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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】Niの多い電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231127BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231127BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020573290
(86)(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2019065862
(87)【国際公開番号】W WO2020002024
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】18180290.1
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(72)【発明者】
【氏名】エルク,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】レッツェルター,トマス
(72)【発明者】
【氏名】ヘルツレ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ジュリンク,カルシュテン
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/016525(WO,A1)
【文献】特開2007-273108(JP,A)
【文献】特開2017-188294(JP,A)
【文献】特開2018-073654(JP,A)
【文献】特開2013-125732(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0076222(KR,A)
【文献】特開2009-099523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li1+xTM1-xによる電極活物質を改質する方法であって、TMは、一般式(Ia)又は(Ib)、

(NiaCobMnc)1-dM1 d (I a)

(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.75~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
cは、0.025~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
は、Ba、Mg、Al、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つである)

(NiaCobAle)1-dM2 d (I b)

(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.75~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
eは、0.025~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
は、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つである)
による金属の組み合わせであり、
xは-0.05~+0.2の範囲であり、
前記方法は、以下の工程、
(a)少なくとも5から最大14までの範囲のpH値を有する水性媒体で前記Li1+xTM1-xを処理する工程と、
(b)固液分離により、処理されたLi1+xTM1-xから前記水性媒体を除去する工程と
を含み、
工程(a)及び(b)は、同時に開始される、方法。
【請求項2】
攪拌機を備えるフィルター装置で又は遠心分離機で、処置(a)及び(b)を実行する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
攪拌器を備える圧力フィルター又は吸引フィルターを使用することによって、処置(b)を実行する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)による前記水性媒体は、0.001~10質量%の、Al、Mo、W、Ti又はZrの酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物を含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
TMは、一般式(Ia)、

(NiaCobMnc)1-dM1 d (I a)

(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.75~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
cは、0.025~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
は、Al、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つである)
による金属の組み合わせである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
TMは、一般式(Ib)

(NiaCobAle)1-dM2 d (I b)

(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.75~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
eは、0.025~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
は、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つである)
による金属の組み合わせである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、後続の工程(c)
(c)350~900℃の範囲の温度で、処置(a)及び(b)に従って処理された物質を熱処理する工程
を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(a)の開始時に、前記水性媒体は少なくとも5から最大14までのpH値を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式Li1+xTM1-xによる電極活物質を改質する方法に関し、ここで、TMは、一般式(Ia)又は(Ib)、

(NiaCobMnc)1-dM1 d (I a)

(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.75~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
cは、0.025~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
は、Ba、Mg、Al、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つである)

