(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】グリコール酸塩およびグリコール酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/08 20060101AFI20231127BHJP
C07C 51/06 20060101ALI20231127BHJP
C07C 59/06 20060101ALI20231127BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231127BHJP
【FI】
C07C51/08
C07C51/06
C07C59/06
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020063561
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】池口 真之
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-525030(JP,A)
【文献】国際公開第06/126626(WO,A1)
【文献】国際公開第19/138993(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1724504(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103351306(CN,A)
【文献】GIRAM, G. G. et al.,Direct synthesis of diethyl carbonate from ethanol and carbon dioxide over ceria catalysts,New Journal of Chemistry,2018年,Vol. 42,pp. 17546-17552
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/
C07C 59/
C07B 61/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素、周期表第4族元素および周期表第12族元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を50質量%以上含有する金属酸化物、および、塩基の存在下で、グリコロニトリルおよびグリコールアミドからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物と、水とを反応させて、グリコール酸塩を得る工程(1)を含
み、
前記金属酸化物が、酸化セリウム、酸化亜鉛および酸化ジルコニウム、並びに、これらのうちの2つ以上が複合した複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属酸化物であり、
前記塩基が、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの塩基である、グリコール酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)を行う前に、
金属酸化物および塩基からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の存在下で、
ホルムアルデヒドと、シアン化水素およびシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物とを反応させて、グリコロニトリルを得る工程(2)をさらに含む、請求項1に記載のグリコール酸塩の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)および前記工程(2)が、単一の反応器を用いて行われる、請求項2に記載のグリコール酸塩の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物が酸化セリウムである、請求項1~
3のいずれか一項に記載のグリコール酸塩の製造方法。
【請求項5】
前記塩基が水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムである、請求項1~
4のいずれか一項に記載のグリコール酸塩の製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)において、前記ホルムアルデヒドと、前記シアン化水素とを反応させる、請求項2に記載のグリコール酸塩の製造方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載のグリコール酸塩の製造方法で得られたグリコール酸塩からグリコール酸を得る工程(3)を含む、グリコール酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコール酸塩およびグリコール酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコール酸は、例えば、洗浄剤、皮革なめし剤、キレート剤、さらには化粧品、医薬品の原料としても使用されている。