(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】電池管理装置、電池管理方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20231124BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20231124BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20231124BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231124BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/367
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
H01M10/48 301
(21)【出願番号】P 2022539847
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2020028961
(87)【国際公開番号】W WO2022024235
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミフタフラティフ エムハ バユ
(72)【発明者】
【氏名】河野 亨
(72)【発明者】
【氏名】藤本 博也
(72)【発明者】
【氏名】植田 穣
(72)【発明者】
【氏名】福塚 智也
(72)【発明者】
【氏名】小澤 千耀
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-288039(JP,A)
【文献】国際公開第2019/240225(WO,A1)
【文献】特開2020-3218(JP,A)
【文献】特開2008-292272(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169088(WO,A1)
【文献】特開平4-215083(JP,A)
【文献】特開2018-205309(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0321323(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/392
G01R 31/389
G01R 31/367
H02J 7/00
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の状態を管理する電池管理装置であって、
前記電池が出力する電圧の検出値と前記電池が出力する電流の検出値を取得する検知部、
前記電圧の経時変化を表す差分を用いて前記電池の内部抵抗と前記電池の劣化状態を推定する演算部、
を備え、
前記演算部は、前記差分として、前記電池が充電または放電を終了した終了時点以後の第1起算時点における前記電圧と、前記第1起算時点から第1期間が経過した第1時点における前記電圧との間の第1差分を取得し、
前記演算部は、前記差分として、前記第1時点以後の第2起算時点における前記電圧と、前記第2起算時点から第2期間が経過した第2時点における前記電圧との間の第2差分を取得し、
前記演算部は、前記第1差分と前記内部抵抗との間の関係を記述するとともに前記第2差分と前記劣化状態との間の関係を記述した関係データを取得し、
前記演算部は、前記第1差分を用いて前記関係データを参照することにより前記内部抵抗を推定し、
前記演算部は、前記第2差分を用いて前記関係データを参照することにより前記劣化状態を推定する
ことを特徴とする電池管理装置。
【請求項2】
前記第1期間は、充電または放電の終了時点以後の電圧変化曲線において、充電または放電の終了時点以後から前記電圧変化曲線の傾き変化率の最大点までの区間とし、
前記第2期間は、前記傾き変化率の最大点から前記電圧変化曲線の傾き変化が一定に漸近するまでの区間とする
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項3】
前記関係データは、前記内部抵抗と前記第1差分との間の関係を表す内部抵抗関数を定義する内部抵抗パラメータを記述しており、
前記内部抵抗パラメータは、
前記電池の温度によって変動する内部抵抗_温度パラメータ、
前記電流によって変動する内部抵抗_電流パラメータ、
を含み、
前記関係データは、前記電池の温度の値ごとに前記内部抵抗_温度パラメータを記述するとともに、前記電流の値ごとに前記内部抵抗_電流パラメータを記述しており、