(NiaCobAle)1-dM2 d (I b)
(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.75~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2の範囲であり、
eは、0.025~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
は、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つである)
による金属の組み合わせであり、
xは-0.05~+0.2の範囲であり、
前記方法は、以下の工程、
(a)5~14の範囲のpH値を有する水性媒体で前記Li1+xTM1-xを処理する工程と、
(b)固液分離により、処理されたLi1+xTM1-xから前記水性媒体を除去する工程と
を含み、
工程(a)及び(b)は、最大3分間の時間差で開始される。
【0002】
さらに、本発明は、Niの多い電極活物質に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。携帯電話及びラップトップコンピューターなどの小型の装置からカーバッテリー及び他のE-モビリティ(e-mobility)用バッテリーまで、多くの応用分野が考えられてきた。電解質、電極材料及びセパレータなどの様々な電池の構成要素は、電池の性能に関して重要な役割を有する。カソード材料は特に注目されている。いくつかの材料、例えばリチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案されてきた。広範な研究調査が行われてきているが、これまでに見出された解決策は未だに改善の余地がある。
【0004】
現在、いわゆるNiの多い電極活物質、例えば、総TM含有量に対して、75モル%以上のNiを含有する電極活物質への特定の関心が観察されている。
【0005】
リチウムイオン電池、特にNiの多い電極活物質の1つの問題は、電極活物質の表面での望ましくない反応に起因する。このような反応は、電解質又は溶媒又はその両方の分解であり得る。したがって、充電及び放電中のリチウム交換を妨げることなく、表面を保護することが試みられた。例は、例えばアルミニウムオキシド又はカルシウムオキシドで電極活物質をコーティングする試みである(例えば、US 8,993,051参照)。
【0006】
他の理論では、表面の遊離LiOH又はLiCOに望ましくない反応が特定される。水で電極活物質を洗浄することによってこのような遊離LiOH又はLiCOを除去する試みがなされてきた(例えば、JP 4,789,066 B、JP 5,139,024 B及びUS2015/0372300)。しかしながら、場合によっては、得られた電極活物質の特性が改善されないことが観察された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】US 8,993,051
【文献】JP 4,789,066 B
【文献】JP 5,139,024 B
【文献】US2015/0372300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた電気化学特性を有するNiの多い電極活物質の製造方法を提供することであった。優れた電気化学特性を有するNiの多い電極活物質を提供することも本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、以下で「本発明の方法」とも称される、冒頭で定義された方法が見出された。水とNiの多い電極活物質との相互作用が長すぎると、非常に強いリチウム枯渇(lithium depletion)をもたらす可能性があることが見出された。
【0010】
本発明の方法は、一般式Li1+xTM1-xによる電極活物質を改質する方法であり、ここで、TMは一般式(Ia)又は(Ib)による金属の組み合わせであり、前記方法は、以下の工程、
(a)5~14の範囲のpH値を有する水性媒体で前記Li1+xTM1-xを処理する工程と、
(b)固液分離により、処理されたLi1+xTM1-xから前記水性媒体を除去する工程と
を含み、
ここで、工程(a)及び(b)は、最大3分間の時間差で開始される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の方法を具体的に説明する。
【0012】
本発明の方法は、本発明の文脈において工程(a)及び工程(b)とも称される、2つの工程、(a)及び(b)を含む。工程(a)及び(b)の開始は、同時又は好ましくは順次であり得る。工程(a)及び(b)は、同時に又は順次に、又は好ましくは、少なくとも部分的に重なって又は同時に行うことができる。
【0013】
本発明の方法は、一般式Li1+xTM1-xによる電極活物質から開始し、ここで、TMは、Niと、Co及びMnから選択される少なくとも1種の遷移金属と、任意にAl、Ba及びMgから選択される少なくとも1種の金属と、任意にNi、Co及びMn以外の1種以上の遷移金属との組み合わせを含有し、少なくとも75モル%、好ましくは少なくとも80モル%のTMはNiであり、xは-0.05~0.2の範囲である。前記物質は、以下で出発物質とも称される。
【0014】
本発明の一実施態様において、出発物質は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法(electroacoustic spectroscopy)によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0015】
本発明の一実施態様において、出発物質は、0.1~1.0m/gの範囲の、以下で「BET表面積」とも称される比表面積(BET)を有する。BET表面積は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃で30分以上、及びこれを超えてサンプルをガス放出した後の窒素吸着によって決定することができる。
【0016】
一部の元素は遍在する。本発明の文脈において、不純物としての微量の遍在する金属、例えばナトリウム、カルシウム、鉄又は亜鉛は、本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量は、出発物質の総金属含有量に対して、0.05モル%以下の量を意味する。
【0017】
本発明の一実施態様において、変数TMは、一般式(Ia)に対応する

(NiaCobMnc)1-dM1 d (I a)

