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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】成分濃度測定方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20231129BHJP
   G01N 21/00 20060101ALI20231129BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20231129BHJP
   G01N 29/032 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N21/00 A
A61B5/1455
G01N29/032
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022532987
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026162
(87)【国際公開番号】W WO2022003942
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄次郎
(72)【発明者】
【氏名】田島 卓郎
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-165982(JP,A)
【文献】特開2013-048739(JP,A)
【文献】特開2018-122045(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0064346(US,A1)
【文献】Tanaka et al.,Differential Continuous Wave Photoacoustic Spectroscopy for Non-Invasive Glucose Monitoring,IEEE Sensors Journal,IEEE Sensors Council,2020年04月15日,VOL. 20, NO. 8,p.4453-4458
【文献】Tao et al.,Research on the Temperature Characteristics of the Photoacoustic Sensor of Glucose Solution,Sensors,MDPI,2018年12月07日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-219/52
G01N 21/00
A61B 5/00-5/398
A61B 8/00-8/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定部位における測定対象の物質の基準濃度Cを求める第1工程と、
測定対象の物質が吸収する波長の光を、光強度Iを掃引して前記測定部位に照射し、前記測定部位から発生する光音響信号の音圧Pの変化を測定する第2工程と、
測定された音圧Pの変化より、光強度Iの変化に対する光音響信号の音圧Pの変化の傾き∂P/∂Iを求める第3工程と、
各々定数である、音響整合に関する係数kと、グルナイゼン係数Γと、光吸収係数μと、成分濃度変化による光吸収係数変化∂μ/∂Cとを用いた式∂P/∂IkΓ(μ+∂μ/∂C・ΔC)より、∂P/∂Iから濃度変化ΔCを求める第4工程と、
基準濃度Cと濃度変化ΔCとから、前記第2工程の音圧Pの変化の測定における前記測定部位における測定対象の物質の濃度を求める第5工程と
を備え、
前記第2工程は、温度Tに対して実質的にΓ∂μ/∂T+μ∂Γ/∂T=0が満たされる光吸収係数μとなる波長の光を前記測定部位に照射する
ことを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の成分濃度測定方法において、
掃引する光強度Iを変化させる間隔は、照射する光のスポット径dと、測定対象の物質の温度拡散率αとを用いた式τth=d2/αにより求められる熱緩和時間τthより長いことを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の成分濃度測定方法において、
光が照射されている前記測定部位の温度を測定する第6工程をさらに備え、
前記第4工程は、予め求めてある前記測定部位の温度と温度補正係数ηとの関係より、測定された温度により濃度変化ΔCを補正する
ことを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項4】
測定対象の物質が吸収する波長の光を、光強度Iを掃引して測定部位に照射する光照射部と、
前記光照射部から出射された光が照射された前記測定部位から発生する光音響信号の音圧Pの変化を測定する測定部と、
前記測定部が測定した音圧Pの変化より、前記光照射部が照射した光の光強度Iの変化に対する光音響信号の音圧Pの変化の傾き∂P/∂Iを求める第1算出部と、
