(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】化学的に誘発されたストレスから皮膚を保護するための特定のベンジリデンマロナートの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 8/37 20060101AFI20231124BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231124BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20231124BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231124BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20231124BHJP
A61K 31/225 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
A61K8/37
A61Q19/00
A61Q17/00
A61P17/00
A61P17/16
A61K31/225
(21)【出願番号】P 2020555763
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2019058884
(87)【国際公開番号】W WO2019197368
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-08
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルフォー,マリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ハイデル,リリア
(72)【発明者】
【氏名】バイカード ベンハモウ,ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】ヘルヌム,シルク
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08106233(US,B2)
【文献】特表2008-538831(JP,A)
【文献】特表2008-539167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的ストレス因子への曝露による形態的変化から皮膚を保護するための、および/または
化学的ストレス因子への曝露による形態的変化から皮膚のバリアを安定化するための、少なくとも1の式Iの化合物を含む化粧調製物:
【化1】
式中、
R
1は、-CO
2R
3を示し、
R
2およびR
3は、
2-エチルヘキシルを示し、
R
4は、-CH
3を示し、ならびに
R
5は、-OCH
3を示し、
ここで化学的ストレス因子が、金属および粒子状物質を含む、前記化粧調製物。
【請求項2】
化学的ストレス因子への曝露による表皮の形態学的変化の予防および/または予防法のための、少なくとも1の式Iの化合物を含む化粧調製物:
【化2】
式中、
R
1は、-CO
2R
3を示し、
R
2およびR
3は、
2-エチルヘキシルを示し、
R
4は、-CH
3を示し、ならびに
R
5は、-OCH
3を示し、
ここで化学的ストレス因子が、金属および粒子状物質を含む、前記化粧調製物。
【請求項3】
化学的ストレス因子への曝露による形態的変化から皮膚を保護するための、および/または
化学的ストレス因子への曝露による形態的変化から皮膚のバリアを安定化するための、少なくとも1の式Iの化合物を含むメディカルデバイス:
【化3】
式中、
R
1は、-CO
2R
3を示し、
R
2およびR
3は、
2-エチルヘキシルを示し、
R
4は、-CH
3を示し、ならびに
R
5は、-OCH
3を示し、
ここで化学的ストレス因子が、金属および粒子状物質を含む、前記メディカルデバイス。
【請求項4】
化学的ストレス因子への曝露による表皮の形態学的変化の予防および/または予防法のための、少なくとも1の式Iの化合物を含むメディカルデバイス:
【化4】
式中、
R
1は、-CO
2R
3を示し、
R
2およびR
3は、
2-エチルヘキシルを示し、
R
4は、-CH
3を示し、ならびに
R
5は、-OCH
3を示し、
ここで化学的ストレス因子が、金属および粒子状物質を含む、前記メディカルデバイス。
【請求項5】
金属が、重金属を含む;および/または
粒子状物質が、2.5μmの平均サイズを有する
ことを特徴とする、請求項1
もしくは2に記載の化粧調製物または
請求項3もしくは4に記載のメディカルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ化粧調製物における、化学的に誘発されたストレスから、とりわけ重金属および/または粒子状物質によって引き起こされた化学的に誘発されたストレスから、皮膚を保護するための、または表皮の形態学的変化の予防および/または予防法のための、特定のベンジリデンマロナートの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の境界層および表面として、皮膚は、さまざまな外界からのストレス因子にさらされる。ヒトの皮膚は、様々な様式で特殊化された細胞型、例えば角化細胞、メラニン細胞、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞および包埋された感覚細胞を用いて、外界からの影響から体を保護する器官である。
【0003】
ヒトの皮膚の表面は、グリースのフィルムで覆われており、所定の状況に応じて、水中油型または油中水型エマルションとしてみなすことができ、例えば、酵素およびビタミンなどの無数の活性化合物を含有する。皮脂腺および角化細胞から分泌される脂質から形成されるこのグリースのフィルムは、皮膚中の水分を保護し、皮膚のバリアとして、身体を好ましくない環境因子から保護する。皮膚バリアの高感度平衡(ホメオスタシス)は、外的または内的因子によって破壊される可能性がある。
【0004】
