(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】頭部装着型表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20231129BHJP
G02C 5/04 20060101ALI20231129BHJP
G02C 5/10 20060101ALI20231129BHJP
G02C 11/00 20060101ALI20231129BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02C5/04
G02C5/10
G02C11/00
H04N5/64 511A
(21)【出願番号】P 2019217586
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 愛乃
(72)【発明者】
【氏名】平野 成伸
(72)【発明者】
【氏名】片野 泰男
(72)【発明者】
【氏名】亀山 健司
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 規和
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】須藤 芳文
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 駿
(72)【発明者】
【氏名】門馬 進
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0112898(KR,A)
【文献】国際公開第2016/162901(WO,A1)
【文献】特開2016-180936(JP,A)
【文献】特開2011-203381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01-27/02
H04N 5/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を表示する表示素子と、
前記表示素子に表示された画像を、装着者の目に射出する導光部材と、
前記表示素子で表示された画像の画像光を前記導光部材に導光する光学系を有する筐体と、
前記導光部材の、前記光学系とは反対の側に設けられ、前記筐体を、装着者の顔の反対側に屈曲させる調整部材と
を有
し、
前記表示素子は、横長を正常な視認状態とする画像を表示する表示素子であり、縦長の状態で設置され、
前記光学系は、前記表示素子に表示された縦長の画像を、画像回転光学素子で回転させて横長の画像を形成すると共に、回転された横長の前記画像の中間像を、少なくとも1回形成して前記導光部材に導光する
頭部装着型表示装置。
【請求項2】
前記調整部材は、弾性部材で形成されること
を特徴とする請求項1に記載の頭部装着型表示装置。
【請求項3】
前記調整部材の曲げ応力は、前記筐体の曲げ応力より小さいこと
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の頭部装着型表示装置。
【請求項4】
前記調整部材は、前記頭部装着型表示装置を装着したときに、装着者のこめかみ近傍に設けられること
を特徴とする請求項1から請求項3のうち、いずれか一項に記載の頭部装着型表示装置。
【請求項5】
前記頭部装着型表示装置はメガネ型であり、前記調整部材は、メガネ型の各リムを接続するブリッジ部に設けられること
を特徴とする請求項1から請求項4のうち、いずれか一項に記載の頭部装着型表示装置。
【請求項6】
前記画像回転光学素子は、一対のウェッジプリズム及びミラー部材で形成されること
を特徴とする請求項
1に記載の頭部装着型表示装置。
【請求項7】
前記画像回転光学素子は、一対のシート状プリズムアレイ及びミラー部材で形成されること
を特徴とする請求項
1に記載の頭部装着型表示装置。
【請求項8】
前記画像回転光学素子は、ドーブプリズムで形成されること
を特徴とする請求項
1に記載の頭部装着型表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部装着型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くのメガネ型の頭部装着型表示デバイス(形状に応じてヘッドマウントディスプレイ(HMD)、VR(Virtual Reality)ゴーグル、VRグラス、スマートグラス、AR(Augmented Reality)グラス、グラスディスプレイ、グラスデバイス等と呼称される)が開発されている。眼前のディスプレイに仮想映像を表示されたり、現実の背景に仮想画像を重畳して表示したりすることで、従来の卓上型ディスプレイ、スマートフォン、およびタブレット端末とは全く異なる体験を得ることができる。
【0003】
このような頭部装着型表示装置に関する特許文献としては、特許文献1(特許第6253763号公報)、特許文献2(特許第5959571号公報)、特許文献3(特許第6111635号公報)等が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HMDやスマートグラスなどは観察者の瞳に画像信号が入るように、デバイスを装着する必要がある。しかしながら、人の頭や顔の骨格の大きさは、年齢や性別、国籍によって異なるため、ひとつのサイズですべての人がカバーされるものではない。また、通常の眼鏡であればテンプルの部分が顔や頭の骨格に合わせて広がったり、フィッティングを行うことで対応することが可能となるが、HMDやスマートグラスでは画像信号を伝搬する光路を伸ばしたり、広げたり、変形させることを許さないため、骨格の小さい観察者、大きい観察者などのために複数サイズを用意したり、大きめに作る必要があった。
【0005】
