(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】接合材
(51)【国際特許分類】
B22F 7/08 20060101AFI20231128BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231128BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20231128BHJP
【FI】
B22F7/08 C
B22F1/00 L
B22F1/14 500
(21)【出願番号】P 2020010052
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2021-02-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 弘
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-36125号公報
【文献】特開2019-203172号公報
【文献】特開2013-69475号公報
【文献】特開2017-147151号公報
【文献】特開2013-40055号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状又はシート状の接合材であって、
平均粒子径が300nm以下の銅微粒子と、平均粒子径が3μm以上11μm以下の銅粗大粒子と、前記銅微粒子及び前記銅粗大粒子を還元する還元剤と、を含み、
前記銅微粒子と前記銅粗大粒子との質量比が、7.5:2.5~5:5の範囲であ
り、
前記還元剤の含有量が、前記銅微粒子と前記銅粗大粒子との合計100質量%に対して1.52質量%以上7.5質量%未満である、接合材。
【請求項2】
前記還元剤が、ポリオール溶媒及び有機酸のいずれか一方又は両方を含む、請求項
1に記載の接合材。
【請求項3】
前記還元剤が、水酸化ホウ素ナトリウム及びヒドラジンのいずれか一方又は両方をさらに含む、請求項
2に記載の接合材。
【請求項4】
前記銅微粒子の比表面積に対する質量酸素濃度の割合が、0.1~1.2質量%・g/m
2である、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の接合材。
【請求項5】
前記銅微粒子の比表面積に対する質量炭素濃度の割合が、0.008~0.3質量%・g/m
2である、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の接合材。
【請求項6】
厚さが100~1000μmである、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の接合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合材、接合材の製造方法、及び接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品の接合材として半田の材料が広く用いられていた。しかしながら、半田の材料は、耐熱性に乏しいという問題があった。そのため、例えば150℃以上の高温が見込まれるSiC素子(以下、「SiCチップ」ともいう)を用いたパワーデバイス(以下、「SiCパワーデバイス」ともいう)では、接合材として半田の材料の使用が困難であった。
【0003】
そこで、焼結型の接合材として、銀粒子を用いた接合材が提案されている。また、銅粒子として、コストやイオンマイグレーションの観点で銅ナノ粒子が期待されている。
【0004】
銅ナノ粒子を原料とするシート状の接合材として、特許文献1には、接合材の作製時、および被接合部材の接合時共に還元性ガスを必要とせず、不活性雰囲気中で安定した接合が可能なシート状の接合材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示された接合材を用いてSiCチップと銅板とを接合する場合、被接合部材間の線膨張係数の差が大きいため、SiCチップと銅板との接合時や、SiCチップと銅板との接合体に熱衝撃(例えば、-40℃から150℃への加熱や、150℃から-40度への冷却、あるいはこれらの繰り返し等)がかかると、応力に耐えられずにSiCチップにクラックが生じるおそれがあった。また、SiCチップと銅板との接合時の圧力を落とすと接合強度が低下し、熱衝撃(ヒートサイクル)に耐えられず、被接合部材間に剥離が生じる課題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、信頼性に優れた接合が可能な接合材、接合材の製造方法、及び接合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
