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  • 特許-熱可塑性樹脂組成物及びその成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-24
(45)【発行日】2023-12-04
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/06 20060101AFI20231127BHJP
   C08L 33/18 20060101ALI20231127BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20231127BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231127BHJP
   B29C 48/395 20190101ALI20231127BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20231127BHJP
【FI】
C08L51/06
C08L33/18
C08L77/00
C08K3/013
B29C48/395
B29C48/305
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022518306
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 KR2021006523
(87)【国際公開番号】W WO2022065625
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】10-2020-0122542
(32)【優先日】2020-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0064033
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ワンレ・ジェ
(72)【発明者】
【氏名】デウン・スン
(72)【発明者】
【氏名】テ・フン・キム
(72)【発明者】
【氏名】チュン・ホ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ヒ・アン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンミン・ジャン
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/091370(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02868691(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F、C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均粒径が50~150nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-1)及び平均粒径が300~600nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-2)を含むグラフト共重合体10~70重量%と、
(B)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A)及び非グラフト共重合体(B)の総重量に対して、重量平均分子量が160,000~200,000g/molである高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体20~55重量%(B-1)及び重量平均分子量が80,000g/mol以上~160,000g/mol未満である低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体5~35重量%(B-2)を含む非グラフト共重合体30~90重量%とからなるベース樹脂100重量部を含み、
バレル温度190℃及びダイ温度200℃の条件下で押出RPMを20から60まで変化させるとき、シート成形用シングルスクリュー押出機(Collin社製、E20T製品)にかかる熱可塑性樹脂組成物の圧力を測定したとき、RPMに対する圧力変化の対数トレンドラインから得られる圧力傾きが130以下であることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物であって、
(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総100重量部を基準として、熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂0.1~10重量部を含み、
前記(A-1)グラフト共重合体と前記(A-2)グラフト共重合体の重量比は1:1.2~1:2.5であり、
前記(A-1)グラフト共重合体は、アクリレート系ゴム40~60重量%、芳香族ビニル化合物20~40重量%及びビニルシアン化合物10~20重量%を含んでなり、
前記(A-2)グラフト共重合体は、アクリレート系ゴム40~60重量%、芳香族ビニル化合物25~45重量%及びビニルシアン化合物10~20重量%を含んでなり、
前記(B-1)高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体及び前記(B-2)低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、それぞれ、芳香族ビニル化合物65~80重量%及びビニルシアン化合物20~35重量%を含んでなり、
前記(B-1)高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体及び前記(B-2)低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体に、それぞれ含まれる芳香族ビニル化合物は、スチレンであり、
前記低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2)は、重量平均分子量が80,000~110,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2a)、又は重量平均分子量が110,000g/mol超~160,000g/mol未満である芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2c)である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
バレル温度190℃、ダイ温度200℃及び押出RPM50の条件下でシングルスクリューTダイ押出機のTダイ(Collin社製、E20T製品)を介して1分30秒間吐出される熱可塑性樹脂組成物の吐出量で計算される吐出速度が18g/分以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総100重量部を基準として、無機顔料0.1~5重量部を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ガラス転移温度125℃以上の熱可塑性樹脂を含まないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
デッキング(decking)材料であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ASTM D648に準拠して18.6kgfの荷重下で測定した耐熱度が80℃以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
190℃の条件及びせん断範囲(Shear range)100/sでの毛細管粘度が2,500~3,200Pa・sであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
温度条件190℃、ストレイン(Strain)条件0.1%及び周波数(Frequency)条件10rad/sでの貯蔵弾性率(ジオメトリーは25mmのパラレルプレート(Parallel Plate))が70,000~150,000MPaであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
熱可塑性樹脂組成物のペレットをバレル部の温度制御区域の温度が順に50、190、190、190℃及びダイ部の温度制御区域の温度が順に200、200、200℃でシングルスクリューTダイ押出機(Collin社製、E20T製品)を用いて作製した0.15Tのシートの非対称度Rsk(200℃)が0~0.5であり、熱可塑性樹脂組成物のペレットをバレル部の温度制御区域の温度が順に50、200、210、210℃及びダイ部の温度制御区域の温度が順に220、220、230℃でシングルスクリューTダイ押出機(Collin社製、E20T製品)を用いて作製した0.15Tのシートの非対称度Rsk(220℃)が0.65~1.35であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
