(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】温度測定装置および温度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01K 13/20 20210101AFI20231129BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20231129BHJP
G01K 7/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G01K13/20 341Z
A61B5/01 100
G01K13/20 341G
G01K7/00 381Z
(21)【出願番号】P 2022518483
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2020018096
(87)【国際公開番号】W WO2021220396
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】松永 大地
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄次郎
(72)【発明者】
【氏名】瀬山 倫子
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-21833(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230392(WO,A1)
【文献】特開2017-223548(JP,A)
【文献】特開2019-211270(JP,A)
【文献】特開2020-3291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 13/20
G01K 7/00
A61B 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の皮膚表面付近の血流量を計測するように構成された血流計と、
前記被検体の皮膚表面の温度と熱流束とを計測するように構成されたセンサと、
前記血流量の初期値を予め記憶するように構成された記憶部と、
前記血流計によって計測された血流量の前記初期値に対する変化量に基づいて前記被検体の熱抵抗を導出するように構成された熱抵抗導出部と、
前記温度と前記熱流束と前記熱抵抗とに基づいて前記被検体の内部温度を算出するように構成された温度算出部とを備えることを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の温度測定装置において、
前記記憶部は、前記血流量の変化量毎に前記熱抵抗が登録された変換テーブルを予め記憶し、
前記熱抵抗導出部は、前記血流計によって計測された血流量の前記初期値に対する変化量に対応する熱抵抗の値を前記変換テーブルから取得することにより、前記熱抵抗を導出することを特徴とする温度測定装置。
【請求項3】
被検体の皮膚表面付近の血流量を計測する第1のステップと、
前記血流量の、予め記憶された初期値に対する変化量に基づいて前記被検体の熱抵抗を導出する第2のステップと、
前記被検体の皮膚表面の温度と熱流束とを計測する第3のステップと、
前記第3のステップの計測結果と前記第2のステップで導出した熱抵抗とに基づいて前記被検体の内部温度を算出する第4のステップとを含むことを特徴とする温度測定方法。
【請求項4】
請求項3記載の温度測定方法において、
前記第2のステップは、前記第1のステップで計測した血流量の前記初期値に対する変化量に対応する熱抵抗の値を予め記憶された変換テーブルから取得することにより、前記熱抵抗を導出するステップを含むことを特徴とする温度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体等の被検体の内部温度を測定する温度測定装置および温度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質、例えば生体において、表皮から深部に向かってある一定の深さを超えると、外気温の変化等に左右されない温度領域が存在し、その部分の温度は、深部体温、あるいは核心部温度と呼ばれる。一方、外気温の変化を受けやすい生体の表層の温度は体表面温度と呼ばれる。体表面温度は、従来から経皮的な体温計により計測されることがある。このような従来の経皮的な体温計により計測された体温は、深部体温を反映していない場合がある。そのため、生体の深部の領域の温度である深部体温は、体表面温度のように直接的に計測することは困難である。
【0003】
そこで、発明者は、皮膚表面に設置したセンサによって皮膚表面熱流束HSkinと皮膚表面温度TSkinとを計測し、これらの計測値と初期校正により与えられる生体熱抵抗RBodyとを用いて、深部体温TCoreを推定する非侵襲深部体温計測技術を提案した(非特許文献1、非特許文献2参照)。深部体温TCoreを推定する式は、次式のようになる。
TCore=TSkin+RBodyHSkin ・・・(1)
【0004】
生体熱抵抗RBodyは、センサ設置部位における皮膚表面から深部体温領域までの厚みにより決定されるため、定数としてモデル化されている。しかしながら、温浴や運動などで毛細血管や動静脈吻合の血流量が変化すると、生体の実際の熱抵抗が初期校正で与えられた値から変化してしまい、深部体温TCoreの推定値に誤差が生じるという課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】松永大地,田中雄次郎,瀬山倫子,“対流変化を考慮した非侵襲深部体温センサの小型化に向けた検討”,2020年電子情報通信学会総合大会 通信講演論文集1,B-19-9,2020年