各々定数である、音響整合に関する係数kと、グルナイゼン係数Γと、光吸収係数μと、成分濃度変化による光吸収係数変化∂μ/∂Cとを用いた式∂P/∂IkΓ(μ+∂μ/∂C・ΔC)より、∂P/∂Iから濃度変化ΔCを求める第2算出部と、
基準となる基準濃度Cと濃度変化ΔCとから、前記測定部による音圧Pの変化の測定における前記測定部位における測定対象の物質の濃度を求める第3算出部と
を備え、
前記光照射部は、温度Tに対して実質的にΓ∂μ/∂T+μ∂Γ/∂T=0が満たされる光吸収係数μとなる波長の光を前記測定部位に照射する
ことを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項5】
請求項4記載の成分濃度測定装置において、
掃引する光強度Iを変化させる間隔は、照射する光のスポット径dと、測定対象の物質の温度拡散率αとを用いた式τth=d2/αにより求められる熱緩和時間τthより長いことを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項6】
請求項4または5記載の成分濃度測定装置において、
光が照射されている前記測定部位の温度を測定する温度測定部をさらに備え、
前記第2算出部は、予め求めてある前記測定部位の温度と温度補正係数ηとの関係より、前記温度測定部が測定した温度により濃度変化ΔCを補正する
ことを特徴とする成分濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の成分の濃度を非侵襲に測定する成分濃度測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化が進み、成人病に対する対応が大きな課題になりつつある。例えば、成人病関連の検査項目として、血糖値がある。血糖値などの検査においては、血液の採取が必要なために患者にとって大きな負担となる。このため、血液を採取しない非侵襲な成分濃度測定技術が注目されている。
【0003】
非侵襲な成分濃度測定技術として、光音響法が提案されている(特許文献1)。光音響法は、皮膚内に光を照射し、測定対象とする血液成分、例えば、グルコース分子に対応する波長の光を吸収させ、これによるグルコース分子からの熱の放射によって局所的に熱膨張を起こし、熱膨張によって生体内から発生した音波を観測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-089662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した測定技術では、測定対象の温度変化、特に水の吸光度の温度依存性によりグルコース定量精度が低下することによって、光吸収係数μに強く依存するため、従来技術における規格化が困難であり、定量誤差が生ずるという課題があった。また、一般に光を強度変調する場合、消光比により完全な光強度が0の状態を作ることは難しい。これは、光音響信号強度を規定する光強度にかかわるため測定結果に誤差を及ぼす。このため、光強度の絶対値に依存しない測定が必要となる。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、光音響法の測定において、温度および背景の光強度の影響が抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る成分濃度測定方法は、測定部位における測定対象の物質の基準濃度Cを求める第1工程と、測定対象の物質が吸収する波長の光を、光強度Iを掃引して測定部位に照射し、測定部位から発生する光音響信号の音圧Pの変化を測定する第2工程と、測定された音圧Pの変化より、光強度Iの変化に対する光音響信号の音圧Pの変化の傾き∂P/∂Iを求める第3工程と、各々定数である、音響整合などに関する係数kと、グルナイゼン係数Γと、光吸収係数μと、成分濃度変化による光吸収係数変化∂μ/∂Cとを用いた式∂P/∂IkΓ(μ+∂μ/∂C・ΔC)より、∂P/∂Iから濃度変化ΔCを求める第4工程と、基準濃度Cと濃度変化ΔCとから、第2工程の音圧Pの変化の測定における測定部位における測定対象の物質の濃度を求める第5工程とを備え、第2工程は、温度Tに対して実質的にΓ∂μ/∂T+μ∂Γ/∂T=0が満たされる光吸収係数μとなる波長の光を測定部位に照射する。
【0008】
