(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】パラメトリックスピーカ装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20231129BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20231129BHJP
H04R 1/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R1/40 310
H04R1/00 318A
(21)【出願番号】P 2020138897
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-02-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 池口 雄大、笠原 久稔、吉村 勇祐、荒武 淳、柳 秀一、及び 小口 傑が、2019年10月31日~2019年11月1日に、つくばフォーラム2019において、「極小領域オーディオスポット技術を用いた飛び込まれ防止技術」と題して、「パラメトリックスピーカ装置」に関する技術について公開。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【氏名又は名称】岡野 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100176728
【氏名又は名称】北村 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】池口 雄大
(72)【発明者】
【氏名】笠原 久稔
(72)【発明者】
【氏名】吉村 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】荒武 淳
(72)【発明者】
【氏名】柳 秀一
(72)【発明者】
【氏名】小口 傑
(72)【発明者】
【氏名】西浦 敬信
(72)【発明者】
【氏名】佐山 史織
【審査官】西村 純
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-262084(JP,A)
【文献】松井 唯 ほか,キャリア波と側帯波の分離放射によるオーディオスポット形成の評価,日本音響学会講演論文集,2013年09月,pp.721-722
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラメトリックスピーカ装置であって、
制御用端末と、1以上のキャリア波スピーカと、1以上の側帯波スピーカと、スピーカ配設部とを備え、
前記制御用端末は、前記1以上のキャリア波スピーカ及び前記1以上の側帯波スピーカと通信可能に接続され、
前記スピーカ配設部には前記1以上のキャリア波スピーカと前記1以上の側帯波スピーカとが配置され、
前記制御用端末は、
音声をキャリア波と側帯波とに分割し、
各側帯波の振幅スペクトルの和が等しくなる分割周波数を算出し、
算出された前記分割周波数に応じて側帯波を分割して、分割された前記側帯波を前記1以上の側帯波スピーカのそれぞれから放射する、
パラメトリックスピーカ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパラメトリックスピーカ装置において、
前記1以上のキャリア波スピーカ及び前記1以上の側帯波スピーカのそれぞれは、略等間隔に配置される、パラメトリックスピーカ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパラメトリックスピーカ装置において、
前記スピーカ配設部は円形であり、
円形の前記スピーカ配設部の面は、前記パラメトリックスピーカ装置が設置される面と垂直である、
パラメトリックスピーカ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のパラメトリックスピーカ装置において、
前記1以上のキャリア波スピーカは、円形の前記スピーカ配設部にて、鉛直方向で下半分の位置に配置される、パラメトリックスピーカ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のパラメトリックスピーカ装置において、
前記制御用端末は、前記1以上のキャリア波スピーカ及び前記1以上の側帯波スピーカのうち隣接するスピーカの全ての組み合わせにより生じる混変調歪の周波数が20Hz以下又は10kHz以上となる配置パターンを採用し、
