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特許7392412光学フィルタ、並びにこれを用いた光学装置及び指紋検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】光学フィルタ、並びにこれを用いた光学装置及び指紋検出装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20231129BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20231129BHJP
   G03B 11/00 20210101ALI20231129BHJP
   H04N 23/56 20230101ALI20231129BHJP
   H04N 23/55 20230101ALI20231129BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B5/28
G03B11/00
H04N23/56
H04N23/55
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019207415
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021081520
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】折田 雄一朗
(72)【発明者】
【氏名】中山 元志
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/168090(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/022069(WO,A1)
【文献】特開2017-072748(JP,A)
【文献】特開2009-003821(JP,A)
【文献】特開2013-210585(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0146708(US,A1)
【文献】特開2012-185468(JP,A)
【文献】特開2016-071278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 5/28
G03B 11/00
H04N 23/56
H04N 23/55
H04N 5/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と撮像素子との間に位置し、光の入射方向から見た時に、光の入射面側に前記発光素子が配置され、光の出射面側に前記撮像素子が配置された状態で使用される光学フィルタであって、
前記光学フィルタは、樹脂層と該樹脂層の両面に配置された多層膜とを備え、前記樹脂層は波長600nm以上に吸収極大を有する色素を少なくとも1種類含有する吸収層を備え、前記多層膜の少なくとも一方は反射率調整膜であり、
前記多層膜が、両面の層数の合計が20層以下であり、かつ総厚み(h )が5μm以下であり、
前記光学フィルタは、下記条件(a)、(e)及び(f)を満たすことを特徴とする光学フィルタ。
(a)前記樹脂層の厚み(h)と前記多層膜の総厚み(h)の比(h/h)が0.1以下
(e)500~600nmの波長帯域における透過率の平均値が80%以上
(f)700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が15%以下
【請求項2】
樹脂層と該樹脂層の両面に配置された多層膜とを備えた光学フィルタであって、
前記樹脂層は波長600nm以上に吸収極大を有する色素を少なくとも1種類含有する吸収層を備え、前記多層膜の少なくとも一方は反射率調整膜であり、
前記多層膜が、両面の層数の合計が20層以下であり、かつ総厚み(h )が5μm以下であり、
前記光学フィルタは、下記条件(a)、(e)及び(f)を満たすことを特徴とする光学フィルタ。
(a)前記樹脂層の厚み(h )と前記多層膜の総厚み(h )の比(h /h )が0.1以下
(e)500~600nmの波長帯域における透過率の平均値が80%以上
(f)700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が15%以下
【請求項3】
前記発光素子が、前記光学フィルタと向かい合う面の面積が50cm以上、かつ700nm~850nmの波長帯域における反射率が80%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記光学フィルタと前記発光素子の間、及び、前記光学フィルタと前記撮像素子の間にそれぞれ、10μm以上の空隙が存在するように配置されることを特徴とする請求項1又はに記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記光学フィルタが、下記条件(b)~(c)を満たすことを特徴とする請求項1、3又は4に記載の光学フィルタ。
(b)総厚みが60μm以下
(c)前記発光素子と向かい合う面の面積が50cm以上
【請求項6】
前記光学フィルタが、下記条件(b)を満たすことを特徴とする請求項2に記載の光学フィルタ。
(b)総厚みが60μm以下
【請求項7】
前記樹脂層が、透明樹脂基材と該透明樹脂基材の両面に積層された前記吸収層を備える樹脂積層体であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記樹脂層の総厚み(h)が40μm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
前記吸収層が、波長600nm以上800nm未満に吸収極大を有する色素と波長800nm以上900nm未満に吸収極大を有する色素を少なくとも1種類ずつ含むことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記樹脂層が下記条件(d)を満たすことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(d)700~850nmの波長帯域における内部透過率の平均値が35%以
【請求項11】
前記樹脂層が、下記条件(g)~(j)を満たすことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(g)700~850nmの波長帯域における内部透過率の最大値が35%以下
(h)700~850nmの波長帯域における内部透過率の平均値が30%以下
(i)500~600nmの波長帯域における内部透過率の平均値が85%以上
(j)400~500nmの波長帯域における内部透過率の平均値が70%以上
【請求項12】
前記多層膜が、両面を合わせた膜として、下記条件(k)~(m)を満たすことを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(k)500~1000nmの波長帯域における透過率の最大値と最小値の半値が600~700nmの範囲にある
(l)450~600nmの波長帯域における透過率の平均値が90%以上
(m)700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が55%以下
【請求項13】
前記光学フィルタが、下記条件(n)~(p)を満たすことを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(n)600~700nmの波長帯域の範囲に透過率が50%となる波長を有する
(o)500~600nmの波長帯域における透過率の平均値が85%以上
