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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/28 20060101AFI20231127BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20231127BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20231127BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20231127BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20231127BHJP
   B23K 26/382 20140101ALI20231127BHJP
【FI】
H01L23/28 B
H01L23/28 E
H01L23/12 Q
H01L23/12 D
H01L21/56 T
H01L25/04 C
B23K26/382
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019158361
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021039962
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 遼一
(72)【発明者】
【氏名】郷原 広道
(72)【発明者】
【氏名】池田 良成
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良和
(72)【発明者】
【氏名】三原 邦照
(72)【発明者】
【氏名】高橋 功
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/173921(WO,A1)
【文献】特開2017-071165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K26/00-26/70
H01L21/56
H01L23/12-23/15
H01L23/28-23/31
H01L25/00-25/07
H01L25/10-25/11
H01L25/16-25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と、
前記半導体素子をおもて面に搭載した導電性板と、
前記半導体素子と前記導電性板の少なくともおもて面とを内部に封入する樹脂と、
を備え、前記導電性板はレーザー光照射で形成された複数の孔をおもて面に有し、
前記複数の孔は、孔の中心と隣り合う孔の中心との距離は150μm~500μmであることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記複数の孔は、円形または楕円形の平面形状であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記複数の孔は、V字型の断面形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記複数の孔は、内部の幅が開口部の幅より広い断面形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記複数の孔は、開口部に隆起した部分がないことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記複数の孔は、中心軸が前記導電性板のおもて面と垂直の方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項7】
前記複数の孔は、側面に複数の突起を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項8】
導電性板にレーザー光を照射することにより、前記導電性板のおもて面に複数の孔を形成する第1工程と、
前記導電性板のおもて面に半導体素子を搭載する第2工程と、
前記半導体素子と前記導電性板の少なくともおもて面とを樹脂の内部に封入する第3工程と、
を含み、
前記第1工程では、前記複数の孔を、孔の中心と隣り合う孔の中心との距離を150μm~500μmに形成することを特徴とする半導体装置の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を中心として、パワー半導体モジュールが電力変換装置に広く用いられるようになっている。パワー半導体モジュールは1つまたは複数のパワー半導体チップを内蔵して変換接続の一部または全体を構成し、かつ、パワー半導体チップとベース板または冷却面との間が電気的に絶縁された構造を持つパワー半導体デバイスである。
【0003】
図12は、従来のパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。図12に示すように、パワー半導体モジュール150は、パワー半導体チップ101と、絶縁基板102と、導電性板103と、放熱板104と、金属端子105と、ワイヤ106と、これらを被覆(モールド)するモールド樹脂107とを備える。
【0004】
