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特許7392231ガラスフリット、結晶化ガラス、結晶化ガラスの製造方法、固体電解質およびリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ガラスフリット、結晶化ガラス、結晶化ガラスの製造方法、固体電解質およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/06 20060101AFI20231129BHJP
   C03C 8/08 20060101ALI20231129BHJP
   C03C 10/16 20060101ALI20231129BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C03C8/06
C03C8/08
C03C10/16
H01B1/06 A
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020553703
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2019039025
(87)【国際公開番号】W WO2020090340
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018205242
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】目崎 雄也
(72)【発明者】
【氏名】▲萱▼▲場▼ 徳克
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智弘
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-137226(JP,A)
【文献】特表2017-513788(JP,A)
【文献】ROJO J.M. et al.,Relationship between microstructure and ionic conduction properties in oxyfluoride tellurite glass-c,Journal of Non-Crystalline Solids,1992年,Vol.146,P.50-56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 8/00-10/16,
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liと、
B、Si、P、GeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも1種と、
Oと、
F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種と、
を含有するガラスからなるガラスフリットであって、
前記ガラスは、ガラス転移点以上ガラス結晶化点以下の温度の熱処理により結晶相が析出して非晶質相と結晶相からなる結晶化ガラスとなるガラスであり、
前記結晶相は、逆ペロブスカイト型構造を有し、
前記結晶化ガラスは、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、2θ=22.8±0.5°、2θ=32.1±0.5°および2θ=39.6±0.5°に回折ピークを示すことを特徴とするガラスフリット。
【請求項2】
前記粉末X線回折パターンにおいて、LiX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)の(111)面に由来する回折ピークの強度は、前記3つの回折ピークの中で最も強度の高い回折ピークの強度の5倍以下である請求項1記載のガラスフリット。
【請求項3】
前記結晶相は、LiOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)を含有する請求項1または2に記載のガラスフリット。
【請求項4】
前記ガラスは、カチオン%表記で、
Liを50%以上75%以下、ならびに
3+、Si4+、P5+、Ge4+およびTe4+からなる群より選ばれる少なくとも1種を25%以上50%以下、
含有するとともに、
アニオン%表記で、
2-を70%以上92%以下、ならびに
、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種を8%以上30%以下、
含有する請求項1~のいずれかに記載のガラスフリット。
【請求項5】
前記ガラスはさらにMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、前記結晶相は、LiOXおよび/またはLi3-2yOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、MはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、yは0.001以上0.02以下の正数である。)を含有する請求項1~のいずれかに記載のガラスフリット。
【請求項6】
前記ガラスにおける前記Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の含有量は、カチオン%表記で、0.0005%以上0.02%以下である請求項記載のガラスフリット。
【請求項7】
累積粒度分布における体積基準の50%粒径をD50としたときに、D50が0.01μm以上20μm以下である請求項1~のいずれかに記載のガラスフリット。
【請求項8】
非晶質相と結晶相とからなり、
Liと、B、Si、P、GeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも1種と、Oと、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種と、を含有し、
前記結晶相は、逆ペロブスカイト型構造を有し、
Cu-Kα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、2θ=22.8±0.5°、2θ=32.1±0.5°および2θ=39.6±0.5°に回折ピークを示すことを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項9】
前記粉末X線回折パターンにおいて、LiX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)の(111)面に由来する回折ピークの強度は、前記3つの回折ピークの中で最も強度の高い回折ピークの強度の5倍以下である請求項記載の結晶化ガラス。
【請求項10】
前記結晶相は、LiOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)を含有する請求項8または9に記載の結晶化ガラス。
【請求項11】
前記結晶化ガラスにおける前記結晶相の体積分率は10体積%以上95体積%以下である請求項10のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項12】
カチオン%表記で、
Liを50%以上75%以下、ならびに
3+、Si4+、P5+、Ge4+およびTe4+からなる群より選ばれる少なくとも1種を25%以上50%以下、
含有するとともに、
アニオン%表記で、
2-を70%以上92%以下、ならびに
、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種を8%以上30%以下、
含有する請求項11のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項13】
さらに、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、前記結晶相は、LiOXおよび/またはLi3-2yOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、MはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、yは0.001以上0.02以下の正数である。)を含有する請求項12のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項14】
前記Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の含有量は、カチオン%表記で、0.0005%以上0.02%以下である請求項13記載の結晶化ガラス。
【請求項15】
前記結晶化ガラスはフリット状であり、累積粒度分布における体積基準の50%粒径をD50としたときに、D50が0.01μm以上20μm以下である請求項14のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項16】
前記結晶化ガラスが含有する成分を含む原料組成物を800℃以上1100℃以下の温度で溶解した後、急冷して、結晶化ガラス前駆体を得る工程、および
