(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、並びこれを用いた二軸延伸フィルムおよび積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20231129BHJP
C08L 27/00 20060101ALI20231129BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20231129BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20231129BHJP
C08K 5/5435 20060101ALI20231129BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L27/00
C08L21/00
C08K5/544
C08K5/5435
B32B27/00 A
(21)【出願番号】P 2022527764
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2021022024
(87)【国際公開番号】W WO2022091473
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020181317
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】小橋 一範
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓介
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-291222(JP,A)
【文献】国際公開第2008/102851(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/225694(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/131028(WO,A1)
【文献】特開2015-110732(JP,A)
【文献】特開2014-105258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(A)51~95質量%と、ガラス転移温度が110℃以下であるカルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)5~49質量%を原料とする、連続相および分散相を有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物を用いた二軸延伸フィルムにおいて誘電率が3.2以下であり、
前記連続相が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を含み、
前記分散相が、ガラス転移温度が110℃以下であるカルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)を含み、
前記連続
相、分散
相にエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される少なくとも1種の官能基を含有するシランカップリング剤(D)0.05~5質量%を含む二軸延伸フィルム用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物の330℃で5分間滞留させた後の流動性(メルトフローレート1)と30分間滞留させた後の流動性(メルトフローレート2)との比メルトフローレート1/メルトフローレート2が、0.2以上4.5以下となる請求項1に記載の二軸延伸フィルム用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
更に、反応性基が付与された変性エラストマー(C)を1~20質量%含有した請求項1または2に記載の二軸延伸フィルム用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記変性エラストマー(C)がエポキシ基、酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有するオレフィン系重合体からなる、請求項
3に記載の二軸延伸フィルム用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の二軸延伸フィルム用ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を二軸延伸してなる、二軸延伸フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の二軸延伸フィルムと、前記二軸延伸フィルムの少なくとも一方の面に配置される金属層あるいは樹脂成形体のいずれか1種以上とを含む、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続製膜・延伸性に優れ、低誘電率であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、並びこれを用いた二軸延伸フィルムおよび積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)の分野では、クラウドやIoT(Internet of Things)などの発展、自動車の自動運転化の技術の向上、電気自動車、ハイブリッド車の発展に伴い、大量のデータ処理や高速かつ損失のなく伝送できるケーブルやアンテナが求められている。しかし、従来、FPC基材にはポリイミド(PI)フィルム、FCC基材にはポリエステルフィルム(PETフィルム等)が用いられており、次世代の高速伝送に対応できる誘電特性を有しているとはいえない。
【0003】
一方、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)に代表されるポリアリーレンスルフィド系樹脂を用いたフィルムは、耐熱性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性に優れるため、コンデンサーやモーターの絶縁材料、耐熱テープに用いられている。ポリアリーレンスルフィド樹脂は、PIやPETに比べ誘電特性に優れることから、FPCやFFCの分野等に好適に適用され得る。しかし、次世代の高速伝送に対応するには、更なる低誘電率化が必要である。
【0004】
これを改善するものとして、例えば、特許文献1には、PPS樹脂に無機粒子を含有させ、二軸延伸時に空孔を形成する方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載のフィルムでは、低誘電率化する効果は十分得られるが、空孔が存在する事によりフィルムの機械物性が低下する。そのため、表層に無機粒子を含有しない層を積層させているが、十分な機械強度が得られない。また、積層化させる必要があり、積層体の延伸では、層間の接着性や各層の延伸性の一致が重要であり、生産上の観点から非常に難しい傾向にある。
