(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】組成物、皮膜、フィルム及び基材
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20231124BHJP
C08L 33/08 20060101ALI20231124BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08L33/08
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2020561542
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050072
(87)【国際公開番号】W WO2020130132
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2018240327
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 結稀
(72)【発明者】
【氏名】俊成 謙太
(72)【発明者】
【氏名】梅田 康成
(72)【発明者】
【氏名】稲富 敦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 明士
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/075591(WO,A1)
【文献】特開平10-001579(JP,A)
【文献】特開2002-052659(JP,A)
【文献】特開2001-072873(JP,A)
【文献】特開平08-283682(JP,A)
【文献】特開2001-172593(JP,A)
【文献】特開平09-328581(JP,A)
【文献】特開2002-285070(JP,A)
【文献】特開2000-169650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位の含有量が全構造単位に対して0.5~19モル%であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び粒子(B)を含む
水性エマルションであって、
前記粒子(B)は重合体粒子(B
X
)を含有しており、前記重合体粒子(B
X
)は(メタ)アクリル酸エステル系単層型重合体粒子及び(メタ)アクリル酸エステル系コアシェル型重合体粒子からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記粒子(B)の含有量が、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して1質量部以上100質量部未満である
水性エマルション。
【請求項2】
エチレン変性PVA(A)の粘度平均重合度が200~18,000である、請求項1に記載の水性エマルション。
【請求項3】
粒子(B)の平均粒子径が10~500nmである、請求項1又は2に記載の水性エマルション。
【請求項4】
前記重合体粒子(B
X)がイオン性基を含む分散剤を含有する、請求項
1~3のいずれか1項に記載の
水性エマルション。
【請求項5】
前記イオン性基が、アニオン性基及びアニオン性基の塩からなる基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項
4に記載の
水性エマルション。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の
水性エマルションから形成される皮膜。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の
水性エマルションから形成されるフィルム。
【請求項8】
請求項
6に記載の皮膜又は請求項
7に記載のフィルムを有する基材。
【請求項9】
接着剤用途、繊維加工剤用途、バインダー用途、コーティング剤用途、インク用途又は塗料用途である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の
水性エマルション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組成物、皮膜、フィルム及び基材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール由来の構成単位からなる単独樹脂に加えて、ビニルアルコール由来の構成単位とエチレン由来の構成単位等を有する共重合樹脂等があり、これらは、繊維加工剤、皮膜、包装用フィルム、酸素バリアフィルム、バインダー、塗料等の広範な用途に利用されている。特に、繊維加工剤用途、皮膜用途、フィルム用途及びバインダー用途では靭性化、特に引張時の剛性(降伏応力又は耐力と弾性率)と伸びの両立の要求が強い。物性の改質手法の一つとして重合体粒子の添加が挙げられる。しかし、重合体粒子をポリビニルアルコール系樹脂の水溶液に添加する場合、条件によっては重合体粒子の凝集が起こり、それによってポリビニルアルコール系樹脂の性能を低下させるため、ポリビニルアルコール系樹脂の性能の改善のためには分散性の良好な重合体粒子を組み合わせる必要があり、それゆえ、重合体粒子の組成が制限されることが多かった。
【0003】
そのような状況下、ポリビニルアルコール系樹脂に対する分散性が良好な重合体粒子として、変性ポリビニルアルコールを分散安定剤として用いて製造された重合体粒子を形成し、こうして得られた重合体粒子をポリビニルアルコール系樹脂へ添加したエマルジョンが提案されている(特許文献1及び2参照)。
特許文献1には、変性ポリビニルアルコールを分散安定剤として粒子最外層に有する重合体粒子を含有する水性エマルジョンをポリビニルアルコールに添加し、次いでフィルム形成したところ、他の種類の分散安定剤を使用した重合体粒子を使用した場合及び分散安定剤を用いずに形成した重合体粒子を使用した場合よりも重合体粒子の凝集が起こり難く、低温低湿度下における耐衝撃性が向上し、高湿度下においても引張強度及び弾性率を有していることが記載されている。特許文献2には、側鎖に1,2-ジオール構造を持つ変性ポリビニルアルコールを分散安定剤として用いて形成した重合体粒子をポリビニルアルコール系樹脂水溶液に所定比率で添加して得られる二次電池負極用バインダー組成物が、弾性率と柔軟性のバランスに優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開09-328581号公報
【文献】特開2017-117789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に開示されている方法では、重合体粒子の形成の際に比較的高価な変性ポリビニルアルコールを用いることが必須であり、そのような制限のない技術の開発が求められる。
また、本発明者らの検討により、特許文献1及び2では、重合体粒子の分散性を向上させることができたものの、必ずしも高い水準で剛性と伸びとを両立できないことが判明した。ここで、本明細書において、高い水準の剛性とは、高い降伏応力又は高い耐力、及び高い弾性率を意味する。
【0006】
そこで、本発明の目的は、幅広い種類の粒子を分散性良く含有する組成物であり、且つ、低湿度下等においても十分な水準で剛性と伸びとを両立し得る組成物を提供すること、並びに該組成物から形成される皮膜及びフィルム、及び該皮膜又はフィルムを有する基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ポリビニルアルコール系樹脂としてエチレン単位の含有量が所定量のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を使用し、所定量の粒子(B)を含有させることで上記課題を解決し得ることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0008】
[1]エチレン単位の含有量が全構造単位に対して0.5~19モル%であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及び粒子(B)を含む組成物であって、前記粒子(B)の含有量が、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して1質量部以上100質量部未満である組成物。
[2]前記粒子(B)が、重合体粒子(BX)及び無機粒子(BY)からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]の組成物。
[3]前記重合体粒子(BX)が、(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子、共役ジエン系重合体粒子、スチレン系重合体粒子、スチレン-共役ジエン系共重合体粒子、ウレタン系重合体粒子、酢酸ビニル系重合体粒子、エステル系重合体粒子、アミド系重合体粒子、イミド系重合体粒子、カーボネート系重合体粒子、アリレート系重合体粒子、スルホン系重合体粒子及びフェノキシ系重合体粒子からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[2]の組成物。
[4]前記重合体粒子(BX)が、(メタ)アクリル酸エステル系単層型重合体粒子及び(メタ)アクリル酸エステル系コアシェル型重合体粒子からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[2]又は[3]の組成物。
[5]前記重合体粒子(BX)がイオン性基を含む分散剤を含有する、上記[2]~[4]のいずれかの組成物。
[6]前記イオン性基が、アニオン性基及びアニオン性基の塩からなる基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[5]の組成物。
[7]上記[1]~[6]のいずれかの組成物から形成される皮膜。
[8]上記[1]~[6]のいずれかの組成物から形成されるフィルム。
[9]上記[7]の皮膜又は上記[8]のフィルムを有する基材。