このようなグリコール酸の製造方法として、例えば、ホルムアルデヒドを出発物質としてグリコロニトリルを製造し、グリコロニトリルから微生物由来の酵素を用いてグリコール酸塩を製造し、グリコール酸塩からグリコール酸を製造する方法が知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1にかかるグリコール酸の製造方法によれば、グリコール酸塩を得るにあたり、微生物または微生物の処理物(微生物の破砕物、微生物の破砕物から分離抽出した酵素、固定化した微生物又は微生物から分離抽出された酵素を固定した処理物)の懸濁水溶液を用いて酵素反応させているため、反応に用いられた微生物または微生物の処理物を反応系または反応生成物から除去するという極めて煩雑な工程が必須となってしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を進めたところ、所定の金属酸化物触媒を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記[1]~[9]を提供する。
[1] 希土類元素、周期表第4族元素および周期表第12族元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を50質量%以上含有する金属酸化物、および、塩基の存在下で、グリコロニトリルおよびグリコールアミドからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物と、水とを反応させて、グリコール酸塩を得る工程(1)を含む、グリコール酸塩の製造方法。
[2] 前記工程(1)を行う前に、
金属酸化物および塩基からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の存在下で、
ホルムアルデヒドと、シアン化水素およびシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物とを反応させて、グリコロニトリルを得る工程(2)をさらに含む、[1]に記載のグリコール酸塩の製造方法。
[3] 前記工程(1)および前記工程(2)が、単一の反応器を用いて行われる、[2]に記載のグリコール酸塩の製造方法。
[4] 前記金属酸化物が、酸化セリウム、酸化亜鉛および酸化ジルコニウム、並びに、これらのうちの2つ以上が複合した複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属酸化物である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のグリコール酸塩の製造方法。
[5] 前記金属酸化物が酸化セリウムである、[1]~[4]のいずれか1つに記載のグリコール酸塩の製造方法。
[6] 前記塩基が、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの塩基である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のグリコール酸塩の製造方法。
[7] 前記塩基が水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムである、[1]~[6]のいずれか1つに記載のグリコール酸塩の製造方法。
[8] 前記工程(2)において、前記ホルムアルデヒドと、前記シアン化水素とを反応させる、[2]に記載のグリコール酸塩の製造方法。
[9] [1]~[8]のいずれか1つに記載のグリコール酸塩の製造方法で得られたグリコール酸塩からグリコール酸を得る工程(3)を含む、グリコール酸の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明にかかるグリコール酸塩の製造方法によれば、より簡便な工程で、グリコール酸を製造するための原料(中間生成物)となりうるグリコール酸塩をより効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明にかかる実施形態について具体的に説明する。本発明は、以下の説明によって限定されない。
【0008】
本実施形態のグリコール酸塩の製造方法は、希土類元素、周期表第4族元素および周期表第12族元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を50質量%以上含有する金属酸化物、および、塩基の存在下で、グリコロニトリルおよびグリコールアミドからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物と、水とを反応させて、グリコール酸塩を得る工程(1)を含む。
【0009】
1.工程(1)
工程(1)は、上記のとおり、「希土類元素、周期表第4族元素および周期表第12族元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を50質量%以上含有する金属酸化物」を触媒として用いて、塩基の存在下で、グリコロニトリルおよびグリコールアミドからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物と、水とを反応させて、反応生成物としてグリコール酸塩を得る工程である。
【0010】
