(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20231128BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20231128BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
(21)【出願番号】P 2019179151
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田邉 誼之
(72)【発明者】
【氏名】谷口 恵
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-291723(JP,A)
【文献】特開2002-327170(JP,A)
【文献】特開2002-047484(JP,A)
【文献】特開2013-145877(JP,A)
【文献】特開2005-167231(JP,A)
【文献】特許第4272409(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハ
の予備研磨工程に用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、塩基性化合物と、下記化学式1で表されるリン含有化合物と、水と、を含む、研磨用組成物:
【化1】
上記化学式1中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、または非置換の直鎖状もしくは分枝状の炭素数1~20のアルコキシ基であり、R
3は、非置換の直鎖状または分枝状の炭素数1~20のアルコキシ基である。
【請求項2】
前記化学式1中のR
1、R
2、およびR
3の少なくとも1つが、非置換の直鎖状の炭素数1~20のアルコキシ基である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記リン含有化合物は、リン酸エステル化合物である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
シリコンウェーハの研磨方法であって、請求項1~
3のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて研磨する研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半導体、またはこれらの合金;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体ウェーハ材料等は、平坦化などの各種要求により研磨がなされ、各種分野で応用されている。
【0003】
中でも、集積回路等の半導体素子を作るために、高平坦でキズや不純物の無い高品質な鏡面を持つミラーウェーハを作るため、単結晶シリコン基板(シリコンウェーハ)を研磨する技術については様々な研究がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、ポリビニルアルコール類の水溶性高分子化合物と、ピペラジン化合物と、を含む、研磨用組成物が提案されている。そして、特許文献1には、上記研磨用組成物により、研磨後のシリコンウェーハの周縁部(外周部)における平坦性が向上することが示されている。
【0005】
このほかにも、シリコンウェーハの外周部の平坦性を向上するための種々の手段が提案されているが、新たな手段の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シリコンウェーハの研磨において、高い研磨速度を維持しつつ、シリコンウェーハの外周部の平坦性を向上することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、シリコンウェーハを研磨するために用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、塩基性化合物と、下記化学式1で表されるリン含有化合物と、水と、を含む、研磨用組成物によって解決される。
【0009】
【0010】
上記化学式1中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、または非置換の直鎖状もしくは分枝状の炭素数1~20のアルコキシ基であり、R3は、非置換の直鎖状または分枝状の炭素数1~20のアルコキシ基である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い研磨速度を維持しつつ、シリコンウェーハの外周部の平坦性を向上することができる手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0013】
以下、本発明の研磨用組成物につき、詳細を説明する。
【0014】
〔研磨用組成物〕
本発明の一形態は、シリコンウェーハを研磨するために用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、塩基性化合物と、下記化学式1で表されるリン含有化合物と、水と、を含む、研磨用組成物である。
【0015】
【0016】
上記化学式1中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、または非置換の直鎖状もしくは分枝状の炭素数1~20のアルコキシ基であり、R3は、非置換の直鎖状または分枝状の炭素数1~20のアルコキシ基である。
【0017】
本発明者らは、シリコンウェーハの外周部の平坦性の向上と、研磨速度の向上という観点から鋭意検討を行った。その結果、上記化学式1で表されるリン含有化合物を含む研磨用組成物により、シリコンウェーハの高研磨速度を維持しつつ、シリコンウェーハの外周部の平坦性を向上させることができることを見出した。
【0018】
本発明の研磨用組成物により上記効果が得られる作用機序は不明であるが、以下のように考えられる。本発明に係るリン含有化合物は、シリコンウェーハの外周部を保護し、外周部の過研磨を抑制する働きを有すると考えられる。このリン含有化合物を含む研磨用組成物でシリコンウェーハを研磨すると、シリコンウェーハの外周部の平坦性向上と良好な研磨速度との両立が達成できると考えられる。