しかしながら、大きめなサイズのHMDやスマートグラスを作成し、締め付けることで固定を行う方法をとる場合、装着している間に締め付けにより締め付け箇所が痛くなり長時間の装着が困難になる。また、通常サイズに対して、頭部の大きい人が装着した場合、テンプル部分が押し広げられる事により、導光板やミラーへの入射角が変わってしまい、画像が見えなくなってしまう。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、画像の正常な視認状態を維持したうえで、装着者の顔幅に合わせた装着を可能とした頭部装着型表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、画像を表示する表示素子と、表示素子に表示された画像を、装着者の目に射出する導光部材と、表示素子で表示された画像の画像光を前記導光部材に導光する光学系を有する筐体と、導光部材の、光学系とは反対の側に設けられ、筐体を、装着者の顔の反対側に屈曲させる調整部材とを有し、前記表示素子は、横長を正常な視認状態とする画像を表示する表示素子であり、縦長の状態で設置され、前記光学系は、前記表示素子に表示された縦長の画像を、画像回転光学素子で回転させて横長の画像を形成すると共に、回転された横長の前記画像の中間像を、少なくとも1回形成して前記導光部材に導光する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、画像の正常な視認状態を維持したうえで、装着者の顔幅に合わせた装着を可能とすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、ブリッジに調整部材が設けられた実施の形態のメガネ型表示装置の要部の斜視図である。
【
図2】
図2は、調整部材の一例である板バネの平面図である。
【
図3】
図3は、ブリッジに対する調整部材の装着工程を説明するための図である。
【
図4】
図4は、調整部材の他の例であるトーションバネの平面図である。
【
図5】
図5は、ブリッジ部分を伸張させることで、テンプル間の距離を装着者の顔幅に合わせるメガネ型表示装置を説明するための図である。
【
図6】
図6は、ブリッジ部分を撓ませることで、テンプル間の距離を装着者の顔幅に合わせる実施の形態のメガネ型表示装置を説明するための図である。
【
図7】
図7は、実施の形態のメガネ型表示装置の外観を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、実施の形態のメガネ型表示装置の内部構成を示す図である。
【
図9】
図9は、リレー光学系の構成を示す図である。
【
図11】
図11は、表示素子及び周辺回路のブロック図である。
【
図12】
図12は、フレーム筐体内に表示素子を横長の状態で収納した際に生ずる不都合を説明するための図である。
【
図13】
図13は、フレーム筐体内に表示素子を縦長の状態で収納し、画像回転光学素子を設けない場合に生ずる不都合を説明するための図である。
【
図14】
図14は、フレーム筐体内に表示素子を縦長の状態で収納し、画像回転光学素子により回転させることで正常に画像の視認が可能となることを説明するための図である。
【
図15】
図15は、フレーム筐体内に縦長の状態で収納される表示素子とフレキシブルプリント基板を示す斜視図である。
【
図16】
図16は、リレー光学系の光学構成を説明するための図である。
【
図17】
図17は、アジャスタブル光学系の光学構成を説明するための図である。
【
図18】
図18は、シート状プリズムアレイで形成された画像回転光学素子を説明するための図である。
【
図19】
図19は、ドーブプリズムで形成された画像回転光学素子を説明するための図である。
【
図20】
図20は、ウェッジプリズムで形成された画像回転光学素子を説明するための図である。
【
図21】
図21は、装着者の眼と、リムの導光部材まで画像光を中継する光学系との位置関係を示す図である。
【
図22】
図22は、表示部筐体と装着者の側頭骨との位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、頭部装着型表示装置の実施の形態となるメガネ型表示装置の説明をする。
【0011】
(概要)
後述するが、実施の形態のメガネ型表示装置の場合、HMDとして、例えば画像表示素子から出る画像光を投射し、眼前にあるミラー又はハーフミラー等の半透過素子で反射させることにより見るタイプがある。このタイプは、画像表示素子と、ミラー又はハーフミラー等の半透過素子とを離して設置することができるため、画像表示素子を眼球表面より後ろ側に配置することができ、眼球表面より前側の重量を軽減し、鼻への負担を減らすことができる。
【0012】
また、実施の形態のメガネ型表示装置は、表示素子から出る画像光を、導光部材を介して視認する。このタイプは、例えば両眼透過型のAR表示をするヘッドマウントディスプレイ等でも用いられる。このような実施の形態のメガネ型表示装置は、画像表示素子から出る画像光を、コリメートレンズ又はミラーで導光板に導き、当該導光部材を通して眼に対して入射させる。このように、画像光を導光部材に通すことにより、視野角20度以上の画像表示が可能となり、導光部材の構造によっては視野角60度程度の大画像表示も可能としている。
【0013】
ここで、装着者のこめかみ近傍に位置する表示部筐体で形成した画像を、ツルに相当する筐体フレーム及びリムに設けられた導光部材を介してユーザの目に照射するようになっている。このため、各ツルの間の幅を装着者の顔幅と合わせるために、ツルに相当する筐体フレームを撓ませてしまうと、筐体フレーム内の画像光の光路に撓みが生ずる。このため、視認される画像に歪みが生じ、又は、画像の視認が困難となる等の、表示品質の低下が懸念される。筐体フレーム等を、撓みを生じない部材等で形成することも考えられるが、この場合、顔幅が広いユーザは、実施の形態のメガネ型表示装置を装着することが困難となる。
【0014】
また、各リムの間をつなぐブリッジを、装着者の顔幅に合わせて伸縮可能とすることで、顔幅が広い装着者でも、メガネ型表示装置の装着が可能となる。しかし、この場合、ブリッジが伸びることで、メガネ型表示装置の眼幅(瞳孔間距離)が広がることとなり、リムの導光部材を介した画像光の一部又は全部が、装着者の目から外れた位置に照射され、一部又は全部の画像の認識が困難となる不都合を生ずる。
【0015】
なお、各装着者の顔幅に合わせて表示素子から眼球までの光路長を設計した光学系を有する複数種類のメガネ型表示装置を用意することも考えられるが、生産コストが高くなり現実的ではない。
【0016】
このようなことから、実施の形態のメガネ型表示装置には、
