IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許7392398粘着剤層、粘着剤組成物、粘着剤および粘着シート
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】粘着剤層、粘着剤組成物、粘着剤および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20231129BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20231129BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/00
C09J133/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019200400
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2020076096
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2018208985
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】浅野 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】野原 一樹
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-188310(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192827(WO,A1)
【文献】特開2014-108968(JP,A)
【文献】特開2007-177003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂(A)を含有する粘着剤組成物[I]が硬化された粘着剤層であって、
上記アクリル系樹脂(A)が、ガラス転移温度の異なる重量平均分子量が1万以上のアクリル系樹脂を少なくとも2種含有するものであり、アクリル系樹脂(A)の動的粘弾性の損失正接が最大となった温度から読み取られるガラス転移温度(T)が-20℃以下、かつ、最もガラス転移温度の高いアクリル系樹脂(A1)のガラス転移温度(T1)と最もガラス転移温度の低いアクリル系樹脂(A2)のガラス転移温度(T2)の温度差が20℃以下であり、
上記アクリル系樹脂(A2)の動的粘弾性の損失正接が最大となった温度から読み取られるガラス転移温度(T2)が-35~-20℃であり、
下記粘着力(α)が、25N/25mm以上であり、下記折り曲げ耐久性(β)が10万回以上であり、下記耐湿熱ヘイズ性(γ)が1.0%以下であることを特徴とする粘着剤層。
粘着力(α):
粘着剤層が易接着処理ポリエチレンテレフタレートシート(厚み125μm)上に形成された粘着シートとした際に、粘着シートの粘着剤層側を23℃、50%RH環境下で無アルカリガラスに2kgローラーを往復させて加圧貼付し、23℃、50%RH環境下で30分間静置した後に、オートグラフを用いて、剥離速度300mm/minで測定される180度剥離強度(N/25mm)。折り曲げ耐久性(β):
粘着剤層が易接着処理ポリエチレンテレフタレートシート(厚み125μm)上に形成された粘着シートとした際に、粘着シートの粘着剤層側を23℃、50%RH環境下で透明ポリイミド(厚み50μm)にローラーを往復させて加圧貼付し、ポリエチレンテレフタレートシート側を内側にして折り曲げた際のシート間の距離が5mmとなるように40回/minの速度で、23℃、50%RH環境下にて繰り返し折り曲げ試験を実施して外観変化のない回数。耐湿熱ヘイズ性(γ):
粘着剤層が易接着処理ポリエチレンテレフタレートシート(厚み125μm)上に形成された粘着シートとした際に、無アルカリガラス(厚み1.1mm)に貼り合わせた後、オートクレーブ処理(50℃、0.5MPa、20分間)を行い、得られた試験片を用いて、60℃、90%RH雰囲気下で7日間(168時間)の耐湿熱性試験を行い、耐湿熱性試験後と耐湿熱性試験前のヘイズ値の差。
【請求項2】
アクリル系樹脂(A)を含有する粘着剤組成物[I]であって、上記アクリル系樹脂(A)が、ガラス転移温度の異なる重量平均分子量が1万以上のアクリル系樹脂を少なくとも2種含有するものであり、アクリル系樹脂(A)の動的粘弾性の損失正接が最大となった温度から読み取られるガラス転移温度(T)が-20℃以下、かつ、最もガラス転移温度の高いアクリル系樹脂(A1)のガラス転移温度(T1)と最もガラス転移温度の低いアクリル系樹脂(A2)のガラス転移温度(T2)の温度差が20℃以下であり、
上記アクリル系樹脂(A2)の動的粘弾性の損失正接が最大となった温度から読み取られるガラス転移温度(T2)が-35~-20℃であることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項3】
上記アクリル系樹脂(A1)の動的粘弾性の損失正接が最大となった温度から読み取られるガラス転移温度(T1)が-25~-10℃であることを特徴とする請求項記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
上記アクリル系樹脂(A1)と上記アクリル系樹脂(A2)の含有割合(重量比)が70/30~30/70であることを特徴とする請求項2または3記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
上記アクリル系樹脂(A2)が、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを含む水酸基含有モノマーを共重合成分として共重合されたアクリル系樹脂であることを特徴とする請求項のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
請求項のいずれか一項に記載の粘着剤組成物を用いてなることを特徴とする粘着剤。
【請求項7】
請求項のいずれか一項に記載の粘着剤組成物を用いてなる粘着剤層を有することを特徴とする粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤層、粘着剤組成物、粘着剤および粘着シートに関するものであり、詳細には、被着体への粘着力に優れたものでありながら、折り曲げ耐久性にも優れ、更に湿熱環境下でのヘイズ抑制(以下、「耐湿熱ヘイズ性」ということがある)にも優れる粘着剤層、粘着剤組成物、粘着剤および粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビやパソコン用モニター、ノートパソコンや携帯電話、タブレット端末やウェアラブル端末等のモバイル機器においては、通常、ディスプレイの視認側にプラスチックシート等から形成された保護層が設けられており、外的衝撃によるディスプレイの破損を防止するため、ディスプレイと保護層との間に、空間(空気層)が設けられている。
しかしながら、保護層と空気層との界面、および、空気層とディスプレイとの界面において、反射が生じて視認性の低下を引き起こすという問題がある。
そこで、近年では、耐衝撃性を確保しつつも、視認性の向上、更には、モバイル機器(プラスチックシート)の薄型化を目的として、空気層の代わりに衝撃吸収粘着剤層が用いられている。
【0003】
粘着剤層が充分な衝撃吸収性能を発揮するためには、ある程度の厚みを有することを必要とするが、従来より一般的に用いられている溶剤系のアクリル系粘着剤を厚塗り用途で使用する場合には、塗工時の粘着剤層の厚みが厚いため、塗工垂れが生じたり、塗工後の乾燥工程において溶剤が揮発しにくく、粘着剤層に発泡として残ってしまうという問題点があった。
【0004】
これに対して、無溶剤型の粘着剤を用いることが提案されており、ホットメルト型粘着剤や活性エネルギー線硬化型粘着剤が提案されている(例えば、特許文献1)。
無溶剤型の粘着剤のなかでも、ホットメルト型粘着剤は、塗工後に溶剤を揮発させるための乾燥工程が必要なく、厚塗り塗工をした際においても短時間で効率的に粘着剤層を得ることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-214280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年においては、モバイル機器の高機能化や多機能化、更にはデザインの多様化の点から平面ディスプレイの曲面化やフレキシブル化が求められており、それに伴って折り曲げても基板が割れない、繰り返し折り曲げても基板にひびなども入らないようにするための粘着剤が要求されている。
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術では、これらの折り曲げ耐久性は考慮されていないものであり、粘着剤組成物としての改良が求められている。
また、折り曲げ耐久性を向上させる点から弾性率の低い粘着剤が考えられるが、それだけでは粘着力や耐湿熱ヘイズ性などが低下してしまうことが懸念され、折り曲げ耐久性、粘着力、耐湿熱ヘイズのすべてをバランスよく優れるものとするには更なる改良が求められる。
【0007】
そこで、本発明ではこのような背景下において、被着体への粘着力に優れたものでありながら、折り曲げ耐久性にも優れ、更に耐湿熱ヘイズ性にも優れる粘着剤層およびそれを形成する粘着剤組成物、粘着剤および粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、アクリル系樹脂を含有する粘着剤組成物が硬化された粘着剤層であって、粘着力が、25N/25mm以上であり、折り曲げ耐久性が10万回以上であり、下記耐湿熱ヘイズ性が1.0%以下である粘着剤層が、本発明の目的に合致することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
また、本発明は、上記粘着剤組成物に含有されるアクリル系樹脂が、ガラス転移温度の異なる重量平均分子量が1万以上のアクリル系樹脂を少なくとも2種含有するものであり、上記アクリル系樹脂の動的粘弾性の損失正接が最大となった温度から読み取られるガラス転移温度が-20℃以下であり、かつ、最もガラス転移温度の高いアクリル系樹脂のガラス転移温度と最もガラス転移温度の低いアクリル系樹脂のガラス転移温度の温度差が20℃以下であると、本発明の目的に特に合致することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、アクリル系樹脂(A)を含有する粘着剤組成物[I]が硬化された粘着剤層であって、下記粘着力(α)が、25N/25mm以上であり、下記折り曲げ耐久性(β)が10万回以上であり、下記耐湿熱ヘイズ性(γ)が1.0%以下である粘着剤層を第1の要旨とする。
粘着力(α):
