(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】電荷輸送性組成物
(51)【国際特許分類】
H10K 50/14 20230101AFI20231129BHJP
H10K 71/12 20230101ALI20231129BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20231129BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20231129BHJP
【FI】
H10K50/14
H10K71/12
H10K85/10
H10K85/60
(21)【出願番号】P 2020529024
(86)(22)【出願日】2019-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2019026412
(87)【国際公開番号】W WO2020009138
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2018127316
(32)【優先日】2018-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018172030
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 将之
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105331054(CN,A)
【文献】特開2003-192994(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115467(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/126677(WO,A1)
【文献】特表2018-510936(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135117(WO,A1)
【文献】特開2007-258724(JP,A)
【文献】特表2006-523014(JP,A)
【文献】国際公開第2008/149410(WO,A1)
【文献】特表2019-502264(JP,A)
【文献】特表2019-508515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/14
H10K 71/12
H10K 85/10
H10K 85/60
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体からなる電荷輸送性物質と、フルオロアルキル基含有シランおよびフルオロアリール基含有シランから選ばれる少なくとも1種の有機シラン化合物と、金属酸化物ナノ粒子と、溶媒とを含み、
上記金属酸化物ナノ粒子が
、SiO
2
であることを特徴とする電荷輸送性組成物。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子またはスルホン酸基であり、R
2は、炭素数1~40のアルコキシ基、もしくは-O-[Z-O]
p-R
eである、またはR
1およびR
2
は、これらが結合して形成される-O-Y-O-であり、Yは、エーテル結合を含んでいてもよく、スルホン酸基で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、pは、1以上の整数であり、R
eは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基である。)
【請求項2】
上記フルオロアルキル基含有シランおよびフルオロアリール基含有シランが、それぞれ少なくとも1つの分子末端にフルオロアルキル基およびフルオロアリール基を有するものである請求項1記載の電荷輸送性組成物。
【請求項3】
上記フルオロアルキル基およびフルオロアリール基が、それぞれパーフルオロアルキル基およびパーフルオロアリール基である請求項1または2記載の電荷輸送性組成物。
【請求項4】
上記有機シラン化合物が、下記式(A1)および(B1)から選ばれる少なくとも1種である請求項3記載の電荷輸送性組成物。
【化2】
(式中、R
3は、単結合、炭素数1~20のアルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、エステル結合、エーテル結合またはカルボニル結合であり、R
4およびR
5は、互いに独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基または炭素数1~10のトリアルキルシリル基であり、Xは、炭素数1~20のパーフルオロアルキル基または炭素数6~20のパーフルオロアリール基であり、Lは、O、SまたはNであり、mは、1または2であり、nは、2または3である。)
【請求項5】
上記有機シラン化合物が、下記式(A1)~(A15)、(B1)および(B2)から選ばれる少なくとも1種である請求項4記載の電荷輸送性組成物。
【化3】
【化4】
【化5】
【請求項6】
上記有機シラン化合物が、上記式(A1)または(A8)である請求項5記載の電荷輸送性組成物。
【請求項7】
上記R
1が、スルホン酸基であり、上記R
2が、炭素数1~40のアルコキシ基もしくは-O-[Z-O]
p-R
eである、または上記R
1およびR
2が結合して形成される-O-Y-O-である請求項1~
6のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【請求項8】
さらに、電子受容性ドーパント物質を含む請求項1~
7のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【請求項9】
上記電子受容性ドーパント物質が、アリールスルホン酸化合物である請求項
8記載の電荷輸送性組成物。
【請求項10】
上記フルオロアルキル基含有シランおよび/またはフルオロアリール基含有シランの含有量が、固形分の質量に対して、フルオロアルキル基含有シランとフルオロアリール基含有シランの合計で0.1~50質量%である請求項1~
9のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【請求項11】
上記金属酸化物ナノ粒子の含有量が、固形分の質量に対して、40~95質量%である請求項1~
10のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【請求項12】
上記電荷輸送性組成物の固形分濃度が、0.1~15.0質量%である請求項1~
11のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物から得られる電荷輸送性薄膜。
【請求項14】
請求項
13記載の電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層または正孔輸送層である請求項
14記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項16】
請求項1~
12のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物を基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることを特徴とする電荷輸送性薄膜の製造方法。
【請求項17】
請求項
13記載の電荷輸送性薄膜を用いることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、ディスプレイや照明などの分野で実用化が期待されていることから、近年、低電圧駆動、高輝度、高寿命等を目的とし、材料や素子構造に関する様々な開発がなされている。
この有機EL素子ではその性能を高める観点から複数の機能性薄膜が用いられるが、中でも正孔注入層や正孔輸送層は、陽極と発光層との電荷の授受を担い、有機EL素子の電圧駆動の低下および輝度向上を達成するために重要な機能を果たす。
【0003】
この正孔注入層や正孔輸送層の形成方法は、蒸着法に代表されるドライプロセスとスピンコート法に代表されるウェットプロセスとに大別されるが、これらのプロセスを比べると、ウェットプロセスの方が大面積に平坦性の高い薄膜を効率的に製造できることから、特にディスプレイの分野ではウェットプロセスがよく用いられる。
【0004】
有機EL素子性能の向上が求められる現在、正孔注入層や正孔輸送層用のウェットプロセス材料に関しては常に改善が求められており、特に、有機EL素子の輝度特性や寿命特性の向上に寄与し得ることから、平坦性に優れる電荷輸送性薄膜を与える材料への要望はますます高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-045667号公報
【文献】特開2007-169593号公報
【文献】国際公開第2017/014946号
【文献】国際公開第2008/129947号
【文献】国際公開第2017/041701号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高平坦性かつ高電荷輸送性を有し、有機EL素子に適用した場合に優れた輝度特性を実現し得る薄膜を与え得る電荷輸送性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体からなる所定の電荷輸送性物質と、フッ素原子を有する所定の有機シラン化合物と、金属酸化物ナノ粒子と、溶媒とを含む電荷輸送性組成物が、高平坦性および高電荷輸送性の薄膜を与え得ることを見出すとともに、当該薄膜を有機EL素子に適用した場合に、優れた輝度特性を実現し得ることを見出し、本発明を完成させた。
なお、ポリスチレンスルホン酸やポリアニリン等の導電性ポリマーを含む組成物に、グリシドオキシプロピルトリメトキシシランや所定のシロキサン系物質を含めることで、当該組成物から得られる薄膜を備える有機EL素子の輝度特性や寿命を向上できることが報告されている(特許文献1,2参照)が、本発明で用いる有機シラン化合物を含む電荷輸送性組成物に関する報告はない。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体からなる電荷輸送性物質と、フルオロアルキル基含有シランおよびフルオロアリール基含有シランから選ばれる少なくとも1種の有機シラン化合物と、金属酸化物ナノ粒子と、溶媒とを含むことを特徴とする電荷輸送性組成物、
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]
p-R
e、もしくはスルホン酸基であり、またはR
1およびR
2が結合して形成される-O-Y-O-であり、Yは、エーテル結合を含んでいてもよく、スルホン酸基で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、pは、1以上の整数であり、R
eは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基である。)
2. 上記フルオロアルキル基含有シランおよびフルオロアリール基含有シランが、それぞれ少なくとも1つの分子末端にフルオロアルキル基およびフルオロアリール基を有するものである1の電荷輸送性組成物、
3. 上記フルオロアルキル基およびフルオロアリール基が、それぞれパーフルオロアルキル基およびパーフルオロアリール基である1または2の電荷輸送性組成物、
4. 上記有機シラン化合物が、下記式(A1)および(B1)から選ばれる少なくとも1種である3の電荷輸送性組成物、
【化2】
(式中、R
3は、単結合、炭素数1~20のアルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、エステル結合、エーテル結合またはカルボニル結合であり、R
4およびR
5は、互いに独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基または炭素数1~10のトリアルキルシリル基であり、Xは、炭素数1~20のパーフルオロアルキル基または炭素数6~20のパーフルオロアリール基であり、Lは、O、SまたはNであり、mは、1または2であり、nは、2または3である。)
5. 上記金属酸化物ナノ粒子が、SiO
2である1~4のいずれかの電荷輸送性組成物、
6. 上記R
1が、スルホン酸基であり、上記R
2が、炭素数1~40のアルコキシ基もしくは-O-[Z-O]
p-R
eである、または上記R
1およびR
2が結合して形成される-O-Y-O-である1~5のいずれかの電荷輸送性組成物、
7. さらに、電子受容性ドーパント物質を含む1~6のいずれかの電荷輸送性組成物、
8. 上記電子受容性ドーパント物質が、アリールスルホン酸化合物である7の電荷輸送性組成物、