外的因子の中で、ヒトの皮膚に対する、外的な物理的、化学的および生物学的影響を区別すべきである。外的物理的な影響は、熱的および物理的影響、および放射線、例えばUV線の作用を包含する。
【0005】
皮膚の物理的なストレス因子は、例えば、太陽光または同等のスペクトルを持つ人工放射線供給源、ならびに通常はフリーラジカルまたはイオン性である、未定義の反応性光生成物など、放射線によって生成される可能性のある化合物によって引き起こされる。
【0006】
多数の有機および無機UVフィルターおよび抗酸化剤は、UV放射線を吸収および/またはフリージカルを除去することができると知られている。これらは、したがって、これらの物理的な影響からヒトの皮膚を保護することができる。
【0007】
外的な生物学的影響は、例えば、外来生物およびその代謝産物の作用を含む。外的な化学的影響は、とりわけ、皮膚に対する物質、特に刺激物、汚染物質、または重金属の作用を意味すると解釈される。頻繁な大気中の非アレルギー性刺激物、いわゆる疑似アレルゲンは、例えば、接着剤、洗浄材料またはスプレー、香料、例えば芳香族炭化水素および/または揮発性有機化合物、所謂VOCなどの環境汚染物質から生じるエアロゾル、またはタバコの煙、都市のほこり、細かいほこり、ディーゼル排気ガスや産業廃棄物ガスからの粒子などの粒子状物質(PMと略される)でもある。粒子状物質は、しばしば、その平均サイズによって定義される。PM2.5は、例えば、2.5μmの平均サイズを有する粒子状物質を意味する。
【0008】
このタイプの化学的効果は、皮膚のホメオスタシスに影響を及ぼし、一般に化学的に誘発された皮膚刺激、とりわけ重金属および/または粒子状物質によって化学的に誘発される。皮膚に起こりうる結果は、乾燥した、ひびの入った、または薄片状の皮膚、皮膚および/または皮膚の毛穴の変色(例えば、皮膚および/または毛穴の黄変)、かゆみのある皮膚および/または敏感肌である。化学刺激物への頻繁または慢性的な曝露の場合、このタイプの皮膚刺激は病的な皮膚炎症になる可能性がある。ホメオスタシスへの影響は、皮膚のバリア機能の崩壊を意味すると解釈することもできる。表皮の皮膚バリアが弱いと、汚染物質、刺激物、重金属の侵入が容易になると考えられている。
【0009】
化学的に誘発されたストレスは、したがって、上記で概説した結果の例を伴う、化学的性質の刺激への曝露に対する生物または器官、例えば皮膚の反応を意味すると解釈される。化学的刺激中に引き起こされる生化学的メカニズムは複雑であり、まだ完全には解明されていない。
【0010】
しかし、重金属および/またはタバコの煙、都市のほこり、細かいほこり、またはディーゼル排気ガスや産業廃棄物ガスからの粒子などの粒子状物質が酸化ストレスを引き起こすことが知られている。これは、例えば、脂質過酸化のきっかけとなり、これは、例えば、細胞膜で形成されたアルデヒドを介して検出することができる。形成される1つのアルデヒドは、例えば、Janero, Free Radic Biol Med. 1990, 9(6), 515-40に記載されているように、マロンジアルデヒド(MDA)である。
【0011】
化学的ストレス因子に対する皮膚の反応は、したがって、例えば、マロンジアルデヒドの形成から観察することができる。MDA産生は、したがって、化学的に誘発された皮膚のストレスを検出するための好適なマーカーである。
【0012】
本発明の目的のために、化学的に誘発されたストレスは、好ましくは、重金属および/または粒子状物質の作用に対する皮膚の反応を意味すると解釈される。本発明の目的のために、化学的に誘発されたストレスは、具体的に好ましくは、脂質過酸化を誘発する重金属、特にディーゼル排気の作用に対する皮膚の反応を意味すると解釈される。
【0013】
皮膚の自然な再生をサポートするために、皮膚による水分喪失を防ぐことを目的とした保水剤または電解質に加えて、セラミドまたはセラミド類似体などの細胞間脂質混合物も含み得る、スキンケア製剤が推奨される。
【0014】
しかしながら、化学的に誘発されたストレス、とりわけ脂質過酸化が誘発される化学的に誘発されたストレスから皮膚を保護することができる代替の活性化合物の必要性が引き続き存在する。汚染物質、刺激物または重金属への曝露後、とりわけ重金属および/または粒子状物質への曝露後、皮膚、特に表皮の形態学的変化を防ぐことができる、または皮膚、とりわけ表皮の形態学的変化を防ぐことができる、代替の活性化合物の必要性が引き続き存在する。
【発明の概要】
【0015】
したがって、本発明の目的は、とりわけ化粧調製物またはメディカルデバイスにおける、非治療的使用のための代替の活性化合物を提供することであり、これは、化学的ストレス因子または化学的ストレス因子の作用の結果、とりわけ脂質過酸化を引き起こす化学的ストレス因子から皮膚を保護する。これは、さらにまた、化学的ストレス因子への曝露による形態学的変化から皮膚、特に表皮を保護し、皮膚のバリア特性を維持または回復する必要がある。
【0016】
これらの目的は、驚くべきことに、以下の式Iに記載される、特定のベンジリデンマロナートの使用によって、当業者によって予見できなかった様式で達成される。
【0017】
ベンジリデンマロナートは、例えば、US6,831,191またはWO03/007906から知られている。そこに記載されているベンジリデンマロナートは、同様にUV吸収剤(290~400nm)でもある、抗酸化剤として記載されている。これらの化合物は、他の日焼け止めフィルターを安定化することができ、したがって、太陽光に起因する変質からそれらを保護することができることがさらに説明されている。以下に記載される、式Iの化合物は、先行技術からのベンジリデンマロナートの特定の選択である。
【0018】
抗酸化剤または酸化防止剤は、他の物質の酸化を遅らせるかまたは完全に防ぐ化合物である。しかしながら、作用機序、したがって抗酸化剤の有効性は、酸化の原因となる分子または放射線の性質に依存する。
【0019】
それらの作用機序に応じて、抗酸化剤は、例えば、フリーラジカルスカベンジャー、還元剤、および抗酸化相乗剤に分けることができる。