[10]接着剤用途、繊維加工剤用途、バインダー用途、コーティング剤用途、インク用途又は塗料用途である、上記[1]~[6]のいずれかの組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、幅広い種類の粒子を分散性良く含有する組成物であり、且つ、低湿度下等においても十分な水準で剛性と伸びとを両立した組成物を提供すること、並びに該組成物から形成される皮膜及びフィルム、及び該皮膜又はフィルムを有する基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例2において作製したキャストフィルムの透過型電子顕微鏡(TEM)による写真(直接倍率:1万倍)である。
【
図2】実施例2において作製したキャストフィルムの透過型電子顕微鏡(TEM)による写真(直接倍率:5万倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[組成物]
本発明の組成物は、エチレン単位の含有量が全構造単位に対して0.5~19モル%であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)[以下、単に「エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)」又は「エチレン変性PVA(A)」と称することがある。]及び粒子(B)を含む組成物であって、前記粒子(B)の含有量が、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して1質量部以上100質量部未満の組成物である。
粒子(B)の含有量が1質量部未満であると、組成物をフィルムにして用いる際に十分な水準での剛性と伸びの両立が困難となる。また、粒子(B)の含有量が100質量部以上であると、粒子(B)の分散性並びに剛性又は伸びが低下する。
同様の観点から、粒子(B)の含有量は、エチレン変性PVA(A)100質量部に対して1~70質量部であることが好ましく、3~50質量部であることがより好ましく、3~40質量部であることがさらに好ましく、5~30質量部であることが特に好ましい。
本発明の組成物中におけるエチレン変性PVA(A)及び粒子(B)の合計含有量は、低湿度下等における十分な水準での剛性と伸びの両立という観点から、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、実質的に100質量%であってもよい。
なお、本明細書において「室温」とは25℃を指す。
以下、本発明の組成物が含む各成分について順に詳述する。
【0012】
<エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)>
本発明で使用するエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)[エチレン変性PVA(A)]は、ビニルアルコール単位を有する重合体(場合によっては、ビニルアルコール単位とビニルアルコール誘導体単位を有する重合体)[以下、「PVA系重合体」と称する。]のエチレン変性体である。該エチレン変性PVA(A)中のエチレン単位の含有量は全構造単位に対して0.5~19モル%である。
本明細書において、「~~単位を有する」とは、「~~に由来する構造単位を有する」の意味である。ビニルアルコール単位は、ビニル基部位にて連結し、水酸基を側鎖として有する構造単位である。ビニルアルコール誘導体単位とは、特に制限されるものではないが、例えば、(1)前記ビニルアルコール単位が有する水酸基がアセトキシ基に変換された構造単位、(2)前記ビニルアルコール単位2つをアセタール化した構造単位等が挙げられる。なお、ビニルアルコール誘導体単位は、その構造単位がビニルアルコール単位から誘導し得るものであるか、又は該誘導体単位の方からビニルアルコールへ変換可能であればよく、必ずしもビニルアルコールから誘導されたものでなければならないことを意味するものではない。
なお、特に制限されるものではないが、エチレン変性PVA(A)はアイオノマーであってもよい。アイオノマーとは、一般的な定義と同様に定義され、つまり、イオンによる分子間の架橋構造又は分子の凝集構造を有する重合体のことである。前記イオンとしては、特に制限されるものではないが、アルカリ金属の陽イオン;アルカリ土類金属の陽イオン;亜鉛等の遷移金属の陽イオン;アンモニウムイオン等の有機陽イオン;ハロゲン化物イオン等の陰イオン等が挙げられる。
【0013】
エチレン変性PVA(A)は、後述する粒子(B)との相溶性が良好であるため、後述するエマルション中での粒子(B)の分散性が良好となり、ひいてはフィルム中での粒子(B)の分散性に優れ、且つ、十分な水準で剛性と伸びとを両立できる。エチレン変性PVA(A)中のエチレン単位の含有量は、前述の通り、全構造単位に対して0.5~19モル%である。0.5モル%以上であれば、耐水性が良好となり、19モル%以下であれば、エチレン-ビニルアルコール共重合体の水溶液又は水分散液の調製が容易になる。
同様の観点から、エチレン-ビニルアルコール共重合体中のエチレン単位の含有量は、全構造単位に対して1.5~15モル%であることがより好ましく、2.0~12モル%であることがさらに好ましく、4.0~8.0モル%であることが特に好ましい。
【0014】
エチレン変性PVA(A)におけるエチレン単位の含有量は、1H-NMR測定によって求めることができる。例えば、エチレン変性PVA(A)の前駆体又は再酢化物であるエチレン単位を含有するビニルエステル系共重合体の1H-NMR測定から求める。より詳細には、ビニルエステル系共重合体を、n-ヘキサン及びアセトンの混合液で再沈精製を3回以上行った後、80℃で3日間減圧乾燥することによって、分析用のビニルエステル系共重合体を得る。これをDMSO-d6に溶解し、1H-NMR測定装置(例えば500MHz)を用いて80℃で測定する。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(4.7~5.2ppm)と、エチレン、ビニルエステル及び第三成分の主鎖メチレンに由来するピーク(0.8~1.6ppm)を用いてエチレン単位の含有量を算出する。
【0015】
エチレン変性PVA(A)は、ビニルアルコール単位及びエチレン単位を含有しており、場合によってはビニルエステル単位を含有している。エチレン変性PVA(A)は、さらにその他の単量体単位を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。その他の単量体単位を構成する化合物としては、特に制限されるものではないが、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ヘキセン等のα-オレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸もしくはその塩、又は前記不飽和酸のモノアルキルエステルもしくはジアルキルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチレングリコールビニルエーテル、1,3-プロパンジオールビニルエーテル、1,4-ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル;オキシアルキレン基を有する化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、7-オクテン-1-オール、9-デセン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オール等のヒドロキシ基含有のα-オレフィン;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する化合物又はその塩;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、3-(N-メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する化合物が挙げられる。エチレン変性PVA(A)がその他の単量体単位を含有する場合、その含有量は、20モル%以下が好ましく、5モル%以下であってもよく、1モル%以下であってもよく、0.5モル%以下であってもよい。
【0016】
(粘度平均重合度)
エチレン変性PVA(A)の粘度平均重合度[以下、「重合度」と称することがある。]は、200~18,000が好ましい。エチレン変性PVA(A)の重合度は300~15,000がより好ましく、300~10,000がさらに好ましく、300~5,000がよりさらに好ましく、300~3,000が特に好ましく、500~2,000が最も好ましい。エチレン変性PVAの重合度が前記下限値以上である場合、組成物としての強度が低下することを抑制できる傾向にあり、一方、重合度が前記上限値以下である場合、溶液粘度が高くなることを抑制し、成形性が向上する傾向にある。
エチレン変性PVAの重合度は、JIS K6726(1994年)の「3.7 平均重合度」に記載の方法によって測定した値である。
【0017】
(けん化度)
エチレン変性PVA(A)のけん化度は50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、85モル%以上がさらに好ましく、95モル%以上が特に好ましく、98モル%以上が最も好ましい。エチレン変性PVA(A)のけん化度の上限は特に限定されず、100モル%であってもよいし、99.8モル%であってもよい。けん化度が50モル%以上であれば、水への溶解性が良好となり、エチレン変性PVA(A)の水溶液又は水分散液を調製し易くなる傾向にある。なお、該けん化度を高くすることにより、エチレン変性PVA(A)の剛性が高くなる傾向にある。
けん化度は、JIS K6726(1994年)の「3.5 けん化度」に記載の方法によって測定した値である。
【0018】
(エチレン変性PVA(A)の製造方法)
エチレン変性PVA(A)の製造方法に特に制限はなく、一般的な製造方法を採用でき、例えば、ビニルエステルとエチレンとの共重合体をけん化することによって製造できる。
