(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】硬化性有機ケイ素樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20231127BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20231127BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20231127BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20231127BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231127BHJP
C08K 3/11 20180101ALI20231127BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20231127BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K5/544
C08K5/5419
C08K3/013
C08K3/11
H01L23/30 F
(21)【出願番号】P 2020072522
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】水梨 友之
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/016000(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/094625(WO,A1)
【文献】特開2005-042099(JP,A)
【文献】特開2011-057755(JP,A)
【文献】特開2017-115116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する有機ケイ素化合物、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を有する有機ケイ素化合物:前記(A)成分のアルケニル基1molに対して、前記(B)成分のSiH基が0.1~4.0molとなる量、
(C)白金族金属系触媒、
(D)金属腐食防止剤として、下記一般式(1)で示されるシリル化イソシアヌレート化合物、
を含み、前記(A)成分が、
(A1)SiO
4/2単位、もしくはR
4SiO
3/2単位の少なくともいずれかを含み(R
4は炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基である。)、
1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するレジン状のオルガノポリシロキサンであることを特徴とする硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【化1】
(前記一般式(1)中、Rは独立して、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、下記一般式(2-a)、または下記式(2-b)で示される基のいずれかから選択される置換基であり、前記Rの少なくとも1つは下記一般式(2-b)である。)
【化2】
【化3】
(前記一般式(2-a)~(2-b)中、R
1は水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示す。qは1~10の整数を示す。R
2は互いに独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、および下記一般式(3)で示される基のいずれかから選択される置換基であり、R
2の少なくとも1つは下記一般式(3)であり、R
4は、水素原子、またはOR
2である。)
【化4】
(前記一般式(3)中、R
3は互いに独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~10のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基のいずれかから選ばれる置換基を示す。)
【請求項2】
前記(A1)成分が、
0~60mol%のSiO
4/2単位、
0~90mol%のR
4SiO
3/2単位、
0~50mol%の(R
4)
2SiO
2/2単位及び、
10~50mol%の(R
4)
3SiO
1/2単位からなり、
前記SiO
4/2単位と前記R
4SiO
3/2単位の和が50mol%以上であるオルガノポリシロキサンであって、
前記オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が1,000~5,000であり、
1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、
前記オルガノポリシロキサンは、前記SiO
4/2単位、前記R
4SiO
3/2単位、前記(R
4)
2SiO
2/2単位及び前記(R
4)
3SiO
1/2単位に由来する、縮合せずに一部残存するケイ素原子に結合した水酸基及びアルコキシ基を有し、
前記水酸基の量が0.001~1.0mol/100gであり、
炭素数が1~10のケイ素原子に結合した前記アルコキシ基の量が1.0mol/100g以下であるレジン状のオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1に記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分は、前記(A1)成分に加えて更に、
(A2)1分子中に2個以上の炭素数2~10のケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、
JIS K 7117-1:1999記載の方法で測定した、25℃での粘度が10~100,000mPa・sである直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A1)成分と前記(A2)成分の配合量が、前記(A1)及び前記(A2)成分の合計量を100質量%とした時、
前記(A1)成分が5
質量%以上100質量%
未満であることを特徴とする請求項3に記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項5】
さらに(E)成分として下記一般式(4)で示される環状シロキサンを含有し、前記一般式(4)で示される環状シロキサンは、前記(A)成分及び前記(B)成分の合計質量に対して、0.1~30質量%であって、
前記硬化性有機ケイ素樹脂組成物中の全アルケニル基1molあたり、前記硬化性有機ケイ素樹脂組成物中の全ヒドロシリル基の量が0.1~4.0molとなる量を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【化5】
(上記一般式(4)中、R
5は独立して、水素原子、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基であり、rは1もしくは2の整数である。)
【請求項6】
