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特許7390390圧電フィルムおよび圧電フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】圧電フィルムおよび圧電フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/85 20230101AFI20231124BHJP
   H10N 30/045 20230101ALI20231124BHJP
   H10N 30/06 20230101ALI20231124BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20231124BHJP
【FI】
H10N30/85
H10N30/045
H10N30/06
H10N30/87
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021552334
(86)(22)【出願日】2020-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2020037813
(87)【国際公開番号】W WO2021075308
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2019189074
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】香川 裕介
(72)【発明者】
【氏名】平口 和男
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-209724(JP,A)
【文献】特開2004-363489(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121765(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0014527(US,A1)
【文献】国際公開第2014/157006(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0061237(US,A1)
【文献】国際公開第2004/109819(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0331030(US,A1)
【文献】特開2019-161213(JP,A)
【文献】国際公開第2019/093092(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/85
H10N 30/87
H10N 30/06
H10N 30/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体層、前記圧電体層の両面に設けられた電極層、および、前記電極層を覆う保護層を有する積層フィルムと、
前記積層フィルムの面方向の端面を覆う、絶縁性の端面被覆層とを有し、
前記電極層は、前記積層フィルムの面方向の端面から突出する突出部を有し、
前記端面被覆層は、前記積層フィルムの面方向の端面の全面を覆うものであり、かつ、前記積層フィルムの面方向の端面から突出する前記電極層の突出部を全て埋設するものであり、
前記圧電体層の両面の前記電極層の前記突出部は離間されており、前記圧電体層の両面の前記電極層の前記突出部の少なくとも先端部は、焼けて黒色になっていることを特徴とする圧電フィルム。
【請求項2】
前記保護層を貫通して前記電極層に接続する、導電性の接続部材と、
前記接続部材に直接的または間接的に電気的に接続して、前記積層フィルムの面方向の外部まで至る、引出電極とを有する、請求項1に記載の圧電フィルム。
【請求項3】
前記引出電極と前記積層フィルムとの間に、前記積層フィルムの端部から突出して、絶縁性の電極絶縁部材を有する、請求項に記載の圧電フィルム。
【請求項4】
前記積層フィルムの少なくとも一方の前記圧電体層と前記電極層との間の、端部の少なくとも一部に、絶縁性の層間絶縁部材を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の圧電フィルム。
【請求項5】
前記層間絶縁部材の少なくとも一部が、前記積層フィルムの端部から突出する、請求項に記載の圧電フィルム。
【請求項6】
前記層間絶縁部材を、前記積層フィルムからの電極の引き出し側の端部に有する、請求項4または5に記載の圧電フィルム。
【請求項7】
前記層間絶縁部材を、前記積層フィルムの端部全域に有する、請求項4~6のいずれか1項に記載の圧電フィルム。
【請求項8】
前記圧電体層が、高分子材料を含むマトリックス中に圧電体粒子を含む高分子複合圧電体である、請求項1~のいずれか1項に記載の圧電フィルム。
【請求項9】
圧電体層、前記圧電体層の両面に設けられた電極層、および、前記電極層を覆う保護層を有する積層フィルムを作製するフィルム作製工程、
前記積層フィルムを切断する切断工程、
前記積層フィルムの面方向の端面の全面を覆うと共に、前記積層フィルムの面方向の端面から突出する前記電極層の突出部を全て埋設する、絶縁性の端面被覆層を形成する被覆層形成工程、および、
前記被覆層形成工程を行った後、前記積層フィルムの前記電極層に通電し、前記圧電体層の両面の前記電極層をショートさせることにより前記圧電体層の両面の前記電極層の前記突出部を離間させる通電工程、を有することを特徴とする圧電フィルムの製造方法。
【請求項10】
さらに、前記積層フィルムの前記保護層の少なくとも一方に、前記電極層に至る貫通孔を形成する、貫通孔形成工程、
前記貫通孔を貫通して、前記電極層に接続する導電性の接続部材を形成する接続部材形成工程、および、
前記接続部材に接続して、前記積層フィルムの面方向の外部まで至る引出電極を形成する電極形成工程を有する、請求項9に記載の圧電フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記フィルム作製工程は、前記保護層と前記電極層とを有する第2積層体の前記電極層の表面に、前記圧電体層を形成する圧電体層形成工程、および、
前記圧電体層の表面に、前記電極層と前記保護層を有する第1積層体を、前記電極層を前記圧電体層に対面して積層する積層工程を有する、請求項9または10に記載の圧電フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気音響変換フィルム等に用いられる圧電フィルム、および、この圧電フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなど、ディスプレイの薄型化および軽量化に対応して、これらの薄型ディスプレイに用いられるスピーカーにも薄型化および軽量化が要求されている。また、プラスチック等の可撓性基板を用いたフレキシブルディスプレイの開発に対応して、これに用いられるスピーカーにも可撓性が要求されている。
【0003】
従来のスピーカーの形状は、漏斗状のいわゆるコーン型、および、球面状のドーム型等が一般的である。しかしながら、このようなスピーカーを上述の薄型のディスプレイに内蔵しようとすると、十分に薄型化を図ることができず、また、軽量性や可撓性を損なう虞れがある。また、スピーカーを外付けにした場合、持ち運び等が面倒である。
【0004】
そこで、薄型で、軽量性や可撓性を損なうことなく薄型のディスプレイおよびフレキシブルディスプレイ等に一体化可能なスピーカーとして、シート状で可撓性を有し、印加電圧に応答して伸縮する性質を有する圧電フィルムを用いることが提案されている。
【0005】
例えば、本件出願人は、シート状で、可撓性を有し、かつ、高音質な音を安定して再生することができる圧電フィルムとして、特許文献1に開示される圧電フィルム(電気音響変換フィルム)を提案した。
特許文献1に開示される圧電フィルムは、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体(圧電体層)と、高分子複合圧電体の両面に形成された電極層と、電極層の表面に形成された保護層とを有するものである。また、特許文献1に開示される圧電フィルムは、高分子複合圧電体をX線回折法で評価した際の、圧電体粒子に由来する(002)面ピーク強度と(200)面ピーク強度との強度比率α1=(002)面ピーク強度/((002)面ピーク強度+(200)面ピーク強度)が、0.6以上1未満であるという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/018313号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような圧電フィルムは、例えば、屈曲した状態で維持することで、圧電スピーカーとして機能する。すなわち、圧電フィルムを屈曲状態で維持し、電極層に駆動電圧を印加することで、圧電体粒子の伸縮によって高分子複合圧電体が伸縮し、この伸縮を吸収するために振動する。圧電フィルムは、この振動によって空気を振動させて、電気信号を音に変換している。
【0008】
この圧電フィルムは、圧電体層の両面に電極層を有し、その両面に保護層を設けた構成を有する。このような圧電フィルムにおいて、圧電体層は、例えば、300μm以下が好ましく、非常に薄い。
そのため、圧電体層の両面に形成される電極層が、圧電体層の端部からはみ出していると、圧電体層の両面の電極がショートしてしまい、圧電フィルムが適正に動作しなくなってしまう。
【0009】
発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、圧電体層の両面に電極層および保護層を有する圧電フィルムにおいて、圧電体層からはみ出した電極に起因するショートを防止できる圧電フィルム、および、この圧電フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 圧電体層、圧電体層の両面に設けられた電極層、および、電極層を覆う保護層を有する積層フィルムと、
積層フィルムの端面の少なくとも一部を覆う、絶縁性の端面被覆層とを有することを特徴とする圧電フィルム。
[2] 端面被覆層が、積層フィルムの端面全面を覆う、[1]に記載の圧電フィルム。
[3] 保護層を貫通して電極層に接続する、導電性の接続部材と、
接続部材に直接的または間接的に電気的に接続して、積層フィルムの面方向の外部まで至る、引出電極とを有する、[1]または[2]に記載の圧電フィルム。
