(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】粉末供給装置、溶射装置、粉末供給方法及び溶射方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/134 20160101AFI20231127BHJP
B05B 7/14 20060101ALI20231127BHJP
B05B 7/22 20060101ALI20231127BHJP
B65G 53/66 20060101ALI20231127BHJP
B65G 65/40 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
C23C4/134
B05B7/14
B05B7/22
B65G53/66 B
B65G65/40 B
(21)【出願番号】P 2022146945
(22)【出願日】2022-09-15
(62)【分割の表示】P 2018203266の分割
【原出願日】2018-10-29
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 義之
(72)【発明者】
【氏名】板藤 寛
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/064867(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/105700(WO,A1)
【文献】特公昭42-000362(JP,B1)
【文献】特開平08-044174(JP,A)
【文献】特開平05-311385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/134
B05B 7/14
B05B 7/22
B65G 53/66
B65G 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィーダからノズルに粉末を供給する粉末供給装置であって、
粉末を出し入れする口部と、前記口部を開閉する開閉弁とを有し、気密状態で前記粉末を収納するカートリッジと、
前記カートリッジを着脱可能に収容する収容部と、前記収容部に収容された前記カートリッジ内の前記粉末を前記フィーダに補給する補給口と、前記補給口を開閉する開閉弁とを有する補給器と、
前記補給口から補給された前記粉末を前記ノズルに投入するフィーダと、
を備え、
前記カートリッジ及び前記補給器は、前記補給器に前記カートリッジが収容されることにより、前記口部と前記補給口との間に密閉空間を形成する、
粉末供給装置。
【請求項2】
前記密閉空間を減圧及び加圧する圧力調整機構を備える、
請求項1に記載の粉末供給装置。
【請求項3】
前記圧力調整機構は、
前記密閉空間に不活性ガスを供給するガス供給部と、
前記密閉空間を排気する排気機構と、
を有する、
請求項2に記載の粉末供給装置。
【請求項4】
前記フィーダは、前記ノズルに供給する前記粉末の流量を制御するフィード機構を有し、
前記カートリッジは、前記フィード機構に供給する前記粉末の流量を制御する押出機構を有する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の粉末供給装置。
【請求項5】
前記フィーダは、
前記ノズルに供給する前記粉末の流量を制御するフィード機構と、
前記カートリッジ内から前記フィード機構に供給する前記粉末の流量を制御する押出機構と、
を有する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の粉末供給装置。
【請求項6】
前記口部を開閉する開閉弁は、
前記口部を開閉する弁体と、
前記弁体に回転自在に取り付けられた軸部と、
を有し、
前記軸部を長手方向に移動させることにより前記口部が開閉する、
請求項5に記載の粉末供給装置。
【請求項7】
前記弁体は、前記カートリッジの内部及び外部に移動可能である、
請求項6に記載の粉末供給装置。
【請求項8】
前記口部を開閉する開閉弁は、前記軸部に対する前記弁体の角度を調整する弁体傾斜機構を有する、
請求項6又は7に記載の粉末供給装置。
【請求項9】
前記開閉弁の動作を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記密閉空間が形成された場合、
前記密閉空間に不活性ガスを供給することで前記密閉空間内をパージする工程と、
前記密閉空間内がパージされた後、前記口部を開閉する開閉弁及び前記補給口を開閉する開閉弁を開いて前記カートリッジ内の前記粉末を前記フィーダに補給する工程と、
を実行する、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の粉末供給装置。
【請求項10】
フィーダからノズルに投入した溶射材料の粉末を溶融し、溶融した粉末により被対象物に成膜する溶射装置であって、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の粉末供給装置を備える、
溶射装置。
【請求項11】
前記被対象物を収容し、内部が不活性ガスで充填されるチャンバを備える、
請求項10に記載の溶射装置。
【請求項12】
前記チャンバ内の不活性ガス及び粉末を吸い込み、作動液体によりシールする液体シールポンプを備える、
請求項11に記載の溶射装置。
【請求項13】
前記ノズルから噴射される粉末を集塵する集塵フードと、
前記集塵フードと接続され、前記集塵フードにより集塵された粉末を作動液体によりシールする液体シールポンプと、
前記粉末及び前記集塵フードに向けて気体を流す送風機と、
を備える、
請求項12に記載の溶射装置。
【請求項14】
前記粉末をプラズマにより溶融させる、
請求項10乃至13のいずれか一項に記載の溶射装置。
【請求項15】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の粉末供給装置を用いてフィーダからノズルに粉末を供給する粉末供給方法であって、
前記カートリッジを前記補給器の前記収容部に収容し、前記カートリッジの前記口部と前記補給器の前記補給口との間に密閉空間を形成する工程と、
前記密閉空間に不活性ガスを供給することで前記密閉空間をパージする工程と、
前記密閉空間がパージされた後、前記カートリッジ内と前記フィーダ内とを連通させる工程と、
前記カートリッジ内の前記粉末を、前記カートリッジ内と連通した前記フィーダ内に補給する工程と、
を有する、
