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特許7392729セラミックス物品の評価方法及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】セラミックス物品の評価方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/08 20060101AFI20231129BHJP
   C04B 35/587 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G01N3/08
C04B35/587
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021551202
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036426
(87)【国際公開番号】W WO2021065744
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019180093
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前野 裕史
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/083624(WO,A1)
【文献】特開2019-11216(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128386(WO,A1)
【文献】阿部豊, 岡部永年, 市川昌弘,窒化珪素軸受球の圧砕強度に対する抜き取り評価方法,材料,1993年09月15日,第42巻, 第480号,pp.1090-1095,ISSN 1880-7488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/08
C04B 35/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス物品を形成するためのセラミックス原料を用い、円柱形状のセラミックス供試体を作製し、
前記セラミックス供試体の2本の側面同士を接触させて圧砕試験を実施し、
前記圧砕試験の結果に基づいて、前記セラミックス物品の強度を評価する、
ことを特徴とするセラミックス物品の評価方法。
【請求項2】
前記圧砕試験において、前記2本のセラミックス供試体を、それらの軸が直交するように配置する請求項1に記載のセラミックス物品の評価方法。
【請求項3】
前記圧砕試験において、前記セラミックス供試体を球台座又は円柱台座により支持する請求項1又は2に記載のセラミックス物品の評価方法。
【請求項4】
セラミックス粉末、樹脂、硬化剤及び溶媒を混合した原料スラリーをセラミックス原料として用意し、
前記原料スラリーを成形型に注入して、前記成形型に注入された前記原料スラリー中の前記樹脂を硬化させて所望の形状を有する成形体を作製し、前記成形型から前記成形体を脱型させた後、前記成形体に対して乾燥、脱脂及び焼成の各処理をこの順番に行いセラミックス物品を作製し、
前記原料スラリーを円柱形状のセラミックス供試体を形成するための供試体用成形型に注入して、前記供試体用成形型に注入された前記原料スラリー中の前記樹脂を硬化させて円柱形状の成形体を作製し、前記供試体用成形型から前記円柱形状の成形体を脱型させた後、前記円柱形状の成形体に対して乾燥、脱脂及び焼成の各処理をこの順番に行いセラミックス供試体を作製し、
前記セラミックス供試体に対して、請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミックス物品の評価方法を行い、前記セラミックス物品の作製の継続の可否を判定する、
ことを特徴とするセラミックス物品の製造方法。
【請求項5】
前記セラミックス供試体は、前記原料スラリーを注入する成形型以外、前記セラミックス物品の製造と同一の工程で作製される、請求項4に記載のセラミックス物品の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス供試体は、前記セラミックス物品の製造と同時に同一条件で作製される、請求項5に記載のセラミックス物品の製造方法。
【請求項7】
前記セラミックス供試体は、円柱形状の供試体成形型に注入して作製される、請求項4~6のいずれか1項に記載のセラミックス物品の製造方法。
【請求項8】
前記セラミックス供試体の体積は、前記セラミックス物品の体積の1/4以下である、請求項4~7のいずれか1項に記載のセラミックス物品の製造方法。
【請求項9】
前記セラミックス粉末が、α化率70%以上の窒化ケイ素を85質量%以上、第2族、第3族、第4族、第5族、第13族及び第14族の元素群から選ばれる少なくとも1種を含む焼結助剤を酸化物基準の質量%表示で1質量%~15質量%含有する請求項4~8のいずれか1項に記載のセラミックス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス物品の評価方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス部品の成形は、使用する原料としてセラミックス粉末を用いて、加圧成形、冷間静水圧成形(CIP)、熱間静水圧成形(HIP)、射出成形、鋳込み成形、押出成形等の各種成形方法を使用でき、様々な形状のセラミックス製品が作製されるようになっている。そして、得られるセラミックス部品をより良い特性を有するものとするため、こちらも様々な工夫がなされている。例えば、硬化性樹脂と溶媒を含有するセラミックス成形体を熱処理等で硬化体とし、割れ等が少なく、形状保持性が高く寸法精度にも優れ、焼結体としたときの物性にも優れたセラミックス成形体を製造する方法が知られている。
【0003】
また、転がり軸受(ボールベアリング)に使用されるセラミックスボールには、高い強度と非常に高い真球度が求められる。このようなセラミックスボールを製造するには、一般に、セラミックス原料粉末を押し固める成形プロセスと、高温下で焼成する一次焼成プロセス、及びHIP(熱間静水圧プレス)やガス圧焼成等の高温・高圧下で焼成する2次焼成プロセスを経てセラミックス素球を作製し、さらに、得られたセラミックス素球を機械研磨等によって高い真球度となるように研磨仕上げをして製造される。
【0004】