9. 1~8のいずれかの電荷輸送性組成物から得られる電荷輸送性薄膜、
10. 9の電荷輸送性薄膜を有する有機エレクトロルミネッセンス素子、
11. 上記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層または正孔輸送層である9の有機エレクトロルミネッセンス素子、
12. 1~8のいずれかの電荷輸送性組成物を基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることを特徴とする電荷輸送性薄膜の製造方法、
13. 9の電荷輸送性薄膜を用いることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電荷輸送性組成物を用いることで、各種ウェットプロセスによって平坦性の良好な電荷輸送性薄膜を再現性よく得ることができる。
この平坦性が良好な本発明の電荷輸送性薄膜を、有機EL素子の正孔注入層や正孔輸送層、好ましくは正孔注入層に適用することで、素子の駆動電圧の低減、量子効率の向上、長寿命化を図ることができる。
また、本発明の電荷輸送性組成物は、スピンコート法やインクジェット法等、大面積に成膜可能な各種ウェットプロセスを用いた場合でも電荷輸送性に優れた薄膜を再現性よく製造できるため、近年の有機EL素子の分野における進展にも十分対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例3-1~3-3および比較例3-1~3-3で作製した有機EL素子の発光画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。なお、本発明においては、本発明の電荷輸送性組成物に関する「固形分」とは、当該組成物に含まれる溶媒以外の成分を意味する。また、電荷輸送性とは、導電性と同義であり、正孔輸送性と同義である。
本発明の電荷輸送性組成物は、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体からなる電荷輸送性物質と、フルオロアルキル基含有シランおよびフルオロアリール基含有シランから選ばれる少なくとも1種の有機シラン化合物と、金属酸化物ナノ粒子と、有機溶媒とを含む。
【0012】
【0013】
式中、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]p-Re、もしくはスルホン酸基であり、またはR1およびR2が結合して形成される-O-Y-O-であり、Yは、エーテル結合を含んでいてもよく、スルホン酸基で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、pは、1以上の整数であり、Reは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基である。
【0014】
炭素数1~40のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコサニル基、ベヘニル基、トリアコンチル基、およびテトラコンチル基等が挙げられるが、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
【0015】
炭素数1~40のフルオロアルキル基としては、上記炭素数1~40のアルキル基において少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換された基を挙げることができ、特に限定されないが、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、パーフルオロメチル基、1-フルオロエチル基、2-フルオロエチル基、1,2-ジフルオロエチル基、1,1-ジフルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、1,1,2-トリフルオロエチル基、1,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、1,2,2,2-テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、1-フルオロプロピル基、2-フルオロプロピル基、3-フルオロプロピル基、1,1-ジフルオロプロピル基、1,2-ジフルオロプロピル基、1,3-ジフルオロプロピル基、2,2-ジフルオロプロピル基、2,3-ジフルオロプロピル基、3,3-ジフルオロプロピル基、1,1,2-トリフルオロプロピル基、1,1,3-トリフルオロプロピル基、1,2,3-トリフルオロプロピル基、1,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3-トリフルオロプロピル基、2,3,3-トリフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、1,1,2,2-テトラフルオロプロピル基、1,1,2,3-テトラフルオロプロピル基、1,2,2,3-テトラフルオロプロピル基、1,3,3,3-テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、2,3,3,3-テトラフルオロプロピル基、1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロピル基、1,2,2,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基およびパーフルオロオクチル基が挙げられる。
【0016】
炭素数1~40のアルコキシ基としては、その中のアルキル基が直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、c-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペントキシ基、n-ヘキソキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、n-ヘプタデシルオキシ基、n-オクタデシルオキシ基、n-ノナデシルオキシ基、およびn-エイコサニルオキシ基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
炭素数1~40のフルオロアルコキシ基としては、炭素原子上の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基であれば特に限定されないが、例えば、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、パーフルオロメトキシ基、1-フルオロエトキシ基、2-フルオロエトキシ基、1,2-ジフルオロエトキシ基、1,1-ジフルオロエトキシ基、2,2-ジフルオロエトキシ基、1,1,2-トリフルオロエトキシ基、1,2,2-トリフルオロエトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ基、1,2,2,2-テトラフルオロエトキシ基、パーフルオロエトキシ基、1-フルオロプロポキシ基、2-フルオロプロポキシ基、3-フルオロプロポキシ基、1,1-ジフルオロプロポキシ基、1,2-ジフルオロプロポキシ基、1,3-ジフルオロプロポキシ基、2,2-ジフルオロプロポキシ基、2,3-ジフルオロプロポキシ基、3,3-ジフルオロプロポキシ基、1,1,2-トリフルオロプロポキシ基、1,1,3-トリフルオロプロポキシ基、1,2,3-トリフルオロプロポキシ基、1,3,3-トリフルオロプロポキシ基、2,2,3-トリフルオロプロポキシ基、2,3,3-トリフルオロプロポキシ基、3,3,3-トリフルオロプロポキシ基、1,1,2,2-テトラフルオロプロポキシ基、1,1,2,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,2,2,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,3,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、2,3,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,2,2,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、およびパーフルオロプロポキシ基が挙げられる。
【0018】
炭素数1~40のアルキレン基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、エイコサニレン基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
炭素数6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、および9-フェナントリル基等が挙げられ、フェニル基、トリル基およびナフチル基が好ましい。
【0020】
炭素数6~20のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、アントラセノキシ基、ナフトキシ基、フェナントレノキシ基、およびフルオレノキシ基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。
【0022】
上記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体において、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re、-ORf、もしくはスルホン酸基であるか、またはR1およびR2が結合して形成される-O-Y-O-であるものが好ましい。
Ra~Rdは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基を表し、これらの基の具体例としては上記で挙げたものと同じである。
中でも、Ra~Rdは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のフルオロアルキル基、またはフェニル基が好ましい。
Reは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のフルオロアルキル基、またはフェニル基が好ましく、水素原子、メチル基、プロピル基、またはブチル基がより好ましい。
また、pは、1、2、または3が好ましい。
【0023】
また、Rfは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基が好ましく、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のフルオロアルキル基、またはフェニル基がより好ましく、-CH2CF3がより一層好ましい。
【0024】
本発明においては、R1は、好ましくは水素原子またはスルホン酸基、より好ましくはスルホン酸基であり、かつ、R2は、好ましくは炭素数1~40のアルコキシ基または-O-[Z-O]p-Re、より好ましくは-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Reまたは-ORf、より一層好ましくは-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re、-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH3、-O-CH2CH2-O-CH2CH2-OHまたは-O-CH2CH2-OHであるか、或いはR1およびR2は、好ましくは互いに結合して形成される-O-Y-O-である。
【0025】
例えば、本発明の好ましい態様に係る上記ポリチオフェン誘導体は、R1が、スルホン酸基であり、R2が、スルホン酸基以外である繰り返し単位を含むか、またはR1およびR2が結合して形成される-O-Y-O-である繰り返し単位を含む。
すなわち、好ましくは、上記ポリチオフェン誘導体は、R1が、スルホン酸基であり、R2が、炭素数1~40のアルコキシ基もしくは-O-[Z-O]p-Reである繰り返し単位を含むか、またはR1およびR2が結合して形成される-O-Y-O-である繰り返し単位を含む。
より好ましくは、上記ポリチオフェン誘導体は、R1が、スルホン酸基であり、R2が、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Reまたは-ORfである繰り返し単位を含む。
より一層好ましくは、上記ポリチオフェン誘導体は、R1が、スルホン酸基であり、R2が、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Reである繰り返し単位を含むか、またはR1およびR2が結合して形成される-O-Y-O-である繰り返し単位を含む。