(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.75~0.95、好ましくは0.85~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
cは、0.025~0.2、好ましくは0.05~0.1の範囲であり、
dは、0~0.1、好ましくは0~0.04の範囲であり、
は、Al、Mg、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つ、好ましくはAl、Ti及びWの少なくとも1つである)。
【0018】
変数xは-0.05~0.2の範囲である。
【0019】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(Ia)に対応し、xは、0~0.2、好ましくは0~0.1、さらにより好ましくは0.01~0.05の範囲である。
【0020】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(Ib)に対応し、xは-0.05~0の範囲である。
【0021】
出発物質は一般に導電性炭素を含まない、すなわち、出発物質の導電性炭素含有量は、前記出発物質に対して、1質量%未満、好ましくは0.001~1.0質量%である。
【0022】
工程(a)では、5~14、より好ましくは7~12.5、さらにより好ましくは8~12.5の範囲のpH値を有する水性媒体で、前記出発物質を処理する。pH値は、工程(a)の開始時に測定される。工程(a)の過程で、pH値が少なくとも10に上昇することが観察される。
【0023】
工程(a)で使用される水性媒体、特に水の水硬度、特にカルシウムを少なくとも部分的に除去することが好ましい。脱塩水の使用が好ましい。
【0024】
工程(a)の代替の実施態様では、工程(a)で使用される水性媒体は、アンモニア又は少なくとも1種の遷移金属塩、例えばニッケル塩又はコバルト塩を含有してもよい。好ましくは、このような遷移金属塩は、電極活物質に有害ではない対イオンを有する。硫酸塩及び硝酸塩は使用可能である。塩化物は好ましくない。
【0025】
工程(a)の一実施態様において、工程(a)で使用される水性媒体は、0.001~10質量%の、Al、Mo、W、Ti又はZrの酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物を含有する。工程(a)の他の実施態様において、工程(a)で使用される水性媒体は、測定可能な量の、任意の、Al、Mo、W、Ti又はZrの酸化物又は水酸化物又はオキシ水酸化物を含有しない。
【0026】
本発明の一実施態様において、工程(a)は5~65℃の範囲の温度で行われ、10~35℃が好ましい。
【0027】
本発明の一実施態様において、工程(a)は常圧で行われる。しかしながら、高圧下で、例えば常圧より10ミリバール~10バール高い圧力で、又は吸引で、例えば常圧より50~250ミリバール低い圧力で、好ましくは常圧より100~200ミリバール低い圧力で、工程(a)を行うことが好ましい。
【0028】
工程(a)は、例えば、例えばフィルター装置の上に位置するため、容易に排出することができる容器内で行うことができる。そのような容器は、出発物質で充填され、続いて水性媒体を導入してもよい。他の実施態様において、そのような容器は、水性媒体で充填され、続いて出発物質を導入する。他の実施態様では、出発物質及び水性媒体を同時に導入する。
【0029】
本発明の一実施態様において、工程(a)における出発物質と総水性媒体との体積比は、2:1~1:5、好ましくは2:1~1:2の範囲である。
【0030】
工程(a)は、混合操作、例えば震動によって、又は特に攪拌又は剪断によって改善することができる(以下を参照)。
【0031】
本発明の一実施態様において、工程(a)は、1分間~30分間、好ましくは1分間~5分間未満の範囲の持続時間を有する。実施態様では、5分間以上の持続時間は可能であり、ここで、工程(a)及び(b)は、重なって又は同時に行われる。
【0032】
工程(a)の開始から遅くとも3分後に、工程(b)を開始する。工程(b)は、固液分離により、例えばデカンテーションにより、又は好ましくは濾過により、処理されたLi1+xTM1-xから前記水性媒体を除去することを含む。
【0033】
本発明の一実施態様において、工程(a)で得られるスラリーは、遠心分離機、例えばデカンター遠心分離機又はフィルター遠心分離機中に、又はフィルター装置、例えば吸引フィルターに、又は好ましくは工程(a)を行う容器の真下に配置されたベルトフィルターに直接排出される。その後、濾過を開始する。
【0034】