【0005】
また、PPS樹脂とフッ素樹脂の優れた特性を両立させるために、両樹脂を配合する試みが幾つか報告されている。例えば、特許文献2には、PPS樹脂と官能基を含有するフッ素樹脂からなる樹脂組成物で滞留前後の分散粒子径の安定化を図った樹脂組成物が提案されている。しかしながら、これら特許に記載された提案は、射出成形用途を主目的に提案されたもので、連続押出性が必要となるフィルム用途では粘度の安定性が重要となるが何ら記載されていない。また、低誘電率化した二軸延伸フィルムとしての記載も何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-83415号公報
【文献】特開2015-110732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、連続押出製膜性、延伸性に優れ、得られる二軸延伸フィルムにおいて低誘電率で、優れた靭性を有する事ができる樹脂組成物、およびかかるフィルムを使用した積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく誠意検討を行った結果、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)と、反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)からなる樹脂組成物において、滞留前後の流動性を特定の範囲内とする事で、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)~(8)に関する。
【0009】
(1) 少なくともポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)51~95質量%と、反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)5~49質量%を原料とする、連続相および分散相を有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物を用いた二軸延伸フィルムにおいて誘電率が3.2以下であり、
前記連続相が、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)を含み、
前記分散相が、反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であることを特徴とする。
【0010】
(2)前記樹脂組成物の330℃で5分間滞留させた後の流動性(メルトフローレート1)と330℃で30分間滞留させた後の前記樹脂組成物の流動性(メルトフローレート2)との比メルトフローレート1/メルトフローレート2が、0.2以上4.5以下である事が好ましい。
【0011】
(3) 反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)が、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する含フッ素系樹脂であることが好ましい。
(4) 更に、反応性基が付与された変性エラストマー(C)を1~20質量%含有した方が好ましい。
(5) 変性エラストマー(C)がエポキシ基、酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有するオレフィン系重合体からなることが好ましい。
【0012】
(6) エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される少なくとも1種の官能基を含有するシランカップリング化合物(D)を0.05~5質量%を含むことが好ましい。
(7)本発明のフィルムは、上記(1)~(6)項のいずれか1項記載の樹脂組成物を二軸延伸してなる、二軸延伸フィルム。
(8) 本発明の積層体は上記(7)に記載の二軸延伸フィルムと、前記二軸延伸フィルムの少なくとも一方の面に配置される金属層とを含む積層体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連続押出製膜性、延伸性に優れ、得られる二軸延伸フィルムが低誘電特性及び優れた靭性を有する事のできる樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0015】
[樹脂組成物]
樹脂組成物は、少なくともポリアリーレンスルフィド系樹脂(以下、「PAS系樹脂」と称することがある)と、反応性官能基を有する含フッ素系樹脂を原料とする。この際、前記樹脂組成物は、連続相および分散相を有し、この際、前記連続相が、ポリアリーレンスルフィド系樹脂を含み、前記分散相が、反応性官能基を有する含フッ素系樹脂を含む。
【0016】
前記樹脂組成物の330℃で5分間滞留後の流動性(メルトフローレート1、ここで言うメルトフローレートとは、溶融状態にある樹脂の流動性を示す尺度を示す。以下、「MFR1」)と330℃で30分間滞留後の流動性(メルトフローレート2、以下、「MFR2」)の比 MFR1/MFR2が、0.2以上4.5以下となる樹脂組成物である。MFR1/MFR2比が4.5より大きい場合には、PAS系樹脂(A)と反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)との反応性が進行し、樹脂組成物の増粘が大きい事を意味し、連続製膜時にゲル化等が発生し、急激な押出機の樹脂圧力の上昇と延伸時の破断等の不具合を生じる。MFR1/MFR2比が0.2より小さい場合には、連続製膜時にPAS系樹脂(A)、反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)の分解が進行し、減粘していることを意味し、安定した製膜化が困難となる。よって、330℃で5分、30分後の流動性比が前記の範囲内であれば、安定した製膜性、延伸性となり、連続押出製膜性、延伸性に最適な樹脂組成物となる。
【0017】
樹脂組成物中の分散相の平均分散径は、5μm以下であり、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは0.5~3μmである。分散相の平均分散径が3μm以下であると、均一な延伸フィルムを得ることができる。
【0018】
[ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)]
ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)(PAS系樹脂(A))は、樹脂組成物の主成分であり、フィルムに優れた耐熱性、靭性を付与する機能を有する成分である。
