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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】パワーモジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/56 20060101AFI20231127BHJP
   H01L 23/28 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
H01L21/56 R
H01L23/28 K
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020144661
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039562
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】串原 直行
(72)【発明者】
【氏名】隅田 和昌
(72)【発明者】
【氏名】金田 雅浩
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189464(WO,A1)
【文献】特開2015-216229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/56
H01L 23/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーモジュールの製造方法であって、下記(1)~(4)
(1)複数の半導体素子が搭載された絶縁基板を収納した容器に、25℃で固体の熱硬化性樹脂組成物を配置する配置工程、
(2)次いで、前記熱硬化性樹脂組成物が配置された前記容器を、加熱、加圧、減圧できる成型装置内に配置して加熱し、前記熱硬化性樹脂組成物を溶融する溶融工程、
(3)その後、前記成型装置内を1回以上減圧及び1回以上加圧する加減圧工程、
(4)更に、前記成型装置内を加熱して前記熱硬化性樹脂組成物を硬化させる硬化工程
の工程を含み、
前記加減圧工程(3)の減圧工程において、670Pa~90,000Paに減圧することを特徴とするパワーモジュールの製造方法。
【請求項2】
前記溶融工程(2)において、加熱温度を前記熱硬化性樹脂組成物の融点もしくは軟化点以上とし、かつ200℃以下とすることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュールの製造方法。
【請求項3】
前記溶融工程(2)において、加熱時の昇温速度を0.5℃/分~50℃/分とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュールの製造方法。
【請求項4】
前記加減圧工程(3)において、減圧及び/又は加圧を2回以上繰り返すことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュールの製造方法。
【請求項5】
前記加減圧工程(3)の加圧工程において、0.1MPa~10MPaに加圧することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のパワーモジュールの製造方法。
【請求項6】
前記加減圧工程(3)の減圧工程において、大気圧から設定された減圧度までの減圧速度を100~60,000Pa/秒とすることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のパワーモジュールの製造方法。
【請求項7】
前記配置工程(1)において、前記熱硬化性樹脂組成物を封止面積の30%~95%の面積となるように配置することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のパワーモジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーモジュールの製造方法及びパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリット自動車、電気自動車、鉄道、発電機など幅広い分野で、パワーモジュールが用いられている。最近では、パワーモジュールに対し、定格電圧及び定格電流の増加、稼働温度域の拡大といった高性能化の要求が増えている。
【0003】
パワーモジュールのパッケージ構造は、放熱用ベース板上に絶縁基板を介して、パワー半導体素子が実装され、ベース板に対してケースが接着された構造である。パワーモジュールの封止部材としては、シリコーンゲルが一般的に用いられる(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、近年高温環境下での使用において、シリコーンゲルの耐熱性不足によりゲルが硬くなりクラックが発生し、またシリコーンゲルが分解することで低揮発成分が生成し気泡を形成することで、シリコーンゲルと絶縁基板との間に剥離が発生する。これによりパワーモジュールの絶縁信頼性が低下するといった問題が発生している。
【0005】
この問題を解決する目的で、シリコーンゲルに代わる封止材として液状エポキシ樹脂が検討されている(特許文献2)。一般的にパワーモジュールの封止材として用いられる液状エポキシ樹脂は、封止後の反りを抑制するため絶縁基板の線膨張係数に近づけるため多量の無機充填材を配合する。
【0006】
結果として液状エポキシ樹脂の粘度が高くなり、封止後にボイドが抜けずクラックや剥離が発生するといった問題が生じる。
【0007】
また、液状エポキシ樹脂に使用されるレジンは、一般的にCMR物質(発ガン性、変異原性、生殖毒性があるとされる物質)を含んでおり環境意識が高いEUでの使用が制限されるといった可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-79914号公報
【文献】特開2020-35965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、成型時にボイドの発生が少なく、信頼性に優れたパワーモジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明では、
パワーモジュールの製造方法であって、下記(1)~(4)
(1)複数の半導体素子が搭載された絶縁基板を収納した容器に、25℃で固体の熱硬化性樹脂組成物を配置する配置工程、
(2)次いで、前記熱硬化性樹脂組成物が配置された前記容器を、加熱、加圧、減圧できる成型装置内に配置して加熱し、前記熱硬化性樹脂組成物を溶融する溶融工程、
(3)その後、前記成型装置内を1回以上減圧及び1回以上加圧する加減圧工程、
(4)更に、前記成型装置内を加熱して前記熱硬化性樹脂組成物を硬化させる硬化工程
の工程を含むパワーモジュールの製造方法を提供する。
【0011】