[4] 引出電極と積層フィルムとの間に、積層フィルムの端部から突出して、絶縁性の電極絶縁部材を有する、[3]に記載の圧電フィルム。
[5] 積層フィルムの少なくとも一方の圧電体層と電極層との間の、端部の少なくとも一部に、絶縁性の層間絶縁部材を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の圧電フィルム。
[6] 層間絶縁部材の少なくとも一部が、積層フィルムの端部から突出する、[5]に記載の圧電フィルム。
[7] 層間絶縁部材を、積層フィルムからの電極の引き出し側の端部に有する、[5]または[6]に記載の圧電フィルム。
[8] 層間絶縁部材を、積層フィルムの端部全域に有する、[5]~[7]のいずれかに記載の圧電フィルム。
[9] 圧電体層が、高分子材料を含むマトリックス中に圧電体粒子を含む高分子複合圧電体である、[1]~[8]のいずれかに記載の圧電フィルム。
[10] 圧電体層、圧電体層の両面に設けられた電極層、および、電極層を覆う保護層を有する積層フィルムを作製するフィルム作製工程、
積層フィルムの端面の少なくとも一部を覆って、絶縁性の端面被覆層を形成する被覆層形成工程、および、
被覆層形成工程を行った後、積層フィルムの電極層に通電する通電工程、を有することを特徴とする圧電フィルムの製造方法。
[11] 被覆層形成工程では、端面被覆層を積層フィルムの端面の全域に形成する、[10]に記載の圧電フィルムの製造方法。
[12] さらに、積層フィルムの保護層の少なくとも一方に、電極層に至る貫通孔を形成する、貫通孔形成工程、
貫通孔を貫通して、電極層に接続する導電性の接続部材を形成する接続部形成工程、および、
接続部材に接続して、積層フィルムの面方向の外部まで至る引出電極を形成する電極形成工程を有する、[10]または[11]に記載の圧電フィルムの製造方法。
[13] フィルム作製工程は、保護層と電極層とを有する第2積層体の電極層の表面に、圧電体層を形成する圧電体層形成工程、および、
圧電体層の表面に、電極層と保護層を有する第1積層体を、電極層を圧電体層に対面して積層する積層工程を有する、[10]~[12]のいずれかに記載の圧電フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧電体層の両面に電極層および保護層を有する圧電フィルムにおいて、圧電体層からはみ出した電極に起因するショートを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の圧電フィルムの一例を概念的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の圧電フィルムに用いられる圧電体層の一例を概念的に示す図である。
図3図3は、図1に示す圧電フィルムの製造方法を説明するための概念図である。
図4図4は、図1に示す圧電フィルムの製造方法を説明するための概念図である。
図5図5は、図1に示す圧電フィルムの製造方法を説明するための概念図である。
図6図6は、図1に示す圧電フィルムの製造方法を説明するための概念図である。
図7図7は、図1に示す圧電フィルムの製造方法を説明するための概念図である。
図8図8は、図1に示す圧電フィルムの製造方法を説明するための概念図である。
図9図9は、図1に示す圧電フィルムの製造方法を説明するための概念図である。
図10図10は、本発明の圧電フィルムの別の例を概念的に示す図である。
図11図11は、本発明の圧電フィルムの別の例を概念的に示す図である。
図12図12は、本発明の圧電フィルムの別の例を概念的に示す図である。
図13図13は、圧電フィルムの別の例を概念的に示す図である。
図14図14は、圧電フィルムの別の例を概念的に示す図である。
図15図15は、圧電フィルムの別の例を概念的に示す図である。
図16図16は、本発明の圧電フィルムを用いる圧電スピーカーの一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の圧電フィルムおよび圧電フィルムの製造方法について、添付の図面に示される好適実施態様を基に、詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に制限されるものではない。また、以下に示す図は、いずれも、本発明を説明するための概念的な図であって、各層の厚さ、構成部材の大きさ、および、構成部材の位置関係等は、実際の物とは異なる。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本発明の圧電フィルムは、圧電体層の両面に電極層を有し、両方の電極層を覆って保護層を設けた積層フィルムの端面を、端面被覆層で被覆した構成を有する。
以下の説明では、このような積層フィルムを、『圧電体層の両面に電極層と保護層とを積層した積層フィルム』ともいう。
【0015】
このような本発明の圧電フィルムは、一例として、電気音響変換フィルムとして用いられるものである。具体的には、本発明の圧電フィルムは、圧電スピーカー、マイクロフォンおよび音声センサー等の電気音響変換器の振動板として用いられる。
電気音響変換器は、圧電フィルムへの電圧印加によって、圧電フィルムが面方向に伸長すると、この伸長分を吸収するために、圧電フィルムが、上方(音の放射方向)に移動する。逆に、圧電フィルムへの電圧印加によって、圧電フィルムが面方向に収縮すると、この収縮分を吸収するために、圧電フィルムが、下方に移動する。
電気音響変換器は、この圧電フィルムの伸縮の繰り返しによる振動により、振動(音)と電気信号とを変換するものである。このような電気音響変換器は、一例として、圧電フィルムに電気信号を入力して電気信号に応じた振動による音の再生、音波を受けることによる圧電フィルムの振動を電気信号に変換、および、振動による触感付与や物体の輸送等に利用される。
具体的には、本発明の圧電フィルムを利用する電気音響変換器の用途としては、フルレンジスピーカー、ツイーター、スコーカーおよびウーハーなどのスピーカー、ヘッドホン用スピーカー、ノイズキャンセラー、マイクロフォン、ならびに、ギター等の楽器に用いられるピックアップ(楽器用センサー)などの各種の音響デバイスが挙げられる。また、本発明の圧電フィルムは非磁性体であるため、ノイズキャンセラーのなかでもMRI用ノイズキャンセラーとして好適に用いることが可能である。
また、本発明の圧電フィルムを利用する電気音響変換器は薄く、軽く、曲がるため、帽子、マフラーおよび衣服といったウェアラブル製品、テレビおよびデジタルサイネージなどの薄型ディスプレイ、ならびに、音響機器等としての機能を有する建築物、自動車の天井、カーテン、傘、壁紙、窓およびベッドなどに好適に利用される。
【0016】
図1に、本発明の圧電フィルムの一例を断面図で概念的に示す。図1等においては、図面を簡略化して構成を明確に示すために、ハッチングは省略する。
なお、以下の説明では、特に断りが無い場合には、『断面』とは、圧電フィルムの厚さ方向の断面を示す。圧電フィルムの厚さ方向とは、各層の積層方向である。
【0017】
本発明の圧電フィルムは、圧電体層の両面に電極層と保護層とを積層した積層フィルムの端面を、端面被覆層で被覆した構成を有する。
図1に示す圧電フィルム10において、積層フィルムは、圧電体層12と、圧電体層12の一方の面に積層される第1電極層14と、第1電極層14に積層される第1保護層18と、圧電体層12の他方の面に積層される第2電極層16と、第2電極層16に積層される第2保護層20と、を有する。
圧電フィルム10は、このような積層フィルムの端面の全面を、絶縁性の端面被覆層30によって被覆した構成を有する。
【0018】
また、圧電フィルム10は、第1保護層18が第1電極層14まで貫通する貫通孔18aを有する。この貫通孔18aには、第1電極層14に接続して、導電性の第1接続部材32が設けられる。また、第1接続部材32に接続して、圧電フィルム10を外部の電源に接続するための第1引出電極34が設けられる。
第2保護層20も、同様の貫通孔20aを有し、この貫通孔20aには、導電性の第2接続部材33が設けられる。また、同様に、この第2接続部材33に接続して、圧電フィルム10を外部の電源に接続するための第2引出電極36が設けられる。
【0019】
本発明の圧電フィルム10において、圧電体層12は、公知の圧電体層が、各種、利用可能である。
本発明の圧電フィルム10において、圧電体層12は、図2に概念的に示すように、高分子材料を含む高分子マトリックス24中に、圧電体粒子26を含む、高分子複合圧電体であるのが好ましい。
【0020】
ここで、高分子複合圧電体(圧電体層12)は、次の用件を具備したものであるのが好ましい。なお、本発明において、常温とは、0~50℃である。
(i) 可撓性
例えば、携帯用として新聞や雑誌のように書類感覚で緩く撓めた状態で把持する場合、絶えず外部から、数Hz以下の比較的ゆっくりとした、大きな曲げ変形を受けることになる。この時、高分子複合圧電体が硬いと、その分大きな曲げ応力が発生し、高分子マトリックスと圧電体粒子との界面で亀裂が発生し、やがて破壊に繋がる恐れがある。従って、高分子複合圧電体には適度な柔らかさが求められる。また、歪みエネルギーを熱として外部へ拡散できれば応力を緩和することができる。従って、高分子複合圧電体の損失正接が適度に大きいことが求められる。
(ii) 音質
スピーカーは、20Hz~20kHzのオーディオ帯域の周波数で圧電体粒子を振動させ、その振動エネルギーによって振動板(高分子複合圧電体)全体が一体となって振動することで音が再生される。従って、振動エネルギーの伝達効率を高めるために高分子複合圧電体には適度な硬さが求められる。また、スピーカーの周波数特性が平滑であれば、曲率の変化に伴い最低共振周波数f0が変化した際の音質の変化量も小さくなる。従って、高分子複合圧電体の損失正接は適度に大きいことが求められる。
【0021】
スピーカー用振動板の最低共振周波数f0は、下記式で与えられるのは周知である。ここで、sは振動系のスチフネス、mは質量である。
【数1】

このとき、圧電フィルムの湾曲程度すなわち湾曲部の曲率半径が大きくなるほど機械的なスチフネスsが下がるため、最低共振周波数f0は小さくなる。すなわち、圧電フィルムの曲率半径によってスピーカーの音質(音量、周波数特性)が変わることになる。
【0022】
以上をまとめると、高分子複合圧電体は、20Hz~20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の振動に対しては柔らかく振る舞うことが求められる。また、高分子複合圧電体の損失正接は、20kHz以下の全ての周波数の振動に対して、適度に大きいことが求められる。