PAS系樹脂(A)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造(具体的には、下記式(1)で表される構造)を繰り返し単位として含む重合体である。
【0019】
【化1】
上記式中、R
1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表し、nは、それぞれ独立して、1~4の整数である。
【0020】
ここで、式(1)で表される構造中のR1は、いずれも水素原子であることが好ましい。かかる構成により、PAS系樹脂(A)の機械的強度をより高めることができる。R1がいずれも水素原子である式(1)で表される構造としては、下記式(2)で表される構造(すなわち、硫黄原子が芳香族環に対してパラ位で結合する構造)、および下記式(3)で表される構造(すなわち、硫黄原子が芳香族環に対してメタ位で結合する構造)が挙げられる。
【0021】
【化2】
これらの中でも、式(1)で表される構造は、式(2)で表される構造であることが好ましい。式(2)で表される構造を有するPAS系樹脂(A)であれば、耐熱性や結晶性をより向上させることができる。
【0022】
また、PAS系樹脂(A)は、上記式(1)で表される構造のみならず、下記式(4)~(7)で表される構造を繰り返し単位として含んでいてもよい。
【0023】
【0024】
式(4)~(7)で表される構造は、PAS系樹脂(A)を構成する全繰り返し単位中に、30モル%以下含まれることが好ましく、10モル%以下含まれることがより好ましい。かかる構成により、PAS系樹脂(A)の耐熱性や機械的強度をより高めることができる。
また、式(4)~(7)で表される構造の結合様式としては、ランダム状、ブロック状のいずれであってもよい。
【0025】
また、PAS系樹脂(A)は、その分子構造中に、下記式(8)で表される3官能性の構造、ナフチルスルフィド構造等を繰り返し単位として含んでいてもよい。
【0026】
【0027】
式(8)で表される構造、ナフチルスルフィド構造等は、PAS系樹脂(A)を構成する全繰り返し単位中に、1モル%以下含まれることが好ましく、実質的には含まれないことがより好ましい。かかる構成により、PAS系樹脂(A)中における塩素原子の含有量を低減することができる。
また、PAS系樹脂(A)の特性は、本発明の効果を損ねない限り、特に限定されないが、その300℃における溶融粘度(V6)は、50~2000Pa・sであることが好ましく、さらに流動性および機械的強度のバランスが良好となることから、80~1500Pa・sであることがより好ましい。
【0028】
さらに、PAS系樹脂(A)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いた測定において、分子量25,000~40,000の範囲にピークを有し、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比率(Mw/Mn)が5~10の範囲にあり、かつ、非ニュートン指数が0.9~1.3の範囲にあることが特に好ましい。かかるPAS系樹脂(A)を用いることにより、フィルムの機械的強度を低下させることなく、PAS系樹脂(A)自体における塩素原子の含有量を800~2,000ppmの範囲にまで低減でき、ハロゲンフリーの電子・電気部品用途への適用が容易となる。
【0029】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、それぞれゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された値を採用する。なお、GPCの測定条件は、以下の通りである。
[ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定条件]
装置:超高温ポリマー分子量分布測定装置(センシュウ科学社製SSC-7000)
カラム :UT-805L(昭和電工社製)
カラム温度:210℃
溶媒 :1-クロロナフタレン
測定方法 :UV検出器(360nm)で6種類の単分散ポリスチレンを校正に
用いて分子量分布とピーク分子量を測定する。
【0030】
PAS系樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、1)硫黄と炭酸ソーダの存在下で、ジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下に、ジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法等が挙げられる。これらの製造方法の中でも、上記2)の方法が汎用的であり好ましい。
なお、反応の際には、重合度を調節するために、カルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加してもよい。
【0031】
上記2)の方法の中でも、次の2-1)の方法または2-2)の方法が特に好ましい。
2-1)の方法では、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に、含水スルフィド化剤を、水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させる際に、反応系内の水分量を、有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることにより、PAS系樹脂(A)を製造する(特開平07-228699号公報参照)。
2-2)の方法では、固形のアルカリ金属硫化物および非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ジハロゲノ芳香族化合物と、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物および有機酸アルカリ金属塩とを反応させる際に、有機酸アルカリ金属塩の量を硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲にコントロールすること、および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールすることにより、PAS系樹脂(A)を製造する(WO2010/058713号パンフレット参照)。
【0032】
ジハロゲノ芳香族化合物の具体例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、および上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられる。
また、ポリハロゲノ芳香族化合物としては、1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。
なお、上記化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0033】
