(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】表面性状測定方法及び表面性状測定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 5/20 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
G01B5/20 R
(21)【出願番号】P 2019208030
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】森井 秀樹
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-201366(JP,A)
【文献】特開2019-45312(JP,A)
【文献】特開2000-111334(JP,A)
【文献】特開2015-64235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00-5/30
G01B 21/00-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定力付与部を用いて接触子を介して被測定物に対して測定力を付与し、前記接触子の変位を検出する検出部を用いて前記被測定物の表面性状を測定する表面性状測定方法であって、
第一測定力を適用した前記被測定物の測定を実施する第一測定力適用測定工程と、
前記第一測定力と異なる第二測定力を適用した前記被測定物の測定を実施する第二測定力適用測定工程と、
前記第一測定力及び前記第二測定力を用いて、前記第一測定力適用測定工程において得られる第一測定データに基づき導出される第一仮指標及び前記第二測定力適用測定工程において得られる第二測定データから導出される第二仮指標から、前記被測定物に付与される測定力の影響を除去した前記被測定物の表面性状指標を導出する表面性状指標導出工程と、
を含
み、
前記表面性状指標導出工程は、前記第一測定力をF
1
、前記第二測定力をF
2
、前記第一仮指標をSt
1
、前記第二仮指標をSt
2
、前記被測定物に付与される測定力の影響を除去した前記被測定物の表面性状指標をStとして、St=(F
2
×St
1
-F
1
×St
2
)/(F
2
-F
1
)を用いて、前記被測定物の表面性状指標Stを導出する表面性状測定方法。
【請求項2】
前記第一測定力適用測定工程は、第一鉛直位置において前記被測定物の測定を実施する第一測定工程及び前記第一鉛直位置と鉛直方向の位置が異なる第二鉛直位置において前記被測定物の測定を実施する第二測定工程を含み、
前記第二測定力適用測定工程は、前記第一鉛直位置において前記被測定物の測定を実施する第三測定工程及び前記第二鉛直位置において前記被測定物の測定を実施する第四測定工程を含む請求項
1に記載の表面性状測定方法。
【請求項3】
測定力付与部を用いて接触子を介して被測定物に対して測定力を付与し、前記接触子の変位を検出する検出部を用いて前記被測定物の表面性状を測定する表面性状測定方法であって、
第一測定力を適用した前記被測定物の測定を実施する第一測定力適用測定工程と、
前記第一測定力と異なる第二測定力を適用した前記被測定物の測定を実施する第二測定力適用測定工程と、
前記第一測定力及び前記第二測定力を用いて、前記第一測定力適用測定工程において得られる第一測定データに基づき導出される第一仮指標及び前記第二測定力適用測定工程において得られる第二測定データから導出される第二仮指標から、前記被測定物に付与される測定力の影響を除去した前記被測定物の表面性状指標を導出する表面性状指標導出工程と、
を含み、
前記第一測定力適用測定工程は、第一鉛直位置において前記被測定物の測定を実施する第一測定工程及び前記第一鉛直位置と鉛直方向の位置が異なる第二鉛直位置において前記被測定物の測定を実施する第二測定工程を含み、
前記第二測定力適用測定工程は、前記第一鉛直位置において前記被測定物の測定を実施する第三測定工程及び前記第二鉛直位置において前記被測定物の測定を実施する第四測定工程を含む表面性状測定方法。
【請求項4】
前記第一測定データと前記第二測定データとの差分を表す差分データを導出する差分導出工程と、
前記差分データに対してローパスフィルタを適用したフィルタ処理を実施するフィルタ処理工程と、
を含み、
前記表面性状指標導出工程は、前記フィルタ処理工程の処理結果を用いて、被測定物に付与される測定力の影響を除去した前記被測定物の表面性状指標を導出する請求項1から3のいずれか一項に記載の表面性状測定方法。
【請求項5】
測定力付与部を用いて接触子を介して被測定物に対して測定力を付与し、前記接触子の変位を検出する検出部を用いて前記被測定物の表面性状を測定する表面性状測定方法であって、
第一測定力を適用した前記被測定物の測定を実施する第一測定力適用測定工程と、
前記第一測定力と異なる第二測定力を適用した前記被測定物の測定を実施する第二測定力適用測定工程と、
前記第一測定力及び前記第二測定力を用いて、前記第一測定力適用測定工程において得られる第一測定データに基づき導出される第一仮指標及び前記第二測定力適用測定工程において得られる第二測定データから導出される第二仮指標から、前記被測定物に付与される測定力の影響を除去した前記被測定物の表面性状指標を導出する表面性状指標導出工程と、
前記第一測定データと前記第二測定データとの差分を表す差分データを導出する差分導出工程と、
前記差分データに対してローパスフィルタを適用したフィルタ処理を実施するフィルタ処理工程と、
を含み、
前記表面性状指標導出工程は、前記フィルタ処理工程の処理結果を用いて、被測定物に付与される測定力の影響を除去した前記被測定物の表面性状指標を導出する表面性状測定方法。
【請求項6】
前記表面性状指標導出工程は、前記表面性状指標として、円筒度、同軸度、平行度及び直径の少なくともいずれかを導出する請求項1から