(p)700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が10%以下
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の光学フィルタと、発光素子と、撮像素子とを備えたことを特徴とする光学装置。
【請求項15】
請求項14に記載の光学装置を備えたことを特徴とする指紋検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学フィルタ、並びに当該光学フィルタを用いた光学装置及び指紋検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等のディスプレイ内指紋認証方式の一つとして、光学式指紋認証がある。これは、例えば、有機薄膜撮像素子(有機薄膜CMOSセンサー)、近赤外線カットフィルタ、有機発光素子(OLED)が空気層を介してこの順に積層され、その最表面がカバーガラスで覆われた構成となっている。
【0003】
この指紋認証方式では、カバーガラス表面を指圧することにより、OLEDから波長500~600nm程度の光が発光され、かかる光が指表面で反射される。この際、指表面の指紋による凹凸で反射率に差が生じ、この差をCMOSにて検知することで、指紋が認証される。
【0004】
しかしながら、例えば屋外で指紋認証を行うと、太陽光等の光のうち、波長600~1000nm程度の領域である近赤外線波長領域の光は、指を透過することから、ノイズとなって指紋認証の精度が低下する。そこで、波長600nm以上の光を選択的にカットするために、近赤外線カットフィルタ等の光学フィルタが使用される。
【0005】
このような光学フィルタとして、例えば、特許文献1には、ガラス基板の少なくとも片面に樹脂層を有する積層板を含み、該積層板の少なくとも片面に誘電体多層膜を有する近赤外線カットフィルタが提案されている。特許文献1の近赤外線カットフィルタは、所定波長領域における透過率が特定範囲とされ、フィルタにおける透過特性の光の入射角度依存性が小さく調節されている。
【0006】
また、特許文献2、3には光学フィルタの基材として樹脂基材を用いたものが提案されている。例えば、特許文献2には、支持体と該支持体の両面に樹脂層を有してなる樹脂シートを含む光選択透過フィルター用基材を含む光選択透過フィルターが提案されている。特許文献2の光選択透過フィルターは、樹脂層の少なくとも1層が色素を含み、この色素により特定波長の光を吸収できるとされている。
【0007】
特許文献3には、600~800nmの波長域に吸収極大を有する色素を含有する樹脂層と支持体フィルムとからなる樹脂シートと、該樹脂シートの少なくとも一方の表面に形成されてなる赤外線を反射する無機多層膜である光学多層膜とを含む光選択透過フィルターが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-103340号公報
【文献】特開2013-210585号公報
【文献】特開2013-228759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ガラス基材を用いた光学フィルタは、厚みは変えずにフィルタ面積を大きくすると、外からの力を受けたときに割れ・欠けのリスクが高くなる。また、光学装置の低背化のために薄いガラス基材を用いる場合、強度が低下してしまい、割れのリスクが高くなる。よって、指紋検出装置のような比較的大画面のディスプレイを備える光学装置での使用が求められるものについては採用し難かった。一方、樹脂基材を用いた光学フィルタは大面積化・低背化しやすいという利点はあるが、大面積化した際にフィルタに反りが発生しやすくなるという課題があった。
【0010】
そこで、本発明は、50cm以上の大面積とした場合であっても反りが抑制され、かつ近赤外線波長領域の光を遮蔽でき、可視光領域の透明性に優れる光学フィルタ、並びに当該光学フィルタを用いた光学装置及び指紋検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、近赤外線波長領域の光を遮蔽するために樹脂基材に積層する多層膜の層数を多くして膜厚が厚くなることにより、光学フィルタを大面積化した際に多層膜厚みの面内分布が大きくなり反りが発生することが分かった。そして、樹脂基材の厚みに対して多層膜の総厚みを10分の1以下とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は下記[1]~[14]に関するものである。
[1]発光素子と撮像素子との間に位置し、光の入射方向から見た時に、光の入射面側に前記発光素子が配置され、光の出射面側に前記撮像素子が配置された状態で使用される光学フィルタであって、
前記光学フィルタは、樹脂層と該樹脂層の両面に配置された多層膜とを備え、前記樹脂層は波長600nm以上に吸収極大を有する色素を少なくとも1種類含有する吸収層を備え、前記多層膜の少なくとも一方は反射率調整膜であり、
前記光学フィルタは、下記条件(a)を満たすことを特徴とする光学フィルタ。
(a)前記樹脂層の厚み(h)と前記多層膜の総厚み(h)の比(h/h)が0.1以下
[2]前記発光素子が、前記光学フィルタと向かい合う面の面積が50cm以上、かつ700nm~850nmの波長帯域における反射率が80%以下であることを特徴とする前記[1]に記載の光学フィルタ。
[3]前記光学フィルタと前記発光素子の間、及び、前記光学フィルタと前記撮像素子の間にそれぞれ、10μm以上の空隙が存在するように配置されることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の光学フィルタ。
[4]前記光学フィルタが、下記条件(b)~(c)を満たすことを特徴とする前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(b)総厚みが60μm以下
(c)前記発光素子と向かい合う面の面積が50cm以上
[5]前記樹脂層が、透明樹脂基材と該透明樹脂基材の両面に積層された前記吸収層を備える樹脂積層体であることを特徴とする前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
[6]前記多層膜が、両面の層数の合計が20層以下であり、かつ総厚み(h)が5μm以下であることを特徴とする前記[1]~[5]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
[7]前記樹脂層の総厚み(h)が40μm以下であることを特徴とする前記[1]~[6]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
[8]前記吸収層が、波長600nm以上800nm未満に吸収極大を有する色素と波長800nm以上900nm未満に吸収極大を有する色素を少なくとも1種類ずつ含むことを特徴とする前記[1]~[7]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
[9]前記樹脂層が下記条件(d)を満たし、
(d)700~850nmの波長帯域における内部透過率の平均値が35%以下
かつ、
前記光学フィルタが下記条件(e)~(f)を満たすことを特徴とする前記[1]~[8]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(e)500~600nmの波長帯域における透過率の平均値が80%以上
(f)700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が15%以下
