(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】凍結保存容器
(51)【国際特許分類】
B65D 81/18 20060101AFI20231129BHJP
A61J 3/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B65D81/18 B
A61J3/00 301
(21)【出願番号】P 2019203364
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】米内 冠
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154357(JP,A)
【文献】実開昭61-055684(JP,U)
【文献】特開平06-300409(JP,A)
【文献】実開平01-013480(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/18
A61J 3/00
F25D 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結対象物を内部に収納する収納槽と、該収納槽を内包する内容器と該内容器を覆う外容器とを有し、該内容器と該外容器との間に断熱層が設けられ、上部に開閉可能な収納物出入口を有する断熱容器とを備え、該収納槽の外面と該断熱容器の内面との間に液体窒素貯留部が設けられた凍結保存容器において、
前記収納槽の底部から前記内容器を貫通して前記断熱層内に突出した排液部材と、該排液部材の下端部から延びて前記断熱層内を通り、先端部が前記内容器の上部を貫通して、前記液体窒素貯留部に貯留された液体窒素の液面より上方の位置
で、管内を通った気体を排出可能に開口した蒸発・放出管とを設けたことを特徴とする凍結保存容器。
【請求項2】
前記蒸発・放出管は、前記排液部材との接続部分から前記内容器の底部より下側の位置まで上方に向けて螺旋状に延びた螺旋部を備えていることを特徴とする請求項1記載の凍結保存容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結保存容器に関し、詳しくは、動物の精子、受精卵、生殖細胞のような生体試料などを凍結保存するための凍結保存容器に関する。
【背景技術】
【0002】
動物の精子、受精卵、生殖細胞のような生体試料などを凍結保存するための凍結保存容器として、凍結対象物を収納する内槽と、内槽を囲み、内槽との間に液体窒素を貯留する中間槽と、中間槽を囲み、中間槽との間に断熱層を形成する外槽とを備え、内槽の底面から外槽の外部に至る、内槽内で結露した液体空気を内槽内から除去する液体空気除去用の管路が設けられた三重構造の凍結保存容器が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された凍結保存容器では、液体空気除去用の管路の終端が外槽外部の大気中に位置しているため、大気からの熱がこの管路を通じて容器内に侵入し、液体窒素の蒸発量が増加することがあった。このため、液体窒素の消費量が増加してコストが高くなり、液体窒素充填回数が増加するという手間も生じていた。
【0005】
そこで本発明は、内部に生じる液体空気を効果的に除去しながら、液体窒素の消費量を低減することができる凍結保存容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の凍結保存容器は、凍結対象物を内部に収納する収納槽と、該収納槽を内包する内容器と該内容器を覆う外容器とを有し、該内容器と該外容器との間に断熱層が設けられ、上部に開閉可能な収納物出入口を有する断熱容器とを備え、該収納槽の外面と該断熱容器の内面との間に液体窒素貯留部が設けられた凍結保存容器において、前記収納槽の底部から前記外容器を貫通して前記断熱層内に突出した排液部材と、該排液部材の下端部から延びて前記断熱層内を通り、先端部が前記内容器の上部を貫通して、前記液体窒素貯留部に貯留された液体窒素の液面より上方の位置で、管内を通った気体を排出可能に開口した蒸発・放出管とを設けたことを特徴としている。
【0007】