熱可塑性樹脂組成物のペレットをバレル部の温度制御区域の温度が順に50、190、190、190℃及びダイ部の温度制御区域の温度が順に200、200、200℃でシングルスクリューTダイ押出機(Collin社製、E20T製品)を用いて作製した0.15Tのシートの60°で測定したフィルムグロス(film gloss)の値が15以下である艶消し熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2020年09月22日付の韓国特許出願第10-2020-0122542号及びこれに基づいて2021年05月18日付で再出願された韓国特許出願第10-2021-0064033号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びその成形品に関し、より詳細には、従来のASA樹脂と比較して、200℃未満の低温で加工性に優れるため、PVC樹脂との共押出時にもフローマークやピーリングなどの表面不良が発生せず、エネルギー消費量が少なく、押出RPMの変化にもかかわらず粘度の変化が少ないため加工安定性に優れ、かつ耐熱度も優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリレート化合物-スチレン-アクリロニトリル共重合体(以下、「ASA樹脂」という)は、耐候性、耐老化性、耐化学性、剛性、耐衝撃性及び加工性をすべて備えており、用途が多様であるので自動車、雑貨及び建材分野などで広範囲に使用される。
【0004】
特に建材と関連して、ASA樹脂はPVC共押出の用途に多く使用されており、具体的な用途としてはウィンドウプロファイル、デッキボード(decking board)、ルーフィング(roofing)、サイディング(siding)などがある。
【0005】
従来のASA樹脂の場合、基本的に200~240℃の加工温度で押出又は射出加工が行われる反面、PVC樹脂の場合には、200℃以上の高温でPVC樹脂が容易に炭化してしまう問題により、200℃未満の低い温度でPVC樹脂の共押出加工が行われなければならない制限がある。しかし、200℃未満の低い温度ではASA樹脂の粘度が急激に増加するので、PVC樹脂との共押出時にASA樹脂層がPVC樹脂層上にきちんと覆われないことによって発生するフローマーク(flow mark)や、部分的にASA樹脂が覆われないピーリング(peeling)などの表面不良が発生することがある。また、押出機のRPMの変化によってASA樹脂の粘度が急激に変わってしまい、加工ウィンドウが狭いという欠点がある。
【0006】
フローマークやピーリングのような問題は、押出機のダイの温度又は押出機のバレルの温度を上げる、またはASA樹脂の押出RPMを高めてASAの剪断発熱を調節することによって解決可能であるが、押出温度を上げるのは多くのエネルギーが要求され、ASA樹脂のRPMを上げるのは押出機にかかるトルクが高くなるため、機器にかかる負荷が増加するという欠点がある。
【0007】
したがって、低い加工温度でも粘度が低いため、PVC樹脂との共押出加工時にフローマークやピーリングなどの表面不良が発生しないながらも、少ないエネルギー消費、及びPVC樹脂との共押出加工が容易であるため経済性に優れたASA樹脂などの開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許第10-2009-0095764号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来技術の問題点を解決するために、本発明は、従来のASA樹脂と比較して、200℃未満の低温で加工性に優れるため、PVC樹脂との共押出時にもフローマークやピーリングなどの表面不良が発生せず、エネルギー消費量が少なく、押出RPMの変化にもかかわらず粘度の変化が少ないため加工安定性に優れ、かつ耐熱度も優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の上記目的及びその他の目的は、以下で説明する本発明によって全て達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、(A)平均粒径が50~150nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-1)及び平均粒径が300~600nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-2)を含むグラフト共重合体10~70重量%と;(B)重量平均分子量が160,000~200,000g/molである高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-1)及び重量平均分子量が80,000g/mol以上~160,000g/mol未満である低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2)を含む非グラフト共重合体30~90重量%とを含み、バレル温度190℃及びダイ温度200℃の条件下で押出RPMを20から60まで変化させるとき、シート成形用シングルスクリュー押出機にかかる熱可塑性樹脂組成物の圧力傾きが130以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0012】
また、本発明は、(A)平均粒径が50~150nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-1)及び平均粒径が300~600nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-2)を含むグラフト共重合体10~70重量%と;(B)重量平均分子量が160,000~200,000g/molである高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-1)及び重量平均分子量が80,000g/mol以上~160,000g/mol未満である低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2)を含む非グラフト共重合体30~90重量%とを含み、バレル温度190℃、ダイ温度200℃及び押出RPM50の条件下でTダイを介して1分30秒間吐出される熱可塑性樹脂組成物の吐出量で計算される吐出速度が18g/分以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【0013】
また、本発明は、(A)平均粒径が50~150nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-1)及び平均粒径が300~600nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-2)を含むグラフト共重合体10~70重量%と;(B)重量平均分子量が160,000~200,000g/molである高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-1)及び重量平均分子量が80,000g/mol以上~160,000g/mol未満である低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2)を含む非グラフト共重合体30~90重量%と;を含むベース樹脂100重量部と、ポリアミド樹脂0.1~10重量部と、無機顔料0.1~5重量部とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【0014】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、ガラス転移温度125℃以上の熱可塑性樹脂を含まないことができる。
【0015】
また、本発明は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする成形品を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来のASA樹脂と比較して、200℃未満の低温で加工性に優れるため、PVC樹脂との共押出時にもフローマークやピーリングなどの表面不良が発生せず、エネルギー消費量が少なく、押出RPMの変化にもかかわらず粘度の変化が少ないため加工安定性に優れ、かつ耐熱度も優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る非対称度Rskに対する定義、計算法及び意味を図式的に示したもので、非対称度Rskは、統計集団の度数分布図(histogram)において平均値に対する非対称の方向とその程度を示す特性値として定義され、形状的に表面に峰(peak)及び谷(valley)のいずれが表面のほとんどをなしているかを評価できる。特に、図1の上側の図は、平均二乗偏差(Rq)を求める式とその意味を示すグラフであって、Zは、峰の高さを意味し、lは、平均区間長(Sampling length)を意味する。また、図1の下側の図は、非対称度Rskを求める式とその意味を示すグラフであって、非対称度Rskが0よりも大きくなるほど、平均線を基準として峰の分布が多くなることを意味し、0よりも小さくなるほど、平均線を基準として谷の分布が多くなることを意味する。本発明は、非対称度Rskを所定の範囲内に調整する際に、製品の表面にプラスチック感から脱した粗い感じが実現されることを要旨とする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を詳細に説明する。
【0019】