フリーラジカルスカベンジャーは、例えば、天然物質のトコフェロール、またはブチルヒドロキシアニソールなどの合成物質である。このタイプの物質は安定したフリーラジカルを形成し、それ以上反応しないため、反応カスケードの終止につながる。
【0020】
還元剤は、例えば、アスコルビン酸またはグルタチオンである。それらは極めて低い酸化還元潜在力を有する。それらの保護作用は、保護される物質の前にそれらが酸化されることから生じる。
【0021】
抗酸化相乗剤は、例えば使用済みの抗酸化物質を再び再生することにより、抗酸化物質の作用をサポートする。その例はEDTAナトリウムである。
【0022】
したがって、抗酸化剤を分類するためのさまざまな試験システムが特定されている。
TEACアッセイ:トロロックス等価抗酸化能力:Trolox Equivalent Antioxidative Capacity (TEAC)を使用すると、サンプルの抗酸化能を示すことができる。測定においては、ビタミンE誘導体トロロックスが基準となる。したがって、結果はトロロックス等価で引用される。
【0023】
測定の原理は、2,2’-アジノジ(3-エチルベンゾチアゾリン)-6-スルホナートジアンモニウム(ABTS)と調査対象の媒体に存在する抗酸化剤との反応に基づく。酸化媒体において、ABTSは安定した緑色のフリーラジカルカチオンを形成し、抗酸化作用のある物質と反応するとその色を失う。抗酸化剤の添加後の定義された期間の前後の734nmでのABTS溶液のフォトメトリック測定は、消光差を与える。これから、調査された物質の抗酸化能力は、様々な濃度においてトロロックスによって引き起こされた消光の減少と比較することによって決定される(Pellegrini, N. et al., Free Radical Biology and Medicine, 1999, 26 (9-10), 1231-1237)。
【0024】
DPPHアッセイ:この試験方法において、調査対象の物質をエタノール溶液中の安定なフリーラジカルDPPH*(2,2-ジフェニル-1-ピクリル-ヒドラジル水和物)と反応させる。DPPH*の減少は、フリーラジカルの特徴的な波長での消滅の減少を介して続く。そのフリーラジカルの形で、DPPH*は515nmで吸収する。さまざまな濃度が、各抗酸化剤について調査され、DPPH*のモルに対する抗酸化剤のモル数の比率として表される。515nmでの吸光度の減少は、1秒後、2分後、10分後、そして吸光度が一定になるまで10分ごとに測定される。DPPH*の正確な初期濃度は、補助剤の吸光係数を使用して判断する。残存するDPPH*濃度は、各酸化防止剤濃度で、初期消光のパーセンテージとして判断され、DPPH*と酸化防止剤のモル比に対してプロットされる。抗フリーラジカル活性は、ここでは、DPPH*濃度を初期量の50%(EC50)に低下させる抗酸化剤の割合として定義される。
【0025】
化合物ジイソプロピルバニリデネマロナート(DIPVM)は、IFSCC Conference Proceedings, 2016, Orlandoに、タイトル「Ease stress and support skin revitalization(ストレスを和らげ、肌の活性化をサポートする)」L. Heider et al.で公開された記事において、サイトカイン、とりわけ化学化合物であるホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)によって皮膚が炎症を起こしている場合インターロイキン8、の排泄を減らす化合物として、記載されている。データは、DIPVMの抗炎症活性を確認する。
【0026】
本発明は、化学的に誘発されたストレスから皮膚を保護するための、式Iの化合物の非治療的使用に関する:
【0027】
【0028】
式中、
R1は-C(O)CH3または-CO2R3を示し、
R2、R3およびR4は、いずれの場合も、相互に独立して、1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示し、
R5は、1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基または1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルコキシ基を示す。
【0029】
本発明は、さらにまた、化学的に誘発されたストレスから皮膚を保護するための、少なくとも1の式Iの化合物を含む化粧調製物またはメディカルデバイスの使用に関する:
【0030】
【0031】
式中、
R1は、-C(O)CH3または-CO2R3を示し、
R2、R3およびR4は、いずれの場合も、相互に独立して、1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示し、
R5は、1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基または1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルコキシ基を示す。
【0032】
上に記載または好ましく記載された、化学的に誘発されたストレスおよびその結果の定義が、適用される。
【0033】
本発明は、化学的ストレス要因の作用、好ましくは汚染物質、刺激物および/または脂質過酸化を誘発する重金属の作用の結果から皮膚を保護するための、上に記載のとおり、式Iの化合物の非治療的使用に特に好ましくは向けられている。
【0034】
本発明は、さらにまた、表皮の形態学的変化の予防および/または予防法のための、式Iの化合物の非治療的使用に関する:
【0035】
【0036】
式中、
R1は、-C(O)CH3または-CO2R3を示し、
R2、R3およびR4は、いずれの場合も、互いに独立して、1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示し、
R5は、1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基または1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルコキシ基を示す。