工程(1)は、より具体的には、例えば、下記スキームのとおり、希土類元素であるセリウムを50質量%以上含有する金属酸化物である酸化セリウム(CeO2)を触媒として用いて、塩基である水酸化カリウムの存在下で、基質(中間生成物)であるグリコロニトリルおよび/またはグリコールアミドと、水とを反応させて、反応生成物として下記式で表されるグリコール酸塩を得る工程とすることができる。
【0011】
特にこのような態様とすれば、製造されるグリコール酸塩の収率を顕著に高めることができる。
【0012】
【0013】
本実施形態のグリコール酸塩の製造方法により製造されうるグリコール酸塩の好ましい例としては、グリコール酸アンモニウム、グリコール酸カリウム、およびグリコール酸ナトリウムが挙げられる。
【0014】
以下、工程(1)において用いられる金属酸化物および塩基、ならびに反応条件についてより具体的に説明する。
【0015】
(i)金属酸化物
工程(1)において用いられる金属酸化物は、触媒として機能する。当該金属化合物の性状は、特に限定されない。金属化合物は、例えば、粉状体であってもよく、本実施形態の製造方法に適用される装置、条件を考慮して決定された任意好適な所定の形状に成形された成形体であってもよい。
【0016】
金属酸化物は、希土類元素(スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)およびランタノイド)、周期表第4族元素(チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf))および周期表第12族元素(亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)および水銀(Hg))からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を50質量%以上含有している。
【0017】
金属酸化物が含みうる希土類元素は、グリコール酸塩の収率の観点から、好ましくはセリウムまたはランタンであり、より好ましくはセリウムである。
【0018】
金属酸化物が含みうる周期表第4族元素は、好ましくはジルコニウムまたはチタンであり、より好ましくはジルコニウムである。
【0019】
金属酸化物が含みうる周期表第12族元素は、好ましくは亜鉛である。
【0020】
金属酸化物の具体例としては、希土類元素の酸化物として酸化セリウムおよび酸化ランタンが挙げられ、周期表第4族元素の酸化物として酸化ジルコニウムおよび酸化チタンが挙げられ、周期表第12族元素の酸化物として酸化亜鉛が挙げられる。
【0021】
金属酸化物は、グリコール酸塩の収率の観点から、酸化セリウム、酸化ジルコニウムまたは酸化亜鉛が好ましく、グリコール酸塩の収率を顕著に高めることができるので、酸化セリウムがさらに好ましい。
【0022】
金属酸化物は、酸化セリウム、酸化亜鉛および酸化ジルコニウム、ならびに、これらのうちの2つ以上が複合した複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属酸化物であってもよい。
【0023】
金属酸化物である複合酸化物の具体例としては、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物、酸化セリウムと酸化亜鉛との複合酸化物が挙げられる。
【0024】
金属酸化物に含まれうる希土類元素、周期表第4族元素または周期表第12族元素の含有量は、グリコール酸塩の収率の観点から、その下限が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、含有量の上限が90質量%以下であることが好ましく、86質量%以下であることがより好ましく、82質量%以下であることがさらに好ましい。ここで金属酸化物に含まれる元素の含有量とは、金属酸化物を構成する物質のうち、ある元素の質量がその金属酸化物の質量に占める割合である。元素の含有量は、例えば高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法あるいは蛍光X線分析といった元素分析手法で測定しうる。
【0025】
(ii)塩基
工程(1)に用いられる塩基としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属の水溶性塩、アルカリ土類金属の水溶性塩が挙げられる。塩基としては、好ましくは、アルカリ金属の水酸化物(例、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)若しくは炭酸塩(例、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム)、またはアルカリ土類金属の水酸化物(例、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム)若しくは炭酸塩(例、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム)であり、より好ましくは、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである。
【0026】
工程(1)において、塩基は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
(iii)反応条件
