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特許7390318金属表面活性化用水性分散体および金属表面のリン酸塩処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】金属表面活性化用水性分散体および金属表面のリン酸塩処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 125/08 20060101AFI20231124BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20231124BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20231124BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231124BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20231124BHJP
   C09C 1/00 20060101ALI20231124BHJP
   C23C 22/78 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C09D125/08
C09D171/02
C09D5/02
C09D7/61
C09C3/10
C09C1/00
C23C22/78
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020568765
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2019065005
(87)【国際公開番号】W WO2019238573
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】18176991.0
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ・アンゲネント
(72)【発明者】
【氏名】ヤン-ウィレム・ブラウウェル
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリク・ブスマン
(72)【発明者】
【氏名】フランツ-アドルフ・ツィカ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・ポスナー
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン・ジンヴェル
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ワプナー
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-001960(JP,A)
【文献】特開平05-050029(JP,A)
【文献】特開2005-306905(JP,A)
【文献】特開2017-170305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/00
C23C22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(a1)少なくとも1つの、多価金属カチオンの粒子状無機化合物、および
(a2)スチレンおよび/または5個以下の炭素原子を有するα-オレフィンおよびマレイン酸、その無水物および/またはそのイミドから少なくとも部分的に構成され、ポリオキシアルキレン単位を更に含む、少なくとも1つの高分子有機化合物
を含んでなる、少なくとも5重量%の分散粒子成分、並びに
(b)少なくとも0.5重量%の少なくとも1つの増粘剤
を含有し、10μm超のD50値を有する水性分散体であって、
分散粒子成分(a)の少なくとも1つの粒子状無機化合物(a1)はリン酸塩から少なくとも部分的に構成されており、POとして計算した分散無機粒子成分に基づくリン酸塩の含有量は、少なくとも25重量%であり、
粒子成分(a)における高分子有機化合物の全体は、粒子成分(a)に基づいて、少なくとも3重量%であることを特徴とする、分散体。
【請求項2】
分散粒子成分(a)における、リン酸塩から少なくとも部分的に構成されている粒子状無機化合物(a1)の全体は、ホペイト、フォスフォフィライト、ショルザイトおよび/またはヒューリオライトから少なくとも部分的に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
分散体は、150μm未満のD90値を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の分散体。
【請求項4】
二峰性粒度分布が存在することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の分散体。
【請求項5】
高分子有機化合物(a2)はその側鎖にポリオキシアルキレン単位を含み、高分子有機化合物(a2)全体におけるポリオキシアルキレン単位の含有量は、少なくとも40重量%であるが、70重量%以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の分散体。
【請求項6】
高分子有機化合物(a2)はイミダゾール単位も有することを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の分散体。
【請求項7】
粒子成分(a)における高分子有機化合物の全体は、少なくとも25mgKOH/gであるが、125mgKOH/g未満のアミン価を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の分散体。
【請求項8】
成分(b)の増粘剤は、ウレアウレタン樹脂から選択されることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の分散体。
【請求項9】
非粒子成分における高分子有機化合物の総含有量は4重量%以下であることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の分散体。
【請求項10】
分散体のpHは7.2超であるが、10.0未満であることを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載の分散体。
【請求項11】
0.001~0.25秒-1の剪断速度範囲、25℃の温度での分散体最大動的粘度は、少なくとも1000Pa・sであるが、5000Pa・s未満であることを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の分散体。
【請求項12】
亜鉛、鉄またはアルミニウムから選択される金属材料またはそのような金属材料から少なくとも部分的に構成される部材の防食前処理方法であって、連続した方法工程で、金属材料または部材をまず活性化し(i)、次いでリン酸塩処理し(ii)、方法工程(i)における活性化を、金属材料または部材と、請求項1~11のいずれかに記載の水性分散体を20から100,000の係数で希釈することにより得られるコロイド水溶液との接触により行う、方法。
【請求項13】
亜鉛およびアルミニウムで少なくとも部分的に作られている部材を順次前処理し、
・方法工程(i)における活性化を、
請求項1~11のいずれかに記載の水性分散体を希釈することにより調製されたコロイド水溶液と接触させることにより行い、
・方法工程(ii)におけるリン酸塩処理を、
POとして計算して5~50g/kgの水中に溶解させたリン酸塩、0.3~3g/kgの亜鉛イオン、および遊離フッ化物を含有する酸性水性組成物と接触させることにより行い、