前記硬化性有機ケイ素樹脂組成物が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸バリウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸バリウムから選ばれる少なくとも1種の無機白色顔料を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性有機ケイ素樹脂組成物の硬化物及び半導体素子を備える半導体装置。
【請求項8】
前記硬化物の厚さが1mmで、波長450nmにおける前記硬化物の直達光透過率が70%以上のものであることを特徴とする請求項7記載の半導体装置。
【請求項9】
前記半導体素子が発光素子であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性有機ケイ素樹脂組成物及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光半導体装置は、屋外照明または車載用照明等のLED照明として使用されている。そのような光半導体装置の封止材には、一般的にシリコーン樹脂などのガス又は水分の透過性が高い樹脂が使用されている。そのため、屋外などの過酷な環境下においては、光半導体装置の電極または反射層として使用されている銀めっき層が、硫黄系のガス又は水分によって腐食し、輝度が大きく低下するという問題がある。
【0003】
この対策として、フェニル基等の芳香族系置換基の導入による高屈折率化及びガスバリア性の向上が検討されているが(特許文献1-2)、芳香族系置換基を導入すると、耐熱性が悪化するといった問題がある。
【0004】
また、金属を腐食させないための腐食防止剤としては、たとえばベンゾトリアゾールや5-メチルベンズイミダゾールといったN含有芳香族炭化水素類の化合物、または亜鉛等の金属錯体が知られており、これらの腐食防止剤添加による試みも検討されている。しかしながら、腐食防止剤、金属配位子の変色により、樹脂の耐熱性が大きく低下するという問題がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-088513号公報
【文献】国際公開WO2013/005859号公報
【文献】特開2012-056251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、耐熱性・耐硫化性に優れたシリル化イソシアヌレート化合物含有硬化性有機ケイ素樹脂組成物及び半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する有機ケイ素化合物、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を有する有機ケイ素化合物:前記(A)成分のアルケニル基1molに対して、前記(B)成分のSiH基が0.1~4.0molとなる量、
(C)白金族金属系触媒、
(D)金属腐食防止剤として、下記一般式(1)で示されるシリル化イソシアヌレート化合物、
を含むものである硬化性有機ケイ素樹脂組成物を提供する。
【化1】
(前記一般式(1)中、Rは独立して、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、下記一般式(2-a)、または下記式(2-b)で示される基のいずれかから選択される置換基であり、前記Rの少なくとも1つは下記一般式(2-b)である。)
【化2】
【化3】
(前記一般式(2-a)~(2-b)中、R
1は水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示す。qは1~10の整数を示す。R
2は互いに独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、および下記一般式(3)で示される基のいずれかから選択される置換基であり、R
2の少なくとも1つは下記一般式(3)であり、R
4は、水素原子、またはOR
2である。)
【化4】
(前記一般式(3)中、R
3は互いに独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~10のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基のいずれかから選ばれる置換基を示す。)
【0008】
このようなシリル化イソシアヌレート化合物を添加剤として含む付加反応硬化型シリコーン組成物によれば、耐熱性、耐硫化性に優れた硬化物を与えることができる。
【0009】
このとき、前記(A)成分が、
(A1)SiO4/2単位、もしくはR4SiO3/2単位の少なくともいずれかを含み(R4は炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基である。)、
1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するレジン状のオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0010】
またこのとき、前記(A1)成分が、
0~60mol%のSiO4/2単位、
0~90mol%のR4SiO3/2単位、
0~50mol%の(R4)2SiO2/2単位及び、
10~50mol%の(R4)3SiO1/2単位からなり、
前記SiO4/2単位と前記R4SiO3/2単位の和が50mol%以上であるオルガノポリシロキサンであって、
前記オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が1,000~5,000であり、
1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、
前記オルガノポリシロキサンは、前記SiO4/2単位、前記R4SiO3/2単位、前記(R4)2SiO2/2単位及び前記(R4)3SiO1/2単位に由来する、縮合せずに一部残存するケイ素原子に結合した水酸基及びアルコキシ基を有し、
前記水酸基の量が0.001~1.0mol/100gであり、
炭素数が1~10のケイ素原子に結合した前記アルコキシ基の量が1.0mol/100g以下であるレジン状のオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0011】
このようにすれば、組成物が脆くなる恐れがなく、また流動しなくなる恐れがない。また、ケイ素原子に結合した水酸基の量が0.001mol/100g以上であれば、十分な接着性を確保でき、1.0mol/100g以下であれば保存安定性の低下や表面タックを起こさない。また、アルコキシ基の量が1.0mol/100g以下であれば、硬化時に副生成物のアルコールガスが発生しづらく、硬化物にボイドが残る恐れもない。
【0012】
このとき、前記(A)成分は、前記(A1)成分に加えて更に、
(A2)1分子中に2個以上の炭素数2~10のケイ素原子結合アルケニル基を有し、
JIS K 7117-1:1999記載の方法で測定した、25℃での粘度が10~100,000mPa・sである直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンを含むことが好ましい。
【0013】
このようにすれば、用途に合わせて粘度及び硬度を調製することができる。また、粘度が10mPa・s以上であれば、組成物が脆くなる恐れがよりなく、100,000mPa・s以下であれば、作業性が悪くなる恐れがよりない。
【0014】
