(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】路面プロファイル推定装置、路面プロファイル推定システム、路面プロファイル推定方法及び路面プロファイル推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20231127BHJP
G01B 21/00 20060101ALI20231127BHJP
G01B 21/30 20060101ALI20231127BHJP
G01C 7/04 20060101ALI20231127BHJP
E01C 23/01 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
G08G1/00 A
G08G1/00 J
G01B21/00 T
G01B21/30 102
G01C7/04
E01C23/01
(21)【出願番号】P 2020555667
(86)(22)【出願日】2019-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2019044051
(87)【国際公開番号】W WO2020100784
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2018213088
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、インフラ維持管理・更新・マネジメント技術「インフラ予防保全のための大規模センサ情報統合に基づく路面・橋梁スクリーニング技術の研究開発と社会実装」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】長山 智則
(72)【発明者】
【氏名】薛 凱
(72)【発明者】
【氏名】趙 博宇
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/199286(WO,A1)
【文献】特開2010-060489(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154214(WO,A1)
【文献】特開2011-070384(JP,A)
【文献】特開平07-055469(JP,A)
【文献】特開2007-257380(JP,A)
【文献】米国特許第5065618(US,A)
【文献】特開2011-128844(JP,A)
【文献】特開2004-110590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 ~ 1/16
G01B 21/00
G01B 21/30
G01C 7/04
E01C 23/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面を走行する車両の運動を表す物理量を取得する取得部と、
複数のパラメータを含むシミュレーションモデルに基づいて、前記車両が走行する路面の凹凸を表す変数及び前記物理量を表す変数を含む状態変数の時間発展を予測する予測部と、
観測モデルに基づいて、前記予測部により予測された前記状態変数から、前記物理量の観測値を算出する算出部と、
前記取得部により取得された前記物理量と、前記算出部により算出された前記物理量とのデータ同化によって、前記状態変数を更新する更新部と、
前記状態変数に含まれる前記路面の凹凸を表す変数に基づいて、第1条件及び第2条件の下でそれぞれ前記路面のプロファイルを推定する推定部と、
前記第1条件の下で推定された前記路面のプロファイルと、前記第2条件の下で推定された前記路面のプロファイルとの差を評価する評価関数の絶対値が小さくなるように、前記複数のパラメータを決定する決定部と、
を備え
、
前記更新部は、前記取得部により取得された前記物理量と、前記算出部により算出された前記物理量との差に基づいて、前記シミュレーションモデルにおいて前記状態変数に加えられるノイズの分散共分散行列と、前記観測モデルにおいて前記物理量の観測値に加えられるノイズの分散共分散行列とを更新する、
路面プロファイル推定装置。
【請求項2】
前記シミュレーションモデルは、前記車両のハーフカーモデルであり、
前記第1条件の下で推定された前記路面のプロファイルは、前記ハーフカーモデルのフロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数に基づいて推定された前記路面のプロファイルであり、
前記第2条件の下で推定された前記路面のプロファイルは、前記ハーフカーモデルのリアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数に基づいて推定された前記路面のプロファイルであり、
前記評価関数は、前記フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出される第1関数と、前記リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出される第2関数との差を含む、
請求項
1に記載の路面プロファイル推定装置。
【請求項3】
前記第1関数は、前記フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出された前記路面のプロファイルのパワースペクトル密度であり、
前記第2関数は、前記リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出された前記路面のプロファイルのパワースペクトル密度である、
請求項
2に記載の路面プロファイル推定装置。
【請求項4】
前記決定部は、前記複数のパラメータの候補値を用いて算出された前記パワースペクトル密度の対数を従属変数とし、周波数の対数を独立変数とする回帰分析を行い、前記回帰分析の決定係数と閾値の比較に基づいて、前記候補値の採否を決定する、
請求項
3に記載の路面プロファイル推定装置。
【請求項5】
前記第1関数は、所定の時刻における前記フロントタイヤの垂直方向の変位を表す変数の値であり、
前記第2関数は、前記フロントタイヤから前記リアタイヤまでの距離を前記所定の時刻における前記車両の速度で除算した値を前記所定の時刻に加えた時刻における前記リアタイヤの垂直方向の変位を表す変数の値である、
請求項
2に記載の路面プロファイル推定装置。
【請求項6】
前記第1条件の下で推定された前記路面のプロファイルは、前記車両が第1速度で所定の道を走行した場合に前記推定部により推定された前記路面のプロファイルであり、
前記第2条件の下で推定された前記路面のプロファイルは、前記車両が前記第1速度と異なる第2速度で前記所定の道を走行した場合に前記推定部により推定された前記路面のプロファイルである、
請求項
1又は2に記載の路面プロファイル推定装置。
【請求項7】
前記評価関数は、前記第1条件の下で推定された前記路面のプロファイルの国際ラフネス指数と、前記第2条件の下で推定された前記路面のプロファイルの国際ラフネス指数との差を評価するものである、
請求項
6に記載の路面プロファイル推定装置。
【請求項8】
前記決定部は、遺伝的アルゴリズムを用いて前記複数のパラメータを決定する、
請求項1から
7のいずれか一項に記載の路面プロファイル推定装置。
【請求項9】
前記シミュレーションモデルは、前記状態変数の線形変換とガウシアンノイズによって前記状態変数の時間発展を表すモデルであり、
前記観測モデルは、前記状態変数の線形変換とガウシアンノイズによって、前記物理量の観測値を算出するモデルであり、
前記更新部は、前記状態変数の2乗誤差を最小化するように前記状態変数を更新する、
請求項1から
8のいずれか一項に記載の路面プロファイル推定装置。
【請求項10】
路面を走行する車両と、
前記車両の運動を表す物理量を測定する測定部と、
前記車両が走行する路面のプロファイルを推定する路面プロファイル推定装置と、を備え、
前記路面プロファイル推定装置は、
複数のパラメータを含むシミュレーションモデルに基づいて、前記車両が走行する路面の凹凸を表す変数及び前記物理量を表す変数を含む状態変数の時間発展を予測する予測部と、
観測モデルに基づいて、前記予測部により予測された前記状態変数から、前記物理量の観測値を算出する算出部と、
前記測定部により測定された前記物理量と、前記算出部により算出された前記物理量とのデータ同化によって、前記状態変数を更新する更新部と、
前記状態変数に含まれる前記路面の凹凸を表す変数に基づいて、第1条件及び第2条件の下でそれぞれ前記路面のプロファイルを推定する推定部と、
前記第1条件の下で推定された前記路面のプロファイルの特性を表す第1特性値と、前記第2条件の下で推定された前記路面のプロファイルの特性を表す第2特性値との差が小さくなるように、前記複数のパラメータを決定する決定部と、を備え
、
前記更新部は、前記測定部により測定された前記物理量と、前記算出部により算出された前記物理量との差に基づいて、前記シミュレーションモデルにおいて前記状態変数に加えられるノイズの分散共分散行列と、前記観測モデルにおいて前記物理量の観測値に加えられるノイズの分散共分散行列とを更新する、
路面プロファイル推定システム。
【請求項11】
路面を走行する車両の運動を表す物理量を取得することと、
複数のパラメータを含むシミュレーションモデルに基づいて、前記車両が走行する路面の凹凸を表す変数及び前記物理量を表す変数を含む状態変数の時間発展を予測することと、
観測モデルに基づいて、予測された前記状態変数から、前記物理量の観測値を算出することと、
取得された前記物理量と、算出された前記物理量とのデータ同化によって、前記状態変数を更新することと、
前記状態変数に含まれる前記路面の凹凸を表す変数に基づいて、第1条件及び第2条件の下でそれぞれ前記路面のプロファイルを推定することと、
前記第1条件の下で推定された前記路面のプロファイルの特性を表す第1特性値と、前記第2条件の下で推定された前記路面のプロファイルの特性を表す第2特性値との差が小さくなるように、前記複数のパラメータを決定することと、