このような製造方法であれば、成型時にボイドやクラックなどがなく、信頼性に優れ、CMR物質を含まないパワーモジュールを提供することができる。
【0012】
このとき、前記溶融工程(2)において、加熱温度を前記熱硬化性樹脂組成物の融点もしくは軟化点以上とし、かつ200℃以下とすることが好ましい。
【0013】
このような温度であれば、粘度が低く抑えられボイドや未充填を防ぐことができ、かつ熱硬化性樹脂組成物が硬化せず内部ボイドや表面ボイドの除去ができる。
【0014】
またこのとき、前記溶融工程(2)において、加熱時の昇温速度を0.5℃/分~50℃/分とすることが好ましい。
【0015】
このような昇温速度であれば樹脂が増粘せず、かつ樹脂を完全に溶融させることができる。
【0016】
更に、前記加減圧工程(3)において、減圧及び/又は加圧を2回以上繰り返すことが好ましい。
【0017】
加減圧を複数回繰り返すことで、内部ボイドや表面ボイドを効果的に取り除くことができる。
【0018】
また、前記加減圧工程(3)の加圧工程において、0.1MPa~10MPaに加圧することが好ましい。
【0019】
このような範囲内であれば、表面のボイドが残らず狭小部分に樹脂が十分に侵入し、かつ樹脂が溢れることがない。
【0020】
加えて、前記加減圧工程(3)の減圧工程において、670Pa~90,000Paに減圧することが好ましい。
【0021】
このような範囲内であれば、熱硬化性樹脂組成物が溢れることがなく、減圧による脱泡効果が十分になる。
【0022】
更に、前記加減圧工程(3)の減圧工程において、大気圧から設定された減圧度までの減圧速度を100~60,000Pa/秒とすることが好ましい。
【0023】
このような範囲内であれば、熱硬化性樹脂組成物が増粘したり、溢れたりする恐れがない。
【0024】
また、前記配置工程(1)において、前記熱硬化性樹脂組成物を封止面積の30%~95%の面積となるように配置することが好ましい。
【0025】
このような面積であれば、未充填や樹脂漏れが発生する恐れがない。
【0026】
また、本発明では、熱硬化性樹脂組成物の硬化物で封止されたパワーモジュールであって、前記硬化物中の直径100μm以上の内部ボイドの数が10個/cm以下であるパワーモジュールを提供する。
【0027】
このようなパワーモジュールは、ボイドやクラックがなく、信頼性に優れる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明の製造方法であれば、成型時にボイドやクラックなどがなく、信頼性に優れ、CMR物質を含まないパワーモジュールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】25℃から300℃までの間で試験片の寸法変化を測定した結果についての寸法と温度との関係をプロットしたグラフの一例であり、ガラス転移温度の決定方法を示すものである。
図2】複数の半導体素子が搭載された絶縁基板を収納した容器に、25℃で固体の熱硬化性樹脂組成物を配置する配置工程を示す。
図3】熱硬化性樹脂組成物が配置された容器を、加熱、加圧、減圧できる成型装置内に配置する工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上述のように、成型時にボイドやクラックなどがなく、信頼性に優れ、CMR物質を含まないパワーモジュールの製造方法が求められていた。
【0031】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、複数の半導体素子が搭載された絶縁基板を収納した容器に、25℃で固体の熱硬化性樹脂組成物を配置し、樹脂組成物が配置された該容器を加熱、加圧、減圧できる成型容器内に配置して加熱し、樹脂組成物を溶融する工程を経て、樹脂が溶融後、成型容器内を減圧及び加圧し、更に成型容器内を加熱して樹脂を硬化させる工程により製造したパワーモジュールは、樹脂の表面や内部にボイドやクラックがなく、信頼性に優れるパワーモジュールを提供することを見出し、本発明を完成した。
【0032】
即ち、本発明は、
パワーモジュールの製造方法であって、下記(1)~(4)
(1)複数の半導体素子が搭載された絶縁基板を収納した容器に、25℃で固体の熱硬化性樹脂組成物を配置する配置工程、
(2)次いで、前記熱硬化性樹脂組成物が配置された前記容器を、加熱、加圧、減圧できる成型装置内に配置して加熱し、前記熱硬化性樹脂組成物を溶融する溶融工程、
(3)その後、前記成型装置内を1回以上減圧及び1回以上加圧する加減圧工程、
(4)更に、前記成型装置内を加熱して前記熱硬化性樹脂組成物を硬化させる硬化工程
の工程を含むパワーモジュールの製造方法である。
【0033】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
[パワーモジュールの製造方法]
(1)配置工程
本発明の製造方法における(1)配置工程では、25℃で固体の熱硬化性樹脂組成物を複数のパワー半導体素子が搭載された絶縁基板を収納した容器に配置する。配置する容器は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂やポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂などの熱可塑性樹脂のケースや型などを備えていてもよい。具体的には図2に示す。
【0035】
図2において複数の半導体素子が搭載された絶縁基板を収納した容器1は、容器5とその中の絶縁基板4からなり、絶縁基板4上にはパワー半導体素子3とボンディングワイヤ2が設けられている。(1)配置工程では、熱硬化性樹脂組成物6をケース内の絶縁基板4上のパワー半導体素子3の上に配置する。
【0036】
上記熱硬化性樹脂組成物は封止を行う個所に対して、適宜配置することができる。
【0037】
また、上記熱硬化性樹脂組成物は、樹脂の充填性、ボイド低減や樹脂漏れ防止の観点から封止面積の30%~95%の面積となるように配置することが好ましく、40%~90%がより好ましく、45%~85%がさらに好ましい。封止面積の30%以上の面積になるよう配置すれば、未充填が発生する恐れがほとんどなく、95%以下の面積になるよう配置すれば、樹脂漏れが発生する恐れがない。
【0038】
なお、ケースや枠などがある場合は、その内部に配置することが好ましい。
【0039】
(2)溶融工程
本工程では、熱硬化性樹脂組成物が配置された容器を、加熱、加圧、減圧できる成型容器(成型装置)内に配置して加熱し、熱硬化性樹脂組成物を溶融する。熱硬化性樹脂組成物を溶融するときの熱硬化性樹脂組成物の温度は、使用する熱硬化性樹脂の軟化点や融点により適宜変更することができるが、熱硬化性樹脂組成物の粘度を低下させる観点から、上記熱硬化性樹脂組成物の軟化点または融点以上かつ200℃以下の範囲が好ましい。温度の範囲のうち低い側は軟化点または融点から20℃以上高い温度がより好ましく、軟化点または融点から30℃以上高い温度が更に好ましい。温度の範囲のうち高い側は180℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。熱硬化性樹脂組成物の融点又は軟化点以上であれば、粘度が低く抑えられるためボイドや未充填の原因とはならず、200℃以下であれば、熱硬化性樹脂組成物が硬化して、内部ボイドや表面ボイドが十分に除去できないという恐れがない。