粘着剤層が易接着処理ポリエチレンテレフタレートシート(厚み125μm)上に形成された粘着シートとした際に、粘着シートの粘着剤層側を23℃、50%RH環境下で無アルカリガラスに2kgローラーを往復させて加圧貼付し、23℃、50%RH環境下で30分間静置した後に、オートグラフを用いて、剥離速度300mm/minで測定される180度剥離強度(N/25mm)。
折り曲げ耐久性(β):
粘着剤層が易接着処理ポリエチレンテレフタレートシート(厚み125μm)上に形成された粘着シートとした際に、粘着シートの粘着剤層側を23℃、50%RH環境下で透明ポリイミド(厚み50μm)にローラーを往復させて加圧貼付し、ポリエチレンテレフタレートシート側を内側にして折り曲げた際のシート間の距離が5mmとなるように40回/minの速度で、23℃、50%RH環境下にて繰り返し折り曲げ試験を実施して外観変化のない回数。
耐湿熱ヘイズ性(γ):
粘着剤層が易接着処理ポリエチレンテレフタレートシート(厚み125μm)上に形成された粘着シートとした際に、無アルカリガラス(厚み1.1mm)に貼り合わせた後、オートクレーブ処理(50℃、0.5MPa、20分間)を行い、得られた試験片を用いて、60℃、90%RH雰囲気下で7日間(168時間)の耐湿熱性試験を行い、耐湿熱性試験後と耐湿熱性試験前のヘイズ値の差。
【0011】
また、本発明は、アクリル系樹脂(A)を含有する粘着剤組成物[I]であって、上記アクリル系樹脂(A)が、ガラス転移温度の異なる重量平均分子量が1万以上のアクリル系樹脂を少なくとも2種含有するものであり、上記アクリル系樹脂(A)の動的粘弾性の損失正接が最大となった温度から読み取られるガラス転移温度(T)が-20℃以下、かつ、最もガラス転移温度の高いアクリル系樹脂(A1)のガラス転移温度(T1)と最もガラス転移温度の低いアクリル系樹脂(A2)のガラス転移温度(T2)の温度差が20℃以下である粘着剤組成物を第2の要旨とする。
【0012】
更に、本発明においては、上記第2の要旨の粘着剤組成物を用いてなる粘着剤を第3の要旨とし、上記第2の要旨の粘着剤組成物を用いてなる粘着剤層を有する粘着シートを第4の要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粘着剤層は、アクリル系樹脂(A)を含有する粘着剤組成物[I]が硬化された粘着剤層であって、前記粘着力(α)が、25N/25mm以上であり、前記折り曲げ耐久性(β)が10万回以上であり、前記耐湿熱ヘイズ性(γ)が1.0%以下であることから、被着体への粘着力に優れたものでありながら、折り曲げ耐久性に優れ、更に耐湿熱ヘイズ性にも優れるものである。このため、特にタッチパネルおよび画像表示装置等、殊には折り畳み式のスマートフォン等のタッチパネルおよび画像表示装置等に用いられる粘着剤、粘着シートとして有用である。
【0014】
また、本発明の粘着剤組成物は、粘着剤として用いた場合に、被着体への粘着力に優れたものでありながら、折り曲げ耐久性に優れ、更に耐湿熱ヘイズ性にも優れるものである。このため、特にタッチパネルおよび画像表示装置等、殊には折り畳み式のスマートフォン等のタッチパネルおよび画像表示装置等に用いられる粘着剤、粘着シートとして有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とはアクリルあるいはメタクリルを、「(メタ)アクリロイル」とはアクリロイルあるいはメタクリロイルを、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートあるいはメタクリレートをそれぞれ意味するものである。
【0016】
本発明の粘着剤層は、アクリル系樹脂(A)を含有する粘着剤組成物[I]が硬化された粘着剤層であり、下記の測定条件で測定した粘着力(α)、折り曲げ耐久性(β)、および耐湿熱ヘイズ性(γ)のいずれも所定の値を満たすものである。
【0017】
<粘着力(α)>
上記粘着力(α)は、本発明の粘着剤層が易接着処理ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(厚み125μm)上に形成された粘着シートとした際に、粘着シートの粘着剤層側を23℃、50%RH環境下で無アルカリガラスに2kgローラーを往復させて加圧貼付し、23℃、50%RH環境下で30分間静置した後に、オートグラフを用いて、剥離速度300mm/minで測定される180度剥離強度(N/25mm)である。
【0018】
本発明の粘着剤層は、上記の方法で測定する粘着力(α)が、25N/25mm以上であり、好ましくは28N/25mm以上、特に好ましくは30N/25mm以上である。なお、粘着力(α)の上限は、通常100N/25mm、好ましくは50N/25mmである。
【0019】
<折り曲げ耐久性(β)>
上記折り曲げ耐久性(β)は、本発明の粘着剤層が易接着処理ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(厚み125μm)上に形成された粘着シートとした際に、粘着シートの粘着剤層側を23℃、50%RH環境下で透明ポリイミドシート(厚み50μm)にローラーを往復させて加圧貼付し、PETシート側を内側にして折り曲げた際のシート間の距離が5mmとなるように40回/minの速度で、23℃、50%RH環境下にて繰り返し折り曲げ試験を実施して外観変化のない回数を測定する。上記「外観変化のない」とは、粘着剤層、透明ポリイミド、およびPETシートのいずれにおいても亀裂や白濁がないことを意味する。また、外観変化の有無は目視にて行う。
【0020】
本発明の粘着剤層は、上記の方法で測定する折り曲げ耐久性(β)が、10万回以上であり、好ましくは15万回以上、特に好ましくは20万回以上である。
【0021】
<耐湿熱ヘイズ性(γ)>
上記耐湿熱ヘイズ性は、本発明の粘着剤層が易接着処理ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(厚み125μm)上に形成された粘着シートとした際に、無アルカリガラス(厚み1.1mm)に貼り合わせた後、オートクレーブ処理(50℃、0.5MPa、20分間)を行い、得られた試験片を用いて、60℃、90%RH環境下で7日間(168時間)の耐湿熱性試験を行い、下記式から耐湿熱性試験後と耐湿熱性試験前のヘイズ値の差を求める。
ヘイズ値の差(%)=H2-H1
上記H1は耐湿熱性試験前のヘイズ値、H2は耐湿熱性試験後のヘイズ値を示す。
【0022】
本発明の粘着剤層は、上記の方法で測定する耐湿熱ヘイズ性(γ)が、1.0%以下であり、好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.5%以下である。なお、耐湿熱ヘイズ性(γ)の下限は、通常0.1%である。
【0023】
上記粘着剤層は、粘着剤組成物[I]が硬化したものであり、上記粘着剤組成物[I]は、厚い粘着剤層を形成し易い点、更に環境面から実質的に溶剤が含まれていない、無溶剤型の粘着剤組成物とすることが好ましい。
以下、上記粘着剤組成物[I]に含まれる各成分について説明する。
【0024】
<アクリル系樹脂(A)>
上記粘着剤組成物[I]は、アクリル系樹脂(A)を含有するものである。また、上記アクリル系樹脂(A)は、ガラス転移温度が-20℃以下であることが好ましい。
アクリル系樹脂(A)は、1種のアクリル系樹脂からなるものであってもよく、また、ガラス転移温度の異なる2種以上のアクリル系樹脂を含有するものであってもよい。なかでも、アクリル系樹脂(A)としては、粘着力と折り曲げ耐久性の両立の点から、ガラス転移温度の異なる重量平均分子量が1万以上のアクリル系樹脂を2種以上含有することが好ましい。
更には、上記アクリル系樹脂(A)が、ガラス転移温度が異なる重量平均分子量が1万以上のアクリル系樹脂を少なくとも2種含有し、最もガラス転移温度の高いアクリル系樹脂(A1)のガラス転移温度(T1)と最もガラス転移温度の低いアクリル系樹脂(A2)のガラス転移温度(T2)の温度差が20℃以下であることが好ましい。
【0025】
このようなガラス転移温度が異なるアクリル系樹脂を少なくとも2種含有するアクリル系樹脂(A)は、通常、別々に製造したガラス転移温度が異なるアクリル系樹脂を混合することにより得られる。なお、上記ガラス転移温度が異なるアクリル系樹脂を少なくとも2種含有するアクリル系樹脂(A)は、例えば、2段重合等、重合法を工夫することによっても得ることができる。
【0026】
上記別々に製造したガラス転移温度が異なるアクリル系樹脂を混合する場合のアクリル系樹脂の数は、通常2~4種であり、好ましくは2~3種であり、特に好ましくは2種である。アクリル系樹脂(A)に含まれるアクリル系樹脂の数が多くなるほど、生産性や経済性が低下する傾向がある。
以下、本発明で用いられるアクリル系樹脂について説明する。
【0027】
上記アクリル系樹脂は、水酸基含有モノマー(a1)を含有する共重合成分を重合して得られるものであり、好ましくは更に、炭素数5~14のアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーおよびビニルエステル系モノマーから選ばれる少なくとも1種の共重合性モノマー(a2)、炭素数1~4のアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーおよびビニルエステル系モノマーから選ばれる少なくとも1種の共重合性モノマー(a3)(但し、(a1)および(a2)を除く。)、必要に応じて、官能基含有エチレン性不飽和モノマー(a4)(但し、(a1)を除く。)、その他の共重合性モノマー(a5)を重合成分として含有するものである。
【0028】
〈水酸基含有モノマー(a1)〉
上記水酸基含有モノマー(a1)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のカプロラクトン変性モノマー、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のオキシアルキレン変性モノマー、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸等の1級水酸基含有モノマー;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-クロロ2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の2級水酸基含有モノマー;2,2-ジメチル2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の3級水酸基含有モノマーを挙げることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0029】
上記水酸基含有モノマー(a1)のなかでも、耐湿熱性と耐熱性のバランスに優れる点で、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、とりわけ2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを使用することが特に好ましい。
【0030】
