子サイズの大きいシランポリマーからシリコン膜を形成する場合や、低濃度のシランポリマー溶液を用いてシリコン膜を形成する場合には、従来、基板の全面にシリコン膜を形成することは困難となる傾向にあった。これに対し、第1の溶媒と組み合わせて第2の溶媒を用いるシランポリマー溶液によれば、分子サイズの大きなシランポリマーを用いる場合や、低濃度のシランポリマー溶液を用いる場合にも、基板の全面にシリコン膜を形成することが可能である。
【0023】
広範な分子サイズのシランポリマー、とりわけ、成膜が困難とされていた分子サイズの大きなシランポリマーからシリコン膜を成膜性よく形成し得る観点から、第2の溶媒は、分子中に8~12員の飽和炭素環又は部分飽和炭素環を1個含むことが好ましい。飽和炭素環又は部分飽和炭素環は、多環式の飽和炭素環又は部分飽和炭素環であることが好ましく、二環式の飽和炭素環又は部分飽和炭素環であることがより好ましい。第2の溶媒が分子中に多環式の部分飽和炭素環を含む場合、多環を構成する少なくとも1つの環は飽和炭素環構造を有する(すなわち、不飽和度が0である)ことが好ましい。例えば、第2の溶媒が分子中に二環式の部分飽和炭素環を含む場合、二環の一方の環が飽和炭素環構造を有し他方の環が不飽和炭素環構造を有することが好ましい。中でも、第1の溶媒との組み合わせにおいて、第2の溶媒は、分子中に多環式飽和炭素環を含むことが好ましく、二環式飽和炭素環を含むことが特に好ましい。第2の溶媒において、飽和炭素環又は部分飽和炭素環は、シリコン膜の成膜性を阻害しない限りにおいて、置換基を有していてもよい。置換基は特に限定されず、例えば、炭素原子数1~4のアルキル基(好ましくは炭素原子数1~3、より好ましくは炭素原子数1又は2)が挙げられる。置換基の数は限定されず、複数の置換基を有する場合、それらは互いに同一でも異なってもよい。
【0024】
第2の溶媒としては、例えば、デカヒドロナフタレン(デカリン)(193℃)、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(テトラリン)(207℃)、メチルデカヒドロナフタレン(210℃)、ジメチルデカヒドロナフタレン(224℃)、エチルデカヒドロナフタレン(226℃)、イソプロピルデカヒドロナフタレン(241℃)が挙げられる(括弧内は沸点)。
【0025】
中でも、第1の溶媒との組み合わせにおいて、広範な分子サイズのシランポリマーから特に成膜性よくシリコン膜を形成し得る観点から、第2の溶媒は、好ましくは炭素原子数8~12のビシクロアルカン、より好ましくは炭素原子数10~12のビシクロアルカン、特に好ましくは炭素原子数10のビシクロアルカンである。したがって特に好適な一実施形態において、第2の溶媒はデカヒドロナフタレンである。
【0026】
第1の溶媒との組み合わせにおいて広範な分子サイズのシランポリマーから成膜性よくシリコン膜を形成し得る観点から、第2の溶媒の沸点は、第1の溶媒の沸点より20℃以上高いことが好ましく、30℃以上高いことがより好ましく、40℃以上高いことがさらに好ましい。第2の溶媒の沸点の上限は、第1の溶媒との組み合わせにおいて混合溶媒を調製し得る限り特に限定されないが、通常、250℃以下、240℃以下などとし得る。
【0027】
広範な分子サイズのシランポリマーから特に成膜性よくシリコン膜を形成し得る観点から、混合溶媒において、第1の溶媒の体積を1としたとき、第2の溶媒の体積は、好ましくは2以下、より好ましくは1以下、さらに好ましくは0.7以下、又は0.5以下である。特に、第1の溶媒の体積を1としたとき、第2の溶媒の体積が0.5以下である混合溶媒を用いると、重量平均分子量(Mw)が100,000を超えるような分子サイズが非常に大きいシランポリマーを用いる場合であっても、成膜性よくシリコン膜を形成することが可能となる。
【0028】