5のいずれか一項に記載の表面性状測定方法。
【請求項7】
接触子と、
前記接触子を介して被測定物に対して測定力を付与する測定力付与部と、
前記接触子の変位を検出する検出部と、
前記検出部を用いて得られた前記被測定物の測定データから前記被測定物の表面性状指標を導出する表面性状指標導出部と、
を備え、
前記表面性状指標導出部は、第一測定力を適用する測定から得られた第一測定データに基づき第一仮指標を導出し、前記第一測定力と異なる第二測定力を適用した測定から得られた第二測定データに基づき第二仮指標を導出し、前記第一仮指標及び前記第二仮指標から、前記被測定物に付与される測定力の影響を除去した前記被測定物の表面性状の指標を導出する
際に、
前記第一測定力をF
1
、前記第二測定力をF
2
、前記第一仮指標をSt
1
、前記第二仮指標をSt
2
、前記被測定物に付与される測定力の影響を除去した前記被測定物の表面性状指標をStとして、St=(F
2
×St
1
-F
1
×St
2
)/(F
2
-F
1
)を用いて、前記被測定物の表面性状指標Stを導出する表面性状測定装置。
【請求項8】
接触子と、
前記接触子を介して被測定物に対して測定力を付与する測定力付与部と、
前記接触子の変位を検出する検出部と、
前記検出部を用いて得られた前記被測定物の測定データから前記被測定物の表面性状指標を導出する表面性状指標導出部と、
を備え、
前記表面性状指標導出部は、第一測定力を適用する測定から得られた第一測定データに基づき第一仮指標を導出し、前記第一測定力と異なる第二測定力を適用した測定から得られた第二測定データに基づき第二仮指標を導出し、前記第一仮指標及び前記第二仮指標から、前記被測定物に付与される測定力の影響を除去した前記被測定物の表面性状の指標を導出する際に、
前記第一測定力を適用する測定において、第一鉛直位置において前記被測定物の測定を実施し、かつ、前記第一鉛直位置と鉛直方向の位置が異なる第二鉛直位置において前記被測定物の測定を実施し、前記第二測定力を適用する測定において、前記第一鉛直位置において前記被測定物の測定を実施し、かつ、前記第二鉛直位置において前記被測定物の測定を実施する表面性状測定装置。
【請求項9】
接触子と、
前記接触子を介して被測定物に対して測定力を付与する測定力付与部と、
前記接触子の変位を検出する検出部と、
前記検出部を用いて得られた前記被測定物の測定データから前記被測定物の表面性状指標を導出する表面性状指標導出部と、
を備え、
前記表面性状指標導出部は、第一測定力を適用する測定から得られた第一測定データに基づき第一仮指標を導出し、前記第一測定力と異なる第二測定力を適用した測定から得られた第二測定データに基づき第二仮指標を導出し、前記第一仮指標及び前記第二仮指標から、前記被測定物に付与される測定力の影響を除去した前記被測定物の表面性状の指標を導出する際に、
前記第一測定データと前記第二測定データとの差分を表す差分データを導出し、前記差分データに対してローパスフィルタを適用したフィルタ処理を実施し、前記フィルタ処理の処理結果を用いて、被測定物に 付与される測定力の影響を除去した前記被測定物の表面性状指標を導出する表面性状測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面性状測定方法及び表面性状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真円度測定装置を用いて被測定物の表面性状を測定する際に、接触子に対して規定の測定力を付与し、高精度の表面性状測定を実現している。一方、被測定物の剛性が小さい場合に、測定力の付与に起因して測定結果が影響を受けるという問題が存在している。
【0003】
特許文献1は、測定力を相対的に小さくすることで、測定力に起因する被測定物の変形の影響を最小限にとどめようとする形状測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、測定力を相対的に小さくすると、接触子の被測定物に対する追従性の低下が問題となる。光を用いた非接触式の測定を適用して、測定力に起因する被測定物の変形を避ける工夫も行われているが、接触式の測定に適用される変位計と比較して、非接触式の測定に適用される変位計は高コストとなる。また、非接触式の測定では、接触表面と光学表面との差異が問題となることがあり得る。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、測定力に起因する測定結果への影響を抑制し得る、表面性状測定方法及び表面性状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、次の発明態様を提供する。
【0008】
第1態様に係る表面性状測定方法は、測定力付与部を用いて接触子を介して被測定物に対して測定力を付与し、接触子の変位を検出する検出部を用いて被測定物の表面性状を測定する表面性状測定方法であって、第一測定力を適用した被測定物の測定を実施する第一測定力適用測定工程と、第一測定力と異なる第二測定力を適用した被測定物の測定を実施する第二測定力適用測定工程と、第一測定力及び第二測定力を用いて、第一測定力適用測定工程において得られる第一測定データに基づき導出される第一仮指標及び第二測定力適用測定工程において得られる第二測定データから導出される第二仮指標から、被測定物に付与される測定力の影響を除去した被測定物の表面性状指標を導出する表面性状指標導出工程と、を含む表面性状測定方法である。
【0009】
第1態様によれば、第一測定力を適用する測定を実施して第一仮指標を導出する。第二測定力を適用する測定を実施して第二仮指標を導出する。第一測定力及び第二測定力を用いて、第一仮指標及び第二仮指標から被測定物の表面性状指標を導出する。これにより、測定力の影響が除去された測定結果として、被測定物の表面性状指標を導出し得る。