パワー半導体チップ101は、IGBTまたはダイオード等のパワー半導体チップであり、導電性板103上にはんだ等の接合材108で接合されている。セラミック基板等の絶縁基板102のおもて面に銅などの導電性板103が備えられ、裏面に銅などの放熱板104が備えられたものを積層基板と称する。積層基板は、冷却器に接合されている。ワイヤ106は、パワー半導体チップ101と外部に信号を取り出す金属端子105とを電気的に接続している。なお、図示はしていないが、これらの部材は、1台の半導体装置に複数搭載されている。モールド樹脂107には一般的にはエポキシ樹脂などが使用される。
【0005】
図12のモールド樹脂タイプのパワー半導体モジュール150においては、金属端子105や導電性板103と、モールド樹脂107であるエポキシ樹脂との密着性が必ずしも良好でないため、モールドした直後に、エポキシ樹脂(モールド樹脂107)の収縮による剥離が起こることがある。
【0006】
また、モールドした直後に、モールド樹脂107の収縮による剥離が避けられた場合でも、パワー半導体チップ101の使用環境において、温度変化が有る場合にはモールド樹脂107と銅材との熱膨張係数の違いにより、剥離が発生することがある。電流容量が大きいパワー半導体モジュール150では、金属端子105であるリードフレームの幅が広くなり、剥離はさらに顕著に現れる。
【0007】
この剥離を防止するために、従来のパワー半導体モジュール150では、導電性板103にレーザー光照射で形成される筋状の凹部よりなるアンカー層120を設けている(例えば、下記特許文献1参照)。図13は、従来のパワー半導体モジュールのアンカー層の凹部の配置を示す平面図である。図14は、従来のパワー半導体モジュールのアンカー層の凹部の構成を示す断面図である。図14は、図13のX-X’部分の断面である。図13および図14に示すように、アンカー層120には、パワー半導体チップ101を囲むように4本の筋状(線状)の凹部121が配置されている。レーザー光照射で形成される凹部121の側壁にはデコボコがあり、モールド樹脂107と凹部121との間の摩擦力が大きくなるため、アンカー効果が大きくなり剥離が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2014/098004号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図13および図14の凹部121では、密着性が十分でない場合がある。さらに、アンカー層120は、導電性板103のパワー半導体チップ101の周囲のみに設けられて、アンカー層120が設けられていない導電性板103では、モールド樹脂107との密着性が向上されていなく、この箇所で導電性板103とモールド樹脂107との剥離が生じるおそれがある。
【0010】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、導電性板と樹脂との密着性を高めて剥離を防止できる半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、次の特徴を有する。半導体装置は、半導体素子と、前記半導体素子をおもて面に搭載した導電性板と、前記半導体素子と前記導電性板の少なくともおもて面とを内部に封入する樹脂と、を備える。前記導電性板はレーザー光照射で形成された複数の孔をおもて面に有する。前記複数の孔は、孔の中心と隣り合う孔の中心との距離は150μm~500μmである。
【0012】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記複数の孔は、円形または楕円形の平面形状であることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記複数の孔は、V字型の断面形状であることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記複数の孔は、内部の幅が開口部の幅より広い断面形状であることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記複数の孔は、開口部に隆起した部分がないことを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記複数の孔は、中心軸が前記導電性板のおもて面と垂直の方向に対して傾斜していることを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記複数の孔は、側面に複数の突起を有することを特徴とする。
【0018】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、導電性板にレーザー光を照射することにより、前記導電性板のおもて面に複数の孔を形成する第1工程を行う。次に、前記導電性板のおもて面に半導体素子を搭載する第2工程を行う。次に、前記半導体素子と前記導電性板の少なくともおもて面とを樹脂の内部に封入する第3工程を行う。前記第1工程では、前記複数の孔を、孔の中心と隣り合う孔の中心との距離を150μm~500μmに形成する
【0019】
上述した発明によれば、導電性板にレーザー光照射で形成される複数のドット状の孔を有している。これにより、導電性板とモールド樹脂との密着性が向上する。このため、導電性板とモールド樹脂との剥離を防止でき、パワー半導体モジュールの信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、導電性板と樹脂との密着性を高めて剥離を防止できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
図2】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔を示す断面図である。