混合溶媒中に第2の溶媒が少量でも入っていれば、混合溶媒を用いる利点を享受し得る。例えば、混合溶媒において、第1の溶媒の体積を1としたとき、第2の溶媒の体積は0.001以上であってよく、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、0.02以上、又は0.03以上である。本明細書において、第1の溶媒と第2の溶媒の体積比は、室温下における第1の溶媒の体積と第2の溶媒の体積を基準として算出した値である。
【0029】
(シランポリマー)
シランポリマーは、加熱によってシリコン膜を形成できる限り特に限定されず、例えば、光重合性のシラン化合物に光照射して得られた従来公知の方法により製造したシランポリマー(好ましくはポリジヒドロシラン)を用いてよい。
【0030】
光重合性のシラン化合物としては、例えば、鎖状シラン化合物、環状シラン化合物、かご状シラン化合物が挙げられる。中でも、光重合性に優れるため、環状シラン化合物が好ましい。環状シラン化合物としては、例えば、シクロトリシラン、シクロテトラシラン、シクロペンタシラン、シクロヘキサシラン、シクロヘプタシラン、ネオペンタシラン、トリシラン等の1個の環状シラン構造を有する環状シラン化合物;1,1’-ビシクロブタシラン、1,1’-ビシクロペンタシラン、1,1’-ビシクロヘキサシラン、1,1’-ビシクロヘプタシラン、スピロ[2,2]ペンタシラン、スピロ[3,3]ヘプタシラン、スピロ[4,4]ノナシラン等の2個の環状シラン構造を有する環状シラン化合物;これら環状シラン化合物において、水素原子の一部又は全部がシリル基やハロゲン原子に置換したシラン化合物等が挙げられる。
【0031】
特に、高純度にて合成し易い観点から、シクロペンタシラン、シクロヘキサシラン、シクロヘプタシランが好ましく、シクロヘキサシランがより好ましい。したがって一実施形態において、シリコン成膜方法は、シクロヘキサシランに光照射してシランポリマーを調製する工程を含んでもよい。
【0032】
光照射は、従来公知の任意の条件にて実施することができる。例えば、照射波長は300~420nm、照射時間は0.1秒間~600分間の範囲とし得る。
【0033】
(シランポリマー溶液)
シランポリマー溶液は、上記第1の溶媒と第2の溶媒とを含む混合溶媒にシランポリマーを溶解させて調製することができる。この混合溶媒は、広範な分子サイズのシランポリマーを用いてシランポリマー溶液を調製することができる。
【0034】
シランポリマー溶液のシランポリマーの濃度(以下、単に「溶液濃度」ともいう。)は、シランポリマーの分子サイズにもよるが、例えば、30体積%以下の範囲において調整することができる。薄いシリコン膜を形成する観点から、該溶液濃度は、好ましくは20体積%以下、より好ましくは10体積%以下、さらに好ましくは5体積%以下である。従来、溶液濃度が低くなると、基板Wの全面にシリコン膜を形成することが困難になる傾向にあった。これに対し、本実施形態のシランポリマー溶液は、溶液濃度が低い場合にも、基板Wの全面にシリコン膜を形成することが可能である。また、本実施形態のシランポリマー溶液は、分子サイズの大きなシランポリマー(上述のとおり、低濃度でもシリコン膜を形成し得る)を利用し得るという利点も相俟って、極めて薄いシリコン膜を基板Wの全面に形成することができる。本実施形態のシランポリマー溶液は、成膜性の悪化なしに、溶液濃度を、4体積%以下、3体積%以下、又は2体積%以下にまで低くすることができる。本実施形態のシランポリマー溶液は、溶液濃度の下限は特に限定されないが、シリコン膜の成膜性の観点から、通常、0.1体積%以上、0.3体積%以上、0.5体積%以上などとし得る。本明細書において、シランポリマー溶液のシランポリマーの濃度は、室温下における混合溶媒の体積とシランポリマーの体積を基準として算出した値である。
【0035】
本実施形態のシランポリマー溶液は、温和な環境下(好ましくは室温、大気圧下)において、混合溶媒にシランポリマーを混合し、撹拌することで、容易に所定濃度に調製できる。