重合工程により得られたPAS系樹脂(A)を含む反応混合物の後処理方法には、公知慣用の方法が用いられる。かかる後処理方法としては、特に限定されないが、例えば、次の(1)~(5)の方法が挙げられる。
(1)の方法では、重合反応終了後、まず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(または低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、さらに中和、水洗、濾過および乾燥する。
(2)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPAS系樹脂(A)に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PAS系樹脂(A)や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する。
【0034】
(3)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(または低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて攪拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥する。
(4)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄のときに酸を加えて酸処理し、乾燥する。
(5)の方法では、重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、さらに水洗浄、濾過および乾燥する。
【0035】
上記(4)の方法で使用可能な酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、モノクロロ酢酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、クロトン酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸等の有機酸、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸等の無機酸が挙げられる。
また、水素塩としては、例えば、硫化水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。ただし、実機での使用においては、金属部材への腐食が少ない有機酸が好ましい。
なお、上記(1)~(5)の方法において、PAS系樹脂(A)の乾燥は、真空中で行ってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0036】
特に、上記(4)の方法で後処理されたPAS系樹脂(A)は、その分子末端に結合する酸基の量が増加することで、反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)、変性エラストマー(C)やシランカップリング剤(D)と混合する場合、それらの分散性を高める効果が得られる。酸基としては、特に、カルボキシル基であることが好ましい。
樹脂組成物中におけるPAS系樹脂(A)の含有量は、51~95質量%であればよいが、60~80質量%であることが好ましい。PAS系樹脂(A)の含有量が上記範囲であれば、フィルムの耐熱性および靭性をより向上させることができる。
【0037】
[反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)]
反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)(含フッ素系樹脂(B))は、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する。これらの反応性官能基が2種以上含まれても良い。中でも、PAS系樹脂(A)との反応性に優れる点からカルボニル基含有基が好ましい。カルボニル基含有基としては、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物基、ポリフルオロアルコキシカルボニル基等が挙げられる。
【0038】
含フッ素系樹脂(B)の反応性官能基を導入する方法としては、(1)重合反応で反応性官能基を有する含フッ素系樹脂の主鎖を製造する際に、反応性官能基を有するモノマーを使用する。(2)反応性官能基を有するラジカルを発生する連鎖移動剤を用いて、重合反応で官能基を有する含フッ素系樹脂(B)を製造する。(3)反応性官能基を有するラジカルを発生する重合開始剤を用いて、重合反応で官能基を有する含フッ素系樹脂(B)を製造する。(4)フッ素系樹脂を酸化、熱分解などの手法により変性する方法などが挙げられる。また、(5)フッ素系樹脂に相溶し、前記官能基を含有する化合物または樹脂を配合する方法が挙げられる。
【0039】
反応性官能基含有単量体としては、カルボニル基含有基を有する単量体、エポキシ基含有単量体、ヒドロキシ基含有単量体、イソシアネート基含有単量体等が挙げられる。
【0040】
カルボキシル基含有基を有する単量体としては、不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ハイミック酸、5-ノルボルネン-2、3-ジカルボン酸、マレイン酸)、それらの不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸)、ビニルエステル(酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、ブタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニル、クロトン酸ビニル)等が挙げられる。
【0041】
ヒドロキシ基含有単量体としては、ヒドロキシ基含有ビニルエステル、ヒドロキシ基含有ビニルエーテル、ヒドロキシ含有アリルエーテル、ヒドロキシ含有(メタ)アクリレート、クロトン酸ヒドロキシエチル、アリルアルコール等が挙げられる。
【0042】
エポキシ基含有単量体としては、不飽和グリシジルエーテル(アリルグリシジルエーテル、2-メチルアリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等)、不飽和グリシジルエステル(アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等)が挙げられる。
【0043】
イソシアネート基含有単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エチルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。
【0044】