前記ビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。これらの中でも、製造コストの観点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0019】
また、エチレン変性PVA(A)は、ビニルエステルとエチレンと、さらに他の単量体とを共重合したものであってもよいし、連鎖移動剤を使用して重合体の末端を修飾したものであってもよい。
他のエチレン性不飽和単量体としては、ビニルエステルと共重合可能なものであれば特に制限はなく、例えば、α-オレフィン、ハロゲン含有単量体、カルボン酸含有単量体及びその無水物又はそのエステル、(メタ)アクリル酸エステル、ビニルエーテル、スルホン酸基含有単量体、アミド基含有単量体、アミノ基含有単量体、第4級アンモニウム塩基含有単量体、シリル基含有単量体、水酸基含有単量体、アセチル基含有単量体等が挙げられる。
前記連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン;2-ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン;チオ酢酸等のチオカルボン酸;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの中でも、アルデヒド、ケトンが好ましい。連鎖移動剤を使用する場合、その使用量は、使用する連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とするエチレン変性PVA(A)の重合度に応じて決定することができ、特に制限されるものではないが、ビニルエステル100質量部に対して0.1~10質量部が好ましい。
【0020】
重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等の公知の方法が挙げられる。これらの中でも、工業的観点から、溶液重合法、乳化重合法、分散重合法が好ましい。重合操作にあたっては、回分法、半回分法及び連続法のいずれの方式も採用できる。
重合温度に特に制限はないが、0~150℃が好ましく、20~150℃がより好ましく、30~80℃がさらに好ましい。
こうして得られる共重合体を、水酸化ナトリウム等のけん化触媒を用いてけん化し、必要に応じて粉砕工程、乾燥工程等の工程を経ることによって、エチレン変性PVA(A)が得られる。
なお、エチレン変性PVA(A)は、水等に溶解させた溶液の状態で使用してもよいし、分散させた分散液の状態で使用してもよいし、又はその両方が混在した状態で使用してもよい。
【0021】
<粒子(B)>
本発明の組成物は、前記エチレン変性PVA(A)と共に、粒子(B)を含む。粒子(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の組成物にエチレン変性PVA(A)と共に粒子(B)が所定量含まれることにより、組成物が応力を受けた場合にその応力が分散され、低湿度下等においても十分な水準での剛性と伸びの両立が可能となる。
前記粒子(B)としては、重合体粒子(BX)及び無機粒子(BY)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、少なくとも重合体粒子(BX)を含有することがより好ましく、重合体粒子(BX)であることがさらに好ましい。但し、該重合体粒子(BX)は、前記エチレン変性PVA(A)そのものではないものとする。
【0022】
(平均粒子径)
粒子(B)の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、10~500nmが好ましく、50~400nmがより好ましく、50~300nmがさらに好ましく、70~200nmが特に好ましく、70~140nmが最も好ましい。該平均粒子径は、70~100nmであってもよいし、又は、100~150nmであってもよいし、110~140nmであってもよいし、110~130nmであってもよい。該平均粒子径は、実施例に記載の方法に従って動的光散乱測定装置によって、水分散液中に存在する粒子(B)を測定して求められるメジアン径である。但し、実施例に記載の方法に従って透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することによって求められる、フィルム中に存在する粒子(B)の平均粒子径も、動的光散乱測定装置によって測定した平均粒子径とほぼ同様の値となる傾向にあるため、この場合の平均粒子径も上記範囲であることが好ましい。
なお、前記平均粒子径は、粒子(B)の一次粒子径を指すが、組成物、皮膜又はフィルム中で粒子(B)が凝集して二次粒子を形成している場合は、その凝集粒子の二次粒子径は、20~15,000nmであってもよく、40~10,000nmであってもよく、100~8,000nmであってもよく、160~7,500nmであってもよい。但し、剛性と伸びとを両立する観点からは、組成物、皮膜又はフィルム中における粒子(B)は凝集していない態様が好ましい。
【0023】
(粒子(B)の含有量)
本発明の組成物における粒子(B)の含有量は、低湿度下等における十分な水準での剛性と伸びの両立という観点から、エチレン変性PVA(A)100質量部に対して1質量部以上100質量部未満である。また、同様の観点から、粒子(B)の含有量は、エチレン変性PVA(A)100質量部に対して1~50質量部であることが好ましく、2~50質量部であることがより好ましく、3~40質量部であることがさらに好ましく、3~20質量部であってもよいし、3~15質量部であってもよいし、3~10質量部であってもよいし、又は、20~40質量部であってもよいし、25~35質量部であってもよい。
上記含有量は、粒子(B)が重合体粒子(BX)である場合には重合体粒子(BX)の含有量に相当し、粒子(B)が無機粒子(BY)である場合には無機粒子(BY)の含有量に相当し、粒子(B)として重合体粒子(BX)及び無機粒子(BY)を併用する場合には、重合体粒子(BX)及び無機粒子(BY)の合計含有量に相当する。
【0024】
(重合体粒子(BX))
前記重合体粒子(BX)は、1種の単量体単位からなる単独重合体でもよいし、複数種の単量体単位からなる共重合体でもよい。また、重合体粒子(BX)は単層型の重合体粒子(単一粒子)であってもよいし、コア及び該コアの少なくとも一部を被覆するシェルからなるコアシェル型の重合体粒子であってもよい。また、重合体粒子(BX)はアイオノマーであってもよい。アイオノマーについては前述の通りである。
重合体粒子(BX)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
重合体粒子(BX)としては、特に制限されるものではないが、低湿度下等における十分な水準での剛性と伸びの両立という観点から、(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子、共役ジエン系重合体粒子、スチレン系重合体粒子、スチレン-共役ジエン系共重合体粒子、ウレタン系重合体粒子、酢酸ビニル系重合体粒子、エステル系重合体粒子(但し、前記(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子及び前記酢酸ビニル系重合体粒子を除く。)、アミド系重合体粒子、イミド系重合体粒子、カーボネート系重合体粒子、アリレート系重合体粒子、スルホン系重合体粒子及びフェノキシ系重合体粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子がより好ましい。
該(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子としては、(メタ)アクリル酸エステル系単層型重合体粒子及び(メタ)アクリル酸エステル系コアシェル型重合体粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、前記(メタ)アクリル酸エステル系単層型重合体粒子は、(メタ)アクリル酸エステル系単独重合体粒子であることがより好ましい。
【0026】
また、重合体粒子(BX)は、十分な水準での剛性と伸びの両立という観点から、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)を含有する態様も好ましい。重合体粒子(BX)としては、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)を50質量%以上含有することがより好ましく、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)を80質量%以上含有することがさらに好ましく、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)を90質量%以上含有することが特に好ましく、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)を実質的に100質量%含有すること、すなわち、実質的に、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)であることが最も好ましい。
なお、重合体(B1)中に含まれるエチレン性不飽和単量体(b1)単位の割合は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0027】
また、重合体粒子(BX)は、必要に応じて重合体(B1)以外の他の重合体を含有してもよい。かかる他の重合体としては、PVA系重合体が挙げられる。重合体粒子(BX)が他の重合体を含有する場合、その含有量は50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がよりさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。なお、重合体粒子(BX)にPVA系重合体が含まれていないことも好ましい一態様である。
【0028】