粉末供給方法。
【請求項16】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の粉末供給装置を用いてフィーダからノズルに投入した溶射材料の粉末を溶融し、溶融した粉末により被対象物に成膜する溶射方法であって、
前記カートリッジを前記補給器の前記収容部に収容し、前記カートリッジの前記口部と前記補給器の前記補給口との間に密閉空間を形成する工程と、
前記密閉空間に不活性ガスを供給することで前記密閉空間をパージする工程と、
前記密閉空間がパージされた後、前記カートリッジ内と前記フィーダ内とを連通させる工程と、
前記カートリッジ内の前記粉末を、前記カートリッジ内と連通した前記フィーダ内に補給する工程と、
前記フィーダ内に補給された前記粉末を前記ノズルから噴射する工程と、
を有する、
溶射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粉末供給装置、溶射装置、粉末供給方法及び溶射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不活性ガスが充填された容器から供給される溶射材料の粉末を加熱して溶融し、溶融された粉末を被対象物に吹き付けることで被対象物に溶射膜を形成する溶射装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、水分、窒素、及び酸素と反応させずにフィーダの容器に粉末を補給できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様による粉末供給装置は、フィーダからノズルに粉末を供給する粉末供給装置であって、粉末を出し入れする口部と、前記口部を開閉する開閉弁とを有し、気密状態で前記粉末を収納するカートリッジと、前記カートリッジを着脱可能に収容する収容部と、前記収容部に収容された前記カートリッジ内の前記粉末を前記フィーダに補給する補給口と、前記補給口を開閉する開閉弁とを有する補給器と、前記補給口から補給された前記粉末を前記ノズルに投入するフィーダと、を備え、前記カートリッジ及び前記補給器は、前記補給器に前記カートリッジが収容されることにより、前記口部と前記補給口との間に密閉空間を形成する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、水分、窒素、及び酸素と反応させずにフィーダの容器に粉末を補給できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係るプラズマ溶射装置の構成例を示す断面図
【
図2】
図1のプラズマ溶射装置の粉末補給機構を示す図
【
図3】
図1のプラズマ溶射装置の回収廃棄機構を示す図
【
図4】プラズマ溶射装置の動作の一例を示す工程図(1)
【
図5】プラズマ溶射装置の動作の一例を示す工程図(2)
【
図6】プラズマ溶射装置の動作の一例を示す工程図(3)
【
図7】プラズマ溶射装置の動作の一例を示す工程図(4)
【
図13】
図12の粉末補給機構のシャッタの別の構成例を示す図
【
図17】フィーダに設けられたシャッタの構成例を示す図(1)
【
図18】フィーダに設けられたシャッタの構成例を示す図(2)
【
図19】第2の実施形態に係るプラズマ溶射装置の構成例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の限定的でない例示の実施形態について説明する。添付の全図面中、同一又は対応する部材又は部品については、同一又は対応する参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0009】
〔第1の実施形態〕
(プラズマ溶射装置)
第1の実施形態に係るプラズマ溶射装置について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、第1の実施形態に係るプラズマ溶射装置の構成例を示す断面図である。
【0010】
図1に示されるように、プラズマ溶射装置1は、不活性ガスを封入し雰囲気調整(環境制御)されたチャンバC内でプラズマ溶射を行う装置である。プラズマ溶射装置1では、溶射材料の粉末(以下「粉末R1」という。)をノズル11の先端部の開口11bから噴射し、高速のガスにより形成されたプラズマジェットPの熱により溶融しながら、雰囲気調整されたチャンバC内の基材Wの表面に向かって噴き出す。これにより、基材Wの表面に溶射材料の皮膜(以下「溶射膜」という。)F1が形成される。
【0011】
基材Wの一例としては、銅(Cu)等の電極が挙げられ、粉末R1の一例としては、リチウム(Li)の粉末が挙げられる。例えば、プラズマ溶射装置1を用いて銅の電極にリチウム粉末を完全に溶融して成膜することで、リチウム二次電池に使用される電極へのリチウムイオンのドーピングが可能になる。但し、粉末R1は、リチウムの粉末に限定されず、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)等の粉末であってもよく、これらを混合した粉末であってもよい。
【0012】
プラズマ溶射装置1は、低エネルギーで溶射材料を溶融するため、溶射材料の粉末が昇華せずに、液体の状態で存在し、成膜できる。このため、プラズマ溶射装置1の利点の一つとしては、融点の低いリチウム等の特定の溶射材料であっても溶射により成膜できる点が挙げられる。よって、プラズマ溶射装置1は、特にリチウム等の融点の低い金属の粉末を溶射材料とした場合に好適である。
【0013】
プラズマ溶射装置1は、供給部10、制御部30、ガス供給部40、プラズマ生成部60、チャンバC、粉末補給機構90、回収廃棄機構83及びドライ室88を含む。
【0014】
供給部10は、ノズル11及びフィーダ20を有し、粉末R1をプラズマ生成ガスにより運び、先端部の開口から噴射する。フィーダ20は、粉末R1をノズル11に供給する。粉末R1は、フィーダ20内の容器21に収納されている。粉末R1は、中心粒径が1μm~20μmの微粉末である。
【0015】
フィーダ20には、アクチュエータ22が設けられている。ノズル11は棒状の環状部材であり、その内部に粉末R1が運ばれる流路11aが形成されている。ノズル11の流路11aと容器21内とは連通する。粉末R1は、アクチュエータ22の動力により容器21からノズル11内の流路11aに投入される。フィーダ20は、例えばボウルフィーダであってよい。
【0016】