含フッ素系樹脂(B)中に含まれる反応性官能基量は、含フッ素系樹脂(B)を構成する全単位のうち、0.01~3モル%が好ましく、0.03~2モル%がより好ましく、0.05~1モル%がさらに好ましい。反応性官能基量が前記範囲内であれば、PAS系樹脂との反応性に優れ、流動性の悪化も抑制できる。
【0045】
含フッ素系樹脂(B)の構造は、特に限定されるものでは無いが、少なくとも1種のフルオロオレフィン単位から構成される。例えば、テトラフルオロエチレン重合体や、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとの共重合体、更には、エチレン、プロピレン、ブテン、アルキルビニルエーテル類等のフッ素を含まない非フッ素エチレン系単量体との共重合体も挙げられる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンーテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等が挙げられる。中でも、溶融押出性が容易である点からエチレンーテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好ましい。
【0046】
本発明で用いられる含フッ素系樹脂(B)の融点は、特に限定されるものではないが、170℃~340℃であり、180℃~340℃が好ましく、190℃~330℃がより好ましい。含フッ素系樹脂(B)の融点が前記範囲内であれば、耐熱性の維持と良好な溶融押出安定性が得られる。
【0047】
本発明で用いられる含フッ素系樹脂(B)のガラス転移温度は、特に限定されるものではないが、130℃以下であり、120℃以下、110℃以下がより好ましい。前記のガラス転移温度を有する含フッ素系樹脂(B)であれば、PAS系樹脂(A)との混合後の延伸において、連続相であるPAS系樹脂(A)と分散相である含フッ素系樹脂(B)との界面での剥離を抑える事ができる。それにより、延伸時の破断が抑制でき、更には、優れた機械物性を有するフィルムを得る事ができる。
【0048】
樹脂組成物中における含フッ素系樹脂(B)の含有量は、5~49質量%であればよいが、5~40質量%であることが好ましい。含フッ素系樹脂(B)の含有量が上記範囲であれば、フィルムの誘電特性(低誘電率化)の改善効果がより顕著に発揮される。
【0049】
本発明では、含フッ素系樹脂(B)と共に反応性官能基を含有しない含フッ素系樹脂を併用することも可能である。
【0050】
[変性エラストマー(C)]
変性エラストマー(C)は、PAS系樹脂(A)および含フッ素系樹脂(B)の少なくとも一方と反応可能な反応性基を有することにより、フィルムの機械的強度(耐折強度等)を向上させる機能を有する成分である。
変性エラストマー(C)が有する反応性基としては、エポキシ基および酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エポキシ基であることがより好ましい。これらの反応性基は、PAS系樹脂(A)および含フッ素系樹脂(B)が有する官能基と迅速に反応可能である。
【0051】
かかる変性エラストマー(C)としては、α-オレフィンに基づく繰り返し単位と、上記官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位とを含む共重合体、α-オレフィンに基づく繰り返し単位と、上記官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位と、アクリル酸エステルに基づく繰り返し単位とを含む共重合体等が挙げられる。
【0052】
α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン-1等の炭素数2~8のα-オレフィン等が挙げられる。
また、官能基を有するビニル重合性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のα,β-不飽和カルボン酸およびそのエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4~10の不飽和ジカルボン酸、そのモノまたはジエステル、その酸無水物等のα,β-不飽和ジカルボン酸、そのエステルおよびその酸無水物、α,β-不飽和グリシジルエステル等が挙げられる。
【0053】
α,β-不飽和グリシジルエステルとしては、特に限定されないが、下記式(10)で表される化合物等が挙げられる。
【0054】
【0055】
上記式中、R3は、炭素数1~6のアルケニル基である。
炭素数1~6のアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4ペンテニル基、1-メチル-1-ペンテニル基、1-メチル-3-ペンテニル基、1,1-ジメチル-1-ブテニル基、1-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基等が挙げられる。
【0056】
R4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基である。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2,4-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基等が挙げられる。
【0057】
α,β-不飽和グリシジルエステルの具体例としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられ、グリシジルメタクリレートであることが好ましい。
変性エラストマー(C)中に占めるα-オレフィンに基づく繰り返し単位の割合は、50~95質量%であることが好ましく、50~80質量%であることがより好ましい。α-オレフィンに基づく繰り返し単位の占める割合が上記範囲であれば、フィルムの延伸均一性、耐折強度等を向上することができる。
また、変性エラストマー(C)中に占める官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位の割合は、1~30質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましい。官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位の占める割合が上記範囲であれば、目的とする改善効果のみならず、良好な押出安定性が得られる。
【0058】
樹脂組成物中における変性エラストマー(C)の含有量は、1~20質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。変性エラストマー(C)の含有量が上記範囲であれば、フィルムの誘電特性、耐折強度等の向上効果が顕著に発揮される。
【0059】
[シランカップリング剤(D)]