[1] 板状又はシート状の接合材であって、
平均粒子径が300nm以下の銅微粒子と、平均粒子径が3μm以上11μm以下の銅粗大粒子と、前記銅微粒子及び前記銅粗大粒子を還元する還元剤と、を含む、接合材。
[2] 前記銅微粒子と前記銅粗大粒子との質量比が、7.5:2.5~5:5の範囲である、前項[1]に記載の接合材。
[3] 還元剤が、ポリオール溶媒及び有機酸のいずれか一方又は両方を含む、前項[1]又は[2]に記載の接合材。
[4] 前記還元剤が、水酸化ホウ素ナトリウム及びヒドラジンのいずれか一方又は両方をさらに含む、前項[3]に記載の接合材。
[5] 前記還元剤の含有量が、前記銅微粒子と前記銅粗大粒子との合計100質量%に対して1.52質量%以上11.1質量%未満である、前項[1]乃至[4]のいずれかに記載の接合材。
[6] 前記銅微粒子の比表面積に対する質量酸素濃度の割合が、0.1~1.2質量%・g/m2である、前項[1]乃至[5]のいずれかに記載の接合材。
[7] 前記銅微粒子の比表面積に対する質量炭素濃度の割合が、0.008~0.3質量%・g/m2である、前項[1]乃至[6]のいずれかに記載の接合材。
[8] 厚さが100~1000μmである、前項[1]乃至[7]のいずれかに記載の接合材。
[9] 押し込み硬さが、900N/mm2未満である、前項[1]乃至[8]のいずれかに記載の接合材。
[10] 板状又はシート状の接合材の製造方法であって、
平均粒子径が300nm以下の銅微粒子と、平均粒子径が3μm以上11μm以下の銅粗大粒子と、前記銅微粒子及び前記銅粗大粒子を還元する還元剤と、を混合して混合物を得、前記混合物を加圧して板状又はシート状に成形する、接合材の製造方法。
[11] 第1被接合部材と、第2被接合部材と、前項[1]乃至[9]のいずれかに記載の接合材と、を備え、
前記第1被接合部材と前記第2被接合部材との間に前記接合材が位置する、接合体。
[12] 前記第1被接合部材の線膨張係数と前記第2被接合部材の線膨張係数との差が、2倍以上である、前項[11]に記載の接合体。
[13] せん断強度が、35MPa以上である、前項[11]または[12]のいずれかに記載の接合体。
[14] せん断強度測定時に得られる荷重変位曲線(縦軸:kg-横軸μm)において、変曲点から荷重がサチレートする前までの曲線を一次関数で近似した際、前記一次関数の直線の傾きが1未満である、前項[11]乃至[13]のいずれかに記載の接合体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の接合材は、接合面の密着性が良好で信頼性に優れた接合が可能となる。特に、本発明の接合材を線膨張係数の差が大きい材料からなる2以上の被接合部材の接合に用いた際、被接合部材の接合時、あるいは被接合部材の接合体への熱衝撃時のいずれも被接合部材が損傷することなく、接合面の密着性が良好で信頼性に優れた接合が可能となる。
本発明の接合材の製造方法は、上述した接合材を製造できる。
本発明の接合体は、接合面の密着性が良好であり、接合信頼性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の検証試験に用いた接合材を製造するための冶具の構成の一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の検証試験に用いた接合体の構成を説明するための斜視図である。
【
図3】第1被接合部材及び第2被接合部材の接合面のせん断強度測定時に得られる荷重変位曲線(縦軸:kg-横軸μm)における、変曲点から荷重がサチレートする前までの曲線を一次関数で近似した際の、上記一次関数の直線の傾きを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した一実施形態である接合材、及び接合体について、それらの製造方法とともに図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0012】
なお、本明細書における下記の用語の意味は以下の通りである。