本発明の特に好ましい実施態様では、攪拌器を備えたフィルター装置、例えば、攪拌器を備えた圧力フィルター又は攪拌器を備えた吸引フィルターで、工程(a)及び(b)を行う。工程(a)に従って出発物質と水性媒体を組み合わせた最大3分後、又はその直後でさえ、水性媒体の除去は、濾過を開始することによって開始される。実験室規模では、ブフナー漏斗で工程(a)及び(b)を行うことができ、工程(a)は手動攪拌によってサポートすることができる。
【0035】
好ましい実施態様では、フィルター装置、例えば、フィルター内のスラリー又はフィルターケーキの攪拌を可能にする攪拌フィルター装置で、工程(a)を行う。工程(a)の開始後の最大3分後、濾過、例えば圧力濾過又は吸引濾過の開始により、工程(b)が開始される。
【0036】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、1分間~27分間の範囲の持続時間を有する。
【0037】
本発明の一実施態様において、工程(b)における撹拌は、1分当たり1~50回転(「rpm」)の速度で行われ、5~20rpmが好ましい。
【0038】
工程(a)及び(b)を同じ温度で行うことが好ましい。
【0039】
工程(a)及び(b)を同じ圧力で行うこと、又は工程(b)を開始する時に圧力を上昇することが好ましい。
【0040】
本発明の一実施態様において、工程(b)の濾材は、セラミック、焼結ガラス、焼結金属、有機ポリマーフィルム、不織布、及び織物から選択することができる。
【0041】
本発明の一実施態様において、工程(a)及び(b)は、低減されたCO含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(a)及び(b)を行うことがさらにより好ましい。
【0042】
本発明の一実施態様において、本発明の方法は、後続の工程(c)を含む:
(c)350~900℃、好ましくは550~750℃の範囲の温度で、処置(measure)(a)及び(b)に従って処理された物質を熱処理する工程。
【0043】
工程(c)は、任意のタイプのオーブン、例えばローラーハースキルン、プッシャーキルン、ロータリーキルン、振り子キルン、又は実験室規模の試験の場合にマッフルオーブンで行うことができる。
【0044】
350~900℃の温度は、工程(c)の最高温度に対応する。
【0045】
工程(b)から得られた物質を工程(c)に直接供することが可能である。しかしながら、温度を段階的に上げるか、又は温度を上昇するか、又は工程(b)の後に得られた物質を工程(c)に供する前に最初に100~250℃の範囲の温度で乾燥させることが好ましい。前記段階的に上げること又は温度の上昇は、常圧又は減圧、例えば1~500ミリバールで行うことができる。
【0046】
最高温度では、工程(c)を常圧下で行うことができる。
【0047】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、酸素含有雰囲気、例えば空気、酸素富化空気又は純酸素の下で行われる。
【0048】
工程(c)の前に100~250℃の範囲の温度で乾燥を行う実施態様において、そのような乾燥は、10分間~5時間の持続時間で行うことができる。
【0049】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、低減されたCO含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(c)を行うことがさらにより好ましい。
【0050】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、1~10時間、好ましくは90分間~6時間の範囲の持続時間を有する。
【0051】
本発明の一実施態様において、電極活物質のリチウム含有量は、1~5質量%、好ましくは2~4質量%低減する。前記低減は主に、いわゆる残留リチウムに影響を及ぼす。
【0052】
本発明の方法を行うことにより、優れた電気化学特性を有する電極活物質が得られる。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、水性媒体と電極活物質との短い相互作用時間は、水の有害な影響の防止につながると仮定する。
【0053】
本発明のさらなる態様は、以下で本発明の電極活物質とも称される電極活物質に関する。本発明の電極活物質は、本発明の方法に従って得ることができる。本発明の電極活物質は、0.6~0.8m/gの範囲の比表面積(BET)を有し、一般式Li1+x1TM1-x1によるものであり、ここで、TMは、Niと、Co及びMnから選択される少なくとも1種の遷移金属と、任意にAl、Ba及びMgから選択される少なくとも1種の金属と、任意にNi、Co及びMn以外の少なくとも1種の遷移金属との組み合わせを含有し、少なくとも75モル%のTMはNiであり、x1は-0.01~0.1の範囲である。
【0054】
比表面積(BET)は、DIN 66131に従って、窒素吸着によって決定することができる。
【0055】
好ましい実施態様において、変数TMは、一般式(Ia)に対応する