図3A】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の形状を示す断面図である(その1)。
図3B】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の形状を示す断面図である(その2)。
図3C】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の形状を示す断面図である(その3)。
図3D】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の形状を示す写真である(その1)。
図3E】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の形状を示す写真である(その2)。
図4A】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の開口部の形状を示す断面図である(その1)。
図4B】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の開口部の形状を示す断面図である(その2)。
図5】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔のふくらみ形状での寸法を示す断面図である。
図6】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔のふくらみ形状での寸法と密着性とを示す表である。
図7】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔のV字形状での寸法を示す断面図である。
図8】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔のV字形状での寸法と密着性とを示す表である。
図9】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の傾斜角度を示す断面図である。
図10】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の突起を示す断面図である。
図11】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールのプリン試験を示す斜視図である。
図12】従来のパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
図13】従来のパワー半導体モジュールのアンカー層の凹部の配置を示す平面図である。
図14】従来のパワー半導体モジュールのアンカー層の凹部の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。図1は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【0023】
(実施の形態)
図1に示すように、パワー半導体モジュール50においては、絶縁基板2の一方の面であるおもて面に銅などの導電性板3、他方の面である裏面には銅などの放熱板4が配置されて積層基板を構成する。積層基板の導電性板3のおもて面に、はんだ等の接合材8を介して、複数のパワー半導体チップ1が搭載されて積層組立体を構成する。外部に信号を取り出す金属端子5は、導電性板3上に接合材8で接合されている。さらにパワー半導体チップ1のおもて面には、パワー半導体チップ1と金属端子5を電気的に接続しているワイヤ6が設けられている。そして、これらの部材の少なくとも表面は、モールド樹脂7で被覆されている。
【0024】
パワー半導体チップ(半導体素子)1は、シリコン(Si)、炭化シリコン(SiC)、窒化ガリウム(GaN)等の材料からなる。パワー半導体チップ1は、IGBT、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等のスイッチング素子を含んでいる。このようなパワー半導体チップ1は、例えば、裏面に主電極としてドレイン電極(または、コレクタ電極)を、おもて面に、主電極としてゲート電極およびソース電極(または、エミッタ電極)をそれぞれ備えている。
【0025】
また、パワー半導体チップ1は、必要に応じて、SBD(Schottky Barrier Diode)、FWD(Free Wheeling Diode)等のダイオードを含んでいる。このようなパワー半導体チップ1は、裏面に主電極としてカソード電極を、おもて面に主電極としてアノード電極をそれぞれ備えている。上記のパワー半導体チップ1は、その裏面側の電極が所定の導電性板3のおもて面に接合材8により接合されている。
【0026】
積層基板は、絶縁基板2と、絶縁基板2の裏面に形成された放熱板4と、絶縁基板2のおもて面に形成された導電性板3とを有している。導電性板3は、パワー半導体チップ1や金属端子5等を接続するために、所定の形状(パターン)にエッチング等で加工される。絶縁基板2は、熱伝導性に優れた、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の高熱伝導性のセラミックスにより構成されている。絶縁基板2の厚さは、絶縁耐圧の観点から200μm~700μmが好ましい。放熱板4は、熱伝導性に優れた銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銀(Ag)、または、少なくともこれらの一種を含む合金等の金属により構成されている。導電性板3は、導電性に優れた銅、アルミニウム、または、少なくともこれらの一種を含む合金等の金属により構成され、例えば、厚さは400μm~1000μmである。導電性板3が薄すぎると、後述するレーザー加工によるドット状の孔を形成できないためである。これらの金属の表面にニッケル(Ni)めっき皮被膜、無電解ニッケル(Ni-P(リン))めっき皮被膜があってもよい。めっきを行うことにより、銅が酸化することを低減して、導電性板3とモールド樹脂7との密着性が低下することを防止できる。