【0037】
本発明は、さらにまた、表皮の形態学的変化の予防および/または予防法のための、少なくとも1の式Iの化合物を含む化粧調製物またはメディカルデバイスの使用に関する:
【0038】
【0039】
式中、
R1は、-C(O)CH3または-CO2R3を示し、
R2、R3およびR4は、いずれの場合も、互いに独立して、1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示し、
R5は、1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基または1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルコキシ基を示す。
【0040】
表皮はさまざまな様々な細胞型を含有しており、化学的に誘発されたストレスに非常に敏感に反応する皮膚の一部である。表皮の形態学的変化は、例えば、細胞核の変化、それに続く真皮-表皮界面の分離および/または好酸性細胞質の出現から、および/または浮腫の存在から、および/または表皮症から認識され得る。改変された細胞核は、例えば、ピクノティックまたは核溶解性の細胞核である。式Iの化合物は、好ましくは予防作用を有する。
【0041】
本発明は、さらにまた、皮膚のバリアを安定化するための、式Iの化合物の非治療的使用にも関する:
【0042】
【0043】
式中、
R1は、-C(O)CH3または-CO2R3を示し、
R2、R3およびR4は、いずれの場合も、互いに独立して、1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示し、
R5は、1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基または1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルコキシ基を示す。
【0044】
非治療的使用のために、式Iの化合物は、好ましくは化粧調製物またはメディカルデバイスにおいて皮膚に適用される。
【0045】
結果的に、上に記載のまたは好ましくは下に記載の式Iの化合物は、好ましくは、化学的に誘発される、とりわけ脂質過酸化を誘発する化学的ストレス因子によって誘発されるストレスから皮膚を保護するため、または好ましくは脂質過酸化を誘発する化学的ストレス因子への曝露時に、特に表皮において、形態学的変化から皮膚を保護するための化粧調製物またはメディカルデバイスにおいて使用される。
【0046】
結果的に、上に記載のまたは好ましくは下に記載の式Iの化合物は、皮膚のバリアを安定化するための化粧調製物またはメディカルデバイスにおいて好ましく使用される。
【0047】
非治療的使用は、とりわけ、化粧的使用である。結果的に、式Iの化合物は、とりわけ、化粧調製物において用いられる。
【0048】
本発明は、具体的に好ましくは、接着剤、洗浄材料またはスプレーから生じるエアゾル、芳香族炭化水素および/または揮発性有機化合物、重金属または粒子状物質の群から選択される化学的ストレス因子に皮膚が接触する場合の、上に記載または下に好ましく記載された、式Iの化合物の非治療的使用に向けられる。
【0049】
本発明は、極めて具体的に好ましくは、重金属、タバコの煙、都市のほこり、細かいほこり、ディーゼル排気ガスや産業廃棄物ガスからの粒子の化学的ストレス因子と、とりわけ重金属およびディーゼル排気ガスからの粒子と皮膚が接触した場合の、上に記載または下に好ましく記載された、式Iの化合物の非治療的使用に向けられる。
【0050】
上に記載および下に好ましく記載された、式Iの化合物の代表として、ジ(2-エチルヘキシル)3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナートの効き目は、実験部分において、化合物ジイソプロピル5-メトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート(DIPVM)と比較してex vivoで確認される。
【0051】
上に記載のとおり、式Iの化合物における置換基R1は、-C(O)CH3または-CO2R3を示すことができる。R1が-C(O)CH3を示す場合、式Iの化合物は、アルファ-アセチルケイ皮酸エステルと称することもできる。
R1が-CO2R3を示す場合、式Iの化合物は、好ましくはベンジリデンマロン酸エステルと称される。
式Iの化合物は、R1が-CO2R3を示し、およびR3が上記または下記の、または好ましいと記載された意味を有する場合、本発明に従って好ましく使用される。
【0052】
本発明は、したがってさらにまた、式Iの化合物における置換基R1が-CO2R3を示し、およびR3が上記または下記に与えられた意味を有することを特徴とする、式Iの化合物の非治療的使用に関する。
【0053】
上に記載のとおり、置換基R2、R3およびR4は、いずれの場合も、互いに独立して、1~20個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示す。
【0054】
1~4、1~8、1~12、または1~20個のC原子を有する直鎖または分枝のアルキル基は、式CpH2p+1式中p=1、2、3または4、または1、2、3、4、5、6、7または8、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20、例えばメチル、エチル、i-プロピル、プロピル、ブチル、i-ブチルまたはtert-ブチル、ペンチル、1-、2-または3-メチルブチル、1,1-、1,2-または2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピルまたはヘキシル、へプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、へプタデシル、オクタデシル、ノナデシルまたはエイコシルに一致する。
アルキル基が詳細に指定されない場合、それは直鎖アルキル基である。
【0055】
式Iの化合物は、置換基R2およびR3が同一のである場合、本発明に従って好ましく使用される。