本発明者らは、ゴムの平均粒径が異なる2種以上のアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体を所定の比率で配合し、これに、耐熱芳香族ビニル重合体が排除された所定の高分子量の芳香族ビニル重合体と所定の低分子量の芳香族ビニル重合体を所定の含量範囲で混合して、熱可塑性樹脂組成物の押出機にかかる圧力傾き値や吐出速度値などを所定の値になるようにするとき、200℃未満の低温でPVC樹脂との共押出時にもフローマークやピーリングなどの表面不良が発生せず、エネルギー消費及び耐熱度に優れることを確認し、これに基づいてさらに研究に邁進して本発明を完成するようになった。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)平均粒径が50~150nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-1)及び平均粒径が300~600nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-2)を含むグラフト共重合体10~70重量%と;(B)重量平均分子量が160,000~200,000g/molである高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-1)及び重量平均分子量が80,000g/mol以上~160,000g/mol未満である低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2)を含む非グラフト共重合体30~90重量%とを含み、バレル温度190℃及びダイ温度200℃の条件下で押出RPMを20から60まで変化させるとき、シート成形用シングルスクリュー押出機にかかる熱可塑性樹脂組成物の圧力傾きが130以下であることを特徴とし、このような場合、従来のASA樹脂と比較して、200℃未満の低温で加工性に優れるため、PVC樹脂との共押出時にもフローマークやピーリングなどの表面不良が発生せず、エネルギー消費及びASA樹脂の投入量が少なくなるため経済性に優れ、かつ耐熱度も優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供するという利点がある。
【0021】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)平均粒径が50~150nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-1)及び平均粒径が300~600nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-2)を含むグラフト共重合体10~70重量%と;(B)重量平均分子量が160,000~200,000g/molである高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-1)及び重量平均分子量が80,000g/mol以上~160,000g/mol未満である低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2)を含む非グラフト共重合体30~90重量%とを含み、バレル温度190℃、ダイ温度200℃及び押出RPM50の条件下でTダイを介して1分30秒間吐出される熱可塑性樹脂組成物の吐出量で計算される吐出速度が18g/分以上であることを特徴とし、このような場合、従来のASA樹脂と比較して、200℃未満の低温で加工性に優れるため、PVC樹脂との共押出時にもフローマークやピーリングなどの表面不良が発生せず、エネルギー消費量が少なく、広い加工ウィンドウで粘度の大きな変化なしにPVC樹脂を効果的に覆うことができるため加工安定性に優れ、また、耐熱度も優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供するという利点がある。
【0022】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)平均粒径が50~150nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-1)及び平均粒径が300~600nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-2)を含むグラフト共重合体10~70重量%と;(B)重量平均分子量が160,000~200,000g/molである高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-1)及び重量平均分子量が80,000g/mol以上~160,000g/mol未満である低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2)を含む非グラフト共重合体30~90重量%とを含むベース樹脂100重量部と、ポリアミド樹脂0.1~10重量部と、無機顔料0.1~5重量部とを含むことを特徴とし、このような場合、従来のASA樹脂と比較して、200℃未満の低温で加工性に優れるため、PVC樹脂との共押出時にもフローマークやピーリングなどの表面不良が発生せず、広い加工ウィンドウで粘度の大きな変化なしにPVC樹脂を効果的に覆うことができるため加工安定性に優れ、さらに耐熱度も優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供するという利点がある。
【0023】
本発明において、成形温度は、別途に定義しない限り、押出または射出装置(又は工程)においてバレルの温度制御区域、すなわちゾーン(zones)に設定された温度のうち最も高い温度を意味し、一般に、バレルにおいてダイ(die)と隣接するゾーンの温度を意味する。
【0024】
本発明において、バレル温度は、別途に定義しない限り、成形温度を意味し、バレル部は、バレルにおいて加熱装置によって温度が直接制御される区域を意味し、制限されるものではないが、通常、複数の温度制御区域からなる。このとき、バレル部の温度は、熱可塑性樹脂組成物を投入する投入口(ホッパー)に隣接する温度制御区域または第1温度制御区域から、ダイに隣接する温度制御区域または最後の温度制御区域まで、順次記載する。
【0025】
本発明において、ダイ温度は、別途に定義しない限り、ダイノズルに設定された温度、すなわち押出又は射出時のダイノズルの温度を意味し、ダイ部は、ダイにおいて加熱装置によって温度が直接制御される区域を意味し、制限されるものではないが、通常、複数の温度制御区域からなる。このとき、ダイ部の温度は、バレルと隣接する温度制御区域または第1温度制御区域から、ダイの最後の温度制御区域またはノズルまで、順次記載する。
【0026】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分を詳細に説明すると、次の通りである。
【0027】
(A-1)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体
前記(A-1)グラフト共重合体のアクリレートゴムは、一例として平均粒径が50~150nm、好ましくは50~130nm、より好ましくは100~130nmであってもよく、この範囲内で、最終製造される熱可塑性樹脂組成物に優れた衝撃強度及び外観品質を付与することができる。
【0028】
本発明において、平均粒径は、動的光散乱法(dynamic light scattering)を用いて測定することができ、詳細には、Nicomp380装置(製品名、製造社:PSS)を用いてガウス(Gaussian)モードでインテンシティ(intensity)値で測定することができる。このとき、具体的な測定例として、サンプルは、ラテックス(TSC35~50wt%)0.1gを脱イオン水又は蒸留水で1,000~5,000倍希釈し、すなわち、Intensity Setpoint 300kHzを大きく外れないように適切に希釈し、ガラス管(glass tube)に入れて準備し、測定方法は、自動希釈(Auto-dilution)してフローセル(flow cell)で測定し、測定モードは、動的光散乱法(dynamic light scattering)/強度(Intensity) 300KHz/強度-重量ガウス分析(Intensity-weight Gaussian Analysis)とし、設定(setting)値は、温度23℃、測定波長632.8nm、チャンネル幅(channel width) 10μsecとして測定することができる。
【0029】
前記(A-1)グラフト共重合体は、一例として、熱可塑性樹脂組成物の総重量に対して5~30重量%、好ましくは10~25重量%、より好ましくは10~20重量%であってもよく、この範囲内で、共押出加工性に優れながら、衝撃強度、引張強度、伸び率などの機械的物性、外観品質及び表面硬度に優れるという効果がある。
【0030】
前記(A-1)グラフト共重合体は、一例として、アクリレートゴム40~60重量%、芳香族ビニル化合物20~40重量%及びビニルシアン化合物10~20重量%を含んでなってもよく、この範囲内で、外観品質及び表面硬度に優れるという効果がある。
【0031】
好ましい例として、前記(A-1)グラフト共重合体は、アクリレートゴム45~55重量%、芳香族ビニル化合物30~40重量%及びビニルシアン化合物10~20重量%を含んでなってもよく、この範囲内で、外観品質及び表面硬度に優れるという効果がある。
【0032】
本発明において、ある化合物を含んでなる重合体とは、その化合物を含んで重合された重合体を意味するもので、重合された重合体内の単位体がその化合物に由来する。
【0033】
前記(A-1)グラフト共重合体は、一例として乳化重合により製造されてもよく、この場合、外観品質及び表面硬度に優れるという効果がある。
【0034】
前記アクリレートは、一例として、アルキル基の炭素数が2~8個であるアルキルアクリレートからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくは、アルキル基の炭素数が4~8個であるアルキルアクリレートであり、さらに好ましくは、ブチルアクリレートまたはエチルヘキシルアクリレートである。
【0035】
前記芳香族ビニル化合物は、一例として、スチレン、α-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-tert-ブチルスチレンからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはスチレンである。
【0036】
前記ビニルシアン化合物は、一例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチルアクリロニトリル及びイソプロピルアクリロニトリルからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはアクリロニトリルである。
【0037】