[10]前記樹脂層が、下記条件(g)~(j)を満たすことを特徴とする前記[1]~[9]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(g)700~850nmの波長帯域における内部透過率の最大値が35%以下
(h)700~850nmの波長帯域における内部透過率の平均値が30%以下
(i)500~600nmの波長帯域における内部透過率の平均値が85%以上
(j)400~500nmの波長帯域における内部透過率の平均値が70%以上
[11]前記多層膜が、両面を合わせた膜として、下記条件(k)~(m)を満たすことを特徴とする前記[1]~[10]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(k)500~1000nmの波長帯域における透過率の最大値と最小値の半値が600~700nmの範囲にある
(l)450~600nmの波長帯域における透過率の平均値が90%以上
(m)700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が55%以下
[12]前記光学フィルタが、下記条件(n)~(p)を満たすことを特徴とする前記[1]~[11]のいずれか1つに記載の光学フィルタ。
(n)600~700nmの波長帯域の範囲に透過率が50%となる波長を有する
(o)500~600nmの波長帯域における透過率の平均値が85%以上
(p)700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が10%以下
[13]前記[1]~[12]のいずれか1つに記載の光学フィルタと、発光素子と、撮像素子とを備えたことを特徴とする光学装置。
[14]前記[13]に記載の光学装置を備えたことを特徴とする指紋検出装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光学フィルタを樹脂層と該樹脂層の両面に配置された多層膜とで構成し、樹脂層の厚み(h)に対する多層膜の総厚み(h)の比(h/h)を0.1以下にするので、光学フィルタを50cm以上の大面積化した場合でも光学フィルタの反りを抑制できる。また、樹脂層が600nm以上に吸収極大を有する色素を少なくとも1種類含有する吸収層を備え、多層膜の少なくとも一方が反射率を調整する機能を有するので、光学フィルムが近赤外線波長領域における遮蔽性と可視光領域における透明性を十分に備える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態に係る光学装置の構成を示す概略図である。
図2図2は、本実施形態に係る光学フィルタの一例を示す断面図である。
図3図3は、本実施形態の他の光学フィルムの一例を示す断面図である。
図4図4は、樹脂層1~4の透過スペクトルである。
図5図5は、例1~8の光学フィルタにおける透過スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、特定の波長域について、例えば「透過率が80%以上」とは、その全波長領域において透過率が80%を下回らないことをいい、同様に例えば「透過率が10%以下」とは、その全波長領域において透過率が10%を超えないことをいう。特定の波長域における平均透過率は、該波長域の1nm毎の透過率の相加平均である。後述する内部透過率の平均値も同様に、該波長域の1nm毎の相加平均である。
本明細書において、内部透過率とは、{実測透過率/(100-反射率)}×100の式で示される、実測透過率から界面反射の影響を引いて得られる透過率である。本明細書において、樹脂基材の透過率、吸収層等の色素が透明樹脂に含有されて測定される層の透過率の分光は、「透過率」と記載されている場合も全て「内部透過率」として扱う。一方、多層膜を有する光学フィルタの透過率は、実測透過率として扱う。
【0016】
[光学フィルタ]
図1に示すように、本実施形態に係る光学フィルタ10は、発光素子20と撮像素子30との間に位置し、光の入射方向Dから見た時に、光の入射面側に発光素子20が配置され、光の出射面側に撮像素子30が配置された状態で使用される。
【0017】
また、本実施形態の光学フィルタ10は、図2に示すように、樹脂層1と、該樹脂層1の両面に配置された多層膜3a,3bとを有する。ここで、樹脂層1は、波長600nm以上に吸収極大を有する色素を少なくとも1種類含有する吸収層12を備え、多層膜3a,3bの少なくとも一方は、反射率を調整する機能を有する反射率調整膜である。
そして、本実施形態の光学フィルタ10は、下記条件(a)を満たしている。
(a)樹脂層の厚み(h)と多層膜の総厚み(h)の比(h/h)が0.1以下
以下、各層について説明する。
【0018】
(樹脂層)
樹脂層は、波長600nm以上に吸収極大を有する色素を少なくとも1種類含有する吸収層を備える。樹脂層は近赤外線波長領域の光の透過を抑制又は低減できるものであればよく、単層であってもよいし、多層であってもよい。
樹脂層が前記吸収層を備えることで、光学フィルタの表面に位置する多層膜表面での近赤外線波長領域の反射率が低い場合であっても、光学フィルタ全体として近赤外線波長領域の光の透過を抑制できる。そのため、近赤外線波長領域の光の反射率が低い多層膜も使用でき、また、光学フィルタを発光素子と対向させた場合でも多重反射迷光の発生が抑制されるとともに、多層膜の膜厚を薄くできる。
【0019】
<単層構造の樹脂層>
樹脂層が単層で構成される場合について説明する。樹脂層が単層である場合、当該樹脂層は吸収層である。吸収層は、樹脂と、少なくとも1種類の波長600nm以上に吸収極大を有する色素とを含む。
【0020】
樹脂としては、特に限定されず、従来公知の樹脂を使用できる。例えば、ノルボルネン樹脂等のシクロオレフィンポリマー(COP)又はシクロオレフィンコポリマー(COC);ポリイミド樹脂(PI);ポリカーボネート樹脂(PC);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂;フッ素樹脂;ポリビニルブチラール樹脂;ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
中でも、可視光域の透明性(T400~T700)、耐熱性、ガラス転移温度を両立できる観点から、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる基材であることが好ましい。
なかでも可視光域の透明性(T400~T700)、耐熱性に加え、多層膜との密着性を両立できる観点からポリエチレンテレフタレートとポリイミドが特に好ましい。
【0021】
色素は、波長600nm以上に吸収極大を有するものであれば特に限定されず、従来公知の色素化合物を使用できる。例えば、ポリメチン骨格を伸ばしたシアニン色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン化合物、平面四配位構造を有するニッケルジチオレン錯体、スクアリリウム色素、キノン系化合物、イモニウム色素、アゾ化合物、クロコニウム色素、ピロロピロール系化合物等が挙げられる。
中でも、波長600~800nmに吸収極大を持つ色素化合物として、スクアリリウム色素やシアニン色素、フタロシアニン色素等が挙げられる。
波長800~900nmに吸収極大を持つ色素化合物として、スクアリリウム色素やシアニン色素、フタロシアニン色素、クロコニウム色素、ピロロピロール系化合物等が挙げられる。
波長900~1000nmに吸収極大を持つ色素化合物として、スクアリリウム色素やシアニン色素、イモニウム色素、フタロシアニン色素、クロコニウム色素、ピロロピロール系化合物等が挙げられる。
【0022】