ノズル11には、粉末R1と共にプラズマ生成ガスが供給される。プラズマ生成ガスは、プラズマを生成するためのガスである。また、プラズマ生成ガスは、流路11aにて粉末R1を運ぶキャリアガスとしても機能する。ガス供給部40では、ガス供給源41からプラズマ生成ガスが供給され、バルブ46及びマスフローコントローラ(MFC:Mass Flow Controller)を通って開閉及び流量制御され、パイプ42を通ってノズル11内の流路11aに供給される。プラズマ生成ガスとしては、アルゴンガス(Ar)、ヘリウムガス(He)、窒素ガス(N2)、水素ガス(H2)、これら各種ガスを組み合わせたガス等のガスが利用できる。第1の実施形態では、プラズマ生成ガスとしてアルゴンガスを供給する場合を例に挙げて説明する。
【0017】
ノズル11は、プラズマ生成部60の本体部12を貫通し、その先端部がプラズマ生成空間Uに突出する。粉末R1は、プラズマ生成ガスによりノズル11の先端部まで運搬され、プラズマ生成ガスと共に先端部の開口11bからプラズマ生成空間Uに噴射される。
【0018】
本体部12は、絶縁材料により形成されている。本体部12は、中央部に貫通口12aを有している。ノズル11の前方部分11cは、本体部12の貫通口12aに挿入されている。ノズル11の前方部分11cは、直流電源50に接続され、直流電源50から電流が供給される電極(カソード)としても機能する。ノズル11は、金属により形成されている。
【0019】
プラズマ生成空間Uは、主に本体部12の凹み部12bと張出部12dとにより画定された空間であり、プラズマ生成空間Uにはノズル11の先端部が突出している。張出部12dは、本体部12の外壁に設けられた金属板12cと一端部で連結している。金属板12cは、直流電源50に接続されている。これにより、金属板12c及び張出部12dは電極(アノード)として機能する。
【0020】
電極間には、直流電源50から500W~10kWの電力が供給され、ノズル11の先端部と張出部12dの他端部との間で放電が生じる。これにより、プラズマ生成部60は、プラズマ生成空間Uにおいてノズル11から噴射したアルゴンガスを電離(分解)させ、アルゴンプラズマを生成する。
【0021】
また、プラズマ生成空間Uには、アルゴンガスが旋回流となって供給される。アルゴンガスは、ガス供給源41から供給され、バルブ46及びマスフローコントローラ(MFC)を通って開閉及び流量制御され、パイプ43を通って本体部12内を流れ、横方向からプラズマ生成空間Uに供給される。
【0022】
図1では、プラズマ生成空間Uに導入されるアルゴンガスの供給流路が1つだけ図示されているが、本体部12には複数の供給流路が設けられている。これにより、アルゴンガスは、複数の供給流路から横方向に旋回流となってプラズマ生成空間Uに供給される。このため、生成されるプラズマの拡散が防止され、プラズマジェットPが直線偏向となる。その結果、プラズマ生成部60は、ノズル11の先端部から噴射したプラズマ生成ガスを分解して、ノズル11と軸芯Oが共通するプラズマジェットPを生成する。なお、「軸芯が共通する」とは、供給部10(ノズル11)の中心軸とプラズマジェットPの吹き付け方向の中心軸とが一致する又は略同一方向に一致することをいう。
【0023】
係る構成により、供給部10は、ノズル11の内部に形成された流路11aに粉末R1とアルゴンガスとを直進させ、先端部の開口11bからプラズマ生成空間Uに噴射する。噴射した粉末R1は、高速のアルゴンガスにより形成されたプラズマジェットPの熱により溶融しながら基材Wの表面に向かって噴き出され、基材Wの表面に溶射膜F1を形成する。
【0024】
本体部12の内部には冷媒流路72が形成されている。チラーユニット70から供給された冷媒は、バルブ74、75の開閉により冷媒管71、冷媒流路72、冷媒管73を通って循環し、チラーユニット70に戻る。これにより、本体部12は冷却され、本体部12がプラズマの熱により高温になることを防止できる。なお、チャンバCの側壁には、チャンバCの内部を目視するための窓82が付けられている。
【0025】
(チャンバ)
チャンバCについて、
図1を参照しながら説明する。
図1に示されるように、チャンバCは、円柱状の中空の容器である。チャンバCは、例えばアルミニウム、ステンレス、石英等により形成されている。チャンバCは、天井部にて本体部12を支持し、供給部10及びプラズマ生成部60を閉空間とする。基材Wは、チャンバCの底部81に配置されたステージ80に載置されている。チャンバCの内部は、例えば所定の圧力に減圧されている。但し、チャンバCの内部は必ずしも減圧されなくてもよい。
【0026】
粉末R1には、例えばLi粉末のように水分に触れると爆発するものがある。また、粉末R1は、例えばLi粉末のように窒素や酸素と反応すると、窒化物や酸化物になり、活性な状態から安定した状態になる。その場合、正極と負極との間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行うリチウムイオン電池の機能が低下する。
【0027】
したがって、粉末R1は、水分、酸素、窒素の各成分を極力減らした空間に置いておくことが好ましい。よって、プラズマ溶射装置1は、チャンバCにより供給部10及びプラズマ生成部60を閉空間とすることで、粉末R1が収容されている容器21内やノズル11内及びプラズマ生成空間Uを含むチャンバC内から極力、水分、酸素、及び窒素を減らす。
【0028】
また、チャンバCの内部は、アルゴンガスにより充填されている。アルゴンガスは、ガス供給源41からパイプ45を通ってチャンバC内に供給される。但し、チャンバCの内部に充填されるガスは、アルゴンガスに限らず、不活性ガスであればよい。これにより、例えばチャンバCの内部の酸素濃度を1ppm(10-4%)程度又はそれ以下に低下させ、例えばCu電極(基板)に成膜されたLi膜中の酸素濃度を0.5%程度にすることができる。よって、第1の実施形態に係るプラズマ溶射装置1によれば、粉末R1を、水分、酸素、及び窒素と反応させずに成膜を行うことで膜の特性を向上させ、電池効率を改善することができる。
【0029】
(粉末補給機構)
粉末補給機構90について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、
図1のプラズマ溶射装置1の粉末補給機構90を示す図である。
【0030】
図2に示されるように、粉末補給機構90は、フィーダ20の容器21に粉末R1を補給する。粉末補給機構90は、カートリッジ91及び補給器92を有する。
【0031】