【0027】
このような構成を有する積層基板として、例えば、DCB(Direct Copper Bonding)基板、AMB(Active Metal Blazed)基板を用いることができる。積層基板は、パワー半導体チップ1で発生した熱を導電性板3、絶縁基板2および放熱板4を介して半導体装置外部に伝導させることができる。また、積層基板は、金属ベース基板であってもよい。金属ベース基板は、アルミニウムまたは、銅などの金属からなる放熱板4上に樹脂からなる絶縁層、さらにその上に導電性板3を重ねて構成される。導電性板3には、モールド樹脂7との密着性を向上するため表面にレーザー光で形成されたドット状の孔が複数設けられている。導電性板3についての詳細は後述する。
【0028】
導電性板3はモールド樹脂7により封止される。封止材としては、ケースを有する場合はシリコーン樹脂などでも良い。しかし、筐体としての役割を有する場合のモールド樹脂7は、熱硬化性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、マレイミド樹脂を用いることができる。更に、密着助剤を含んでいてもよい。また、モールド樹脂7には、線膨張係数を大きくしたり、熱伝導性を付与するために、無機充填剤として、例えば、シリカ、アルミナ、窒化ボロン、窒化アルミニウムなどの無機粒子からなるマイクロフィラーやナノフィラーを含んでいてもよい。パワーサイクル試験やヒートサイクル試験による熱応力により、モールド樹脂7と導電性板3との密着性が低下する場合がある。これは主に、モールド樹脂7の材料が高剛性の場合に発生する。特にフィラーを含んだモールド樹脂が、ヤング率が3000N/mm2~30000N/mm2で、熱膨張係数が3000×10-6/K~25000×10-6/Kの場合に発生する。従って、本発明のレーザー光で形成されたドット状の孔を有する導電性板に、これらのモールド樹脂7を形成することで、特に、密着性を向上させることができる。好ましくは、ヤング率が5000N/mm2~20000N/mm2で、熱膨張係数が3000×10-6/K~25000×10-6/Kのモールド樹脂7に対して有効である。
【0029】
また、フィラーが大きすぎるとドット状の孔に入り込むことができなくなり、密着性が低下するため、径がドット状の孔の直径より小さいフィラーが、ドット状の孔の直径より大きいフィラーよりも多く含まれていることが好ましい。具体的には、フィラー径は、平均粒径が20μm~60μmであることが好ましい。さらに5μm~10μm径のフィラーが10%~20%含まれていることがより好ましい。フィラーの形状は球状フィラー、破砕フィラーでのどちらでも良く、平均粒径が10μm程度、かつ2.5μm~10μm径のフィラーが50%~70%含まれていることが最も好ましい。
【0030】
接合材8は、パワー半導体モジュール50の部材同士間の接合に用いられ、例えばはんだで構成される。はんだとして、たとえば、スズ銀(Sn-Ag)系、スズアンチモン(Sn-Sb)系、スズ銅(Sn-Cu)系のはんだを用いることができる。図1では、ワイヤ6を用いて、パワー半導体チップ1と導電性板3とを電気的に接続しているが、リードフレームを用いて、パワー半導体チップ1と導電性板3とを電気的に接続することができる。この場合、リードフレームとモールド樹脂7との密着性を向上させるため、導電性板3と同様に、リードフレームにもレーザーで形成されたドット状の孔が複数設けられていてもよい。さらに、リードフレーム以外のプリント基板にもレーザーで形成されたドット状の孔が複数設けられていてもよい。その際は、所定の厚さの導電性板を設けることが好ましい。
【0031】
パワー半導体チップ1の上面(導電性板3と接する面と反対側の面)には、電気接続用の配線としてワイヤ6の一端が接合される。ワイヤ6の他端は、金属端子5(または金属端子5が固定された導電性板3)と、または他のパワー半導体チップ1と接合される。図1では、ワイヤ6を用いて、パワー半導体チップ1と導電性板3とを接続しているが、リードフレームを用いて、接続してもよい。
【0032】
実施の形態のパワー半導体モジュールは、以下のようにして製造される。製造方法では、まず、絶縁基板2のおもて面に導電性板3が設けられ、裏面に放熱板4が設けられた積層基板を用意する。次に、導電性板3のおもて面にレーザー光を照射することにより、ドット状の孔を複数形成する。この際のレーザーおよびレーザー光の制御パラメータは、後述する。
【0033】
次に、積層基板に設けられた導電性板3のおもて面にパワー半導体チップ1を実装する。具体的には、導電性板3の上に接合材8とパワー半導体チップ1とを積層し接合し、導電性板3上に接合材8と金属端子5とを積層し接合することで、パワー半導体チップ1、積層基板および放熱板4からなる積層組立体を組み立てる。なお、接合材8として、はんだ材や、微小金属粒子を用いた接合材等が用いられる。溶融してはんだ接合層を形成するはんだ材としては、スズ(Sn)を主成分とし、銀(Ag)および/またはアンチモン(Sb)および/または銅(Cu)を含むはんだ材を用いることができる。これらの成分に加え、ニッケル(Ni)、ゲルマニウム(Ge)、Si、バナジウム(V)、リン(P)、ビスマス(Bi)、金(Au)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、炭素(C)から選択される1以上の成分を含むはんだ材を用いることが好ましい。鉛フリーはんだと呼ばれている、Pbが500ppm以下で、Snを主成分としているはんだ材料では、Sn-AgやSn-Ag-Cu、Sn-Sb、Sn-Sb-Agなど2元共晶系材料や3元共晶系材料など、多数の成分がある。はんだ材は、板状のプリフォーム材(板状はんだ)として、あるいは粉末状にしてフラックスと合わせてクリームはんだとして使用することができる。