このとき、前記(A1)成分と前記(A2)成分の配合量が、前記(A1)及び前記(A2)成分の合計量を100質量%とした時、前記(A1)成分が5~100質量%であることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、諸特性が向上し、取り扱い性に優れる。
【0016】
さらに(E)成分として下記一般式(4)で示される環状シロキサンを含有し、前記一般式(4)で示される環状シロキサンは、前記(A)成分及び前記(B)成分の合計質量に対して、0.1~30質量%であって、
前記硬化性有機ケイ素樹脂組成物中の全アルケニル基1molあたり、前記硬化性有機ケイ素樹脂組成物中の全ヒドロシリル基の量が0.1~4.0molとなる量を含有することが好ましい。
【化5】
(上記一般式(4)中、R
5は独立して、水素原子、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基であり、rは1もしくは2の整数である。)
【0017】
このように、(E)成分を添加することによって粘度、硬化性及び硬化特性の調整効果を付与することができる。
【0018】
このとき本発明の組成物は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸バリウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸バリウムから選ばれる少なくとも1種の無機白色顔料を含むことが好ましい。
【0019】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は耐候性、透明性に優れるため、上記の化合物を好適に用いることができる。
【0020】
また、硬化性有機ケイ素樹脂組成物の硬化物及び半導体素子を備える半導体装置を提供する。
【0021】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物であれば、耐硫化性、機械特性、透明性、耐クラック性、耐熱性に優れた硬化物を与えるため、発光半導体装置のレンズ用素材、保護コート剤、モールド剤等に好適であり、特に青色LEDや白色LED、紫外LED等のLED素子封止用として有用なものである。また、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は耐熱性に優れるため、シリケート系蛍光体や量子ドット蛍光体を添加して波長変換フィルム用素材として使用する際にも、高湿下での長期信頼性が確保でき、耐湿性、長期演色性が良好な発光半導体装置を提供することができる。
【0022】
このとき、前記硬化物の厚さが1mmで、波長450nmにおける前記硬化物の直達光透過率が70%以上のものであることが好ましい。
【0023】
このような直達光透過率を有する硬化物を与えるものであれば、透明性に優れるため、LEDの封止材などの光学用途に特に好適に用いることができる。
【0024】
このとき、前記半導体素子が発光素子であることが好ましい。
【0025】
本発明は、発光素子に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物によれば、シリル化イソシアヌレート化合物を添加剤として含む付加反応硬化型シリコーン組成物(硬化性有機ケイ素樹脂組成物)は、機械特性、透明性、耐クラック性、耐熱性、耐硫化性に優れた硬化物を与えることができる。また、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物の硬化物及び半導体素子を備える半導体装置は、発光半導体装置のレンズ用素材、保護コート剤、モールド剤等に好適であり、また高湿下での長期信頼性が確保でき、耐湿性、長期演色性が良好な発光半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する有機ケイ素化合物、
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を有する有機ケイ素化合物:前記(A)成分のアルケニル基1molに対して、前記(B)成分のSiH基が0.1~4.0molとなる量、
(C)白金族金属系触媒、
(D)金属腐食防止剤として、下記一般式(1)で示されるシリル化イソシアヌレート化合物
【化6】
(前記一般式(1)中、Rは独立して、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、下記一般式(2-a)、または下記式(2-b)で示される基のいずれかから選択される置換基であり、前記Rの少なくとも1つは下記一般式(2-b)である。)
【化7】
【化8】
(前記一般式(2-a)~(2-b)中、R
1は水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示す。qは1~10の整数を示す。R
2は互いに独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、および下記一般式(3)で示される基のいずれかから選択される置換基であり、R
2の少なくとも1つは下記一般式(3)であり、R
4は、水素原子、またはOR
2である。)
【化9】
(前記一般式(3)中、R
3は互いに独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~10のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基のいずれかから選ばれる置換基を示す。)
を含む硬化性有機ケイ素樹脂組成物を使用することで、高い反応抑制効果を示し、高温高湿条件下で安定な硬化性オルガノポリシロキサン樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を成すに至った。
【0028】
[(A)アルケニル基含有有機ケイ素化合物]
本発明の(A)成分であるアルケニル基含有有機ケイ素化合物は、1分子中に少なくとも2個、好ましくは2~5個のアルケニル基を有することを特徴とする。上記アルケニル基はヒドロシリル基と付加反応可能であることが好ましい。
【0029】
上記(A)成分は、後述する(A2)成分である直鎖状オルガノポリシロキサンまたは分岐鎖状オルガノポリシロキサン、及び後述する(A1)成分であるレジン状(網目鎖状)オルガノポリシロキサンのいずれでも良く、それぞれを単独で用いても2種以上を併用しても良いが、(A1)レジン状(網目鎖状)オルガノポリシロキサンを含むことが好ましい。また(A1)成分及び(A2)成分を共に含むことが更に好ましい。以下それぞれについて詳述する。
【0030】
[(A1)レジン状(網目鎖状)オルガノポリシロキサン]
本発明の(A1)成分は、SiO4/2単位もしくはR4SiO3/2単位の少なくともいずれかを含み(R4は炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基である。)、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するレジン状(網目鎖状)オルガノポリシロキサンは、重量平均分子量(Mw)が1,000~5,000であることが好ましく、より好ましくは1,100~3,000である。分子量(Mw)が1,000以上であれば、組成物が脆くなる恐れがなく、分子量(Mw)が5,000以下であれば組成物の粘度が高くなり流動しなくなる恐れがない。
【0031】