を含
み、
前記更新することは、前記取得された前記物理量と、前記算出された前記物理量との差に基づいて、前記シミュレーションモデルにおいて前記状態変数に加えられるノイズの分散共分散行列と、前記観測モデルにおいて前記物理量の観測値に加えられるノイズの分散共分散行列とを更新することを含む、
路面プロファイル推定方法。
【請求項12】
路面プロファイル推定装置に備えられた演算部を、
路面を走行する車両の運動を表す物理量を取得する取得部、
複数のパラメータを含むシミュレーションモデルに基づいて、前記車両が走行する路面の凹凸を表す変数及び前記物理量を表す変数を含む状態変数の時間発展を予測する予測部、
観測モデルに基づいて、前記予測部により予測された前記状態変数から、前記物理量の観測値を算出する算出部、
前記取得部により取得された前記物理量と、前記算出部により算出された前記物理量とのデータ同化によって、前記状態変数を更新する更新部、
前記状態変数に含まれる前記路面の凹凸を表す変数に基づいて、第1条件及び第2条件の下でそれぞれ前記路面のプロファイルを推定する推定部、及び
前記第1条件の下で推定された前記路面のプロファイルの特性を表す第1特性値と、前記第2条件の下で推定された前記路面のプロファイルの特性を表す第2特性値との差が小さくなるように、前記複数のパラメータを決定する決定部、
として機能させる路面プロファイル推定プログラム
であって、
前記更新部は、前記取得部により取得された前記物理量と、前記算出部により算出された前記物理量との差に基づいて、前記シミュレーションモデルにおいて前記状態変数に加えられるノイズの分散共分散行列と、前記観測モデルにおいて前記物理量の観測値に加えられるノイズの分散共分散行列とを更新する、
路面プロファイル推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面プロファイル推定装置、路面プロファイル推定システム、路面プロファイル推定方法及び路面プロファイル推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、路面の縦断形状(以下、路面のプロファイルという。)を評価するために、路面の凹凸を測定し、例えばIRI(International Roughness Index:国際ラフネス指数)等の指数を算出する場合がある。路面プロファイルに関する情報は、路面の補修要否を判断したり、車両で走行した場合の快適性を評価したりするために用いられることがある。
【0003】
下記特許文献1には、車両のピッチング角速度及びGPS情報を同期させて記録し、角速度応答と伝達関数とを用いて加速度応答を推定し、推定された加速度応答と相関関数とを用いて国際ラフネス指数を推定する路面評価装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
路面プロファイルは、クォーターカーモデルやハーフカーモデル等のシミュレーションモデルを用いて推定されることがある。ここで、シミュレーションモデルは、車両の慣性モーメントを表すパラメータやダンパの減衰係数を表すパラメータ等の複数のパラメータを含む。
【0006】
従来、シミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータは、車両を実測したり、既知の形状のハンプを乗り越える際の応答から推定したりしていた。しかしながら、例えば車両の慣性モーメント等は簡易に実測することができず、既知の形状のハンプを乗り越える際の応答を用いる場合、車両速度等の実験条件を一定にしづらかったり、実走時と応答が異なっていたりして、比較的大きな推定誤差が生じることがある。
【0007】
そこで、本発明は、路面プロファイルの推定とあわせてシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定する路面プロファイル推定装置、路面プロファイル推定システム、路面プロファイル推定方法及び路面プロファイル推定プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る路面プロファイル推定装置は、路面を走行する車両の運動を表す物理量を取得する取得部と、複数のパラメータを含むシミュレーションモデルに基づいて、車両が走行する路面の凹凸を表す変数及び物理量を表す変数を含む状態変数の時間発展を予測する予測部と、観測モデルに基づいて、予測部により予測された状態変数から、物理量の観測値を算出する算出部と、取得部により取得された物理量と、算出部により算出された物理量とのデータ同化によって、状態変数を更新する更新部と、状態変数に含まれる路面の凹凸を表す変数に基づいて、第1条件及び第2条件の下でそれぞれ路面のプロファイルを推定する推定部と、第1条件の下で推定された路面のプロファイルと、第2条件の下で推定された路面のプロファイルとの差を評価する評価関数の絶対値が小さくなるように、複数のパラメータを決定する決定部と、を備える。
【0009】
この態様によれば、路面のプロファイルを第1条件と第2条件の下で推定し、両条件下で推定された路面のプロファイルの差が小さくなるようにシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することで、路面プロファイルの推定とあわせてシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することができる。
【0010】
上記態様において、更新部は、取得部により取得された物理量と、算出部により算出された物理量との差に基づいて、シミュレーションモデルにおいて状態変数に加えられるノイズの分散共分散行列と、観測モデルにおいて物理量の観測値に加えられるノイズの分散共分散行列とを更新してもよい。
【0011】
この態様によれば、シミュレーションモデルにおいて状態変数に加えられるノイズの分散共分散行列と、観測モデルにおいて物理量の観測値に加えられるノイズの分散共分散行列とを動的に更新することで、分散共分散行列の初期値に対する依存性を除き、安定的に路面のプロファイルを推定することができる。
【0012】
上記態様において、シミュレーションモデルは、車両のハーフカーモデルであり、
第1条件の下で推定された路面のプロファイルは、ハーフカーモデルのフロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数に基づいて推定された路面のプロファイルであり、第2条件の下で推定された路面のプロファイルは、ハーフカーモデルのリアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数に基づいて推定された路面のプロファイルであり、評価関数は、フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出される第1関数と、リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出される第2関数との差を含んでもよい。
【0013】
この態様によれば、フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数に基づいて推定される路面のプロファイルと、リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数に基づいて推定される路面のプロファイルとが一致すべきであるという要請から、シミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することができる。
【0014】
上記態様において、第1関数は、フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出された路面のプロファイルのパワースペクトル密度であり、第2関数は、リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出された路面のプロファイルのパワースペクトル密度であってもよい。
【0015】
この態様によれば、パワースペクトル密度を比較することで、フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出された路面のプロファイルと、リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出された路面のプロファイルとがホイールベース長の分ずれて推定されることを補正せずとも、シミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することができる。
【0016】
上記態様において、決定部は、複数のパラメータの候補値を用いて算出されたパワースペクトル密度の対数を従属変数とし、周波数の対数を独立変数とする回帰分析を行い、回帰分析の決定係数と閾値の比較に基づいて、候補値の採否を決定してもよい。
【0017】
この態様によれば、複数のパラメータの候補値を用いて算出される評価関数の絶対値が小さいが、真値からずれている場合を除外して、より正確に複数のパラメータを決定することができる。
【0018】
上記態様において、第1関数は、所定の時刻におけるフロントタイヤの垂直方向の変位を表す変数の値であり、第2関数は、フロントタイヤからリアタイヤまでの距離を所定の時刻における車両の速度で除算した値を所定の時刻に加えた時刻におけるリアタイヤの垂直方向の変位を表す変数の値であってもよい。
【0019】
この態様によれば、フロントタイヤの垂直方向の変位を表す変数と、リアタイヤの垂直方向の変位を表す変数とが、ホイールベース長の分ずれて推定されることを補正して、シミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することができる。
【0020】
