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  • 特許-窒素元素ドープ酸化チタンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】窒素元素ドープ酸化チタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/34 20060101AFI20231128BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20231128BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20231128BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
B01J37/34
B01J27/24 M
B01J35/02 J
C01G23/04 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019153049
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021030159
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真之
(72)【発明者】
【氏名】勝部 大樹
(72)【発明者】
【氏名】吉越 章隆
(72)【発明者】
【氏名】大野 真也
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-218411(JP,A)
【文献】特開平07-325198(JP,A)
【文献】特開平06-170218(JP,A)
【文献】新川慶太朗他,カリウムをドープしたグラファイト表面での酸素分子線での吸着と散乱,触媒討論会討論会A予稿集,日本,2010年09月15日,Vol.106,P.340
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01G 23/00-23/08
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットとなる、薄膜、粒子、または粉末の何れかであるTiOを真空チャンバ内の所定位置に配置するステップと、
前記真空チャンバを真空引きするステップと、
ノズルを所定温度に加熱するステップと、
前記ノズルを前記所定温度に維持しつつ、前記ノズルからNO分子の超音速分子線を前記ターゲットに照射するステップと
を備えるN元素ドープTiOの製造方法。
【請求項2】
前記所定温度は、1180K~1420Kの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒材料の製造方法に関し、特に酸化チタン(TiO)に窒素をドーピングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TiOは387nmより短波長の光が照射されると、水と反応して活性酸素種を生成する。活性酸素種は強い酸化力をもち、化学薬品や細菌などに対して分解作用を示す。このような光を照射することに伴い分解作用を奏する特性を持つことから、TiOは、光触媒材料として用いられている。
【0003】
TiOはバンドギャップが広く、波長が387nmより短いいわゆる紫外光にしか応答しないため、紫外光の照射量が少ない環境下ではその性能を最大限に発揮することができない。この問題を解決すべく、窒素(N)元素をTiOにドープすることにより、可視光への応答特性が得られることが知られている(例えば非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】"Mechanism for Visible Light Responses in Anodic Photocurrents at N-Doped TiO2 Film Electrodes" Journal of Physical Chemistry B 108, 30, 10617-10620 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、TiOにN元素をドープする手法として、プラズマ反応による方法、Nイオンスパッタと熱処理(アニール)による結晶構造の再構築による方法、ガス雰囲気下において超高温で焼成する方法、特殊な触媒を用いた反応による方法等が提案されている。しかし、いずれの方法も、低コストで効率的にTiOにN元素をドープすることはできなかった。
【0006】
本発明の課題は、上記の問題を解決し、効率的なN元素ドープTiOの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明に係るN元素ドープTiOの製造方法は、ターゲットとなるTiOを真空チャンバ内の所定位置に配置するステップと、真空チャンバを真空引きするステップと、ノズルを所定温度に加熱するステップと、ノズルを所定温度に維持しつつ、ノズルからNO分子の超音速分子線をターゲットに照射するステップとを備える。所定温度は、1180K~1420Kの範囲とするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ドーピング装置の構成を例示する模式図である。
図2】ドーピング処理の手順を示すフローチャートである。
図3】NO分子の超音速分子線を照射する前後におけるTiO薄膜について、N元素の1s軌道付近のXPS測定の結果を示している。
図4】NO分子の超音速分子線を照射する前後におけるTiO薄膜について、Tiの2p3/2軌道付近のXPS測定の結果を示している。
図5】NO分子の超音速分子線を照射する前後におけるTiO薄膜について、価電子帯付近のXPS測定の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0010】
〔ドーピング装置の構成〕
図1は、本実施形態に係るN元素ドープTiOの製造方法に用いるドーピング装置1の構成を例示する模式図である。
【0011】
ドーピング装置1は、真空チャンバ2、真空ポンプ3、ターゲット保持部4、ビーム源5、ノズル6、およびノズルヒータ7を備える。
【0012】
真空チャンバ2は、内部の圧力を外部の圧力と異なるものにできるように内部を密封することができる構造を有する。また、図1には図示されないが、真空チャンバ2は、ターゲットTを出し入れするためのゲートバルブ、ターゲットTを搬送するための搬送機構、真空チャンバ2内に大気を導入するためのリークバルブ等を備える。
【0013】