【0019】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本願の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0020】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨用組成物は、シリコンウェーハを研磨する用途に用いられる。ここで、シリコンウェーハは、単結晶シリコン基板や、多結晶シリコン基板のように単体シリコンからなるものであってもよいし、単体シリコンからなる層とそれ以外の層とで構成されるものであってもよい。またシリコンウェーハは、不純物程度の含有量でシリコン以外の元素が含まれることは許容される。したがって、上記シリコンウェーハは、ホウ素等のp型ドーパントや、リン等のn型ドーパントを含んでいてもよい。シリコンウェーハの結晶方位も特に制限されず、<100>、<110>、<111>のいずれであってもよい。また、シリコンウェーハの抵抗率にも特に制限はない。また、シリコンウェーハの厚さは、例えば600~1000μmであるが、特に限定されるものではない。本発明の組成物は、200mm、300mm、450mmなどどのような口径のウェーハにも適応可能である。無論、これら以外の口径のものを使用してもよい。
【0021】
次に、本発明の研磨用組成物の構成成分について説明する。
【0022】
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、砥粒を含む。研磨用組成物中に含まれる砥粒は、シリコンウェーハを機械的に研磨する作用を有する。
【0023】
本発明に使用される砥粒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。砥粒としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。なお、本明細書において特にことわりの無い限り、砥粒は表面修飾されていないものを指す。
【0024】
これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。
【0025】
砥粒の平均一次粒子径の下限は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、40nm以上であることがさらにより好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持できるため、粗研磨工程において好適に使用できる。また、砥粒の平均一次粒子径の上限は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。いくつかの態様において、平均一次粒子径は75nm以下でもよく、60nm以下でもよい。かような範囲であれば、研磨後のシリコンウェーハの表面に欠陥が生じるのをより抑えることができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0026】
砥粒の平均二次粒子径の下限は、15nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、40nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることがさらにより好ましく、60nm以上(例えば80nm以上)であることが特に好ましい。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持することができる。また、砥粒の平均二次粒子径の上限は、300nm以下であることが好ましく、260nm以下であることがより好ましく、220nm以下であることがさらに好ましく、150nm以下(例えば130nm以下)であることが特に好ましい。かような範囲であれば、研磨後のシリコンウェーハの表面に欠陥が生じるのをより抑えることができる。砥粒の平均二次粒子径は、例えば動的光散乱法により測定することができる。
【0027】
砥粒の平均会合度は1.2以上であることが好ましく、1.4以上であることがより好ましく、さらに好ましくは1.5以上である。ここで平均会合度とは砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。砥粒の平均会合度は1.2以上であると、研磨速度が向上する有利な効果があり、好ましい。また、砥粒の平均会合度は4以下であることが好ましく、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3以下である。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによる表面欠陥の少ない研磨面が得られやすい。
【0028】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、砥粒の含有量は、研磨用組成物に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましい。砥粒の含有量の増大によって、研磨速度が向上する。また、研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、スクラッチ防止等の観点から、砥粒の含有量は、通常は10質量%以下が適当であり、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。砥粒の含有量を少なくすることは、経済性の観点からも好ましい。
【0029】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、砥粒の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、研磨用組成物に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、砥粒の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。
【0030】
なお、砥粒を2種以上組み合わせて用いる場合は、上記の含有量は2種以上の砥粒の合計含有量を指す。