銅粒子(銅微粒子、及び銅粗大粒子を含む。以下、同様。)の「平均粒子径」は、銅粒子が球形である場合、球の直径を意味し、銅粒子が楕円球形である場合、長径方向の長さを意味する。平均粒子径はSEM(走査型電子顕微鏡)により測定される値である。
銅粒子の「質量酸素濃度」とは、酸素窒素分析装置(例えば、LECO社製「TC600」)により測定される値である。
銅粒子の「質量炭素濃度」とは、炭素硫黄分析装置(例えば、堀場製作所社製「EMIA-920V」)により測定される値である。
「押し込み硬さ」は、超微小硬度計(例えば、島津製作所社製「DUH-211」により測定される値である。
「せん断強度」は、市販のボンドテスター装置(例えば、デイジ社製「4000Plus」)により測定される値である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0013】
<接合材>
先ず、本発明を適用した一実施形態である接合材の構成について説明する。
本実施形態の接合材は、銅微粒子と、銅粗大粒子と、還元剤と、を含む。
【0014】
銅微粒子は、銅を主成分とする。銅微粒子は、銅微粒子100質量%に対し銅元素を95質量%以上含むことが好ましく、97質量%以上含むことがさらに好ましい。銅元素を95質量%以上含むと、接合材の耐熱性が優れ、接合力がさらに優れる。
【0015】
銅微粒子の平均粒子径は300nm以下である。ただし、銅微粒子の平均粒子径は150nm以下がより好ましい。銅粒子の平均粒子径が300nm以下であることにより、接合材は接合力に優れる。銅微粒子の平均粒子径は5nm以上が好ましい。銅粒子の平均粒子径が5nm以上であると、銅粒子の入手が容易となる。
【0016】
銅微粒子の形状(形態)は、特に限定されない。銅微粒子の形状としては、球状(球体)、楕円状(楕円体)、板状等が挙げられ、これらの中でも、球状や楕円状が好ましく、球状がより好ましい。
【0017】
銅微粒子としては、保護剤、分散剤などを必要としないものを用いることが好ましい。このような銅微粒子としては、特許第4304221号公報に記載された製造方法によって得られる金属超微粉が例示される。ただし、銅微粒子はこの例示に限定されない。
【0018】
銅粗大粒子は、銅を主成分とする。銅粗大粒子は、銅粗大粒子100質量%に対し銅元素を95質量%以上含むことが好ましく、97質量%以上含むことがさらに好ましい。銅元素を95質量%以上含むと、接合材の焼結性が優れ、接合力がさらに優れる。
【0019】
銅粗大粒子の平均粒子径は、3μm以上11μm以下であり、5μm以上9μm以下であることが好ましい。銅粗大粒子の平均粒子径が3μm以上であると、接合材を焼結する際に銅微粒子の収縮が低減され、被接合部材のひび割れを抑制する。銅粗大粒子の平均粒子径が11μm以下であると、銅微粒子の収縮の低減効果を維持しながら、接合層となる接合材を充分に焼結でき、接合体の接合強度を損なわない。
【0020】
銅粗大粒子の形状(形態)は、特に限定されない。銅粗大粒子の形状としては、球状(球体)、楕円状(楕円体)、板状(フレーク状)等が挙げられ、これらの中でも、球状や楕円状が好ましく、楕円状がより好ましい。
【0021】
銅粗大粒子としては、例えば、三井金属鉱業株式会社製「MA-C03KP」、三井金属鉱業株式会社製「MA-C025KFD」などの市販のフレーク銅や、三井金属鉱業株式会社製「1300Y」などの市販のマイクロ銅を用いることができる。
【0022】
本実施形態の接合材において、銅微粒子は、表面に炭酸銅を含む被膜を有することが好ましい。銅微粒子の表面の被膜は、亜酸化銅をさらに含んでもよい。
ところで、従来の銅微粒子は、表面が酸化されることで、亜酸化銅からなる被膜が不可避的に形成されるため、分散性が低下するおそれがある。また、従来の銅微粒子は、表面に製造工程において付着した炭素が存在する場合があるため、接合力が低下するおそれがある。
これに対して、本実施形態の接合材では、銅微粒子が表面に炭酸銅を含む被膜を有する場合、銅微粒子の焼結温度を、従来に比べて低く抑えることが可能となる。よって、銅微粒子が上記被膜中に炭酸銅を含む場合、銅微粒子の焼結温度を低く抑えながら接合力を高めることができる。また、炭酸銅を含む銅微粒子が焼結することで銅粗大粒子にもネッキングして銅焼成層全体が強固となる。
【0023】
銅微粒子の比表面積に対する質量酸素濃度の割合は、0.1~1.2質量%・g/m2が好ましく、0.2~0.5質量%・g/m2がより好ましい。質量酸素濃度の割合が0.1質量%・g/m2以上であると、空気中の酸素との反応性が低くなり、再酸化の影響を低減しやすくなる。質量酸素濃度の割合が1.2質量%・g/m2以下であると、接合時に酸化膜を除去しやすく、接合力がさらに強くなる。