【0040】
成型容器に配置する工程としては図3で示され、熱硬化性樹脂組成物6を載せた複数の半導体素子が搭載された絶縁基板を収納した容器1を成型容器7内に入れる。
【0041】
溶融工程は、大気圧または加圧された雰囲気のまま行われることが好ましい。溶融工程において大気圧または加圧された状態で行うことにより、複数の半導体素子が搭載された絶縁基板と熱硬化性樹脂組成物の濡れ性が向上し、内部ボイドや表面ボイドの低減効果が期待される。
【0042】
溶融工程における加熱の昇温速度は特に制限されないが、成型時間の短縮及び熱硬化性樹脂組成物の粘度上昇を抑制する観点から、0.5℃/分~50℃/分が好ましく、2.0℃/分~30℃/分であることがより好ましく、5.0℃/分~20℃/分であることがさらに好ましい。0.5℃/分以上の速度であれば、設定の温度に到達するまでの時間が必要十分であるため、樹脂が増粘してしまう恐れがなく、50℃/分以下の速度であれば、樹脂に十分熱が伝わるので、樹脂が完全に溶融しないまま次工程である加減圧工程に移ってしまう恐れがない。
【0043】
また、溶融工程において昇温速度は、昇温させる過程において一定でもよく変動してもよい。また、設定された温度に到達後、温度を一定時間保って熱硬化性樹脂を溶融させてもよい。
【0044】
溶融工程の時間は、熱硬化性樹脂組成物の加熱を開始してから1分~60分であることが好ましく、2分~45分であることがより好ましく、4分~30分であることが更に好ましい。
【0045】
(3)加減圧工程
本工程では、熱硬化性樹脂組成物が配置された容器を成型容器内において減圧及び加圧する。本発明において減圧工程とは、大気圧から所望する減圧度まで減圧するまでの工程を指し、加圧工程とは、大気圧から所望する加圧度まで加圧するまでの工程を指すものとする。なお、加圧または減圧状態から大気圧に戻るまでの過程は、本発明の製造方法において製造されるパワーモジュールの品質には影響ないため、考慮しないものとする。
【0046】
また、本発明において「大気圧」とは前記成型容器内の圧力が成型容器外の空間の圧力と平衡状態にある圧力を指し、具体的には1気圧=1013hPa付近の圧力を指すものとする。
【0047】
[減圧工程]
減圧時の減圧度は、670Pa~90,000Paに設定してもよい。ボイドの発生を抑制する観点から、2,000Pa~50,000Paであることが好ましく、4,000~40,000Paであることがより好ましい。670Pa以上であれば、熱硬化性樹脂組成物がケースから溢れる恐れがなく、90,000Pa以下であれば減圧による脱泡効果が十分になる。
【0048】
大気圧から設定された減圧度までの減圧速度は、100~60,000Pa/秒に設定してもよい。減圧速度は内部ボイド低減のため、300~30,000Pa/秒であることが好ましく、500~10,000Pa/秒がより好ましい。機器の性能等に応じて設定することができる。100Pa/秒以上の場合は、減圧度に到達するまでの時間がかからず、熱硬化性樹脂組成物が増粘しないため脱泡が十分に行える。また、60,000Pa/秒以下の場合は、熱硬化性樹脂組成物がケースから溢れる恐れがない。
【0049】
ここで言う減圧速度とは下記式で表される。
減圧速度=(初期圧力-減圧限界圧力)/(減圧限界圧力到達時間)
(圧力の単位はPa、到達時間の単位は秒である。)
【0050】
減圧工程における雰囲気の温度は特に制限されないが、熱硬化性樹脂組成物の種類に応じて適宜設定することができる。減圧工程を通して熱硬化性樹脂組成物の温度が溶融工程時の温度と同じが好ましい。
【0051】
減圧工程は、1回だけでなく複数回行うことができる。この場合は、設定された減圧度に到達後、大気圧付近まで大気開放を行い、再び設定された減圧度に到達させてもよい。この場合、1回目の減圧工程における減圧度と2回目以降の減圧度は同じであっても異なっていてもよい。減圧工程は1回以上であり、2回以上が好ましい。減圧工程を複数回行うことで、熱硬化性樹脂組成物に含まれる内部ボイドや表面ボイドを効果的に取り除くことが可能となる。
【0052】
減圧工程は、設定された減圧度に到達後その状態を一定の時間、維持してもよい。減圧度を維持する時間としては、2秒間~10分間であることが好ましく、5秒間~5分間であることがさらに好ましい。
【0053】
[加圧工程]
加圧工程における加圧度は、ボイドの発生を抑制する観点から、0.1MPa~10MPaの範囲が好ましく、0.2MPa~5MPaであることがより好ましく、0.2MPa~3MPaであることがさらに好ましい。0.1MPa以上であれば、表面のボイドが残りにくく、狭小部分への樹脂の侵入性が良好になる。10MPa以下であれば、樹脂が流れ過ぎず、ケースから溢れる恐れがない。
【0054】
加圧速度は特に制限されないが、0.1MPa/分~1.0MPa/分であることが好ましく、0.2MPa/分~1.0MPa/分であることがさらに好ましい。
【0055】
ここで言う加圧速度とは下記式で表される。
加圧速度=(加圧限界圧力-初期圧力)/(加圧限界圧力到達時間)
(圧力の単位はPa、到達時間の単位は秒である。)
【0056】
加圧工程における雰囲気の温度は特に制限されないが、熱硬化性樹脂組成物の種類に応じて適宜設定することができる。加圧工程を通して熱硬化性樹脂組成物の温度が溶融工程時の温度と同じが好ましい。
【0057】
加圧工程は、1回だけでなく複数回行うことができる。この場合は、設定された加圧度に到達後、大気圧付近まで大気開放を行い、再び設定された加圧度に到達させてもよい。この場合、1回目の加圧工程における加圧度と2回目以降の加圧度は同じであっても異なっていてもよい。加圧工程は1回以上であり、2回以上が好ましい。加圧工程を複数回行うことで、熱硬化性樹脂組成物に含まれる内部ボイドや表面ボイドを効果的に取り除くことが可能となる。
【0058】
加圧工程は、設定された加圧度に到達後その状態を一定の時間、維持してもよい。加圧度を維持する時間としては、5分間~4時間であることが好ましく、10分間~2時間であることがさらに好ましい。
【0059】
減圧工程と加圧工程の順番は特に制限されないが、減圧工程後に加圧工程を行うことで表面状態が優れ、内部ボイドが少ないパワーモジュールを得ることが可能となる。
【0060】
(4)硬化工程
本工程では、加減圧工程の後に、成型容器内において熱硬化性樹脂組成物をさらに加熱して硬化させる。
【0061】