【0010】
第2態様は、第1態様の表面性状測定方法において、表面性状指標導出工程は、第一測定力をF1、第二測定力をF2、第一仮指標をSt1、第二仮指標をSt2、被測定物に付与される測定力の影響を除去した被測定物の表面性状指標をStとして、St=(F2×St1-F1×St2)/(F2-F1)を用いて、被測定物の表面性状指標Stを導出する構成としてもよい。
【0011】
第2態様によれば、第一測定力F1、第二測定力F2、第一仮指標St1及び第二仮指標St2を用いて、測定力の影響を除去した被測定物の表面性状指標Stを導出し得る。すなち、被測定物の物性及び被測定物の寸法等の被測定物に関するパラメータを用いずに、測定力の影響を除去した被測定物の表面性状指標Stを導出し得る。
【0012】
第3態様は、第1態様又は第2態様の表面性状測定方法において、第一測定力適用測定工程は、第一鉛直位置において被測定物の測定を実施する第一測定工程及び第一鉛直位置と鉛直方向の位置が異なる第二鉛直位置において被測定物の測定を実施する第二測定工程を含み、第二測定力適用測定工程は、第一鉛直位置において被測定物の測定を実施する第三測定工程及び第二鉛直位置において被測定物の測定を実施する第四測定工程を含む構成としてもよい。
【0013】
第3態様によれば、第一測定力及び第二測定力のそれぞれについて、複数の鉛直位置における測定を実施する。これにより、測定力の影響による被測定物の変形を把握し得る。
【0014】
第4態様は、第1態様から第3態様のいずれか一態様の表面性状測定方法において、第一測定データと第二測定データとの差分を表す差分データを導出する差分導出工程と、差分データに対してローパスフィルタを適用したフィルタ処理を実施するフィルタ処理工程と、を含み、表面性状指標導出工程は、フィルタ処理工程の処理結果を用いて、被測定物に付与される測定力の影響を除去した被測定物の表面性状指標を導出する構成としてもよい。
【0015】
第4態様によれば、被測定物の把持状態に起因する測定力の影響を算出し得る。これにより、把持状態に起因する測定力の影響を除去した被測定物の表面性状指標を導出し得る。
【0016】
第5態様は、第1態様から第4態様のいずれか一態様の表面性状測定方法において、表面性状指標導出工程は、表面性状指標として、円筒度、同軸度、平行度及び直径の少なくともいずれかを導出する構成としてもよい。
【0017】
第5態様によれば、測定力の影響が除去された円筒度、同軸度、平行度及び直径を導出し得る。
【0018】
第6態様に係る表面性状測定装置は、接触子と、接触子を介して被測定物に対して測定力を付与する測定力付与部と、接触子の変位を検出する検出部と、検出部を用いて得られた被測定物の測定データから被測定物の表面性状指標を導出する表面性状指標導出部と、を備え、表面性状指標導出部は、第一測定力を適用する測定から得られた第一測定データに基づき第一仮指標を導出し、第一測定力と異なる第二測定力を適用した測定から得られた第二測定データに基づき第二仮指標を導出し、第一仮指標及び第二仮指標から、被測定物に付与される測定力の影響を除去した被測定物の表面性状の指標を導出する表面性状測定装置である。
【0019】
第6態様によれば、第1態様と同様の効果を得ることができる。
【0020】
第6態様において、第2態様から第5態様で特定した事項と同様の事項を適宜組み合わせることができる。その場合、表面性状測定方法において特定される処理や機能を担う構成要素は、これに対応する処理や機能を担う表面性状測定装置の構成要素として把握することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、第一測定力を適用する測定を実施して第一仮指標を導出する。第二測定力を適用する測定を実施して第二仮指標を導出する。第一測定力及び第二測定力を用いて、第一仮指標及び第二仮指標から被測定物の表面性状指標を導出する。これにより、測定力の影響が除去された測定結果として、被測定物の表面性状指標を導出し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は第一実施形態に係る真円度測定装置の全体構成図である。
【
図2】
図2は
図1に示す真円度測定装置の機能ブロック図である。
【
図3】
図3は相対的に大きい測定力を適用する場合の円筒度測定の模式図である。
【
図4】
図4は
図3に示す円筒度測定において導出されるワークの形状を示す模式図である。
【
図5】
図5は相対的に小さい測定力を適用する場合の円筒度測定の模式図である。
【
図6】
図6は
図5に示す円筒度測定において導出されるワークの形状を示す模式図である。
【
図7】
図7は第一実施形態に係る円筒度測定方法の手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は
図7に示す円筒度測定方法における測定条件の説明図である。
【
図9】
図9はワークの変形量計算に適用されるパラメータの説明図である。
【
図10】
図10は高剛性となる場合のワークの把持状態を示す模式図である。
【
図12】
図12は低剛性となる場合のワークの把持状態を示す模式図である。
【
図15】
図15は相対的に大きい測定力を適用する場合の測定波形の説明図である。
【
図16】
図16は相対的に小さい測定力を適用する場合の測定波形の説明図である。
【
図18】
図18は第二実施形態に係る円筒度測定方法に適用される把持方向に起因する測定力の影響除去方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。本明細書では、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明は適宜省略する。
【0024】
[第一実施形態]
〔真円度測定装置の全体構成〕