前記1以上のキャリア波スピーカ及び前記1以上の側帯波スピーカは、採用された前記配置パターンに応じて配置される、
パラメトリックスピーカ装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のパラメトリックスピーカ装置において、
前記パラメトリックスピーカ装置の接地面に取り付けられた移動機構と、前記移動機構の駆動を停止させる停止機構とを更に備える、パラメトリックスピーカ装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のパラメトリックスピーカ装置において、
オーディオインタフェースとアンプとを更に備え、
前記制御用端末は、
キャリア波用のオーディオインタフェースとキャリア波用のアンプとを介してキャリア波を前記1以上のキャリア波スピーカから放射し、
側帯波用のオーディオインタフェースと側帯波用のアンプとを介して側帯波を前記1以上の側帯波スピーカから放射する、
パラメトリックスピーカ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のパラメトリックスピーカ装置において、
前記スピーカ配設部の周を支持する周支持部と、
前記アンプと、前記1以上のキャリア波スピーカ及び前記1以上の側帯波スピーカとを接続するケーブルとを更に備え、
前記ケーブルは前記周支持部に沿って配線される、
パラメトリックスピーカ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パラメトリックスピーカ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音波をキャリア波と側帯波とに分割して別々のスピーカから放射することで、オーディオスポットと称される特定の領域にのみ音を再現する技術が知られている(例えば非特許文献1)。この技術では、例えば
図5Dに示されるようにスピーカPL
C及びPL
1乃至PL
5から0.4m地点のスポットで60dB程度の音圧レベルが観測される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】松井唯、生藤大典、中山雅人、西浦敬信、「キャリア波と側帯波の分離放射によるオーディオスポット形成の研究」、[online]、立命館大学情報理工学部メディア情報学科、[令和2年6月25日検索]、インターネット <URL:http://www.rm.is.ritsumei.ac.jp/kiban-s/file/paper/201303_Matsui_第18回学生研究発表_[キャリア波と側帯波の分離放射によるオーディオ...].pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
60dB程度の音圧レベルは、人間が普通の声で話したときの音圧レベルである。このため、危険個所等でのアナウンスに活用するにはその効果が薄い。そこで、オーディオスポット内において十分な音量で警告音等の音声を再生するパラメトリックスピーカ装置が必要である。
【0005】
かかる点に鑑みてなされた本開示の目的は、オーディオスポット内で再生される音の音量を最適化することができるパラメトリックスピーカ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本開示に係るパラメトリックスピーカ装置は、
制御用端末と、1以上のキャリア波スピーカと、1以上の側帯波スピーカと、スピーカ配設部とを備え、
前記制御用端末は、前記1以上のキャリア波スピーカ及び前記1以上の側帯波スピーカと通信可能に接続され、
前記スピーカ配設部には前記1以上のキャリア波スピーカと前記1以上の側帯波スピーカとが配置され、
前記制御用端末は、
音声をキャリア波と側帯波とに分割し、
各側帯波の振幅スペクトルの和が等しくなる分割周波数を算出し、
算出された前記分割周波数に応じて側帯波を分割して、分割された前記側帯波を前記1以上の側帯波スピーカのそれぞれから放射する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係るパラメトリックスピーカ装置によれば、オーディオスポット内で再生される音の音量を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態のパラメトリックスピーカ装置の側面図である。