炭素数1~10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。また、炭素数2~10のアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。
【0032】
炭素数2~10、好ましくは2~5のアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等が挙げられビニル基が好ましい。上記アルケニル基は、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合しており、2~5個が好ましい。
【0033】
炭素数6~10、好ましくは6~8のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられ、フェニル基が好ましい。前記アリール基は、1分子中に1個以上有することが好ましく、2~100個がより好ましい。
【0034】
なお、本発明における重量平均分子量(Mw)とは、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした重量平均分子量を指すこととする。
【0035】
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、
流量:0.6mL/min、
検出器:示差屈折率検出器(RI)、
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L、
TSKgel SuperH4000(6.0mmI.D.×15cm×1)、
TSKgel SuperH3000(6.0mmI.D.×15cm×1)、
TSKgel SuperH2000(6.0mmI.D.×15cm×2)、
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃、
試料注入量:20μL(濃度0.5質量%のTHF溶液)。
【0036】
さらに(A1)成分に含まれるアルケニル基の量は通常、0.01~0.5mol/100gであり、好ましくは0.05~0.3mol/100g、より好ましくは0.10~0.25mol/100gである。
ケイ素原子に結合したアルケニル基の量が0.01mol/100g以上であれば、組成物が固まるのに十分な架橋点を有し、0.5mol/100g以下であれば、架橋密度が上がり過ぎて靱性を失ってしまう恐れがないため好ましい。
【0037】
さらに(A1)成分はケイ素原子に結合した水酸基の量が通常、0.001~1.0mol/100gであることが好ましく、より好ましくは0.005~0.8mol/100g、更に好ましくは0.008~0.6mol/100gである。
ケイ素原子に結合した水酸基の量が0.001mol/100g以上であれば、十分な接着性を確保でき、1.0mol/100g以下であれば保存安定性の低下や表面タックを起こさないため好ましい。
【0038】
さらに(A1)成分は通常、炭素数1~10、好ましくは1~5のケイ素原子に結合したアルコキシ基の量が1.0mol/100g以下であることが好ましく、より好ましくは0.8mol/100g以下、更に好ましくは0.5mol/100g以下である。
アルコキシ基の量が1.0mol/100g以下であれば、硬化時に副生成物のアルコールガスが発生しづらく、硬化物にボイドが残る恐れもない。
【0039】
なお、本発明におけるケイ素原子に結合した水酸基量、アルコキシ基量は1H-NMR及び、29Si-NMRによって測定された値を指すこととする。
【0040】
なお、上記ケイ素原子に結合した水酸基及びアルコキシ基は、(A1)成分のレジン状オルガノポリシロキサンを製造する際に、後述する各シロキサン単位(Q単位、T単位、D単位、M単位)を得るための材料が縮合せずに一部残存することに由来するものである。
【0041】
さらに、SiO4/2単位、もしくはR4SiO3/2単位(R4は炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基である。)の少なくともいずれかを含む(A1)成分は、通常0~60mol%、好ましくは0~50mol%のSiO4/2単位(Q単位)、通常0~90mol%、好ましくは30~80mol%のR4SiO3/2単位(T単位)、通常0~50mol%、好ましくは0~20mol%の(R4)2SiO2/2単位(D単位)及び通常0~50mol%、好ましくは10~30mol%の(R4)3SiO1/2単位(M単位)からなるレジン構造のオルガノポリシロキサンであることが好ましく、またSiO4/2単位とR4SiO3/2単位の和が50mol%以上であることが好ましく、60~90mol%であることがより好ましい。
【0042】
上記R4は独立して炭素数1~10、好ましくは2~5の置換または非置換の1価アルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、または炭素数6~10好ましくは6~8のアリール基であり、上記(A1)成分のR4SiO3/2単位(T単位)に結合した置換基R4が、少なくとも1つのフェニル基を有し、(R4)3SiO1/2単位(M単位)に結合した置換基R4の少なくとも1つが炭素数2~10のアルケニル基であることが好ましい。
【0043】
M単位、D単位、T単位中のR4は具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基;及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子やシアノ基等で置換した基、例えばクロロメチル基、シアノエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも、メチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。
【0044】
SiO4/2単位(Q単位)を得るための材料としては、例えば、ケイ酸ソーダ、テトラアルコキシシラン、またはその縮合反応物等を例示できるが、これらに限定されない。
【0045】
R4SiO3/2単位(T単位)を得るための材料としては、例えば、下記構造式で表されるオルガノトリクロロシラン、オルガノトリアルコキシシラン等の有機ケイ素化合物、又はこれらの縮合反応物等を例示できるが、これらに限定されない。
【0046】
【0047】
(R4)2SiO2/2単位(D単位)を得るための材料としては、例えば、下記構造式で表されるジオルガノジクロロシラン、ジオルガノジアルコキシシラン等の有機ケイ素化合物等を例示できるが、これらに限定されない。
【0048】
【化11】
(上記式中、Meはメチル基を示す。nは5~80の整数、mは5~80の整数であり、ただしn+m≦78である。)
【0049】
【0050】
(R4)3SiO1/2単位(M単位)を得るための材料としては、例えば、下記構造式で表されるトリオルガノクロロシラン、トリオルガノアルコキシシラン、ヘキサオルガノジシロキサン等の有機ケイ素化合物等を例示できるが、これらに限定されない。
【0051】
【0052】
[(A2)直鎖状または分岐鎖状オルガノポリシロキサン]
(A2)成分である直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンは、1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を有し、JIS K 7117-1:1999記載の方法で測定した25℃での粘度が10~100,000mPa・sである直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンである。