色素は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、異なる波長に吸収極大を持つ色素を2種類以上組み合わせることで、より広範囲の近赤外線波長領域における光を吸収し、透過率を下げられる。吸収層は、例えば、波長600nm以上800nm未満に吸収極大を有する色素と波長800nm以上900nm未満に吸収極大を有する色素を少なくとも1種類ずつ含むことが好ましい。上記波長範囲に吸収極大を有する色素を組み合わせて用いることに加えて、含有される色素としては、波長400~600nmの可視光領域の透過率が高い色素(例えば、スクアリリウム色素、シアニン色素、イモニウム色素、ピロロピロール系化合物等)から選ばれることがより好ましい。
吸収層はさらに、本発明の効果を損なわない範囲で、900nmよりも長波長に吸収を有する色素を含んでもよい。
【0023】
吸収層は、上記した樹脂と色素化合物以外に、任意の成分を含有できる。
任意成分としては、例えば、密着性付与剤、UV吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等が挙げられる。
【0024】
吸収層は、色素化合物を樹脂中に均一に溶解又は分散させて得られる。吸収層の製造には公知の製造方法を適用できる。
例えば、1種又は2種以上の色素化合物と、前記色素化合物を溶解又は分散する樹脂と、必要に応じて任意成分との混合物を押出成形することで、フィルム状に成形された吸収層が得られる。
【0025】
また、1種又は2種以上の色素化合物と、前記色素化合物を溶解又は分散する樹脂と、必要に応じて任意成分とを、溶媒又は分散媒に溶解又は分散させて調製した塗工液を、剥離性の支持体の表面に所望の厚さに塗工、乾燥させ、必要に応じて硬化させた後に、剥離性の支持体から剥離することでも吸収層を形成できる。
なお、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。塗工液を塗工する際には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、ダイコート法またはスピンコート法等を使用できる。
【0026】
樹脂層が吸収層からなる単層構造の場合、吸収層中の色素の濃度は、樹脂に対して0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましい。色素の濃度は、高くなりすぎると樹脂に溶解し難くなる場合や可視光領域の透過率を下げてしまう場合がある。また、色素の濃度が濃くなると、樹脂のガラス転移温度(Tg)を下げてしまい、耐熱性が悪くなったり、多層膜との密着性が下がる場合がある。よって、色素の析出や可視光領域の透過率の損失を防ぐ、または樹脂の特性を損なわないという観点から、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0027】
樹脂層が吸収層からなる単層構造の場合、吸収層、すなわち樹脂層の厚み(h)は40μm以下であることが好ましい。樹脂層(吸収層)の厚み(h)が40μm以下であると、光学フィルタを低背化できる。樹脂層(吸収層)の厚みは37μm以下であることがより好ましく、35μm以下がさらに好ましい。また、プロセス上のハンドリングの観点から樹脂層(吸収層)の厚みは20μm以上であることが好ましく、25μm以上がより好ましい。
【0028】
<多層構造の樹脂層>
樹脂層が多層構造である場合、図3に示すように、樹脂層1は、透明樹脂基材11と該透明樹脂基材11に積層される吸収層12a,12bとを備える樹脂積層体であることが好ましい。吸収層は透明樹脂基材の少なくとも一方の表面に設けられていればよいが、光学フィルタの反りを抑制するという観点から、透明樹脂基材の両面に設けられることが好ましい。
【0029】
吸収層中の残留溶媒が多い場合、吸収層中の色素の劣化を招くことがある。樹脂層が透明樹脂基材を有することで、吸収層を薄く成膜できるので、低温でも吸収層の塗工溶媒を除去しやすく、残留溶媒量を減らせる。また、透明樹脂基材と吸収層との積層体とすることで、吸収層の樹脂を任意に選択することができ、耐熱性や多層膜との密着性等樹脂層に求められる特性に応じて、使用する樹脂を任意に変更できる。
【0030】
透明樹脂基材は、発光素子からの光に対する平均透過率が高い基材であればよく、例えば、波長500~600nmにおける平均透過率が高い基材が好ましく、かかる平均透過率は95%以上がより好ましく、99%以上が特に好ましい。
また、光による黄変等の抑制の観点から、可視光の光を透過する透明基材が好ましく、例えば、波長350~500nmにおける平均透過率が高い透明基材がより好ましく、かかる平均透過率は90%以上がさらに好ましい。
【0031】
透明樹脂基材には、上記<単層構造の樹脂層>で例示した樹脂を使用できる。透明樹脂基材は製造してもよいし、市販されている樹脂フィルムを用いてもよい。透明樹脂基材を製造する場合は、公知の製造方法を適用できる。
【0032】
透明樹脂基材の厚みは、低背化とプロセス上のハンドリングの観点から10μm以上であることが好ましく、20μm以上がより好ましく、25μm以上がさらに好ましい。また、近赤外線波長領域の光を十分に吸収するための吸収層の厚みを確保するという観点から、透明樹脂基材の厚みは、38μm以下であることが好ましく、36μm以下がより好ましく、34μm以下がさらに好ましい。
【0033】
樹脂層が多層構造(樹脂積層体)である場合の吸収層は、単層の場合と同様に、樹脂と、少なくとも1種類の波長600nm以上に吸収極大を有する色素とを含む。
樹脂及び色素は上記したものを使用でき、好ましいものも同様である。また、吸収層に含有できる任意の成分についても同様である。
【0034】
吸収層中の色素の濃度は、近赤外線波長領域の光を吸収できれば特に限定されない。例えば、色素の濃度は樹脂に対して1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。色素の濃度は、高くなりすぎると樹脂に溶解し難くなる場合がある。また、色素の濃度が高くなると、樹脂のガラス転移温度(Tg)を下げてしまい、耐熱性が悪くなったり、多層膜との密着性が下がる場合がある。よって、色素の析出を防ぐ、または樹脂の特性を損なわないという観点から、色素の濃度は樹脂に対して30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0035】
多層構造(樹脂積層体)における吸収層の厚みは、近赤外線波長領域の光を十分に吸収するという観点から、片面の膜厚が0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.8μm以上がさらに好ましい。また、吸収層が厚すぎると、塗工の際に使用する溶媒が揮発しにくく、残存溶媒によって色素が劣化してしまう場合がある。よって、吸収層の厚みは、20μm以下であることが好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
【0036】
なお、樹脂層が多層構造(樹脂積層体)である場合も単層構造と同様に、樹脂層全体としての厚み(総厚み)(h)は40μm以下であることが好ましい。樹脂層の厚み(h)が40μm以下であると、光学フィルタを低背化できる。樹脂層の厚みは37μm以下であることがより好ましく、35μm以下がさらに好ましい。また、プロセス上のハンドリングの観点から樹脂層の厚みは20μm以上であることが好ましく、25μm以上がより好ましい。
【0037】
樹脂層を多層構造とする場合の樹脂積層体の製造方法としては、従来公知の製造方法を適用できる。