【0034】
なお、接合材8として、はんだ材を用いる場合は、パワー半導体チップ1が接合される導電性板3の箇所(接合領域)には、レーザーによるドット状の孔が形成されないことが好ましい。レーザーにより形成された孔が配置された導電性板3の領域では、はんだ材は濡れ性が良くない。そのため、接合部にボイドが発生し、接合強度が低下し、熱抵抗も上昇してしまう。従って、レーザーによるドット状の孔は、前記接合部以外の領域に形成することが好ましい。
【0035】
次に、パワー半導体チップ1および金属端子5と、導電性板3と、接合材8との積層体を加熱して、接合材8を溶融し、パワー半導体チップ1および金属端子5と、導電性板3とを電気的に接続する。次に、パワー半導体チップ1と、金属端子5をワイヤ6で電気的に接続する。
【0036】
次に、樹脂成形用のモールド金型内に、パワー半導体チップ1を搭載した積層基板等のパワー半導体回路部材を配置し、エポキシなどの硬質樹脂からなるモールド樹脂7を充填する。モールド樹脂7の成形は、トランスファー成形、射出成形でもよい。これにより、図1に示す実施の形態にかかるパワー半導体モジュール50が完成する。また、冷却器上にケースを配置し、ケース内にパワー半導体チップ1を搭載した積層基板等のパワー半導体回路部材を配置し、ケース内に封止材を充填してもよい。この場合、冷却器と封止材が接する構造となる。そのため、封止材と接する冷却器の面に、本発明のレーザーによるドット状の孔を設けてもよい。なお、冷却器は金属製の冷却板を含む。
【0037】
以下で、導電性板3を詳細に説明する。図2は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔を示す断面図である。図2に示すように、実施の形態にかかる導電性板3には、パワー半導体チップ1が接合される領域の周囲に複数のドット状の孔9が設けられている。ドット状の孔9は平面形状が略円形または略楕円形である。ドット状の孔9のピッチpは150μm~500μmであることが好ましい。詳しくは後段で説明する。ピッチpは、ドット状の孔9の中心と隣り合うドット状の孔9の中心との距離である。
【0038】
以下に、好ましいドット状の孔9のピッチpを説明する。好ましいピッチpは、100μm~1000μm、より好ましくは150μm~500μmである。また、別の表記によれば、ドット状の孔9の直径をDとすると、ピッチpは、D+20μm~D+1000μmで、より好ましくは、D+50μm~D+500である。ピッチpが狭すぎると、孔9と孔9の間の壁が薄くなり、強度が不足し密着性が低下し、広すぎるとアンカーの効果が十分に生じない。なお、孔9の形状によってDは異なるが、後述する図3A図3Cの形状の場合は、最も広い幅の直径Wとする。
【0039】
エッチングやプレス等でも導電性板3に孔を形成することができるが、本発明の形状の孔は形成することができない。従って、実施の形態では、ドット状の孔9をレーザー光の照射により形成している。レーザーは固体レーザーの一種であり、光を増幅する媒体・共振器がファイバで構成されているファイバレーザーを用いることが好ましい。ファイバレーザーは、YAG(YttriumAluminumGarnet)レーザーやCO2(二酸化炭素)レーザー等よりも、極めて小さい焦点直径を持っているため、銅やアルミニウムに細く打ちピンポイントに熱を加え溶かし、細い孔を形成することが可能になる。そして、レーザーは間欠的にパルス波として照射される。なお、ドット状とは、一つの孔の平面形状が略円形または略楕円形であり、孔同士は、連続的ではなく、離間して形成されている。
【0040】
例えば、ファイバレーザーとして、古河電工のシングルモードファイバレーザーFEC1000Sを用いることができる。ドット状の孔9を所定の形状にするため、ファイバレーザーを、発振波長1.070μm、パワー800W~1200W、照射時間0.005秒~0.04秒、エネルギー4J~40J、スポット径30μm~60μm、エネルギー密度0.0014J/μm2~0.014J/μm2の制御パラメータとすることが好ましい。また、ファイバレーザーを、発振波長1.070μm、パワー900W~1000W、照射時間0.008秒~0.02秒、エネルギー7.2J~20J、スポット径45μm~55μm、エネルギー密度0.003J/μm2~0.013J/μm2の制御パラメータとすることがより好ましい。
【0041】
そして、1パルスで1つの孔が形成されることが好ましい。複数回のパルス波で、同じ場所を照射してもよいが、孔中に溶融物等が堆積したり、孔の形状にバラツキが生じるためである。なお、孔の形状を制御するパラメータは、発振波長、パワー、照射時間、エネルギー、スポット径などが有効であるが、単位面積当たりのレーザーのエネルギーであるエネルギー密度が、形状制御の上で最も有効である。エネルギー密度が上記範囲より小さいと溶融した材料が孔の開口部の周辺に隆起した部分ができ、また、孔の深さが均一でないことがある。また、エネルギー密度が大きすぎると、溶融、蒸発が不安定になり、孔の形状のバラツキが大きくなってしまう。
