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特許7390332風味を有する食用油の風味の低下を抑制する方法
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  • 特許-風味を有する食用油の風味の低下を抑制する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】風味を有する食用油の風味の低下を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/04 20060101AFI20231124BHJP
   A23D 9/06 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
A23D9/04
A23D9/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021091862
(22)【出願日】2021-05-31
(65)【公開番号】P2022184171
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2023-04-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】村元 直貴
(72)【発明者】
【氏名】加茂 修一
(72)【発明者】
【氏名】山下 貴稔
(72)【発明者】
【氏名】佐野 貴士
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-065979(JP,A)
【文献】特開2001-046809(JP,A)
【文献】特開平02-272098(JP,A)
【文献】特開2000-014318(JP,A)
【文献】特開2001-200288(JP,A)
【文献】特開2009-268369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00-9/06
C11B 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風味を有する食用油の風味の低下を抑制する方法であって、前記食用油を送液する流路中で前記食用油に不活性ガスを注入する注入工程を含み、前記不活性ガスの量が、前記食用油1Lに対して0.04NL以上0.5NL以下であ前記注入工程後の食用油の溶存酸素濃度が2.0%O 以上5.0%O 以下である、前記方法。
【請求項2】
前記食用油が未精製オリーブ油である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不活性ガスが窒素ガスである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記注入工程が流路中に設けられた流路絞り機構に不活性ガス及び前記食用油を通過させて不活性ガスを前記食用油に注入する工程である、請求項1乃至のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記注入工程が流路中に設けられた微細気泡発生器に不活性ガスを通過させて不活性ガスを前記食用油に注入する工程である、請求項1乃至のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記注入工程が流路中に設けられた不活性ガスと前記食用油を混合するための充填物を充填した気液混合部に不活性ガス及び前記食用油を通過させて不活性ガスを前記食用油に注入する工程である、請求項1乃至のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
風味を有する食用油の、初期風味の低下を抑制し、且つ風味の低下を抑制する方法であって、前記食用油を送液する流路中で前記食用油に不活性ガスを注入する注入工程を含み、前記不活性ガスの量が、前記食用油1Lに対して0.04NL以上0.5NL以下であり、前記注入工程後の食用油の溶存酸素濃度が2.0%O 以上5.0%O 以下である、前記方法。
【請求項8】
風味を有する食用油を送液する流路中で前記食用油に不活性ガスを注入する注入工程を含