本発明におけるシランカップリング剤(D)は、PAS系樹脂(A)と、他の成分である反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)、変性エラストマー(C)との相溶性(相互作用)を高める機能を有する成分である。シランカップリング剤(D)を使用することにより、PAS系樹脂(A)中における他の成分の分散性が飛躍的に向上し、良好なモルフォロジーを形成することができる。
【0060】
シランカップリング剤(D)は、カルボキシル基と反応し得る官能基を有する化合物であることが好ましい。かかるシランカップリング剤(D)は、PAS系樹脂(A)および含フッ素系樹脂(B)と反応することで、これらと強固に結合する。その結果、シランカップリング剤(D)の効果がより顕著に発揮され、PAS系樹脂(A)中における含フッ素系樹脂(B)の分散性を特に高めることができる。
【0061】
かかるシランカップリング剤(D)としては、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基または水酸基を有する化合物が挙げられる。
シランカップリング剤(D)の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0062】
樹脂組成物中におけるシランカップリング剤(D)の含有量は、0.05~5質量%であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましい。シランカップリング剤(D)の含有量が上記範囲であれば、PAS系樹脂(A)中における他の成分の分散性を向上する効果が顕著に発揮される。
【0063】
[添加剤]
樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線安定剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、導電剤等を含有してもよい。
【0064】
<樹脂組成物及び製造方法>
樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、PAS系樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)、変性エラストマー(C)、シランカップリング剤(D)、および必要に応じてその他の成分をタンブラーまたはヘンシェルミキサー等で均一に混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられ、この溶融混錬は剪断流動場での混錬、伸長流動場での混錬のいずれか一方、若しくは、両方であってもよい。この溶融混練は、混練物の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~0.2(kg/hr・rpm)となる条件で行うことが好ましい。
【0065】
混合時の設定温度は、PAS系樹脂(A)及び含フッ素系樹脂(B)のうち融点が高い方の樹脂の融点より+5~70℃の範囲が選択され、+10~50℃の範囲がより好ましい。設定温度がPAS系樹脂(A)及び含フッ素系樹脂(B)の融点より低い場合には、部分的に融解しないPAS系樹脂(A)または含フッ素系樹脂(B)の存在により、組成物の粘度が大幅に上昇し、二軸押出機への負荷が大きくなるため生産性上好ましくない。
更に詳述すれば、各成分を二軸押出機内に投入し、前記設定温度でストランドダイでの樹脂温度310℃程度の温度条件下に溶融混練する方法が好ましい。この際、混練物の吐出量は、回転数250rpmで5~50kg/hrの範囲となる。特に各成分の分散性を高める観点からは、混練物の吐出量は、回転数250rpmで20~35kg/hrであることが好ましい。よって、混練物の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)は、0.08~0.14(kg/hr・rpm)であることがより好ましい。
【0066】
マトリックス中に分散する粒子(分散相)の平均粒径(平均分散径)は、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、0.5~3μmであることがさらに好ましい。粒子の平均粒径が上記範囲であれば、均一かつ均質なフィルムを得ることができる。なお、本明細書において、「粒子の平均粒径」は、後述する実施例に記載の方法で測定された値を採用する。
【0067】
<フィルム>
以上のような樹脂組成物から本発明のフィルムが形成される。
かかるフィルムの一実施態様では、PAS系樹脂(A)をマトリックス(連続相)として、このマトリックス中に含フッ素系樹脂(B)を含む粒子(分散相)が分散している。
なお、変性エラストマー(C)は、含フッ素系樹脂(B)の粒子の表面(すなわちマトリックスと粒子との界面)、含フッ素系樹脂(B)の粒子内、または含フッ素系樹脂(B)の粒子と別の粒子(分散相)として存在する。
【0068】
また、本発明者らは、変性エラストマー(C)は、PAS系樹脂(A)と含フッ素系樹脂(B)との相溶化剤としても機能することにより、粒子がマトリックス中に微分散化することで、フィルムの機械的強度が向上するものと考えている。さらに、本発明者らは、シランカップリング剤(D)との併用により、変性エラストマー(C)を介したマトリックスと粒子との界面の接着性がより向上し、フィルムの機械的強度がさらに向上するものとも考えている。
【0069】
フィルムは、樹脂組成物から得られたシートを二軸延伸してなる二軸延伸フィルムであることが好ましい。
二軸延伸フィルムとすれば、マトリックスを構成するPAS系樹脂(A)は、その分子鎖が伸張された状態で結晶化するため、寸法精度の高いフィルムを得ることができる。
【0070】
二軸延伸フィルムの長手方向(MD方向)の延伸倍率は、1.5~4倍であることが好ましく、2~3.8倍であることがより好ましい。
また、二軸延伸フィルムの幅方向(TD方向)の延伸倍率は、1.5~4倍であることが好ましく、2~3.8倍であることがより好ましい。
なお、二軸延伸フィルムの長手方向(MD方向)の延伸倍率に対する二軸延伸フィルムの幅方向(TD方向)の延伸倍率の比(幅方向(TD方向)/(長手方向(MD方向))は、0.8~1.3であることが好ましく、長手方向の物性と幅方向の物性とをバランスさせ易いことから、0.9~1.2であることがより好ましい。
【0071】
本発明の二軸延伸フィルムの厚みは、特に限定されないが、300μm以下、好ましくは、3~200μm、さらに好ましくは5~150μmの範囲である。かかる厚さの二軸延伸フィルムであれば、十分な機械的強度を発揮することができる。
【0072】
本発明の二軸延伸フィルムは、少なくとも、本発明の樹脂組成物からなる層が一層あれば良く、他の樹脂組成物からなる層が直接、あるいは、接着剤層などを介して、積層されていても良い。
【0073】