上記態様において、第1条件の下で推定された路面のプロファイルは、車両が第1速度で所定の道を走行した場合に推定部により推定された路面のプロファイルであり、第2条件の下で推定された路面のプロファイルは、車両が第1速度と異なる第2速度で所定の道を走行した場合に推定部により推定された路面のプロファイルであってもよい。
【0021】
この態様によれば、第1速度で所定の道を走行した場合に推定される路面のプロファイルと、第2速度で所定の道を走行した場合に推定される路面のプロファイルとが一致すべきであるという要請から、シミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することができる。
【0022】
上記態様において、評価関数は、第1条件の下で推定された路面のプロファイルの国際ラフネス指数と、第2条件の下で推定された路面のプロファイルの国際ラフネス指数との差を評価するものであってもよい。
【0023】
この態様によれば、第1条件と第2条件の下で推定された路面のプロファイルに基づき国際ラフネス指数を算出し、両条件下で推定された国際ラフネス指数の差が小さくなるようにシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することで、路面プロファイルの推定とあわせてシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することができる。
【0024】
上記態様において、決定部は、遺伝的アルゴリズムを用いて複数のパラメータを決定してもよい。
【0025】
この態様によれば、複数のパラメータの数が増加して全探索が困難な場合であっても、適切なパラメータを効率良く決定することができる。
【0026】
上記態様において、シミュレーションモデルは、状態変数の線形変換とガウシアンノイズによって状態変数の時間発展を表すモデルであり、観測モデルは、状態変数の線形変換とガウシアンノイズによって、物理量の観測値を算出するモデルであり、更新部は、状態変数の2乗誤差を最小化するように状態変数を更新してもよい。
【0027】
この態様によれば、線形変換とガウシアンノイズを含むシミュレーションモデルによって状態変数の時間発展を表し、線形変換とガウシアンノイズを含む観測モデルによって観測を表すことで、比較的負荷の軽い演算によって路面プロファイルを推定することができる。
【0028】
本発明の他の態様に係る路面プロファイル推定システムは、路面を走行する車両と、車両の運動を表す物理量を測定する測定部と、車両が走行する路面のプロファイルを推定する路面プロファイル推定装置と、を備え、路面プロファイル推定装置は、複数のパラメータを含むシミュレーションモデルに基づいて、車両が走行する路面の凹凸を表す変数及び物理量を表す変数を含む状態変数の時間発展を予測する予測部と、観測モデルに基づいて、予測部により予測された状態変数から、物理量の観測値を算出する算出部と、測定部により測定された物理量と、算出部により算出された物理量とのデータ同化によって、状態変数を更新する更新部と、状態変数に含まれる路面の凹凸を表す変数に基づいて、第1条件及び第2条件の下でそれぞれ路面のプロファイルを推定する推定部と、第1条件の下で推定された路面のプロファイルの特性を表す第1特性値と、第2条件の下で推定された路面のプロファイルの特性を表す第2特性値との差が小さくなるように、複数のパラメータを決定する決定部と、を備える。
【0029】
この態様によれば、路面のプロファイルを第1条件と第2条件の下で推定し、両条件下で推定された路面のプロファイルの差が小さくなるようにシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することで、路面プロファイルの推定とあわせてシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することができる。
【0030】
本発明の他の態様に係る路面プロファイル推定装置方法は、路面を走行する車両の運動を表す物理量を取得することと、複数のパラメータを含むシミュレーションモデルに基づいて、車両が走行する路面の凹凸を表す変数及び物理量を表す変数を含む状態変数の時間発展を予測することと、観測モデルに基づいて、予測された状態変数から、物理量の観測値を算出することと、取得された物理量と、算出された物理量とのデータ同化によって、状態変数を更新することと、状態変数に含まれる路面の凹凸を表す変数に基づいて、第1条件及び第2条件の下でそれぞれ路面のプロファイルを推定することと、第1条件の下で推定された路面のプロファイルの特性を表す第1特性値と、第2条件の下で推定された路面のプロファイルの特性を表す第2特性値との差が小さくなるように、複数のパラメータを決定することと、を含む。
【0031】
この態様によれば、路面のプロファイルを第1条件と第2条件の下で推定し、両条件下で推定された路面のプロファイルの差が小さくなるようにシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することで、路面プロファイルの推定とあわせてシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することができる。
【0032】
本発明の他の態様に係る路面プロファイル推定装置プログラムは、路面プロファイル推定装置に備えられた演算部を、路面を走行する車両の運動を表す物理量を取得する取得部、複数のパラメータを含むシミュレーションモデルに基づいて、車両が走行する路面の凹凸を表す変数及び物理量を表す変数を含む状態変数の時間発展を予測する予測部、観測モデルに基づいて、予測部により予測された状態変数から、物理量の観測値を算出する算出部、取得部により取得された物理量と、算出部により算出された物理量とのデータ同化によって、状態変数を更新する更新部、状態変数に含まれる路面の凹凸を表す変数に基づいて、第1条件及び第2条件の下でそれぞれ路面のプロファイルを推定する推定部、及び第1条件の下で推定された路面のプロファイルの特性を表す第1特性値と、第2条件の下で推定された路面のプロファイルの特性を表す第2特性値との差が小さくなるように、複数のパラメータを決定する決定部、として機能させる。
【0033】
この態様によれば、路面のプロファイルを第1条件と第2条件の下で推定し、両条件下で推定された路面のプロファイルの差が小さくなるようにシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することで、路面プロファイルの推定とあわせてシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、路面プロファイルの推定とあわせてシミュレーションモデルに含まれる複数のパラメータを決定する路面プロファイル推定装置、路面プロファイル推定システム、路面プロファイル推定方法及び路面プロファイル推定プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る路面プロファイル推定システムのネットワーク構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置の機能ブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置の物理的構成を示す図である。
【
図4】第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置により用いられるシミュレーションモデルの概念図である。
【
図5】第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置により実行されるパラメータ決定処理のフローチャートである。
【
図6】第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置により実行される路面プロファイル推定処理のフローチャートである。
【
図7】第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置により決定されたパラメータを示す図である。
【
図8】第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置により推定された路面のプロファイルのパワースペクトル密度を示す図である。
【
図9】第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置によりフロントタイヤについて推定された路面のプロファイル及びリアタイヤについて推定された路面のプロファイルを示す図である。
【
図10】第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置によりフロントタイヤについて推定された路面のプロファイルのパワースペクトル密度及びリアタイヤについて推定された路面のプロファイルのパワースペクトル密度を示す図である。
【
図11】第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置により推定した路面のIRIと距離の関係を示す図である。
【
図12】第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置により路面のIRIを推定するために用いられた車両の速度と距離の関係を示す図である。
【
図13】本発明の第2実施形態に係る路面プロファイル推定装置により実行されるパラメータ決定処理のフローチャートである。
【