【0031】
[リン含有化合物]
本発明に係る研磨用組成物は、下記化学式1で表されるリン含有化合物を含む。該リン含有化合物は、シリコンウェーハの外周部を保護し、外周部の過研磨を抑制する働きを有すると考えられる。よって、このリン含有化合物を含む研磨用組成物でシリコンウェーハを研磨すると、シリコンウェーハの外周部の平坦性向上と良好な研磨速度との両立が達成されると考えられる。
【0032】
【0033】
上記化学式1中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、または非置換の直鎖状もしくは分枝状の炭素数1~20のアルコキシ基であり、R3は、非置換の直鎖状または分枝状の炭素数1~20のアルコキシ基である。
【0034】
R1、R2、およびR3で用いられる非置換の直鎖状または分枝状の炭素数1~20のアルコキシ基の例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、n-ヘプタデシルオキシ基、n-オクタデシルオキシ基、n-ノナデシルオキシ基、n-エイコシルオキシ基等が挙げられる。
【0035】
本発明で使用されるリン含有化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。また、リン含有化合物は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。上記化学式1で表されるリン含有化合物の具体的な例としては、例えば、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸トリエチル、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸トリイソプロピル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、リン酸モノ2-エチルヘキシル、リン酸ジ2-エチルヘキシル、リン酸トリ2-エチルヘキシル等のリン酸エステル化合物;亜リン酸モノメチル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸モノエチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸モノイソプロピル、亜リン酸ジイソプロピル、亜リン酸モノブチル、亜リン酸ジブチル等の亜リン酸エステル化合物;等が挙げられる。
【0036】
上記化学式1において、R1、R2、およびR3の少なくとも1つは、非置換の直鎖状の炭素数1~20のアルコキシ基であることが好ましく、非置換の直鎖状の炭素数1~10のアルコキシ基であることがより好ましい。シリコンウェーハの外周部の平坦性向上と良好な研磨速度とを、より高いレベルで両立させることができるためである。
【0037】
また、上記化学式1で表されるリン含有化合物は、リン酸エステル化合物であることが好ましい。すなわち、上記化学式1のR1およびR2が、それぞれ独立して、ヒドロキシ基または非置換の直鎖状もしくは分枝状の炭素数1~20のアルコキシ基である化合物が好ましく、より好ましくは1~15であり、さらに好ましくは1~10であり、1~5(例えば1~3)であってもよい。かような範囲であれば、シリコンウェーハの外周部の平坦性向上と、研磨用組成物の分散安定性において有意となり得る。さらに、リン酸エステル化合物の中でも、例えば、リン酸ジエステル化合物、リン酸トリエステル化合物等のエステル構造が多い化合物がより好ましい。これらのリン含有化合物はシリコンウェーハの外周部の平坦性向上と良好な研磨速度とを、より高いレベルで両立させることができるためである。
【0038】
なかでもより好ましいものリン含有化合物としては、リン酸ジエステル化合物、リン酸トリエステル化合物等のリン酸エステル化合物;亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステル等の亜リン酸エステル化合物;等であり、リン酸トリエチルであることがより好ましい。
【0039】
研磨用組成物が上記化学式1で表されるリン含有化合物を2種以上含んで用いられる場合、例えば、リン酸モノエステル化合物から2種以上、リン酸ジエステル化合物から2種以上、リン酸トリエステル化合物から2種以上、リン酸モノエステル化合物とリン酸ジエステル化合物からそれぞれ1種以上、リン酸モノエステル化合物とリン酸トリエステル化合物からそれぞれ1種以上、リン酸ジエステル化合物とリン酸トリエステル化合物からそれぞれ1種以上、亜リン酸モノエステル化合物から2種以上、亜リン酸ジエステル化合物から2種以上、亜リン酸トリエステル化合物から2種以上、亜リン酸モノエステル化合物と亜リン酸ジエステル化合物からそれぞれ1種以上、亜リン酸モノエステル化合物と亜リン酸トリエステル化合物からそれぞれ1種以上、亜リン酸ジエステル化合物と亜リン酸トリエステル化合物からそれぞれ1種以上、等の組合せでリン含有化合物を用いることができる。リン含有化合物としてリン酸モノエステル化合物とリン酸ジエステル化合物を組み合せて用いる場合、具体的な例としてはリン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルの組合せが挙げられる。
【0040】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、上記リン含有化合物の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましくは0.0001質量%以上であり、より好ましくは0.0015質量%以上であり、さらに好ましくは0.002質量%以上である。また、研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、上記リン含有化合物の含有量は、0.01質量%以下であることが好ましく、0.008質量%以下であることがより好ましく、0.006質量%以下であることがさらに好ましい。このような含有量の範囲であれば、シリコンウェーハの外周部の平坦性向上と良好な研磨速度とを、より高いレベルで両立させることができるためである。