更に好ましくは、上記ポリチオフェン誘導体は、R1が、スルホン酸基であり、R2が、-O-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH3、-O-CH2CH2-O-CH2CH2-OH、もしくは-O-CH2CH2-OHである繰り返し単位を含むか、またはR1およびR2が結合して形成される下記式(Y1)および(Y2)で表される基である繰り返し単位を含む。
【0026】
【0027】
上記ポリチオフェン誘導体の好ましい具体例としては、例えば、下記式(1-1)~(1-5)で表されるいずれかの繰り返し単位を含むポリチオフェンを挙げることができる。
【0028】
【0029】
また、上記ポリチオフェン誘導体は、必ずしも全ての繰り返し単位にスルホン酸基を有している必要はない。従って、必ずしも全ての繰り返し単位が同一の構造を有している必要はなく、異なる構造の繰り返し単位を含むものであってもよい。その好適な構造としては、例えば、下記式(1a)で表される構造を有するポリチオフェン誘導体を挙げることができるが、これに限定されるわけではない。なお、下記式において、各単位はランダムに結合していても、ブロック重合体として結合していてもよい。
【0030】
【0031】
式中、a~dは、各単位のモル比を表し、0≦a≦1、0≦b≦1、0<a+b≦1、0≦c<1、0≦d<1、a+b+c+d=1を満足する。
【0032】
さらに、上記ポリチオフェン誘導体は、ホモポリマーまたはコポリマー(統計的、ランダム、勾配、およびブロックコポリマーを含む)であってよい。モノマーAおよびモノマーBを含むポリマーとしては、ブロックコポリマーは、例えば、A-Bジブロックコポリマー、A-B-Aトリブロックコポリマー、および(AB)m-マルチブロックコポリマーを含む。ポリチオフェンは、他のタイプのモノマー(例えば、チエノチオフェン、セレノフェン、ピロール、フラン、テルロフェン、アニリン、アリールアミン、およびアリーレン(例えば、フェニレン、フェニレンビニレン、およびフルオレン等)等)から誘導される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0033】
本発明において、ポリチオフェン誘導体における式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、ポリチオフェン誘導体に含まれる繰り返し単位中、50モル%超が好ましく、80モル%超がより好ましく、90モル%超がより一層好ましく、95モル%超がさらに好ましく、100モル%が最も好ましい。
【0034】
本発明において、重合に使用される出発モノマー化合物の純度に応じて、形成されるポリマーは、不純物から誘導される繰り返し単位を含有してもよい。本発明において、上記の「ホモポリマー」という用語は、1つのタイプのモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーを意味するものであるが、不純物から誘導される繰り返し単位を含んでいてもよい。本発明において、上記ポリチオフェン誘導体は、基本的に全ての繰り返し単位が、上記式(1)で表される繰り返し単位であるホモポリマーであることが好ましく、上記式(1-1)~(1-5)で表されるいずれかの繰り返し単位の少なくとも1つを含むホモポリマーであることがより好ましい。
【0035】
本発明において、上記ポリチオフェン誘導体が、スルホン酸基を有する繰り返し単位を含む場合、有機溶媒に対する溶解性や分散性をより向上させる観点から、さらにアミン化合物を用いて、ポリチオフェン誘導体に含まれるスルホン酸基の少なくとも一部にアミン化合物が付加したアミン付加体としてもよい。
【0036】
アミン付加体の形成に使用できるアミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、s-ブチルアミン、t-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、n-ノナデシルアミン、n-エイコサニルアミン等のモノアルキルアミン化合物;アニリン、トリルアミン、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、1-アントリルアミン、2-アントリルアミン、9-アントリルアミン、1-フェナントリルアミン、2-フェナントリルアミン、3-フェナントリルアミン、4-フェナントリルアミン、9-フェナントリルアミン等のモノアリールアミン化合物等の一級アミン化合物;N-エチルメチルアミン、N-メチル-n-プロピルアミン、N-メチルイソプロピルアミン、N-メチル-n-ブチルアミン、N-メチル-s-ブチルアミン、N-メチル-t-ブチルアミン、N-メチルイソブチルアミン、ジエチルアミン、N-エチル-n-プロピルアミン、N-エチルイソプロピルアミン、N-エチル-n-ブチルアミン、N-エチル-s-ブチルアミン、N-エチル-t-ブチルアミン、ジプロピルアミン、N-n-プロピルイソプロピルアミン、N-n-プロピル-n-ブチルアミン、N-n-プロピル-s-ブチルアミン、ジイソプロピルアミン、N-n-ブチルイソプロピルアミン、N-t-ブチルイソプロピルアミン、ジ(n-ブチル)アミン、ジ(s-ブチル)アミン、ジイソブチルアミン、アジリジン(エチレンイミン)、2-メチルアジリジン(プロピレンイミン)、2,2-ジメチルアジリジン、アゼチジン(トリメチレンイミン)、2-メチルアゼチジン、ピロリジン、2-メチルピロリジン、3-メチルピロリジン、2,5-ジメチルピロリジン、ピペリジン、2,6-ジメチルピペリジン、3,5-ジメチルピペリジン,2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘプタメチレンイミン、オクタメチレンイミン等のジアルキルアミン化合物;ジフェニルアミン、N-フェニル-1-ナフチルアミン、N-フェニル-2-ナフチルアミン、1,1’-ジナフチルアミン、2,2’-ジナフチルアミン、1,2’-ジナフチルアミン、カルバゾール、7H-ベンゾ[c]カルバゾール、11H-ベンゾ[a]カルバゾール、7H-ジベンゾ[c,g]カルバゾール、13H-ジベンゾ[a,i]カルバゾール等のジアリールアミン化合物;N-メチルアニリン、N-エチルアニリン、N-n-プロピルアニリン、N-イソプロピルアニリン、N-n-ブチルアニリン、N-s-ブチルアニリン、N-イソブチルアニリン、N-メチル-1-ナフチルアミン、N-エチル-1-ナフチルアミン、N-n-プロピル-1-ナフチルアミン、インドリン、イソインドリン、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン等のアルキルアリールアミン化合物等の二級アミン化合物;N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジメチル-n-プロピルアミン、N,N-ジメチルイソプロピルアミン、N,N-ジメチル-n-ブチルアミン、N,N-ジメチル-s-ブチルアミン、N,N-ジメチル-t-ブチルアミン、N,N-ジメチルイソブチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、N-メチルジ(n-プロピル)アミン、N-メチルジイソプロピルアミン、N-メチルジ(n-ブチル)アミン、N-メチルジイソブチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジエチル-n-ブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジ(n-ブチル)エチルアミン、トリ(n-プロピル)アミン、トリ(i-プロピル)アミン、トリ(n-ブチル)アミン、トリ(i-ブチル)アミン、1-メチルアセチジン、1-メチルピロリジン、1-メチルピペリジン等のトリアルキルアミン化合物;トリフェニルアミン等のトリアリールアミン化合物;N-メチルジフェニルアミン、N-エチルジフェニルアミン、9-メチルカルバゾール、9-エチルカルバゾール等のアルキルジアリールアミン化合物;N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジ(n-プロピル)アニリン、N,N-ジ(i-プロピル)アニリン、N,N-ジ(n-ブチル)アニリン等のジアルキルアリールアミン化合物等の三級アミン化合物が挙げられるが、アミン付加体の溶解性、得られる電荷輸送性薄膜の電荷輸送性等のバランスを考慮すると、三級アミン化合物が好ましく、トリアルキルアミン化合物がより好ましく、トリエチルアミンがより一層好ましい。
アミン付加体は、アミン自体またはその溶液にポリチオフェン誘導体を投入し、よく撹拌することで得ることができる。
【0037】
本発明においては、上記ポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体は、還元剤で処理したものを用いてもよい。
ポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体では、それらを構成する繰り返し単位の一部において、その化学構造が「キノイド構造」と呼ばれる酸化型の構造となっている場合がある。用語「キノイド構造」は、用語「ベンゼノイド構造」に対して用いられるもので、芳香環を含む構造である後者に対し、前者は、その芳香環内の二重結合が環外に移動し(その結果、芳香環は消失する)、環内に残る他の二重結合と共役する2つの環外二重結合が形成された構造を意味する。当業者にとって、これらの両構造の関係は、ベンゾキノンとヒドロキノンの構造の関係から容易に理解できるものである。種々の共役ポリマーの繰り返し単位についてのキノイド構造は、当業者にとって周知である。一例として、上記式(1)で表されるポリチオフェン誘導体の繰り返し単位に対応するキノイド構造を、下記式(1’)に示す。
【0038】
【0039】
式(1’)中、R1およびR2は、上記式(1)において定義されたとおりである。
【0040】
このキノイド構造は、上記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体がドーパントにより酸化反応を受けるプロセス、いわゆるドーピング反応によって生じ、ポリチオフェン誘導体に電荷輸送性を付与する「ポーラロン構造」および「バイポーラロン構造」と称される構造の一部を成すものである。これらの構造は公知である。有機EL素子の作製において、「ポーラロン構造」および/または「バイポーラロン構造」の導入は必須であり、実際、有機EL素子作成時、電荷輸送性組成物から形成された薄膜を焼成処理するときに、上記のドーピング反応を意図的に起こさせて、これを達成している。このドーピング反応を起こさせる前のポリチオフェン誘導体にキノイド構造が含まれているのは、ポリチオフェン誘導体が、その製造過程(特に、その中のスルホン化工程)において、ドーピング反応と同等の、意図しない酸化反応を起こしたためと考えられる。
【0041】
上記ポリチオフェン誘導体に含まれるキノイド構造の量と、ポリチオフェン誘導体の有機溶媒に対する溶解性や分散性の間には相関があり、キノイド構造の量が多くなると、その溶解性や分散性は低下する傾向にある。このため、電荷輸送性組成物から薄膜が形成された後でのキノイド構造の導入は問題を生じないが、上記の意図しない酸化反応により、ポリチオフェン誘導体にキノイド構造が過剰に導入されていると、電荷輸送性組成物の製造に支障をきたす場合がある。ポリチオフェン誘導体においては、有機溶媒に対する溶解性や分散性にばらつきがあることが知られているが、その原因の1つは、上記の意図しない酸化反応によりポリチオフェンに導入されたキノイド構造の量が、各々のポリチオフェン誘導体の製造条件の差に応じて変動することであると考えられる。
そこで、上記ポリチオフェン誘導体を、還元剤を用いる還元処理に付すと、ポリチオフェン誘導体にキノイド構造が過剰に導入されていても、還元によりキノイド構造が減少し、ポリチオフェン誘導体の有機溶媒に対する溶解性や分散性が向上するため、均質性に優れた薄膜を与える良好な電荷輸送性組成物を、安定的に製造することが可能になる。
【0042】
還元処理の条件は、上記キノイド構造を還元して非酸化型の構造、すなわち、上記ベンゼノイド構造に適切に変換する(例えば、上記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体においては、上記式(1’)で表されるキノイド構造を、上記式(1)で表される構造に変換する)ことができるものである限り特に制限はないが、例えば、適当な溶媒の存在下または非存在下、単にポリチオフェン誘導体やアミン付加体を還元剤と接触させることにより、この処理を行うことができる。
このような還元剤も還元が適切にされる限り特に制限はないが、例えば、市販品で入手が容易であるアンモニア水、ヒドラジン等が適当である。