前記結晶化ガラス前駆体を、不活性ガス雰囲気下または乾燥雰囲気下、温度200℃以上500℃以下で5分以上2時間以下、熱処理する工程
を有する請求項15のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項17】
前記不活性ガスは、窒素、アルゴンおよびヘリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、乾燥雰囲気中の酸素濃度は0.1体積%以上100体積%以下である請求項16記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項18】
前記原料組成物および/または前記結晶化ガラス前駆体は種結晶を含む請求項16または17記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項19】
前記種結晶は逆ペロブスカイト型構造を有する請求項18に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項20】
前記種結晶はLiOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)を含む請求項18または19記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項21】
請求項15のいずれかに記載の結晶化ガラスを含有することを特徴とする固体電解質。
【請求項22】
正極、負極、および前記正極と前記負極の間に配置された固体電解質層を有するリチウムイオン二次電池であり、前記固体電解質層は、請求項21に記載の固体電解質からなることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等に使用されるガラスフリットおよび結晶化ガラス、結晶化ガラスの製造方法ならびに、結晶化ガラスを含む固体電解質、および固体電解質を有するリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、自動車、パーソナルコンピュータ、携帯電話等の様々な分野で、小型で高容量の駆動電源として使用されている。
【0003】
従来から、リチウムイオン二次電池用の電解質には、炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのような有機溶媒系の液体電解質が使用されている。しかし、これら有機溶媒系の液体電解質は、可燃性で発火するおそれがある。また、有機溶媒系の液体電解質は、高電圧が印加されると分解または変質しやすいという問題がある。
【0004】
そこで、次世代のリチウムイオン二次電池用の電解質として、不燃性で、電圧印加に対して高い安定性を有する無機固体電解質が期待されている。そして、無機固体電解質として、ガラスまたは結晶化ガラス(ガラスセラミックスともいう。)からなる固体電解質が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、リチウム原子および硫黄原子を含有する硫化物系のガラスセラミックスであって、ラマンスペクトルおよびXRDスペクトルに特定のピークを有するガラスセラミックスをリチウムイオン二次電池用の固体電解質として用いる技術が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載されたガラスセラミックスでは、高いイオン伝導度が得られているものの、有毒なHSガスの発生や電極との界面において電極面への追従性の低さが問題であった。
【0006】
また、特許文献2には、HSガス等の有害ガスが発生することのない、酸化物で結晶化ガラスを作製して固体電解質に用いる技術が記載されている。しかしながら、特許文献2に記載された結晶化ガラスは、安全性は高いものの、イオン伝導度が十分ではない。
【0007】
さらに、特許文献3には酸化物ガラスによる固体イオン伝導体に関する技術が記載されており、該酸化物ガラスの原料としてLi2.9Ba0.005ClO結晶が記載されている。特許文献3により得られる酸化物ガラスでは、イオン伝導度の低い、水酸化物イオンを含有する不純物が多量に混入しており、充放電の妨げになる。また、結晶を基にして作製するガラスは流動性を示さないので、電極との界面形成に不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5825077号公報
【文献】特開2006-222047号公報
【文献】米国特許出願公開2018/0127280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記観点からなされたものであって、安全であり、イオン伝導度が高く、例えば、車載用としても十分実用的なイオン伝導度が得られ、かつ、電極面への追従性に優れる固体電解質を形成可能なガラスフリット、結晶化ガラス、および該結晶化ガラスの製造方法の提供を目的とする。さらに、該結晶化ガラスを用いた、安全であり、イオン伝導度が高い固体電解質および該固体電解質を用いた安全かつ高性能なリチウムイオン二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の構成を有するガラスフリット、結晶化ガラス、結晶化ガラスの製造方法、固体電解質およびリチウムイオン二次電池を提供する。
【0011】
[1] Liと、
B、Si、P、GeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも1種と、
Oと、
F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種と、
を含有するガラスからなるガラスフリットであって、
前記ガラスは、ガラス転移点以上ガラス結晶化点以下の温度の熱処理により結晶相が析出して非晶質相と結晶相からなる結晶化ガラスとなるガラスであり、
前記結晶化ガラスは、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、2θ=22.8±0.5°、2θ=32.1±0.5°および2θ=39.6±0.5°に回折ピークを示すことを特徴とするガラスフリット。
【0012】
[2] 前記粉末X線回折パターンにおいて、LiX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)の(111)面に由来する回折ピークの強度は、前記3つの回折ピークの中で最も強度の高い回折ピークの強度の5倍以下である[1]記載のガラスフリット。
[3] 前記結晶相は、逆ペロブスカイト型構造を有する[1]または[2]記載のガラスフリット。
[4] 前記結晶相は、LiOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)を含有する[1]~[3]のいずれかに記載のガラスフリット。
[5] 前記ガラスは、カチオン%表記で、
Liを50%以上75%以下、ならびに
3+、Si4+、P5+、Ge4+およびTe4+からなる群より選ばれる少なくとも1種を25%以上50%以下、
含有するとともに、
アニオン%表記で、
2-を70%以上92%以下、ならびに
、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種を8%以上30%以下、
含有する[1]~[4]のいずれかに記載のガラスフリット。
[6] 前記ガラスはさらにMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、前記結晶相は、LiOXおよび/またはLi3-2yOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、MはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、yは0.001以上0.02以下の正数である。)を含有する[1]~[5]のいずれかに記載のガラスフリット。
[7] 前記ガラスにおける前記Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の含有量は、カチオン%表記で、0.0005%以上0.02%以下である[6]記載のガラスフリット。
[8] 累積粒度分布における体積基準の50%粒径をD50としたときに、D50が0.01μm以上20μm以下である[1]~[7]のいずれかに記載のガラスフリット。
[9] 非晶質相と結晶相とからなり、
Liと、B、Si、P、GeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも1種と、Oと、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種と、を含有し、
Cu-Kα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、2θ=22.8±0.5°、2θ=32.1±0.5°および2θ=39.6±0.5°に回折ピークを示すことを特徴とする結晶化ガラス。