このときの硬化条件は特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を用いる場合には、150℃~250℃の温度に昇温後、1時間~12時間の時間で硬化してもよい。また硬化時は、0.1MPa~10MPaの加圧状態で硬化してもよい。また成型容器内から取り出して別途オーブン等を用いて追加で硬化を行ってもよい。また、必要に応じて成型容器内の空気を窒素ガスなどの不活性ガスで置換して硬化を行ってもよい。
【0062】
[熱硬化性樹脂組成物]
本発明のパワーモジュールの製造方法に用いられる熱硬化性樹脂組成物は25℃で固体の樹脂組成物を用いる。固体の熱硬化性樹脂組成物の形状はどのような形状でもよく、粉末状、顆粒状、シート状、ペレット状のいずれであってもよい。シート状、ペレット状の形態であれば、樹脂が溶融する際にボイドが発生しにくくなる。また、シート状やペレット状であれば加熱溶融時に樹脂に均一に熱が伝わりやすくなるため、減圧の工程の際に泡抜け性が良く、表面や内部にボイドが残りにくくなる。
【0063】
上記熱硬化性樹脂組成物に使用する熱硬化性樹脂は、一般的に公知のものを使用することができる。例えば、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。封止材としての成型性や信頼性などの観点からは、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂を含むことが好ましく、更に好ましくはエポキシ樹脂を含むことである。
【0064】
エポキシ樹脂の種類は特に制限されず、一般的に公知のものを使用することができる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ブタジエン変性エポキシ樹脂、多官能フェノール類及びアントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物並びにこれらにリン化合物を導入したリン含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0065】
マレイミド樹脂としては、1分子中に1個以上のマレイミド基を有するものであれば、特に限定されず、一般的に公知のものを使用することができる。マレイミド樹脂としては例えば、4,4-ジフェニルメタンビスマレイミド、フェニルメタンマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル)プロパン、3,3-ジメチル-5,5-ジエチル-4,4-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、4,4-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ノボラック型マレイミド化合物、ビフェニルアラルキル型マレイミド、ダイマー酸ジアミン型マレイミド、上記マレイミド樹脂のプレポリマー、もしくはマレイミド樹脂とアミン化合物のプレポリマー等が挙げられる。これらのマレイミド化合物は1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0066】
このなかでも、ノボラック型マレイミド化合物、及びビフェニルアラルキル型ビスマレイミド化合物が好ましい。このようなマレイミド化合物を用いることにより、耐熱性がより向上する傾向にある。
【0067】
シアネート樹脂としては、1分子中に1個以上のシアナト基を有するものであれば、特に限定されず、一般的に公知のものを使用することができる。シアネート樹脂としては例えば、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、ビス(3-メチル-4-シアナトフェニル)メタン、ビス(3-エチル-4-シアナトフェニル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-シアナトフェニル)メタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ジアリルビスフェノールA型シアネートエステル、ジアリルビスフェノールF型シアネートエステルなどのビスフェノール型シアネートエステル;2,2’-ジシアナトビフェニル、4,4’-ジシアナトビフェニル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジシアナトビフェニルなどのビフェニル型シアネートエステル;1,3-ジシアナトベンゼン、1,4-ジシアナトベンゼン、2-tert-ブチル-1,4-ジシアナトベンゼン、2,4-ジメチル-1,3-ジシアナトベンゼン、2,5-ジ-tert-ブチル-1,4-ジシアナトベンゼン、テトラメチル-1,4-ジシアナトベンゼン、1,3,5-トリシアナトベンゼンなどのシアナトベンゼン;1,3-ジシアナトナフタレン、1,4-ジシアナトナフタレン、1,5-ジシアナトナフタレン、1,6-ジシアナトナフタレン、1,8-ジシアナトナフタレン、2,6-ジシアナトナフタレン、2,7-ジシアナトナフタレン、1,3,6-トリシアナトナフタレンなどのシアナトナフタレン;ビス(4-シアナトフェニル)エーテル、4,4’-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェニルシアネート、ビス(4-シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4-シアナトフェニル)スルホンが挙げられる。これらのシアネートエステル化合物は1種または2種以上混合して用いることができる。中でも好ましいシアネートエステル化合物は、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、ジアリルビスフェノールA型シアネートエステル、ジアリルビスフェノールF型シアネートエステルである。更に好ましくは、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、ジアリルビスフェノールF型シアネートエステルである。
【0068】
上記熱硬化性樹脂組成物は硬化剤を含有してもよい。硬化剤の種類は特に制限されず、一般的に公知のものを使用できる。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化剤としては、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、チオール系硬化剤等が挙げられる。成型性及び耐熱性の観点から、硬化剤として、フェノール系硬化剤が好ましい。
【0069】
フェノール系硬化剤として例えば、フェノールノボラック樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、トリフェノールアルカン型フェノール樹脂、ビフェニル骨格含有アラルキル型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、脂環式フェノール樹脂、複素環型フェノール樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂、レゾルシノール型フェノール樹脂、アリル基含有フェノール樹脂、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂等のビスフェノール型フェノール樹脂等が挙げられ、これらを1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0070】