例えば、透明樹脂基材の表面に、1種又は2種以上の色素化合物と該色素化合物を溶解又は分散する樹脂とが混合された混合物をフィルム状に形成した吸収層を積層し、互いを接着して樹脂層を形成できる。また、1種又は2種以上の色素化合物と該色素化合物を溶解又は分散する樹脂とを溶媒又は分散液に溶解又は分散させて調製した塗工液を、透明樹脂基材の表面に塗工、乾燥させ、必要に応じて硬化させることでも樹脂層を形成できる。
【0038】
樹脂層が多層構造(樹脂積層体)である場合、光学フィルタの反りを抑制するという観点から、透明樹脂基材の両面に用いられる吸収層は、組成(使用される樹脂、色素)、色素濃度、膜厚を揃えた対称構成であることが好ましい。
【0039】
<樹脂層の分光特性>
本実施形態において、樹脂層は下記条件(d)を満たすことが好ましい。
(d)700~850nmの波長帯域における内部透過率の平均値が35%以下
700~850nmの波長帯域は、指を透過する光の波長帯域であって、ノイズとなり指紋認証の精度を低下させてしまう。樹脂層が条件(d)を満たすことで、近赤外線波長領域において指紋認証の際にノイズとなる700~850nmの光を吸収できるので、指紋認証の精度を向上できる。条件(d)における700~850nmの波長帯域における分光内部透過率の平均値は、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。また、700~850nmの波長帯域における光はほぼ吸収することが望ましいため下限は特に限定されないが、500~600nmの可視光領域における光の透過率を損なわない程度に吸収することが好ましい。
【0040】
本実施形態の樹脂層は、さらに、下記条件(g)~(j)を満たすことが好ましい。
(g)700~850nmの波長帯域における内部透過率の最大値が35%以下
(h)700~850nmの波長帯域における内部透過率の平均値が30%以下
(i)500~600nmの波長帯域における内部透過率の平均値が85%以上
(j)400~500nmの波長帯域における内部透過率の平均値が70%以上
【0041】
条件(g)は、700~850nmの波長帯域の光を均一に吸収することを示している。700~850nmの波長帯域における内部透過率の最大値が35%以下であると、樹脂層において近赤外線波長領域における指紋認証の際にノイズとなる700~850nmの光を均一に吸収できる。700~850nmの波長帯域における内部透過率の最大値は、30%以下であることがより好ましく、20%以下がさらに好ましい。また、700~850nmの波長帯域における光はほぼ吸収することが望ましいため下限は特に限定されないが、500~600nmの可視光領域における光の透過率を損なわない程度に吸収することが好ましい。
【0042】
条件(h)は上記条件(d)のさらに好ましい範囲である。700~850nmの波長帯域における内部透過率の平均値が30%以下であると、本発明の効果をより向上できる。
【0043】
条件(i)は、波長500~600nmの光の透過率が高いことを示している。500~600nmの波長帯域における内部透過率の平均値が85%以上であると、可視光領域の光の透過を妨げないので指で反射された発光素子からの光を十分に透過できる。500~600nmの波長帯域における内部透過率の平均値は、88%以上であることがより好ましく、90%以上がさらに好ましい。また、波長500~600nmの光の透過率は高ければ高いほど好ましいので、上限は特に限定されない。
【0044】
条件(j)は、500~600nmの波長帯域に加え、可視域全体の透過率が高いことを示している。400~500nmの波長帯域における内部透過率の平均値が70%以上であると、発光される光が500~600nmよりも短波長域の光を含んでいる発光素子が使用される場合であっても、発光素子からの光を十分に透過できることから、光学フィルタの適用の幅を広げられる。400~500nmの波長帯域における内部透過率の平均値は、72%以上であることがより好ましく、75%以上がさらに好ましい。また、波長400~500nmの光の透過率は高ければ高いほど好ましいので、上限は特に限定されない。
【0045】
上記の条件を満たすような樹脂層を得るには、吸収波長の異なる色素を複数組み合わせる方法、色素の濃度を調整する方法、吸収層の厚みを調整する方法等が挙げられる。
【0046】
(多層膜)
本実施形態の光学フィルタは、樹脂層の両面に多層膜が配置される。多層膜は、光学フィルタ表面の反射率の調整、樹脂層の保護、酸素バリア性を高め、吸収層における色素の耐光性を向上させる等のために設けられる。
【0047】
本実施形態の光学フィルムでは、多層膜の少なくとも一方は、反射率を調整する機能を有する反射率調整膜である。反射率を調整する機能とは、膜を構成する材料や、多層膜である場合にはその積層する態様によって、波長域選択性を付与したり、反射率又は透過率を所望の値にできることを意味する。
具体的には、特定の波長領域を反射する反射膜や、特定の波長領域の反射を防止する反射防止膜、偏光膜等が挙げられる。より具体的には、赤外線反射膜(赤外線カットフィルタ)、紫外線反射膜(紫外線カットフィルタ)、可視光反射防止膜、高反射膜、可視光透過膜(可視光バンドパスフィルタ)等が挙げられる。
【0048】
多層膜のうち一方が反射率調整膜であれば他方は別の機能を有する多層膜であってもよいが、光学フィルタの反りを抑制するためには、光学フィルタの層構成が対称であることが好ましいので、両面の多層膜がいずれも反射率調整膜であることが好ましい。
【0049】
反射率調整膜を多層膜とする場合、異なる2種以上の膜を繰り返し積層することにより、所望する光学特性が得られる。例えば、低屈折率材料を用いた膜(低屈折率膜)と高屈折率材料を用いた膜(高屈折率膜)とを交互に積層することで、反射膜や反射防止膜が得られる。また、中間屈折率材料を用いた膜も反射防止膜等に好適に用いられる。
【0050】
反射率調整膜が無機材料からなる誘電体膜から構成される多層膜である場合、無機材料としては、SiO、NaAl14、NaAlF、MgF、CaF、ZrO、Al、LaF、CF、MgO、Y、TiO、Ta、Nb、La、ZnS、ZnSe、CeO、LaTiO、SiON、SiN、HfO等が挙げられる。中でも、SiO、Al、ZrO、MgF、TiO、Ta、Nb及びLaからなる群より選ばれる2種以上の誘電体膜から構成される誘電体多層膜が好ましい。
【0051】
誘電体多層膜は、屈折率差を一定以上有する組を選択することが、反射率調整膜に付与する光学特性の点から好ましい。上記材料の中では、例えばSiO及びTiOを含む2種以上の誘電体膜から誘電体多層膜が構成されることが好ましく、SiO及びTiOの誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜がより好ましい。
【0052】
誘電体膜又は誘電体多層膜は、樹脂層に対して、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を用いることで形成できる。
【0053】
反射率調整膜は、無機材料のみならず、有機材料から形成される膜でもよく、例えばエネルギー硬化性樹脂から形成される膜が挙げられる。エネルギー硬化性樹脂から形成される膜とは、光エネルギーや熱エネルギーにより硬化する樹脂から形成される膜である。
エネルギー硬化性樹脂から形成される膜は、樹脂のみから形成される膜でもよく、樹脂にSiO等の無機材料等を加えて光学特性等を調整した膜でもよい。また、単層膜でも積層膜でもよい。
【0054】
エネルギー硬化性樹脂を構成する樹脂は、従来公知のものを適用でき、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、エンチオール樹脂等が挙げられる。
【0055】