図1に示すように、各リムRの間をつなぐブリッジBに、ブリッジBの角度を変更する調整部材が設けられている。この調整部材を、装着者の顔に対して反対方向に、逆への字状に撓ませることで、光路(光軸)及び光路長を変更することなく、また、眼幅(瞳孔間距離)を維持した状態で、装着者の顔幅に合わせた装着を可能としている。
【0017】
(調整部材の構成及び装着例)
図2は、調整部材400の平面図である。
図3は、調整部材400がメガネ型表示装置のブリッジBの部分に装着される様子を示す斜視図である。この
図2及び
図3からわかるように、調整部材400は、長方形の形状を有している。この調整部材400は、例えば板バネ又は硬質ゴム部材等の撓ませること(屈曲させること)が可能な部材で形成されている。この調整部材400の曲げ応力は、テンプルに相当する筐体フレーム(
図6の符号2)の曲げ応力より小さい曲げ応力となっている。また、調整部材400の各短手辺部近傍には、それぞれネジ孔400a、400bが設けられている。
【0018】
なお、調整部材400として、
図4に示すトーションバネ460を用いてもよい。
【0019】
メガネ型表示装置は、ブリッジBの略中心を境にして一方の筐体及び他方の筐体に2分割されている。
図3は、一方の筐体の斜視図である。この
図3に示すように、メガネ型表示装置のブリッジBに相当する部分には、調整部材400を装着するための装着溝部460が設けられている。この装着溝部460は、ブリッジBの形成方向に沿って設けられている。また、装着溝部460は、
図3に矢印で示すように、調整部材400が装着された際に、調整部材400の略半分を被覆し、残り半分を露出させるように形成されている。また、調整部材400の略半分を被覆する装着溝部460の部分には、ネジ孔450が設けられている。なお、他方の筐体のブリッジBの部分も上述と同じ構成を有している。
【0020】
このようなメガネ型表示装置において、調整部材400をブリッジBに装着する場合、
図3に矢印で示すように、調整部材400の短手辺部を先頭にして、装着溝部460に調整部材400を挿入する。これにより、調整部材400の短手辺部の端部400cが、装着溝部460の端部450eに当接する。この状態となると、装着溝部460に設けられているネジ孔450から調整部材400のネジ孔400aまで連通するネジ孔が形成される。
【0021】
このため、装着溝部460に設けられているネジ孔450を介してネジ451を挿入することで、装着溝部460のネジ孔450及び調整部材400のネジ孔400aを介して、メガネ型表示装置のブリッジBの部分に、調整部材400がネジ止めされる。ネジ止めされた調整部材400は、他方の筐体に対しても上述と同様にネジ止めされる。
【0022】
なお、この例では、調整部材400はネジ止めすることとしたが、接着剤等の他の固定部材で固定してもよい。
【0023】
(調整部材の機能)
ここで、
図5(a)に示すように、メガネ型表示装置のテンプル間の距離が、装着者の顔幅以下である場合、
図5(b)に示すようにブリッジ部分を伸張させることで、テンプル間の距離を装着者の顔幅に合わせることができ、メガネ型表示装置を装着可能とすることができる。しかし、この場合、上述のように眼幅(瞳孔間距離)が変わってしまうため、画像の一部又は全部の視認が困難となる。また、光路長が変化してしまうため、本願の
図8の比較例と同じ光路長が変化する調整機構となり画像が表示されなくなる。
【0024】
これに対して、実施の形態のメガネ型表示装置は、テンプル間の距離が、
図6(a)に示すように装着者の顔幅以下である場合、
図6(b)に示すようにブリッジBに設けた調整部材400が、装着者の顔に対して反対方向に、逆への字状に撓み、各テンプル間の距離(筐体フレーム2間の距離)を広げて、装着を可能とする。換言すると、調整部材400は、ブリッジBを分割し、装着者が正面を見た際の目線の方向(水平方向)に角度を変化させることで、各テンプル間の距離(筐体フレーム2間の距離)を広げて、装着を可能とする。
【0025】
図5(a)、
図5(b)に示したように、ブリッジを伸張させると、眼幅(瞳孔間距離)まで変化する。これに対して、実施の形態のメガネ型表示装置は、
図6(a)、
図6(b)に示すように、各リムRの設置角度が多少変わるだけで、眼幅(瞳孔間距離)は、殆ど変化しない。このため、眼幅(瞳孔間距離)が変化することで、画像の一部又は全部が視認困難となる不都合を防止できる。
【0026】
また、実施の形態のメガネ型表示装置は、ブリッジBが撓むため、筐体フレーム2内の光学系に影響を与えることがない。また、光路を変更せずに、各テンプル間の距離を装着者の顔幅に合わせることができる。このため、良好な表示形態を維持することができる。
【0027】
また、例えば特許第3298977号公報に開示されている眼鏡型ディスプレイ装置の場合、重量バランス装置と頭幅の調整機構が設けられている。この眼鏡型ディスプレイ装置の場合、光学系が前方に集中しているため、重量バランスを「重り」で調整し、頭幅をバンドで調節している。このため、重り及び調節機構の、不要な重さが加わり、眼鏡の形状とは大きく異なるものとなる。
【0028】
これに対して、実施の形態のメガネ型表示装置は、ブリッジBに調整部材400を設ける構成のため、小型軽量かつ簡易な構成で実現でき、メガネ本体の形状を維持可能とすることができる。
【0029】
(比較例の装着実験結果)
本願発明の出願人は、ブリッジBに対して、調整部材400を設けないメガネ型表示装置を試作した。この調整部材400を設けないメガネ型表示装置は、テンプル間距離(=表示部筐体1間の距離)が160mmであり、これを、頭幅151mm、155mm、158mm、160mm、165mm及び170mmの成人男性にそれぞれ装着させた。この実験により、頭幅160mmの装着者までは、調整部材400を設けないメガネ型表示装置を装着でき、画像を視認できた。
【0030】
しかし、頭幅165mmの装着者は、締め付け感を伴う装着は可能であったが、光軸にズレを生じ、画像の視認が困難であった。頭幅170mmの被験者においては、装着自体が困難であった。
【0031】
(実施の形態のメガネ型表示装置の装着実験結果)
