(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】液晶配向剤、その製造方法、液晶配向膜、及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20231129BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2020538376
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2019032286
(87)【国際公開番号】W WO2020040089
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2018154227
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【氏名又は名称】横井 大一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】名木 達哉
(72)【発明者】
【氏名】杉山 崇明
(72)【発明者】
【氏名】福田 一平
(72)【発明者】
【氏名】橋本 淳
(72)【発明者】
【氏名】石川 和典
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107698761(CN,A)
【文献】特開2016-006473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物若しくはその誘導体を含有するテトラカルボン酸成分と、下記式(3)で表される第1のジアミン
、下記式(4)で表される第2のジアミンを含有するジアミン成
分、及び下記式(5)で表される第3のジアミンを含有するジアミン成分と、の重縮合反応から得られるポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドを含有することを特徴とする液晶配向剤。
【化1】
(但し、X
1は下記式(X1-1)又は(X1-2)で表される構造である。)
【化2】
(但し、R
3~R
12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基、又はフェニル基であり、R
3~R
6の少なくとも一つは上記定義中の水素原子以外の基である。)
【化3】
(但し、A
1は炭素数2~10のアルキレン、又は、前記アルキレンが有する-CH
2-の少なくとも一つを連続しない条件で-O-又は-S-で置き換えた基である。A
2は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、ニトロ基、リン酸基、又は炭素数1~20の1価の有機基であり、aは0~4の整数であり、A
2が複数存在する場合、A
2は同一でも異なってもよい。b及びcはそれぞれ独立して1又は2の整数であり、dは0又は1の整数である。)
【化4】
【化5】
(但し、式(5)中、Y
1
は下記式(6)の構造を有する2価の有機基である。
【化6】
但し、式(6)中、Dは加熱によって脱離し水素原子に置き換わる保護基を表し、*は他の構造との接続箇所を表す。)
【請求項2】
前記式(1)におけるX
1が,下記式(X1-1-1)~(X1-1-5)から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の液晶配向剤。
【化7】
【請求項3】
前記式(3)で表される第1のジアミンが、下記式(3-1)~(3-12)から選ばれる少なくとも1種のジアミンである請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【化8】
【請求項4】
前記式(3)で表される第1のジアミンが、前記式(3-1)、(3-4)~(3-10)から選ばれる少なくとも1種のジアミンである請求項3に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記式(4)で表される第2のジアミンが、下式(4-1)~(4-3)から選ばれる少なくとも1種のジアミンである請求項1~4のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化9】
【請求項6】
前記式(5)で表される第3のジアミンが、下記式(5-1)~(5-9)から選ばれる少なくとも1種のジアミンである請求項1~5のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化10】
【請求項7】
前記式(3)で表される第1のジアミンが、前記ジアミン成分に対して、40~90モル%含有される請求項1~
6のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
前記式(4)で表される第2のジアミンが、前記ジアミン成分に対して、10~40モル%含有される請求項1~
7のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項9】
前記式(5)で表される第3のジアミンが、前記ジアミン成分に対して、5~30モル%含有される請求項1~8のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項10】
前記テトラカルボン酸成分が、さらに下記式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種類を含む請求項1~
9のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化11】
(但し、X
2は下記式(X2-1)~(X2-6)から選ばれる構造である。)
【化12】
【請求項11】
前記式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物若しくはその誘導体が、テトラカルボン酸成分に対して、1~30モル%含有される請求項