前記乳化重合は、本発明の属する技術分野で通常行われる乳化グラフト重合方法による場合、特に制限されない。
【0038】
(A-2)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体
前記(A-2)グラフト共重合体のアクリレートゴムは、一例として平均粒径が300~600nm、好ましくは350~600nm、より好ましくは350~550nmであってもよく、この範囲内で、引張強度、伸び率及び衝撃強度などの機械的強度に優れるという効果がある。
【0039】
前記(A-2)グラフト共重合体は、一例として、熱可塑性樹脂組成物の総重量に対して15~35重量%、好ましくは20~30重量%、より好ましくは20~25重量%であってもよく、この範囲内で、共押出加工性に優れながら、衝撃強度、引張強度、伸び率などの機械的物性、外観品質及び表面硬度に優れるという効果がある。
【0040】
前記(A-2)グラフト共重合体は、一例として、アクリレートゴム40~60重量%、芳香族ビニル化合物25~45重量%及びビニルシアン化合物10~20重量%を含んでなってもよく、この範囲内で、引張強度、伸び率及び衝撃強度などの機械的強度に優れるという効果がある。
【0041】
好ましい例として、前記(A-1)グラフト共重合体は、アクリレートゴム45~55重量%、芳香族ビニル化合物30~40重量%及びビニルシアン化合物10~20重量%を含んでなってもよく、この範囲内で、引張強度、伸び率及び衝撃強度などの機械的強度に優れるという効果がある。
【0042】
前記(A-2)グラフト共重合体は、一例として乳化重合により製造されてもよく、この場合、引張強度、伸び率及び衝撃強度などの機械的強度に優れるという効果がある。
【0043】
前記乳化重合は、本発明の属する技術分野で通常行われる乳化グラフト重合方法による場合、特に制限されない。
【0044】
前記アクリレートは、一例として、アルキル基の炭素数が2~8個であるアルキルアクリレートからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくは、アルキル基の炭素数が4~8個であるアルキルアクリレートであり、さらに好ましくは、ブチルアクリレートまたはエチルヘキシルアクリレートである。
【0045】
前記芳香族ビニル化合物は、一例として、スチレン、α-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-tert-ブチルスチレンからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはスチレンである。
【0046】
前記ビニルシアン化合物は、一例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチルアクリロニトリル及びイソプロピルアクリロニトリルからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはアクリロニトリルである。
【0047】
前記(A-1)グラフト共重合体及び前記(A-2)グラフト共重合体は、一例として、重量の合計が10~70重量%、好ましくは20~50重量%、より好ましくは30~40重量%であってもよく、この範囲内で、低温加工性に優れるため、外観品質に優れるという利点がある。
【0048】
前記(A-1)グラフト共重合体は、好ましくは、前記(A-2)グラフト共重合体よりも少ない量で含まれてもよく、より好ましくは、前記(A-1)グラフト共重合体と前記(A-2)グラフト共重合体は、重量比が1:1.2~1:2.5、さらに好ましくは1:1.4~1:2.5、より一層好ましくは1:1.5~1:2であってもよく、この範囲内で、低温加工性に優れるため、外観品質に優れるという利点がある。
【0049】
本発明において、AとBの重量比はA:Bの重量比を意味する。
【0050】
B-1)高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体
本発明のB-1)高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、好ましくは、重量平均分子量が160,000~200,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体であってもよく、より好ましくは、重量平均分子量が160,000~190,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体、さらに好ましくは、重量平均分子量が160,000~180,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体、より一層好ましくは、重量平均分子量が160,000~170,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体であり、この範囲内で、衝撃強度などの機械的強度に優れながらも、耐熱度に優れるという利点がある。
【0051】
前記B-1)高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、好ましくは、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総重量に対して20~55重量%、より好ましくは25~50重量%含まれ、この場合、優れた低温加工性が損なわれず、しかも耐熱度に優れるという利点がある。
【0052】
本発明において、重量平均分子量は、別途に定義しない限り、GPC(Gel Permeation Chromatography、waters breeze)を用いて測定することができ、具体例として、溶出液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用い、GPC(Gel Permeation Chromatography、waters breeze)を通じて、標準PS(標準ポリスチレン:standard polystyrene)試料に対する相対値として測定することができる。このとき、具体的な測定例として、溶媒:THF、カラム温度:40℃、流速:0.3ml/分、試料の濃度:20mg/ml、注入量:5μl、カラムモデル:1×PLgel 10μm MiniMix-B(250×4.6mm)+1×PLgel 10μm MiniMix-B(250×4.6mm)+1×PLgel 10μm MiniMix-B Guard(50×4.6mm)、装備名:Agilent 1200シリーズシステム、屈折率検出器(Refractive index detector):Agilent G1362 RID、RI温度:35℃、データの処理:Agilent ChemStation S/W、試験方法(Mn、Mw及びPDI):OECD TG 118の条件で測定することができる。
【0053】
前記B-1)高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、一例として、芳香族ビニル化合物65~80重量%及びビニルシアン化合物20~35重量%を含んでなり、好ましくは、芳香族ビニル化合物67~80重量%及びビニルシアン化合物20~33重量%を含んでなり、より好ましくは、芳香族ビニル化合物70~75重量%及びビニルシアン化合物25~30重量%を含んでなり、この範囲内で、機械的強度及び低温加工性に優れるという利点がある。
【0054】
前記芳香族ビニル化合物は、一例として、スチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-tert-ブチルスチレンからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはスチレンである。
【0055】
前記ビニルシアン化合物は、一例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチルアクリロニトリル及びイソプロピルアクリロニトリルからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはアクリロニトリルである。
【0056】
前記B-1)高分子量の芳香族ビニル重合体は、一例として、懸濁重合、乳化重合、溶液重合または塊状(bulk)重合により製造されてもよく、好ましくは塊状重合により製造され、この場合、耐熱性及び流動性などに優れるという効果がある。
【0057】
前記懸濁重合、乳化重合、溶液重合及び塊状重合は、それぞれ、本発明の属する技術分野で通常行われる溶液重合及び塊状重合方法による場合、特に制限されない。
【0058】
B-2)低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体
本発明のB-2)低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、好ましくは、重量平均分子量が80,000g/mol以上~160,000g/mol未満である芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体であってもよく、より好ましくは、重量平均分子量が80,000~110,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2a)、重量平均分子量が110,000g/mol超~110,000g/mol以下である芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2b)、及び重量平均分子量が110,000g/mol超~160,000g/mol未満である芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2c)からなる群から選択された1種以上であり、さらに好ましくは、重量平均分子量が80,000~110,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2a)、または重量平均分子量が110,000g/mol超~160,000g/mol未満である芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2c)であり、この範囲内で、200℃未満の低温で加工性に優れるので、PVC樹脂との共押出時にもフローマークやピーリングなどの表面不良が発生せず、エネルギー消費が少なくなるので経済性に優れるという利点がある。