また、還元剤の量は、用いる還元剤の種類に応じて異なるため一概に規定できないが、処理すべきポリチオフェン誘導体やアミン付加体100質量部に対し、通常、還元が適切にされる観点から、0.1質量部以上であり、過剰な還元剤が残存しないようにする観点から、10質量部以下である。
【0043】
還元処理の具体的な方法の一例としては、ポリチオフェン誘導体やアミン付加体を28%アンモニア水中で、室温にて終夜撹拌する。このような比較的温和な条件下での還元処理により、ポリチオフェン誘導体やアミン付加体の有機溶媒に対する溶解性や分散性は十分に向上する。
【0044】
本発明の電荷輸送性組成物において、ポリチオフェン誘導体のアミン付加体を使用する場合、上記還元処理は、アミン付加体を形成する前に行っても、アミン付加体を形成した後に行ってもよい。
【0045】
なお、この還元処理によりポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体の溶媒に対する溶解性や分散性が変化する結果、処理の開始時には反応系に溶解していなかったポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体が、処理の完了時には溶解している場合がある。そのような場合には、ポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体と非相溶性の有機溶媒(スルホン化ポリチオフェンの場合、アセトン、イソプロピルアルコール等)を反応系に添加して、ポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体の沈殿を生じさせ、濾過する等の方法により、ポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体を回収することができる。
【0046】
式(1)で表されるポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体の重量平均分子量は、1,000~1,000,000が好ましく、5,000~100,000がより好ましく、10,000~50,000がより一層好ましい。重量平均分子量を下限以上とすることで、良好な導電性が再現性よく得られ、上限以下とすることで、溶媒に対する溶解性が向上する。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値である。
【0047】
なお、本発明の電荷輸送性組成物が含むポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体は、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
また、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体は、市販品を用いても、チオフェン誘導体などを出発原料とした公知の方法によって重合したものを用いてもよいが、いずれの場合も再沈殿やイオン交換等の方法により精製されたものを用いることが好ましい。精製したものを用いることで、当該誘導体を含む組成物から得られる薄膜を備えた有機EL素子の特性をより高めることができる。
【0048】
なお、共役ポリマーのスルホン化およびスルホン化共役ポリマー(スルホン化ポリチオフェンを含む)は、Seshadriらの米国特許第8,017,241号に記載されている。
また、スルホン化ポリチオフェンについては、国際公開第2008/073149号および国際公開第2016/171935号に記載されている。
【0049】
本発明においては、電荷輸送性組成物に含まれる式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体の少なくとも一部は、有機溶媒に溶解している。
【0050】
なお、本発明においては、特に制限されるものではないが、本発明の効果を損なわない範囲において、電荷輸送性物質として、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体以外の電荷輸送性化合物からなる電荷輸送性物質を併用してよいが、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体のみが含まれることが好ましい。
【0051】
本発明の電荷輸送性組成物中の電荷輸送性物質の含有量は、通常、所望の膜厚や組成物の粘度等を勘案し、組成物全体に対して0.05~40質量%、好ましくは0.1~35質量%の範囲で適宜決定される。
【0052】
本発明の電荷輸送性組成物は、フルオロアルキル基含有シランおよびフルオロアリール基含有シランから選ばれる少なくとも1種の有機シラン化合物を含む。
【0053】
上記フルオロアルキル基としては、上記で例示した炭素数1~20のフルオロアルキル基と同様のものが挙げられるが、炭素数1~10のフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1~8のフルオロアルキル基がより好ましい。
【0054】
上記フルオロアリール基としては、上記で例示した炭素数6~20、好ましくは炭素数6~12のアリール基において少なくとも1個の水素原子がフッ素原子に置換された基を挙げることができ、特に限定されないが、例えば、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基、2,3-ジフルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、2,5-ジフルオロフェニル基、2,6-ジフルオロフェニル基、3,4-ジフルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基、2,3,4-トリフルオロフェニル基、2,3,5-トリフルオロフェニル基、2,3,6-トリフルオロフェニル基、2,4,5-トリフルオロフェニル基、2,4,6-トリフルオロフェニル基、3,4,5-トリフルオロフェニル基、2,3,4,5-テトラフルオロフェニル基、2,3,4,6-テトラフルオロフェニル基、2,3,5,6-テトラフルオロフェニル基、パーフルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、パーフルオロトリル基、2-フルオロ-1-ナフチル基、3-フルオロ-1-ナフチル基、4-フルオロ-1-ナフチル基、6-フルオロ-1-ナフチル基、7-フルオロ-1-ナフチル基、8-フルオロ-1-ナフチル基、4,5-ジフルオロ-1-ナフチル基、5,7-ジフルオロ-1-ナフチル基、5,8-ジフルオロ-1-ナフチル基、5,6,7,8-テトラフルオロ-1-ナフチル基、ヘプタフルオロ-1-ナフチル基、1-フルオロ-2-ナフチル基、5-フルオロ-2-ナフチル基、6-フルオロ-2-ナフチル基、7-フルオロ-2-ナフチル基、5,7-ジフルオロ-2-ナフチル基、およびヘプタフルオロ-2-ナフチル基が挙げられる。
【0055】
上記有機シラン化合物としては、少なくとも1つの分子末端にフルオロアルキル基またはフルオロアリール基を有することが好ましく、パーフルオロアルキル基およびパーフルオロアリール基を有することがより好ましい。
【0056】
本発明で好適に用いることができるフルオロアルキル基含有シランまたはフルオロアリール基含有シランとしては、下記式(A1)または(B1)で表されるフルオロアルキル基含有シランまたはフルオロアリール基含有シランが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
【0058】
式中、R3は、互いに独立して、単結合、炭素数1~20のアルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基、エステル結合、エーテル結合またはカルボニル結合であり、R4およびR5は、互いに独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基または炭素数1~10のトリアルキルシリル基であり、Xは、炭素数1~20のパーフルオロアルキル基または炭素数6~20のパーフルオロアリール基であり、Lは、O、SまたはNであり、mは、1または2であり、nは、2または3である。
【0059】
炭素数1~20のアルキレン基としては、上記で例示した炭素数1~20のアルキレン基と同様のものが挙げられるが、炭素数1~10のアルキレン基が好ましく、炭素数1~5のアルキレン基がより好ましく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基がさらに好ましい。
【0060】
炭素数6~20、好ましくは炭素数6~12のアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基が挙げられる。本発明では、フェニレン基がより好ましい。
【0061】
炭素数1~20のアルキル基としては、上記で例示した炭素数1~20のアルキル基と同様のものが挙げられるが、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、炭素数1~5のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましい。
【0062】
炭素数1~20のアルコキシ基としては、上記で例示した炭素数1~20のアルコキシ基と同様のものが挙げられるが、炭素数1~10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~5のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基、エトキシ基がさらに好ましい。
【0063】
炭素数1~10のトリアルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリブチルシリル基、トリペンチルシリル基、トリヘキシルシリル基、ペンチルジメチルシリル基、ヘキシルジメチルシリル基、オクチルジメチルシリル基、デシルジメチルシリル基等の各アルキル基が炭素数1~10、好ましくは炭素数1~5のアルキル基であるトリアルキルシリル基が挙げられる。本発明では、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基が好ましい。
【0064】
炭素数1~20のパーフルオロアルキル基としては、例えば、上記炭素数1~20のアルキル基の水素原子が全てフッ素原子に置換された基が挙げられるが、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基がより好ましい。
【0065】
炭素数6~20のパーフルオロアリール基としては、例えば、炭素数6~20のアリール基の水素原子が全てフッ素原子に置換された基が挙げられるが、炭素数6~12のパーフルオロアリール基が好ましく、パーフルオロフェニル基、パーフルオロトリル基がより好ましい。
【0066】
Lは、O、SまたはNであるが、Oが好ましい。
【0067】
mは、1または2であるが、1が好ましい。
【0068】
nは、Lの価数に応じた数であり、2または3であるが、2が好ましい。
【0069】
以下、式(A1)または(B1)で表されるフルオロアルキル基含有シランまたはフルオロアリール基含有シランの具体例を挙げるが、これらに限定されない。
とりわけ、式(A1-1)で表されるフルオロアルキル基含有シランが好ましい。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
本発明の電荷輸送性組成物中のフルオロアルキル基含有シランおよび/またはフルオロアリール基含有シランの含有量は、固形分の質量に対して、通常、フルオロアルキル基含有シランとフルオロアリール基含有シランの合計で0.1~50質量%程度であるが、得られる薄膜の平坦性の向上や電荷輸送性の低下の抑制等のバランスを考慮すると、好ましくは0.5~40質量%程度、より好ましくは0.8~30質量%程度、より一層好ましくは1~20質量%程度である。
【0074】
本発明で用いる上記有機シラン化合物は、公知の方法で合成することができ、市販品としても入手可能である。そのような市販品としては、KBM-7103(信越化学工業(株)製)、SIT8365.0(Gelest,Inc.製)、SIT8618.0(Gelest,Inc.製)、SIT8356.0(Gelest,Inc.製)、SIT8343.0(Gelest,Inc.製)、SIT8345.0(Gelest,Inc.製)、SIP6716.73(Gelest,Inc.製)、SIP6716.6(Gelest,Inc.製)、SIN6597.7(Gelest,Inc.製)、SIT8176.0(Gelest,Inc.製)、SIH5841.5(Gelest,Inc.製)、SIN6597.65(Gelest,Inc.製)、SIT8175.0(Gelest,Inc.製)、SIH5841.2(Gelest,Inc.製)、SIB1710.0(Gelest,Inc.製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