次に、上述のようにブリッジBの部分に調整部材400を設けたメガネ型表示装置を試作した。そして、比較例と同じくテンプル間距離(=表示部筐体1間の距離)を160mmとし、これを、頭幅151mm、155mm、158mm、160mm、165mm及び170mmの成人男性にそれぞれ装着させた。この実験により、すべての装着者がメガネ型表示装置を装着でき、また、画像も良好に視認可能であることが確認された。
【0032】
(実施の形態の第1の効果)
以上の説明から明らかなように、実施の形態のメガネ型表示装置は、ブリッジBに弾性部材で形成された調整部材400を設け、装着者の顔に対して反対方向に、逆への字状に撓ませて各テンプル間の距離(筐体フレーム2間の距離)を広げることで、各テンプル間の距離以上の顔幅を有する装着者でも、実施の形態のメガネ型表示装置を装着可能とすることができる。
【0033】
また、装着者の顔に対して反対方向に調整部材400が撓むことで、各テンプル間の幅を広げる構成のため、各リムRの設置角度が多少変わるだけで、眼幅(瞳孔間距離)は、殆ど変化しない。このため、眼幅(瞳孔間距離)が変化することで、画像の一部又は全部が視認困難となる不都合を防止できる。
【0034】
なお、メガネ型表示装置としては、両方の目に画像を写すタイプ、又は、片方の目にのみ画像を写すタイプのうち、どちらのタイプでもよい。片方の目にのみ画像を写すタイプのメガネ型表示装置の場合、画像を形成する表示素子及び筐体フレーム内に設けられる光学系は、いずれか一方の筐体フレーム側に設ければよい。また、片方の目にのみ画像を写すタイプのメガネ型表示装置の場合に、例えば一方の筐体フレーム側に画像を形成する表示素子を設け、他方の筐体フレーム側に光学系を設ける等のように、各筐体フレームに対して光学系等を分散して設けてもよい。これにより、各筐体フレームの重さのバランスを調整できる。
【0035】
(メガネ型表示装置の小型軽量化)
次に、この実施の形態のメガネ型表示装置は、上述のように表示素子に表示された画像の画像光を、光学系を介して導光部材に導光し、この導光部材を介して装着者の目に入射させることで視認させる装置である。表示素子は長方形状を有しており、通常、テレビジョン受像機等のように横長に配置されるが、実施の形態のメガネ型表示装置の場合、縦長に配置している。表示素子を横長に配置した場合、表示素子を収納する筐体の幅(装着者のこめかみから外方向(垂直方向)に向かう長さ)が広くなり、筐体が大型化して重くなる。これに対して、表示素子を縦長に配置した場合、上述の筐体の幅を狭くすることができ、筐体の小型軽量化を通じて、メガネ型表示装置全体を小型化軽量化できる。
【0036】
ただ、表示素子を縦長に配置すると、このままでは、表示物が縦に表示された状態で視認される。このため、表示素子からの画像光を、像回転光学素子で回転させて横長の画像の画像光とし、中間位置(表示素子から導光部材までの間の意味)で、一旦、結像させる。そして、この結像させた横長の画像の画像光を、導光部材を介して装着者の眼で視認させる。これにより、メガネ型表示装置全体を小型軽量化したうえで、通常の表示形態を得ることができる。
【0037】
(外観構成)
図7は、実施の形態のメガネ型表示装置の外観を示す斜視図である。この
図7に示すように、実施の形態のメガネ型表示装置は、左右の目用のリムR,各リムRを接続するブリッジB、実施の形態のメガネ型表示装置を装着した際に、装着者の左右の側頭部にそれぞれ位置するテンプルT,及び、左右の耳にそれぞれ掛けるためのモダンMを有している。また、実施の形態のメガネ型表示装置は、装着された際に、装着者の鼻の上部を挟み込むことで装着状態を安定させるノーズパットNPを有している。各リムR及び各テンプルTは、筐体の一例である。調整部材400は、各リムRを接続するブリッジBの部分に設けられる。
【0038】
(内部構成)
図8は、実施の形態のメガネ型表示装置の内部構成を示す図である。この
図8に示すように、導光部材22は、いわゆるライトガイドであり、第1の反射板21及び第2の反射板23を有している。表示素子5で表示された画像の画像光は、光学系を介して導光部材22の第1の反射板21で反射され、第2の反射板23に導光される。第2の反射板23は、画像光を装着者の目に向けて反射する。これにより、表示素子5で表示された画像が、装着者の目で視認される。
【0039】
一例ではあるが、導光部材22としては、ハーフミラーを用いた導光部材、ホログラム素子を用いた導光部材、又は、多段反射の幾何構造を有する導光部材等を用いることができる。
【0040】
テンプルTを形成する筐体フレーム2には、表示素子5で表示された画像の画像光を上述の導光部材22まで導光するための光学系が収納されている。従来の頭部装着型表示装置(ヘッドマウントディスプレイ)の場合、画像を表示する表示素子が装着者の目の前に位置するように設けられており、又は、導光部材と一体で形成されている。
【0041】
これに対し、実施の形態のメガネ型表示装置は、表示素子5からの画像光を、少なくとも1回中間像を形成する中間光学 系を介して導光部材22まで導光する。このため、表示素子5と導光部材22とは、光学系の光路長分、離れて位置している。
【0042】
中間光学系は、画像回転光学素子6、リレー光学系12及びアジャスタブル光学系13を有している。画像回転光学素子6は、表示素子5に表示された画像を90度回転させた状態の画像の画像光を形成する。
【0043】
リレー光学系12は、いわゆるリレーレンズ群であり、例えば
図9に示すようにトリアクロマートレンズ31及び凸レンズ32を組み合わせて形成されている。導光部材22の第1の反射板21の手前に設けられたアジャスタブル光学系13は、画像光を平行光に変換するコリメータレンズ33又は凹面鏡等で形成されている。コリメータレンズ33は、例えばガラス部材又はプラスチック部材で形成されたものを用いることができる。プラスチック部材で形成されたコリメータレンズ33を用いることで、より軽量化を図ることができる。
【0044】
リレー光学系12及びアジャスタブル光学系13は、光学系の一例である。リレー光学系12及びアジャスタブル光学系13のレンズ群は、例えば直径3mmから7mm程度のレンズで形成されている。レンズの直径が大き過ぎると、筐体フレーム2が太くなり、装着者の実視野を狭めるおそれがある。ここで、光利用効率の観点から、レンズは直径2mm以上であることが好ましい。また、装着者の実視野を狭めないために、直径8mm以下であることが好ましい。このため、リレー光学系12及びアジャスタブル光学系13のレンズ群は、直径2mmから直径8mmの間のレンズを用いて形成されている。これにより、筐体フレーム2を、一般の眼鏡に近い細さ及び軽さを有するフレームとすることができる。