それぞれリン酸塩処理の酸性水性組成物における濃度であってそれぞれmmol/kg単位である遊離フッ化物濃度とケイ素濃度の合計に対する、POに基づきmmol/kg単位である、活性化のためのコロイド水溶液の無機粒子成分におけるリン酸塩の濃度の割合は、0.2より大きい
ことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面のリン酸塩処理の活性化段階のための濃厚物としての、分散粒子成分および増粘剤を含有する水性分散体であって、該粒子成分は、分散された多価金属カチオンの無機化合物に加えて、スチレンおよび/または5個以下の炭素原子を有するα-オレフィンおよびマレイン酸、その無水物および/またはそのイミドから少なくとも部分的に構成され、ポリオキシアルキレン単位を更に含む、分散助剤としての高分子有機化合物を含んでなる、水性分散体に関する。この水性分散体はまた、10μm超のD50値を特徴とする。本発明は更に、金属材料表面の防食前処理方法、特にリン酸亜鉛処理方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
層形成リン酸塩処理は、金属表面、特に鉄、亜鉛およびアルミニウムといった金属材料の表面に結晶性防食被覆を適用する方法であって、この方法は、何十年にもわたって使用され、深く研究されてきた。腐食防止のために特に確立されているリン酸亜鉛処理は、数マイクロメートルの層厚さを用いて実施され、亜鉛イオンおよびリン酸塩を含有する酸性水性組成物における金属材料の腐食酸洗に基づく。酸洗過程において、アルカリ拡散層が金属表面に形成され、この層は溶液内部に広がり、その中でやや溶けにくい微結晶が形成され、その微結晶は金属材料との界面で直ちに沈殿し、そこで成長し続ける。金属アルミニウムの材料上の酸洗反応を補い、浴に有害な(溶解した状態で金属材料上での層形成を妨げる)アルミニウムをマスクするため、フッ化物イオン源となる水溶性化合物がしばしば添加される。リン酸亜鉛処理は常に、リン酸塩処理される部材の金属表面の活性化により開始される。湿式化学活性化は、リン酸塩のコロイド水溶液との接触により通常実施され(活性化段階)、このコロイド水溶液は、金属表面に固定化されている限り、後続のリン酸塩処理において、アルカリ拡散層内に結晶性被覆を形成するための成長核として使用される。この場合の適当な分散体は、リン酸塩微結晶に基づくコロイド状の、ほぼ中性からアルカリ性の水性組成物であり、このリン酸塩微結晶は、電界析出するリン酸亜鉛層のタイプからの結晶構造の僅かな結晶学的偏差しか有さない。文献において一般的にジェルンステット塩と称されているリン酸チタンに加えて、非水溶性の二価および三価のリン酸塩もまた、リン酸亜鉛処理のために金属表面を活性化するのに適したコロイド溶液を調製するための出発物質として適している。これに関して、WO 98/39498 A1には具体的には、金属であるZn、Fe、Mn、Ni、Co、CaおよびAlの二価および三価のリン酸塩が教示されており、金属亜鉛のリン酸塩が、後続のリン酸亜鉛処理のための活性化に使用するのに技術的に好ましいことが教示されている。
【0003】
活性化およびリン酸亜鉛処理の工程順序としてのあらゆるタイプの層形成リン酸塩処理は、特有の性質を有しており、この性質は、異なった金属材料の混合物で構成された部材の処理または新規な材料の処理において特に重要になる。例えば高いアルミニウム含有量を有する部材の場合に、リン酸亜鉛処理浴において溶解アルミニウム含有量が特定の閾値を超えると、ジェルンステット塩で活性化された部材の鋼表面上に、密着した結晶性リン酸亜鉛被覆は形成されないので、WO 98/39498 A1に従った活性化は回避されるべきである。このタイプの活性化はまた、ジェルンステット塩での活性化と比べて、アルミニウム表面上により薄くより耐腐食性のリン酸塩被覆が達成されるという利点をもたらす。しかし、アルミニウム表面への層形成処理も意図されているリン酸亜鉛処理浴では、二価および三価のリン酸塩による活性化はしばしば、亜鉛表面上に欠陥被覆をもたらし、これは、後続の浸漬被覆における亜鉛表面への被覆剤付着を大幅に低減するリン酸亜鉛被覆剤成分の緩い付着が観察されることにより特徴付けられる。また、リン酸塩からなる緩い被覆物は部分的に、リン酸亜鉛処理に続く浸漬被覆に持ち込まれ、浸漬被覆では、被覆物は水性バインダー分散体に部分的に溶解する。浸漬被覆に持ち込まれることにより導入される溶解リン酸塩は、分散被覆剤成分の電界析出性に悪影響を及ぼし得、かつ、沈殿反応により必須の選択重金属ベース触媒/架橋剤の有効濃度を低下させ得る。このようにして持ち込まれたリン酸塩は、特に分散樹脂に加えてイットリウムおよび/またはビスマスの水溶性塩または水分散性塩を含有する浸漬被覆にとって、焼成温度上昇の原因となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO 98/39498 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アルミニウムで作られた材料の表面上に層を形成するように適合されていない全てのリン酸塩処理法、例えば複合構造のリン酸亜鉛処理にとって、活性化のための適用浴を準備するための水性分散体を自体の沈降に対して更に安定化するため、またはリン酸塩処理のための活性化金属表面の特性を最適化するための、活性化のための確立された湿式化学法に関する要求が存在する。後者の態様にはとりわけ、優れた被覆接着性に加えて、高い電荷移動抵抗、従ってそれに対応した被覆の良好なグリップが後続の電着塗装で達成されるように、可能な限り均一かつ包括的な方法でリン酸塩処理される金属表面の活性化をもたらし、従って、リン酸塩処理段階における均一な微結晶性被覆の形成をもたらす能力が含まれる。更に、十分な活性化は、製造が複雑で、適用浴の濃厚物として機能する安定化水性分散体を可能な限り使用せずに達成されるべきである。そのような濃厚物の沈降に対する安定化に関して、単純に長時間の後に既に沈殿した活性成分を再分散させること、およびそのような活性成分を活性化に利用可能にすることは常に困難である。それと同時に、濃厚物は、技術的に取り扱い容易でなければならず、特に再分散後は、活性化の適用浴への後続の計量供給のためにポンプ輸送容易でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
意外なことに、この複雑なタスクプロファイルは、増粘剤の存在下で特定の高分子分散助剤を組み合わせることにより対応される。この特定の組み合わせによって分散一次粒子を結合させることで、そして、これによって安定化凝集体との接触により金属表面が活性化されることで、所要の流動挙動および沈降に対する必須の安定性が確実となる。更に、特定の分散助剤により、分散体の成分の濃度を、例えば水での希釈により、低下させた場合に、一次粒子は沈降に対する安定性を失うことなく凝集体から徐々に放出されることが確実となる。
【0007】
従って、本発明の第一の態様は、
(a)(a1)少なくとも1つの、多価金属カチオンの粒子状無機化合物、および
(a2)スチレンおよび/または5個以下の炭素原子を有するα-オレフィンおよびマレイン酸、その無水物および/またはそのイミドから少なくとも部分的に構成され、ポリオキシアルキレン単位を更に含む、少なくとも1つの高分子有機化合物
を含んでなる、少なくとも5重量%の分散粒子成分、並びに
(b)少なくとも1つの増粘剤
を含有し、10μm超のD50値を有する水性分散体に関する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水性分散体の分散粒子成分(a)は、公称分画限界が10kD(NMWC:公称分画分子量)である水性分散体の規定された部分体積の限外濾過保持液を乾燥させた後に残る固形分である。10μScm-1未満の伝導度が濾液において測定されるまで、脱イオン水(κ<1μScm-1)を添加して限外濾過を行う。
【0009】
