(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】高周波半導体装置の製造方法及び高周波半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20231129BHJP
H01L 27/12 20060101ALI20231129BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20231129BHJP
H01L 21/263 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/322 L
H01L21/263 E
(21)【出願番号】P 2020098121
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】竹野 博
【審査官】船越 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-011262(JP,A)
【文献】特開昭61-198746(JP,A)
【文献】特開昭51-093666(JP,A)
【文献】特表2019-536260(JP,A)
【文献】特表2019-514202(JP,A)
【文献】特開平11-274019(JP,A)
【文献】特開2000-200792(JP,A)
【文献】特開平10-189405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/322
H01L 21/263
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、前記半導体基板上に形成された高周波素子とを具備し、高周波領域で使用する高周波半導体装置の製造方法であって、
ドーパントを含有する前記半導体基板を準備する工程と、
前記半導体基板のうち少なくとも高周波素子形成部に粒子線を照射することにより、前記半導体基板中の前記ドーパントを不活性化する工程と
を含むことを特徴とする高周波半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記半導体基板として、抵抗率が500Ω・cm以上のシリコン単結晶基板を含むものを用いることを特徴とする請求項1に記載の高周波半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記半導体基板上に前記高周波素子を形成する前に、前記半導体基板のうち少なくとも前記高周波素子を形成する前記高周波素子形成部に前記粒子線を照射することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記半導体基板上に前記高周波素子を形成した後に、前記半導体基板のうち少なくとも前記高周波素子を形成した前記高周波素子形成部に前記粒子線を照射することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高周波半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記粒子線として電子線を照射することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の高周波半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記半導体基板として、SOI基板であって、
シリコン単結晶基板、
埋め込み絶縁層、
前記シリコン単結晶基板と前記埋め込み絶縁層との間に形成された中間層としての電荷捕獲層、及び
前記埋め込み絶縁層上に配置されたSOI層
を具備したSOI基板を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の高周波半導体装置の製造方法。
【請求項7】
半導体基板と、前記半導体基板上に形成された高周波素子とを具備し、高周波領域で使用する高周波半導体装置であって、
前記半導体基板は、ドーパントを含有し、
前記半導体基板のうち少なくとも前記高周波素子が形成された高周波素子形成部の、前記半導体基板中の前記ドーパントが不活性化されたものであることを特徴とする高周波半導体装置。
【請求項8】
前記半導体基板は、SOI基板であって、
シリコン単結晶基板、
埋め込み絶縁層、
前記シリコン単結晶基板と前記埋め込み絶縁層の間に形成された中間層としての電荷捕獲層、及び
前記埋め込み絶縁層上に配置されたSOI層