また、後述するアクリル系樹脂(A2)を製造する場合は、粘着力と折り曲げ耐久性の両立の点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを含む水酸基含有モノマーを共重合成分として用いることが好ましく、水酸基含有モノマーとして2-ヒドロキシ(メタ)アクリレートおよび4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートのみを含むことが特に好ましい。
【0031】
本発明においては、上記2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの共重合割合〔2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート/4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート〕は重量基準で、95/5~30/70であることが好ましく、更には80/20~40/60、特には75/25~45/65、殊には70/30~50/50であることが好ましい。2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが少なすぎると粘着剤として用いた際の粘着力が低下し、多すぎると粘着剤として用いた際の折り曲げ耐久性が低下する傾向がある。
【0032】
なお、本発明で使用する水酸基含有モノマー(a1)としては、水酸基含有モノマー(a1)に不純物として含まれるジ(メタ)アクリレートの含有割合が少ないもの程好ましく、具体的には、0.5重量%以下のものを用いることが好ましく、特に好ましくは0.2重量%以下、更に好ましくは0.1重量%以下のものである。
【0033】
本発明において、水酸基含有モノマー(a1)の含有量は、共重合成分全体に対して、通常5~60重量%であり、好ましくは8~45重量%、特に好ましくは10~40重量%、更に好ましくは11~35重量%、殊に好ましくは12~30重量%である。
かかる含有量が少なすぎると粘着剤として用いた際の耐湿熱性が低下する傾向があり、多すぎるとアクリル系樹脂の自己架橋反応が起こりやすくなり、耐熱性が低下する傾向がある。
【0034】
〈炭素数5~14のアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーおよびビニルエステル系モノマーから選ばれる少なくとも1種の共重合性モノマー(a2)〉
本発明においては、共重合成分として、更に、高温や紫外線照射等の高エネルギー状態において水素引き抜きが起こりやすく、その結果、架橋が形成され易い構造を有している共重合性モノマーを含有することが好ましく、とりわけ、炭素数5~14のアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーおよびビニルエステル系モノマーから選ばれる少なくとも1種の共重合性モノマー(a2)を含有することが特に好ましく、更に好ましくは分岐構造を有する炭素数5~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー、殊に好ましくは2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0035】
上記共重合性モノマー(a2)の含有量は、共重合成分全体に対して15~90重量%であることが好ましく、特に好ましくは20~85重量%、更に好ましくは30~80重量%、殊に好ましくは40~75重量%、最も好ましくは45~70重量%である。
かかる含有量が少なすぎる場合、粘着剤として用いた際の段差追従性や耐久性が低下する傾向がある。一方、上記共重合性モノマー(a2)が多すぎる場合には、粘着剤として用いた際の粘着力が低下する傾向がある。
【0036】
〈炭素数1~4のアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーおよびビニルエステル系モノマーから選ばれる少なくとも1種の共重合性モノマー(a3)〉
本発明においては、共重合成分として、更に炭素数1~4のアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーおよびビニルエステル系モノマーから選ばれる少なくとも1種の共重合性モノマー(a3)(但し、(a1)および(a2)を除く。)を含有することが、凝集力向上、更には粘着剤とした際の粘着力向上の点から好ましい。
【0037】
上記共重合性モノマー(a3)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタアクリレート)、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等が挙げられる。これらの共重合性モノマー(a3)は単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
上記共重合性モノマー(a3)のなかでも、粘着剤として使用した場合の凝集力向上の点から、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0038】
また、上記共重合性モノマー(a3)のなかでも、本発明の効果を一層発揮する点から、メチル(メタ)アクリレートおよびエチル(メタ)アクリレートの少なくとも一方の(メタ)アクリレート(a3-1)を用いることが好ましい。
【0039】
上記共重合性モノマー(a3)の含有量は、共重合成分全体に対して、5~70重量%であることが好ましく、特に好ましくは10~60重量%、更に好ましくは15~45重量%である。上記共重合性モノマー(a3)の含有量が少なすぎると、粘着剤として使用した場合の粘着力が低下する傾向があり、多すぎると粘着剤として使用した際に、折り曲げ耐久性が低下する傾向がある。
【0040】
また、上記(a3)成分のなかでもメチル(メタ)アクリレートおよびエチル(メタ)アクリレートの少なくとも一方の(メタ)アクリレート(a3-1)を用いる場合の含有量としては、共重合成分全体に対して、5~40重量%であることが好ましく、特に好ましくは7~30重量%、更に好ましくは10~25重量%である。上記(a3-1)の含有量が多すぎると、粘度上昇により加工時のハンドリング性が低下する傾向があり、少なすぎると粘着剤として使用した際に粘着力が低下する傾向がある。
【0041】
〈官能基含有エチレン性不飽和モノマー(a4)〉
本発明においては、アクリル系樹脂の共重合成分として官能基含有エチレン性不飽和モノマー(a4)(但し、(a1)を除く。)を必要に応じて用いることができる。
【0042】
上記官能基含有エチレン性不飽和モノマー(a4)としては、例えば、窒素原子を有する官能基含有モノマー、アセトアセチル基含有モノマー、イソシアネート基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー等が挙げられる。
これらのなかでも、凝集力や架橋促進作用を付与する点で、窒素原子を有する官能基含有モノマーが好ましく、特に好ましくはアミノ基含有モノマー、アミド基含有モノマーであり、更に好ましくはアミノ基含有モノマーである。
【0043】
上記アミノ基含有モノマーとしては、例えば、アミノメチル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート等の第1級アミノ基含有(メタ)アクリレート;t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の第2級アミノ基含有(メタ)アクリレート;エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等の第3級アミノ基含有(メタ)アクリレート;等が挙げられる。
【0044】
上記アミド基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド、N,N-ジアリル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(n-ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミド等のアルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。
【0045】
上記アセトアセチル基含有モノマーとしては、例えば、2-(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレート、アリルアセトアセテート等が挙げられる。
【0046】
上記イソシアネート基含有モノマーとしては、例えば、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートやそれらのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0047】
上記グリシジル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリルグリシジル等が挙げられる。
【0048】
これらの官能基含有エチレン性不飽和モノマー(a4)は、単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0049】
上記官能基含有エチレン性不飽和モノマー(a4)の含有量は、共重合成分全体に対して、30重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下、殊に好ましくは5重量%以下である。官能基含有エチレン性不飽和モノマー(a4)の含有量が多すぎると樹脂の耐熱性が低下する傾向がある。
【0050】
〈その他の共重合性モノマー(a5)〉
本発明においては、アクリル系樹脂の共重合成分として、その他の共重合性モノマー(a5)を必要に応じて用いることができる。
【0051】
上記その他の共重合性モノマー(a5)としては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニルジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物(メタ)アクリレート等の芳香族系(メタ)アクリル酸エステル系モノマーや、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、ステアリン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アルキルビニルエーテル、ビニルトルエン、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、イタコン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、アリルアルコール、アクリルクロライド、メチルビニルケトン、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン等のモノマーが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0052】