む食用油の製造方法であって、前記不活性ガスの量が、前記食用油1Lに対して0.04NL以上0.5NL以下であ前記注入工程後の食用油の溶存酸素濃度が2.0%O 以上5.0%O 以下である、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味を有する食用油の風味の低下を抑制する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食用油の劣化抑制の観点から窒素等の不活性ガスを置換脱気装置を用いて食用油に注入して油中の溶存酸素を除去する方法は従来から知られており、例えば、食用油を製品容器に充填した後に不活性ガスを注入する方法が知られている(特許文献1及び2)。また、油槽内の食用油を循環させる循環路中で不活性ガスを注入する方法が知られている(特許文献3及び4)。また、食用油を製品容器に充填する前に不活性ガス等を注入する方法が知られている(特許文献5及び6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-126608号公報
【文献】特開2021-024607号公報
【文献】特開2000-014318号公報
【文献】特開2001-200288号公報
【文献】特開2009-268369号公報
【文献】特開2018-065979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、未精製オリーブ油などの風味を有する食用油(以下、本明細書では風味油とも称する)を送液し、容器充填すると、空気中の酸素が溶存し、酸化劣化しやすくなるこが知られており、風味油の風味を維持する方法が求められている。
特許文献1及び2に開示された方法は、容器充填後に窒素などの不活性ガスを注入した方法であって、当該方法では酸化劣化は抑制できるが、風味油に適用した場合、風味油自体の風味が低下する虞があり、製品価値が低下することが懸念される。
また、特許文献3に開示された方法は、揚げ油として使用した食用油の鮮度を維持して劣化を防止する方法であって、脱臭効果に優れる等の理由で好ましい不活性ガスとして窒素ガスを挙げているなど風味油の風味を維持する観点で発明されたものではない。
また、特許文献4に開示された方法は、食用油や潤滑油等の油の鮮度を長期間維持し、廃油にするまでの期間(寿命)を可及的に延長できるようにする油の劣化防止方法を提供する方法であって、廃油として焼却処理するまでの期間を延長し、炭酸ガスやダイオキシンの発生を低減させることを目的としており、風味油の風味を維持する観点で発明されたものではない。
また、特許文献5に開示された方法は、食用油の酸化による劣化の防止を目的に窒素ガスを食用油に一定以上の量を注入する点のみに着目しており、風味油の風味を維持する観点で発明されたものではない。
また、特許文献6に開示された方法は、食用油の酸化防止を目的に食用油中の主に溶存酸素量に着目しており、必ずしも風味油の風味を維持する観点で発明されたものではない。また、上記方法は水素ガスの使用が効果を発現するにあたって重要な点であり、安全面での懸念があった。
したがって、従来知られている食用油の劣化を防ぐ方法は、食用油の中でも特に風味を有する食用油の風味を維持する方法としては必ずしも有効ではなかった。したがって、従来の方法では風味の低下の抑制が難しい風味油に対して、風味の低下の抑制効果を示す方法の開発が求められている。
【0005】
したがって、本発明は、風味油の風味の低下を抑制する方法を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、風味の低下が抑制された風味油の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題解決を目標に鋭意検討した結果、風味油を送液する流路中で該風味油1Lに対して不活性ガスを0.04NL以上0.5NL以下注入することで、前記風味油の風味の劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は風味を有する食用油の風味の低下を抑制する方法であって、前記食用油を送液する流路中で前記食用油に不活性ガスを注入する注入工程を含み、前記不活性ガスの量が、前記食用油1Lに対して0.04NL以上0.5NL以下である、前記方法を提供する。
【0009】
前記食用油が未精製オリーブ油であることが好ましい。
【0010】
前記不活性ガスが窒素ガスであることが好ましい。
【0011】
前記注入工程後の食用油の溶存酸素濃度が2.0%O以上5.0%O以下であることが好ましい。
【0012】
前記注入工程が流路中に設けられた流路絞り機構に不活性ガス及び前記食用油を通過させて不活性ガスを前記食用油に注入する工程を含むことが好ましい。
【0013】
前記注入工程が流路中に設けられた微細気泡発生器に不活性ガスを通過させて不活性ガスを前記食用油に注入する工程を含むことが好ましい。
【0014】