このようなエネルギー硬化性樹脂から形成される膜は、主成分となる樹脂と任意成分の混合物を溶融押出してフィルム状に成形して製造できる。
また、主成分となる樹脂を、必要に応じて任意成分と共に溶媒又は分散媒に溶解又は分散させて調製した塗工液を、剥離性の基材に所望の厚さに塗工、乾燥させ、必要に応じて硬化させて膜とした後に、得られた膜を前記剥離性の基材から剥離し、樹脂層の主面上に圧着等で一体化させることで、エネルギー硬化性樹脂の膜を形成してもよい。
なお、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。また塗工液を塗工する際には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、ダイコート法またはスピンコート法、インクジェットコート法、グラビアコート法等を使用できる。
【0056】
本実施形態において、多層膜は、両面の層数の合計が20層以下であり、かつ総厚み(h)が5μm以下であることが好ましい。多層膜の層数が両面の合計で20層以下であり、かつ多層膜の総厚み(h)が5μm以下であると、成膜時間を短くできるとともに、光学フィルタにおける反りの発生を抑制できる。
多層膜の層数は、両面の合計が18層以下であることがより好ましく、14層以下がさらに好ましい。多層膜の層数は、少なすぎても本発明の効果が得られないので、両面の合計で4層以上であることが好ましく、6層以上がより好ましく、8層以上がさらに好ましい。また、多層膜の総厚み(h)は、3μm以下であることがより好ましく、2.5μm以下がさらに好ましく、また、0.2μm以上であることが好ましく、0.4μm以上がより好ましく、0.6μm以上がさらに好ましい。
なお、両面の多層膜の層数は、光学フィルタにおける反りの発生を抑制するという観点から、層数が同じであることが好ましい。
【0057】
多層膜は、両面を合わせた膜として、下記条件(k)~(m)を満たすことが好ましい。
(k)500~1000nmの波長帯域における透過率の最大値と最小値の半値が600~700nmの範囲にある
(l)450~600nmの波長帯域における透過率の平均値が90%以上
(m)700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が55%以下
【0058】
条件(k)は、波長600~700nmの間で多層膜の透過率が変化することを示している。500~1000nmの波長帯域における透過率の最大値と最小値の半値が600~700nmの範囲にあると、400~600nmの可視光領域における光の透過率を高くし、700nm以降の近赤外線波長領域における光の透過率を下げられる。500~1000nmの波長帯域における透過率の最大値と最小値の半値は、600~680nmの範囲にあることがより好ましく、600~650nmの範囲がさらに好ましい。
【0059】
条件(l)は、可視光領域における光の透過率が高い多層膜であることを示している。450~600nmの波長帯域における透過率の平均値が90%以上であると、可視光領域の光の透過を妨げることがないので指紋検出装置において、指で反射された発光素子からの光を十分に透過できる。450~600nmの波長帯域における透過率の平均値は93%以上であることがより好ましく、95%以上がさらに好ましい。また、可視光領域における光の透過率は高ければ高いほど好ましいので、上限は特に限定されない。
【0060】
条件(m)は、波長700~850nmの透過率が低い多層膜であることを示している。700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が55%以下であると、多層膜である程度の近赤外線波長領域の光を反射するので、樹脂層に入射する近赤外光を低減できる。700~850nmの波長帯域における透過率の平均値は40%以下であることがより好ましく、30%以下がさらに好ましい。700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が低くなりすぎると多層膜表面での光の反射分が多くなり、発光素子との間で多重反射が生じ、指紋認証の際のノイズになってしまうため、下限値は2%以上であることが好ましく、3%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。
【0061】
(樹脂層と多層膜との厚みの比)
本実施形態の光学フィルタは、下記条件(a)を満たす。
(a)樹脂層の厚み(h)と多層膜の総厚み(h)の比(h/h)が0.1以下
樹脂層の厚み(h)と多層膜の総厚み(h)の比(h/h)が0.1以下であると、多層膜の総厚みを十分に薄くできるので、光学フィルタの反りを抑制できる。前記比(h/h)は0.08以下であることが好ましく、0.07以下がより好ましい。また、前記比(h/h)の下限は特に限定されないが、多層膜の総厚みが薄すぎると所望の分光特性を調整しにくいことから、0.01以上であることが好ましく、0.015以上がより好ましく、0.02以上がさらに好ましい。
【0062】
(その他の層)
光学フィルタには、前記樹脂層及び前記多層膜の他に、本実施形態の効果を妨げない範囲で、さらに任意の層を備えていてもよい。例えば、樹脂層と多層膜との間に、両者の密着性を向上させる目的でさらにハードコート層を有してもよい。
【0063】
ハードコート層は、樹脂層や多層膜の光学特性を損なわなければ特に限定されず従来公知のものを使用できる。例えば、ガラス転移温度Tgが170℃以上の樹脂からなる層が、熱や応力による変形が生じにくく、かつ密着性の効果に優れることから好ましい。ガラス転移温度は200℃以上がより好ましく、250℃以上がさらに好ましい。ガラス転移温度の上限は特に限定されないが、成形加工性等の観点から、400℃以下が好ましい。
【0064】
ハードコート層を構成する樹脂として、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、エンチオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。中でも、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が、硬度や多層膜との密着性の点から好ましい。
【0065】
ハードコート層は、公知の製造方法を適用できる。
例えば、ハードコート層を構成する樹脂と、必要に応じて任意成分との混合物を押出成形によりフィルム状に成形されたハードコート層が得られる。得られたフィルム状のハードコート層を樹脂層の上方に、最外層となるように積層し、熱圧着等により一体化できる。
【0066】
また、ハードコート層を構成する樹脂と、必要に応じて任意成分とを、溶媒又は分散媒に溶解又は分散させて調製した塗工液を、樹脂層の主表面上に塗工、乾燥させ、必要に応じて硬化させることでもハードコート層を形成できる。また樹脂層の主表面上ではなく、剥離性の基材上に塗工した場合には、当該剥離性の基材からハードコート層を剥離した後、樹脂層の上方に、最外層となるように積層し、圧着等で一体化させることでハードコート層を形成できる。
なお、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。塗工液を塗工する際には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、ダイコート法またはスピンコート法、インクジェットコート法、グラビアコート法等を使用できる。
【0067】
(光学フィルタの特性)
本実施形態において、光学フィルタは下記条件(b)~(c)を満たすことが好ましい。
(b)総厚みが60μm以下
(c)発光素子と向かい合う面の面積が50cm以上
【0068】