カートリッジ91は、粉末R1を気密状態で収納する可搬性の容器である。カートリッジ91内に粉末R1を収納する場合、例えば環境制御されたドライブース内に設けられたドライボックス内で、気密状態で保管されている保管容器からカートリッジ91内に粉末R1を充填する。ドライブースは、例えば2%~4%の湿度に保持されている。ドライボックスは、例えば0.5%~1.5%の湿度に保持されている。これにより、カートリッジ91内に充填される前の粉末R1が水分、酸素、及び窒素と反応することを防止できる。また、ドライボックス内において、ヒータ等の加熱手段により粉末R1を加熱してからカートリッジ91内に充填してもよい。
【0032】
カートリッジ91は、口部91a、シャッタ91b、及び押出機構91cを有する。
【0033】
口部91aは、粉末R1を出し入れする開口である。口部91aは、カートリッジ91が補給器92に収容された状態で、後述する補給口92cと対応する位置に形成されている。
【0034】
シャッタ91bは、口部91aを開閉可能な、例えば板状部材である。シャッタ91bを開くと、口部91aを介してカートリッジ91の内部と外部とが連通し、カートリッジ91の内部の粉末R1が口部91aを介して外部に吐出可能となる。一方、シャッタ91bを閉じると、カートリッジ91の内部と外部との連通が遮断され、カートリッジ91の内部の粉末R1は外部に吐出されない。これにより、シャッタ91bを閉じた状態であれば、カートリッジ91をドライボックス内から大気中に取り出しても、カートリッジ91内に充填された粉末R1が水分、酸素、及び窒素と反応することを防止できる。
【0035】
押出機構91cは、カートリッジ91の内部に収納された粉末R1を押し出す機構である。押出機構91cは、粉末R1を連続的に押出可能に構成されていてもよく、粉末R1を間欠的に押出可能に構成されていてもよい。シャッタ91bを開いた状態で押出機構91cによりカートリッジ91の内部に収納された粉末R1を押し出すことで、カートリッジ91の内部の粉末R1が口部91aを介して外部に吐出される。押出機構91cとしては、例えばスクリューフィーダが挙げられる。押出機構91cとしてスクリューフィーダを用いる場合、例えばスクリューの回転速度を制御することにより単位時間あたりの粉末R1の吐出量を調節することができる。
【0036】
補給器92は、カートリッジ91を着脱可能に収容し、気密状態を維持しながらカートリッジ91の内部の粉末R1をフィーダ20の容器21に補給する。補給器92は、本体92a、蓋体92b、補給口92c、及びシャッタ92dを有する。
【0037】
本体92aは、例えば略直方体形状を有し、上端が開口されている。これにより、本体92aの上方からカートリッジ91を挿入して収容することができる。但し、本体92aは、例えば側端が開口されていてもよく、この場合、本体92aの側方からカートリッジ91を挿入して収容することができる。
【0038】
蓋体92bは、本体92aの上端の上にO-リング等のシール部材92eを介して着脱可能且つ気密封止可能に取り付けられている。蓋体92bは、本体92aの上端の開口を開閉する。本体92a及び蓋体92bは、カートリッジ91を収容する収容部として機能する。
【0039】
補給口92cは、本体92a及び蓋体92bにより形成される収容部に収容されたカートリッジ91内の粉末R1をフィーダ20の容器21に補給する開口である。
【0040】
シャッタ92dは、補給口92cを開閉可能な、例えば板状部材である。シャッタ92dを開くと、補給口92cを介して収容部とフィーダ20の容器21内とが連通する。一方、シャッタ92dを閉じると、収容部とフィーダ20の容器21内との連通が遮断される。
【0041】
補給器92の内部の密閉空間Sは、加圧可能に構成されている。密閉空間Sは、例えばアルゴンガスによりパージされる。これにより、カートリッジ91内の粉末R1を水分、窒素、及び酸素と反応させずにフィーダ20の容器21に補給することができる。このため、粉末R1を用いた溶射膜の膜質の安定性の向上を図ることができる。アルゴンガスは、ガス供給源41からバルブ47が介設されたパイプ44を通って、補給器92に設けられたポート92fから補給器92内に供給される。但し、アルゴンガスは、ガス供給源41とは別に設けられた供給源から供給されてもよい。なお、補給器92の内部に充填されるガスは、アルゴンガスに限定されず、不活性ガスであればよく、例えばヘリウムガスであってもよい。また、補給器92の内部は、排気機構(図示せず)により排気可能であってもよい。
【0042】
(回収廃棄機構)
回収廃棄機構83について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、
図1のプラズマ溶射装置1の回収廃棄機構83を示す図である。
【0043】
図3に示されるように、回収廃棄機構83は、バルブ85の開閉により排気管84を通ってチャンバCの内部のアルゴンガス及び粉末を吸い込み、粉末を廃棄する。回収廃棄機構83は、液体シールポンプ100、モータ101、羽根車103、配管104、タンク106、配管108、及び廃棄機構109を有する。
【0044】
液体シールポンプ100は、チャンバCの内部のプラズマ溶射に使用されなかった溶射材料(以下、「溶射廃棄物」という。)及びアルゴンガスを吸い込み、吸い込んだ溶射廃棄物及びアルゴンガスを作動液体によりシールする。
【0045】
液体シールポンプ100は、内部にフッ素系溶剤やオイルを充填している。本実施形態では、溶射廃棄物の発火が発生しないように、溶射廃棄物の回収に使用する作動液体に水を使用することはできず、フッ素系溶剤やオイルを使用する。また、液体シールポンプ100は、溶射廃棄物が混入したガスを吸い込むことができるスクラバータイプのポンプで形成されている。例えば、ターボ分子ポンプやドライポンプは、固形の溶射廃棄物が混入したガスを吸い込むと故障することが想定されるため、本実施形態では使用が困難である。液体シールポンプ100のポンプ流量は、例えば800L/min~1200L/minである。
【0046】
液体シールポンプ100は、モータ101の動力によりシャフト102を回転させ、羽根車103を回転させる。これにより、チャンバCから溶射廃棄物及びアルゴンガスを排気管84及び開いたバルブ85に通し、吸込口Iからポンプ内に吸い込み、作動液体によりシールする。作動液体は、溶射廃棄物及びアルゴンガスをシールした状態で吐出口Jから配管104を通ってタンク106に送られる。
【0047】