図14】本発明の第3実施形態に係る路面プロファイル推定装置により実行されるパラメータ決定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0037】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る路面プロファイル推定システム1のネットワーク構成を示す図である。路面プロファイル推定システム1は、車両30と、車両30が接地する路面に対して垂直方向の加速度を測定する加速度計21と、車両30のピッチ軸に関する角速度を測定する角速度計22と、車両30が走行する路面のプロファイルを推定する路面プロファイル推定装置10と、を含む。本実施形態に係る路面プロファイル推定システム1において、加速度計21及び角速度計22は、スマートフォン20に内蔵されたものである。スマートフォン20は、車両30のダッシュボードやトランクルーム等、任意の場所に設置されてよい。もっとも、加速度計21及び角速度計22は、独立して車両30に設置されるものであってもよい。加速度計21は、車両30が接地する路面に対して垂直方向の加速度を測定するが、必ずしも垂直方向の加速度のみを測定するものでなくてもよく、路面に対して水平方向の加速度をも測定するものであってよい。加速度計21は、車両30の加速度の複数の成分のうち、少なくとも路面に対して垂直方向の成分を測定するものであればよい。角速度計22は、車両30のピッチ軸に関する角速度を測定するが、必ずしもピッチ軸に関する角速度のみを測定するものでなくてもよく、車両30のロール軸に関する角速度やヨー軸に関する角速度をも測定するものであってよい。角速度計22は、車両30の複数の軸に関する角速度のうち、少なくともピッチ軸に関する角速度を測定するものであればよい。加速度計21及び角速度計22は、車両30の運動を表す物理量を測定する測定部の一例である。
【0038】
路面プロファイル推定装置10は、加速度計21及び角速度計22によって測定した加速度及び角速度等に基づいて、車両30が走行する路面のプロファイルを推定する。ここで、加速度計21及び角速度計22によって測定した加速度及び角速度は、路面を走行する車両30の運動を表す物理量の一例である。本実施形態に係る路面プロファイル推定システム1において、路面プロファイル推定装置10は、通信ネットワークNを介してスマートフォン20と接続される。ここで、通信ネットワークNは、有線又は無線の通信網であってよい。なお、路面プロファイル推定装置10は、必ずしもスマートフォン20と独立した装置でなくてもよく、スマートフォン20と一体となって構成されるものであってもよい。その場合、スマートフォン20にインストールされた路面推定プログラムが実行されることで、スマートフォン20が路面プロファイル推定装置10として機能してよい。
【0039】
車両30は、路面上を4輪のタイヤで走行する自動車であってよい。もっとも、車両30は、3輪や2輪のものであってもよいし、5輪以上のものであってもよい。車両30としては任意の大きさの自動車を用いてよく、本明細書では、軽車両(Light)、中型車両(Medium)及び大型車両(Heavy)を車両30として用いた場合について説明する。
【0040】
図2は、本発明の第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10の機能ブロック図である。路面プロファイル推定装置10は、取得部11、予測部12、算出部13、更新部14、推定部15、決定部16及び記憶部17を備える。
【0041】
取得部11は、路面を走行する車両30の運動を表す物理量を取得する。本実施形態では、取得部11は、車両30が接地する路面に対して垂直方向の加速度及びピッチ軸に関する角速度を取得する。取得部11は、スマートフォン20と通信して、スマートフォン20に内蔵された加速度計21から加速度を取得し、角速度計22から角速度を取得してよい。
【0042】
予測部12は、複数のパラメータPを含むシミュレーションモデルM1に基づいて、車両30が走行する路面の凹凸を表す変数及び物理量を表す変数を含む状態変数の時間発展を予測する。ここで、複数のパラメータPを含むシミュレーションモデルM1は、記憶部17に記憶されている。本実施形態では、シミュレーションモデルM1は、車両30のハーフカーモデルであり、状態変数は、ハーフカーモデルの状態を表す変数である。より具体的には、路面の凹凸を表す変数は、ハーフカーモデルのフロントタイヤの垂直方向の変位及び速度と、ハーフカーモデルのリアタイヤの垂直方向の変位及び速度とを含む。また、車両30の上下運動を表す変数は、ハーフカーモデルの重心の垂直方向の変位及び速度と、ハーフカーモデルのフロントサスペンションの垂直方向の変位及び速度と、ハーフカーモデルのリアサスペンションの垂直方向の変位及び速度とを含む。また、車両30のピッチ軸に関する回転運動を表す変数は、ハーフカーモデルの重心を通るピッチ軸に関する回転角及び角速度を含む。予測部12は、取得部11により取得された加速度を、時間に関して2階積分することで垂直方向の変位を算出し、取得部11により取得された角速度を、時間に関して1階積分することでピッチ軸に関する角度変位を算出してよい。
【0043】
算出部13は、観測モデルM2に基づいて、予測部12により予測された状態変数から、物理量の観測値を算出する。具体的には、算出部13は、観測モデルM2に基づいて、予測部12により予測された状態変数から、車両30の接地する路面に対して垂直方向の加速度、ピッチ軸に関する角速度、垂直方向の変位及びピッチ軸に関する角度変位を算出する。観測モデルM2は記憶部17に記憶されている。
【0044】
更新部14は、取得部11により取得された物理量と、算出部13により算出された物理量とのデータ同化によって、状態変数を更新する。ここで、データ同化とは、シミュレーションモデルM1によって予測された状態変数を、実際の測定値に基づいて更新して、予測精度を高める処理をいう。本実施形態では、カルマンフィルタによってデータ同化を行う。データ同化の具体的な例については、後に詳細に説明する。
【0045】
推定部15は、状態変数に含まれる路面の凹凸を表す変数に基づいて、第1条件及び第2条件の下でそれぞれ路面のプロファイルを推定する。ここで、路面のプロファイルとは、路面の縦断形状をいう。
【0046】
推定部15により第1条件の下で推定された路面のプロファイルは、ハーフカーモデルのフロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数に基づいて推定された路面のプロファイルであってよい。また、推定部15により第2条件の下で推定された路面のプロファイルは、ハーフカーモデルのリアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数に基づいて推定された路面のプロファイルであってよい。
【0047】
決定部16は、第1条件の下で推定された路面のプロファイルと、第2条件の下で推定された路面のプロファイルとの差を評価する評価関数の絶対値が小さくなるように、複数のパラメータPを決定する。第1条件の下で推定された路面のプロファイルと第2条件の下で推定された路面のプロファイルとは、本来一致すべきものである。そのため、路面のプロファイルを第1条件と第2条件の下で推定し、両条件下で推定された路面のプロファイルの差が小さくなるようにシミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPを決定することで、路面プロファイルの推定とあわせてシミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPを決定することができる。
【0048】
評価関数は、フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出される第1関数と、リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出される第2関数との差を含んでよい。これにより、フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数に基づいて推定される路面のプロファイルと、リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数に基づいて推定される路面のプロファイルとが一致すべきであるという要請から、シミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPを決定することができる。
【0049】
記憶部17は、シミュレーションモデルM1及び観測モデルM2を記憶する。本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10において、シミュレーションモデルM1は、状態変数の線形変換とガウシアンノイズによって状態変数の時間発展を表すモデルであり、観測モデルM2は、状態変数の線形変換とガウシアンノイズによって、車両30の接地する路面に対して垂直方向の加速度、車両30のピッチ軸に関する角速度、垂直方向の変位及びピッチ軸に関する角度変位を算出するモデルである。また、更新部14は、状態変数の2乗誤差を最小化するように、状態変数を更新する。後に詳細に説明するように、本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10の予測部12、算出部13及び更新部14は、カルマンフィルタとして機能する。
【0050】
図3は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10の物理的構成を示す図である。路面プロファイル推定装置10は、演算部に相当するCPU(Central Processing Unit)10aと、記憶部に相当するRAM(Random Access Memory)10bと、記憶部に相当するROM(Read only Memory)10cと、通信部10dと、入力部10eと、表示部10fと、を有する。これらの各構成は、バスを介して相互にデータ送受信可能に接続される。なお、本例では路面プロファイル推定装置10が一台のコンピュータで構成される場合について説明するが、路面プロファイル推定装置10は、複数のコンピュータが組み合わされて実現されてもよい。また、
図3で示す構成は一例であり、路面プロファイル推定装置10はこれら以外の構成を有してもよいし、これらの構成のうち一部を有さなくてもよい。
【0051】