【0041】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、リン含有化合物の含有量は、保存安定性等の観点から、研磨用組成物に対して、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、リン含有化合物の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.015質量%以上であることがより好ましい。
【0042】
なお、リン含有化合物を2種以上組み合わせて用いる場合は、上記の含有量は2種以上のリン含有化合物の合計含有量を指す。
【0043】
研磨用組成物が上記化学式1で表されるリン含有化合物を2種以上含んで用いられる場合、リン含有化合物の含有量の割合は特に制限されない。例えばリン酸モノエステル化合物とリン酸ジエステル化合物を組み合わせて用いる場合、上記割合は質量比で、リン酸モノエステル化合物:リン酸ジエステル化合物が5:95~95:5であってもよく、10:90~90:10であってもよい。平坦性の向上の観点から、上記割合は20:80~80:20であってもよく、25:75~75:25であってもよく、例えば25:75~45:55であってもよい。
【0044】
[塩基性化合物]
本発明に係る研磨用組成物は、塩基性化合物を含む。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物は、研磨対象となる面を化学的に研磨する働きをし、研磨速度の向上に寄与し得る。また、塩基性化合物は、研磨用組成物の分散安定性の向上に役立ち得る。
【0045】
本発明に使用される塩基性化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属または第2族金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩;水酸化第四級アンモニウムまたはその塩;アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。水酸化第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。
【0046】
研磨速度向上等の観点から、好ましい塩基性化合物として、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。なかでもより好ましいものとして、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム水酸化テトラエチルアンモニウム、および炭酸カリウムが例示される。2種以上を組み合わせて用いる場合、例えば、炭酸カリウムと水酸化テトラメチルアンモニウムとの組合せが好ましい。
【0047】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、塩基性化合物の含有量は、研磨用組成物に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.07質量%以上であることがさらに好ましい。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持できる。また、塩基性化合物の含有量の増加によって、安定性も向上し得る。また、研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、上記塩基性化合物の含有量の上限は、1質量%以下とすることが適当であり、表面品質等の観点から、0.5質量%以下であることが好ましい。
【0048】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、塩基性化合物の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、10質量%以下であることが適当であり、5質量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、塩基性化合物の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.9質量%以上であることがさらに好ましい。
【0049】
なお、塩基性化合物を2種以上組み合わせて用いる場合は、上記の含有量は2種以上の塩基性化合物の合計含有量を指す。
【0050】
[水]
本発明に係る研磨用組成物は、各成分を分散または溶解するために分散媒として水を含む。水は、シリコンウェーハの汚染や他の成分の作用を阻害するのを防ぐ観点から、不純物をできる限り含有しないことが好ましい。このような水としては、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0051】
任意で有機溶媒を加えてもよく、有機溶媒は単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。また、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒とを併用してもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。
【0052】
[その他の成分]
本発明に係る研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0053】
(界面活性剤)
本発明の研磨用組成物は、必要に応じてノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等の界面活性剤をさらに含んでもよい。
【0054】
本発明に使用できるノニオン性界面活性剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。ノニオン性界面活性剤の例としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびアルキルアルカノールアミド等が挙げられる。中でも、研磨用組成物の分散安定性向上の観点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがより好ましい。