廃棄機構109は、濾過部110及び焼却部107を有し、溶射廃棄物を廃棄する。濾過部110は、フィルタ等により溶射廃棄物を抽出する。濾過部110にて抽出された溶射廃棄物は、水分等により発火しないように廃棄する必要がある。
【0048】
そこで、焼却部107は、抽出された溶射廃棄物を焼却し、廃棄する。溶射廃棄物が除去された作動液体は、配管108を通ってタンク106に戻され、液体シールポンプ100の作動液体として再利用される。本実施形態に係る回収廃棄機構83によれば、溶射廃棄物を水分等により発火させずに安全に廃棄することができる。また、廃棄に使用した熱や作動液体を再利用することができる。
【0049】
(ドライ室)
ドライ室88は、チャンバCに隣接して設けられ、所定の湿度に除湿された閉空間を形成している。また、ドライ室88は、排気装置89により所定の圧力に減圧されている。但し、ドライ室88は、減圧されていなくてもよい。
【0050】
成膜後の基材Wは、ドライ室88に搬送され、次工程へと運ばれる。成膜後の基材Wの搬送工程において溶射膜F1を窒素や酸素と極力反応させないように、成膜後の基材Wをゲートバルブ86、87から直ちにドライ室88に搬入する。
【0051】
(制御部)
プラズマ溶射装置1は、制御部30を有する。制御部30は、プラズマ溶射装置1を制御する。具体的には、制御部30は、ガス供給源41、フィーダ20(アクチュエータ22)、直流電源50、チラーユニット70、回収廃棄機構83、粉末補給機構90等を制御する。
【0052】
制御部30は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及びHDD(Hard Disk Drive)を有する。CPUは、特定の金属の溶射材料をプラズマ溶射により成膜するためのプログラム(レシピ)を選択し、RAMに設定する。CPUは、RAMに記憶したプログラムに基づき、各部に制御信号を送る。これにより、基材Wに所望の特性の溶射膜F1を溶射することができる。なお、制御部30の機能は、ソフトウエアを用いて実現されてもよく、ハードウエアを用いて実現されてもよい。
【0053】
(溶射装置の動作)
第1の実施形態に係るプラズマ溶射装置1の動作(溶射方法)の一例について、
図4から
図7を参照しながら説明する。以下に説明するプラズマ溶射装置1の動作におけるバルブ47の開閉、シャッタ91bの開閉、シャッタ92dの開閉、及び押出機構91cの動作は、例えば制御部30によって実行される。
図4から
図7は、プラズマ溶射装置1の動作の一例を示す工程図である。
図4から
図7では、バルブ47が開いている状態を白色で示し、バルブ47が閉じている状態を黒色で示す。
【0054】
まず、環境制御されたドライブース内に設けられたドライボックス内で、気密状態で保管されている保管容器からカートリッジ91内に粉末R1を充填する。本実施形態では、ドライボックス内でカートリッジ91のシャッタ91bを開いて口部91aからカートリッジ91内に粉末R1を充填する。これにより、カートリッジ91内に充填される前の粉末R1が水分、酸素、及び窒素と反応することを防止できる。なお、カートリッジ91に口部91aとは別の開口を設けて、該開口からカートリッジ91内に粉末R1を充填してもよい。この場合、該開口を気密に封止可能なシャッタを設ければよい。続いて、粉末R1の充填が完了した後にシャッタ91bを閉じ、カートリッジ91をドライボックス内から取り出す。これにより、カートリッジ91をドライボックス内から大気中に取り出しても、カートリッジ91内に充填された粉末R1が水分、酸素、及び窒素と反応することを防止できる。
【0055】
続いて、
図4に示されるように、補給器92のシャッタ92dを閉じた状態で、蓋体92bを本体92aから取り外す。これにより、補給器92の収容部とフィーダ20の容器21内との連通が遮断されるので、カートリッジ91の交換時にフィーダ20の容器21内が大気環境下に曝露されることを防止し、容器21内の粉末R1が水分、酸素、及び窒素と反応することを防止できる。このため、フィーダ20からノズル11に粉末R1を投入し、投入した粉末R1を溶融し、溶融した粉末R1により基材Wに成膜するプラズマ溶射の動作を停止させることなく、カートリッジ91の交換を行うことができる。
【0056】
続いて、
図5に示されるように、粉末R1が充填されたカートリッジ91を本体92aに挿入して取り付ける。また、蓋体92bを本体92aに取り付けて補給器92内を気密状態にする。なお、本体92aに使用済みのカートリッジ91が取り付けられている場合、使用済みのカートリッジ91を取り外してから粉末R1が充填されたカートリッジ91を本体92aに挿入して取り付ける。
【0057】
続いて、
図6に示されるように、バルブ47を開いてガス供給源41からパイプ44を介して補給器92内にアルゴンガスを充填し、補給器92内をアルゴンガスによりパージする。
【0058】
続いて、
図7に示されるように、バルブ47を閉じてガス供給源41から補給器92内へのアルゴンガスの充填を停止させた後、シャッタ91b及びシャッタ92dを開いてカートリッジ91内と容器21内とを連通させる。続いて、カートリッジ91内の粉末R1を押出機構91cにより押し出して容器21に補給する。このとき、カートリッジ91内、補給器92内、及び容器21内にはいずれもアルゴンガスが充填されているため、カートリッジ91内の粉末R1をフィーダ20の容器21に補給する際に粉末R1が水分、酸素、及び窒素と反応することを防止できる。なお、シャッタ91b及びシャッタ92dを開いてカートリッジ91内と容器21とを連通させる際、バルブ47を閉じることなく、ガス供給源41から補給器92内へのアルゴンガスの充填を継続してもよい。
【0059】
以上に説明したように、第1の実施形態のプラズマ溶射装置1によれば、気密状態で粉末R1を収納したカートリッジ91を補給器92に装着し、カートリッジ91内から気密状態を維持してフィーダに粉末R1を補給する。これにより、カートリッジ91内の粉末R1を水分、窒素、及び酸素と反応させずにフィーダ20の容器21に補給することができる。このため、粉末R1を用いた溶射膜の膜質の安定性の向上を図ることができる。
【0060】
また、補給器92のシャッタ92dを閉じた状態で、蓋体92bを本体92aから取り外してカートリッジ91を交換する。これにより、カートリッジ91の交換時にフィーダ20の容器21内が大気環境下に曝露されることを防止し、容器21内の粉末R1が水分、酸素、及び窒素と反応することを防止できる。このため、フィーダ20からノズル11に粉末R1を投入し、投入した粉末R1を溶融し、溶融した粉末R1により基材Wに成膜するプラズマ溶射の動作を停止させることなく、カートリッジ91の交換を行うことができる。