【0042】
被加工剤として銅、アルミニウム、または、少なくともこれらの一種を含む合金等の金属が、孔の形状を形成するうえでも好ましい。レーザーの所定の制御パラメータでは、所定の形状を形成しやすく、形状のバラツキも少ない。また、これらの金属(母材)の表面にニッケル(Ni)めっき被膜、無電解ニッケル(Ni-P(リン))めっき被膜が形成されていてもよい。前記金属の表面には、酸化膜が形成されるが、環境により膜厚や膜質は均一ではない。一方、所定の膜厚のめっき皮膜を形成すると、酸化膜が形成されにくいので、孔の形状を均一にする上では、さらに好ましい。なお、均一な形状の孔を形成するためには、めっき皮膜の膜厚は、1μmから15μmが好ましい。しかし、めっき皮膜の膜厚が厚すぎると孔の形状のバラツキが大きくなる場合がある。その為、より均一な形状にするには1.5μmから4μmが好ましい。融点の異なる母材とめっき皮膜が積層されるため、めっき皮膜が厚すぎると、孔の形状のバラツキが大きくなってしまう。
【0043】
また、上記制御パラメータのレーザー光を、7°~23°傾斜させて同じ場所への照射回数を1~2回、好ましくは1回、照射することでドット状の孔9を形成する。レーザー光を傾斜させて照射するのは、レーザー光を傾斜させず導電性板3と垂直にレーザー光を照射すると形成される孔が細すぎてモールド樹脂7が孔の中に入らないためである。また、孔の中にモールド樹脂7が入ったとしても、孔の中のモールド樹脂7自体が小さく、細くなるので、特にせん断力を受けた際に、十分な強度を有しない。
【0044】
この際、レーザー光のフォーカスは、焦点が導電性板3内部となるインナーフォーカス(アンダーフォーカス)と、焦点が導電性板3表面より上となるアウターフォーカス(オーバーフォーカス)と、焦点が導電性板3表面となるジャストフォーカスいずれを使用してもよいが、インナーフォーカスが最も好ましい。インナーフォーカスの場合、焦点が導電性板3表面から深さ300μm~900μm程度になることが好ましく、より好ましくは、500μm~800μmである。この場合の導電性板3表面でのレーザー光のスポット径は上記の30μm~60μmになる。フォーカスにインナーフォーカスを用いることで、ドット状の孔9の形状のばらつきが少なくなる。また、導電性板3表面から焦点がずれることで、エネルギーの収束性が若干悪くなり、ドット状の孔9の側面にギザギザができやすくなり、導電性板3とモールド樹脂7との密着性が向上する(図10参照)。
【0045】
また、レーザー光は、例えば、パルス周波数(パルス間隔)を1000Hzとして、導電性板3の送り速度を100mm/s程度にして、ドット状の孔9を形成することが好ましい。また、パルス周波数(パルス間隔)を500Hzとして、導電性板3の送り速度を50mm/s程度にしてもよい。これらのパラメータにより、ドット状の孔9のピッチが決定され、図2に示すように、100μm程度のピッチpで縦方向、横方向に規則正しく、ドット状の孔9が設けられる。
【0046】
このように導電性板3の表面にドット状の孔9を設けることで、モールド樹脂7と導電性板3との間の接触面積が増加して、孔9の中に入ったモールド樹脂7がアンカーの働きをするためモールド樹脂7と導電性板3との密着性が向上する。さらに、パワー半導体チップ1の周囲を囲むように設けられているため、接合材9であるはんだが周りに広がることを防止できる。また、はんだとエポキシ樹脂などのモールド樹脂7との密着性は良くないため、はんだはパワー半導体チップ1と導電性板3の間の接合部にのみ介在し、はんだがモールド樹脂7に触れる面積が少ないことが好ましい。具体的には、ドット状に複数の孔を設けた領域は、はんだの濡れ性が悪く、はんだが接合箇所以外のドット状に孔を設けた領域に濡れ広がりにくい。これにより、はんだとモールド樹脂7とが接する面積を最小限にすることができる。そして、導電性板3とモールド樹脂7との剥離を防止でき、パワー半導体モジュールの信頼性が向上する。
【0047】
次に、ドット状の孔9の好ましい断面形状について説明する。図3A図3Cは、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の形状を示す断面図である。図3Dおよび図3Eは、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の形状を示す写真である。図3Dは、図3Aの形状の写真であり、図3Eは、図3Bの形状の写真である。
【0048】
図3Aおよび図3Cは、中が膨らんだ形状、つまり、ドット状の孔9の開口部の幅より内部の幅が広い形状(断面形状)である。図3Aは、ドット状の孔9の深さHがドット状の孔9の幅Wより大きい(H>W)場合であり、図3Cは、ドット状の孔9の幅Wがドット状の孔9の深さH以上(W≧H)のずんぐりとした形状の場合である。また、図3Bは,ドット状の孔9が表面から内部に行くに従い幅が狭くなるV字形状(断面形状)である。さらに、図3Aのように、ドット状の孔9の開口部の近傍にくびれがある形状でもよい。なお、このくびれは、図5に示すように、開口部の直径D1より小さい直径D2を有する場合である。断面からみると、くびれ部は、開口部と最も内径の大きな部分の間にある。レーザーの制御パラメータを調節することにより、ドット状の孔9を中が膨らんだ形状またはV字形状にすることができる。
【0049】