本発明において、有機化合物は、その重量平均分子量が500g/molより大きい場合は高分子化合物である。分子量は、関連参考値を有する試料の分子量分布曲線を用いて測定され、この曲線は、濃度依存屈折率検出器を使用してサイズ排除クロマトグラフィーにより30℃で実験的に確立され、標準ポリエチレングリコールに対して校正される。平均分子量の分析は、三次検量線を用いたストリップ法に従ってコンピューターにより実施される。ヒドロキシル化ポリメタクリレートがカラム材料として適しており、0.2mol/L塩化ナトリウム、0.02mol/L水酸化ナトリウム、6.5mmol/L水酸化アンモニウムの水溶液が溶離剤として適している。
【0010】
リン酸塩処理の活性化段階のための濃厚物としての機能において、本発明の水性分散体は十分な量の粒子成分(a)を含有し、これに関して、好ましくは少なくとも10重量%、特に好ましくは少なくとも15重量%の割合がより有利である。結果として生じる分散体の技術的なハンドリング性が通常劣るので、粒子成分(a)の含有量は40重量%を超えるべきでない。従って、粒子の含有量は、特に好ましくは30重量%以下である。本発明において、本発明の水性分散体の組成に関する量は常に、別の参照値が明示されていない限り、参照値として分散体に関する。
【0011】
活性化のため、対応して高い割合で活性化のために粒子成分(a)に含まれる、リン酸塩形態での多価金属カチオンを使用することが通常好ましい。従って、分散粒子成分(a)の少なくとも1つの粒子状無機化合物(a1)は、好ましくは、リン酸塩から少なくとも部分的に構成されている。POとして計算した、分散無機粒子成分に基づくこれらリン酸塩の含有量は、好ましくは少なくとも25重量%、特に好ましくは少なくとも35重量%、より特に好ましくは少なくとも40重量%、非常に特に好ましくは少なくとも45重量%である。水性分散体の無機粒子成分は、赤外線センサーが反応炉出口において二酸化炭素不含有キャリヤーガスと同じ信号(ブランク値)を示すまで、触媒または他の添加剤の混合を伴わず、900℃での二酸化炭素不含有酸素流の供給により、限外濾過保持液の乾燥から得た粒子成分(a)を反応炉において熱分解した際に残る成分である。無機粒子成分に含まれるリン酸塩は、25℃、15分間の10重量%HNO水溶液を用いた成分の酸分解の後、酸分解法から直接、原子発光分光法(ICP-OES)により、リン含有量として測定される。
【0012】
金属表面上への密着したリン酸塩被覆の形成を効果的に促進し、この意味で金属表面を活性化する水性分散体の活性成分は、既に述べたように、好ましくは主にリン酸塩からなり、好ましくはホペイト、フォスフォフィライト、ショルザイトおよび/またはヒューリオライトを少なくとも部分的に含み、特に好ましくはホペイト、フォスフォフィライトおよび/またはショルザイトを少なくとも部分的に含み、より特に好ましくはホペイトおよび/またはフォスフォフィライトを少なくとも部分的に含み、非常に特に好ましくは微結晶性被覆の形成のためにホペイトを少なくとも部分的に含む。従って、本発明の意味において好ましい活性化は実質的に、本発明の水性分散体に含まれる粒子状のリン酸塩に基づく。リン酸塩であるホペイト、フォスフォフィライト、ショルザイトおよび/またはヒューリオライトは、微粉砕粉末として、または分散助剤としての高分子有機化合物(a2)と一緒に粉砕された粉末ペーストとして、本発明の水性分散体を供給するために成分(a1)として水溶液に分散されてよい。結晶水を考慮せず、ホペイトは化学量論的に、Zn(PO並びにニッケル含有変種およびマンガン含有変種であるZnMn(PO、ZnNi(POを含む一方で、フォスフォフィライトはZnFe(POからなり、ショルザイトはZnCa(POからなり、ヒューリオライトはMn(POからなる。本発明の水性分散体における、結晶性相であるホペイト、フォスフォフィライト、ショルザイトおよび/またはヒューリオライトの存在は、上述したような公称分画限界が10kD(NMWC:公称分画分子量)である限外濾過による粒子成分(a)の分離および105℃で一定質量になるまでの保持液の乾燥の後のX線回折法(XRD)により立証できる。
【0013】
亜鉛イオンを含み、特定の結晶性を有するリン酸塩の存在が好ましいため、成功裏の活性化の後に強固に付着する結晶性リン酸亜鉛被覆が形成されるためには、本発明の水性分散体が、水性分散体の無機粒子成分中に、POとして計算した無機粒子成分のリン酸塩含有量に基づいて少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%、特に好ましくは少なくとも40重量%の亜鉛を含有することが好ましい。
【0014】
しかし、鉄上、特に鋼上において層形成リン酸亜鉛処理は確実には実施されないので、本発明の意味において活性化は好ましくは、リン酸チタンのコロイド溶液により実施されない。従って、本発明の方法の好ましい態様では、水性分散体の無機粒子成分におけるチタンの含有量は、水性分散体に基づいて、0.1重量%未満、特に好ましくは0.01重量%未満である。特に好ましい態様では、活性化のための水性分散体は、合計で、10mg/kg未満、特に好ましくは1mg/kg未満のチタンを含有する。
【0015】
同様に高分子有機化合物(a2)の優れた分散性の故に、金属表面の活性化に必須である無機粒子成分の高含有が達成できることも有利である。これに関して、水性分散体は、分散粒子成分(a)の量に基づいて、好ましくは少なくとも60重量%、特に好ましくは少なくとも80重量%の分散無機粒子成分の含有量を成功裏に有することができる。
【0016】
本発明の水性分散体は、10μmより大きいD50値を特徴とする。分散体に含まれる分散粒子の凝集体は、分散体のハンドリング性に好適なチキソトロピー流動性をもたらす。低剪断で高い粘性を示す凝集体の傾向は、長い保存可能期間に有利である一方で、剪断時の粘度の低下により、ポンプ輸送を可能にする。好ましい流動性はまた、分散体が150μmのD90値を大幅に超えない場合にも得られる;従って、本発明では、水性分散体のD90値が150μm未満、好ましくは100μm未満、特に80μm未満であることが好ましい。
【0017】
本発明において、D50値またはD90値は各々、水性分散体に含まれる粒子成分の50体積%または90体積%がその値を超えない粒子径を意味する。
【0018】
D50値またはD90値は、ISO 13320:2009に従い、球状粒子およびn=1.52-i・0.1の散乱粒子屈折率を用いて、20℃で相応量の脱イオン水(κ<1μScm-1)で分散粒子成分について0.05重量%となるよう分散体を希釈した直後のミー理論に従った散乱光分析により体積加重累積粒度分布から測定できる。この希釈は、体積200mLの脱イオン水に対応する量の分散体が、株式会社堀場製作所社製LA-950 V2粒度分析装置の試料容器に添加され、そこで機械的に測定室に循環されるように行う(LA-950 V2の循環ポンプの設定:レベル5=3.3L/分の体積流量について1167rpm)。粒度分布は、分散体を希釈体積まで添加した後、120秒以内に測定される。
【0019】
本発明の水性分散体に含まれる粒子成分(a)は、10μmを超える粒度を有する凝集体中に少なくとも部分的に存在する。凝集体自体は一次粒子からなるので、本発明の水性分散体は、好ましくは二峰性粒度分布を有し、特に好ましくは一方が1μm未満の粒度分布極大を示し他方が10μm超の粒度分布極大を示す。好ましくはこれらの分布極大の間に位置する分布極小の強度に対する分布極大の強度の比が各々2より大きくなるように、体積加重粒度分布曲線が少なくとも2つの独立した分布極大を有する場合に、二峰性粒度分布が存在する。
【0020】