グリコロニトリルおよび/またはグリコールアミドの使用量は、既に説明した金属酸化物100質量部に対して、通常0.1~10,000,000質量部の範囲であり、好ましくは10~1,000,000質量部の範囲である。
【0028】
塩基の使用量は、金属酸化物100質量部に対して、通常、0.001~100000質量部であり、好ましくは、0.01~10000質量部である。また、塩基のモル使用量は、グリコロニトリルおよび/またはグリコールアミドのモル使用量に対して、通常、0.0001~1000の範囲であり、好ましくは、0.001~100の範囲である。
【0029】
工程(1)における反応時間は、例えば、用いられる触媒、反応温度などの条件を考慮して決定すればよい。反応時間は、好ましくは、0.1~50時間の範囲であり、より好ましくは、0.3~10時間の範囲であり、さらに好ましくは、0.3~5時間の範囲である。特に、触媒として酸化セリウムを用いる場合には、より短い反応時間とすることができ、短い反応時間であっても高い収率を実現することができる。
【0030】
反応温度は、好ましくは20~100℃の範囲であり、より好ましくは、40~90℃の範囲である。反応温度を上記範囲内でより高めに設定すれば、収率をより向上させることができる場合がある。
【0031】
反応圧力は、好ましくは0~1.0MPa/Gの範囲である(ここで、「/G」はゲージ圧を意味しており、以下同様である。)。
【0032】
工程(1)に適用することができる反応器の例としては、回分式反応方式、攪拌槽流通方式、流通方式、管型反応方式、およびこれらの方式を適宜組み合わせた反応器が挙げられる。
【0033】
2.工程(2)
本実施形態のグリコール酸塩の製造方法は、既に説明した工程(1)を行う前に、金属酸化物および塩基からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の存在下で、ホルムアルデヒドと、シアン化水素およびシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物とを反応させて、グリコロニトリルを得る工程(2)をさらに含んでいてもよい。
【0034】
工程(2)は、例えば、ホルムアルデヒドと、シアン化水素とを反応させてグリコロニトリルを得る態様とすることが好ましい。このような態様とすれば、グリコロニトリルを効率的に得ることができ、ひいては工程(1)によるグリコール酸塩の収率を高めることができる。
【0035】
工程(2)を行うにあたり、ホルムアルデヒドは、ホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)として供給することができる。
【0036】
「シアン化水素およびシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物」は、気体、液体、水溶液等の任意好適な態様で供給しうる。
【0037】
以下、工程(2)において用いられるシアン化水素およびシアン化物、金属酸化物および塩基、ならびに反応条件についてより具体的に説明する。
【0038】
(i)シアン化水素およびシアン化物
工程(2)に用いることができるシアン化物の具体例としては、シアン化アンモニウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化セシウム、およびシアン化カルシウムが挙げられる。
【0039】
シアン化水素およびシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物は、グリコロニトリルを生成する反応の効率の観点から、シアン化水素、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化カルシウムが好ましく、シアン化水素、シアン化ナトリウム、シアン化カリウムがより好ましく、シアン化水素がさらに好ましい。
【0040】
(ii)金属酸化物および塩基
工程(2)は、金属酸化物および塩基からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の存在下で行われる。
【0041】
金属酸化物および塩基からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物は、好ましくは、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩、または、希土類元素、周期表第4族元素および周期表第12族元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を50質量%以上含有する金属酸化物であり、より好ましくは、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウム、または、希土類元素、周期表第4族元素および周期表第12族元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を50質量%以上含有する金属酸化物である。
【0042】
工程(2)において用いられる金属酸化物は、工程(1)において用いられる金属酸化物と同一(同一種類)であっても異なっていてもよい。工程(1)および(2)が単一の反応器で連続的に行われる場合には、工程(1)および(2)において、同一の金属酸化物を用いることが好ましい。