さらに、本発明の電荷輸送性組成物では、フルオロアルキル基含有シランおよびフルオロアリール基含有シランに加えて、得られる電荷輸送性薄膜の膜物性を調整する等の目的で、その他のアルコキシシランやシロキサン系材料を併用してもよい。
その他のアルコキシシランおよび/またはシロキサン系材料は、1種単独であっても、2種以上であってもよい。
【0076】
このようなその他のアルコキシシランとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のトリアルコキシシラン;テトラアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン等が挙げられる。
シロキサン系材料としては、フルオロアルキル基含有シランおよび/またはフルオロアリール基含有シランおよび/またはその他のシランを加水分解等して得られるものが挙げられ、その具体例としては、ポリ(テトラエトキシシラン)、ポリ(フェニルエトキシシラン)等のポリシロキサンが挙げられる。
フルオロアルキル基含有シランやフルオロアリール基含有シランとの相溶性の観点から、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシランが好ましい。
【0077】
上記その他のアルコキシシランを用いる場合、その含有量は、本発明の効果を損なわない量かつ上記の効果が発揮される量であれば特に限定されないが、フルオロアルキル基含有シランおよびフルオロアリール基含有シランの合計質量に対して、通常50質量%以下である。
【0078】
本発明の電荷輸送性組成物は、金属酸化物ナノ粒子を含む。ナノ粒子とは、一次粒子についての平均粒子径がナノメートルのオーダー(典型的には500nm以下)である微粒子を意味する。金属酸化物ナノ粒子とは、ナノ粒子に成形された金属酸化物を意味する。
本発明で用いる金属酸化物ナノ粒子の一次粒子径は、ナノサイズであれば特に限定されるものではないが、再現性よく平坦性に優れた薄膜を得ることを考慮すると、2~150nmが好ましく、3~100nmがより好ましく、5~50nmがより一層好ましい。なお、粒子径は、BET法による窒素吸着等温線を用いた測定値である。
【0079】
本発明における金属酸化物ナノ粒子を構成する金属は、通常の意味での金属に加え、半金属も包含する。
通常の意味での金属としては、特に限定されるものではないが、スズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)およびタングステン(W)からなる群より選択される1種または2種以上を用いることが好ましい。
一方、半金属とは、化学的および/または物理的性質が金属と非金属の中間である元素を意味する。半金属の普遍的な定義は確立されていないが、本発明では、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)およびテルル(Te)の計6元素を半金属とする。これらの半金属は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また通常の意味での金属と組み合わせて用いてもよい。
【0080】
本発明で用いる金属酸化物ナノ粒子は、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)およびタングステン(W)から選ばれる1種または2種以上の金属の酸化物を含むことが好ましい。なお、金属が2種以上の組み合わせである場合、金属酸化物は、個々の単独の金属の酸化物の混合物であってもよく、複数の金属を含む複合酸化物であってもよい。
【0081】
金属酸化物の具体例としては、B2O3、B2O、SiO2、SiO、GeO2、GeO、As2O4、As2O3、As2O5、Sb2O3、Sb2O5、TeO2、SnO2、ZrO2、Al2O3、ZnO等が挙げられるが、B2O3、B2O、SiO2、SiO、GeO2、GeO、As2O4、As2O3、As2O5、SnO2、SnO、Sb2O3、TeO2、およびこれらの混合物が好ましく、SiO2がより好ましい。
【0082】
本発明の電荷輸送性組成物が含む金属酸化物ナノ粒子は、1種単独であっても、2種以上であってもよい。
【0083】
本発明の電荷輸送性組成物が含む金属酸化物ナノ粒子は、組成物中に均一に分散していることが好ましい。
【0084】
なお、上記金属酸化物ナノ粒子は、1種以上の有機キャッピング基を含んでもよい。この有機キャッピング基は、反応性であっても非反応性であってもよい。反応性有機キャッピング基の例としては、紫外線またはラジカル開始剤により架橋できる有機キャッピング基が挙げられる。
【0085】
本発明の電荷輸送性組成物において、金属酸化物ナノ粒子の含有量は、特に限定されるものではないが、電荷輸送性物中での粒子の凝集を抑制する、再現性よく平坦性に優れた薄膜を得る等の観点から、固形分の質量に対し、40~95質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましく、60~90質量%が最も好ましい。
【0086】
特に、本発明においては、金属酸化物ナノ粒子が分散した金属酸化物ナノ粒子ゾルを用いることで、金属酸化物ナノ粒子が均一に分散した組成物を再現性よく調製できる。
すなわち、金属酸化物ナノ粒子自体を、電荷輸送性物質等とともに溶媒に混ぜて分散させるよりも、予め金属酸化物ナノ粒子ゾルを調製し、そのゾルを、電荷輸送性物質等が溶媒に溶解または分散した混合物と混ぜることで、金属酸化物ナノ粒子が均一に分散した電荷輸送性組成物を再現性よく製造できる。
このような金属酸化物ナノ粒子ゾルは、市販品を用いてもよく、本発明の電荷輸送性組成物が含み得る溶媒および金属酸化物ナノ粒子を用いて公知の方法で調製することもできる。
【0087】
特に、本発明の電荷輸送性組成物を調製する際には、SiO2ナノ粒子が分散媒に分散したシリカゾルを用いることが好適である。
シリカゾルとしては、特に限定されるものではなく、公知のシリカゾルから適宜選択して用いることができる。
市販のシリカゾルは通常、分散液の形態にある。市販のシリカゾルとしては、SiO2ナノ粒子が種々の溶媒、例えば、水、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N,N-ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、イソプロパノール、メタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、シクロヘキサノン、酢酸エチル、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート等に分散したものが挙げられる。
特に、本発明においては、分散媒がアルコール溶媒または水であるシリカゾルが好ましく、分散媒がアルコール溶媒であるシリカゾルがより好ましい。アルコール溶媒としては、水溶性のアルコールが好ましく、メタノール、2-プロパノール、エチレングリコールがより好ましい。
【0088】
市販のシリカゾルの具体例としては日産化学(株)製のスノーテックス(登録商標)ST-O、ST-OS、ST-O-40、ST-OL、日本化学(株)製のシリカドール20、30、40等の水分散シリカゾル;日産化学(株)製のメタノールシリカゾル、MA-ST-M、MA-ST-L、IPA-ST、IPA-ST-L、IPA-ST-ZL、EG-ST等のオルガノシリカゾルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、シリカゾルの濃度も特に限定されるものではないが、5~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、15~30質量%がより一層好ましい。
【0089】
シリカゾル中のSiO2ナノ粒子濃度は、通常5~50質量%程度であるが、SiO2ナノ粒子の濃度が高い場合、シリカゾルを電荷輸送性物質等が溶媒に溶解または分散した混合物と混ぜた際に、当該混合物が含む溶媒の種類によってはSiO2ナノ粒子が凝集してしまうことがあるため、組成物調製の際はその点は留意する。
【0090】
本発明の電荷輸送性組成物は、有機溶媒を含む。
このような有機溶媒としては、本発明の電荷輸送性組成物に用いられる有機溶媒以外の成分を分散または溶解するものであれば特に限定されるものではない。
その具体例としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族またはハロゲン化芳香族炭化水素溶媒;n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ノルマルヘキシル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒;塩化メチレン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、2-ベンゾオキシエタノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコール、1,3-オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等のグリコール系溶媒などの中から適宜選択して用いればよい。
なお、これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0091】
本発明の電荷輸送性組成物には、溶媒として水も含まれ得るが、水の含有量は、耐久性に優れる有機EL素子を再現性よく得る観点から、溶媒全体の10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、溶媒として有機溶媒のみを用いることが最適である。なお、この場合における「有機溶媒のみ」とは、溶媒として用いるものが有機溶媒だけであることを意味し、使用する有機溶媒や固形分等に微量に含まれる「水」の存在までをも否定するものではない。
【0092】
本発明の電荷輸送性組成物では、得られる薄膜の用途に応じ、その電荷輸送能の向上等を目的としてドーパント物質を含んでいてもよい。
ドーパント物質としては、組成物に使用する少なくとも一種の溶媒に溶解するものであれば特に限定されず、無機系のドーパント物質、有機系のドーパント物質のいずれも使用できる。
【0093】
無機系のドーパント物質としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、リンタングストモリブデン酸、ケイタングステン酸等のヘテロポリ酸;塩化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機強酸;塩化アルミニウム(III)(AlCl3)、四塩化チタン(IV)(TiCl4)、三臭化ホウ素(BBr3)、三フッ化ホウ素エーテル錯体(BF3・OEt2)、塩化鉄(III)(FeCl3)、塩化銅(II)(CuCl2)、五塩化アンチモン(V)(SbCl5)、五フッ化砒素(V)(AsF5)、五フッ化リン(PF5)等の金属ハロゲン化物、Cl2、Br2、I2、ICl、ICl3、IBr、IF4等のハロゲンなどが挙げられる。
【0094】
また、有機系のドーパント物質としては、7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)や2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン等のテトラシアノキノジメタン類;テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、テトラクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-クロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン等のハロテトラシアノキノジメタン(ハロTCNQ)類;テトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(クロラニル)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)等のベンゾキノン誘導体;ベンゼンスルホン酸、トシル酸、p-スチレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5-スルホサリチル酸、p-ドデシルベンゼンスルホン酸、ジヘキシルベンゼンスルホン酸、2,5-ジヘキシルベンゼンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸、6,7-ジブチル-2-ナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、3-ドデシル-2-ナフタレンスルホン酸、ヘキシルナフタレンスルホン酸、4-ヘキシル-1-ナフタレンスルホン酸、オクチルナフタレンスルホン酸、2-オクチル-1-ナフタレンスルホン酸、ヘキシルナフタレンスルホン酸、7-へキシル-1-ナフタレンスルホン酸、6-ヘキシル-2-ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、2,7-ジノニル-4-ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、2,7-ジノニル-4,5-ナフタレンジスルホン酸、国際公開第2005/000832号記載の1,4-ベンゾジオキサンジスルホン酸誘導体、国際公開第2006/025342号記載のアリールスルホン酸誘導体、特開2005-108828号公報記載のジノニルナフタレンスルホン酸誘導体等のアリールスルホン酸化合物や、ポリスチレンスルホン酸等の芳香族スルホン化合物;10-カンファースルホン酸等の非芳香族スルホン化合物などが挙げられる。