前記演算部は、前記関係データから取得した前記内部抵抗パラメータを用いて、前記内部抵抗を計算する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項4】
前記関係データは、前記劣化状態と前記第2差分との間の関係を表す劣化状態関数を定義する劣化状態パラメータを記述しており、
前記劣化状態パラメータは、
前記電池の温度によって変動する劣化状態_温度パラメータ、
前記電流によって変動する劣化状態_電流パラメータ、
を含み、
前記関係データは、前記電池の温度の値ごとに前記劣化状態_温度パラメータを記述するとともに、前記電流の値ごとに前記劣化状態_電流パラメータを記述しており、
前記演算部は、前記関係データから取得した前記劣化状態パラメータを用いて、前記劣化状態を計算する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項5】
前記内部抵抗関数は、前記内部抵抗と前記第1差分との間の関係を前記第1差分の1次関数によって表す関数であり、
前記内部抵抗_温度パラメータは、前記1次関数の傾きを前記電池の温度の値ごとに定義しており、
前記内部抵抗_電流パラメータは、前記1次関数の切片を前記電流の値ごとに定義しており、
前記演算部は、前記電池の温度の測定値を用いて前記関係データを参照することにより、前記1次関数の傾きを取得し、
前記演算部は、前記電流の測定値を用いて前記関係データを参照することにより、前記1次関数の切片を取得し、
前記演算部は、前記関係データから取得した前記傾きと前記関係データから取得した前記切片を用いて、前記内部抵抗を計算する
ことを特徴とする請求項3記載の電池管理装置。
【請求項6】
前記劣化状態関数は、前記劣化状態と前記第2差分との間の関係を前記第2差分の1次関数によって表す関数であり、
前記劣化状態_温度パラメータは、前記1次関数の傾きを前記電池の温度の値ごとに定義しており、
前記劣化状態_電流パラメータは、前記1次関数の切片を前記電流の値ごとに定義しており、
前記演算部は、前記電池の温度の測定値を用いて前記関係データを参照することにより、前記1次関数の傾きを取得し、
前記演算部は、前記電流の測定値を用いて前記関係データを参照することにより、前記1次関数の切片を取得し、
前記演算部は、前記関係データから取得した前記傾きと前記関係データから取得した前記切片を用いて、前記劣化状態を計算する
ことを特徴とする請求項4記載の電池管理装置。
【請求項7】
前記関係データは、前記電池が充電終了した後の第1休止期間と、前記電池が放電完了した後の第2休止期間とのそれぞれについて、前記内部抵抗パラメータを記述しており、
前記関係データは、前記第1休止期間における前記内部抵抗パラメータを定義する充電後パラメータを記述しており、
前記関係データは、前記第2休止期間における前記内部抵抗パラメータを定義する放電後パラメータを記述しており、
前記演算部は、前記第1休止期間においては前記関係データから前記充電後パラメータを取得し、
前記演算部は、前記第2休止期間においては前記関係データから前記放電後パラメータを取得する
ことを特徴とする請求項3記載の電池管理装置。
【請求項8】
前記関係データは、前記電池が充電終了した後の第1休止期間と、前記電池が放電完了した後の第2休止期間とのそれぞれについて、前記劣化状態パラメータを記述しており、
前記関係データは、前記第1休止期間における前記劣化状態パラメータを定義する充電後パラメータを記述しており、
前記関係データは、前記第2休止期間における前記劣化状態パラメータを定義する放電後パラメータを記述しており、
前記演算部は、前記第1休止期間においては前記関係データから前記充電後パラメータを取得し、
前記演算部は、前記第2休止期間においては前記関係データから前記放電後パラメータを取得する
ことを特徴とする請求項4記載の電池管理装置。
【請求項9】
前記関係データは、前記電池の製造ロット番号ごとに前記内部抵抗パラメータを記述しており、
前記演算部は、前記電池の製造ロット番号を用いて前記関係データを参照することにより、前記内部抵抗パラメータを取得する
ことを特徴とする請求項3記載の電池管理装置。
【請求項10】
前記関係データは、前記電池の製造ロット番号ごとに前記劣化状態パラメータを記述しており、
前記演算部は、前記電池の製造ロット番号を用いて前記関係データを参照することにより、前記劣化状態パラメータを取得する
ことを特徴とする請求項4記載の電池管理装置。
【請求項11】
前記電池は、放電を終了すると前記電流が矩形波状に立ち上がり、または、充電を終了すると前記電流が矩形波状に立ち下がるように構成されており、