[10] 前記粉末X線回折パターンにおいて、LiX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)の(111)面に由来する回折ピークの強度は、前記3つの回折ピークの中で最も強度の高い回折ピークの強度の5倍以下である[9]記載の結晶化ガラス。
[11] 前記結晶相は、逆ペロブスカイト型構造を有する[9]または[10]記載の結晶化ガラス。
[12] 前記結晶相は、LiOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)を含有する[9]~[11]のいずれかに記載の結晶化ガラス。
[13] 前記結晶化ガラスにおける前記結晶相の体積分率は10体積%以上95体積%以下である[9]~[12]のいずれかに記載の結晶化ガラス。
[14] カチオン%表記で、
Liを50%以上75%以下、ならびに
3+、Si4+、P5+、Ge4+およびTe4+からなる群より選ばれる少なくとも1種を25%以上50%以下、
含有するとともに、
アニオン%表記で、
2-を70%以上92%以下、ならびに
、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種を8%以上30%以下、
含有する[9]~[13]のいずれかに記載の結晶化ガラス。
[15] さらに、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、前記結晶相は、LiOXおよび/またはLi3-2yOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、MはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、yは0.001以上0.02以下の正数である。)を含有する[9]~[14]のいずれかに記載の結晶化ガラス。
[16] 前記Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の含有量は、カチオン%表記で、0.0005%以上0.02%以下である[15]記載の結晶化ガラス。
[17] 前記結晶化ガラスはフリット状であり、累積粒度分布における体積基準の50%粒径をD50としたときに、D50が0.01μm以上20μm以下である[9]~[16]のいずれかに記載の結晶化ガラス。
[18] 前記結晶化ガラスが含有する成分を含む原料組成物を800℃以上1100℃以下の温度で溶解した後、急冷して、結晶化ガラス前駆体を得る工程、および
前記結晶化ガラス前駆体を、不活性ガス雰囲気下または乾燥雰囲気下、温度200℃以上500℃以下で5分以上2時間以下、熱処理する工程
を有する[9]~[17]のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
[19] 前記不活性ガスは、窒素、アルゴンおよびヘリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、乾燥雰囲気中の酸素濃度は0.1体積%以上100体積%以下である[18]記載の結晶化ガラスの製造方法。
[20] 前記原料組成物および/または前記結晶化ガラス前駆体は種結晶を含む[18]または[19]記載の結晶化ガラスの製造方法。
[21] 前記種結晶は逆ペロブスカイト型構造を有する[20]に記載の結晶化ガラスの製造方法。
[22] 前記種結晶はLiOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)を含む[20]または[21]記載の結晶化ガラスの製造方法。
[23] [9]~[17]のいずれかに記載の結晶化ガラスを含有することを特徴とする固体電解質。
[24] 正極、負極、および前記正極と前記負極の間に配置された固体電解質層を有するリチウムイオン二次電池であり、前記固体電解質層は、[23]に記載の固体電解質からなることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安全であり、イオン伝導度が高く、例えば、車載用としても十分実用的なイオン伝導度が得られ、かつ、電極面への追従性に優れる固体電解質を形成可能なガラスフリット、結晶化ガラス、および該結晶化ガラスの製造方法が提供できる。さらに、該結晶化ガラスを用いた、安全であり、イオン伝導度が高い固体電解質および該固体電解質を用いた安全かつ高性能なリチウムイオン二次電池が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のリチウムイオン二次電池を模式的に示した図である。
図2】例4で得られた結晶化ガラスの粉末X線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本明細書において、ガラスの「カチオン%」および「アニオン%」とは、以下のとおりの単位である。まず、ガラスの構成成分をカチオン成分とアニオン成分とに分ける。そして、「カチオン%」とは、ガラス中に含まれる全カチオン成分の合計含有量を100モル%としたときに、各カチオン成分の含有量を百分率(モル%)で表記した単位である。「アニオン%」とは、ガラス中に含まれる全アニオン成分の合計含有量を100モル%としたときに、各アニオン成分の含有量を百分率(モル%)で表記した単位である。本明細書において、ガラス成分の含有量を示す「%」は、特に断りのない限り、カチオン%表記またはアニオン%表記におけるモル%である。
【0016】
ガラスにおける各カチオン成分の含有量は、得られたガラスの誘導結合プラズマ(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectroscopy)分析の結果から求められる。また、各アニオン成分の含有量は石英管燃焼イオンクロマトグラフ法の結果から求められる。
【0017】
ガラス中のカチオン、アニオンの価数は状態により、価数変動する場合もありうる。本発明のカチオン、アニオンの元素記号のイオン表記での価数の記載は、典型的にとりうる価数で表現している。
【0018】
本明細書において、ガラス転移点を「Tg」、ガラス結晶化点を「Tc」と示すこともある。TgおよびTcは、検体となるガラスを示差熱分析(DTA)して得られる、発熱-吸熱量を示すDTA曲線の変曲点、ピーク等を用いて求めることができる。
【0019】
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0020】
[ガラスフリット]
本発明のガラスフリット(以下、「本ガラスフリット」ともいう。)は、以下の(1)~(3)を満足するガラス(以下、「ガラスA」ともいう。)からなる。
【0021】
(1)ガラスAは、Liと、B、Si、P、GeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも1種と、Oと、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種と、を含有する。
(2)ガラスAは、ガラス転移点以上ガラス結晶化点以下の温度の熱処理により結晶相が析出して非晶質相と結晶相からなる結晶化ガラス(以下、「結晶化ガラスB」ともいう。)となる。
(3)結晶化ガラスBは、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、2θ=22.8±0.5°、2θ=32.1±0.5°および2θ=39.6±0.5°に回折ピークを示す。
【0022】
本ガラスフリットは、ガラスAが(1)~(3)を満足することで、本ガラスフリットを用いて得られる固体電解質は、安全であり、イオン伝導度が高く、かつ、電極面への追従性に優れる。
【0023】
本ガラスフリットを用いて固体電解質を形成する際には、ガラスAからなる本ガラスフリットは、通常(2)の条件で熱処理されて、(3)の特徴を有する結晶相が析出した結晶化ガラスBとなる。したがって、本ガラスフリットを用いて得られる固体電解質は、通常、結晶化ガラスBを含有する。結晶化ガラスBは、成分が(1)の構成であることで安全であり、結晶相が(3)の特徴を有することでイオン伝導度が高く、また、結晶化ガラスBが結晶相とともに非晶質相を有することで電極面への追従性に優れる。さらに、結晶化ガラスBは非晶質相自体もイオン伝導性であり、電極との界面形成に有利である。加えて、結晶化ガラスBの結晶相は、水酸化物イオンを有する不純物相を含まないため、充放電を妨げない。さらに、結晶化ガラスBの非晶質相が流動性を示すので、電極との界面形成に有利である。
【0024】
結晶化ガラスBが有する結晶相は逆ペロブスカイト型構造を有することが好ましくLiOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)を含有することが好ましい。LiOXとしては、LiOClが好ましい。結晶相が逆ペロブスカイト型構造を有することは、粉末X線回折パターンにより確認できる。結晶相がLiOXを含有することは、エネルギー分散型X線分析により確認できる。
【0025】
(ガラスA)