【0036】
シランポリマー溶液は、シリコン膜の成膜性を阻害しない限りにおいて、他の成分を含んでもよい。斯かる他の成分としては、例えば、ドーパント、表面張力調節剤等が挙げられる。ドーパントしては、n型、p型のシリコン膜を形成するにあたって従来使用される公知のドーパントを使用してよい。表面張力調節剤としては、フッ素系、シリコーン系等の従来公知の表面張力調節剤を使用してよい。
【0037】
(シランポリマー溶液の塗布)
シランポリマー溶液を基板Wに塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ディップコート法、スプレー法、インクジェット法等が挙げられる。中でも、基板Wにシリコン膜を成膜性よく形成し得る観点から、スピンコート法によりシランポリマー溶液を塗布することが好ましい。
【0038】
(塗布装置の装置構成)
スピンコート法によりシリコン含有溶液を塗布する塗布装置の一例について、図3を参照して説明する。図3は、実施形態に係る塗布装置50の概略構成を示す図である。
【0039】
塗布装置50は、チャンバ51と、ステージ52と、回転機構53と、ノズル54と、カップ56とを備える。
【0040】
チャンバ51は、ステージ52、回転機構53、ノズル54およびカップ56を収容する。なお、チャンバ51の天井部には、図示しないFFU(Fan Filter Unit)が設けられる。FFUは、チャンバ51内にダウンフローを形成する。
【0041】
ステージ52は、チャンバ51の略中央に設けられる。ステージ52は、たとえばポーラスチャックであり、基板Wを水平に吸着保持する。回転機構53は、ステージ52を鉛直軸まわりに回転させる。これにより、ステージ52に保持された基板Wが、水平方向に回転する。
【0042】
ノズル54は、バルブや流量調節部等を含む供給機器群541を介してシリコン含有溶液を供給する溶液供給源542に接続されている。ノズル54は、溶液供給源542から供給されるシリコン含有溶液を基板Wに吐出する。
【0043】
カップ56は、ステージ52に保持された基板Wの周囲を取り囲むように配置され、ステージ52の回転によって基板Wの外方に飛散するシリコン含有溶液を受け止める。カップ56の底部には、排液口561が形成されており、カップ56によって受け止められたシリコン含有溶液は、かかる排液口561から塗布装置50の外部へ排出される。また、カップ56の底部には、図示しないFFUから供給されるダウンフローガスを塗布装置50の外部へ排出する排気口562が形成される。
【0044】
ところで、上述のように、スピンコート法により塗布膜11を形成した場合、塗布膜11には、表面にクレーター状の穴などのDefectが形成される場合がある。塗布膜11にDefectが形成された場合、アモルファスシリコン膜12にも、Defectが形成されてしまう。
【0045】
そこで、実施形態に係るシリコン成膜方法では、以下のようにシリコン含有溶液を塗布して塗布膜11を形成する。シリコン含有溶液を塗布する際、塗布装置50のステージ52には、基板Wが載置される。
【0046】
塗布装置50は、回転機構53を駆動させてステージ52を鉛直軸まわりに回して基板Wを回転させる。そして、塗布装置50は、シリコン含有溶液を溶液供給源542から供給し、ノズル54からシリコン含有溶液を回転している基板Wに供給する。塗布装置50は、シリコン含有溶液の塗布中、基板Wの回転速度を段階的に変化させる。例えば、塗布装置50は、以下に説明する第1工程~第3工程を実施する。図4は、実施形態に係るシリコン成膜方法において、基板Wにシリコン含有溶液を塗布する際の処理の流れを示すフローチャートである。図4は、図1のステップS10の詳細な処理の流れを示したものである。
【0047】