CPU10aは、RAM10b又はROM10cに記憶されたプログラムの実行に関する制御やデータの演算、加工を行う制御部である。CPU10aは、路面を走行する車両の運動を表す物理量に基づいて路面のプロファイルを推定するプログラム(路面プロファイル推定プログラム)を実行する演算部である。CPU10aは、入力部10eや通信部10dから種々のデータを受け取り、データの演算結果を表示部10fに表示したり、RAM10bやROM10cに格納したりする。
【0052】
RAM10bは、記憶部のうちデータの書き換えが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。RAM10bは、CPU10aが実行する路面プロファイル推定プログラム、シミュレーションモデルM1及び観測モデルM2といったデータを記憶してよい。なお、これらは例示であって、RAM10bには、これら以外のデータが記憶されていてもよいし、これらの一部が記憶されていなくてもよい。
【0053】
ROM10cは、記憶部のうちデータの読み出しが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。ROM10cは、例えば画像編集プログラムや、書き換えが行われないデータを記憶してよい。
【0054】
通信部10dは、路面プロファイル推定装置10を他の機器に接続するインターフェースである。通信部10dは、インターネット等の通信ネットワークNに接続されてよい。
【0055】
入力部10eは、ユーザからデータの入力を受け付けるものであり、例えば、キーボード及びタッチパネルを含んでよい。
【0056】
表示部10fは、CPU10aによる演算結果を視覚的に表示するものであり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)により構成されてよい。表示部10fは、推定された路面プロファイルを示すグラフや、決定された複数のパラメータPを表示してよい。
【0057】
路面プロファイル推定プログラムは、RAM10bやROM10c等のコンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供されてもよいし、通信部10dにより接続される通信ネットワークを介して提供されてもよい。路面プロファイル推定装置10では、CPU10aが路面プロファイル推定プログラムを実行することにより、
図2を用いて説明した取得部11、予測部12、算出部13、更新部14、推定部15及び決定部16の動作が実現される。なお、これらの物理的な構成は例示であって、必ずしも独立した構成でなくてもよい。例えば、路面プロファイル推定装置10は、CPU10aとRAM10bやROM10cが一体化したLSI(Large-Scale Integration)を備えていてもよい。
【0058】
図4は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10により用いられるシミュレーションモデルM1の概念図である。シミュレーションモデルM1は、ハーフカーモデルであり、12の状態変数と13のパラメータを含む。シミュレーションモデルM1は、速度V(t)及び加速度a(t)で路面を走行する車両30のハーフカーモデルである。
【0059】
状態変数は、ハーフカーモデルのフロントタイヤの垂直方向の変位yf及び速度dyf/dtと、ハーフカーモデルのリアタイヤの垂直方向の変位yr及び速度とdyr/dtと、ハーフカーモデルの重心の垂直方向の変位x及び速度dx/dtと、ハーフカーモデルのフロントサスペンションの垂直方向の変位xf及び速度dxf/dtと、ハーフカーモデルのリアサスペンションの垂直方向の変位xr及び速度dxr/dtと、ハーフカーモデルの重心を通るピッチ軸に関する回転角θ及び角速度dθ/dtと、を含む。
【0060】
パラメータは、ハーフカーモデルのフロントタイヤのばね係数ktfと、フロントタイヤの質量mfと、フロントサスペンションのばね係数kf及び減衰係数cfと、ハーフカーモデルのリアタイヤのばね係数ktrと、リアタイヤの質量mrと、リアサスペンションのばね係数kr及び減衰係数crと、ハーフカーモデルの車体の質量mH及びピッチ軸まわりの慣性モーメントIzと、ハーフカーモデルの重心からフロントタイヤの接地点までの水平距離Lfと、ハーフカーモデルの重心からリアタイヤの接地点までの水平距離Lrと、フロントタイヤの接地点から加速度計21及び角速度計22の設置点までの水平距離dと、を含む。
【0061】
シミュレーションモデルM1としてハーフカーモデルを用いることで、クォーターカーモデルを用いる場合に比べて、車両30の運動状態をより正確に表すことができ、状態変数の時間発展をより精度良く予測することができる。
【0062】
図5は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10により実行されるパラメータ決定処理のフローチャートである。はじめに、路面プロファイル推定装置10は、シミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPの候補値を設定する(S10)。
【0063】
路面プロファイル推定装置10は、設定したパラメータPの候補値を用いて、フロントタイヤ及びリアタイヤについて、路面のプロファイルを推定する(S11)。路面のプロファイルを推定する処理の詳細については、次図を用いて説明する。
【0064】
その後、路面プロファイル推定装置10は、フロントタイヤに関する路面プロファイルのパワースペクトル密度Pyf(ω)と、リアタイヤに関する路面プロファイルのパワースペクトル密度Pyr(ω)と、を算出する(S12)。そして、路面プロファイル推定装置10は、フロントタイヤ及びリアタイヤに関するパワースペクトル密度の積分値の差が閾値以下であるか判定する(S13)。すなわち、路面プロファイル推定装置10は、以下の数式(1)で表される評価関数Fの値が閾値以下であるか判定する。
【0065】
【0066】
ここで、ωは空間周波数を表し、ωa及びωbは、積分の下限と上限の空間周波数を表す。閾値は任意に設定することができるが、例えば、10-4程度であってよい。
【0067】
このように、評価関数Fは、フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出される第1関数と、リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出される第2関数との差を含んでよい。本例の場合、第1関数は、フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出された路面のプロファイルのパワースペクトル密度Pyf(ω)であり、第2関数は、リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出された路面のプロファイルのパワースペクトル密度Pyr(ω)である。パワースペクトル密度を比較することで、フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出された路面のプロファイルと、リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出された路面のプロファイルとがホイールベース長(Lf+Lr)の分ずれて推定されることを補正せずとも、シミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPを決定することができる。
【0068】
評価関数Fの値が閾値以下でない場合(S13:NO)、路面プロファイル推定装置10は、複数のパラメータPについて選択、交叉及び突然変異の処理を実行し、新たな候補値を設定する(S14)。そして、パラメータの新たな候補値を用いて、路面プロファイルの推定(S11)、パワースペクトル密度の算出(S12)及び評価関数Fの値と閾値の比較(S13)を繰り返す。ここで、選択、交叉及び突然変異の処理は、既存の遺伝的アルゴリズムで用いられる処理であってよい。遺伝的アルゴリズムを用いて複数のパラメータPを決定することで、複数のパラメータPの数が増加して全探索が困難な場合であっても、適切なパラメータPを効率良く決定することができる。
【0069】
一方、評価関数Fの値が閾値以下の場合(S13:YES)、路面プロファイル推定装置10は、パワースペクトル密度に関する回帰分析の決定係数が閾値以下であるか判定する(S15)。路面プロファイル推定装置10の決定部16は、複数のパラメータの候補値を用いて算出されたパワースペクトル密度の対数を従属変数とし、周波数の対数を独立変数とする回帰分析を行い、回帰分析の決定係数と閾値の比較に基づいて、候補値の採否を決定してよい。これにより、複数のパラメータの候補値を用いて算出される評価関数の絶対値が小さいが、真値からずれている場合を除外して、より正確に複数のパラメータを決定することができる。
【0070】
パワースペクトル密度に関する回帰分析の決定係数が閾値以下である場合(S15:YES)、すなわちパワースペクトル密度が回帰直線から比較的大きく乖離している場合、路面プロファイル推定装置10は、パラメータの新たな候補値を設定して(S10)、路面プロファイルの推定(S11)、パワースペクトル密度の算出(S12)及び評価関数Fの値と閾値の比較(S13)を繰り返す。
【0071】
一方、パワースペクトル密度に関する回帰分析の決定係数が閾値以下でない場合(S15:NO)、すなわちパワースペクトル密度が回帰直線によって比較的良く近似されている場合、路面プロファイル推定装置10は、算出されたパラメータを、シミュレーションモデルM1の複数のパラメータPとして決定する(S16)。以上により、パラメータ決定処理が終了する。
【0072】
図6は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10により実行される路面プロファイル推定処理のフローチャートである。同図では、
図5に示す路面プロファイルの推定処理(S11)の詳細を示している。