10に記載の液晶配向剤。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の液晶配向剤を用いて得られる液晶配向膜。
【請求項13】
請求項12に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
【請求項14】
下記の工程(A)、工程(B)、工程(C)及び工程(D)を有する液晶配向膜の製造方法。
工程(A):請求項1~
11のいずれか1項に記載の液晶配向剤を基板上に塗布する工程。
工程(B):塗布した液晶配向剤を熱イミド化が実質的に進行しない条件で加熱して膜を得る工程。
工程(C):工程(B)で得られた膜に偏光された紫外線を照射する工程。
工程(D):工程(C)で得られた膜を100℃以上で、且つ工程(B)よりも高い温度で焼成する工程。
【請求項15】
前記工程(B)において、50℃~150℃で加熱する請求項
14に記載の液晶配向膜の製造方法。
【請求項16】
前記工程(D)において、前記膜を150~300℃で焼成する請求項
14又は
15に記載の液晶配向膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、その製造方法、それから得られる液晶配向膜、及び得られた液晶配向膜を具備する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビ、液晶ディスプレイなどに用いられる液晶表示素子は、通常、液晶の配列状態を制御するための液晶配向膜が素子内に設けられている。現在、工業的に最も普及している液晶配向膜は、電極基板上に形成されたポリアミック酸及び/又はこれをイミド化したポリイミドからなる膜の表面を、綿、ナイロン、ポリエステル等の布で一方向に擦る処理、所謂ラビング処理を行うことで作製されている。
【0003】
ラビング処理は、簡便で生産性に優れた工業的に有用な方法である。しかし、液晶表示素子の高性能化、高精細化、大型化に伴い、ラビング処理で発生する配向膜の表面の傷、発塵、機械的な力や静電気による影響、更には、配向処理の面内不均一性など種々の問題が明らかとなっている。ラビング処理に代わる方法としては、偏光された紫外線を照射することにより、液晶配向能を付与する光配向法が知られている。光配向法による液晶配向処理は、光異性化反応を利用したもの、光架橋反応を利用したもの、光分解反応を利用したものなどが提案されている。
【0004】
特許文献1では、主鎖にシクロブタン環などの脂環構造を有するポリイミド膜を光配向法に用いることが提案されている。この光配向法は、ラビング処理法と比べて、得られた液晶配向膜が、IPS駆動方式やFFS駆動方式(フリンジフィールドスイッチング)の液晶表示素子のコントラストや視野角特性の向上を期待できるため、有望な液晶配向処理方法として注目されている。
【0005】
IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子に用いられる液晶配向膜には、優れた液晶配向性や電気特性などの基本特性に加えて、長期駆動によって発生する残像を抑制する為の配向規制力が必要とされるが、光配向法により得られる液晶配向膜は、ラビング処理により得られる液晶配向膜と比べて配向規制力が弱いという課題があった。そして、光分解反応を利用して得られる液晶配向膜においては、光分解によって生成する低分子量成分が配向規制力を低下させる原因になるとして、この低分子量成分を加熱処理や洗浄処理により除去する方法が提案されている(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、液晶表示素子の製造において、上記のようにして低分子量成分を除去するためには、加熱処理工程や洗浄処理工程を追加する必要がある為、液晶表示素子の製造工程の増加につながっていた。これに対して、少ない工程数でも長期駆動による残像を抑制することができ、低分子量成分が原因で発生する不具合がない液晶配向膜の製造方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本特開平9-297313号公報
【文献】日本特開2011-107266号公報
【文献】WO2018/117239
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光配向法により配向処理を行う場合、光の照射量はエネルギーコストや生産スピードに影響を与える因子となるので、少ない照射量で配向処理できることは好ましい。しかし、良好な残像特性が得られる液晶配向剤であっても光照射量を低減させた場合には残像特性が不足するという問題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、光配向法による配向処理における光照射量を低減させても良好な残像特性を得ることができ、品質のよい安定した液晶配向能が得られる液晶配向剤、その製造方法、それから得られる液晶配向膜、及び得られた液晶配向膜を具備する液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的達成のために鋭意検討を重ねた結果、下記の要旨を有する本発明により、上記の目的を達成し得ることを見出した。
下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物若しくはその誘導体を含有するテトラカルボン酸成分と、下記式(3)で表される第1のジアミン及び下記式(4)で表される第2のジアミンを含有するジアミン成分と、の重縮合反応から得られるポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドを含有することを特徴とする液晶配向剤。
【0011】
【化1】
但し、式(1)中、X
1は下記式(X1-1)又は(X1-2)で表される構造である。
【0012】
【化2】
但し、式(X1-1)、(X1-2)中、R
3~R
12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基、又はフェニル基であり、R