(NiaCobMnc)1-dM1 d (I a)

(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.75~0.95、好ましくは0.85~0.95の範囲であり、
bは、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
cは、0.025~0.2、好ましくは0.05~0.1の範囲であり、
dは、0~0.1、好ましくは0~0.04の範囲であり、
は、Al、Mg、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つ、好ましくはAl、Ti及びWの少なくとも1つである)。
【0056】
他の好ましい実施態様において、変数TMは、一般式(Ib)に対応する

(Nia*Cob*Ale*)1-d*M2 d* (I b)

(式中、a*+b*+c*=1であり、
a*は、0.75~0.95、好ましくは0.88~0.95の範囲であり、
b*は、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
e*は、0.01~0.2、好ましくは0.015~0.04の範囲であり、
d*は、0~0.1、好ましくは0~0.02の範囲であり、
は、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1つである)。
【0057】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、LiOHの0.05~0.30質量%及びLiCOの0.05~0.30質量%の範囲の、残留水酸化リチウム(LiOH)及び残留炭酸リチウム(LiCO)として表される、滴定によって決定される残留リチウム含有量を有する。
【0058】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0059】
本発明の電極活物質は、リチウムイオン電池のカソードに非常に適している。それらは、例えば500サイクル以上の繰り返しサイクルによって蓄積する抵抗が低いことを示す。
【0060】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1種の本発明による電極活物質を含む電極に関する。それは、リチウムイオン電池に特に有用である。少なくとも1つの本発明による電極を含むリチウムイオン電池は良好な放電挙動を示す。少なくとも1種の本発明による電極活物質を含む電極は、以下で本発明のカソード又は本発明によるカソードとも称される。
【0061】
本発明によるカソードは、さらなる構成要素を含むことができる。それらは、集電器、例えばアルミホイル(これに限定していない)を含むことができる。それらは、導電性炭素及びバインダーをさらに含むことができる。
【0062】
好適なバインダーは、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合又はフリーラジカル(共)重合により得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適する。ポリイソプレン及びポリアクリレートはさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0063】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0064】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタアクリレート、2-エチルヘキシルメタアクリレート、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸及び無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0065】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばエチレン、及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはイソタクチックポリプロピレン又は本質的にイソタクチックポリプロピレンである。
【0066】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0067】
別の好ましいバインダーは、ポリブタジエンである。
【0068】
他の好適なバインダーは、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0069】
本発明の一実施態様において、バインダーは、50,000g/molから、1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量Mを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0070】
バインダーは、架橋された又は架橋されていない(コ)ポリマーであってもよい。
【0071】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダーは、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、ビニリデンフルオリド-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0072】
好適なバインダーは、特に、ポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリビニルクロリド又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリビニルフルオリド及び特にポリビニリデンフルオリド及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0073】
本発明のカソードは、電極活物質に対して、1~15質量%のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。他の実施態様において、本発明のカソードは、0.1質量%から1質量%未満のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。
【0074】
本発明のさらなる態様は、本発明の電極活物質、カーボン及びバインダーを含む少なくとも1つのカソード、少なくとも1つのアノード、及び少なくとも1つの電解質を含有する電池である。
【0075】
本発明のカソードの実施態様は、すでに上記で詳細に記載されている。
【0076】
前記アノードは、少なくとも1種のアノード活物質、例えばカーボン(グラファイト)、TiO、酸化リチウムチタン、シリコン、リチウム又はスズを含有してもよい。前記アノードは、集電器、例えば銅ホイルなどの金属ホイルをさらに含有してもよい。
【0077】
前記電解質は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0078】