以下で、詳細を示すプリン試験で密着性を試験した場合、いずれの孔の形状においても、ドット状の孔9を設けない場合よりも密着性が向上した。そのなかでも、図3Bが最も密着性がよく、図3A図3Cの順で密着性が低下する。より詳細には、図3Aでは、ドット状の孔9を設けない場合よりも密着性が75%以上向上して、図3Bでは、ドット状の孔9を設けない場合よりも密着性が100%以上向上して、図3Cでは、ドット状の孔9を設けない場合よりも密着性が50%以上向上した。図3CのW≧H場合、ドット状の孔9の内部にモールド樹脂7が入りにくいため、密着性の向上が、図3Aおよび図3Bより低かった。
【0050】
図4Aおよび図4Bは、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の開口部の形状を示す断面図である。図4Aは、ドット状の孔9の開口部に隆起した部分がなく、平らな形状である。隆起した部分とは、ドット状の孔9の開口部で、導電性板3のおもて面より高い部分のことである、より詳細には、導電性板3からドット状の孔9の開口部の隆起した部分の高さh1が10μmより小さい場合である。図4Bは、ドット状の孔9の開口部に隆起した部分が形成された形状である。より詳細には、導電性板3からドット状の孔9の開口部の隆起した部分の高さhが10μm以上の場合である。なお、隆起した部分より外側の平坦な部分の高さをh2とするとhはh1-h2であらわすこともできる。
【0051】
以下で、詳細を示すプリン試験で密着性を試験した場合、図4Aでは、ドット状の孔9を設けない場合よりも密着性が75%以上向上して、図4Bでは、ドット状の孔9を設けない場合と比べて密着性が40%程度向上したが、開口部が平坦な形状に比べて低かった。これは、隆起した部分は、レーザー光の熱で溶解した金属が再度固まってできたものであるため、導電性板3との密着性が低く、隆起した部分が剥離しやすいためである。ここでは、図3Aの中が膨らんだ形状の場合を示したが、図3BのV字形状の場合も同様になる。つまり、隆起した部分の高さhが10μm以上であると、密着性が十分に向上しない。
【0052】
図5は、中が膨らんだ形状、つまり、ドット状の孔9の開口部の幅より内部の幅が広く、開口部の近傍にくびれがある形状の模式図で、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔のふくらみ形状での寸法を示す断面図である。図5において、D1はドット状の孔9の開口部の直径であり、D2は、ドット状の孔9のもっとも狭い部分の直径であり、D3は、ドット状の孔9のもっとも広い部分の直径である。また、Lは、ドット状の孔9の深さである。
【0053】
図6は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔のふくらみ形状での寸法と密着性とを示す表である。図6において、ドット状の孔9を設けない場合よりも密着性が75%以上向上した場合を◎にしている。図6に示すように、直径D1は、80μm~120μmであることが好ましく、90μm~110μmであることがより好ましい。また、直径D2は、30μm~70μmであることが好ましく、40μm~60μmであることがより好ましい。また、直径D3は、80μm~120μmであることが好ましく、90μm~110μmであることがより好ましい。また、深さLは、100μm~300μmであることが好ましく、150μm~250μmであることがより好ましい。
【0054】
特に、ドット状の孔9の形状にくびれがある場合、つまりD2<D1かつD2<D3の場合、D2/Lは、30/300~70/100、つまり0.1~0.7の範囲内にあることが好ましい。
【0055】
図7は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔のV字形状での寸法を示す断面図である。図7において、Dはドット状の孔9の開口部の直径であり、Lは、ドット状の孔9の深さである。
【0056】
図8は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔のV字形状での寸法と密着性とを示す表である。図8において、ドット状の孔9を設けない場合よりも密着性が100%以上向上した場合を◎にしている。図8に示すように、直径Dは、40μm~80μmであることが好ましく、50μm~70μmであることがより好ましい。また、深さLは、100μm~300μmであることが好ましく、150μm~250μmであることがより好ましい。
【0057】
ドット状の孔9の形状は、縦長、つまりD<Lの方が好ましい。このため、D/Lは、40/300~80/100、つまり0.13~0.8の範囲内にあることが好ましく、50/250~70/150、つまり0.2~0.47の範囲内にあることがより好ましい。以上のように、ドット状の孔9の形状およびその寸法にも、密着性を向上させる好ましい範囲がある。
【0058】
図9は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の傾斜角度を示す断面図である。ドット状の孔9は、導電性板3の表面と垂直の方向に形成される場合、モールド樹脂7との密着性は十分でない。このため、ドット状の孔9は、ドット状の孔9の中心軸が垂直の方向に対して傾斜していることが好ましい。ドット状の孔9の中心軸とは、ドット状の孔9の開口部の中心と底部の中心とを結ぶ軸のことである。つまり、ドット状の孔9の中心軸は、導電性板3の表面と垂直な線と角度θを有している。この傾斜角θは7°~23°程度が好ましい。また、ドット状の孔9の傾きの方向は、モールド樹脂7が注入される方向に傾いていることが好ましい。モールド樹脂7がドット状の孔9の内部に入りやすくなるためである。
【0059】