【0024】
銅微粒子の比表面積に対する質量炭素濃度の割合は、0.008~0.3質量%・g/m2が好ましく、0.008~0.1質量%・g/m2がより好ましく、0.008~0.05質量%・g/m2がさらに好ましい。質量炭素濃度の割合が0.3質量%・g/m2以下であると、ボイド、クラックが発生しにくくなり、接合力がさらに優れる。
【0025】
本実施形態の接合材では、銅微粒子と銅粗大粒子との質量比が、7.5:2.5~5:5の範囲である。すなわち、銅微粒子と銅粗大粒子との合計100質量%に対して、銅微粒子が50質量%以上75質量%以下であり、銅粗大粒子が25質量%以上50質量%以下である。
銅微粒子と銅粗大粒子との合計100質量%に対する銅微粒子の割合が50質量%以上(銅粗大粒子の割合が50質量%以下)であれば、十分な接合力を有する接合材とすることができる。
また、銅微粒子と銅粗大粒子との合計100質量%に対する銅粗大粒子の割合が25質量%以上(銅微粒子の割合が75質量%以下)であれば、接合材を焼結する際に銅微粒子の収縮の低減効果を有する接合材とすることができる。
【0026】
還元剤は、銅微粒子及び銅粗大粒子を還元する化合物である。還元剤は、銅微粒子及び銅粗大粒子が分散する分散媒として機能できる化合物が好ましい。
分散媒として機能できる化合物は、常温で液体の化合物が好ましく、150度以上の高温下で気化する液体の化合物がさらに好ましい。これにより、接合の際に還元剤が気化し、後述の接合体に還元剤が残存しにくくなる。その結果、ボイド、クラックが発生しにくくなり、接合力がさらに優れる。
【0027】
分散媒として機能できる還元剤としてポリオール溶媒及び有機酸が例示される。すなわち、還元剤は、ポリオール溶媒及び有機酸のいずれか一方又は両方を含むことが好ましい。これにより、接合材の成形性が優れ、接合力がさらに優れる。
【0028】
ポリオール溶媒の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセリン、2-メチル-2,4-ペンタンジオールが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリオール溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましい。
【0029】
有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、ステアリン酸、アスコロビン酸が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機酸としては、ギ酸、クエン酸が好ましい。
【0030】
還元剤として、水酸化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等の固体の還元剤を使用する場合、ポリオール溶媒、有機酸等の液体の分散媒として機能できる還元剤を併用することが好ましい。この場合、液体の還元剤と固体の還元剤とを予め混合して調整した還元剤を用いる。
【0031】
還元剤の含有量は、銅微粒子と銅粗大粒子との合計100質量%に対し1.52質量%以上11.1質量%未満が好ましく、5.5質量%以上7.5質量%未満がより好ましい。
還元剤の含有量が銅微粒子と銅粗大粒子との合計100質量%に対し、1.52質量%以上であると、窒素雰囲気下で接合した際の接合力がさらに優れ、還元雰囲気下で接合した際の接合力より高い接合力が得られる。
還元剤の含有量が銅微粒子と銅粗大粒子との合計100質量%に対し、11.1質量%未満であると、ボイド、クラックが発生しにくく、接合力がさらに優れ、接合材を板状又はシート状に成形しやすくなる。
【0032】
本実施形態の接合材は、本発明の効果を損なわない範囲で、銅微粒子、銅粗大粒子及び還元剤以外に、分散剤等の任意成分をさらに含んでもよい。
【0033】
本実施形態の接合材は、後述するように、銅微粒子及び銅粗大粒子を所要の還元剤と混合し、その混合粒子(混合物)を大気中で加圧成形して、板状又はシート状に形成したものである。ここで、接合材の厚さ(加圧方向の厚さ)としては、特に限定されるものではなく、板状やシート状等の接合材の態様に応じて適宜選択することができるが応力緩和の観点では100μm以上1mm未満が好ましい。さらに好ましくは、200μm以上600μm未満が望ましい。