を具備したSOI基板であることを特徴とする請求項7に記載の高周波半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波半導体装置の製造方法及び高周波半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波用途で使用する高周波素子は、能動素子と受動素子とに大別される。能動素子の例としては、ダイオード及びトランジスタ(例えばFET及びHEMT)が挙げられる。受動素子としては、抵抗、キャパシタ及びフィルターなどの素子や、各素子を結合する配線(伝送線路)が挙げられる。
【0003】
図6に概略的に示すように、以前の高周波素子20’においては、能動素子20a、及び受動素子20bの素子20b-1は、部品ごとに配線(伝送線路)20b-2で結合されていた。このような高周波素子20’においては、それぞれ個別に作製された能動素子20a及び受動素子20bを用いていた。
【0004】
一方、近年、高周波素子として、半導体基板上に、能動素子及び受動素子(配線を含む)を一括で作製した半導体装置(例えばモノシリックマイクロ波集積回路(MMIC))が用いられている。
【0005】
さて、5Gを迎え、端末は幅広い周波数帯域に対応することが必要となりフィルター等、数多くの高周波部品が必要となってきている。特に高周波数領域で使用する半導体装置、すなわち高周波(RF)用途の半導体装置は、その高性能化が求められている。
【0006】
従来からSOI構造のシリコン基板を使用した高周波フィルター等は、CMOSプロセスとの相性の良さや、大量生産が可能な観点から注目されている。そして、クロストークの防止の観点から、高調波特性が重要視され、この改善のために基板の高抵抗率化や電荷蓄積層の導入など、種々の対策が取られてきた。
【0007】
具体的な解決策として、まずは支持基板の高抵抗率化がある。具体的な抵抗率の値としては、例えば特許文献1には、典型的には500Ω・cmよりも高く、好ましくは1000Ω・cmよりも高く、さらに好ましくは3000Ω・cmよりも高い電気抵抗率を有していなければならない、とされている。
【0008】
さらに、特許文献2には、SOI構造の支持基板と、支持基板と埋め込み酸化物層(BOX膜)との間に新たにPoly-Siのような中間半導体層(電荷捕獲層ないしは、トラップリッチ:TR層)を備えた高周波用SOI基板(TR-SOI基板)の製造方法が記載されている。
【0009】
このような高周波用基板の高周波特性として、TR-SOI基板のSOI層を除去してBOX層にAl電極で
図7及び
図8に示すようなCo-Planar Waveguide(CPW)5を形成して測定する2次高調波(2HD)特性がある。
【0010】
CPW5は、
図7及び
図8に示す一例のように、金属電極50aを隙間を開けて並列に並べて、その隙間の中央にこれら金属電極50aと並列に線状の中央金属電極50bを形成した構造を持ち、中央金属電極50bから
図8における左右両側の金属電極50a及び半導体基板10内部に向かう方向の電界50cと、半導体基板10内部において中央金属電極50bを囲む方向の磁界50dによって電磁波を伝送する構造の素子5をいう。
【0011】
なお、高周波用SOI基板は、通常はSOI構造として使用されるが、2HD特性評価を簡便に行うために、SOIの活性層(SOI層)を除去して、BOX層を露出させ、この上にCPWを形成して、2HD特性を評価する。実際にデバイスとして素子が作製される場合、能動素子(トランジスタ等)として稼働する部分はSOI層上に形成されるが、受動素子(フィルター等)はSOI層を除去した部分に作製される。言い換えると、SOI基板を使用することで、能動素子と受動素子を1枚の半導体基板上に形成することが可能になる。
【0012】
また高調波とは、元となる周波数の整数倍の高次の周波数成分のことで、元の周波数を基本波、2倍の周波数(2分の1の波長)を持つものが2HDと定義されている。高周波回路では高調波による混信を避けるために高調波の小さい基板が必要とされ、この目的のために前述のようにTR-SOIでは支持基板上にTR層を形成しさらに支持基板を高抵抗率化して2HD特性を改善している。
【0013】
また、特許文献3には、電子線照射によりトラップを酸化物層内に分布させて酸化膜トラップ電荷を生成し、それにより、SOI基板のRFデバイス性能を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特表2015-503853号公報
【文献】特開2019-129195号公報