【0056】
本発明は、したがってさらにまた、式Iの化合物において置換基R2およびR3が同一であることを特徴とする、式Iの化合物の非治療的使用に関する。
【0057】
式Iの化合物は、置換基R2、R3およびR4が、いずれの場合も、互いに独立して、1~8個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示す場合、本発明に従って好ましく使用される。
【0058】
本発明は、したがってさらにまた、置換基R2、R3およびR4が、いずれの場合も、互いに独立して、1~8個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示すことを特徴とする、式Iの化合物の非治療的使用に関する。
【0059】
本発明に従って、式中、R1が-CO2R3を示し、置換基R2およびR3が、同一であって、1~8個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示し、R4がメチルまたはエチルを示す、式Iの化合物の使用が具体的に好ましい。
【0060】
本発明に従って、式中、R1が-CO2R3を示し、置換基R2およびR3は、同一であって、4~8個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示し、R4がメチルを示す、式Iの化合物の使用が、極めて具体的に好ましい。
【0061】
式Iの化合物は、置換基R5が1~8個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基または1~8個のC原子を有する線状または分枝状のアルコキシ基を示す場合、本発明に従って好ましく使用される。
式Iの化合物は、置換基R5が1~8個のC原子を有する線状または分枝状のアルコキシ基を示す場合、具体的に本発明に従って好ましく使用される。
【0062】
本発明は、したがってさらにまた、置換基R5が1~8個のC原子を有する線状または分枝状のアルコキシ基、好ましくは1~4個のC原子を有する線状または分枝状のアルコキシ基、具体的に好ましくはメトキシまたはエトキシ、極めて具体的に好ましくはメトキシを示すことを特徴とする、式Iの化合物の非治療的使用に関する。
【0063】
本発明に従って、式中、R1が-CO2R3を示し、置換基R2およびR3が、同一であって、1~8個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示し、R4がメチルまたはエチルを示し、およびR5が1~4個のC原子を有する線状または分枝状のアルコキシ基を示す、式Iの化合物の使用が極めて具体的に好ましい。
【0064】
本発明に従って、式中、R1が-CO2R3を示し、置換基R2およびR3が、同一であって、4~8個のC原子を有する線状または分枝状のアルキル基を示し、R4がメチルを示し、R5がメトキシまたはエトキシを示す、式Iの化合物の使用が、極めて具体的に好ましい。
【0065】
極めて具体的に好ましい式Iの化合物は、
ジメチル3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジエチル3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジイソプロピル3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジプロピル3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジブチル3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジ(tert.ブチル)3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジペンチル3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジヘキシル3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジへプチル3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジ(2-エチルヘキシル)3,4-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジオクチル3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジメチル3,5-ジエトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジエチル3,5-ジエトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジイソプロピル3,5-ジエトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジプロピル3,5-ジエトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジブチル3,5-ジエトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジ(tert.ブチル)3,5-ジエトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジペンチル3,5-ジエトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジヘキシル3,5-ジエトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジへプチル3,5-ジエトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジ(2-エチルヘキシル)3,5-ジエトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート、
ジオクチル3,5-ジエトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート.