以下、「エチレン性不飽和単量体(b1)」を単に「単量体(b1)」と称することがある。また、「エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)」を単に「重合体(B1)」と称することがある。
また、本明細書中において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」から選ばれる1種又は2種を意味する。また、「(N-アルキル)(メタ)アクリルアミド」とは、「(メタ)アクリルアミド」及び「N-アルキル(メタ)アクリルアミド」から選ばれる1種又は2種以上を意味し、換言すると、(メタ)アクリルアミドの窒素原子にアルキル基が置換した化合物とアルキル基が置換していない化合物の総称である。
【0029】
〈エチレン性不飽和単量体(b1)〉
単量体(b1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸及びその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸N,N’-ジアルキルアミノアルキルエステル、トリ(メタ)アクリル酸エステル[例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート]、テトラ(メタ)アクリル酸エステル[例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート]等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド等の(N-アルキル)(メタ)アクリルアミド;スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル系化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系化合物;ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、2-メチル-3-エチルブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、2-エチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2-メチル-1,3-ヘキサジエン、3,4-ジメチル-1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、3-メチル-1,3-ヘプタジエン、1,3-オクタジエン、シクロペンタジエン、クロロプレン、ミルセン、ファルネセン等の共役ジエン系化合物;エチレン、イソブチレン等の脂肪族ビニル系化合物;(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸メタリル、桂皮酸アリル、桂皮酸メタリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル等の不飽和モノカルボン酸と不飽和アルコールとのエステル;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の不飽和モノカルボン酸とグリコールとのジエステル;ジビニルベンゼン等の多官能芳香族ビニル化合物;ビニルアセテート等の酢酸ビニルなどが挙げられる。
単量体(b1)としては、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記単量体(b1)の例示の中でも、十分な水準での剛性と伸びの両立という観点からは、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル系化合物、共役ジエン系化合物、脂肪族ビニル系化合物、酢酸ビニルが好ましく、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸トリシクロデカニル、アクリル酸2-フェノキシエチル、トリメタクリル酸エステル、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、スチレン、ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、エチレン、イソブチレン、ビニルアセテートがより好ましく、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸トリシクロデカニル、トリメタクリル酸エステル(好ましくはトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート)、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルアセテートがさらに好ましい。
単量体(b1)としては、低湿度下等における十分な水準での剛性と伸びの両立という観点から、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸トリシクロデカニル及びトリメタクリル酸エステル(好ましくはトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート)を併用する態様も好ましい。
ここで、単量体(b1)が(メタ)アクリル酸エステルであるとき、重合体粒子(BX)を(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子と称し、特に(メタ)アクリル酸エステルが1種のとき、重合体粒子(BX)を(メタ)アクリル酸エステル系単独重合体粒子と称する。
【0031】
重合体粒子(BX)は十分な水準での剛性と伸びの両立という観点からは、単層の重合体粒子であることが好ましい。該重合体粒子(BX)は製造の際に使用する分散剤を含有していてもよく、より詳細には、該分散剤によって、重合体粒子(BX)の少なくとも一部が被覆されていてもよく、全部が被覆されていてもよい。なお、重合体粒子(BX)が単層の場合は、前述のように分散剤を含んだ状態であっても単層とみなす。
分散剤としては、後述するように、十分な水準での剛性と伸びの両立という観点及びエマルションの分散性の観点から、イオン性基を含む分散剤であることが好ましく、該イオン性基はアニオン性基及びアニオン性基の塩からなる基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、そのため、分散剤はアニオン系界面活性剤であることがより好ましい。前記アニオン性基としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基等が挙げられる。また、前記塩としては、例えば、ナトリウム塩等が挙げられる。
特に、(A)成分がエチレン変性PVAであるため、前記分散剤がイオン性基を含む分散剤であると、重合体粒子(BX)の凝集が効果的に抑制された組成物を形成することができ、剛性と伸びに関してより一層の改善効果が得られる傾向にある。
【0032】
(数平均分子量(Mn))
重合体粒子(BX)の数平均分子量は、十分な水準での剛性と伸びの両立という観点から、好ましくは5,000以上であり、より好ましくは5,000~150,000、さらに好ましくは8,000~120,000、よりさらに好ましくは10,000~100,000、特に好ましくは15,000~80,000、最も好ましくは20,000~50,000である。
ここで、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値であり、詳細には実施例に記載の測定方法に従って測定した値である。
【0033】
また、十分な水準での剛性と伸びの両立という観点から、重合体粒子(BX)には、ガラス転移温度(Tg)40℃以下の重合体が含まれていることが好ましく、Tgが-100~25℃の重合体が含まれていることがより好ましく、Tgが-100~15℃の重合体が含まれていることがより好ましく、Tgが-70~10℃の重合体が含まれていることがさらに好ましく、Tgが-70~0℃の重合体が含まれていることがよりさらに好ましく、Tgが-70~-10℃の重合体が含まれていることがよりさらに好ましく、Tgが-65~-35℃の重合体が含まれていることが特に好ましく、Tgが-60~-50℃の重合体が含まれていることが最も好ましい。重合体粒子(BX)は、Tgが40℃以下の重合体(より好ましくは前述の通りである。)そのものであってもよい。
重合体粒子(BX)がコアシェル粒子の場合、コア又はシェルの少なくとも一方がTgが40℃以下(より好ましくは前述の通りである。)の重合体を含んでいることが好ましい。
ここで、本発明において、Tgは実施例に記載の方法に従って求めた値である。
【0034】
<重合体粒子(BX)の製造方法>
重合体粒子(BX)は市販品を使用することもできるし、製造することもできる。
重合体粒子(BX)の製造方法に特に制限はなく、例えば、乳化重合法を利用して製造することができる。重合反応に供する単量体としては、前記エチレン性不飽和単量体(b1)等が挙げられる。
乳化重合法は、例えば、分散剤を含有する水を攪拌しながら加熱し、重合開始剤と単量体を加えることなどによって実施することができる。
【0035】
(分散剤)
分散剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、高級脂肪酸ナトリウム、ロジン系ソープ等のアニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ノニルフェノールエトキシレート等のノニオン系界面活性剤;塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等のカチオン系界面活性剤;コカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン等の両性界面活性剤などが挙げられる。
また、PVA系重合体、酸変性ポリオレフィン、β-ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物塩、(メタ)アクリル酸エチルコポリマー等の高分子界面活性剤を分散剤として用いることも可能である。