硬化剤としてフェノール系硬化剤が用いられる場合、エポキシ樹脂中に含まれるエポキシ基1モルに対して、硬化剤中に含まれるフェノール性水酸基のモル比は、0.5~1.5が好ましく、0.8~1.2がより好ましい。
【0071】
上記熱硬化性樹脂組成物は充填材を含有してもよい。充填材の種類は特に制限されず、一般的に公知のものを使用できる。充填材として、例えば、球状シリカ、溶融シリカ及び結晶性シリカ等のシリカ類、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド等の無機窒化物類、アルミナ、ガラス繊維及びガラス粒子等が挙げられるが、補強効果に優れている、得られる硬化物の反りを抑えられるなどの点から、シリカを含有するものであることが好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0072】
上記充填材の平均粒径及び形状は特に限定されないが、平均粒径は0.1~40μmが好ましく、より好ましくは0.5~40μmである。なお、本発明において平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(またはメジアン径)として求めた値である。
【0073】
また、本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物の高流動化の観点から、上記充填材として複数の粒径範囲の無機充填材を組み合わせたものを使用してもよく、このような場合では、0.1~3μmの微細領域、3~7μmの中粒径領域、及び10~40μmの粗領域の球状シリカを組み合わせて使用することが好ましく、これらを組み合わせた結果、充填材の平均粒径が0.5~40μmの範囲にあることがより好ましい。さらなる高流動化のためには、平均粒径がさらに大きい球状シリカを用いることが好ましい。
【0074】
また、上記充填材としては、上記熱硬化性樹脂との結合強度を強くするため、カップリング剤で予め表面処理したものを配合してもよい。
【0075】
充填材の含有量は、熱硬化性樹脂とその硬化剤の合計100質量部に対して10~1900質量部であることが好ましく、100~900質量部であることがより好ましく、200質量部~850質量部であることが特に好ましい。
【0076】
上記熱硬化性樹脂組成物は硬化促進剤を含有してもよい。硬化促進剤の種類は特に制限されず、一般的に公知のものを使用できる。
【0077】
この硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p-メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレートなどのリン系化合物、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α-メチルベンジルジメチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7などの第3級アミン化合物、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物、過酸化物、尿素化合物、サリチル酸等を使用することができる。
【0078】
硬化促進剤の含有量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.2質量部~10質量部であることが好ましく、0.5質量部~5質量部であることがより好ましい。
【0079】
上記熱硬化性樹脂組成物は、難燃性を高めるために難燃剤を配合することができる。
【0080】
難燃剤としては、特に制限されず公知のものを使用することができる。例えばホスファゼン化合物、シリコーン化合物、モリブデン酸亜鉛担持タルク、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモンなどが挙げられ、これら1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。難燃剤の配合量は熱硬化性樹脂100質量部に対して2~100質量部であることが好ましく、より好ましくは3~50質量部である。
【0081】
上記熱硬化性樹脂組成物は、イオン不純物による信頼性の低下を防ぐためにイオントラップ材を配合することができる。
【0082】
このようなイオントラップ材としては、特に制限されず公知のものを使用することができる。例えばハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス化合物、希土類酸化物等が使用できる。これらを1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。イオントラップ材の配合量は熱硬化性樹脂100質量部に対して0.5~25質量部であることが好ましく、より好ましくは1.5~15質量部である。
【0083】
上記熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂やその硬化剤と充填材との密着性を高める目的や、絶縁基板との接着性を高くしたりするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤を配合することができ、中でもシランカップリング剤が好ましい。
【0084】
このようなカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性アルコキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ官能性アルコキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性アルコキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミン官能性アルコキシシランなどが挙げられる。
【0085】
表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではなく、常法に従って行えばよい。また、前述したように予めカップリング剤で無機充填材を処理してもよいし、熱硬化性樹脂やその硬化剤などの樹脂成分と充填材とを混練する際に、カップリング剤を添加して表面処理しながら組成物を混練してもよい。
【0086】