前記注入工程が流路中に設けられた不活性ガスと前記食用油を混合するための充填物を充填した気液混合部に不活性ガス及び前記食用油を通過させて不活性ガスを前記食用油に注入する工程を含むことが好ましい。
【0015】
さらに本発明は、風味を有する食用油を送液する流路中で前記食用油に不活性ガスを注入する注入工程を含む食用油の製造方法であって、前記不活性ガスの量が、前記食用油1Lに対して0.04NL以上0.5NL以下である、前記製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、風味油の風味の低下を効果的に抑制できる。
【0017】
さらに本発明の製造方法によれば、風味の低下が効果的に抑制された風味油を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の方法が実施されるラインの概略図である。
図2図2は、窒素ガス置換脱気装置A(窒素ストリッピングシステム)の概略図である。
図3図3は、窒素ガス置換脱気装置B(窒素インジェクター)の概略図である。
図4図4は、窒素ガス置換脱気装置C(溶存酸素除去ミキサー)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の風味油の風味の低下を抑制する方法を、更に詳細に説明する。
【0020】
本発明における風味油とは、搾油原料独自の香り風味を有する未精製油及び食材等から香り風味を食用油に付与させた香味油を意味する。そのような風味油としては、例えば、未精製亜麻仁油、未精製エゴマ油、未精製オリーブ油、未精製グレープシード油、未精製ココナッツ油などの未精製油、焙煎ゴマ油などの焙煎油、ネギ油などの香味油等が挙げられるがこれらに限定されない。また、これら風味油を例えば2種以上混合したブレンド油も本発明の対象となりえる。
本発明の方法は、これら風味油の中でも酸化劣化による風味低下が著しい、未精製オリーブ油、未精製グレープシード油及び焙煎ゴマ油に適用することが好ましく、未精製オリーブ油及び未精製グレープシード油に適用することがより好ましく、未精製オリーブ油に適用することがさらに好ましい。
【0021】
本発明における流路とは、風味油と外気とが触れないように密閉された送液路を意味する。例えば、風味油を貯留する油槽と小分けの容器に注入する注入口とをつなげる配管(ライン)が上記流路に相当するがこれに限定されない。
【0022】
本発明の不活性ガス注入方法は、流路中において、本発明の効果が発現する所望の量の不活性ガスを風味油に注入することで従来法では維持することが難しかった風味油が持つ繊細な風味の維持を可能にした。例えば、これまで多くの生産者がその風味の維持を切望していたオリーブ油の中でも、希少なバージン油の収穫期のフレッシュな風味を享受でき、かつ従来法では容易に失われてしまう風味の維持も可能にした。
【0023】
そして、不活性ガスの注入量の検討を重ねた結果、不活性ガスの注入量を風味油1Lに対して0.04NL以上0.5NL以下、好ましくは0.04NL以上0.4NL以下の範囲に設定することで風味が維持された風味油を提供することができることを見出した。
不活性ガスの注入量は、標準状態(NL[ノルマルリットル]:0℃、1atm)換算で表記する。標準状態換算は、下記式(1)を用いる。
【数1】
(nor) : 標準状態不活性ガス流量(0℃、1atm)[NL/分]
Q : 不活性ガス流量[L/分]
p : ガス圧力(MPa)
t : ガス温度(℃)
後述する実施例においても示すが、不活性ガスの注入量が風味油1Lに対して0.5NL超であると、初期風味の低下につながるため好ましくない。また、不活性ガスの注入量が0.04NL未満であると、保存後の風味低下につながるため好ましくない。
【0024】
実際に本発明の効果が発現するために必要な量の不活性ガスを注入する方法としては、例えば、流路中に設けられた流路絞り機構に不活性ガス及び風味油を通過させて不活性ガスを前記風味油に注入する方法が挙げられる。
具体的には、図2に示した窒素ガス置換脱気装置Aを用いることができる。図2に示した窒素ガス置換脱気装置Aにおいては、流路絞り機構がオリフィス9(図2参照)の構造を有しており、オリフィス9の口から風味油と不活性ガスが放出される際に乱流10が起き、不活性ガスを微細気泡(気泡径が100μm以下程度)11の状態にして放出できる。結果、風味油1Lに対して0.04NL以上0.5NL以下注入すれば本発明の効果が
発現することを見出した。
流路絞り機構としては、上記のオリフィス以外にも例えばフローノズル、ベンチュリ管及びピトー管等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0025】