図1は実施形態に係る真円度測定装置の全体構成図である。同図に示す真円度測定装置10は、ワーク9の測定対象部分に接触子18Aを接触させて、ワーク9の測定を実施する。真円度測定装置10は、ワーク9の測定データを解析して、ワーク9の円筒度及び真円度等の幾何公差を導出し得る。なお、実施形態に記載のワーク9は被測定物の一例に相当する。
【0025】
真円度測定装置10は、ベース11を備える。ベース11は真円度測定装置10の各部を支持する支持台である。なお、支持台は基台と呼ばれる場合がある。真円度測定装置10は、テーブル13を備える。テーブル13は載物台と呼ばれる場合がある。
【0026】
テーブル13は、円盤状であり、ベース11の上面に取り付けられる。テーブル13は、テーブル13の中心を通り、かつ、上下方向に延びる回転軸22の位置において、ベース11を用いて回転可能に支持される。テーブル13は、水平方向の基準面に対して平行となるように、基準面に対する傾きが調整される。
【0027】
ここで、本明細書のおける上方向という用語は鉛直上方向を表す。また、下方向という用語は鉛直下方向を表す。
【0028】
テーブル13の上面は把持具14が取り付けられる。把持具14は、ワーク9をテーブル13の上面に載置する際にワーク9の基端部を把持する。把持具14は、三爪のスクロールチャックを適用し得る。
【0029】
ワーク9は、測定対象部分の形状中心がテーブル13の回転軸22と一致するように、テーブル13の上面に載置される。
図1には、円柱形状のワーク9における外周面が測定対象部分であり、円柱の中心軸がテーブル13の回転軸22と一致するようにワーク9が載置される例を示す。
【0030】
真円度測定装置10は、モータを備える。モータは、ベース11の内部に配置される。モータの回転軸は、駆動伝達機構を介してテーブル13の駆動軸と連結される。モータは、回転軸22を回転中心として、テーブル13を回転動作させる。テーブル13に付した矢印線は、テーブル13の回転方向を示す。駆動伝達機構は、ギア等を含み得る。なお、モータ、駆動伝達機構及びテーブル13の駆動軸の図示を省略する。
【0031】
真円度測定装置10は、コラム15、水平アーム17及び検出器18を備える。コラム15は、ベース11の上面であり、水平方向におけるベース11の側方側に配置される。コラム15は上下方向に延びる柱である。
【0032】
コラム15は、水平アーム17が水平方向に移動可能に取り付けられるキャリッジを昇降可能に支持する。水平アーム17の先端部は、検出器18が取り付けられる。なお、キャリッジの図示を省略する。符号zを付した矢印線はキャリッジの昇降方向を示す。また、符号Rを付した矢印線は水平アームの移動方向を表す。
【0033】
検出器18は、接触子18A、アーム18C及び変位センサを備える。接触子18Aはアーム18Cの先端に取り付けられる。アーム18Cは揺動支点において揺動可能に支持される。変位センサは、アーム18Cを介して接触子18Aの変位を検出する。検出器18は、アーム18Cの揺動支点を挟んで反対側の、アーム18Cの変位検出位置の変位を検出するテコ式検出器を適用し得る。テコ式検出器では、変位センサは変位検出位置の変位を表す測定データを出力する。
【0034】
変位センサから出力される測定データは制御装置へ送信される。なお、
図1では変位センサ及び制御装置の図示を省略する。変位センサは符号18Bを用いて
図2に図示する。制御装置は符号19を用いて
図2に図示する。
【0035】
検出器18は、測定力付与機構を備える。測定力付与機構は、設定値に応じた測定力を接触子18Aへ付与する。なお、
図1では測定力付与機構の図示を省略する。測定力付与機構は符号56を用いて
図2に図示する。実施形態に記載の測定力付与機構は測定力付与部の一例に相当する。実施形態に記載の検出器18は検出部の一例に相当する。
【0036】
〔制御装置の説明〕
図2は
図1に示す真円度測定装置の機能ブロック図である。真円度測定装置10は、制御装置19を備える。制御装置19は、表示装置19A及び入力装置19Bが接続される。表示装置19Aは液晶ディスプレイ等のディスプレイ装置を適用し得る。入力装置19Bは、キーボード及びマウスを適用し得る。タッチパネル方式のディスプレイ装置を表示装置19Aに適用して、表示装置19Aと入力装置19Bとを兼用してもよい。
【0037】
制御装置19は、測定データ取得部40、測定データ処理部42、測定データ記憶部44、処理結果記憶部46を備える。測定データ取得部40は、検出器18に具備される変位センサ18Bから送信される測定データを取得する。測定データ取得部40は、測定データ記憶部44を用いて測定データ取得部40を介して取得した測定データを記憶する。
【0038】
測定データ処理部42は、測定データ取得部40を介して取得した測定データに対して処理を実施する。測定データ処理部42は、処理結果記憶部46を用いて処理結果を記憶する。
【0039】
測定データ処理部42は、解析部43及び測定力影響除去処理部45を備える。解析部43は測定データを解析してワーク9の円筒度等の幾何公差を導出する。解析部43は、測定力影響除去処理部45と連携して、測定データを解析する際に、測定力の影響を除去したワーク9の円筒度等を導出する。
【0040】
なお、測定力の影響を除去する処理の詳細は後述する。実施形態に記載の解析部43は表面性状指標導出部の構成要素の一例に相当する。実施形態に記載の測定力影響除去処理部45は表面性状指標導出部の構成要素の一例に相当する。
【0041】
制御装置19は、表示制御部48を備える。表示制御部48は、表示装置19Aを制御する。表示制御部48は、表示装置19Aに表示させる情報に対応する電気信号を表示信号へ変換し、表示信号を表示装置19Aへ送信する。表示装置19Aは、表示制御部48から送信された表示信号が表す情報を表示する。
【0042】
制御装置19は、測定力付与制御部50及び測定力設定部52を備える。測定力付与制御部50は、ワーク9の測定に適用される測定力付与機構56の設定値に基づき、検出器18に具備される測定力付与機構56の動作を制御する。