3~R
6の少なくとも一つは上記定義中の水素原子以外の基である。
【0013】
【化3】
但し、式(3)中、A
1は炭素数2~10のアルキレン、又は前記アルキレンが有する-CH
2-の少なくとも一つを連続しない条件で-O-又は-S-で置き換えた基である。A
2は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、ニトロ基、リン酸基、又は炭素数1~20の1価の有機基であり、aは0~4の整数であり、A
2が複数存在する場合、A
2は同一でも異なってもよい。b及びcはそれぞれ独立して1又は2の整数であり、dは0又は1の整数である。
【0014】
【発明の効果】
【0015】
本発明の液晶配向剤により、光照射量の大幅な低減が可能になり、且つ良好な残像特性を有する液晶配向膜を得ることができる。また、本発明の液晶配向剤から得られる液晶配向膜は、液晶パネル製造における歩留りが高く、且つIPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子において発生する交流駆動による残像を低減することができ、残像特性に優れたIPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の液晶配向剤は、特定構造を有するテトラカルボン酸二無水物若しくはその誘導体を含有するテトラカルボン酸成分(以下、テトラカルボン酸成分ともいう。)と、2種類の特定構造を有するジアミンを含有するジアミン成分(以下、ジアミン成分ともいう。)との重縮合反応から得られるポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミド(以下、特定重合体とも称する。)を含有することを特徴とする。
【0017】
<特定重合体>
本発明に用いられる特定重合体は、特定構造を有するポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドである。ポリイミド前駆体としては、加熱又は触媒による化学イミド化によって、イミド環を形成するポリイミド前駆体であれば、特に限定されない。加熱によるイミド化、又は化学イミド化が進行しやすいという観点から、ポリイミド前駆体としては、ポリアミック酸、又はポリアミック酸エステルが好ましい。
【0018】
ポリイミドのイミド化率は、特に限定されないが、10~100%が好ましく、50~100%がより好ましく、50~80%がさらに好ましい。
以下、上記特定重合体を得るための原料となる各成分について詳述する。
【0019】
<テトラカルボン酸誘導体成分>
本発明の液晶配向剤で使用する特定重合体の重合に用いられるテトラカルボン酸成分としては、テトラカルボン酸二無水物だけでなく、その誘導体であるテトラカルボン酸、テトラカルボン酸ジハライド、テトラカルボン酸ジアルキルエステル、又はテトラカルボン酸ジアルキルエステルジハライドなどを用いることもできる。
【0020】
上記テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体は、下記式(1)で表されるものが好ましい。
【0021】
【化5】
但し、X
1は下記式(X1-1)又は(X1-2)で表される構造である。
【0022】
【化6】
但し、R
3~R
12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基、又はフェニル基である。なお、R
3~R
6の少なくとも一つは上記定義中の水素原子以外の基である。
【0023】
X1は、液晶配向性の観点から、上記式(X1-1)が好ましく、下記式(X1-1-1)~(X1-1-5)から選ばれる少なくとも1種であるとより好ましく、下記式(X1-1-1)が特に好ましい。式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体は2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
【0025】
上記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体の使用割合は、特定重合体に用いられる全テトラカルボン酸成分1モルに対して50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
【0026】
また、本発明に記載の特定重合体の重合に用いられるテトラカルボン酸成分は、上記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体に加えて、下記式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体を含む場合、分解物による輝点の抑制や液晶配向性の観点からより好ましい。
【0027】
【化8】
但し、X
2は、下記式(X2-1)~(X2-6)から選ばれる。
【0028】
【化9】
中でも、X
2は、上記式(X2-1)、(X2-5)、又は(X2-6)が好ましく、式(X2-1)が特に好ましい。式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体は2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
上記式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体の使用割合は、特定重合体に用いられる全テトラカルボン酸成分1モルに対して、1~30モル%が好ましく、10~30%がより好ましく、10~20%がさらに好ましい。
本発明に記載の特定重合体の重合に用いられるテトラカルボン酸二無水物成分は、上記式(1)及び(2)以外のテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体を含有していてもよい。
【0030】
<ジアミン>