また、前記蒸発・放出管は、前記排液部材との接続部分から前記外容器の底部より下側の位置まで上方に向けて螺旋状に延びた螺旋部を備えていることも特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の凍結保存容器によれば、収納槽内で発生する液体空気を、底部の排液部材を通じて、断熱層内に配置された蒸発・放出管に誘導し、蒸発・放出管内で蒸発させて、液体窒素貯留部の液体窒素の液面上方に排出するので、液体空気の除去作業をせずとも凍結対象物が液体空気によって汚染されず、凍結対象物を長期間にわたって所定の凍結状態に保持することができるだけでなく、蒸発・放出管が凍結保存容器外部の大気中に露出しないので、蒸発・放出管を通しての熱損失を回避できるとともに、冷却用の液体窒素の消費量を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一形態例における凍結保存容器の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1乃至
図6は、本発明の一形態例である凍結保存容器11の構成を示している。
図1乃至
図5に示されるように、凍結保存容器11は、生体試料などを凍結保存する円筒型の容器であって、凍結対象物を入れる6個の収納筒12aを内部に収納する収納槽12と、収納槽12を覆って内部を断熱する断熱容器13とを備えている。
【0011】
収納槽12の外面と断熱容器13の内面との間には、液体窒素を貯留する空間である液体窒素貯留部14が設けられており、収納槽12を低温に保っている。
【0012】
収納筒12aは、有底の細長い円筒部材であって、上部側面に、上方に向けて延びた軸状の吊持部材12bが取り付けられており、この吊持部材12bの上端には、水平方向に向けて屈曲されたフック部12cが形成されている。
【0013】
断熱容器13は、収納槽12を内包する内容器15と、内容器15を覆う外容器16とを備え、内容器15と外容器16との間が真空引きされた断熱層17になっている。断熱容器13の上部には、収納筒12aを出し入れ可能な収納物出入口18が設けられている。
【0014】
収納物出入口18は、内容器15の上部に設けられた内容器開口部15aと、外容器16の上部に設けられた外容器開口部16aとの間を気密に接合した連結筒18aによって形成されている。また、外容器開口部16aの上部には、外容器開口部16aの縁を保護する縁部材16bが取り付けられている。
【0015】
収納槽12の内部には、充填管保持筒19と液面計保持筒20とがそれぞれ収納槽12の底部を気密に貫通した状態で設けられており、充填管保持筒19内には液体窒素充填管21が挿入され、液面計保持筒20内には、液面計22のセンサ部22aが挿入されている。
【0016】
液体窒素充填管21は、下端部が充填管保持筒19を介して液体窒素貯留部14まで達し、上部が収納槽12の内部から収納物出入口18に沿って外容器16の外まで延び、外容器16の外側上面に取り付けられた液体窒素充填口23に、チェックバルブ24を介して接続されており、液体窒素充填口23から液体窒素貯留部14に液体窒素を供給可能に形成されている。
【0017】
液面計22は、液面計保持筒20からセンサ部22aに液体窒素貯留部14の液体窒素を流入させて、液体窒素貯留部14の液面と同じ高さまで引き込むことで液体窒素貯留部14の液面高さを測定可能に形成されている。
【0018】
液面計22の上部からは、センサーケーブル22bが延びて収納槽12の内部から収納物出入口18に沿って外容器16の外まで達し、外容器16の外側上面に取り付けられた液面表示器25に接続されており、液面表示器25は、液面計22の検出値を表示可能に構成されている。
【0019】
縁部材16bには、収納物出入口18から容器外に延びた液体窒素充填管21と、センサーケーブル22bと、吊持部材12bのフック部12cとをそれぞれ通し、周方向へのずれを防止する溝部16cが設けられている。
【0020】
また、収納物出入口18には、外容器開口部16aから内容器開口部15aまでを閉塞可能な断熱性を有する柱状部26aと、縁部材16bの上面を覆う天面板26bとを備えた蓋部材26が、開閉可能に取り付けられている。この蓋部材26の柱状部26aの外周面には、吊持部材12bと、液体窒素充填管21と、センサーケーブル22bとを通すための上下方向に延びた通過溝26cがそれぞれ設けられている。
【0021】
したがって、収納物出入口18に沿って、収納筒12aの吊持部材12bと、液体窒素充填管21と、センサーケーブル22bとが、それぞれ延ばされた状態であっても、収納物出入口18に蓋部材26の柱状部26aを差し込んで収納物出入口18を塞ぐことができる。