【0034】
また、接合材の形状(厚さ方向から平面視した際の形状)は、特に限定されるものではなく、被接合部材の接合面の形状等に応じて、適宜選択することができる。上述した混合粒子を所要の圧力で加圧成形して、板状又はシート状に形成する際の加圧面の形状としてもよい。具体的には、例えば、矩形や円形等が挙げられる。
【0035】
(作用効果)
以上説明したように本実施形態の接合材によれば、銅微粒子、銅粗大粒子、及び還元剤を含むため、銅微粒子及び銅粗大粒子の高い表面活性が維持されやすくなる。よって、被接合部材の接合を不活性雰囲気下で行う場合でも優れた接合力を発揮できる。
また、本実施形態の接合材によれば、銅粒子として、銅微粒子に加えて銅粗大粒子を含むため、接合材を焼結する際に銅微粒子の収縮が低減される。よって、接合体を成形した際、被接合部材のひび割れを抑制できる。
【0036】
また、接合材にあっては、シート状であるため、ペースト状の従来品と比較して、扱いやすい。さらに、接合材を長期間保存する場合でも、銅微粒子の分散性の維持が容易である。さらに、冷凍して保存する必要がなくなり、分散剤を過大に混合する必要もなくなる。その結果、接合材及び後述の接合体の品質に優れる。
【0037】
さらに、本実施形態の接合材によれば、焼結性が高く、接合強度を高める銅微粒子(銅ナノ粒子)と、銅ナノ粒子の焼結時の収縮を防止し、接合材に発生する応力を緩和し、かつ接合層の硬度を柔らかくする効果を有する銅粗大粒子(銅マイクロ粒子)を適切な割合で配合することで、接合強度は高強度でありながらも、接合時あるいは熱衝撃時に発生する応力を緩和できるため、被接合部材の割れが発生せず、信頼性に優れた接合が可能となる。
【0038】
<接合材の製造方法>
次に、本発明を適用した一実施形態である接合材の製造方法の構成について説明する。
本発明の接合材の製造方法は、上述した実施形態の接合材(板状又はシート状の接合材)の製造方法である。
したがって、銅微粒子、銅粗大粒子、及び還元剤の詳細、ならびに好ましい態様は、「<接合材>」の項で上述した内容と同様である。また、銅微粒子、銅粗大粒子、及び還元剤のそれぞれの含有量についても、「<接合材>」の項で上述した内容と同様である。
【0039】
先ず、本実施形態の接合材の製造方法は、銅微粒子と銅粗大粒子と還元剤とを混合して混合粒子(混合物)を得る。
銅微粒子、銅粗大粒子、及び還元剤を混合する方法は、特に限定されない。混合する方法としては、例えば、自公転式ミキサー、乳鉢、ミル攪拌、スターラー攪拌等を用いる方法が挙げられる。
【0040】
還元剤が、ポリオール溶媒及び有機酸のいずれか一方又は両方を含む場合、還元剤は、水酸化ホウ素ナトリウム及びヒドラジンのいずれか一方又は両方をさらに含んでもよい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
次いで、本実施形態の接合材の製造方法は、得られた混合粒子(混合物)を加圧して板状又はシート状に成形する。
加圧の方法は、特に限定されない。加圧の方法としては、例えば、金属製の冶具、圧縮成型機等を用いる方法が挙げられる。
加圧する際の雰囲気は、特に限定されず、不活性雰囲気下でも還元性雰囲気でもよい。ただし、利便性の点から大気中等の不活性雰囲気下で加圧することが好ましい。
【0042】
加圧する際の圧力は、10MPa以上が好ましく、40MPa以上がより好ましい。加圧する際の圧力が10MPa以上であると、シート状に成形した成形体の耐久性が高くなる。また、加圧力が高いほど接合材に含まれる銅微粒子の緻密度がさらに高くなり、後述の接合体の接合面のせん断強度がさらに高くなる。
【0043】
加圧する際の成形温度は、200℃以上400℃以下が好ましく、250℃以上350℃以下がより好ましい。加圧する際の成形温度は、上記好ましい範囲であると、接合時の被接合材の熱衝撃を抑えつつ、接合強度を確保することができる。
【0044】
加圧する際の成形時間は特に限定されない。成形時間としては、例えば、1~10分とすることができる。
【0045】
(作用効果)
以上説明したように、本実施形態の接合材の製造方法によれば、銅微粒子、銅粗大粒子、及び還元剤を混合して混合粒子を得、得られた混合粒子を加圧して板状又はシート状に成形するため、銅微粒子の高い表面活性を維持したまま接合材を製造できる。したがって、本実施形態の接合材の製造方法によれば、被接合部材の接合を不活性雰囲気下で行う場合でも優れた接合力を発揮し、接合信頼性に優れる接合材を製造できる。