本発明の液晶配向剤で使用する特定重合体の重合に用いられるジアミン成分は、下記式(3)で表されるジアミンから選ばれる少なくとも1種の第1のジアミンと、下記式(4)で表されるジアミンから選ばれる少なくとも1種の第2のジアミンとを含む。
【0031】
【化10】
但し、A
1は炭素数2~10のアルキレン、又は該アルキレンが有する-CH
2-の少なくとも一つが、連続しない条件で、-O-又は-S-で置き換わった基である。A
2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、ニトロ基、リン酸基、又は炭素数1~20の1価の有機基である。aは0~4の整数であり、A
2が複数存在する場合、A
2は同一でも異なってもよい。b及びcは、それぞれ独立して、1又は2の整数であり、dは0又は1である。
【0032】
【0033】
式(3)で表される第1のジアミンの好ましい具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されない。このうち、式(3-1)、(3-3)、(3-5)~(3-7)、又は(3-12)は特に好ましい。式(3)で表される第1のジアミンは2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
【0035】
式(3)で表される第1のジアミンの含有量は、特定重合体に用いられる全ジアミン成分に対して、40~90モル%が好ましく、より好ましくは40~75モル%である。
【0036】
式(4)で表される第2のジアミンの好ましい具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されない。式(4)で表される第2のジアミンは2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
【0038】
式(4)で表される第2のジアミンの含有量は、特定重合体に用いられる全ジアミン成分に対して、10~40モル%が好ましく、より好ましくは20~40モル%である。
【0039】
本発明の液晶配向剤に含有される特定重合体の重合に用いられるジアミン成分は、上記第1のジアミン及び第2のジアミン以外のジアミン(以下、その他のジアミンともいう)を含んでいてもよい。
【0040】
以下に、その他のジアミンの一例を挙げるが、これらに限定されない。
m-フェニレンジアミン、4-(2-(メチルアミノ)エチル)アニリン、3,5-ジアミノ安息香酸、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノナフタレン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェネチル)ウレア、など。
【0041】
また、ポリイミドの溶媒溶解性の向上や、本発明の液晶配向剤に特定重合体以外の重合体を含有させた際に特定重合体成分が液晶配向膜の表層付近に偏在しやすくなるという観点から、その他のジアミンとして、下記式(5)で表されるジアミンの少なくとも1種を用いることは好ましい。
【化14】
但し、式(5)中、Y
1は下記式(6)の構造を有する2価の有機基である。
【0042】
【化15】
但し、式(6)中、Dは加熱によって脱離し水素原子に置き換わる保護基を表し、*は他の構造との接続箇所を表す。Dの好ましい構造としては、t-ブトキシカルボニル基が挙げられる。
【0043】
以下に、式(5)で表されるジアミンの好ましい具体例を挙げるが、これらに限定されない。なお、下記構造におけるBocはt-ブトキシカルボニル基を表す。
【化16】
【0044】
式(5)で表されるジアミンを用いる場合の好ましい含有量は、特定重合体に用いられる全ジアミン成分に対して、式(5)で表されるジアミンが5~30モル%である。
【0045】
<ポリアミック酸エステル、ポリアミック酸及びポリイミドの製造方法>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸エステル、ポリアミック酸、及びこれらポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドは、公知の方法で合成できる。その一例としては、WO2013/157586に記載される方法が挙げられる。
特定重合体の分子量は、良好な塗膜が形成できる限りにおいて特に限定されないが、例えば、重量平均分子量(以下、Mwともいう。)で2,000~500,000が好ましく、より好ましくは5,000~300,000であり、さらに好ましくは、10,000~100,000である。また、数平均分子量(以下、Mnともいう。)は、好ましくは、1,000~250,000であり、より好ましくは、2,500~150,000であり、さらに好ましくは、5,000~50,000である。
【0046】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、上記の特定重合体と有機溶媒とを含有する組成物であり、異なる構造の特定重合体を2種以上含有していてもよい。また、本発明の液晶配向剤は、特定重合体以外の重合体(以下、第2の重合体とも言う。)や各種の添加剤を含有していてもよい。
【0047】
本発明の液晶配向剤が第2の重合体を含有する場合、全重合体成分に対する第2の重合体の割合は5質量%以上が好ましく、その一例として5~95質量%が挙げられる。
【0048】
第2の重合体としては、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、ポリオルガノシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン又はその誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
特に、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とから得られるポリアミック酸(以下、第2のポリアミック酸とも言う。)は第2の重合体として好ましい。
【0049】