図2に示した窒素ガス置換脱気装置Aは、市販装置を用いることができ、一例として以下のものが挙げられるが、これに限定されない。
例えば、窒素ストリッピングシステム[岩谷産業(株)製]を用いることができる。
【0026】
また、例えば、流路中に設けられた微細気泡発生器に不活性ガスを通過させて不活性ガスを風味油に注入する方法が挙げられる。例えば、図3に示した窒素ガス置換脱気装置Bを用いることができる。窒素ガス置換脱気装置Bは、ディフューザー13(図3参照)を備えており、ディフューザー13から微細気泡(気泡径が100μm以下程度)の状態の不活性ガスが放出される。結果、上記方法でも不活性ガスを風味油1Lに対して0.04NL以上0.5NL以下注入すれば本発明の効果が発現することを見出した。
【0027】
図3に示した窒素ガス置換脱気装置Bは、市販装置を用いることができ、一例として以下のものが挙げられるが、これに限定されない。
例えば、窒素インジェクター[日本エア・リキード(株)製]を用いることができる。
【0028】
また、例えば、流路中に設けられた不活性ガスと風味油を混合するための充填物を充填した気液混合部に不活性ガス及び上記風味油を通過させて不活性ガスを上記風味油に注入する方法が挙げられる。
例えば、図4に示した窒素ガス置換脱気装置Cを用いることができる。図4に示した窒素ガス置換脱気装置Cにおいて、充填物15(図4参照)は、風味油と不活性ガスが通る際に風味油と不活性ガスの接触機会を増やす。さらに風味油と不活性ガスが充填物15を通った後には、不活性ガスは油中に微細気泡(気泡径が100μm以下程度)の状態で放出される。結果、窒素ガス置換脱気装置Cを用いた場合でも風味油1Lに対して0.04NL以上0.5NL以下注入すれば本発明の効果が発現することを見出した。
【0029】
上記気液混合部の充填物15は、例えば、金属製のたわしやリング、コイル等の金属片、プラスチック製又は金属製のラシヒリング等の気液混合を促進させる機能を有するものを使用することができる。このような充填物15は、液体透過性を有する容器、例えば、パンチングプレートや金網等で形成した容器に収納した状態で流路中に着脱可能に挿入しておくことが好ましい。これにより、流路中への充填物15の充填や取出しを容易に行うことができ、充填物15の交換も簡単であり、容器ごと超音波洗浄機等で洗浄することにより、充填物15の洗浄も容易に行うことができる。
【0030】
図4に示した窒素ガス置換脱気装置Cは、市販装置を用いることができ、一例として以下のものが挙げられるが、これに限定されない。
例えば、溶存酸素除去ミキサー[大陽日酸(株)製]を用いることができる。
【0031】
また、本発明の不活性ガス注入方法は、上記注入方法を例えば二つ以上組み合わせて行ってもよい。風味油1Lに対して不活性ガスを0.04NL以上0.5NL以下注入する方法であれば、上記の窒素ガス置換脱気装置A、B及びCを用いた方法以外の方法も採用し得る。
【0032】
本発明において不活性ガスとは、窒素ガス、アルゴンガス及びヘリウムガスより選ばれる1種又は2種以上からなるものをいう。これら不活性ガスの中でも経済性及び安全性の観点から窒素ガスが好ましい。
【0033】
本発明の方法では、風味油に不活性ガスを注入するにあたっての不活性ガスの流量は、上述した式(1)と風味油の流量の関係から、風味油1Lに対して不活性ガスを0.04NL以上0.5NL以下に注入できるように調整すればよい。そして、風味油の流量を大きくすればそれに比例して、不活性ガスの流量も大きくすればよい。例えば、風味油10L/分に対する不活性ガスの流量は、ガス温度が0℃、ガス圧力が0.5MPaの場合、0.07L/分以上0.85L/分以下の範囲にあることが好ましく、ガス温度が0℃、ガス圧力が0.2MPaの場合、0.13L/分以上1.68L/分以下の範囲にあることが好ましい。また、ガス温度が0℃、ガス圧力が0.5MPa、風味油の流量が20L/分の場合、不活性ガスの流量は、0.14L/分以上1.70L/以下の範囲にあることが好ましい。ガス温度が0℃、ガス圧力が0.2MPa、風味油の流量が20L/分の場合、不活性ガスの流量は、0.26L/分以上3.36L/以下の範囲にあることが好ましい。
【0034】
本発明の方法では、上記注入工程後の食用油の溶存酸素濃度が2.0%O以上5.0%O以下であることが好ましく、2.3%O以上4.6%O以下であることがより好ましい。上記の範囲にあると、食用油の初期風味の低下を抑制しつつ、保存に伴う品質変化も抑えることができる。なお、食用油の溶存酸素濃度は、ポータブル非破壊酸素計(Fibox, PreSens Precision Sensing GmbH社製)のプローブを食用油中に浸漬して測定することができる。