【0045】
リレー光学系12は、表示素子5からの画像光の中間像を、
図9に示すようにアジャスタブル光学系13の手前に形成する。アジャスタブル光学系13は、この中間像の画像光を略平行光として導光部材22に入射する。これにより、形成した中間像の画像光を殆ど劣化させることなく、導光部材22に入射させることができる。また、中間像の大きさ及びアジャスタブル光学系13の焦点距離を適切に設定することで、大きな画角の画像光を導光部材22に入射することができ、装着者が視野角の広い画像を視認可能とすることができる。
【0046】
(表示素子及び周辺回路のハードウェア構成)
次に、
図11に表示素子5及び周辺回路のブロック図を示す。この
図11に示すように、実施の形態のメガネ型表示装置の表示部筐体1内には、表示素子5、駆動回路(駆動IC)303、メモリ304、電源回路305及びバッテリ306が収納されている。駆動IC303は、メモリ304に蓄積された画像信号に基づいて、表示素子5を表示駆動させる。バッテリ306は、電源回路305に電圧を供給する蓄電池である。
【0047】
メモリ304は、例えばスマートフォン、パーソナルコンピュータ装置、タブレット端末装置、ハードディスクドライブ装置、半導体メモリ装置等の外部機器から供給される画像信号を記憶する。電源回路305は、バッテリ306から印加される電圧を、所定の駆動電圧に変換して表示素子5、駆動IC303及びメモリ304に供給する。
【0048】
(表示素子の具体例)
図10は、表示素子5の大きさを説明するための図である。表示素子5としては、反射光を利用しない表示素子を用いることができ、例えば透過型LCOS(Liquid Crystal On Silicon)、OLED(Organic Light Emitting Diode)又は反射型LCOS等を用いることができる。また、表示素子5としては、例えば透過型液晶、反射型液晶、有機EL(Electro-Luminescence)、発光ダイオード(LED)、又は、MEMS(Micro Elector Mechanical Systems)型デバイス等を用いてもよい。
【0049】
なお、表示素子5として、反射を利用しない透過型LCOS、有機EL又はLEDを用いることで、光源及び光を反射させる部材を省略でき、表示部筐体1の、より小型軽量化を図ることができる。
【0050】
表示素子5は、例えば
図10(a)に示すように横×縦の画素の比が16:9の横長形状を有しており、720画素又は1080画素等の高解像度となっている。また、表示素子5は、
図10(b)に示すように、例えばフレキシブルプリント基板(FPC)6等の上に駆動素子及び制御素子と共に実装される。このため、全体の形状は、
図10(b)に示すように、表示素子5自体よりも、さらに横長の形状となる。
【0051】
例えば、
図10(a)に示すように、0.38インチで横縦比16:9の表示素子5の場合、表示素子5自体の大きさは縦4.7mm、横8.4mm程度であるが、この表示素子5をFPC6に実装すると、FPC6全体で、表示素子5の大きさの1.5倍から2倍程度の大きさとなる。
【0052】
(表示素子を横長で配置することの問題点)
ここで、
図12に、比較例となるメガネ型表示装置の要部の構成を示す。この
図12は、
図10(a)及び
図10(b)を用いて説明した大きさの表示素子5及びFPC6を用い、この表示素子5を横長の状態で表示部筐体1内に収納したメガネ型表示装置を示している。この
図12に示すように、表示素子5を横長の状態で表示部筐体1内に収納することで、表示素子5に表示された画像が、そのままの横長の状態で装着者により視認される。このため、画像回転光学素子11は、不要となる。
【0053】
しかし、表示素子5を横長の状態で表示部筐体1内に収納すると、表示部筐体1の形状が、メガネ型表示装置を装着した装着者のこめかみから垂直方向に(外方向に)突出する形状となる。例えば
図10(a)に示すように横幅が8.4mmの表示素子5をFPC6に実装した際に、FPC6の横幅が、
図10(b)に示すように12mmとなった場合、これを収納する表示部筐体1の横幅(装着者のこめかみから垂直方向に沿った長さ)は、表示部筐体1自体の厚みが加算され、
図12に示すように13mmにもなる。このように大型化して突出した表示部筐体1は、装着者の耳端部及び側頭部に接触して圧迫する。このため、メガネ型表示装置の長時間の装着に苦痛を伴うおそれがある。
【0054】
ここで、表示部筐体1内に横長の状態で収納していた表示素子5を、
図15に示すように縦長の状態で収納することを考える。しかし、この場合、
図13に示すように、表示素子5に表示された画像が、縦長の状態のまま装着者に視認され、好ましいことではない。
【0055】
(表示素子の縦配置)
このため、実施の形態のメガネ型表示装置は、
図14に示すように、縦長の状態で表示部筐体1内に収納された表示素子5で表示された画像を、90度回転させて横長の画像に変換する画像回転光学素子11を設ける。
【0056】
(画像回転光学素子の第1の具体例)
画像回転光学素子11としては、例えば
図18(a)~
図18(d)に示す画像回転光学素子11を用いることができる。この
図18(a)~
図18(d)に示す画像回転光学素子11の場合、微細なプリズムがアレイ状に並べられて形成された一対のシート状プリズムアレイ41a、41bと、長板形状のミラー面部42を有している。一対のシート状プリズムアレイ41a、41bは、それぞれ長板形状のミラー面部42の端部から起立し、プリズム側が相対向するように設けられている。相対向するシート状プリズムアレイ41a、41bの間は、空気層となっている。また、画像回転光学素子11は、
図18(b)に示すように、光軸に沿って90度回転した位置に固定して設けられている。
【0057】
シート状プリズムアレイ41a、41bは、プラスチック部材で成型又は切削加工されて製作される。微細なプリズムの形状は、上部が鋭角な形状で
図18(d)に角度θaとして示すように、ミラー面部42に対して例えば10度~40度程度の角度となるように形成されている。各プリズムを並べる際のピッチは、例えば0.1mm~1mm程度となっている。