【0043】
測定力設定部52は、測定力付与機構56の設定値を取得する。測定力設定部52は、入力装置19B等を用いて入力された測定力付与機構56の設定値を取得し得る。測定力設定部52は、取得した測定力付与機構56の設定値を測定力付与制御部50へ送信する。
【0044】
制御装置19は、駆動制御部60を備える。駆動制御部60は、駆動機構62の動作パラメータに基づき駆動機構62の動作を制御する。駆動機構62は、
図1にテーブル13を回転させるモータ、キャリッジを動作させるモータ及び水平アーム17を動作させるモータを含み得る。
【0045】
制御装置19は、入力部64を備える。入力部64は入力装置19Bから送信される入力信号を取得する。入力部64は入力信号に対応する情報を制御装置19の各部へ送信する。例えば、入力装置19Bを用いて制御パラメータの設定値が入力される場合、入力部64は取得した入力信号に対応する制御パラメータを該当する制御部へ送信する。
【0046】
制御装置19は、プログラム記憶部66を備える。プログラム記憶部66は、真円度測定装置10及び制御装置19に適用される各種のプログラムが記憶される。プログラムの一例として、円筒度測定に適用される円筒度測定プログラムが挙げられる。
【0047】
〔制御装置のハードウェア構成〕
制御装置19は、コンピュータを適用し得る。制御装置19は、以下に説明するハードウェアを用いて、規定のプログラムを実行して真円度測定装置10の機能を実現する。各制御部のハードウェアは、各種のプロセッサ及び各種のメモリを適用し得る。プロセッサの例として、CPU(Central Processing Unit)が挙げられる。CPUはプログラムを実行して各種処理部として機能する。メモリの例として、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)が挙げられる。
【0048】
[円筒度測定方法の概要]
次に、
図3から
図6を用いて、第一実施形態に係る円筒度測定方法の概略について説明する。なお、実施形態に記載の円筒度測定方法は表面性状測定方法の一例に相当する。
【0049】
図3は相対的に大きい測定力を適用する場合の円筒度測定の模式図である。
図4は
図3に示す円筒度測定において導出されるワークの測定モデルを示す模式図である。
図5は相対的に小さい測定力を適用する場合の円筒度測定の模式図である。
図6は
図5に示す円筒度測定において導出されるワークの測定モデルを示す模式図である。
【0050】
図3に示す第一測定力F
1は、
図5に示す第二測定力F
2とは異なり、F
1>F
2の関係を有する。
図3に示すワーク9は、
図5に示すワーク9と比較して倒れが大きくなる。そうすると、同一の測定位置における回転断面は測定力の大きさに応じて変化する。
【0051】
図3に示す場合におけるワーク9の基端側の測定位置の回転断面90Aは、
図5に示す場合におけるワーク9の基端側の測定位置における回転断面91Aよりも小さくなる。同様に、
図3に示すワーク9の先端側の測定位置における回転断面90Bは、
図5に示すワーク9の先端側の測定位置における回転断面91Bよりも小さくなる。
【0052】
すなわち、
図4に示すワーク9の測定モデル90は、
図6に示すワーク9の測定モデル91と相違する。そうすると、測定力の違いに起因して円筒度等の指標が相違する。そこで、第一実施形態にかかる円筒度測定方法では、測定力を変更して複数の測定位置において測定を行い、測定力に起因するワーク9の変形モデルから測定力の影響が除去された円筒度等を導出する。
【0053】
〔円筒度測定方法のフローチャート〕
図7は第一実施形態に係る円筒度測定方法の手順を示すフローチャートである。
図8は
図7に示す円筒度測定方法における測定条件の説明図である。
図7に示す第一測定力設定工程S10では、
図2に示す測定力設定部52は、円筒度測定に適用される第一測定力F
1に対応する測定力付与機構56の設定値を取得し、取得した測定力付与機構56の設定値を測定力付与制御部50へ送信する。
【0054】
第一測定力設定工程S10において、測定力付与制御部50は取得した測定力付与機構56の設定値に基づき測定力付与機構56を動作させる。第一測定力設定工程S10の後に第一測定工程S12へ進む。
【0055】
第一測定工程S12では、制御装置19は
図8に示す第一鉛直位置z
1におけるワーク9の測定を実施する。すなわち、第一測定工程S12において、駆動制御部60は駆動機構62を動作させて接触子18Aを第一鉛直位置z
1に移動させ、テーブル13を回転させる。第一鉛直位置z
1は、
図3及び
図5に示す基端側の測定位置に対応する。
【0056】
第一測定工程S12において、検出器18は規定のサンプリング周期を適用して接触子18Aの変位を検出し、測定データを制御装置19へ送信する。測定データ処理部42は測定データ取得部40を介して検出器18から送信される測定データを取得する。第一測定工程S12において、測定データ処理部42は第一鉛直位置z1におけるワーク9の回転断面90Aを表す測定データを取得する。第一測定工程S12の後に第二測定工程S14へ進む。
【0057】
第二測定工程S14では、制御装置19は第二鉛直位置z2におけるワーク9の測定を実施する。すなわち、第二測定工程S14では、駆動制御部60は駆動機構62を動作させて接触子18Aを第二鉛直位置z2に移動させ、テーブル13を回転させる。
【0058】
検出器18は、規定のサンプリング周期を適用して接触子18Aの変位を検出し、測定データを制御装置19へ送信する。測定データ処理部42は測定データ取得部40を介して検出器18から送信される測定データを取得する。
【0059】
第二測定工程S14では、測定データ処理部42は第二鉛直位置z