本発明においては、十分な水準での剛性と伸びの両立という観点から、分散剤として、イオン性基を含む分散剤であることが好ましく、該イオン性基はアニオン性基及びアニオン性基の塩からなる基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、上記アニオン系界面活性剤が挙げられる。前記アニオン性基としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基等が挙げられる。また、前記塩としては、例えば、ナトリウム塩等が挙げられる。
分散剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
分散剤の使用量は、分散媒に対して0.01~40質量%が好ましく、0.05~30質量%がより好ましい。
【0036】
(重合開始剤)
前記乳化重合法においては、重合開始剤としてラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、水溶性アゾ系重合開始剤、油溶性アゾ系重合開始剤等が挙げられる。また、ラジカル重合開始剤としてレドックス系重合開始剤を用いてもよい。これらの中でも、過硫酸塩系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤が好ましい。前記過硫酸塩系重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。前記過酸化物系重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等が挙げられる。
重合開始剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、水溶性の重合開始剤を用いる場合は水溶液として添加すればよいが、水に難溶な重合開始剤を用いる場合は、水及び分散剤を用いてラジカル重合開始剤の分散液を予め調製し、これを添加することが好ましい。この場合、使用する分散剤は乳化重合で用いるものと同じでもよいし、異なっていてもよい。
重合開始剤の使用量は、分散媒に対して0.0001~1質量%が好ましく、0.001~0.5質量%がより好ましく、0.001~0.1質量%がさらに好ましい。
【0037】
また前記乳化重合法において、生産性の観点から、レドックス系重合開始剤を用いてもよい。該レドックス系重合開始剤としては、有機過酸化物と遷移金属塩の併用が好ましい。
前記有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、n-プロピルパーオキシカーボネート、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等が挙げられる。
前記有機過酸化物と併用する前記遷移金属塩としては、例えば、硫酸鉄(II)、チオ硫酸鉄(II)、炭酸鉄(II)、塩化鉄(II)、臭化鉄(II)、ヨウ化鉄(II)、水酸化鉄(II)、酸化鉄(II)等の鉄化合物;硫酸銅(I)、チオ硫酸銅(I)、炭酸銅(I)、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、水酸化銅(I)、酸化銅(I)等の銅化合物、又はそれらの水和物などが挙げられる。
【0038】
(還元剤)
また、前記ラジカル重合開始剤と共に還元剤を用いてもよい。かかる還元剤としては、塩化第一鉄、硫酸第一鉄等の鉄化合物;硫酸水素ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のナトリウム塩;アスコルビン酸、ロンガリット、亜ジオチン酸ナトリウム、トリエタノールアミン、グルコース、フルクトース、グリセルアルデヒド、ラクトース、アラビノース、マルトース等の有機系還元剤などが挙げられる。これらのうち、鉄化合物と有機系還元剤とを併用してもよい。
前記還元剤の使用量は、分散媒に対して0.0001~1質量%が好ましく、0.001~0.5質量%がより好ましく、0.005~0.1質量%がさらに好ましい。
【0039】
(架橋剤)
乳化重合法では、必要に応じて、架橋剤を添加してもよい。前記単量体(b1)であっても、架橋化性能を有するものを架橋剤と称することがある。
架橋剤には、重合基を2つ有する2官能単量体が好適に使用されるが、3官能以上の多官能単量体を使用して重合体内の架橋密度の粗密の幅を大きくし、力学物性等を調整することも可能である。なお、ブタジエン及びイソプレン等の共役ジエン系化合物を単量体(b1)の全部又は一部に用いる場合には、重合後に不飽和二重結合が残存するため、これを架橋部とすることができる。
架橋剤としては、例えば、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの両末端(メタ)アクリル酸付加体、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)エチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体であるジオールのジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体であるジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸アリル、トリメチロールプロパントリメタクリレートが好ましい。
架橋剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
(グラフト化剤)
乳化重合法では、必要に応じて、グラフト化剤を添加してもよい。前記単量体(b1)であっても、グラフト化性能を有するものをグラフト化剤と称することがある。
グラフト化剤としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステルの金属塩、フマル酸、フマル酸モノエチルエステルの金属塩、イタコン酸、ビニル安息香酸、ビニルフタル酸、メタクリル酸、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル;マレイン酸、フマル酸又はイタコン酸のモノエステル又はジエステル等が挙げられる。前記モノエステル及びジエステルとしては、例えば、メチルモノエステル、メチルジエステル、プロピルモノエステル、プロピルジエステル、イソプロピルモノエステル、イソプロピルジエステル、ブチルモノエステル、ブチルジエステル、イソブチルモノエステル、イソブチルジエステル、ヘキシルモノエステル、ヘキシルジエステル、シクロヘキシルモノエステル、シクロヘキシルジエステル、オクチルモノエステル、オクチルジエステル、2-エチルヘキシルモノエステル、2-エチルヘキシルジエステル、デシルモノエステル、デシルジエステル、ステアリルモノエステル、ステアリルジエステル、メトキシエチルモノエステル、メトキシエチルジエステル、エトキシエチルモノエステル、エトキシエチルジエステル、ヒドロキシモノエステル、ヒドロキシジエステル、エチルモノエステル、エチルジエステル等が挙げられる。
【0041】
(金属イオンキレート剤)
乳化重合法では、必要に応じて、金属イオンキレート剤を添加してもよい。具体的には、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム等の金属イオンキレート剤が挙げられる。
【0042】
(増粘抑制剤)
乳化重合法では、必要に応じて、乳化重合の系内に増粘抑制剤として電解質を添加してもよい。具体的には、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム等の電解質が挙げられる。
【0043】
分散剤と増粘抑制剤とを併用する場合、増粘抑制剤の使用量は、特に制限されるものではないが、分散液中のミセルの安定性の観点から、分散剤に対して20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
前記還元剤、金属イオンキレート剤及び電解質は、それらを使用する場合、重合反応の途中で添加してもよいが、乳化重合当初から水中に添加しておくことが好ましい。
【0044】
(連鎖移動剤)
乳化重合法では、必要に応じて、連鎖移動剤を添加してもよい。特に本発明においては、連鎖移動剤を添加することによって、重合度を調整することができる。前記連鎖移動剤としては、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン等の炭化水素系メルカプタン;メルカプト酢酸、メルカプト酢酸2-エチルヘキシル、メルカプト酢酸3-メトキシブチル、β-メルカプトプロピオン酸、β-メルカプトプロピオン酸メチル、β-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、β-メルカプトプロピオン酸3-メトキシブチル、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール等のチオール類(前記炭化水素系メルカプタンを除く。);α-メチルスチレンダイマー等の連鎖移動定数の大きい炭化水素化合物などを使用できる。
これらの中でも、炭化水素系メルカプタンが好ましく、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンがより好ましい。
連鎖移動剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤を使用する場合、その使用量は、特に制限されるものではないが、重合体粒子(BX)の製造に用いる単量体(b1)の仕込み量に対して、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~2質量%であることがより好ましい。
【0045】
(分散媒)
分散媒は、水を主成分とする水性媒体であることが好ましい。水を主成分とする水性媒体には、水と任意の割合で可溶な水溶性の有機溶媒(アルコール類、ケトン類等)を含んでいてもよい。ここで、「水を主成分とする水性媒体」とは水を50質量%以上含有する分散媒のことである。製造コスト及び環境負荷の観点から、分散媒は、水を90質量%以上含有する水性媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。