【0058】
このような画像回転光学素子11は、
図18(a)に示すように、表示素子5に表示された縦長の画像(入射画像)を、シート状プリズムアレイ41aでミラー面部42側に屈折させる。これにより、縦長の画像がミラー面部42に反射されることで90度回転されて横長の画像に変換され、シート状プリズムアレイ41bを介して出射される(出射画像)。
【0059】
このようなシート状プリズムアレイ41a、41bを用いた画像回転光学素子11は、各シート状プリズムアレイ41a、41bの間が空気層となっているため、非常に軽い。このため、メガネ型表示装置の軽量化に貢献できる。また、プリズム角を最適化することで、画像回転光学素子11の全長を短くすることができ、光路長の設計を容易化することができる。さらに、シート状プリズムアレイ41a、41bを用いた画像回転光学素子11は、色収差及び像収差が発生しにくい。このため、装着者に対して、良好な画像を提供できる。
【0060】
(画像回転光学素子の第2の具体例)
画像回転光学素子11としては、
図19(a)に示すドーブプリズムを用いてもよい。この場合、ドーブプリズムは、
図19(b)に示すように、90度回転して配置する。ドーブプリズムは、ガラス部材で形成されていてもよいし、プラスチック部材で形成されていてもよい。プラスチック部材としては、例えば屈折率1.4~1.6程度の、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、又は、環状オレフィン等を用いることができる。
【0061】
ドーブプリズムの大きさは、一辺が7mm~10mm程度の正方形の断面を有することが好ましい。ドーブプリズムの角度は、
図19(a)に示すように、30度から50度程度で、45度が好ましい。プラスチック部材で形成されたドーブプリズムを用いることで、メガネ型表示装置の軽量化に貢献できる。
【0062】
(画像回転光学素子の第3の具体例)
また、画像回転光学素子11としては、
図20(a)~
図20(c)に示すように、長板形状のミラー面部62の長手方向の各端部から一対のウェッジプリズム61を相対向するように設けて形成した画像回転光学素子を用いてもよい。この回転光学素子は、
図20(b)に示すように90度回転させた状態で設けられる。
【0063】
ウェッジプリズム61は、ガラス部材又はプラスチック部材のいずれで形成されていてもよい。プラスチック部材で形成されたウェッジプリズム61を用いることで、上述のようにメガネ型表示装置の軽量化に貢献できる。
【0064】
ガラス部材又はプラスチック部材としては、屈折率1.49~1.78程度のガラス部材又はプラスチック部材を用いることができる。また、ガラス部材としては、例えばホウ珪酸ガラス又はソーダガラスを用いることができる。プラスチック部材としては、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン又は環状オレフィン等を用いることができる。
図20(c)に示すウェッジ角θwとしては、20度~40度程度が好ましい。
【0065】
(メガネ型表示装置の第1の試作例)
本願発明の出願人は、このようなメガネ型表示装置を、いくつか試作した。第1の試作例となるメガネ型表示装置は、以下の仕様で作成した。
【0066】
導光部材22:厚み10mm、長さ50mm、高さ10mmのアクリル樹脂で作成。両端部に、角度45度のハーフミラーで反射板21、23を作成した。
【0067】
リレー光学系12:
図16に示すように、トリプレットアクロマートレンズ31及び両凸レンズ32を組み合わせて作成した。トリプレットアクロマートレンズ31は、TS HASTINGSレンズ 12.5 X 20 MGF2 エドモンドオプティクスを光軸方向に対して8mm×8mmの正方形にカットして作成した。凸レンズは、TS 両凸レンズ 15 X 45 エドモンドオプティクスを光軸方向に8mm×8mmの正方形にカットして作成した。トリプレットアクロマートレンズ31と両凸レンズ32との間隔は7mmとした。
【0068】
アジャスタブル光学系13:
図17に示すように、2つの両凸レンズ33a、33bと1つのメニスカスレンズ33cの組み合わせでコリメータレンズ33を作成した。両凸レンズ33aは、曲率半径R6:11mm及びR5:-300mm、厚み7.9mm、nd=1.49(PMMA)のものを用いた。メニスカスレンズ33cは、曲率半径R4:300mm及びR3:8.5mm、厚み1.5mm、nd=1.49(PMMA)のものを用いた。両凸レンズ33bは、曲率半径R2:-14.8mm及びR1:14.8mm、厚み8mm。nd=1.49(PMMA)のものを用いた。両凸レンズ33a・メニスカスレンズ33c・両凸レンズ33bの順で配置し、両凸レンズ33aとメニスカスレンズ33cの間隔2を2mmとし、メニスカスレンズ33cと両凸レンズ33bの間隔1を4mmとした。
【0069】
画像回転光学素子11:
図19に示したドーブプリズム51を画像回転光学素子11として用いた。ドーブプリズム51は、長さ34.7mm、断面形状8mmの正方形、プリズム角45度、nd=1.49(PMMA)のものを用い、光軸に対して45度傾けて設けた(
図19(b)参照)。
【0070】
表示素子5:OLED表示素子720p(KOPIN社製LIGHTNING(登録商標) 720AMOLED)を用いた。表示面の大きさは、縦6.1mm、横10.85mmであり、表示素子チップの外観は、縦12.34mm、横22.44mmのものを用いた。
【0071】
筺体フレーム2:長さを約60mmとし、断面は、10mm×10mmとした。
【0072】
表示部筐体1:縦30mm、横13mm、高さ25mmとした。
【0073】
(メガネ型表示装置の第2の試作例)
第2の試作例となるメガネ型表示装置は、以下の仕様で作成した。
【0074】
導光部材22、リレー光学系12及びアジャスタブル光学系13は、上述の第1の試作例と同じ構成とした。
【0075】
画像回転光学素子11:
図20に示したように、断面二等辺三角形の一対のウェッジプリズム61と、ミラー面部62で形成されたものを用いた。光軸に対してミラー面を45度傾けたて設けた(
図20(b)参照)。
【0076】