本発明の意味において、分散助剤として使用され、ポリオキシアルキレン単位を有する高分子有機化合物(a2)は、スチレンおよび/または5個以下の炭素原子を有するα-オレフィンおよびマレイン酸、その無水物および/またはそのイミドから少なくとも部分的に構成されている。この場合のα-オレフィンは好ましくは、エテン、1-プロペン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、2-メチル-ブト-1-エンおよび/または3-エチル-ブト-1-エンから選択され、特に好ましくはイソブチレンから選択される。高分子有機化合物(a2)が構成単位としてこれらのモノマーを、相互にまたは他の構成単位と共有結合した不飽和な形態で含むことは、当業者には明らかである。適当な市販品の代表的な例は、例えば、Dispex(登録商標)CX 4320(BASF SE)、ポリプロピレングリコールで変性されたマレイン酸-イソブチレン共重合体、Tego(登録商標)Dispers 752 W(Evonik Industries AG)、ポリエチレングリコールで変性されたマレイン酸-スチレン共重合体、またはEdaplan(登録商標)490(Muenzing Chemie GmbH)、EO/POおよびイミダゾール単位で変性されたマレイン酸-スチレン共重合体である。本発明では、スチレンから少なくとも部分的に構成されている高分子有機化合物(a2)が好ましい。
【0021】
分散助剤として使用される高分子有機化合物(a2)は、好ましくは1,2-エタンジオールおよび/または1,2-プロパンジオールからなる、特に好ましくは1,2-エタンジオールおよび1,2-プロパンジオールの両方からなるポリオキシアルキレン単位を有し、ポリオキシアルキレン単位全体における1,2-プロパンジオールの含有量は、ポリオキシアルキレン単位全体に基づいて、好ましくは少なくとも15重量%であるが、特に好ましくは40重量%以下である。更に、ポリオキシアルキレン単位は、好ましくは、高分子有機化合物(a2)の側鎖に含まれる。高分子有機化合物(a2)全体におけるポリオキシアルキレン単位の含有量が好ましくは少なくとも40重量%、特に好ましくは少なくとも50重量%であるが、好ましくは70重量%以下であることが、分散性のために有利である。
【0022】
好ましい態様ではリン酸塩形態で多価金属カチオンから少なくとも部分的に形成されている、水性分散体の無機粒子成分による分散助剤の固定のため、好ましくは高分子有機化合物(a2)のポリオキシアルキレン単位がイミダゾール基で少なくとも部分的にエンドキャップされるように、高分子有機化合物(a2)はまたイミダゾール単位も有する。従って、好ましい態様では、末端イミダゾール基はポリオキシアルキレン側鎖に存在し、ポリオキシアルキレン単位とイミダゾール基とは好ましくは複素環の窒素原子を介して共有結合している。好ましい態様では、高分子有機化合物(a2)のアミン価は、少なくとも25mgKOH/g、特に好ましくは少なくとも40mgKOH/gであるが、好ましくは125mgKOH/g未満、特に好ましくは80mgKOH/g未満である。従って、好ましい態様では、粒子成分(a)における高分子有機化合物の全体はまた、これらの好ましいアミン価を有する。アミン価は各々場合に、100mLのエタノール中で約1gの関連参考値(粒子成分における高分子有機化合物(a2)または高分子有機化合物全体)を計量することにより測定され、滴定は、20℃のエタノール溶液温度で黄色に変色するまで指示薬ブロモフェノールブルーに対して0.1N塩酸滴定液を用いて行われる。使用される塩酸滴定液(単位:mL)の量に係数5.61を掛け、正確な質量(単位:g)で割った値が、関連参考値のアミン価(単位:mgKOH/g)に相当する。
【0023】
マレイン酸が無水物またはイミドの形態ではなく遊離酸として高分子有機化合物(a2)の成分である限り、マレイン酸の存在により、特にアルカリ性の範囲で、分散助剤の水溶性が向上され得る。従って、高分子有機化合物(a2)、好ましくは粒子成分(a)における高分子有機化合物の全体は、好ましくは、十分な数のポリオキシアルキレン単位を確実にするために、少なくとも25mgKOH/gだが好ましくは100mgKOH/g未満、特に好ましくは70mgKOH/g未満のDGF CV 2 (06)(2018年4月現在)に準じた酸価を有する。また、高分子有機化合物(a2)、好ましくは粒子成分(a)における高分子有機化合物の全体は、好ましくは、各々の場合に、15mgKOH/g未満、特に好ましくは12mgKOH/g未満、より特に好ましくは10mgKOH/g未満の、European Pharmacopoeia 9.0の01/2008:20503の方法Aに従って測定されるヒドロキシル価を有する。
【0024】
分散体の無機粒子成分の十分な分散のためには、高分子有機化合物(a2)の含有量、好ましくは粒子成分(a)における高分子有機化合物の全体の含有量が、粒子成分(a)に基づいて、少なくとも3重量%、特に好ましくは少なくとも6重量%であるが、好ましくは15重量%以下であることが十分である。
【0025】
成分(b)の増粘剤の存在は、その粒子成分との組み合わせにより、水性分散体に上記した所望の流動挙動をもたらし、それにより、粒子成分における凝集体(これからは一次粒子は分離され得ない)の不可逆的な形成が抑制される。本発明によれば、増粘剤の添加により、少なくとも1000Pa・sだが、好ましくは5000Pa・s未満の、0.001~0.25秒-1の剪断速度範囲における25℃での最大動的粘度を有し、かつ、それを超えると水性分散体が全体としてチキソトロピー流動挙動を有するような最大動的粘度で存在する、即ち、剪断速度が上昇するにつれて粘度が低下する剪断速度において25℃で剪断減粘挙動を好ましくは示す、本発明の好ましい水性分散体を達成できる。特定の剪断速度範囲を超える粘度は、35mmのコーン直径および0.047mmのギャップ幅を有するコーンプレート型粘度計を用いて測定できる。
【0026】
本発明によれば、成分(b)の増粘剤は、25℃の温度で脱イオン水(κ<1μScm-1)中0.5重量%成分として、スピンドル2を用いた60rpm(回転/分)の剪断速度で少なくとも100mPa・sのブルックフィールド粘度を有する、高分子化合物または規定の化合物混合物である。この増粘剤特性を測定する際、相応量の高分子化合物を撹拌しながら25℃で水相に添加して混合物を水と混合すべきであり、次いで超音波浴において均一化混合物から気泡を除去し、均一化混合物を24時間静置する。続いて、スピンドル2による60rpmの剪断速度の印加後5秒以内に粘度の測定値を読み取る。
【0027】
本発明の水性分散体は、10μm超のD50値および関連して有利なチキソトロピー流動挙動をもたらすために、好ましくは、合計で少なくとも0.5重量%であるが好ましくは4重量%以下、特に好ましくは3重量%以下の1以上の成分(b)の増粘剤を含有し、本発明の分散体の非粒子成分中の高分子有機化合物の総含有量は、好ましくは、(分散体に基づいて)4重量%以下である。非粒子成分は、105℃で恒量になるまで乾燥した後の上記限外濾過の透過液中の本発明の分散体の固形分、即ち、限外濾過により粒子成分が分離された後の固形分である。
【0028】
ある種の高分子化合物は、本発明の第一の態様の特に適した成分(b)の増粘剤であり、容易に商業的に入手できる。これに関連して、成分(b)の増粘剤は、とりわけ好ましくは高分子有機化合物から選択され、好ましくは、多糖類、セルロース誘導体、アミノプラスト、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタンおよび/またはウレアウレタン樹脂から選択され、特に好ましくは、そのような増粘剤が少量であっても分散体において安定な凝集体を形成するのに十分である(これにより、10μm超の所望のD50値がもたらされ、上記した好ましいチキソトロピー流動挙動が発現するので、分散体は長期保存可能期間および優れたポンプ輸送性の両方を有し、これは、活性化段階の再調整のために分散体を計量する際に技術的に重要な役割を果たす)ように分散成分と組み合わさって結合するウレアウレタン樹脂から選択される。
【0029】