これら無機系および有機系のドーパント物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
本発明におけるドーパント物質として好ましいアリールスルホン酸化合物の例としては、式(H1)または(H2)で表されるアリールスルホン酸化合物が挙げられる。
【0096】
【0097】
A1は、OまたはSを表すが、Oが好ましい。
A2は、ナフタレン環またはアントラセン環を表すが、ナフタレン環が好ましい。
A3は、2~4価のパーフルオロビフェニル基を表し、sは、A1とA3との結合数を示し、2≦s≦4を満たす整数であるが、A3がパーフルオロビフェニルジイル基、好ましくはパーフルオロビフェニル-4,4’-ジイル基であり、かつ、sが2であることが好ましい。
qは、A2に結合するスルホン酸基数を表し、1≦q≦4を満たす整数であるが、2が最適である。
【0098】
A4~A8は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン化アルキル基、または炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基を表すが、A4~A8のうち少なくとも3つは、ハロゲン原子である。
【0099】
炭素数1~20のハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基、1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。
【0100】
炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基としては、パーフルオロビニル基、パーフルオロプロペニル基(アリル基)、パーフルオロブテニル基等が挙げられる。
その他、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基の例としては上記と同様のものが挙げられるが、ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0101】
これらの中でも、A4~A8は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、または炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基であり、かつ、A4~A8のうち少なくとも3つは、フッ素原子であることが好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のフッ化アルキル基、または炭素数2~5のフッ化アルケニル基であり、かつ、A4~A8のうち少なくとも3つはフッ素原子であることがより好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基、または炭素数1~5のパーフルオロアルケニル基であり、かつ、A4、A5およびA8がフッ素原子であることがより一層好ましい。
なお、パーフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基であり、パーフルオロアルケニル基とは、アルケニル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基である。
【0102】
rは、ナフタレン環に結合するスルホン酸基数を表し、1≦r≦4を満たす整数であるが、2~4が好ましく、2が最適である。
【0103】
ドーパント物質として有機化合物を用いる場合、その分子量は、有機溶媒への溶解性を考慮すると、好ましくは3,000以下、より好ましくは2,500以下である。
特に、ドーパント物質として用いるアリールスルホン酸化合物の分子量は、特に限定されるものではないが、有機溶媒への溶解性を考慮すると、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,500以下である。
【0104】
本発明において、好適に用いることができるアリールスルホン酸化合物の例としては、以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
【0106】
本発明の電荷輸送性組成物は、ポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体の分散性や溶解性を向上させる等の目的で、アミン化合物を含んでもよい。
このようなアミン化合物は、組成物に使用する少なくとも一種の溶媒に溶解するものであれば特に限定されず、1種単独であっても、2種以上であってもよい。
【0107】
一級アミン化合物の具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、s-ブチルアミン、t-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、n-ノナデシルアミン、n-エイコサニルアミン等のモノアルキルアミン化合物;アニリン、トリルアミン、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、1-アントリルアミン、2-アントリルアミン、9-アントリルアミン、1-フェナントリルアミン、2-フェナントリルアミン、3-フェナントリルアミン、4-フェナントリルアミン、9-フェナントリルアミン等のモノアリールアミン化合物等が挙げられる。
【0108】
二級アミン化合物の具体例としては、N-エチルメチルアミン、N-メチル-n-プロピルアミン、N-メチルイソプロピルアミン、N-メチル-n-ブチルアミン、N-メチル-s-ブチルアミン、N-メチル-t-ブチルアミン、N-メチルイソブチルアミン、ジエチルアミン、N-エチル-n-プロピルアミン、N-エチルイソプロピルアミン、N-エチル-n-ブチルアミン、N-エチル-s-ブチルアミン、N-エチル-t-ブチルアミン、ジプロピルアミン、N-n-プロピルイソプロピルアミン、N-n-プロピル-n-ブチルアミン、N-n-プロピル-s-ブチルアミン、ジイソプロピルアミン、N-n-ブチルイソプロピルアミン、N-t-ブチルイソプロピルアミン、ジ(n-ブチル)アミン、ジ(s-ブチル)アミン、ジイソブチルアミン、アジリジン(エチレンイミン)、2-メチルアジリジン(プロピレンイミン)、2,2-ジメチルアジリジン、アゼチジン(トリメチレンイミン)、2-メチルアゼチジン、ピロリジン、2-メチルピロリジン、3-メチルピロリジン、2,5-ジメチルピロリジン、ピペリジン、2,6-ジメチルピペリジン、3,5-ジメチルピペリジン,2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘプタメチレンイミン、オクタメチレンイミン等のジアルキルアミン化合物;ジフェニルアミン、N-フェニル-1-ナフチルアミン、N-フェニル-2-ナフチルアミン、1,1’-ジナフチルアミン、2,2’-ジナフチルアミン、1,2’-ジナフチルアミン、カルバゾール、7H-ベンゾ[c]カルバゾール、11H-ベンゾ[a]カルバゾール、7H-ジベンゾ[c,g]カルバゾール、13H-ジベンゾ[a,i]カルバゾール等のジアリールアミン化合物;N-メチルアニリン、N-エチルアニリン、N-n-プロピルアニリン、N-イソプロピルアニリン、N-n-ブチルアニリン、N-s-ブチルアニリン、N-イソブチルアニリン、N-メチル-1-ナフチルアミン、N-エチル-1-ナフチルアミン、N-n-プロピル-1-ナフチルアミン、インドリン、イソインドリン、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン等のアルキルアリールアミン化合物等が挙げられる。
【0109】
三級アミン化合物の具体例としては、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジメチル-n-プロピルアミン、N,N-ジメチルイソプロピルアミン、N,N-ジメチル-n-ブチルアミン、N,N-ジメチル-s-ブチルアミン、N,N-ジメチル-t-ブチルアミン、N,N-ジメチルイソブチルアミン、N,N-ジエチルメチルアミン、N-メチルジ(n-プロピル)アミン、N-メチルジイソプロピルアミン、N-メチルジ(n-ブチル)アミン、N-メチルジイソブチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジエチル-n-ブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジ(n-ブチル)エチルアミン、トリ(n-プロピル)アミン、トリ(i-プロピル)アミン、トリ(n-ブチル)アミン、トリ(i-ブチル)アミン、1-メチルアセチジン、1-メチルピロリジン、1-メチルピペリジン等のトリアルキルアミン化合物;トリフェニルアミン等のトリアリールアミン化合物;N-メチルジフェニルアミン、N-エチルジフェニルアミン、9-メチルカルバゾール、9-エチルカルバゾール等のアルキルジアリールアミン化合物;N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジ(n-プロピル)アニリン、N,N-ジ(i-プロピル)アニリン、N,N-ジ(n-ブチル)アニリン等のジアルキルアリールアミン化合物等が挙げられる。
【0110】
とりわけ、本発明の電荷輸送性組成物がアミン化合物を含む場合、本発明で用いるポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体の分散性や溶解性を向上させる能力に優れることから、当該アミン化合物は、一級アミン化合物を含むことが好ましく、モノアルキルアミン、特に炭素数2以上20以下のモノアルキルアミンを含むことが好ましい。
【0111】
本発明の電荷輸送性組成物がアミン化合物を含む場合、その含有量は、本発明で用いるポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体に対して、通常200質量%以下であり、当該アミン化合物による上記効果を得るためには50質量%以上が好ましい。
【0112】
本発明の電荷輸送性組成物の粘度は、通常、25℃で1~50mPa・sであり、表面張力は、通常、25℃で20~50mN/mである。
本発明の電荷輸送性組成物の粘度と表面張力は、用いる塗布方法、所望の膜厚等の各種要素を考慮して、用いる有機溶媒の種類やそれらの比率、固形分濃度等を変更することで調整可能である。
【0113】
また、本発明における電荷輸送性組成物の固形分濃度は、組成物の粘度および表面張力等や、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常0.1~15.0質量%程度であり、組成物中の電荷輸送性物質や金属酸化物ナノ粒子の凝集を抑制する等の観点から、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、より一層好ましくは5質量%以下である。
【0114】
本発明の電荷輸送性組成物は、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体と、フルオロアルキル基含有シランおよびフルオロアリール基含有シランから選ばれる少なくとも1種の有機シラン化合物と、金属酸化物ナノ粒子と、有機溶媒とを混合することで製造できる。