【0023】
一般に、高分子固体は粘弾性緩和機構を有しており、温度上昇あるいは周波数の低下と共に大きなスケールの分子運動が貯蔵弾性率(ヤング率)の低下(緩和)あるいは損失弾性率の極大(吸収)として観測される。その中でも、非晶質領域の分子鎖のミクロブラウン運動によって引き起こされる緩和は、主分散と呼ばれ、非常に大きな緩和現象が見られる。この主分散が起きる温度がガラス転移点(Tg)であり、最も粘弾性緩和機構が顕著に現れる。
高分子複合圧電体(圧電体層12)において、ガラス転移点が常温にある高分子材料、言い換えると、常温で粘弾性を有する高分子材料をマトリックスに用いることで、20Hz~20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の遅い振動に対しては柔らかく振舞う高分子複合圧電体が実現する。特に、この振舞いが好適に発現する等の点で、周波数1Hzでのガラス転移点Tgが常温にある高分子材料を、高分子複合圧電体のマトリックスに用いるのが好ましい。
【0024】
高分子マトリックス24となる高分子材料は、常温において、動的粘弾性試験による周波数1Hzにおける損失正接Tanδの極大値が、0.5以上であるのが好ましい。
これにより、高分子複合圧電体が外力によってゆっくりと曲げられた際に、最大曲げモーメント部における高分子マトリックス/圧電体粒子界面の応力集中が緩和され、高い可撓性が期待できる。
【0025】
また、高分子マトリックス24となる高分子材料は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において100MPa以上、50℃において10MPa以下であるのが好ましい。
これにより、高分子複合圧電体が外力によってゆっくりと曲げられた際に発生する曲げモーメントが低減できると同時に、20Hz~20kHzの音響振動に対しては硬く振る舞うことができる。
【0026】
また、高分子マトリックス24となる高分子材料は、比誘電率が25℃において10以上で有ると、より好適である。これにより、高分子複合圧電体に電圧を印加した際に、高分子マトリックス中の圧電体粒子にはより高い電界が掛かるため、大きな変形量が期待できる。
しかしながら、その反面、良好な耐湿性の確保等を考慮すると、高分子材料は、比誘電率が25℃において10以下であるのも、好適である。
【0027】
このような条件を満たす高分子材料としては、シアノエチル化ポリビニルアルコール(シアノエチル化PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニリデンクロライドコアクリロニトリル、ポリスチレン-ビニルポリイソプレンブロック共重合体、ポリビニルメチルケトン、および、ポリブチルメタクリレート等が好適に例示される。
また、これらの高分子材料としては、ハイブラー5127(クラレ社製)などの市販品も、好適に利用可能である。
【0028】
高分子マトリックス24を構成する高分子材料としては、シアノエチル基を有する高分子材料を用いるのが好ましく、シアノエチル化PVAを用いるのが特に好ましい。すなわち、本発明の圧電フィルム10において、圧電体層12は、高分子マトリックス24として、シアノエチル基を有する高分子材料を用いるのが好ましく、シアノエチル化PVAを用いるのが特に好ましい。
以下の説明では、シアノエチル化PVAを代表とする上述の高分子材料を、まとめて『常温で粘弾性を有する高分子材料』とも言う。
【0029】
なお、これらの常温で粘弾性を有する高分子材料は、1種のみを用いてもよく、複数種を併用(混合)して用いてもよい。
【0030】
本発明の圧電フィルム10において、圧電体層12の高分子マトリックス24には、必要に応じて、複数の高分子材料を併用してもよい。
すなわち、高分子複合圧電体を構成する高分子マトリックス24には、誘電特性や機械的特性の調節等を目的として、上述した常温で粘弾性を有する高分子材料に加え、必要に応じて、その他の誘電性高分子材料を添加しても良い。
【0031】
添加可能な誘電性高分子材料としては、一例として、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体およびポリフッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系高分子、シアン化ビニリデン-酢酸ビニル共重合体、シアノエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシサッカロース、シアノエチルヒドロキシセルロース、シアノエチルヒドロキシプルラン、シアノエチルメタクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルアミロース、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルジヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルヒドロキシプロピルアミロース、シアノエチルポリアクリルアミド、シアノエチルポリアクリレート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリヒドロキシメチレン、シアノエチルグリシドールプルラン、シアノエチルサッカロースおよびシアノエチルソルビトール等のシアノ基またはシアノエチル基を有するポリマー、ならびに、ニトリルゴムおよびクロロプレンゴム等の合成ゴム等が例示される。
中でも、シアノエチル基を有する高分子材料は、好適に利用される。
また、圧電体層12の高分子マトリックス24において、これらの誘電性高分子材料は、1種に制限はされず、複数種を添加してもよい。
【0032】
また、誘電性高分子材料以外にも、高分子マトリックス24のガラス転移点Tgを調節する目的で、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリブテンおよびイソブチレン等の熱可塑性樹脂、ならびに、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂およびマイカ等の熱硬化性樹脂等を添加しても良い。
さらに、粘着性を向上する目的で、ロジンエステル、ロジン、テルペン、テルペンフェノール、および、石油樹脂等の粘着付与剤を添加しても良い。
【0033】
圧電体層12の高分子マトリックス24において、常温で粘弾性を有する高分子材料以外の高分子材料を添加する際の添加量には制限はないが、高分子マトリックス24に占める割合で30質量%以下とするのが好ましい。
これにより、高分子マトリックス24における粘弾性緩和機構を損なうことなく、添加する高分子材料の特性を発現できるため、高誘電率化、耐熱性の向上、圧電体粒子26や電極層との密着性向上等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0034】
圧電体層12となる高分子複合圧電体は、このような高分子マトリックスに、圧電体粒子26を含むものである。圧電体粒子26は、高分子マトリックスに分散されており、好ましくは、均一(略均一)に分散される。
圧電体粒子26は、好ましくは、ペロブスカイト型またはウルツ鉱型の結晶構造を有するセラミックス粒子からなるものである。
圧電体粒子26を構成するセラミックス粒子としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛(PLZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)、および、チタン酸バリウムとビスマスフェライト(BiFe3)との固溶体(BFBT)等が例示される。
【0035】
圧電体粒子26の粒径は、圧電フィルム10のサイズや用途に応じて、適宜、選択すれば良い。圧電体粒子26の粒径は、1~10μmが好ましい。
圧電体粒子26の粒径を上記範囲とすることにより、高い圧電特性とフレキシビリティとを両立できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0036】
圧電フィルム10において、圧電体層12中における高分子マトリックス24と圧電体粒子26との量比は、圧電フィルム10の面方向の大きさや厚さ、圧電フィルム10の用途、圧電フィルム10に要求される特性等に応じて、適宜、設定すればよい。
圧電体層12中における圧電体粒子26の体積分率は、30~80%が好ましく、50~80%がより好ましい。
高分子マトリックス24と圧電体粒子26との量比を上記範囲とすることにより、高い圧電特性とフレキシビリティとを両立できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0037】
また、圧電フィルム10において、圧電体層12の厚さには制限はなく、圧電フィルム10のサイズ、圧電フィルム10の用途、圧電フィルム10に要求される特性等に応じて、適宜、設定すればよい。
圧電体層12の厚さは、8~300μmが好ましく、8~200μmがより好ましく、10~150μmがさらに好ましく、15~100μmが特に好ましい。
圧電体層12の厚さを、上記範囲とすることにより、剛性の確保と適度な柔軟性との両立等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0038】
圧電体層12は、厚さ方向に分極処理(ポーリング)されているのが好ましい。分極処理に関しては、後に詳述する。
【0039】
なお、本発明の圧電フィルム10において、圧電体層12は、上述したような、シアノエチル化PVAのような常温で粘弾性を有する高分子材料からなる高分子マトリックス24に、圧電体粒子26を含む高分子複合圧電体に制限はされない。
すなわち、本発明の圧電フィルム10において、圧電体層は、公知の圧電体層が、各種、利用可能である。
【0040】
一例として、上述したポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体およびフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体等の誘電性高分子材料を含むマトリックスに同様の圧電体粒子26を含む高分子複合圧電体、ポリフッ化ビニリデンからなる圧電体層、ポリフッ化ビニリデン以外のフッ素樹脂からなる圧電体層、ならびに、ポリL乳酸からなるフィルムとポリD乳酸からなるフィルムとを積層した圧電体層等も利用可能である。