本発明の成分(b)の増粘剤としてのウレアウレタン樹脂は、多価イソシアネートとポリオール並びにモノ-および/またはジアミンとの反応により生成される高分子化合物混合物である。好ましい態様では、ウレアウレタン樹脂は、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2(4),4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートおよびそれらの混合物、p-およびm-キシレンジイソシアネート、並びに4,4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタンから好ましくは選択され、2,4-トルエンジイソシアネートおよび/またはm-キシレンジイソシアネートから特に好ましくは選択される、多価イソシアネートから生成される。好ましい態様では、ウレアウレタン樹脂は、少なくとも6、特に好ましくは少なくとも8、より特に好ましくは少なくとも10であるが好ましくは26未満、特に好ましくは23未満のオキシアルキレン単位から好ましくは構成される、ポリオキシアルキレンジオール、特に好ましくはポリオキシエチレングリコールから選択されるポリオールから生成される。
【0030】
特に適した、従って本発明において好ましいウレアウレタン樹脂は、NCO末端ウレタンプレポリマーを生成するジイソシアネート、例えばトルエン-2,4-ジイソシアネートとポリオール、例えばポリエチレングリコールとの第一の反応、および続く第一級モノアミンおよび/または第一級ジアミン、例えばm-キシレンジアミンとの反応によって得ることができる。遊離またはブロックトイソシアネート基を有さないウレアウレタン樹脂が特に好ましい。本発明のアルカリ性水性分散体の成分としてのそのようなウレアウレタン樹脂は、一次粒子の緩い凝集体の生成、従って、好ましいチキソトロピー流動挙動と本発明において有利な二峰性粒度分布を有する分散体の提供の両方を促進する。しかし、凝集体は、水相において安定化され、粒子成分の沈降が大幅に防止される程度に更なる凝集から保護される。この特性プロフィルをさらに促進するために、遊離若しくはブロックトイソシアネート基または末端アミン基を有さないウレアウレタン樹脂を成分(b)として好ましくは使用する。従って、好ましい態様では、ウレアウレタン樹脂である成分(b)の増粘剤は、各々の場合に高分子有機化合物(a2)に関して先に述べた測定方法に従って、8mgKOH/g未満、特に好ましくは5mgKOH/g未満、より特に好ましくは2mgKOH/g未満のアミン価を有する。粒子成分において成分(a2)は実質的に結合している一方で、増粘剤は水相に実質的に溶解し、従って、水性分散体の非粒子成分に割り当てられ得るので、非粒子成分中の高分子有機化合物全体が好ましくは16mgKOH/g未満、特に好ましくは10mgKOH/g未満、より特に好ましくは4mgKOH/g未満のアミン価を有する水性分散体が好ましい。ウレアウレタン樹脂がEuropean Pharmacopoeia 9.0の01/2008:20503の方法Aに従って測定される、10~100mgKOH/gの範囲、特に好ましくは20~60mgKOH/gの範囲のヒドロキシル価を有することが更に好ましい。分子量については、高分子化合物の本発明の定義に関連して先に記載したように各々の場合に実験的に測定される、1000~10000g/molの範囲、好ましくは2000~6000g/molの範囲のウレアウレタン樹脂の重量平均分子量が本発明において有利であり、従って好ましい。
【0031】
助剤の添加を伴わず、分散体のpHは通常6.0~9.0の範囲であり、従ってそのようなpH範囲が本発明において好ましい。しかし、活性化段階における実際および通常アルカリ性のコロイド水溶液との適合性のためには、必要に応じてアルカリ性となるよう反応する化合物を添加した結果として、水性分散体のpHが7.2超、特に好ましくは8.0超であることが有利である。ある種の多価金属カチオンは両性であり、従ってより高いpH値で粒子成分から分離され得るので、本発明の水性分散体のアルカリ度は、水性分散体のpHが好ましくは10未満、特に好ましくは9.0未満となるように理想的に制限される。本明細書で使用する「pH」は、20℃でのヒドロニウムイオン活性の負の常用対数に相当し、pH感知ガラス電極により測定できる。
【0032】
上記した本発明の水性分散体は、好ましくは、
i)4~7質量部の水の存在下で0.5~2質量部の高分子有機化合物(a2)と一緒に10質量部の粒子状無機化合物(a1)を粉砕し、5μm未満のD90値に達するまで磨砕することにより顔料ペーストを供給し;
ii)少なくとも5重量%の分散粒子成分(a)および0.001~0.25秒-1の剪断速度範囲における25℃の温度での少なくとも1000Pa・sの最大動的粘度がもたらされるような水および増粘剤(b)の量で顔料ペーストを希釈し;
iii)アルカリ性に反応する化合物を用いて7.2~10.0の範囲のpHに調整する
ことによって得ることができる。分散体の好ましい態様は、各々の場合に必要に応じて所定のまたは所望の量の相応の成分(a1)、(a2)および(b)を選択することにより同様に得られる。
【0033】
本発明の水性分散体は、例えば防腐剤、湿潤剤、消泡剤から選択される助剤を含有することもでき、そのような助剤は、関連する機能に必須の量で含まれる。助剤の含有量、特に好ましくは増粘剤ではなくアルカリ性に反応する化合物でもない非粒子成分中の他の化合物の含有量は、好ましくは1重量%未満である。本発明において、アルカリ性に反応する化合物は、水溶性(水溶性:κ<1μScm-1の水1kgあたり少なくとも10g)であり、第一プロトン化工程のために8.0超のpK値を有する。
【0034】
別の第二の態様では、本発明は、リン酸塩処理に基づき、本発明の第一の態様の水性分散体を含む、防食前処理方法に関する。この第二の態様に従った本発明の方法は、亜鉛、鉄またはアルミニウムから選択される金属材料またはそのような金属材料から少なくとも部分的に構成される部材の防食前処理に関し、この方法では、金属材料または部材は、連続した方法工程で、(i)まず活性化され、(ii)次いでリン酸塩処理される。方法工程(i)における活性化は、金属材料または部材の少なくとも1つの金属材料と、本発明の第一の態様に従った水性分散体を20から100,000の係数で希釈することにより得られるコロイド水溶液との接触により行う。
【0035】
亜鉛、アルミニウムおよび鉄から選択される全ての金属材料の十分な活性化のためには、それに応じて、コロイド水溶液の粒子成分の含有量を調整しなければならない。本発明の第一の態様の水性分散体は、活性化段階のコロイド水溶液における無機粒子成分の比較的少ない含有量、特に無機粒子成分におけるリン酸塩の比較的少ない含有量が金属表面の活性化に必要とされるという事実によって区別される。従って、本発明の第二の態様では、好ましくは各々の場合にPOとして計算し、コロイド水溶液に基づく無機粒子成分中のリン酸塩の含有量として、方法工程(i)における活性化段階のコロイド水溶液に基づく無機粒子成分の含有量が少なくとも5mg/kg、好ましくは少なくとも20mg/kg、特に好ましくは少なくとも50mg/kgである方法が好ましい。経済的理由および再現性のある被覆結果のために、活性化は最大限に希釈したコロイド水溶液で実施されるべきである。活性化段階のコロイド水溶液に基づく無機粒子成分の含有量が、好ましくは各々の場合にPOとして計算し、コロイド水溶液に基づく無機粒子成分中のリン酸塩の含有量として、0.5g/kg未満、特に好ましくは0.4g/kg未満、より特に好ましくは0.3g/kg未満であることが好ましい。
【0036】
本発明の第二の態様における活性化段階のコロイド水溶液の粒子成分は、本発明の第一の態様の水性分散体のものと同様に決められ、従って、同様に規定される。
【0037】