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物に(A2)成分を添加することにより、用途に合わせて粘度及び硬度を調製することができる。
【0053】
炭素数2~10、好ましくは2~5のアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等が挙げられビニル基が好ましい。上記アルケニル基は、1分子中に2個以上有することが好ましく、2~5個がより好ましい。
【0054】
上記オルガノポリシロキサンはJIS K 7117-1:1999記載の方法で測定した25℃での粘度が10~100,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは100~50,000mPa・s、さらに好ましくは1,000~30,000mPa・sである。
粘度が10mPa・s以上であれば、組成物が脆くなる恐れがなく、100,000mPa・s以下であれば、作業性が悪くなる恐れがない。
【0055】
上記オルガノポリシロキサンとして具体的には、以下のものを例示できるが、これらだけに限定されるものではない。
【0056】
【化14】
(上記式中、x、y、zはそれぞれ0以上の整数であり、かつx+y≧1を満たす数である。)
【0057】
【化15】
(上記式中、x、y、zはそれぞれ0以上の整数であり、かつx+y≧1を満たす数である。)
【0058】
【化16】
(上記式中、x、y、zはそれぞれ0以上の整数であり、かつx+y≧1を満たす数である。)
【0059】
【化17】
(上記式において、s、t、u、pはそれぞれ0以上の整数であり、かつs+t+u+p≧1を満たす数である。)
【0060】
このとき、(A2)成分の添加量としては、(A1)成分及び(A2)成分の合計量を100質量%とした時に0~95質量%が好ましく、5~90質量%がより好ましい。即ち、(A1)成分が5~100質量%が好ましく、より好ましくは10~95質量%である。このようにすれば、取り扱い性に優れる。
【0061】
[(B)ヒドロシリル基含有有機ケイ素化合物]
(B)成分は、1分子中に少なくとも2個、好ましくは2~5個のケイ素原子に結合した水素原子(ヒドロシリル基)を有する有機ケイ素化合物であり、(A)成分含有のアルケニル基1molに対して、(B)成分のSiH基が0.1~4.0mol、好ましくは0.5~2.0mol、さらに好ましくは0.7~1.5molとなる量を有する有機ケイ素化合物である。
【0062】
上記(B)成分は、1分子中に少なくとも2個以上のケイ素原子に結合する水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。好ましくは、1個以上のケイ素に結合したアリール基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンより選択される。また上記(B)成分は、下記平均組成式(5)で示される。
【0063】
【化18】
(式中、R
6は同一または異種の非置換もしくは置換の炭素原子数が1~10の1価炭化水素基であり、aおよびbは、好ましくは0.7≦a≦2.1、0.001≦b≦1.0、かつ0.8≦a+b≦3.0、より好ましくは1.0≦a≦2.0、0.01≦b≦1.0、かつ1.5≦a+b≦2.5を満足する正数である。)
【0064】
R6としては、例えば、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等の飽和脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の飽和環式炭化水素基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などの芳香族炭化水素基、これらの基の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子で置換したもの、例えば、トリフルオロプロピル基、クロロプロピル基等のハロゲン化炭化水素基などが挙げられる。これらの中では、炭素数1~5のメチル基、エチル基、プロピル基等の飽和炭化水素基、並びにフェニル基が好ましい。
【0065】
上記(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に結合した水素原子(ヒドロシリル基)を少なくとも2個(通常、2~200個)、好ましくは3個以上(通常、3~100個)含有する。(B)成分は、(A)成分と反応し、架橋剤として作用する。
【0066】
上記(B)成分の分子構造は特に制限されず、例えば、線状、環状、分岐状、三次元網目状(レジン状)等の、いずれの分子構造でも(B)成分として使用することができる。
上記(B)成分が線状構造を有する場合、ヒドロシリル基は、分子鎖末端および分子鎖側鎖のどちらか一方でのみケイ素原子に結合していても、その両方でケイ素原子に結合していてもよい。また、1分子中のケイ素原子の数(または重合度)が、通常、2~200個、好ましくは3~100個程度であり、室温(25℃)において液状又は固体状であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが使用できる。
【0067】
上記平均組成式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C6H5)3SiO1/2単位とからなる共重合体などが挙げられる。
また、下記構造で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンも用いることができるが、これらだけに限定されるものではない。
【0068】
【化19】
(上記式中、u、v、wは正の整数であり、v≧2である。)
【0069】
(B)成分の添加量は、有機ケイ素樹脂組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基1mol当たり、(B)成分中のヒドロシリル基の量が0.1~4.0mol、好ましくは0.5~3.0mol、より好ましくは0.8~2.0molとなる量である。
(B)成分の添加量が、(B)成分中のヒドロシリル基の量が0.1molより少なくなる量であると、本発明の組成物の硬化反応が進行せず、シリコーン硬化物を得ることが困難である。また得られる硬化物も架橋密度が低くなりすぎ、機械強度が不足し、耐熱性が悪影響を受ける。一方、添加量が上記ヒドロシリル基の量が4.0molより多くなる量であると、未反応のヒドロシリル基が硬化物中に多数残存するために、物性の経時変化の発現や硬化物の耐熱性の低下などを引き起こす。更に、硬化物中に脱水素反応による発泡が生じる原因となる。
【0070】
[(C)白金族金属系触媒]
本発明の(C)成分の白金族金属系触媒は、本発明の組成物の付加硬化反応を生じさせるため配合されるものであり、白金系、パラジウム系、ロジウム系のものがある。白金族金属系触媒としてはヒドロシリル化反応を促進するものとして従来公知であるいずれのものも使用することができる。コスト等を考慮して、白金、白金黒、塩化白金酸などの白金系のもの、例えば、H2PtCl6・p’H2O,K2PtCl6,KHPtCl6・p’H2O,K2PtCl4,K2PtCl4・p’H2O,PtO2・p’H2O,PtCl4・p’H2O,PtCl2,H2PtCl4・p’H2O(ここで、p’は正の整数)等や、これらと、オレフィン等の炭化水素、アルコール又はビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体等を例示することができる。これらの触媒は1種単独でも、2種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0071】