また、アクリル系樹脂の高分子量化を目的とする場合には、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等のエチレン性不飽和基を2つ以上有する化合物等を少量併用することもできる。この際、これらのエチレン性不飽和基を2つ以上有する化合物は反応性が高く、アクリル系樹脂の共重合成分として用いた際に未反応で残存することは通常ないものである。なお、使用量が多すぎるとこれらのエチレン性不飽和基を2つ以上有する化合物が未反応で残存することとなり、アクリル系樹脂がゲル化する傾向がある。
【0053】
上記その他の共重合性モノマー(a5)の含有量は、共重合成分全体に対して、50重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは40重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。上記その他の共重合性モノマー(a5)の含有割合が多すぎると耐熱性が低下したり、粘着力が低下する傾向がある。
【0054】
本発明で用いるアクリル系樹脂は、上記の共重合成分を所望のガラス転移温度となるように適宜選択し、重合することにより製造することができる。
【0055】
上記重合方法としては、例えば、溶液重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合等の従来公知の重合方法を用いることができるが、本発明においては、溶液重合で製造することが、安全に、安定的に、任意のモノマー組成でアクリル系樹脂を製造できる点で好ましい。
以下、本発明で用いられるアクリル系樹脂の好ましい製造方法の一例を示す。
【0056】
まず、有機溶剤中に、上記の共重合成分、重合開始剤を混合あるいは滴下し、溶液重合してアクリル系樹脂溶液を得る。
【0057】
〔有機溶剤〕
上記重合反応に用いられる有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の脂肪族アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらの溶剤のなかでも、溶液重合により得られるアクリル系樹脂溶液から溶剤を留去して、無溶剤型のアクリル系樹脂を効率よく製造できる点で、沸点が80℃以下である有機溶剤を用いることが好ましい。
【0058】
沸点が80℃以下である有機溶剤としては、例えば、n-ヘキサン(67℃)のような炭化水素系溶剤、メタノール(65℃)のようなアルコール系溶剤、酢酸エチル(77℃)、酢酸メチル(54℃)のようなエステル系溶剤、メチルエチルケトン(80℃)、アセトン(56℃)のようなケトン系溶剤、ジエチルエーテル(35℃)、塩化メチレン(40℃)、テトラヒドロフラン(66℃)等を挙げることができ、なかでも、汎用性や安全性の点で、酢酸エチル、アセトン、酢酸メチルを用いることが好ましく、特に好ましくは酢酸エチル、アセトンを用いることである。
なお、上記各有機溶剤名に続いて記載された( )内の数値は、各有機溶剤の沸点である。
【0059】
〔重合開始剤〕
上記重合反応に用いられる重合開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤であるアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤等を用いることができ、アゾ系重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、(1-フェニルエチル)アゾジフェニルメタン、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ヘキシルペルオキシピバレート、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、ジイソブチリルペルオキシド等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0060】
上記アクリル系樹脂の製造においては、溶液重合の反応溶剤として沸点が80℃以下の有機溶剤を使用し比較的低い温度で重合を行うことが好ましく、この際に10時間半減期温度が高い重合開始剤を使用すると、重合開始剤が残存しやすくなる。重合開始剤が残存すると、後述の、アクリル系樹脂溶液から溶剤を留去する工程においてアクリル系樹脂のゲル化が発生する傾向がある。
【0061】
したがって、溶液重合で得られるアクリル系樹脂溶液から溶剤を留去する工程を安定的に行う点から、上記重合開始剤のなかでも10時間半減期温度が60℃以下である重合開始剤を用いることが好ましく、なかでも特に好ましくは、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(52℃)、2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)(49.6℃)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ2,4-ジメチルバレロニトリル)(30℃)、t-ブチルペルオキシピバレート(54.6℃)、t-ヘキシルペルオキシピバレート(53.2℃)、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート(44.5℃)、ジイソプロピルペルオキシカーボネート(40.5℃)、ジイソブチリルペルオキシド(32.7℃)であり、更に好ましくは2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(52℃)、t-ヘキシルペルオキシピバレート(53.2℃)である。
なお、上記各化合物名に続いて記載された( )内の数値は各化合物の10時間半減期温度である。
【0062】
上記重合開始剤の使用量は、重合成分100重量部に対して、通常0.001~10重量部であり、好ましくは0.1~8重量部、特に好ましくは0.5~6重量部、更に好ましくは1~4重量部、殊に好ましくは1.5~3重量部、最も好ましくは2~2.5重量部である。上記重合開始剤の使用量が少なすぎると、アクリル系樹脂の重合率が低下し、残存モノマーが増加したり、アクリル系樹脂の重量平均分子量が高くなる傾向がある。使用量が多すぎると、後述するアクリル系樹脂溶液から溶剤を留去する工程において、アクリル系樹脂のゲル化が発生する傾向がある。
【0063】
〔重合条件等〕
溶液重合の重合条件については、従来公知の重合条件にしたがって重合すればよく、例えば、溶剤中に、重合成分、重合開始剤を混合あるいは滴下し所定の重合条件にて重合することができる。
【0064】
上記重合反応における重合温度は、通常40~120℃であるが、本発明においては、安定的に反応できる点から50~90℃が好ましく、特に好ましくは55~75℃、更に好ましくは60~70℃である。重合温度が高すぎるとアクリル系樹脂がゲル化しやすくなる傾向があり、低すぎると重合開始剤の活性が低下するため、重合率が低下し、残存モノマーが増加する傾向がある。
【0065】
また、重合反応における重合時間(後述の追い込み加熱を行う場合は、追い込み加熱開始までの時間)は特に制限はないが、最後の重合開始剤の添加から0.5時間以上であることが好ましく、特に好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上、殊に好ましくは5時間以上である。重合時間の上限は通常72時間である。
なお、重合反応は、除熱がしやすい点で溶剤を還流しながら行うことが好ましい。
【0066】
上記アクリル系樹脂の製造においては、残存重合開始剤の量を低減させるため、追い込み加熱により、重合開始剤を加熱分解させることが好ましい。
【0067】
上記追い込み加熱温度は、上記重合開始剤の10時間半減期温度より高い温度で行うことが好ましく、具体的には通常40~150℃であり、ゲル化抑制の点から55~130℃であることが好ましく、特に好ましくは75~95℃である。追い込み加熱温度が高すぎると、アクリル系樹脂が黄変する傾向があり、低すぎると重合成分や重合開始剤が残存し、アクリル系樹脂の経時安定性や熱安定性が低下する傾向がある。
かくして、アクリル系樹脂溶液を得ることができる。
【0068】
本発明で用いるアクリル系樹脂は、溶剤を含まない無溶剤型のアクリル系樹脂であることが好ましいことから、ついでアクリル系樹脂溶液から溶剤の留去を行う。
【0069】
アクリル系樹脂溶液から溶剤を留去する工程は、公知一般の方法で行うことができ、溶剤を留去する方法としては、例えば、加熱することにより溶剤を留去する方法や、減圧することにより溶剤を留去する方法等があるが、溶剤の留去を効率的に行う点から、減圧下で加熱することにより留去する方法が好ましい。
【0070】
加熱して溶剤を留去する場合の温度としては、60~150℃で行うことが好ましく、特には、アクリル系樹脂を重合した後の反応溶液を60~80℃で保持して溶剤を留出させ、次いで、80~150℃で溶剤を留出させることが、残存溶剤量を極めて少なくする点で好ましい。なお、アクリル系樹脂のゲル化を抑制する点から、溶剤留去の際は150℃を超える温度で行わないことが好ましい。
【0071】
減圧して溶剤を留去する場合の圧力としては、20~101.3kPaで行うことが好ましく、特には、50~101.3kPaの範囲で保持して反応溶液中の溶剤を留出させた後、0~50kPaで残存溶剤を留出させることが、残存溶剤量を極めて少なくする点で好ましい。
かくして無溶剤型のアクリル系樹脂を製造することができる。
【0072】
本発明に用いるアクリル系樹脂(A)は、最もガラス転移温度高いアクリル系樹脂(A1)と最もガラス転移温度の低いアクリル系樹脂(A2)を含むものであることが好ましく、これらのアクリル系樹脂(A1)および(A2)は、上記の製造方法等により製造される。
【0073】
上記アクリル系樹脂(A1)および(A2)は、水酸基含有モノマー(a1)由来の構造部位を含有し、アクリル系樹脂中の水酸基含有モノマー(a1)由来の構造部位の含有量が、通常5~60重量%であり、好ましくは8~45重量%、特に好ましくは10~40重量%、更に好ましくは11~35重量%、殊に好ましくは12~30重量%である。
【0074】
また、上記アクリル系樹脂(A1)および(A2)は、水酸基含有モノマー(a1)由来の構造部位の他に、メチル(メタ)アクリレートおよびエチル(メタ)アクリレートの少なくとも一方の(メタ)アクリレート(a3-1)由来の構造部位を含有することが好ましい。かかる(メタ)アクリレート(a3-1)由来の構造部位の含有量は、アクリル系樹脂に対し通常5~40重量%であり、好ましくは7~30重量%、殊に好ましくは10~25重量%である。
【0075】
上記アクリル系樹脂(A1)においては、粘着力に優れる点から(メタ)アクリレート(a3-1)として、メチル(メタ)アクリレートおよびエチル(メタ)アクリレート由来の構造部位を含有することが特に好ましい。
【0076】
また、上記アクリル系樹脂(A2)においては、折り曲げ耐久性と粘着力に優れる点から(メタ)アクリレート(a3-1)として、エチル(メタ)アクリレート由来の構造部位を含有することが特に好ましい。