前記乳化重合法で用いる分散媒の量は、エマルションの粘度及び安定性の観点から、重合体粒子(BX)の製造に用いる単量体(b1)の総量100質量部に対して、50~2,000質量部であることが好ましく、80~1,500質量部であることがより好ましく、100~1,200質量部であることがさらに好ましい。
【0046】
(老化防止剤)
本発明において、重合体粒子(BX)の劣化を抑制する観点から、乳化重合後の分散液、又は回収処理後や精製処理後の重合体粒子(BX)に老化防止剤を添加してもよい。老化防止剤は、重合反応後の重合体粒子(BX)の回収処理及び精製処理における劣化を抑制する観点からは、乳化重合後の分散液に老化防止剤を添加した後、重合体粒子(BX)を回収処理又は精製処理をしてもよい。
【0047】
老化防止剤としては、一般的な材料を使用することができる。
老化防止剤として具体的には、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,5-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ(t-ブチル)-4-メチルフェノール、モノ(又はジ、又はトリ)(α-メチルベンジル)フェノール等のフェノール系化合物;2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等のビスフェノール系化合物;2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール等のベンズイミダゾール系化合物;6-エトキシ-1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン、ジフェニルアミンとアセトンの反応物、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体等のアミン-ケトン系化合物;N-フェニル-1-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等の芳香族二級アミン系化合物;1,3-ビス(ジメチルアミノプロピル)-2-チオ尿素、トリブチルチオ尿素等のチオウレア系化合物などが使用できる。
老化防止剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
(重合温度)
重合温度は、通常0~110℃が好ましく、重合率を高める観点から、20~100℃がより好ましく、60~100℃がさらに好ましい。
【0049】
(無機粒子(BY))
前記無機粒子(BY)としては、例えば、沈降シリカ、ゲル状シリカ、気相法シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、クレー、タルク、ケイソウ土、ゼオライト、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化亜鉛、サチンホワイト等の無機充填剤が挙げられる。
無機粒子(BY)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
<エチレン変性PVA(A)及び粒子(B)以外のその他の成分>
本発明の耐油膜は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、前記エチレン変性PVA(A)及び前記粒子(B)以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、前記エチレン変性PVA(A)及び前記重合体粒子(BX)には該当しない重合体(C)、及び添加剤(D)等が挙げられる。
前記重合体(C)としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられ、より具体的には、アイオノマー、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン-ビニルアセテート系共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、塩素化ポリオレフィン等が挙げられる。但し、いずれも前記エチレン変性PVA(A)及び前記重合体粒子(BX)に該当しないものに制限される。
前記添加剤(D)としては、例えば、可塑剤、酸素吸収剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材、防腐剤等が挙げられる。該添加剤(D)は、前記エチレン変性PVA(A)及び前記粒子(B)とは別個に添加されることによって組成物中に含有されているものであってもよいし、前記エチレン変性PVA(A)又は前記重合体粒子(BX)の製造の際に使用されて、その結果、組成物に含有されているものであってもよい。
本発明の組成物が前記その他の成分を含んでいる場合、本発明の効果を損なわないようにすることが好ましく、その含有量(ここでは、前記エチレン変性PVA(A)又は前記重合体粒子(BX)の製造の際に使用した添加剤の含有量を除く。)は、それぞれ、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。当該含有量の下限値に特に制限はないが、例えば、1質量%であってもよく、3質量%であってもよい。
【0051】
<組成物の調製方法>
本発明の組成物の調製方法に特に制限はないが、例えば、前記エチレン変性PVA(A)と、前記粒子(B)の水溶液又は分散液とを混合した後、必要に応じて濃度を調整することで組成物[以下、「エマルション」と称することがある。]が得られる。このとき、前記その他の成分を、必要に応じて分散液の状態にしてから一緒に混合することによって、前記エマルションを調製してもよい。
組成物中の固形分量は、1~60質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましく、3~15質量%がさらに好ましい。ここで、組成物中の「固形分量」とは、組成物を構成する成分のうち、分散媒を除く成分の合計質量を意味する。
【0052】
[皮膜及びフィルム]
本発明は、前記組成物から形成される皮膜及びフィルムも提供する。該フィルムの製造方法に特に制限はないが、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法、射出成形法等が挙げられる。溶液キャスト法によりフィルムを製造する場合は、乾燥に熱風を用いると表面が乾燥して膜ができるため、乾燥ムラが発生するだけでなく、泡噛み等の問題が発生しやすいため、ガラス板又はプラスチックフィルム上に前記組成物を流延して皮膜を形成した後、風乾によりフィルム化することが望ましい。風乾する場合、その乾燥時間としては、特に制限されるものではないが、12時間~4日が好ましく、1日~3日がより好ましい。なお、本発明においては、乾燥前の皮膜を十分に乾燥したものに対して「フィルム」と称することがあるが、皮膜自体が既に十分に乾燥されたものであってもよい。
皮膜の厚み(乾燥後の厚み)及びフィルムの厚みに特に制限はなく、用途に応じて適宜調整すればよいが、例えば、30~200μmが好ましく、40~100μmであってもよいし、40~60μmであってもよい。
本発明の皮膜及びフィルムは無延伸であってもよいし、一軸延伸されていてもよいし、二軸延伸されていてもよいが、低湿度下における剛性と伸びの観点から、無延伸であることが好ましい。無延伸のフィルムをキャストフィルムと称することがある。
なお、本発明の皮膜及びフィルム中におけるエチレン変性PVA(A)及び粒子(B)の合計量は、本発明の効果の観点から、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、実質的に100質量%であってもよい。
【0053】
(皮膜物性及びフィルム物性)
本発明の皮膜(乾燥後の皮膜)及びフィルムは、低湿度下等においても十分に高い水準で剛性と伸びを両立している。例えば、実施例に記載の方法に従って測定した弾性率(初期弾性率)は、20MPa以上となる傾向にあり、22~45MPaにもなり、24~43MPaにもなる傾向にある。一方、実施例に記載の方法に従って測定した降伏応力は、45MPa以上となる傾向にあり、45~90MPaにもなり、47~90MPaにもなり、より好ましいフィルムでは、55~90MPaにもなり、60~90MPaにもなる傾向にある。このように、本発明の皮膜(乾燥後の皮膜)及びフィルムは、弾性率及び降伏応力が大きく、剛性に優れている。また、実施例に記載の方法に従って測定した破断伸びは、120%以上となる傾向にあり、130~400%にもなり、より好ましいフィルムでは、140~400%にもなり、150~400%にもなり、160~400%にもなり、170~400%にもなり、200~400%にもなり、230~380%にもなる傾向にあるため、伸びに優れている。
【0054】
[基材]
本発明は、本発明の皮膜又はフィルムを有する基材も提供する。該基材としては、ガラス板、紙、プラスチックフィルム等が挙げられる。皮膜又はフィルムを有する基材は、特に制限されるものではないが、前記基材へ本発明の組成物を塗布する方法等によって製造することができる。基材へ本発明の組成物を塗布する方法に特に制限はなく、公知の方法を採用すればよい。例えば、サイズプレス、シムサイザー、ゲートロールコーター、バーコーター、カーテンコーター等の塗工機を用いて基材上に組成物を塗布し、乾燥させてもよいし、溶液キャスト法によって、基材上に前記組成物を流延し、風乾させてもよい。このようにして、皮膜又はフィルムが積層した基材を得ることができる。
【0055】
<用途>
本発明の組成物は、皮膜又はフィルムとして好適に用いることができるほか、接着剤、繊維加工剤、バインダー、コーティング剤、インク及び塗料等の用途にも好適に用いることができる。また、本発明の組成物から形成されるフィルムは高い水準で剛性と伸びとを両立しているため、包装用フィルム、保護フィルム、酸素バリアフィルム及び水蒸気バリアフィルム等の各種フィルムとして有用である。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、各例で使用したイオン交換水は、いずれも電気伝導率0.08×10-4S/m以下のイオン交換水である。