(C)成分の配合量は、硬化のための有効量でよく、通常、上記(A)成分及び上記(B)成分の合計量に対して白金族金属として質量換算で0.1~500ppm、特に好ましくは0.5~100ppmの範囲である。
【0072】
[(D)金属腐食防止剤]
本発明の(D)成分の金属腐食防止剤は、下記一般式(1)で示されるシリル化イソシアヌレート化合物である。
【0073】
【化20】
(上記一般式(1)中、Rは独立して、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、下記一般式(2-a)、または下記式(2-b)で示される基のいずれかから選択される置換基であり、前記Rの少なくとも1つは下記一般式(2-b)である。)
【0074】
【0075】
【化22】
(上記一般式(2-a)~(2-b)中、R
1は水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示す。qは1~10の整数を示す。R
2は互いに独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、および下記一般式(3)で示される基のいずれかから選択される置換基であり、R
2の少なくとも1つは下記一般式(3)であり、R
4は、水素原子、またはOR
2である。)
【0076】
【化23】
(上記一般式(3)中、R
3は互いに独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~10のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基のいずれかから選ばれる置換基を示す。)
【0077】
ここで上記Rにおける炭素数1~10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。また、炭素数2~10のアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。
Rとしては、上記一般式(1)中の少なくとも1つが上記一般式(2-b)であることを特徴とし、残りのRが、水素原子、メチル基、アリル基、上記一般式(2-a)または上記一般式(2-b)である。より好ましくは、残りのRが上記一般式(2-a)または上記一般式(2-b)である。
【0078】
上記一般式(2-a)及び(2-b)中のR1は、それぞれ水素原子または炭素数1~8のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。中でも、水素原子、またはメチル基が好ましい。
【0079】
また、上記一般式(2-a)および(2-b)中のR2は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、および上記一般式(3)で示される基のいずれかから選ばれる基である。また、R2における炭素数1~10のアルキル基の例としては、上記Rで例示したものと同じものを挙げることができる。R2としては、上記一般式(2-b)中の少なくとも1つが、上記式(3)で示される基であることを特徴とし、残りのR2が水素原子、メチル基、または上記式(3)で示される基が好ましい。
【0080】
上記一般式(3)中、R3は互いに独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~10のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基のいずれかから選ばれる置換基を示す。
【0081】
ここで炭素数1~10のアルキル基の例としては、上記Rで例示したものと同じものを挙げることができる。また、炭素数1~10のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキソキシ基、ヘプトキシ基、オクトキシ基などが挙げられる。また、炭素数2~10のアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等が挙げられる。さらに、炭素数6~10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基やベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。これらの中でもメチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。
【0082】
上記一般式(2-a)および(2-b)においてqはそれぞれ1~10の整数であり、好ましくは1~8の整数であり、より好ましくは1~5の整数である。
【0083】
上記一般式(1)で表されるシリル化イソシアヌレート化合物としては、例えば、下記式で表される化合物があげられる。
【0084】
【0085】
[シリル化変性イソシアヌレート化合物の製造方法]
本発明のシリル化変性イソシアヌレート化合物は、例えば、トリグリシジルイソシアヌレートとクロロシランおよびアルコキシシランとを加水分解反応させることにより製造することができる。加水分解反応の条件は、適宜調整されればよい。例えば、エポキシ基とトリメチルクロロシランとの反応比はmol比で1:1である。
【0086】
上記シリル化イソシアヌレート化合物は、金属の腐食防止剤として優れた効果を発揮することができる。該シリル化イソシアヌレート化合物を腐食防止剤として使用する際には、樹脂組成物に対して0.001~5質量%、好ましくは0.01~3質量%となる量で添加すればよい。
【0087】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は上記(A)~(D)成分に加えて、下記(E)、(F)成分を加えることができる。
【0088】
[(E)環状ポリシロキサン]
(E)成分は、下記一般式(4)で示される環状ポリシロキサンである。この環状ポリシロキサンは、本発明の組成物に添加することによって粘度、硬化性及び硬化特性の調整効果を付与するものである。
【0089】
【化25】
(上記一般式(4)中、R
5は独立して、水素原子、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数6~10のアリール基であり、rは1もしくは2の整数である。)
【0090】
上記R5の炭素数1~10、好ましくは1~5のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などが挙げられ、炭素数2~10、好ましくは2~10のアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等が挙げられ、炭素数6~10、好ましくは6~8の芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。R5としては、中でも水素原子、ビニル基、メチル基、フェニル基が好ましいが、水素原子とビニル基は1分子中に同時に存在しない。
【0091】