本発明の二軸延伸フィルムと金属あるいは樹脂成形体との接着性を高める目的で二軸延伸フィルムに表面処理を施しても良い。該表面処理としては、コロナ放電処理(各種ガス雰囲気下でのコロナ処理も含む)、プラズマ処理(各種ガス雰囲気下でのプラズマ処理も含む)、化学薬品や紫外線、電子照射線等による酸化処理等が挙げられる。中でも、プラズマ処理が好ましい。
【0074】
<二軸延伸フィルムの製造方法>
二軸延伸フィルムは、例えば、次のようにして製造される。
まず、樹脂組成物を140℃で3時間以上乾燥した後、280~320℃に加熱された押出機に投入する。
その後、押出機を経た溶融状態の樹脂組成物(すなわち混練物)をTダイにてシート(フィルム)状に吐出させる。
次いで、シート状の混練物を、表面温度20~50℃の冷却ロールに密着させて冷却固化する。これにより、無配向状態の未延伸シートを得る。
【0075】
次に、未延伸シートを二軸延伸する。延伸方法としては、特に制限されず、公知の手法が採用されうる。逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法、またはこれらを組み合わせた方法を用いることができる。
逐次二軸延伸法により二軸延伸をする場合には、例えば、得られた未延伸シートを加熱ロール群で加熱し、長手方向(MD方向)に1.5~4倍(好ましくは2~3.8倍)に、1段または2段以上の多段で延伸した後、30~60℃の冷却ロール群で冷却する。
なお、延伸温度は、PAS系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)~Tg+40℃であることが好ましく、Tg+5℃~Tg+30℃であることがより好ましく、Tg+5℃~Tg+20℃であることがさらに好ましい。
【0076】
次に、テンターを用いる方法により幅方向(TD方向)に延伸する。MD方向に延伸させたフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、TD方向の延伸を行う。
なお、延伸倍率は、1.5~4倍であることが好ましく、2~3.8倍であることがより好ましい。
また、延伸温度は、Tg~Tg+40℃であることが好ましく、Tg+5℃~Tg+30℃であることがより好ましく、Tg+5℃~Tg+20℃であることがさらに好ましい。
【0077】
次に、この延伸フィルムを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。
熱固定温度は、特に限定されないが、200~280℃であることが好ましく、220~280℃であることがより好ましく、240~275℃であることがさらに好ましい。なお、熱固定は、熱固定温度を変更して2段で実施してもよい。この場合、2段目の熱固定温度を1段目の熱固定温度より+10~40℃高くすることが好ましい。この範囲の熱固定温度で熱固定された延伸フィルムは、その耐熱性、機械的強度がより向上する。
また、熱固定時間は、1~60秒間であることが好ましい。
【0078】
さらに、このフィルムを50~270℃の温度ゾーンで、幅方向に弛緩しながら冷却する。弛緩率は、0.5~10%であることが好ましく、2~8%であることがより好ましく、3~7%であることがさらに好ましい。
【0079】
[積層体]
本発明の積層体は、上述の二軸延伸フィルムと、このフィルムの少なくとも一方の面側に設けられた金属層あるいは樹脂成形体とを有する。
金属層の構成材料(金属材料)としては、特に限定されないが、銅、アルミニウム、亜鉛、チタン、ニッケル、またはこれらを含む合金等が挙げられる。
なお、金属層は、単層構造であってもよいし、2層以上の積層構造であってもよい。金属層が積層構造である場合、各層は同一の金属材料で構成されても、異なる金属材料で構成されてもよい。
【0080】
一実施形態において、積層体は、金属層-フィルム、金属層-フィルム-金属層、金属層-フィルム-金属層-フィルム、金属層-金属層-フィルム、金属層-金属層-フィルム-金属層等の構造を有し得る。
なお、金属層を形成する方法としては、金属の真空蒸着、スパッタリング、めっき等による方法が挙げられる。また、フィルムと金属箔とを重ね合わせ、熱溶着させる方法により金属層を形成してもよい。
【0081】
かかる積層体は、フィルムが優れた誘電特性を有するため、次世代の高速伝送に好適なフレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)に加工して使用することができる。
また、延伸均一性に優れる二軸延伸フィルムを使用すれば、積層体は、厚み均一性に優れ、その誘電率のばらつきを抑制することができる。
さらに、フィルムと金属層との間には、例えば、これらの密着性を向上する機能を有する中間層を設けるようにしてもよい。
【0082】
前記樹脂成形体としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、芳香族ポリアミド、液晶樹脂などの押出成形品または射出成型品、繊維シートが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0083】
以上、本発明のフィルムおよび積層体について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明のフィルムおよび積層体は、それぞれ、前述した実施形態に構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
【実施例】
【0084】
次に、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
1.樹脂組成物および二軸延伸フィルムの製造
[実施例1]
84.5質量部のポリフェニレンスルフィド樹脂-1(DIC株式会社製、リニア型、融点280℃、300℃における溶融粘度(V6)160Pa・s)と、15質量部の官能基を有する含フッ素系樹脂(B)(AGC株式会社製、「AH-2000」、融点240℃)と、0.5質量部の3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランとを、タンブラーで均一に混合して混合物を得た。
【0086】
なお、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、その分子末端にカルボキシル基を有している。
以下では、ポリフェニレンスルフィド樹脂を「PPS」と、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランを「シランカップリング剤」と記載する。
【0087】
次に、上記で得られた混合物を、ベント付二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、「TEX-30α」)に投入した。その後、吐出量20kg/hr、スクリュー回転数300rpm、シリンダー設定温度320℃、ストランドダイでの樹脂温度310℃程度となる条件で溶融押出してストランド状に吐出し、温度30℃の水で冷却した後、カッティングして樹脂組成物を製造した。