【0055】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、ノニオン性界面活性剤の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましくは0.00001質量%以上、より好ましくは0.00002質量%以上、さらに好ましくは0.00003質量%以上である。かような範囲であれば、研磨用組成物の分散安定性が向上する。研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、ノニオン性界面活性剤の含有量の上限は、0.002質量%以下とすることが適当であり、高い研磨速度を維持する観点から、好ましくは0.001質量%以下である。
【0056】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、ノニオン性界面活性剤の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、0.1質量%以下であることが適当であり、0.05質量%以下であることがより好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、ノニオン性界面活性剤の含有量は、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0002質量%以上であることがより好ましく、0.0005質量%以上であることがさらに好ましい。
【0057】
なお、ノニオン性界面活性剤を2種以上組み合わせて用いる場合は、上記の含有量は2種以上のノニオン性界面活性剤の合計含有量を指す。
【0058】
(キレート剤)
研磨用組成物に含まれうるキレート剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。キレート剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(EDTPO)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0059】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、キレート剤の含有量の下限は、研磨用組成物に対して、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましく、0.002質量%以上であることがさらに好ましい。キレート剤の含有量の上限は、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましく、0.15質量%以下であることが特に好ましい。
【0060】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、キレート剤の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、5質量%以下であることが適当であり、3質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることが特に好ましい。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、キレート剤の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。
【0061】
なお、キレート剤を2種以上組み合わせて用いる場合は、上記の含有量は2種以上のキレート剤の合計含有量を指す。
【0062】
研磨用組成物に含まれうる防腐剤および防カビ剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。防腐剤および防カビ剤としては、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。
【0063】
[研磨用組成物の特性]
本発明に係る研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で上記のシリコンウェーハに供給され、そのシリコンウェーハの粗研磨に用いられる。本発明に係る研磨用組成物は、例えば、希釈して研磨液として使用されるものであってもよく、そのまま研磨液として使用されるものであってもよい。ここで希釈とは、典型的には、水による希釈である。本発明に係る技術における研磨用組成物の概念には、シリコンウェーハに供給されて研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨に用いられる濃縮液(ワーキングスラリーの原液)との双方が包含される。上記濃縮液の濃縮倍率は、例えば、体積基準で2倍以上140倍以下程度とすることができ、通常は4倍以上80倍以下程度(例えば5倍以上50倍以下程度)が適当である。
【0064】
研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、研磨用組成物のpHは、好ましくは8.0以上であり、より好ましくは8.5以上であり、さらにより好ましくは9.5以上であり、特に好ましくは10.0以上である。研磨用組成物のpHが高くなると研磨速度が上昇する。一方、研磨用組成物がそのまま研磨液として用いられる場合、研磨用組成物のpHは、好ましくは12.0以下であり、より好ましくは11.5以下である。研磨用組成物のpHが12.0以下であれば、砥粒の溶解を抑制し、該砥粒による機械的な研磨作用の低下を防ぐことができる。
【0065】
また、研磨用組成物が希釈して研磨に用いられる場合、すなわち該研磨用組成物が濃縮液である場合、研磨用組成物のpHは、好ましくは9.5以上であり、より好ましくは10.0以上であり、さらにより好ましくは10.5以上である。また、研磨用組成物のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.5以下であることが好ましい。
【0066】