【0077】
ここで、上記アクリル系樹脂の各成分由来の構造部位割合(組成割合)は、例えば、NMRにより求めることができる。
【0078】
上記アクリル系樹脂(A1)のガラス転移温度(T1)は、好ましくは-25~-10℃であり、より好ましくは-23~-12℃であり、特に好ましくは-21~-15℃である。ガラス転移温度が低すぎると、粘着力が低下する傾向があり、ガラス転移温度が高すぎると折り曲げ耐久性が低下する傾向がある。
【0079】
上記アクリル系樹脂(A2)のガラス転移温度(T2)は、上記アクリル系樹脂(A1)のガラス転移温度よりも低いことを前提とした上で、好ましくは-35~-20℃であり、より好ましくは-33~-23℃であり、特に好ましくは-30~-25℃である。ガラス転移温度が低すぎると、屈曲させた状態での耐久性が低下する傾向があり、ガラス転移温度が高すぎると折り曲げ耐久性が低下する傾向がある。
【0080】
本発明においてガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置を用いて、動的粘弾性をせん断変形モードにて測定した際の損失正接(損失弾性率G”/貯蔵弾性率G’=tanδ)が最大となった温度を読み取ることにより求められる。
【0081】
上記アクリル系樹脂(A1)および(A2)の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、特に好ましくは10万~150万、更に好ましくは20万~100万、殊に好ましくは25万~80万、最も好ましくは30万~60万である。かかる重量平均分子量が小さすぎると凝集力が低下し、耐久性が低下する傾向がある。なお、大きすぎると粘度が高くなりすぎて、塗工性やハンドリングが低下する傾向がある。
【0082】
上記アクリル系樹脂(A1)および(A2)の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、15以下であることが好ましく、特に好ましくは10以下、更に好ましくは7以下、殊に好ましくは5以下である。かかる分散度が高すぎると粘着剤層の耐久性能が低下し、発泡等が発生しやすくなる傾向にあり、低すぎると取り扱い性が低下する傾向がある。なお、分散度の下限は、製造の限界の点から、通常1.1である。
【0083】
なお、本発明における重量平均分子量は、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量であり、高速液体クロマトグラフィー(東ソー社製、「HLC-8320GPC」に、カラム:TSKgel GMHXL(排除限界分子量:4×108、分離範囲:100~4×108、理論段数:14000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:9μm、カラムサイズ:7.8mm I.D.×30cm)の3本とカラム:TSKgel G2000HXL(排除限界分子量:1×104、分離範囲:100~1×104、理論段数:16000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:5μm、カラムサイズ:7.8mm I.D.×30cm)の1本を直列にして用いることにより測定されるものであり、数平均分子量も同様の方法を用いて測定することができる。また、分散度は重量平均分子量と数平均分子量より求められる。
【0084】
上述のとおりアクリル系樹脂(A)は、1種のアクリル系樹脂からなるものであってもよいが、好ましくはガラス転移温度の異なる2種以上のアクリル系樹脂を含有するものである。
上記アクリル系樹脂(A1)とアクリル系樹脂(A2)とを混合してアクリル系樹脂(A)を得る場合の方法としては、アクリル系樹脂(A1)溶液とアクリル系樹脂(A2)溶液とを混合したあと、溶剤を留去する方法、無溶剤型のアクリル系樹脂(A1)と無溶剤型のアクリル系樹脂(A2)とを混合する方法等が挙げられる。なかでも、作業性の点からアクリル系樹脂(A1)溶液とアクリル系樹脂(A2)溶液とを混合したあと、溶剤を留去する方法が好ましい。
かくして、本発明で用いるアクリル系樹脂(A)が得られる。
【0085】
アクリル系樹脂(A)にガラス転移温度が異なる2種以上のアクリル系樹脂が含まれている場合、これらを確認する方法としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)を用いて、アクリル系樹脂(A)〔または、粘着剤組成物[I]〕を溶解させ0.1重量%程度のサンプル溶液を調製する。このサンプル溶液をODS(オクタデシルシリル)カラムを用いGPCにて、グラジエント法で分析することにより確認することができる。また、上記グラジエント法としては、例えば、移動相としてアセトニトリルとTHFを用い、アセトニトリルとTHFの混合比率を変化させる方法等が挙げられる。
【0086】
上記アクリル系樹脂(A)は、水酸基含有モノマー(a1)由来の構造部位を、通常5~60重量%、好ましくは8~45重量%、特に好ましくは10~40重量%、更に好ましくは11~35重量%、殊に好ましくは12~30重量%含むものである。
【0087】
また、上記アクリル系樹脂(A)は、(メタ)アクリレート(a3-1)由来の構造部位を、通常5~40重量%、好ましくは7~30重量%、殊に好ましくは10~25重量%含むものである。
【0088】
上記アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度(T)は、折り曲げ耐久性に優れる点から-20℃以下であることが好ましく、より好ましくは-22℃以下、特に好ましくは-23℃以下である。ガラス転移温度が高すぎると、折り曲げ耐久性が低下する傾向がある。なお、アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度の下限は、通常-45℃である。
【0089】
上記アクリル系樹脂(A)にガラス転移温度が異なる2種以上のアクリル系樹脂が含まれる場合、最もガラス転移温度の高いアクリル系樹脂(A1)のガラス転移温度(T1)と、最もガラス転移温度の低いアクリル系樹脂(A2)のガラス転移温度(T2)との温度差は、粘着力と折り曲げ耐久性の両立の観点から20℃以下であり、好ましくは15℃以下、特に好ましくは10℃以下、更には8℃以下である。ガラス転移温度の温度差が大きすぎると樹脂の相溶性が低下する傾向がある。なお、かかる温度差の下限値は好ましくは3℃、特に好ましくは4℃であり、温度差が小さすぎると、粘着力と折り曲げ耐久性の何れかが低下する傾向がある。
【0090】
上記アクリル系樹脂(A)にアクリル系樹脂(A1)とアクリル系樹脂(A2)とが含まれる場合、アクリル系樹脂(A1)とアクリル系樹脂(A2)の含有割合〔(A1)/(A2)〕は、粘着力と折り曲げ耐久性の両立の観点から、重量比で70/30~30/70が好ましく、65/35~40/60がより好ましく、60/40~50/50が特に好ましい。アクリル系樹脂(A1)の含有量が少なすぎる〔アクリル系樹脂(A2)の含有量が多すぎる〕と、低粘着力化や高温、高湿環境下での信頼性が低下する傾向があり、アクリル系樹脂(A1)の含有量が多すぎる〔アクリル系樹脂(A2)の含有量が少なすぎる〕と、折り曲げ耐久性が低下する傾向がある。
【0091】
また、アクリル系樹脂(A)に対する、アクリル系樹脂(A1)とアクリル系樹脂(A2)との合計含有割合は、通常50重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは100重量%である。
【0092】
更には、アクリル系樹脂(A1)を構成する水酸基含有モノマー(a1)量とアクリル系樹脂(A2)を構成する水酸基含有モノマー(a1)量の重量比は3:1~1:3が好ましく、特に好ましくは2:1~1:2、更に好ましくは1:1~1:1.5である。アクリル系樹脂(A1)を構成する水酸基含有モノマー(a1)量が少なすぎると粘着剤として用いた際の粘着力が低下し、該水酸基含有モノマー(a1)量が多すぎると粘着剤として用いた際の折り曲げ耐久性が低下する傾向があり、両者の水酸基含有モノマー(a1)量の差が大きすぎると、樹脂の相溶性が低下する傾向があり、また耐湿熱性が低下する傾向がある。
【0093】
上記アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、特に好ましくは10万~150万、更に好ましくは20万~100万、殊に好ましくは25万~80万、最も好ましくは30万~60万である。かかる重量平均分子量が小さすぎると凝集力が低下し、耐久性が低下する傾向がある。なお、大きすぎると粘度が高くなりすぎて、塗工性やハンドリングが低下する傾向がある。
【0094】
上記アクリル系樹脂(A)にアクリル系樹脂(A1)とアクリル系樹脂(A2)とが含まれる場合、最もガラス転移温度の高いアクリル系樹脂(A1)の重量平均分子量(Mw1)と、最もガラス転移温度の低いアクリル系樹脂(A2)の重量平均分子量(Mw2)との差は、下記式を満たすことが好ましい。
(Mw1)-(Mw2)≧ -100000
そして、粘着力、折り曲げ耐久性、折り曲げ状態での信頼性の両立の観点から(Mw1)から(Mw2)を差し引きした値は、-100000以上が好ましく、特に好ましくは0以上である。(Mw1)から(Mw2)を差し引きした値が小さすぎると、粘着力と折り曲げ状態での信頼性が低下する傾向がある。なお、上記式の上限値は、通常2000000であり、大きすぎると樹脂の相溶性が低下する傾向がある。
【0095】
また、アクリル系樹脂(A)の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、15以下であることが好ましく、特に好ましくは10以下、更に好ましくは7以下、殊に好ましくは5以下である。かかる分散度が高すぎると粘着剤層の耐久性能が低下し、発泡等が発生しやすくなる傾向にあり、低すぎると取り扱い性が低下する傾向がある。なお、分散度の下限は、製造の限界の点から、通常1.1である。
【0096】
上記アクリル系樹脂(A)の酸価は0.001~2mgKOH/gであることが好ましく、特に好ましくは0.001~1mgKOH/g、更に好ましくは0.001~0.5mgKOH/gである。酸価が高すぎると、熱安定性が低下する傾向がある。
【0097】
ここで、本発明における酸価は、JIS K 0070に基づき中和滴定により求められるものである。
【0098】
上記アクリル系樹脂(A)は、厚い粘着剤層を形成し易い点、更に環境面から、実質的に溶剤を含有しない無溶剤型アクリル系樹脂であることが好ましく、特に好ましくはアクリル系樹脂(A)の溶剤含有量が2重量%以下であり、更に好ましくは0.00001~2重量%、殊に好ましくは0.0001~1重量%、最も好ましくは0.001~0.1重量%である。溶剤含有量が多すぎると、粘着剤として用いた際に粘着剤層に気泡が発生し、耐久性が低下する傾向がある。
【0099】