【文献】特開2019-41115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記のトラップリッチ層を備えていても、RF特性は支持基板の抵抗率に依存してしまう。しかし、支持基板の高抵抗率化は非常に難しく、前述のように例えば3000Ω・cmよりも高い電気抵抗率を得ようとすると、P型のボロンの場合、3×1012atoms/cm3という極めて低いドーパント濃度とすることが必要であり、原料中の不純物の影響によりさらに高抵抗率化することは困難であった。
【0016】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、高周波特性に優れた高周波半導体装置を製造できる高周波半導体装置の製造方法、及び高周波特性に優れた高周波半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明では、
半導体基板と、前記半導体基板上に形成された高周波素子とを具備し、高周波領域で使用する高周波半導体装置の製造方法であって、
ドーパントを含有する前記半導体基板を準備する工程と、
前記半導体基板のうち少なくとも高周波素子形成部に粒子線を照射することにより、前記半導体基板中の前記ドーパントを不活性化する工程と
を含むことを特徴とする高周波半導体装置の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の高周波半導体装置の製造方法では、半導体基板の少なくとも高周波素子形成部に粒子線を照射することで、半導体基板中に点欠陥を導入してキャリアをトラップすることができ、それにより半導体基板中のドーパントを不活性化する。その結果、本発明の高周波半導体装置の製造方法では、半導体基板のうち少なくとも高周波素子形成部を高抵抗率化でき、製造する高周波半導体装置の高周波特性、特に高調波特性を改善することができる。すなわち、本発明の高周波半導体装置の製造方法であれば、高周波特性に優れた高周波半導体装置を製造できる。
【0019】
前記半導体基板として、抵抗率が500Ω・cm以上のシリコン単結晶基板を含むものを用いることが好ましい。
このような半導体基板を用いることにより、より優れた高周波特性を有する半導体装置を製造できる。
【0020】
前記半導体基板上に前記高周波素子を形成する前に、前記半導体基板のうち少なくとも前記高周波素子を形成する前記高周波素子形成部に前記粒子線を照射することができる。
或いは、前記半導体基板上に前記高周波素子を形成した後に、前記半導体基板のうち少なくとも前記高周波素子を形成した前記高周波素子形成部に前記粒子線を照射してもよい。
【0021】
本発明の高周波半導体装置の製造方法では、高周波素子形成部への粒子線の照射を、高周波素子を形成する前に行なっても、高周波素子を形成した後に行なっても、同様に、高周波特性に優れた高周波半導体装置を製造できる。
【0022】
前記粒子線として電子線を照射することが好ましい。
電子線は他の粒子線と比較して、パワーデバイスのライフタイム制御に一般的に使用されており、また透過性が高く半導体基板の深さ方向に均一に照射できるなど利点が多い。
【0023】
前記半導体基板として、SOI基板であって、
シリコン単結晶基板、
埋め込み絶縁層、
前記シリコン単結晶基板と前記埋め込み絶縁層との間に形成された中間層としての電荷捕獲層、及び
前記埋め込み絶縁層上に配置されたSOI層
を具備したSOI基板を用いることが好ましい。
【0024】
このようなSOI基板を半導体基板として用いることにより、支持基板であるシリコン単結晶基板の高抵抗率と、電荷捕獲層による電荷捕獲の効果とにより、高性能な高周波半導体装置を製造できる。
【0025】
また、本発明は、半導体基板と、前記半導体基板上に形成された高周波素子とを具備し、高周波領域で使用する高周波半導体装置であって、
前記半導体基板は、ドーパントを含有し、
前記半導体基板のうち少なくとも前記高周波素子が形成された高周波素子形成部の、前記半導体基板中の前記ドーパントが不活性化されたものであることを特徴とする高周波半導体装置を提供する。
【0026】
本発明の高周波半導体装置は、半導体装置のうち少なくとも高周波素子形成部の、半導体基板中のドーパントが不活性化されたものであるため、半導体基板が高い抵抗率を示すことができ、それにより、優れた高周波特性、特に優れた高調波特性を示すことができる。
【0027】
前記半導体基板は、SOI基板であって、
シリコン単結晶基板、
埋め込み絶縁層、
前記シリコン単結晶基板と前記埋め込み絶縁層の間に形成された中間層としての電荷捕獲層、及び
前記埋め込み絶縁層上に配置されたSOI層
を具備したSOI基板であることが好ましい。