第2のポリアミック酸を得るためのテトラカルボン酸二無水物成分としては、下記式(7)で表される化合物を挙げることができる。
【0050】
【化17】
但し、式(7)中、Aは4価の有機基であり、好ましくは炭素数4~30の4価の有機基である。
【0051】
以下に、好ましいAの構造を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【化18】
【0052】
【0053】
上記の構造のうち、(A-1)、(A-2)は光配向性の更なる向上という観点から好ましく、(A-4)は蓄積電荷の緩和速度の向上という観点から好ましく、(A-15)~(A-17)は、液晶配向性の更なる向上と蓄積電荷の緩和速度の向上という観点から好ましい。第2のポリアミック酸を得るためのテトラカルボン酸二無水物成分は、一種類のテトラカルボン酸二無水物であってもよく、2種類以上のテトラカルボン酸二無水物が併用されてもよい。
【0054】
第2のポリアミック酸を得るためのジアミン成分としては、前記式(3)で表されるジアミン、前記式(4)で表されるジアミン、前記で例示したその他のジアミン、などを挙げることができる。
また、蓄積電荷の緩和速度の向上という観点から、下記式(8)で表されるジアミンの少なくとも1種を用いることが好ましい。第2のポリアミック酸を得るためのジアミン成分は、2種類以上のジアミンが併用されていてもよい。
【0055】
【化20】
但し、式(8)中、Y
2は芳香族基に結合する窒素原子を有するか又は含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基である。
以下に、好ましいY
2の構造を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0056】
【0057】
第2のポリアミック酸の分子量は特に限定されないが、例えば、Mwで2,000~500,000、好ましくは5,000~300,000、より好ましくは、10,000~100,000である。また、Mnでは、1,000~250,000、好ましくは、2,500~150,000、より好ましくは、5,000~50,000である。
【0058】
本発明の液晶配向剤における重合体の含有量(濃度)は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によって適宜変更することができるが、均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点から1質量%以上であることが好ましく、溶液の保存安定性の点からは10質量%以下が好ましい。特に好ましい重合体の濃度は、2~8質量%である。
【0059】
本発明の液晶配向剤に含有される有機溶媒は、重合体成分が均一に溶解するものであれば特に限定されない。その具体例を挙げるならば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。また、単独では重合体成分を均一に溶解できない溶媒であっても、重合体が析出しない範囲であれば、上記の有機溶媒に混合してもよい。
【0060】
本発明の液晶配向剤は、重合体成分を溶解させるための有機溶媒の他に、液晶配向剤を基板へ塗布する際の塗膜均一性を向上させるための溶媒を含有してもよい。かかる溶媒は、一般的に上記有機溶媒よりも低表面張力の溶媒が用いられる。その具体例としては、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-ブトキシ-2-プロパノール、1-フェノキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート、プロピレングリコール-1-モノエチルエーテル-2-アセテート、ブチルセロソルブアセテート、ジプロピレングリコール、2-(2-エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n-プロピルエステル、乳酸n-ブチルエステル、乳酸イソアミルエステル等が挙げられる。これらの溶媒は2種上を併用してもよい。
【0061】
本発明の液晶配向剤には、上記の他、液晶配向膜の誘電率や導電性などの電気特性を変化させる目的の誘電体若しくは導電物質、液晶配向膜と基板との密着性を向上させる目的のシランカップリング剤、液晶配向膜にした際の膜の硬度や緻密度を高める目的の架橋性化合物、さらには塗膜を焼成する際にポリアミック酸のイミド化を効率よく進行させる目的のイミド化促進剤等を添加しても良い。
【0062】
<液晶配向膜の製造方法>
本発明の液晶配向剤を用いた液晶配向膜の製造方法は特に限定されないが、以下に示す(A)~(D)の工程によって製造することで、本発明の液晶配向剤が有する優れた特性をより効果的に発揮することができる。
工程(A):本発明の液晶配向剤を基板上に塗布する工程。
工程(B):塗布した液晶配向剤を熱イミド化が実質的に進行しない温度で加熱して膜を得る工程。
工程(C):工程(B)で得られた膜に偏光された紫外線を照射する工程。
工程(D):工程(C)で得られた膜を、100℃以上、且つ、工程(B)よりも高い温度で焼成する工程。
【0063】
以下、(A)~(D)の各工程をより詳細に説明する。
<工程(A)>
本発明の液晶配向剤を塗布する基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板とともに、アクリル基板やポリカーボネート基板などのプラスチック基板等を用いることもできる。その際、液晶を駆動させるためのITO電極などが形成された基板を用いると、プロセスの簡素化の点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならばシリコンウエハーなどの不透明な物でも使用でき、この場合の電極にはアルミニウムなどの光を反射する材料も使用できる。