前記演算部は、前記矩形波状の立ち上がりまたは立ち下がりによって生じる前記電圧の変動分を、前記第1差分のうち少なくとも一部として取得する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項12】
電池の状態を管理する電池管理方法であって、
前記電池が出力する電圧の検出値と前記電池が出力する電流の検出値を取得するステップ、
前記電圧の経時変化を表す差分を用いて前記電池の内部抵抗と前記電池の劣化状態を推定するステップ、
を有し、
前記推定するステップにおいては、前記差分として、前記電池が充電または放電を終了した終了時点以後の第1起算時点における前記電圧と、前記第1起算時点から第1期間が経過した第1時点における前記電圧との間の第1差分を取得し、
前記推定するステップにおいては、前記差分として、前記第1時点以後の第2起算時点における前記電圧と、前記第2起算時点から第2期間が経過した第2時点における前記電圧との間の第2差分を取得し、
前記推定するステップにおいては、前記第1差分と前記内部抵抗との間の関係を記述するとともに前記第2差分と前記劣化状態との間の関係を記述した関係データを取得し、
前記推定するステップにおいては、前記第1差分を用いて前記関係データを参照することにより前記内部抵抗を推定し、
前記推定するステップにおいては、前記第2差分を用いて前記関係データを参照することにより前記劣化状態を推定する
ことを特徴とする電池管理方法。
【請求項13】
前記第1時点と前記第2起算時点の間には、時間間隔が存在する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の状態を管理する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
市場における蓄電池の数は増加し続けている。電池が劣化すると、総充電容量が低下する。この状態は、電池の劣化状態(State of Health:SOH)として表される。電池が劣化すると、電池の内部抵抗Riも増加する。SOHとRiに基づき電池状態を評価することにより、適切なユースケースを決定することができる。
【0003】
下記特許文献1は、『内部抵抗推定値の精度を向上することができ、ひいてはバッテリ容量であるSOCの算出精度を向上できるバッテリの内部抵抗成分推定方法を提供すること。』を課題として、『複数の単位電池で構成したバッテリ5の内部抵抗成分推定方法であって、バッテリ5の内部抵抗成分に、バッテリ5の内部でのイオン物質の拡散移動による偏在で生じる電圧を考慮した拡散分極抵抗を設定し、拡散物質の濃度の時間変化を用いて、拡散分極抵抗を推定した。』という技術を開示している(要約参照)。
【0004】
下記特許文献2は、『SOCおよびSOHを電池のプロセス値のみならず、SOCおよびSOHの相互相関も考慮して精度良く推定する。』ことを課題として、『バッテリコントローラ6BCにおいて、BCIA9は、電池5の内部抵抗の25℃換算値R25を計測する内部抵抗計測部96および開放電圧の25℃換算値OCV25を計測する開放電圧計測部97を具備する。CPU8は、OCV25とSOHおよびSOCとの関係を表す第1方程式、およびR25とSOHおよびSOCとの関係を表す第2方程式、を記憶する方程式記憶部86ならびに前記R25およびOCV25の計測結果を前記各方程式に適用し、その連立方程式の解としてSOHおよびSOCを求める求解部87を具備する。』という技術を開示している(要約参照)。
【0005】
下記特許文献3は、『二次電池10の特性を評価する簡単な構成の電池システム1を提供する。』ことを課題として、『電池システム1は、正極11と負極15と電解質12、14とを有する二次電池10と、初期抵抗値および評価周波数を含む予め測定された二次電池10の固有情報を記憶する記憶部23と、記憶部23に記憶されている評価周波数の交流信号を二次電池10に印加する電源部20と、交流信号から二次電池10の固体電解質界面被膜17のインピーダンスを測定する測定部22と、前記インピーダンスおよび固有情報から二次電池10の劣化度または充電深度の少なくともいずれかを算出する算出部24と、を具備する。』という技術を開示している(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-175484号公報
【文献】特開2017-129401号公報