【0022】
収納槽12内部の下側には、収納筒12aの側面下部を押さえる規制板27が設けられ、吊持部材12bによって収納槽12内に吊持された複数の収納筒12aがそれぞれ位置ずれしないように、各収納筒12aの動きを規制している。規制板27は、収納槽12の底部から上方に延びた支持足28によって支持されている。
【0023】
また、収納槽12の底部は、中心に向けて緩やかに下り傾斜しており、底部中央では、有底筒状の排液部材29が下方に延びて内容器15を貫通して断熱層17内に突出している。さらに、排液部材29の下端部からは、蒸発・放出管30が延びて断熱層17内に通されている。
【0024】
蒸発・放出管30は、排液部材29との接続部分から内容器15の底部より下側の位置まで上方に向けて螺旋状に延びた螺旋部30aと、螺旋部30aから外容器16の周壁付近で鉛直上方に延びて、断熱層17の側部を通って内容器15の上部まで達する直立部30bとを備えている。
【0025】
また、直立部30bから先には、内容器15の上部から下方に折り返す折り返し部30cと、内容器15の上部を気密に貫通した先端部30dとを備えている。先端部30dは、液体窒素貯留部14に貯留された液体窒素の液面より上方の位置で、管内を通った気体を排出可能に開口している。
【0026】
凍結保存容器11において、液体窒素貯留部14に液体窒素が充填されて収納槽12内部が冷却されると、収納槽12の内壁に接する空気が液体空気として結露し、流下する。収納槽12の底部まで流下した液体空気は、底部の傾斜に沿って中央の排液部材29に溜まり蒸発・放出管30に流れ込む。
【0027】
蒸発・放出管30は断熱層17内に位置しているので、蒸発・放出管30に流れ込んだ液体空気は、螺旋部30aに溜まると、温度が上昇して蒸発し、気体に戻って蒸発・放出管30内を進み、直立部30bを上昇して折り返し部30cに達し、先端部30dから液体窒素貯留部14に貯留された液体窒素の液面上方に吐き出される。
【0028】
図6に示されるように、液体窒素貯留部14の液体窒素の液面上方に吐き出された空気は、蒸発した液体窒素と混ざり合って収納槽12の上部へと流れ、収納物出入口18の連結筒18aと蓋部材26と間の隙間から少しずつ排出される。
【0029】
このように、本発明の凍結保存容器11によれば、収納槽12内で発生する液体空気を、底部の排液部材29を通じて、断熱層17内に配置された蒸発・放出管30に誘導し、蒸発・放出管30内で蒸発させて、液体窒素貯留部14の液体窒素の液面上方に排出することができる。
【0030】
したがって、液体空気の除去作業をせずとも凍結対象物が液体空気によって汚染されず、凍結対象物を長期間にわたって所定の凍結状態に保持することができるだけでなく、蒸発・放出管30が凍結保存容器11外部の大気中に露出しないので、蒸発・放出管30を通しての熱損失を回避できるとともに、冷却用の液体窒素の消費量を大幅に低減することができる。
【0031】
また、蒸発・放出管30が、断熱層17の下部に螺旋部30aを備えていることで、収納槽12内に発生した液体空気を所定量溜めておくことができるので、液体空気の蒸発が間に合わずに収納槽12内に液体空気が蓄積されることを防止できる。
【0032】
なお、本発明は、以上の形態例に限定されることなく、発明の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、本形態例では、蒸発・放出管に螺旋部を設けているが、液体空気又は液体空気から気化した空気を所定量溜めておけるのであれば必ずしも螺旋状に形成する必要はなく、断熱層内に収まる範囲でタンク状に形成してもよい。
【符号の説明】
【0033】
11…凍結保存容器、12…収納槽、12a…収納筒、12b…吊持部材、12c…フック部、13…断熱容器、14…液体窒素貯留部、15…内容器、15a…内容器開口部、16…外容器、16a…外容器開口部、16b…縁部材、16c…溝部、17…断熱層、18…収納物出入口、18a…連結筒、19…充填管保持筒、20…液面計保持筒、21…液体窒素充填管、22…液面計、22a…センサ部、23…液体窒素充填口、24…チェックバルブ、25…液面表示器、26…蓋部材、26a…柱状部、26b…天面板、26c…通過溝、27…規制板、28…支持足、29…排液部材、30…蒸発・放出管、30a…螺旋部、30b…直立部、30c…折り返し部、30d…先端部