また、アクリル系樹脂(A)中の残存モノマー量が2重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは0.00001~1.5重量%、更に好ましくは0.0001~1.2重量%である。残存モノマー量が多すぎると、加熱した際に分子量が増加し、塗工性や粘着物性が低下したり、粘着剤に気泡が発生し、耐久性が低下する傾向がある。
【0100】
なお、上記のアクリル系樹脂(A)中の溶剤含有量および残存モノマー量は、アクリル系樹脂(A)をトルエンで20倍希釈し、ガスクロマトグラフィー/マスフラグメントディテクター(GC:AgilentTechnologies社製、7890A GCsystem、MSD:AgilentTechnologies社製、5975inert)を用いて測定した値である。
【0101】
また、本発明においては、アクリル系樹脂(A)中の揮発分(通常、溶剤と残存モノマーが主成分である。)含有量が2重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは0.00001~1.5重量%、更に好ましくは0.0001~1.2重量%である。残存モノマー量が多すぎると、加熱した際にアクリル系樹脂の分子量が増加し、塗工性が低下したり、粘着剤とした際に粘着物性が低下したり、気泡が発生して、耐久性が低下する傾向がある。
【0102】
なお、上記のアクリル系樹脂(A)中の揮発分含有量は、アクリル系樹脂を熱風乾燥器中、130℃で1時間加熱し、加熱前と加熱後の重量変化より算出した値であり、下記式によって求められる。
揮発分含有量(重量%)=(Wa-Wb)/Wa×100
上記Waは加熱前のアクリル系樹脂の重量、Wbは加熱後のアクリル系樹脂の重量を示す。
【0103】
アクリル系樹脂(A)は、粘着剤組成物[I]の主成分となるものであり、粘着剤組成物[I]に対する含有量は、その全体に対しての80重量%以上であることが耐久時の信頼性の点から好ましく、特に好ましくは90~99.9重量%、更に好ましくは95~99.9重量%である。
【0104】
<光重合開始剤>
本発明の粘着剤組成物[I]は、硬化させることにより粘着剤層となるものであるが、後述する活性エネルギー線により硬化を行う場合には、活性エネルギー線照射時の反応を安定化させることができる点で光重合開始剤を用いることが好ましい。
【0105】
かかる光重合開始剤としては、光の作用によりラジカルを発生するものであれば特に限定されず、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、アシルフォスフィンオキサイド類等の光重合開始剤があげられる。これらの光重合開始剤は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、これらの光重合開始剤のなかでも、分子間または分子内で効率的に架橋できる点から水素引き抜き型のベンゾフェノン類、分子内開裂型のアセトフェノン類の光重合開始剤を用いることが好ましい。
【0106】
かかる光重合開始剤の配合量は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して、0.01~10重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.1~5重量部、更に好ましくは0.5~2重量部である。かかる配合量が少なすぎると硬化速度が低下したり、硬化が不充分となる傾向があり、多すぎても硬化性は向上せず経済性が低下する傾向がある。
【0107】
また、これら光重合開始剤の助剤として、例えば、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、2-ジメチルアミノエチル安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、2,4-ジエチルチオキサンソン、2,4-ジイソプロピルチオキサンソン等を併用することも可能である。これらの助剤も単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0108】
<活性エネルギー線硬化性モノマー>
また、活性エネルギー線による硬化を行う場合には、活性エネルギー線硬化性モノマーを用いることが好ましく、これにより、粘着剤層全体の凝集力を調整し、安定した粘着物性を得ることができる。
【0109】
活性エネルギー線硬化性モノマーとしては、1分子内に2つ以上のエチレン性不飽和基を含有する多官能モノマーが好ましく、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレートやウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、上記多官能モノマーは単独で、もしくは2種以上を併用することができる。
【0110】
かかる多官能モノマーの配合量は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して、0~10重量部とすることが好ましく、特に好ましくは0.1~7.5重量部、更に好ましくは0.5~5重量部である。
【0111】
<その他の任意成分>
本発明の粘着剤組成物[I]の構成成分としては、上記の光重合開始剤、活性エネルギー線硬化性モノマーの他に、その他の任意成分を含んでもよい。
【0112】
その他の任意成分としては、例えば、カルボジイミド系化合物、酸化防止剤、可塑剤、粘着付与剤、架橋剤、架橋促進剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、機能性色素等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。その他の任意成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない範囲であればよく、粘着剤組成物[I]中の0.1~10重量%であることが好ましい。
【0113】
本発明の粘着剤組成物[I]は、上記の構成成分を用いて、例えば、つぎのようにして製造される。
本発明の粘着剤組成物[I]は、アクリル系樹脂(A)と上記の構成成分とを混合することにより得られるが、アクリル系樹脂(A)の製造における溶剤留去工程前もしくは留去中(溶剤が残存している状態)または溶剤留去後に、上記光重合開始剤、活性エネルギー線硬化性モノマー、およびその他の任意成分を、配合することができる。なかでも、溶剤留去後の無溶剤型のアクリル系樹脂(A)に配合することが好ましい。
また、上記カルボジイミド系化合物を配合する場合は、光重合開始剤、活性エネルギー線硬化性モノマー、およびその他の任意成分よりも先に、アクリル系樹脂(A)に配合することが、得られる樹脂組成物の化学安定性の点から好ましい。特に好ましくは、アクリル系樹脂(A)およびカルボジイミド系化合物を0~140℃で混合することであり、更に好ましくは20~100℃で混合することである。
【0114】
得られた粘着剤組成物[I]に溶剤が含まれる場合は、前述の、アクリル系樹脂から溶剤を留去する方法と同様の方法で溶剤を留去することにより無溶剤型の粘着剤組成物[I]が得られる。
【0115】
無溶剤型粘着剤組成物の酸価は、0.001~0.3mgKOH/gであり、好ましくは0.001~0.15mgKOH/g、特に好ましくは0.001~0.1mgKOH/gである。
【0116】
上記粘着剤組成物[I]が硬化された粘着剤層は、前述の粘着力(α)、折り曲げ耐久性(β)、および耐湿熱ヘイズ性(γ)のいずれも所定の値を満たすものであるため、粘着シートの粘着剤層として有用である。また、上記粘着剤組成物[I]は、粘着剤の材料成分として用いることも有用であり、特にはホットメルト型粘着剤の材料成分として用いることが有用である。
【0117】
<粘着シート>
本発明の粘着剤組成物[I]は、これを硬化させた粘着剤層を基材シート上に設けた粘着シート、粘着剤層を離型シート上に設けた両面粘着シート、粘着剤層を光学部材上に設けた粘着剤層付き光学部材として用いられることが好ましい。上記硬化方法としては、活性エネルギー線により硬化する方法や、架橋剤を用いて架橋することにより硬化する方法、これらを組み合わせた方法等があげられる。
【0118】
上記粘着シートは、例えば、つぎのようにして作製することができる。
なお、本発明において、「シート」とは、特に「フィルム」や「テープ」と区別するものではなく、これらをも含めた意味として記載するものである。
【0119】
まず、粘着剤組成物[I]を加熱により溶融した状態で基材シートの片面もしくは両面に塗工し、その後冷却する方法や、粘着剤組成物を加熱により溶融させ、Tダイ等により基材シート上に押出しラミネートする方法等で基材シート上の片面もしくは両面に所定の厚みとなるように粘着剤層を形成する。ついで、必要に応じて上記粘着剤層面に離型シートを貼り合わせることにより粘着シートを作製することができる。
【0120】
また、基材シート上に粘着剤層を形成した後、必要に応じて活性エネルギー線照射処理を行い、更にエージングすることで粘着剤組成物[I]が硬化(架橋)された粘着剤層を有する粘着シートを作製することができる。
【0121】
また、離型シートに粘着剤層を形成し、反対側の粘着剤層面に離型シートを貼り合わせることにより、基材レスの両面粘着シートを作製することもできる。
得られた粘着シートや両面粘着シートは、使用時には、上記離型シートを粘着剤層から剥離して使用に供される。
【0122】
基材シートとしては、例えば、ポリエチレンナフタート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン等のポリフッ化エチレン樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ビニロン等のビニル重合体;三酢酸セルロース、セロファン等のセルロース系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂;ポリスチレン;ポリカーボネート;ポリアリレート;ポリイミド等からなる群から選ばれた少なくとも一つの合成樹脂からなるシート,アルミニウム、銅、鉄の金属箔,上質紙、グラシン紙等の紙,ガラス繊維、天然繊維、合成繊維等からなる織物や不織布があげられる。これらの基材シートは、単層体として又は2種以上が積層された複層体として用いることができる。これらのなかでも、軽量化等の点から、合成樹脂からなるシートが好ましい。
【0123】
更に、上記離型シートとしては、例えば、上記支持基材で例示した各種合成樹脂シート、紙、布、不織布等に離型処理したものを使用することができる。離型シートとしては、シリコン系の離型シートを用いることが好ましい。
【0124】
また、上記粘着剤組成物[I]の塗工方法としては、一般的な塗工方法であれば特に限定されることなく、例えば、ロールコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティング、コンマコーティング、スクリーン印刷等の方法があげられる。
【0125】
活性エネルギー線を照射することにより、粘着剤組成物[I]中のアクリル系樹脂(A)が分子内および分子間の少なくとも一方で架橋構造を形成する。