しかしながら、上述のように、20Hz~20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の遅い振動に対しては柔らかく振舞うことができ、優れた音響特性が得られる、可撓性に優れる等の点で、上述したシアノエチル化PVAのような常温で粘弾性を有する高分子材料からなる高分子マトリックス24に、圧電体粒子26を含む高分子複合圧電体が、好適に利用される。
【0041】
図1に示す圧電フィルム10の積層フィルムは、このような圧電体層12の一面に、第2電極層16を有し、第2電極層16の表面に第2保護層20を有し、圧電体層12の他方の面に、第1電極層14を有し、第1電極層14の表面に第1保護層18を有してなる構成を有する。圧電フィルム10では、第1電極層14と第2電極層16とが電極対を形成する。
言い換えれば、本発明の圧電フィルム10を構成する積層フィルムは、圧電体層12の両面を電極対、すなわち、第1電極層14および第2電極層16で挟持し、さらに、第1保護層18および第2保護層20で挟持してなる構成を有する。
このように、第1電極層14および第2電極層16で挾持された領域は、印加された電圧に応じて駆動される。
【0042】
なお、本発明において、第1電極層14および第2電極層16等おける第1および第2とは、本発明の圧電フィルム10を説明するために、便宜的に付しているものである。
従って、本発明の圧電フィルム10における第1および第2には、技術的な意味は無く、また、実際の使用状態とは無関係である。
【0043】
本発明の圧電フィルム10は、これらの層に加えて、例えば、電極層と圧電体層12とを貼着するための貼着層、および、電極層と保護層とを貼着するための貼着層を有してもよい。
貼着剤は、接着剤でも粘着剤でもよい。また、貼着剤は、圧電体層12から圧電体粒子26を除いた高分子材料すなわち高分子マトリックス24と同じ材料も、好適に利用可能である。なお、貼着層は、第1電極層14側および第2電極層16側の両方に有してもよく、第1電極層14側および第2電極層16側の一方のみに有してもよい。
【0044】
圧電フィルム10において、第1保護層18および第2保護層20は、第1電極層14および第2電極層16を被覆すると共に、圧電体層12に適度な剛性と機械的強度を付与する役目を担っている。すなわち、本発明の圧電フィルム10において、高分子マトリックス24と圧電体粒子26とを含む圧電体層12は、ゆっくりとした曲げ変形に対しては、非常に優れた可撓性を示す一方で、用途によっては、剛性や機械的強度が不足する場合がある。圧電フィルム10は、それを補うために第1保護層18および第2保護層20が設けられる。
第2保護層20と第1保護層18とは、配置位置が異なるのみで、構成は同じである。従って、以下の説明においては、第2保護層20および第1保護層18を区別する必要がない場合には、両部材をまとめて、保護層ともいう。
【0045】
保護層には、制限はなく、各種のシート状物が利用可能であり、一例として、各種の樹脂フィルムが好適に例示される。中でも、優れた機械的特性および耐熱性を有するなどの理由により、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイト(PPS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、トリアセチルセルロース(TAC)、および、環状オレフィン系樹脂等からなる樹脂フィルムが好適に利用される。
【0046】
保護層の厚さにも、制限は無い。また、第1保護層18および第2保護層20の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
保護層の剛性が高過ぎると、圧電体層12の伸縮を拘束するばかりか、可撓性も損なわれる。そのため、機械的強度やシート状物としての良好なハンドリング性が要求される場合を除けば、保護層は、薄いほど有利である。
【0047】
第1保護層18および第2保護層20の厚さが、それぞれ、圧電体層12の厚さの2倍以下であれば、剛性の確保と適度な柔軟性との両立等の点で好ましい結果を得られる。
例えば、圧電体層12の厚さが50μmで第2保護層20および第1保護層18がPETからなる場合、第2保護層20および第1保護層18の厚さはそれぞれ、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、25μm以下がさらに好ましい。
【0048】
圧電フィルム10(積層フィルム)において、圧電体層12と第1保護層18との間には第1電極層14が、圧電体層12と第2保護層20との間には第2電極層16が、それぞれ形成される。第1電極層14および第2電極層16は、圧電フィルム10(圧電体層12)に電界を印加するために設けられる。
ここで、図1に示すように、第1電極層14および第2電極層16は、部分的に、面方向に圧電体層12(積層フィルム)から突出する部分(バリ14aおよびバリ16a)を有する。この点に関しては、後に詳述する。
【0049】
第2電極層16および第1電極層14は、位置が異なる以外は、基本的に同じものである。従って、以下の説明においては、第2電極層16および第1電極層14を区別する必要がない場合には、両部材をまとめて、電極層ともいう。
【0050】
本発明の圧電フィルムにおいて、電極層の形成材料には制限はなく、各種の導電体が利用可能である。具体的には、炭素、パラジウム、鉄、錫、アルミニウム、ニッケル、白金、金、銀、銅、クロム、モリブデン、これらの合金、酸化インジウムスズ、および、PEDOT/PPS(ポリエチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸)などの導電性高分子等が例示される。
中でも、銅、アルミニウム、金、銀、白金、および、酸化インジウムスズは、好適に例示される。その中でも、導電性、コストおよび可撓性等の観点から銅がより好ましい。
【0051】
また、電極層の形成方法にも制限はなく、真空蒸着およびスパッタリング等の気相堆積法(真空成膜法)による成膜、めっきによる成膜、上記材料で形成された箔を貼着する方法、ならびに、塗布による方法等、公知の方法が、各種、利用可能である。
中でも特に、圧電フィルム10の可撓性が確保できる等の理由で、真空蒸着によって成膜された銅やアルミニウムの薄膜は、電極層として、好適に利用される。その中でも特に、真空蒸着による銅の薄膜は、好適に利用される。
【0052】
第1電極層14および第2電極層16の厚さには、制限はない。また、第1電極層14および第2電極層16の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
ここで、上述した保護層と同様に、電極層の剛性が高過ぎると、圧電体層12の伸縮を拘束するばかりか、可撓性も損なわれる。そのため、電極層は、電気抵抗が高くなり過ぎない範囲であれば、薄いほど有利である。
【0053】
本発明の圧電フィルム10では、電極層の厚さとヤング率との積が、保護層の厚さとヤング率との積を下回れば、可撓性を大きく損なうことがないため、好適である。
例えば、保護層がPET(ヤング率:約6.2GPa)で、電極層が銅(ヤング率:約130GPa)からなる組み合わせの場合、保護層の厚さが25μmだとすると、電極層の厚さは、1.2μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.1μm以下がさらに好ましい。
【0054】
圧電フィルム10は、圧電体層12を、第1電極層14および第2電極層16で挟持し、さらに、第1保護層18および第2保護層20を挟持した構成を有する。
このような圧電フィルム10は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの損失正接(Tanδ)が0.1以上となる極大値が常温に存在するのが好ましい。
これにより、圧電フィルム10が外部から数Hz以下の比較的ゆっくりとした、大きな曲げ変形を受けたとしても、歪みエネルギーを効果的に熱として外部へ拡散できるため、高分子マトリックスと圧電体粒子との界面で亀裂が発生するのを防ぐことができる。
【0055】
圧電フィルム10は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において10~30GPa、50℃において1~10GPaであるのが好ましい。
これにより、常温で圧電フィルム10が貯蔵弾性率(E’)に大きな周波数分散を有することができる。すなわち、20Hz~20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の振動に対しては柔らかく振る舞うことができる。
【0056】
また、圧電フィルム10は、厚さと動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)との積が、0℃において1.0×106~2.0×106N/m、50℃において1.0×105~1.0×106N/mであるのが好ましい。
これにより、圧電フィルム10が可撓性および音響特性を損なわない範囲で、適度な剛性と機械的強度を備えることができる。
【0057】
さらに、圧電フィルム10は、動的粘弾性測定から得られたマスターカーブにおいて、25℃、周波数1kHzにおける損失正接(Tanδ)が、0.05以上であるのが好ましい。
これにより、圧電フィルム10を用いたスピーカーの周波数特性が平滑になり、スピーカー(圧電フィルム10)の曲率の変化に伴い最低共振周波数f0が変化した際の音質の変化量も小さくできる。
【0058】
図1に示すように、圧電フィルム10は、第1保護層18が第1電極層14まで貫通する貫通孔18aを有する。この貫通孔18aには、第1電極層14に接続して、導電性の第1接続部材32が設けられる。また、第1接続部材32に接続して、圧電フィルム10を外部の電源に接続するための、第1引出電極34が設けられる。
同様に、第2保護層20も、同様の貫通孔20aを有し、この貫通孔20aには、第2電極層16に接続して、導電性の第2接続部材33が設けられる。また、同様に、この第2接続部材33に接続して、圧電フィルム10を外部の電源に接続するための、第2引出電極36が設けられる。
第1引出電極34と第2引出電極36とは、圧電フィルム10(積層フィルム)の面方向に、異なる位置に設けられる(図10等参照)。図1においては、第1引出電極34と第2引出電極36とは、図中紙面に直交する方向の異なる位置に設けられる。
【0059】