【0061】
ところで、粉末R1の中心粒径が1μm~20μmの微粉末である場合、一般に用いられる中心粒径が50μm~100μmの粉末と比較して単位体積当たりの表面積が大きいため、大気中に曝露されると水分、酸素、及び窒素との反応が生じやすい。そのため、フィーダ20への粉末の補給を大気中で行うと、粉末R1が水分、酸素、及び窒素と反応して凝集する場合がある。粉末R1が凝集すると、溶融しにくいため、溶射膜の膜質が悪化する。そこで、第1の実施形態のプラズマ溶射装置1では、フィーダ20内、ノズル11内、及びチャンバC内を環境制御すると共に、粉末補給機構90によりフィーダ20へ粉末R1を補給する際も、粉末R1が大気中に曝露されない環境を実現している。これにより、フィーダ20へ粉末R1を補給する際、粉末R1が凝集することによる溶射膜の膜質の悪化を防止できる。
【0062】
(第1変形例)
粉末補給機構の第1変形例について、
図8を参照しながら説明する。
図8は、第1変形例の粉末補給機構を示す図である。
【0063】
図8に示されるように、第1変形例の粉末補給機構90Aは、補給器92内を排気する排気機構120を有する点で、粉末補給機構90と異なる。なお、その他の構成については、粉末補給機構90と同様の構成であってよい。以下、異なる点を中心に説明する。
【0064】
排気機構120は、ポート92fを介して補給器92内(密閉空間S)を排気する。排気機構120は、排気装置120aと、排気管120bと、バルブ120cと、を有する。排気装置120aは、例えば真空ポンプであってよい。また、排気装置120aとしては、ドライ室88を減圧する排気装置89(
図1参照)を利用してもよい。排気管120bは、排気装置120aとポート92fとを接続する。バルブ120cは、排気管120bの途中に設けられている。排気機構120においては、バルブ120cが開かれることにより、ポート92fと排気装置120aとが連通し、排気装置120aにより補給器92内(密閉空間S)が排気される。
【0065】
第1変形例によれば、補給器92内を排気する排気機構120が設けられているので、補給器92内へのアルゴンガスの供給及び補給器92内の排気の組合せ(あるいは切替)により補給器92内のパージに要する時間(パージ時間)を短縮できる。
【0066】
(第2変形例)
粉末補給機構の第2変形例について、
図9を参照しながら説明する。
図9は、第2変形例の粉末補給機構を示す図である。
【0067】
図9に示されるように、第2変形例の粉末補給機構90Bは、排気機構120がポート92fとは別に設けられたポート92gを介して補給器92内(密閉空間S)を排気する点で、第1変形例の粉末補給機構90Aと異なる。なお、その他の構成については、粉末補給機構90Aと同様の構成であってよい。以下、異なる点を中心に説明する。
【0068】
第2変形例によれば、2つのポート92f,92gを有するので、ポート92gを介して補給器92内を排気しながら、ポート92fを介して補給器92内にアルゴンガスを供給できる。その結果、補給器92内のパージに要する時間を短縮できる。
【0069】
(
第1参考例)
粉末補給機構の
第1参考例について、
図10を参照しながら説明する。
図10は、
第1参考例の粉末補給機構を示す図である。
【0070】
図10に示されるように、
第1参考例の粉末補給機構90Cは、
図2に示される補給器92がフィーダ20と一体として形成されている点で、粉末補給機構90と異なる。言い換えると、フィーダ20Cの一部が補給器92として機能する。なお、その他の点については、粉末補給機構90と同様の構成であってよい。以下、異なる点を中心に説明する。
【0071】
フィーダ20Cは、本体部23と、接続部24と、補給口25と、シャッタ26と、を有する。
【0072】
本体部23は、筐体の一部を構成し、容器21及びアクチュエータ22を収容する。容器21内には、ガス供給源41からパイプ42及びポート27aを介してアルゴンガスが供給される。
【0073】
接続部24は、筐体の一部を構成し、カートリッジ91を着脱可能に接続する。接続部24は本体部23の上方に設けられている。カートリッジ91は、接続部24にO-リング等のシール部材28を介して着脱可能、且つ気密封止可能に取り付けられる。接続部24にカートリッジ91が接続されると、接続部24とカートリッジ91とにより、補給口25と口部91aとの間に密閉空間Sを形成する。密閉空間Sには、ガス供給源41からパイプ44及びポート27bを介してアルゴンガスが供給される。また、密閉空間Sは、ポート27c及び排気管120bを介して排気装置120aにより排気される。このように、密閉空間Sは、ガス供給源41によるアルゴンガスの供給及び排気装置120aによる排気によってパージされる。なお、
図8を用いて説明したように、密閉空間Sへのアルゴンガスの供給及び密閉空間Sの排気を1つのポートにより行ってもよい。
【0074】
補給口25は、接続部24に接続されたカートリッジ91内の粉末R1をフィーダ20C内に補給する開口である。補給口25は、本体部23の上面に形成されており、接続部24にカートリッジ91が接続された状態で、口部91aと対応する位置に設けられている。
【0075】
シャッタ26は、補給口25を開閉可能な、例えば板状部材である。シャッタ26を開くと、補給口25を介して密閉空間Sとフィーダ20Cの容器21内とが連通する。一方、シャッタ26を閉じると、密閉空間Sとフィーダ20Cの容器21内との連通が遮断される。
【0076】
第1参考例によれば、補給器92がフィーダ20Cと一体として形成されているので、構造がシンプルである。
【0077】
(
第2参考例)
粉末補給機構の
第2参考例について、
図11を参照しながら説明する。
図11は、
第2参考例の粉末補給機構を示す図である。
【0078】
図11に示されるように、
第2参考例の粉末補給機構90Dは、カートリッジ91がフィーダ20Dの上方に密閉空間Sを形成して接続される点で、
第1参考例の粉末補給機構90Cと異なる。なお、その他の構成については、粉末補給機構90Cと同様であってよい。なお、
図11に示される例では、ガス供給源41から密閉空間Sにアルゴンガスを供給するためのポート27bがカートリッジ91に形成されているが、ポート27bはポート27cと同様に接続部24に形成されていてもよい。
【0079】