本発明に係る成分濃度測定装置は、測定対象の物質が吸収する波長の光を、光強度Iを掃引して測定部位に照射する光照射部と、光照射部から出射された光が照射された測定部位から発生する光音響信号の音圧Pの変化を測定する測定部と、測定部が測定した音圧Pの変化より、光照射部が照射した光の光強度Iの変化に対する光音響信号の音圧Pの変化の傾き∂P/∂Iを求める第1算出部と、各々定数である、音響整合などに関する係数kと、グルナイゼン係数Γと、光吸収係数μと、成分濃度変化による光吸収係数変化∂μ/∂Cとを用いた式∂P/∂IkΓ(μ+∂μ/∂C・ΔC)より、∂P/∂Iから濃度変化ΔCを求める第2算出部と、基準となる基準濃度Cと濃度変化ΔCとから、測定部による音圧Pの変化の測定における測定部位における測定対象の物質の濃度を求める第3算出部とを備え、光照射部は、温度Tに対して実質的にΓ∂μ/∂T+μ∂Γ/∂T=0が満たされる光吸収係数μとなる波長の光を測定部位に照射する。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したことにより、本発明によれば、光音響法の測定において、温度および背景の光強度の影響が抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の構成を示す構成図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る成分濃度測定方法を説明するフローチャートである。
図3図3は、光強度を一定の速度で掃引して、光音響法による測定を実施した結果を示す特性図である。
図4図4は、光強度を掃引して照射する光の照射パターンの例を示す説明図である。
図5図5は、本発明の実施の形態に係る成分濃度測定方法を実施した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置について図1を参照して説明する。この成分濃度測定装置は、光照射部101、測定部102、第1算出部103、第2算出部104、第3算出部105、および記憶部106を備える。
【0012】
光照射部101は、測定対象の物質が吸収する波長の光121を、光強度Iを掃引して測定部位151に照射する。光121は、例えば、スポット径が100μm程度のビーム光である。光照射部101は、温度Tに対して実質的に「Γ∂μ/∂T+μ∂Γ/∂T=0・・・(A)」が満たされる光吸収係数μとなる波長の光を測定部位151に照射する。上記式において、Γは、グルナイゼン係数、μは、光吸収係数であり、各々定数である。ここで、光照射部101は、掃引する光強度Iを変化させる間隔を、照射する光121のスポット径dと、測定対象の物質の温度拡散率αとを用いた式τth=d2/αにより求められる熱緩和時間τthより長くする。
【0013】
光照射部101は、例えば、測定対象の物質が吸収する波長のビーム光を出射する光源と、光源が生成したビーム光を設定したパルス幅のパルス光の光121とするパルス制御部とを備える。測定対象の物質がグルコースの場合、上記波長は、1.6μm近傍および2.1μm近傍の光の波長帯より選択される。
【0014】
測定部102は、光照射部101から出射された光121が照射された測定部位151から発生する光音響信号の音圧Pの、時系列の変化を測定する。測定部位151に照射される光121は、光強度が掃引されており、光強度の掃引に対応して、発生する光音響信号の音圧Pが、時系列に変化する。測定部102が測定した測定値は、記憶部106に記憶される。
【0015】
測定部102には、クリスタルマイクロフォン、セラミックマイクロフォン、セラミック超音波センサなどの圧電効果・電歪効果を用いたもの、ダイナミックマイクロフォン、リボンマイクロフォンなどの電磁誘導を用いたもの、コンデンサマイクロフォンなどの静電効果を用いたもの、磁歪振動子等の磁歪を用いたものから構成することができる。圧電効果を持つものには、例えば周波数平坦型電歪素子(ZT)またはPVDF(ポリフッ化ビニリデン)などの結晶を含むものが例示できる。測定部102は、FET(電界効果トランジスタ)増幅器を内蔵するPZTから構成することもできる。測定部102は、光音響信号が測定された時刻情報とともに測定値を記憶部106に記憶させる。
【0016】
第1算出部103は、測定部102が測定した音圧Pの変化より、光照射部101が照射した光121の光強度Iの変化に対する光音響信号の音圧Pの変化の傾き∂P/∂Iを求める。第1算出部103は、測定部102が測定し、記憶部106に記憶されている音圧Pの変化より、∂P/∂Iを求める。また、求められた∂P/∂Iは、記憶部106に記憶される。
【0017】
第2算出部104は、式「∂P/∂IkΓ(μ+∂μ/∂C・ΔC)・・・(B)」より、∂P/∂Iから濃度変化ΔCを求める。kは、音響整合などに関する係数であり、∂μ/∂Cは、成分濃度変化による光吸収係数変化であり、各々定数である。第2算出部104は、記憶部106に記憶されている∂P/∂Iから、濃度変化ΔCを求める。また、求められた濃度変化ΔCは、例えば、記憶部106に記憶される。
【0018】
第3算出部105は、基準となる基準濃度Cと濃度変化ΔCとから、測定部102による音圧Pの変化の測定における測定部位151における測定対象の物質の濃度を求める。基準濃度Cは、予め求めて決定されている値であり、例えば、記憶部106に記憶されている。第3算出部105は、記憶部106に記憶されている、基準濃度Cと濃度変化ΔCとから、測定対象の物質の濃度を求める。
【0019】