2におけるワーク9の回転断面90Bを表す測定データを取得する。第二鉛直位置z
2は、
図3及び
図5に示す先端側の測定位置に対応する。第二測定工程S14の後に第二測定力設定工程S16へ進む。なお、実施形態に記載の第一測定工程S12及び第二測定工程S14は、第一測定力適用測定工程の構成要素の一例に相当する。
【0060】
第二測定力設定工程S16では、測定力設定部52は、円筒度測定に適用される第二測定力F2に対応する測定力付与機構56の設定値を取得し、取得した測定力付与機構56の設定値を測定力付与制御部50へ送信する。
【0061】
第二測定力設定工程S16において、測定力付与制御部50は取得した測定力付与機構56の設定値に基づき測定力付与機構56を動作させる。第二測定力設定工程S16の後に第三測定工程S18へ進む。
【0062】
第三測定工程S18では、制御装置19は第一鉛直位置z1におけるワーク9の測定を実施する。すなわち、第三測定工程S18において、駆動制御部60は駆動機構62を動作させて接触子18Aを第一鉛直位置z1に移動させ、テーブル13を回転させる。
【0063】
第三測定工程S18において、検出器18は規定のサンプリング周期を適用して接触子18Aの変位を検出し、測定データを制御装置19へ送信する。測定データ処理部42は測定データ取得部40を介して検出器18から送信される測定データを取得する。第三測定工程S18において、測定データ処理部42は第一鉛直位置z1におけるワーク9の回転断面91Aを表すデータを取得する。第三測定工程S18の後に第四測定工程S20へ進む。
【0064】
第四測定工程S20では、制御装置19は第二鉛直位置z2におけるワーク9の測定を実施する。すなわち、第四測定工程S20では、駆動制御部60は駆動機構62を動作させて、接触子18Aを第二鉛直位置z2に移動させ、テーブル13を回転させる。
【0065】
検出器18は、規定のサンプリング周期を適用して接触子18Aの変位を検出し、測定データを制御装置19へ送信する。測定データ処理部42は測定データ取得部40を介して検出器18から送信される測定データを取得する。第四測定工程S20では、測定データ処理部42は第二鉛直位置z2におけるワーク9の回転断面91Bを表すデータを取得する。第四測定工程S20の後に円筒度算出工程S22へ進む。
【0066】
なお、実施形態に記載の第三測定工程S18及び第四測定工程S20は、第二測定力適用測定工程の構成要素の一例に相当する。
【0067】
円筒度算出工程S22では、解析部43は、第一測定力F1及び第二測定力F2のそれぞれについてワーク9の円筒度を算出する。測定力影響除去処理部45は、第一測定力F1が適用される場合のワーク9の円筒度及び第二測定力F2が適用される場合のワーク9の円筒度を用いて、測定力の影響を除去したワーク9の円筒度を算出する。円筒度算出工程S22の後に測定結果出力工程S24へ進む。なお、実施形態に記載の円筒度算出工程S22は表面性状指標導出工程の一例に相当する。
【0068】
測定結果出力工程S24では、制御装置19は表示装置19Aを用いて、円筒度算出工程S22において算出された、測定力の影響を除去したワーク9の円筒度を表示させる。測定結果出力工程S24の後に、制御装置19は円筒度測定方法を終了させる。
【0069】
〔円筒度測定方法の変形例〕
図7に示す第一測定工程S12と第二測定工程S14とは入れ替えが可能である。同様に、第三測定工程S18と第四測定工程S20とは入れ替えが可能である。また、第一測定力設定工程S10、第一測定工程S12の後に第二測定力設定工程S16及び第三測定工程S18を実施し、その後、第一測定力設定工程S10、第二測定工程S14、第二測定力設定工程S16及び第四測定工程S20をこの順に実施してもよい。
【0070】
すなわち、第一鉛直位置z1において、第一測定力F1を適用したワーク9の測定及び第二測定力F2を適用した測定を実施し、その後、第二鉛直位置z2において、第一測定力F1を適用した測定及び第二測定力F2を適用した測定を実施してもよい。更に、第一鉛直位置z1における測定と第二鉛直位置z2における測定とを入れ替えてもよい。
【0071】
本実施形態では、二か所の鉛直位置における測定データを用いたが、測定に適用される鉛直位置は、三か所以上であってもよい。
【0072】
[測定力の影響を除去する処理の詳細な説明]
〔測定力に起因するワークの変形量計算〕
図9はワークの変形量計算に適用されるパラメータの説明図である。ワーク9の変形量w(z)は、ワーク9を円柱形状とし、ワーク9の把持を完全な固定端と仮定したワーク9の変形モデルを用いて算出する。なお、zは鉛直方向の座標値を表す。
【0073】
ワーク9の固定端から鉛直方向の距離がzの位置に付与される測定力をFとし、ワーク9のヤング率をEとし、ワーク9の固定端からの鉛直方向の距離がzの位置における断面二次モーメントをIとする。ワーク9の変形量w(z)は、
w(z)=(F×z)/(3×E×I) …式1
と表される。ワーク9の直径をdとすると、中実円柱の断面二次モーメントIは、I=π/(64×d4)である。
【0074】
〔測定力の円筒度への寄与〕
測定された円筒度をCYLmeasとし、真の円筒度をCYLtrueとする。ここで、測定された円筒度CYLmeasは、測定力の影響が除去されていない円筒度を表す。真の円筒度CYLtrueは、測定力の影響が除去された円筒度を表す。
【0075】
ワーク9の固定端からの鉛直方向の距離がz1の位置において、測定力Fが付与される場合のワーク9の変形量w(z)をw(z1)とし、固定端からの垂直方向の距離がz2の位置において測定力Fが付与される場合のワーク9の変形量w(z)をw(z2)とする。測定された円筒度CYLmeasは、
CYLmeas=CYLtrue-{w(z2)-w(z1)} …式2
と表される。
【0076】
式1に示すw(z)を式2に代入すると、測定された円筒度CYLmeasは、