亜鉛、鉄またはアルミニウムから選択される金属材料の処理を本発明の第二の態様において参照するとき、関連する要素の50at%超を含む全ての材料が包含される。防食前処理は常に、材料または部材の表面に関する。材料は、均一材料または被覆であり得る。本発明では、亜鉛メッキ鋼グレードは、材料鋼および材料亜鉛の両方で構成されており、例えば亜鉛メッキ鋼製自動車車体の切断端および円柱状磨砕点で鉄表面の露出が起こり得る。その場合、本発明によれば、材料鉄の前処理が存在する。
【0038】
本発明の第二の態様に従って処理される部材は、特にストリップ、金属シート、ロッド、パイプ等の半製品、およびこれらの半製品から組み立てられた複合構造を包含する、製造方法に由来するあらゆる形状およびデザインの全ての三次元構造であり得る。半製品は、好ましくは、複合構造を形成するための接着、溶接および/またはフランジングにより相互に接合されている。
【0039】
主に酸性のリン酸塩処理へのアルカリ性成分の持ち越しを低減するために、活性化とリン酸塩処理の間に濯ぎ工程が存在してよい。しかし、濯ぎ工程は好ましくは、活性化性能を完全に維持するために実施しない。濯ぎ工程はもっぱら、先の湿式化学処理からの部材への付着により持ち越される可溶性の残留物、粒子および活性成分の、処理される部材からの完全または部分除去のために用いられ、部材の金属表面と濯ぎ液との単なる接触により既に消費されている金属元素ベースまたは半金属元素ベース活性成分が濯ぎ液自体に含まれることは伴われない。例えば、濯ぎ液は、単に水道水または脱イオン水であり得、或いは、必要に応じて、濯ぎ液による湿潤性を改善するための界面活性化合物を含む濯ぎ液であってもよい。
【0040】
金属材料の活性化を目的とする層形成リン酸塩処理および半結晶性被覆形成のため、方法工程(ii)のリン酸塩処理において、水中に溶解した、POとして計算して5~50g/kgのリン酸塩を含有し、好ましくは少なくとも1つの遊離フッ化物源を更に含有する酸性水性組成物と表面とを接触させることが好ましい。本発明では、リン酸塩イオンの量は、POとして計算した、オルトリン酸、およびオルトリン酸塩の水に溶解したアニオンを包含する。
【0041】
本発明の第二の態様の特定の態様では、後続のリン酸塩処理はリン酸亜鉛処理であり、方法工程(ii)におけるリン酸塩処理は、0.3~3g/kgの亜鉛イオンを含有する酸性水性組成物、好ましくは5~50g/Lのリン酸塩イオンおよび0.3~3g/Lの亜鉛イオンおよび所定量の遊離フッ化物を含有する酸性水性組成物に基づく。
【0042】
少なくとも部分的にアルミニウムで作られた、例えば自動車車体のリン酸亜鉛処理のための、亜鉛、鉄またはアルミニウムから選択される全金属材料への層形成が所望および要求される限りにおいて、遊離フッ化物イオン源は、層形成リン酸亜鉛処理工程に必須である。部材の金属材料の全表面がリン酸塩被覆を備える場合、活性化における粒子成分の量はしばしば、リン酸亜鉛処理における層形成に必要な遊離フッ化物の量に適合されなければならない。前処理する部材が亜鉛および鉄、特に鋼の金属材料で作られている、活性化および続くリン酸亜鉛処理に基づく第二の態様の方法では、密着した欠陥のないリン酸塩被覆のために、酸性水性組成物中の遊離フッ化物の量が少なくとも0.5mmol/kgであることが有利である。部材が金属材料アルミニウムで作られており、その表面に密着したリン酸塩被覆を付与する場合、第二の態様に従った本発明の方法では、酸性水性組成物中の遊離フッ化物の量が少なくとも2mmol/kgであることが好ましい。遊離フッ化物濃度は、リン酸塩被覆が容易に拭き取り可能な接着性を主に有するような値を超えるべきでない。なぜなら、そのような接着性は、活性化のコロイド水溶液における過度に増加した量の粒子成分によっても回避できないからである。従って、活性化および続くリン酸亜鉛処理に基づく本発明の第二の態様に従った本発明の方法において、リン酸亜鉛処理の酸性水性組成物における遊離フッ化物濃度が15mmol/kg未満、特に好ましくは10mmol/kg未満、より特に好ましくは8mmol/kg未満であることが、経済的に有利であり、従って好ましい。
【0043】
遊離フッ化物の量は、pH緩衝を伴わないフッ化物含有緩衝溶液での校正後、関連する酸性水性組成物において20℃でフッ化物感知測定電極を用いて電位差滴定で測定できる。適当な遊離フッ化物源は、フッ化水素酸およびその水溶性塩、例えば二フッ化アンモニウムおよびフッ化ナトリウム、並びに元素Zr、Tiおよび/またはSiの複合フッ化物、特に元素Siの複合フッ化物である。従って、本発明の第二の態様に従ったリン酸塩処理工程では、遊離フッ化物源は好ましくは、フッ化水素酸およびその水溶性塩および/または元素Zr、Tiおよび/またはSiの複合フッ化物から選択される。フッ化水素酸の塩は、60℃での脱イオン水(κ<1μScm-1)中溶解度がFとして計算して少なくとも1g/Lであれば、本発明の意味において水溶性である。
【0044】
亜鉛製金属材料表面上のいわゆる「ピンホール形成」を抑制するため、本発明の第二の態様並びに活性化および続くリン酸亜鉛処理の手順において、遊離フッ化物源が元素Siの複合フッ化物、特にヘキサフルオロケイ酸およびその塩から少なくとも部分的に選択されることが好ましい。用語「ピンホール形成」は、処理された亜鉛表面上または処理された亜鉛メッキ若しくは合金亜鉛メッキ鋼表面上の結晶性リン酸塩層における、非晶質白色リン酸亜鉛の局所的電界析出の現象を意味すると、リン酸塩処理の当業者に理解される。この場合、ピンホール形成は、局所的に増大した基材酸洗速度により起こる。リン酸塩処理におけるそのような点欠陥は、続いて適用される有機被覆系の腐食性層間剥離の出発点になり得、従って、ピンホール形成は実際にはほぼ回避されなければならない。本発明では、方法工程(ii)におけるリン酸亜鉛処理の酸性水性組成物中で水に溶解した状態のケイ素の濃度が、少なくとも0.5mmol/kg、特に好ましくは少なくとも1mmol/kg、より特に好ましくは少なくとも2mmol/kgであるが、好ましくは15mmol/kg未満、特に好ましくは12mmol/kg未満、より特に好ましくは10mmol/kg未満、非常に特に好ましくは8mmol/kg未満であることが好ましい。ケイ素濃度の上限が好ましい。なぜなら、これらの値を超えると、緩い接着性を主に有するリン酸塩被覆になりやすく、そのような接着性は、活性化段階のコロイド水溶液における過度に増加した量の粒子成分によっても回避できないからである。水に溶解した状態での酸性水性組成物中のケイ素の濃度は、0.2μmの公称細孔径を有する膜を用いて実施される酸性水性組成物の膜濾過の濾液において原子発光分光法(ICP-OES)により測定できる。
【0045】
活性化およびリン酸亜鉛処理の相互作用について、リン酸塩処理浴に含まれる、金属材料としてのアルミニウムを含む部材に対する層形成リン酸塩処理のためのより多量の遊離フッ化物が層形成に悪影響を及ぼさないこと(これは、特に大量の部材を前処理する場合に、リン酸塩被覆の一定品質のために非常に重要である)を確実にするために、活性化に寄与する粒子成分の含有量がリン酸亜鉛処理における遊離フッ化物およびケイ素の量に適合されるべきであることが見出された。本発明の第一の態様の水性分散体は、欠陥のないリン酸亜鉛被覆の形成をかなりの程度まで助ける。
【0046】
この意味において、本発明の第二の態様に従った好ましい方法は、材料亜鉛およびアルミニウムから少なくとも部分的に作られた部材を含む一連の部材を前処理する方法であって、一連の部材を連続した方法工程で、まず活性化し(i)、次いでリン酸塩処理し(ii)、方法工程(i)における活性化を、部材と、本発明の第一の態様に従った、20から100,000の係数で希釈された水性分散体として得られるコロイド水溶液との接触により行い、その分散粒子成分(a)はリン酸塩から少なくとも部分的に構成され、方法工程(ii)におけるリン酸塩処理は、
(a)5~50g/Lのリン酸塩イオン、
(b)0.3~3g/Lの亜鉛イオン、および
(c)少なくとも1つの遊離フッ化物源