【0043】
金属酸化物の例としては、希土類元素、周期表第4族元素および周期表第12族元素からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を50質量%以上含有する金属酸化物が挙げられる。
【0044】
金属酸化物の具体例としては、希土類元素の酸化物として酸化セリウムおよび酸化ランタンが挙げられ、周期表第4族元素の酸化物として酸化ジルコニウムおよび酸化チタンが挙げられ、周期表第12族元素の酸化物として酸化亜鉛が挙げられる。
【0045】
金属酸化物としては、グリコール酸塩の収率の観点から、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛が好ましくグリコール酸塩の収率を顕著に高めることができるので、酸化セリウムがさらに好ましい。
【0046】
塩基としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属の水溶性塩、アルカリ土類金属の水溶性塩が挙げられる。
【0047】
工程(2)において用いられる金属酸化物は、工程(1)において用いられる塩基と同一(同一種類)であっても異なっていてもよい。工程(1)および(2)が単一の反応器で連続的に行われる場合には、工程(1)および(2)において、同一の塩基を用いることが好ましい。
【0048】
アルカリ金属の水溶性塩の例としては、アルカリ金属の水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、亜硫酸塩、酸性亜硫酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が挙げられる。
【0049】
アルカリ土類金属の水溶性塩の例としては、アルカリ土類金属の水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、亜硫酸塩、酸性亜硫酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が挙げられる。
【0050】
塩基は、好ましくはアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の炭酸塩であり、より好ましくは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである。
【0051】
(iii)反応条件
ホルムアルデヒドの使用量(モル量)は、シアン化水素およびシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の使用量(モル量)に対して、好ましくは、0.5~2であり、より好ましくは、0.8~1.2であり、さらに好ましくは0.95~1.10である。
【0052】
金属酸化物および塩基からなる群から選ばれる少なくとも1つ化合物の使用量は、シアン化水素およびシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物100質量部に対して、通常、0.00001~1000質量部であり、好ましくは、0.001~100質量部である。
【0053】
工程(2)における反応時間は、添加する触媒量と反応温度とを考慮して決定すればよい。反応時間は、撹拌槽流通方式の場合には、好ましくは10~300分間であり、より好ましくは10~50分間であり、さらに好ましくは15~40分間の範囲である。流通方式、管型反応方式の場合の反応時間は、好ましくは10~300分間であり、より好ましくは10~50分間であり、さらに好ましくは15~40分間の範囲である。工程(1)および工程(2)を単一の反応器で行う場合、反応時間は工程(1)の収率に基づいて決定することができる。
【0054】
反応温度は、上記の触媒添加量および反応時間を考慮して決定すればよい。反応温度は、20~100℃の範囲が好ましく、より好ましくは、40~90℃の範囲である。
【0055】
反応圧力は、好ましくは0~1.0MPa/Gの範囲である。
【0056】
工程(2)において、塩基は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。塩基の使用量は、金属酸化物100質量部に対して、通常、0.001~100000質量部であり、好ましくは、0.01~10000質量部である。また、塩基のモル使用量は、シアン化水素およびシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物のモル使用量に対して、通常、0.01~4の範囲である。
【0057】
工程(2)に適用できる反応器としては、例えば、攪拌槽流通方式、流通方式、管型反応方式、およびこれらを組み合わせた方式の反応器が挙げられる。
【0058】
既に説明した工程(1)と工程(2)とは、個別にそれぞれ別々の反応器で行ってもよいし、単一の反応器で行ってもよい。工程(1)と工程(2)とは単一の反応器で行うことが好ましい。工程(1)および工程(2)は単一の反応器で、かつ連続的に行うこともできる。
【0059】