ガラスAは(1)に示す成分を必須成分として含有する。ガラスAにおいて、Liと、B、Si、P、GeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも1種はカチオン成分であり、Oと、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種は、アニオン成分である。
【0026】
ガラスAは、カチオン%表記で、Liを50%以上75%以下、ならびにB3+、Si4+、P5+、Ge4+およびTe4+からなる群より選ばれる少なくとも1種を25%以上50%以下、含有するとともに、アニオン%表記で、O2-を70%以上92%以下、ならびにF、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種を8%以上30%以下、含有するのが好ましい。
【0027】
以下、ガラスAが含有する各成分について、カチオン成分およびアニオン成分の別に説明する。
<カチオン成分>
ガラスAはLiを含有することで、得られる結晶化ガラスBがイオン伝導性を有する。カチオン成分におけるLiの含有量はカチオン%表記で50%以上75%以下が好ましい。Liの含有量が50%以上であることで高い導電率が実現可能であり、75%以下とすることでガラスとしての安定性が保持されやすい。Liの含有量は、より好ましくは53%以上72%以下、さらに好ましくは55%以上70%以下である。
【0028】
ガラスAがカチオン成分として含有する、B、Si、P、GeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「カチオン成分NT」ともいう。)は、ガラスのネットワークを形成する成分である。ガラスAは、B、Si、P、GeおよびTeの1種を単独で、または2種以上を組み合わせて含有できる。これらのうちでも、B、SiおよびPが好ましく、より伝導度が高まるという点からBが特に好ましい。
【0029】
B、Si、P、GeおよびTeは、それぞれカチオンとして、典型的には、B3+、Si4+、P5+、Ge4+およびTe4+で示される。ガラスAのカチオン成分におけるB3+、Si4+、P5+、Ge4+およびTe4+からなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「カチオンNT」ともいう。)の含有量は、カチオン%表記で、25%以上50%以下が好ましい。カチオンNTの含有量が25%以上であることでガラスとしての安定性が保持されやすく、50%以下とすることで高い導電率が実現可能である。カチオンNTの含有量は、より好ましくは30%以上48%以下、さらに好ましくは33%以上46%以下である。
【0030】
ガラスAにおいて、カチオン成分は、Liとカチオン成分NTのみからなってもよく、必要に応じてその他のカチオン成分を含有していてもよい。その他のカチオン成分としては、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「カチオン成分M」ともいう。)が好ましい。カチオン成分Mは、第2族元素であり、価数は典型的には2+である。ガラスAは、Mg、Ca、SrおよびBaの1種を単独で、または2種以上を組み合わせて含有できる。これらのうちでも、CaおよびBaが好ましく、より伝導度が高いという点からBaが特に好ましい。
【0031】
ガラスAがカチオン成分Mを含有する場合、得られる結晶化ガラスBの結晶相は、LiOXおよび/またはLi3-2yOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、MはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、yは0.001以上0.02以下の正数である。)を含有する。結晶相がLi3-2yOXを含有することは、粉末X線回折パターンにより確認できる。結晶相がLi3-2yOXを含有する場合、より伝導度が高いという点で好ましい。Li3-2yOXのXとしてはClが好ましい。yは0.002以上0.01以下がより好ましい。
【0032】
ガラスAが、カチオン成分Mを含有する場合、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+からなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「カチオンM」ともいう。)の含有量は、カチオン%表記で、0.0005%以上0.02%以下であるのが好ましい。カチオンMの含有量が0.0005%以上であることで伝導度を向上させられやすく、0.02%以下とすることでカチオンMの過剰添加に伴う伝導度の低下を抑えられやすい。カチオンMの含有量は、より好ましくは0.002%以上0.01%以下、さらに好ましくは0.003%以上0.005%以下である。
【0033】
ガラスAは、その他のカチオン成分として、カチオン成分M以外に、さらに別のカチオン成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。含有可能なカチオンとして、具体的には、Mo6+、W6+、Fe2+、Fe3+、Sc3+、Y3+、La3+、Ce3+、Ce4+、Gd3+、Ti4+、Zr4+、V5+、Nb5+、Ta5+、Cr3+、Mn2+、Mn3+、Mn4+、Co2+、Co3+、Ni2+、Ni3+、Cu2+、Zn2+、Al3+、Ga3+、In3+、Sn2+、Sn4+、Sb3+、Sb5+、Bi3+等が挙げられる。その他のカチオン成分のうちカチオン成分Mを除くカチオン成分の含有量は、カチオン%表記で、1%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、0.01%以下が特に好ましい。
【0034】
<アニオン成分>
ガラスAは、アニオン成分として、Oと、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「アニオン成分X」ともいう。)を含有する。アニオン成分が、Oとアニオン成分Xを含有することで、結晶化ガラスBにおける結晶相が好ましい成分としてLiOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)を含有できる。さらに、カチオン成分がカチオン成分Mを含有する場合には、結晶化ガラスBにおける結晶相が好ましい成分として、Li3-2yOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、MはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、yは0.001以上0.02以下の正数である。)を含有できる。
【0035】
アニオン成分におけるO2-の含有量はアニオン%表記で、70%以上92%以下が好ましく、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「アニオンX」ともいう。)の含有量は、アニオン%表記で、8%以上30%以下が好ましい。O2-の含有量は72%以上90%以下がより好ましく、アニオンXの含有量は10%以上28%以下がより好ましい。O2-の含有量は75%以上88%以下がさらに好ましく、アニオンXの含有量は12%以上25%以下がさらに好ましい。
【0036】
ガラスAは、アニオン成分におけるO2-の含有量を70%以上、アニオンXの含有量を30%以下とすることで、ガラスとしての安定性を保持しやすい。アニオン成分におけるO2-の含有量を92%以下、アニオンXの含有量を8%以上とすることで、以下のO2-とアニオンXの混合アニオン効果が得られる。
【0037】
混合アニオン効果は、例えば、Liイオンの移動に関する活性化エネルギーが低下し高いイオン伝導度が達成できる効果である。高い混合アニオン効果が得られる点からアニオンXは、Cl、Brを含むことが好ましく、Clを含むことがより好ましい。アニオンXがClのみからなる場合が特に好ましい。
【0038】
ガラスAにおいて、アニオン成分は、Oとアニオン成分Xのみからなってもよく、必要に応じてその他のアニオン成分を含有していてもよい。その他のアニオン成分としては、Se2-、Te2-、SO4-等を挙げることができる。リチウムイオン二次電池の固体電解質としての使用の観点から、その他のアニオン成分の合計含有量は、アニオン%表記で5%以下とする。
【0039】
アニオン成分はS2-を実質的に含有しないことが好ましい。実質的に含有しないとは、不可避的に含まれる量を除いて含有しないことをいう。具体的には、S2-の含有量は、アニオン表記で1%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、0.01%以下が特に好ましい。
【0040】
ガラスAは、具体的には、カチオン%表記で、Liを50%以上75%以下、カチオンNTを25%以上50%以下、ならびに、カチオンMを0.0005%以上0.02%以下、含有するとともに、アニオン%表記で、O2-を70%以上92%以下、ならびに、アニオンX、好ましくはClおよび/またはBr、より好ましくはClを8%以上30%以下、含有し、S2-を実施的に含有しないガラスが好ましい。該ガラスは、使用に際して安全性が高く、結晶化ガラスBとした際にイオン伝導度に特に優れるガラスである。