【文献】特開2013-088148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、内部抵抗のみを測定するので、SOHを測定するための技術が別途必要となる。特許文献2においては、開回路電圧(Open Circuit Voltage:OCV)を用いてRiやSOHを測定する。しかしOCVを用いる手法は、測定時間が長い傾向がある。特許文献3においては、インピーダンスを測定するための波形を生成する波形生成器が別途必要となる。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、電池の内部抵抗と劣化状態を同時にかつ短時間で簡易な手段によって測定することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電池管理装置は、充電または放電を終了した終了時点以後の第1起算時点における前記電圧と、前記第1起算時点から第1期間が経過した第1時点における前記電圧との間の第1差分を取得し、さらに、前記第1時点以後の第2起算時点における前記電圧と、前記第2起算時点から第2期間が経過した第2時点における前記電圧との間の第2差分を取得し、前記第1差分と前記電池の内部抵抗との間の関係にしたがって前記内部抵抗を推定し、前記第2差分と前記電池の劣化状態との間の関係にしたがって前記劣化状態を推定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る電池管理装置によれば、電池の内部抵抗と劣化状態を同時にかつ短時間で測定することができる。本発明のその他課題、利点、構成などは、以下の実施jの説明により明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】電池の内部抵抗(Ri)と劣化状態(SOH)のばらつきを例示する図である。
【
図2】電池管理装置の用途を例示する模式図である。
【
図3】実施形態1に係る電池管理装置100の構成例を示す図である。
【
図4】電池管理装置100の別構成例を示す図である。
【
図5】検知部130が電池200と接続されている場合における構成例を示す。
【
図6】演算部120がRiとSOHを計算する手順を説明するフローチャートである。
【
図7】放電後の休止期間において電池200が出力する電流と電圧の経時変化を示すグラフである。
【
図8】充電後の休止期間において電池200が出力する電流と電圧の経時変化を示すグラフである。
【
図9】関係テーブル141の構成とデータ例を示す図である。
【
図10】実施形態2における関係テーブル141の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態1>
図1は、電池の内部抵抗(Ri)と劣化状態(SOH)のばらつきを例示する図である。RiとSOHに応じて、適切な使用方法や用途などが異なる場合がある。したがってRiとSOHを測定することは、電池の運用管理において重要である。
【0013】
図2は、本発明に係る電池管理装置の用途を例示する模式図である。充放電する必要がある電池(例えば電池セル、電池モジュール、電池パック、など)は、様々な装置へ接続される。例えばテスタ、BMS(電池管理システム)、充電器、などである。電池はこれら装置へ接続されているとき、充電動作/放電動作/休止状態のいずれかとなる。RiとSOHを計算するアルゴリズムをどこで実施するかに応じて、RiとSOHは例えば上記装置上で計算することもできるし、クラウドサーバ上などのネットワークを介して接続されたコンピュータ上で計算することもできる。電池が接続された装置上で計算する利点は、電池状態(電池が出力する電圧、電池が出力する電流、電池の温度、など)を高頻度で取得できることである。
【0014】
クラウドシステム上で計算したRiやSOHは、ユーザが所持するコンピュータへ送信することもできる。ユーザコンピュータはこのデータを、例えばインベントリ管理などの特定用途へ供することができる。クラウドシステム上で計算したRiやSOHは、クラウドプラットフォーム事業者のデータベースへ格納し、別用途のために用いることができる。例えば電気自動車の交換経路の最適化、エネルギー管理、などである。
【0015】
図3は、本発明の実施形態1に係る電池管理装置100の構成例を示す図である。
図3において、電池管理装置100は、電池200と接続され、電池200から電力供給を受ける装置であり、
図2におけるテスタなどに相当する。電池管理装置100は、通信部110、演算部120、検知部130、記憶部140を備える。
【0016】
検知部130は、電池200が出力する電圧の検出値V、電池200が出力する電流の検出値Iを取得する。さらにオプションとして、電池200の温度の検出値Tを取得してもよい。これらの検出値は、電池200自身が検出して検知部130へ通知してもよいし検知部130が検出してもよい。検知部130の詳細は後述する。