【0035】
本発明の食用油の製造方法は、風味を有する食用油を送液する流路中で前記食用油に不活性ガスを注入する注入工程を含み、前記不活性ガスの量が、前記食用油1Lに対して0.04NL以上0.5NL以下であることを特徴とする。風味を有する食用油等については上記で説明したとおりである。
【実施例
【0036】
実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、各実施例、比較例において、食用油の調製に、(株)J-オイルミルズ製の未精製オリーブ油を30℃で用いた。不活性ガスとしては、窒素ガスを用いた。また、注入する窒素ガスは0℃に調整して使用した。窒素ガスの注入は、図1に示す配管(ライン)中にて行った。
【0037】
[実施例1及び2並びに比較例1及び2]
未精製オリーブ油をライン中で窒素ガス置換脱気装置A(窒素ストリッピングシステム[岩谷産業(株)製]:図2参照)を介して、窒素ガス(ガス圧0.5MPa)0.075L/分または0.25L/分を前記未精製オリーブ油10L/分に対して注入し、当該窒素ガス注入後の食用油を87mL容量瓶に70g分注したもの(実施例1及び2)を調製した。下記式(1)による換算により、窒素ガス0.075L/分のガス注入量は、食用油1Lに対して0.045NLであり、窒素ガス0.25L/分のガス注入量は、食用油1Lに対して0.148NLとなる。
なお、窒素ガスの注入量は、標準状態(NL[ノルマルリットル]:0℃、1atm)換算で表記する。
また、標準状態換算は、下記式(1)を用いて実施した。
【数2】
(nor) : 標準状態不活性ガス流量(0℃、1atm)[NL/分]
Q : 不活性ガス流量[L/分]
p : ガス圧力(MPa)
t : ガス温度(℃)
【0038】
一方、未精製オリーブ油を窒素ガス置換脱気装置A(窒素ストリッピングシステム[岩谷産業(株)製]:図2参照)を介して、ライン中で窒素ガス(ガス圧0.5MPa、ガス温度0℃)0.05L/分又は1.0L/分を未精製オリーブ油10L/分に対して注入し、当該窒素ガス注入後の食用油を87mL容量瓶に70g分注したもの(比較例1及び2)を調製した。式(1)による換算により、窒素ガス0.05L/分のガス注入量は、食用油1Lに対して0.030NLであり、窒素ガス1.0L/分のガス注入量は、食用油1Lに対して0.594NLとなる。
【0039】
[比較例3乃至6]
未精製オリーブ油1Lを2Lビーカーにて、エアストーン(キノシタボールフィルター(規格503G No.1[フィルター粒子:100~120μm]))を介して窒素ガスをそれぞれ0.149NL、0.297NL、0.790NL又は1.580NL注入し、当該窒素ガス注入後の食用油を87mL容量瓶に70g分注した食用油(比較例3乃至6)を調製した。
【0040】
[比較例7]
窒素ガスの注入を行わなかった未精製オリーブ油を87mL容量瓶に70g分注した食用油(比較例7)を調製した。
【0041】
[実施例3及び4]
未精製オリーブ油をライン中で窒素ガス置換脱気装置B(窒素インジェクター[日本エア・リキード(株)製]:図3参照)を介して、(ガス圧0.2MPa)0.5L/分または1.0L/分を未精製オリーブ油10L/分に対して注入し、当該窒素ガス注入後の食用油を87mL容量瓶に70g分注したもの(実施例3及び4)を調製した。式(1)による換算により、窒素ガス0.5L/分のガス注入量は、食用油1Lに対して0.149NLであり、窒素ガス1.0L/分のガス注入量は、食用油1Lに対して0.297NLとなる。
【0042】
[実施例5]
未精製オリーブ油をライン中で窒素ガス置換脱気装置C(溶存酸素除去ミキサー[大陽日酸(株)製]:図4参照)を介して窒素ガスを注入し、当該窒素ガス注入後の食用油を87mL容量瓶に70g分注したもの(実施例5)を調製した。窒素ガスの注入量は、食用油1Lに対して0.372NLとした。
【0043】
実施例1乃至5及び比較例1乃至7の食用油の初期風味評価及び初期溶存酸素濃度を評価後、以下の条件(縦置き、暗所、空気雰囲気、24℃)で各食用油を保存し、21ヶ月保存後の風味評価及び、保存に伴う品質変化の評価した結果を表1、表2及び表3に示した。
【0044】
風味評価は、IOC(International Olive Council、国際オリーブ協会)が定めるテイスティング方法(COI/T.20/Doc. No 15/Rev. 10 2018)を元に下記の3つの評価項目について実施した。風味評価結果(点数)は、3名のパネルにて評価を行い、上述テイスティング方法で評価した点数を合議の上で決定した。