【0073】
はじめに、路面プロファイル推定装置10は、車両30の接地する路面に対して垂直方向の加速度及びピッチ軸に関する角速度を取得する(S110)。加速度計21による加速度の測定と、角速度計22による角速度の測定は、所定の時間間隔毎に行われてよい。路面プロファイル推定装置10は、加速度計21及び角速度計22によって測定が行われる度に加速度及び角速度を取得してもよいし、測定終了後に加速度及び角速度をまとめて取得してもよい。
【0074】
路面プロファイル推定装置10は、取得部11により取得した加速度を積分して垂直方向の変位を算出し、角速度を積分してピッチ軸に関する角度変位を算出する(S111)。取得部11により取得した加速度及び角速度並びに算出した変位及び角度変位をまとめて、ベクトルxで表すこととする。
【0075】
路面プロファイル推定装置10は、ハーフカーモデルに基づいて、状態変数の時間発展を予測する(S12)。状態変数の時間発展は、以下の数式(2)で表される運動方程式に基づいて求められる。
【0076】
【0077】
ここで、ベクトルxは、以下の数式(3)で表される。ベクトルxは、ハーフカーモデルの重心の垂直方向の変位x、重心を通るピッチ軸に関する角度変位θ、ハーフカーモデルのフロントサスペンションの垂直方向の変位xf及びハーフカーモデルのリアサスペンションの垂直方向の変位xrを、ベクトルの成分として含む。
【0078】
【0079】
また、行列M、C及びKは、それぞれ以下の数式(4)~(6)で与えられ、パラメータに依存する量である。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
また、数式(2)の右辺は、路面の凹凸を表すベクトルyと、パラメータに依存する行列Pで与えられる。行列Pは、以下の数式(7)で与えられ、ベクトルyは、以下の数式(8)で与えられる。
【0084】
【0085】
【0086】
以下の説明では、数式(9)に示すように、12の状態変数をベクトルXaによって表す。
【0087】
【0088】
路面プロファイル推定装置10は、車両30の挙動をハーフカーモデルによってモデル化したことで生じ得る誤差を、ノイズ項によって表す。路面プロファイル推定装置10は、状態変数Xaの時間発展を、以下の数式(10)によって求める。
【0089】
【0090】
ここで、状態変数Xaの下付き添え字「k」や「k+1」は、時間ステップを表す。右辺の行列Aaは、数式(2)で表される状態変数の時間発展を、単位時間ステップにおける線形変換として表したものである。Aa=exp(AcaΔt)と表すとき、Acaは以下の数式(11)で表される。ただし、Δtは、単位時間ステップを表す。
【0091】
【0092】
ここで、Acは以下の数式(12)で表され、Bcは以下の数式(13)で表される。また、0m×nは、要素が全て0のm×n行列である。
【0093】
【0094】
【0095】
ここで、行列M、C、K及びPは、数式(4)~(7)に示したものである。I4×4は、4×4の単位行列であり、行列O4×4、O4×2、O2×2は、それぞれ4×4、4×2、2×2の零行列である。
【0096】
また、数式(10)の右辺のζkは、時間ステップkにおけるノイズ項である。ノイズ項ζkは、以下の数式(14)で表されるように、8次元ベクトルwkと4次元ベクトルηkを含む。
【0097】
【0098】
ノイズ項ζkのうち、ハーフカーモデルの重心の垂直方向の変位x及び速度dx/dtと、ハーフカーモデルのフロントサスペンションの垂直方向の変位xf及び速度dxf/dtと、ハーフカーモデルのリアサスペンションの垂直方向の変位xr及び速度dxr/dtと、ハーフカーモデルの重心を通るピッチ軸に関する回転角θ及び角速度dθ/dtと、に対するノイズ項wkは、平均が0、分散共分散行列がQのガウシアンノイズである。ノイズ項wkの分散共分散行列は、以下の数式(15)で表される。なお、δk,lは、クロネッカーのデルタである。
【0099】
【0100】
また、ノイズ項ζkのうち、ハーフカーモデルのフロントタイヤの垂直方向の変位yf及び速度dyf/dtと、ハーフカーモデルのリアタイヤの垂直方向の変位yr及び速度とdyr/dtと、に対するノイズ項ηkは、平均が0、分散共分散行列がSのガウシアンノイズである。ノイズ項ηkの分散共分散行列は、以下の数式(16)で表される。
【0101】
【0102】
路面プロファイル推定装置10は、観測モデルM2に基づいて、予測部12により予測された状態変数から、加速度、角速度、変位及び角度変位を算出する(S113)。路面プロファイル推定装置10は、以下の数式(17)で表される観測モデルM2に基づいて、予測部12により予測された状態変数Xaから、加速度、角速度、変位及び角度変位をまとめたベクトルuを算出する。路面プロファイル推定装置10は、状態変数の線形変換Caによって観測をモデル化し、観測誤差をノイズ項vkによってモデル化する。
【0103】
【0104】
ここで、線形変換Caは、以下の数式(18)で与えられる。
【0105】
【0106】
行列C1は、以下の数式(19)で与えられる。
【0107】
【0108】
また、数式(17)の右辺のノイズ項vkは、平均が0、分散共分散行列がRのガウシアンノイズである。ノイズ項vkの分散共分散行列は、以下の数式(20)で表される。
【0109】
【0110】
路面プロファイル推定装置10は、最適カルマンゲインにより、状態変数を更新する(S114)。ここで、最適カルマンゲインとは、状態変数の2乗誤差を最小化するように定められる更新の係数であり、以下の数式(21)で与えられる。
【0111】
【0112】
数式(21)の右辺のPk+1
-は、時間ステップk+1における更新前の状態変数の分散である。状態変数は、期待値の初期値が以下の数式(22)によって与えられ、分散の初期値が以下の数式(23)によって与えられる。なお、ハット記号付きの状態変数Xaは、推定値であることを表している。
【0113】
【0114】
【0115】
前述のように、状態変数Xaの期待値の時間発展は、以下の数式(24)によって与えられる。
【0116】
【0117】
ここで、上付き添え字「-」は、更新前の量であることを表している。また、状態変数Xaの分散の時間発展は、以下の数式(25)によって与えられる。
【0118】
【0119】
更新部14は、更新後の状態変数Xaの期待値を以下の数式(26)によって求める。
【0120】
【0121】
ここで、右辺のuk+1は、時間ステップk+1において観測された値である。右辺の第2項は、観測残差に対して最適カルマンゲインGk+1を乗じた値によって状態変数を修正する項である。
【0122】
路面プロファイル推定装置10は、更新後の状態変数Xaの分散を以下の数式(27)によって求める。
【0123】
【0124】
以上のように、時間ステップ毎に、状態変数を予測して、測定残差に応じて更新することで、精度良く状態変数を推定することができる。本実施形態において、シミュレーションモデルM1は、状態変数の線形変換とガウシアンノイズによって状態変数の時間発展を表すモデルであり、観測モデルM2は、状態変数の線形変換とガウシアンノイズによって、物理量の観測値を算出するモデルである。本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10の更新部14は、状態変数の2乗誤差を最小化するように状態変数を更新してよい。すなわち、路面プロファイル推定装置10は、最適カルマンゲインを用いて状態変数を更新してよい。このように、線形変換とガウシアンノイズを含むシミュレーションモデルM1によって状態変数の時間発展を表し、線形変換とガウシアンノイズを含む観測モデルM2によって観測を表すことで、比較的負荷の軽い演算によって路面プロファイルを推定することができる。
【0125】
路面プロファイル推定装置10は、逆伝播のゲインに基づき、状態変数を平滑化する(S115)。本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10では、RTS平滑化の手法を用いて、状態変数を平滑化する。具体的には、路面プロファイル推定装置10は、時間ステップがk=0からk=Tまで存在する場合に、時間ステップkの状態変数xkの平滑化のために、その後の全ての状態変数xk+1,xk+2,…xTを用いてよい。もっとも、区間L(Lは任意の自然数)を指定し、xk+1,xk+2,…xk+Lを用いて状態変数の平滑化を行うこととしてもよい。
【0126】
路面プロファイル推定装置10は、以下の数式(28)によって平滑化後の状態変数の期待値の初期化を行い、以下の数式(29)によって平滑化後の状態変数の分散の初期化を行う。ここで、状態変数Xaの上付き添え字「RTS」は、RTS平滑化が行われた値であることを示している。
【0127】
【0128】
【0129】
次に、路面プロファイル推定装置10は、以下の数式(30)によって、平滑化処理における逆伝播のゲインΦを算出する。
【0130】
【0131】
路面プロファイル推定装置10は、ゲインΦに基づいて、以下の数式(31)によって、状態変数の期待値を時間ステップk=Tから過去に向かって平滑化する。また、路面プロファイル推定装置10は、以下の数式(32)によって、状態変数の分散を平滑化する。
【0132】
【0133】
【0134】
以上により、状態変数の平滑化が行われる。このように、垂直方向の加速度及びピッチ軸に関する角速度のみならず、垂直方向の変位及びピッチ軸に関する角度変位をデータの平滑化に用いることで、さらに精度良く路面のプロファイルを推定することができる。
【0135】
その後、路面プロファイル推定装置10の更新部14は、取得部11により取得された物理量と、算出部13により算出された物理量との差に基づいて、シミュレーションモデルM1において状態変数に加えられるノイズの分散共分散行列Qと、観測モデルM2において物理量の観測値に加えられるノイズの分散共分散行列Rとを更新する(S116)。本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10では、Robbins-Monroアルゴリズムを用いて、ノイズの分散共分散行列を更新する。