【0126】
活性エネルギー線としては、例えば、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等の電磁波の他、電子線、プロトン線、中性子線等が利用できるが、硬化速度、照射装置の入手のし易さ、価格等から紫外線が好ましい。
【0127】
紫外線を照射して硬化させる際には、150~450nm波長域の光を発する高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、無電極放電ランプ、LEDランプ等を用いて、通常30~3000mJ/cm2、好ましくは100~1500mJ/cm2の紫外線を照射すればよい。
【0128】
上記エージング処理は、特に粘着剤組成物[I]に架橋剤を用いる場合に行なうことが好ましく、上記エージング処理の条件としては、温度は通常、室温(23℃)~100℃、時間は通常1~30日であり、具体的には、例えば23℃で1~20日間、好ましくは、23℃で3~10日間、40℃で1~7日間等の条件で行えばよい。
【0129】
そして、本発明においては、上記粘着剤層を光学部材上に積層形成することにより、粘着剤層付き光学部材を得ることができる。また、上記の両面粘着シートを用いて光学部材同士を貼合することもできる。
【0130】
上記粘着シートの粘着剤層のゲル分率については、耐久性能と粘着力の点から10~100重量%であることが好ましく、特には30~90重量%が好ましく、殊には50~80重量%であることが好ましい。ゲル分率が低すぎると凝集力が低下することにより耐久性が低下する傾向がある。また、ゲル分率が高すぎると凝集力の上昇により粘着力が低下したり、折り曲げ耐久性が低下する傾向がある。
【0131】
上記ゲル分率は、架橋度(硬化度合い)の目安となるもので、例えば、以下の方法にて算出される。すなわち、基材となる高分子シート(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等)に粘着剤層が形成されてなる粘着シート(セパレーターを設けていないもの)を200メッシュのSUS製金網で包み、トルエン中に23℃×24時間浸漬し、トルエン浸漬前の粘着剤層の重量に対する、金網中に残存した不溶解の粘着剤層の重量百分率をゲル分率とする。ただし、基材の重量は差し引いておく。
【0132】
なお、ゲル分率を上記範囲に調整するにあたっては、例えば、活性エネルギー線照射量や光重合開始剤量を調整したり、活性エネルギー線硬化性モノマーの種類や量を調整すること、また、架橋剤を用いる場合には、架橋剤の種類や量を調整すること等により達成される。
【0133】
上記粘着シートの粘着剤層の厚みは、通常、15~3000μmであることが好ましく、更には20~1000μmがあることが好ましく、殊には50~350μmであることが好ましい。上記粘着剤層の厚みが薄すぎると衝撃吸収性が低下する傾向があり、厚すぎると光学部材全体の厚みが増して実用性が低下する傾向がある。
【0134】
なお、本発明における膜厚は、ミツトヨ社製「ID-C112B」を用いて、粘着剤層含有積層体全体の厚みの測定値から、粘着剤層以外の構成部材の厚みの測定値を差し引くことにより求めた値である。
【0135】
本発明の粘着剤組成物[I]が硬化された粘着剤層は、粘着力、折り曲げ耐久性に優れ、更に耐湿熱ヘイズ性にも優れる。また、上記粘着剤組成物[I]を用いてなる粘着剤は、粘着力、折り曲げ耐久性、耐湿熱ヘイズ性に優れるため、両面粘着用途や、耐衝撃性や強粘着性を有する粘着剤として好適に用いることができる。具体的には、ガラスやITO透明電極シート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等の光学シート類、偏光板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム等の光学部材貼り付け用途の粘着剤成分として有用である。さらに、これら光学部材を含んでなるタッチパネル等の画像表示装置、特には折り畳み式のスマートフォン等のタッチパネルおよび画像表示装置等に対して好適に用いることができる。
また、本発明の粘着剤組成物[I]は、各種ラベル用粘着剤やマスキング用粘着剤としても用いることができ、特に電子部品用途等に好適に用いられる。
【実施例
【0136】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中、「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。また、アクリル系樹脂の重量平均分子量に関しては、前述のアクリル系樹脂の重量平均分子量の測定方法に準じて測定した。
また、アクリル系樹脂のガラス転移温度の測定に関しては、以下の通り測定した。
なお、アクリル系樹脂の出来上がり(重合後)の構造部位の含有量は、重合成分の配合含有量と略同じである。
更に、参考までにFoxの計算式により算出されるガラス転移温度も併せて表記する。
【0137】
<アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)>
溶剤留去前のアクリル系樹脂溶液をポリエステル系離型シートに塗布し、乾燥させたものを積層することで、未架橋状態で厚み約650μmの粘着シートを作製した。作製した粘着シートの動的粘弾性を下記の条件にて測定し、損失正接(損失弾性率G”/貯蔵弾性率G’=tanδ)が最大となった温度を読み取り、アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)とした。
・測定機器:DVA-225(アイティ-計測制御社製)
・変形モード:せん断
・歪み:0.1%
・測定温度:-100~20℃
・測定周波数:1Hz
【0138】
実施例に先立ち、以下のようにアクリル系樹脂(A1)およびアクリル系樹脂(A2)を製造した。
【0139】
〈アクリル系樹脂(A1)の製造〉
〔アクリル系樹脂(A1-1)〕
冷却器付きの2Lフラスコに、重合溶剤として酢酸エチル24部(沸点77℃)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN、半減温度52℃)0.01部をフラスコ内で加熱還流し、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)39.0部、メチルアクリレート(MA)6.0部、エチルアクリレート(EA)6.0部、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)9.0部、アセトン6部、ADVN0.1部を予め混合した溶液を3時間かけて滴下した。滴下後、30分後にADVN 0.1部を1時間かけて滴下して反応させアクリル系樹脂(A1-1)溶液を得た。得られたアクリル系樹脂(A1-1)のガラス転移温度は、-22℃、重量平均分子量は、53.5万であった。
【0140】
〔アクリル系樹脂(A1-2)~(A1-4)、(A1-6)〕
上記のアクリル系樹脂(A1-1)の重合成分を表1の通りにした以外は(A1-1)の製造方法に準じて行いアクリル系樹脂(A1-2)~(A1-4)、(A1-6)溶液を得た。
【0141】
〔アクリル系樹脂(A1-5)〕
冷却器付きの2Lフラスコに、重合溶剤として酢酸エチル37部(沸点77℃)、メチルエチルケトン63部(沸点80℃)、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、半減温度65℃)0.3部をフラスコ内で加熱還流し、メチルメタクリレート(MMA)100部、酢酸エチル3部、AIBN0.3部を予め混合した溶液を2時間かけて滴下した。滴下後、60分後にAIBN 0.2部を追加し、反応させアクリル系樹脂(A1-5)溶液を得た。得られたアクリル系樹脂(A1-5)の重量平均分子量は、4.7万であった。なお、アクリル系樹脂(A1-5)のガラス転移温度については、上記測定方法では測定できないものである。
【0142】
得られたアクリル系樹脂(A1)のモノマー組成(出来上がり成分由来の構造単位)、重量平均分子量、およびガラス転移温度(Tg)の結果を下記表1に併せて示す。
【0143】
【表1】
【0144】
〈アクリル系樹脂(A2)の製造〉
〔アクリル系樹脂(A2-1)〕
冷却器付きの2Lフラスコに、重合溶剤として酢酸エチル24部(沸点77℃)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN、半減温度52℃)0.01部をフラスコ内で加熱還流し、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)39.0部、エチルアクリレート(EA)12.0部、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)6.0部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)3.0部、アセトン6部、ADVN 0.6部を予め混合した溶液を3時間かけて滴下した。滴下後、30分後にADVN 0.1部を1時間かけて滴下して反応してアクリル系樹脂(A2-1)溶液を得た。得られたアクリル系樹脂(A2-1)のガラス転移温度は、-28℃、重量平均分子量は、56.2万であった。
【0145】
〔アクリル系樹脂(A2-2)~(A2-7)〕
上記のアクリル系樹脂(A2-1)の重合成分を表2の通りにした以外は(A2-1)の製造方法に準じて行いアクリル系樹脂(A2-1)~(A2-7)溶液を得た。
【0146】
得られたアクリル系樹脂(A2)の樹脂組成(出来上がり成分由来の構造単位)、重量平均分子量、およびガラス転移温度(Tg)の結果を下記表2に併せて示す。
【0147】
【表2】
【0148】
上記で得られたアクリル系樹脂(A1)およびアクリル系樹脂(A2)を用いて、実施例および比較例の粘着剤組成物を製造した。
【0149】
<実施例1>
アクリル系樹脂(A1-1)溶液(固形分換算で60部)とアクリル系樹脂(A2-1)溶液(固形分換算で40部)とを混合してアクリル系樹脂(A-1)を得た。アクリル系樹脂(A-1)におけるアクリル系樹脂(A1-1)とアクリル系樹脂(A2-1)とのガラス転移温度の差は6℃であり、アクリル系樹脂(A-1)のガラス転移温度は、-23℃であった。
つぎに、このアクリル系樹脂(A-1)溶液を還流液抜出管を備えたフラスコにて溶剤を系外に留去できるようにし、90℃にて1時間、更に10kPaに減圧して90℃にて2時間保持して溶剤の留去を行った。
上記溶剤を留去したアクリル系樹脂(A-1)100部に対して、トリメチロールプロパントリアクリレート(多官能モノマー)を5部、光重合開始剤として、Omnirad 184(IGM Resins B.V.社製)0.25部およびOmnirad 754(IGM Resins B.V.社製)0.5部を混合し、粘着剤組成物[I-1]を得た。
【0150】
<実施例2>