【
図2A】パラメトリックスピーカ装置の正面図である。
【
図2B】パラメトリックスピーカ装置の側面図である。
【
図3A】「工事現場です」との音声の波形を示す図である。
【
図3B】「工事現場です」との音声のパワースペクトルを示す図である。
【
図4】実施例における各スピーカの配置を示す図である。
【
図5A】実施例におけるパラメトリックスピーカ装置を撮像した画像である。
【
図5B】「工事現場です」との音声の音圧レベルの分布を示す図である。
【
図5C】警告音の音圧レベルの分布を示す図である。
【
図5D】従来技術における音圧レベルの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に、本実施形態のパラメトリックスピーカ装置Dの概略図が示される。パラメトリックスピーカ装置Dは、制御用端末Tと、オーディオインタフェースIと、アンプA-1、A-2及びA-3と、キャリア波スピーカC-1と、側帯波スピーカS-1、S-2、S-3、S-4、S-5、S-6及びS-7とを備える。
【0010】
本実施形態の制御用端末TはPC(Personal Computer)である。代替例として制御用端末Tは、携帯電話機、スマートフォン、又はタブレット等の端末であってよい。
【0011】
制御用端末Tは、プロセッサ及びメモリを備えてよい。プロセッサは例えば、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)を含む1つ以上の汎用プロセッサを含む。プロセッサは、特定の処理に特化した1つ以上の専用プロセッサを含んでよい。制御用端末Tのプロセッサは、後述するように、分割周波数の算出及び混変調歪の周波数の算出等を実行する。メモリは、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリであるが、これらに限られない。メモリは、例えば主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。メモリは、制御用端末Tの動作又は制御に関する各種情報等を記憶してよい。メモリは、システムプログラム、アプリケーションプログラム、及び組み込みソフトウェア等を記憶してよい。
【0012】
オーディオインタフェースIは、キャリア波と側帯波とのそれぞれのチャンネルを選択して切り替えるチャンネルセレクタであってよい。
【0013】
アンプA-1、A-2及びA-3は、音響を表現した電気信号を増幅する装置である。本実施形態のアンプA-1はキャリア波用である。アンプA-2及びアンプA-3は側帯波用である。
【0014】
キャリア波スピーカC-1は、キャリア波を放射するスピーカである。側帯波スピーカS-1、S-2、S-3、S-4、S-5、S-6及びS-7は側帯波を放射するスピーカである。キャリア波と側帯波とが交差する位置にオーディオスポットが形成され、音声が再現される。
【0015】
キャリア波と側帯波との出力経路が説明される。
図1に示されるように、キャリア波と側帯波との出力経路はそれぞれ矢印ACと矢印ASとで示される。制御用端末TとオーディオインタフェースIとは有線又は無線により通信可能に接続される。制御用端末Tは、警告音等の音声をキャリア波と側帯波とに分割し、キャリア波と側帯波とをオーディオインタフェースIに出力する。
【0016】
オーディオインタフェースIは、アンプA-1と有線又は無線により通信可能に接続される。オーディオインタフェースIは、キャリア波をアンプA-1に出力する。アンプA-1はスピーカケーブル(図示せず)を介してキャリア波をキャリア波スピーカC-1に出力する。キャリア波スピーカC-1は、超音波であるキャリア波を放射する。
【0017】
オーディオインタフェースIは、アンプA-2及びアンプA-3と有線又は無線により通信可能に接続される。オーディオインタフェースIは、側帯波をアンプA-2及びアンプA-3に出力する。アンプA-2とアンプA-3とのそれぞれは、スピーカケーブル(図示せず)を介して側帯波を側帯波スピーカS-1、S-2、S-3及びS-4と、側帯波スピーカS-5、S-6及びS-7とに出力する。側帯波スピーカS-1、S-2、S-3及びS-4と、側帯波スピーカS-5、S-6及びS-7とは、側帯波を放射する。
【0018】
図1においてキャリア波スピーカは1つのみ図示されるが、その数は2つ以上であってよい。以下、1以上のキャリア波スピーカはまとめてキャリア波スピーカCと称される。