カップリング材の配合量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.1~25質量部であることが好ましく、特に0.5~20質量部とすることが好ましい。0.1質量部以上であれば、基材への接着効果が十分に得られ、また25質量部以下であれば、粘度が極端に低下して、ボイドの原因になるおそれがない。
【0087】
上記熱硬化性樹脂組成物は離型剤を含有してもよい。離型剤は特に制限されず、一般的に公知のものを使用することができる。離型剤は、成形時の離型性を高めるために配合するものである。このような離型剤としては、カルナバワックス、ライスワックスをはじめとする天然ワックス、酸ワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステルをはじめとする合成ワックスがあるが、離型性の観点からカルナバワックスが好ましい。
【0088】
離型剤の配合量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.05~15質量部であることが好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。配合量が0.05質量部以上であれば、十分な離型性が得られなかったり、製造時の溶融混練時に過負荷が生じてしまったりするおそれがなく、15質量部以下であれば、沁み出し不良や接着性不良等が起こるおそれがない。
【0089】
熱硬化性樹脂組成物は、着色剤を含有してもよい。着色剤としてはカーボンブラック、有機染料、有機顔料、酸化チタン、ベンガラ等の公知の着色剤を挙げることができる。熱硬化性樹脂への分散性の観点からカーボンブラックが望ましい。
【0090】
着色剤の配合量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.01質量部~10質量部であることが好ましく、0.1質量部~5質量部であることがより好ましい。
【0091】
熱硬化性樹脂組成物は、溶融工程や加減圧工程時において樹脂の発泡を抑制する目的で消泡剤を配合することができる。
【0092】
このような消泡剤としては、ポリエーテル、ポリエステル、高級アルコール、高級アルコール誘導体、脂肪酸誘導体、金属石鹸、シリコーンオイル、ポリシロキサン、ワックス、鉱物油等の公知の消泡剤を挙げることができる。
【0093】
消泡剤の配合量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して0.01質量部~10質量部であることが好ましく、0.01質量部~5質量部であることがより好ましい。
【0094】
[熱硬化性樹脂組成物の調製方法]
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物の調製方法としては、従来公知の方法を適宜用いることができる。調製方法としては、例えば、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等が挙げられる。得られた熱硬化性樹脂組成物を粉砕することにより粉末状にしてもよく、粉末にしてから打錠することでタブレット状若しくは顆粒状にしてもよく、又はプレス装置やTダイを用いてシート状にしてもよい。成型時のボイド低減の観点からペレット状またはシート状が好ましい。
【0095】
このようにして得られる熱硬化性樹脂組成物は、シート状であれば、厚さが1~20mmであることが好ましく、2~10mmであることがより好ましい。また、ペレット状であれば、直径は10~100mmであることが好ましく、20~80mmであることがより好ましく、長さは0.5~50mmであることが好ましく、1~40mmであることがより好ましい。
【0096】
[熱硬化性樹脂組成物の物性]
熱硬化性樹脂組成物の120℃における粘度としては、0.01Pa・s~500Pa・sが好ましく、0.1Pa・s~300Pa・sがさらに好ましく、0.1Pa・s~100Pa・sが特に好ましい。本発明において、熱硬化性樹脂組成物の120℃における粘度とは、JIS K 7244-10:2005記載のレオメーターを用いて測定した値を指す。レオメーターとしては、例えば、HR-2(TA Instruments社製)が用いられる。
【0097】
熱硬化性樹脂組成物の120℃における粘度が初期の10倍となる時間は、5~60分であることが好ましく、10~60分であることがさらに好ましい。5分以上であれば、充填性が悪くならず、内部ボイドや表面ボイドが発生する恐れがない。
【0098】
熱硬化性樹脂組成物は、硬化物としたときのガラス転移温度は、120~250℃であることが好ましく、150~250℃であることが更に好ましい。ガラス転移温度が上記範囲にあることで、パワーモジュールの耐熱信頼性が向上する。
【0099】
本発明において、ガラス転移温度(Tg)はTMA法により求めた値を指す。TMA法の測定としては、熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得た硬化物を、5×5×15mmの試験片にそれぞれを加工した後、それらの試験片を熱膨張計TMA8140C(株式会社リガク社製)にセットする。そして、昇温プログラムを昇温速度5℃/分に設定し、19.6mNの一定荷重が加わるように設定した後、25℃から300℃までの間で試験片の寸法変化を測定する。この寸法変化と温度との関係をグラフにプロットする(グラフの一例を図1に示す)。このようにして得られた寸法変化と温度とのグラフから、下記に説明するガラス転移温度の決定方法により、ガラス転移温度を求めることができる。
【0100】
図1に示すように、変曲点の温度以下で寸法変化-温度曲線の接線が得られる任意の温度2点をT1及びT2とし、変曲点の温度以上で同様の接線が得られる任意の温度2点をT1’及びT2’とする。T1及びT2における寸法変化をそれぞれD1及びD2として、点(T1、D1)と点(T2、D2)とを結ぶ直線と、T1’及びT2’における寸法変化をそれぞれD1’及びD2’として、点(T1’、D1’)と点(T2’、D2’)とを結ぶ直線との交点をガラス転移温度(Tg)とする。
【0101】
熱硬化性樹脂組成物を硬化したときの40℃~80℃での平均熱膨張係数が、3ppm/℃~30ppm/℃であることが好ましく、5ppm/℃~25ppm/℃であることがより好ましい。平均熱膨張係数が、上記範囲内であると、半導体素子や絶縁基板との熱膨張係数の差が小さくなり、封止後の反りの発生を抑えることが可能となる。本発明における平均熱膨張係数は、上記ガラス転移温度測定と同じ条件で硬化物の熱機械分析を行い、40℃から80℃までの温度範囲の測定結果から算出した線膨張係数の平均値である。
【0102】
熱硬化性樹脂組成物は、その硬化物の25℃での曲げ弾性率が、5GPa~35GPaであることが好ましく、10GPa~30GPaであることがより好ましい。25℃での曲げ弾性率が5GPa以上であると、ヒートサイクル試験や高温放置試験などの信頼性試験において、絶縁基板と熱硬化性樹脂組成物との剥離を抑制することができ、パワーモジュールの不良を抑制することが可能となる。25℃での弾性率が35GPa以下であると、熱硬化性樹脂組成物の硬化物自身に起因して発生する応力を効果的に抑制できる傾向にある。