例えば、塗布装置50は、第1工程として、ステージ52を第1の回転速度で回転させながらシリコン含有溶液を溶液供給源542から供給し、ノズル54からシリコン含有溶液を回転している基板Wに滴下する(S20)。第1の回転速度は、例えば、500~1000rpmとする。回転時間は、例えば、1~3秒間の範囲とする。
【0048】
次に、塗布装置50は、第2工程として、ステージ52を第2の回転速度で回転させて滴下したシリコン含有溶液を基板W上で拡散させる(S21)。第2の回転速度は、第1の回転速度よりも遅いものとする。例えば、第2の回転速度は、300~800rpmとする。回転時間は、例えば、10~20秒間の範囲とする。
【0049】
そして、塗布装置50は、第3工程として、シリコン含有溶液の気化成分が気化するようステージ52を第3の回転速度で回転させた状態を所定時間維持してシリコン含有溶液を振り切る(S22)。第3の回転速度は、第1の回転速度および第2の回転速度よりも速いものとする。例えば、第3の回転速度は、2400~5100rpmとする。第2の回転速度に対する第3の回転速度の比は、3.0~17.0とことが好ましい。第3の回転速度で回転させる所定時間は、第2工程の時間よりも長くする。例えば、第3の回転速度で回転させる所定時間は、20~60秒間の範囲とする。
【0050】
このように、実施形態に係るシリコン成膜方法では、第1工程~第3工程を実施してシリコン含有溶液を塗布することにより、基板Wに、均一性よくシリコン含有溶液の塗布膜11を形成できる。この塗布膜11が形成された基板Wを焼成することにより、基板Wに均一性よくシリコン膜を成膜できる。
【0051】
次に、実施形態に係るシリコン成膜方法によりシリコン膜を成膜した実験の結果について説明する。図5は、シリコン膜を成膜した実験結果を示す図である。実験では、ID「1」~「3」の3枚の基板Wに対して、実施形態に係るシリコン成膜方法の第1工程~第3工程の回転速度と回転時間を変えてシリコン含有溶液を塗布して塗布膜11を形成した。シランポリマー溶液は、第1の溶媒をシクロオクタンとし、第2の溶媒をデカヒドロナフタレンとした混合溶媒にシランポリマーを溶解させた。シランポリマー溶液のシランポリマーの溶液濃度は、20体積%とした。そして、各基板Wを400℃で15分間焼成してアモルファスシリコン膜12を成膜した。
【0052】
図5の「Spin coat」には、ID「1」~「3」の基板Wに対して、シリコン含有溶液をスピンコートする際の回転速度と回転時間の変化が示されている。第1工程の期間をt1とし、第2工程の期間をt2とし、第3工程の期間をt3として示している。ID「1」~「3」では、第1工程の回転速度を1000rpm、回転時間を1秒とし、第2工程の回転速度を500rpm、回転時間を15秒としている。そして、ID「1」では、第3工程の回転速度を2500rpmとし、回転時間を2秒としている。ID「2」では、第3工程の回転速度を2500rpmとし、回転時間を20秒としている。ID「3」では、第3工程の回転速度を5000rpmとし、回転時間を20秒としている。ID「2」、「3」は、実施形態に係るシリコン成膜方法の第1工程~第3工程を実施してシランポリマー溶液を塗布したものである。一方、ID「1」は、実施形態に係るシリコン成膜方法の第1工程及び第2工程を実施したが、第3工程の期間t3を2秒程度と短くしてシランポリマー溶液を塗布したものである。
【0053】
図5の「SEM image」には、成膜したアモルファスシリコン膜12の状態を模式的に示している。ID「1」は、第3工程の期間t3が2秒程度と短くなっている。この結果、ID「1」では、アモルファスシリコン膜12にDefect13が形成されてしまう。このようにDefect13が形成される理由は、スピンコート中、シランポリマー溶液が常温で膜に流動性があるため、第3工程の期間t3が短いと回転停止後にもシリコン含有溶液の気化成分の気化によってDefectが形成されてしまうためと考えられる。
【0054】