このような球状のセラミックスボールは、その品質管理のために、例えば図7に示したように、製品であるボールを二個並べ圧縮荷重をかけて破砕する、いわゆる圧砕試験で、強度の確認が行われている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。ここで、従来、圧砕試験用の試験装置50は、セラミックスボール100A,100Bを2個重ねて保持できる、下部材51、上部材52、補助部材53とから構成される。下部材51及び上部材52は、それぞれセラミックスボール100A,100Bが安定して保持できるように、円錐状の窪みを有している。ここで、試験装置50は断面で示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開平5-294728号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】市川昌弘他、「窒化珪素軸受球の圧砕強度に対する抜き取り評価方法」、J. Soc. Mat. sci., Japan, Vol. 42, No480, pp. 1090-1095, Sep. 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような圧砕試験では、通常2個の試験用サンプル(以下、セラミックス供試体ともいう)で一つの試験データ(n=1)が得られる。一般に強度データは最低でもn=5程度は必要であり、この場合最低10個の試験用サンプルが必要となる。また、ばらつきを評価するには通常ワイブル分布で表す。ワイブル分布の評価には最低でもn=20が必要で、好ましくはn=30である。この場合、使用する試験用サンプル数は60個にもなる。
【0008】
これだけの数の試験用球状サンプルの作製には労力がかかる。球状サンプルの場合、形状精度が良くないと圧砕試験を適正に実施することが困難となるおそれがあるため、球状サンプルを作製するのにある程度の形状精度が求められるからである。球状サンプルに比べて要求される形状精度レベルが低く、簡便に作製できる形状を有する試験用サンプルを使用し、より簡易に評価でき、これに代替できる試験方法があれば、製品製造のコスト低減等にもなり好ましい。
【0009】
また、強度評価の目的で焼成後の製品から、3点曲げ試験片や4点曲げ試験片を複数切り出して曲げ試験を行う方法もある。ところが、これらの曲げ試験は最大応力の発生する部分が、試験片の内部である圧砕試験とは異なり、試験片の下側表面となる。そのため、圧砕試験では、試験サンプルの材料自体を評価できると考えられるが、曲げ試験ではサンプル表面の加工状態に影響を受けてしまうため、本質的に圧砕試験に代替できるものではない。
【0010】
また、曲げ試験用の試験サンプルを製作するためには、製品から試験サンプルを加工して作らなければならず、多大な手間とコストがかかるという問題もある。
【0011】
上記の点に鑑み、本発明の一態様は、セラミックス物品の製造にあたって、その強度を評価するために、球状サンプルを使用する圧砕試験に代替できる新規なセラミックス物品の評価方法の提供を目的とする。また、このような評価方法を用いて、求める特性を有するセラミックス物品を効率的に製造するセラミックス物品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、試験用サンプルとして円柱形状のセラミックス供試体を用いることで、セラミックス物品の強度を球状のサンプルに代替して評価できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明の一態様のセラミックス物品の評価方法は、セラミックス物品を形成するためのセラミックス原料を用い、円柱形状のセラミックス供試体を作製し、前記セラミックス供試体の2本の側面同士を接触させて圧砕試験を実施し、前記圧砕試験の結果に基づいて、前記セラミックス物品の強度を評価する、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様のセラミックス物品の製造方法は、セラミックス粉末、樹脂、硬化剤及び溶媒を混合した原料スラリーをセラミックス原料として用意し、前記原料スラリーを成形型に注入して、前記成形型に注入された前記原料スラリー中の前記樹脂を硬化させて所望の形状を有する成形体を作製し、前記成形型から前記成形体を脱型させた後、前記成形体に対して乾燥、脱脂及び焼成の各処理をこの順番に行いセラミックス物品を作製し、前記原料スラリーを円柱形状のセラミックス供試体を形成するための供試体用成形型に注入して、前記供試体用成形型に注入された前記原料スラリー中の前記樹脂を硬化させて円柱形状の成形体を作製し、前記供試体用成形型から前記円柱形状の成形体を脱型させた後、前記円柱形状の成形体に対して乾燥、脱脂及び焼成の各処理をこの順番に行いセラミックス供試体を作製し、前記セラミックス供試体に対して、本発明のセラミックス物品の評価方法を行い、前記セラミックス物品の作製の継続の可否を判定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様のセラミックス物品の評価方法によれば、最大応力が内部に発生するため、曲げ試験用の評価サンプルのように、表面の加工品質等に左右されず、材料本来の強度評価が可能で、適正な製造工程の評価や製品特性の評価ができる。
また、本発明の一態様では、使用するサンプル形状が円柱形状であるため、従来の圧砕試験用の球状サンプルに比べて要求される形状精度が厳しくなく、同じサンプル数を用意する場合の労力、費用等が球状サンプルに比べて大きく低減できる。よって、評価にかかる時間、費用等を従来の圧砕試験から大きく削減できる。
さらに、本発明の一態様における円柱形状サンプルの作製が容易であることから、例えば、スラリーを使うようなセラミックス製造プロセスでは、プロセスの途中でプロセスの状態を反映したサンプルが作製しやすく、プロセスの状態の良否判別等にも適用できる。
【0016】
本発明の一態様のセラミックス物品の製造方法によれば、製造するセラミックス物品の特性が十分であるか否かを確認してセラミックス物品を作製できる。したがって、特性が十分でない場合は、製造条件を見直すことができ、求める特性を有する製品の製造及び出荷を効率的にできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明のセラミックス物品の評価方法における、セラミックス供試体の配置例を示した斜視図である。
図2図2は、図1のセラミックス供試体の支持の一例を示した図である。
図3図3は、図1のセラミックス供試体の支持の他の例を示した図である。
図4図4は、図1のセラミックス供試体の支持のさらに他の例を示した図である。
図5図5は、図1のセラミックス供試体の支持のさらに別の例を示した図である。
図6図6は、本発明のセラミックス物品の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、従来のセラミックスボールを用いた圧砕試験の供試体(製品)の支持の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態であるセラミックス物品の評価方法及びセラミックス物品の製造方法について詳細に説明する。