【0028】
このようなSOI基板を半導体基板として具備することにより、支持基板であるシリコン単結晶基板の高抵抗率と、電荷捕獲層による電荷捕獲の効果とにより、より優れた性能を示す高周波半導体装置とすることができる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明の高周波半導体装置の製造方法によれば、半導体基板のうち少なくとも高周波素子形成部を高抵抗率化でき、製造する高周波半導体装置の高周波特性、特に高調波特性を改善することができる。その結果、本発明の高周波半導体装置の製造方法であれば、高周波特性に優れた高周波半導体装置を製造できる。
【0030】
また、本発明の高周波半導体装置は、半導体装置のうち少なくとも高周波素子形成部の、半導体基板中のドーパントが不活性化されたものであるため、半導体基板が高い抵抗率を示すことができ、それにより、優れた高周波特性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の高周波半導体装置の製造方法で製造できる高周波半導体装置の一例を示す概略断面図である。
【
図5】実施例1及び比較例のそれぞれで得られた半導体基板の2次高調波特性評価の結果を示すグラフである。
【
図6】従来の一例の高周波素子を示す概略断面図である。
【
図7】2次高調波特性を評価するために用いる一例のCo-Planar Waveguide(CPW)の概略平面図である。
【
図8】
図7のCPWの線分X-Xに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
上述のように、高周波特性に優れた高周波半導体装置を製造できる高周波半導体装置の製造方法、及び高周波特性に優れた高周波半導体装置の開発が求められていた。
【0033】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ドーパント制御だけでなく、半導体基板のうち少なくとも高周波素子形成部に粒子線を照射してそこに点欠陥を導入することによって、キャリアを点欠陥にトラップしてドーパントを不活性化することで、半導体基板の高抵抗率化を行い、高周波特性を改善することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0034】
即ち、本発明は、半導体基板と、前記半導体基板上に形成された高周波素子とを具備し、高周波領域で使用する高周波半導体装置の製造方法であって、
ドーパントを含有する前記半導体基板を準備する工程と、
前記半導体基板のうち少なくとも高周波素子形成部に粒子線を照射することにより、前記半導体基板中の前記ドーパントを不活性化する工程と
を含むことを特徴とする高周波半導体装置の製造方法である。
【0035】
また、本発明は、半導体基板と、前記半導体基板上に形成された高周波素子とを具備し、高周波領域で使用する高周波半導体装置であって、
前記半導体基板は、ドーパントを含有し、
前記半導体基板のうち少なくとも前記高周波素子が形成された高周波素子形成部の、前記半導体基板中の前記ドーパントが不活性化されたものであることを特徴とする高周波半導体装置である。
【0036】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
[高周波半導体装置の製造方法]
本発明は、半導体基板と、前記半導体基板上に形成された高周波素子とを具備し、高周波領域で使用する高周波半導体装置の製造方法であって、
ドーパントを含有する前記半導体基板を準備する工程と、
前記半導体基板のうち少なくとも高周波素子形成部に粒子線を照射することにより、前記半導体基板中の前記ドーパントを不活性化する工程と
を含むことを特徴とする高周波半導体装置の製造方法である。
【0038】
本発明の高周波半導体装置の製造方法によると、例えば
図1に概略的に示した高周波半導体装置を製造することができる。
【0039】
図1に示す高周波半導体装置100は、半導体基板10と、半導体基板10上に形成された高周波素子20とを具備する。
【0040】
高周波素子20は、能動素子20aと、受動素子20bとを含む。能動素子20aとしては、ダイオード及びトランジスタ(例えばFET及びHEMT)などの素子が挙げられる。受動素子20bは、抵抗、キャパシタ及びフィルターなどの素子20b-1と、この素子20b-1及び能動素子20aを電気的に結合した配線(伝送線路)20b-2とを含んでいる。
【0041】