【0019】
図1において側帯波スピーカは7つ図示されるが、その数は7つより少なくても多くてもよい。以下、1以上の側帯波スピーカはまとめて側帯波スピーカSと称される。
【0020】
図1には、アンプは3つ図示されるが、その数は3つより少なくても多くてもよい。以下、1以上のアンプはまとめてアンプAと称される。
【0021】
本実施形態では説明の簡便のため、キャリア波の数はm波と設定され、側帯波の数はn波と設定される。キャリア波の数mは任意である。数mは、実現したい音圧レベルに応じて増減させてよい。側帯波の数nは、少ないと音圧又は音質が低下し、多いと配置又は音声分割が手間となる。そのため、n=3乃至10程度が好ましい。
【0022】
パラメトリックスピーカ装置Dの正面図と側面図とが、それぞれ
図2Aと
図2Bとに示される。説明の簡便のため、
図2A及び
図2Bにおいて、制御用端末Tと、オーディオインタフェースIと、アンプAと、キャリア波スピーカCと、側帯波スピーカSとの図示は省略される。
【0023】
パラメトリックスピーカ装置Dは、スピーカ部1と支持台2と移動機構3aと停止機構3bとを備える。スピーカ部1はスピーカ配設部10を備える。スピーカ配設部10は支持台2によって支持される。キャリア波スピーカCと側帯波スピーカSとは、スピーカ配設部10に配置される。
【0024】
支持台2がスピーカ配設部10を支持できる構造であれば、支持台2の材料は任意である。
【0025】
本実施形態のスピーカ配設部10は円形である。スピーカ配設部10は地面に対して垂直に支持される。すなわちスピーカ配設部10の円形の面は、パラメトリックスピーカ装置Dが設置される面と垂直である。代替例として、スピーカ配設部10は円形ではなく、矩形、多角形、楕円等の任意の形状であってよい。
【0026】
支持台2の接地面には、移動機構3aと停止機構3bとが取り付けられる。移動機構3aはキャスター、車輪等である。停止機構3bは例えばアジャスターフット、ストッパ等である。停止機構3bは、移動機構3aの駆動を停止させる。
【0027】
スピーカ配設部10には各スピーカを略等間隔に配置することができる。スピーカ部1の拡大図が
図2Cに示される。図示されるようにスピーカ配設部10の周には、例えば25cm間隔で16個のボルト穴が設けられ、各穴にスピーカを1つずつ配置可能である。このため、各スピーカの配置を自在に変更できる。ボルト穴の数は限定されない。しかし、支持台2によって支持される各スピーカの合計重量が重くなることを避けるために、ボルト穴は例えば16個以下であってよい。代替例として、各スピーカは、任意の取り付け手段によってスピーカ配設部10に配置されてよい。
【0028】
キャリア波スピーカCは、
図2Cにおけるボルト穴の位置L1、L2、L3、L4又はL5のいずれかに配置されてよい。位置L1、L2、L3、L4又はL5は、パラメトリックスピーカ装置Dの設置時において、鉛直方向で下半分の位置である。この場合、キャリア波スピーカCは斜め上向きの姿勢で配置されるので、地面及び左右の壁面で超音波が反射することによるオーディオスポットの2次再生が低減される。キャリア波スピーカCの数が5個である場合は、キャリア波スピーカCは位置L1、L2、L3、L4及びL5の全てに配置される。
【0029】
キャリア波スピーカCの数が1個の場合は、キャリア波スピーカCは位置L3に配置されてよい。キャリア波スピーカCの数が2個から4個までの場合、キャリア波の放射角度を調整しやすくするために、キャリア波スピーカCは左右対称に配置されてよい。
【0030】
側帯波スピーカSは、キャリア波スピーカCを配置した後に残った位置に配置される。どの位置に配置されるかは、後述される。
【0031】
図2Cに示される周支持部11は、スピーカ配設部10の周を支持する。アンプと各スピーカとを接続するケーブルは、周支持部11に沿って配線されてよい。
【0032】
各スピーカから出力される警告音等の音声は、ビープ音又は音声アナウンスであってよい。音声の種類は問わない。音声の一例として「工事現場です」との音声の波形が
図3Aに示される。本実施形態の制御用端末Tは、側帯波を複数に分割する。
図3Bに示すように制御用端末Tは、各側帯波の振幅スペクトルの和が等しくなる分割周波数b
iを算出する。算出処理は、表計算ソフト等をもとに作成したツールを用いて実行されてよい。算出式は例えば次のとおりである。
【数1】
上記算出式における定義は次のとおりである。
b
i:音響信号の分割周波数