なお、図示例においては、第1引出電極34および第2引出電極36は、同方向に引き出されている、本発明は、これに制限はされず、各種の構成が利用可能である。
例えば、第1引出電極34と第2引出電極36とが逆方向に引き出されてもよく、第1引出電極34と第2引出電極36とが直交するように引き出されてもよい。
【0060】
第1電極層14における電極の引き出し方法と、第2電極層16における電極の引き出し方法は、同じであるので、以下の説明は、第1電極層14を例に行う。
【0061】
貫通孔18a(貫通孔20a)は、第1電極層14と第1引出電極34とを接続する第1接続部材32を形成するために、第1保護層18(第2保護層20)に穿孔される貫通孔である。
貫通孔18aの大きさには、制限はなく、第1電極層14および第1引出電極34の形成材料、第1引出電極34の大きさ、圧電フィルム10の大きさ等に応じて、十分な導通を得られる第1接続部材32を形成可能な大きさを、適宜、設定すればよい。
貫通孔18aの形状にも、制限はない。従って、貫通孔は、円錐台状、円筒状および角筒状等の各種の形状が利用可能である。
【0062】
貫通孔18aの形成方法も、第1保護層18の形成材料に応じた、公知の各種の方法が利用可能である。
一例として、炭酸ガスレーザによる波長10.6μmのレーザ光などのレーザ光によって焼き飛ばす(アブレーション)ことによって第1保護層18を除去して、貫通孔18aを形成する方法が例示される。例えば、第1保護層18における貫通孔18aの形成位置をレーザ光で走査することにより、第1保護層18の所望の位置に貫通孔18aを形成すればよい。この際においては、レーザ光の強度や走査速度等を調節することで、所望の厚さの貫通孔18aを形成できる。走査速度の調節は、すなわち、レーザ光による処理時間の調節である。
また、有機溶剤を用いて第1保護層18を溶解することで、貫通孔18aを形成する方法も利用可能である。例えば、第1保護層18がPETであれば、ヘキサフルオロイソプパノール等を用いて、貫通孔18aを形成できる。溶剤を用いる場合には、フォトリソグラフィ等におけるエッチングと同様に、マスク等を用いることにより、所望の位置に貫通孔18aを形成すればよい。この際においては、処理時間および有機溶剤の濃度等を調節することで、所望の厚さの貫通孔18aを形成できる。
【0063】
貫通孔18aには、第1接続部材32(第2接続部材33)が設けられる。第1接続部材32は、第1電極層14と第1引出電極34とを電気的に接続するものである。
本発明の圧電フィルム10において、第1接続部材32は、貫通孔18aに挿入可能な導電性を有する材料からなるものが、各種、利用可能である。
具体的には、銀、銅および金などの金属粒子を、エポキシ樹脂、ポリイミドなどの熱硬化性樹脂からなるバインダに分散してなる金属ペースト、同様の金属粒子をアクリル樹脂などの室温程度で硬化する樹脂からなるバインダに分散してなる金属ペースト、錯体金属により金属単体で熱硬化する金属ペースト、銅箔テープなどの金属テープ、ならびに、貫通孔18aに挿入可能な金属部材等が例示される。
【0064】
第1引出電極34(第2引出電極36)は、第1接続部材32に電気的に接続される、外部の電源と圧電フィルム10とを電気的に接続するための配線である。従って、第1引出電極34は、圧電体層12、電極層および保護層を積層した積層フィルムの面方向の外部まで至る。
第1引出電極34にも、制限はなく、銅箔等の金属箔、および、各種の金属配線など、電極等と電源および外部装置とを電気的に導通する配線に用いられる公知のものが、各種、利用可能である。
また、積層フィルムの面方向の外部における第1引出電極34の長さは、圧電フィルム10の用途、圧電フィルム10が接続される機器、圧電フィルム10の設置位置等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0065】
なお、必要に応じて、第1引出電極34と第1接続部材32と貼着してもよい。第1引出電極34と第1接続部材32と貼着は、公知の方法で行えばよい。
一例として、導電性の貼着剤(接着剤、粘着剤)を用いる方法、および、導電性の両面テープを用いる方法等が例示される。また、接続部材32に銀ペースト等の金属ペーストを用い、銅箔および導電性ワイヤー等を第1引出電極34を用いることで、接着性を持たせて、第1引出電極34と第1接続部材32とを貼着する方法も利用可能である。
【0066】
図1に示す圧電フィルム10は、後述する端面被覆層30を積層フィルムの端面全面に形成しやすい好ましい態様として、保護層に貫通孔を形成し、貫通孔に電極接続部材を設け、電極接続部材引出電極を接続することで、外部の電源に接続するための電極の引き出しを行っている。
しかしながら、本発明の圧電フィルムは、これに制限はされず、電極の引き出しは、各種の構成が利用可能である。
例えば、保護層と圧電体層との間、または、電極層と保護層との間に、棒状およびシート状(フィルム状、板状)等の引き出し用の配線を設け、この引き出し用の配線に、引出電極を接続してもよい。または、引き出し用の配線を、そのまま引出電極として用いてもよい。あるいは、保護層および電極層の一部を面方向に圧電体層から突出させ、突出した電極層を引き出し用の配線として、此処に引出電極を接続してもよい。
【0067】
本発明の圧電フィルム10は、このような圧電体層12、圧電体層12の両面に設けられる第1電極層14および第2電極層16、ならびに、電極層の表面に形成される第1保護層18および第2保護層20からなる積層フィルムの端面全面を、絶縁性の端面被覆層30で覆った構成を有する。
【0068】
端面被覆層30の形成材料には、制限はなく、絶縁性を有し、かつ、後述するバリを除去するための第1電極層14と第2電極層16とのショートに対する十分な耐熱性を有する材料であれば、公知の各種の材料が利用可能である。
一例として、ポリイミド、および、耐熱性のポリエチレンテレフタレート等が例示される。
【0069】
端面被覆層30の厚さにも制限はなく、後述する第1電極層14および第2電極層16のバリ(バリ14aおよびバリ16a)を十分に埋設して、空気から遮断できる厚さを、適宜、設定すればよい。
【0070】
積層フィルムの端面への端面被覆層30の形成方法には、制限はなく、端面被覆層30の形成材料に応じた、公知の形成方法(成膜方法)が利用可能である。
一例として、絶縁性の粘着テープを貼着する方法、端面被覆層30となる材料を溶解した液体を塗布して乾燥する方法、端面被覆層30となる材料を加熱溶融した液体を塗布して硬化する方法、および、端面被覆層30となる樹脂を溶剤に溶解して、塗布して乾燥させる方法等が例示される。絶縁性の粘着テープとしては、ポリイミドおよびポリエチレンテレフタレート等からなる粘着テープが例示される。
この際における液体の塗布方法には、制限はなく、公知の方法が、各種、利用可能である。一例として、スプレー塗布、および、浸漬塗布等が例示される。
また、必要に応じて、端面被覆層30は、第1保護層18および/または第2保護層20の主面まで形成してもよい。例えば、ポリイミド製の片面テープを、第1保護層18および第2保護層20の主面から、端面を包み込むように貼着することで、端面被覆層30を形成してもよい。主面とは、シート状物(層、フィルム、板状物)の最大面である。
【0071】
なお、本発明の圧電フィルム10を、後述するような圧電フィルム10の積層体とする場合には圧電フィルム10の積層体を形成した後に、同様に、積層フィルムの端面に端面被覆層30を形成してもよい。
【0072】
本発明の圧電フィルム10は、必要に応じて、端面被覆層30の水蒸気透過度を100g/(m2・day)以下として、端面被覆層30にガスバリア性を持たせてもよい。このような端面被覆層30を有することにより、圧電体層12を構成する成分が水分によって劣化する場合でも、圧電体層12の劣化を防止できる。
また、本発明の圧電フィルム10は、必要に応じて、端面被覆層30を或る程度の硬さとして、端面被覆層30を、圧電体層12、第1電極層14および第2電極層16の保護層として作用させてもよい。
【0073】
本発明の圧電フィルム10は、圧電体層12の両面に電極層と保護層とを積層した積層フィルムの端面を、このような端面被覆層30で被覆した構成を有することにより、第1電極層14と第2電極層16とのショート(短絡)を防止している。
【0074】
上述のように、圧電フィルム10において、第1電極層14および第2電極層16は、非常に薄い。そのため、後述するように、圧電フィルム10(積層フィルム)は保護層と電極層との積層体を用い、この積層体に圧電体層12を形成し、圧電体層の上に同様の積層体を積層することで、作製する。
ここで、大きさも含め、所望の形状の圧電フィルム10を作製するためには、保護層と電極層との積層体を、目的とする形状のカットシートに切断(打抜き)する必要がある。この切断の際に、金属が有する展延性によって電極層が引き出され、保護層から突出してしまい、いわゆる、バリが生じてしまう。
【0075】
電極層のバリの向きは、圧電フィルム10の作製時には、分からない場合が多い。
そのため、積層した第1電極層14と第2電極層16とで、積層フィルムから突出するバリ14aとバリ16aとが、互いに近接する方向に折れ曲がり、向かい合ってしまう場合もある。
上述のように、圧電体層12は非常に薄い。その結果、向かい合うバリ14aとバリ16aとが接触して、第1電極層14と第2電極層16とがショートして、圧電フィルムが適正に作動しなくなってしまう(図9参照)。
【0076】
一方、いわゆるロール・トゥ・ロールによる製造、および、目的とする形状よりも大きなカットシートを用いて製造を行う場合などでは、圧電体層の両面に電極層と保護層とを積層した積層フィルムを作製した後に、積層フィルムを所望の形状に切断してカットシート状とする。
この際には、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとで、折れ曲がる方向が一致する。そのため、第1電極層14と第2電極層16とで、バリ同士が向かい合うことはなく、上述の場合に比して、ショートは、生じ難くなる。
しかしながら、上述のように、圧電体層12は厚さが8~300μm程度で、非常に薄い。そのため、やはり、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとが接触して、ショートしてしまう場合が有る。
加えて、この場合でも、例えば貫通孔18a等の形成の際に、外力等を受けることで、バリの向きが変わり、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとが近接する方向に折れ曲がって向かい合い、接触する場合も有る。