環状ポリシロキサンの添加量としては、上記(A)成分及び上記(B)成分の合計質量に対し、0.1~30質量%であることが好ましく、0.2~20質量%であることがより好ましい。さらに、上記(E)成分が、アルケニル基及び/またはケイ素原子に直結する水素原子を有する場合は、本発明の組成物中の全アルケニル基1molあたり、上記組成物中の全ヒドロシリル基の量が0.1~4.0mol、好ましくは0.5~2.0molとなる量であることを同時に満たすのが好ましい。
【0092】
上記一般式(4)で表される環状オルガノポリシロキサンの具体例としては、下記構造で示される環状ポリシロキサンを用いることができるが、これらだけに限定されるものではない。
【0093】
【0094】
[(F)蛍光体、白色顔料]
また、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物には、更に(F)蛍光体、白色顔料を配合してもよい。本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は耐候性に優れるため、蛍光体を含有する場合であっても、従来のような蛍光特性の著しい低下が起こる恐れがない。
蛍光体、白色顔料の添加量としては、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し、0~500質量部が好ましく、0~300質量部がより好ましい。
【0095】
このとき、白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸バリウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸バリウムから選ばれる少なくとも1種の無機白色顔料を含むことが好ましい。これらを、上記の(A)~(D)成分の合計100質量部当たり600質量部以下(例えば0~600質量部、通常、1~600質量部、好ましくは10~400質量部)の量で適宜配合することができる。
【0096】
[(G)その他]
その他の添加剤としては、例えば、シリカ、グラスファイバー、ヒュームドシリカ等の補強性無機充填材、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック、セリウム脂肪酸塩、バリウム脂肪酸塩、セリウムアルコキシド、バリウムアルコキシド等の非補強性無機充填材、二酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)、酸化鉄(FeO2)、四酸化三鉄(Fe3O4)、酸化鉛(PbO2)、酸化すず(SnO2)、酸化セリウム(Ce2O3、CeO2)、酸化カルシウム(CaO)、四酸化三マンガン(Mn3O4)、酸化バリウム(BaO)などのナノフィラーが挙げられ、これらを、上記の(A)~(D)成分の合計100質量部当たり600質量部以下(例えば0~600質量部、通常、1~600質量部、好ましくは10~400質量部)の量で適宜配合することができる。
【0097】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、用途に応じて所定の基材に塗布した後、硬化させることができる。硬化条件は、常温(25℃)でも十分に硬化するが、必要に応じて加熱して硬化してもよい。加熱する場合の温度は、例えば、60~200℃とすることができる。
【0098】
また、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、厚さ1mmで加熱硬化、即ち硬化物の厚さが1mmで、JIS K 7361-1によって測定した波長400~800nm、特には波長450nmにおける光透過率が70%以上、好ましくは80%以上の硬化物を与えるものであることが好ましい。なお、光透過率の測定には、例えば日立製分光光度計U-4100を用いることができる。
【0099】
また、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物を加熱硬化して、JIS K 7142:2014 A法によって測定した589nmにおける23℃での屈折率が1.43~1.57の範囲にあるような硬化物を与えるものであることが好ましい。
【0100】
このような直達光透過率や屈折率を有する硬化物を与えるものであれば、透明性に優れるため、LEDの封止材などの光学用途に特に好適に用いることができる。
【0101】
このような本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物であれば、機械特性、透明性、耐クラック性、耐熱性、耐硫化性に優れた硬化物を与えるものとなる。
【0102】
<半導体装置>
また、本発明では、上述の本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物の硬化物で半導体素子が封止された半導体装置を提供する。
【0103】
上述のように、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、透明性や耐熱性に優れた硬化物を与えるため、発光半導体装置のレンズ用素材、保護コート剤、モールド剤等に好適であり、特に青色LEDや白色LED、紫外LED等のLED素子封止用として有用なものである。また、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は耐熱性に優れるため、シリケート系蛍光体や量子ドット蛍光体を添加して波長変換フィルム用素材として使用する際にも、高湿下での長期信頼性が確保でき、耐湿性、長期演色性が良好な発光半導体装置を提供することができる。以上のように、上記半導体素子を発光素子とすることが好ましい。
【0104】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物でLED等の発光半導体素子を封止する場合は、例えば熱可塑性樹脂からなるプレモールドパッケージに搭載されたLED素子上に本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物を塗布し、LED素子上で組成物を硬化させることにより、LED素子を硬化性有機ケイ素樹脂組成物の硬化物で封止することができる。また、組成物をトルエンやキシレン、PGMEA等の有機溶媒に溶解させて調製したワニスの状態で、LED素子上に塗布することができる。
【0105】
本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物は、その優れた耐熱性、耐硫化性、耐紫外線性、透明性、耐クラック性、長期信頼性等の特性から、ディスプレイ材料、光記録媒体材料、光学機器材料、光部品材料、光ファイバー材料、光・電子機能有機材料、半導体集積回路周辺材料等の光学用途に最適な素材である。
【実施例】
【0106】
以下、実施例、及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、部は質量部を示し、Meはメチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基を示す。
【0107】
実施例1~3及び比較例1~4として、後に詳述する組成物を調整した。調整した組成物、及びその硬化物の物性を下記の方法で測定した。その結果を表2に示す。
【0108】
[物性評価]
(1)性状