アクリル系樹脂(A1-2)溶液(固形分換算で55部)とアクリル系樹脂(A2-2)溶液(固形分換算で45部)とを混合してアクリル系樹脂(A-2)を得た。アクリル系樹脂(A-2)におけるアクリル系樹脂(A1-2)とアクリル系樹脂(A2-2)とのガラス転移温度の差は5℃であり、アクリル系樹脂(A-2)のガラス転移温度は、-23℃であった。
つぎに、実施例1と同様にしてアクリル系樹脂(A-2)溶液から溶剤の留去を行った。
上記溶剤を留去したアクリル系樹脂(A-2)100部に対して、トリメチロールプロパントリアクリレート(多官能モノマー)を5部、光重合開始剤として、Omnirad 184(IGM Resins B.V.社製)0.25部およびベンゾフェノン0.25部を混合し、粘着剤組成物[I-2]を得た。
【0151】
<実施例3>
アクリル系樹脂(A1-3)溶液(固形分換算で55部)とアクリル系樹脂(A2-3)溶液(固形分換算で45部)とを混合してアクリル系樹脂(A-3)を得た。アクリル系樹脂(A-3)におけるアクリル系樹脂(A1-3)とアクリル系樹脂(A2-3)とのガラス転移温度の差は6℃であり、アクリル系樹脂(A-3)のガラス転移温度は、-22℃であった。
つぎに、実施例1と同様にしてアクリル系樹脂(A-3)溶液から溶剤の留去を行った。
上記溶剤を留去したアクリル系樹脂(A-3)100部に対して、トリメチロールプロパントリアクリレート(多官能モノマー)を5部、光重合開始剤として、Omnirad 184(IGM Resins B.V.社製)0.25部およびOmnirad 754(IGM Resins B.V.社製)0.5部を混合し、粘着剤組成物[I-3]を得た。
【0152】
<実施例4>
アクリル系樹脂(A1-1)溶液(固形分換算で60部)とアクリル系樹脂(A2-4)溶液(固形分換算で40部)とを混合してアクリル系樹脂(A-4)を得た。アクリル系樹脂(A-4)におけるアクリル系樹脂(A1-1)とアクリル系樹脂(A2-4)とのガラス転移温度の差は4℃であり、アクリル系樹脂(A-4)のガラス転移温度は、-22℃であった。
つぎに、実施例1と同様にしてアクリル系樹脂(A-4)溶液から溶剤の留去を行った。
上記溶剤を留去したアクリル系樹脂(A-4)100部に対して、トリメチロールプロパントリアクリレート(多官能モノマー)を5部、光重合開始剤として、Omnirad
184(IGM Resins B.V.社製)0.25部およびOmnirad 754(IGM Resins B.V.社製)0.5部を混合し、粘着剤組成物[I-4]を得た。
【0153】
<比較例1>
アクリル系樹脂(A1-1)溶液を実施例1と同様にして溶剤の留去を行った。
上記溶剤を留去したアクリル系樹脂(A1-1)100部に対して、トリメチロールプロパントリアクリレート(多官能モノマー)を5部、光重合開始剤として、Omnirad 754(IGM Resins B.V.社製)0.5部を混合し、粘着剤組成物[I’-1]を得た。
【0154】
<比較例2>
アクリル系樹脂(A1-4)溶液を実施例1と同様にして溶剤の留去を行った。
上記溶剤を留去したアクリル系樹脂(A1-4)100部に対して、トリメチロールプロパントリアクリレート(多官能モノマー)を5部、光重合開始剤として、Omnirad 754(IGM Resins B.V.社製)0.5部を混合し、粘着剤組成物[I’-2]を得た。
【0155】
<比較例3>
アクリル系樹脂(A2-5)溶液を実施例1と同様にして溶剤の留去を行った。
上記溶剤を留去したアクリル系樹脂(A2-5)100部に対して、トリメチロールプロパントリアクリレート(多官能モノマー)を5部、光重合開始剤として、Omnirad 184(IGM Resins B.V.社製)0.25部およびOmnirad 754(IGM Resins B.V.社製)0.25部を混合し、粘着剤組成物[I’-3]を得た。
【0156】
<比較例4>
アクリル系樹脂(A1-5)溶液(固形分換算で10部)とアクリル系樹脂(A2-6)溶液(固形分換算で90部)とを混合してアクリル系樹脂(A’-1)を得た。
つぎに、アクリル系樹脂(A’-1)溶液から溶剤の留去を行った。
上記溶剤を留去したアクリル系樹脂(A’-1)100部に対して、トリメチロールプロパントリアクリレート(多官能モノマー)を10部、光重合開始剤として、Omnirad 184(IGM Resins B.V.社製)0.25部およびOmnirad 754(IGM Resins B.V.社製)0.75部を混合し、粘着剤組成物[I’-4]を得た。
【0157】
<比較例5>
アクリル系樹脂(A1-6)溶液(固形分換算で60部)とアクリル系樹脂(A2-7)溶液(固形分換算で40部)とを混合してアクリル系樹脂(A’-2)を得た。
つぎに、アクリル系樹脂(A’-2)溶液から溶剤の留去を行った。
上記溶剤を留去したアクリル系樹脂(A’-2)100部に対して、トリメチロールプロパントリアクリレート(多官能モノマー)を5部、光重合開始剤として、Omnirad 184(IGM Resins B.V.社製)0.25部およびOmnirad 754(IGM Resins B.V.社製)0.5部を混合し、粘着剤組成物[I’-5]を得た。
【0158】
上記で得られた実施例1~4および比較例1~5の粘着剤組成物の配合組成を下記表3に示す。
【0159】
【表3】
【0160】
得られた実施例1~4および比較例1~5の粘着剤組成物を用いて以下のように基材レス両面粘着シートおよび、粘着剤層付きPETシートを作製した。
【0161】
<基材レス両面粘着シートおよび、粘着剤層付きPETシートの作製>
上記で得られた粘着剤組成物を、ポリエステル系離型シート(厚み176μm)に挟み、粘着剤層の厚みが160μmとなるように100℃で加熱しながらプレスし、更に高圧水銀UV照射装置にて、ピーク照度:150mW/cm2、積算露光量:1000mJ/cm2(500mJ/cm2×2パス)で紫外線照射を行うことで基材レス両面粘着シートを得た。この際、粘着剤組成物が粘着剤となる。
また、上記で得られた基材レス両面粘着シートの粘着剤層から一方の面の離型シートを剥がし、易接着処理ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(厚み125μm)に押圧し、粘着剤層の厚みが160μmの粘着剤層付きPETシートを得た。
【0162】
上記で得られた実施例1~4および比較例1~5の基材レス両面粘着シートおよび、粘着剤層付きPETシートを用いて、ゲル分率、粘着力、折り曲げ耐久性、および耐湿熱ヘイズ性の評価を行った。結果を後記表4に示す。
なお、比較例4,5に関しては、相溶性が悪いため、ゲル分率と耐湿熱性試験前のヘイズの値のみの評価を行った。
【0163】
〔ゲル分率〕
上記基材レス両面粘着シートを40mm×40mmの大きさに裁断した後、高圧水銀UV照射装置にて、ピーク照度:150mW/cm2、積算露光量:2000mJ/cm2(1000mJ/cm2×2パス)で紫外線照射を行い、23℃×50%RHの条件下で30分間静置した後、一方の離型シートを剥がし、粘着剤層側を50mm×100mmの大きさのSUSメッシュシート(200メッシュ)に貼合した後、もう一方の離型シートを剥離し、SUSメッシュシートの長手方向に対して中央部より折り返してサンプルを包み込んだ後、トルエン250gの入った密封容器にて24時間浸漬して、トルエン浸漬前の粘着剤層の重量に対する、SUSメッシュシートに残存した不溶解の粘着剤層の重量百分率をゲル分率(%)とした。
【0164】
〔粘着力〕
上記粘着剤層付きPETシートについて、幅25mm×長さ100mmの大きさに裁断し、高圧水銀UV照射装置にて、ピーク照度:150mW/cm2、積算露光量:2000mJ/cm2(1000mJ/cm2×2パス)で紫外線照射を行った後、離型シートを剥離して、粘着剤層側を無アルカリガラス(コーニング社製「イーグルXG」、厚み1.1mm)に23℃、50%RHの雰囲気下、2kgゴムローラー2往復で加圧貼付し、23℃×50%RHの条件下で30分間静置した後、常温(23℃)で剥離速度300mm/minで180度剥離強度(N/25mm)を測定した。
【0165】
〔折り曲げ耐久性〕
上記粘着剤層付きPETシートについて、粘着シートの粘着剤層側を23℃、50%RH環境下で透明ポリイミドシート(厚み50μm)に押圧し、「PETシート/粘着剤層/ポリイミドシート」の層構成の試験片を得た。
その後、上記試験片についてPETシート側より高圧水銀UV照射装置にて、ピーク照度:150mW/cm2、積算露光量:2000mJ/cm2(1000mJ/cm2×2パス)で紫外線照射を行った後、幅40mm×長さ120mmの大きさに裁断し、下記の通り繰り返し折り曲げ試験を行った。
繰り返しの折り曲げ試験は、23℃、50%RH環境下にてPETシート側を内側になるように実施し、試験条件は以下の通りである。
[試験条件]試験機器:面状体無負荷U字伸縮試験機
DLDM111LH(ユアサシステム機器社製)屈曲速度:40回/min屈曲直径:5mmかかる繰り返し折り曲げ試験において、目視で外観変化のない回数を測定し、下記の基準にて評価した。
◎・・・20万回以上
○・・・10万回以上、20万回未満
×・・・10万回未満
【0166】
〔耐湿熱ヘイズ性〕
上記粘着剤層付きPETシートについて、幅30mm×長さ50mmの大きさに裁断し、高圧水銀UV照射装置にて、ピーク照度:150mW/cm2、積算露光量:2000mJ/cm2(1000mJ/cm2×2パス)で紫外線照射を行った後、離型シートを剥離して、粘着剤層側を無アルカリガラス(コーニング社製「イーグルXG」、厚み1.1mm)に貼り合わせた後、オートクレーブ処理(50℃、0.5MPa、20分間)を行い、23℃×50%RHの条件下で30分間静置し、「無アルカリガラス/粘着剤層/PETシート」の構成を有する試験片を作製した。
【0167】
得られた試験片を用いて、60℃、90%RH雰囲気下で7日間(168時間)の耐湿熱性試験を行い、耐湿熱性試験開始前と、耐湿熱性試験直後のヘイズ値を測定した。ヘイズ値は、拡散透過率および全光線透過率を、HAZE MATER NDH2000(日本電色工業社製)を用いて測定し、得られた拡散透過率(DT)と全光線透過率(TT)の値を下記式1に代入して、ヘイズ値を算出した。その後下記式2からヘイズ値の差を算出した。なお、本機はJIS K7361-1に準拠している。
[式1]
ヘイズ値(%)=(DT/TT)×100
[式2]
ヘイズ値の差(%)=H2-H1
上記H1は耐湿熱性試験前のヘイズ値、H2は耐湿熱性試験直後のヘイズ値を示す。
【0168】
【表4】
【0169】
上記表4からわかるように、実施例1~4は、粘着力、折り曲げ耐久性、および耐湿熱ヘイズ性のすべてがバランスよく優れるものであった。
一方、比較例1~3は、粘着力、折り曲げ耐久性、および耐湿熱ヘイズ性のすべてがバランスよく優れるものはなかった。更に、比較例4、5については、相溶性が悪く透明性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の粘着剤層および、それを形成する粘着剤組成物は、粘着力、折り曲げ耐久性、および耐湿熱ヘイズ性に優れるため、タッチパネルおよび画像表示装置等や、衝撃吸収シート等に好適に用いることができる。