ウェッジプリズム61としては、以下の仕様のものを用いた。
硝材:N-SF14(Schott社)
ウェッジ角(先端鋭角部θw):30度
大きさ:高さ9mm幅8mm
ミラー基板:厚み0.5mmの鏡面仕上げのポリスチレンにアルミ蒸着
プリズム間距離:23.6mm
【0077】
表示素子5は、上述の第1の試作例と同じものを用いた。
【0078】
筐体フレーム2は、長さを約60mm、断面を10mm×10mmとした。
【0079】
表示部筐体1は、縦25mm、横13mm、高さ25mmとした。
【0080】
(メガネ型表示装置の第3の試作例)
第3の試作例となるメガネ型表示装置は、以下の仕様で作成した。
【0081】
導光部材22、リレー光学系12及びアジャスタブル光学系13は、上述の第1の試作例と同じ構成とした。
【0082】
画像回転光学素子11:
図18に示したように、一対のシート状プリズムアレイ41a、41b及びミラー面部42を用いて作成し、光軸に対してミラー面部を45度傾けて設けた(
図18(b)参照)。
【0083】
シート状プリズムアレイ41a、41bとしては、リニアプリズムLP40-0.3(日本特殊光学樹脂(株))のものを用いた。このシート状プリズムアレイ41a、41bは、
図18(a)に示したように、ミラー面部42の両端部から起立するように設け、また、各シート状プリズムアレイ41a、41b同士が相対向するように設けた。
【0084】
各シート状プリズムアレイ41a、41bの仕様は、以下のとおりである。
硝材:ポリメチルメタクリレート
傾き角θa(
図18(d)参照):40度
プリズム配置ピッチ(
図18(d)):0.3mm
シート状プリズムアレイの大きさ:高さ9mm、幅8mm、厚み2mm
ミラー基板:厚み0.5mmの鏡面仕上げのポリスチレンにアルミ蒸着
プリズム間距離:16.2mm
【0085】
表示素子5は、上述の第1の試作例と同じ構成とした。
【0086】
筐体フレーム2は、長さを約60mm、断面を10mm×10mmとした。
【0087】
表示部筐体1は、縦20mm、横13mm、高さ25mmとした。
【0088】
以下の表1に、画像回転光学素子11としてドーブプリズム51を用いた場合(
図19参照)、ウェッジプリズム61を用いた場合(
図20参照)、及び、シート状プリズムアレイ41a、41bを用いた場合における、表示部筐体1の長さ(光学素子の長さ)、表示部筐体1の重さ(光学素子の重さ)、及び、装着時における側頭部と表示部筐体1との距離を示す。
【表1】
【0089】
図12に比較例として示したように、表示素子5を横長に配置した場合、表示部筐体1の大きさは、縦20mm、横23mm、高さ16mmとなり、表示部筐体1の横幅が、表示素子5を縦長に配置した場合よりも10mm広くなる。これにより、第一から第三の試作例よりも表示部筐体が5mmほど側頭部に近づき、装着時にテンプルを広げないと側頭部に装着できなくなる。このため、表示部筐体1の内側面で装着者の側頭部が押圧されて圧迫される不都合を生ずる。
【0090】
これに対して、実施の形態のメガネ型表示装置のように表示素子5を縦長に配置し、画像回転光学素子11として、ドーブプリズム51、ウェッジプリズム61又はシート状プリズムアレイ41a、41bのうち、どれを用いた場合も、表1に示すように、表示部筐体1の内側面と装着者の側頭部との間に、2mm程度の隙間を形成することができた。そして、装着者の側頭部が圧迫される不都合を防止できることを確認できた。
【0091】
なお、上述のように、シート状プリズムアレイ41a、41bは、相対向して設けられる各シート状プリズムアレイ41a、41bの間が空隙部となっている。このため、表示部筐体1の重さを、ドーブプリズム51を用いた場合(1.9g)及びウェッジプリズム61を用いた場合(1.25g)よりも、非常に軽量(0.3g)とすることができる。
【0092】
(実施の形態の第2の効果)
このように、実施の形態のメガネ型表示装置は、装着した際に装着者のこめかみ近傍となる筐体フレーム2の位置に、表示素子5を縦長に設ける。そして、表示素子5に表示された画像を、画像回転光学素子11で回転させることで横長の中間像を形成し、導光部材22を介して装着者に視認させる。
【0093】
表示素子5を縦長に配置しているため、表示部筐体1を小型化でき、実施の形態のメガネ型表示装置を小型軽量化できる。また、表示部筐体1を小型化できるため、表示部筐体1が側頭部等に当接して圧迫する不都合を防止できる。また、表示素子5の表示面を光軸に対して直角に配置しているため、表示部筐体1の光軸方向の長さを短くすることができる。このため、表示部筐体1が耳と干渉する不都合を防止できるうえ、部品点数を少なくして実施の形態のメガネ型表示装置の、さらなる小型軽量化を図ることができる。
【0094】
詳しく説明すると、
図21は、装着者の眼と、リムRの導光部材22まで画像光を中継する光学系との位置関係を示す図である。
図22は、表示部筐体1と装着者の側頭骨との位置関係を示す図である。実施の形態のメガネ型表示装置は、装着者に装着されると、
図21に示すように、装着者の両方の眼900の瞳孔901を覆う角膜902の頂点に接する平面Aよりも、表示部筐体1と筐体フレーム2との接続部に接する平面Bの方が後方に位置することとなる。このときの平面Aと平面Bとの間隔は、5mm以上であることが望ましく、10mm以上であれば、さらに望ましい。
【0095】
平面Bが平面Aよりも後方側に配置されることで、多少重量を有する表示部筐体1が後方側に配置されることとなり、装着者の実視野が確保(180度以上の視野を確保)できる。このため、実施の形態のメガネ型表示装置を装着した際の圧迫感を軽減できる。
【0096】
また、
図22に示すように、導光部材22と表示部筐体1は、筐体フレーム2を間に挟んで離れて設けられるため、表示部筐体1の中心CPは、装着者の側頭骨800近傍に位置することとなる。これにより、表示素子5を固定している表示部筐体1が、装着者のこめかみ近傍に当接し、メガネ型表示装置の荷重が分散されるため、鼻に掛かる荷重を軽減できる。
【0097】
なお、平面Aと平面Bとの間隔(=導光部材22と表示部筐体1との間隔)が大きいほど、実視野を確保できるため、メガネ型表示装置の装着時の圧迫感を軽減する効果が高くなる。
【0098】