CYLmeas=CYLtrue-{F×(z2-z1)/(3×E×I)} …式3
と表される。
【0077】
〔測定力の影響除去〕
式3に適用されるヤング率E及び断面二次モーメントIは、ワーク9ごとに異なるため、式3を用いて真の円筒度CYLtrueを計算することは困難である。そこで、複数の測定力Fのそれぞれを適用した測定を実施し、それぞれの測定データから円筒度CYLmeasを算出し、式3におけるヤング率E及び断面二次モーメントIを消去する。
【0078】
第一測定力F
1を適用する測定から算出される、測定された円筒度をCYL
meas-1とし、第二測定力F
2を適用する測定から算出される、測定された円筒度をCYL
meas-2とする。測定位置を
図8に示す第一鉛直位置z
1及び第二鉛直位置z
2とする。測定された円筒度CYL
meas-1は、
CYL
meas-1=CYL
true-{F
1×(z
2-z
1)/(3×E×I)} …式4
と表される。また、測定された円筒度CYL
meas-2は、
CYL
meas-2=CYL
true-{F
2×(z
2-z
1)/(3×E×I)} …式5
と表される。式4及び式5を真の円筒度CYL
trueについて解くと、真の円筒度CYL
trueは、
CYL
true=(F
2×CYL
meas-2-F
1×CYL
meas-1)/(F
2-F
1) …式6
と表される。
【0079】
すなわち、
図2に示す測定データ処理部42は、式6を記憶する記憶部を備えてもよい。すなわち、解析部43は、測定された円筒度CYL
meas-1及び測定された円筒度CYL
meas-2を算出し、測定力影響除去処理部45は、式6を参照して、真の円筒度CYL
trueを算出し得る。
【0080】
なお、実施形態に記載の円筒度CYLmeas-1は第一仮指標St1の一例に相当する。実施形態に記載の円筒度CYLmeas-2は第二仮指標St2の一例に相当する。実施形態に記載の真の円筒度CYLtrueは被測定物の表面性状指標Stの一例に相当する。
【0081】
[第一実施形態の作用効果]
第一実施形態に係る真円度測定装置及び円筒度測定方法によれば、以下の作用効果を得ることが可能である。
【0082】
〔1〕
第一測定力F1を適用したワーク9の測定を実施し、第一測定力F1に対応する測定された円筒度CYLmeas-1を算出する。第二測定力F2を適用したワーク9の測定を実施し、第二測定力F2に対応する測定された円筒度CYLmeas-2を算出する。式6を用いて、真のCYLtrueを算出する。これにより、測定力に起因するワーク9の変形の影響が除去された真のCYLtrueを算出し得る。
【0083】
〔2〕
上記式6によれば、ワーク9のヤング率E等のワーク9の物性及びワーク9の寸法を用いずに、測定力の影響を排除したワーク9の円筒度CYLtrueを算出し得る。
【0084】
〔3〕
複数の鉛直位置において、測定力を変更してワーク9の測定を実施する。これにより、ワーク9の変形モデルを用いて測定力に起因するワークの変形を把握し得る。
【0085】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態に係る円筒度測定方法について説明する。第二実施形態に係る円筒度測定方法が適用される真円度測定装置は、測定力に起因するワーク9の把持方向の影響を除去した、ワーク9の円筒度を算出する。
【0086】
すなわち、第二実施形態に係る円筒度測定装置は、
図2に示す制御装置19にフィルタ設定部及びフィルタ処理部が追加される。なお、第二実施形態に係る円筒度測定装置の図示は省略する。
【0087】
〔把持方向の影響〕
図10は高剛性となる場合のワークの把持状態を示す模式図である。
図11は
図10を側面視した図である。
図12は低剛性となる場合のワークの把持状態を示す概略平面図である。
図13は
図12を側面視した図である。
【0088】
図10及び
図12に示すワーク9の輪郭に沿う矢印線はワーク9の回転方向を示す。ワーク9の回転方向は
図1等に示すテーブル13の回転方向と一致する。符号14A、符号14B及び符号14Cは、三爪のスクロールチャックが適用される把持具14の爪を示す。
【0089】
円柱形状のワーク9の把持は、一般に三爪のスクロールチャック等の三点でワークを把持する把持具14が用いられる。三点でワーク9を把持する把持具14を採用した場合、爪の位置と測定力Fの方向との相対関係に応じて、ワーク9の倒れが変化する。
【0090】
図10及び
図11に示すワーク9の把持状態では、測定力Fの方向に爪14Cが位置する。かかるワーク9の把持状態は、
図12及び
図13に示すワーク9の把持状態と比較して高剛性であり、ワーク9の倒れが小さい。
【0091】
一方、
図12及び
図13に示すワーク9の把持状態では、測定力Fの方向に対して斜めの位置に爪14B及び爪14Cが位置する。かかるワーク9の把持状態は、
図10及び
図11に示すワーク9の把持状態と比較して低剛性であり、ワーク9の倒れが大きい。
【0092】
すなわち、ワーク9を回転軸22について一回転させてワーク9の側面を測定する場合、テーブル13の回転角度に応じてワーク9の倒れが変化する。なお、テーブル13の回転角度は符号θを用いて
図14に図示する。
【0093】
図14は測定波形の説明図である。
図14に示す測定波形100は、ワーク9の任意の鉛直位置における回転断面を表す。測定波形100の測定データは極座標表示が適用される。符号Rはワーク9の半径方向を表す。符号θはテーブル13の回転角度を表す。波形102はワーク9の倒れがない理想的な回転断面の輪郭形状を表す。
【0094】
測定データ104は低剛性状態に対応する測定波形100における測定データであり、
図12及び
図13に示すワーク9の倒れが大きい状態において測定された測定データである。測定データ106は高剛性状態に対応する測定波形100における測定データであり、
図10及び