その混合順序は特に限定されるものではないが、容易にかつ再現性よく、本発明の電荷輸送性組成物を製造できる方法の一例としては、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体、フルオロアルキル基含有シランおよびフルオロアリール基含有シラン等を有機溶媒と混ぜて混合物を得、その混合物に、予め準備した金属酸化物ナノ粒子ゾルを加える方法や、その混合物を、予め準備しておいた金属酸化物ナノ粒子のゾルに加える方法が挙げられる。この場合において、必要であれば、最後に更に有機溶媒を追加で加えたり、溶媒に比較的溶けやすい一部の成分を混合物中に含めないでそれを最後に加えたりしてもよいが、構成成分の凝集や分離を抑制し、均一性に優れる電荷輸送性組成物を再現性よく調製する観点から、良好な分散状態または良好な溶解状態の金属酸化物ナノ粒子ゾルおよびその他の成分を含む混合物を各別に準備し、両者を混ぜ、その後に良く撹拌することが好ましい。なお、金属酸化物ナノ粒子やポリチオフェン誘導体またはそのアミン付加体は、共に混ぜられる溶媒の種類や量によっては、混ぜられた際に凝集または沈殿する可能性がある点を留意する。また、ゾルを用いて組成物を調製する場合、最終的に得られる組成物中の金属酸化物ナノ粒子が所望の量となるように、ゾルの濃度やその使用量を決める必要がある点も留意する。
組成物の調製では、成分が分解したり変質したりしない範囲で、適宜加熱してもよい。
【0115】
本発明においては、電荷輸送性組成物は、より平坦性の高い薄膜を再現性よく得る目的で、組成物を製造する途中段階でまたは全ての成分を混合した後に、サブマイクロメートルオーダーのフィルター等を用いてろ過してもよい。
【0116】
以上で説明した本発明の電荷輸送性組成物を基材上に塗布して焼成することで、基材上に本発明の電荷輸送性薄膜を形成することができる。
組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法、スリットコート法等が挙げられ、塗布方法に応じて組成物の粘度および表面張力を調節することが好ましい。
【0117】
また、本発明の電荷輸送性組成物を用いる場合、焼成雰囲気も特に限定されるものではなく、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面および高い電荷輸送性を有する薄膜を得ることができる。
【0118】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度、溶媒の種類や沸点等を勘案して、100~260℃程度の範囲内で適宜設定されるものではあるが、得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、140~250℃程度が好ましく、145~240℃程度がより好ましい。
なお、焼成の際、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよく、加熱は、例えば、ホットプレートやオーブン等、適当な機器を用いて行えばよい。
【0119】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子の正孔注入層や正孔輸送層として用いる場合、通常3~300nmであるが、5~200nmが好ましい。膜厚を変化させる方法としては、組成物中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の組成物量を変化させたりする等の方法がある。
【0120】
本発明の有機EL素子は、一対の電極を有し、これら電極の間に、上述の本発明の電荷輸送性薄膜からなる機能膜を有するものである。
有機EL素子の代表的な構成としては、以下(a)~(f)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。なお、下記構成において、必要に応じて、発光層と陽極の間に電子ブロック層等を、発光層と陰極の間にホール(正孔)ブロック層等を設けることもできる。また、正孔注入層、正孔輸送層あるいは正孔注入輸送層が電子ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよく、電子注入層、電子輸送層あるいは電子注入輸送層がホール(正孔)ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよい。更に、必要に応じて各層の間に任意の機能層を設けることも可能である。
(a)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(b)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(c)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(d)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
(f)陽極/正孔注入輸送層/発光層/陰極
【0121】
「正孔注入層」、「正孔輸送層」および「正孔注入輸送層」とは、発光層と陽極との間に形成される層であって、正孔を陽極から発光層へ輸送する機能を有するものであり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「正孔注入輸送層」であり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陽極に近い層が「正孔注入層」であり、それ以外の層が「正孔輸送層」である。特に、正孔注入(輸送)層は、陽極からの正孔受容性だけでなく、正孔輸送(発光)層への正孔注入性にも優れる薄膜が用いられる。
「電子注入層」、「電子輸送層」および「電子注入輸送層」とは、発光層と陰極との間に形成される層であって、電子を陰極から発光層へ輸送する機能を有するものであり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「電子注入輸送層」であり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陰極に近い層が「電子注入層」であり、それ以外の層が「電子輸送層」である。
「発光層」とは、発光機能を有する有機層であって、ドーピングシステムを採用する場合、ホスト材料とドーパント材料を含んでいる。このとき、ホスト材料は、主に電子と正孔の再結合を促し、励起子を発光層内に閉じ込める機能を有し、ドーパント材料は、再結合で得られた励起子を効率的に発光させる機能を有する。燐光素子の場合、ホスト材料は主にドーパントで生成された励起子を発光層内に閉じ込める機能を有する。
【0122】
本発明の電荷輸送性組成物から作製された電荷輸送性薄膜は、有機EL素子において、陽極と発光層との間に形成される機能層として用い得るが、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層に好適であり、正孔注入層により好適である。
【0123】
本発明の電荷輸送性組成物を用いて有機EL素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0124】
上記電荷輸送性組成物から得られる薄膜からなる正孔注入層を有するOLED素子の作製方法の一例は、以下のとおりである。なお、電極は、電極に悪影響を与えない範囲で、アルコール、純水等による洗浄や、UVオゾン処理、酸素-プラズマ処理等による表面処理を予め行うことが好ましい。
陽極基板上に、上記の方法により、上記電荷輸送性組成物を用いて正孔注入層を形成する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層/ホールブロック層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着する。あるいは、当該方法において蒸着で正孔輸送層と発光層を形成する代わりに、正孔輸送性高分子を含む正孔輸送層形成用組成物と発光性高分子を含む発光層形成用組成物を用いてウェットプロセスによってこれらの層を形成する。なお、必要に応じて、発光層と正孔輸送層との間に電子ブロック層を設けてよい。
【0125】
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極や、アルミニウムに代表される金属、またはこれらの合金等から構成される金属陽極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。
なお、金属陽極を構成するその他の金属としては、金、銀、銅、インジウムやこれらの合金等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0126】
正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー、N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン(α-NPD)、4,4’,4”-トリス[3-メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス[1-ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1-TNATA)等のトリアリールアミン類、5,5”-ビス-{4-[ビス(4-メチルフェニル)アミノ]フェニル}-2,2’:5’,2”-ターチオフェン(BMA-3T)等のオリゴチオフェン類などが挙げられる。
【0127】
発光層を形成する材料としては、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、ビススチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体、シロール誘導体等の低分子発光材料;ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の高分子化合物に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、蒸着で発光層を形成する場合、発光性ドーパントと共蒸着してもよく、発光性ドーパントとしては、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)等の金属錯体や、ルブレン等のナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の縮合多環芳香族環等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0128】
電子輸送層/ホールブロック層を形成する材料としては、オキシジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ピリミジン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0129】
電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al2O3)等の金属酸化物、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)の金属フッ化物等が挙げられるが、これらに限定されない。
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム-銀合金、アルミニウム-リチウム合金等が挙げられるが、これらに限定されない。
電子ブロック層を形成する材料としては、トリス(フェニルピラゾール)イリジウム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0130】
正孔輸送性高分子としては、ポリ[(9,9-ジヘキシルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,1’-ビフェニレン-4,4-ジアミン)]、ポリ[(9,9-ビス{1’-ペンテン-5’-イル}フルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N’-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン]-エンドキャップド ウィズ ポリシルセスキノキサン、ポリ[(9,9-ジジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(p-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]等が挙げられる。
【0131】
発光性高分子としては、ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2-メトキシ-5-(2’-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)等のポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0132】