真空ポンプ3は、真空チャンバ2の内部を外部より減圧するためのポンプであり、真空チャンバ2内を高真空(例えば5×10-8Pa以下)に減圧する。真空ポンプ3は、真空チャンバ2内を所望の真空度まで減圧できればいかなるものを用いてもよいが、例えば、ロータリポンプ、拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ等を単独で又は組み合わせて用いるとよい。ターゲット保持部4は、真空チャンバ2内で、ターゲットTとなるTiO材料を、超音速分子線Bが照射される位置に保持する。なお、ターゲットTとなるTiO材料は、基板、薄膜、粉末等その形態は任意である。
【0014】
ビーム源5は、ターゲットTに照射する分子(本例では一酸化窒素(NO)分子)を収容し、ノズル6に供給する。ノズル6は、細孔により真空チャンバ2の内部空間とドーピング装置1を連通し、ビーム源5に収容されている分子を、減圧された真空チャンバ2内に、超音速分子線Bとして噴出する。ノズルヒータ7は、ノズル6を所望の温度に加熱するための加熱源である。
【0015】
〔手順・方法〕
続いて、上記のように構成されるドーピング装置を用いて、ターゲットTとなるTiO基板に窒素(N)をドーピングする手順を説明する。
【0016】
図2は、本実施形態におけるドーピング処理の手順を示すフローチャートである。
ドーピング処理では、はじめに、ターゲットTを真空チャンバ2内に導入し、ターゲット保持部4でターゲットTを所定位置に保持させる(ステップS100)。ターゲットTとするTiOとしては、アナターゼ型のTiOを用いるとよい。続いて、真空チャンバ2を密閉し、真空ポンプ3により真空引きして、真空チャンバ2内を所望の圧力(例えば5×10-8Pa以下)に減圧する(ステップS110)。
【0017】
続いて、ノズル6をノズルヒータ7により所望の温度(例えば1100K(826.85℃)以上とするとよく、1180K~1420Kの範囲とするとより好ましい)に加熱する(ステップS120)。そして、ノズル6を所望の温度に維持しながら、ビーム源5に収容されているNO分子をノズル6の細孔より真空チャンバ2内に噴出させる(ステップS130)。このときNO分子は、ノズル6で加熱されつつ超音速分子線BとしてターゲットTに照射される。超音速分子線におけるNO分子の並進エネルギーは1eV以上とするとよく、例えば1.90~2.10eVの範囲とするとより好ましい。
【0018】
所望の時間(例えば100分)、NO分子の超音速分子線BをターゲットTに照射した後、超音速分子線Bの照射およびノズルの加熱を終了する(ステップS140)。続いて、真空ポンプ3を停止し、リークバルブにより真空チャンバ2内に徐々に大気を導入して真空チャンバ2の内部の圧力を外部の圧力(大気圧)と一致させる(ステップS150)。そして、真空チャンバ2からターゲットTを取り出して(ステップS160)、処理を終了する。
【0019】
〔実施例〕
はじめに、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)の単結晶基板(面方位:(100))を用意し、当該単結晶基板上にパルスレーザ堆積法によりTiOの薄膜を形成した。具体的には、SrTiO基板を真空チャンバ内に導入し、真空チャンバ内を真空引きしつつ、酸素分圧を1.0×10-4Paとする。そして、SrTiO基板を800℃に加熱し、SrTiO基板と対向する位置に配置した堆積素材ターゲット(TiO)にレーザパワー密度0.8J/cmのパルスレーザを4時間照射した。これにより、SrTiO基板の表面に、約100nmのTiO薄膜を形成した。
【0020】
このようにして準備したTiO薄膜に対しN元素を以下の手順でドープした。まず、ターゲットTとなるTiO薄膜が形成されたSrTiO基板を真空チャンバ2内の所定位置(ノズル6からの分子線が照射される位置)に配置した。続いて、真空チャンバ2を5×10-8Pa以下に真空引きし、ノズル6をノズルヒータ7にて1400Kに加熱した。そして、ノズル6を1400Kに維持しつつ、ノズル6からNO分子の超音速分子線をターゲットTとなるTiO薄膜に照射した。照射した超音速分子線におけるNO分子の並進エネルギーは2.06eVとし、照射中の試料温度は室温、照射時間は2時間とした。
【0021】
図3~5は、上記のようにNO分子の超音速分子線を照射する前後においてTiO薄膜をX線光電子分光法(X ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)にて測定した結果を示している。
【0022】
図3は、N元素の1s軌道に相当する結合エネルギー(binding energy)近傍での測定結果を示している。NO分子の超音速分子線を照射する前には見られなかったピークが、照射後には見られるようになっている。このことから、照射されたNO分子に含まれていたN元素が、TiO薄膜中の元素と結合し、ドーピングに成功したことがわかる。
【0023】
図4は、Tiの2p3/2軌道に相当する結合エネルギー近傍での測定結果を示している。NO分子の超音速分子線を照射する前後で、変わらず当該軌道のピークが観測されている。図4中において破線で囲まれた部分において、酸素欠陥の存在を意味するピークが照射後に減少している。これは、照射前に存在した酸素欠陥が、照射されたNO分子に含まれていたO元素により補償されたことによるものと考えられる。
【0024】
図5は、TiOの価電子帯に相当する結合エネルギー近傍での測定結果を示している。図5から、NO分子の超音速分子線を照射する前と比較して、照射した後では価電子帯スペクトルが伝導帯側に約0.2eVシフトしていることが読み取れる。このことから、NO分子の超音速分子線を照射することにより、バンドギャップが減少したと考えられる。バンドギャップが減少すれば、紫外光よりも低エネルギーである可視光への応答性を得ることが可能となる。
【0025】
以上で説明した本実施形態におけるドーピング処理によれば、低コストで効率的にTiOにN元素をドープすることができる。特に、ドーピング処理中の加熱対象が、ドーピング装置1全体やターゲットTをではなく、ノズル6(およびノズル6を通過する分子)のみであるため、加熱に要するエネルギーが抑制できるとともに、加熱・冷却に要する時間を短縮することができ、処理の効率を高めることができる。また、TiOの結晶格子中に含まれる酸素欠陥を、補償することができ、光を照射することで励起されるキャリアが、欠陥において再結合されることによる光触媒活性の低下を抑制することができる。
【0026】
なお、上記に本実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、ターゲットであるTiOが基板状である場合を例に説明したが、TiOは粒子状、粉末状等であってもよい。
【0027】
また、前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
【符号の説明】
【0028】
1 ドーピング装置
2 真空チャンバ
3 真空ポンプ
4 ターゲット保持部
5 ビーム源
6 ノズル
7 ノズルヒータ
T ターゲット
B 超音速分子線
図1
図2
図3
図4
図5