工程(2)においては、例えば、攪拌槽流通方式の吸収槽(反応器)にて、ホルムアルデヒド水溶液に、シアン化水素およびシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を吸収させてもよいし、吸収槽において純水にシアン化水素およびシアン化物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を吸収させた水溶液である吸収液としたのち、ホルムアルデヒド(水溶液)と混合させてもよい。また、回分式反応方式の反応器に、シアン化水素とホルムアルデヒド水溶液とをそれぞれ加えてもよいし、流通方式の管型反応器にシアン化水素とホルムアルデヒド水溶液とをそれぞれ加えてもよい。
【0060】
金属酸化物および塩基からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物は、予め水溶液としておき、吸収槽内の吸収液やホルムアルデヒド水溶液に加えてもよい。
【0061】
3.工程(3)
本実施形態にかかるグリコール酸の製造方法は、既に説明したグリコール酸塩の製造方法で得られたグリコール酸塩からグリコール酸を得る工程(3)を含む。
【0062】
すなわち、本実施形態にかかるグリコール酸の製造方法においては、上記工程(1)または上記工程(1)および工程(2)を含むグリコール酸塩の製造方法行った後に、当該グリコール酸塩の製造方法により得られたグリコール酸塩からグリコール酸を得る工程(3)が行われる。
【0063】
工程(3)としては、例えば、上記工程(1)または工程(1)および(2)が実施された反応器に、酸(例えば、10質量%の塩酸)を直接的に加えることによりpHを酸性(例えばpH3.8程度)に調整することによりグリコール酸塩からグリコール酸を得る方法、水素イオン型の陽イオン交換樹脂に得られたグリコール酸塩の水溶液を接触させる方法、グリコール酸塩を一旦エステル化合物に変換してエステル化合物を分離した後、加水分解を行ってグリコール酸を得る方法、電気透析法によってグリコール酸を得る方法が挙げられる。
【0064】
工程(3)としては、これらの中でも、工程をより簡便にする観点からは、上記工程(1)または工程(1)および(2)が実施された反応器に、酸を直接的に加える工程とすることが好ましく、塩等の廃棄物量を低減する観点からは、電気透析法によってグリコール酸を得る方法を採用することが好ましい。
【0065】
上記工程(1)または工程(1)および(2)が実施された反応器に、酸を直接的に加える工程とする場合に、用いられうる酸の例としては、塩酸、硫酸、酢酸および炭酸が挙げられる。酸としては、塩酸を用いることが好ましい。
【0066】
工程(3)において、水素イオン型の陽イオン交換樹脂を用いる方法を採用する場合には、水素イオン型の陽イオン交換樹脂として、弱酸性陽イオン交換樹脂または強酸性陽イオン交換樹脂を用いることができる。
【0067】
工程(3)において、未使用の水素イオン型の陽イオン交換樹脂を使用する場合には、使用するにあたり水素イオン型の陽イオン交換樹脂の前処理と水洗を充分に行っておくことが好ましい。水素イオン型の陽イオン交換樹脂の前処理は、具体的には、酸と塩基とで交互に洗浄するなどして行うことができる。
【0068】
また、工程(3)において一度適用された水素イオン型の陽イオン交換樹脂を再生して再使用する場合には、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等を用いて処理することにより再生することができ、この場合には硫酸を用いて処理することが好ましく、具体的には例えば、硫酸を水素イオン型の陽イオン交換樹脂に通液し、液中に残る酸を純水で押し出すことによって行うことができる。
【0069】
水素イオン型の陽イオン交換樹脂を用いた場合の処理の時間は、バッチ式の場合、好ましくは3~60分間であり、より好ましくは6~30分間である。
【0070】
水素イオン型の陽イオン交換樹脂を用いて連続式で処理する場合、通液速度は、液空間速度((L/Hr)L-陽イオン交換樹脂)において、好ましくは0.1~100の範囲であり、より好ましくは1~10の範囲である。
【0071】
水素イオン型の陽イオン交換樹脂を用いた場合の処理の温度は、好ましくは5~70℃の範囲であり、より好ましくは20~50℃の範囲である。
【0072】
グリコール酸塩を一旦エステル化合物に変換してエステル化合物を分離した後、加水分解によりグリコール酸を得る方法としては、従来公知の方法を用いることができる。
【0073】
電気透析法の例としては、バイポーラ膜と陰イオン交換膜または陽イオン交換膜とを使用する二室式電気透析法、バイポーラ膜と陰イオン交換膜と陽イオン交換膜とを使用する三室式電気透析法が挙げられる。
【0074】
電気透析法に用いられる電気透析装置の電極としては、従来公知の電極を何ら制限なく使用できる。
【0075】
電気透析装置の陽極の材料の例としては、白金、チタン/白金、カーボン、ニッケル、ルテニウム/チタン、およびイリジウム/チタンが挙げられる。また、陰極の材料の例としては、鉄、ニッケル、白金、チタン/白金、カーボン、およびステンレス鋼が挙げられる。
【0076】
電気透析法に用いられうるバイポーラ膜は特に限定されない。バイポーラ膜としては、従来公知のバイポーラ膜、例えば、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とが貼り合わされた積層構造を有するバイポーラ膜を使用することができる。