【0077】
これに対して、本発明の圧電フィルム10は、圧電体層12の両面に電極層と保護層とを積層した積層フィルムの端面に、絶縁性の端面被覆層30を有する。
本発明の圧電フィルム10は、このような端面被覆層30を有することにより、製造時に、予め、第1電極層14と第2電極層16とをショートさせることで、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとの接触を無くして、作製した圧電フィルム10における第1電極層14と第2電極層16とのショートを防止する。
【0078】
以下、本発明の圧電フィルムの製造方法の一例を概念的に示す図3図9を参照して、端面被覆層30について、詳細に説明する。
まず、図3に示すように、第2保護層20の表面に第2電極層16が形成された第2積層体42を準備する。
さらに、図5に概念的に示す、第1保護層18の表面に第1電極層14が形成された第1積層体40を準備する。
【0079】
第2積層体42は、第2保護層20の表面に、真空蒸着、スパッタリング、および、めっき等によって第2電極層16として銅薄膜等を形成して、作製すればよい。同様に、第1積層体40は、第1保護層18の表面に、真空蒸着、スパッタリング、および、めっき等によって第1電極層14として銅薄膜等を形成して、作製すればよい。
あるいは、保護層の上に銅薄膜等が形成された市販品をシート状物を、第2積層体42および/または第1積層体40として利用してもよい。
第2積層体42および第1積層体40は、同じものでもよく、異なるものでもよい。
【0080】
なお、保護層が非常に薄く、ハンドリング性が悪い時などは、必要に応じて、セパレータ(仮支持体)付きの保護層を用いても良い。なお、セパレータとしては、厚さ25~100μmのPET等を用いることができる。セパレータは、電極層および保護層の熱圧着後、取り除けばよい。
【0081】
次いで、図4に示すように、第2積層体42の第2電極層16上に、圧電体層12を形成して、第2積層体42と圧電体層12とを積層した圧電積層体46を作製する(圧電体層形成工程)。
【0082】
圧電体層12は、公知の方法で形成すればよい。
例えば、図2に示す、高分子マトリックス24に圧電体粒子26を分散した圧電体層であれば、一例として、以下のように作製する。
まず、有機溶媒に、上述したシアノエチル化PVA等の高分子材料を溶解し、さらに、PZT粒子等の圧電体粒子26を添加し、攪拌して塗料を調製する。有機溶媒には制限はなく、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン、および、シクロヘキサノン等の各種の有機溶媒が利用可能である。
第2積層体42を準備し、かつ、塗料を調製したら、この塗料を第2積層体42にキャスティング(塗布)して、有機溶媒を蒸発して乾燥する。これにより、図4に示すように、第2保護層20の上に第2電極層16を有し、第2電極層16の上に圧電体層12を積層してなる圧電積層体46を作製する。
【0083】
塗料のキャスティング方法には制限はなく、バーコータ、スライドコータ、および、ドクターナイフ等の公知の方法(塗布装置)が、全て、利用可能である。
あるいは高分子材料が加熱溶融可能な物であれば、高分子材料を加熱溶融して、これに圧電体粒子26を添加してなる溶融物を作製し、押し出し成形等によって、図7に示す第2積層体42の上にシート状に押し出し、冷却することにより、図8に示すような、圧電積層体46を作製してもよい。
【0084】
上述のように、圧電フィルム10において、高分子マトリックス24には、常温で粘弾性を有する高分子材料以外にも、PVDF等の高分子圧電材料を添加しても良い。
高分子マトリックス24に、これらの高分子圧電材料を添加する際には、上記塗料に添加する高分子圧電材料を溶解すればよい。あるいは、加熱溶融した常温で粘弾性を有する高分子材料に、添加する高分子圧電材料を添加して加熱溶融すればよい。
【0085】
圧電体層12を形成したら、必要に応じて、カレンダ処理を行ってもよい。カレンダ処理は、1回でもよく、複数回、行ってもよい。
周知のように、カレンダ処理とは、加熱プレスや加熱ローラ等によって、被処理面を加熱しつつ押圧して、平坦化等を施す処理である。
【0086】
また、第2保護層20の上に第2電極層16を有し、第2電極層16の上に圧電体層12を形成してなる圧電積層体46の圧電体層12に、分極処理(ポーリング)を行う。
圧電体層12の分極処理の方法には制限はなく、公知の方法が利用可能である。例えば、分極処理を行う対象に、直接、直流電界を印加する、電界ポーリングが例示される。なお、電界ポーリングを行う場合には、分極処理の前に、第1電極層14を形成して、第1電極層14および第2電極層16を利用して、電界ポーリング処理を行ってもよい。
また、本発明の圧電フィルム10を製造する際には、分極処理は、圧電体層12の面方向ではなく、厚さ方向に分極を行う。
【0087】
次いで、図5に示すように、分極処理を行った圧電積層体46の圧電体層12側に、先に準備した第1積層体40を、第1電極層14を圧電体層12に向けて積層する(積層工程)。
さらに、この積層体を、第2保護層20および第1保護層18を挟持するようにして、加熱プレス装置および加熱ローラ等を用いて熱圧着して、圧電積層体46と第1積層体40とを貼り合わせる。
これにより、圧電体層12、圧電体層12の両面に設けられる第1電極層14および第2電極層16、ならびに、電極層の表面に形成される第1保護層18および第2保護層20からなる積層フィルムを作製する(フィルム作製工程)。
【0088】
このような作製工程を行って作製される本発明の圧電フィルム10は、面方向ではなく厚さ方向に分極されており、かつ、分極処理後に延伸処理をしなくても大きな圧電特性が得られる。そのため、本発明の圧電フィルム10は、圧電特性に面内異方性がなく、駆動電圧を印加すると、面方向では全方向に等方的に伸縮する。
【0089】
次いで、図6に示すように、積層フィルムの端面全面に端面被覆層30を形成する(被覆層形成工程)。なお、必要に応じて、端面被覆層30を形成する前に、積層フィルムを所望の形状に切断してもよい。
次いで、図7に示すように、第1保護層18に貫通孔18aを形成し、第2保護層20に貫通孔20aを形成しする(貫通孔形成工程)。
次いで、図8に示すように、貫通孔18aに第1接続部材32を形成して第1引出電極34を接続し、さらに、貫通孔20aに第2接続部材33を形成して第2引出電極36を接続する(接続部形成工程、電極形成工程)。
なお、端面被覆層30、貫通孔18aおよび貫通孔20a、第1接続部材32および第2接続部材33、ならびに、第1引出電極34および第2引出電極36の形成方法は、上述したとおりである。
【0090】
第1引出電極34および第2引出電極36を形成したら、第1引出電極34および第2引出電極36を電源に接続して、第1電極層14および第2電極層16に通電する(通電工程)。
この通電によって、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとの接触を無くして、作製した圧電フィルム10における第1電極層14と第2電極層16とのショートを防止する。
【0091】
上述したように、積層フィルムの端面では、図9の上段に示すように、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとが、接触している可能性が有る。なお、図1図8では、第1電極層14のバリ14aおよび第2電極層16のバリ16aは、省略している。
第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとが、接触している状態で通電すると、第1電極層14と第2電極層16とがショートする。ここで、積層フィルムの端面は、端面被覆層30によって被覆されている。すなわち、第1電極層14のバリ14aおよび第2電極層16のバリ16aは、空気に触れていない。また、第1電極層14および第2電極層16は、非常に薄い。
そのため、このショートによって、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとの接触部が焼失し、いわゆる飛んだ状態となって無くなる。その結果、図9の下段(図1)に示すように、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとが、完全に離間する。なお、このショートによる焼失の際に、残った第1電極層14のバリ14aおよび第2電極層16のバリ16aは、少なくとも先端部が、焼けたような黒色になる。
従って、本発明の圧電フィルム10は、第1電極層14のバリ14aおよび第2電極層16のバリ16aに起因するショートを、好適に防止できる。
【0092】
バリによって第1電極層14と第2電極層16とをショートさせるために通電する電力には、制限はない。
好ましくは、想定される定常的な圧電フィルム10の作動に掛ける電圧よりも、高い電圧を掛けて、第1電極層14と第2電極層16とをショートさせるのが好ましい。例えば、定常的な圧電フィルム10の作動電圧が50Vである場合には、通電工程において第1電極層14と第2電極層16とをショートさせるための電圧は、150~200Vとするのが好ましい。
【0093】
図1に示す例は、好ましい態様として、圧電体層12の両面に電極層と保護層とを積層した積層フィルムの端面全面に端面被覆層30を形成している。
しかしながら、本発明は、これに制限はされない。例えば、積層フィルムを作製した時点で、ショートの原因となるようなバリが生じている端面を、予め確認することにより、して、ショートの防止が必要な端面のみに、端面被覆層30を形成してもよい。
ただし、より確実にバリに起因する第1電極層14と第2電極層16とのショートを防止できる点で、端面被覆層30は、積層フィルムの端面全面に形成するのが好ましい。
【0094】
本発明の圧電フィルムにおいては、圧電体層12と第1電極層14との間、および/または、圧電体層12と第2電極層16との間において、面方向の端部に、層間絶縁部材を設けてもよい。
本発明の圧電フィルムは、積層フィルムの端面に端面被覆層30を有することにより、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとに起因する第1電極層14と第2電極層16とのショートを、好適に防止できる。これに加え、層間絶縁部材を有することにより、より好適に、電極層のバリに起因する第1電極層14と第2電極層16とのショートを防止できる。