である。
【0066】
上に言及された化合物のうち、化合物ジ(2-エチルヘキシル)3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナートが、本発明のために具体的に好適である。
【0067】
上に記載または好ましく記載された、少なくとも1の式Iの化合物を含む、化粧調製物またはメディカルデバイスのタイプは、ここでは制限されない。
【0068】
本明細書において調製物は、大抵、局所的に使用することができる調製物である。この場合における調製物は、美容上または皮膚科学的に好適なビヒクル、および所望される特性プロファイルに応じて任意にさらなる好適な成分を含む。メディカルデバイスである場合、メディカルデバイスに許容されるビヒクルが選択される。
【0069】
本発明の目的のために、「局所的に使用することができる」は、調製物が外部および局部的に使用されることを意味し、すなわち調製物は、例えば皮膚への、適用に好適でなければならない。
【0070】
調製物は、該必須のまたは任意の構成物質を包含するまたは含む、から本質的になる、またはからなり得る、調製物において使用することができる、すべての化合物または構成要素は、既知であり市販されているか、または既知のプロセスによって合成可能であるかのいずれかである。
好適な調製は、例えば、WO03/007906から知られている。
【0071】
非治療的使用において、上に記載または好ましく記載された、式Iの化合物は、好ましくは対応する調製物に、0.01~5重量パーセント、好ましくは0.05~2重量%の量で、具体的に好ましくは0.08~0.5重量%の量で組み込まれ、ここで、量の表示は、調製物の全量に関する。
【0072】
上に記載または好ましく記載された、式Iの化合物が、皮膚にとりわけ十分にそれらのポジティブな効果を発達させることができるために、式Iの化合物を、より深い皮膚層へ浸透させることが好ましいかもしれない。数多の可能性が、この目的のために存在する。好ましい可能性は、上に記載された、または好ましく記載された、少なくとも1の式Iの化合物を含むリポソームおよび/またはナノエマルションの対応する調製物における使用であり、これは、外側の皮膚層を介する式Iの化合物の輸送を促進する。
【0073】
リポソームおよび/またはナノエマルションの調製のために、上に記載された、または好ましく記載された、式Iの化合物を、それら自体を凝集してベシクルを形成することができる、表面-活性の、大抵は、両親媒性の化合物と接触させる。
【0074】
リポソームは、水性相を封入するベシクルである。ベシクルは、1以上の脂質二重層からなる。脂質二重層は、非極性部および極性部の両方を有し、したがって両親媒性である分子からなる。リポソームのサイズおよび構造はさまざまである。リポソームは好ましくは約15~3500nm、具体的に好ましくは50~1000nmの直径を有する。膜形成分子は、大抵は、ステロイド、リン脂質、糖脂質、スフィンゴ糖脂質、リポ多糖、スクアレン、トコフェロール、脂肪酸または前記分子の混合物である。
【0075】
好ましいリポソームは、高い割合の(80%より多い)ホスファチジルコリンを有するリン脂質から調製される。ホスファチジルコリンの同義語は、レシチンである。これらは、脂肪酸、グリセロール、リン酸およびコリンから構成されるリン脂質である。レシチンは、動植物の細胞膜の構成物質である。一般に、大豆植物からのホスファチジルコリンが使用され、これは、高い割合の不飽和必須脂肪酸、例えばリノール酸を含有する。リノール酸はリポソーム膜に高い柔軟性を提供することができる。水素化されたホスファチジルコリン(PC80H)が、リポソームの調製に使用される場合、ベシクル膜は、より硬く、親油性活性化合物をベシクル膜に有効に組み込むことができない。
【0076】
ナノエマルションは、脂質単層から形成され、水性相から区切られる親油性相によって特徴づけられる。この態様において、式Iの化合物は、膜形成分子の単層にある。リポソームについて説明したものと同じコメントが膜形成分子にも当てはまる。
【0077】
少なくとも1の式Iの化合物のために好ましい溶媒は、例えば、メタノール、エタノールまたはイソプロパノールなどのアルコール、グリセロール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ソルビトール、エトキシジグリコールおよび/またはジイソプロピルアジパートなどのポリオールである。具体的に好ましい溶媒は、エタノール、エトキシジグリコールおよび/またはジイソプロピルアジパートである。
【0078】
上に記載された、または好ましく記載された、式Iの化合物の、化学的にストレスを受けた皮膚の予防または処理のために同じく好適な他の活性化合物との組み合わせは有利である。これは、リポソームまたはナノエマルション、あるいは使用を目的とした調製物に一緒に入れることができる。
【0079】
上に記載または好ましく記載された、少なくとも1の式Iの化合物との組み合わせのための具体的に好適な化粧品活性化合物は、例えば、抗発赤物質、保湿剤、保水剤、抗しわ調製物、弾性特性を改善するための剤、コラーゲン合成の刺激に効果のある物質、炎症抑制物質、抗酸化剤および/またはビタミンである。
【0080】
組み合わせのための具体的に好適な活性化合物は、例えば、ビスアボロール、バイオフラボノイド、オスモライト、アラントイン、ビオチン、2-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシベンジル)マロン酸ビス(2-エチルヘキシル)エステル、RonaCare(R)APとしてMerckから市販、尿素、ナイアシンアミド、サリチル酸または酸化亜鉛である。
【0081】
好ましいバイオフラボノイドは、例えば、ケルセチン、グルコシルルチン、イソクエルセチン、ルチンまたはトロキセルチンである。好ましいオスモライトは、エクトインまたはヒドロキシエクトインである。
【0082】