【0041】
ガラスAは、通常、後述のとおり非晶質である。ガラスAは、当該ガラスのTg以上Tc以下の温度で熱処理した場合に、結晶相が析出して非晶質相と結晶相からなり、結晶相が(3)の特徴を有する結晶化ガラスBとなる特性を有する。
【0042】
ガラスAのTgは、200~400℃が好ましく、220~380℃がより好ましい。ガラスAのTcは、(Tc-Tg)が55℃以上を満たすことが望ましく、58℃以上を満たすことがより望ましい。
【0043】
ガラスAからなる本ガラスフリットは、リチウムイオン二次電池の固体電解質として用いる場合に、通常、結晶化ガラスBが得られる条件、例えば、Tg以上Tc以下の温度で熱処理(焼成)される。
【0044】
本ガラスフリットは、リチウムイオン二次電池の固体電解質として用いる場合に、後述のようにして本ガラスフリットと電極材料をそれぞれペースト化後、積層して一括焼成によりリチウムイオン二次電池の積層ユニットを作製する場合がある。その場合、ガラスAのTgおよびTcが上記範囲であれば、本ガラスフリットにおいてガラスAと電極材料が反応することによるリチウムイオン二次電池の性能低下を抑制しながら、容易に、結晶化ガラスBを含むイオン伝導度が高い固体電解質を電極面への良好な追従性をもって形成できる。
【0045】
ガラスAから得られる結晶化ガラスBの結晶相における(3)の要件は、結晶化ガラスBを固体電解質としてリチウムイオン二次電池に用いた場合に、イオン伝導度を高めるために本ガラスフリットにおいて必須の要件である。
【0046】
すなわち、結晶化ガラスBは、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折パターン(以下、単に「X線回折パターン」という。)において、2θ=22.8±0.5°、2θ=32.1±0.5°および2θ=39.6±0.5°に回折ピークを有する。以下、2θ=22.8±0.5°に存在する回折ピークを「第1の回折ピーク」、2θ=32.1±0.5°に存在する回折ピークを「第2の回折ピーク」、2θ=39.6±0.5°に存在する回折ピークを「第3の回折ピーク」ともいう。
【0047】
さらに、結晶化ガラスBのX線回折パターンにおいては、LiX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)の(111)面に由来する回折ピーク(以下、「LiX由来の回折ピーク」ともいう。)の強度は、第1の回折ピーク、第2の回折ピークおよび第3の回折ピークの中で最も強度の高い回折ピークの強度の5倍以下であるのが好ましい。すなわち、LiX由来の回折ピーク強度を「ILiX」、第1の回折ピーク、第2の回折ピークおよび第3の回折ピークの中で最も強度の高い回折ピークの強度を「Imax(1-3)」とすれば、結晶化ガラスBのX線回折パターンは、ILiX/Imax(1-3)≦5を満足することが好ましい。
【0048】
イオン伝導を阻害するLiXの量が少ないという点から、結晶化ガラスBのX線回折パターンにおけるILiX/Imax(1-3)は、3以下が好ましく、1以下がより好ましく、0.1以下が特に好ましい。なお、LiXの(111)面に由来する回折ピークの位置は、LiFでは38.7±0.5°、LiClでは30.1±0.5°、LiBrでは28.1±0.5°、LiIでは25.6±0.5°である。
【0049】
X線回折パターンにおいて、第1~第3の回折ピークは、逆ペロブスカイト型に帰属するピークである。結晶化ガラスBのX線回折パターンは、第1~第3の回折ピーク以外の回折ピークを有しないことが好ましい。本明細書において、X線回折パターンが、特定の範囲に回折ピークを有するとは、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL(リガク社製)にて、格子定数許容誤差3.0%という条件下で回折ピークとして認識される場合をいい、回折ピークを有しないとは回折ピークとして認識されない場合をいう。
【0050】
結晶化ガラスBは、リチウムイオン二次電池の固体電解質用として好適する、十分に高いイオン伝導度を有する。イオン伝導度は、7.0×10-6(S/cm)以上が好ましく、1.0×10-5(S/cm)以上がより好ましく、1.0×10-4(S/cm)以上が特に好ましい。
【0051】
本明細書において、イオン伝導度は、室温(20℃~25℃)での交流インピーダンス測定により得られた値である。すなわち、イオン伝導度は、両面に電極を形成したサンプルを用い、交流インピーダンス法により測定される。具体的には、測定条件を印加電圧50mV、測定周波数域1Hz~1MHzとし、交流インピーダンス測定により得られたNiquistプロットの円弧径から、イオン伝導度を算出する。
【0052】
本ガラスフリットは、ガラスAからなり粒子状の形態を有する。本ガラスフリットの粒径は用途に応じて適宜選択できる。本発明のガラスフリットの粒径としては、累積粒度分布における体積基準の50%粒径をD50としたときの、D50が0.01μm以上20μm以下であるのが好ましい。D50が0.01μm以上であれば電解質として取り扱い易く、20μm以下であればグリーンシート化された電解質が割れ難い。本ガラスフリットにおけるD50は、0.05μm以上10μm以下がより好ましく、0.1μm以上5μm以下がさらに好ましい。
【0053】
なお、本明細書においては、D50は、具体的には、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した粒径分布の累積粒度曲線において、その積算量が体積基準で50%を占めるときの粒径を表す。
【0054】
本ガラスフリットの製造方法は、特に限定されない。例えば、以下に示す方法でガラスAを所定の形状で製造しそれを粉砕することで製造できる。
【0055】
まず、原料組成物を準備する。原料は、通常の酸化物系のガラスの製造に用いる原料であれば特に限定されず、酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩等を用いることができる。得られるガラスAにおいて、上記組成範囲となるように原料の種類および割合を適宜調整して原料組成物とする。
【0056】
次に、原料組成物を公知の方法で加熱して溶融物を得る。加熱溶融する温度(溶融温度)は、800℃以上1100℃以下が好ましく、900℃以上1000℃以下がより好ましい。加熱溶融する時間は、10~60分が好ましく、15~40分がより好ましい。
【0057】
その後、溶融物を冷却し固化することにより、所定の形状でガラスAが得られる。冷却方法は特に限定されない。ロールアウトマシン、プレスマシン、冷却液体への滴下等により急冷する方法が好ましく、冷却方法に応じてブロック状、板状等の所定の形状のガラスAが得られる。得られるガラスAは完全に非晶質である、すなわちガラスAに占める非晶質相の体積割合が100体積%であり、結晶相の体積割合が0体積%であることが好ましい。ただし、本発明の効果を損なわない範囲であれば、結晶相を含んでいてもよい。
【0058】
本ガラスフリットは、例えば、上述のように所定の形状で得られるガラスAを粉砕して得られる。よって、ガラスフリットの粒度は、粉砕の条件により調整できる。粉砕の方法としては、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、媒体撹拌ミル(ビーズミル)、ジョークラッシャー、ロールクラッシャーなどが挙げられる。
【0059】
ガラスフリットの粒度を調整するために、ガラスAの粉砕に加えて、必要に応じて篩等を用いて、分級を行ってもよい。
【0060】
[結晶化ガラス]
本発明の結晶化ガラス(以下、「本結晶ガラス」ともいう。)は、非晶質相と結晶相とからなり、以下の(11)および(12)の要件を満たすことを特徴とする。
(11)Liと、B、Si、P、GeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも1種と、Oと、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種と、を含有する。
(12)Cu-Kα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、2θ=22.8±0.5°、2θ=32.1±0.5°および2θ=39.6±0.5°に回折ピークを示す。
【0061】
本結晶化ガラスのX線回折パターンにおける上記3つの回折ピークを、結晶化ガラスBの場合と同様に、第1の回折ピーク、第2の回折ピーク、第3の回折ピークともいう。本結晶化ガラスのX線回折パターンにおいては、結晶化ガラスBの場合と同様に、LiX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)の(111)面に由来する回折ピークの強度は、第1の回折ピーク、第2の回折ピークおよび第3の回折ピークの中で最も強度の高い回折ピークの強度の5倍以下であるのが好ましい。
【0062】