第2参考例によれば、フィーダ20Dの上方に密閉空間Sを形成してカートリッジ91が接続されるので、一度に大量の粉末を補給できるという効果が奏される。
【0080】
(
第3参考例)
粉末補給機構の
第3参考例について、
図12から
図16を参照しながら説明する。
図12は、
第3参考例の粉末補給機構を示す図である。
【0081】
図12に示されるように、
第3参考例の粉末補給機構90Eは、押出機構91cがカートリッジ91内に設けられておらず、フィーダ20E内に設けられている点で、
第2参考例の粉末補給機構90Dと異なる。なお、その他の構成については、粉末補給機構90Dと同様であってよい。
【0082】
【0083】
図13に示されるように、シャッタ91bは、弁体901と、軸部902と、ノブ903と、弁体傾斜機構904と、ロック機構905と、を有する。
【0084】
弁体901は、O-リング等のシール部材901aにより口部91aを気密封止可能に設けられている。弁体901は、軸部902の下端に回転自在に取り付けられている。弁体901には、弁体傾斜機構904が取り付けられており、弁体傾斜機構904の操作により軸部902に対して弁体901を回転させて傾斜可能となっている。
【0085】
軸部902は、カートリッジ91の内部と外部とを貫通する貫通部91dを介してカートリッジ91の内部から外部に延びる棒状部材である。貫通部91dには、例えばO-リング等のシール部材91eが設けられており、軸部902を気密にシールした状態で長手方向に移動可能に支持している。軸部902の下端には弁体901が回転自在に取り付けられており、軸部902の上端にはノブ903が取り付けられている。例えば、
図14に示されるように、ノブ903を上方に引っ張ることで軸部902を上方に移動させると、軸部902と一体となって弁体901が上方へ移動し、弁体901により気密封止された口部91aが開口される。また、例えば
図15に示されるように、弁体901及び軸部902を上方に移動させた状態で弁体傾斜機構904を上方に引っ張ると、弁体901が軸部902に対して回転し傾斜する。また、例えば
図16に示されるように、軸部902を下方に移動させると、軸部902と一体となって弁体901が下方へ移動し、弁体901により気密封止された口部91aが開口する。
【0086】
ノブ903は、軸部902の上端に取り付けられており、例えばリング状部材により形成されている。ノブ903は、軸部902を上方又は下方に移動させる際に使用される。ノブ903を上方に引っ張ることにより、ノブ903と一体となって軸部902が上方に移動する。ノブ903は、作業者により操作されてもよく、自動制御されるアーム等により操作されてもよい。
【0087】
弁体傾斜機構904は、カートリッジ91の内部と外部とを貫通する貫通部91fを介してカートリッジ91の内部から外部に延びる棒状部材であり、軸部902に対する弁体901の角度を調整する。貫通部91fには、例えばO-リング等のシール部材91gが設けられており、弁体傾斜機構904を気密にシールした状態で移動可能に支持している。弁体傾斜機構904の下端には弁体901が取り付けられており、弁体傾斜機構904の上端はカートリッジ91の上方に突出している。弁体傾斜機構904の上端を上方に引っ張る又は上端を下方に押し込むことにより、軸部902に対して弁体901が回転して傾斜する。
【0088】
ロック機構905は、軸部902の下方への移動をロックする。これにより、弁体901がカートリッジ91の内部から外部へ移動し、弁体901によって気密封止された口部91aが開口されるのを防止する。ロック機構905は、例えば軸部902を径方向に貫通して抜き差し可能なロックピンであってよい。
【0089】
係るシャッタ91bを有するカートリッジ91内に粉末R1を充填する場合、まず、カートリッジ91の弁体901側が上方となるようにカートリッジ91を保持する。続いて、
図16に示されるように、弁体901をカートリッジ91の外部に移動させて、口部91aを開口させる。続いて、口部91aからカートリッジ91内に粉末R1を充填する。カートリッジ91内への粉末R1の充填が完了した後、弁体901を口部91aまで移動させることにより、弁体901により口部91aを気密封止する。
【0090】
また、カートリッジ91内に充填された粉末R1をフィーダ20E内に補給する場合、まず、
図13に示されるように、カートリッジ91の口部91aを下方に向けた状態で、カートリッジ91をフィーダ20Eの接続部24に接続し、密閉空間Sを形成する。続いて、密閉空間Sをパージし、密閉空間Sのパージが完了した後、シャッタ26を開く。また、弁体901を上方に移動させて口部91aを開口させた後(
図14参照)、弁体901を軸部902に対して回転させて傾斜させる(
図15参照)。これにより、カートリッジ91内の粉末R1は、口部91a、密閉空間S、及び補給口25を介してフィーダ20E内に補給される。このとき、弁体901が軸部902に対して傾斜するので、カートリッジ91内の粉末R1をフィーダ20E内にスムーズに補給できる。また、弁体901上に粉末R1が残存することを防止できる。
【0091】
第3参考例によれば、押出機構91cがカートリッジ91内に設けられておらず、フィーダ20内に設けられているので、カートリッジ91の部品構成を単純化でき、その結果として交換部品のコストが削減できるという効果が奏される。
【0092】
次に、シャッタの具体的な構成例について、フィーダ20C~20Eに設けられたシャッタ26を例に挙げて説明する。ただし、以下で説明するシャッタの具体的な構成例は、
図2等を参照して説明したシャッタ91b、92dにも適用可能である。
図17及び
図18を参照しながら説明する。
図17及び
図18は、
図10の粉末補給機構90Cのフィーダ20Cに設けられたシャッタ26の構成例を示す図である。
図17はシャッタ26を閉じた状態を示し、
図17(a)は断面図であり、
図17(b)は平面図である。
図18はシャッタ26を開いた状態を示し、
図18(a)は断面図であり、
図18(b)は平面図である。
【0093】
図17及び
図18に示されるように、シャッタ26は、シャッタ収容部261と、開閉用摺動部262と、を有する。
【0094】
シャッタ収容部261は、本体261aと、シール部材261b,261cと、を有する。本体261aは、シール部材261b,261cを介して補給器92の本体92aに取り付けられることで、密閉空間Saを形成する。本体261aには、平面視で例えば略矩形状の凹部261dが形成されている。凹部261dの底面には、補給口92cと対応する位置に、本体261aを貫通する貫通口261eが形成されている。貫通口261eの内周面には、後述する摺動板262aの下面と接触するシール部材261fが設けられている。