光学フィルタの総厚みが60μm以下であると、光学フィルムを搭載するデバイスの小型化や軽量化ができる。また、光学フィルムを搭載するデバイスを低背化できる。光学フィルタの総厚みは50μm以下であることがより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。光学フィルタの総厚みは、プロセス上のハンドリングの観点から、20μm以上であることが好ましく、25μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。
【0069】
光学フィルタの発光素子と向かい合う面の面積は、大画面のディスプレイを備える光学装置に使用できるという観点から、50cm以上であることが好ましい。光学フィルタの発光素子と向かい合う面の面積は53cm以上であることがより好ましく、55cm以上がさらに好ましい。前記面積の上限は特に限定されないが、多層膜厚みの面内ばらつきの観点から、600cm以下であることが好ましく、500cm以下がより好ましく、400cm以下がさらに好ましい。
【0070】
さらに、本実施形態の光学フィルタは、下記条件(n)~(p)を満たすことが好ましい。
(n)600~700nmの波長帯域の範囲に透過率が50%となる波長を有する
(o)500~600nmの波長帯域における透過率の平均値が85%以上
(p)700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が10%以下
【0071】
条件(n)は、波長600~700nmの領域で透過率が変化することを示している。光学フィルタが600~700nmの波長帯域の範囲に透過率が50%となる波長を有すると、可視光領域と近赤外線波長領域以降における光の透過を明確に区別化できる。透過率が50%となる波長は、波長700nm以降の近赤外線波長領域をカットし、波長500~600nmの光を効率的に取り込む観点から、600~670nmの波長領域の範囲にあることがより好ましく、600~650nmの波長領域の範囲がさらに好ましい。
【0072】
条件(o)は、光学フィルタの可視光領域の光の通しやすさを示している。光学フィルタの500~600nmの波長帯域における透過率の平均値が85%以上であると、可視光領域の光の通過を妨げないため、指紋検出装置において発光素子からの光を十分に透過できる。前記平均値は、87%以上であることがより好ましく、90%以上がさらに好ましい。また、可視光領域の透過率は高ければ高いほど好ましいので、上限は特に限定されない。
【0073】
条件(p)は、近赤外線波長領域における光の通りやすさを示している。光学フィルタの700~850nmの波長帯域における透過率の平均値が10%以下であると、近赤外線波長領域における光を十分に遮光するため、指紋認証の際のノイズを十分に低減できる。前記平均値は、7%以下であることがより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3%以下が特に好ましい。また、近赤外線波長領域の透過率は低ければ低いほど好ましいので、下限は特に限定されない。
【0074】
[発光装置]
本実施形態に係る発光装置は、本実施形態に係る光学フィルタと、発光素子と、撮像素子とを備える。
発光装置において、図1に示したように、光の入射方向D側から、発光素子20と光学フィルタ10と撮像素子30がこの順に配置される。
【0075】
発光素子は、従来公知のものを適用できる。発光素子としては、例えば、OLED(Organic Light Emitting Diode)、LED(Light Emitting Diode)、QLED(Quantum-dot Light Emitting Diode)、マイクロLED等の自発光性の発光素子等が挙げられる。
【0076】
発光素子は、前記光学フィルタと向かい合う面の面積が50cm以上、かつ700nm~850nmの波長帯域における反射率が80%以下であることが好ましい。
【0077】
発光素子の光学フィルタと向かい合う面の面積が50cm以上であると、指紋検出装置のような大画面のディスプレイを備える光学装置に使用できる。発光素子の面積は、53cm以上であることがより好ましく、55cm以上がさらに好ましい。また、上限値は特に限定されないが、発光素子のサイズをフィルタのサイズに合わせるという観点から、600cm以下であることが好ましく、500cm以下がより好ましく、400cm以下がさらに好ましい。
【0078】
発光素子の700nm~850nmの波長帯域における反射率が80%以下であると、発光素子との間で生じる光学フィルタ表面で反射した光由来の多重反射を抑制できる。前記反射率は、70%以下であることがより好ましく、60%以下がさらに好ましい。また、前記反射率は低ければ低いほど好ましいので、下限は特に限定されない。
【0079】
撮像素子は、光学素子及び光学フィルタを経て導入された光を電気的信号に変換する。撮像素子としては、従来公知のものを適用でき、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、CCD(Charge Coupled Device)、有機薄膜撮像素子(有機薄膜CMOSセンサー)等が挙げられる。
【0080】
本実施形態の光学装置において、図1に示したように、光学フィルタ10は、光学フィルタ10と発光素子20の間、及び光学フィルタ10と撮像素子30の間に空隙(空気層)5が存在するように配置されることが好ましい。通常、各部材を上記の順に配置し積層すると、部材間には空隙が存在する。各部材間に空隙があることで光学装置を簡便に組み立てられる。空隙は、10μm以上であることが好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。また、各部材が離れすぎると、光学装置の厚みが増し、低背化できなくなるため、空隙は500μm以下であることが好ましく、400μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。
【0081】
光学装置としては、例えば、デジタルスチルカメラ等の撮像装置、虹彩や指紋、静脈の認証等の生態認証等を行う認証装置、自動露出計等の表示装置、距離センサー、近接センサー等の計測装置等が挙げられる。
中でも、本実施形態の光学装置は、指紋検出装置に好適に使用できる。
【実施例
【0082】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0083】
(樹脂層の設計)
γ-ブチロラクトン(GBL):シクロヘキサノン=1:1(質量比)の溶液にポリイミド樹脂(三菱ガス化学株式会社製「C-3G30G」(商品名))を8.5質量%の濃度で溶かし、ポリイミド樹脂溶液を調合した。ポリイミド樹脂溶液に表1に示す色素をそれぞれ表1に記載されている濃度で添加して、各色素のポリイミド樹脂組成物を調製した。
得られた色素含有ポリイミド樹脂組成物をSCHOTT社製のD263ガラスに膜厚がおよそ1.0μmになるようにスピン成膜し、吸収層を作製した。なお、色素化合物1を含有した吸収層のみ、膜厚がおよそ2.0μmになるようにスピン成膜した。
【0084】
【表1】
【0085】
【化1】
【0086】
色素化合物1については、以下の市販品を使用した。色素化合物2~6については、以下の文献に記載の方法に従い作製した。そして、色素化合物7については、以下の合成方法(ステップ1~3)により作製した。
・色素化合物1:山田化学工業株式会社製 吸収色素「FDR003」(商品名)
・色素化合物2:米国特許出願公開第2014/0061505号明細書、国際公開第2014/088063号明細書
・色素化合物3:国際公開第2017/135359号明細書