【0046】
また、本実施形態の接合材の製造方法によれば、接合材の原料として銅微粒子及び銅粗大粒子を還元する還元剤を用いるため、接合材を不活性雰囲気下で製造する場合でも接合力に優れ、接合信頼性に優れる接合材を製造できる。
【0047】
<接合体>
次に、上述した接合材を用いた接合体の構成について、説明する。
本実施形態の接合体は、第1部材(第1被接合部材)と、第2部材(第2被接合部材)と、上述した接合材の加圧物とを備える。接合体は、第1部材と第2部材との間に接合材の加圧物が位置し、接合材によって第1部材と第2部材とが接合された接合物である。
【0048】
第1部材及び第2部材の材質は、上述した接合材を用いて加圧接合した際、接合されるものであれば、特に限定されない。このような材質としては、銅、シリコン、アルミニウム、酸化銅、酸化ケイ素、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素等の金属;これらの合金;これらの混合物等が挙げられる。第1部材及び第2部材は、1種の材質を単独で用いたものであってもよく、2種以上の材質を併用したものであってもよい。第1の部材及び第2の部材は、同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。
【0049】
本実施形態の接合体は、上述した接合材を用いて接合されるため、第1部材の線膨張係数と第2部材の線膨張係数との差が、2倍以上であってもよく、4倍以上であってもよい。
このように、被接合部材間の線膨張係数の差が、2倍以上である場合、従来の銅粒子を主成分とする接合体を用いて加圧接合すると、被接合部材の接合時や、接合体に熱衝撃(例えば、-40℃から150℃への加熱や、150℃から-40度への冷却、あるいはこれらの繰り返し等)がかかると、応力に耐えられずに被接合部材に損傷が発生する場合があった。また、接合時の圧力を落とすと接合強度が低下し、熱衝撃の繰り返し(ヒートサイクル)に耐えられず、被接合部材間に剥離が生じる場合があった。
これに対して、本実施形態の接合材によれば、上述した接合材を用いることにより、接合強度は高強度でありながらも、接合時あるいは熱衝撃時に発生する応力を緩和できるため、被接合部材の割れが発生せず、接合信頼性に優れる。
【0050】
第1部材及び第2部材の接合面の押し込み硬さは、900N/mm2未満が好ましく、860N/mm2未満(以下)がより好ましく、820N/mm2未満(以下)がさらに好ましい。第1部材及び第2部材の接合面の押し込み硬さが900N/mm2未満であると、接合体に熱衝撃を繰り返して与えた場合であっても、応力緩和されて被接合部材の割れが生じない。
押し込み硬さは、接合材中の還元剤の含有量、接合材を加圧成形する際の圧力、接合する際の圧力、接合する際の雰囲気条件(還元性雰囲気又は不活性雰囲気)によって調節可能である。
【0051】
第1部材及び第2部材の接合面のせん断強度は、35MPa以上が好ましく、45MPa以上がより好ましく、55MPa以上がさらに好ましい。第1部材及び第2部材の接合面のせん断強度が35MPa以上であると、接合体に熱衝撃を繰り返して与えた場合であっても、被接合部材から接合材が剥離しづらく、接合信頼性に優れる。
せん断強度は、接合材中の還元剤の含有量、接合材を加圧成形する際の圧力、接合する際の圧力、接合する際の雰囲気条件(還元性雰囲気又は不活性雰囲気)によって調節可能である。
不活性雰囲気下で接合された接合体のせん断強度は、還元性雰囲気下で接合された接合材のせん断強度より若干、低下する傾向がある。しかしながら、低下量は10%未満にとどまる傾向にあり、不活性雰囲気下で接合された接合体は、還元性雰囲気下で接合された接合材と同様に、優れた接合強度を示すことができる。
【0052】
本実施形態の接合体によれば、第1部材及び第2部材の接合面のせん断強度測定時に得られる荷重変位曲線(縦軸:kg-横軸μm)において、変曲点から荷重がサチレートする前までの曲線を一次関数で近似した際、上記一次関数の直線の傾きが1未満であることが好ましい。上記直線の傾きが1以上であると、接合体に熱衝撃を与えた際にSiCなどの被接合部材に割れが生じる場合がある。これに対して、上記直線の傾きが1未満であると、接合体にかかる応力が緩和され、被接合部材に割れが生じにくい。
【0053】
接合体は、第1部材と第2部材との間に、接合材の加圧物の層(以下、「接合層」と記す。)を有してもよい。接合層の厚さは、50~800μmが好ましく、150~600μmがより好ましく、250~400μmがさらに好ましい。