上に記載のとおりの式Iの化合物と組み合わせることができるさらに好適な製品は、製品RonaCare(R)PoppySE、ポピーからの抽出物、Emblica(R)、アムラ果実(インディアングーズベリー)からの抽出物、活性化合物5,7-ジヒドロキシ-2-メチルクロメン-4-オンを有するRonaCare(R)Luremin(R)、RonaCare(R)SereneShieldおよびRonaCare(R)RenouMer、藻類抽出物、同じくMerckから市販、である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1】
図1は、未処理の外植片の組織学的写真を示す図である。
【
図2】
図2は、エタノールおよび刺激物で処理した外植片の組織学的写真を示す図である。
【
図3】
図3は、化合物Aおよび刺激物を含有する溶液で処理した外植片の組織学的写真を示す図である。
【
図4】
図4は、化合物Bおよび刺激物を含有する溶液で処理した外植片の組織学的写真を示す図である。
【
図5】
図5は、ゲルDおよび刺激物で処理した外植片の組織学的写真を示す図である。
【0084】
以下の実施例は、本発明を限定することなく説明することを意図している。本発明は、請求された範囲全体にわたって対応して実施することができる。実行可能なバリアントは、例から導き出すこともできる。
【0085】
化合物ジ(2-エチルヘキシル)3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシ-ベンジリデンマロナートをWO03/007906の例XVIIにしたがって調製し、以下の例において用いた。
【0086】
化合物ジイソプロピル3-メトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート(DIPVM)をEP1952843の例VIにしたがって調製し、以下の例において用いた。
【0087】
例1:生きているヒトの皮膚の外植片におけるex-vivo研究
ex-vivo研究を、白い皮膚の色を有する55歳の女性(P1922-AB54)からの皮膚の外植片において実施した。外植片は、BEM培養培地(BIO-ECからの外植片培地)において37℃で、5%のCO2を含有する湿った雰囲気下で機能状態に保った。4つの外植片を、物質、対照または参照の実験シリーズの各ケースにおいて使用する。
【0088】
化学的に誘発されたストレスを引き起こすために用いられた刺激物は、商品番号1.10714.0500でMerckから購入された金属および重金属の溶液であり、これはとりわけ、Al、As、B、Ba、Be、Ca、Cd、Cr、Cu、Fe、Hg、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、P、Pb、Sa、Sc、Se、Sr、Te、Ti、Y、Znを含み、ここで0.1%のディーゼル粒子もこの溶液に添加された(1mg/ml、粒子サイズPM2.5、1650b、NISTから)。
【0089】
調査対象である化合物AおよびBは、エタノール中の0.5%溶液で使用する。外植片へのエタノールの影響を並行して調査する(化合物C=エタノール)。用いられた参照は、商品番号56300のDECLEORからのゲルであり(ゲルD;decleor gelee hydratante anti-pollution)、これは、化学物質、重金属およびディーゼル粒子から皮膚を保護すると知られている。使用した対照は、培養培地と接触したのみの未処理試料である。
【0090】
化合物Aは、ジエチルヘキシルシリングリイデンマロナート(DESM、ジ(2-エチルヘキシル)3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート)である。
化合物Bは、ジイソプロピルバニリデンマロナート(DIPVM、ジイソプロピル3-メトキシ-4-ヒドロキシベンジリデンマロナート)である。
【0091】
商品番号1.10714.0500のMerckからの刺激物、ここで金属/重金属は、以下の濃度で、5%塩酸に溶解している:
Al 0.01mg/ml
As 0.01mg/ml
B 0.001mg/ml
Ba 0.001mg/ml
Be 0.0005mg/ml
Ca 0.005mg/ml
Cd 0.001mg/ml
Cr 0.001mg/ml
Cu 0.001mg/ml
Fe 0.001mg/ml
Hg 0.0025mg/ml
K 0.0495mg/ml
Li 0.001mg/ml
Mg 0.0005mg/ml
Mn 0.0005mg/ml
Na 0.01mg/ml
Ni 0.0025mg/ml
P 0.005mg/ml
Pb 0.01mg/ml
Sc 0.0005mg/ml
Sa 0.01mg/ml
Sr 0.0005mg/ml
Te 0.01mg/ml
Ti 0.001mg/ml
Y 0.0005mg/ml
Zn 0.001mg/ml
上に記載のとおりディーゼル粒子が添加されている。
【0092】
試料適用
外植片は、化合物AおよびB、ならびに化合物CおよびゲルDを含むテスト対象の溶液(2mg/cm2対応する外植片あたり2μl)で4日間(0日目=D0、1日目=D1、2日目=D2、3日目=D3)、毎日1回処理される。D3に、刺激物を塗布する4時間前に、テストする溶液および参照を処理する。
エタノールを蒸発させるために、化合物Cを有する外植片を各ケース10分間乾燥させる。
すべての外植片は培地に残し、D2にその半分を補充し、D3にそのすべてを補充する。
D3に、外植片を、上に記載のとおりの金属/重金属およびディーゼル粒子を含有する刺激物で処理し、ここで直径9mmの紙ディスクを30μlの刺激物に浸す。刺激物は、夫々の外植片に24時間作用する。
4日目(D4)に、調査する化合物ごとに、3つの外植片を収集する。各外植片を分割し、一部を-80℃で凍結し、残りの半分を緩衝ホルモル溶液(ホルムアルデヒド溶液)で固定する。4つ目の外植片を-80℃で凍結したままとする。
【0093】
処理された外植片の培養培地を、化合物MDAについて調査する。MDAは、マロンジアルデヒド(プロパンジアール)の略であり、上に記載のとおりの酸化ストレスの既知のマーカーである。
【0094】
組織学的調査:
24時間固定した外植片を脱水素化し、パラフィンに含浸させる。次に、厚さ5μmの領域を切り取り、顕微鏡(たとえば、Leica DMLBまたはOlympus BX43)で調査する。対応する画像を、組織学の標準的な染色方法であるマッソン染色法(マッソンの三色染色、ゴールドナーバリアント)を使用して作成する。染色により、細胞と周囲の組織とを区別することができる。これにより、角質層、表皮、真皮-表皮閾値、および乳頭真皮に関する外植片の変化が見えるようになる。
表皮は様々な細胞型を含有し、化学的に誘発されたストレスに非常に敏感に反応する皮膚の一部である。
研究における刺激物の影響は、例えば、表皮の形態から明らかである。表皮形態の変化は、例えば、細胞核の変化、真皮-表皮界面の分離および/または好酸性細胞質の出現から、および/または浮腫の存在から認識され得る。改変された細胞核は、例えば、ピクノティック細胞核または核溶解性細胞核である。
【0095】
MDA調査:
調査した各外植片の培地を塩培地(HBBS Medium Hank’s Balanced Salts)およびTBAR溶液と混合し、80℃の水浴で15分間加熱する。TBAR溶液は、チオバルビツール酸、塩酸、トリクロロ酢酸を含有する。リポ過酸化とは関係のない多くの物質は、チオバルビツール酸、例えばグルコースと反応する。冷却後、マロンジアルデヒド(MDA)をブタノールで液/液抽出して抽出し、分光蛍光光度法(励起515nm、発光:550nm)で調査する。以下に示すMDA濃度は、nmol/lで示す。
【0096】
試験結果:
1.結果の解釈のために、未処理の外植片(刺激物なし、化合物A、B、CおよびゲルDなし)の培地にも4日目にMDAが含まれていることを考慮に入れる。
結果の分析のために、したがって、刺激物によるMDA生成の影響を判断するために、未処理の外植片に平均して存在するこのMDAの量を、外植片サンプルで得られた値から差し引く。
【0097】
刺激物による化学的ストレス下でのエタノール(化合物C)の調査は、エタノールが標的分子MDAに影響を及ぼさないことを示す。したがって、エタノール溶液中の化合物AおよびBの調査結果は、溶媒ではなく化合物の影響である。
【0098】
未処理試料の培養培地におけるMDA濃度は、平均すると98.3nmol/lである。
刺激物のみで処理された外植片の培養培地におけるMDA濃度は、平均すると143.6nmol/lである。
刺激物単独に起因する平均MDA濃度は、45.3nmol/l(143.6-98.3=45.3[nmol/l])である。
化合物Aおよび刺激物で処理された外植片の培養培地におけるMDA濃度は、平均すると129.0nmol/lである。
刺激物なしで、化合物Aで処理された外植片の培養培地におけるMDA濃度は、平均すると94.7nmol/lである。
化合物Aの存在下での刺激物単独に起因する、平均MDA濃度は34.3nmol/l(129.0-94.7=34.3[nmol/l])である。
化合物Bおよび刺激物で処理した外植片の培養培地におけるMDA濃度は、平均すると135.5nmol/lである。
刺激物なしで、化合物Bで処理した外植片の培養培地におけるMDA濃度は、平均すると93.6nmol/lである。
化合物Bの存在下での刺激物単独に起因する、平均MDA濃度は、41.9nmol/l(135.5-93.6nmol/l=41.9[nmol/l])である。
ゲルDおよび刺激物で処理された外植片の培養培地におけるMDA濃度は、平均すると145.0nmol/lである。
刺激物なしで、ゲルDで処理された外植片の培養培地におけるMDA濃度は、平均すると96.0nmol/lである。
ゲルDの存在下での刺激物単独に起因する、平均MDA濃度は、49.0nmol/l(145.0-96.0=49.0[nmol/l])である。
【0099】
結果の解釈:
化合物Aを含有するエタノール溶液は、10%低いMDA産生を誘発し、これは有意な低減に対応する。これを刺激物によってのみ放出されるMDAの量に標準化した場合、化合物Aを含む溶液はMDA産生を24%妨げる。
化合物Bを含有するエタノール溶液は、6%低いMDA産生を誘発し、これは有意な低減に対応する。これを刺激物によってのみ放出されるMDAの量に標準化した場合、化合物Bを含む溶液はMDA産生を8%妨げる。
ゲルDを含有する参照は、有効な効果を有さない(1%変化)。
【0100】
2.組織学的結果の解釈
組織学的調査は、化合物C(エタノール)および刺激物で処理された外植片が表皮に明らかな形態学的変化を示すことを示す。
【0101】
図1は、未処理の外植片の組織学的写真を示す。
図2は、エタノールおよび刺激物で処理した外植片における表皮の形態学的変化を示す。
図2の表皮は、表皮上部に核周囲浮腫を伴う多数のピクノティック細胞、および基底層に明確な海綿状態を示し、アカントーシスを伴うゾーンはほとんどない。組織学的調査は、上記および
図3に示すように、化合物Aおよび刺激物で処理した外植片は、未処理試料と比較して表皮の変化を有さないことを示す(
図1)。
【0102】
組織学的調査は、上記および
図4に示すように、化合物Bおよび刺激物で処理した外植片は、未処理試料と比較して表皮の形態学的変化を有することを示す(
図1)。
図4の表皮は、上部表皮に核周囲の浮腫を伴う多数のピクノティック細胞を示す。
【0103】
組織学的調査は、上記および
図5に示すように、ゲルDおよび刺激物で処理された外植片は、未処理試料と比較して表皮の形態学的変化を有することを示す(
図1)。
図5の表皮は、表皮上部に核周囲の浮腫を伴ういくつかのピクノティック細胞を示す。
【0104】
上記のように、検出可能な変化にスコアを割り当てることによって形態学的な表皮の変化を定量化する場合、変化を相互に比較することができる。示された組織学的調査について、これは、未処理の対照、および化合物Aおよび刺激物で処理された外植片と比較して、化合物Bおよび刺激物で処理された外植片において、またはエタノールおよび刺激物で処理された外植片において、表皮の状態が約55%悪化することを意味する。
示された組織学的調査について、これは、未処理の対照、および化合物Aおよび刺激物で処理された外植片と比較して、参照および刺激物で処理された外植片において表皮の状態が約33%悪化することを意味する。