を含有する酸性水性組成物との接触により行い、
各々の場合にリン酸塩処理の酸性水性組成物における濃度であってそれぞれmmol/kg単位である遊離フッ化物濃度とケイ素濃度の合計に対する、POに基づきmmol/kg単位である、活性化におけるコロイド水溶液の無機粒子成分におけるリン酸塩の濃度の割合は、0.2より大きく、好ましくは0.3より大きく、特に好ましくは0.4より大きい、方法である。
【0047】
コロイド水溶液の無機粒子成分に含まれるリン酸塩の濃度は、酸分解法から直接、25℃、15分間の10重量%HNO水溶液による成分の酸分解法の後、原子発光分光法(ICP-OES)によりリン含有量として測定できる。
【0048】
コロイド水溶液に分散された無機粒子成分の安定性を確保する助剤を、コロイド水溶液に通常添加する。特に、無機粒子成分がリン酸塩から少なくとも部分的に構成され、本発明の第一の態様の水性分散体の希釈によりコロイド水溶液を得る場合、水溶性リン酸塩、特にピロリン酸塩が活性化のコロイド水溶液に含まれ、好ましくは少なくとも5mg/kg、特に好ましくは少なくとも20mg/kg、より特に好ましくは少なくとも50mg/kgであるが、好ましくは500mg/kg以下、特に好ましくは200mg/kg以下の量で添加されることが好ましい。コロイド水溶液の非粒子成分は、本発明の第一の態様の水性分散体の非粒子成分と同様に決められ、または分離される。
【0049】
更に、水相に溶解し、粒子状リン酸塩含有量と化学平衡にある多価金属カチオンを安定化させるために、本発明の第二の態様に従った方法における活性化(i)のコロイド水溶液に錯化剤を添加できる。α-ヒドロキシカルボン酸、例えば、グルコン酸、クエン酸、酒石酸、タルトロン酸、グリコール酸、乳酸、および/または有機ホスホン酸、例えば、アミノトリメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)または1-ヒドロキシエタン-(1,1-ジホスホン酸)を添加することが特に有利である。錯化剤としての1-ヒドロキシエタン-(1,1-ジホスホン酸)の添加が、本発明において特に有利であることが分かった。
【0050】
本発明の第二の態様に従った方法の活性化(i)におけるコロイド水溶液は、好ましくはアルカリ性のpH、特に好ましくは8.0を超えるpH、より特に好ましくは9.0を超えるpHであるが、好ましくは11.0未満のpHを有する。pHを調節するために、pHに影響を与える化合物、例えばリン酸、水酸化ナトリウム溶液、水酸化アンモニウムまたはアンモニアを用いることができる。
【0051】
順次の部材防食処理は、大量の部材を、各処理工程において供給され、系タンクに通常は貯蔵されている処理溶液と接触させ、個々の部材を連続して、従って別の時間に接触させる場合に実施する。この場合、系タンクは、前処理溶液が順次の防食処理のために配置されている容器である。
【0052】
方法工程(ii)におけるリン酸亜鉛処理が本発明の第二の態様において述べられている限り、リン酸亜鉛処理をもたらす酸性水性組成物の好ましいpHは、2.5超、特に好ましくは2.7超であるが、好ましくは3.5未満、特に好ましくは3.3未満である。方法工程(ii)におけるリン酸亜鉛処理の酸性水性組成物におけるある時点での遊離酸含有量は、好ましくは少なくとも0.4であるが、好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.0以下である。ある時点での遊離酸の割合は、10mLの試料量の酸性水性組成物を50mLに希釈し、0.1N水酸化ナトリウム溶液でpH3.6まで滴定することにより測定される。水酸化ナトリウム溶液の消費量(mL単位)が遊離酸のポイント数を示す。
【0053】
リン酸亜鉛処理のための添加剤の通常の添加は、本発明の第二の態様においても同様に実施され得る。酸性水性組成物は、常套の促進剤、例えば過酸化水素、亜硝酸塩、ヒドロキシルアミン、ニトログアニジンおよび/またはN-メチルモルホリン-N-オキシドを含有でき、水溶性塩形態の金属マンガン、カルシウムおよび/または鉄のカチオンも添加でき、これらは、層形成に正の影響を及ぼす。環境衛生上好ましいある態様では、方法工程(ii)におけるリン酸亜鉛処理の酸性水性組成物は、合計10ppm未満のニッケルおよび/またはコバルトイオンを含む。
【0054】
本発明の方法では、その過程で実質的に有機の被覆層が適用される後続の浸漬被覆のための良好な被覆プライマーが形成される。従って、本発明の方法の好ましい態様では、中間の濯ぎおよび/または乾燥工程を伴ってまたは伴わず、しかし好ましくは濯ぎ工程を伴って乾燥工程を伴わず、リン酸亜鉛処理に次いで、浸漬被覆、特に好ましくは電着塗装、特に好ましくはカチオン電着塗装を実施する。これは、好ましくは、分散樹脂に加えてイットリウムおよび/またはビスマスの水溶性または水分散性塩を含有し、好ましくはアミン変性ポリエポキシドを含んでなる。
本発明の好ましい態様は、以下を包含する。
[1](a)(a1)少なくとも1つの、多価金属カチオンの粒子状無機化合物、および
(a2)スチレンおよび/または5個以下の炭素原子を有するα-オレフィンおよびマレイン酸、その無水物および/またはそのイミドから少なくとも部分的に構成され、ポリオキシアルキレン単位を更に含む、少なくとも1つの高分子有機化合物
を含んでなる、少なくとも5重量%の分散粒子成分、並びに
(b)少なくとも1つの増粘剤
を含有し、10μm超のD50値を有する水性分散体。
[2]分散粒子成分(a)の少なくとも1つの粒子状無機化合物(a1)はリン酸塩から少なくとも部分的に構成されており、POとして計算した分散無機粒子成分に基づくリン酸塩の含有量は、好ましくは少なくとも25重量%、特に好ましくは少なくとも35重量%、より特に好ましくは少なくとも40重量%、非常に特に好ましくは少なくとも45重量%であることを特徴とする、[1]に記載の分散体。
[3]分散粒子成分(a)における、リン酸塩から少なくとも部分的に構成されている粒子状無機化合物(a1)の全体は、ホペイト、フォスフォフィライト、ショルザイトおよび/またはヒューリオライトから少なくとも部分的に構成されていることを特徴とする、[2]に記載の分散体。
[4]分散体は、150μm未満、好ましくは100μm未満、特に好ましくは80μm未満のD90値を有することを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の分散体。
[5]好ましくは一方が1μm未満の粒度分布極大を示し他方が10μm超の粒度分布極大を示す、二峰性粒度分布が存在することを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の分散体。
[6]高分子有機化合物(a2)はその側鎖にポリオキシアルキレン単位を含み、高分子有機化合物(a2)全体におけるポリオキシアルキレン単位の含有量は、好ましくは少なくとも40重量%、特に好ましくは少なくとも50重量%であるが、より特に好ましくは70重量%以下であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の分散体。
[7]好ましくは高分子有機化合物(a2)のポリオキシアルキレン単位がイミダゾール基で少なくとも部分的にエンドキャップされるように、高分子有機化合物(a2)はイミダゾール単位も有することを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載の分散体。
[8]粒子成分(a)における高分子有機化合物の全体は、少なくとも25mgKOH/g、特に好ましくは少なくとも40mgKOH/gであるが、好ましくは125mgKOH/g未満、特に好ましくは80mgKOH/g未満のアミン価を有することを特徴とする、[1]~[7]のいずれかに記載の分散体。