【0095】
開閉用摺動部262は、摺動板262aと、軸部262bと、取っ手部262cと、を有する。摺動板262aは、凹部261d内を摺動できるように構成されている。摺動板262aは、凹部261d内を
図17及び
図18における矢印の方向に摺動することで、補給口92cを開閉する。軸部262bは、一端が摺動板262aに取り付けられ、他端が取っ手部262cに取り付けられている。係る構成を有する開閉用摺動部262では、
図17に示されるように、取っ手部262cを本体261aに対して押し込むことにより、軸部262bを介して摺動板262aが押し込み方向に移動し、摺動板262aによって補給口92cが閉じられる。一方、
図18に示されるように、取っ手部262cを本体261aに対して引っ張ることにより、軸部262bを介して摺動板262aが引っ張り方向に移動し、平面視で摺動板262aの開口262dが補給口92cと重なって補給口92cが開かれる。
【0096】
係る構成を有するシャッタ26によれば、開閉用摺動部262を動かし、補給口92cと密閉空間Sとがつながる過程でも外部へリークが発生することがないので、水分混入の心配がないという効果が奏される。
【0097】
〔第2の実施形態〕
第2の実施形態に係るプラズマ溶射装置について、
図19を参照しながら説明する。
図19は、第2の実施形態に係るプラズマ溶射装置の構成例を示す断面図である。
【0098】
図19に示されるように、プラズマ溶射装置1Aは、大気中でプラズマ溶射を行う装置である。プラズマ溶射装置1Aでは、粉末R1をノズル11の先端部の開口11bから噴射して、高速のガスにより形成されたプラズマジェットPの熱により溶融しながら、大気中の基材Wの表面に向かって噴き出す。これにより、基材Wの表面に溶射膜F1が形成される。
【0099】
基材Wとしては、例えば樹脂、金属、セラミックス、金属繊維が挙げられ、これらからなる平板や3D造形品であってもよい。粉末R1としては、例えば金属酸化物、金属窒化物の粉末が挙げられる。
【0100】
プラズマ溶射装置1Aは、供給部10、制御部30、ガス供給部40、プラズマ生成部60、粉末補給機構90、回収廃棄機構83、送風機121、及び集塵フード122を含む。
【0101】
供給部10、制御部30、ガス供給部40、プラズマ生成部60、粉末補給機構90、及び回収廃棄機構83については、第1の実施形態と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0102】
送風機121は、ノズル11の先端部の開口11bから粉末R1を噴射して形成されたプラズマジェットPに向けて気体を流す。送風機121の風量は、例えば50000L/min~70000L/minである。
【0103】
集塵フード122は、ノズル11の先端部の開口11bから噴射された粉末R1を集塵する。集塵フード122は、送風機121により形成された気体の流れの下流側に配置される。言い換えると、送風機121と集塵フード122とは、プラズマジェットPを挟んで対向配置される。集塵フード122は、回収廃棄機構83に接続されており、集塵フード122により集められた粉末は、回収廃棄機構83によって吸い込まれ、廃棄される。
【0104】
プラズマ溶射装置1Aでは、基材Wを移動させながら溶射を行ってもよく、ノズル11を移動させながら溶射を行ってもよい。基材Wを移動させながら溶射を行う場合、例えば基材Wが載置されたステージ80を水平方向に移動させながら溶射を行うことができる。ノズル11を移動させながら溶射を行う場合、例えば水平方向に移動可能なアーム(例えば多関節アーム)に供給部10を固定し、アームにより供給部10を水平方向に移動させながら溶射を行うことができる。
【0105】
以上に説明したように、第2の実施形態のプラズマ溶射装置1Aによれば、気密状態で粉末R1を収納したカートリッジ91を補給器92に装着し、カートリッジ91内から気密状態を維持してフィーダに粉末R1を補給する。これにより、カートリッジ91内の粉末R1を水分、窒素、及び酸素と反応させずにフィーダ20の容器21に補給することができる。このため、粉末R1を用いた溶射膜の膜質の安定性の向上を図ることができる。
【0106】
また、補給器92のシャッタ92dを閉じた状態で、蓋体92bを本体92aから取り外してカートリッジ91を交換する。これにより、カートリッジ91の交換時にフィーダ20の容器21内が大気環境下に曝露されることを防止し、容器21内の粉末R1が水分、酸素、及び窒素と反応することを防止できる。このため、フィーダ20からノズル11に粉末R1を投入し、投入した粉末R1を溶融し、溶融した粉末R1により基材Wに成膜するプラズマ溶射の動作を停止させることなく、カートリッジ91の交換を行うことができる。
【0107】
なお、上記の実施形態において、基材Wは被対象物の一例であり、押出機構91cは制御機構の一例である。また、パイプ44はガス供給路の一例であり、バルブ47は第3開閉弁の一例である。また、ガス供給部40及び排気機構120は圧力調整機構の一例であり、容器21及びアクチュエータ22はフィード機構の一例である。
【0108】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0109】
上記の実施形態では、プラズマ溶射により基材Wに溶射膜を形成するプラズマ溶射装置を説明したが、これに限定されず、例えばアーク溶射やフレーム溶射により基材Wに溶射膜を形成する溶射装置であってもよい。
【0110】
また、上記の実施形態では、粉末供給装置を溶射装置に適用する場合を説明したが、これに限定されない。粉末供給装置は、例えば粉末を固体の状態で被対象物の表面に噴射させて被対象物の表面処理(例えば、ブラスト処理)を行う装置にも適用可能である。また、粉末供給装置は、例えば粉末を昇華させて気体を形成し、気体の状態で被対象物の表面に噴射させて被対象物の表面に膜を形成する装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0111】
1、1A プラズマ溶射装置
11 ノズル
20 フィーダ
90 粉末補給機構
91 カートリッジ
91a 口部
91b シャッタ
92 補給器
92a 本体
92b 蓋体
92c 補給口
92d シャッタ