なお、研磨用組成物のpHは、pHメーターを使用して測定することができる。標準緩衝液を用いてpHメーターを3点校正した後に、ガラス電極を研磨用組成物に入れる。そして、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより研磨用組成物のpHを把握することができる。pHメーターは、例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23)を使用することができる。また、標準緩衝液は、例えば、フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01である。ここでpHは25℃の値である。
【0067】
本発明に係る研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。多液型は、研磨用組成物の一部または全部を任意の混合比率で混合した液の組み合わせである。また、研磨用組成物の供給経路を複数有する研磨装置を用いた場合、研磨装置上で研磨用組成物が混合されるように、予め調整された2つ以上の研磨用組成物を用いてもよい。
【0068】
[シリコンウェーハ外周部の平坦性]
本明細書においては、シリコンウェーハ外周部の平坦性の1つの指標として、ESFQRを用いる。ESFQR(Edge flatness metric, Sector based, Front surface referenced, least squares fit reference plane, Range of the data within sector)とは、ウェーハ全周の外周部域に形成した扇型の領域(セクター)内のSFQRを測定したものであり、ESFQRmaxとは、ウェーハ上の全セクターのESFQRの中の最大値を示し、ESFQRmeanは、全セクターのESFQRの平均値を示すものである。本明細書において、ESFQRとは、ESFQRmeanの値をいう。本明細書で規定する、ESFQRは、黒田精工株式会社製の超精密表面形状測定装置「ナノメトロ(登録商標)300TT」を用い、エッジ除外領域(Edge Exclusion、ウェーハ上で、デバイスが形成されない外周部分の幅)が1mmで、ウェーハ全周を5°間隔で72分割し、サイトを構成する径方向の一辺の長さが35mmとしたサイト内のSFQRを測定した値である。SFQR(Site Front Least Squares Range)とは、設定されたサイト内でデータを最小二乗法にて算出したサイト内平面を基準平面とし、この平面からの+側(ウェーハの表面を上に向け水平に置いた場合の上側)、-側(同下側)の最大偏差のことである。
【0069】
本実施形態において、シリコンウェーハ研磨後のESFQRの平均値とシリコンウェーハ研磨前のESFQRの平均値との差は、負の値であってかつ絶対値が大きいほど好ましい。このような値であれば、シリコンウェーハ外周部の平坦性がより良好である。
【0070】
シリコンウェーハ外周部の平坦性の別の指標として、GBIR(Global Backside Ideal Range)を用いることもできる。GBIRは、ウェーハの裏面を平坦なチャック面に全面吸着させ、該裏面を基準面として、ウェーハの全面について上記基準面からの高さを測定し、最高高さから最低高さまでの距離を表したものである。
【0071】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物は、例えば、各成分を水中で攪拌混合することにより得ることができる。ただしこの方法に制限されない。また、各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。
また、混合時間も特に制限されない。
【0072】
[研磨方法]
本発明に係る研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、シリコンウェーハの研磨工程に使用することができる。よって、本発明は、上記の研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨する研磨方法をも提供する。
【0073】
まず、本発明に係る研磨用組成物を用意する。次いで、その研磨用組成物をシリコンウェーハに供給し、常法により研磨を行う。例えば、一般的な研磨装置にシリコンウェーハをセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該シリコンウェーハの表面(研磨対象面)に研磨用組成物を供給する。典型的には、上記研磨用組成物を連続的に供給しつつ、シリコンウェーハの表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経てシリコンウェーハの研磨が完了する。
【0074】
上記工程で使用される研磨パッドは特に限定されない。例えば、ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。また、上記研磨装置としては、シリコンウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨装置を用いてもよく、シリコンウェーハの片面のみを研磨する片面研磨装置を用いてもよい。
【0075】
研磨条件も特に制限されないが、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm以上500rpm以下が好ましく、シリコンウェーハにかける圧力(研磨圧力)は、3kPa以上70kPa以下、例えば3.45kPa以上69kPa以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0076】
上記研磨用組成物は、いわゆる「かけ流し」で使用されてもよいし、循環して繰り返し使用されてもよい。ここでかけ流しとは、いったん研磨に使用したら使い捨てにする態様をいう。研磨用組成物を循環使用する方法として以下の例が挙げられる。研磨装置から排出される使用済みの研磨用組成物をタンク内に回収し、回収した研磨用組成物を再度研磨装置に供給する方法である。研磨用組成物を循環使用する場合には、環境負荷を低減できる。かけ流しで研磨用組成物を使用する場合に比べて、廃液として処理される使用済みの研磨用組成物の量が減るためである。また、研磨用組成物の使用量が減ることによりコストを抑えることができる。
【0077】