【0017】
演算部120は、検知部130が取得した検出値を用いて、電池200のRiとSOHを推定する。推定手順については後述する。通信部110は、演算部120が推定したRとSOHを、電池管理装置100の外部へ送信する。例えばクラウドシステムが備えるメモリに対してこれらを送信することができる。記憶部140は、後述するデータテーブルを格納する。
【0018】
図4は、電池管理装置100の別構成例を示す図である。電池管理装置100は、必ずしも電池200と直接的に接続して電力供給を受ける装置でなくともよく、
図3に記載された通信部110及び検知部130が含まれていない形態を示すものである。
図4において電池管理装置100は、電池200の電圧V、電流I、温度Tを通信部110から取得する。具体的には、電池管理装置100が備える検知部150はこれらの検出値を例えばネットワーク経由で受け取り、演算部120はこれらの検出値を用いてRiとSOHを計算する。
【0019】
図5は、検知部130が電池200と接続されている場合における構成例を示す。検知部130は、電池管理装置100の一部として構成してもよいし、電池管理装置100とは別のモジュールとして構成してもよい。検知部130は、電池200の充放電動作時における電圧V、温度T、電流Iを取得するために、電圧センサ131、温度センサ132、電流センサ133を備える。
【0020】
電圧センサ131は、電池200の両端電圧(電池200が出力する電圧)を測定する。温度センサ132は、例えば電池200が備える熱電対と接続され、これを介して電池200の温度を測定する。電流センサ133は、電池200の一端と接続され、電池200が出力する電流を測定する。温度センサ132はオプションであり、必ずしも備えていなくともよい。
【0021】
図6は、演算部120がRiとSOHを計算する手順を説明するフローチャートである。演算部120は、例えば電池管理装置100が起動したとき、本フローチャートを開始するように指示されたとき、所定周期毎、などの適当なタイミングで、本フローチャートを開始する。以下
図6の各ステップを説明する。
【0022】
(
図6:ステップS601)
演算部120は、充電後の休止期間または放電後の休止期間であるか否かを判定する。現在が休止期間ではない場合は本フローチャートを終了する。休止期間である場合はS602へ進む。例えば放電後の休止期間であることは、電池200が出力する電流が負値(I<0)からゼロへ向かって変化している、(b)負値からゼロ近傍の値へ変化して安定している(|I|<閾値)、などによって判定することができる。
【0023】
(
図6:ステップS602)
演算部120は、ΔVaとΔVbを計算する。ΔVaは、休止期間が終了した以後の第1起算時点から第1期間taが経過した第1時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分である。ΔVbは、第1時刻以後の第2起算時点から第2期間tbが経過した第2時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分である。これらの計算手順については後述する。
【0024】
(
図6:ステップS603)
演算部120は、下記式1と式2にしたがって、RiとSOHを計算する。f
Riは、RiをΔVaの関数として定義する。f
Riは、電池200の温度によって変動するパラメータ(c_Ri_T)と、電池200の出力電流によって変動するパラメータ(c_Ri_I)を有する。f
SOHは、SOHをΔVbの関数として定義する。f
SOHは、電池200の温度によって変動するパラメータ(c_SOH_T)と、電池200の出力電流によって変動するパラメータ(c_SOH_I)を有する。これらのパラメータは関係テーブル141によって定義されている。各関数の具体例と関係テーブル141の具体例については後述する。f
Ri及びf
SOHは例えばロットごとの実験データを元に形成される式となる。
【0025】
(
図6:ステップS604:計算式)
Ri=f
Ri(ΔVa,c_Ri_T_1,c_Ri_T_2,・・・,c_Ri_I_1,c_Ri_I_2,・・・) (1)
SOH=f
SOH(ΔVb,c_SOH_T_1,c_SOH_T_2,・・・,c_SOH_I_1,c_SOH_I_2,・・・) (2)
【0026】