接合層の厚さが50μm以上であると、接合層が応力を緩和する効果が得られやすくなり、接合体の機械的強度がよくなる。
接合層の厚さが800μm以下であると、第1部材と第2部材との間の接合力がさらに優れ、接合体の機械的強度がよくなる。
【0054】
(接合体の製造方法)
本実施形態の接合体の製造方法としては、例えば、接合材を第1部材と第2部材との間に配置した状態で加圧し、第1部材と第2部材とを接合する方法が挙げられる。
【0055】
接合体の製造方法において、接合条件は、特に限定されない。第1部材及び第2部材の材質及び組合せ等によって適宜選択可能である。
不活性雰囲気下における接合の圧力は、例えば、1~80MPaとすることができる。
不活性雰囲気下における接合の温度は、例えば、150℃以上とすることができる。
不活性雰囲気下における接合の時間は、例えば、1分以上とすることができる。
【0056】
以上説明した接合体の製造方法にあっては、上述した実施形態の接合材を加圧して、第1部材と第2部材とを接合するため、第1部材の線膨張係数と第2部材の線膨張係数との差が大きい場合でも接合信頼性優れた接合体を製造できる。
【0057】
(作用効果)
以上説明したように、本実施形態の接合体によれば、上述した実施形態の接合材の加圧物を有するため、被接合部材間の線膨張係数の差が比較的大きい場合であっても、ボイド、クラックが発生しにくくなり、接合信頼性に優れる。
【0058】
また、本実施形態の接合体によれば、第1部材と第2部材との間に上述した実施形態の接合材の加圧物を有するため、接合を不活性雰囲気下で行う場合でも優れた接合強度を示すことができる。
【0059】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されない。また、本発明は特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が加えられてよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の効果を検証試験によって詳細に説明する。なお、本発明は、以下の検証試験の内容に限定されるものではない。
【0061】
(使用した被接合部材及び略語の説明)
第1被接合部材:Auメッキが施されたSiC(5mm四方、厚さ200μm)。
第2被接合部材:無酸素銅板C1020(20mm四方、厚さ2mm)。
不活性雰囲気:100体積%の窒素ガス。
【0062】
(測定方法)
銅微粒子及び銅粗大粒子の平均粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)により測定した。
銅粒子の「質量酸素濃度」は、酸素窒素分析装置(LECO社製「TC600」)により測定した。
銅粒子の「質量炭素濃度」は、炭素硫黄分析装置(堀場製作所社製「EMIA-920V」)により測定した。
【0063】
<試験例1>
(接合材の製造)
図1に示す冶具1を用いて、シート状の接合材を製造した。
具体的には、まず、特許第4304221号公報に記載された製造方法によって得られる銅微粒子を原料として準備した。得られた銅微粒子の平均粒子径を算出した結果、110nmであった。また、得られた銅微粒子の質量酸素濃度の割合は、0.25質量%・g/m
2であり、質量炭素濃度の割合は、0.03質量%・g/m
2であった。
また、銅粗大粒子として、三井金属鉱業株式会社製「MA-C03KP」(平均粒子径:平均粒子径3.8μm、タップ密度5.26g/cm3)を準備した。
次に、銅微粒子と銅粗大粒子とを質量比7.5:2.5の割合で混合し、混合銅粉末100質量部に対して還元剤としてエチレングリコールを6質量部添加し、自公転式ミキサーで攪拌して混合粒子を得た。
次に、
図1に示すように、中心に直径8mmの穴が開いた、炭化タングステン製の長さ50mmの円筒状の冶具1の中心穴に、混合粒子2を添加した。次いで、冶具1の中心穴の両端から、直径8mmの炭化タングステン製の円柱を中心穴に対して垂直に差込み、加圧してシート状に成形した。
加圧成形は、常温大気中、圧力17.5MPaの条件下で5分間行った。これにより、直径8mm、厚さ250μmのシート状の接合材が得られた。シート状の接合材のエチレングリコールの含有量は、5.7質量%であった。
【0064】
(接合体の製造)
図2に示すように、第1被接合部材3と第2被接合部材4とを得られたシート状の接合材Sを用いて接合した。