【0059】
前記B-2)低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、好ましくは、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総重量に対して5~30重量%、より好ましくは5~35重量%含まれ、この範囲内で、耐化学性、衝撃強度、引張強度、及び低温加工性に優れるという効果がある。
【0060】
前記B-2a)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、好ましくは、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総重量に対して10~30重量%、より好ましくは10~25重量%、さらに好ましくは10~20重量%含まれ、この範囲内で、耐化学性、衝撃強度、引張強度、及び低温加工性に優れるという効果がある。
【0061】
前記B-2b)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、好ましくは、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総重量に対して10~30重量%、より好ましくは10~25重量%、さらに好ましくは10~20重量%含まれ、この範囲内で、耐化学性、衝撃強度、引張強度、及び低温加工性に優れるという効果がある。
【0062】
前記B-2c)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、好ましくは、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総重量に対して10~40重量%、より好ましくは20~40重量%、さらに好ましくは20~35重量%含まれ、この範囲内で、耐化学性、衝撃強度、引張強度、及び低温加工性に優れるという効果がある。
【0063】
前記B-2)低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、好ましくは、芳香族ビニル化合物65~80重量%及びビニルシアン化合物20~35重量%を含んでなり、より好ましくは、芳香族ビニル化合物67~80重量%及びビニルシアン化合物20~33重量%を含んでなり、さらに好ましくは芳香族ビニル化合物70~75重量%及びビニルシアン化合物25~30重量%を含んでなり、この範囲内で、耐化学性、衝撃強度、引張強度、及び加工性に優れるという効果がある。
【0064】
前記芳香族ビニル化合物は、一例として、スチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン及びp-tert-ブチルスチレンからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはスチレンである。
【0065】
前記ビニルシアン化合物は、一例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチルアクリロニトリル及びイソプロピルアクリロニトリルからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはアクリロニトリルである。
【0066】
前記B-2)低分子量の芳香族ビニル重合体は、一例として、懸濁重合、乳化重合、溶液重合または塊状重合により製造されてもよく、好ましくは塊状重合により製造され、この場合、耐熱性及び流動性などに優れるという効果がある。
【0067】
前記懸濁重合、乳化重合、溶液重合及び塊状重合は、それぞれ、本発明の属する技術分野で通常行われる溶液重合及び塊状重合方法による場合、特に制限されない。
【0068】
前記(B)非グラフト共重合体は、好ましくは、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総重量に対して30~90重量%含まれ、より好ましくは40~80重量%、さらに好ましくは50~70重量%、より一層好ましくは50~60重量%であってもよく、この範囲内で、低温加工性及び耐熱性がいずれも優れるという効果がある。
【0069】
ポリアミド樹脂
本発明のポリアミド樹脂は、好ましくは、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総100重量部を基準として0.1~10重量部、より好ましくは1~10重量部、さらに好ましくは3~9重量部、最も好ましくは4~7重量部であり、この範囲内で、機械的物性及び低温加工性などが同等以上に維持されながらも、艶消し特性に優れるという利点がある。
【0070】
前記ポリアミド樹脂は、好ましくは相対粘度(硫酸96%溶液)が2.5以下であり、具体例として2.0~2.5、好ましい例として2.2~2.5であり、この範囲内で、機械的物性、耐候性及び加工性などが同等以上に維持されながらも、艶消し特性に優れるという効果がある。
【0071】
本発明において、相対粘度は、ISO 307硫酸法によりウベローデ(Ubbelohde)粘度計で測定することができ、具体的に説明すると、96重量%濃度の硫酸水溶液100mlに測定しようとする試料1gを溶解させて製造された溶液を、ブルックフィールド回転粘度計(Brookfield rotational viscometer)を用いて20℃で測定することができる。
【0072】
前記ポリアミド樹脂は、具体例として、ポリアミド6、ポリアミド66(PA6.6)、ポリアミド46、ポリアミドll、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/66、ポリアミド6/612、ポリアミドMXD6、ポリアミド6/MXD6、ポリアミド66/MXD6、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド6/6T、ポリアミド6/6I、ポリアミド66/6T、ポリアミド66/6I、ポリアミド6/6T/6I、ポリアミド66/6T/6I、ポリアミド9T、ポリアミド9I、ポリアミド6/9T、ポリアミド6/9I、ポリアミド66/9T、ポリアミド6/12/9T、ポリアミド66/12/9T、ポリアミド6/12/9I及びポリアミド66/12/6Iからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはポリアミド6、ポリアミド12及びポリアミド66からなる群から選択された1種以上であり、より好ましくはポリアミド66であり、この場合、機械的物性、耐候性及び加工性などが同等以上に維持されながらも、艶消し特性に優れるという効果がある。
【0073】
前記ポリアミド樹脂の製造方法は、本発明の属する技術分野で通常行われる重合方法であれば、特に制限されず、本発明に係るポリアミドの定義に符合する場合、商業的に購入して使用しても構わない。
【0074】
無機顔料
本発明の無機顔料は、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総100重量部を基準として、好ましくは0.1~5重量部、より好ましくは0.1~2重量部、さらに好ましくは0.1~1重量部、より一層好ましくは0.3~0.8重量部含まれてもよく、この範囲内で、耐候性及び隠ぺい力に優れるという効果がある。
【0075】
前記無機顔料は、一例として、Ti、Pb、Fe、Crなどの金属化合物及びカーボンブラックからなる群から選択された1種以上であってもよく、前記金属化合物は、好ましくは、金属酸化物または金属水酸化物であり、前記無機顔料の具体例としては、白色無機顔料としてTiO、酸化亜鉛(Zinc Oxide);黒色無機顔料としてカーボンブラック、グラファイト;赤色無機顔料としてIOR、カドミウムレッド(Cadmium Red)、レッドリード(Red Lead)(Pb);黄色無機顔料としてクロムイエロー(Chrome Yellow)、ジンククロメート(Zinc Chromate)、カドミウムイエロー(Cadmium Y.);及び緑色無機顔料としてクロムグリーン(Chrome Green)、ジンクグリーン(Zinc Green)からなる群から選択された1種以上があり、最も好ましい無機顔料は、白色無機顔料であるTiOであってもよい。
【0076】
添加剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、滑剤、酸化防止剤及び紫外線安定剤を含むことができる。
【0077】
前記滑剤は、好ましくは、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総100重量部を基準として0.1~3重量部含むことができ、より好ましくは0.3~1重量部含むことができ、さらに好ましくは0.3~0.8重量部含むことができ、この範囲内で、表面に粗い感じを実現しながらも、衝撃強度及び流動性がいずれも優れるという利点がある。
【0078】
前記滑剤は、好ましくは、エステル系滑剤、金属塩系滑剤、カルボン酸系滑剤、炭化水素系滑剤及びアミド系滑剤からなる群から選択された1種以上であってもよく、より好ましくはアミド系滑剤であり、さらに好ましくはステアルアミド系滑剤であり、最も好ましくはアルキレンの炭素数が1~10であるアルキレンビス(ステアルアミド)であり、この場合、表面に粗い感じを実現しながらも、衝撃強度及び流動性がいずれも優れるという利点がある。
【0079】
本発明において、ステアルアミド系滑剤は、ステアルアミド(stearamide)及びその水素のうち1以上が他の置換基で置換されたステアルアミド置換体を含むことができる。