【0019】
[セラミックス物品の評価方法]
本発明の一実施形態であるセラミックス物品の評価方法は、セラミックス物品を形成するためのセラミックス原料を用い、円柱形状のセラミックス供試体を作製し、セラミックス供試体の2本の側面同士を接触させて圧砕試験を実施し、圧砕試験の結果に基づいて、セラミックス物品の強度を評価する、ものである。
【0020】
以下、これらの各工程についてそれぞれ説明する。
【0021】
(セラミックス供試体の作製)
本実施形態におけるセラミックス供試体は、円柱形状のセラミックス供試体である。このセラミックス供試体は、評価したいセラミックス物品と同一のセラミックス原料を用い、同様の条件で処理して得られる円柱形状のセラミックス体(焼結体)である。
【0022】
ここで用いられるセラミックス原料は、セラミックス粉末と、形状付与のために採用するセラミックス成形に適した補助的な材料等とを含んだものである。例えば、セラミックス粉末と有機物等の添加剤、水などの溶媒を含んだものが例示される。本発明において、公知のセラミックス成形法に適したセラミックス原料であればよく、特に限定されるものではない。例えば、プレス成形用では、有機バインダーを添加したセラミックス粉末をそのまま粉末状で、または造粒して顆粒状としてもよい。また、スリップキャスト成形用やゲルキャスト成形法用では、セラミックス粉末を、樹脂と分散剤等または硬化性樹脂と硬化剤等などと共にスラリー状としてもよい。射出成形用、押出成形用では、セラミックス粉末と樹脂等の流動性付与物と混練した混練物状としてもよい。
【0023】
また、このようなセラミックス原料を円柱形状とするには、特に限定されるものではなく、上記のような成形法を適宜採用すればよい。円柱形状の供試体成形型として、例えば、キャビティが円柱形状である成形型を用いたり、円柱形状のシリンジを用いる。円柱形状の供試体成形型の内部にセラミックス原料を注入して円柱形状の成形体を得ればよい。ゲルキャスト法などのスラリーを使用する成形法では、スラリー搬送用配管の一部を開閉可能な構造とし、そのまま円柱形状用作製型として使用してもよい。または、配管の一部を樹脂製などの使い捨て材料で構成し、その部分の配管を除去してそのままサンプルとして使用してもよい。または、配管の一部を分岐させて、そこにサンプル作製用の治具等を付けておいてもよい。すなわち、一般的な型以外にシリンジ、配管、治具など形状付与できるものであれば本実施形態の供試体用成形型として使用できる。
また、一旦ブロック状に作製した成形体や焼結体から切り出して、研削等の加工により、円柱形状のセラミックス体(焼結体)を得ることもできる。
【0024】
このとき用いられるセラミックス供試体は、その大きさも特に限定されるものではないが、大きいとセラミックス供試体の作製に用いる原料の量が多く、成形や焼成等の処理時にも時間がかかってしまう。例えば、セラミックス供試体の直径は、2mm~50mmが好ましく、5mm~20mmがより好ましく、8mm~15mmがさらに好ましい。セラミックス供試体の軸方向の長さは、5mm~100mmが好ましく、10mm~50mmがより好ましく、15mm~30mmがさらに好ましい。
【0025】
このようにすることで、特に、原料の配合や調製に関しての評価が簡便にできる。例えば、窒化ケイ素などの窒化物セラミックスと窒化ケイ素セラミックスの焼結剤である酸化物セラミックスとを混合したセラミックス粉末などの場合において、窒化物セラミックスと酸化物セラミックスとの混合の均質性評価や、セラミックス粉末と、樹脂などの添加剤を含むセラミックス原料内でのセラミックス粉末の混合の均質性評価や、セラミックス粉末、硬化性樹脂、硬化剤、水などをスラリー状として型にゲルキャストする場合のスラリーの性状評価、などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
なお、原料調製より後段の処理条件の評価にも同様に適用できる。処理条件としては、硬化条件、脱型条件、乾燥条件、脱脂条件、焼成条件などが挙げられる。また、前記処理条件について評価する場合には、最終製品のセラミックス物品の製造条件と円柱形状のセラミックス供試体の内部が十分に処理される条件とが同等となるように(セラミックス物品の最深部とセラミックス供試体の軸芯近傍の焼成が同等に評価できるように)、セラミックス供試体の大きさを調整して処理条件の評価もできる。
【0027】
ここで、本評価方法においても、上記従来の圧砕試験と同様に1回の試験に対して供試体が2個必要であるため、このセラミックス供試体を[試験数(n)×2]個用意する。
【0028】
(圧砕試験)
次いで、上記のように作製された円柱形状のセラミックス供試体について、圧砕試験を行う。圧砕試験は、2本のセラミックス供試体を用い、それらの側面同士を接触させて、セラミックス供試体が圧砕されるまで圧縮荷重をかけることで実施できる。この点では、球状のセラミックス供試体とは、使用するセラミックス供試体の形状が異なるだけで、それ以外は同様の操作を行えばよい。
【0029】
また、この圧砕試験は、セラミックス供試体の側面同士を接触させるが、その際に、セラミックス供試体同士の接触箇所が一点となるように接触させるのが好ましい。すなわち、セラミックス供試体の軸が平行とならないようにずらして配置することで、一点で接触させることができる。セラミックス供試体は、セラミックス供試体の軸同士を直交するように配置することが好ましい。このようにすることで、試験時の荷重が接触点に集中するため、適切な強度評価ができる。図1には、セラミックス供試体1A、1Bの軸を直交させて上下に積層配置した場合の模式図を示した。
【0030】
以下、圧砕試験について、図面を参照しながら説明する。
図2には、上記した図1に示したようにセラミックス供試体を保持できる圧砕試験用の試験装置の概略構成を示した。この図2に示した試験装置10は、下側のセラミックス供試体1Aを下部から支える下部材11と、上側のセラミックス供試体1Bを上部から圧縮してセラミックス供試体1A及び1Bに圧縮荷重を付加する上部材12と、セラミックス供試体1A,1Bを所定の配置となるように補助する補助部材13と、から構成されている。図2には、(a)として試験装置10の正面図を、(b)として試験装置10の側面図を、それぞれ示した。なお、これらの図では、試験装置10の内部におけるセラミックス供試体1A,1Bの保持状態を示すため、補助部材13のみ断面図で示した。
【0031】
ここで、下部材11と上部材12は、上記のように適切な強度評価を行うために、セラミックス供試体1A,1Bとの接触部分がそれぞれ点接触により支持(接触)するようになっている。図2では、この接触部分を形成する台座が球台座となっている例を示している。また、この試験において最大応力がセラミックス供試体同士の接触表面付近で生じるように、この球台座は、セラミックス供試体1A、1Bの円(断面)の曲率よりも大きい曲率を有するようにする。