図7は、放電後の休止期間において電池200が出力する電流と電圧の経時変化を示すグラフである。S602におけるΔVaは、放電が終了した時点またはそれよりも後の第1起算時点から第1期間taが経過した第1時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分である。本発明者は、放電が終了した直後における出力電圧において、電池200の内部抵抗による電圧変動がよく表れていることを見出した。すなわちこの期間における出力電圧の変動(ΔVa)は、Riとの間の相関が強いといえる。本実施形態1においてはこのことを利用して、ΔVaによってRiを推定することとした。taの開始時刻と時間長それぞれの最適値は、放電の終了時点以後から電圧の経時変化曲線における傾き変化率の最大点までの区間に基づき取得することができる。なお前記区間の特定に際しては、電池の種類、装置、精度等によって、前記区間の両端付近、あるいは両端を含めた領域とするなど、適宜好ましい運用とすればよい。
【0027】
S602におけるΔVbは、期間taが経過した時点またはそれ以降の第2起算時点から第2期間tbが経過した第2時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分である。放電終了直後におけるΔVaがRiとの間で相関を有しているのに対して、それよりも後の出力電圧が緩やかに変動する期間は、SOHとの間で相関を有していることを、本発明者は見出した。本実施形態1においてはこのことを利用して、ΔVbによってSOHを推定することとした。tbの開始時刻と時間長それぞれの最適値は、放電の終了時点以後の電圧の経時変化曲線における傾き変化率の最大点から電圧の経時変化曲線の傾き変化が一定に漸近するまでの区間に基づき取得することができる。なお前記区間の特定に際しては、電池の種類、装置、精度等によって、前記区間の両端付近、あるいは両端を含めた領域とするなど、適宜好ましい運用とすればよい。
【0028】
taの開始時刻は、必ずしも放電終了時刻と同じでなくともよいが、放電終了時刻と近接していることが望ましい。tbの開始時刻は、必ずしもtaの終了時刻と同じでなくともよい。いずれの場合であっても、taとtbは、ta<tbという関係がある。ΔVaの大きさとΔVbの大きさについては、ΔVaのほうが大きい場合もあり得るし、ΔVbのほうが大きい場合もあり得る。なお、ここではta<tbとしたが、電池の種類、装置、精度等によって、ta>tb、あるいはta=tbの場合もあり得るため、適宜好ましい関係とすればよい。
【0029】
taとtbの合計が例えば数秒程度であっても、RiとSOHを精度よく推定できることが、本発明者による実験結果から分かった。したがって本実施形態1によれば、休止期間において速やかにRiとSOHをともに推定することができる。
【0030】
図8は、充電後の休止期間において電池200が出力する電流と電圧の経時変化を示すグラフである。S602におけるΔVaは、放電に代えて、充電が終了した時点またはそれよりも後の第1起算時点から第1期間taが経過した第1時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分でもよい。この場合、S602におけるΔVbは、期間taが経過した時点またはそれ以降の第2起算時点から第2期間tbが経過した第2時刻までにおける、電池200の出力電圧の変動分となる。充電後の休止期間においても、ΔVaはRiとの間で相関を有し、ΔVbはSOHとの間で相関を有していることを、本発明者は見出した。したがって本実施形態1において、S602におけるΔVaとΔVbは、充放電いずれの後において取得してもよい。
【0031】
図9は、関係テーブル141の構成とデータ例を示す図である。関係テーブル141は、式1と式2における各パラメータを定義するデータテーブルである。c_Ri_Iとc_SOH_Iは電池200の出力電流によって変動するので、出力電流値ごとに定義されている。c_Ri_Tとc_SOH_Tは電池200の温度によって変動するので、温度ごとに定義されている。これらのパラメータは、放電後の休止期間と充電後の休止期間との間で異なる特性を有する場合があるので、関係テーブル141はこれらの期間ごとに各パラメータを定義している。
【0032】
fRiがΔVaの1次関数である場合、Riは例えば下記式3によって表すことができる。Riの傾きは温度によって影響され、切片は電流によって影響されるからである。この場合、c_Ri_Tとc_Ri_Iはそれぞれ1つである。
【0033】
Ri=c_Ri_T_1×ΔVa+c_Ri_I_1 (3)
【0034】
fSOHがΔVbの1次関数である場合、SOHは例えば下記式4によって表すことができる。SOHの傾きは温度によって影響され、切片は電流によって影響されるからである。この場合、c_SOH_Tとc_SOH_Iはそれぞれ1つである。
【0035】
SOH=c_SOH_T_1×ΔVb+c_SOH_I_1 (4)