【0103】
なお25℃での曲げ弾性率は、JIS K 6911:2006に準じ、硬化物を作製し測定することができる。
【0104】
[パワーモジュール]
本発明のパワーモジュールは、パワー半導体デバイスが接合された絶縁基板と、この絶縁基板を封止する熱硬化性樹脂組成物の硬化物を備えたものとすることができる。
【0105】
パワー半導体デバイスの具体例としては、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、ダイオード、Si系MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)、SiC系MOSFET、GaN系FET(窒化ガリウム電界効果トランジスタ)等の半導体デバイス(パワー半導体チップ)が挙げられる。
【0106】
本発明における絶縁基板とは、絶縁性材料の片面または両面に、放熱性を高めることを目的に銅板や銅板に金メッキ、銀メッキ、ニッケルメッキなどのメッキが施された金属パターンが貼り付けられている基板を指し、基板の厚さ方向に絶縁性を有する。前記絶縁性材料の具体例としては、アルミナや窒化ケイ素などのセラミックが挙げられる。また、熱硬化性樹脂組成物の硬化物としては、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0107】
本発明の製造方法によって製造されたパワーモジュールは、ボイドやクラックなどがなく、信頼性に優れるパワーモジュールである。具体的には、前記パワーモジュールが封止されている熱硬化性樹脂組成物の硬化物において、前記硬化物中の直径100μm以上の内部ボイドの数が10個/cm以下であることが特徴であり、好ましくは5個/cm以下、より好ましくは2個/cm以下である。
【実施例
【0108】
以下実施例及び比較例をあげて、本発明をより具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0109】
<実施例1~19および比較例1~4>
[熱硬化性樹脂組成物の調製]
【0110】
表1に記載の配合量(質量部)にて混合して、熱硬化性樹脂組成物を得た。各成分の詳細は下記のとおりである。
【0111】
エポキシ樹脂1:ビフェニル型エポキシ樹脂(YX-4000K:三菱ケミカル社製)
エポキシ樹脂2:トリフェノールメタン型エポキシ樹脂(EPPN-501H:日本化薬社製)
硬化剤:フェノールノボラック樹脂(BRG-555:アイカ工業社製)
硬化促進剤:尿素型触媒(U-CAT3513N:サンアプロ社製)
カップリング剤:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM403、信越化学工業社製)
溶融シリカ:平均粒径14μmの溶融球状シリカ(龍森社製)
着色剤:カーボンブラック(三菱ケミカル社製)
【0112】
[軟化点の測定]
調製した組成物の軟化点をJIS K 7234(1986)に従い測定し、その結果を表1に記載した。
【0113】
[粘度の測定]
調製した熱硬化性樹脂組成物を120℃に設定したレオメーター(プレート直径25mm、測定周波数1Hz)を用いて測定を行い、数値を表1に記載した。また、初期の粘度の10倍に到達する時間を表1に記載した。
【0114】
[硬化物サンプルの作製]
表1に示す熱硬化性樹脂組成物を120℃×30分、さらに180℃×1時間で加熱硬化して成型し、硬化物を得た。
【0115】
[ガラス転移温度の測定]
熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得た硬化物を、5×5×15mmの試験片にそれぞれを加工した後、それらの試験片を熱膨張計TMA8140C(株式会社リガク社製)にセットした。そして、昇温プログラムを昇温速度5℃/分に設定し、19.6mNの一定荷重が加わるように設定した後、25℃から300℃までの間で試験片の寸法変化を測定した。この寸法変化と温度との関係をグラフにプロットした(グラフの一例を図1に示す)。このようにして得られた寸法変化と温度とのグラフから、下記に説明するガラス転移温度の決定方法により、実施例及び比較例におけるガラス転移温度を求めた。
【0116】
図1に示すように、変曲点の温度以下で寸法変化-温度曲線の接線が得られる任意の温度2点をT1及びT2とし、変曲点の温度以上で同様の接線が得られる任意の温度2点をT1’及びT2’とした。T1及びT2における寸法変化をそれぞれD1及びD2として、点(T1、D1)と点(T2、D2)とを結ぶ直線と、T1’及びT2’における寸法変化をそれぞれD1’及びD2’として、点(T1’、D1’)と点(T2’、D2’)とを結ぶ直線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0117】
[線膨張係数(CTE1)の決定方法]
上記ガラス転移温度測定と同じ条件で硬化物の熱機械分析を行い、40℃から80℃までの温度範囲の測定結果から、線膨張係数を算出し、CTE1とした。
【0118】
[曲げ弾性率の測定]
曲げ弾性率は、JIS K 6911:2006に準じ、上記の硬化物を用いて測定を行った。
【0119】
【表1】
【0120】
(実施例1)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂製の枠がついた、110mm×90mmのニッケルメッキされた銅と絶縁性のセラミックからなるDBC(ダイレクトボンド銅)絶縁基板上に、はんだを介してSiチップをダイボンドし、アルミワイヤでワイヤーボンディングを行った容器を用意した。表1記載の熱硬化性樹脂組成物を封止面積に対し95%の面積になるよう、容器内に配置した。加圧オーブン内に、熱硬化性樹脂組成物が配置された容器を配置した。その後、加圧オーブン内を10℃/分の速度で、100℃まで昇温して組成物を溶融した。100℃到達後、加圧オーブン内を50,000Paまで300Pa/秒の減圧速度で減圧を行い、50,000Pa到達後、1分間保持した。その後、加圧オーブン内を大気圧にし、100℃で1.0MPaまで0.1MPa/分の速度で加圧した。1.0MPa到達後、10分間保持した。その後、加圧オーブン内を1.0MPaに加圧した状態で、10℃/分の速度で、150℃まで昇温した。150℃到達後、2時間保持し熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化し、パワーモジュールを得た。
【0121】
(実施例2)
熱硬化性樹脂組成物を封止面積に対し30%の面積になるよう、容器内に配置した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0122】
(実施例3)
加圧オーブン内を100℃に昇温する際の昇温速度を0.5℃/分とし、熱硬化性樹脂組成物を溶融した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0123】