また、成分濃度測定装置は、光が照射されている測定部位151の温度を測定する温度測定部をさらに備えることができる。この場合、第2算出部104は、予め求めてある測定部位151の温度と温度補正係数ηとの関係より、温度測定部が測定した温度により濃度変化ΔCを補正することができる。
【0020】
次に、本発明の実施の形態に係る成分濃度測定方法について、図2を参照して説明する。まず、第1工程S101で、測定部位151における測定対象の物質の基準濃度Cを求める。例えば、測定部位151における体液(または血液)を採取し、採取した体液(または血液)における、上記物質の濃度を公知の測定方法により測定して基準濃度Cとする。
【0021】
次に、第2工程S102で、光照射部101が、測定対象の物質が吸収する波長の光を、光強度Iを掃引して測定部位151に照射し、測定部102が、測定部位151から発生する光音響信号の音圧Pの変化を、時系列に測定する。ここでは、実質的にΓ∂μ/∂T+μ∂Γ/∂T=0が満たされる光吸収係数μとなる波長の光を、測定部位151に照射する。また、掃引する光強度Iを変化させる間隔は、照射する光のスポット径dと、測定対象の物質の温度拡散率αとを用いた式τth=d2/αにより求められる熱緩和時間τthより長いものとする。
【0022】
次に、第3工程S103で、第1算出部103が、測定された音圧Pの変化より、光強度Iの変化に対する光音響信号の音圧Pの変化の傾き∂P/∂Iを求める。
【0023】
次に、第4工程S104で、第2算出部104が、各々定数である、音響整合などに関する係数kと、グルナイゼン係数Γと、光吸収係数μと、成分濃度変化による光吸収係数変化∂μ/∂Cとを用いた式(B)より、∂P/∂Iから、求められた∂P/∂Iにより濃度変化ΔCを求める。
【0024】
次に、第5工程S105で、第3算出部105が、基準濃度Cと測定された濃度変化ΔCとから、第2工程の音圧Pの変化の測定における、測定部位151における測定対象の物質の濃度を求める。
【0025】
また、第2工程における光が照射されている測定部位151の温度を測定する第6工程をさらに備えることもできる。この場合、第4工程は、予め求めてある測定部位151の温度と温度補正係数ηとの関係より、測定された温度により濃度変化ΔCを補正する。
【0026】
なお、上述した実施の形態に係る成分濃度測定装置は、CPU(Central Processing Unit;中央演算処理装置)と主記憶装置と外部記憶装置とネットワーク接続装置となどを備えたコンピュータ機器とし、主記憶装置に展開されたプログラムによりCPUが動作する(プログラムを実行する)ことで、上述した各機能(成分濃度測定方法)が実現されるようにすることもできる。上記プログラムは、上述した実施の形態で示した成分濃度測定方法をコンピュータが実行するためのプログラムである。ネットワーク接続装置は、ネットワークに接続する。また、各機能は、複数のコンピュータ機器に分散させることもできる。
【0027】
また、上述した実施の形態に係る成分濃度測定装置は、FPGA(field-programmable gate array)などのプログラマブルロジックデバイス(PLD:Programmable Logic Device)により構成することも可能である。例えば、FPGAのロジックエレメントに、記憶部、第1算出部、第2算出部、第3算出部の各々を回路として備えることで、成分濃度測定装置として機能させることができる。記憶回路、第1算出回路、第2算出回路、第3算出回路の各々は、所定の書き込み装置を接続してFPGAに書き込むことができる。また、FPGAに書き込まれた上記の各回路は、FPGAに接続した書き込み装置により確認することができる。
【0028】
以下、より詳細に説明する。
【0029】
まず、測定される光音響信号(光音響波)の音圧Pは、式(1)に示すように与えられ、温度や成分濃度が変化するときは、式(2)ように表すことができる。
【0030】
P∝kΓμI・・・(1)
P∝k(Γ+∂Γ/∂T・ΔT)(μ+∂μ/∂C・ΔC +∂μ/∂T・ΔC・ΔT)I・・・(2)
Γ:グルナイゼン係数、μ:測定開始時の光吸収係数、I:光強度、∂μ/∂C:成分濃度変化による光吸収係数変化、ΔC:成分濃度変化、ΔT:温度変化、k:音響整合などに関する係数。
【0031】
測定部位における測定対象の物質の濃度を一定として、光強度を一定の速度で上昇させ(掃引し)て、光音響法による測定を実施すると、図3に示すように光強度と光音響波の音圧の関係を得ることができる。光強度の掃引の(光強度を変化させる)幅は、音波の検出感度や被測定物にもよるが、測定部位が生体の場合、数mW程度とすれば十分である。
【0032】
このように光強度を変化させる光音響法による測定を実施すると、光の照射によって生じる局所的な熱の非定常状態が生じる。このため、掃引する(変化させている)各光強度における光照射時間は、式「τth=d2/α」により示される熱緩和時間τthより長いことが望ましい。なお、dは、照射する光のスポット径、αは、被測定物の温度拡散率である。測定部位が生体の場合は、光のスポット径が1mm程度の場合、掃引する各光強度における光照射時間は、1ms程度であればよい。光強度を掃引して照射する光の照射パターンの例を、図4に示す。