【0077】
バイポーラ膜を構成する陽イオン交換膜が有しうる陽イオン交換基は特に限定されない。陽イオン交換基の例としては、スルホ基、カルボキシ基が挙げられる。陽イオン交換基は、好ましくはスルホ基である。
【0078】
陰イオン交換膜の陰イオン交換基は特に限定されない。陰イオン交換基の例としては、アンモニウム基、ピリジニウム基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基が挙げられる。陰イオン交換基としては、好ましくはアンモニウム基である。
【0079】
電気透析法に用いられうる陽イオン交換膜は特に限定されない。陽イオン交換膜としては、従来公知の陽イオン交換膜を用いることができる。陽イオン交換膜としては、例えば、スルホ基、カルボキシ基、さらにはこれらのイオン交換基が複数混在した陽イオン交換膜を使用することができる。
【0080】
電気透析法に用いられうる陰イオン交換膜は特に限定されない。陰イオン交換膜としては、従来公知の陰イオン交換膜を用いることができる。陰イオン交換膜としては、例えば、アンモニウム基、ピリジニウム基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、さらにこれらのイオン交換基が複数混在した陽イオン交換膜を使用することができる。
【0081】
電気透析法における温度は、好ましくは5~70℃の範囲であり、より好ましくは20~50℃の範囲である。
【0082】
また、電気透析法における電流密度は、特に制限されない。電流密度は、好ましくは0.1~100A/dm2の範囲であり、より好ましくは、2~20A/dm2の範囲である。イオン交換膜の膜間隔は、一般的に適用されている間隔とすることができる。イオン交換膜の膜間隔は、好ましくは0.01~10mmの範囲であり、より好ましくは0.05~1.50mmの範囲である。
【0083】
工程(3)によって得られたグリコール酸は、さらなる精製処理を行うことなくそのまま所望の用途に適用することができる。
【0084】
また、工程(3)によって得られたグリコール酸について、精密濾過膜(MF)、限外濾過膜(UF)、活性炭等の吸着剤、陰イオン交換樹脂を用いる単独またはこれらを組み合わせたさらなる単離精製処理を行ってもよく、また得られたグリコール酸が含有する水分を除去して濃縮するなどのさらなる処理を行うことにより精製されたグリコール酸を所望の用途に適用することもできる。
【0085】
本実施形態の製造方法によって製造されたグリコール酸塩から得られたグリコール酸は、さらなる化合物の製造のための原料、化粧品、医薬品、清缶剤、洗浄剤などの種々の用途に好適に適用することができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例、および、比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
<実施例1>
酸化セリウム(第一稀元素化学工業株式会社製、商品名:酸化セリウムHS)100質量部と、水430質量部と、20質量%水酸化カリウム水溶液200質量部とを混合して混合液を得た。温度を20℃以下に保ちつつ攪拌されている混合液に、52質量%グリコロニトリル水溶液(東京化成工業製)160質量部を加えた。
さらに、得られた混合液を攪拌しながら、50℃まで昇温し、50℃に保ちつつ1時間反応させて反応液を得た。得られた反応液を15℃に冷却した後、吸引ろ過し、固体と液体とに分離した。得られた液体と、得られた固体を水で洗浄して得られた洗浄液とを混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液のpHは10.1であった。
【0088】
得られた混合溶液を、高速液体クロマトグラフィー法(高速液体クロマトグラフィー装置:島津製作所製、LC-10、カラム:Imtakt Scherzo SS-C18、カラム温度:35℃、UV検出器(波長:220nm)、溶離液:0.75質量%リン酸水溶液、溶離液供給速度:0.5mL/分)により分析した。結果として、得られたグリコール酸塩の収率は、グリコロニトリルを基準として、80%であった。
【0089】
得られた混合溶液に、10質量%塩酸(和光純薬工業製)を加え、pHを4.3に調整して得られた溶液を、ガスクロマトグラフィー分析法(ガスクロマトグラフ装置:Agilent Technologies製、7890A、カラム:DB-WAX)およびマススペクトル分析法(質量分析計:Agilent Technologies製、5975C)により分析した。
【0090】
結果として、下記表1に示されるマススペクトルのピーク(m/z値に対応する規格化されたピーク強度比)が観測されたことから、グリコール酸が得られていることが確認できた。また、下記表2に示されるマススペクトルのピークが観測されたことから、下記スキームのとおりグリコールアミドが生成していることも確認できた。実施条件および結果を下記表6にも示す。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
<実施例2>