ここで、中間像を形成しないことで、リレー光学系12の焦点距離を短くすることができ、筐体フレーム2を小型化して、装着時における広い視野を確保可能となる。しかし、この場合、表示素子5とリレー光学系12との間に、画像回転光学素子11を挿入する間隙部を確保困難となる。画像回転光学素子11を挿入できない場合、
図13に示したように縦長に配置した表示素子5の表示画像を、横長の画像に変換することが困難となる。
【0099】
実施の形態のメガネ型表示装置は、中間像を形成するように、リレー光学系12とアジャスタブル光学系13の配置を調整している。このため、表示素子5とリレー光学系12との間に、画像回転光学素子11を挿入する間隙部を確保できる。この間隙部に、画像回転光学素子11を挿入することで、表示素子5の縦長の配置を維持できるため、筐体フレーム2を小型化でき、装着時における広い視野も確保することができる。
【0100】
また、今日において、ディスプレイが眼前にあり、直接的又はレンズを通して間接的に視認するタイプの頭部装着型表示装置が知られている。この第1のタイプの頭部装着型表示装置は、例えば両眼非透過型のVR表示をするヘッドマウントディスプレイ、又は、小型単眼型のヘッドマウントディスプレイ等として知られている。
【0101】
このような第1のタイプの頭部装着型表示装置は、左右2つの画像表示装置、駆動回路及び光学系を眼前に設置しており、総重量が500g以上となる場合も多い。このような重く、かつ大きな頭部装着型表示装置を長時間装着し続けることは大変苦痛である。
【0102】
これに対して、実施の形態のメガネ型表示装置は、上述のように小型軽量化できるため、装着者に苦痛を与えることなく、長時間の装着を可能とすることができる。
【0103】
また、今日において、画像表示素子に表示された画像の画像光を投射し、眼前にあるミラー又はハーフミラー等の半透過素子で反射させることで視認させるタイプの頭部装着型表示装置が知られている。この第2のタイプの頭部装着型表示装置は、画像表示素子と、ミラー又はハーフミラー等の半透過素子とを離して設置できる。このため、画像表示素子を眼球表面より後ろ側に配置することができ、眼球表面より前側の重量を軽減して、装着者の鼻への負担を軽減できる。
【0104】
しかし、この第2のタイプの頭部装着型表示装置は、顔の横から眼前のミラー又はハーフミラー等の半透過素子に投射することから、大画面を表示させることが困難であり、視野角の小さい画面にしか表示させることができないという問題がある。
【0105】
これに対して、実施の形態のメガネ型表示装置は、中間像を形成するように、リレー光学系12とアジャスタブル光学系13の配置を調整している。このため、表示素子5とリレー光学系12との間に、画像回転光学素子11を挿入する間隙部を確保できる。この間隙部に、画像回転光学素子11を挿入することで、表示素子5の縦長の配置を維持できるため、筐体フレーム2を小型軽量化でき、装着時における広い視野も確保できる。
【0106】
また、今日において、画像表示素子に表示された画像の画像光を、導光部材を介して視認するタイプの頭部装着型表示装置が知られている。この第3のタイプの頭部装着型表示装置は、例えば両眼透過型のAR表示(AR:Augmented Reality:拡張現実)をするヘッドマウントディスプレイ等である。この第3のタイプの頭部装着型表示装置は、画像表示素子に表示された画像の画像光を、コリメータレンズ又はミラーで導光部材に導光し、この導光部材を介して視認させる。このように、導光部材を介して画像光を視認させることで、視野角20度以上の画像表示が可能となり、導光部材の構造によっては、視野角60度程度の大画像表示も可能となる。
【0107】
しかし、この第3のタイプの頭部装着型表示装置は、また、画像表示素子、コリメータレンズ、ミラー及び導光部材が一体型となった構造体を有しており、この構造体の重心が眼球表面より前に設計されている。このため、装着者の鼻に対する荷重の負担が大きくなり、長時間の装着が困難となる問題がある。
【0108】
これに対して、実施の形態のメガネ型表示装置の場合、重心は表示部筐体1側となるため、装着時に鼻に掛かる負担を軽減できる。また、重心が表示部筐体1側と掛かっていても、表示部筐体1が小型軽量化されているため、耳に掛かる負担も軽減できる。このため、装着者に苦痛を与えることなく、長時間、快適な装着を可能とすることができる。
【0109】
また、第3のタイプの頭部装着型表示装置の場合、上述の構造体が、装着者の左右の周辺視野を塞ぐようになる。人間の一般的な視野は180度以上であるが、第3のタイプの頭部装着型表示装置の場合、装着時の視野を100度以下に狭くするおそれがある。
【0110】
これに対して、実施の形態のメガネ型表示装置の場合、表示部筐体1を小型化できるため、表示部筐体1及び筐体フレーム2が装着者の視野の妨げとなる不都合を防止できる。
【0111】
最後に、上述の実施の形態は、一例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことも可能である。
【0112】
例えば、上述の実施の形態の説明では、ブリッジBに調整部材400を設けることとしたが、調整部材400を各ヨロイの部分(筐体フレーム2とリムR(導光部材22)との接続部分)に設けてもよい。または、調整部材400をブリッジBに設けると共に、各ヨロイの部分にも設けてもよい。この場合、調整部材400は、装着者のこめかみ近傍に設けられることとなる。各ヨロイの部分に設けられた調整部材400は、ヨロイを境にして、導光部材22及び筐体フレーム2を、装着者の顔の反対側に屈曲させる。これにより、上述と同様の効果を得ることができる。
【0113】
また、実施の形態及び実施の形態の変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0114】
1 表示部筐体
2 筺体フレーム
5 表示素子
6 制御基板
11 画像回転光学素子
12 リレー光学系
13 アジャスタブル光学系
21 第1の反射板
22 導光部材
23 第2の反射板
400 調整部材
460 装着溝部
B ブリッジ
NP ノーズパット
M モダン
T テンプル
R リム
【先行技術文献】
【特許文献】
【0115】
【文献】特許第6253763号公報
【文献】特許第5959571号公報
【文献】特許第6111635号公報