【文献】松永大地,田中雄次郎,瀬山倫子,“外気の対流変化に対する非侵襲深部体温推定手法の検討”,2019年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会 通信講演論文集1,B-19-15,2019年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、血流量の変化によって生じる被検体の内部温度の推定値の誤差を低減することができる温度測定装置および温度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の温度測定装置は、被検体の皮膚表面付近の血流量を計測するように構成された血流計と、前記被検体の皮膚表面の温度と熱流束とを計測するように構成されたセンサと、前記血流量の初期値を予め記憶するように構成された記憶部と、前記血流計によって計測された血流量の前記初期値に対する変化量に基づいて前記被検体の熱抵抗を導出するように構成された熱抵抗導出部と、前記温度と前記熱流束と前記熱抵抗とに基づいて前記被検体の内部温度を算出するように構成された温度算出部とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の温度測定方法は、被検体の皮膚表面付近の血流量を計測する第1のステップと、前記血流量の、予め記憶された初期値に対する変化量に基づいて前記被検体の熱抵抗を導出する第2のステップと、前記被検体の皮膚表面の温度と熱流束とを計測する第3のステップと、前記第3のステップの計測結果と前記第2のステップで導出した熱抵抗とに基づいて前記被検体の内部温度を算出する第4のステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、血流計によって計測された血流量の変化量に基づいて被検体の熱抵抗を導出することにより、血流量の変化によって生じる被検体の内部温度の推定値の誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係る温度測定装置の構成を示すブロック図である
【
図2】
図2は、本発明の実施例に係るセンサと生体の熱等価回路モデルを示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例に係る温度測定装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の実施例に係る温度測定装置の動作を説明する図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例に係る温度測定装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施例に係る温度測定装置の構成を示すブロック図である。温度測定装置は、生体10(被検体)の皮膚表面の温度T
Skinと皮膚表面の熱流束H
Skinとを計測するセンサ1と、生体10の皮膚表面付近の血流量v
Bloodを計測するレーザードップラー血流計2と、血流量v
Bloodの初期値v
Blood(0)を予め記憶する記憶部3と、血流量v
Bloodの初期値v
Blood(0)に対する変化量Δv
Bloodに基づいて生体10の熱抵抗R
Combinedを導出する熱抵抗導出部4と、温度T
Skinと熱流束H
Skinと熱抵抗R
Combinedとに基づいて生体10の深部体温T
Core(内部温度)を算出する温度算出部5と、深部体温T
Coreの算出結果を出力する算出結果出力部6とを備えている。
【0012】
センサ1は、断熱部材100と、生体10の皮膚と接する断熱部材100の面に配置された温度センサ101と、皮膚と接する面と反対側の断熱部材100の面に配置された温度センサ102とを含む。温度センサ101によって生体10の皮膚表面の温度T
Skinを計測することが可能である。また、皮膚表面の温度T
Skinと温度センサ102によって計測された温度T
Upperとの差に基づいて皮膚表面の熱流束H
Skinを導出することが可能である。センサ1は、例えば熱伝導性両面テープによって生体10の皮膚表面に貼り付けられる。なお、
図1に示した構成は1例であって、センサ1は
図1と異なる構成であっても構わない。
【0013】
レーザードップラー血流計2は、センサプローブ200と、血流量算出部203とから構成される。センサプローブ200には、生体10にレーザ光を照射する半導体レーザ201と、生体10からの反射光を受光するフォトダイオード202とが設けられている血流量算出部203は、フォトダイオード202から出力された電気信号に基づいて生体10の血流量vBloodを算出する。レーザードップラー血流計2は周知の技術であるので、詳細な説明は省略する。
【0014】
図2はセンサ1と生体10の熱等価回路モデルを示す図である。本発明では、生体10の熱抵抗R
Bodyをモデル化するだけでなく、血流により移動する熱エネルギーもモデル化する。
図2において、11は血管、T
Upperは生体10の皮膚と接する面と反対側のセンサ1の上面の温度、R
Sensorはセンサ1の熱抵抗、R
Bloodは血流による熱抵抗、H
Bloodは血流による熱流束である。
【0015】
初期校正で与えられる熱抵抗は、生体10の血液以外の組織(皮膚、脂肪、筋肉、神経、内臓、骨など)の熱抵抗RBodyと生体10の血流による熱抵抗RBloodの合成抵抗Rcombinedとなる。
TCore=TSkin+RCombinedHSkin ・・・(2)
【0016】
初期校正では、深部体温TCoreの計測対象の生体10について、センサ1の周囲の部位の深部体温TCoreの初期値を例えば熱流補償法や鼓膜温度計によって計測すると同時に、皮膚表面温度TSkinと皮膚表面熱流束HSkinとをセンサ1によって計測すれば、式(2)により合成抵抗RCombinedの初期値RCombined(0)を求めることができる。
熱抵抗RBodyは定数であり、熱抵抗RBloodは血流量vBloodの関数で表される。したがって、合成抵抗RCombinedは、次式に示すように血流量vBloodの関数となる。
【0017】
【0018】