【0036】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る電池管理装置100は、放電終了後の休止期間または充電終了後の休止期間において、期間taにおける電圧変動ΔVaを用いてRiを推定し、期間tbにおける電圧変動ΔVbを用いてSOHを推定する。これにより、従来よりも短時間でRiとSOHをともに推定することができる。
【0037】
本実施形態1に係る電池管理装置100において、関係テーブル141は、RiとΔVaとの間の関係を表す関数fRiを定義する内部抵抗パラメータを記述する。内部抵抗パラメータは、電池200の出力電流によって変動するc_Ri_Iと、電池200の温度によって変動するc_Ri_Tとを含む。これにより、関数fRiが電池200の温度や電池200の出力電流によって変動する場合であっても、Riを正確に推定することができる。関数fSOHを定義する劣化状態パラメータについても同様である。
【0038】
本実施形態1に係る電池管理装置100において、関係テーブル141は、充電後の休止期間と放電後の休止期間それぞれについて、内部抵抗パラメータと劣化状態パラメータを記述する。これにより、充電後の休止期間と放電後の休止期間との間で関数(すなわち電池200の特性)が異なる場合であっても、RiとSOHを正確に推定することができる。
【0039】
<実施の形態2>
図10は、本発明の実施形態2における関係テーブル141の構成例を示す図である。実施形態1における関係テーブル141は、充電後の休止期間と放電後の休止期間それぞれについて、パラメータを定義していることを説明した。関係テーブル141はこれに加えて、電池200の製造ロット番号ごとに、これらパラメータを定義してもよい。RiとΔVaとの間の相関関係や、SOHとΔVbとの間の相関関係は、製造ロットごとに異なる場合があるからである。そこで
図10においては、製造ロット番号ごとに1つのデータテーブルを設けた例を示した。演算部120は、電池200の製造ロット番号に対応するデータテーブルから、各パラメータを取得する。
【0040】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0041】
以上の実施形態において、放電後の休止期間または充電後の休止期間のなかでΔVaとΔVbを取得することを説明した。このときの放電または充電は、必ずしも完全放電(電池200の残容量が0)や完全充電(電池200を満充電する)でなくともよい。すなわち放電動作や充電動作を終了した後の期間であればよい。
【0042】
以上の実施形態において、放電後の休止期間または充電後の休止期間のなかでΔVaとΔVbを取得するのは、放電終了直後においては電池200の出力電流が急峻に立ち上がり、充電終了直後においては電池200の出力電流が急峻に立ち下がることを想定したものである。例えば矩形波状に電流が立ち上がりまたは立ち下がることを想定している。これは、出力電流が矩形波であることにより、出力電流の様々な周波数成分に対する電池200の電圧応答が得られると考えられるからである。したがって放電後の休止期間または充電後の休止期間において、電池200の出力電流が矩形波状に変動することが望ましい。ただし厳密な矩形波でなくとも、矩形波に近似する電流波形であればよい。
【0043】
以上の実施形態において、関数fRiとfSOHの1例として1次関数を例示したが、その他の関数であってもよい。例えば2次関数以上の多項関数などであってもよい。関係テーブル141は、いずれの場合であっても、その関数を定義するための係数などのパラメータを記述すればよい。パラメータのうち電池200の出力電流によって変動するものについては電流値ごとに定義し、電池200の温度によって変動するものについては温度値ごとに定義すればよい。
【0044】
以上の実施形態において、演算部120と検知部130は、これらの機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、これらの機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【0045】
以上の実施形態において、記憶部140は、必ずしも演算部120と同じ装置上に配置する必要はない。すなわち、演算部120が関係テーブル141によって定義されている情報を取得してローカルメモリ等の記憶装置へ格納することができれば、関係テーブル141そのものは演算部120とは別の装置上に配置してもよい。
【符号の説明】
【0046】
100:電池管理装置
110:通信部
120:演算部
130:検知部
140:記憶部
141:関係テーブル
200:電池