【0057】
各例における各種分析条件又は評価方法を以下に示す。
(1)重合体粒子(BX)のガラス転移温度(Tg)
重合体粒子(BX)に含まれる重合体のガラス転移温度[以下、「Tg」と称することがある。]は、Polymer Hand Book(John Wiley & Sons Inc)に記載されている各重合体成分の値を用いた。
なお、重合体粒子(BX)に含まれる重合体が多元共重合体の場合、又はPolymer Hand Book(John Wiley & Sons Inc)に記載されていない重合体成分を用いる場合は、得られた重合体粒子(BX)を含む溶液から固形分を取り出し、十分乾燥させた後、JIS K6240(2011年)に記載の方法で、示差走査熱量計によりTgを求めた。
装置;示差走査熱量分析装置「DSC822」(メトラー・トレド(株)製)
測定条件;昇温速度10℃/min
【0058】
(2)重合体粒子(BX)の平均粒子径
各例で得られた重合体粒子(BX)の分散液(0.1mL)とイオン交換水(10mL)の混合液を動的光散乱式粒子径分布測定装置(装置名:nano Partica SZ-100、堀場製作所製)を用いて粒子の粒度分布を体積基準で測定し、メジアン径を重合体粒子(BX)の平均粒子径(平均分散粒子径)とした。
【0059】
(3)重合体粒子(BX)の数平均分子量(Mn)
各例で得られた重合体粒子(BX)の分散液を乾枯し、次いで得られた固形分をテトラヒドロフラン(THF)で溶解して固形分量10mg/mLとした後、不溶分をメンブレンフィルター(13JP020AN、東洋濾紙(株)製)でろ過した。ろ液について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記条件で測定し、標準ポリスチレン換算で数平均分子量を算出した。
装置:CO-8020、東ソー(株)製
溶離液:THF
カラム:TSKguardcolumn HHR-H(46mmI.D.×4cm)、東ソー(株)製を1本、TSKgel GMHHR-M(7.8mmI.D.×30cm)、東ソー(株)製を2本、TSKgel G2000HHR(7.8mmI.D.×30cm)、東ソー(株)製を1本の計4本を直列で接続
カラム温度:40℃
検出器:RI
送液量:1.0mL/min
【0060】
(4)フィルム物性
各例で作製したフィルムから試料フィルム(厚さ0.04mmの1号ダンベル型)を作製し、約10mmの標点間距離で標点を設けた。得られた試料フィルムを23℃、43%RHの環境下で調湿した後、引張試験機(インストロンジャパン社製、5566型)を用いて、100mm/minの速度で伸張した時の初期弾性率(0.05%から0.25%のひずみ範囲)、降伏応力又は耐力、及び破断伸びを測定した。
なお、破断伸びはカメラを用いて標点間距離を計測することにより求めた。初期弾性率と降伏応力を剛性の指標とし、破断伸びを伸びの指標とした。
降伏応力が確認できなかったフィルムに関しては、応力-ひずみ曲線で初めに傾きが大きく変化する点の前後で、直線に近い部分の延長線上の交点の応力を耐力とし、降伏応力の代わりに剛性の指標とした。初期弾性率及び降伏応力(又は耐力)が大きい程、剛性に優れ、破断伸びが大きい程、伸びに優れる。
【0061】
(5)分散性
実施例又は比較例で得られたエマルションを、しんとう機を用いて混合を行った後、室温にて2時間静置した後の分散液の様子と、実施例又は比較例で得られたキャストフィルムの様子を目視によって観察し、下記評価基準に従って評価した。
A:分散液中とキャストフィルム中で粒子の凝集がなく、分散性に優れている。
B:分散液中で粒子の凝集はないが、キャストフィルム中に相分離がみられ、分散性が悪い。
C:分散液中で粒子が凝集しており、分散性がより悪い。
【0062】
[製造例1]
(エチレン変性PVA-1の製造)
攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び開始剤添加口を備えた加圧反応槽に酢酸ビニル110.5g及びメタノール39.1gを仕込み、60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が0.14MPaとなるようにエチレンを導入した。重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)[以下、「AMV」と称することがある。]をメタノールに溶解した濃度0.33g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の反応槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液635.7mLを注入し、重合を開始した。
重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を0.61MPaに、そして重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて2.0L/hrでAMVを連続添加して重合した。5時間後に重合率が35%となったところで、ソルビン酸を2.22g投入後、冷却して重合を停止した。
反応槽を開放してエチレンを除去した後、さらに窒素ガスをバブリングした。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去し、エチレン変性ポリ酢酸ビニル[以下、「エチレン変性PVAc」と称することがある。]のメタノール溶液とした。得られたエチレン変性PVAcのメタノール溶液にさらにメタノールを加え、濃度が25質量%となるように調整したエチレン変性PVAcのメタノール溶液400g(溶液中のエチレン変性PVAc100g)に、93.0gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムを10質量%含有するメタノール溶液;エチレン変性PVAc中の酢酸ビニル単位に対するモル比0.20)を添加して、60℃でけん化反応を行った。アルカリ添加後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、合計1時間、けん化反応を行った後、酢酸メチル1,000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のエチレン変性PVAにメタノール1,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたエチレン変性PVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥することで、下記測定方法によって求めたエチレン単位の含有量が6モル%であり、重合度が1,000、けん化度が99.0~99.4mol%、Tgが70℃である、エチレン-ビニルアルコール共重合体[「エチレン変性PVA-1」と称する。]を得た。
なお、前記重合度は、JIS K6726(1994年)の「3.7 平均重合度」に記載の方法によって測定した。
【0063】
(エチレン単位の含有量の測定方法)
エチレン変性PVA-1の前駆体であるエチレン変性PVAcの1H-NMR測定から求めた。より詳細には、エチレン変性PVAcを、n-ヘキサン及びアセトンの混合液で再沈精製を3回以上行った後、80℃で3日間減圧乾燥することによって、分析用のPVAcを得、これをDMSO-d6に溶解し、1H-NMR測定装置(500MHz)を用いて80℃で測定した。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(4.7~5.2ppm)と、エチレン、ビニルエステル及び第三成分の主鎖メチレンに由来するピーク(0.8~1.6ppm)を用いて、エチレン単位の含有量を求めた。
【0064】
[製造例2]
(PVA-2の製造;未変性PVA)
攪拌機、窒素導入口及び開始剤添加口を備えた反応槽に酢酸ビニル0.59kg、メタノール1.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで重合開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)をメタノールに溶解した濃度10質量%溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の反応槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液10mLを注入し重合を開始した。
3時間後に重合率が50%となったところで、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテンを0.1g添加後、冷却して重合を停止した。未反応酢酸ビニルモノマーを除去し、PVAcのメタノール溶液とした。得られたPVAcのメタノール溶液にさらにメタノールを加え、濃度が40質量%となるように調整したPVAcのメタノール溶液400g(溶液中のPVAc160g)に、7.44gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムを10質量%含有するメタノール溶液;PVAc中の酢酸ビニル単位に対するモル比0.01)を添加して、40℃でけん化反応を行った。アルカリ添加後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、合計1時間、けん化反応を行った後、酢酸メチル1,000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥することで、重合度が1,750、けん化度が88.4mol%、未変性PVA[「PVA-2」と称する。]を得た。
【0065】
[製造例3]
(分散剤Iの調製)