液晶配向剤の塗布方法は、特に限定されないが、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷又はインクジェット法などで行う方法が一般的である。その他の塗布方法としては、ディップ法、ロールコータ法、スリットコータ法、スピンナー法、スプレー法などがあり、目的に応じてこれらを用いてもよい。
【0064】
<工程(B)>
工程(B)は、基板上に塗布した液晶配向剤を、熱イミド化が実質的に進行しない条件で加熱し、膜を形成する工程である。液晶配向剤を基板上に塗布した後は、ホットプレート、熱循環型オーブン、IR(赤外線)型オーブンなどの加熱手段により、溶媒を蒸発させて膜とする。この工程では、熱イミド化が実質的に進行しない条件で液晶配向剤が含有する有機溶媒を除去できれば、任意の温度と時間を選択することができる。通常は、含有される溶媒を十分に除去するために50~150℃で1~10分加熱することが好ましく、50~120℃で1~5分加熱することがより好ましい。
【0065】
<工程(C)>
工程(C)は、工程(B)で得られた膜に偏光された紫外線を照射する工程である。紫外線としては、200~400nmの波長を有するものが好ましく、なかでも、200~300nmの波長を有するものがより好ましい。液晶配向性を改善するために、液晶配向剤が塗膜された基板を50~250℃で加熱しながら、紫外線を照射してもよい。紫外線の照射量としては、例えば1~2,000mJ/cm2であり、好ましくは10~1,000mJ/cm2であり、より好ましくは100~600mJ/cm2である。また、偏光された紫外線は消光比が高いほど、より高い異方性が付与できるため好ましい。具体的には、直線に偏光された紫外線の消光比は、10:1以上が好ましく、20:1以上がより好ましい。
【0066】
<工程(D)>
工程(D)は、工程(C)で紫外線を照射した膜を焼成する工程である。具体的には、100℃以上、かつ、工程(B)で加熱した温度よりも高い温度で焼成する工程である。焼成温度は、100℃以上、かつ、工程(B)での加熱温度よりも高ければ、特に限定されないが、150~300℃が好ましく、150~250℃がより好ましく、200~250℃がさらに好ましい。焼成時間は、5~120分が好ましく、より好ましくは5~60分、更に好ましくは、5~30分である。焼成後の液晶配向膜の厚みは、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましい。
【0067】
本発明の液晶配向膜は、IPS方式やFFS方式などの横電界方式の液晶表示素子の液晶配向膜として好適であり、特に、FFS方式の液晶表示素子の液晶配向膜として有用である。液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤から得られる液晶配向膜付きの基板を得た後、既知の方法で液晶セルを作製し、該液晶セルを使用して作製される。
【0068】
液晶セルの作製方法の一例として、パッシブマトリクス構造の液晶表示素子を例にとり説明する。なお、画像表示を構成する各画素部分にTFT(Thin Film Transistor)などのスイッチング素子が設けられたアクティブマトリクス構造の液晶表示素子であってもよい。
【0069】
具体的には、透明なガラス製の基板を準備し、一方の基板の上にコモン電極を、他方の基板の上にセグメント電極を設ける。これらの電極は、例えばITO電極とすることができ、所望の画像表示ができるようパターニングされている。次いで、各基板の上に、コモン電極とセグメント電極を被覆するようにして絶縁膜を設ける。絶縁膜は、例えば、ゾル-ゲル法によって形成されたSiO2-TiO2の膜とすることができる。
【0070】
次に、各基板の上に液晶配向膜を形成し、一方の基板に他方の基板を互いの液晶配向膜面が対向するようにして重ね合わせ、周辺をシール剤で接着する。シール剤には、基板間隙を制御するために、通常、スペーサーを混入しておくことが好ましい。また、シール剤を設けない面内部分にも、基板間隙制御用のスペーサーを散布しておくことが好ましい。シール剤の一部には、外部から液晶を充填可能な開口部を設けておく。次いで、シール剤に設けた開口部を通じて、2枚の基板とシール剤で包囲された空間内に液晶材料を注入し、その後、この開口部を接着剤で封止する。注入には、真空注入法を用いてもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法を用いてもよい。液晶材料は、ポジ型液晶材料やネガ型液晶材料のいずれを用いてもよい。次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に一対の偏光板を貼り付ける。
【0071】
上記のようにして、本発明の液晶配向剤によれば、IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子において発生する長期交流駆動による残像が抑制出来、低分子量化合物が残存することで発生する輝点などの不具合がなく、且つ、従来よりも少ない工程数での製造が可能な液晶配向膜を得ることができる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されない。
なお、以下における化合物の略号及び各特性の測定方法は、次のとおりである。また、下記における数値及び単位は、特に言及しない限り、いずれも、質量基準である。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン、 GBL:γ―ブチロラクトン、
BCS:ブチルセロソルブ、
【0073】
【0074】
【0075】
[粘度]
E型粘度計TVE-22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE-1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
[分子量]
GPC(常温ゲル浸透クロマトグラフィー)装置を使用して測定し、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド換算値として、Mn及びMwを算出した。