すなわち、LiX由来の回折ピーク強度を「ILiX」、第1の回折ピーク、第2の回折ピークおよび第3の回折ピークの中で最も強度の高い回折ピークの強度を「Imax(1-3)」とすれば、本結晶化ガラスのX線回折パターンは、ILiX/Imax(1-3)≦5を満足することが好ましい。イオン伝導を阻害するLiXの量が少ないという点から、本結晶化ガラスのX線回折パターンにおけるILiX/Imax(1-3)は、3以下が好ましく、1以下がより好ましく、0.1以下が特に好ましい。
【0063】
本結晶化ガラスは、非晶質相と結晶相とからなる結晶化ガラスであって、(11)および(12)の要件を満たすことで、これを用いた固体電解質は、安全であり、イオン伝導度が高く、かつ、電極面への追従性に優れる。さらに、本結晶化ガラスは非晶質相自体もイオン伝導性であり、電極との界面形成に有利である。加えて、本結晶化ガラスの結晶相は、水酸化物イオンを有する不純物相を含まないため、充放電を妨げない。さらに、本結晶化ガラスの非晶質相が流動性を示すので、電極との界面形成に有利である。
【0064】
本結晶化ガラスにおける結晶相は、逆ペロブスカイト型構造を有することが好ましくLiOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)を含有することが好ましい。LiOXとしては、LiOClが好ましい。結晶相が逆ペロブスカイト型構造を有すること、およびLiOXを含有することは、結晶化ガラスBにおける結晶相の場合と同様の方法により確認できる。
【0065】
結晶化ガラスBは本結晶化ガラスの範疇の結晶化ガラスであり、本結晶化ガラスにおける(12)の要件は、結晶化ガラスBにおける(3)の要件と同じである。本結晶化ガラスは、結晶化ガラスBと同様に、X線回折パターンが、第1~第3の回折ピーク以外の回折ピークを有しないことが好ましい。
【0066】
本結晶化ガラスにおける結晶相の体積分率は10体積%以上95体積%以下であり、非晶質相の体積分率は5体積%以上90体積%以下であるのが好ましい。本結晶化ガラスにおける結晶相の体積分率が10体積%以上であり、非晶質相の体積分率が90体積%以下であることで、固体電解質とした際に、十分に高いイオン伝導度が得られる。本結晶化ガラスにおける結晶相の体積分率が95体積%以下であり、非晶質相の体積分率が5体積%以上であることで、固体電解質とした際の電極面への追従性がより向上する。
【0067】
本結晶化ガラスにおける結晶相の体積分率は、15体積%以上90体積%以下がより好ましく、20体積%以上90体積%以下がさらに好ましい。本結晶化ガラスにおける非結晶相の体積分率は、10体積%以上85体積%以下がより好ましく、10体積%以上80体積%以下がさらに好ましい。
【0068】
結晶化ガラスにおける結晶相および非結晶相の体積分率は、走査型電子顕微鏡により観察された結晶化ガラスの微細組織から見積もることができる。結晶化ガラスにおける結晶相および非結晶相の体積分率は、本結晶ガラスの組成、すなわち結晶相および非結晶相の平均組成、例えば、後述の結晶化ガラス前駆体の組成、から計算することもできる。
【0069】
本結晶化ガラスは(11)に示す成分を必須成分として含有する。本結晶化ガラスにおいては、非晶質相と結晶相の組成は異なる。したがって、これらの必須成分は非晶質相と結晶相のいずれか一方にのみ存在していてもよく、両方に存在していてもよい。例えば、Liと、Oと、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種は非晶質相と結晶相の両方に存在し、B、Si、P、GeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも1種は、非晶質相にのみ存在する構成であってもよい。
【0070】
本結晶化ガラスが含有する成分は、非晶質相と結晶相を合わせた結晶化ガラス全体として含有する成分であり、各成分の含有量は、非晶質相と結晶相における含有量を平均化した結晶化ガラス全体における含有量を示す。本結晶化ガラスが含有する成分およびその含有量は、具体的には、ガラスAにおける含有成分およびその含有量と、好ましい範囲を含めて同様とできる。
【0071】
なお、本結晶化ガラスが、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む場合、これらの成分は、非晶質相と結晶相の両方に存在していてもよく、その場合、本結晶化ガラスの結晶相は、LiOXおよび/またはLi3-2yOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、MはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、yは0.001以上0.02以下の正数である。)を含有する。結晶相がLi3-2yOXを含有することは、結晶化ガラスBにおける結晶相の場合と同様の方法により確認できる。結晶相がLi3-2yOXを含有する場合、伝導度がより高まるという点で好ましい。Li3-2yOXのXとしてはClが好ましい。yは0.002以上0.01以下がより好ましい。
【0072】
本結晶化ガラスはいかなる形態であってもよい。本結晶化ガラスは、例えば、ブロック状、板状、薄い板状(フレーク状)、フリット状(粒子状)等であってもよく、フリット状であるのが好ましい。
【0073】
本結晶化ガラスがフリット状の場合、その粒径は用途に応じて適宜選択できる。本結晶化ガラスのフリットの粒径としては、累積粒度分布における体積基準の50%粒径をD50としたときの、D50が0.01μm以上20μm以下であるのが好ましい。D50が0.01μm以上であれば電解質として取り扱い易く、20μm以下であればグリーンシート化された電解質が割れ難い。本結晶化ガラスのフリットにおけるD50は、0.05μm以上10μm以下がより好ましく、0.1μm以上5μm以下がさらに好ましい。
【0074】
本結晶化ガラスは、リチウムイオン二次電池の固体電解質用として好適する、十分に高いイオン伝導度を有する。イオン伝導度は、7.0×10-6(S/cm)以上が好ましく、1.0×10-5(S/cm)以上がより好ましく、1.0×10-4(S/cm)以上が特に好ましい。
【0075】
[本結晶化ガラスの製造方法]
本結晶化ガラスは、例えば、以下の(I)および(II)の工程を有する本発明の製造方法で製造できる。
(I)本結晶化ガラスが含有する成分を含む原料組成物を800℃以上1100℃以下の温度で溶解した後、急冷して、結晶化ガラス前駆体を得る工程(以下、工程(I)ともいう。)
(II)(I)で得られた結晶化ガラス前駆体を、不活性ガス雰囲気下または乾燥雰囲気下、温度200℃以上500℃以下で5分以上2時間以下、熱処理する工程(以下、工程(II)ともいう。)
【0076】
工程(I)において、得られる結晶化ガラス前駆体を、例えば、ガラスAとすることができ、その場合、工程(I)は、上に説明したガラスAの製造方法と同様にできる。ただし、工程(I)では、ガラスAの製造において、原料組成物を溶解した後の冷却は、急冷とする。結晶化ガラス前駆体は、ガラスAからなる本ガラスフリットであってもよい。
【0077】
工程(I)において、結晶化ガラス前駆体は、1種からなってもよく2種以上からなってもよい。結晶化ガラス前駆体が2種以上からなる場合は、これらを組み合わせた混合物において、本結晶化ガラスが含有する成分を全て含んでいればよく、各成分の含有量については、混合物全体に対する各成分の含有量が、得られる本結晶化ガラスにおける各成分の含有量と一致すればよい。
【0078】
また、工程(I)において、原料組成物および/または結晶化ガラス前駆体は種結晶を含んでもよい。種結晶は、例えば、逆ペロブスカイト型構造を有するのが好ましく、LiOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)を含むのが好ましい。本結晶化ガラスが、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む場合、種結晶は、LiOXおよび/またはLi3-2yOX(ただし、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、MはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、yは0.001以上0.02以下の正数である。)を含むのが好ましい。LiOXとしては、LiOClが好ましい。原料組成物および/または結晶化ガラス前駆体における種結晶の含有量は、原料組成物および/または結晶化ガラス前駆体の全量に対して、0.001~60質量%が好ましく、0.01~20質量%がより好ましく、0.01~5質量%が特に好ましい。
【0079】
原料組成物および/または結晶化ガラス前駆体が種結晶を含有する場合、種結晶を含む原料組成物および/または結晶化ガラス前駆体が全体として、本結晶化ガラスが含有する成分を全て含んでいればよく、各成分の含有量については、種結晶を含む原料組成物および/または結晶化ガラス前駆体の全体に対する各成分の含有量が、得られる本結晶化ガラスにおける各成分の含有量と一致すればよい。
【0080】