実施例1における「水430質量部」を「水270質量部」に変更し、さらに「52質量%グリコロニトリル水溶液160質量部」を「30質量%グリコールアミド水溶液360重量部」(グリコールアミド:シグマ-アルドリッチ製)に変更した以外は実施例1と同様にして、下記スキームのとおり反応させ、さらには固液分離を行って混合溶液を得た。得られた混合溶液のpHは10.1であった。
【0095】
【0096】
得られた混合溶液について、実施例1と同様にして、高速液体クロマトグラフィー法分析した。結果として、得られたグリコール酸塩の収率は、グリコールアミドを基準として、81%であった。
【0097】
得られた混合溶液に、10質量%塩酸(富士フィルム和光純薬工業株式会社製)を加え、pHを3.3に調整した。得られた溶液を、実施例1と同様にして、ガスクロマトグラフィー分析法およびマススペクトル分析法により分析した。
結果として、下記表3に示されるマススペクトルのピークが観測されたことから、グリコール酸が得られていることが確認できた。また、実施例1で生成していたグリコールアミドは、グリコロニトリルからグリコール酸塩に至る反応における反応中間体であることがわかった。実施条件および結果を下記表6にも示す。
【0098】
【0099】
<実施例3>
酸化セリウム(第一稀元素化学工業株式会社製、商品名:酸化セリウムHS)100質量部と、水430質量部と、20質量%水酸化カリウム水溶液200質量部とを混合して混合液を得た。温度を10℃以下に保ちつつ攪拌されている混合液に、シアン化水素40質量部を加えた。温度を15℃以下に保ちながら攪拌されている混合液に、37質量%ホルムアルデヒド水溶液(富士フィルム和光純薬株式会社製、試薬特級)120質量部を加えた。得られた混合液を攪拌しながら、50℃まで昇温し、50℃に保ちつつ1時間、下記スキームのとおり反応させて反応液を得た。得られた反応液を15℃に冷却した後、吸引ろ過し、固体と液体とに分離した。得られた液体と、得られた固体を水で洗浄して得られた洗浄液とを混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液のpHは9.8であった。実施条件および結果を下記表6にも示す。
【0100】
【0101】
得られた混合溶液を、実施例1と同様に高速液体クロマトグラフィー法により分析した。結果として、得られたグリコール酸塩の収率は、ホルムアルデヒドを基準として、79%であった。
【0102】
得られた混合溶液に、10質量%塩酸(富士フィルム和光純薬工業株式会社製)を加え、pHを3.8に調整して得られた溶液を、実施例1と同様にガスクロマトグラフィー法およびマススペクトル分析法により分析した。
【0103】
結果として、下記表4に示されるマススペクトルのピークが観測されたことから、グリコール酸が得られていることが確認できた。また、下記表5に示されるマススペクトルのピークが観測されたことから、反応中間体としてグリコールアミドが生成していることも確認できた。また、実施例3の結果から、生成したグリコールアミドはホルムアルデヒドとシアン化水素とからグリコール酸塩に至る反応における反応中間体であることがわかった。実施条件および結果を下記表6にも示す。
【0104】
【0105】
【0106】
<実施例4>
実施例3において、ホルムアルデヒド水溶液を加えて得られた混合液を、70℃まで昇温し、70℃で4時間反応させた以外は、実施例3と同様にして混合溶液を得た。
【0107】
得られた混合溶液を、実施例1と同様にして、高速液体クロマトグラフィー法により分析した。結果として、得られたグリコール酸塩の収率は、ホルムアルデヒドを基準として、99%であった。実施条件および結果を下記表6にも示す。
【0108】
<実施例5>
実施例3において、酸化セリウムの代わりに酸化ジルコニウム(第一稀元素化学工業株式会社製、商品名:RC-100酸化ジルコニウム)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、混合溶液を得た。
【0109】
得られた混合溶液を、実施例1と同様に高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、得られたグリコール酸塩の収率は、ホルムアルデヒドを基準として、23%であった。実施条件および結果を下記表7にも示す。
【0110】
<実施例6>
実施例3において、酸化セリウムの代わりに酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、商品名:FINEX-30)を用いた以外は、実施例3と同様にして、混合溶液を得た。
【0111】
得られた混合溶液を、実施例1と同様にして、高速液体クロマトグラフィー法により分析した。結果として、得られたグリコール酸塩の収率は、ホルムアルデヒドを基準として、19%であった。実施条件および結果を下記表7にも示す。
【0112】
<実施例7>
実施例3において、「水430質量部」を「水470質量部」に変更し、さらに「20質量%水酸化カリウム水溶液200質量部」を「20質量%水酸化ナトリウム水溶液150質量部」に変更した以外は、実施例3と同様にして、混合溶液を得た。
【0113】
得られた混合溶液を、実施例1と同様にして、高速液体クロマトグラフィー法により分析した。結果として、得られたグリコール酸塩の収率は、ホルムアルデヒドを基準として、84%であった。実施条件および結果を下記表7にも示す。
【0114】
【0115】