GPC装置:Shodex社製(GPC-101)、カラム:Shodex社製(KD803、KD805の直列)、カラム温度:50℃、溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム-水和物(LiBr・H2O)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o-リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10ml/L)、流速:1.0ml/分
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(Mw:約900,000、150,000、100,000、30,000)、及び、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp):約12,000、4,000、1,000)。測定は、ピークが重なるのを避けるため、900,000、100,000、12,000、1,000の4種類を混合したサンプル、及び150,000、30,000、4,000の3種類を混合したサンプルの2サンプルを別々に測定した。
【0076】
<イミド化率の測定>
ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管(NMRサンプリングチューブスタンダード,φ5(草野科学社製))に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6,0.05%TMS(テトラメチルシラン)混合品)(0.53ml)を添加し、超音波をかけて完全に溶解させた。この溶液をNMR測定機(JNW-ECA500)(日本電子データム社製)にて500MHzのプロトンNMRを測定した。イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.5ppm~10.0ppm付近に現れるアミド酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い以下の式によって求めた。
イミド化率(%)=(1-α・x/y)×100
上記式中、xはアミド酸のNH基由来のプロトンピーク積算値であり、yは基準プロトンのピーク積算値であり、αはポリアミド酸(イミド化率が0%)の場合におけるアミド酸のNH基プロトン1個に対する基準プロトンの個数割合である。
【0077】
[FFS駆動液晶セルの構成]
フリンジフィールドスィッチング(Fringe Field Switching:FFS)モード用の液晶セルは、面形状の共通電極-絶縁層-櫛歯形状の画素電極からなるFOP(Finger on Plate)電極層が表面に形成されている第1のガラス基板と、表面に高さ4μmの柱状スペーサーを有し裏面に帯電防止の為のITO膜が形成されている第2のガラス基板とを、一組とした。上記の画素電極は、中央部分が内角160°で屈曲した幅3μmの電極要素が6μmの間隔を開けて平行になるように複数配列された櫛歯形状を有しており、1つの画素は、複数の電極要素の屈曲部を結ぶ線を境に第1領域と第2領域を有している。
なお、第1のガラス基板に形成する液晶配向膜は、画素屈曲部の内角を等分する方向と液晶の配向方向とが直交するように配向処理し、第2のガラス基板に形成する液晶配向膜は、液晶セルを作製した時に第1の基板上の液晶の配向方向と第2の基板上の液晶の配向方向とが一致するように配向処理する。
【0078】
上記一組のガラス基板のそれぞれの表面に、孔径1.0μmのフィルターで濾過した液晶配向剤をスピンコート塗布にて塗布し80℃のホットプレート上で2分間乾燥させた。その後、塗膜面に偏光板を介して消光比26:1の直線偏光した波長254nmの紫外線を所定量照射し、次いで230℃の熱風循環式オーブンで30分間焼成を行い、膜厚100nmの液晶配向膜付き基板を得た。
次に、上記一組の液晶配向膜付きガラス基板の一方にシール剤を印刷し、もう一方の基板を液晶配向膜面が向き合うように貼り合わせ、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC-3019(メルク社製)を注入し、注入口を封止して、FFS駆動液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを120℃で1時間加熱し、一晩放置してから残像特性の評価を実施した。
【0079】
[長期交流駆動による残像特性評価]
上記で作製したFFS駆動液晶セルに対し、60℃の恒温環境下、周波数60Hzで±5Vの交流電圧を120時間印加した。その後、液晶セルの画素電極と対向電極との間をショートさせた状態にし、そのまま室温に一日放置した。
上記の処理を行った液晶セルに関して、電圧無印加状態における、画素の第1領域の液晶の配向方向と第2領域の液晶の配向方向とのずれを角度として算出した。
具体的には、偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に液晶セルを設置し、バックライトを点灯させ、画素の第1領域の透過光強度が最も小さくなるように液晶セルの配置角度を調整し、次に画素の第2領域の透過光強度が最も小さくなるように液晶セルを回転させたときに要する回転角度を求めた。
長期交流駆動による残像特性は、この回転角度の値が小さいほど良好であると言える。液晶セルの角度Δの値が0.1°以下の場合には「良好」と評価した。
【0080】
以下、ポリアミック酸及びポリイミドの合成例を示す。
<合成例1>
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの300mL四つ口フラスコに、DA-1を5.86g(24.0mmol)、DA-2を1.73g(16.0mmol)、DA-3を7.02g(24.0mmol)及びDA-5を3.80g(16.0mmol)を量り取り、NMPを205.7g加えて、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらCA-1を14.88g(66.4mmol)、及びCA-2を3.00g(12.0mmol)添加し、40℃で24時間撹拌してポリアミック酸溶液(A-1)(粘度:445mPa・s)を得た。ポリアミック酸のMnは11200であり、Mwは33900であった。