工程(II)において、用いる不活性ガスとしては、窒素、アルゴンおよびヘリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。また、乾燥雰囲気とは、露点値-50℃以下の雰囲気をいう。乾燥雰囲気においては、酸素濃度が0.1体積%以上100体積%以下であるのが好ましい。乾燥雰囲気における酸素以外のガス成分としては、窒素、アルゴン、二酸化炭素等が挙げられる。
【0081】
工程(II)における熱処理の条件は、非結晶相と結晶相を所望の体積分率で得る観点から、温度200℃以上500℃以下で5分以上2時間以下であり、温度250℃以上480℃以下で10分以上1.5時間以下がより好ましく、温度300℃以上450℃以下で15分以上1時間以下がさらに好ましい。熱処理温度の下限は結晶化ガラス前駆体のTg以上が好ましく、上限は結晶化ガラス前駆体のTc以下が好ましい。
【0082】
このようにして、(I)工程で得られた結晶化ガラス前駆体の形態と同じ形態の本結晶化ガラスが製造される。(II)において本結晶化ガラスがブロック状、板状、薄い板状(フレーク状)等の場合には、必要に応じて粉砕してフリット状に加工する。粉砕の方法については、ガラスAを本ガラスフリットとする際の粉砕方法と同様の方法を用いればよい。
【0083】
本結晶化ガラスは、上記のとおり十分に高いイオン伝導度を有するとともに、安全であり、非結晶相を有することで成形性が良好であることから、リチウムイオン二次電池の固体電解質として有用である。そして、本発明の固体電解質は、金属空気電池または全固体電池の固体電解質に適用できる。
【0084】
<固体電解質>
本発明の固体電解質は、本結晶化ガラスを含有する。固体電解質は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で本結晶化ガラス以外の成分を含んでいてもよい。含有可能なその他の成分としては、リチウムイオン伝導性結晶等が挙げられる。固体電解質における本発明の本結晶化ガラスの含有割合は、40~100体積%が好ましく、より好ましくは80~100体積%、さらに好ましくは100体積%である。
【0085】
本発明の固体電解質を所定の形態、例えば、リチウムイオン二次電池における層状の固体電解質層とする場合、固体電解質が本結晶化ガラスからなる場合には、例えば、上記の本結晶化ガラスの製造方法の(I)工程で得られた結晶化ガラス前駆体を層状に成形し、その後、本結晶化ガラスの製造方法の(II)工程を行うことで固体電解質層とする。または、本結晶化ガラスがフリット状の場合、例えば、本結晶化ガラスからなるフリットを層状に成形後、焼成して固体電解質層を得る。
【0086】
固体電解質が本結晶化ガラスに加えてその他の成分を含有する場合には、(I)工程で得られた結晶化ガラス前駆体または本結晶化ガラスをその他の成分と粉体混合した後、層状に成形し共焼結する等により固体電解質層とする。
【0087】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、および該正極と負極の間に配置された上記本発明の固体電解質からなる固体電解質層を有するリチウムイオン二次電池である。本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の固体電解質からなる固体電解質層を挟んで正極および負極が配置された積層体を有する限り、その他の構成は特に制限されない。リチウムイオン二次電池は、求められる電池性能に応じて上記積層体を1単位として(以下、「積層ユニット」ともいう)、これを1個有する構成であってもよく、2個以上の積層ユニットが積層された構成であってもよい。
【0088】
本発明のリチウムイオン二次電池は、固体電解質層が本発明の固体電解質からなることにより、成形性に優れ、例えば、上記積層ユニットが複数個積層された積層構造(以下、「多層構造」ともいう)のリチウムイオン二次電池を容易に作製可能である。特に、後述の一括焼成により多層構造のリチウムイオン二次電池を作製でき、それにより、各層間の密着性に優れることで、電池性能や経時安定性に優れるリチウムイオン二次電池が得られる。
図1に、リチウムイオン二次電池の構成の一例として多層全固体型でありかつ直列型のリチウムイオン二次電池を概略的に示す。
【0089】
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、正極(カソード電極)11、負極(アノード電極)12、および正極11と負極12との間に配設された固体電解質層13を有する複数の積層ユニット14が、電子伝導体層15を介して積層され、直列に接続された構造を有する。図1中、丸でかこまれた「+」および「-」の符号は、それぞれ正極端子および負極端子を示す。
【0090】
正極11には、例えば、LiCoO、LiMn、LiFePO等が使用される。負極12には、例えば、金属リチウム、グラファイトまたはLiTi12等が使用される。ただし、これらは、一例であって、正極11および負極12に、その他の電極材料を使用してもよい。
【0091】
固体電解質層13には、本結晶化ガラスを含有する固体電解質が用いられる。
電子伝導体層15は、電子伝導性の材料、例えば、アルミニウム、銅ニッケル、銀、パラジウム、金、白金等からなる層であり、複数の積層ユニット14を直列に接続する機能を有する。
【0092】
本発明のリチウムイオン二次電池が、図1に示すような直列型の多層全固体型リチウムイオン二次電池である場合、各層の厚さや積層ユニット数は特に制限されない。リチウムイオン二次電池の設計により適宜調整される。固体電解質層を、本結晶化ガラスを含有する固体電解質で形成する場合、該層の面積にもよるが該層の厚さの下限として、例えば、0.5μmまでの均一な厚さの固体電解質層が形成可能である。また、固体電解質層の厚さの上限としては、概ね1mmまで適用可能である。
【0093】
また、図1に示すような直列型の多層全固体型のリチウムイオン二次電池10において、積層ユニット14は上記以外の層を有していてもよい。さらに、リチウムイオン二次電池10は、積層ユニット14や電子伝導体層15以外の層を有していてもよい。
【0094】
また、多層全固体型リチウムイオン二次電池を並列型とする場合、例えば、図1に示す直列型のリチウムイオン二次電池10において、電子伝導体層15を絶縁体層に変えるとともに、各積層ユニット14中の各正極11を、配線(正極配線)を介して一括して正極端子に接続するとともに、各積層ユニット14中の各負極12を、配線(負極配線)を介して一括して負極端子に接続すればよい。
【0095】
固体電解質層が、本結晶化ガラスを含有する固体電解質からなるリチウムイオン二次電池では、従来の有機溶媒系の液体電解質が使用された電池に比べて、不燃性で安全性が高いうえに、電圧印加に対して高い安定性を有する。また、固体電解質に含有される本結晶化ガラスが、安全性が高く、安定性が高いので、製造が容易である。また、本結晶化ガラスが十分に高いイオン伝導度を有するので、良好な電池性能を発揮する。
【0096】
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法としては、固体電解質層を有するリチウムイオン二次電池における公知の製造方法が特に制限なく適用できる。本発明においては、通常、固体電解質層に用いる本結晶化ガラスの(12)の特徴が損なわれない方法が適用される。
【0097】
以下に、図1に示す本発明のリチウムイオン二次電池の一例である多層全固体型リチウムイオン二次電池を例にその製造方法を説明する。
リチウムイオン二次電池10は、例えば、これを構成する正極11、負極12、固体電解質層13、電子伝導体層15の各層を別々に製造した後に、図1に示す順に積層し加熱圧着等により一体化することで製造できる。
【0098】
また、リチウムイオン二次電池10は、例えば、正極11を構成する正極活物質、固体電解質層13を構成する固体電解質、負極12を構成する負極活物質、および電子伝導体層15を構成する電子伝導性材料を、それぞれペースト化し、塗布し乾燥してグリーンシートを作製し、そのようなグリーンシートを図1に示す順に積層したものを、一括焼成することによっても製造することができる。なお、平面のパターンを形成したい時は、上記グリーンシートにパンチングや切断を施せばよく、また、ペーストを基材にスクリーン印刷やグラビア印刷する塗布手法をとってもよい。本発明に係るリチウムイオン二次電池の製造方法においては、一括焼成を適用することが好ましい。
【0099】
ここで、ペースト化に使用する正極活物質、負極活物質、電子伝導性材料の各材料は、それぞれの原料である無機塩等を仮焼きしたものを使用することができる。仮焼きにより、原料の化学反応を進め、一括焼成後にそれぞれの機能を十分に発揮させる点からは、正極活物質、負極活物質、電子伝導性材料の仮焼き温度は、いずれも700℃以上とするのが好ましい。各材料は、仮焼き後、ボールミル等により粉砕し粉末状とする。
【0100】
固体電解質層用のペーストには、本結晶化ガラスを含有する固体電解質または焼成時に本結晶化ガラスとなる、例えば、本結晶化ガラスの製造方法の(I)工程で得られる結晶化ガラス前駆体が用いられる。これらは、通常、粉末状に粉砕して、好ましくは本結晶化ガラスをフリット状にする場合の上記D50の範囲となるように粉砕して用いられる。固体電解質層用のペーストに用いる結晶化ガラス前駆体としては本ガラスフリットが好ましい。