M:側帯波の分割数
f
c:キャリア波の周波数
A
f:音響信号における周波数jの振幅
θ
f:音響信号における周波数jの位相
t:時間指標
【0033】
パラメトリックスピーカ装置Dは、算出された分割周波数biに応じて各側帯波を分割して、分割された側帯波を側帯波スピーカSのそれぞれから放射する。この構成によりパラメトリックスピーカ装置Dは、混変調歪の発生量を均一化することができる。パラメトリックスピーカ装置Dは更に、オーディオスポット外で発生する、混変調歪による雑音の音量の偏りを低減することができる。
【0034】
制御用端末Tは、混変調歪の周波数が人間の可聴周波数帯域となることを避けることができるように、側帯波スピーカSの配置パターンを決定する。具体的には制御用端末Tは、側帯波スピーカSの複数の配置パターンの中から1つを仮定し、仮定された配置パターンにおいて隣接するスピーカにより生じる混変調歪の周波数を算出する。側帯波スピーカS-1と側帯波スピーカS-2とが隣接する場合の、混変調歪の周波数は次の計算式により算出される。
(混変調歪の周波数)=i*S1±j*S2
上記の計算式における定義は次のとおりである。
S1:側帯波スピーカS-1の周波数
S2:側帯波スピーカS-2の周波数
i及びj:任意の整数
【0035】
上記の計算式による、混変調歪の周波数の算出方法は、例えば次の文献に示される。
Walt Kester、「OPアンプによる増幅回路の設計技法」、OPアンプ大全第4巻、アナログ・デバイセズ株式会社、2005年8月、第4章、pp.189-192
【0036】
制御用端末Tは、仮定された配置パターンにおいて隣接するスピーカの全ての組み合わせにつき、上記の計算式から混変調歪の周波数を算出する。制御用端末Tは、全ての組み合わせにつき、混変調歪の周波数が第1の所定値(例えば20Hz)以下又は第2の所定値(例えば10kHz)以上であるか否かを判定する。制御用端末Tは、全ての組み合わせにつき、混変調歪の周波数が第1の所定値以下又は第2の所定値以上であるという条件が満たされれば、その配置パターンを採用する。この条件が満たされるとき、混変調歪の周波数は人間の可聴領域外である。他方で制御用端末Tは、上記の条件が満たされなければ、その配置パターンを採用せずに別の配置パターンを仮定して、別の配置パターンにつき同一の判定処理を実行する。このように制御用端末Tは配置パターンを決定する。
【0037】
キャリア波スピーカC及び側帯波スピーカSは、採用された配置パターンに応じて配置される。
【0038】
[実施例]
キャリア波が1波であり、側帯波が7波である場合の実施例が説明される。
図4に示されるように、キャリア波スピーカCは1つ配置され、側帯波スピーカSは7つ配置される。実施の際のパラメトリックスピーカ装置Dを撮像した画像が
図5Aに示される。
【0039】
パラメトリックスピーカ装置Dから出力される音声は、警告音と、「工事現場です」との音声の2つである。
【0040】
制御用端末Tは、上記の[数1]に示される算出式を用いて、最適な分割周波数biを算出する。算出結果は次のとおりである。
b0=0[Hz]
b1=491[Hz]
b2=740[Hz]
b3=960[Hz]
b4=1479[Hz]
b5=2597[Hz]
b6=5070[Hz]
b7=7950[Hz]
【0041】
図4に示されるように、キャリア波スピーカCは、鉛直方向で最も下の位置に配置される。制御用端末Tは、混変調歪の周波数が20Hz以下の低周波又は10kHz以上の高周波となるように、上記の計算式を用いて側帯波スピーカSの配置パターンを決定する。採用された配置パターンが
図4に示される。
【0042】
パラメトリックスピーカ装置Dは、キャリア波と、各分割周波数に対応する側帯波とを放射する。その結果、放射された音声が警告音の場合(
図5B参照)と「工事現場です」との音声の場合(
図5C参照)とのいずれにおいても、パラメトリックスピーカ装置Dから0.4m地点のスポットC1及びC2で70dB程度の音圧レベルが確認された。70dB程度の音圧レベルは、人間が大きな声で話したときの音圧レベルであり、危険個所等での注意喚起に十分な値である。
【0043】
以上の結果から、パラメトリックスピーカ装置Dは、道路上での工事作業時における車両又は歩行者への注意喚起に利用可能である。代替例としてパラメトリックスピーカ装置Dは、ある特定の対象のみに音声をアナウンスしたい環境(イベント、展示場等)にも利用できる。更に、キャリア波スピーカC及び側帯波スピーカSの配置、姿勢、及び放射角度等を調整することにより、オーディオスポットの範囲、及び、スピーカからオーディオスポットまでの距離を自由に調整することが可能である。ただし、超音波の距離減衰を考慮して、スピーカから15m以内でオーディオスポットを作成することが好ましい。