【0080】
前記エステル系滑剤、金属塩系滑剤、カルボン酸系滑剤、炭化水素系滑剤及びアミド系滑剤は、それぞれ、本発明の属する技術分野で一般的に当該種類の滑剤として使用される物質であれば、特に制限されない。
【0081】
前記酸化防止剤は、好ましくは、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群から選択された1種以上であり、より好ましくは、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤との混合物である。
【0082】
前記フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤は、好ましくは、それぞれ、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総100重量部を基準として0.1~2重量部含むことができ、より好ましくは、それぞれ0.1~1重量部含むことができ、さらに好ましくは、それぞれ0.2~0.6重量部含むことができ、この範囲内で、表面に粗い感じを実現しながらも、酸化防止効果に優れるという効果がある。
【0083】
前記フェノール系酸化防止剤は、好ましくは、テトラキス[エチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IR-1010)、オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(IR-1076)、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、及び1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンから選択された1種以上であり、より好ましくは、オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(IR-1076)であり、この範囲内で、表面に粗い感じを実現しながらも、酸化防止効果に優れるという効果がある。
【0084】
前記リン系酸化防止剤は、好ましくは、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(tris(2,4-di-tert-butylphenyl)phosphite)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト(Tris(nonylphenyl)phosphite;TNPP)及びジ-(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(Di-(2,4-di-t-butylphenyl)pentaerythritol diphosphite)からなる群から選択された1種以上であってもよく、より好ましくは、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトであり、この範囲内で、表面に粗い感じを実現しながらも、酸化防止効果に優れるという効果がある。
【0085】
前記紫外線安定剤は、好ましくは、ベンゾトリアゾール系紫外線安定剤及びHALS系紫外線安定剤からなる群から選択された1種以上であり、より好ましくは、ベンゾトリアゾール系紫外線安定剤とHALS系紫外線安定剤とを混合して使用するものである。
【0086】
前記紫外線安定剤は、好ましくは、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総100重量部を基準として、ベンゾトリアゾール系紫外線安定剤0.1~2重量部及びHALS系紫外線安定剤0.1~2重量部を含むことができ、より好ましくは、ベンゾトリアゾール系紫外線安定剤0.2~1重量部及びHALS系紫外線安定剤0.2~1重量部を含むことができ、さらに好ましくは、ベンゾトリアゾール系紫外線安定剤0.3~0.8重量部及びHALS系紫外線安定剤0.3~0.8重量部を含むことができ、この範囲内で、表面に粗い感じを実現しながらも、耐光性に優れるという効果がある。
【0087】
前記ベンゾトリアゾール系紫外線安定剤は、一例としてヒドロキシベンゾトリアゾール系化合物であってもよく、好ましくは2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール系化合物であってもよく、より好ましくは、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(5’-tert-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3’-tert-ブチル-2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3’-sec-ブチル-5’-tert-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-4’-オクチルオキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3’,5’-ジ-tert-アミル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3’-tert-ブチル-2’-ヒドロキシ-5’-(2-オクチルオキシ-カルボニルエチル)フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3’-tert-ブチル-5’-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)カルボニルエチル]-2’-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3’-tert-ブチル-2’-ヒドロキシ-5’-(2-メトキシカルボニルエチル)フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3’-tert-ブチル-2’-ヒドロキシ-5’-(2-メトキシカルボニルエチル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3’-tert-ブチル-2’-ヒドロキシ-5’-(2-オクチルオキシカルボニルエチル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3’-tert-ブチル-5’-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)カルボニルエチル]-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3’-ドデシル-2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3’-tert-ブチル-2’-ヒドロキシ-5’-(2-イソオクチルオキシカルボニルエチル)フェニルベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-ベンゾトリアゾール-2-イルフェノール]、及び2-[3’-tert-ブチル-5’-(2-メトキシカルボニルエチル)-2’-ヒドロキシフェニル]-2H-ベンゾトリアゾールとポリエチレングリコールのエステル交換生成物からなる群から選択された1種以上であってもよく、この範囲内で、表面に粗い感じを実現しながらも、耐光性に優れるという効果がある。
【0088】
前記HALS系紫外線安定剤は、好ましくは、1,1-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)スクシナート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-N-ブチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルマロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジンとコハク酸との縮合生成物、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミンと4-tert-オクチルアミノ-2,6-ジ-クロロ-1,3,5-トリアジンとの線状又は環状縮合生成物、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ニトリロトリアセテート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、1,1’-(1,2-エタンジイル)-ビス(3,3,5,5-テトラメチルピペラジノン)、4-ベンゾイル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミンと4-モルホリノ-2,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジンとの線状又は環状縮合生成物、及び7,7,9,9-テトラメチル-2-シクロウンデシル-1-オキサ-3,8-ジアザ-4-オキソスピロ-[4,5]デカンとエピクロロヒドリンとの反応生成物からなる群から選択された1種以上であり、より好ましくは、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(Bis(2,2,6,6-tetramethyl-4-piperidyl)sebacate)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(2-(2H-benzotriazol-2-yl)-4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol)またはこれらの混合物であってもよく、この範囲内で、表面に粗い感じを実現しながらも、耐光性に優れるという効果がある。