【0101】
ペースト化の方法は、特に限定されないが、例えば、ビヒクルに上記各材料の粉末を混合してペーストを得ることができる。ここで、ビヒクルとは、液相における媒質の総称である。ビヒクルには溶媒とバインダが含まれる。こうして、正極11用のペースト、固体電解質層13用のペースト、負極12用のペースト、および電子伝導体層15用のペーストをそれぞれ調製する。
【0102】
次いで、調製された各ペーストをPET(ポリエチレンテレフタレート)等の基材の上に塗布し、必要に応じて乾燥させた後、基材を剥離し、正極11用、固体電解質層13用、負極12用、電子伝導体層15用の各グリーンシートを作製する。ペーストの塗布方法は、特に限定されず、スクリーン印刷、転写、ドクターブレード等の公知の方法を採用することができる。
【0103】
作製された正極11用、固体電解質層13用、負極12用、電子伝導体層15用の各グリーンシートを図1に示す順で積み重ね、必要に応じてアライメント、切断等を行い、積層体を作製する。なお、必要に応じて、正極の端面と負極の端面が一致しないようにアライメントを行い、積層してもよい。
【0104】
次いで、作製された積層体を一括して圧着する。圧着は加熱しながら行うが、加熱温度は、例えば、40~80℃とする。圧着した積層体を、例えば、大気雰囲気で加熱し焼成を行う。焼成温度は、固体電解質用グリーンシートが結晶化ガラス前駆体を含有する場合は、本結晶化ガラスの製造方法の(II)工程で示す熱処理条件が好ましい。この場合、該熱処理条件の下限未満では、結晶化が十分に進行しないことがあり、上限を超えると、結晶化ガラスの結晶化が必要以上に促進されて焼成が阻害されることがある。また、該熱処理条件の上限を超えると正極活物質、負極活物質の構造が変化するなどの問題が発生することがあり、好ましくない。
【0105】
固体電解質用グリーンシートが本結晶化ガラスを含有する場合の焼成温度および時間は、200~500℃、5分~2時間が好ましく、250~480℃、10分~1.5時間がより好ましい。上記焼成温度の下限未満では、焼成が十分に進行しないことがあり、上限を超えると、結晶化ガラスの結晶化が必要以上に促進され焼成が阻害される、正極活物質、負極活物質の構造が変化するなどの問題が発生することがあり、好ましくない。
【0106】
なお、上記一括焼成による多層構造のリチウムイオン二次電池10の製造においては、正極11、固体電解質層13、負極12からなる積層ユニット14について個々の単位で上記同様にして一括焼成を行い、得られた積層ユニット14を電子伝導体層15ペーストを介して積層し、電子伝導体層15ペーストの焼成条件に応じて焼成する方法を採用してもよい。
【0107】
本発明においては、上記のようにして一括焼成を行うことで、固体電解質用グリーンシートが結晶化ガラス前駆体を含有する場合には、本結晶化ガラスを含有する固体電解質層を形成しながら、多層構造の各層、すなわち、正極、負極、電子伝導体層等が十分に焼成された、多層構造のリチウムイオン二次電池が得られる。また、固体電解質用グリーンシートが本結晶化ガラスを含有する場合には、一括焼成を行うことで、多層構造の各層、すなわち、正極、固体電解質層、負極、電子伝導体層等が十分に焼成された、多層構造のリチウムイオン二次電池が得られる。一括焼成を行うことで、各層間の密着性に優れ、電池性能や経時安定性や安全性に優れるリチウムイオン二次電池とすることができる。
【実施例
【0108】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。例1は、ガラスフリットの実施例であり、例2~3は、ガラスフリットの比較例である。例4は、結晶化ガラスの実施例であり、例5~6は、結晶化ガラスの比較例である。
【0109】
[例1~3]
表1に示す仕込み組成となるように、各原料粉末を秤量し混合した。原料には、B、LiO、LiCO、LiClを組み合わせて使用した。次に、混合した原料を白金るつぼに入れ、800℃~1100℃で10~60分間加熱して原料を溶融させた後、溶融した原料をロールアウトマシンにより急冷し、フレーク(薄片)状のガラス(以下、ガラスフレークという。)を作製した。得られたガラスフレークを顕微鏡で観察したところ、いずれのガラスフレークにおいても結晶体は見られなかった。
【0110】
得られたガラスフレークをアルミナ乳鉢を用いて粉砕した後、目開き150μmの網目を有する篩にかけて、ガラスフリットを作製した。以下、例1のガラスフリットをガラスフリット1という。他の例についても同様にする。
【0111】
(ガラスフリットの物性)
(1)D50
上記で得られた各例のガラスフリットについて、粒度分布測定装置(日機装製、商品名:Microtrac MT3000EXII)を用いてD50を測定した。
【0112】
(2)TgおよびTc
上記で得られた各例のガラスフリットについて、示差熱分析計(リガク社製、商品名:TG8110)を用いてDTA測定を行い、得られたDTA曲線から、Tg、Tcをそれぞれ求めた。結果を表1に示す。
【0113】
(3)イオン伝導度の測定
得られた各例のガラスフレーク両面に、蒸着法により金電極(直径6mm)を形成した。次いで、前記金電極に50mVの測定電圧を印加し、交流インピーダンス法により、ガラスフレークのインピーダンスを測定した。測定には、FRA(周波数応答アナライザ)を備えるソーラトロンSI1287(Solartron社製)を使用し、測定周波数は、1Hz~1MHzとした。Nyquistプロットで求められる円弧径より、イオン伝導度を求めた。なお、該ガラスフレークで測定されるイオン伝導度は、ガラスフリット1~3のイオン伝導度と同じである。
【0114】
【表1】
【0115】
[例4~6]
上記で得られた各例のガラスフレーク(表2中、ガラスフリット番号で示す)を表2に示す温度、時間で熱処理して、例4~6の結晶化ガラスを作製した。熱処理温度は、各例のガラスのTg以上Tc以下であった。
【0116】
(結晶化ガラスの評価)
(1)X線回折パターン
上記で得られたフレーク状の結晶化ガラスを粉砕して、X線回折装置(リガク社製、商品名:SmartLab)を用いて、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折パターンを測定し、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL(リガク社製)により、2θ=22.8±0.5°、2θ=32.1±0.5°、および2θ=39.6±0.5°の各範囲における回折ピークの有無を確認した。さらに、上記3つの回折ピークのうちの最も高い強度に対する、LiX(ただし、各例においてXはClである。)の(111)面に由来する回折ピークの強度の比を算出した。
【0117】
結果を表2に示す。表2中、2θ=22.8±0.5°に存在する回折ピークを「第1の回折ピーク」、2θ=32.1±0.5°に存在する回折ピークを「第2の回折ピーク」、2θ=39.6±0.5°に存在する回折ピークを「第3の回折ピーク」と示した。結果は、第1~第3の回折ピークに回折ピークが存在する場合、ピーク値(°)を記載し、回折ピークが存在しない場合は「無」を記載した。第1~第3の回折ピークのうちの最も高い強度に対する、LiClの(111)面に由来する回折ピーク(2θ=30.1°)の強度の比を「ILiX/Imax(1-3)」として表2に記載した。この場合、回折ピークが存在しない場合を「-」とした。また、例1のガラスフリット(ガラスフレーク)から得られた例4の結晶化ガラスの粉末X線回折パターンを図2に示す。
【0118】
(2)イオン伝導度の測定
得られたフレーク状の結晶化ガラスについて、上記と同様の方法でイオン伝導度を測定した。結果を表2に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
表1および表2から分かるように例1のガラスフリットを熱処理して得る例4の結晶化ガラスは高いイオン伝導度を示す一方で、例2および3のガラスフリットを熱処理して得る例5および6の結晶化ガラスは低い伝導度を示す。また、X線回折パターンから、例1のガラスフリットから得られた結晶化ガラスの結晶相は逆ペロブスカイト型構造を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のガラスフリットを用いれば、不燃性で、安全性が高く、電圧印加に対して高い安定性を有するとともに、イオン伝導度にも優れる本発明の結晶化ガラスを得ることができる。この結晶化ガラスを含む固体電解質を用いることで、安全で、電圧印加に対して高い安定性を有し、電池性能の高いリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【符号の説明】
【0122】
10…リチウムイオン二次電池、11…正極(カソード電極)、12…負極(アノード電極)、13…固体電解質層、14…積層ユニット、15…電子伝導体層。
図1
図2