[用途]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、シリコンウェーハの外周部の形状を整える性能に優れる。また、本発明の研磨用組成物は、高い研磨速度を維持することができる。かかる特長を活かして、ここに開示される研磨用組成物は、シリコンウェーハを研磨する研磨用組成物として好適である。シリコンウェーハ外周部の平坦性向上は、ポリシング工程の初期にしておくことが望ましい。このため、ここに開示される研磨用組成物は、予備研磨工程、すなわちポリシング工程における最初の研磨工程(一次研磨工程)あるいはその次の中間研磨工程(二次研磨工程)において特に好ましく使用され得る。上記予備研磨工程は、典型的には、シリコンウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨工程として実施される。ここに開示される研磨用組成物は、このような両面研磨工程において好ましく使用され得る。
【0078】
よって、本発明は、砥粒と、塩基性化合物と、上記化学式1で表されるリン含有化合物と、水と、を含む研磨用組成物を用いて、シリコンウェーハの外周部の平坦性を向上させる方法をも提供する。また、本発明は、上記化学式1で表されるリン含有化合物を含む、シリコンウェーハ外周部の平坦性向上剤を提供する。さらに、本発明は、前記平坦性向上剤を用いてシリコンウェーハを研磨する研磨方法を提供する。
【実施例】
【0079】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0080】
[研磨用組成物の調製]
(実施例1)
砥粒としてコロイダルシリカ(BET法により測定した平均一次粒子径55nm)33質量%、塩基性化合物として水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を1.6質量%および炭酸カリウムを1質量%、リン含有化合物として亜リン酸ジエチルを0.07質量%の濃度となるよう、上記成分およびイオン交換水を室温(25℃)で30分攪拌混合し、混合物を得た。得られた混合物に、体積比で30倍希釈となるようにイオン交換水を加えて、研磨用組成物を調製した。各例に係る研磨用組成物のpHは10.3であった。
【0081】
30倍希釈して得られた研磨用組成物の各成分の含有量は、以下の通りである:
コロイダルシリカ 1.4質量%
TMAH 0.07質量%
炭酸カリウム 0.04質量%
亜リン酸ジエチル(東京化成工業株式会社製の製品コード「D0521」) 0.003質量%。
【0082】
(実施例2)
亜リン酸ジエチルの代わりに、リン含有化合物として亜リン酸ジイソプロピル(東京化成工業株式会社製の製品コード「P0629」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0083】
(実施例3)
亜リン酸ジエチルの代わりに、リン含有化合物としてリン酸トリエチル(東京化成工業株式会社製の製品コード「P0270」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0084】
(実施例4)
亜リン酸ジエチルの代わりに、リン含有化合物としてリン酸モノイソプロピルとリン酸ジイソプロピルとの混合物(リン酸モノイソプロピル:リン酸ジイソプロピル=25~45%:55~75%、東京化成工業株式会社製の製品コード「I0227」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0085】
(比較例1)
リン含有化合物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0086】
(研磨速度および面質の評価)
〔研磨速度〕
実施例1~4、および比較例1の各研磨用組成物を用いて、下記の研磨条件でシリコンウェーハを研磨した:
<シリコンウェーハ>
ワーク種:<100>面シリコンウェーハ
ワークサイズ:300mm
<研磨条件>
研磨装置:20B-5P-4D(SpeedFam社製両面研磨装置)
研磨パッド:MH-S15A(ニッタ・ハース株式会社製)
キャリア材質:SUS アラミド嵌合
研磨圧力:14kPa
スラリー流量:4.5L/min(循環使用)
研磨取り代:12μm
対キャリア厚差:ca.0μm
サンギア:16.2rpm
インターナル:4.5rpm
上部定盤回転数:-21.0rpm
下部定盤回転数:35.0rpm
(研磨機上方からみて、時計回りを正転とする)
研磨時間:35分。
【0087】
〔研磨速度の評価〕
各実施例および比較例の研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨した後、黒田精工株式会社製の超精密表面形状測定装置「ナノメトロ(登録商標)300TT」を用いてシリコンウェーハの厚みを測定し、研磨前後の厚みの差を研磨時間で除することにより研磨速度を算出した。なお、下記表1の研磨速度は、比較例1の研磨用組成物を用いた場合の研磨速度を100%としたときの比率を示しており、数値が大きいほど研磨速度が高いことを表す。
【0088】
〔ESFQR〕
黒田精工株式会社製の超精密表面形状測定装置「ナノメトロ(登録商標)300TT」を用いて、サイト長さ35mm、エッジ除外領域1mm(合計72サイト)の条件で、ESFQRの平均値を測定した。
【0089】
研磨前のESFQRの平均値をE0とし、研磨後のESFQRの平均値をE1とし、研磨時間をtとして、次式によりESFQR変化率(ΔESFQR)を算出した。
【0090】
【0091】
下記表1のESFQR変化率(ΔESFQR)は、比較例1の研磨用組成物を用いた場合のΔESFQRを100%としたときの比率を示している。数値が大きいほど、シリコンウェーハ外周部の平坦性がより良好であることを表す。
【0092】
各評価結果を下記表1に示す。
【0093】
【0094】
上記表1から明らかなように、実施例の研磨用組成物を用いた場合、シリコンウェーハを高い研磨速度で研磨でき、かつシリコンウェーハの外周部の平坦性も良好になることが分かった。また、実施例1および実施例4の研磨用組成物を用いた場合、シリコンウェーハのGBIRも良好になることが分かった。
【0095】
比較例1の研磨用組成物を用いた場合、シリコンウェーハの外周部の平坦性が低下することが分かった。