各評価は、以下の評価基準を行い、いずれの評価においてもA及びBを合格とした。
【0045】
<評価基準(初期風味評価:オリーブ風味の強さ)>
A:初期風味が未処理品と比べて概ね同等(未処理品との差が0点以上0.1点以下)
B:初期風味が未処理品と比べてやや低下している(未処理品との差が0.2点以上0.3点以下)
C:初期風味が未処理品と比べて低下している(未処理品との差が0.4点以上0.7点以下)
D:初期風味が未処理品と比べて大きく低下している(未処理品との差が0.8点以上の差)
【0046】
<評価基準(保存後の風味評価:オリーブ風味の強さ)>
A:保存後の風味が、保存後の未処理品の風味と比べてとても強い(保存後の未処理品との差が0.8点以上)
B:保存後の風味が、保存後の未処理品の風味と比べて強い(保存後の未処理品との差が0.6点以上0.7点以下)
C:保存後の風味が、保存後の未処理品の風味と比べて少し強い(保存後の未処理品との差が0.1点以上0.5点以下)
D:保存後の風味が、保存後の未処理品の風味と比べて同等(保存後の未処理品との点差なし)
【0047】
<評価基準(保存に伴う品質変化[点数])>
A:保存に伴う品質変化が認められない(0.0点)
B:保存に伴う品質変化があまり認められない(0.1点以上0.5点以下)
C:保存に伴う品質変化が少し認められる(0.6点以上1.0点以下)
D:保存に伴う品質変化が認められる(1.1点以上)
なお、保存に伴う品質変化とは、保管中に発生したまったりした風味などのポジティブではない品質変化を意味する。オリーブ風味の強さの変化は、評価対象としていない。
【0048】
油中の溶存酸素濃度(%O)は、ポータブル非破壊酸素計(Fibox, PreSens Precision Sensing GmbH社製)のプローブを食用油中に浸漬して測定した。
なお、油中の飽和溶存酸素量は、20.9%Oである。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
表1のとおり、窒素ガス置換脱気装置でライン中で窒素ガスを注入し、当該窒素ガスの注入量を0.045NL以上0.148NL以下とした食用油は、初期風味及び保存後の風味とも良好であった。また、油中の溶存酸素濃度も低く抑えられているため、保存に伴う品質変化が生じなかった。
【0053】
実施例3、4及び5は、実施例1及び2とは異なる窒素ガス置換脱気装置でライン中にて窒素ガスの注入を0.149NL以上0.372NL以下行ったが、表2及び表3のとおり、初期風味と保存後の風味とも良好であった。また油中の溶存酸素濃度も低く抑えられているため、保存に伴う品質変化が生じなかった。
【0054】
また実施例1乃至5と比較例1及び2の比較から判るように、ライン中での窒素ガスの注入量は、0.030NL以下注入すると初期風味は良好であったが、保存後の風味低下につながった。また0.594NL以上注入すると初期風味低下につながった。
【0055】
比較例3及び4は、実施例3及び4とそれぞれ同じ窒素注入量であるが、バブリングによる窒素ガスの注入方法は、初期風味は良好であったが、ライン中での窒素注入方法よりも食用油と窒素との接触効率が悪いため、保存後の風味が低下した。また、油中の溶存酸
素を十分に除去できていないため、保存に伴う品質変化が大きかった。
【0056】
バブリングにより0.790NLの窒素注入を行った比較例5でも、油中の溶存酸素除去は充分ではなく、保存に伴う品質変化が大きかった。さらにバブリングにより1.580NLの窒素注入を行った比較例6では、初期風味の低下が大きかった。
【0057】
比較例7は、食用油に窒素注入をしないため初期風味は低下しないが、保存後の風味が低下し、保存に伴う品質変化が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の方法は、風味油の風味の低下を抑制する方法として有用である。
また、本発明の製造方法は、風味の低下が抑制された風味油を製造する方法として有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 風味油
2 不活性ガス
3 バルブ
4 計器
5 ポンプ
6 窒素ガス置換脱気装置
7 フランジ
8 窒素ガス置換脱気装置A
9 オリフィス
10 乱流
11 微細気泡
12 窒素ガス置換脱気装置B
13 ディフューザー
14 窒素ガス置換脱気装置C
15 充填物
図1
図2
図3
図4