【0136】
具体的には、路面プロファイル推定装置10は、以下の数式(33)によってシミュレーションモデルM1において状態変数に加えられるノイズの分散共分散行列Qの更新を行う。また、路面プロファイル推定装置10は、以下の数式(34)によって観測モデルM2において物理量の観測値に加えられるノイズの分散共分散行列Rを更新する。なお、本実施形態では、Q及びRの非対角項は0であると仮定して、Q及びRの対角項について数式(34)及び(35)の更新を適用している。
【0137】
【0138】
【0139】
ここで、uk
-は、以下の数式(35)で表される量である。また、αQ,k及びαR,kは1より小さい正の実数で表されるハイパーパラメータであり、例えば1/7程度であってよい。
【0140】
【0141】
このように、シミュレーションモデルM1において状態変数に加えられるノイズの分散共分散行列Qと、観測モデルM2において物理量の観測値に加えられるノイズの分散共分散行列Rとを動的に更新することで、分散共分散行列の初期値に対する依存性を除き、安定的に路面のプロファイルを推定することができる。
【0142】
最後に、路面プロファイル推定装置10は、推定部15によって、状態変数に含まれる路面の凹凸を表す変数に基づいて、路面のプロファイルを推定する(S117)。具体的には、路面プロファイル推定装置10は、ハーフカーモデルのフロントタイヤの垂直方向の変位yfと、ハーフカーモデルのリアタイヤの垂直方向の変位yrとに基づいて、路面のプロファイルを推定する。以上により、路面プロファイルの推定処理が終了する。
【0143】
図7は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10により決定されたパラメータを示す図である。本実施形態では、フロントタイヤの質量m
fと、リアタイヤの質量m
rと、フロントサスペンションの減衰係数c
fと、リアサスペンションの減衰係数c
rと、フロントサスペンションのばね係数k
fと、リアサスペンションのばね係数k
rと、フロントタイヤのばね係数k
tfと、ハーフカーモデルのリアタイヤのばね係数k
trと、車体のピッチ軸まわりの慣性モーメントI
zと、ハーフカーモデルの重心からフロントタイヤの接地点までの水平距離L
fと、を決定している。これらのパラメータのうち重心からフロントタイヤの接地点までの水平距離L
f以外のパラメータは、車両の総質量m
tot=m
H+m
f+m
rに対する比で表している。
【0144】
同図に示す表では、複数のパラメータを決定する遺伝的アルゴリズムを複数回実行した場合における、決定された複数のパラメータと真値との誤差を示している。例えばフロントタイヤの質量mfに着目すると、試行回数が1回目の場合、誤差は-18.4%であり、試行回数が2回目の誤差は5.1%であり、試行回数が3回目の誤差は26.4%であり、試行回数が4回目の誤差は-40.0%であり、試行回数が5回目の誤差は-39.3%である。このように、決定されるパラメータの値が試行回数毎に異なるのは、遺伝的アルゴリズムの特徴である。なお、いずれの試行回数の場合も、評価関数Fの値は閾値以下となっている。
【0145】
図8は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10により推定された路面のプロファイルのパワースペクトル密度を示す図である。同図では、縦軸に推定された路面のプロファイルのパワースペクトル密度(PSD)をm
2/(cycle/m)の単位で示し、横軸に周波数(Frequency)をcycle/mの単位で示している。なお、縦軸及び横軸を対数軸としている。
【0146】
同図では、真の路面のプロファイルから算出したスペクトル密度を実線で示し、
図7に示す試行回数が1回目の場合のパラメータを用いて算出されたスペクトル密度を破線で示し、
図7に示す試行回数が4回目の場合のパラメータを用いて算出されたスペクトル密度を一点鎖線で示し、
図7に示す試行回数が5回目の場合のパラメータを用いて算出されたスペクトル密度を二点鎖線で示している。
【0147】
図8によれば、試行回数が1回目及び4回目の場合のパラメータを用いて算出されたスペクトル密度は、全ての周波数領域で真の路面のプロファイルから算出したスペクトル密度とほとんど一致している。一方、試行回数が5回目のパラメータを用いて算出されたスペクトル密度は、特に高周波数領域で真の路面のプロファイルから算出したスペクトル密度と乖離している。
【0148】
本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10の決定部16は、複数のパラメータの候補値を用いて算出されたパワースペクトル密度の対数を従属変数とし、周波数の対数を独立変数とする回帰分析を行い、回帰分析の決定係数と閾値の比較に基づいて、候補値の採否を決定してよい。例えば、試行回数が5回目のパラメータを用いて算出されたスペクトル密度は、両対数グラフ上で直線から乖離しており、回帰分析の決定係数が閾値以下となる。そのため、決定部16は、試行回数が5回目のパラメータを採用しないこととしてよい。このように、より正確に複数のパラメータを決定することができる。
【0149】
図9は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10によりフロントタイヤについて推定された路面のプロファイル及びリアタイヤについて推定された路面のプロファイルを示す図である。同図では、縦軸に路面プロファイルをメートル(m)の単位で示し、横軸に走行距離(Distance)をメートル(m)の単位で示している。同図では、車両30として中型車両(Medium)を用いて、本実施形態に係る路面プロファイル推定システム1によってフロントタイヤについて推定された路面のプロファイルを実線で示し、リアタイヤについて推定された路面のプロファイルを一点鎖線で示している。
【0150】
本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10は、フロントタイヤに関する路面プロファイルのパワースペクトル密度の積分と、リアタイヤに関する路面プロファイルのパワースペクトル密度の積分とが一致するように、シミュレーションモデルM1の複数のパラメータPを決定している。
図9によれば、そのようにして決定されたパラメータPを用いて推定された路面のプロファイルは、フロントタイヤとリアタイヤでほとんど一致していることが確認できる。
【0151】
図10は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10によりフロントタイヤについて推定された路面のプロファイルのパワースペクトル密度及びリアタイヤについて推定された路面のプロファイルのパワースペクトル密度を示す図である。同図では、縦軸に推定された路面のプロファイルのパワースペクトル密度(PSD)をm
2/(cycle/m)の単位で示し、横軸に周波数(Frequency)をcycle/mの単位で示している。なお、縦軸及び横軸を対数軸としている。
【0152】
本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10は、フロントタイヤに関する路面プロファイルのパワースペクトル密度の積分と、リアタイヤに関する路面プロファイルのパワースペクトル密度の積分とが一致するように、シミュレーションモデルM1の複数のパラメータPを決定している。
図10によれば、そのようにして決定されたパラメータPを用いて算出された路面のプロファイルのパワースペクトル密度は、フロントタイヤとリアタイヤでほとんど一致していることが確認できる。
【0153】
図11は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10により推定した路面のIRIと距離の関係を示す図である。同図では、縦軸に路面プロファイルをメートル(m)の単位で示し、横軸に走行距離(Distance)をメートル(m)の単位で示している。同図では、中型車両(Medium)を用いて本実施形態に係る路面プロファイル推定システム1によって算出したIRIを実線で示し、軽車両(Light)を用いて本実施形態に係る路面プロファイル推定システム1によって算出したIRIを一点鎖線で示し、大型車両(Heavy)を用いて本実施形態に係る路面プロファイル推定システム1によって算出したIRIを破線で示し、専用車(Profiler)を用いて測定されたIRIを二点鎖線で示している。
【0154】
図11によれば、車両30として軽車両、中型車両及び大型車両のいずれを用いる場合であっても、本実施形態に係る路面プロファイル推定システム1によって、専用車を用いて測定されたIRIとほとんど同様の結果が得られることが確認できる。このように、路面プロファイル推定装置10は、車両30をモデル化する複数のパラメータが不明な場合であっても、推定される路面プロファイルのパワースペクトル密度がフロントタイヤとリアタイヤで整合するように要請することで複数のパラメータを適切に決定し、精度良く路面のプロファイルを推定することができる。
【0155】
図12は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10により路面のIRIを推定するために用いられた車両の速度と距離の関係を示す図である。同図では、縦軸に車両30の速度をキロメートル毎時(km/h)の単位で示し、横軸に走行距離(Distance)をキロメートル(km)の単位で示している。同図では、中型車両(Medium)の速度を実線で示し、軽車両(Light)の速度を一点鎖線で示し、大型車両(Heavy)の速度を破線で示している。同図より、中型車両、軽車両及び大型車両の速度がそれぞれ一定しておらず、速度の時間変化も異なっていることが読み取れる。このように、加速度及び角速度の計測に用いる車両30の速度が異なっていても、本実施形態に係る路面プロファイル推定システム1によれば、シミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPを適切に決定し、路面プロファイルを安定して推定することができる。本実施形態に係る路面プロファイル推定システム1によれば、加速度計21及び角速度計22が内蔵されたスマートフォン20が設置される車両30の大きさや走行速度に関わらず、精度良く路面プロファイルを推定することができる。