硬化前の各組成物の流動性を確認した。100mlのガラス瓶に50gの組成物を加え、ガラスビンを横に倒して25℃で10分間静置した。その間に樹脂が流れ出せば液状であると判断した。
【0109】
(2)粘度
25℃における硬化前の各組成物の粘度をJIS K 7117-1:1999記載の方法で測定した。
【0110】
(3)屈折率
硬化前の各組成物の屈折率はATAGO製デジタル屈折計RX-9000αを用いて波長589nmの光の屈折率を25℃で測定した。
【0111】
(4)硬さ(タイプD)
各組成物を150℃×4時間で硬化して得られた硬化物の硬さを、JIS K 6249:2003に準拠して、デュロメータ タイプD硬度計を用いて測定した。
【0112】
(5)切断時伸び及び引張強さ
各組成物を150℃×4時間で硬化して得られた硬化物の切断時伸び及び引張強さを、JIS K 6249:2003に準拠して測定した。
【0113】
(6)耐熱性
各シリコーン樹脂組成物を、150℃で4時間加熱成型して硬化物(10mm×15mm×1mmt)を得た。これら硬化物の耐熱性試験を200℃の条件下で100時間行った。耐熱性試験後の硬化物の外観と450nmでの光透過率の値について、初期(試験前)の外観及び光透過率と比較し、耐熱性を評価した。
耐熱性試験には、株式会社平山製作所製の不飽和型高加速寿命試験装置(装置名:HASTEST PC-242HSR2)を用いた。
また、光透過率は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の分光光度計(装置名:U-4100)を用いて測定した。
【0114】
(7)耐硫化性
1cm2の銀メッキ板を実施例1~3及び比較例1~4で調製した有機ケイ素樹脂組成物を用いて厚さ0.6mmで封止し、150℃で4時間硬化させて得たサンプルを、硫黄粉末3gと共に密封容器に入れ80℃の恒温槽に50時間放置したのち、エス・デイ・ジー(株)製X-rite8200を使用して銀メッキ板の450nmでの初期光反射率を測定した。初期の反射率はいずれも90%であった。下記式によって耐硫化性を計算し、以下の基準に従い判定した。
耐硫化性(%)=((硫化試験後の反射率[%])/(初期反射率[%]))×100
(判定基準)
○:耐硫化性が90%以上、
△:耐硫化性が85%以上90%未満、
×:耐硫化性が85%未満。
【0115】
(実施例1)
(A1)成分として、PhSiO3/2単位75mol%、ViPhMeSiO1/2単位25mol%からなる分岐鎖状のフェニルメチルポリシロキサン(Mw=2,500、ケイ素原子に結合した水酸基量0.04mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.06mol/100g)を30部、
(B)成分として、(A)及び(D)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(以下、SiH/SiVi比と表す場合がある。)が1.0となる量の、下記式(6)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)成分として塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.01部、
(D)成分として下記式(7)を0.05部加え、よく撹拌して、硬化性有機ケイ素樹脂組成物を調製した。表1に以上を示す。
【0116】
【0117】
【0118】
(実施例2)
(A1)成分として、実施例1で用いたオルガノポリシロキサンを30部、
(B)成分として、上記式(6)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン;(A)及び(D)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(以下、SiH/SiVi比と表す場合がある。)が1.0となる量、
(C)成分として塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.01部、
(D)成分として、下記式(8)を0.01部、
ならびに、(E)成分として、下記式(9)で示される有機ケイ素化合物2部を加え、よく撹拌して、シリコーンゴム組成物を調製した。表1に以上を併せて示す。
【0119】
【0120】
【0121】
(実施例3)
(A1)成分として、SiO4/2単位55mol%、ViMeSiO2/2単位7mol%、Me3SiO1/2単位38mol%からなる分岐鎖状のメチルポリシロキサン(Mw=5,600、ケイ素原子に結合した水酸基量、0.2mol/100g、ケイ素原子に結合したアルコキシ基量0.02mol/100g)30部、
(A2)成分として、下記式(10)を50部、
(B)成分として、(A)及び(D)成分中のケイ素原子結合ビニル基の合計個数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計個数の比(以下、SiH/SiVi比と表す場合がある。)が1.0となる量の、下記式(11)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)成分として塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金元素含有率:1質量%)0.01部、
(D)成分として、下記式(12)を0.01部、
ならびに、(E)成分として、上記記式(9)で示される有機ケイ素化合物1部を加え、よく撹拌して、シリコーンゴム組成物を調製した。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
(比較例1)
実施例1で用いた(D)成分を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0126】
(比較例2)
実施例1で用いた(D)成分の代わりに、トリアリルイソシアヌレート(三菱ケミカル株式会社製)0.05部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0127】
(比較例3)
実施例1で用いた(D)成分の代わりに、トリグリシジルイソシアヌレート(日産化学株式会社製)0.05部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0128】
(比較例4)
実施例1で用いた(D)成分の代わりに、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート(四国化成株式会社製)0.05部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0129】
【0130】
【0131】
表2に示されるように、(D)成分が添加されていない比較例1では、耐硫化性が悪化した。更に、(D)成分としてシリル基を含有しないイソシアヌレート誘導体を添加した比較例2~4では、耐熱性が悪化し耐硫化性の向上も確認されなかった。
【0132】
一方、表2に示されるように、(D)成分として本発明のシリル化イソシアヌレート化合物を使用した実施例1~3では、透明で、十分な硬さ、切断時伸び、及び引張強さと耐熱性および耐HAST性に優れた硬化物が得られた。
以上のように、本発明の硬化性有機ケイ素樹脂組成物であれば、優れた耐熱性および耐硫化性を発揮する硬化物を与えることができる。
【0133】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。