(実施例4)
加圧オーブン内を100℃に昇温する際の昇温速度を30℃/分とし、熱硬化性樹脂組成物を溶融した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0124】
(実施例5)
加圧オーブン内を180℃に昇温し、熱硬化性樹脂組成物を溶融した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0125】
(実施例6)
加圧オーブン内を2,000Paまで減圧した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0126】
(実施例7)
加圧オーブン内を100Pa/秒で減圧した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0127】
(実施例8)
加圧オーブン内を60,000Pa/秒で減圧した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0128】
(実施例9)
加圧オーブン内を0.2MPaに加圧した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0129】
(実施例10)
加圧オーブン内を5MPaに加圧した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0130】
(実施例11)
熱硬化性樹脂組成物を封止面積に対し20%の面積になるよう、容器内に配置した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0131】
(実施例12)
加圧オーブン内を100℃に昇温する際の昇温速度を0.3℃/分とし、熱硬化性樹脂組成物を溶融した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0132】
(実施例13)
加圧オーブン内を100℃に昇温する際の昇温速度を60℃/分とし、熱硬化性樹脂組成物を溶融した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0133】
(実施例14)
加圧オーブン内を60℃に昇温し、熱硬化性樹脂組成物を溶融した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0134】
(実施例15)
加圧オーブン内を220℃に昇温し、熱硬化性樹脂組成物を溶融した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0135】
(実施例16)
加圧オーブン内を300Paまで減圧した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0136】
(実施例17)
加圧オーブン内を50Pa/秒で減圧した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0137】
(実施例18)
加圧オーブン内を75,000Pa/秒で減圧した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0138】
(実施例19)
加圧オーブン内を0.06MPaに加圧した以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0139】
(比較例1)
加圧オーブン内を加熱せず、熱硬化性樹脂組成物を溶融する工程を含まない以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0140】
(比較例2)
加圧オーブン内を減圧する工程を含まない以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0141】
(比較例3)
加圧オーブン内を加圧する工程を含まない以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0142】
(比較例4)
加圧オーブン内を加熱し、熱硬化性樹脂組成物を硬化する工程を含まない以外は実施例1と同様にしてパワーモジュールを得た。
【0143】
[表面ボイドの評価]
実施例1~19及び比較例1~4にて得られたパワーモジュールについて、光学顕微鏡を用いて、表面のボイドの有無を確認した。表面の直径100μm以上のボイドの数が2個/cm以下を◎、表面のボイドの数が3~5個/cmを〇、表面のボイドの数が6~10個/cmを△、表面のボイドの数が10個/cmを超えるものを×とし表2に記載した。
【0144】
[内部ボイドの評価]
実施例1~19及び比較例1~4にて得られたパワーモジュールについて、超音波探査装置を用いて内部のボイドの有無を確認した。内部の直径100μm以上のボイドの数が2個/cm以下を◎、内部のボイドの数が3~5個/cmを〇、内部のボイドの数が6~10個/cmを△、内部のボイドの数が10個/cmを超えるものを×とし表2に記載した。
【0145】
[ヒートサイクル試験(耐熱性)]
実施例1~19及び比較例1~4にて得られたパワーモジュールについて、ヒートサイクル試験(-65℃で30分間保持、150℃で30分間保持を1,000サイクル繰り返す)に供し、ヒートサイクル試験後の熱硬化性樹脂組成物とDBC絶縁基板上との剥離状態を、超音波探査装置を用いて確認した。合計5つの成型品の、剥離が認められた成型品を数えた。
【0146】
[耐湿信頼性試験]
実施例1~19及び比較例1~4にて得られたパワーモジュールについて、耐湿信頼性試験(プレッシャークッカーにて121℃、2.03×105Paの飽和水蒸気下で48時間曝露)に供し、耐湿信頼性試験後の熱硬化性樹脂組成物とDBC絶縁基板上との剥離状態を、超音波探査装置を用いて確認した。合計5つの成型品の、剥離が認められた成型品を数えた。
【0147】
【表2】
【0148】
これらの結果から、実施例と比較例を比べると溶融、減圧、加圧、硬化のいずれの工程も欠くとボイドや絶縁基板からの剥離が見られ、信頼性の優れるパワーモジュールを得られないことが分かる。また、封止面積、昇温速度、加熱溶融温度、減圧時の圧力、減圧速度、加圧時の圧力を好ましい範囲内に設定した実施例1~10と、これらのパラメータのうちのいずれかを好ましい範囲外に設定した実施例11~19では、いずれも本発明のパワーモジュールを得ることができたが、各パラメータを好ましい範囲内に設定した実施例1~10の方がより良い結果を得ることができることが分かる。
【0149】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0150】
1…複数の半導体素子が搭載された絶縁基板を収納した容器、
2…ボンディングワイヤ、 3…パワー半導体素子、 4…絶縁基板、 5…容器、
6…熱硬化性樹脂組成物、 7…成型容器
図1
図2
図3