【0032】
また、補助部材13は、セラミックス供試体1A、1Bをそれらの軸が直交するように、それぞれを側面から支えるように、その内部において水平方向に伸びた支持部を有している。
【0033】
また、この試験装置10の材質は、圧砕試験が良好にできるものであれば特に限定されない。下部材11、上部材12、特にセラミックス供試体と接触する支持部としては、構成する材料のヤング率を、セラミックス供試体のヤング率よりも小さい材料で形成することが好ましい。これにより、セラミックス供試体の圧砕試験を適正に実施し、セラミックス物品自体の強度を評価できる。
【0034】
この圧砕試験は、従来のセラミックスボールを用いた試験と、供試体が異なるだけで同様の操作でできる。すなわち、試験装置10を用いる場合には、図1に示した配置となるようにセラミックス供試体1A,1Bを保持し、上部材12により上方から下方に対して圧縮荷重を負荷させ、セラミックス供試体1A,1Bが破砕するまで荷重を次第に大きくしていき、圧砕した時点での圧縮荷重を圧砕強度として評価できる。
【0035】
この試験では、従来のセラミックスボールと同様に、セラミックス供試体1A,1Bの接触点の内部に最大の引張応力が生じてメジアンクラックが発生し、これが起点となって巨視的な破壊が生じるものと考えられる。実際に、試験後に破壊されたセラミックス供試体1A,1Bから、最大引張応力(破壊の起点)は表面ではなく内部で生じていることを確認した。
【0036】
なお、試験装置としては、上記した台座が球台座である試験装置10の代わりに、台座が傾斜した円柱台座である図3で示した試験装置20、台座が2点球台座である図4で示した試験装置30、台座が傾斜なしの円柱台座である図5で示した試験装置40とすることもできる。
【0037】
これらの試験装置20,30,40は、基本的には、試験装置10と同様に、下部材21,31,41、上部材22,32,42、補助部材23,33,43で構成されており、セラミックス供試体1A,1Bの軸を直交させて接触させ、保持できる。ここでは、下部材21,31,41、上部材22,32,42においてセラミックス供試体を保持する形状(台座の形状)が異なっているのみである。試験装置20では、2つの円柱形状の支持部が傾斜して伸びている。試験装置30では、2つの球状の支持部が突出している。試験装置40では、1つの円柱形状の支持部が傾斜なしで伸びている。それぞれの試験装置20,30,40は、セラミックス供試体の下方及び上方からで支える構造となっている。これらの試験装置20,30では、支持部とセラミックス供試体との接触部分は、セラミックス供試体の軸に対して直交する方向に2か所並ぶようになっている。
【0038】
この圧砕試験を複数組のセラミックス供試体により実施し、上記セラミックス原料を用いて得られるセラミックス物品の圧砕強度を測定する。この圧砕強度は、セラミックス供試体が圧砕したときの荷重値をそのまま圧砕強度として用いる。また、圧砕強度の算出と併せて、ワイブル分布を考慮する。ワイブル分布は、セラミックス物品の破壊モデル(最弱リンクモデル)として理解される。ここでは、一例としてJIS R 1625:2010 ファインセラミックスの強さデータのワイブル統計解析法により算出される。
【0039】
(強度の評価)
次いで、上記の圧砕試験により得られた結果に基づいて、セラミックス物品を評価する。セラミックス物品の評価は、セラミックス物品に求める強度を満たしているか否かにより評価できる。すなわち、試験に用いたセラミックス供試体のセラミックス原料を使用して、セラミックス物品を作製したときに、そのセラミックス物品が求める強度を有しているか否かを確認できる。
【0040】
この評価の基準は、用途や品質保証等の観点から任意に設定できる。例えば、セラミックス軸受に用いられる一般産業用窒化ケイ素球である場合、直径10mmの円柱の圧砕強度が20kN以上となるように設定すればよい。高強度高耐久性を要求される特殊用途の窒化ケイ素球である場合は、圧砕強度が25kN以上となるように設定すればよい。また、ワイブル係数は10以上が好ましく、15以上がより好ましい。
【0041】
そして、この評価基準を満たすセラミックス供試体については、使用した原料スラリーが良好であること、同様の処理で得られたセラミックス体についても求める品質を満足するセラミックス物品であると評価できる。また、原料スラリーが良好であることに加え、その後の成形、脱型、乾燥、脱脂、焼成の各工程について、その処理が良好であった、と評価できる。
【0042】
[セラミックス物品の製造方法]
本発明の一実施形態であるセラミックス物品の製造方法は、セラミックス物品作製工程と、セラミックス供試体作製工程と、判定工程と、を有する。そして、セラミックス物品作製工程とセラミックス供試体作製工程は、いずれも、セラミックス原料を調製し、このセラミックス原料を成形型により所望の形状に成形し、得られた成形体に対して、乾燥、脱脂及び焼成の各処理をこの順番で行うものである(図6)。以下、これらの各操作についてそれぞれ詳細に説明する。
【0043】
(原料調製工程)
上記操作にあたっては、まず、セラミックス物品及びセラミックス供試体の原料となるセラミックス原料を調製する(S1)。
【0044】
ここで用いるセラミックス原料は、セラミックス物品を作製できるものであれば、特に限定されずに使用できる。具体的には、上記したセラミックス物品の評価方法で例示したセラミックス原料が挙げられる。
【0045】
なお、セラミックス原料の中でも、セラミックス粉末と、樹脂、硬化剤及び溶媒とを混合して得られる、スラリー状のセラミックス原料(以下、原料スラリーと称する)が好ましい。このように樹脂を含有して得られるセラミックス原料は、成形時における硬化の作用が樹脂の機能によって得られるものなので、成形体の大きさや形状による成形体の密度などに与える影響が少ないため、成形体の密度などの変動が少なく、製品としての物品と供試体との間の特性をそのまま同視できるためである。すなわち、大きなサイズのセラミックス物品(最終製品)に対して、試験用のセラミックス供試体の大きさを小さくしても結果の変動が小さい。セラミックス供試体のサイズを小さくできるため、圧砕試験用の原料スラリーの消費量が非常に少なく抑えられる。この場合、原料使用量に対するコストへの影響を低くできる。
【0046】
以下、この原料スラリーを用いた場合を例に、セラミックス物品の製造方法について説明する。
【0047】
まず、ここで用いられるセラミックス粉末は、焼結によりセラミックスとなるものであれば特に限定されるものではなく、公知のセラミックス粉末が挙げられる。このセラミックス粉末としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化ケイ素(シリカ)、コージェライト等の酸化物セラミックス、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、サイアロン(SiAlONとも記載)等の窒化物セラミックス、炭化ケイ素等の炭化物セラミックス等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