【0095】
図10に、その一例を示す。なお、以下に示す例は、図1等に示す圧電フィルム10と同じ部材を多用している。従って、以下の説明では、同じ部材には同じ符号を付し、説明は、異なる部位を主に行う。
図10に示す圧電フィルム10Aは、第1電極層14と圧電体層12との間の端部近傍に、圧電体層12の端部全域に対応する矩形の枠状の層間絶縁部材50を有する。
このような層間絶縁部材50を有することにより、第1電極層14のバリ14aを跳ね返すようにして、第2電極層16側に向かうことを抑制し、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとに起因する第1電極層14と第2電極層16とのショートを、より好適に防止できる。
【0096】
なお、層間絶縁部材50は、面方向の端部の位置が、圧電体層12(第1電極層14)の端部と一致していてもよい。
しかしながら、層間絶縁部材50は、少なくとも一部が、面方向に圧電体層12よりも突出するのが好ましい。この層間絶縁部材50の突出は、一部でもよいが、図10に示すように、層間絶縁部材50の全域が圧電体層12の端部から突出するのが好ましい。
この点に関しては、後述する図11に示す層間絶縁部材52も同様である。
【0097】
層間絶縁部材50の厚さには、制限はない。層間絶縁部材50の厚さは、圧電体層12と第1電極層14との接触を阻害せず、かつ、バリ同士の接触を妨害できる厚さを、適宜、設定すればよい。層間絶縁部材50の厚さは、5~30μmが好ましく、5~15μmがより好ましい。
層間絶縁部材50の面方向の幅にも、制限はない。層間絶縁部材50の面方向の幅は、同様に、圧電体層12と第1電極層14との接触を阻害せず、かつ、バリ同士の接触を妨害できる厚さを、適宜、設定すればよい。層間絶縁部材50の面方向の幅は、0.2~10mmが好ましく、0.5~5mmがより好ましい。なお、此処で言う面方向の幅とは、圧電体層12からの突出部を含まない、圧電体層12の面内における幅である。
上述のように、層間絶縁部材50は、圧電体層12の端部から突出しているのが好ましい。層間絶縁部材50の圧電体層12の端部からの突出量には、制限はなく、若干でも圧電体層12の端部から突出していれば、層間絶縁部材50バリ同士の接触防止効果を向上できる。層間絶縁部材50の圧電体層12の端部からの突出量は、0.05~5mmが好ましく、0.1~2mmがより好ましい。
なお、以上の点に関しては、図11に示す圧電フィルム10Bの層間絶縁部材52も同様である。
【0098】
図10に示す例では、層間絶縁部材50を圧電体層12側に設けて、圧電体層12と第1電極層14とを積層しているが、本発明は、これに制限はされない。すなわち、本発明においては、層間絶縁部材50を第1電極層14側に設けて、圧電体層12と第1電極層14とを積層してもよい。
また、図10に示す例では、層間絶縁部材50は、圧電体層12と第1電極層14との間に設けているが、本発明は、これに制限はされない。例えば、層間絶縁部材50は、圧電体層12と第2電極層16との間に設けてもよく、または、圧電体層12と第1電極層14との間、および、圧電体層12と第2電極層16との間の両方に層間絶縁部材50を設けてもよい。バリによるショートを、より好適に防止できる点で、層間絶縁部材50は、圧電体層12と第1電極層14との間、および、圧電体層12と第2電極層16との間の、両方に設けるのが好ましい。
以上の点に関しては、図11に示す圧電フィルム10Bの層間絶縁部材52も同様である。
【0099】
図11に、層間絶縁部材を有する圧電フィルムの別の例を概念的に示す。
図11に示す圧電フィルム10Bは、層間絶縁部材52を、第1引出電極34および第2引出電極36の形成側の端部のみに設けている。すなわち、本例は、圧電フィルム(積層フィルム)からの電極の引き出し側の端部に、層間絶縁部材52を設けている。
【0100】
上述したように、圧電体層12の両面に電極層と保護層とを積層した積層フィルムを作製した後に、積層フィルムを所定の形状に切断する場合には、第1電極層14のバリ14aおよび第2電極層16のバリ16aとで、折れ曲がる方向が一致する。
ところが、電極の引き出し側、すなわち、第1引出電極34および第2引出電極36の形成側では、貫通孔18aおよび貫通孔20aの穿孔、第1接続部材32および第2接続部材33の形成、第1引出電極34および第2引出電極36の形成等、様々な加工工程の際に、外部から振動、外力および折れ曲がり等を受ける。その結果、第1引出電極34および第2引出電極36の形成側のみ、図9の上段のように、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとが、近接する方向に折れ曲がり、接触してしまう場合が有る。
【0101】
この際でも、例えば、図示例のように、第1電極層14と圧電体層12との間の、第1引出電極34および第2引出電極36の形成側の端部に、層間絶縁部材52を設けることにより、第1電極層14のバリ14aが折れ曲がる方向を制御して、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとの接触を防止できる。
この層間絶縁部材52も、圧電体層12の端部から突出するのが好ましいのは、上述した図10に示す層間絶縁部材50と同様である。
【0102】
図12に、本発明の圧電フィルムの別の例を概念的に示す。
図12に示す圧電フィルム10Cは、第1引出電極34と第1保護層18との間に、第1電極絶縁部材56を有し、第2引出電極36と第2保護層20との間に、第2電極絶縁部材58を有する。
第1電極絶縁部材56および第2電極絶縁部材58は、共に、引出電極と保護層(積層フィルム)との間に設けられる、保護層の端部から突出する絶縁部材である。
【0103】
第1引出電極34および第2引出電極36は、可撓性を有する場合も多い。
この際には、天地方向の上側に位置する引出電極が垂れ下がってしまい、他方の電極層側のバリに接触してしまう可能性も有る。例えば、第1引出電極34が上側である場合には、第1引出電極34が垂れ下がって、第2電極層16のバリ16a等と接触してしまう場合も有る。また、引出電極が折り曲げられて、他方の電極層側のバリに接触してしまう場合も有る。
これに対して、第1電極絶縁部材56および第2電極絶縁部材58を有することにより、いずれかの引出電極が垂れ下がった場合、および、折れ曲がった場合でも、電極層のバリに接触するのは、電極絶縁部材であるので、ショートすることはない。
【0104】
第1電極絶縁部材56および第2電極絶縁部材58の厚さには、制限はない。すなわち、第1電極絶縁部材56および第2電極絶縁部材58の厚さは、形成材料に応じて、十分な絶縁性を得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
第1電極絶縁部材56および第2電極絶縁部材58の厚さは、0.01~1mmが好ましく、0.02~0.1mmがより好ましい。
第1電極絶縁部材56および第2電極絶縁部材58の厚さは、同じでも、互いに異なってもよい。
【0105】
第1電極絶縁部材56および第2電極絶縁部材58の、積層フィルム(保護層)からの突出量にも、制限はない。すなわち、第1電極絶縁部材56および第2電極絶縁部材58の積層フィルムからの突出量は、圧電体層12の厚さ等に応じて、引出電極と他方の電極層のバリとの接触、および、他方の引出電極との接触を防止できる長さを、適宜、設定すればよい。
第1電極絶縁部材56および第2電極絶縁部材58の積層フィルムからの突出量は、0.01~10mmが好ましく、0.05~5mmがより好ましい。
なお、第1電極絶縁部材56および第2電極絶縁部材58の積層フィルムからの突出量は、同じでも、互いに異なってもよい。
【0106】
図12に示す圧電フィルム10Cは、好ましい態様として、第1引出電極34に対応する第1電極絶縁部材56と、第2引出電極36に対応する第2電極絶縁部材58との両方を有するものであるが、本発明は、これに制限はされない。
すなわち、本発明の圧電フィルムは、第1引出電極34に対応する第1電極絶縁部材56、および、第2引出電極36に対応する第2電極絶縁部材58の、いずれか一方のみを有するものでもよい。
【0107】
上述した層間絶縁部材および電極絶縁部材の形成材料には、制限はなく、電気的な絶縁を行うために用いられる公知の絶縁部材に用いられる材料が、各種、利用可能である。一例として、上述した端面被覆層30で例示した材料が利用可能である。
また、層間絶縁部材および電極絶縁部材は、用いる形成材料に応じて、公知の方法で形成すればよい。
【0108】
なお、上述した層間絶縁部材を有することにより、端面被覆層30を有さなくても、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとの接触を防止できる。また、上述した電極絶縁部材を有することにより、端面被覆層30を有さなくても、引出電極と、他方の電極層のバリとの接触を防止できる。
すなわち、圧電体層12と、圧電体層12の両面に設けられる第1電極層14および第2電極層16と、電極層の表面に形成される第1保護層18および第2保護層20とからなる積層フィルムを有する圧電フィルムは、図13および図14に概念的に示すように、端面被覆層30を有さなくても、上述した層間絶縁部材を有することにより、第1電極層14のバリ14aと第2電極層16のバリ16aとの接触を防止できる。
また、この積層フィルムを有する圧電フィルムは、端面被覆層30を有さなくても、上述した電極絶縁部材を有することにより、図15に概念的に示すように、端面被覆層30を有さなくても、引出電極と、他方の電極層のバリとの接触を防止できる。
【0109】
図16に、本発明の圧電フィルム10を利用する、平板型の圧電スピーカーの一例の概念図を示す。
この圧電スピーカー60は、本発明の圧電フィルム10を、電気信号を振動エネルギーに変換する振動板として用いる、平板型の圧電スピーカーである。なお、圧電スピーカー60は、マイクロフォンおよびセンサー等として使用することも可能である。
【0110】
圧電スピーカー60は、圧電フィルム10と、ケース62と、粘弾性支持体64と、枠体68とを有して構成される。
ケース62は、プラスチック等で形成される、一面が開放する薄い筐体である。筐体の形状としては、直方体状、立方体状、および、円筒状とが例示される。
枠体68は、中央にケース62の開放面と同形状の貫通孔を有する、ケース62の開放面側に係合する枠材である。