【0088】
次に、この樹脂組成物を、140℃で3時間乾燥した後、フルフライトスクリューの単軸押出機に投入して、280~310℃の条件で溶融させた。溶融した樹脂組成物をTダイから押出した後、40℃に設定したチルロールで密着冷却し、未延伸シートを作製した。
次に、作製された未延伸シートを、バッチ式二軸延伸機(株式会社井本製作所製)を用いて100℃で3.0×3.0倍に二軸延伸することで、厚み50μmのフィルムを得た。さらに、得られたフィルムを型枠に固定し、275℃のオーブンにて熱固定処理することで、二軸延伸フィルムを製造した。
【0089】
製造した樹脂組成物中の粒子の平均粒径を、次のようにして測定した。
まず、樹脂組成物ペレットを、超薄切片法により、流動方向に対して直角方向に切断した。次に、切断されたペレットの切断面をそれぞれ2000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影とし、得られた画像をA3サイズに拡大した。次に、拡大したSEM写真の任意の50個の粒子を選択し、切断面における各粒子の最大直径を計測し、平均粒径を算出した。
その結果、樹脂組成物ペレットの粒子の平均粒径は、1.3μmであった。
【0090】
また、切断された樹脂ペレットのSEM-EDS分析を行い、樹脂組成物ペレットのマトリックスおよび粒子を構成する成分について分析した。その結果、マトリックスを構成する成分は、PPSであり、粒子を構成する成分は、含フッ素系樹脂であることが判った。
【0091】
[実施例2]
含フッ素系樹脂に(B)(AGC株式会社製、「EA-2000」、融点300℃)を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物および二軸延伸フィルムを製造した。
なお、実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルム中の粒子の平均粒径を測定したところ、1.5μmであった。
また、実施例1と同様の方法で、樹脂組成物ペレットの構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、含フッ素系樹脂の粒子が分散していることが判った。
【0092】
[実施例3]
PPS樹脂に、PPS樹脂-2(DIC株式会社製、リニア型、融点280℃、300℃における溶融粘度(V6)110Pa・s)に変更した以外は、実施例2と同様にして、樹脂組成物および二軸延伸フィルムを製造した。
なお、実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルム中の粒子の平均粒径を測定したところ、1.6μmであった。
また、実施例1と同様の方法で、樹脂ペレットの構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、含フッ素系樹脂の粒子が分散していることが判った。
【0093】
[実施例4]
PPS樹脂-2を79.5質量%、EA-2000を15質量%、反応基を有する変性エラストマーにボンドファースト7L(エチレン/グリシジルメタクリレート/アクリル酸メチル=70/3/27(質量%)、住友化学株式会社製)5質量%、シランカップリング剤を0.5質量%とした以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
なお、実施例1と同様の方法で、樹脂ペレットの構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、含フッ素系樹脂の粒子が分散していることが判った。なお、変性エラストマーは、単独で分散する粒子として存在するか、マットリックスと含フッ素系樹脂の粒子との界面に存在していた。樹脂ペレット中の含フッ素粒子の平均粒径を測定したところ、1.2μmであった。
【0094】
[比較例1]
ベント付二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、「TEX-30α」)にPPS樹脂-1を投入した。その後、吐出量20kg/hr、スクリュー回転数300rpm、設定温度320℃、ストランドダイでの樹脂温度310℃程度の条件で溶融押出してストランド状に吐出し、温度30℃の水で冷却した後、カッティングして樹脂組成物を製造した。次に実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0095】
[比較例2]
PPS樹脂にPPS樹脂―3(DIC株式会社製、架橋型、融点280℃、300℃における溶融粘度(V6)250Pa・s)を用いた以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0096】
[比較例3]
PPS樹脂にPPS樹脂-1 20質量%とPPS樹脂-3 64.5質量%、含フッ素系樹脂にAH-2000 15質量%とシランカップリング剤0.5質量%をタンブラーで均一に混合して混合物を得た。その後、株式会社日本製鋼所製ベント付2軸押出機「TEX-30α」に前記配合材を投入し、吐出量20kg/hr、スクリュー回転数300rpm、原料投入口直下のシリンダー2か所とシリンダー先端とダイスの設定温度300℃、その他のシリンダー設定温度230℃で溶融押出してストランド状に吐出した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
【0097】
2.評価
2-1. 加熱滞留前後(330℃)でのMFRの比
メルトインデクサーを用い、シリンダー温度330℃、2.16kgf荷重下で5分滞留後、ノズルから流出する質量を測定し、MFR1とした。また、シリンダー温度330℃、2.16kgf荷重下で30分滞留後の流出量を測定し、MFR2とした。
[評価基準]
〇:MFR1/MFR2 0.2以上4.5以下
×:MFR1/MFR2 0.2より小さい、4.5より大きい
【0098】
2-2.製膜安定性
150μmメッシュのフィルターを用いて溶融濾過し、5時間連続押出を行い、試験開始直後の樹脂圧と5時間経過後の樹脂圧から昇圧を評価
[評価基準]
〇:昇圧2MPa以下
×:昇圧2MPaより大きい
【0099】
2-3.誘電率
誘電率は、JIS C 2565:1992に規定された空洞共振法に基づいて行った。具体的には、二軸延伸フィルムから幅2mm×長さ150mmの短冊を作製した。次いで、作製した短冊を23℃、50%Rhの環境下、24hr静置した後、ADMS010cシリーズ(株式会社エーイーティー製)を用いて、空洞共振法にて周波数1GHzの誘電率を測定した。
[評価基準]
〇;誘電率3.2以下
×;誘電率3.2より大きい
以上の結果を表1および表2に示す。
【0100】
【0101】
【0102】
表1、2から明らかなように、実施例1~4では製膜安定性に優れ、得られた二軸延伸フィルムは、誘電率が低く、引張伸度に優れることが解かる。