電解質のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であり得、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0079】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C~C-アルキレングリコール、及び特にポリエチレングリコールである。ここでは、ポリエチレングリコールは、20モル%以下の1種以上のC~C-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0080】
好適なポリアルキレングリコール、及び特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、少なくとも400g/molであり得る。
【0081】
好適なポリアルキレングリコール、及び特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、最大5000000g/mol、好ましくは最大2000000g/molであり得る。
【0082】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、好ましくは1,2-ジメトキシエタンである。
【0083】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0084】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0085】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、及び特に1,3-ジオキソランである。
【0086】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0087】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(III)及び(IV)、
【化1】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なることができ、水素及びC~C-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R及びRの両方ともがtert-ブチルであることはない)
の化合物である。
【0088】
特に好ましい実施態様において、Rはメチルであり、R及びRはそれぞれに水素であるか、又はR、R及びRはそれぞれに水素である。
【0089】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(V)のビニレンカーボネートである。
【0090】
【化2】
【0091】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0092】
電解質(C)は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。好適な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiC(C2n+1SO、リチウムイミド、例えばLiN(C2n+1SO(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiAlCl、及び一般式(C2n+1SOYLiの塩である
(式中、Yが酸素及び硫黄から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンから選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素から選択される場合、t=3である)。
【0093】
好ましい電解質塩は、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiPF、LiBF、LiClOから選択され、特に好ましくはLiPF及びLiN(CFSOである。
【0094】
本発明の実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1つ以上のセパレータを含む。好適なセパレータは、金属リチウムに対して反応しないポリマーフィルム、特に多孔性ポリマーフィルムである。セパレータのための特に好適な材料は、ポリオレフィン、特にフィルム形成の多孔性ポリエチレン及びフィルム形成の多孔性ポリプロピレンである。
【0095】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータは、35~45%の範囲の多孔率を有することができる。好適な細孔径は、例えば30~500nmの範囲である。
【0096】
本発明の他の実施態様において、セパレータは、無機粒子で充填したPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは40~55%の範囲の多孔率を有し得る。好適な細孔径は、例えば80~750nmの範囲である。
【0097】
本発明による電池は、任意の形状、例えば、立方体、又は円筒形ディスク又は円筒形缶の形状を有することができるハウジングをさらに含む。一変形態様において、ポーチとして構成された金属ホイルをハウジングとして使用する。
【0098】
本発明による電池は、例えば低温(0℃以下、例えば-10℃以下でさえ)での良好な放電挙動、特に高温(45℃以上、例えば最大60℃)での、特に容量損失に関して非常に良好な放電及びサイクル挙動、60℃以上のような高温での良好な安全挙動を示す。好ましくは、サイクル安定性及びCレート容量挙動(C-rate capacity behavior)も改善されるか、又はLi含有量はより低いが、それらは少なくとも同一である。
【0099】
本発明による電池は、互いに組み合わされている、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは少なくとも1つの本発明によるカソードを含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は本発明によるカソードを含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは本発明によるカソードを含有する。
【0100】
本発明はさらに、本発明による電池を機器、特にモバイル機器に使用する方法を提供する。モバイル機器の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は例えば建築部門における電動手工具、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【0101】
実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0102】
総説:残留LiOH及びLiCOを以下のように決定することができる。
【0103】
ビーカー中で、1gの電極活物質を40mLの脱イオン水と混合し、20分間撹拌した。その後、シリンジフィルターを使用することにより、水相を固体から分離し、100mLのビーカーに添加した。15mLの脱イオン水を添加し、得られた溶液を0.1Mの塩酸水溶液で滴定した。下記の等式を使用して、質量%で表示するLiOH及びLiCOの量(w(LiOH)及びw(Li2CO3))を計算した