また、セラミックス粉末は、後述する焼結工程において安定した焼結体が得られるように、その50%粒径D50は1.0μm未満が好ましい。50%粒径D50が1.0μm以上では、スラリー中の粒子沈降による成形不良を引き起こし、焼結密度の低下を招くおそれがある。50%粒径D50は、より好ましくは0.8μm以下、さらに好ましくは0.6μm以下である。また、セラミックス粉末の粒径D50が0.1μm以上であると、取扱い時の飛散、詰まり防止や調達が容易になるため好ましい。本明細書において、50%粒径D50はレーザー回折式粒度分布装置による測定値をいうものとする。
【0049】
また、セラミックス粉末として窒化ケイ素(成分;Si)を用いる場合、焼結して得られる組織は、窒化ケイ素を主成分とする主相結晶粒子が、ガラス質及び/又は結晶質の結合相にて結合した形態のものとなる。
【0050】
このとき窒化ケイ素粉末としては、窒化ケイ素のα化率が70%以上の粉末が好ましく、該α化率は、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。α化率が70%未満の粉末であると焼結時のαからβへの相転移の際の針状組織の組み込み効果が十分得られず強度が低下する。α化率が90%以上の粉末であれば、充分な組み込み効果が得られ強度、特に靱性の高い焼結体が得られる。窒化ケイ素粉末中に、α化率が70%以上の窒化ケイ素を85質量%以上含有していることが好ましく、92質量%以上含有していることがより好ましい。
【0051】
また、焼結助剤として、第2族(アルカリ土類金属)、第3族(希土類(スカンジウム族))、第4族(チタン族)、第5族(土酸金属(バナジウム族))、第13族(ホウ素族(土類金属))、第14族(炭素族)の元素群から選ばれる少なくとも1種を含む焼結助剤を酸化物基準の質量%で1質量%~15質量%含有することが好ましく、2質量%~8質量%含有していることがさらに好ましい。均一で高強度な焼結体を得るためには焼結助剤の含有量は、少ない方が好ましいが、1質量%未満になると焼結体を得ることが困難になるおそれがある。
【0052】
樹脂は、後述する硬化工程において、セラミックス原料を所望の形状に成形するための成分であり、公知の硬化性樹脂が挙げられる。本実施形態に用いられる樹脂としては、硬化工程により保形性が良好であることが求められ、重合反応により3次元網目構造を形成するものが使用される。このとき、混合物の流動性を高め、成形型への充填性が良好な点で液状であることが好ましい。
【0053】
また、樹脂は、硬化後、焼結する前の脱脂操作においてセラミックス成形体から除去しやすいことも求められる。このような樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アクリル酸樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。なかでも、エポキシ樹脂は、保形性が良好であるため好適に用いられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等のビスフェノール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、メチルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロヘキセンオキサイド型エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、等が挙げられる。
【0054】
エポキシ樹脂の数平均分子量は20~30000が好ましい。エポキシ樹脂の数平均分子量は、粉体との混合が容易であり、かつ一定の機械的強度が得られることから、50~3000がより好ましく、50~2500がさらに好ましい。
【0055】
硬化剤は、樹脂を硬化させるものであり、使用する樹脂に応じて選択する。この硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリアミド系硬化剤等が挙げられる。アミン系硬化剤は反応が迅速であるという点で好ましく、酸無水物系硬化剤は耐熱衝撃性に優れた硬化物が得られるという点で好ましい。
【0056】
アミン系硬化剤としては、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン等が挙げられ、モノアミン、ジアミン、トリアミン、ポリアミンのいずれも使用できる。酸無水物系硬化剤としてはメチルテトラヒドロ無水フタル酸、2塩基酸ポリ無水物等が挙げられる。
【0057】
溶媒は、使用する原料の混合物の粘度を調整してスラリー状にし、成形型内への原料スラリーの充填を容易にするものである。ここで用いる溶媒としては、例えば、水、アルコール類、その他有機溶媒が使用できる。その中でも、製造コストや環境負荷の観点から水または水を主成分とする水系であることが好ましい。
【0058】
なお、このとき、後述する脱脂操作において、樹脂の除去を容易にするため、樹脂と溶媒との親和性が良好な組み合わせとする。親和性が悪いと分離して成形体内部で偏析し、焼結時にポアなどの欠陥が発生する原因となるおそれがある。
【0059】
上記した、セラミックス粉末、樹脂、硬化剤及び溶媒を混合して、原料スラリーとする。このとき、混合は公知の方法により行えばよく、例えば、ディゾルバー、ホモミキサー、ニーダー、ロールミル、サンドミル、ボールミル、ビーズミル、バイブレーターミル、高速インペラーミル、超音波ホモジナイザー、振とう機、遊星ミル、自公転ミキサー、インラインミキサー等が挙げられる。
【0060】
また、反応硬化型の場合、樹脂と硬化剤とを混合した時点から反応が開始してしまうため、樹脂を含有するスラリーと、硬化剤を含有するスラリーと、を別々に調製しておき、使用時にこれらを混合するようにしてもよい。なお、このときセラミックス粉末は、いずれかのスラリーに混合しておけばよく、両方のスラリーに混合しておいてもよく、さらに、セラミックス粉末を含有するスラリーを別に用意しておいてもよい。なかでも、混合したとき濃度変動等が少なく、安定した操作ができるため、セラミックス粉末は樹脂と硬化剤のそれぞれを含有する両方のスラリーに混合し、同程度の濃度に調製しておくことが好ましい。
【0061】
まず、上記した原料を混合、撹拌して、原料スラリーを調製する。