【0081】
<合成例2~7>
下記表1に示す、ジアミン成分、テトラカルボン酸成分、合成例1と同様の操作を実施することにより、下記表1に示すポリアミック酸溶液(A-2)~(A-5)、(B-1)~(B-2)を得た。また、得られたポリアミック酸の粘度、Mn、Mwを、下記表1に示す。
なお、合成例1~7で得られるポリアミック酸溶液におけるポリアミック酸の濃度はいずれも、15質量%であった。
【0082】
【0083】
<合成例8>
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの300mL四つ口フラスコに得られたポリアミック酸溶液(A-1)を100g量り取り、NMPを50g加え、30分撹拌した。得られたポリアミック酸溶液に、無水酢酸を16.78g、ピリジンを5.20g加えて、50℃で3時間加熱し、化学イミド化を行った。得られた反応液を600mlのメタノールに撹拌しながら投入し、析出した沈殿物をろ取し、同様の操作を2回実施することで樹脂粉末を洗浄した後、60℃で12時間乾燥することで、ポリイミド樹脂粉末を得た。このポリイミド樹脂粉末のイミド化率は71%であり、Mn=12600、Mw=33900であった。得られたポリイミド樹脂粉末3.60gを100ml三角フラスコに取り、固形分濃度が12%になるようにNMPを26.4g加え、70℃で24時間撹拌し溶解させてポリイミド溶液(A-1-PI)を得た(下記表2参照)。
なお、表2中、イミド化条件における濃度(%)は、イミド化反応における溶液中の重合体濃度を表す。
【0084】
<合成例8~12>
下記表2に示す、無水酢酸及びピリジンを使用し、かつ、ポリアミック酸溶液(A-1)の代わりに、それぞれ、ポリアミック酸溶液(A-2)~(A-5)を用いたほかは合成例8と同様に化学イミド化を実施することのより、ポリイミド溶液(A-2-PI)~(A-5-PI)を得た。また、得られたポリイミドのイミド化率、及びMn/Mwを下記表2に示す。
【0085】
【0086】
<実施例1>
合成例8で得られた12質量%のポリイミド酸溶液(A-1―PI)4.0g、合成例6で得られた15質量%のポリアミック酸溶液(B-1)4.8gを50ml三角フラスコに取り、NMP3.24g、GBL3.96g、BCS4.00gを加え、25℃にて8時間混合して、液晶配向剤(1)を得た(下記の表3参照)。この液晶配向剤に、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
なお、表3中、A/Bは、ポリイミド溶液/ポリアミック酸溶液の質量%比率を示し、また、固形分比率(質量%)は、液晶配向剤中における重合体の含有比率を示す。
【0087】
<実施例2~6、比較例1>
下記表3のポリアミック酸溶液、及びポリイミド溶液を使用した以外は、実施例1と同様に実施することにより、液晶配向剤(2)~(8)を得た。これらの液晶配向剤は、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
【0088】
【0089】
<実施例11>
上記した[長期交流駆動による残像評価]に従って残像特性を評価した。すなわち、実施例1で得られた液晶配向剤(1)を孔径1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板と裏面にITO膜が成膜されている高さ4μmの柱状スペーサーを有するガラス基板に、スピンコート塗布にて塗布した。80℃のホットプレート上で2分間乾燥させた後、この塗膜面に偏光板を介して消光比26:1の直線偏光した波長254nmの紫外線を照射した後、230℃の熱風循環式オーブンで30分間焼成を行い、膜厚100nmの液晶配向膜付き基板を得た。
得られた上記2枚の基板を一組とし、基板上にシール剤を印刷し、もう1枚の基板を、液晶配向膜面が向き合い配向方向が0°になるようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC-3019(メルク社製)を注入し、注入口を封止して、FFS駆動液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを120℃で1時間加熱し、一晩放置して、長期交流駆動による残像評価を実施した。
長期交流駆動後におけるこの液晶セルの角度Δの値(°)は、下記の表4に示すとおりである、すなわち、上記紫外線の照射量が、0.2J/cm2での液晶セルの角度Δの値は、0.09°であった。いずれも、角度Δの最小値から0.1°以下であることから、液晶配向剤(1)によれば良好な液晶配向性が得られた。
【0090】
<実施例12~16及び比較例11>
液晶配向剤(1)の代わりに、実施例12~16及び比較例11では、下記表4に示した液晶配向剤を用いた以外は、実施例11と全く同様の方法でFFS駆動液晶セルを作製し、長期交流駆動による残像評価を実施した。
実施例12~16及び比較例11のそれぞれについて、長期交流駆動後におけるこの液晶セルの角度Δの値を表4に示す。
【0091】
【0092】
表4に示すように、実施例11~16では、角度Δ(deg.)も0.1°以下を与えるための紫外線照射量が0.2J/cm2以下という少ない偏光紫外線照射量で角度Δが最良となる。良好な残像特性であることから、液晶表示素子の生産時間短縮に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の液晶配向剤は、IPS駆動方式やFFS駆動方式などの広範な液晶表示素子における液晶配向膜の形成に有用である。
なお、2018年8月20日に出願された日本特許出願2018-154227号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。