w(LiOH) = ((VEP1-(VEP2-VEP1)) ・ cHCl ・ tHCl ・ MLiOH ・100) / (mサンプル ・ 1000)

(式中、VEP1及びVEP2:mlで表示する、変曲点/等量点での体積
HCl:mol/lで表示する、標準溶液の濃度
HCl:標準溶液の滴定量
LiOH:g/molで表示する、LiOHのモル質量(23.95g/mol)
サンプル:gで表示する、サンプルの質量(再秤量によって生成した)
100:g/100gで表示する結果を得るための換算係数
1000:mgで表示するサンプル質量を得るための換算係数)、
及び

w(Li2CO3) = ((VEP2-VEP1) ・ cHCl ・ tHCl ・ MLi2CO3 ・ 100) / (mサンプル ・ 1000)

(式中、VEP1及びVEP2:mlで表示する、変曲点/等量点での体積
HCl:mol/lで表示する、標準溶液の濃度
HCl:標準溶液の滴定量
Li2CO3:g/molで表示する、LiCOのモル質量(73.89g/mol)
サンプル:gで表示する、サンプルの質量(再秤量によって生成した)
100:g/100gで表示する結果を得るための換算係数
1000:mgで表示するサンプル質量を得るための換算係数)。
【0104】
I.カソード活物質の製造
I.1 前駆体の製造
脱イオン水及び1kgの水あたり49gの硫酸アンモニウムで、撹拌タンク反応器を充填した。溶液を55℃に加熱し、水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより12のpH値を調整した。
【0105】
硫酸遷移金属水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を1.8の流量比で同時に供給し、総流量を8時間の滞留時間とすることにより、共沈反応を開始させた。遷移金属溶液は、Ni、Co及びMnの硫酸塩を8.5:1.0:0.5のモル比及び1.65mol/kgの合計の遷移金属濃度で含有した。水酸化ナトリウム水溶液は、6の質量比での25質量%の水酸化ナトリウム溶液及び25質量%のアンモニア溶液であった。水酸化ナトリウム水溶液を別に供給することにより、pH値を12に維持した。すべての供給の始動から始めて、母液を継続的に除去した。33時間後、すべての供給流を停止した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水で洗浄し、空気中120℃で乾燥させ、ふるいにかけることにより、混合遷移金属(TM)オキシヒドロキシド前駆体を得た。
【0106】
I.2 リチウム化カソード活物質(CAM)
上記のように得られた混合遷移金属(TM)オキシヒドロキシド前駆体(遷移金属の組成はNi0.85Co0.1Mn0.05)を、Alと混合してNi+Co+Mn+Alに対して0.3モル%のAlの濃度を得、LiOH一水和物と混合して1.06のLi/(TM+Al)モル比を得た。得られた混合物を760℃に加熱し、60体積%の酸素と40体積%の窒素との混合物の強制流中で10時間保持した。室温に冷却した後、粉末を解凝集し(deagglomerated)、32μmのメッシュでふるいにかけて、Alドープ塩基CAM.1を得た。
【0107】
II.水でのCAM.1の処理
II.1 本発明によるCAM.1の処理
室温で、1.33の質量比で(CAM.1:水)、CAM.1を脱塩水に添加した。得られたスラリーを3分間撹拌した後、液体をブフナー漏斗を通して濾過することにより直ちに除去した。このようにして得られた濾過ケーキを、真空メンブランポンプ中40℃で一晩乾燥させ、続いて、同様に真空メンブランポンプ中200℃で14時間の第2の乾燥工程を行った。CAM.1-Wを得た。濾液のpH値は12.46であった。
【0108】
ブフナー漏斗で3分間水処理を行って、その後に濾過を開始する場合、さらに良い結果が得られる。
【0109】
ブフナー漏斗で3分間水処理を行い、水処理と同時に濾過を開始する、すなわち、水の添加及び前記水性媒体の除去を同時に開始する場合、さらに良い結果が得られる。
【0110】
II.2 比較処理
実施例II.1を繰り返したが、濾過を開始する前に撹拌を35分間続けた。C-CAM.1-Wを得た。濾液のpH値は12.50であった。
【0111】
【表1】
【0112】
上記のように、残留LiOH及びLiCOを決定した。
【0113】
コイン型半電池で、下記の手順に従って電気化学試験を行って、表1に示しているように、0.1Cの放電容量及び抵抗を得た。
【0114】
カソードを製造するために、以下の成分を、塊のないペーストが得られるまで、互いに攪拌しながら混合した:
電極活物質、Arkema GroupからKynar HSV 900として市販されている、N-エチルピロリドン(NEP)に溶解したポリビニリデンジフルオリド(「PVdF」)の10質量%の溶液、Imerysから「Super C 65」として市販されている、62m/gのBET表面積を有するカーボンブラック、Imerysから「SFG6L」として市販されているグラファイト、及び追加のNEP。62%の固形分、及び93:1.5:2.5.3の電極活物質:カーボン:グラファイト:PVdFの質量比を得た。
【0115】
以下のようにカソードを調製した。厚さ20μmのアルミホイル上に、上記のペーストをドクターブレードで塗布し、続いて、乾燥させてカレンダー処理して、約10.3mg/cmの増量及び3.47g/cmの密度を得た。ディスク状のカソードをホイルから打ち抜いた。次に、カソードディスクを秤量し、105℃の真空オーブンで16時間乾燥させ、周囲空気にさらさずにアルゴングローブボックスに導入した。次に、カソードを備えたセルを構築した。
【0116】
コイン型セルで電気化学試験を行った。使用した電解質は、ジメチルカーボネート/エチレンカーボネート(質量比1:1)中の1MのLiPF溶液であった。
【0117】
アノード:リチウム、ガラス繊維セパレータによってカソードから分離した。
【0118】
3.0~4.3Vの範囲の電圧で、コイン型セルを充電及び放電した。0.1CのCレートで2サイクルの充電及び放電、0.5Cの充電及び0.2Cの放電で5サイクル後、8サイクル目で0.5Cの充電及び0.1Cの放電によって表1による0.1Cの放電容量を得た。
【0119】
9サイクル目から19サイクル目まで以下の充電/放電サイクルを行った:0.5C/0.2C、0.5C/0.5C、0.5C/1C、0.5C/2C、0.5C/3C、0.5C/5C、0.5C/7C、0.5C/10C、0.5C/0.5C及び0.5C/0.2C。
【0120】
19サイクル目では、セルを30秒間0.5Cで充電し、0.2Cで放電した。次に、2Cの放電パルスを10秒間印加した。このパルス(E(0s)-E(10s))の間に観測された電圧降下から、以下の式に従って表1による抵抗(R)を計算した:

R = (E(0s) - E (10s)) / I(10s) ・ 電極面積

(式中、I(10s)は、10秒間続く2Cのパルス中の電流である)。
【0121】
本発明の処理と比較して、比較処理のためのこの方法によって見出される容量の減少及び抵抗の増加は、比較処理によって引き起こされるカソード材料のより顕著な損傷を反映している。
【0122】
より大規模に実施する場合、実施例II.1は、撹拌機を備えた吸引フィルターで実施することができる。