半導体基板10は、ドーパントを含む。また、半導体基板10は、高周波素子20を形成した高周波素子形成部12を有する。高周波素子形成部12は、能動素子20aを形成した能動素子形成部12aと、受動素子20bを形成した受動素子形成部12bとを含んでいる。
【0042】
なお、
図1では、半導体基板10のうち高周波素子20を形成した部分を高周波素子形成部12として示しているが、本発明において、能動素子形成部12a及び受動素子形成部12bとを含む高周波素子形成部は、高周波素子を形成する前の半導体基板のうち高周波素子を形成する部分であってもよい。
【0043】
そして、本発明では、半導体基板10のうち少なくともこの高周波素子形成部12の、半導体基板10中のドーパントが不活性化されている。
【0044】
また、本発明の高周波半導体装置の製造方法で製造できる高周波半導体装置は、
図1に示す高周波半導体装置100に限定されない。例えば、高周波素子20は、受動素子を含まず、能動素子20aからなるものでもよい。
【0045】
次に、本発明の高周波半導体装置の製造方法を、詳細に説明する。
【0046】
本発明の高周波半導体装置の製造方法は、ドーパントを含む半導体基板の少なくとも高周波素子形成部に、粒子線を照射して、半導体基板中のドーパントを不活性化する工程を含むことを特徴とする。
【0047】
ここでの不活性化では、粒子線を照射することで、半導体基板中に点欠陥が形成され、これらがキャリアトラップとして働くことで、半導体基板中のキャリアをトラップし、ドーパントが不活性化されて、基板が高抵抗率化すると考えられる。このようにキャリアを減少させる(高抵抗率化する)ことで、高周波を印加したときに、高周波に追従するキャリアがなくなることで、高調波が減少すると考えられる。このとき照射する粒子線は電子線やプロトンとすることができる。
【0048】
本発明の高周波半導体装置の製造方法では、半導体基板のうち少なくとも高周波素子形成部に粒子線を照射する。すなわち、高周波素子形成部にのみ粒子線を照射することに限定されるわけではない。粒子線は半導体基板の表面の全面に照射してもよいが、特に例えばフィルターのような高周波素子を形成する部分又は高周波素子を形成した部分である高周波素子形成部での効果が顕著である。このように半導体基板のうち少なくとも高周波素子形成部に粒子線を照射することで半導体基板中のドーパントを不活性化し高周波特性を改善することができる。
【0049】
半導体基板上に高周波素子を形成する前に、半導体基板のうち少なくとも高周波素子を形成する高周波素子形成部に粒子線を照射してもよい。或いは、半導体基板上に高周波素子を形成した後に、半導体基板のうち少なくとも高周波素子を形成した高周波素子形成部に粒子線を照射してもよい。
【0050】
本発明の高周波半導体装置の製造方法では、高周波素子形成部への粒子線の照射を、高周波素子を形成する前に行なっても、高周波素子を形成した後に行なっても、同様に、高周波特性に優れた高周波半導体装置を製造できる。
【0051】
すなわち、本発明の1つの態様の高周波半導体装置の製造方法は、ドーパントを含有する半導体基板を準備する工程と、半導体基板のうち少なくとも高周波素子を形成する高周波素子形成部に粒子線を照射する工程と、粒子線を照射した高周波素子形成部上に高周波素子を形成する工程とを含む。
【0052】
また、本発明の他の1つの態様の高周波半導体装置の製造方法は、ドーパントを含有する半導体基板を準備する工程と、半導体基板のうち高周波素子形成部上に高周波素子を形成する工程と、半導体基板のうち少なくとも高周波素子を形成した高周波素子形成部に粒子線を照射することにより、半導体基板中のドーパントを不活性化する工程とを含む。
【0053】
粒子線として電子線を照射することが好ましい。電子線は他の粒子線と比較して、パワーデバイスのライフタイム制御に一般的に使用されており、また透過性が高く半導体基板の深さ方向に均一に照射できるなど利点が多い。
また、電子線は、透過性が強く基板の深さ方向にわたり均一に欠陥を形成することが可能であり、非常に有効である。
【0054】
また、電子線照射は素子を形成する基板表面の全面に照射してもよく、この場合は素子の形成位置を考慮せずに電子線を照射することができるので、より簡便である。
【0055】
半導体基板は、ドーパントを含有するものであれば、特に限定されない。ドーパントは、半導体基板が含有できるものであれば特に限定されない。ドーパントとしては、例えば、B、Ga、P、Sb、As等を挙げることができる。
【0056】
半導体基板として、抵抗率が500Ω・cm以上のシリコン単結晶基板を含むものを用いることが好ましい。