【0044】
以上述べたように、本実施形態によれば、パラメトリックスピーカ装置Dにおける制御用端末Tは、各側帯波の振幅スペクトルの和が等しくなる分割周波数を算出し、算出された分割周波数に応じて側帯波を分割して、分割された側帯波を側帯波スピーカSのそれぞれから放射する。この構成によりパラメトリックスピーカ装置Dは、混変調歪の発生量を均一化することができ、更に、オーディオスポット外で発生する、混変調歪による雑音の音量の偏りを低減することができる。もってパラメトリックスピーカ装置Dは、オーディオスポット内で再生される音の音量を最適化することができる。
【0045】
また本実施形態によれば、パラメトリックスピーカ装置Dは、キャリア波スピーカC及び側帯波スピーカSのそれぞれは、略等間隔に配置される。この構成により、オーディオスポット作成時の各スピーカの配置、姿勢、及び放射角度の調整が容易である。
【0046】
また本実施形態によれば、スピーカ配設部10は円形であり、円形の面は、パラメトリックスピーカ装置Dが設置される面と垂直である。キャリア波スピーカCは、スピーカ配設部10にて、鉛直方向で下半分の位置に配置される。この構成により、地面及び左右の壁面で超音波が反射することによるオーディオスポットの2次再生が低減される。
【0047】
また本実施形態によれば、制御用端末Tは、側帯波スピーカSのうち隣接するスピーカの全ての組み合わせにより生じる混変調歪の周波数が20Hz以下又は10kHz以上となる配置パターンを採用し、側帯波スピーカSは、配置パターンに応じて配置される。この構成により、混変調歪の周波数は人間の可聴領域外である。
【0048】
また本実施形態によれば、パラメトリックスピーカ装置Dの接地面に取り付けられた移動機構3aと、移動機構3aの駆動を停止させる停止機構3bとを更に備える。この構成により、支持台2の移動又は移動防止が容易である。
【0049】
また本実施形態によれば、パラメトリックスピーカ装置Dは、オーディオインタフェースIとアンプAとを更に備える。制御用端末Tは、音声をキャリア波と側帯波とに分割し、キャリア波用のオーディオインタフェースとキャリア波用のアンプとを介してキャリア波をキャリア波スピーカCから放射し、側帯波用のオーディオインタフェースと側帯波用のアンプとを介して側帯波を側帯波スピーカSから放射する。この構成によりパラメトリックスピーカ装置Dは、音声を大音量化することができる。
【0050】
また本実施形態によれば、パラメトリックスピーカ装置Dは、アンプAとキャリア波スピーカC及び側帯波スピーカSとを接続するケーブルとを更に備える。ケーブルは周支持部11に沿って配線される。この構成により各ケーブルの混線が低減される。
【0051】
本実施形態の制御用端末Tは任意のコンピュータとプログラムによっても実現できる。具体的には制御用端末Tの各機能を実現する処理内容を記述したプログラムをメモリ等の記録媒体に記録して、プロセッサによってそのプログラムを読み出して実行させる。そのようなプログラムは、ネットワークを通して提供されることも可能である。
【0052】
このプログラムは、コンピュータ読取り可能媒体に記録されていてもよい。コンピュータ読取り可能媒体を用いれば、コンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録されたコンピュータ読取り可能媒体は、非一時的な記録媒体であってもよい。非一時的な記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROM又はDVD-ROMなどの記録媒体であってもよい。
【0053】
本発明が諸図面及び実施例に基づき説明されるが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、あるいは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
D パラメトリックスピーカ装置
1 スピーカ部
10 スピーカ配設部
11 周支持部
C キャリア波スピーカ
S 側帯波スピーカ
2 支持台
3a 移動機構
3b 停止機構
T 制御用端末
I オーディオインタフェース
A アンプ