このため、実施形態に係るシリコン成膜方法では、第3工程において、シリコン含有溶液の気化成分が気化するようステージ52を第3の回転速度で回転させた状態を所定時間維持してシリコン含有溶液を振り切っている。例えば、ID「2」、「3」では、第2工程の期間t2よりも第3工程の期間t3を長くている。この結果、ID「2」、「3」は、アモルファスシリコン膜12にDefectが形成されず、均一性の良好なアモルファスシリコン膜12が形成できている。このように、実施形態に係るシリコン成膜方法によれば、均一性の良好なシリコン膜を形成できる。
【0055】
[効果]
このように、実施形態に係るシリコン成膜方法は、基板Wを載置したステージ52を第1の回転速度で回転させながらシリコン含有溶液を基板Wに滴下する第1工程と、ステージ52を第2の回転速度で回転させて滴下したシリコン含有溶液を基板W上で拡散する第2工程と、シリコン含有溶液の気化成分が気化するようステージ52を第3の回転速度で回転させた状態を所定時間維持する第3工程と、を含む。これにより、実施形態に係るシリコン成膜方法は、均一性の良好なシリコン膜を形成できる。
【0056】
また、実施形態に係るシリコン成膜方法は、第2の回転速度を第1の回転速度よりも遅くし、第3の回転速度を第1の回転速度および前記第2の回転速度よりも速くし、所定時間を第2工程の時間よりも長い時間とする。これにより、実施形態に係るシリコン成膜方法は、第3工程において、シリコン含有溶液の気化成分を気化できるため、均一性の良好なシリコン膜を形成できる。
【0057】
また、実施形態に係るシリコン成膜方法は、第1の回転速度を500~1000rpmとし、第2の回転速度を300~800rpmとし、第3の回転速度を2400~5100rpmとする。これにより、実施形態に係るシリコン成膜方法は、基板Wにシリコン含有溶液を均一に塗布できる。
【0058】
また、実施形態に係るシリコン成膜方法は、第3工程の所定時間を20~60秒とする。これにより、実施形態に係るシリコン成膜方法は、第3工程において、シリコン含有溶液の気化成分を気化できるため、均一性の良好なシリコン膜を形成できる。
【0059】
また、実施形態に係るシリコン成膜方法は、第2の回転速度に対する第3の回転速度の比を3.0~17.0とする。これにより、実施形態に係るシリコン成膜方法は、第3工程において、基板Wのエッチ部分に残るシリコン含有溶液を振り切ることができ、基板Wにシリコン含有溶液を均一に塗布できる。
【0060】
また、シリコン含有溶液は、分子中に6~8員の単環式飽和炭素環を含み沸点が160℃未満である第1の溶媒と、分子中に飽和炭素環又は部分飽和炭素環を含み沸点が160℃以上である第2の溶媒とを含む混合溶媒に、シランポリマーを溶解させた溶液である。このようなシリコン含有溶液を用いることにより、分子サイズの大きなシランポリマーからシリコン膜を成膜性よく形成できる。
【0061】
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、上述した例示的実施形態に限定されることなく、様々な追加、省略、置換、及び変更がなされてもよい。また、異なる実施形態における要素を組み合わせて他の実施形態を形成することが可能である。
【0062】
例えば、上記の実施形態では、基板Wをシリコン基板とする場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。基板Wは、例えば、シリコン基板;ガラス基板;ITOなどの透明電極;金、銀、銅、パラジウム、ニッケル、チタン、アルミニウム、タングステン等の金属基板;プラスチック基板;及びこれらの複合材料からなる基板が挙げられる。
【符号の説明】
【0063】
11 塗布膜
12 アモルファスシリコン膜
50 塗布装置
51 チャンバ
52 ステージ
53 回転機構
54 ノズル
56 カップ
W 基板
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5