粘弾性支持体64は、適度な粘性と弾性を有し、圧電フィルム10を支持すると共に、圧電フィルムのどの場所でも一定の機械的バイアスを与えることによって、圧電フィルム10の伸縮運動を無駄なく前後運動(フィルムの面に垂直な方向の運動)に変換させるためのものである。一例として、羊毛のフェルトおよびPET等を含んだ羊毛のフェルトなどの不織布、ならびに、グラスウール等が例示される。また、粘弾性支持体に変えて、減圧または加圧した気体も利用可能である。
【0111】
圧電スピーカー60は、ケース62の中に粘弾性支持体64を収容して、圧電フィルム10によってケース62および粘弾性支持体64を覆い、圧電フィルム10の周辺を枠体68によってケース62の上端面に押圧した状態で、枠体68をケース62に固定して、構成される。
【0112】
ここで、圧電スピーカー60においては、粘弾性支持体64は、高さ(厚さ)がケース62の内面の高さよりも厚い。
そのため、圧電スピーカー60では、粘弾性支持体64の周辺部では、粘弾性支持体64が圧電フィルム10によって下方に押圧されて厚さが薄くなった状態で、保持される。また、同じく粘弾性支持体64の周辺部において、圧電フィルム10の曲率が急激に変動し、圧電フィルム10に、粘弾性支持体64の周辺に向かって低くなる立上がり部が形成される。さらに、圧電フィルム10の中央領域は四角柱状の粘弾性支持体64に押圧されて、平面状(略平面状)になっている。
【0113】
圧電スピーカー60は、第2電極層16および第1電極層14への駆動電圧の印加によって、圧電フィルム10が面方向に伸長すると、この伸長分を吸収するために、粘弾性支持体64の作用によって、圧電フィルム10の立上がり部が、立ち上がる方向に角度を変える。その結果、平面状の部分を有する圧電フィルム10は、上方に移動する。
逆に、第2電極層16および第1電極層14への駆動電圧の印加によって、圧電フィルム10が面方向に収縮すると、この収縮分を吸収するために、圧電フィルム10の立上がり部が、倒れる方向(平面に近くなる方向)に角度を変える。その結果、平面状の部分を有する圧電フィルム10は、下方に移動する。
圧電スピーカー60は、この圧電フィルム10の振動によって、音を発生する。
【0114】
なお、本発明の圧電フィルム10において、伸縮運動から振動への変換は、圧電フィルム10を湾曲させた状態で保持することでも達成できる。
従って、本発明の圧電フィルム10は、図16に示すような剛性を有する平板状の圧電スピーカー60ではなく、単に湾曲状態で保持することでも、可撓性を有する圧電スピーカーとして機能させることができる。
【0115】
このような本発明の圧電フィルム10を利用する圧電スピーカーは、良好な可撓性を生かして、例えば丸めて、または、折り畳んで、カバン等に収容することが可能である。そのため、本発明の圧電フィルム10によれば、ある程度の大きさであっても、容易に持ち運び可能な圧電スピーカーを実現できる。
また、上述のように、本発明の圧電フィルム10は、柔軟性および可撓性に優れ、しかも、面内に圧電特性の異方性が無い。そのため、本発明の圧電フィルム10は、どの方向に屈曲させても音質の変化が少なく、しかも、曲率の変化に対する音質変化も少ない。従って、本発明の圧電フィルム10を利用する圧電スピーカーは、設置場所の自由度が高く、また、上述したように、様々な物品に取り付けることが可能である。例えば、本発明の圧電フィルム10を、湾曲状態で洋服などの衣料品、および、カバンなどの携帯品等に装着することで、いわゆるウェアラブルなスピーカーを実現できる。
【0116】
さらに、上述したように、本発明の圧電フィルムを可撓性を有する有機EL表示デバイスおよび可撓性を有する液晶表示デバイス等の可撓性を有する表示デバイスに貼着することで、表示デバイスのスピーカーとして用いることも可能である。
【0117】
上述したように、本発明の圧電フィルム10は、電圧の印加によって面方向に伸縮し、この面方向の伸縮によって厚さ方向に好適に振動するので、例えば圧電スピーカー等に利用した際に、高い音圧の音を出力できる、良好な音響特性を発現する。
このような良好な音響特性すなわち圧電による高い伸縮性能を発現する本発明の圧電フィルム10は、複数枚を積層することにより、振動板等の被振動体を振動させる圧電振動素子としても、良好に作用する。
【0118】
一例として、圧電フィルム10の積層体を振動板に貼着して、圧電フィルム10の積層体によって振動板を振動させて音を出力するスピーカーとしてもよい。すなわち、この場合には、圧電フィルム10の積層体を、振動板を振動させることで音を出力する、いわゆるエキサイターとして作用させる。
積層した圧電フィルム10に駆動電圧を印加することで、個々の圧電フィルム10が面方向に伸縮し、各圧電フィルム10の伸縮によって、圧電フィルム10の積層体全体が面方向に伸縮する。圧電フィルム10の積層体の面方向の伸縮によって、積層体が貼着された振動板が撓み、その結果、振動板が、厚さ方向に振動する。この厚さ方向の振動によって、振動板は、音を発生する。振動板は、圧電フィルム10に印加した駆動電圧の大きさに応じて振動して、圧電フィルム10に印加した駆動電圧に応じた音を発生する。
従って、この際には、圧電フィルム10自身は、音を出力しない。
【0119】
1枚毎の圧電フィルム10の剛性が低く、伸縮力は小さくても、圧電フィルム10を積層することにより、剛性が高くなり、積層体全体としては伸縮力は大きくなる。その結果、圧電フィルム10の積層体は、振動板がある程度の剛性を有するものであっても、大きな力で振動板を十分に撓ませて、厚さ方向に振動板を十分に振動させて、振動板に音を発生させることができる。
【0120】
圧電フィルム10の積層体において、圧電フィルム10の積層枚数には、制限はなく、例えば振動させる振動板の剛性等に応じて、十分な振動量が得られる枚数を、適宜、設定すればよい。
なお、十分な伸縮力を有するものであれば、1枚の本発明の圧電フィルム10を、同様のエキサイター(圧電振動素子)として用いることも可能である。
【0121】
本発明の圧電フィルム10の積層体で振動させる振動板にも、制限はなく、各種のシート状物(板状物、フィルム)が利用可能である。
一例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂材料からなる樹脂フィルム、発泡ポリスチレン等からなる発泡プラスチック、段ボール材等の紙材、ガラス板、および、木材等が例示される。さらに、十分に撓ませることができるものであれば、振動板として、表示デバイス等の機器を用いてもよい。
【0122】
圧電フィルム10の積層体は、隣接する圧電フィルム同士を、貼着層(貼着剤)で貼着するのが好ましい。また、圧電フィルム10の積層体と振動板も、貼着層で貼着するのが好ましい。
貼着層には制限はなく、貼着対象となる物同士を貼着できるものが、各種、利用可能である。従って、貼着層は、粘着剤からなるものでも接着剤からなるものでもよい。好ましくは、貼着後に固体で硬い貼着層が得られる、接着剤からなる接着剤層を用いる。
以上の点に関しては、後述する長尺な圧電フィルム10を折り返してなる積層体でも、同様である。
【0123】
圧電フィルム10の積層体において、積層する各圧電フィルム10の分極方向には、制限はない。なお、上述のように、本発明の圧電フィルム10の分極方向とは、厚さ方向の分極方向である。
従って、圧電フィルム10の積層体において、分極方向は、全ての圧電フィルム10で同方向であってもよく、分極方向が異なる圧電フィルムが存在してもよい。
【0124】
ここで、圧電フィルム10の積層体においては、隣接する圧電フィルム10同士で、分極方向が互いに逆になるように、圧電フィルム10を積層するのが好ましい。
圧電フィルム10において、圧電体層12に印加する電圧の極性は、分極方向に応じたものとなる。従って、分極方向が第1電極層14から第2電極層16に向かう場合でも、第2電極層16から第1電極層14に向かう場合でも、積層される全ての圧電フィルム10において、第1電極層14の極性および第2電極層16の極性を、同極性にする。
従って、隣接する圧電フィルム10同士で、分極方向を互いに逆にすることで、隣接する圧電フィルム10の電極層同士が接触しても、接触する電極層は同極性であるので、ショートする恐れがない。
【0125】
圧電フィルム10の積層体は、長尺な圧電フィルム10を、1回以上、好ましくは複数回、折り返すことで、複数の圧電フィルム10を積層する構成としてもよい。
長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成は、以下のような利点を有する。
すなわち、カットシート状の圧電フィルム10を、複数枚、積層した積層体では、1枚の圧電フィルム毎に、第1電極層14および第2電極層16を、駆動電源に接続する必要がある。これに対して、長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成では、一枚の長尺な圧電フィルム10のみで積層体を構成できる。また、長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成では、駆動電圧を印加するための電源が1個で済み、さらに、圧電フィルム10からの電極の引き出しも、1か所でよい。
さらに、長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成では、必然的に、隣接する圧電フィルム10同士で、分極方向が互いに逆になる。
【0126】
以上、本発明の圧電フィルムおよび圧電フィルムの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上述の例に制限はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0127】
スピーカおよびマイク等に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0128】
10,10A,10B,10C 圧電フィルム
12 圧電体層
14 第1電極層
14a,16aバリ
16 第2電極層
18 第1保護層
18a,20a 貫通孔
20 第2保護層
24 高分子マトリックス
26 圧電体粒子
32 第1接続部材
33 第2接続部材
34 第1引出電極
36 第2引出電極
40 第1積層体
42 第2積層体
46 圧電積層体
50,52 層間絶縁部材
56 第1電極絶縁部材
58 第2電極絶縁部材
60 圧電スピーカー
62 ケース
64 粘弾性支持体
68 枠体
図1
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