このような抵抗率を示すシリコン単結晶基板を含むものを用いることにより、より優れた高周波特性を有する高周波半導体装置を製造できる。
【0057】
シリコン単結晶基板を含む半導体基板としては、例えば、SOI基板を挙げることができる。
【0058】
SOI基板は、例えば、支持基板としてのシリコン単結晶基板と、シリコン単結晶基板上に配置された埋め込み絶縁層と、埋め込み絶縁層上に配置されたSOI層とを具備することができる。
【0059】
SOI基板として、支持基板であるシリコン単結晶基板と埋め込み絶縁層との間に形成された中間層として、電荷捕獲層を更に具備するものを用いることが好ましい。
【0060】
このようなSOI基板を半導体基板として使用することにより、支持基板であるシリコン単結晶基板の高抵抗率と、電荷捕獲層による電荷捕獲の効果とにより、より優れた性能を示す高周波半導体装置とすることができる。
【0061】
本発明の高周波半導体の製造方法によって、高抵抗率支持基板を使用すれば従来よりも高調波特性の良好な半導体装置を作製することが可能なだけでなく、比較的低抵抗率の基板であっても高抵抗率化することが可能になる。さらに、支持基板の面内の高周波特性にばらつきが存在する場合(シリコン基板の場合、結晶成長時の固液界面形状に起因した、支持基板の中心と外周部で抵抗率の違いが生じてしまう)も、粒子線、例えば電子線の照射によって面内のばらつきを低減することも可能になる。
【0062】
高周波素子は、例えば受動素子を含むことができる。能動素子では、信号に応じて素子を動作させて所定の性能を発揮可能なように「動作」させることが可能であるが、フィルターのような受動素子では初期に所定の特性を作り込むことしかできず、初期の時点で可能な限り所定の性能を作り込んでおく必要がある。よって、高周波素子が受動素子を含み、高周波素子形成部が受動素子形成部を含む場合、この受動素子形成部での効果がより顕著である。
【0063】
ただし、高周波素子が受動素子及び能動素子の両方を含む場合、及び高周波素子が能動素子からなる場合であっても、本発明の効果を得ることができる。
【0064】
能動素子としては、例えばダイオード及びトランジスタ(例えばFET及びHEMT)などの素子が挙げられる。受動素子としては、例えば、抵抗、キャパシタ及びフィルターなどの素子、並びに各素子を電気的結合する配線(伝送線路)を挙げることができる。
【0065】
[高周波半導体装置]
また、本発明は、半導体基板と、前記半導体基板上に形成された高周波素子とを具備し、高周波領域で使用する高周波半導体装置であって、
前記半導体基板は、ドーパントを含有し、
前記半導体基板のうち少なくとも前記高周波素子が形成された高周波素子形成部の、前記半導体基板中の前記ドーパントが不活性化されたものであることを特徴とする高周波半導体装置である。
【0066】
本発明の高周波半導体装置は、半導体装置のうち少なくとも高周波素子形成部の、半導体基板中のドーパントが不活性化されたものであるため、半導体基板が高い抵抗率を示すことができ、それにより優れた高周波特性、特に優れた高調波特性を示すことができる。
【0067】
本発明の高周波半導体装置は、例えば、先に説明した、本発明の高周波半導体装置の製造方法によって製造することができる。
【0068】
本発明の高周波半導体装置の例としては、
図1を参照しながら先に説明した高周波半導体装置100を挙げることができる。
【0069】
半導体基板及び高周波素子としては、先に説明したものを用いることができる。
【0070】
特に、半導体基板は、SOI基板であって、シリコン単結晶基板、埋め込み絶縁層、シリコン単結晶基板と埋め込み絶縁層の間に形成された中間層としての電荷捕獲層、及び埋め込み絶縁層上に配置されたSOI層を具備したSOI基板であることが好ましい。
【0071】
このようなSOI基板を半導体基板として具備することにより、支持基板であるシリコン単結晶基板の高抵抗率と、電荷捕獲層による電荷捕獲の効果とにより、より優れた性能を示す高周波半導体装置とすることができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
実施例1では、
図2に示したフロー図に従って、半導体基板10を準備し、この半導体基板10を用いて評価用サンプル100Aを作製した。
【0074】
FZ法で作製した直径200mmのボロンドープの高抵抗率シリコン単結晶基板(5000、8000、12500Ω・cm)の支持基板1をそれぞれ準備し、これらの支持基板1に1050℃でポリシリコン層を形成させた後、その表面を研磨して厚さ1.8μmの電荷捕獲層(ポリシリコン層)3を形成した。これにより、支持基板1と支持基板1上に配置された電荷捕獲層3とを具備した第1複合体10Aを準備した。