ここで得られる原料スラリーの粘度は、後述するスラリー注入における充填が容易に行える粘度であればよく、例えば、せん断速度が10[1/s]における粘度が50Pa・s以下が好ましく、20Pa・s以下がより好ましい。充填後のハンドリング性を考慮すると原料スラリーの粘度は0.1Pa・s~10Pa・sの範囲であることがさらに好ましい。この粘度は、使用する原料において溶媒の使用量や樹脂の添加量によって容易に調整できる。
【0062】
なお、原料混合における混合によって空気等が巻き込まれ、得られた原料スラリー中に気体が含まれる場合がある。そのため、次に行うスラリー注入の前に、原料スラリーに含有される気体を除去するために脱泡処理することが好ましい。原料スラリー中に気体が含まれていると、硬化処理において内部に気泡によるポアが生じ、焼成して得られるセラミックス物品中にも残ってしまうおそれがある。
【0063】
この脱泡処理は、原料スラリーを減圧状態において脱泡させればよく、脱泡ポンプ(真空ポンプ)や脱泡ミキサー等が使用できる。脱泡は、例えば、1分~5分、0.6kPa~10kPaの減圧下において処理すればよい。脱泡ミキサーを用いる場合、原料混合処理と脱泡処理を同時に行うこともできる。ここで用いる脱泡ミキサーとしては、例えば、真空ポンプ搭載の自転・公転ミキサー、プラネタリーミキサー等が挙げられる。
【0064】
セラミックス原料が調製できたら、次いで、セラミックス物品とセラミックス供試体をそれぞれ作製する。これらの作製操作に関しては、以下に詳細に記載する。
【0065】
<セラミックス物品作製工程>
セラミックス物品の作製は、上記の原料スラリーを用いるが、公知のセラミックス物品の作製と同様に、成形型へのスラリー注入、脱型、乾燥、脱脂、焼成の各処理を順番に実施すればよい。
【0066】
(スラリー注入)
スラリー注入は、上記原料混合及び脱泡を経て得られた原料スラリーを、成形型に注入する工程である(S2)。ここで用いる成形型は、製品形状を作製するための所定形状を有するものであり、従来公知の成形型や任意の成形型を使用できる。成形型としては、金型や樹脂型、発泡スチロール製、ゴム製等の各種の型や伸縮性容器などが使用できる。
【0067】
このような成形型にスラリーを注入するには、原料スラリーを送液して成形型内に供給できる装置を用いればよく、例えば、ダイヤフラムポンプ、チューブポンプ、シリンジポンプ等のポンプが一般的に挙げられ、特に、脈動を発生させない構造をもつ、精密等速カムを搭載した回転容積式ダイヤフラムポンプが好ましい。また、原料を混合して原料スラリーを調製しながら送液可能なインラインミキサー等も使用できる。インラインミキサーを用いる場合には、上記原料混合工程とスラリー注入工程とを同時に実施できる。また、インラインミキサーは、上記したように原料スラリーとして樹脂を含有するスラリーと、硬化剤を含有するスラリーと、を用意して成形する場合、両スラリーを混合して直ぐに成形型に送液し充填可能であり好ましい。
【0068】
(硬化)
硬化処理は、成形型内に原料スラリーを注入した後、原料スラリー内の樹脂成分を硬化させてセラミックス原料を所望の形状とするものである(S3)。この硬化処理においては、原料スラリーの特性に応じて、所望の硬化条件を適宜選択し硬化させるものである。
【0069】
例えば、反応硬化型の原料スラリーの場合、樹脂成分を含有するスラリーと硬化剤成分を含有するスラリーとを混合した時点から反応が始まり硬化するため、所定時間放置しておけばよい。このとき、硬化時間としては、1時間~3日程度とし、製造効率の点から1時間~24時間が好ましく、1時間~12時間がより好ましい。
【0070】
また、加熱硬化型の原料スラリーの場合、所望の温度に加熱し、十分な硬化時間を確保すればよい。例えば、80℃~150℃で、5分~120分加熱硬化させればよい。製造条件や製造効率等を考慮すれば、80℃~100℃で、5分~90分が好ましく、80℃~100℃で、5分~60分がより好ましい。
【0071】
(脱型)
脱型処理は、硬化処理で硬化させたセラミックス原料の成形体を成形型から取り出す処理である(S4)。この脱型処理は、従来公知の方法で行えばよく、例えば、分割式の成形型を分解したり、成形型から成形体を外部に押し出したり、場合によっては、成形型を破壊したりして、内部の成形体を取り出し、脱型させればよい。
【0072】
(乾燥)
乾燥処理は、脱型処理で得られた上記成形体から水分、揮発性溶媒等を除去して乾燥させる処理である(S5)。この乾燥処理においては、成形体にクラック等を生じさせないように緩やかに乾燥させる。すなわち、成形体の表面と内部における乾燥速度の差に起因する収縮応力によるクラック等の発生を防止しながら、乾燥させる。
【0073】
この乾燥処理の条件としては、例えば、25℃~30℃、相対湿度60%~95%で、48時間~7日等の比較的穏やかな条件で、長い時間かけて成形体に含有する水分等を除去する条件が挙げられる。ここで、乾燥は、成形体の含水率が絶乾時の質量に対して20%以下までの処理が好ましい。
【0074】
(脱脂)
脱脂処理は、乾燥処理で得られた上記成形体から樹脂、不揮発性溶媒等を除去する処理である(S6)。この処理においては、次の焼結処理で焼結を阻害する成分をほぼ完全に取り除くことが好ましい。このような成分が多量に残留していると、焼結時に焼結体内にポアが生じたり、炭化物が副生成物として生じたりして、最終的な製品として求める特性が得られなくなる等のおそれがある。
【0075】
この脱脂処理の条件としては、例えば、400℃~800℃で、2日~14日等の比較的長い時間をかけて成形体に含有する樹脂成分等を除去する条件が挙げられる。ここで、特に窒化ケイ素における脱脂処理は、成形体中の残存炭素量を200ppm以下とすることが好ましい。なお、炭化ケイ素等の炭化物に関してはこの限りではない。
【0076】
(焼成)
焼成処理は、脱脂処理を経た成形体を焼成することでセラミックス原料を焼結させ、セラミックス物品とする処理である(S7)。この焼成処理における焼成は、混合粉末を焼結させて、セラミックスを得るものであり、公知の焼成方法により製造すればよい。
【0077】
焼成処理における焼成条件は、焼成してセラミックス体を得られれば、特に限定されない。例えば窒化ケイ素を焼成する場合には、窒素雰囲気下で酸素濃度が50ppm以下の雰囲気が好ましい。このとき、本処理における焼成温度の最高温度は、窒化ケイ素が熱分解をし始める1800℃以下とするもので、この最高温度は1650℃~1750℃の範囲が好ましい。また、焼成時間は4時間~12時間の範囲が好ましい。
【0078】
(2次焼成処理)
焼成処理で得られた焼成体を、さらに所望の特性を有する焼結体とするために、2次焼成処理をしてもよい。この2次焼成処理は、焼成処理(1次焼成)で得られた焼成体に対して、さらに高圧焼成処理をして、焼成体の組織を緻密化するものである。
【0079】
この2次焼成処理における高圧焼成処理としては、熱間等方圧プレス(HIP)、ガス圧焼成、ホットプレス等が使用できる。一般に高強度の焼結体を得るには、HIPにより1500℃~1700℃、50MPa~200MPaの範囲で処理することが好ましい。