【0156】
[第2実施形態]
本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10と比較して、決定部16による処理が相違し、その他について同様の機能を有する。本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10の決定部16は、フロントタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出される第1関数と、リアタイヤの垂直方向の変位及び速度を表す変数から算出される第2関数との差を含む評価関数の絶対値が小さくなるように、複数のパラメータPを決定する。ここで、第1関数は、所定の時刻tにおけるフロントタイヤの垂直方向の変位を表す変数の値yf(y)であり、第2関数は、フロントタイヤからリアタイヤまでの距離L(=Lf+Lr)を所定の時刻tにおける車両30の速度v(t)で除算した値を所定の時刻に加えた時刻(t+L/v(t))におけるリアタイヤの垂直方向の変位を表す変数の値yr(t+L/v(t))である。ここで、車両30の速度v(t)は、車両30に備えられた速度計で測定された値であってもよいし、GPSの位置情報に基づいて測定された値であってもよい。評価関数Fは、例えば、以下の数式(36)で表されるものであってよい。
【0157】
【0158】
ここで、tは時間を表し、ta及びtbは、積分の下限と上限の時間を表す。路面プロファイル推定装置10は、評価関数Fの値が閾値以下であるか否かによって、複数のパラメータの候補値を採用するか否かを判定する。閾値は任意に設定することができるが、例えば、10-4程度であってよい。
【0159】
このように、フロントタイヤの垂直方向の変位を表す変数と、リアタイヤの垂直方向の変位を表す変数とが、ホイールベース長の分ずれて推定されることを補正して、シミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPを決定することができる。
【0160】
図13は、本発明の第2実施形態に係る路面プロファイル推定装置10により実行されるパラメータ決定処理のフローチャートである。はじめに、路面プロファイル推定装置10は、シミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPの候補値を設定する(S20)。
【0161】
路面プロファイル推定装置10は、設定したパラメータPの候補値を用いて、フロントタイヤ及びリアタイヤについて、路面のプロファイルを推定する(S21)。路面のプロファイルを推定する処理の詳細は、
図6と同様である。
【0162】
その後、路面プロファイル推定装置10は、フロントタイヤの垂直方向の変位を表す変数の値yf(y)と、ホイールベース長の遅れを補正したリアタイヤの垂直方向の変位を表す変数の値yr(t+L/v(t))を算出し、路面のプロファイルの差が閾値以下であるか判定する(S22)。すなわち、路面プロファイル推定装置10は、数式(36)で表される評価関数Fの値が閾値以下であるか判定する。
【0163】
評価関数Fの値が閾値以下でない場合(S22:NO)、路面プロファイル推定装置10は、複数のパラメータPについて選択、交叉及び突然変異の処理を実行し、新たな候補値を設定する(S23)。そして、パラメータの新たな候補値を用いて、路面プロファイルの推定(S21)及び評価関数Fの値と閾値の比較(S22)を繰り返す。ここで、選択、交叉及び突然変異の処理は、既存の遺伝的アルゴリズムで用いられる処理であってよい。遺伝的アルゴリズムを用いて複数のパラメータPを決定することで、複数のパラメータPの数が増加して全探索が困難な場合であっても、適切なパラメータPを効率良く決定することができる。
【0164】
一方、評価関数Fの値が閾値以下の場合(S22:YES)、路面プロファイル推定装置10は、算出されたパラメータを、シミュレーションモデルM1の複数のパラメータPとして決定する(S24)。以上により、パラメータ決定処理が終了する。
【0165】
[第3実施形態]
本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10は、第1実施形態に係る路面プロファイル推定装置10と比較して、決定部16による処理が相違し、その他について同様の機能を有する。本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10の決定部16は、第1条件の下で推定された路面のプロファイルと、第2条件の下で推定された路面のプロファイルとの差を評価する評価関数の絶対値が小さくなるように、複数のパラメータPを決定する。ここで、第1条件の下で推定された路面のプロファイルは、車両30が第1速度v1で所定の道を走行した場合に推定部15により推定された路面のプロファイルであり、第2条件の下で推定された路面のプロファイルは、車両30が第1速度v1と異なる第2速度v2で所定の道を走行した場合に推定部15により推定された路面のプロファイルである。。ここで、第1速度v1及び第2速度v2は、それぞれ時間に依存する値であってもよい。第1速度v1及び第2速度v2は、車両30に備えられた速度計で測定された値であってもよいし、GPSの位置情報に基づいて測定された値であってもよい。本実施形態に係る路面プロファイル推定装置10は、第1速度v1で所定の道を走行した場合に推定される路面のプロファイルと、第2速度v2で所定の道を走行した場合に推定される路面のプロファイルとが一致すべきであるという要請から、シミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPを決定することができる。
【0166】
評価関数Fは、第1条件の下で推定された路面のプロファイルの国際ラフネス指数IRIv1と、第2条件の下で推定された路面のプロファイルの国際ラフネス指数IRIv2との差を評価するものであってよい。評価関数Fは、例えば、以下の数式(37)で表されるものであってよい。
【0167】
【0168】
ここで、xは距離を表し、xa及びxbは、積分の下限と上限の時間を表す。路面プロファイル推定装置10は、評価関数Fの値が閾値以下であるか否かによって、複数のパラメータの候補値を採用するか否かを判定する。閾値は任意に設定することができるが、例えば、10-4程度であってよい。
【0169】
このように、第1条件と第2条件の下で推定された路面のプロファイルに基づき国際ラフネス指数を算出し、両条件下で推定された国際ラフネス指数の差が小さくなるようにシミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPを決定することで、路面プロファイルの推定とあわせてシミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPを決定することができる。
【0170】
図14は、本発明の第3実施形態に係る路面プロファイル推定装置10により実行されるパラメータ決定処理のフローチャートである。はじめに、路面プロファイル推定装置10は、シミュレーションモデルM1に含まれる複数のパラメータPの候補値を設定する(S30)。
【0171】
路面プロファイル推定装置10は、設定したパラメータPの候補値を用いて、第1速度で走行した場合と、第2速度で走行した場合について、路面のプロファイルを推定する(S31)。路面のプロファイルを推定する処理の詳細は、
図6と同様である。
【0172】
その後、路面プロファイル推定装置10は、第1速度で走行した場合のIRIv1と、第2速度で走行した場合のIRIv2とを算出する(S32)。そして、路面プロファイル推定装置10は、IRIの差が閾値以下であるか判定する(S33)。すなわち、路面プロファイル推定装置10は、数式(37)で表される評価関数Fの値が閾値以下であるか判定する。
【0173】
評価関数Fの値が閾値以下でない場合(S33:NO)、路面プロファイル推定装置10は、複数のパラメータPについて選択、交叉及び突然変異の処理を実行し、新たな候補値を設定する(S23)。そして、パラメータの新たな候補値を用いて、路面プロファイルの推定(S31)、IRIの算出(S32)及び評価関数Fの値と閾値の比較(S33)を繰り返す。ここで、選択、交叉及び突然変異の処理は、既存の遺伝的アルゴリズムで用いられる処理であってよい。遺伝的アルゴリズムを用いて複数のパラメータPを決定することで、複数のパラメータPの数が増加して全探索が困難な場合であっても、適切なパラメータPを効率良く決定することができる。
【0174】
一方、評価関数Fの値が閾値以下の場合(S33:YES)、路面プロファイル推定装置10は、算出されたパラメータを、シミュレーションモデルM1の複数のパラメータPとして決定する(S35)。以上により、パラメータ決定処理が終了する。
【0175】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0176】
1…路面プロファイル推定システム、10…路面プロファイル推定装置、10a…CPU、10b…RAM、10c…ROM、10d…通信部、10e…入力部、10f…表示部、11…取得部、12…予測部、13…算出部、14…更新部、15…推定部、16…決定部、17…記憶部、20…スマートフォン、21…加速度計、22…角速度計、M1…シミュレーションモデル、M2…観測モデル、N…通信ネットワーク、P…パラメータ