【0075】
次に、別のシリコン単結晶基板(SOI層となる基板)2の表面に、埋め込み絶縁層(BOX層)としての400nmの熱酸化膜(シリコン酸化膜)4が形成された第2複合体10Bを準備した。
【0076】
次に、先ほどの電荷捕獲層3を形成した支持基板1を含んだ第1複合体10Aに、埋め込み絶縁層4を含んだ第2の複合体10Bを、電荷捕獲層3と埋め込み絶縁層4とが接するように貼り合わせた。これにより、支持基板(シリコン単結晶基板)1、埋め込み絶縁層(シリコン酸化膜)4、支持基板1と埋め込み絶縁層4との間に形成された中間層(トラップリッチ層)としての電荷捕獲層(ポリシリコン層)3、及び埋め込み絶縁層4上に配置されたSOI層となる基板2を具備したSOI基板である、半導体基板10を得た。
【0077】
その後、第2の複合体10BのSOI層となる基板2を除去して、400nmの埋め込み絶縁層4を第1複合体10Aに転写した。これにより、高抵抗率の支持基板1に中間層(トラップリッチ層)としての電荷捕獲層3、絶縁膜として埋め込み絶縁層4が形成された基板10Cを作製した。
【0078】
この基板10C上に、アルミ電極で
図7及び
図8に示す構造のCPW(路線長:2200μm)5を形成した素子を作製した。その後、電子線を基板10C全面に照射(加速エネルギー:2MeV、ドーズ量:1×10
14~1×10
16/cm
2)を行って、実施例1の評価用サンプル100Aを作製した。
【0079】
作製した評価用サンプル100Aの2次高調波特性(2HD特性)(周波数:1GHz、入力電力:15dBm)を測定した。
【0080】
(実施例2)
実施例2では、
図3に示したフロー図に従って、半導体基板10を準備し、この半導体基板10を用いて評価用サンプル100Bを作製した。
【0081】
FZ法で作製した直径200mmのボロンドープの高抵抗率シリコン単結晶基板(5000、8000、12500Ω・cm)の支持基板1をそれぞれ準備し、これらの支持基板1に1050℃でポリシリコン層を形成させた後、その表面を研磨して厚さ1.8μmの電荷捕獲層(ポリシリコン層)3を形成した。これにより、支持基板1と支持基板1上に配置された電荷捕獲層3とを具備した第1複合体10Aを準備した。
【0082】
次に、別のシリコン単結晶基板(SOI層となる基板)2の表面に、埋め込み絶縁層(BOX層)としての400nmの熱酸化膜(シリコン酸化膜)4が形成された第2複合体10Bを準備した。
【0083】
次に、先ほどの電荷捕獲層3を形成した支持基板1を含んだ第1複合体10Aに、埋め込み絶縁層4を含んだ第2の複合体10Bを、電荷捕獲層3と埋め込み絶縁層4とが接するように貼り合わせた。これにより、支持基板(シリコン単結晶基板)1、埋め込み絶縁層(シリコン酸化膜)4、支持基板1と埋め込み絶縁層4との間に形成された中間層(トラップリッチ層)としての電荷捕獲層(ポリシリコン層)3、及び埋め込み絶縁層4上に配置されたSOI層となる基板2を具備したSOI基板である、半導体基板10を得た。
【0084】
その後、第2の複合体10BのSOI層となる基板2を除去して、400nmの埋め込み絶縁層4を第1複合体10Aに転写した。これにより、高抵抗率の支持基板1に中間層(トラップリッチ層)としての電荷捕獲層3、絶縁膜として埋め込み絶縁層4が形成された基板10Cを作製した。
【0085】
この基板10C上に、電子線を基板10C全面に照射(加速エネルギー:2MeV、ドーズ量:1×1014~1×1016/cm2)を行った。
【0086】
この基板10C上に、アルミ電極で
図7及び
図8に示す構造のCPW(路線長:2200μm)5を形成した素子を作製した。これにより、実施例2の評価用サンプル100Bを作製した。
【0087】
すなわち、実施例2では、CPW5を形成する前に電子線照射を行ったこと以外は実施例1と同様の手順で評価用サンプルを作製した。
【0088】
作製した評価用サンプル100Bの2次高調波特性(2HD特性)(周波数:1GHz、入力電力:15dBm)を測定した。
【0089】
(比較例1)
比較例1では、
図4に示したフロー図に従って、半導体基板10を準備し、この半導体基板10を用いて評価用サンプル100Cを作製した。
【0090】
FZ法で作製した直径200mmのボロンドープの高抵抗率シリコン単結晶基板(5000、8000、12500Ω・cm)の支持基板1をそれぞれ準備し、これらの支持基板1に1050℃でポリシリコン層を形成させた後、その表面を研磨して厚さ1.8μmの電荷捕獲層(ポリシリコン層)3を形成した。これにより、支持基板1と支持基板1上に配置された電荷捕獲層3とを具備した第1複合体10Aを準備した。