図11に示すワーク9の倒れが小さい状態において測定された測定データである。
【0095】
〔把持方向の影響除去〕
次に、
図15から
図17を用いて、ワーク9の把持方向の影響除去について説明する。第一実施形態に係る円筒度測定の場合と同様に、二つの異なる測定力である第一測定力F
1及び第二測定力F
2のそれぞれを適用した測定データを用いて、ワーク9の把持方向と測定力の方向との相対角度に起因する影響を除去し得る。かかる場合は、それぞれの回転断面の測定について演算を実施する。
【0096】
図15は相対的に大きい測定力を適用する場合の測定波形の説明図である。
図16は相対的に小さい測定力を適用する場合の測定波形の説明図である。
図17は差分波形の説明図である。
【0097】
図15に示す測定波形110は、第一測定力F
1を適用したワーク9の測定から得られる。
図16に示す測定波形112は、第二測定力F
2を適用したワーク9の測定から得られる。
図17に示す差分波形114は、測定波形112と測定波形110との差分を表す。
【0098】
一般に、ワーク9の把持方向に起因する測定波形110等への影響は3UPR(Undulation Per Revolution)程度の低周波数成分として現れる。
図17に示す差分波形114は、ワーク9の一回転あたり3つの凸を有している。
【0099】
そこで、
図17に示す差分波形114に対して、15UPR程度のローパスフィルタを適用したフィルタ処理を施してワーク9の把持方向の影響を算出し、回転断面の測定データからワーク9の把持方向に起因する測定力の影響を除去する。ローパスフィルタは、ワークを把持する爪の数に応じたカットオフ値を選択し得る。例えば、三爪のスクロールチャックが適用される場合カットオフ値が3UPR以上15UPR以下のローパスフィルタを適用し得る。
【0100】
〔円筒度測定方法のフローチャート〕
図18は第二実施形態に係る円筒度測定方法に適用される把持方向に起因する測定力の影響除去方法の手順を示すフローチャートである。
図18に示すフローチャートは、
図7に示す各回転断面の測定に対して適用される。
【0101】
第一測定データ取得工程S100では、第一測定力F
1を適用したワーク9の測定データを取得する。すなわち、第一測定データ取得工程S100において、
図2に示す測定データ処理部42は
図7の第一測定工程S12において取得した、
図8に示すワーク9の回転断面90Aを表す測定データを取得する。第一測定データ取得工程S100の後に第二測定データ取得工程S102へ進む。
【0102】
第二測定データ取得工程S102では、第二測定力F2を適用したワーク9の測定データを取得する。すなわち、第二測定データ取得工程S102において、測定データ処理部42は第三測定工程S18において取得したワーク9の回転断面91Aを表す測定データを取得する。第二測定データ取得工程S102の後に差分算出工程S104へ進む。
【0103】
差分算出工程S104では、測定データ処理部42は、第一測定データ取得工程S100において取得したワーク9の回転断面90Aを表す測定データと、第二測定データ取得工程S102において取得したワーク9の回転断面91Aを表す測定データとの差分データを算出する。差分データは、
図17に示す差分波形114に対応する。差分算出工程S104の後にフィルタ処理工程S106へ進む。なお、実施形態に記載の差分算出工程S104は差分導出工程の一例に相当する。
【0104】
フィルタ処理工程S106では、差分算出工程S104において算出された差分データに対してローパスフィルタ処理を実施して、把持方向に起因する測定力の影響を算出するする。フィルタ処理工程S106の後に影響除去工程S108へ進む。
【0105】
影響除去工程S108では、フィルタ処理工程S106において算出された把持方向に起因する測定力の影響を用いて、回転断面の測定データから把持方向に起因する測定力の影響を除去する演算を実施する。
【0106】
同様に、回転断面90B及び回転断面91Bについても、
図18に示す処理を実施して、回転断面の測定データから把持方向に起因する測定力の影響を除去する。
【0107】
[第二実施形態の作用効果]
第二実施形態に係る円筒度測定方法によれば、以下の作用効果を得ることが可能である。
【0108】
第一測定力F1を適用した回転断面の測定データ及び第二測定力F2を適用した回転断面の測定データの差分データを算出し、差分データに対してローパスフィルタを適用したフィルタ処理を実施して、把持方向に起因する測定力の影響を算出する。各回転断面の測定データから把持方向に起因する測定力の影響を除去する。これにより、ワーク9の把持方向に起因する測定力の影響を除去した円筒度測定を実施し得る。
【0109】
[円筒度測定以外の測定への適用例]
第一実施形態及び第二実施形態に示す円筒度測定は、同軸度、平行度及び直径等の測定にも適用可能である。
【0110】
[接触子の変形への適用例]
第一実施形態及び第二実施形態に示す円筒度測定は、接触子の変形に起因する影響の除去にも適用可能である。
【0111】
[応用例]
本実施形態では、ワーク9の表面性状を測定する表面性状測定装置の一例として、ワーク9の円筒度等を測定する真円度測定装置を例に挙げて説明したが、これに限らず、真円度測定装置以外の表面性状測定装置であってもよい。
【0112】
以上説明した本発明の実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜構成要件を変更、追加、削除することが可能である。本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。
【符号の説明】
【0113】
9…ワーク、10…真円度測定装置、18…検出器、18A…接触子、19…制御装置、42…データ処理部、43…解析部、45…測定力影響除去処理部、52…測定力設定部、56…測定力付与機構