「カオーアキポ(アキポは登録商標)RLM100」(主成分:ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、花王(株)製)5質量部とイオン交換水10質量部を容器に入れ、攪拌しながら水酸化ナトリウム0.55質量部を仕込み、室温で十分に攪拌し、分散剤Iを得た。
(重合体粒子1を含む分散液1の製造)
還流管付の反応容器に分散剤Iを5.8質量部入れた後、イオン交換水143質量部を添加し、内容物を室温で30分間窒素ガスにてバブリングすることで脱酸素処理を行った後、70℃に昇温した。その後、予め別の容器でイオン交換水30質量部に過硫酸カリウム(重合開始剤)0.1質量部を溶解させて前記同様の方法で脱酸素処理を行った過硫酸カリウム水溶液1.51質量部を添加した。
次いで、アクリル酸n-ブチル(脱酸素処理済み)を、フィードポンプを用いて85分かけて連続添加した。添加終了後、1時間保持し、さらに90℃に昇温して2時間加熱し、重合体粒子1を含む分散液1を得た。
各試薬の使用量を表1にまとめた。また、前記方法に従って、重合体粒子1の数平均分子量、平均粒子径及びTgを測定した。結果を表1に示す。
【0066】
[製造例4](重合体粒子2を含む分散液2の製造)
「カオーアキポ(アキポは登録商標)RLM100NV」(主成分:ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、花王(株)製)を還流管付の反応容器に入れた後、イオン交換水255質量部を添加し、内容物を室温で30分間窒素ガスにてバブリングすることで脱酸素処理を行った後、70℃に昇温した。その後、予め別の容器でイオン交換水30質量部に過硫酸カリウム(重合開始剤)0.1質量部を溶解させて前記同様の方法で脱酸素処理を行った過硫酸カリウム水溶液3.01質量部を添加した。
次いで、アクリル酸n-ブチルとt-ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)とを混合した溶液(脱酸素処理済み)を、フィードポンプを用いて85分かけて連続添加した。添加終了後、1時間保持し、さらに90℃に昇温して2時間加熱し、重合体粒子2を含む分散液2を得た。
各試薬の使用量を表1にまとめた。また、前記方法に従って、重合体粒子2の数平均分子量、平均粒子径及びTgを測定した。結果を表1に示す。
【0067】
[製造例5](重合体粒子3を含む分散液3の製造)
製造例4において、連鎖移動剤をn-ドデシルメルカプタンに変更し、且つ分散剤の種類を変更し、さらに各成分の使用量を表1に記載の通りに変更したこと以外は同様の操作を行うことにより、重合体粒子3を含む分散液3を得た。
各試薬の使用量、得られた重合体粒子3の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0068】
[製造例6](重合体粒子4を含む分散液4の製造)
製造例3において、単量体(b1)をアクリル酸n-ブチルとメタクリル酸アリルとトリメチロールプロパントリメタクリレートの混合液に変更したこと、分散剤の種類を変更したこと、さらに各成分の使用量を表1に記載の通りに変更したこと以外は同様の操作を行うことにより、重合体粒子4を含む分散液4を得た。
各試薬の使用量、得られた重合体粒子4の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0069】
[製造例7](重合体粒子5を含む分散液5の製造)
「カオーアキポ(アキポは登録商標)RLM100NV」(主成分:ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、花王(株)製)を還流管付の反応容器に入れた後、イオン交換水296質量部を添加し、内容物を室温で30分間窒素ガスにてバブリングすることで脱酸素処理を行った後、70℃に昇温した。その後、予め別の容器でイオン交換水30質量部に過硫酸カリウム(重合開始剤)0.1質量部を溶解させることによって調製した過硫酸カリウム水溶液(脱酸素処理済み)3.61質量部を添加した。
そこへ、アクリル酸n-ブチルとメタクリル酸アリルとトリメチロールプロパントリメタクリレートとを混合した溶液(脱酸素処理済み)を、フィードポンプを用いて50分かけて連続添加し、添加終了後1時間保持した。続いて、メタクリル酸トリシクロデカニル(脱酸素処理済み)を、フィードポンプを用いて30分かけて連続添加し、添加終了後2時間保持した。さらに90℃に昇温して2時間加熱し、重合体粒子5を含む分散液5を得た。
各試薬の使用量、得られた重合体粒子5の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0070】
[製造例8及び9](重合体粒子6~7を含む分散液6~7の製造)
製造例7において、各成分の量を表1に示す通りに変更したこと以外は同様の操作を行い、重合体粒子6~7それぞれを含む分散液6~7を得た。
各試薬の使用量、得られた重合体粒子6~7の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0071】
[製造例10](重合体粒子8を含む分散液8の製造)
製造例6において、単量体(b1)をメタクリル酸トリシクロデカニルに変更し、使用量を表1に記載の通りに変更したこと以外は同様の操作を行うことにより、重合体粒子8を含む分散液8を得た。
各試薬の使用量、得られた重合体粒子8の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0072】
【0073】
ここで、表1に記載の各成分について以下に説明する。
(分散剤)
・分散剤I:製造例3中で調製した分散剤I、固形分量32.2質量%
・RLM100NV:「カオーアキポ(アキポは登録商標)RLM100NV」、花王(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、固形分量24質量%
・ラテムル(登録商標)E-108MB:花王(株)製、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、固形分量22質量%
(連鎖移動剤)
・t-ドデシルメルカプタン:東京化成工業(株)製
・n-ドデシルメルカプタン:東京化成工業(株)製
(単量体)
・アクリル酸n-ブチル:日本触媒(株)製
・メタクリル酸アリル:東京化成工業(株)製、架橋剤
・メタクリル酸トリシクロデカニル:東京化成工業(株)製
・トリメチロールプロパントリメタクリレート:東京化成工業(株)製、架橋剤
(重合開始剤)
・過硫酸カリウム:和光純薬工業(株)製、ラジカル重合開始剤
(分散媒)
・イオン交換水:電気伝導率0.08×10-4S/m以下のイオン交換水
【0074】
[実施例1](エマルションの調製及びキャストフィルムの製造)
下記表2に示される配合量(固形分換算)になるように、エチレン変性PVA-1及び重合体粒子1の分散液1を含有するエマルション(固形分量4%)を調製した。
該エマルションをポリエステルフィルム上に流延し、皮膜を形成した。この皮膜を2日間風乾し、厚み45μmのキャストフィルムを得た。
また、得られたキャストフィルムについて、前記方法に従って物性を測定した。結果を表2に示す。
【0075】
[実施例2~9]
実施例1において、各成分及びその配合量を表2に記載の通りに変更したこと以外は同様にして操作を行い、キャストフィルムを作製した。なお、実施例2では、得られたキャストフィルムについて、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、その透過型電子顕微鏡(TEM)写真を
図1及び
図2に示した。重合体粒子が良好に分散している様子が観察できた。
また、得られたキャストフィルムについて、前記方法に従って物性を測定した。結果を表2に示す。
【0076】
[比較例1~3]
実施例1において、各成分及びその配合量を表2に記載の通りに変更したこと以外は同様にして操作を行い、キャストフィルムを作製した。
また、得られたキャストフィルムについて、前記方法に従って物性を測定した。結果を表2に示す。
【0077】
[参考例1]
実施例1において、各成分及びその配合量を表2に記載の通りに変更したこと以外は同様にして操作を行い、キャストフィルムを作製した。
また、得られたキャストフィルムについて、前記方法に従って物性を測定した。結果を表2に示す。
【0078】
【0079】
ここで、表2に記載の各成分について以下に説明する。
・エチレン変性PVA-1:製造例1で調製したエチレン変性PVA-1
・PVA-2:製造例2で調製したPVA-2
・分散液1~8:それぞれ製造例3~10で調製した各重合体粒子を含む分散液1~8
・グリセリン:和光純薬工業(株)製
【0080】
表2より、実施例で作製したキャストフィルムは、剛性と伸びとを両立していることが分かる。このような結果が得られたのは、粒子(B)が、マトリクスとなるエチレン変性PVA(A)の結晶相や非晶相の運動性を維持しながら、エチレン変性PVA(A)にかかる応力を緩和したためと推察する。
一方、比較例1で作製したキャストフィルムは破断伸びが大幅に小さくなっており、伸びが不足していると言える。比較例2で作製したキャストフィルムは、グリセリンによって破断伸びが大きくなったが、初期弾性率と耐力が非常に小さく、剛性に乏しいと言える。比較例3で作製したキャストフィルムは、粒子(B)によって破断伸びが大きくなったが、粒子(B)の含有量が過剰であることによって、初期弾性率と降伏応力が非常に小さく、剛性に乏しいと言える。
なお、参考例1で作製したキャストフィルムは、エマルション中の重合体粒子の分散性が悪かった(粒子の凝集が観察された)ため、十分な水準での剛性と伸びの両立は期待できない。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の組成物は、皮膜又はフィルムとして好適に用いることができるほか、接着剤、繊維加工剤、バインダー、コーティング剤、インク及び塗料等の用途にも好適に用いることができる。また、本発明のフィルムは高い水準で剛性と伸びとを両立しているため、包装用フィルム、保護フィルム、酸素バリアフィルム及び水蒸気バリアフィルム等の各種フィルムとして有用である。