【0091】
次に、別のシリコン単結晶基板(SOI層となる基板)2の表面に、埋め込み絶縁層(BOX層)としての400nmの熱酸化膜(シリコン酸化膜)4が形成された第2複合体10Bを準備した。
【0092】
次に、先ほどの電荷捕獲層3を形成した支持基板1を含んだ第1複合体10Aに、埋め込み絶縁層4を含んだ第2の複合体10Bを、電荷捕獲層3と埋め込み絶縁層4とが接するように貼り合わせた。これにより、支持基板(シリコン単結晶基板)1、埋め込み絶縁層(シリコン酸化膜)4、支持基板1と埋め込み絶縁層4との間に形成された中間層(トラップリッチ層)としての電荷捕獲層(ポリシリコン層)3、及び埋め込み絶縁層4上に配置されたSOI層となる基板2を具備したSOI基板である、半導体基板10を得た。
【0093】
その後、第2の複合体10BのSOI層となる基板2を除去して、400nmの埋め込み絶縁層4を第1複合体10Aに転写した。これにより、高抵抗率の支持基板1に中間層(トラップリッチ層)としての電荷捕獲層3、絶縁膜として埋め込み絶縁層4が形成された基板10Cを作製した。
【0094】
この基板10C上に、アルミ電極で
図7及び
図8に示す構造のCPW(路線長:2200μm)5を形成した素子を作製した。これにより、比較例1の評価用サンプル100Cを作製した。
【0095】
すなわち、比較例1では、電子線照射を行わなかったこと以外は実施例1と同様の手順で評価用サンプル100Cを作製した。
【0096】
その後、作製した評価用サンプル100Cの2次高調波特性(2HD特性)(周波数:1GHz、入力電力:15dBm)を測定した。
【0097】
[結果]
図5に、実施例1で作製した評価用サンプル100A、及び比較例1で作製した評価用サンプル100Cの2HD特性評価結果を示す。
図5において、「EBなし」が比較例1の評価用サンプル100Cの結果であり、EB照射量が1×10
14~1×10
16/cm
2となっているプロットが実施例1の評価用サンプル100Aの結果である。また、
図5では、用いた支持基板の抵抗率ごとに結果を示している。
【0098】
図5に示した比較例1の結果から、2HD特性は、支持基板の抵抗率に依存し、またEB照射を行った場合よりも大きくなっていることがわかる。
【0099】
一方、
図5に示した結果から、2HD特性は、支持基板1の抵抗率と電子線照射量に依存するが、同じ抵抗率の支持基板であっても、電子線照射をすることによって比較例1よりも2HD特性を大きく改善することができたことが分かる。
【0100】
この結果から、SOI基板のSOI層に高周波素子を形成してから、SOI層表面に電子線を照射すれば、形成した高周波素子の高周波特性を改善することができることがわかる。
【0101】
図5には示していないが、実施例2で作製した評価用サンプル100Bの2HD特性評価結果は、実施例1の評価用サンプル100Aの結果と同様であった。つまり、実施例2でも、2HD特性は支持基板1の抵抗率と電子線照射量に依存したが、同じ抵抗率の支持基板であっても、電子線照射をすることによって比較例1よりも2HD特性を大きく改善することができた。
【0102】
そして、この結果から、SOI基板のSOI層に高周波素子を形成する前に、SOI層表面に電子線を照射しても、形成する高周波素子の高周波特性を改善することができることがわかる。
【0103】
なお、実施例2では、電子線照射をCPW形成前に行ったが、電子線照射によって形成された欠陥を回復させるような熱処理を行わなければ、例えば電子線照射をSOI基板作製工程の貼り合わせ熱処理工程後や、SOI層除去工程前に行っても同様の効果を得ることが可能である。
【0104】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0105】
1…シリコン単結晶基板(支持基板)、 2…SOI層(シリコン単結晶層)となる基板、 3…電荷捕獲層(ポリシリコン(Poly-Si)層)、 4…埋め込み絶縁層(BOX層;シリコン酸化膜)、 5…CPW(Al電極)、 10…半導体基板、 10A…第1複合体、 10B…第2複合体、 10C…基板、 12…高周波素子形成部、 12a…能動素子形成部、 12b…受動素子形成部、 20、20’…高周波素子、 20a…能動素子、 20b…受動素子、 20b-1…素子、 20b-2…配線、 50a…金属電極、 50b…中央金属電極、 50c…電界、 50d…磁界、 100…高周波半導体装置、 100A、100B及び100C…評価用サンプル。