【0080】
<セラミックス供試体作製工程>
セラミックス供試体の作製は、上記のセラミックス物品の作製と同様に、成形型へのスラリー注入、脱型、乾燥、脱脂、焼成の各処理を順番に実施すればよい。なお、この工程では、円柱形状の供試体を作製するために、用いる成形型が所定形状のものである点のみが異なり、それ以外は上記説明と同一である。
【0081】
(スラリー注入)
上記したように、スラリー注入は、上記原料混合及び脱泡を経て得られた原料スラリーを、成形型に注入する工程である(S8)。ここで用いる成形型は、円柱形状のセラミックス供試体を作製するために、円柱形状のキャビティ等の所定の形状を有するものであり、このセラミックス供試体は、上記セラミックス物品の評価方法で用いるためのセラミックス供試体である。したがって、セラミックス供試体として上記評価方法で説明した供試体を得るための成形型であればよい。なお、ここで用いる成形型は、得られた成形体を、加工してセラミックス供試体とする場合の成形型のように、成形体がセラミックス供試体形状そのものでなくてもよい。
【0082】
そして、得られたセラミックス供試体用の成形体に対して、上記のように、硬化(S9)、脱型(S10)、乾燥(S11)、脱脂(S12)、焼成(S13)の各処理を行う。これらの各処理は、上記したセラミックス物品作製工程における各処理と同一内容であるため、説明を省略する。
【0083】
セラミックス供試体は、セラミックス物品の製造と同時に同一条件で作製されることが好ましい。すなわち、セラミックス物品作製工程とセラミックス供試体作製工程において、各処理条件は同一条件とすることが好ましい。さらに、セラミックス物品作製工程とセラミックス供試体作製工程は、それぞれ別処理として行ってもよいが、並行して同一処理することがより好ましく、セラミックス物品とセラミックス供試体を同じ処理装置内で処理することが最も好ましい。
【0084】
また、セラミックス物品の体積に対してセラミックス供試体の体積を小さくすると、原料の使用量全量に対する試験体としての使用量が少なく、セラミックス物品の製造効率が向上するため好ましい。これは、特に、製品であるセラミックス物品の体積が大きい場合や生産数が少ない等の場合に効果が大きい。このとき、セラミックス供試体の体積は、セラミックス物品の体積に対して1/4以下が好ましく、1/15以下がより好ましく、1/100以下がさらに好ましい。
【0085】
<判定工程>
次いで、上記のセラミックス供試体の作製方法で得られたセラミックス供試体に対して、最初に説明したセラミックス物品の評価方法を実施し(S14)、得られた評価結果が良好か否かを判定する(S15)。
【0086】
この評価結果が良好である場合は、セラミックス物品の作製工程を継続する(S16)。そして、作製されたセラミックス物品は最終製品として出荷する。
【0087】
一方、この評価結果が良好ではなかった場合、原料調製(S1)に戻り、再度、セラミックス物品の製造方法を繰り返し行う。この場合、原料調製(S1)から焼成(S7)までのいずれの処理に原因があると考えられ、少なくともいずれか1つの条件を変更し、評価結果が良好となるようにする。一例として、原料調整段階の不具合については、使用原料の品質、混合原料の配合、原料の混合、脱泡条件等を確認、検討し、一部条件を変更することが好ましい。
【0088】
なお、良否の判定は、製品に求められる強度に応じてその基準を設定すればよい。この基準は、上記のセラミックス物品の評価方法で記載したような基準を用いればよい。
【実施例
【0089】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。なお、ここでは、セラミックスとして窒化ケイ素を使用した例で説明するが、窒化ケイ素以外のセラミックスでも同様にできる。
【0090】
[例1(実施例)]
(スラリーSNの調製)
窒化ケイ素粉末(デンカ(株)製、商品名SN-9FWS) 73.11質量部、焼結助剤としてスピネル粉末 2.09質量部、溶媒として水 23.19質量部、分散剤として第4級アンモニウム塩(セイケム製) 1.61質量部、をボールミルにより混合し、原料スラリーのベースとなる窒化ケイ素スラリー(スラリーSN)を調製した。
なお、上記ボールミルにおいては、粉砕メディアとして窒化ケイ素ボール((株)ニッカトー製、直径5mm)を用いた。
【0091】
(スラリーSN1の調製及び脱泡)
上記スラリーSN 90.10質量部、水溶性エポキシ樹脂(ナガセケムテックス(株)製) 9.90質量部、を真空ポンプ搭載自転公転式ミキサーにより混合し、エポキシ樹脂含有窒化ケイ素スラリー(スラリーSN1)を調製した。
なお、減圧(0.6kPa)により、スラリーSN1は10μm以上の気泡を含まないものとした。
【0092】
(スラリーSN2の調製及び脱泡)
上記スラリーSN 98.4質量部、樹脂硬化剤(トリエチレンテトラミンと2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを2:1の質量比で混合したもの) 1.6質量部、を真空ポンプ搭載自転公転式ミキサーにより混合し、樹脂硬化剤含有窒化ケイ素スラリー(スラリーSN2)を調製した。
なお、減圧(0.6kPa)により、スラリーSN2は10μm以上の気泡を含まないものとした。
【0093】
(スラリー注入)
スラリーSN1をスラリータンク1に、スラリーSN2をスラリータンク2に、それぞれ同じ体積となるように充填した。次に、脈動を発生させることがなく、エアーの巻き込みを発生させない、精密等速カムを搭載した株式会社タクミナ製回転容積式ダイヤフラムポンプ2台を用いてスラリータンク1及びスラリータンク2からそれぞれスラリーSN1及びスラリーSN2を吸引、吐出させた。スラリーSN1及びスラリーSN2を合流させる配管を介して、ノリタケカンパニー製インラインミキサー(商品名:スタティックミキサー)に送液した。
【0094】
インラインミキサーにて、混合してエポキシ樹脂及び樹脂硬化剤を含有する原料スラリー1とした。原料スラリー1を得ると同時に、原料スラリー1をインラインミキサーの出口側に接続した製品用成形型に供給した。
【0095】
引き続き、原料スラリー1を供試体用のチューブであるサンゴバン製タイゴンチューブ2375(外径19.0mm、内径12.7mm)に供給した。これは、上記製品用成形型に供給後、インラインミキサーの出口側に供試体用のチューブを繋ぎ変えて実施した。
(硬化)
原料スラリー1が充填されたチューブを室温25℃で一晩放置することにより、エポキシ樹脂と樹脂硬化剤とを反応させ硬化させた。
【0096】
(脱型)
チューブおよびチューブ内で硬化した成形体をカッターで注意深く切断することで、円柱状成形体を得た。長さは25mmに切り揃えた。本数は40本を得た。
【0097】
(乾燥)