このような、傾斜角θを有するドット状の孔9は、レーザー光の入射角度を傾斜角θとすることにより、形成することができる。また、ここでは図3Aの中が膨らんだ形状の場合を示したが、図3BのV字形状の場合も同様になる。
【0060】
図10は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの導電性板のドット状の孔の突起を示す断面図である。図10は、図3Bの領域Sの部分を拡大した図である。実施の形態において、ドット状の孔9は、側面に複数の突起Bを有することが好ましい。ここで、ドット状の孔9は、レーザー光を照射することにより形成されている。レーザー光照射では、一旦金属(例えば、銅)が溶融し飛散した後、残った金属が固化することにより、複数の突起Bが形成される。これらの突起Bにより、表面粗さが大きくなり、アンカー効果が強まり密着性がさらに向上する。エッチングやプレスでドット状の孔9を形成したとき、これらの突起Bは形成されないため、実施の形態では、ドット状の孔9をレーザー光の照射で形成している。突起Bの高さは2μm~10μmが好ましい。
【0061】
本発明のドット状の孔9を形成した場合と、溝幅が100μm、溝間隔が100μmのライン状の溝を平行に形成した場合とを比較する。なお、ライン状の溝はパルス状のレーザーを照射して孔が連続的に繋がり溝状になるように形成したが、レーザを連続的に照射しながら走査して形成してもよい。ライン状の溝の場合、密着性は十分に向上しないことがわかった。具体的には、ドット状の孔9を設けない場合よりも、密着性は約30%程度向上したに過ぎなかった。これは、パワー半導体モジュールとした場合、剥離が生じてしまう密着力である。少なくとも40%以上向上することが好ましく、50%以上がより好ましい。なお、この結果は、中が膨らんだ断面形状の場合でも、V字形状の場合も同様であった。ライン状の溝の場合は、ライン方向に平行な方向に対しては、十分にアンカー効果を発揮しないため、密着性が悪くなったと考えられる。このようにライン状の溝の場合は、ライン方向に平行方向と垂直方向で密着性が異なるため、モジュールのチップパターンや形状によって、ライン状の溝の配置や方向などを個別に設計する必要があり、また、それらを工夫したとしても密着性の悪い箇所が生じてしまうので好ましくない。
【0062】
図11は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールのプリン試験を示す斜視図である。プリン試験とは、板の上に、プリン型に成型した樹脂を接合させ、横方向、例えば、図11の矢印Tの方向に一定の力で樹脂を押し、樹脂が取れるまでにかかった力(密着力)を測定する試験であって、モールド樹脂と導電性板との密着性を示すものである。密着性は密着力および単位面積当たりの密着力でも示される。測定された力が大きいほど密着性が高くなる。
【0063】
実施の形態では、板として縦横ともに11mm、厚さ1.87mmの銅製の導電性板3を用い、樹脂として、下部の直径3.57mm、上部の直径3mm、高さ4mmのモールド樹脂7を用いて試験を行った。なお、導電性板3は、厚さが0.32mmの窒化ケイ素の絶縁基板2上に接合し、絶縁基板2の裏面には放熱板4として前記導電性板3と同じものを用いた。また、モールド樹脂は、エポキシ樹脂を用いた。フィラーはシリカである。
【0064】
導電性板にドット状の孔9を設けない場合のプリン試験で樹脂が取れるまでにかかった力を100とする。この場合、導電性板にライン状の溝を平行に設けた場合、プリン試験で樹脂が取れるまでにかかった力は、135となる、また、実施の形態の導電性板3に中が膨らんだ形状のドット状の孔9を設けた場合、プリン試験で樹脂が取れるまでにかかった力は、175以上となる。つまり、密着性が75%以上向上する。さらに、実施の形態の導電性板3にV字形状のドット状の孔9を設けた場合、プリン試験で樹脂が取れるまでにかかった力は、200以上となる。つまり、密着性が100%以上向上する。
【0065】
以上、説明したように、実施の形態にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、導電性板にレーザー光照射で形成される複数のドット状の孔を有している。これにより、導電性板とモールド樹脂との密着性が向上する。このため、導電性板とモールド樹脂との剥離を防止でき、パワー半導体モジュールの信頼性が向上する。なお、実施の形態では、エポキシ樹脂を用いたが、その他の樹脂(ポリイミド樹脂など)においても同様の結果を得た。
【0066】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、本発明は積層組立体をケースに組み合せ、ケース内に樹脂を充填した半導体装置においても、適用可能である。この場合も、樹脂と導電性板との密着性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法は、インバータなどの電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置や自動車のイグナイタなどに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1、101 パワー半導体チップ
2、102 絶縁基板
3、103 導電性板
4、104 放熱板
5、105 金属端子
6、106 ワイヤ
7、107 モールド樹脂
8、108 接合材
9 ドット状の孔
50、150 パワー半導体モジュール
120 アンカー層
121 凹部
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14