[9]粒子成分(a)における高分子有機化合物の全体は、粒子成分(a)に基づいて、少なくとも3重量%、好ましくは少なくとも6重量%であるが、好ましくは15重量%以下であることを特徴とする、[1]~[8]のいずれかに記載の分散体。
[10]成分(b)の増粘剤は、ウレアウレタン樹脂、好ましくは8mgKOH/g未満、特に好ましくは5mgKOH/g未満、非常に特に好ましくは2mgKOH/g未満のアミン価を有するウレアウレタン樹脂から選択されることを特徴とする、[1]~[9]のいずれかに記載の分散体。
[11]成分(b)の増粘剤の割合は少なくとも0.5重量%であり、非粒子成分における高分子有機化合物の総含有量は好ましくは4重量%以下であることを特徴とする、[1]~[10]のいずれかに記載の分散体。
[12]分散体のpHは7.2超、好ましくは8.0超であるが、好ましくは10.0未満、特に好ましくは9.0未満であることを特徴とする、[1]~[11]のいずれかに記載の分散体。
[13]0.001~0.25秒-1の剪断速度範囲、25℃の温度での分散体最大動的粘度は、少なくとも1000Pa・sであるが、好ましくは5000Pa・s未満であることを特徴とする、[1]~[12]のいずれかに記載の分散体。
[14]亜鉛、鉄またはアルミニウムから選択される金属材料またはそのような金属材料から少なくとも部分的に構成される部材の防食前処理方法であって、連続した方法工程で、金属材料または部材をまず活性化し(i)、次いでリン酸塩処理し(ii)、特にリン酸亜鉛処理し、方法工程(i)における活性化を、金属材料または部材と、[1]~[13]のいずれかに記載の水性分散体を20から100,000の係数で希釈することにより得られるコロイド水溶液との接触により行う、方法。
[15]亜鉛およびアルミニウムで少なくとも部分的に作られている部材を順次前処理し、
・方法工程(i)における活性化を、
粒子状無機化合物(a1)の全体がリン酸塩から少なくとも部分的に構成され、好ましくは、ホペイト、フォスフォフィライト、ショルザイトおよび/またはヒューリオライトから少なくとも部分的に構成されている[1]~[13]のいずれかに記載の水性分散体を希釈することにより調製されたコロイド水溶液と接触させることにより行い、
・方法工程(ii)におけるリン酸塩処理を、
POとして計算して5~50g/kgの水中に溶解させたリン酸塩、0.3~3g/kgの亜鉛イオン、および遊離フッ化物を含有する酸性水性組成物と接触させることにより行い、
それぞれリン酸塩処理の酸性水性組成物における濃度であってそれぞれmmol/kg単位である遊離フッ化物濃度とケイ素濃度の合計に対する、POに基づきmmol/kg単位である、活性化のためのコロイド水溶液の無機粒子成分におけるリン酸塩の濃度の割合は、0.2より大きい
ことを特徴とする、[14]に記載の方法。
【実施例
【0055】
実施態様:
安定性、流動挙動、およびリン酸亜鉛処理における活性化への適合性に関する本発明の分散体の性質を以下に説明する。
【0056】
顔料ペーストの調製
本発明の分散体を提供するための顔料ペーストを調製するため、15質量部のEdaplan(登録商標)490(Muenzing Chemie GmbH)を分散助剤として25重量部の完全脱イオン水(κ<1μScm-1)中に予備分散させ、次いで、60質量部の品質レベルPZ20のリン酸亜鉛と混合した。この相をKDL型Dyno(登録商標)-Millビーズミルに移し、リン酸亜鉛粒子を2時間連続的に粉砕した(粉砕パラメーター:75%ビーズ充填レベル、2000回転/分、20L体積流量/時、粉砕材料の温度40~45℃)。Zetasizer Nano ZS(Malvern社製)を用いて測定した結果、約0.35μmの平均粒度であった。従って、本発明に従って使用される分散助剤〔この場合はEdaplan(登録商標)490〕に基づいて、従来の許容可能な機械的または時間的な消費で、活性化に最適な一次粒子を達成できる。
【0057】
本発明の分散体の製造
約64質量部の完全脱イオン水(κ<1μScm-1)中にTDI XDIおよびPEG-16のアミン変性プレポリマーに基づく樹脂(アミン価<1mgKOH/g;ヒドロキシル価約40mgKOH)40重量%を含有するウレアウレタン樹脂溶液2.5質量部を増粘剤として供給し、均一化し、10%水酸化ナトリウム溶液を用いてpH9に調整した。次いで、撹拌しながら約33質量部の顔料ペーストを添加し、1重量%NaOH溶液を用いてpH9に調整し、完全に均一になるまで撹拌した。このように製造した本発明の分散体の試料を、説明で規定されているISO 13320:2009に従ってレーザー回折によって分析した。この目的のために、110mgの分散体を200mLの完全脱イオン水(κ<1μScm-1)に添加し、このようにして供給した試料量をRetsch Horiba LA-950粒子分析装置に設置し、60秒後にレーザー回折により試料量の粒度分布曲線を測定した。説明で規定されている評価の後、29μmのD50値を得た(D10値:0.4μm、D90値:57μm)。
【0058】
本発明の分散体は、35mmのコーン直径および0.047mmのギャップ幅を有するコーンプレート型粘度計を用いて25℃でそれぞれ測定した0.002s-1の剪断速度での2200Pa・sの最大粘度および0.1s-1の剪断速度での100Pa・s未満の動的粘度を伴った、顕著なチキソトロピー流動挙動を有していた。これは、分散体の貯蔵中の沈降の抑制に有利であり、ポンプ輸送を、従って、リン酸亜鉛処理における活性化浴の提供および再調整を容易にする。
【0059】
本発明に従ったリン酸亜鉛処理のための活性化溶液の調製
5Lの完全脱イオン水(κ<1μScm-1)を5L容のビーカーに導入し、20.4重量%のピロリン酸カリウムと28重量%のリン酸カリウムを含有する添加溶液3gと混合し、撹拌しながらリン酸を用いてpHを10.5に調整し、10gの本発明の分散体を添加した。次いで、撹拌しながら1%水酸化ナトリウム溶液を用いて、pHを10.5に調整した。
【0060】
本発明に従ったリン酸亜鉛処理における活性化溶液の使用
本発明の分散体に基づく活性化による層形成リン酸塩処理のために、冷間圧延鋼(CRS)、溶融亜鉛めっき鋼(HDG)およびアルミニウム(AA6014)のシートを:
a)まず、4重量%のBonderite(登録商標)C-AK 1565 Aおよび0.6重量%のBonderite(登録商標)C-AD 1561(いずれもHenkel AG & Co. KGaAから入手可能)を含有する脱脂浴に5分間浸漬することにより上水中で撹拌しながらアルカリ洗浄し(pH:10.2~10.9、55℃);
b)各々の場合に約30秒間、上水、続いて完全脱イオン水(κ<1μScm-1)で濯ぎ;
c)水に濡れた状態で、60秒間浸漬することにより活性化溶液と接触させ;
d)その後すぐ、かつ更なる濯ぎ工程を伴わず、52℃で撹拌しながら3分間、完全脱イオン水(κ<1μScm-1)中、(3.6のpHまで滴定した)0.9~1.4ポイントの遊離酸含有量、(8.5のpHまで滴定した)25~30ポイントの合計酸含有量および約150mg/kgの遊離フッ化物含有量を有し、4.6重量%のBonderite(登録商標)M-ZN 1994、0.8重量%のBonderite(登録商標)M-AD 565、0.24重量%のBonderite(登録商標)M-AD 338および0.38重量%のBonderite(登録商標)M-AD 110(いずれもHenkel AG & Co. KGaAから入手可能)を含有する、ヒドロキシルアミン促進リン酸塩処理浴に浸漬し;
e)約30秒間、完全脱イオン水(κ<1μScm-1)で濯ぎ;そして
f)タイプCathoguard(登録商標)800(BASF SE)の電着塗装の約20μm厚の層を供給し、その後、180℃で35分間硬化させた。
【0061】
層重量に関し、腐食試験における老化後のリン酸亜鉛処理の結果を表1にまとめる。均一で密着したリン酸亜鉛被覆が常に形成され、比較的小さい層重量で優れた防食結果が達成されることは明らかである。
【0062】
【表1】