陽極と陰極およびこれらの間に形成される層を構成する材料は、ボトムエミッション構造、トップエミッション構造のいずれを備える素子を製造するかで異なるため、その点を考慮して、適宜材料選択する。
通常、ボトムエミッション構造の素子では、基板側に透明陽極が用いられ、基板側から光が取り出されるのに対し、トップエミッション構造の素子では、金属からなる反射陽極が用いられ、基板と反対方向にある透明電極(陰極)側から光が取り出されることから、例えば陽極材料について言えば、ボトムエミッション構造の素子を製造する際はITO等の透明陽極を、トップエミッション構造の素子を製造する際はAl/Nd等の反射陽極を、それぞれ用いる。
【0133】
本発明の有機EL素子は、特性悪化を防ぐため、定法に従い、必要に応じて捕水剤などとともに封止してもよい。
【0134】
本発明の電荷輸送性組成物は、上述した通り有機EL素子の正孔注入層または正孔輸送層の形成に好適に用いられるが、その他にも有機光電変換素子、有機薄膜太陽電池、有機ぺロブスカイト光電変換素子、有機集積回路、有機電界効果トランジスタ、有機薄膜トランジスタ、有機発光トランジスタ、有機光学検査器、有機光受容器、有機電場消光素子、発光電子化学電池、量子ドット発光ダイオード、量子レーザー、有機レーザーダイオードおよび有機プラスモン発光素子等の電子素子における電荷輸送性薄膜の形成にも利用することができる。
【実施例】
【0135】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、使用した装置は以下のとおりである。
(1)基板洗浄:長州産業(株)製、基板洗浄装置(減圧プラズマ方式)
(2)組成物の塗布:ミカサ(株)製、スピンコーターMS-A100
(3)膜厚測定:(株)小坂研究所製、微細形状測定機サーフコーダET-4000
(4)EL素子の作製:長州産業(株)製、多機能蒸着装置システムC-E2L1G1-N
(5)EL素子の輝度等の測定:(有)テック・ワールド製、I-V-L測定システム
【0136】
[1]化合物の合成
[合成例1]ポリチオフェン誘導体の合成
繰り返し単位が上記式(1a)で表される繰り返し単位を含むポリマーであるポリチオフェン誘導体の水分散液(濃度0.6質量%)500gをトリエチルアミン0.9gと混合し、得られた混合物を回転蒸発により乾固した。そして、得られた乾燥物を真空オーブン中、50℃で一晩更に乾燥し、スルホン酸基にアミンが付加したポリチオフェン誘導体Aを4g得た。
【0137】
[2]電荷輸送性組成物の調製
[実施例1-1]
ポリチオフェン誘導体A0.030gおよび2-エチルヘキシルアミン(2-EHA)0.048gを、エチレングリコール(EG)0.941gおよびジエチレングリコール(DEG)1.930gと混ぜ、ホットスターラーを用いて80℃で1時間撹拌した。得られた混合物に、2-ベンゾオキシエタノール(2-BOE)0.965g、トリエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)4.826gを加えた。そこへ、金属酸化物ナノ粒子であるSiO2を含む分散媒がエチレングリコールであるオルガノシリカゾルEG-ST(日産化学(株)製、20.5質量%、以下同様)1.244g、上記式(A1-1)で表される有機シラン化合物(信越化学工業(株)製、KBM-7103)0.015gを加えて撹拌し、得られた混合物を孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して、電荷輸送性組成物を調製した。
【0138】
[実施例1-2]
初めに、上記式(b-1)で表されるアリールスルホン酸(アリールスルホン酸B)が10質量%含まれるエチレングリコール溶液を調製した。溶液の調製はホットスターラーを用い、400rpm、50℃で1時間撹拌させた。
次に、別の容器を用意し、ポリチオフェン誘導体A0.030gおよび2-EHA0.048gを、EG0.788gおよびDEG1.930gと混ぜ、ホットスターラーを用いて80℃で1時間撹拌した。得られた混合物に、2-BOE0.965g、TEGDME4.826gを加えて撹拌した。そこへ、アリールスルホン酸Bの10質量%エチレングリコール溶液0.300gを、EG-ST1.098g、KBM-7103 0.015gを加えて撹拌し、得られた混合物を孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して、電荷輸送性組成物を調製した。
なお、式(b-1)で表されるアリールスルホン酸は、国際公開第2006/025342号に従って合成した(以下同様)。
また、アリールスルホン酸Bの10質量%エチレングリコール溶液は、比較例1-2でも用いた。
【0139】
[実施例1-3]
ポリチオフェン誘導体A0.030gおよび2-EHA0.048gを、EG0.941gおよびDEG1.930gと混ぜ、ホットスターラーを用いて80℃で1時間撹拌した。得られた混合物に、2-BOE0.965gおよびTEGDME4.826gを加えた。そこへ、EG-ST1.244g、上記式(A1-8)で表される有機シラン化合物(Gelest,Inc.製、SIP6716.6)0.015gを加えて撹拌し、得られた混合物を孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して、電荷輸送性組成物を調製した。
【0140】
[比較例1-1]
ポリチオフェン誘導体A0.030gおよび2-EHA0.048gを、EG0.883gおよびDEG1.930gと混ぜ、ホットスターラーを用いて80℃で1時間撹拌した。得られた混合物に、2-BOE0.965gおよびTEGDME4.826gを加えて撹拌した。そこへ、EG-ST1.317gを加え撹拌し、得られた混合物を孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して、電荷輸送性組成物を調製した。
【0141】
[比較例1-2]
ポリチオフェン誘導体A0.030gおよび2-EHA0.048gを、EG0.788gおよびDEG1.930gと混ぜ、ホットスターラーを用いて80℃で1時間撹拌した。得られた混合物に、2-BOE0.965gおよびTEGDME4.826gを加えて撹拌した。そこへ、アリールスルホン酸Bの10質量%エチレングリコール溶液0.300g、EG-ST1.098gおよびフェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、LS-2750)0.015gを加えて撹拌し、得られた混合物を孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して、電荷輸送性組成物を調製した。
【0142】
[比較例1-3]
ポリチオフェン誘導体A0.030gおよび2-EHA0.048gを、EG0.941gおよびDEG1.930gと混ぜ、ホットスターラーを用いて80℃で1時間撹拌した。得られた混合物に、2-BOE0.965gおよびTEGDME4.826gを加えた。そこへ、EG-ST1.244gおよびフェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、LS-2750)0.015gを加えて撹拌し、得られた混合物を孔径0.2μmのPPシリンジフィルターでろ過して、電荷輸送性組成物を調製した。
【0143】
[3]素子の作製および特性評価
以下の実施例および比較例において、ITO基板としては、ITOが表面上に膜厚150nmでパターニングされた25mm×25mm×0.7tのガラス基板を用い、使用前にO2プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)によって表面上の不純物を除去したものを使用した。
【0144】
[3-1]単層素子(SLD)の作製および特性評価
[実施例2-1]
実施例1-1で得られた組成物を、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、大気下で、120℃で1分間仮焼成をし、次いで200℃で15分間本焼成をし、ITO基板上に50nmの薄膜を形成した。
その上に、蒸着装置(真空度4.0×10-5Pa)を用いてアルミニウム薄膜を形成して単層素子を得た。蒸着は、蒸着レート0.2nm/秒の条件で行った。アルミニウム薄膜の膜厚は80nmとした。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、SLDは封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は、以下の手順で行った。
酸素濃度2ppm以下、露点-85℃以下の窒素雰囲気中で、SLDを封止基板の間に収め、封止基板を接着材((株)MORESCO製モレスコモイスチャーカットWB90US(P))により貼り合わせた。この際、捕水剤(ダイニック(株)製HD-071010W-40)をSLDと共に封止基板内に収めた。貼り合わせた封止基板に対し、UV光を照射(波長365nm、照射量6,000mJ/cm2)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着材を硬化させた。
【0145】
[実施例2-2]
実施例1-1で得られた組成物の代わりに実施例1-2で得られた組成物を用いた以外は、実施例2-1と同様の方法でSLDを作製した。
【0146】
[実施例2-3]
実施例1-1で得られた組成物の代わりに実施例1-3で得られた組成物を用いた以外は、実施例2-1と同様の方法でSLDを作製した。
【0147】
上記実施例で作製した各SLDについて、駆動電圧3Vにおける電流密度を測定した。結果を表1に示す。
【0148】
【0149】
[3-2]有機EL素子の作製および特性評価
[実施例3-1]
実施例1-1で得られた組成物を、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、大気下で、120℃で1分間乾燥し、さらに、200℃で15分間焼成し、ITO基板上に50nmの均一な薄膜(正孔注入層)を形成した。
その上に、蒸着装置(真空度2.0×10-5Pa)を用いてα-NPD(N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン)を30nm成膜した。この際の蒸着レートは、0.2nm/秒とした。次に、関東化学(株)製の電子ブロック材料HTEB-01を10nm成膜した。次いで、新日鉄住金化学(株)製の発光層ホスト材料NS60と発光層ドーパント材料Ir(PPy)3を共蒸着した。共蒸着はIr(PPy)3の濃度が6%になるように蒸着レートをコントロールし、40nm積層させた。次いで、Alq3、フッ化リチウムおよびアルミニウムの薄膜を順次積層して有機EL素子を得た。この際、蒸着レートは、Alq3およびアルミニウムについては0.2nm/秒、フッ化リチウムについては0.02nm/秒とした。Alq3、フッ化リチウムおよびアルミニウムの薄膜の膜厚は、それぞれ20nm、0.5nmおよび80nmとした。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、有機EL素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は上記と同様の方法で行った。
【0150】
[実施例3-2~3-3、比較例3-1~3-3]
実施例1-1で得られた組成物の代わりに実施例1-2~1-3、比較例1-1~1-3で得られた組成物を用いた以外は、実施例3-1と同様の方法で有機EL素子を作製した。
【0151】
これらの素子について、駆動電圧4.5Vにおける発光画像を観察した。結果を
図1に示す。また、輝度5,000cd/m
2における電圧、電流効率、外部発光量子収率(EQE)、輝度寿命(初期輝度5,000cd/m
2)を測定した。結果を表2に示す。なお、各素子の発光面サイズの面積は、2mm×2mmとした。
【0152】
【0153】
図1から明らかなように、比較例の組成物を用いた場合、得られる薄膜の表面のムラが観察され、高平坦性の薄膜が得られない場合が多かったのに対し、本発明の組成物を用いた場合、表面のムラは観測されず、平坦性に優れた電荷輸送性薄膜を再現性よく製造できた。さらに、表2に示したように、本発明の組成物から得られる薄膜を備える有機EL素子(実施例3-1)は、比較例の組成物から得られる薄膜を備える有機EL素子(比較例3-1)と比較して、駆動電圧が低く、電流効率やEQEが高く、かつ極めて長い輝度寿命を有していた。また、比較例3-2と比べて、実施例3-2は同程度の駆動電圧、電流効率、EQEを示し、かつ極めて長い輝度寿命を有していた。また、比較例3-3と比べて、実施例3-3は駆動電圧が低く、電流効率やEQEが高かった。