【0089】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて選択的に、熱安定剤、染料、顔料(但し、無機顔料は除く)、着色剤、離型剤、帯電防止剤、抗菌剤、加工助剤、金属不活性化剤、難燃剤、煙抑制剤、滴下防止剤、耐摩擦剤及び耐摩耗剤からなる群から選択された1種以上を、(A)アクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と(B)非グラフト共重合体を合わせた総100重量部を基準として0.01~5重量部、0.05~3重量部、0.1~2重量部、または0.5~1重量部さらに含むことができ、この範囲内で、本発明で目的とする効果を低下させないながらも、該当する物性が良好に実現されるという効果がある。
【0090】
熱可塑性樹脂組成物
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、バレル温度190℃及びダイ温度200℃の条件下で押出RPMを20から60まで変化させるとき、シート成形用シングルスクリュー押出機(ダイの形態:T-Die)にかかる熱可塑性樹脂組成物の圧力傾きが130以下、より好ましくは100~130、さらに好ましくは110~130であってもよく、この範囲内で、せん断(shear)による粘度の変化が小さいため加工安定性に優れるという利点がある。
【0091】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、バレル温度190℃、ダイ温度200℃及び押出RPM50の条件下でシングルスクリューTダイ押出機のTダイを介して1分30秒間吐出される熱可塑性樹脂組成物の吐出量で計算される吐出速度が18g/分以上、より好ましくは18~19.5g/分、さらに好ましくは18~19.0g/分であってもよく、この範囲内で、加工性及び経済性に優れるという利点がある。
【0092】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、190℃の条件及びせん断範囲(Shear range)100/sでの毛細管粘度が2,500~3,200Pa・sであってもよく、より好ましくは2,600~3,100Pa・s、さらに好ましくは2,700~3,000Pa・sであり、この範囲内で、加工性及び経済性に優れるという利点がある。
【0093】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、温度条件190℃、ストレイン(Strain)条件0.1%及び周波数(Frequency)条件10rad/sでの貯蔵弾性率(ジオメトリーは25mmのパラレルプレート(Parallel Plate))が70,000~150,000MPaであってもよく、より好ましくは80,000~140,000MPa、さらに好ましくは90,000~130,000MPaであり、この範囲内で、PVC樹脂の表面に対する粘着性が優れるので、PVC樹脂の表面にASA樹脂が良好に覆われ、層分離が発生せず、加工性に優れるという利点がある。
【0094】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、非対称度Rsk(200℃)が0~0.5であってもよく、より好ましくは0~0.4、さらに好ましくは0~0.3、より一層好ましくは0.05~0.2、最も好ましくは0.08~0.15であり、この範囲内で、機械的物性及び加工性などが低下しないながら、耐候性に優れ、特に、製品の表面に粗い感じを実現して人為的なプラスチック感から脱した高級な外観を有するという効果がある。
【0095】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、非対称度Rsk(220℃)が0.65~1.35であってもよく、より好ましくは0.7~1.2、さらに好ましくは0.7~1.3、より一層好ましくは0.7~1.0、最も好ましくは0.74~0.9であり、この範囲内で、機械的物性及び加工性などが低下しないながら、耐候性に優れ、特に、製品の表面に粗い感じを実現して人為的なプラスチック感から脱した高級な外観を有するという効果がある。
【0096】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、ガラス転移温度125℃以上の熱可塑性樹脂を含まないことができ、より好ましくは、α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物共重合体及びメタクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体からなる群から選択された1種以上を含まないことができ、さらに好ましくは、α-メチルスチレン-ビニルシアン化合物共重合体及びメタクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体を全て含まず、この場合、200℃未満での低温加工性が低下しないという利点がある。
【0097】
本発明において、ガラス転移温度(Tg)は、本発明の属する技術分野で一般的に測定する方法によって測定することができ、具体例として、ASTM D 3418に準拠してDSC(Differential Scanning Calorimeter)で測定することができる。
【0098】
本発明において、所定の熱可塑性樹脂を含まないという意味は、その熱可塑性樹脂を全く含まないことを意味するだけでなく、その熱可塑性樹脂の投入効果が極めて小さく、本発明の熱可塑性樹脂組成物の効果に全く影響を及ぼさない程度の量以下であることも意味し、具体例として、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満または0.1重量%未満であってもよい。具体例として説明すると、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合体のような耐熱SAN樹脂は、低温での粘度が高いだけでなく、RPMによる粘度の変化が激しいため、本発明の熱可塑性樹脂組成物に添加すると、低温加工条件での粘度を増加させてしまい、低温加工性が低下し、加工ウィンドウまで狭くなって加工安定性が悪くなるので、本発明の熱可塑性樹脂組成物では、上述した定義に従って排除することが好ましい。
【0099】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくはデッキング(decking)材料であってもよく、この場合、デッキング材料に求められる物性を全て大きく満足させるという利点がある。
【0100】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、ASTM D648に準拠して18.6kgfの荷重下で測定した耐熱度が80℃以上、より好ましくは82℃以上、さらに好ましくは84℃以上であってもよく、好ましい例としては80~90℃、より好ましい例としては82~90℃であってもよく、この範囲内で、十分な耐熱性が確保されながらも、200℃未満での低温加工性に優れるという効果がある。
【0101】
前記熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、グロスメーターVG7000により60°で測定したフィルムグロス(film gloss)が15以下である艶消し熱可塑性樹脂組成物であってもよく、より好ましくは前記フィルムグロスが10以下、さらに好ましくは8以下の艶消し熱可塑性樹脂組成物であってもよく、この範囲内で、艶消し特性に優れながらも、物性バランスに優れるという効果がある。これによって、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、艶消し熱可塑性樹脂組成物とも称することができる。
【0102】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、好ましくは、(A)平均粒径が50~150nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-1)及び平均粒径が300~600nmであるアクリレートゴムを含むアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体(A-2)を含むグラフト共重合体10~70重量%と;(B)重量平均分子量が160,000~200,000g/molである高分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-1)及び重量平均分子量が80,000g/mol以上~160,000g/mol未満である低分子量の芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体(B-2)を含む非グラフト共重合体30~90重量%とを含み、バレル温度190℃及びダイ温度200℃の条件下で押出RPMを20から60まで変化させるとき、シート成形用シングルスクリュー押出機にかかる圧力傾きが130以下である熱可塑性樹脂組成物を、220~280℃の条件下で押出混練機を用いてペレットに製造するステップを含むことを特徴とし、このような場合、従来のASA樹脂と比較して、200℃未満の低温で加工性に優れ、PVC樹脂との共押出時にもフローマークやピーリングなどの表面不良が発生せず、エネルギー消費量が少なく、ASA樹脂の少ない投入量でもPVC樹脂を効果的に覆うことができるので経済性に優れ、また、耐熱度も優れた熱可塑性樹脂組成物を提供するという利点がある。
【0103】
前記バレル温度190℃及びダイ温度200℃の条件は、具体例として、バレル部の温度50、190、190、190℃及びダイ部の温度200、200、200℃の条件であってもよい。
【0104】
前記熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、前述した熱可塑性樹脂組成物の全ての技術的特徴を共有する。したがって、重複部分についての説明は省略する。
【0105】