円柱状成形体は、温度25℃、相対湿度90%に制御した恒温・恒湿槽内で1週間静置し乾燥させた。
【0098】
(脱脂)
乾燥した円柱状成形体を、大気雰囲気下で、室温から700℃まで1週間かけて昇温させ、700℃で1日保持することより、含有する硬化樹脂成分を焼失させて脱脂した。
【0099】
(焼成)
脱脂した円柱状成形体を、窒素雰囲気下1700℃、保持時間12時間で焼成した。この焼成後に円柱状の窒化ケイ素焼結体を得た。
【0100】
(HIP)
さらに、円柱状窒化ケイ素焼結体に対し、窒素ガスを圧媒として100MPaの圧力下1700℃でHIP(熱間等方圧プレス)を行った。HIP後に密度が3.2g/cmの緻密な直径約10mm、長さ20mmの円柱状窒化ケイ素供試体1を40本得た。
【0101】
得られた円柱状窒化ケイ素供試体1を40本用い、図2に示した圧砕試験の試験装置を用いて、それぞれの軸が直交するように積層し、これに上から圧砕するまで荷重をかけ圧砕時の荷重(=圧砕強度)を測定した。この圧砕試験を20回実施して、圧砕強度(平均値)は30kN、ワイブル係数17が得られた。なお、ここで用いた円柱状窒化ケイ素供試体は、その真直度が2mm未満、真円度が0.5mm未満のものである。
【0102】
また、圧砕試験終了後の破面をオリンパス製実体顕微鏡(商品名:SZX16)を用い、接眼レンズ倍率10倍、対物レンズ倍率1倍~2.5倍で観察した。観察の結果、接触表面から約1mmの深さを起点に破壊が進展していること、すなわち最大応力が円柱状窒化ケイ素供試体1の内部で発生したことを確認した。
【0103】
[例2(比較例)]
例1と同じ原料スラリー1を用い、直径12mmの円柱状のセラミックス成形体を得た。続いて、円柱状のセラミックス成形体を球状に生加工、脱脂、焼成を行い、直径約10mmの球状窒化ケイ素供試体を得た。
【0104】
得られた球状窒化ケイ素供試体について、図7で示した従来の圧砕試験の試験装置を用いて、圧砕時の荷重(=圧砕強度)試験を20回実施した。その結果、圧砕強度(平均値)は16kN、ワイブル係数16が得られた。
【0105】
また、圧砕試験終了後の球状窒化ケイ素供試体の破面をオリンパス製実体顕微鏡(商品名:SZX16)を用い、接眼レンズ倍率10倍、対物レンズ倍率1倍~2.5倍で観察した。観察の結果、接触表面から1mm~2mmの深さを起点に破壊が進展していること、すなわち最大応力が球状窒化ケイ素供試体の内部で発生したことを確認した。
【0106】
例1と例2との比較により、強度のバラツキの程度を示すワイブル係数が17(例1)、16(例2)と共に大きく、強度のバラツキが両方法とも小さいことがわかった。よって、本実施形態における円柱状窒化ケイ素供試体による圧砕試験は、従来の球状窒化ケイ素供試体による圧砕試験と同等の評価ができることが確認できた。したがって、セラミックス物品の評価において、本発明による円柱状供試体を使用した圧砕試験が、従来の球状供試体を使用した圧砕試験に代替し得ることが確認できた。
【0107】
[例3(実施例)]
例1のスラリーSNにおいて、窒化ケイ素粉末 69.19質量部、焼結助剤としてスピネル粉末の代わりに、イットリア粉末 3.76質量部、アルミナ粉末 2.25質量部とする以外は例1と同様にして原料スラリー2を調製した。
【0108】
得られた原料スラリー2を用いた以外は、例1と同一の条件で円柱状窒化ケイ素供試体2を作製し、圧砕試験を行った。その結果、圧砕強度(平均値)は25kNとなり、スラリー原料の違いによる強度の違いを確認できた。
【0109】
[例4(実施例)]
焼成条件以外は、例1と同一のものとして円柱状窒化ケイ素供試体3を作製し、圧砕試験を実施した。ここで、焼成は、常圧、1700℃で12時間焼成し、次いで10MPa、1700℃で高圧焼成した。圧砕試験の結果、圧砕強度(平均値)は20kNとなり、焼成条件の違いによる強度の違いを確認できた。
【0110】
[例5(実施例)]
例1と同一の操作で円柱状窒化ケイ素供試体を作製したもののうち、真直度が2mm以上、真円度が0.5mm未満のものを選んで円柱状窒化ケイ素供試体4とした。円柱状窒化ケイ素供試体4を用いて例1と同様に圧砕試験を実施した。その結果、例1と有意差のない結果が得られた。
【0111】
[例6(実施例)]
例1と同一の操作で円柱状窒化ケイ素供試体を作製したもののうち、真直度が2mm未満、真円度が0.5mm以上のものを選んで円柱状窒化ケイ素供試体5とした。円柱状窒化ケイ素供試体5を用いて例1と同様に圧砕試験を実施した。その結果、例1と有意差のない結果が得られた。
【0112】
[例7(比較例)]
例1と同じ原料スラリー1を用い、セラミックス物品を作製し、ここから3点曲げサンプル用の試験片を切り出し、4面の表面粗さRaを0.5μmとなるように加工して試験片を得た。これらの試験片を用いて3点曲げ試験を行った結果、その平均強度は720MPaとなった。このとき、試験後の破面を観察したところ、試験時に下側であった表面や角部の欠陥部分が起点となって破壊が進展している試験片が多いこと、また、最大応力が試験片内部ではなく、下側表面であることがわかった。
【0113】
以上より、本発明のセラミックス物品の評価方法及びセラミックス物品の製造方法によれば、セラミックス物品の材料本来の強度を従来の圧砕試験に代替して測定、評価でき、さらに、最終製品であるセラミックス物品を効率的に製造できる。
このとき、セラミックス供試体の形状や表面粗さに対して、本発明のセラミックス物品の評価方法によれば、その影響をあまり受けずに評価でき、供試体の加工条件に囚われずに実施、評価できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のセラミックス物品の評価方法及びセラミックス物品の製造方法は、所望の形状のセラミックス物品を評価でき、また、この評価を行いながら、効率的にセラミックス物品を製造できる。ここで対象となるセラミックス物品は、その原料としては、セラミックス原料であれば特に限定されず広く使用できる。
【0115】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に制限されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲において、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
本出願は、2019年9月30日出願の日本特許出願2019-180093に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0116】
1A,1B…セラミックス供試体、10,20,30,40…試験装置、11,21,31,41…下部材、12,22,32,42…上部材、13,23,33,43…補助部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7