そこで、予め合成抵抗RCombinedと血流量vBloodの変化量の変換テーブルを用意しておき、レーザードップラー血流計などで測定した血流量vBloodの変化量から、次式に示すように合成抵抗RCombinedの初期値RCombined(0)を更新する。
【0019】
【0020】
こうして、本実施例では、血流変化時に生じる深部体温T
Coreの推定値の誤差を低減可能である。
図3は本実施例の温度測定装置の動作を説明するフローチャートである。温度測定装置の記憶部3には、血流量v
Bloodの変化量Δv
Blood毎に生体10の合成抵抗R
combinedが登録された変換テーブルと、初期校正時にレーザードップラー血流計2によって計測された血流量v
Bloodの初期値v
Blood(0)とが予め記憶されている。
【0021】
変換テーブルを作成するには、深部体温TCoreの計測対象の生体10について、センサ1の周囲の部位の血流量vBloodをレーザードップラー血流計2によってモニタリングしつつ、センサ1の周囲の部位の深部体温TCoreを例えば熱流補償法や鼓膜温度計によって計測し、皮膚表面温度TSkinと皮膚表面熱流束HSkinとをセンサ1によって計測する。そして、血流量vBloodが変化したときに、血流量vBloodが非定常状態から定常状態になった時点の深部体温TCoreと皮膚表面温度TSkinと皮膚表面熱流束HSkinとから式(2)により合成抵抗Rcombinedを算出すれば、血流量vBloodの変化量ΔvBloodに対応する合成抵抗Rcombinedの値を求めることが可能である。このような測定を変化量ΔvBlood毎に実施すればよい。なお、血流量vBloodの変化量ΔvBloodが0のときの合成抵抗Rcombinedとしては、上記のRCombined(0)が変換テーブルに登録されている。
【0022】
温度測定装置のレーザードップラー血流計2は、センサ1の周囲の部位の生体10の血流量v
Bloodを常時計測している(
図3ステップS100)。
温度測定装置の熱抵抗導出部4は、レーザードップラー血流計2によって計測された血流量v
Bloodの変化量Δv
Blood(=v
Blood-v
Blood(0))に対応する合成抵抗R
combinedの値を記憶部3の変換テーブルから取得することにより、合成抵抗R
Combinedを導出する(
図3ステップS101)。
【0023】
なお、熱抵抗導出部4は、血流量vBloodが初期値vBlood(0)を中心とする所定の閾値範囲内の場合には、血流量vBloodが変化していないと判定し(変化量ΔvBloodが0)、血流量vBloodが閾値範囲外の場合には、血流量vBloodが変化したと判定する(変化量ΔvBloodの絶対値が0より大)。
【0024】
温度測定装置の温度算出部5は、センサ1による皮膚表面温度T
Skinと皮膚表面熱流束H
Skinの計測(
図3ステップS102)の結果と、熱抵抗導出部4によって導出された合成抵抗R
Combinedとに基づいて、生体10の深部体温T
Coreを式(2)により算出する(
図3ステップS103)。
【0025】
温度測定装置の算出結果出力部6は、温度算出部5の算出結果を出力する(
図3ステップS104)。出力方法の例としては、例えば算出結果の表示、外部への算出結果の送信などがある。
【0026】
図4は本実施例の温度測定装置の動作を説明する図である。
図4の例では、時刻t=0の時点で初期校正が行われ、時刻t=t1の時点でセンサ1とセンサプローブ200とを身に付けた人(生体10)が温浴を開始した例を示している。
図4の400は深部体温T
Coreの真値を示し、401は従来技術の方法で算出した深部体温T
Coreを示し、402は本実施例の温度測定装置が算出した深部体温T
Coreを示している。
【0027】
図4によれば、血流量v
Bloodが変化したときに、本実施例の熱抵抗導出部4によって合成抵抗R
Combinedが、初期値R
Combined(0)から血流量v
Bloodの変化量Δv
Bloodに対応した値に更新されることが分かる。一方、従来技術で用いる熱抵抗R
Bodyは一定値のままである。したがって、従来技術では、深部体温T
Coreの推定値に誤差が生じているのに対し、本実施例では、真値とほぼ等しい深部体温T
Coreを推定できていることが分かる。
【0028】
以上のように、本実施例では、血流量vBloodの変化量ΔvBloodに基づいて生体10の合成抵抗Rcombinedを導出するので、血流量vBloodの変化によって生じる深部体温TCoreの推定値の誤差を低減することができる。
なお、本実施例では、血流計として、レーザードップラー血流計2を使用しているが、他の血流計を使用しても構わない。
【0029】
本実施例で説明した記憶部3と熱抵抗導出部4と温度算出部5と算出結果出力部6とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインターフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図5に示す。
【0030】
コンピュータは、CPU500と、記憶装置501と、インターフェース装置(以下、I/Fと略する)502とを備えている。I/F502には、センサ1やレーザードップラー血流計2、表示装置、通信装置などが接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の温度測定方法を実現させるためのプログラムは記憶装置501に格納される。CPU500は、記憶装置501に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、生体等の被検体の内部温度を測定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1…センサ、2…レーザードップラー血流計、3…記憶部、4…熱抵抗導出部、5…温度算出部、6…算出結果出力部、10…生体、100…断熱部材、101,102…温度センサ、200…センサプローブ、201…半導体レーザ、202…フォトダイオード、203…血流量算出部。