前記押出混練機を用いてペレットを製造するステップは、好ましくは220~290℃下で、より好ましくは250~290℃下で、さらに好ましくは270~290℃下で行うものであってもよく、このとき、温度は、シリンダーに設定された温度を意味する。
【0106】
前記押出混練機は、本発明の属する技術分野で通常用いられる押出混練機であれば、特に制限されず、好ましくは二軸押出混練機であってもよい。
【0107】
<成形品>
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とし、この場合、従来のASA樹脂と比較して、200℃未満の低温で加工性に優れるので、PVC樹脂との共押出時にもフローマークやピーリングなどの表面不良が発生せず、エネルギー消費量が少なく、ASA樹脂の少ない投入量でもPVC樹脂を効果的に覆うことができるので経済性に優れ、また、耐熱度も優れるという利点がある。
【0108】
前記成形品は、好ましくは外装材であってもよく、より好ましくは共押出成形品又は射出成形品であってもよく、さらに好ましくはPVC樹脂との共押出成形品であり、具体例としてはサイディング(siding)材料、デッキング(decking)材料、屋根(roofing)材料、スライディングドア材料または建具材料があり、最も好ましい例としてはデッキング材料がある。
【0109】
前記成形品は、一例として、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形温度200℃未満下、好ましくは180℃以上~200℃未満下、より好ましくは190~199℃下で共押出するステップを含んで製造されてもよく、この範囲内で、表面不良が発生せず、エネルギー消費量が少ないので経済的であるという利点がある。
【0110】
前記成形品は、他の例として、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形温度190~250℃下、好ましくは190~230℃下、より好ましくは190~220℃下で押出又は射出するステップを含んで製造されてもよい。
【0111】
本発明の熱可塑性樹脂組成物、その製造方法及び成形品を説明するにおいて、明示的に記載していない他の条件や装備などは、当業界において通常行われる範囲内で適宜選択することができ、特に制限されないことを明示する。
【0112】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、以下の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然である。
【0113】
[実施例]
下記実施例1~6及び比較例1~5で用いられた物質は、次の通りである。
【0114】
A-1)グラフト共重合体:アクリレートゴムの平均粒径が130nmであるブチルアクリレート-スチレン-アクリロニトリル共重合体(ブチルアクリレート50重量%、スチレン35重量%及びアクリロニトリル15重量%)
A-2)グラフト共重合体:アクリレートゴムの平均粒径が500nmであるブチルアクリレート-スチレン-アクリロニトリル共重合体(ブチルアクリレート50重量%、スチレン35重量%及びアクリロニトリル15重量%)
B-1)バルク重合方式のSAN樹脂(95HCP、LG化学社製、重量平均分子量91,000g/mol)
B-2)バルク重合方式のSAN樹脂(92HR、LG化学社製、重量平均分子量130,000g/mol)
B-3)バルク重合方式のSAN樹脂(90HR、LG化学社製、重量平均分子量150,000g/mol)
B-4)バルク重合方式のSAN樹脂(97HC、LG化学社製、重量平均分子量170,000g/mol)
B-5)バルク重合方式の耐熱SAN樹脂(200UH、LG化学社製、重量平均分子量90,000g/mol)
D)ナイロン66
【0115】
実施例1~6及び比較例1~5
それぞれ、下記表1に記載された成分及び含量に、滑剤としてEBS(SUNKOO社製)0.5重量部、酸化防止剤としてオクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(octadecyl 3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)propanoate)0.4重量部及びトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(Tris(2,4-di-tert-butylphenyl)phosphite))0.4重量部、紫外線安定剤としてベンゾトリアゾール系紫外線安定剤であるTinuvin329(BASF社製)0.6重量部及びHALS系紫外線安定剤であるTinuvin770(BASF社製)0.6重量部を均一に混合した後、これを二軸押出機にて280℃下で混練及び押出してペレットを製造した。また、製造されたペレットをもってバレル部の温度50、190、190、190℃及びダイ部の温度200、200、200℃でシングルスクリューTダイ押出機を用いて0.15Tのシートを製造し、光沢(gloss)及び表面粗さ値を測定した。さらに、前記製造されたペレットを成形温度220℃で射出して物性測定用試験片を作製し、これを用いて引張強度及び衝撃強度を測定した。
【0116】
[試験例]
前記実施例1~6及び比較例1~5で製造されたペレット、シート及び試験片の特性を下記の方法で測定し、その結果を下記の表1に示した。
【0117】
*耐熱度(℃):ASTM D648に準拠して18.6kgfの荷重下で測定した。
【0118】
*光沢(gloss):グロスメーター(gloss meter)VG7000により60°で測定した。
【0119】
*圧力傾き:バレル部の温度50、190、190、190℃及びダイ部の温度200、200、200℃の条件下で押出RPMを20から60まで変化させるとき、シート成形用シングルスクリュー押出機(Collin社製、E20T製品)にかかる熱可塑性樹脂組成物の圧力で測定した。圧力傾きは、まずRPMを60まで上げた後、押出機の内部のアダプタ(Adaptor)の温度が安定化するまで樹脂を流しながら待機した後、温度が安定化すると、押出機に表示される圧力を記録する。温度は、樹脂の粘度に影響を与えるので、必ず温度が一定になったことを確認した後にデータを取らなければならない。同じ方式で、RPMを20まで順次下げながら圧力を記録した。得られたRPMに対する圧力の変化をグラフに対数トレンドラインを引いて得られる傾きを圧力傾き値として活用した。
【0120】
*吐出速度:バレル部の温度50、190、190、190℃、ダイ部の温度200、200、200℃及び押出RPM50の条件下でTダイを介して1分30秒間吐出される熱可塑性樹脂組成物の吐出量で計算した。
【0121】
*毛細管粘度(Pa・s):キャピラリーレオメーター(Capillary Rheometer)(GOETTFERT社製、RG-75)が使用され、分析は、190℃の条件でせん断範囲(Shear range)10/s~2000/sの範囲でフロー粘度(Flow viscosity)を測定した。このとき、分析結果は、せん断範囲(Shear range)100/sでのデータを使用し、試料は、分析前に80℃のオーブンで3時間以上乾燥させ、水分による粘度の影響を除去した。
【0122】
*貯蔵弾性率(MPa):Strain Controlled Type Rheometer(TAインスツルメント社製、ARES-G2)が使用され、測定温度190℃の条件で測定のために使用されたジオメトリー(Geometry)は、25mmのパラレルプレート(Parallel Plate)であった。ここで、ストレイン(Strain)条件は0.1%であり、周波数(Frequency)0.1~500rad/sの範囲で測定を行った。このとき、分析結果は、10rad/sの貯蔵弾性率データを使用した。
【0123】
*非対称度Rsk:下記図1を参照すると、使用装備としてはオプティカルプロファイラシステム(Optical profiler system)(Nano View NV-2700、製造社:(株)ナノシステム)が使用され、分析条件はWSI Envelopeモードで対物(Objective)レンズ20倍×接眼レンズ1倍のレンズを使用し、±40μmの範囲に対するスキャニングを行った。測定は、試料を平らにステージ(Stage)に固定した後、5ポイントに対する測定を行った。測定された数値に対して、上側の図に表示された平均二乗偏差(Rq)を求める式、及び下側の図に表示された非対称度Rskを求める式を用いて、5ポイントに対する平均値を計算した。
【0124】
ここで、非対称度(Rsk、200℃)は、製造されたペレットを、バレル部の温度50、190、190、190℃及びダイ部の温度200、200、200℃で15ファイフィルム押出機を通じて厚さ0.15Tに均一に押出した後、前記提示された方法によりRskを測定した値であり、非対称度(Rsk、220℃)は、製造されたペレットをバレル部の温度50、200、210、210℃及びダイ部の温度220、220、230℃で15ファイフィルム押出機を通じて厚さ0.15Tに均一に押出した後、前記提示された方法によりRskを測定した値である。
【0125】
【表1】
【0126】
前記表1に示したように、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物(実施例1~6参照)は、一部の構成が異なる比較例1~5と比較して、バレル温度200℃未満の低温でも加工性に優れるので、フローマークやピーリングなどの表面不良が発生せず、エネルギー消費量が少なく、押出RPMの変化にもかかわらず粘度の変化が少ないため加工安定性に優れ、さらに、耐熱度も優れることが確認できた。
【0127】
より詳細に説明すると、本発明に係るSAN樹脂の代わりに耐熱SAN樹脂を使用した比較例1~2は、吐出速度などが劣悪であるため、加工性及び経済性などが低下し、低分子量のSAN樹脂のみ種類を変えて使用した比較例3~5は、耐熱度(HDT)などが劣悪であることが確認できた。
図1