・色素化合物4~6:「Dyes and pigments」、73(2007)、p.344-352
【0087】
・色素化合物7の合成方法
【0088】
【化2】
【0089】
<ステップ1>
1Lナスフラスコにトリス(4-ニトロフェニル)アミン(25g、66mmol)と
パラジウム-活性炭素(パラジウム10%)(6.5g)、1,4-ジオキサン(350mL)、メタノール(300mL)を加え、0℃に冷却・撹拌し、ギ酸アンモニウム(65g、990mmol)を追加し、室温で4時間撹拌した。反応液を濾過後、ろ液をジクロロメタンで抽出操作を行い、溶媒を除去し、残った固体にヘキサンを300mL入れて1日撹拌し、洗浄した。ヘキサンをろ過操作で取り除いたところ、灰色固体である中間体1を18.1g(収率95%)得た。
【0090】
<ステップ2>
1Lナスフラスコにステップ1で得られた中間体1(15g、52mmol)と炭酸カリウム(71.4g、520mmol)、1-ブロモブタン(127g、930mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(150mL)を加え、115℃で24時間撹拌した。室温に戻した後、ろ過操作を実施し、ジクロロメタンで洗浄後、ろ液をジクロロメタンで抽出し、溶媒除去後、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1000:40)にて単離し、淡黄色の油状物質である中間体2を23g(収率71%)得た。
【0091】
<ステップ3>
500mLナスフラスコにステップ2で得られた中間体2(3g、4.8mmol)と酢酸エチル(50mL)を加え、60℃で溶解するまで撹拌した。その後、カリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(3.8g、12mmol)とペルオキソ二硫酸アンモニウム(2.7g、12mmol)をアセトニトリル(30mL)と水(30mL)の混合溶媒に溶解させた溶液を、中間体2を溶解させた溶液に加え、60℃で4時間撹拌させた。反応終了後、室温に戻し、水(100mL)とヘキサン(200mL)を加え、固体を析出させ、ろ過し、酢酸エチルで洗浄した。回収した固体をカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=1000:30)にて単離し、溶媒除去した後、固体をジクロロメタンに少量溶解させ、酢酸エチルを用いて再沈作業を行い、緑色固体である色素化合物7を3.1g(収率54%)得た。
【0092】
上記で得られた、D263ガラス上に形成した吸収層を、日立ハイテクサイエンス社製「紫外可視近赤外分光光度計UH4150」により、波長350nm~1200nmの波長範囲で入射方向に対して0degでの透過率と反射率を測定した。分光特性は、空気界面とガラス界面での反射の影響を回避するため、下記式に基づいて内部透過率で評価した。
内部透過率(%)={実測透過率(%)/(100-実測反射率(%))}×100
【0093】
上記の測定データを基に、それぞれの吸収層の膜厚が1μm、色素濃度が1質量%になるようにデータを規格化し、色素化合物1~7を表2に記載の添加量で添加した際に得られる吸収層1~4を設計した。この吸収層1~4を用いて、透明樹脂基材としてポリイミド樹脂フィルム(三菱ガス化学株式会社製「L-3G30」、厚み30μm)の両面に膜厚1μmの吸収層を積層した樹脂層1~4を作製した時の内部透過率を、350~1200nmの波長範囲で見積もった。結果を表2及び図4に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
(多層膜の設計)
樹脂層の両面に反射率を調整する膜として形成される誘電体多層膜(多層膜1~4)を設計した。
誘電体多層膜は、シリカ(SiO)層とチタニア(TiO)層が交互に積層されてなる膜であり、表3に示す層数を有する。
透明樹脂基材として膜厚30μmのポリイミド樹脂フィルム(三菱ガス化学株式会社製「L-3G30」)の両面に膜厚1μmの吸収層を積層した樹脂層に、表3に記載の層構成で誘導体多層膜を積層した際の、各誘電体多層膜の分光特性を、表3に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
(例1)
樹脂層1の350~1200nmの波長帯域における内部透過率に対して、多層膜1の透過率データを各波長で掛け合わせることで、膜厚30μmの透明樹脂基材の両面に膜厚1μmの吸収層を備えた樹脂層1の両面に、シリカ(SiO)層とチタニア(TiO)層が交互に5層積層されてなる多層膜を積層した光学フィルタを想定し、光学フィルタの分光特性を見積もった。結果を表4及び図5に示す。
【0098】
また、多層膜Aのみを樹脂層1上に形成した際の光学フィルタの曲率と厚みの面内分布を下記の方法によって評価した。
1.透明樹脂基材としてサイズ76mm×76mm、厚み80μmのポリカーボネートフィルムM5(帝人株式会社製)の両面に1μm厚の吸収層1を形成し、その片面に多層膜Aとして厚み6.67μmのSiO/TiOを交互に積層させた誘電体多層膜を成膜した。多層膜の設計データから、多層膜AにおけるSiOの比率を求めた。
2.得られた光学フィルタを上側が凸となるように平らな台の上に乗せ、フィルタ凸部の高さを定規で測定し、この値を基に曲率を算出した。
また、光学フィルタを多層膜A面内の中心と中心から35mm離れた位置の2点で切断し、上記2点における多層膜の膜厚を、「FE-SEM S-4800」(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)によって測定し、膜厚の面内分布を求めた。
3.上記で得られたデータを基準データとし、多層膜1における多層膜中のSiO比と樹脂層厚み、多層膜厚みのデータからStoneyの式に基づいて、サイズ76mm×76mm、厚み32μmの樹脂層1の片面に多層膜1を成膜した際の基準データに対する反り量の比を求めた。また、この反り量の比を基に曲率と多層膜厚みの面内分布を見積もった。
基準データと基準データを基に得られた反り量の比を表4に示す。
また、反り量の比を基に見積もった曲率と多層膜厚みの面内分布の結果を表5に示す。
【0099】
(例2~8)
樹脂層と多層膜を表5の記載の通りにした以外は、例1と同様にして評価を行った。
結果を表4、表5及び図5に示す。
【0100】
なお、上記例1~8のうち、例1~6が実施例に相当し、例7~8が比較例に相当する。
【0101】
【表4】
【0102】
【表5】
【0103】
例1~6は、波長600nm以上に吸収極大を有する色素を含有した吸収層を備えた樹脂層を備え、かつ反射率を調整する機能を有する多層膜を備え、多層膜の総厚みは樹脂層の厚みの10分の1以下である。これにより、多層膜厚みの面内分布を小さく保ち、曲率の値も小さいことから、フィルタの反りを抑制できる。一方で特許文献2、3で使用されているような層数の多い多層膜を用いた例7~8については分光特性に優れるものの、多層膜の総厚みが樹脂層の厚みの10分の1を超えてしまう。このため、多層膜厚みの面内分布が大きく、曲率の値も大きくなってしまい、フィルタの反りが大きくなる。
以上の結果より、例1~6は、大面積であってもフィルタの反りを抑制可能で、かつ500~600nmの波長帯域における透過率が高く、優れた近赤外線遮蔽性を有していることから、フィルタの反りの抑制と優れた分光特性を両立できることが分かった。
【符号の説明】
【0104】
1 樹脂層
3a、3b 多層膜
5 空隙(空気層)
10 光学フィルタ
11 透明樹脂基材
12、12a、12b 吸収層
20 発光素子
30 撮像素子
D 光の入射方向
図1
図2
図3
図4
図5