まず、不活性雰囲気下、接合圧力40MPaでシート状の接合材Sを300℃で5分間、加圧して第1被接合部材3と第2被接合部材4とを接合し、接合体を製造した。
【0065】
(せん断強度)
接合体のせん断強度は、ボンドテスター(デイジ社製、「4000Plus」)を用いて測定した。ツール高さは100μm、ツール速度は200μm/sとした。結果を以下の表1及び表2に示す。
【0066】
(熱衝撃試験)
接合体に対して、-40℃から150℃への昇温ステップと、150℃から-40℃への降温ステップとを各30分で実施し、昇温ステップと降温ステップとを1サイクルとして500サイクルまで熱衝撃試験を実施した。100サイクルごとに超音波探傷装置(SAT)により接合層の剥離およびSiCチップ割れの有無を観察した。表1及び表2中、SATによる観察の結果は、接合層の剥離もしくはSiCチップ割れが生じたものは信頼性「×」と示し、500サイクルまでSiCチップ割れと剥離が全く生じなかったものを信頼性「○」と示した。
【0067】
(硬度試験)
第2被接合部材上に表1中に示す同一の接合材および同一の接合条件で接合材のみを接合し、得られた接合材の硬度を硬度計(島津製作所製ダイナミック超微小硬度計「DUH-211」)を用いて評価した。結果を下記の表1及び表2に示す。
【0068】
(荷重変位曲線)
接合体において、第1被接合部材及び第2被接合部材の接合面のせん断強度測定時に得られる荷重変位曲線(縦軸:kg-横軸μm)を求め、変曲点から荷重がサチレートする前までの曲線を一次関数で近似し、上記一次関数の直線の傾きを求めた(
図3を参照)。結果を以下の表1及び表2に示す。
【0069】
<試験例2~8、比較例1,2>
表1及び表2に示した条件以外は、上述した試験例1と同様にして、試験例2~8及び比較例1,2の接合材、ならびに接合体を製作した。
【0070】
【0071】
【0072】
試験例1~5の接合材によれば、銅微粒子と銅粗大粒子と還元剤とを適切な割合で構成(銅微粒子と銅粗大粒子とが質量比5:5~7.5:2.5の範囲)されており、かつ接合条件適切であるため、接合材の押し込み硬さが900N/mm2未満で、接合サンプルの荷重変位曲線における変曲点以降の一次関数近似曲線の傾きが1未満であるため、応力緩和能に優れる接合構造となり、線膨張係数の差が4倍以上の被接合部材同士を接合したにもかかわらず、接合信頼性に優れることがわかった。
【0073】
試験例6の接合体によれば、銅微粒子と銅粗大粒子と還元剤とを含んではいるが、銅微粒子と銅粗大粒子とが質量比5:5~7.5:2.5の範囲でないため、接合材の押し込み硬さが900N/mm2以上で、接合サンプルの荷重変位曲線における変曲点以降の一次関数近似曲線の傾きが1以上であるため、応力緩和能がなくSiCチップ割れおよび接合面の剥離が生じ接合信頼性は悪かった。
【0074】
試験例7の接合材によれば、銅微粒子と銅粗大粒子と還元剤とを含み、銅微粒子と銅粗大粒子とが質量比5:5~7.5:2.5の範囲であるが、接合条件が適切ではないため、接合材の押し込み硬さが900N/mm2以上で、接合サンプルの荷重変位曲線における変曲点以降の一次関数近似曲線の傾きが1以上であるため、応力緩和能がなくSiCチップ割れおよび接合面の剥離が生じ接合信頼性は悪かった。
【0075】
試験例8の接合体によれば、銅微粒子と銅粗大粒子と還元剤とを含み、銅微粒子と銅粗大粒子とが質量比5:5~7.5:2.5の範囲であるが、接合条件が適切ではないため、せん断強度が35MPa未満であったため、接合面に剥離が生じ、接合材の性能を発揮できなかった。
【0076】
比較例1の接合体によれば、接合材に銅粗大粒子が含まれないため、チップ割れや剥離が確認された。また、接合の信頼性に劣ることがわかった。
比較例2の接合体によれば、接合材に含まれる銅粗大粒子の粒径が11μmを超えているため、焼結性が悪く、せん断強度が35MPa未満であったため、接合面に剥離が生じ接合材の性能を発揮できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の接合材、接合材の製造方法、及び接合体は、電子部品を接合する用途で産業上利用可能である。具体的には、パワーデバイス等の電子デバイス内のような半田等の材料の使用が困難な高温環境での、基盤、素子等の部品の接合用途が例示される。
【符号の説明】
【0078】
1…冶具、2…混合粒子、3…被接合部材、4…被接合部材、S…接合材