【0033】
図2に例示した、光強度と光音響波の音圧の関係の傾き(P/I)により、前述した式(2)で示されるある光強度Iにおける音圧Pの微分の値∂P/∂Iを得ることができ、高次の微小項を無視すると、以下の式(3)のようになる。
【0034】
∂P/∂I∝kΓ(μ+∂μ/∂C・ΔC)+(Γ∂μ/∂T+μ∂Γ/∂T)ΔT・・・(3)
【0035】
また、以下の式(4)で示されるような光吸収係数μとなる波長の光を選べば、式(3)における温度変化(ΔT)の影響をキャンセルすることができ、光音響波の音圧Pを光強度Iで微分した値∂P/∂Iは、式(5)に示すように表すことができる。
【0036】
Γ∂μ/∂T+μ∂Γ/∂T=0・・・(4)
∂P/∂I∝kΓ(μ+∂μ/∂C・ΔC)・・・(5)
【0037】
つまり、式(4)で示されるような光吸収係数μとなる波長を選べば、光音響波の音圧Pを光強度Iで微分した量∂P/∂Iは、成分濃度にのみ比例するようになる。従って、測定された光音響波の強度を、光音響波の音圧Pを照射した光強度Iで微分した値∂P/∂Iより、各々既知の値である、音響整合などに関する係数kと、グルナイゼン係数Γと、測定開始時の光吸収係数μと、成分濃度変化による光吸収係数変化∂μ/∂Cとから、式Bにより、成分濃度変化ΔCを求めることができる。
【0038】
上述したことを実現する光の波長範囲としては、例えばグルコース、たんぱく質、脂質などの場合、波長1300から1800nmが相当する。
【0039】
また、感度を優先しようとすると、式(4)が0とならない場合が発生する。例えば、式(4)が許容される範囲で0からずれても、感度を優先する場合がある。このような場合は,次の2つの方法で補正することができる。
【0040】
[方法1]
測定部位の光照射部の温度を測定して補正すれば、成分濃度変化を測定することができる。例えば、温度と温度補正係数ηとの関係を予め求めておき、測定した温度に温度補正係数ηを乗じた値で補正をする。この場合は、成分濃度変化と光音響波の音圧変化は、以下の式(6)のように書ける。温度補正係数ηは、定数であり、成分濃度の測定前に光音響波との関係を取得しておく必要がある。
【0041】
∂P/∂I∝kΓ(μ+∂μ/∂C・ΔC)+ηΔT・・・(6)
【0042】
[方法2]
測定対象の物質に感度を持つ(測定対象の物質が吸収する)、複数(例えば2つ)の波長の光の波長を前述のように掃引し、以下の式(7)、式(8)に示すように∂P/∂Iを求めることで、(Γ∂μ/∂T+μ∂Γ/∂T)を定数としてηとおくと、各々の波長に対して上述した式(6)を得ることができる。
【0043】
【数1】
【0044】
ここで、成分濃度や温度変化に影響を受けない定数項を下記のようにおく。
【0045】
【数2】
【0046】
上述したように定数項を置き換えると、式(7)および式(8)は、以下の式(12)、式(13)で示されるものとなる。
【0047】
【数3】
【0048】
式(12)および式(13)を解くことで、成分濃度変化ΔCと、温度変化ΔTを得ることができる。解き方としては、以下に示す行列を用いて解くことができる。
【0049】
【数4】
【0050】
式(14)、式(15)において、定数A、B、Cが未知の場合、成分濃度変化ΔC、温度変化ΔTが既知のサンプルを用いた実測により得られた値から校正できる。また、生体成分測定の場合は、侵襲的な測定方法によりΔCを測定し、サーミスタなどの温度計により測定部位の温度変化ΔTを測ることで、各定数を決定することができる。
【0051】
次に、本発明の実施の形態に係る成分濃度測定方法を実施した結果について、図5に示す。図5において、白四角[血糖値(mg/dL)]は、従来既知の侵襲的な測定方法で測定した血糖値(グルコース濃度)の時系列的な変化を示す。また、図5において、黒菱形[光強度の時間微分(mV/mW)]は、実施の形態に係る成分濃度測定方法で測定した結果の時系列的な変化を示す。両者は、ほぼ一致しており、実施の形態により、生理的に体温が変化する中においてもグルコースが選択的に測定できることがわかる。
【0052】
以上に説明したように、本発明によれば、光強度Iを掃引して測定部位に光を照射して音圧Pの変化を測定し、この変化より光強度Iの変化に対する光音響信号の音圧Pの変化の傾き∂P/∂Iを求め、求めた∂P/∂Iから濃度変化ΔCを求めるので、光音響法の測定において、温度および背景の光強度の影響が抑制できるようになる。
【0053】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0054】
101…光照射部、102…測定部、103…第1算出部、104…第2算出部、105…第3算出部、106…記憶部、121…光、151…測定部位。
図1
図2
図3
図4
図5